(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6663465
(24)【登録日】2020年2月18日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】自動周波数制御回路用の圧電素子、それを備えた機械振動系および装置
(51)【国際特許分類】
G04C 3/04 20060101AFI20200227BHJP
G04B 17/00 20060101ALI20200227BHJP
G04B 17/06 20060101ALI20200227BHJP
H03H 9/17 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
G04C3/04 B
G04B17/00 B
G04B17/06 Z
H03H9/17 H
【請求項の数】16
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-166632(P2018-166632)
(22)【出願日】2018年9月6日
(65)【公開番号】特開2019-53055(P2019-53055A)
(43)【公開日】2019年4月4日
【審査請求日】2018年9月6日
(31)【優先権主張番号】17191147.2
(32)【優先日】2017年9月14日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドル・ヘンメリ
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ・ゲイシャ
(72)【発明者】
【氏名】リオネル・トンベ
(72)【発明者】
【氏名】ベルンハルト・シュナイダー
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィオ・ダラ ピアッツァ
【審査官】
細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−228774(JP,A)
【文献】
特開2013−096991(JP,A)
【文献】
特開昭48−071586(JP,A)
【文献】
特開2011−259426(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2011−0135341(KR,A)
【文献】
中国特許出願公開第101546965(CN,A)
【文献】
国際公開第2014/203085(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04C 3/04, 3/12
G04B 17/00,17/06
H03H 9/17, 9/19
H03H 3/02
H01L 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動周波数制御回路(10)用の圧電素子(3)であって、
圧電結晶ストリップで形成されたテンプバネ(7)と、
前記自動周波数制御回路(10)に接続されるために、前記圧電結晶ストリップの「上側」である上面に配置された第1の電極(8a)と、
前記自動周波数制御回路(10)に接続されるために、前記圧電結晶ストリップのテン輪回転軸のほうに向いている内側またはそれと逆側の外側に配置された第2の電極(8b)と、を備える、圧電素子において、
前記第1と第2の電極(8a,8b)は、前記テンプバネ(7)の一部において、60°に略等しい角度にわたって配置されていることと、
を特徴とする圧電素子(3)。
【請求項2】
前記第1の電極(8a)は、前記上面に形成された溝(16a)内に配置されている、
ことを特徴とする、請求項1に記載の圧電素子(3)。
【請求項3】
自動周波数制御回路(10)用の圧電素子(3)であって、
圧電材料のストリップで形成されたテンプバネ(7)と、
前記自動周波数制御回路(10)に接続されるために、前記圧電材料のストリップの少なくとも第1の側に配置された第1の電極(8a)と、
前記自動周波数制御回路(10)に接続されるために、前記圧電材料のストリップの少なくとも第2の側に配置された第2の電極(8b)と、を備える、圧電素子において、
前記圧電材料は、圧電結晶または圧電セラミックであることと、
前記第1の電極(8a)は、前記圧電材料のストリップの前記第1の側に配置された第1の部分(18a;30a)と、前記圧電材料のストリップの前記第1の側とは異なる少なくとも1つの側に配置された第2の部分(18b;30b)と、を有することと、
前記第2の電極(8b)は、前記圧電材料のストリップの前記第2の側に配置された第1の部分(20a;32a)と、前記圧電材料のストリップの前記第2の側とは異なる少なくとも1つの側に配置された第2の部分(20b;32b)と、を有することと、
前記第1の電極(8a)と前記第2の電極(8b)のそれぞれの前記第1と第2の部分は、交互に、接合領域(22,24;38,40)において互いに接続されていることと、
前記接合領域(22,24;38,40)は、前記テンプバネ(7)において所定の角度周期で分布していることと、
を特徴とする圧電素子(3)。
【請求項4】
前記第1の電極(8a)の前記第2の部分(18b)および前記第2の電極(8b)の前記第2の部分(20b)は、前記圧電材料のストリップの第3の側に配置されていることと、
前記第1と第2の電極(8a,8b)の前記第2の部分(18b,20b)は、前記圧電材料のストリップの前記第3の側において、前記所定の角度周期で、交互に相次いで連なって延在していることと、を特徴とする、請求項3に記載の圧電素子(3)。
【請求項5】
さらに、第3の電極(8c)および第4の電極(8d)を備え、前記第3の電極(8c)は、前記自動周波数制御回路(10)に接続されるための第1の接続端子(26)において前記第1の電極(8a)に接続されているとともに、前記第3の電極(8c)は、前記圧電材料のストリップの第3の側に配置された第1の部分(34a)と、前記圧電材料のストリップの前記第3の側とは異なる少なくとも1つの側に配置された第2の部分と、を有し、前記第4の電極(8d)は、前記自動周波数制御回路(10)に接続されるための第2の接続端子(28)において前記第2の電極(8b)に接続されているとともに、前記第4の電極(8d)は、前記圧電材料のストリップの第4の側に配置された第1の部分(36a)と、前記圧電材料のストリップの前記第4の側とは異なる少なくとも1つの側に配置された第2の部分と、を有し、前記第3の電極(8c)と前記第4の電極(8d)のそれぞれの前記第1と第2の部分は、交互に、接合領域(42,44)において互いに接続されている、ことと、
前記接合領域(42,44)は、前記テンプバネ(7)において所定の角度周期で分布していることと、
を特徴とする、請求項3に記載の圧電素子。
【請求項6】
前記第1〜4の電極のそれぞれの電極の第2の部分は、他の電極の第2の部分と異なる側に延在していることと、
前記第1〜4の電極(8a〜8d)は、前記圧電材料のストリップの各側において、所定のサブ角度周期で、交互に相次いで連なって延在していることと、
を特徴とする、請求項5に記載の圧電素子(3)。
【請求項7】
前記それぞれの電極は、前記テンプバネの全長にわたって配置されていることを特徴とする、請求項4〜6のいずれかに記載の圧電素子(3)。
【請求項8】
前記圧電結晶は単結晶であることを特徴とする、請求項3〜7のいずれかに記載の圧電素子(3)。
【請求項9】
前記圧電結晶は、トパーズ、ベルリナイト、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、リン酸ガリウム、ヒ酸ガリウム、ケイ酸アルミニウム、二酸化ゲルマニウム、トルマリン単結晶、閃亜鉛鉱型構造のIII−V族半導体の単結晶、またはウルツ鉱型構造のII−VI族半導体の単結晶、からなる群から選択された単結晶であることを特徴とする、請求項8に記載の圧電素子(3)。
【請求項10】
前記圧電結晶は水晶単結晶であることを特徴とする、請求項8に記載の圧電素子(3)。
【請求項11】
前記テンプバネ(7)は、Zカット水晶単結晶に加工されることを特徴とする、請求項10に記載の圧電素子(3)。
【請求項12】
前記所定の角度周期、または所定のサブ角度周期は、60°に略等しいことを特徴とする、請求項3に従属する場合の請求項10または11に記載の圧電素子(3)。
【請求項13】
自動周波数制御回路(10)用の機械振動系であって、テン輪(2)と、テンプバネ(7)を備えた圧電素子(3)と、を有し、前記テンプバネ(7)は、前記テン輪(2)に装着されている、機械振動系において、
前記圧電素子(3)は、請求項3〜12のいずれかに記載のものであることを特徴とする、機械振動系。
【請求項14】
請求項13に記載の機械振動系と、前記機械振動系の振動周波数の自動制御のための前記自動周波数制御回路(10)と、を含む装置(1)であって、前記自動周波数制御回路(10)は、基準信号(VR)を供給することが可能な振動子段(55)と、2つの信号の周波数を比較するための周波数比較手段(52,53,54,57)と、前記機械振動系の前記圧電素子(3)に接続されているとともに、周波数適応信号(VA)を供給することが可能な周波数適応ユニット(58)と、を有する、装置において、
前記機械振動系の前記圧電素子(3)は、前記機械振動系に一致した周波数で交流電圧
(VP)を発生することが可能であり、前記圧電素子の前記第1と第2の電極(8a,8b)は、前記周波数比較手段における前記交流電圧(VP)と前記基準信号(VR)との間の周波数比較の結果に基づく前記周波数適応信号(VA)を前記周波数適応ユニット(58)から受け取るために、前記自動周波数制御回路(10)に接続されている、ことを特徴とする装置。
【請求項15】
前記機械振動系のための前記自動周波数制御回路(10)は、前記圧電素子(3)で発生する前記交流電圧(VP)を整流するとともに、前記整流した電圧を、該自動周波数制御回路への給電用として少なくとも1つのコンデンサ(Cc)に蓄えるために、整流器(51)をさらに有することを特徴とする、請求項14に記載の装置(1)。
【請求項16】
前記自動周波数制御回路(10)の前記振動子段(55)は、振動信号を供給するために、MEMS振動子(56)に接続された振動回路を含み、これにより前記振動子段(55)は、前記基準信号(VR)を供給し、前記自動周波数制御回路のすべての電子部品は、1つにまとめられて単一の電子モジュールを形成している、ことを特徴とする、請求項14または15に記載の装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動周波数制御回路用の圧電素子に関するものである。
【0002】
本発明は、さらに、圧電素子とテン輪とを有する機械振動系に関する。
【0003】
本発明は、さらに、機械振動系と、その機械振動系の振動周波数の自動制御のための回路と、を含む装置に関する。
【背景技術】
【0004】
圧電素子は、例えば、振動子を時間基準として使用するため、または質量センサ、力センサ、ジャイロセンサ、およびその他多くの用途で、電気機械システムの分野で一般的に使用される。
【0005】
特に機械式または電気機械式時計の時計製作分野では、圧電素子を有する機械振動系を提供することが知られている。機械振動系は、典型的には、テンプバネが装着されたテン輪を備えるものであってよく、テンプバネの一端は、回転するテン真に固定され、テンプバネの他端は、受け板の固定要素に固定される。機械系の振動は、一般的には機械的なものである動力源によって維持される。この動力源は、例えば、アンクルと協働するガンギ車と共に輪列を駆動する香箱であり得る。この回転するアンクルは、例えば、回転するテン真に近接して固定された振り石を動かす。このように、テンプバネ付きテン輪(テンプ)は、時計ムーブメントの調速機を形成し得る。この振動調速機は、時刻表示針につながるガンギ車と共に輪列の駆動速度を決める。圧電素子は、テンプバネを含んでよく、これに対して、例えばバネの内面および外面に、(PZT系)圧電材料の膜を堆積させることが知られている。これに関連して、特許文献1または特許文献2を挙げることができる。しかしながら、このようにテンプバネの全長にわたって圧電膜を堆積させることは、このバネの製造にコストのかかる余分な工程を導入することになり、これが欠点となる。
【0006】
これら2つの特許文献では、テン輪と圧電テンプバネとの組み合わせの振動周波数の制御は、自動周波数制御回路によって実現される。この電子回路は、圧電素子が発生させる交流電圧を整流してコンデンサに蓄えることで、これにより直接給電されてよい。振動周波数を制御するために、振動子段によって供給される基準周波数の信号と、発電機からの交流信号との比較を行う。この比較に基づいて、周波数適応信号を生成し、これが圧電素子に印加されると、機械振動系の振動を制動または加速するように、素子において圧縮力または伸張力を発生させることが可能となる。
【0007】
圧電素子を備えた機械振動系と、その機械振動系の振動周波数の自動制御のための回路と、を含む装置の他の例は、特許文献3で提供されている。この装置の特定の例示的な実施形態によれば、圧電素子は、圧電材料のストリップで形成されたテンプバネと、そのバネの内側に配置された第1の電極と、バネの外側に配置された第2の電極と、を含む。それらの電極は、自動周波数制御回路に接続されている。ところが、この提案の圧電素子の欠点の1つは、系の設計をかなり複雑にしなければ、素子の圧電効果を正確かつ最適に利用できないことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−228774号公報
【特許文献2】欧州特許出願公開第2590035号明細書
【特許文献3】国際公開第2011/131784号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、単純に実現できるとともに、機械振動系の振動周波数の正確な制御のために圧電効果を正確かつ最適に利用できる、自動周波数制御回路用の圧電素子を提供することであり、そして、現状技術の上記欠点を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的のため、本発明は、独立請求項1に記載の特徴を有する、自動周波数制御回路用の圧電素子に関するものである。
【0011】
この圧電素子の具体的な実施形態を、従属請求項2〜13で規定している。
【0012】
テンプバネに圧電結晶を用いることにより、良好な圧電性能を維持しつつ、圧電素子を簡単かつ経済的に製造することが可能となる。さらに、そのバネにおいて所定の角度分布で第1と第2の電極を特定の配置で設けることよって、圧電結晶の結晶配向が変化することにより電荷の極性が変化する問題を解消して、それらの電極は、機械的応力によって発生する電荷の一部を収集することが可能となる。このような電荷の極性の変化は、テンプバネにおいて周期的な角度分布で生じる。実際に、圧電材料の結晶構造によって、XY水平面における機械的応力の配向に対する圧電係数の依存性が生じる。すなわち、XY平面における応力の方向に依存して、発生する電荷は正または負であり得るとともに、その値は、例えば水晶(石英)の場合の
図2に示すように、ゼロ値と最大値との間となり得る。本発明による圧電素子の結果として、電極のそれぞれにおいて正と負の電荷が互いに打ち消し合う問題は解消される。本発明の範囲内で、非限定的に、圧電結晶は、例えば水晶単結晶である。
【0013】
本発明の第1の実施形態によれば、第1と第2の電極は、テンプバネの外側コイルの一部分に配置されており、その部分は、テンプバネの一端を含むとともに、所定の角度セクタを画定している。この第1の実施形態の1つの利点は、圧電素子の製造、特にその電極の製造が簡単であることである。
【0014】
本発明の第2の実施形態によれば、第1の電極は、圧電材料のストリップの第1の側に配置された第1の部分と、圧電材料のストリップの第1の側とは異なる少なくとも1つの側に配置された第2の部分と、を有し、第2の電極は、圧電材料のストリップの第2の側に配置された第1の部分と、圧電材料のストリップの第2の側とは異なる少なくとも1つの側に配置された第2の部分と、を有する。第1の電極または第2の電極のそれぞれの第1と第2の部分は、交互に、接合領域において互いに接続されている。それらの接合領域は、テンプバネにおいて所定の角度周期で分布している。この第2の実施形態の1つの利点は、発生する電荷の収集が最大限となり、ひいては収集される電気エネルギー量が最大限となることである。
【0015】
効果的には、圧電素子は、圧電材料のストリップの第1の側に形成された第1の溝と、圧電材料のストリップの第2の側に形成された第2の溝と、を有する。第1の電極は、第1の溝内に少なくとも部分的に配置されており、第2の電極は、第2の溝内に少なくとも部分的に配置されている。これにより、電極間の容量結合を大きくすることで、素子の圧電性能を向上させることができる。
【0016】
この目的のため、本発明は、さらに、請求項14に記載の特徴を有する、自動周波数制御回路用の圧電素子を有する機械振動系に関する。
【0017】
この目的のため、本発明は、さらに、請求項15に記載の特徴を有する、機械振動系と、その機械振動系の振動周波数の自動制御のための回路と、を含む装置に関する。
【0018】
この装置の具体的な実施形態を、請求項16および17で規定している。
【0019】
自動周波数制御回路用の圧電素子、ならびに、それを備えた機械振動系および装置の、目的、効果、ならびに特徴は、図面で示す少なくとも1つの非限定的な実施形態を参照した以下の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明による圧電素子を備えた機械振動系と、その機械振動系の振動周波数の自動制御のための回路と、を含む装置の簡略図を示している。
【
図2】
図2は、本発明の例示的な一実施形態による圧電素子の、XY平面における応力の配向に応じた圧電効果による振幅図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施形態による圧電素子を示している。
【
図4】
図4は、
図3の圧電素子のテンプバネの外側コイルの一部分を示している。
【
図5】
図5は、テンプバネにおける第1の代替的な電極配置で、本発明の第2の実施形態による圧電素子のテンプバネの一部分を示している。
【
図6】
図6は、テンプバネにおける第2の代替的な電極配置で、本発明の第2の実施形態による圧電素子のテンプバネの一部分を示している。
【
図7】
図7は、
図6の圧電素子のVII−VII断面に沿った断面図である。
【
図8】
図8は、
図6の圧電素子のVIII−VIII断面に沿った断面図である。
【
図9】
図9は、例示的な一実施形態による、機械振動系の圧電素子に接続された
図1の自動制御回路の電子部品の簡略ブロック図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の説明では、特に機械振動系の振動周波数を自動制御するための回路である自動周波数制御回路用の、圧電素子について記載する。当該技術分野の当業者には周知の自動周波数制御回路の電子部品については、いずれも簡潔にのみ説明する。後述するように、自動制御回路は、主に、圧電素子のテンプバネを装着したテン輪の振動周波数を制御するために用いられる。ただし、他の機械振動系を想定してもよいが、以下の説明では、圧電素子のテンプバネを装着したテン輪の形態の機械振動系についてのみ記載する。
【0022】
図1は、機械振動系2、3と、その機械振動系の振動周波数foscの自動制御のための回路10と、を含む装置1を示している。機械式時計では、機械振動系は、回転するテン真6に対して例えば3つのアーム5で連結された金属リングで形成されたテン輪2と、テンプバネ7を含む圧電素子3と、を有し得る。
図3〜8に示すように、圧電素子3は、さらに、自動周波数制御回路10に電気的に接続された少なくとも2つの電極8a〜8dを含む。
図1を再び参照して、テンプバネ7の第1端7aは、テンプ受け(図示せず)のヒゲ持ち4で固定保持されている。このテンプ受けは、時計ムーブメントの地板(図示せず)に固定されている。テンプバネ7の第2端7bは、テン輪2の回転するテン真6に直接固定されている。
【0023】
テンプバネ7付きテン輪2(テンプ)の振動は、動力源(図示せず)によって維持され、その動力源は、電気的なものであってもよいが、好ましくは機械的なものである。この機械的動力源は、一般的にアンクルと協働するガンギ車と共に輪列を駆動する香箱であり得る。この回転するアンクルは、例えば、テン輪の回転軸(テン真)に近接して固定された振り石を動かす。このように、テンプバネ付きテン輪(テンプ)は、時計ムーブメントの調速機を形成し得る。
【0024】
テンプバネ7は、一般的に0.25mm未満の厚さ、例えば0.1〜0.2mm程度の厚さの、圧電材料のストリップによって実現される。この圧電材料は、圧電結晶またはPZT圧電セラミックであってよい。好ましくは、圧電結晶は、
図2〜8の例示的な実施形態では、単結晶であり、典型的には水晶単結晶である。テンプバネ7を、例えば、Zカット水晶単結晶に加工し、すなわち、水晶単結晶棒のZ軸または光軸に対して垂直にカットする。圧電材料のストリップから製造される、コイル巻回間を互いに離間させたテンプバネは、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2015/0061467号に記載されているように、フッ化水素酸浴で、マイクロマシニングによって得られる。少なくとも2つの金属電極を、さらに詳細に後述する配置で、圧電結晶ストリップの少なくとも2つの側に堆積させる。より具体的には、電極は、テンプバネ7の一部に、またはテンプバネ7の全長にわたって、所定の角度分布で配置される。それぞれの電極は、例えば、Au/Cr(金/クロム)電極である。
【0025】
図2は、水晶テンプバネ7を含む場合の素子3の、XY水平面における応力の配向に応じた圧電効果による振幅を示している。同図に示すように、水晶の結晶構造によって、XY平面における機械的応力の配向に対する圧電係数の依存性が生じる。すなわち、XY平面における応力の方向に依存して、テンプバネ7で発生する電荷は正または負であり得るとともに、その値は、ゼロ値と最大値との間となり得る。水晶の結晶構造は三方晶系であるため、電荷の最大値は60°ごとに繰り返すとともに、電荷の極性が変化するのも60°ごとである。
【0026】
本発明の第1の実施形態について、
図3および4を参照して以下で説明する。この第1の実施形態によれば、圧電素子3は、2つの電極8a、8bを含む。2つの電極8a、8bは、テンプバネ7の外側コイル14の一部分12に配置されている。その部分12は、テンプバネ7の第1端7aを含むとともに、所定の角度セクタを画定している。テンプバネ7が水晶ストリップで形成される場合の好ましい例示的な実施形態では、この所定の角度セクタは60°に略等しい。従って、
図2を参照して、水晶テンプバネ7の結晶配向が変化することにより極性が変化することに起因して電荷が互いに打ち消し合うことは、本発明のこの第1の実施形態により回避することが可能となる。電荷の相互の打ち消しを回避して、機械的応力によって発生する電荷の一部を、電極8a、8bは収集する。
【0027】
好ましくは、
図4に示すように、圧電素子3は、圧電結晶ストリップの「上側」に示す上面に形成された少なくとも1つの溝16aを有し得る。電極8a、8bを有する圧電結晶ストリップが巻回した状態では、電極8aを支持する上側は、テンプバネの平面に平行なテン輪回転軸に対して垂直な側である一方、電極8bがある内側は、テン輪回転軸のほうに向いている。2つの電極のうちの第1の電極8aは、上側の溝16a内に配置されており、第2の電極8bは、内側に配置されている。
【0028】
図5〜8は、本発明の第2の実施形態を示しており、ここで、上記の第1の実施形態と類似の要素は同じ参照符号で示し、よって、それらの説明は繰り返さない。
【0029】
図5に示す第1の変形実施形態によれば、2つの電極のうちの第1の電極8aは、圧電結晶ストリップの外側に配置された第1の部分18aと、ストリップの「上側」に示す側に配置された第2の部分18bと、を有する。第2の電極8bは、圧電結晶ストリップの内側に配置された第1の部分20aと、上側に配置された第2の部分20bと、を有する。
図5には、テンプバネ7の一部分のみを示しており、このため、それぞれの電極8a、8bの第1の部分18a、20aを1つのみ、第2の部分18b、20bを1つのみ示しているが、2つの電極8a、8bは、テンプバネ7の全長に及ぶものであることが好ましい。
【0030】
第1の電極8aの第1の部分18aと第2の部分18bは、交互に、第1の接合領域22において互いに接続されている。第2の電極8bの第1の部分20aと第2の部分20bは、交互に、第1の接合領域22に隣接した第2の接合領域24において互いに接続されている。第1の接合領域22および第2の接合領域24は、テンプバネ7において所定の角度周期で分布している。第1と第2の電極8a、8bの第2の部分18b、20bは、圧電結晶ストリップの上側において、所定の同じ角度周期で、交互に相次いで連なって延在している。図示していない変形例では、第1と第2の電極8a、8bの第2の部分18b、20bは、圧電結晶ストリップの「下側」に示す1つの側に、同様に延在することができる。テンプバネ7が水晶ストリップで形成される場合の好ましい例示的な実施形態では、この所定の角度周期は60°に略等しい。
【0031】
図6〜8に示す第2の変形実施形態では、圧電素子3は、第1と第2の電極8a、8bに加えて、さらに第3と第4の電極8c、8dを含む。
図6に示すように、第1の電極8aと同極性である第3の電極8cは、第1の接続端子26において第1の電極8aに接続されている。第2の電極8bと同極性である第4の電極8dは、第2の接続端子28において第2の電極8bに接続されている。第1と第2の接続端子26、28は、それぞれ自動周波数制御回路10に接続されている。図示していない特定の例示的な一実施形態では、第1と第2の接続端子26、28は、テンプバネ7の第1端7aを固定保持するヒゲ持ち4に配置されている。
【0032】
第1の電極8aは、圧電結晶ストリップの外側に配置された第1の部分30aと、ストリップの外側とは異なる各側に配置された第2の部分30bと、を有する。第2の電極8bは、圧電結晶ストリップの上側に配置された第1の部分32aと、ストリップの上側とは異なる各側に配置された第2の部分32bと、を有する。第3の電極8cは、圧電結晶ストリップの内側に配置された第1の部分34aと、ストリップの内側とは異なる各側に配置された第2の部分と、を有する。第4の電極8dは、圧電結晶ストリップの下側に配置された第1の部分36aと、ストリップの下側とは異なる各側に配置された第2の部分と、を有する。
図6には、テンプバネ7の一部分のみを示しているが、4つの電極8a、8b、8c、8dは、テンプバネ7の全長に及ぶものであることが好ましい。第3と第4の電極8c、8dの第2の部分は、よって
図6〜8では見えていない。
【0033】
第1の電極8aの第1の部分30aと第2の部分30bは、交互に、第1の接合領域38において互いに接続されている。第2の電極8bの第1の部分32aと第2の部分32bは、交互に、第2の接合領域40において互いに接続されている。第3の電極8cの第1の部分34aと第2の部分は、交互に、第3の接合領域42において互いに接続されている。第4の電極8dの第1の部分36aと第2の部分は、交互に、第4の接合領域44において互いに接続されている。これらの接合領域38〜44は、テンプバネ7において所定の角度周期で分布している。
【0034】
図7に示すように、それぞれの接合領域38〜44は、圧電結晶ストリップの2つの隣接する側にまたがって延在している。こうして、第1の電極8a、第2の電極8b、第3の電極8c、第4の電極8dは、圧電結晶ストリップの各側において、所定のサブ角度周期で、交互に相次いで連なって延在している。テンプバネ7が水晶ストリップで形成される場合の好ましい例示的な実施形態では、この所定のサブ角度周期は60°に略等しい。
【0035】
図2を参照して、水晶テンプバネ7の結晶配向が変化することにより極性が変化することに起因して電荷が互いに打ち消し合うことは、本発明のこの第2の実施形態により回避することが可能となる。それらの電極が各側で周期的に変化していることによって、電荷の相互の打ち消しを回避して、機械的応力によって発生する電荷のすべてを、それらの電極は収集する。機械振動系2、3を含む装置1では、振動系2、3によって発生する電荷のすべてが収集され、これにより、収集されて回路10に供給される電気エネルギー量は最大限となる。
【0036】
図5〜8には示していないが、この第2の実施形態による圧電素子3は、効果的には、圧電結晶ストリップの上側と下側である相対する側に形成された電極支持溝を有し得る。
【0037】
テンプバネ7付きテン輪2の振動中には、圧電水晶ストリップに圧縮力または伸張力が交互に作用し、これが組み合わさって交流電圧が発生する。典型的には、テンプバネ7付きテン輪2の振動周波数は、3〜10Hzの間であり得る。従って、この交流電圧を、自動制御回路10は、これが接続されている電極を介して受け取る。自動制御回路は、電極に対して直接的に、または2本の金属線を介して接続することができる。
【0038】
図9は、機械振動系の振動周波数を制御するための自動制御回路10の例示的な一実施形態の各種電子要素を示している。本発明の範囲から逸脱することなく、自動周波数制御回路の他の例を想定することができる。
【0039】
自動制御回路10は、圧電素子3の2つの電極または2つの電極群に接続されている。自動制御回路10は、圧電素子3から受け取った交流電圧VPを、通常の整流器51によって整流することができる。この交流電圧VPの整流電圧を、コンデンサCcに蓄える。コンデンサCcの端子VDD、VSS間のこの整流電圧は、電池のような、または太陽電池、熱電発電装置などのエネルギー変換素子のような、追加の電圧源の助けがなくても、自動制御回路のすべての電子要素に通電するのに十分であり得る。
【0040】
自動制御回路10は、例えばMEMS振動子56に接続された振動子段55を含む。MEMS振動子と共に振動子段の振動回路は、振動信号を供給し、それは、500kHz未満の、例えば200kHz程度の周波数であり得る。このように、振動子段55は、好ましくは、振動回路の振動信号の周波数に等しい周波数を有し得る基準信号VRを供給することができる。
【0041】
機械振動系の振動周波数を制御するためには、自動制御回路10において、交流電圧VPと基準信号VRとを比較しなければならない。この目的のため、自動制御回路10は、交流電圧VPの周波数を基準信号VRの周波数と比較するための比較手段52、53、54、57を含む。基準信号周波数が、振動子段55の振動回路の周波数すなわち200kHz程度の周波数と一致している場合には、比較手段は、交流電圧VPと基準信号VRとの間の大きな周波数偏差を考慮に入れて設計されなければならない。
【0042】
比較手段は、まず、第1の交番カウンタ52で構成され、これは、圧電素子の交流電圧VPを入力として受け取って、第1のカウント信号NPをプロセッサ処理ユニット57に供給する。比較手段は、さらに、第2の交番カウンタ54を含み、これは、基準信号VRを入力として受け取って、第2のカウント信号NRをプロセッサ処理ユニット57に供給する。
【0043】
交流電圧VPと基準信号VRとの間の周波数偏差を考慮するために、さらに、第1の交番カウンタ52と第2の交番カウンタ54との間に配置される測定窓53を設ける。この測定窓53は、第2の交番カウンタ54のカウント時間を決定する。プロセッサ処理ユニット57は、第2の交番カウンタのカウント時間を決定するための構成パラメータを測定窓53に供給する。これらの構成パラメータは、プロセッサ処理ユニット内のメモリ(図示せず)に保存されている。これらの構成パラメータは、その時計が女性用の時計であるのか男性用の時計であるのかによって異なる場合がある。プロセッサ処理ユニット57で処理される様々なオペレーションは、例えば振動子段55の振動回路によって供給されるクロック信号で制御することができる。
【0044】
第1のカウント信号NPで第1の交番カウンタ52によりカウントされる所定の交番回数のカウント時間に対して比例的に、第2の交番カウンタ54のカウント時間を適合させる。また、プロセッサ処理ユニット57は、カウント期間の開始と終了を規定するように、第1の交番カウンタ52を制御することもできる。一方、第1の交番カウンタ52が、所定の交番回数のカウントの開始と終了に関する情報をプロセッサ処理ユニット57に供給することも想定できる。例えば、第1の交番カウンタでカウントされる交番回数が200である場合には、測定窓53は、それよりも約5000倍短い持続時間の間に第2の交番カウンタ54が基準信号VRの交番回数をカウントするように、構成される。この持続時間は、例えば第1の交番カウンタ52における200回の交番のカウント時間にも依存し得る。これにより、自動制御回路の電力消費を削減することが可能となる。
【0045】
測定窓53によって制御されるカウントの開始は、第1の交番カウンタ52で決定することができるが、プロセッサ処理ユニット57によって直接制御できることが好ましい。プロセッサ処理ユニット57は、最初に、第1の時間インターバルでカウントされた交流電圧VPの第1の所定の交番カウント数に関する第1のカウント信号NPを受け取ることができる。この第1のカウント信号は、例えばプロセッサ処理ユニットのレジスタに保存される。その後、処理ユニット57は、測定窓53によって制御される第2の時間インターバルで第2の交番カウンタ54においてカウントされた第2の交番カウント数に関する第2のカウント信号NRを受け取ることができる。この第2のカウント信号NRは、同じくプロセッサ処理ユニットの他のレジスタに保存することができる。最後に、プロセッサ処理ユニット57で、それらの2つのカウント信号を比較することで、交流電圧VPの周波数が基準信号周波数に対して比例的に高すぎるのか低すぎるのかを決定する。
【0046】
プロセッサ処理ユニットでの2つのカウント信号NPとNRの比較に基づいて、プロセッサ処理ユニットは、周波数適応ユニット58を制御し、これの出力は圧電素子3の2つの電極または2つの電極群に接続されている。この周波数適応ユニット58は、連続信号である周波数適応信号VAを供給するように構成することができ、周波数適応信号のレベルは、プロセッサ処理ユニットによって伝達される2つのカウント信号間の差の関数である。この目的のために、切り替え可能なコンデンサアレイまたは抵抗アレイを設けることができる。連続電圧値は、適応ユニット58から電圧フォロワを介して、圧電素子3の一方の電極もしくは一方の電極群、または圧電素子の他方の電極もしくは他方の電極群に供給することができる。これにより、2つのカウント信号の比較に応じて、機械振動系の振動を制動または加速するために、圧電素子において、ある特定の力を発生させることが可能となる。
【0047】
自動制御回路10は、さらに、周知の温度補償素子と、自動制御回路10を起動のたびにリセットするためのユニットと、を含んでもよい。自動制御回路のすべての電子部品と、MEMS振動子56およびコンデンサCcは、例えば、同じ小型電子モジュールの一部をなす。これらのすべての電子部品は、効果的には、同じモノリシックシリコン基板に集積することができ、これにより、機械振動系の周波数を制御するための単独の自己給電式電子モジュールを得ることが可能となる。
【0048】
本発明による圧電素子についての上記説明は、水晶単結晶ストリップで形成されるテンプバネに関するものであった。しかしながら、圧電結晶として使用される水晶は、限定するものではなく、本発明の範囲内で、テンプバネを形成するために他の圧電結晶を想定してもよく、例えば、トパーズ、ベルリナイト、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、リン酸ガリウム、ヒ酸ガリウム、ケイ酸アルミニウム、二酸化ゲルマニウム、トルマリン単結晶、閃亜鉛鉱型構造のIII−V族半導体の単結晶、またはウルツ鉱型構造のII−VI族半導体の単結晶などであるが、ただし、これは網羅的列挙ではない。
【0049】
従って、上記の本発明の説明は、水晶の結晶構造による60°の周期的な角度分布が観測される電荷の極性の変化に関するものであったが、請求項で規定される本発明の範囲から逸脱することなく、テンプバネを形成するために使用される様々に異なる種類の圧電結晶に応じて、他の周期的な角度分布を想定することもできる。
【0050】
機械振動系の振動周波数を制御するための、上記の本発明による圧電素子の2つの実施形態は、その振動周波数を測定するため、ならびに/または系の位相補正および/もしくはエネルギー収集のために効果的に用いることも可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 装置
2 テン輪(機械振動系)
3 圧電素子(機械振動系)
4 ヒゲ持ち
5 (テン輪の)アーム
6 テン真
7 テンプバネ
7a (テンプバネの)第1端
7b (テンプバネの)第2端
8a 第1の電極
8b 第2の電極
8c 第3の電極
8d 第4の電極
10 自動周波数制御回路
12 外側コイルの一部分
14 外側コイル
16a (上側の)溝
18a 第1の電極の第1の部分
18b 第1の電極の第2の部分
20a 第2の電極の第1の部分
20b 第2の電極の第2の部分
22 第1の接合領域
24 第2の接合領域
26 第1の接続端子
28 第2の接続端子
30a 第1の電極の第1の部分
30b 第1の電極の第2の部分
32a 第2の電極の第1の部分
32b 第2の電極の第2の部分
34a 第3の電極の第1の部分
36a 第4の電極の第1の部分
38 第1の接合領域
40 第2の接合領域
42 第3の接合領域
44 第4の接合領域
51 整流器
52 第1の交番カウンタ(周波数比較手段)
53 測定窓(周波数比較手段)
54 第2の交番カウンタ(周波数比較手段)
55 振動子段
56 MEMS振動子
57 プロセッサ処理ユニット(周波数比較手段)
58 周波数適応ユニット
Cc コンデンサ
fosc (機械振動系の)振動周波数
N
P 第1のカウント信号
N
R 第2のカウント信号
V
A 周波数適応信号
V
DD (コンデンサの)端子電圧
VII 断面
VIII 断面
V
P 交流電圧
V
R 基準信号(基準電圧)
V
SS (コンデンサの)端子電圧