【文献】
Jeffrey P. Koplow et al.,Single-mode operation of a coiled multimode fiber amplifier,OPTICS LETTERS,2000年 4月 1日,vol. 25,442-444
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載のファイバレーザには増幅効率を更に高める余地がある。その理由を以下に説明する。
【0011】
特許文献1に記載のファイバレーザは、(1)励起用光ファイバは、基本モードのレーザ光と高次モードのレーザ光とを区別することなく増幅し、(2)モードフィルタは、増幅された基本モードのレーザ光及び増幅された高次モードのレーザ光のうち増幅された高次モードのレーザ光を除去することによって、レーザ光のビーム品質を高めている。したがって、特許文献1に記載のファイバレーザにおいて、複数の励起光入射手段から励起用光ファイバに入射した励起光のパワーのうち、高次モードのレーザ光の増幅に寄与した励起光のパワーは、ファイバレーザから出力されるレーザ光の出力に還元されることなく捨てられることになる。
【0012】
また、特許文献1に記載のファイバレーザは、屈曲した光ファイバをモードフィルタの代わりに採用している。光ファイバを屈曲することによって曲げ損失を形成することによって、光ファイバの発振モードをシングルモードにすることができ、結果としてレーザ光のビーム品質を高めることができる。しかしながら、特許文献1に記載のファイバレーザには増幅効率を更に高める余地がある。その理由を以下に説明する。
【0013】
基本モードのレーザ光は、光ファイバのコアの中心近傍に集中して分布する。そのため、光ファイバのコアに添加された希土類イオンのうち光増幅に寄与する希土類イオンは、コアの中心近傍に分布する希土類イオンのみである。換言すれば、コアの外縁近傍に分布する希土類イオンは、光増幅に寄与しない。その一方で、光ファイバに入射された励起光は、コアの中心近傍に分布する希土類イオンと、コアの外縁近傍に分布する希土類イオンとを区別することなく励起する。その結果、光ファイバに入射された励起光のパワーのうちコアの外縁近傍に分布する希土類イオンを励起するために使われた励起光のパワーは、ファイバレーザから出力されるレーザ光の出力に還元されることなく無駄に散逸することになる。
【0014】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、コアに希土類イオンが添加されたマルチモードファイバにおいて、出射光のビーム品質を維持しつつ希土類イオンによる増幅効率を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るマルチモードファイバは、コアに希土類イオンが添加され且つ規格化周波数が2.40以上であるマルチモードファイバであって、当該マルチモードファイバは、その一部区間又は全区間を屈曲することにより構成されたフィルタ部を備え、当該フィルタ部の最小直径は、(1)LP01、LP11、LP21、及びLP02の各モードのみが伝搬するように、又は、LP01及びLP11の各モードのみが伝搬するように、且つ、(2)伝搬する前記各モードのうち最高次モードの損失が0.1dB/m以下となるように、定められている、ことを特徴とする。
【0016】
上記の構成によれば、基本モードであるLP01モードに加えて、(1)LP11、LP21、及びLP02の各モード、又は、(2)LP11がマルチモードファイバのコアを伝搬する。したがって、マルチモードファイバの増幅効率を高めることができる。また、高次モードのうち所定のモードのみを伝搬する構成を採用することによって、ビーム品質が必要以上に低下することを抑制できる。したがって、本マルチモードファイバは、出射光のビーム品質を維持しつつ希土類イオンによる増幅効率を高めることができる。
【0017】
本発明の一態様に係るマルチモードファイバは、前記マルチモードファイバは、前記規格化周波数が3.83以上であり、前記フィルタ部の最小直径は、LP01、LP11、LP21、及びLP02のみが伝搬するように、且つ、LP02の損失が0.1dB/m以下となるように定められている、ことが好ましい。
【0018】
上記の構成によれば、マルチモードファイバをLP01に加えてLP11、LP21、及びLP02が伝搬するため、マルチモードファイバをLP01及びLP11が伝搬する場合と比較して、増幅効率を高めることができる。したがって、出射光のビーム品質と増幅効率とを両立させつつも、増幅効率をより重視したい場合には、フィルタ部の最小直径をこのように構成してもよい。
【0019】
本発明の一態様に係るマルチモードファイバにおいて、前記フィルタ部の最小直径は、LP01及びLP11のみが伝搬するように、且つ、LP11の損失が0.1dB/m以下となるように定められている、ことが好ましい。
【0020】
上記の構成によれば、マルチモードファイバをLP01及びLP11のみが伝搬するため、LP01、LP11、LP21、及びLP02が伝搬する場合と比較して、ビーム品質を高めることができる。したがって、出射光のビーム品質と増幅効率とを両立させつつも、ビーム品質をより重視したい場合には、フィルタ部の最小直径をこのように構成してもよい。
【0021】
本発明の一態様に係るマルチモードファイバにおいて、前記フィルタ部は、前記マルチモードファイバの少なくとも一部区間をループ状又はコイル状に巻くことにより構成されている、ことが好ましい。
【0022】
上記の構成によれば、フィルタ部の大きさを変えることなく、ループ状あるいはコイル状に巻く巻き数を変化させることによって、フィルタ部を構成する区間の長さを任意に設定することができる。
【0023】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光増幅器は、上述した各態様のうち何れか一態様に係るマルチモードファイバと、当該マルチモードファイバに励起光を供給する1又は複数の励起光源と、を備えている、ことを特徴とする。
【0024】
このように、上述した本発明の一態様に係るマルチモードファイバを備えた光増幅器も本発明の範疇に含まれる。本光増幅器は、上述した本発明の一態様に係るマルチモードファイバと同様の効果を奏する。
【0025】
本発明の一態様に係る光増幅器において、前記マルチモードファイバの両端部のうち種光が入射される側の端部を入射端部として、前記フィルタ部は、前記入射端部の近傍を含む一部区間をループ状又はコイル状に巻くことにより構成されている、ことが好ましい。
【0026】
上記の構成によれば、マルチモードファイバの内部を伝搬する高次モードのうちLP11、LP21、及びLP02以外の高次モードをマルチモードファイバの前段において迅速に除去することができる。したがって、フィルタ部を除いたマルチモードファイバの後段において、励起された状態の希土類イオンは、LP01、LP11、LP21、及びLP02の4つのモードのみを増幅する。したがって、マルチモードファイバの後段においてLP31やLP12などの高次モードを増幅することを抑制できるので、本光増幅器は、増幅効率を更に高めることができる。
【0027】
本発明の一態様に係る光増幅器において、前記マルチモードファイバの両端部のうち前記入射端部と逆側の端部を出射端部として、前記フィルタ部は、前記マルチモードファイバの前記入射端部の近傍から前記出射端部の近傍までの区間である中央区間をコイル状に巻くことにより構成されている、ことが好ましい。
【0028】
上記の構成によれば、中間区間を全てコイル状に巻くことにより、光増幅器を更にコンパクト化することができる。
【0029】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るファイバレーザは、上述した各態様のうち何れか一態様に係る光増幅器と、前記マルチモードファイバに種光を供給する種光光源と、を備えている、ことを特徴とする。
【0030】
このように、上述した本発明の一態様に係る光増幅器を備えたファイバレーザも本発明の範疇に含まれる。本ファイバレーザは、上述した本発明の一態様に係る光増幅器と同様の効果を奏する。
【0031】
本発明の一態様に係るファイバレーザにおいて、前記マルチモードファイバの両端部のうち種光が入射される側の端部と逆側の端部を出射端部として、前記1又は複数の励起光源は、前記出射端部に結合されている、構成を採用してもよい。
【0032】
本ファイバレーザは、自然放出増幅光の発生を抑制することができる。したがって、後方励起の配置を採用した場合であっても、複数の励起光源において生じ得る故障を抑制することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の一態様によれば、コアに希土類イオンが添加されたマルチモードファイバにおいて、出射光のビーム品質を維持しつつ希土類イオンによる増幅効率を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係るマルチモードファイバ(Multi-Mode Fiber:MMF)について、
図1〜
図5を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るMMF11を備えた光増幅器10を含むファイバレーザ1の構成を示すブロック図である。
図2は、MMFにおける規格化伝搬定数Bの規格化周波数V依存性を示すグラフである。
図3は、MMF11のコア近傍における各モードの光の強度分布を示すグラフである。
図4は、MMF11のコアの内部における励起準位密度を示すグラフである。
図5は、MMF11のコアの内部における励起準位の総和と、MMF11を伝搬する光のモード数との相関関係を示すグラフである。
【0036】
(ファイバレーザ1の概要)
図1に示すように、ファイバレーザ1は、光増幅器10と、種光光源20と、ヘッド30とを備えている。
【0037】
種光光源20が備えている光ファイバ27の先端は、接続点P11において光増幅器10のMMF11の入射端部に融着されている。
【0038】
また、光増幅器10が備えているデリバリファイバ15の先端は、接続点P14においてヘッド30の一方の端部に融着されている。このように構成されたファイバレーザ1において、光増幅器10は、種光光源20から供給された種光を増幅することによって高出力なレーザ光を出力する。光増幅器10が出力するレーザ光は、光増幅器10の後段に接続されたヘッド30を介して、加工対象物に照射される。なお、本実施形態において種光の波長は、1090nmである。したがって、光増幅器10が出力するレーザ光の波長も1090nmである。なお、種光及び光増幅器10が出力するレーザ光の波長は、1090nmに限定されるものではない。
【0039】
ファイバレーザ1は、ヘッド30を介して高出力なレーザ光を工対象物に照射することができるため、ファイバレーザ1は、切断や溶接などに代表される加工用途に好適に用いることができる。
【0040】
本実施形態では、光増幅器10について説明する。種光光源20については、第2の実施形態において後述する。ヘッド30としては、加工用途に用いられるヘッドを適宜採用することができる。したがって、ヘッド30についての説明は、省略する。
【0042】
図1に示すように、光増幅器10は、MMF11と、励起光源群12と、光ファイバ群13と、コンバイナ14と、デリバリファイバ15とを備えている。励起光源群12は、複数の励起光源であるLD(レーザダイオード)121〜126からなる。光ファイバ群13は、複数の光ファイバ131〜136からなる。
【0043】
MMF11は、コアとクラッドとを備えたステップインデックス型の光ファイバであって、そのコアに励起物質として働く希土類イオン(本実施形態では、Yb
3+イオン)が添加された光ファイバである。MMF11は、基本モードであるLP01に加えて少なくとも1つの高次モードを伝搬することができる光ファイバ、すなわちマルチモードファイバである。MMF11の出射端部は、接続点P12においてコンバイナ14の一方の端部に融着されている。
【0044】
光ファイバ131の一方の端部は、LD121と光学的に結合されており、光ファイバ131の他方の端部は、接続点P13においてコンバイナ14の他方の端部に融着されている。同様に、光ファイバ132〜136の各々の一方の端部は、それぞれ、LD122〜126の各々と光学的に結合されている。また、光ファイバ132〜136の各々の他方の端部は、何れも、接続点P13においてコンバイナ14の他方の端部に融着されている。このように、光増幅器10は、後方励起型の配置を採用している。後方励起型の構成を採用することによって、前方励起型の構成を採用する場合と比較して、自然放出増幅光の発生を抑制することができる。なお、後方励起型の構成のほうが前方励起型の構成と比較して、自然放出増幅光の発生を抑制できる理由については、後述する。
【0045】
ただし、本発明の一態様に係る光増幅器は、後方励起型に限定されるものではなく、
図8及び
図9に示すように前方励起型であってもよいし、双方向励起型であってもよい。
【0046】
デリバリファイバ15の一方の端部は、接続点P13においてコンバイナ14の他方の端部に融着されている。また、デリバリファイバ15の他方の端部は、接続点P14においてヘッド30の一方の端部に融着されている。デリバリファイバ15の他方の端部は、上述したデリバリファイバ15の先端に対応する。
【0047】
このように構成された光増幅器10において、LD121〜126が出射する励起光は、光ファイバ131〜136及びコンバイナ14を介して、出射端部を介してMMF11に供給される。MMF11に供給された励起光は、MMF11を接続点P12から接続点P11に向かう方向へ伝搬する過程において、MMF11のコアに添加された多数の希土類イオンを励起する。
【0048】
励起された状態の希土類イオンを多数含むMMF11のコアには、その一方の端部から種光が供給される。MMF11に供給された種光は、MMF11を接続点P11から接続点P12に向かう方向へ伝搬する。その過程において、種光は、励起状態に遷移した希土類イオンの電子が発光再結合するトリガーとなる。したがって、種光は、接続点P11から接続点P12へ伝搬する過程において増幅され、高出力なレーザ光となる。この高出力なレーザ光は、デリバリファイバ15を介してヘッド30に供給され、ヘッド30から加工対象物に照射される。
【0049】
(MMF11の概要)
MMF11は、コアとクラッドとを備えたステップインデックス型の光ファイバであって、そのコアに励起物質として働く希土類イオンが添加された光ファイバである。MMF11は、クラッドとしてダブルクラッドを採用している。しかし、MMF11のクラッドは、シングルクラッドであってもよい。MMF11は、基本モードであるLP01に加えて少なくとも1つの高次モードを伝搬することができる光ファイバ、すなわちマルチモードファイバである。
【0050】
<光ファイバを伝搬するモードの数>
まず、ステップインデックス型の光ファイバを伝搬するモードの数について
図2を参照して説明する。光ファイバが伝搬することができるモードの数は、式(1)により定義される規格化周波数Vに依存する。規格化周波数Vは、光ファイバの仕様を表す指標の1つである。
【0051】
【数1】
ここで、n
coはコアの屈折率であり、n
clはクラッドの屈折率であり、aはコアの直径である。kは、2πと、光ファイバを伝搬するモードの波長λの逆数(すなわち1/λ)により表される定数である。
【0052】
また、光ファイバを伝搬するモードに対するコアを伝搬するモードの割合を表す指標として、式(2)により定義される規格化伝搬定数Bが知られている。
【0053】
【数2】
ここで、βは光ファイバを伝搬するモードの伝搬定数である。
【0054】
図2に示すように、光ファイバを伝搬するモードの数は、その光ファイバの規格化周波数Vが大きいほど多くなり、小さいほど少なくなる。すなわち、規格化周波数Vを10から徐々に小さくしていくにしたがって、LP42、LP13、LP61、LP32、LP51、LP03、LP22、LP41、LP12、LP31の順番で光ファイバ内を伝搬できなくなることが分かる。
【0055】
規格化周波数Vが5.13(有効数字3桁の場合)未満である場合、光ファイバ内を伝搬できるモードは、高次モードであるLP02、LP21、LP11と、基本モードであるLP01との合計4モードである。規格化周波数Vが3.83(有効数字3桁の場合)未満である場合、光ファイバ内を伝搬できるモードは、LP11モード及びLP01モードの合計2モードである。規格化周波数Vが2.40(有効数字3桁の場合)未満である場合、光ファイバ内を伝搬できるモードは、LP01モードのみとなる。
【0056】
以上のことから、規格化周波数Vが所望の値となるように光ファイバを設計することによって、光ファイバを伝搬するモードの数を所望の数に限定することができることが分かる。
【0057】
本実施形態におけるMMF11は、規格化周波数Vが3.83以上となるように設計されている。したがって、1つの方向に沿って直線状にMMF11を配置した場合、MMF11は、少なくともLP01、LP11、LP21、及びLP02の4つのモードを伝搬する。
【0058】
<ビーム品質>
光増幅器10を備えたファイバレーザ1を加工用途に用いる場合、加工精度を高めるために、レーザ光のビームウェスト径(断面径)が小さなレーザ光であって、且つ、高出力なレーザ光を出力することが求められる。すなわち、光増幅器10には、高いビーム品質を有し、且つ、高出力なレーザ光を出力することが求められる。ビーム品質は、ビームウェスト径をどれだけ小さく絞ることができるかを評価する指標の総称であり、ビームパラメータ積(BPP:Beam Parameter Products)又はM
2を用いて表すことができる。ビーム品質を評価するための指標として、BPPを用いてもよいし、M
2を用いてもよい。
【0059】
光の性質として、1つの点状の光源から発せされた光を集光する集光系において、上記光源から発せられた光を上記光源の大きさよりも小さく集光することはできないことが知られている。MMF11のような光ファイバの一方の端面(出射端面)から出射される光を集光する集光系を考えた場合には、当該出射端面を一種の光源と考えることができる。この場合、上記出射端面のうち光が分布する領域(分布領域)の大きさ(直径)を光源の大きさと見做すことができる。したがって、上述した光の性質に鑑みれば、上記出射端面から出射された光は、分布領域の大きさよりも小さく集光することはできない。分布領域の大きさは、光のモードに依存して変化する。
【0060】
ここで、MMF11及びデリバリファイバ15を伝搬するモードを考える場合、コアの中心近傍に集中して分布するモードと、コアの外周部近傍に分布するモードとを比較すると、コアの中心近傍に集中して分布するモードの方が出射端面内における分布領域が小さい。したがって、コアの中心近傍に集中して分布するモードと、コアの外周部近傍に分布するモードとを比較すると、コアの中心近傍に集中して分布するモードの方がより小さく集光することができる。すなわち、ビーム品質を高めるという観点では、コアの中心近傍に集中して分布するモードの方がコアの外周部近傍に分布するモードより有利である。
【0061】
ここで、ステップインデックス型の光ファイバを伝搬する各モードの分布について
図3を参照して説明する。
図3の横軸に示す規格化コア半径は、MMF11の中心からの距離を、そのコアの半径a(本実施形態ではa=13.5μm)で規格化したものである。すなわち、規格化コア半径の絶対値が1である位置(すなわち、
図3においては規格化コア半径が1または−1の位置)がコアとクラッドとの境界に対応する。
【0062】
図3に示すように、基本モードであるLP01の強度は、コアの中心に極大を有し、コアの中心から遠ざかるにしたがって強度が単調減少する。このように、LP01は、コアの中心近傍に集中して分布しているため、小さく集光することができる。したがって、ビーム品質を高めるという観点では、MMF11及びデリバリファイバ15を伝搬するモードとして、基本モードであるLP01のみを選択することが好ましい。すなわち、LP01のみを伝搬するように規格化周波数Vを定めればよい。
【0063】
<増幅効率>
その一方で、MMF11及びデリバリファイバ15を伝搬するモードとしてLP01のみを選択した場合、MMF11における増幅効率を高めることが難しい。以下にその理由を説明する。なお、増幅効率は、例えば、(1)MMF11に対して供給した励起光のパワーに対する、(2)MMF11から出力されるレーザ光のパワーの割合で表すことができる。
【0064】
上述したように、LP01は、コアの中心近傍に集中して分布している。したがって、LP01の増幅に寄与できる希土類イオンは、励起光によって励起された希土類イオンのうちコアの中心近傍に分布している希土類イオンである。したがって、増幅効率を高める観点では、コアの中心近傍に分布する希土類イオンを選択的に励起することが好ましい。
【0065】
しかしながら、例えばMMF11のコアとしてダブルクラッドを採用した場合、コアの中心近傍に分布する希土類イオンを選択的に励起することは困難である。実際のMMF11において、励起光は、コア内に添加された希土類イオンをその分布する位置に関わらず励起する。したがって、MMF11及びデリバリファイバ15を伝搬するモードとしてLP01のみを選択した場合、コアの外周部近傍に分布する希土類イオンは、LP01の増幅に寄与することができない。すなわち、コアの外周部近傍に分布する希土類イオンを励起するために用いられた励起光のパワーが無駄に散逸するため、結果として増幅効率を高めることができない。
【0066】
図4は、励起光及び種光が供給された状態のMMF11の内部における励起準位密度の分布を示す。横軸の原点がコアの中心を示し、横軸の13.5μmの位置がコアとクラッドとの境界を示す。また、
図5は、コアの内部に存在する励起準位の総和と、コアの内部を伝搬するモード数(以下、伝搬モード数)との相関関係を表す。励起準位の総和は、換言すれば、励起されたままの希土類イオンの数の総和である。
【0067】
図4において、励起準位密度が高くなるほど光の増幅に寄与できていない希土類イオンが多く残存していること、すなわち、増幅効率が低いことを示す。
図4に示す通り、MMF11を伝搬するモードがLP01のみの場合、コアの中心近傍(半径5μm以下の領域)を除いて励起準位密度が高く、励起光のパワーを無駄にしていることが分かる。
【0068】
図5においても同様に、伝搬モード数がLP01のみの場合、コアの内部に励起されたままの希土類イオンが多く残存していることが分かる。
【0069】
そこで、MMF11を伝搬するモードの増幅効率を高めるために、本実施形態では、MMF11を伝搬するモードとして、基本モードであるLP01と、高次モードであるLP11、LP21、及びLP02とを採用する。
【0070】
図3に示すように、LP11及びLP21の各モードは、コアの中心に極小を有し、規格化コア半径が0.5以上0.75以下の領域に極大を有する。このようにコアの中心近傍を除いた領域に極大を有するモードを伝搬させることによって、コアの中心近傍を除いた領域に分布する希土類イオンも光の増幅に寄与できるようになる。具体的には、MMF11内をLP11及びLP21の各モードを伝搬させることによって、
図4に示すように、コアの中心を除いたほぼ全域において増幅効率を高めることができる。
【0071】
また、LP02は、コアの中心に極大を有するとともに、コアとクラッドとの境界近傍に小さいとはいえ更なる極大を有する。MMF11内を、LP11及びLP21に加えてLP20を伝搬させることによって、
図4に示すように、コアの外周部近傍(半径8μm以上の領域)における増幅効率を更に高めることができる。
【0072】
図5に示すように、伝搬モード数が1から増加するにしたがって、コアの内部に残存する励起されたままの希土類イオンの数が明らかに単調減少することが分かる。すなわち、増幅効率を高めることができる。
【0073】
ただし、伝搬モード数が大きくなるにしたがって、コアの内部に残存する励起されたままの希土類イオンの数は、一定の値に漸近するような振る舞いを見せる。すなわち、伝搬モード数を大きくしすぎても増幅効率はやがて頭打ちになる。また、伝搬モード数を5以上にする場合、LP31及びLP12といった高次モードを採用することになる。LP31及びLP12といった高次モードは、コアの内部のみならずクラッドにまで強く分布している。このことは、ビーム品質を高めるという観点からも好ましくない。
【0074】
以上のことから、本実施形態では、出射光のビーム品質を維持しつつ希土類イオンによる増幅効率を高めるために、MMF11の内部を伝搬するモードとして、LP01に加えて、LP11、LP21、及びLP02を採用する。すなわち、本実施形態のMMF11は、LP01、LP11、LP21、及びLP02の4つのモードを伝搬するように構成されている。これらの4つのモード伝搬するMMF11の構成を以下に説明する。
【0075】
(MMF11の構成)
本実施形態のMMF11は、上述したようにステップインデックス型の光ファイバであって、そのコアに励起物質として働く希土類イオンが添加された光ファイバである。そのうえで、MMF11のコア半径a、コアの屈折率n
co、クラッドの外径、及びクラッドの屈折率n
clに代表される各パラメータは、MMF11の規格化周波数Vが3.83以上となるように定められている。したがって、1つの方向に沿って直線状にMMF11を配置した場合、MMF11は、少なくともLP01、LP11、LP21、及びLP02の4つのモードを伝搬する。換言すれば、MMF11は、直線状に配置された場合、これらの4つのモードに加えてLP31やLP12などの高次モードを伝搬するように構成されていてもよい。
【0076】
図1に示すように、MMF11は、その一部区間を屈曲することにより構成されたフィルタ部111と、フィルタ部111以外の余剰な区間をコイル状に丸めて束ねた余剰部112とを備えている。なお、MMF11においてフィルタ部111が設けられている一部区間は、MMF11の一部を構成する区間であればよい。具体的には、MMFの一部区間は、(1)
図1に示すように、MMF11の入射端部の近傍を含み、MMF11の出射端部の近傍を含まない区間であってもよいし、(2)MMF11の出射端部の近傍を含み、MMF11の入射端部の近傍を含まない区間であってもよいし、(3)MMF11の入射端部の近傍及び出射端部の近傍を含まない区間であってもよい。
【0077】
本実施形態において、フィルタ部111は、MMF11の一部区間をおよそ円形に複数回(本実施形態では
図1に示すように3回)巻くことによって構成されている。すなわち、フィルタ部111は、MMF11の一部区間をコイル状に丸めて束ねたものである。なお、MMF11の一部区間を円形に巻く回数は、1回であってもよいし、複数回であってもよく、任意の回数に設定することができる。本願明細書において、MMF11の一部区間を円形に1回巻いた状態をループ状と称し、MMF11の一部区間を円形に複数回巻いた状態をコイル状と称する。また、フィルタ部111においてMMF11の一部区間を屈曲する形状(以下、フィルタ部111の形状)は、円形に限定されるものではなく、円形の一部(例えば半円)を構成する中心角が360°未満である弧であってもよい。
【0078】
本実施形態のフィルタ部111において、その形状が円形であるため、その直径は、当該円形の直径により定義される。本実施形態のフィルタ部111において、その直径R1は、フィルタ部111の全区間を通じて一定に構成されている。したがって、フィルタ部111の最小直径及び最大直径は、何れも直径R1である。最小直径及び最大直径の各々は、それぞれ、複数回巻かれたコイル状のフィルタ部111における最小の直径及び最大の直径を意味する。この直径R1は、LP01、LP11、LP21、及びLP02のみが伝搬するように、且つ、LP02の損失が0.1dB/m以下となるように定められている。なお、フィルタ部111の形状が弧である場合であってもフィルタ部111の直径は、次のように定義できる。すなわち、弧を構成する曲線の曲率に対応した仮想的な円を仮定し、その仮想的な円の直径を弧の直径とすればよい。また、弧の曲率(弧の半径の逆数)が一定でない場合には、(1)弧を構成する微小区間の各々のうち最も曲率が大きい微小区間を選択し、(2)選択した微小区間に対応した仮想的な円の直径をフィルタ部111の最小直径とすればよい。
【0079】
この構成によれば、MMF11がLP01に加えてLP11、LP21、及びLP02を伝搬することによって、MMF11の増幅効率を高めることができる。また、LP31やLP12などのクラッドに強く浸み出して伝搬する高次モードを伝搬させないため、LP01のみを伝搬させる場合と比較してもいたずらにビーム品質を低下させることがない。したがって、MMF11は、出射光のビーム品質を維持しつつ希土類イオンによる増幅効率を高めることができる。すなわち、出射光のビーム品質と増幅効率とを両立できる。また、LP02の曲げ損失(請求の範囲に記載の損失)が0.1dB/m以下であることによって、LP01、LP11、及びLP21の曲げ損失も0.1dB/m以下となる(詳しくは
図6を参照して後述する)。したがって、MMF11は、フィルタ部111を設けたことにより生じ得る曲げ損失の増大を防止することができる。
【0080】
なお、フィルタ部111の形状が円形である場合と、弧である場合とを比較した場合、円形である場合のほうが、所定のスペース内にフィルタ部111を配置した場合に、フィルタ部111の長さを稼ぐことができる。そのため、フィルタ部111の最小直径を必要以上に小さくしなくて済む。結果として、LP01、LP11、LP21、及びLP02の曲げ損失を弧である場合より低減することができる。また、同様の理由から、形状が円形であるフィルタ部111において、コイル状のフィルタ部111の巻き数が少ない場合と多い場合とを比較した場合、巻き数が多い場合の方がフィルタ部111の長さを稼ぐことができる。したがって、巻き数が多い場合の方が曲げ損失をより低減することができ、且つ、ビーム品質をより向上させることができる。
【0081】
また、上述したように、直径R1は、LP01、LP11、LP21、及びLP02のみが伝搬するように、且つ、LP02の損失が0.1dB/m以下となるように定められている。この条件を満たす範囲内で直径R1が大きい場合と小さい場合とを比較した場合、小さくすればするほど、LP01、LP11、LP21、及びLP02のなかでLP01が占める割合が高くなる。その結果、出射光のビーム品質を更に高めることができる反面、増幅効率が低下する。したがって、直径R1は、上記の条件を満たす範囲内において、ビーム品質及び増幅効率の何れを重視するのかに応じて、適宜定めることができる。
【0082】
なお、LP02、LP01、LP11、及びLP21の曲げ損失が0.1dB/m以下と小さいことは、コアからクラッドに漏れ出すLP02、LP01、LP11、及びLP21が少ないことを意味する。したがって、この構成によれば、出射光の損失を抑制することができる、すなわち、出射光の高出力化を図ることができる。
【0083】
また、コアからクラッドに漏れ出した各モードは、クラッド内を伝搬し、接続点P11などの融着点において反射され、戻り光としてLD121〜126に入射することがある。LD121〜126に入射する戻り光の光量が多くなりすぎた場合、LD121〜126の動作を不安定にする、あるいは、LD121〜126の信頼性を低下させるなどの好ましくない影響をLD121〜126に与えることがある。LP02、LP01、LP11、及びLP21の曲げ損失が0.1dB/m以下と小さいことによって、コアからクラッドに漏れ出すLP02、LP01、LP11、及びLP21を抑制し、結果として、LD121〜126が上述した好ましくない影響を受けることを避けることができる。
【0084】
LP02、LP01、LP11、及びLP21の曲げ損失が大きいということは、出射光を構成するLP02、LP01、LP11、及びLP21の各モードがコアからクラッドへ漏洩することを意味し、出射光の損失が増大することを意味する。また、コアからクラッドへ漏洩したLP02、LP01、LP11、及びLP21の各モードは、クラッドを伝搬し、やがてLD121〜126に達し、LD121〜126に好ましくない影響を与え得る。LP02、LP01、LP11、及びLP21の曲げ損失が0.1dB/m以下であることにより、出射光の損失を抑制し、且つ、LD121〜126に与え得る好ましくない影響を軽減できる。
【0085】
出射光のビーム品質を高めるために、増幅用のファイバとしてコア径が小さい光ファイバ(例えばシングルモードファイバ(SMF))を採用することも考えられる。しかし、このような構成を採用した場合、ビーム品質を高めることはできるものの、増幅効率を高めることが難しい。これは、SMFのコアを伝搬する基本モードがコアの中心近傍に強く分布していることに起因する。基本モードがコアの中心近傍に強く分布していることによって、SMFに入射した励起光のパワーうち、励起用光ファイバのコアの外周部近傍に位置する希土類イオンを励起した励起光のパワーは、信号光の増幅に寄与することができず、無駄に散逸する。
【0086】
ここで、MMF11は、規格化周波数Vが3.83以上となるように構成されたMMFであるため、SMFと比較した場合、大きなコア径を有する。MMF11がSMFと比較して大きなコア径を有することによって、MMF11は、基本モードであるLP01に加えて所定の高次モード(LP11、LP21、及びLP02)を導波することができる。そのため、当該高次モードが励振されやすくなり、コアの中心部近傍に位置するYb
3+イオンのみならず外周部近傍に位置するYb
3+イオンも出射光の増幅に寄与しやすくなる。したがって、MMF11に入射された励起光のパワーのうちコアの外縁近傍に分布するYb
3+イオンを励起するために使われた励起光のパワーが無駄に散逸することを抑制できる。したがって、MMF11は、出射光のビーム品質と増幅効率とを両立できる。
【0087】
また、MMF11の一部区間をコイル状に巻くことによりフィルタ部111を構成することによって、フィルタ部111の大きさを変えることなく、フィルタ部111を構成する区間の長さを任意に設定することができる。また、この構成によれば、光増幅器10が長さの長いMMF11を採用している場合であっても、MMF11をコンパクトに収納することができる。したがって、コンパクトな光増幅器10及びコンパクトなファイバレーザ1を実現することができる。
【0088】
また、
図1に示すように、フィルタ部111は、余剰部112の前段に配置されていることが好ましい。すなわち、MMF11の両端部のうち種光が入射される側の端部(接続点P11側の端部)を入射端部として、フィルタ部111は、入射端部の近傍を含む一部区間をコイル状に巻くことにより構成されている、ことが好ましい。
【0089】
この構成によれば、MMF11に供給された種光が含む高次モードのうちLP11、LP21、及びLP02以外の高次モードを、MMF11のうち接続点P11に比較的近い区間において除去することができる。したがって、余剰部112において、励起された状態の希土類イオンは、LP01、LP11、LP21、及びLP02の4つのモードのみを増幅する。したがって、LP31やLP12などの高次モードを増幅することを防止できるので、増幅効率を更に高めることができる。
【0090】
〔MMF11の変形例〕
本実施形態では、LP01、LP11、LP21、及びLP02のみが伝搬するように、且つ、LP02の損失が0.1dB/m以下となるように直径R1を定めている。しかし、ビーム品質と増幅効率とを両立させつつも、ビーム品質を増幅効率よりも重視したい場合には、LP01及びLP11のみが伝搬するように、且つ、LP11の損失が0.1dB/m以下となるように直径R1を定めてもよい。なお、この場合には、MMF11は、規格化周波数Vが2.40以上となるように構成されていればよい。
【0091】
なお、本変形例は、本実施形態に係るMMF11のみならず、第2の実施形態に係るMMF21及び第3の実施形態に係るMMF51の何れにも適用可能である。
【0092】
(後方励起型が自然放出増幅光を抑制できる理由)
なお、光増幅器10を採用する後方励起型の構成は、前方励起型の構成と比較して、自然放出増幅光の発生を抑制することができることを記載した。その理由は、以下の通りである。
【0093】
後方励起型の構成を採用した場合、
図1に示すように、信号光は、MMF11に対して接続点P11から入射され、励起光は、MMF11に対して接続点P12から入射される。MMF11が延伸されている方向に沿ってみた場合、すなわち、接続点P11から接続点P12に向かう方向、あるいは、接続点P12から接続点P11に向かう方向に沿ってみた場合、励起光のパワーは、接続点P12において最も高く、接続点P12から遠ざかるにしたがって減衰し、接続点P11において最も低くなるように分布する。これは、接続点P12から接続点P11に向かってMMF11内を伝搬するためである。ここで、励起光のエネルギーは、Yb
3+イオンに吸収される。その結果、Yb
3+イオンに蓄積させるエネルギーは、接続点P12において最も高く、接続点P12から遠ざかるにしたがって減衰し、接続点P11において最も低くなるように分布する。
【0094】
一方、MMF11が延伸されている方向に沿ってみた場合、信号光のパワーは、接続点P11において最も低く、接続点P11から遠ざかるにしたがって増幅され、接続点P12において最も高くなるように分布する。接続点P11から接続点P12に向かってMMF11内を伝搬するにしたがって、信号光のパワーは、Yb
3+イオンに蓄積されたエネルギーによって増幅されるためである。
【0095】
以上のように、MMF11が延伸されている方向に沿ってみた場合、Yb
3+イオンに蓄積させるエネルギーの分布と、信号光のパワーの分布とは、同じ傾向を有する。したがって、後方励起型の構成において、Yb
3+イオンに残存するエネルギーは、MMF11が延伸されている方向に沿ってみた場合、均一になる傾向がある。すなわち、Yb
3+イオンに残存するエネルギーが局所的に高くなることを抑制することができるため、自然放出増幅光の発生を抑制することができる。
【0096】
一方、前方励起型の構成を採用した場合、信号光及び励起光は、MMF11に対して、何れも同じ接続点から入射される。
図1に示した光増幅器10が前方励起型の構成を採用していたと仮定した場合、信号光及び励起光の大部分は、接続点P11からMMF11に入射される。したがって、励起光のパワーは、接続点P11において最も高く、接続点P11から遠ざかるにしたがって減衰し、接続点P12において最も低くなるように分布する。その結果、Yb
3+イオンに蓄積させるエネルギーは、接続点P11において最も高く、接続点P11から遠ざかるにしたがって減衰し、接続点P12において最も低くなるように分布する。
【0097】
一方、信号光のパワーは、接続点P11において最も低く、接続点P11から遠ざかるにしたがって増幅され、接続点P12において最も高くなるように分布する。
【0098】
以上のように、MMF11が延伸されている方向に沿ってみた場合、Yb
3+イオンに蓄積させるエネルギーの分布と、信号光のパワーの分布とは、逆の傾向を有する。したがって、前方励起型の構成において、Yb
3+イオンに残存するエネルギーは、接続点P11において最も高く、接続点P11から遠ざかるほど低くなる。その結果、接続点P11の近傍において自然放出増幅光の発生が大きくなる。
【0099】
〔第1の実施例〕
本発明の第1の実施例であるMMF11について
図6を参照して説明する。
図6は、本実施例のMMF11の曲げ直径を変化させることによって得られた、伝搬する各モードの曲げ損失を示すグラフである。
【0100】
本実施例では、MMF11のコア半径aとして13.5μmを採用し、コアの屈折率n
coとして1.451を採用し、クラッドの外径として250μmを採用し、クラッドの屈折率n
clとして1.449を採用した。したがって、MMF11の規格化周波数Vは、5.98である。
【0101】
また、MMF11の全長として10mを採用し、フィルタ部111の長さとして1mを採用した。
【0102】
図6に示す曲げ損失は、このように構成されたMMF11を用いて計算した。
図6に基づけば、フィルタ部111の直径R1を174mm以上264mm未満に設定することによって、MMF11の内部をLP01、LP11、LP21、及びLP02のみが伝搬するように、且つ、LP02の曲げ損失が0.1dB/m以下となるようにMMF11を構成することができる。
【0103】
また、
図6に基づけば、フィルタ部111の直径R1を79mm以上102mm未満に設定することによって、MMF11の内部をLP01及びLP11のみが伝搬するように、且つ、LP11の曲げ損失が0.1dB/m以下となるようにMMF11を構成することができる。
【0104】
なお、本実施形態ではMOPA(Master Oscillator - Power Amplifier)型のファイバレーザ1を用いてMMF11について説明した。しかし、MMF11を適用するファイバレーザは、MOPA型に限定されるものではなく、共振器型のファイバレーザであってもよい。
【0105】
〔第2の実施例〕
本発明の第2の実施例であるMMF11について
図7を参照して説明する。
図7は、本実施例のMMF11の曲げ直径を変化させることによって得られた、伝搬する各モードの曲げ損失を示すグラフである。
【0106】
本実施例では、MMF11のコア半径aとして12.5μmを採用し、コアの屈折率n
coとして1.451を採用し、クラッドの外径として250μmを採用し、クラッドの屈折率n
clとして1.449を採用した。したがって、MMF11の規格化周波数Vは、5.12である。
【0107】
また、MMF11の全長として10mを採用し、フィルタ部111の長さとして1mを採用した。
【0108】
図7に示す曲げ損失は、このように構成されたMMF11を用いて計算した。
図7に基づけば、フィルタ部111の直径R1を111mm以上192mm未満に設定することによって、MMF11の内部をLP01及びLP11のみが伝搬するように、且つ、LP11の曲げ損失が0.1dB/m以下となるようにMMF11を構成することができる。
【0109】
〔第2の実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係るマルチモードファイバ(Multi-Mode Fiber:MMF)について、
図8を参照して説明する。
図8は、本実施形態に係るMMF21を備えた種光光源20の構成を示すブロック図である。
【0110】
種光光源20は、第1の実施形態において説明したファイバレーザ1の一部を構成し、光増幅器10に対して種光を供給する。なお、種光光源20は、請求の範囲に記載の光増幅器の一態様である。
【0111】
図8に示すように、種光光源20は、MMF21と、励起光源群22と、光ファイバ群23と、コンバイナ24と、ファイバグレーティング(Fiber Bragg Grating:FBG)25,26と、光ファイバ27とを備えている。励起光源群22は、複数の励起光源であるLD(レーザダイオード)221〜227からなる。光ファイバ群23は、複数の光ファイバ231〜237からなる。
【0112】
MMF21は、MMF11と同様に、コアとクラッドとを備えたステップインデックス型の光ファイバであって、そのコアに励起物質として働く希土類イオン(本実施形態では、YB
3+イオン)が添加された光ファイバである。MMF21は、基本モードであるLP01に加えて少なくとも1つの高次モードを伝搬することができるマルチモードファイバである。MMF21の一方の端部は、接続点P22においてコンバイナ24の他方の端部に融着されている。MMF21の一方の端部のことを入射端部と称し、MMF21の他方の端部のことを出射端部と称する。
【0113】
MMF21の出射端部は、接続点P23において、光ファイバ27の一方の端部に融着されている。光ファイバの27の他方の端部は、
図1に示すように、接続点P11において光増幅器10に融着されている。
【0114】
光ファイバ231の一方の端部は、LD221と光学的に結合されており、光ファイバ231の他方の端部は、接続点P21においてコンバイナ24の一方の端部に融着されている。同様に、光ファイバ232〜237の各々の一方の端部は、それぞれ、LD222〜227の各々と光学的に結合されている。また、光ファイバ232〜237の各々の他方の端部は、何れも、接続点P21においてコンバイナ24の一方の端部に融着されている。このように、種光光源20は、前方励起型の配置を採用している。ただし、本発明の一態様に係る種光光源は、前方励起型の配置に限定されるものではなく、後方励起型であってもよいし、双方向励起型であってもよい。
【0115】
このように構成された種光光源20において、LD221〜227が出射する励起光は、光ファイバ231〜237及びコンバイナ24を介してMMF21の入射端部に供給される。MMF21に供給された励起光は、MMF11の場合と同様にコアに添加された多数の希土類イオンを励起する。
【0116】
励起状態に遷移した希土類イオンの電子は、やがて発光再結合する。いずれかの希土類イオンの発光再結合をトリガーとして、MMF21の内部では誘導放出が発生する。
【0117】
MMF21の接続点P22とフィルタ部211との間には、FBG25が設けられている。同様に、MMF21の接続点P23とフィルタ部211との間には、FBG26が設けられている。そのため、FBG25とFBG26とにより挟まれたMMF21は、共振器として働く。その結果、MMF21は、その出射端部からレーザ光である種光を出射する。
【0118】
本実施形態において、MMF21は、MMF11の場合と同様に規格化周波数Vが3.83以上となるように定められている。MMF21は、MMF21の一部区間を屈曲することにより構成されたフィルタ部211を備えている点においてMMF11と同じである。ただし、MMF21のフィルタ部211は、MMF21の入射端部の近傍からMMF21の出射端部の近傍までの区間である中央区間をコイル状に巻くことにより構成されている点が、MMF11のフィルタ部111と異なる(
図8参照)。なお、MMF21においてフィルタ部211が設けられている中央区間は、
図8に示すように、MMF21の一方の端部である入射端部の近傍から、MMF21の他方の端部である出射端部の近傍までの区間である。中央区間は、(1)MMF21のうち入射端部及び出射端部を含まない区間とも表現できるし、(2)
図8に示すように、MMF21のうち、FBG25のFBG26側の端部からFBG26のFBG25側の端部までの区間とも表現できる。この中央区間は、MMF21の一部を構成する一部区間を入射端部及び出射端部に向かって拡張し、入射端部の近傍及び出射端部の近傍を含むように構成することによって得られる。したがって、MMF21における中央区間の長さは、MMFにおける一部区間の長さと比較して長い。すなわち、空間的には、中央区間は、一部区間を包含する。一方、概念的には、中央区間は、一部区間に包含される。中央区間と一部区間とにおける空間的な包含関係及び概念的な包含関係は、
図1に記載のMMF11及び
図9に記載のMMF51においても同様である。
【0119】
フィルタ部211において、その直径R211は、一定に構成されている。したがって、フィルタ部211の最小直径及び最大直径は、何れも直径R211である。この直径R211は、LP01、LP11、LP21、及びLP02のみが伝搬するように、且つ、LP02の損失が0.1dB/m以下となるように定められている。
【0120】
本実施形態のMMF21は、
図1に示したMMF11と同様に、出射光のビーム品質を維持しつつ希土類イオンによる増幅効率を高めることができる。また、中間区間を全てコイル状に巻くことにより、余剰部112を備えていたMMF11と比較して、更にコンパクト化することができる。
【0121】
〔第3の実施形態〕
本発明の第3の実施形態に係るマルチモードファイバ(Multi-Mode Fiber:MMF)について、
図9を参照して説明する。
図9は、本実施形態に係るMMF51を備えた光増幅器50の構成を示すブロック図である。
【0122】
光増幅器50は、
図1に示した光増幅器10が備えているMMF11をMMF51に置換することにより得られる。すなわち、MMF51を除いて光増幅器50は、光増幅器10と同様に構成されている。
【0123】
具体的には、
図9に示すように、光増幅器50は、MMF51と、励起光源群52と、光ファイバ群53と、コンバイナ54と、デリバリファイバ55とを備えている。励起光源群52は、複数の励起光源であるLD(レーザダイオード)521〜526からなる。光ファイバ群53は、複数の光ファイバ531〜536からなる。
【0124】
光増幅器50が備えている励起光源群52、光ファイバ群53、コンバイナ54、及びデリバリファイバ55の各々は、光増幅器10が備えている励起光源群12、光ファイバ群13、コンバイナ14、及びデリバリファイバ15の各々に対応する。よって、本実施形態では、MMF51についてのみ説明する。
【0125】
MMF51は、
図8に示したMMF21からFBG25,26を省略することによって得られる。すなわち、MMF51は、コアとクラッドとを備えたステップインデックス型の光ファイバであって、そのコアに励起物質として働く希土類イオン(本実施形態では、YB
3+イオン)が添加された光ファイバである。
【0126】
MMF51は、MMF11,21の場合と同様に規格化周波数Vが3.83以上となるように定められている。MMF51は、その一方の端部である入射端部(接続点P52側の端部)の近傍から他方の端部である出射端部(接続点P53側の端部)の近傍までの区間である中央区間を屈曲することにより構成されたフィルタ部511を備えている。フィルタ部511において、その直径R511は、一定に構成されている。したがって、フィルタ部511の最小直径及び最大直径は、何れも直径R511である。この直径R511は、LP01、LP11、LP21、及びLP02のみが伝搬するように、且つ、LP02の損失が0.1dB/m以下となるように定められている。
【0127】
本実施形態のMMF51は、
図1に示したMMF11と同様に、出射光のビーム品質を維持しつつ希土類イオンによる増幅効率を高めることができる。また、中間区間を全てコイル状に巻くことにより、余剰部112を備えていたMMF11と比較して、更にコンパクト化することができる。
【0128】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。