【文献】
GLYAKINA,Anna V. et al.,Mechanical stability analysis of the protein L immunoglobulin-binding domain by full alanine screeni,Biotechnology Journal,2014年11月26日,vol.10,p.386-394,[online], 2014.11.26, ,[retrived on 2016.04.05],Retrived from the Internet:<http://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1002/biot.201400231>
【文献】
SVENSSON,et al.,Contributions of Amino Acid Side Chains to the Kinetics and Thermodynamics ofthe Bivalent Binding of,Biochemistry,2004年,vol.43,p.2445-2457
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記(1)に規定されるアミノ酸配列において、第16位または第18位のいずれかの位置のアミノ酸残基が置換されている請求項1に記載の免疫グロブリンκ鎖可変領域結合性ペプチド。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、下記(1)〜(3)のいずれかの免疫グロブリンκ鎖可変領域結合性ペプチドに関する。
(1) 配列番号21のアミノ酸配列において、第15位、第16位、第17位および第18位から選択される1つ以上のアミノ酸残基が置換されているアミノ酸配列を有し、且つ、その酸解離pHが、置換導入前に比べて中性側にシフトしている免疫グロブリンκ鎖可変領域結合性ペプチド;
(2) 上記(1)のアミノ酸配列において、上記第15位、第16位、第17位および第18位を除く領域中で、1個以上20個以下のアミノ酸残基が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列を有し、且つ、その酸解離pHが、変異導入前に比べて中性側にシフトしている免疫グロブリンκ鎖可変領域結合性ペプチド;
(3) 上記(1)のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、且つ、その酸解離pHが、変異導入前に比べて中性側にシフトしている免疫グロブリンκ鎖可変領域結合性ペプチド(但し、上記(1)に規定されるアミノ酸配列における第15位、第16位、第17位および第18位から選択される1以上の位置のアミノ酸残基の置換は、(3)においてさらに変異しないものとする)。
【0028】
「免疫グロブリン(IgG)」は、リンパ球のB細胞が産生する糖タンパク質であり、特定のタンパク質などの分子を認識して結合する働きを持つ。免疫グロブリンは、この特定の分子(抗原)に特異的に結合する機能と、他の生体分子や細胞と協同して抗原を有する因子を無毒化・除去する機能を有する。免疫グロブリンは、一般的に「抗体」と呼ばれるが、それはこのような機能に着目した名称である。全ての免疫グロブリンは、基本的には同じ分子構造からなり、“Y”字型の4本鎖構造(軽鎖・重鎖の2本のポリペプチド鎖が2本ずつ)を基本構造としている。軽鎖(L鎖)には、λ鎖とκ鎖の2種類があり、すべての免疫グロブリンはこのどちらかを持つ。重鎖(H鎖)には、γ鎖、μ鎖、α鎖、δ鎖、ε鎖という構造の異なる5種類があり、この重鎖の違いによって免疫グロブリンの種類(アイソタイプ)が変わる。免疫グロブリンG(IgG)は、単量体型の免疫グロブリンで、2本の重鎖(γ鎖)と2本の軽鎖から構成され、2箇所の抗原結合部位を持っている。
【0029】
免疫グロブリンの“Y”字の下半分の縦棒部分にあたる場所をFc領域と呼び、上半分の“V”字の部分をFab領域と呼ぶ。Fc領域は抗体が抗原に結合した後の反応を惹起するエフェクター機能を有し、Fab領域は抗原と結合する機能を有する。重鎖のFab領域とFc領域はヒンジ部でつながっており、パパイヤに含まれるタンパク分解酵素パパインは、このヒンジ部を分解して2つのFab領域と1つのFc領域に切断する。Fab領域のうち“Y”字の先端に近い部分は、多様な抗原に結合できるように、アミノ酸配列に多彩な変化が見られるため、可変領域(V領域)と呼ばれている。軽鎖の可変領域をVL領域、重鎖の可変領域をVH領域と呼ぶ。V領域以外のFab領域とFc領域は、比較的変化の少ない領域であり、定常領域(C領域)と呼ばれる。軽鎖の定常領域をCL領域と呼び、重鎖の定常領域をCH領域と呼ぶが、CH領域はさらにCH1〜CH3の3つに分けられる。重鎖のFab領域はVH領域とCH1からなり、重鎖のFc領域はCH2とCH3からなる。ヒンジ部はCH1とCH2の間に位置する。プロテインLは、軽鎖がκ鎖である可変領域(本明細書では「VL−κ」と略記する場合がある)に結合する(非特許文献5〜7)。
【0030】
本発明に係るκ鎖可変領域結合性ペプチドは、免疫グロブリンのκ鎖可変領域に結合する。本発明ペプチドが結合すべきVL−κ鎖可変領域含有タンパク質は、免疫グロブリンのκ鎖可変領域を含むものであればよく、Fab領域とFc領域を不足なく含有するIgGであってもよいし、IgM、IgDおよびIgAなどの他のIg類であってもよいし、それらをタンパク質工学的に改変した免疫グロブリン分子の誘導体であってもよい。本発明に係るVL−κ鎖可変領域結合性ペプチドが結合する免疫グロブリン分子誘導体は、VL−κ鎖可変領域を有する誘導体であれば特に制限されない。例えば、免疫グロブリンGのFab領域のみに断片化されたFabフラグメント、免疫グロブリンGの可変領域のみからなるscFv、ヒト免疫グロブリンGの一部のドメインを他生物種の免疫グロブリンGのドメインに置き換えて融合させたキメラ型免疫グロブリンG、Fc領域の糖鎖に分子改変を加えた免疫グロブリンG、薬剤を共有結合したscFv断片などを挙げることができる。
【0031】
本発明において「ペプチド」とは、ポリペプチド構造を有するあらゆる分子を含むものであって、いわゆるタンパク質のみならず、断片化されたものや、ペプチド結合によって他のペプチドが連結されたものも包含されるものとする。「ドメイン」とは、タンパク質の高次構造上の単位であり、数十から数百のアミノ酸残基配列から構成され、なんらかの物理化学的または生物化学的な機能を発現するに十分なペプチドの単位をいう。タンパク質やペプチドの「変異体」は、野生型のタンパク質やペプチドの配列に対し、アミノ酸レベルで、少なくとも1つ以上の置換、付加または欠失が導入されたタンパク質またはペプチドをいう。アミノ酸を置換する変異の表記について、置換位置の番号の前に、野生型または非変異型のアミノ酸を付し、置換位置の番号の後に、変異したアミノ酸を付して表記する。例えば、29位のGlyをAlaに置換する変異は、G29Aと記載する。
【0032】
「プロテインL(PpL)」は、ペプトストレプトコッカス属(Peptostreptococcus)に属する嫌気性グラム陽性球菌の細胞壁に由来するタンパク質である。好ましくは、ペプトストレプトコッカス・マグヌス(Peptostreptococcus magnus)に由来するPpLであり、ペプトストレプトコッカス・マグヌス312株、および、ペプトストレプトコッカス・マグヌス3316株に由来する2種類のPpLが好ましいが、これらに限定されない(非特許文献4〜6)。なお、本明細書では、ペプトストレプトコッカス・マグヌス312株のPpLを「PpL312」、ペプトストレプトコッカス・マグヌス3316株由来のPpLを「PpL3316」と略記することがある。PpL312のアミノ酸配列を配列番号1に、PpL3316のアミノ酸配列を配列番号2に示す(シグナル配列も含む)。
【0033】
PpLは、タンパク質中に70〜80残基からなる複数のVL−κ結合性ドメインを含有する。PpL312に含まれるVL−κ結合性ドメインの数は5個であり、PpL3316に含まれるVL−κ結合性ドメインの数は4個である。PpL312のVL−κ結合性ドメインは、N末端から順に、B1ドメイン(配列番号3)、B2ドメイン(配列番号4)、B3ドメイン(配列番号5)、B4ドメイン(配列番号6)、B5ドメイン(配列番号7)と呼び、PpL3316のVL−κ結合性ドメインは、N末端から順に、C1ドメイン(配列番号8)、C2ドメイン(配列番号9)、C3ドメイン(配列番号10)、C4ドメイン(配列番号11)と呼ぶ(非特許文献5〜6)。
【0034】
これらの各種VL−κ結合性ドメインのアミノ酸配列アラインメントを
図1に示す。
図1中、非特許文献7〜8および特許文献9に倣って付与した残基番号を()内に示した。N末端の約20残基は特定の二次構造を取らないことが研究によって分かっており、N末端領域を欠失させた場合にも、VL−κ結合性ドメインとして三次元構造を保持し、VL−κ結合性を示す(非特許文献7)。したがって、例えば、B1ドメインに関しては配列番号12のアミノ酸配列、B2ドメインに関しては配列番号13のアミノ酸配列、B3ドメインに関しては配列番号14のアミノ酸配列、B4ドメインに関しては配列番号15のアミノ酸配列、B5ドメインに関しては配列番号16のアミノ酸配列、C1ドメインに関しては配列番号17のアミノ酸配列、C2ドメインに関しては配列番号18のアミノ酸配列、C3ドメインに関しては配列番号19のアミノ酸配列、C4ドメインに関しては配列番号20のアミノ酸配列で示されるペプチドも、VL−κ結合性ドメインとして機能する。本明細書で示される、PpL312のB5ドメインのアミノ酸配列は、配列番号16で示されるアミノ酸配列であることも好ましい。また、本発明に適用するアミノ酸配列として、各種ドメイン(配列番号12〜20)に共通するアミノ酸残基を網羅的に含んだアミノ酸配列(配列番号21)であることも好ましい。本明細書においては、配列番号21のN末端を第1位と定義して、アミノ酸残基番号を付与する。
図1には、この定義に従った残基番号も示し、さらに、各種ドメイン(配列番号12〜20)の第1位に位置するValから第60位に位置するAlaまでを太字で示した。
【0035】
本発明は、野生型のPpLのVL−κ結合ドメイン(B1〜B5、C1〜C4)のいずれかに対し、特定のアミノ酸置換変異を導入することによって、免疫グロブリンκ鎖可変領域を含むタンパク質の酸解離pHを、変異導入前に比べて中性側にシフトさせることを特徴とする技術である。
【0036】
変異型VL−κ鎖可変領域結合性ペプチド(1)は、後記の実施例において確かめられている通り、より高pHの酸性溶出条件でκ鎖可変領域ペプチドを解離し、且つ、κ鎖可変領域ペプチドを酸性条件下で溶出させたときの溶出ピークがよりシャープである。
【0037】
本発明に係るアミノ酸残基の置換部位は、配列番号21のアミノ酸配列において、第15位、第16位、第17位および第18位から選択される1つ以上のアミノ酸残基である。例えば、配列番号12の第15位はGln、第16位はThr、第17位はAla、第18位はGluである。配列番号12〜20のアミノ酸配列において、第15位はGlnであり、第17位はAlaである。また、第16位はC1ドメインのアミノ酸配列(配列番号17)においてはAsnであり、第18位はB5ドメインのアミノ酸配列(配列番号16)においてはThrである。変異導入前のアミノ酸配列のアミノ酸数が異なる場合においても、配列同一性が80%以上である場合に、配列番号21の第15〜18位に相当する位置を同定することは、当業者であれば容易に可能である。具体的には、アミノ酸配列多重アラインメント用プログラムであるClustal(http://www.clustal.org/omega/)、または、遺伝情報処理ソフトウエアであるGENETYX(https://www.genetyx.co.jp/)で、アラインメントをとって確かめることが可能である。なお、非特許文献7〜8および特許文献9に記載の残基番号に従えば、本発明に係るアミノ酸残基の置換部位は第35位〜第38位に相当する。
【0038】
本発明に係る変異型VL−κ鎖可変領域結合性ペプチド(1)は、上述の第15位、第16位、第17位および第18位から選択される1つ以上のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列を有する。置換される位置は、第15位、第16位、第17位および第18位が好ましく、第15位、第16位および第18位がより好ましく、第16位および第18位がさらに好ましく、第16位が最も好ましい。
【0039】
本発明においてペプチドが「(特定の)アミノ酸配列を有する」とは、そのペプチドのアミノ酸配列が特定されたアミノ酸配列を含んでいればよく、且つ、そのペプチドの機能が維持されていることを意味する。ペプチドにおいて特定されたアミノ酸配列以外の配列としては、ヒスチジンタグや固定化のためのリンカー配列の他、−S−S−結合などの架橋構造などが挙げられる。
【0040】
変異するアミノ酸の種類は、非タンパク質構成アミノ酸や非天然アミノ酸への置換を含め、特に限定されるものではないが、遺伝子工学的生産の観点から、天然型アミノ酸を好適に用いることができる。さらに、天然型アミノ酸は、中性アミノ酸;AspとGluの酸性アミノ酸;Lys、Arg、Hisの塩基性アミノ酸に分類される。中性アミノ酸は、脂肪族アミノ酸;Proのイミノ酸;Phe、Tyr、Trpの芳香族アミノ酸に分類される。脂肪族アミノ酸は、さらに、Gly;Ala;Val、Leu、Ileの分枝アミノ酸;Ser、Thrのヒドロキシアミノ酸;Cys、Metの含硫アミノ酸;Asn、Glnの酸アミドアミノ酸に分類される。また、Tyrはフェノール性水酸基を有することから、芳香族アミノ酸のみでなくヒドロキシアミノ酸に分類してもよい。さらに、別の観点からは、天然アミノ酸を、Gly、Ala、Val、Leu、Ile、Trp、Cys、Met、Pro、Pheの疎水性の高い非極性アミノ酸類;Asn、Gln、Ser、Thr、Tyrの中性の極性アミノ酸類;Asp、Gluの酸性の極性アミノ酸類;Lys、Arg、Hisの塩基性の極性アミノ酸類に分類することもできる。また、酸性条件でプロトネーションする官能基を側鎖に有するアミノ酸であるHis、Asp、および、Gluを好適に用いることもできる。
【0041】
第15位で置換するアミノ酸としては、Ala、GluまたはHisが好ましく、Hisが特に好ましい。第16位で置換するアミノ酸としては、Ala、Asp、Gly,Ile、LeuまたはHisが好ましく、Ala、AspまたはHisが好ましい。第17位で置換されるアミノ酸の種類としては、GluまたはHisが好ましく、Hisが特に好ましい。第18位で置換されるアミノ酸の種類としては、Asp、GlnまたはHisが好ましい。
【0042】
変異型VL−κ鎖可変領域結合性ペプチド(2)は、上記(1)のアミノ酸配列において、上記第15位、第16位、第17位および第18位を除く領域中で、1個以上20個以下のアミノ酸残基が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列を有し、且つ、その酸解離pHが、変異導入前に比べて中性側にシフトしている免疫グロブリンκ鎖可変領域結合性ペプチドである。
【0043】
上記の欠失、置換および/または付加の変異の数としては、15以下または10以下が好ましく、7以下、5以下または3以下がより好ましく、1または2がさらに好ましく、1が特に好ましい。本発明に係る変異型免疫グロブリンκ鎖可変領域結合性ペプチド(2)のアミノ酸配列において、アミノ酸残基の欠失、置換および/または付加の位置は、変異型VL−κ鎖可変領域結合性ペプチド(1)で規定された第15位、第16位、第17位および第18位以外であれば、特に制限されない。アミノ酸残基の欠失、置換および/または付加の位置としては、例えば、N末端および/またはC末端を挙げることができる。これら部位は、特に欠失および/または付加の部位として好ましい。
【0044】
配列番号12〜21のアミノ酸配列は、配列番号3〜11のアミノ酸配列のN末端側の10〜20残基およびC末端側の1〜2残基を欠失させたアミノ酸配列である。したがって、実施形態の一つとして、N末端および/またはC末端へのアミノ酸の付加としては、これらのアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を付加することが挙げられる。実施形態の一つとして、N末端に付加するアミノ酸配列としては、Glu−Glu、または、Glu−Glnが挙げられる。実施形態の一つとして、C末端に付加するアミノ酸配列としては、Gly、Cys、またはGly−Cysが挙げられる。
【0045】
変異型VL−κ鎖可変領域結合性ペプチド(3)は、上記(1)のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、且つ、その酸解離pHが、変異導入前に比べて中性側にシフトしている免疫グロブリンκ鎖可変領域結合性ペプチド(但し、上記(1)に規定されるアミノ酸配列における第15位、第16位、第17位および第18位から選択される1以上の位置のアミノ酸残基の置換は、(3)においてさらに変異しないものとする)。
【0046】
本発明に係る変異型VL−κ鎖可変領域結合性ペプチド(3)は、上記(1)に規定されるアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、且つ、免疫グロブリンκ鎖可変領域含有タンパク質の酸解離pHが、変異導入前に比べて中性側にシフトすることを特徴とする免疫グロブリンκ鎖可変領域結合性ペプチドである(但し、上記(1)に規定されるアミノ酸配列における第15位、第16位、第17位および第18位から選択される1以上の位置のアミノ酸残基の置換は、(3)においてさらに変異しないものとする)。
【0047】
上記配列同一性としては、85%以上が好ましく、90%以上、95%以上、98%以上または99%以上がさらに好ましく、99.5%以上が特に好ましい。上記配列同一性は、上述の通り、アミノ酸配列多重アラインメント用プログラムであるClustal(http://www.clustal.org/omega/)などを使って評価することができる。
【0048】
本発明に係る変異型VL−κ鎖可変領域結合性ペプチド(1)〜(3)は、免疫グロブリンκ鎖可変領域(VL−κ)含有タンパク質に対する酸解離pHが、変異導入前に比べて中性側にシフトすることを特徴とする。一般的に、強酸条件下や強塩基条件下では、分子表面電荷の変化や変性による立体構造の変化が要因となって、ペプチド間の結合は失われてしまう。「酸解離pH」とは、酸性側(値が7より小さいpH)でその特異的結合が失われ解離するpHのことである。酸解離pHは、本発明に係る変異型VL−κ鎖可変領域結合性ペプチド(1)〜(3)をリガンドとするアフィニティ分離マトリックスに吸着したVL−κ含有タンパク質を分離(溶出)することが可能な、最も高いpH値ということができる。よって、本明細書においては、酸解離pHと酸溶出pHは、基本的には同義である。酸解離pHが「変異導入前に比べて中性側にシフトする」というのは、結合の解離に必要なpHの数値が、変異導入前の方が小さく、変異導入後の方が大きいということを意味する。即ち、変異導入後の方がより弱い酸性溶液で結合が解離するということを意味する。
【0049】
酸解離pHの数値は、VL−κ含有タンパク質の種類、酸性溶液のバッファー成分の種類・濃度によっても変わり、アフィニティ分離マトリックスの場合には、水不溶性担体の種類・構造やリガンド固定化用リンカーの種類・構造によっても変わるので、一義的に数値の範囲で示すのは難しい。一般的には、本変異を導入する前の酸解離pHは2.0以上3.5以下程度であるのが、本発明に係る変異を導入することによって、pH3.0以上4.5以下程度にシフトするが、これには限定されない。この条件下で溶出すると、抗体へのダメージが小さい(Ghose S. 他、Biotechnology amd bioengineering、2005年、92巻、6号)。本発明に係る変異を導入することによって、酸解離pHは、pH値にして0.1以上中性側にシフトすることが好ましく、pH値にして0.2以上中性側にシフトすることがより好ましく、pH値にして0.3以上中性側にシフトすることがさらにより好ましく、pH値にして0.4以上中性側にシフトすることがさらにより好ましく、pH値にして0.5以上中性側にシフトすることがさらにより好ましい。
【0050】
変異導入前後の酸解離pHを評価する方法は、生体分子間相互作用を検出できる手法であれば特に限定はされないが、例えば、表面プラズモン共鳴原理を用いたBiacoreシステム(GEヘルスケア社)などのバイオセンサーによって試験することができる。酸解離pHの測定方法としては、例えば、結合する一方のペプチドをセンサーチップに固定化し、所望のpHに調整したもう一方のペプチド溶液を流路添加し、結合シグナルの有無を検出し、結合シグナルが検出できなくなるpHを評価すれば良いが、これに限定されない。別の方法としては、ペプチド溶液を添加した後に、所望のpHの緩衝液を添加し、添加した前後でのチップ上で解離せずに残った結合シグナルの変化を評価してもよい。測定条件としては、温度は20〜40℃の一定温度にし、結合状態を見るときのpHはpH5〜8の中性条件にすることが好ましい。緩衝液の成分としては、中性の場合には、リン酸、トリス、ビストリスなどが挙げられ、酸性の場合には、酢酸、クエン酸、グリシンなどが挙げられるが、これらに限定されない。緩衝液のNaCl濃度は、特に限定はされないが、0〜0.15M程度が好ましく、特に解離状態を見るときは0Mが好ましい。この評価においては、変異導入前後の違いを比較するために、変異以外の条件を全て揃えることが重要である。例えば、Biacoreシステムを用いた評価では、変異型VL−κ鎖可変領域結合性ペプチドを、チップに固定化する側(固相)としても良いし、流路添加する側(液相)としても、どちらでも評価は可能である。例えば、変異型VL−κ鎖可変領域結合性ペプチドをチップに固定化する量を揃えるのが難しい場合には、流路添加する際の濃度を揃えて変異型VL−κ鎖可変領域結合性ペプチドを流路添加する方が好ましい。
【0051】
酸解離pHを評価する方法として、アフィニティ分離マトリックスを用いて、クロマトグラフィ・プロファイルを評価する方法も好ましい。例えば、結合する一方のペプチドをクロマトグラフィ用カラムに固定化し、そのカラムをクロマトグラフィ装置に接続した後で、もう一方のペプチド溶液をそのカラムに添加し、pHを徐々に下げる直線勾配をかけて吸着したペプチドが溶出したピークトップのpHを評価すればよいが、これに限定されない。測定時の温度、緩衝液、塩濃度は上述の条件に従うのが好ましいが、特にこれには限定されない。例えば、きれいなpH直線勾配を得る為に、結合用緩衝液(緩衝液A)と解離用緩衝液(緩衝液B)の成分はpH以外は同一とするのが好ましい。この評価においても、変異導入前後の違いを比較するために、変異以外の条件を全て揃えることが重要である。この評価系においても、変異型VL−κ鎖可変領域結合性ペプチドを、カラムに固定化する側(固相)としても良いし、添加して溶出する側(液相)としても、どちらでも評価は可能である。例えば、変異型VL−κ鎖可変領域結合性ペプチドをカラムに固定化する量を揃えるのが難しい場合には、カラムに添加する際の濃度を揃えて変異型VL−κ鎖可変領域結合性ペプチドを添加し、得られたクロマトグラフィ・プロファイルを重ねて比較する方が好ましい。
【0052】
本発明に係るVL−κ鎖可変領域結合性ペプチド(1)〜(3)は、アフィニティ・リガンドとしてカラムに保持可能であり、優れたVL−κ結合力を示す。VL−κ鎖可変領域に対する親和性は、例えば、表面プラズモン共鳴原理を用いたBiacoreシステムなどのバイオセンサーによって試験することができるが、これに限定されるものではない。
【0053】
結合パラメータとしては、例えば、親和定数(K
A)や解離定数(K
D)を用いることができる(永田ら著,「生体物質相互作用のリアルタイム解析実験法」,シュプリンガー・フェアラーク東京,1998年,41頁)。親和定数は、結合速度定数(k
on)を解離速度定数(k
off)で割った値である(K
A=k
on/k
off)。
【0054】
本発明に係るVL−κ鎖可変領域結合性ペプチドとVL−κ鎖可変領域含有ペプチドとの親和定数は、Biacoreシステムを利用して、センサーチップにVL−κ鎖可変領域含有ペプチドを固定化して、温度25℃、pH7.4の条件下にて、本発明に係るVL−κ鎖可変領域結合性ペプチドを流路添加する実験系で求めることができる。本発明に係る変異を導入した配列を有するペプチドについて、VL−κ鎖可変領域含有ペプチドとの親和定数(K
A)が、1×10
6M
-1以上であることが好ましく、5×10
6M
-1以上であることがより好ましく、1×10
7M
-1以上であることがさらにより好ましい。しかし、親和定数は、VL−κ鎖可変領域含有ペプチドの種類や、VL−κ結合ペプチドのドメイン数によっても変わるので、これに限定されない。
【0055】
PpLは、VL−κ鎖可変領域結合性ドメインが4個または5個タンデムに並んだ形で含んだタンパク質である。したがって、本発明に係るVL−κ鎖可変領域結合性ペプチドも、実施形態の1つとして、単量体または単ドメインである当該VL−κ鎖可変領域結合性ペプチドが2個以上、好ましくは3個以上、より好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上連結された複数ドメインの多量体であってもよい。連結されるドメイン数の上限としては、例えば10個以下、好ましくは8個以下、より好ましくは6個以下である。これらの多量体は、単一のVL−κ鎖可変領域結合性ペプチドの連結体であるホモダイマー、ホモトリマー等のホモポリマーであってもよいし、PpL312のB1〜B4ドメイン、および、PpL3316のC1〜C4ドメインのいずれも含まなければ、複数種類のVL−κ鎖可変領域結合性ペプチドの連結体であるヘテロダイマー、ヘテロトリマー等のヘテロポリマーであってもよい。
【0056】
本発明に係るVL−κ鎖可変領域結合性ペプチド多量体の連結のされ方としては、1または複数のアミノ酸残基で連結する方法、および、アミノ酸残基を挟まず直接連結する方法が挙げられるが、これらの方法に限定されるものではない。連結するアミノ酸残基数に特に制限は無いが、好ましくは20残基以下であり、より好ましくは15残基以下であり、さらにより好ましくは10残基以下であり、さらにより好ましくは5残基以下であり、さらにより好ましくは2残基以下である。これらのアミノ酸配列は、単量体タンパク質の3次元立体構造を不安定化しないものが好ましい。
【0057】
その他、実施形態の1つとして、本発明により得られるVL−κ鎖可変領域結合性ペプチドまたはその多量体が、1つの構成成分として、機能の異なる他のペプチドと融合されていることを特徴とする融合ペプチドが挙げられる。融合ペプチドの例としては、アルブミンやグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)が融合したペプチドを例として挙げることができるが、これに限定されるものではない。また、DNAアプタマーなどの核酸、抗生物質などの薬物、ポリエチレングリコール(PEG)などの高分子が融合されている場合も、本発明で得られたペプチドの有用性を利用するものであれば、本発明に包含される。
【0058】
本発明は、本発明ペプチドを、免疫グロブリンやその断片、特にVL−κ鎖可変領域に親和性を有することを特徴とするアフィニティリガンドとして利用することも、実施形態の1つとして包含する。同様に、当該リガンドを水不溶性担体に固定化したことを特徴とするアフィニティ分離マトリックスも、実施形態の1つとして包含する。
【0059】
本発明に係るアフィニティ分離マトリックスは、本発明に係る上記免疫グロブリンκ鎖可変領域結合性ペプチドまたは上記免疫グロブリンκ鎖可変領域結合性ペプチド多量体が、リガンドとして水不溶性担体に固定化されたものであることを特徴とする。
【0060】
本発明において「リガンド」とは、抗原と抗体の結合に代表される、特異的な分子間の親和力に基づいて、ある分子の集合から目的の分子を選択的に捕集または結合する物質や官能基を指す用語であり、本発明においては、免疫グロブリンに対して特異的に結合するペプチドを指す。本発明においては、単に「リガンド」と表記した場合も、「アフィニティリガンド」と同意である。
【0061】
本発明において「アフィニティリガンド」とは、抗原と抗体の結合に代表される、特異的な分子間の親和力に基づいて、ある分子の集合から目的の分子を選択的に捕集または結合する物質や官能基を指す用語であり、本発明においては、免疫グロブリンに対して特異的に結合するペプチドを指す。本発明においては、単に「リガンド」と表記した場合も、「アフィニティリガンド」と同意である。
【0062】
本発明に用いる水不溶性担体としては、ガラスビーズ、シリカゲルなどの無機担体;架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレンなどの合成高分子や;結晶性セルロース、架橋セルロース、架橋アガロース、架橋デキストランなどの多糖類からなる有機担体;さらにはこれらの組み合わせによって得られる有機−有機、有機−無機などの複合担体などが挙げられる。市販品としては、多孔質セルロースゲルであるGCL2000、アリルデキストランとメチレンビスアクリルアミドを共有結合で架橋したSephacryl S−1000、アクリレート系の担体であるToyopearl、アガロース系の架橋担体であるSepharose CL4B、および、セルロース系の架橋担体であるCellufineなどを例示することができる。但し、本発明における水不溶性担体は、例示したこれらの担体のみに限定されるものではない。
【0063】
また、本発明に用いる水不溶性担体は、本アフィニティ分離マトリックスの使用目的および方法からみて、表面積が大きいことが望ましく、適当な大きさの細孔を多数有する多孔質であることが好ましい。担体の形態としては、ビーズ状、モノリス状、繊維状、膜状(中空糸を含む)などいずれも可能であり、任意の形態を選ぶことができる。
【0064】
上記リガンドは、直接またはリンカー基を介して、共有結合により上記水不溶性基材に固定化されている。当該リンカー基としては、例えば、C
1-6アルキレン基、アミノ基(−NH−)、エーテル基(−O−)、カルボニル基(−C(=O)−)、エステル基(−C(=O)O−または−OC(=O)−)、アミド基(−C(=O)NH−または−NHC(=O)−)、ウレア基(−NHC(=O)NH−);C
1-6アルキレン基、アミノ基、エーテル基、カルボニル基、エステル基、アミド基およびウレア基からなる群より選択される2以上10以下の基が連結された基;アミノ基、エーテル基、カルボニル基、エステル基、アミド基およびウレア基からなる群より選択される基を一端または両端に有するC
1-6アルキレン基を挙げることができる。上記の連結数としては、8以下または6以下が好ましく、5以下がより好ましく、4以下がさらに好ましい。また、上記C
1-6アルキレン基は、水酸基などの置換基などにより置換されていてもよい。
【0065】
本発明に係るアフィニティ分離マトリックスは、上記リガンドを上記水不溶性担体に固定化することにより製造することができる。
【0066】
リガンドの固定化方法については、例えば、リガンドに存在するアミノ基、カルボキシル基またはチオール基を利用した、従来のカップリング法で担体に結合してよい。カップリング法としては、臭化シアン、エピクロロヒドリン、ジグリシジルエーテル、トシルクロライド、トレシルクロライド、ヒドラジンまたは過ヨウ素酸ナトリウムなどと担体とを反応させて担体を活性化するか、或いは担体表面に反応性官能基を導入し、リガンドとして固定化する化合物とカップリング反応を行い固定化する方法、また、担体とリガンドとして固定化する化合物が存在する系にカルボジイミドのような縮合試薬、または、グルタルアルデヒドのように分子中に複数の官能基を持つ試薬を加えて縮合、架橋することによる固定化方法が挙げられる。
【0067】
また、リガンドと担体の間に複数の原子からなるスペーサー分子を導入してもよいし、担体にリガンドを直接固定化してもよい。従って、固定化のために、本発明に係るVL−κ鎖可変領域結合性ペプチドを化学修飾してもよいし、固定化に有用なアミノ酸残基を加えてもよい。固定化に有用なアミノ酸としては、側鎖に固定化の化学反応に有用な官能基を有しているアミノ酸が挙げられ、例えば、側鎖にアミノ基を含むLysや、側鎖にチオール基を含むCysが挙げられる。本発明の本質は、本発明においてペプチドに付与したVL−κ鎖可変領域結合性が、当該ペプチドをリガンドとして固定化したマトリックスにおいても同様に付与されることにあり、固定化のためにいかように修飾・改変しても、本発明の範囲に含まれる。
【0068】
本発明のアフィニティ分離マトリックスを利用して、免疫グロブリンのκ鎖可変領域を含むタンパク質(VL−κ含有タンパク質)をアフィニティカラム・クロマトグラフィ精製法により分離精製することが可能となる。これらのVL−κ含有タンパク質の精製法は、免疫グロブリンのアフィニティカラム・クロマトグラフィ精製法、例えばSpAアフィニティ分離マトリックスを利用した精製法に準じる手順により達成することができる(非特許文献1)。
【0069】
即ち、VL−κ含有タンパク質の溶液を調製(pHは中性付近)した後、当該溶液を本発明のアフィニティ分離マトリックスを充填したアフィニティカラムに通過させ、VL−κ含有タンパク質を吸着させる。次いで、アフィニティカラムに純粋な緩衝液を適量通過させ、カラム内部を洗浄する。この時点では所望のVL−κ含有タンパク質はカラム内の本発明に係るアフィニティ分離マトリックスに吸着されている。そして、本発明で得られたペプチドをリガンドとして固定化したアフィニティ分離マトリックスは、このサンプル添加の工程からマトリックス洗浄の工程において、目的とするVL−κ含有タンパク質を吸着保持する性能に優れる。次いで、適切なpHに調整した酸性緩衝液をカラムに通液し、所望のVL−κ含有タンパク質を溶出することにより、高純度な精製が達成される。ペプチドを溶出するために用いられる上記酸性緩衝液には、マトリックスからの解離を促進する物質を添加してもよい。
【0070】
特に、本発明のアフィニティ分離マトリックスでは、より中性側に近いpHの酸性緩衝液を溶出液として用いることが可能である。用いる酸性緩衝液としては、pH値がpH3.0以上であることが好ましく、pH3.1以上であることがより好ましく、pH3.2以上であることがさらにより好ましく、pH3.3以上であることがさらにより好ましく、pH3.4以上であることがさらにより好ましく、pH3.5以上であることがさらにより好ましく、pH3.6以上であることがさらにより好ましく、pH3.7以上であることがさらにより好ましく、pH3.8以上であることがさらにより好ましい。用いる酸性緩衝液の上限は特に無いが、アフィニティ・クロマトグラフィにおける中間洗浄でpH5.0程度で洗浄する場合や、精製後にウイルス除去のためにpH3.8程度でインキュベーションする場合においては、用いる酸性緩衝液はpH4.5以下であることが好ましく、pH4.0以下であることがより好ましい。
【0071】
本発明のアフィニティ分離マトリックスは、リガンド化合物や担体の基材が完全に機能を損なわない程度の、適当な強酸性、または、強アルカリ性の純粋な緩衝液を通過させて洗浄することにより、再利用が可能である。上記の再生用緩衝液には、適当な変性剤や有機溶剤を配合してもよい。
【0072】
本発明は、上記変異型VL−κ鎖可変領域結合性ペプチドをコードするDNAにも関する。本発明ペプチドをコードするDNAは、その塩基配列を翻訳したアミノ酸配列が、当該ペプチドを構成するものであればいずれでもよい。そのような塩基配列は、通常用いられる公知の方法、例えば、ポリメラーゼ・チェーン・リアクション(以下、「PCR」と略記する)法を利用して取得できる。また、公知の化学合成法で合成することも可能であり、さらに、DNAライブラリーから得ることもできる。当該塩基配列は、コドンが縮重コドンで置換されていてもよく、翻訳されたときに同一のアミノ酸をコードしている限り、本来の塩基配列と同一である必要性は無い。当該塩基配列を一つ又はそれ以上有する組換えDNA、または、当該組換えDNAを含む、プラスミドおよびファージなどのベクター、さらには、当該DNAを有するベクターにより形質転換された形質転換微生物/細胞、または、当該DNAを導入した遺伝子改変生物、または、当該DNAを転写の鋳型DNAとする無細胞タンパク質合成系を得ることができる。
【0073】
また、本発明に係るVL−κ鎖可変領域結合性ペプチドは、タンパク質発現を補助する作用または精製を容易にするという利点がある公知のタンパク質との融合ペプチドとして取得することができる。即ち、本発明に係るVL−κ鎖可変領域結合性ペプチドを含む融合ペプチドをコードする組換えDNAを少なくとも一つ含有する微生物、または、細胞を得ることができる。上記タンパク質の例としては、マルトース結合タンパク質(MBP)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)等が挙げられるが、それらのタンパク質に限定されるものではない。
【0074】
本発明のペプチドをコードするDNAを改変するための部位特異的な変異の導入は、以下のように、組換えDNA技術、PCR法等を用いて行うことができる。
【0075】
即ち、組換えDNA技術による変異の導入は、例えば、本発明ペプチドをコードする遺伝子中において、変異導入を希望する目的の部位の両側に適当な制限酵素認識配列が存在する場合に、それら制限酵素認識配列部分を前記制限酵素で切断し、変異導入を希望する部位を含む領域を除去した後、化学合成等によって目的の部位のみに変異導入したDNA断片を挿入するカセット変異法によって行うことができる。
【0076】
また、PCRによる部位特異的変異の導入は、例えば、本発明ペプチドをコードする二本鎖プラスミドを鋳型として、+鎖および−鎖に相補的な変異を含む2種の合成オリゴプライマーを用いてPCRを行うダブルプライマー法により行うことができる。
【0077】
また、本発明の単量体ペプチド(1つのドメイン)をコードするDNAを、意図する数だけ直列に連結することにより、多量体ペプチドをコードするDNAを作製することもできる。例えば、多量体ペプチドをコードするDNAの連結方法は、DNA配列に適当な制限酵素部位を導入し、制限酵素で断片化した2本鎖DNAをDNAリガーゼで連結することができる。制限酵素部位は1種類でもよいが、複数の異なる種類の制限酵素部位を導入することもできる。また、多量体ペプチドをコードするDNAにおいて、各々の単量体ペプチドをコードする塩基配列が同一の場合には、宿主にて相同組み換えを誘発する可能性があるので、連結されている単量体ペプチドをコードするDNAの塩基配列間の配列同一性が例えば90%以下、好ましくは85%以下、より好ましくは80%以下、さらにより好ましくは75%以下であることが好ましい。なお、塩基配列の同一性も、アミノ酸配列と同様に、常法により決定することが可能である。
【0078】
本発明の「発現ベクター」は、前述した本発明ペプチドまたはその部分アミノ酸配列をコードする塩基配列、およびその塩基配列に作動可能に連結された宿主で機能しうるプロモーターを含む。通常は、本発明ペプチドをコードする遺伝子を、適当なベクターに連結もしくは挿入することにより得ることができ、遺伝子を挿入するためのベクターは、宿主中で自律複製可能なものであれば特に限定されず、プラスミドDNAやファージDNAをベクターとして用いることができる。例えば、大腸菌を宿主として用いる場合には、pQE系ベクター(キアゲン社)、pET系ベクター(メルク社)およびpGEX系ベクター(GEヘルスケアバイオサイエンス社)のベクターなどが挙げられる。
【0079】
本発明の形質転換細胞は、宿主となる細胞へ本発明の組換えベクターを導入することにより得ることができる。宿主への組換え体DNAの導入方法としては、例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、アグロバクテリウム感染法、パーティクルガン法およびポリエチレングリコール法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、得られた遺伝子の機能を宿主で発現する方法としては、本発明で得られた遺伝子をゲノム(染色体)に組み込む方法なども挙げられる。宿主となる細胞については、特に限定されるものではないが、安価に大量生産する上では、大腸菌、枯草菌、ブレビバチルス属、スタフィロコッカス属、ストレプトコッカス属、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)等のバクテリア(真正細菌)を好適に使用しうる。
【0080】
本発明に係るVL−κ鎖可変領域結合性ペプチドは、前記した形質転換細胞を培地で培養し、培養菌体中(菌体ぺリプラズム領域中も含む)、または、培養液中(菌体外)に本発明に係るペプチドを生成蓄積させ、該培養物から所望のペプチドを採取することにより製造することができる。また、本発明ペプチドは、前記した形質転換細胞を培地で培養し、培養菌体中(菌体ぺリプラズム領域中も含む)、または、培養液中(菌体外)に、本発明ペプチドを含む融合ペプチドを生成蓄積させ、当該培養物から当該融合ペプチドを採取し、当該融合ペプチドを適切なプロテアーゼによって切断し、所望のペプチドを採取することにより製造することができる。
【0081】
本発明の形質転換細胞を培地で培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。得られた形質転換体の培養に用いる培地は、本発明ペプチドを高効率、高収量で生産できるものであれば特に制限は無い。具体的には、グルコース、蔗糖、グリセロール、ポリペプトン、肉エキス、酵母エキス、カザミノ酸などの炭素源や窒素源を使用することができる。その他、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マグネシウム塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩等の無機塩類が必要に応じて添加される。栄養要求性の宿主細胞を用いる場合は、生育に要求される栄養物質を添加すればよい。また、必要であればペニシリン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、ネオマイシンなどの抗生物質が添加されてもよい。
【0082】
さらに、菌体内外に存在する宿主由来のプロテアーゼによる当該目的ペプチドの分解を抑えるために、公知の各種プロテアーゼ阻害剤、すなわち、Phenylmethane sulfonyl fluoride(PMSF)、Benzamidine、4−(2−aminoethyl)−benzenesulfonyl fluoride(AEBSF)、Antipain、Chymostatin、Leupeptin、Pepstatin A、Phosphoramidon、Aprotinin、Ethylenediaminetetra acetic acid(EDTA)および/またはその他市販されているプロテアーゼ阻害剤を適当な濃度で添加してもよい。
【0083】
さらに、本発明に係るVL−κ鎖可変領域結合性ペプチドを正しくフォールディングさせるために、例えば、GroEL/ES、Hsp70/DnaK、Hsp90、Hsp104/ClpBなどの分子シャペロンを利用してもよい(例えば、共発現、または、融合タンパク質化などの手法で、本発明のペプチドと共存させる)。なお、本発明ペプチドの正しいフォールディングを目的とする場合には、正しいフォールディングを助長する添加剤を培地中に加える、および、低温にて培養するなどの手法もあるが、これらに限定されるものではない。
【0084】
大腸菌を宿主として得られた形質転換細胞を培養する培地としては、LB培地(トリプトン1%,酵母エキス0.5%,NaCl1%)、または、2×YT培地(トリプトン 1.6%,酵母エキス1.0%,NaCl0.5%)等が挙げられる。
【0085】
また、培養温度は、例えば15〜42℃、好ましくは20〜37℃で、通気攪拌条件で好気的に数時間〜数日培養することにより本発明ペプチドを、培養細胞内(ぺリプラズム領域内を含む)、または、培養溶液(細胞外)に蓄積させて回収する。場合によっては、通気を遮断し嫌気的に培養してもよい。組換えペプチドが分泌生産される場合には、培養終了後に、遠心分離、ろ過などの一般的な分離方法で、培養細胞と分泌生産されたペプチドを含む上清を分離することにより生産された組換えペプチドを回収することができる。また、培養細胞内(ぺリプラズム領域内を含む)に蓄積される場合にも、例えば、培養液から遠心分離、ろ過などの方法により菌体を採取し、次いで、この菌体を超音波破砕法、フレンチプレス法などにより破砕し、および/または、界面活性剤等を添加して可溶化することにより、細胞内に蓄積生産されたペプチドを回収することができる。
【0086】
本発明に係るペプチドの精製はアフィニティクロマトグラフィ、陽イオンまたは陰イオン交換クロマトグラフィ、ゲル濾過クロマトグラフィ等を単独でまたは適宜組み合わせることによって行うことができる。得られた精製物質が目的のペプチドであることの確認は、通常の方法、例えばSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、N末端アミノ酸配列分析、ウエスタンブロッティング等により行うことができる。
【0087】
本願は、2015年1月26日に出願された日本国特許出願第2015−12664号に基づく優先権の利益を主張するものである。2015年1月26日に出願された日本国特許出願第2015−12664号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0088】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0089】
以下の実施例で取得した変異ペプチドは「ペプチド名−導入した変異」の形で表記し、変位を導入しない野生型ペプチドは「ペプチド名−Wild」の形で表記する。例えば、配列番号7で示される野生型PpL312のB5ドメインは「LB5−Wild」で示す。また、本実施例においては、配列番号16で示されるPpL312のB5ドメインを実験でメインに利用しており、これを配列番号7と区別するため、「LB5t−Wild」と表記する。変異T16Hを導入したPpL312のB5ドメイン変異体は「LB5t−T16H」と表記する。種類の変異を同時に導入した変異体の表記については、スラッシュを用いて併記する。例えば、変異T16HおよびT18Dを導入したPpL312のB5ドメイン変異体は、「LB5t−T16H/T18D」と表記する。また、ドメイン数に関しては、ピリオドに続けて連結した数に「d」をつけて併記する。単ドメインからなる変異体の場合には、「LB5t−T16H.1d」と表記する。
【0090】
実施例1: 各種改変型PpLのVL−κ結合ペプチドの調製
(1) 発現プラスミド調製
LB5t−Wild.1d(配列番号16)のアミノ酸配列から逆翻訳を行い、当該ペプチドをコードする塩基配列(配列番号22)を設計した。なお、実験上の都合から、塩基配列は、N末端にGlu−Glnが、および、C末端にGlyが付加されたアミノ酸配列をコードするように設計した。これらの1〜2残基の付加配列は、野生型PpL312のB5ドメインに由来する。次に、発現プラスミドの作製方法を
図2に示す。LB5t−Wild.1dをコードするDNAは、同じ制限酵素サイトを有する2種の二本鎖DNA(f1とf2)を連結する形で調製し、発現ベクターのマルチクローニングサイトに組み込んだ。実際には、2種の二本鎖DNAと発現ベクターの計3種の二本鎖DNAを連結する3断片ライゲーションによって、コードDNA調製とベクター組込みを同時に実施した。2種の二本鎖DNAの調製方法は、互いに30塩基程度の相補領域を含む2種の一本鎖オリゴDNA(f1−1/f1−2、または、f2−1/f2−2)を、オーバーラップPCRによって伸長し、目的の二本鎖DNAを調製した。具体的な実験操作については、次の通りとなる。一本鎖オリゴDNAf1−1(配列番号23)/f1−2(配列番号24)を外注によって合成し(シグマジェノシス社)、ポリメラーゼとしてPyrobest(タカラバイオ社)を用い、オーバーラップPCR反応を行った。PCR反応生成物をアガロース電気泳動にかけ、目的のバンドを切り出すことで抽出した二本鎖DNAを、制限酵素BamHIとHindIII(いずれもタカラバイオ社)により切断した。同様に、一本鎖オリゴDNAf2−1(配列番号25)/f2−2(配列番号26)を外注によって合成し、オーバーラップPCR反応を経て、合成・抽出した二本鎖DNAを、制限酵素HindIIIとEcoRI(いずれもタカラバイオ社)により切断した。次に、プラスミドベクターpGEX−6P−1(GEヘルスケア・バイオサイエンス社)のマルチクローニングサイト中のBamHI/EcoRIサイトに上記2種の二本鎖DNAをサブクローニングした。サブクローニングにおけるライゲーション反応は、Ligation high(TOYOBO社)を用いて、製品に添付のプロトコルに準ずる形で実施した。
【0091】
上記プラスミドベクターpGEX−6P−1を用いて、コンピテント細胞(タカラバイオ社,「大腸菌HB101」)の形質転換を、本コンピテント細胞製品に付属のプロトコルに従って行った。上記プラスミドベクターpGEX−6P−1を用いれば、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(以下、「GST」と略記する)が融合したLB5t−Wild.1dを産生することができる。次いで、プラスミド精製キット(プロメガ社製「Wizard Plus SV Minipreps DNA Purification System」)を用い、キット付属の標準プロトコルに従って、プラスミドDNAを増幅し、抽出した。発現プラスミドのコードDNAの塩基配列確認は、DNAシークエンサー(Applied Biosystems社製「3130xl Genetic Analyzer」)を用いて行った。遺伝子解析キット(Applied Biosystems社製「BigDye Terminator v.1.1 Cycle Sequencing Kit)と、プラスミドベクターpGEX−6P−1のシークエンシング用DNAプライマー(GEヘルスケア・バイオサイエンス社)を用いて、添付のプロトコルに従いシークエンシングPCR反応を行った。そのシークエンシング産物を、プラスミド精製キットApplied Biosystems社製「BigDye XTerminator Purification Kit」)を用いて、添付のプロトコルに従い精製し、塩基配列解析に用いた。
【0092】
各種LB5t変異体をコードするDNAに関しては、作製したLB5t−Wild.1dの発現プラスミドを鋳型として、プラスミドベクターpGEX−6P−1の5’側シークエンシング用DNAプライマーと配列番号27〜34の各々のDNAプライマー(3’側)を用いたPCR反応によって、
図2のf1に該当する二本鎖DNAを合成した。DNAプライマーPCR反応は、Blend Taq −Plus−(TOYOBO社)を用いて、添付のプロトコルに従い行った。この二本鎖DNAを制限酵素BamHIとHindIIIで切断し、LB5t−Wild.1dの発現プラスミドも同じ制限酵素で切断し、両者をライゲーション反応することで、各種LB5t変異体の発現プラスミドを調製した。各々の変異体を作るときに使用したオリゴDNAの塩基配列、変異体をコードするcDNAの塩基配列、および、変異体のアミノ酸配列の配列番号を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
(2) タンパク質の発現と精製
上記(1)で得られた各種LB5t変異体遺伝子を導入した形質転換細胞を、アンピシリン含有2×YT培地にて、37℃で終夜培養した。これらの培養液を、100倍量程度のアンピシリン含有2×YT培地に接種し、37℃で約2時間培養した後で、終濃度0.1mMになるようイソプロピル1−チオ−β−D−ガラクシド(以下、「IPTG」と略記する)を添加し、さらに25℃にて18時間培養した。
【0095】
培養終了後、遠心にて集菌し、PBS緩衝液5mLに再懸濁した。超音波破砕にて細胞を破砕し、遠心分離して上清画分(無細胞抽出液)と不溶性画分に分画した。pGEX−6P−1ベクターのマルチクローニングサイトに目的の遺伝子を導入すると、GSTがN末端に付与した融合ペプチドとして発現される。それぞれの画分をSDS電気泳動により分析したところ、各々の形質転換細胞培養液から調製した各種無細胞抽出液のすべてについて、分子量約25,000以上の位置にIPTGにより誘導されたと考えられるペプチドのバンドを確認した。
【0096】
GST融合ペプチドを含む各々の無細胞抽出液から、GSTに対して親和性のあるGSTrap FFカラム(GEヘルスケア・バイオサイエンス社)を用いたアフィニティクロマトグラフィにて、GST融合ペプチドを粗精製した。各々の無細胞抽出液をGSTrap FFカラムに添加し、標準緩衝液(20mM NaH
2PO
4−Na
2HPO
4,150mM NaCl,pH7.4)にてカラムを洗浄し、続いて溶出用緩衝液(50mM Tris−HCl,20mMグルタチオン,pH8.0)にて目的のGST融合ペプチドを溶出した。
【0097】
pGEX−6P−1ベクターのマルチクローニングサイトに遺伝子を導入すると、配列特異的プロテアーゼPreScission Protease(GEヘルスケア・バイオサイエンス社)でGSTを切断することが可能なアミノ酸配列が、GSTと目的タンパク質の間に導入される。PreScission Proteaseを用いて、添付プロトコルに従いGST切断反応を行った。このようにGSTを切断した形でアッセイに利用したサンプルから、Superdex 75 10/300 GLカラム(GEヘルスケア・バイオサイエンス社)を用いたゲルろ過クロマトグラフィにて、目的のペプチドの精製を行った。標準緩衝液にて平衡化したSuperdex 75 10/300 GLカラムに、各々の反応溶液を添加し、目的のタンパク質を、切断したGSTやPreScission Proteaseから分離精製した。なお、以上のカラムを用いたクロマトグラフィによるペプチド精製は、全てAKTAprime plusシステム(GEヘルスケア・バイオサイエンス社)を利用して実施した。また、本実施例で得られるGST切断後の各々のタンパク質のN末端側には、ベクターpGEX−6P−1由来のGly−Pro−Leu−Gly−Serが付加された。したがって、例えば、LB5t−T36H.1dは、配列番号46のアミノ酸配列に対し、N末端側にGly−Pro−Leu−Gly−Ser−Glu−Glnが、C末端側にGlyが付加されたアミノ酸配列のペプチドである。
【0098】
実施例2: 各種LB5t変異体のaRSV−Fabへの親和性評価
(1) IgG由来Fabフラグメントの調製
ヒト化モノクローナルIgG製剤を原料として、これをパパインによって、FabフラグメントとFcフラグメントに断片化し、Fabフラグメントのみを分離精製することで調製した。具体的には、軽鎖がκ鎖からなる抗RSVモノクローナルIgG(一般名「パリビズマブ」,製品名「シナジス」,アッヴィ社)製剤を、パパイン消化用緩衝液(0.1M AcOH−AcONa,2mM EDTA,1mMシステイン,pH5.5)に溶解し、Papain Agarose from papaya latexパパイン固定化アガロース(SIGMA社)を添加し、ローテーターで混和させながら、37℃で約8時間インキュベートした。パパイン固定化アガロースから分離した反応溶液(FabフラグメントとFcフラグメントが混在)から、MabSelect SuReカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社)を利用したアフィニティクロマトグラフィにより、素通り画分でIgG−Fabを回収することで分離精製した。分取したIgG−Fab溶液を、Superdex 75 10/300 GLカラム(平衡化および分離には標準緩衝液を使用)を用いたゲルろ過クロマトグラフィにて精製し、IgG−Fab溶液(aRSV−Fab)を得た。なお、実施例1と同様に、クロマトグラフィによるタンパク質精製は、AKTAprime plusシステムを利用して実施した。
【0099】
(2) 各種LB5t変異体のIgG−Fabに対する親和性の解析
表面プラズモン共鳴を利用したバイオセンサーBiacore3000(GEヘルスケア・バイオサイエンス社)を用いて、実施例1(2)で取得した各種LB5t変異体のIgG−Fabとの親和性を解析した。本実施例では、実施例2(1)で取得したIgG−Fabをセンサーチップに固定化し、各種ペプチドをチップ上に流して、両者の相互作用を検出した。IgG−FabのセンサーチップCM5への固定化は、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)およびN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)を用いたアミンカップリング法にて行い、ブロッキングにはエタノールアミンを用いた(センサーチップや固定化用試薬は、全てGEヘルスケアバイオサイエンス社製)。IgG−Fab溶液は、固定化用緩衝液(10mM CH
3COOH−CH
3COONa,pH4.5)を用いて10倍程度に希釈し、Biacore 3000付属のプロトコルに従い、センサーチップへ固定した。また、チップ上の別のフローセルに対して、EDC/NHSにより活性化した後にヒト血清アルブミン(和光純薬社製)を固定化する処理を行うことで、ネガティブ・コントロールとなるリファレンスセルも用意した。各種LB5t変異体は、ランニング緩衝液(20mM NaH
2PO
4−Na
2HPO
4,150mM NaCl,0.005% P−20,pH7.4)を用いて、0.01、0.1、1または10μMに濃度を調整したタンパク質溶液を、流速40μL/minで1分間センサーチップに添加した。測定温度25℃にて、添加時(結合相,1分間)および添加終了後(解離相,1分間)の結合反応曲線を順次観測した。各々の観測終了後に、約20mM NaOHを添加して洗浄した。得られた結合反応曲線(リファレンスセルの結合反応曲線を差し引いた結合反応曲線)に対して、システム付属ソフトBIA evaluationを用いた1:1の結合モデルによるフィッティング解析を行い、aRSV−Fabに対する親和定数(K
A=k
on/k
off)を算出した。比較例2で測定した、野生型のLB5t−Wild.1dの各種結合パラメータと共に、解析結果を表2に示す。
【0100】
【表2】
【0101】
表2に示す結果のとおり、例えば変異体のaRSV−Fabへの親和定数K
Aは、野生型(変異前)に比較して、T16A、T16D、T16H、T18HおよびT18Qの変異を導入した場合には、ほぼ同等から約2倍となっており、VL−κ結合性が維持されていることを示す結果となった。Q15H、A17H、T18Dの変異に関しては、親和定数K
Aは低下したが、その数値は1×10
6(1/M)以上である。VL−κ結合力は、リガンドとして相手分子をカラムに保持できれば良く、結合力が強過ぎると溶出には不利に働く可能性もあるので、1×10
6(1/M)以上であれば、十分機能すると考えられる。
【0102】
実施例3: 各種LB5t変異体のaRSV−Fabの酸解離pHの評価
(1) Fabフラグメント固定化担体の調製
カップリング目的官能基をアミノ基とする市販のリガンド固定化用カップリングカラムを利用して、実施例2で得られたaRSV−Fabを固定化したアフィニティ分離マトリックスを作製した。
【0103】
水不溶性基材として、市販のプレパックカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製「Hitrap NHS activated HP」)1mLを使用した。このカラムは、架橋アガロースをベースとし、カップリング目的官能基をアミノ基とするタンパク性リガンド固定化用の活性基が導入済みなので、製品マニュアルに従ってリガンドを固定化した。氷浴で冷やした1mM HClを、流速1mL/minで2mL分流す操作を3回行い、カラム中のイソプロパノールを除去した。
【0104】
その後すぐに、カップリング緩衝液(0.2M NaHCO
3,0.5M NaCl,pH8.3)でaRSV−Fabを1mg/mLに希釈した溶液を同じ流速で1mL添加し、カラムの上下に栓をして25℃で30分間静置することで、取得したリガンドをカラムに固定化した。
【0105】
その後開栓し、カップリング緩衝液を同じ流速で3mL流して、未反応aRSV−Fabを回収した。その後、ブロッキング用緩衝液(0.5Mエタノールアミン,0.5M NaCl,pH8.3)を2mL流す操作を3回実施し、洗浄用緩衝液(0.1M酢酸,0.5M NaCl,pH4.0)を2mL流す操作を3回実施した。
【0106】
ブロッキング用緩衝液と洗浄用緩衝液を流す一連の操作は交互に3回ずつ行った。最後に標準緩衝液(20mM NaH
2PO
4−Na
2HPO
4,150 mM NaCl,pH 7.4)を2mL流してアフィニティ分離カラムの作製を完了した。
【0107】
(2) Fabフラグメント固定化担体を用いたクロマトグラフィ実験
実施例1(2)で調製した各種LB5t変異体を、実施例3(1)で調製したaRSV−Fab固定化カラムを利用したアフィニティ精製クロマトグラフィにより、LB5t変異体の溶出ピークトップにおけるpH(酸解離pH)を解析した。具体的には、クロマトシステムとしては、AKTAprime plusシステムを利用し、イオン交換用緩衝液A(50mM クエン酸−クエン酸Na,pH5.5)にて平衡化したカラムに、約0.1mg/mLに調整した各種LB5t変異体のタンパク質溶液を0.1mL添加し、pH5.5からpH2.5へのpH直線勾配にて溶出させた。より具体的には、イオン交換用緩衝液Aとイオン交換用緩衝液B(50mM CH
3COOH−CH
3COONa,1M NaCl,pH2.5)を利用しており、カラムに20カラムボリューム分の緩衝液を通液する際に、緩衝液Bの濃度を0%から100%に直線的に上げていく工程にて、溶出位置から酸解離pHを評価した。実際のデータの一例として、各種LB5tの第16位に変異を導入した変異体に関し、比較例3の野生型LB5tとの比較も出来る形で重ね合わせたクロマトグラフィのチャートを
図3に示した。この実験において、本発明で得られた各種LB5t変異体(LB5t−T16A.1d、LB5t−T16D.1d、LB5t−T16H.1d)が、変異を導入していないLB5t−Wild.1dよりも早く溶出した。これは、より中性側に近いpHで各種LB5t変異体が溶出されることを示している。即ち、本発明のペプチドは、VL−κ鎖可変領域含有タンパク質と解離するpHがより中性側に改変されたことを示すデータであるといえる。この実験系における、各々の溶出位置(ピークトップ)におけるpH値を、比較例3の結果も併せて表3に示す。
【0108】
【表3】
【0109】
表3に示す結果のとおり、各々の変異体に関して、VL−κ鎖可変領域含有ペプチドと解離するpHがより中性側に改変された。
【0110】
比較例1: PpLの野生型B5ドメイン(LB5t−Wild.1d)の調製
実施例1にて調製したLB5t−Wild.1dの発現プラスミドを用いて、実施例1と同様の手法にて、形質転換細胞を調製し、培養・精製を経て、タンパク質溶液を調製した。
【0111】
比較例2: LB5t−Wild.1dのaRSV−Fabへの親和性評価
比較例1で調製したLB5t−Wild.1dに関し、実施例2(1)で調製したRSV−Fabとの親和性を、実施例2(2)と同様の手法にて解析した。その解析結果を、上記の表2に併せて示した。
【0112】
比較例3: LB5t−Wild.1dのaRSV−Fabの酸解離pH評価
比較例1で調製したLB5t−Wild.1dに関し、実施例3(1)で調製したRSV−Fab固定化担体を用いて、実施例3(2)と同様の手法にて酸解離pHを解析した。その解析結果を、上記の表3に併せて示した。
【0113】
実施例4: PpL312のB5ドメイン変異体の4ドメイン型(LB5t−T16H.4d)の調製
配列番号1に示されるPpL312に含まれるVL−κ結合ドメイン間のアミノ酸配列を利用し、配列番号46で示されるB5ドメイン変異体のアミノ酸配列を4個連結した配列番号51のアミノ酸配列(「LB5t−T16H.4d」)を設計した。配列番号51のアミノ酸配列から逆翻訳を行い、当該ペプチドをコードする塩基配列(配列番号52)を設計した。配列番号52のDNAの5’末端にPstI認識サイト、3’末端にXbaI認識サイトを付与したDNA(配列番号53)の人工合成遺伝子を、ユーロフィンジェノミクス社への外注によって全合成した。このサブクローニング後の発現プラスミドを、制限酵素PstIおよびXbaI(タカラバイオ社)で消化し、取得したDNA断片を、同じ制限酵素で消化したブレビバチルス発現用ベクターpNCMO2(タカラバイオ社)へライゲーションし、LB5t−T36H.4dのアミノ酸配列をコードするDNAがブレビバチルス発現用ベクターpNCMO2に挿入された発現プラスミドを調製した。なおライゲーション反応は、Ligation high(TOYOBO社)を用いて、製品に添付のプロトコルに準ずる形で実施し、プラスミドの調製にはエシェリヒア・コリJM109株(タカラバイオ社)を用いた。各々の発現プラスミドDNA塩基配列の確認は、DNAシークエンサー3130xl Genetic Analyzer(Applied Biosystems社)を用いて行った。BigDye Terminator v.1.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社)を用いて、付属のプロトコルに従い、各々のプラスミドDNAのシークエンシングPCR反応を行い、そのシークエンシング産物をプラスミド精製キット(Applied Biosystems社,「BigDye XTerminator Purification Kit」)を用いて添付のプロトコルに従い精製し、配列解析に用いた。
【0114】
ブレビバチルス・チョウシネンシスSP3株(タカラバイオ社)を得られたプラスミドで形質転換し、LB5t−T16H.4dを分泌生産する遺伝子組換え体を育種した。この遺伝子組換え体を60μg/mLのネオマイシンを含む30mLのA培地(ポリペプトン 3.0%,酵母エキス 0.5%,グルコース 3%,硫酸マグネシウム 0.01%,硫酸鉄 0.001%,塩化マンガン 0.001%,塩化亜鉛 0.0001%)にて、30℃で3日間の振盪培養を行った。培養後、培養液を15,000rpm、25℃でから5分間遠心分離するにより菌体を分離した。
【0115】
得られた培養上清から、UnoSphere S(バイオラッド社)を利用した陽イオン交換クロマトグラフィーにて、LB5t−T16H.4dを精製した。UnoSphere SはTricorn 10/200(GEヘルスケアバイオサイエンス社)に充填して使用した。具体的には、酢酸ナトリウムを終濃度50mMになるように添加し、さらに酢酸でpH4.0に調整した培養上清を、陽イオン交換用緩衝液A(50mM CH
3COOH−CH
3COONa,pH4.0)にて平衡化したUnoSphere Sカラムに添加し、陽イオン交換用緩衝液Aで洗浄後、陽イオン交換用緩衝液Aと陽イオン交換用緩衝液B(50mM CH
3COOH−CH
3COONa,1M NaCl,pH4.0)を利用した塩濃度勾配にて、途中に溶出されるLB5t−T16H.4dを分取した。次に、Nuvia Qカラム(バイオラッド社)を利用した陰イオン交換クロマトグラフィーにて、LB5t−T16H.4dを精製した。Nuvia QはTricorn 10/200(GEヘルスケアバイオサイエンス社)に充填して使用した。具体的には、分取したLB5t−T16H.4d溶液を、陰イオン交換用緩衝液A(50mM Tris−HCl,pH8.0)に透析し、陰イオン交換用緩衝液Aにて平衡化したNuvia Qカラムに添加し、陰イオン交換用緩衝液Aで洗浄後、陰イオン交換用緩衝液Aと陰イオン交換用緩衝液B(50mM Tris−HCl,1.0M NaCl,pH8.0)を利用した塩濃度勾配にて、途中に溶出されるLB5t−T36H.4dを分取した。分取したLB5t−T16H.4dを再び超純水に透析し、LB5t−T16H.4dのみを含む水溶液を最終精製サンプルとした。なお、上記のカラムを用いたクロマトグラフィーによるタンパク質精製は、AKTAavant 25システム(GEヘルスケアバイオサイエンス社)を利用して実施した。
【0116】
実施例5: PpL312のB5ドメイン変異体の4ドメイン型固定化担体の作製
実施例4で調製したLB5t−T16H.4dを、水不溶性セルロース担体へ固定化した。水不溶性セルロース担体としては、結晶性高架橋セルロース(JNC社製,特開2009−242770号公報またはUS20090062118Aに記載に方法により得られるゲル)を使用した。この際、エポキシ法を固定化方法として利用した。
【0117】
具体的には、担体2mL−gelをガラスフィルターにうつし、10mL超純水で3回洗浄した。その後、担体を遠沈管にうつし、所定量の1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ブタンを加え、37℃で30分攪拌した。30分後、最終濃度が1Mとなるように9.2M水酸化ナトリウム水溶液を加え、37℃で2時間攪拌し、担体をガラスフィルターにうつした。減圧により反応溶液を取り除き、ガラスフィルター上の担体を30mLの超純水で洗浄し、エポキシ化した担体を得た。
【0118】
次に、エポキシ化した担体にLB5t−T16H.4dを固定化する操作を行った。エポキシ化した担体1.5mLを遠沈管に移し、さらにLB5t−T16H.4d溶液を加えて37℃で30分間反応させた。反応後、終濃度が0.6Mになるように硫酸ナトリウム粉末を添加した。硫酸ナトリウム添加後、37℃で2時間反応させた。反応後、担体をガラスフィルターにうつし、固定化緩衝液(150mM Na
2HPO
4,1mM EDTA,pH8.5)5mLで3回洗浄し、未反応LB5t−T16H.4dを回収した。次に、担体を5mLの超純水で3回洗浄した後、チオグリセロール含有不活性化緩衝液(200mM NaHCO
3,100mM NaCl,1mM EDTA,pH8.0)5mLで3回洗浄した。担体をチオグリセロール含有不活性化緩衝液に懸濁させ回収した後、遠沈管にうつし25℃で一晩反応させた。その後、担体をガラスフィルターにうつし、超純水および洗浄緩衝液(100mM Tris−HCl,150mMNaCl,pH8.0)5mLで3回洗浄後、遠沈管にうつし、25℃で20分間攪拌した。担体をガラスフィルターにうつし、超純水5mLで3回洗浄した。さらに担体を超純水10mL、20%エタノール10mLで洗浄した後、20%エタノール担体に懸濁し回収してLB5t−T16H.4d固定化担体を得た。
【0119】
回収した未反応LB5t−T16H.4dの280nmの吸光度を分光計で測定し、アミノ酸配列から算出した吸光係数から未反応LB5t−T36H.4dの量を算出した。LB5t−T16H.4dの仕込み量と定量した未反応LB5t−T36H.4dの量の差からLB5t−T16H.4dの固定化量を算出し、さらに担体の体積からリガンド密度を算出した。表4に作製した担体のリガンド密度を示す。
【0120】
【表4】
【0121】
実施例6: PpL312のB5ドメイン変異体の4ドメイン型固定化担体を用いたクロマトグラフィー実験
実施例5で作製した担体1mL−gelを充填したTricorn 5/50 column(GEヘルスケアバイオサイエンス社)をクロマトシステムAKTAavant 25に接続し、実施例2の(1)で調製したaRSV−Fabの溶出ピークトップにおけるpH(酸解離pH)を解析した。具体的には、イオン交換用緩衝液A(50mM クエン酸−クエン酸Na,pH5.0)にて平衡化したカラムに、1.0mg/mLに調整したaRSV−Fab溶液を1.0mL添加し、pH5.0からpH2.4へのpH直線勾配にて溶出させた。より具体的には、イオン交換用緩衝液Aとイオン交換用緩衝液B(50mM クエン酸−クエン酸Na,pH2.4)を利用しており、カラムに20カラムボリューム分の緩衝液を通液する際に、緩衝液Bの濃度を0%から100%に直線的に上げていく工程にて、溶出位置から酸解離pHを評価した。結果を表5に示す。
【0122】
【表5】
【0123】
表5に示す結果のとおり、本発明のB5ドメイン変異体を連結したペプチドを固定化したアフィニティー分離マトリックスは、比較的中性に近いpHでモノクローナルFabを解離することができた。
【0124】
実施例7: 各種VL−κ鎖結合ドメイン変異体の追加調製、および、VL−κ鎖可変領域を含むFabに対する酸解離pHの評価
(1) 発現プラスミド調製、および、タンパク質の発現と精製
LB5t−Wild.1d(配列番号16)、LB1t−Wild.1d(配列番号12)、またはLC4t−Wild.1d(配列番号20)の変異体の発現プラスミドを追加で調製した。LB1t−Wild.1dおよびLC4t−Wild.1dのコードDNAを有する変異導入用発現プラスミドは、表6に示す配列番号54〜61の一本鎖オリゴDNAを用いて、実施例1(1)の記載と同様の手法にて調製した。調製した発現プラスミドにおいて目的のペプチドをコードするDNAについて、LB1t−Wild.1dは配列番号62の塩基配列、LC4t−Wild.1dは配列番号63の塩基配列であることを、実施例1(1)の記載と同様の手法にて、塩基配列解析で確認した。
【0125】
【表6】
【0126】
各種単ドメイン型VL−κ鎖結合ドメイン変異体の発現プラスミドに関しては、各々の対応する野生型の発現プラスミドを鋳型として、プラスミドベクターpGEX−6P−1の5’側シークエンシング用DNAプライマーと配列番号64〜69の各々の3’側DNAプライマーを用いたPCR反応によって、
図2のf1に該当する二本鎖DNAを合成し、実施例1(1)の記載と同様の手法にて調製した。各々の変異体を作製する際に使用したオリゴDNAの塩基配列、変異体をコードするcDNAの塩基配列、および変異体のアミノ酸配列の配列番号を表7に示す。各種変異体に関し、実施例1と同様の手法にて、形質転換細胞を調製し、培養・精製を経て、タンパク質溶液を調製した。
【0127】
【表7】
【0128】
(2) 各種VL−κ鎖結合ドメイン変異体のFabに対する酸解離pHの評価
aRSV−Fab固定化担体、またはaIgE−Fab固定化担体を用いて、(1)にて調製した各種VL−κ鎖結合ドメイン変異体のFabに対する酸解離pHの評価を行った。aIgE−Fabは、抗IgEモノクローナルIgG製剤(一般名「オマリズマブ」,製品名「ゾレア」,ノバルティスファーマ社)より、実施例2(1)に記載の手法にて調製し、aRSV−Fab固定化担体は実施例3(1)に記載の手法にて、市販のプレパックカラムに固定化することで調製した。各種VL−κ鎖結合ドメイン変異体のaRSV−FabまたはaIgE−Fabに対する酸解離pHは、実施例3(2)記載と同様のクロマトグラフィ実験にて評価した。
【0129】
最初に、aRSV−Fab固定化担体を用いた評価結果、即ち、各々の溶出位置を示すピークトップにおけるpH値を、比較例3および5の結果も併せて表8に示す。
【0130】
【表8】
【0131】
追加したLB5t変異体(LB5t−T16I.1dとLB5t−T16L.1d)も同様に、変異を導入していないLB5t−Wild.1dよりも中性側に近いpHで溶出することを確認した。この結果は、変異アミノ酸の種類が疎水性アミノ酸であっても同様の効果が得られることを示している。実施例3の結果と併せて、本発明の本質が、アミノ酸置換変異を配列番号21の第15位〜第18位に導入することにあることを示唆するデータであると言える。また、LB1t変異体に関しても、本発明の変異を導入した変異体LB1t−E18D.1dが、変異を導入していないLB1t−Wild.1dよりも中性側に近いpHで溶出することを確認した。LB5t−Wild.1d(配列番号16)とLB1t−Wild.1d(配列番号12)の配列同一性は、62.3%である。このように変異導入前の配列同一性が60%程度であっても、VL−κ鎖結合ドメインとして機能するペプチドには、本発明が適用できることを示唆するデータと言える。
【0132】
次に、aIgE−Fab固定化担体を用いた評価結果を、比較例3および5の結果も併せて表9に示す。
【0133】
【表9】
【0134】
上記実験結果と同様に、種類の異なるVL−κ鎖可変領域含有タンパク質に対しても、本発明のペプチドは、変異を導入していないペプチドと比較して、中性側に近いpHで溶出することを確認した。かかる結果は、本発明の変異の効果が、特定配列のVL−κ鎖可変領域含有タンパク質に限定されていないことを示唆するデータと考えられる。また、C4ドメインをベースとした変異体でも同様の傾向が見られたことは、本発明の変異が、特定菌株のプロテインLに限定されず、一般的なプロテインL、またはその類縁体と認知されるタンパク質にも、本発明が適用できることを示唆するデータと考えられる。
【0135】
比較例4: PpLの野生型B1ドメイン(LB1t−Wild.1d)およびC4ドメイン(LC4t−Wild.1d)の調製
実施例7(1)にて調製したLB1t−Wild.1dおよびLC4t−Wild.1dの発現プラスミドを用いて、実施例7と同様の手法にて、形質転換細胞を調製し、培養・精製を経て、タンパク質溶液を調製した。
【0136】
比較例5: LB1t−Wild.1dのaRSV−Fabの酸解離pH評価、および、LC4t−Wild.1dのaIgE−Fabの酸解離pH評価
比較例4で調製したLB1t−Wild.1dに関し、実施例3(1)で調製したaRSV−Fab固定化担体を用いて、実施例7(2)と同様の手法にて酸解離pHを解析した。また、比較例4で調製したLC4t−Wild.1dに関し、実施例7(2)で調製したaIgE−Fab固定化担体を用いて、実施例7(2)と同様のクロマトグラフィ実験にて酸解離pHを解析した。その解析結果を、上記の表8および表9に併せて示した。