特許第6663503号(P6663503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6663503
(24)【登録日】2020年2月18日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】オキシブチニン含有経皮吸収製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/216 20060101AFI20200227BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20200227BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20200227BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20200227BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20200227BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20200227BHJP
【FI】
   A61K31/216
   A61K47/28
   A61K47/32
   A61K9/70 401
   A61P13/10
   A61K47/34
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-544999(P2018-544999)
(86)(22)【出願日】2017年10月10日
(86)【国際出願番号】JP2017036619
(87)【国際公開番号】WO2018070370
(87)【国際公開日】20180419
【審査請求日】2019年1月23日
(31)【優先権主張番号】特願2016-200402(P2016-200402)
(32)【優先日】2016年10月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000160522
【氏名又は名称】久光製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】竹内 昭雄
【審査官】 伊藤 清子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/136283(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/061969(WO,A1)
【文献】 特開2014−125466(JP,A)
【文献】 特開2013−248182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/216
A61K 9/70
A61K 47/28
A61K 47/32
A61K 47/34
A61P 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布からなり、少なくとも一部に撥水処理された撥水面を有する支持体層と、
前記支持体層の片面に積層された粘着剤層と、を備える貼付剤であって、
前記粘着剤層は、オキシブチニンまたはその薬学的に許容される塩と、コレステロール類と、ゴム系粘着基剤とを含む粘着組成物を含有する、
オキシブチニン含有経皮吸収製剤。
【請求項2】
前記オキシブチニンが塩酸オキシブチニンである、
請求項1に記載のオキシブチニン含有経皮吸収製剤。
【請求項3】
前記撥水面が含フッ素化合物によって形成された、
請求項1または請求項2に記載のオキシブチニン含有経皮吸収製剤。
【請求項4】
前記基布が編布である、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のオキシブチニン含有経皮吸収製剤。
【請求項5】
前記ゴム系粘着基剤がスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を含有する、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のオキシブチニン含有経皮吸収製剤。
【請求項6】
前記オキシブチニンの含有率が前記粘着組成物に対して4%から50%であり、
前記コレステロール類が、コレステロールであって、その含有率が前記粘着組成物に対して0.05〜10%である、
請求項2から請求項5のいずれか一項に記載のオキシブチニン含有経皮吸収製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキシブチニンを含有する経皮吸収製剤(貼付剤)に関する。
本願は、2016年10月11日に、日本に出願された特願2016−200402号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
皮膚から薬物を投与する貼付剤は、注射剤や経口剤と比較して、薬物の血中濃度の急激な上昇を回避できる、薬物吸収の持続をさせやすい、肝臓の初回通過を回避できる、及び、副作用が発現した際に投薬を中止できるなどのメリットがある。一方で、薬物を貼付剤の適用により投与した場合には、その適用皮膚に、そう痒、発疹、疼痛、湿疹、皮膚炎などの皮膚刺激が生じる場合があった。
【0003】
特許文献1には、広範な薬物に対して十分な皮膚刺激の低減効果が認められる、コレステロール類を配合した経皮吸収製剤(貼付剤)が記載されている。
【0004】
このような貼付剤のうち、支持体に布等を用いた貼付剤は、柔軟性と伸縮性に優れ、皮膚の形状変化に追従しやすいため、付着性に優れる。このような特徴を有する布等の支持体を用いた貼付剤に、皮膚刺激の低減効果があるコレステロール類を配合することが望まれている。
【0005】
特許文献2には、支持体にPET布帛を用い、コレステロール類を配合した経皮吸収製剤(貼付剤)において、コレステロールの含有により付着性が低下する実験結果が記載されている。粘着基剤としてPIB(ポリイソブチレン)を含有させることで付着性を改善することができる実験結果も記載されている。用いられる薬物によっては粘着基剤としてPIBを用いにくい場合も想定されるため、付着性を改善させる他の方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2011/136283号
【特許文献2】国際公開第2013/061969号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記に加え、発明者らは、支持体に基布を用いた貼付剤にコレステロール類を配合すると、粘着組成物の流動性が増大し、過酷条件下で保存した際、薬物の放出性が経時変化することがあることを見出した。貼付剤において、放出性は薬物の治療効果を大きく左右するため、保存後も所定の薬物の放出性を維持することは貼付剤にとって重要である。
【0008】
本発明は、支持体に布等を用い、皮膚刺激の低減効果が認められるコレステロール類を配合した貼付剤において、粘着組成物の流動性が増大するにもかかわらず付着性を維持し、保存後の薬物の放出性の経時変化を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねる中で、基布からなる支持体層の一部が撥水性を有する場合、過酷条件下で保存した場合においても、薬物の放出性の経時変化を低減可能であることを見出し、本願発明の完成に至った。
【0010】
本発明の第一の態様に係るオキシブチニン含有経皮吸収製剤(貼付剤)は、基布からなり、少なくとも一部に撥水処理された撥水面を有する支持体層と、前記支持体層の片面に積層された粘着剤層とを備え、前記粘着剤層は、オキシブチニンまたはその薬学的に許容される塩と、コレステロール類と、ゴム系粘着基剤とを含む粘着組成物を含有する。
【0011】
本発明の第二の態様に係るオキシブチニン含有経皮吸収製剤(貼付剤)は、第一の態様に係るオキシブチニン含有経皮吸収製剤において、前記オキシブチニンが塩酸オキシブチニンであってもよい。
【0012】
本発明の第三の態様に係るオキシブチニン含有経皮吸収製剤(貼付剤)は、第一の態様もしくは第二の態様に係るオキシブチニン含有経皮吸収製剤において、前記撥水面が含フッ素化合物によって形成されていてもよい。
【0013】
本発明の第四の態様に係るオキシブチニン含有経皮吸収製剤(貼付剤)は、第一の態様から第三の態様に係るオキシブチニン含有経皮吸収製剤のいずれかにおいて、前記基布が編布であってもよい。
【0014】
本発明の第五の態様に係るオキシブチニン含有経皮吸収製剤(貼付剤)は、第一の態様から第四の態様に係るオキシブチニン含有経皮吸収製剤のいずれかにおいて、前記ゴム系粘着基剤がスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を含有してもよい。
【0015】
本発明の第六の態様に係るオキシブチニン含有経皮吸収製剤(貼付剤)は、第二の態様から第五の態様に係るオキシブチニン含有経皮吸収製剤のいずれかにおいて、前記オキシブチニンの含有率が前記粘着組成物に対して4%から50%であってもよく、前記コレステロール類が、コレステロールであって、その含有率が前記粘着組成物に対して0.05〜10%であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、支持体に布等を用い、皮膚刺激の低減効果が認められるコレステロール類を配合したオキシブチニン含有経皮吸収製剤(貼付剤)において、付着性及び薬物の放出性の経時変化を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態のオキシブチニン含有経皮吸収製剤(貼付剤)の厚さ方向における断面図である。
図2】薬物の放出率と放出時間との関係を示すグラフである。
図3】薬物の放出率と放出時間との関係を示すグラフである。
図4】薬物の放出率と放出時間との関係を示すグラフである。
図5】薬物の透過速度と経過時間との関係を示すグラフである。
図6】厚み維持率と最大透過速度維持率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態の貼付剤(オキシブチニン含有経皮吸収製剤)について、図1を参照して説明する。本実施形態の貼付剤(オキシブチニン含有経皮吸収製剤)1は、基布からなる支持体層11を含んで構成されている。柔軟性と伸縮性に優れており、皮膚の形状変化に追従しやすいため、医療用、家庭用等の各種分野・用途において利用可能なものである。
【0019】
図1は、本実施形態の貼付剤1の厚さ方向における断面図である。貼付剤1は、支持体層11と、支持体層11の片面に積層された粘着剤層12とを備えている。
【0020】
(支持体層)
支持体層11に用いる支持体は、粘着剤層12を支持するのに適したものであればよく、伸縮性に優れた基布が好ましい。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、などのポリオレフィン類、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタトール、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、などのポリエステル類、ナイロン、絹、獣毛(例えば羊毛)、などのポリアミド類、ポリウレタン、木綿のようなセルロース類など、または、これらの積層体もしくは混合物であってもよく、多孔体、発泡体、織布及び不織布、編布、並びにこれらのラミネート品などの性状として使用できる。織布の織り方や編布の編み方は、特に制限されず、例えば、経編み(トリコット編み、デンビートリコット編み、サテン編み、アトラス編み、平編み、リブ編み、パール編み)、丸編み(両面メリヤス編み、メリヤス編み、フライス編み)等が挙げられる。不織布は特に制限されず、スパンレース不織布、サーマルボンド不織布、スパンボンド不織布等であってよい。
ここで、基布の目付は20〜200g/mであってよく、70〜140g/mであってもよい。また基布の厚みは0.1〜3mmであってもよい。
【0021】
貼付剤1の粘着剤層12の、支持体層11に接する面と反対側の面には、患部への適用前に剥がして除去される剥離被覆物20を備えてもよい。剥離被覆物20には、ポリエチレン、ポリプロピレン、などのポリオレフィン類、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル類、紙などのセルロース類、等からなるフィルム、シート、及びこれらをシリコーンで離型処理したものを用いることができる。
【0022】
支持体層11は、撥水処理により形成した撥水面110を厚さ方向の少なくとも一方に有している。撥水面110は撥水作用が高い含シリコーン化合物による撥水処理を施してもよいし、撥水・撥油作用が高い含フッ素化合物による撥水処理を施してもよい。撥油作用も有する含フッ素化合物による撥水処理がより適している。撥水面110は支持体層11が粘着剤層12と接する面に設けられていてもよいし、支持体層11が粘着剤層12に接する面と反対側の面に設けられていてもよく、支持体全体に設けられていてもよい。撥水面110は支持体層11の面方向の全域にわたって形成されていてもよいし、粘着剤層12に接する領域のみに形成されていてもよい。
また、支持体層11の中間層に撥水面を形成してもよい。例えば二つの基布を重ね合わせて支持体層11を形成する場合に、その間に撥水面を形成することもできる。
ここで、支持体層11に形成する撥水性を有する部位は、撥水面110のような面状の形状でなく、支持体層11中の一部に形成される立体的な形状であってもよい。支持体層11中の厚さ方向と面方向の両方にわたって形成される斑状の撥水部位や、スジ状の撥水部位であってもよい。基布の編成パターンに合わせて、その編成パターンの一部に撥水部位を形成してもよい。
また、予め撥水処理された材料から基布を形成してもよい。全体もしくは一部が撥水処理されたフィラメントや糸を用いて形成した基布を用いて支持体層11を形成することで、支持体層11に撥水性を持たせることができる。
すなわち、支持体層11の少なくとも一部が撥水性を有していればよい。
【0023】
撥水処理は、例えば、予め撥水処理された材料から基布を形成してもよいし、基布を形成した後に撥水処理を施してもよい。撥水処理は含シリコーン化合物あるいは含フッ素化合物などの撥水化剤を繊維または基布に対して反応または付着させることで、撥水性を付与することができる。より具体的には、撥水化剤を含む溶液またはエマルジョンを繊維または基布に対して噴霧するか、または、撥水化剤を含む溶液中に繊維または基布を浸漬することによって、撥水性を付与することができる。浸漬によれば繊維または基布の全体を撥水化させることができ、より好ましい。撥水化剤は特に限定はないが、フッ素系のもので、具体的にはアサヒガードE(商品名、旭硝子)、NKガードS(商品名、日華化学)、ユニカポロン(商品名、ユニオン化学工業)、TSガード(商品名、東海製油)、ディックガード(商品名、大日本インキ)、等が例示される。
【0024】
支持体層11の少なくとも一部が撥水性を有しているかどうかを確認するためには、例えば簡易法として、貼付剤を基布側が上向きになるように水平に保持して、基布上に精製水の水滴を静かに滴下したとき、基布上において、水が水玉状のまま保持されるかどうかで判定すればよい。日本薬局方の通則が定める20℃における精製水20滴を滴下するときに、その質量が0.90〜1.10gとなるようなマイクロピペット等の器具を用いて判定することもできる。
【0025】
支持体層11の少なくとも一部が撥水性を有することで、粘着剤層12として積層した粘着組成物の付着性や薬物の放出性の経時変化に良好な効果をもたらす。詳細に関しては後述する。
撥水面110を支持体層11が粘着剤層12と接する面の全域にわたって形成することで、粘着組成物の付着性や薬物の放出性の経時変化により良好な効果をもたらすことができる。
【0026】
(粘着剤層)
粘着剤層12は、薬効を発揮する薬物と、コレステロール類と、親油性の粘着基剤とを含有する粘着組成物を備えている。広範な薬物に対して十分な皮膚刺激の低減効果が認められるコレステロール類を皮膚刺激抑制剤として粘着組成物に配合している。
【0027】
(薬物)
粘着組成物に配合される薬物としては、皮膚刺激低減の必要性の観点から、オキシブチニン、トルテロジン、アセナピン、ビソプロロール、リスペリドン、ニコチン、及びシタロプラム、またはこれらの薬学的に許容できる塩からなる群より選択される1以上の塩基性薬物並びにその薬学的に許容される塩が挙げられる。これらの中でも塩酸オキシブチニンを薬物として選択した場合に本実施形態の効果が特に発揮される。
【0028】
粘着組成物には、上記薬物の他に、アテノロール、アムロジピン、カプトプリルなどの降圧剤、硝酸イソソルビド、ニトログリセリンなどの血管拡張剤、カプサイシン、トウガラシエキス、トウガラシ末、トウガラシチンキ、ノニル酸ワニリルアミドなどの温感剤、インドメタシン、カンフル、ケトプロフェン、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、ジクロフェナクナトリウム、フルルビプロフェン、フェルビナク、メロキシカム、ロキソプロフェンなどの非ステロイド性消炎鎮痛剤、エストラジオール、ノルエチステロン、エストリオールなどのホルモン剤、ケトチフェンなどの抗ヒスタミン剤、メマンチン、ドネペジルなどの抗アルツハイマー薬、セルトラリン、フルオキセチン、パロキセチン、シタロプラム、フルボキサミンなどの抗うつ薬、テプレノンなどの胃潰瘍治療薬、ソリフェナシンなどの過活動膀胱治療薬、ツロブテロールなどの気管支拡張剤、メントール、ハッカ油などの冷感剤、ペルゴリド、ロチゴチンなどのパーキンソン病治療薬、レチノイドなどのビタミン剤などを配合することができる。
皮膚刺激抑制剤の配合により、これらの薬物又は薬効成分による皮膚刺激も低減される。本実施形態の貼付剤1の粘着剤層12に含有する薬物には、これらの薬物の何れかを選択できる。また、ここに挙げられた薬物以外の薬物を選択してもよい。
【0029】
上記の選択される薬物のうち、塩酸オキシブチニンは尿意切迫感や頻尿などの症状を有する「過活動膀胱」の治療に用いられている薬物である。従来、塩酸オキシブチニンは主に経口投与され、肝初回通過効果による代謝物に起因する口内乾燥や便秘、眠気などの副作用が知られている。経口投与による副作用を軽減するため、塩酸オキシブチニンを含有する貼付剤が使われている。塩酸オキシブチニンは、皮膚から投与した場合にごくまれにそう痒、紅斑、発疹、疼痛、湿疹、皮膚炎等の皮膚刺激が発現する場合がある。そのため、コレステロール類の皮膚刺激抑制剤とともに配合することが望まれる薬物の一つである。
【0030】
オキシブチニン(Oxybutynin)は、化学名がα−フェニルシクロヘキサングリコール酸4−(ジエチルアミノ)−2−ブチニルである。本実施形態において用いられるオキシブチニンは、塩酸塩に限定されるものではなく、フリー体のオキシブチニンであっても、薬学的に許容される他のオキシブチニン塩であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。オキシブチニンの薬学的に許容される塩は、無機酸塩であっても有機酸塩であってもよく、これまで例えば塩酸塩の他、臭化水素塩及びケイ酸塩など無機酸塩、並びに、酢酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩及びマレイン酸塩などの有機酸塩が知られている。
【0031】
貼付剤における薬物の含有量は、薬物の種類、治療する疾病、投薬方法、及び粘着組成物の組成等によって異なるが、通常、粘着組成物の全量を基準として、4〜50質量%が好ましく、5〜30質量%であってもよく、8〜17質量%であってもよい。薬物が4質量%に満たない場合、十分な治療効果が得られにくい傾向がある。薬物の含有量が上記各範囲の場合、貼付剤の皮膚刺激は緩和であるか少ない傾向があり、目的の治療効果を得られやすく、かつ貼付剤の付着性も適正となりやすい。薬物の含有量が50質量%を超える場合、貼付剤の皮膚刺激は強くなりやすい傾向がある。また、薬物がオキシブチニンである場合、必要であればその塩酸塩として換算するとき、その含有量は粘着組成物の全量を基準として、5〜30質量%であってもよく、8〜17質量%であることが望ましい。
【0032】
薬物の皮膚刺激を発現するメカニズムの一つとして、表皮細胞の免疫反応について様々な研究がなされている。表皮細胞は、サイトカイン、ケモカイン、炎症メディエータ及び細胞成長因子など多くの炎症誘導物質を細胞外に放出することや、サイトカインレセプター、接着因子及びMHCクラスIIを細胞上に発現することで皮膚免疫の中心的役割を演じている(皮膚免疫ハンドブック(中外医学社))。
【0033】
例えば、表皮細胞が放出する炎症誘導物質には、インターロイキン(IL)−1α、IL−10、IL−12、IL−18、TNF−α、GM−CSF、IL−6、IL−7、IL−15、TGF−α、amphiregulin、HB−EGF、bFGF、VEGF、PDGF、SCF、IFN−β、IFN−γ、TGF−β、MIP−3α、IP−9、IP−10、Mig、IL−8、GROα、RANTES、MCP−1、TARC、プロスタグランジン、ロイコトリエン、サブスタンスP、活性酸素種及び窒素酸化物があり、非常に多岐にわたり、各々が複雑に相互作用して免疫反応を調節している。
【0034】
そこで、本明細書において、皮膚刺激低減とは、表皮細胞を用いたin vitro試験においては、薬物によるプロスタグランジンE2(PGE2)、IL−1α、IL−6、IL−8などの、いわゆる皮膚刺激メディエータの産生が減少すること、及び/又は、in vivoにおいては、薬物による皮膚の紅斑・痂皮及び浮腫形成などの皮膚刺激が低減されることを意味する。皮膚刺激は、例えば皮膚一次刺激指数(Primary Irritation Index、PII)により評価され得る。
【0035】
(皮膚刺激抑制剤)
粘着組成物に配合する皮膚刺激抑制剤として、コレステロール、コレステロール誘導体及びコレステロール類似体から選択されるコレステロール類が使用され、その配合量は粘着組成物の全量を基準として0.05質量%以上であることが好ましい。
【0036】
コレステロール類は、コレステロール、コレステロール誘導体及びコレステロール類似体から選択されるステロイド骨格を有するアルコールである。狭義のコレステロールとは、(3β)−コレスタ−5−エン−3−オールコレスタ−5−エン−3β−オールであり、高等動物の細胞膜の必須成分として知られている。コレステロール誘導体とは、例えば、動植物や微生物、菌類由来の天然又は合成コレステロール誘導体を意味し、ヒドロキシ基の部分に脂肪酸が結合したエステル体であるアシルコレステロールが例示される。また、コレステロール類似体とは、天然又は合成のコレステロール類似体を意味し、植物細胞由来のシトステロール、スチグマステロール、フコステロール、スピナステロール、カンペステロール及びブラシカステロールなどのフィトステロール類、真菌由来のエルゴステロールなどが例示される。これらのうちの一種を単独で使用することも、2種以上を混合して使用することもできる。
【0037】
コレステロール類のうち、コレステロールが好ましく、羊毛由来のコレステロールがより好ましい。コレステロール、コレステロール誘導体及びコレステロール類似体は全てステロイドに分類され、その中でもステロール(ステロイドアルコール)とよばれるサブグループに属する。粘着組成物は、これらコレステロール類のいずれか1つ、又は2以上の組合せを含有してもよい。これらのコレステロール類は、オキシブチニン等の薬物による皮膚刺激を低減させる作用があるため、これら化合物の配合により、オキシブチニン等の薬物による皮膚刺激を低減させることができる。
【0038】
コレステロール類の配合量は、粘着組成物の全量を基準として0.05質量%以上が好ましく、例えば0.05〜30質量%、0.1〜25質量%、0.5〜20質量%、1〜15質量%であってもよい。ただし、粘着組成物の種類にもよるが、コレステロール類の配合量を15質量%超配合してしまうと、貼付剤の付着性が十分に得られない恐れがあるため、15質量%以下の配合量が良く、10質量%以下がより好ましい。
【0039】
皮膚刺激抑制剤として配合するコレステロール類はいずれも融点が100℃を超える物質であり、当然ながら常温(1〜30℃)において固体であるため、これらを粘着組成物へ配合しても、粘着組成物の流動(可塑)性が亢進される変化は生じないと予測されていた。ところが、意外にもコレステロール類を粘着組成物に配合してみたところ、粘着組成物の流動(可塑)性が増すことが判明した。
【0040】
支持体層に基布を用い、皮膚刺激抑制剤としてコレステロール類を配合する場合、粘着組成物の流動性が著しく高まり、過酷条件下で保存した際、あるいは常温・常圧であっても保存が長期に及ぶ際、徐々に支持体層に粘着組成物が深く侵入し、貼付剤の付着性が大きく低下し、また、薬物の放出性が変化する現象が発生する場合がある。この現象はコレステロール類の配合量を増やすことでより顕著となる。
【0041】
例えば、ポリエステルをメリヤス編により形成した基布に対し、コレステロール類を配合した粘着組成物を積層した貼付剤は、調製後に60℃で2週間保存した後、付着性がコレステロール類を配合しない場合と比べて約50%となることがある。また、放出時間が5時間の場合における薬物の放出性が、コレステロール類を配合しない場合と比べて、約2倍程度に増加することがある。
【0042】
貼付剤1において、放出性は薬物の治療効果を大きく左右するため、保存後も所定の放出性を維持することは貼付剤1にとって重要である。支持体層11に基布を用い、皮膚刺激の低減効果が認められるコレステロール類を配合した貼付剤1において、保存後の付着性と薬物の放出性の変化を低減するため、支持体層11の少なくとも一部に撥水部位を設ける。例えば、基布からなる支持体層11において撥水面110を厚さ方向の少なくとも一方に設ける。撥水面110は撥水作用が高いシリコーン化合物による撥水処理を施してもよいし、撥水・撥油作用が高いフッ素化合物による撥水処理を施してもよい。撥油作用も有するフッ素化合物による撥水処理がより適している。撥水面110などの撥水部位を一部に有する支持体層11を用いることで、粘着剤層12に配合されたコレステロール類の流動性を抑制することができ、過酷条件下で保存した際の貼付剤1の付着性と薬物の放出性を維持することができる。
【0043】
(経皮吸収促進剤)
粘着組成物は更に、薬物の経皮吸収性を調節する成分である経皮吸収促進剤を含有してもよい。使用され得る経皮吸収促進剤としては、従来皮膚での経皮吸収促進作用が認められている化合物のいずれであってもよい。例えば有機酸類、炭素鎖数6〜20の脂肪酸、脂肪アルコール、脂肪酸エステル、アミド、エーテル類、芳香族系有機酸、芳香族系アルコール、芳香族系有機酸エステル及びエーテル(以上は飽和、不飽和のいずれでもよく、また、環状、直鎖状分枝状のいずれでもよい)、乳酸エステル類、酢酸エステル類、モノテルペン系化合物、セスキテルペン系化合物、エイゾン(Azone)、エイゾン(Azone)誘導体、ピロチオデカン、グリセリン脂肪酸エステル類、プロピレングリコール脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類(Span系)、ポリソルベート系(Tween系)、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油系(HCO系)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ショ糖脂肪酸エステル類及び植物油などが挙げられる。
【0044】
かかる有機酸類としては、脂肪族(モノ、ジ又はトリ)カルボン酸(酢酸、プロピオン酸、クエン酸(無水クエン酸を含む)、イソ酪酸、カプロン酸、カプリル酸、乳酸、マレイン酸、ピルビン酸、シュウ酸、コハク酸、酒石酸等)、芳香族カルボン酸(フタル酸、サリチル酸、安息香酸、アセチルサリチル酸等)、アルキルスルホン酸(メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロピルスルホン酸、ブタンスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸等)、アルキルスルホン酸誘導体(N−2−ヒドロキシエチルピペリジン−N’−2−エタンスルホン酸)、コール酸誘導体(デヒドロコール酸等)、又はこれらの塩(例えばナトリウム塩等のアルカリ金属塩)等が挙げられる。これらの有機酸類の中でも、カルボン酸類及びこれらの塩が好ましく、酢酸、酢酸ナトリウム及びクエン酸が特に好ましい。これらの有機酸類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
また、その他の経皮吸収促進剤としては例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール、イソステアリルアルコール、セチルアルコール、ラウリン酸メチル、ラウリン酸ヘキシル、ラウリン酸ジエタノールアミド、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸セチル、サリチル酸メチル、サリチル酸エチレングリコール、ケイ皮酸、ケイ皮酸メチル、クレゾール、乳酸セチル、乳酸ラウリル、酢酸エチル、酢酸プロピル、ゲラニオール、チモール、オイゲノール、テルピネオール、l−メントール、ボルネオロール、d−リモネン、イソオイゲノール、イソボルネオール、ネロール、dl−カンフル、グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノカプレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ショ糖モノラウレート、ポリソルベート20、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ピロチオデカン及びオリーブ油が例示できる。この中でも特にオレイルアルコール、ラウリルアルコール、イソステアリルアルコール、ラウリン酸ジエタノールアミド、グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノカプレート、グリセリンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、プロピレングリコールモノラウレート、ポリオキシエチレンラウリルエーテル及びピロチオデカンが好ましい。中でも、炭素数6〜20の脂肪酸が好ましく、特にオレイン酸が好ましい。このような経皮吸収促進剤は2種以上混合して使用してもよい。粘着組成物が経皮吸収促進剤を含有する場合、粘着組成物の流動性は高くなりやすい。
【0046】
粘着組成物において、薬物とコレステロール類との質量比は400:1〜1:10、300:1〜1:5、150:1〜1:1、さらに15:1〜1:1であってもよい。この質量比であれば、オキシブチニン等の薬物の皮膚透過性に影響を与えることなく、皮膚刺激を低減することができる。
【0047】
貼付剤の粘着剤層12は実質的に水を含有しないことが好ましい。実質的に水を含有しないとは、粘着剤層12が非水系材料で構成されることを意味する。ただし、粘着剤層12が、原料又は製造環境に由来する5質量%以下の微量の水分を含有することは許容される。
【0048】
(粘着基剤)
粘着基剤としては、皮膚への付着性と皮膚への刺激の少なさからゴム系粘着基剤が用いられる。
【0049】
ゴム系粘着基剤としては、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、ポリイソプレン、ポリイソブチレン(PIB)、プチルゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム、ポリブタジエン、及びポリシロキサン類などが挙げられ、その中でもSIS、PIB及びポリシロキサン類が好ましく、特に粘着性、展延性、凝集力の点からSIS及びPIBが好ましい。
【0050】
特に、SISは、スチレンドメインによる擬似架橋の特徴を有し、ホットメルト塗工のできる粘着基剤として使用できる。このため、SISを用いた粘着基剤は、接着力や保持力に優れており、伸縮性に優れた基布からなる支持体層との組み合わせにも適している。SISは、共重合体中におけるスチレンの質量比率として、5〜60%であってよく、10〜35%であってよい。SISの分子量は、20000〜500000であってよく、50000〜350000であってよい。また、SIS中におけるジブロック体の質量比率は、50%以下であってよく、35%以下であってよい。
【0051】
上記の粘着基剤は2種以上混合して使用してもよく、粘着基剤の配合量は、粘着剤層12の形成及び充分なオキシブチニン等の薬物の皮膚透過性を考慮して、通常、粘着組成物の全量を基準として5〜90質量%であり、10〜70質量%、10〜50質量%、さらに10〜30質量%であってもよい。
【0052】
(可塑剤)
粘着剤層12はさらに可塑剤を含有してもよい。可塑剤としては、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル及び芳香族系プロセスオイルなどの石油系オイル;スクワラン;スクワレン;オリーブ油、ツバキ油、ひまし油、トール油及びラッカセイ油などの植物系オイル;シリコンオイル;ジブチルフタレート及びジオクチルフタレートなどの二塩基酸エステル;ポリブテン及び液状イソプレンゴムなどの液状ゴム;ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、セバシン酸ジエチル及びセバシン酸ジイソプロピルなどの液状脂肪酸エステル類;ジエチレングリコール;ポリエチレングリコール;サリチル酸グリコール;プロピレングリコール;ジプロピレングリコール;トリアセチン;クエン酸トリエチル;クロタミトンなどが例示できる。これらの中でも、流動パラフィン、液状ポリブテン、ミリスチン酸イソプロピル、セバシン酸ジエチル及びラウリン酸ヘキシルが好ましく、特に、液状ポリブテン、ミリスチン酸イソプロピル及び流動パラフィンが好ましい。これらの可塑剤は2種以上混合して使用してもよい。
【0053】
可塑剤の配合量は、充分なオキシブチニン等の薬物の皮膚透過性及び貼付剤1としての充分な凝集力の維持を考慮して、通常、粘着組成物の全量を基準として10〜70質量%であり、10〜60質量%、さらに10〜50質量%であってもよい。粘着組成物が可塑剤を多く含有する程、粘着組成物の流動性は高まりやすい。
【0054】
(粘着付与樹脂)
粘着剤層12はさらに、粘着組成物の皮膚への粘着性を調節する成分である粘着付与樹脂を含有してもよい。粘着付与樹脂としては、ロジン、ロジンのグリセリンエステル、水添ロジン、水添ロジンのグリセリンエステル及びロジンのペンタエリストールエステルなどのロジン誘導体、アルコンP100(商品名、荒川化学工業)などの脂環族飽和炭化水素樹脂、クイントンB170(商品名、日本ゼオン)などの脂肪族系炭化水素樹脂、クリアロンP−125(商品名、ヤスハラケミカル)などのテルペン樹脂、マレイン酸レジンなどが挙げられる。これらの中でも、特に水添ロジンのグリセリンエステル、脂環族飽和炭化水素樹脂、脂肪族系炭化水素樹脂及びテルペン樹脂が好ましい。
【0055】
粘着付与樹脂の配合量は、貼付剤1としての充分な粘着力及び剥離時の皮膚への刺激性を考慮して、通常、粘着組成物の全量を基準として5〜70質量%であり、5〜60質量%、さらに10〜50質量%であってもよい。
【0056】
(製造方法)
次に、貼付剤1の製造方法を説明する。ここでは、基布からなり、撥水面110を厚さ方向の少なくとも一方に有する支持体層11を備える貼付剤1の製造方法を説明する。まず基布の厚さ方向の少なくとも一方に撥水処理を施して撥水面110を形成し、支持体層11を形成する。撥水面110は撥水作用が高いシリコーン化合物により撥水処理を施してもよいし、撥水・撥油作用が高いフッ素化合物により撥水処理を施してもよい。撥水処理剤を含有する溶液中に浸漬した後、取り出して乾燥させることで基布全体を撥水処理してもよい(支持体層準備工程)。
【0057】
ゴム系粘着基剤を使用した貼付剤1の場合、ニーダー、ミキサーなどの混合機を用い、粘着基剤、薬物、コレステロール類、及び必要に応じて可塑剤、粘着付与樹脂、その他の添加剤を加え、加熱して溶融させて支持体層11に直接展延し、その後支持体層11に圧着して積層するか、あるいは溶融物を一旦剥離処理の施されている紙あるいはフィルムに展延し、その後支持体層11に圧着して積層する。続いて、適宜の大きさに裁断して貼付剤1を得る。
【0058】
上記したような構成を有する貼付剤1は、通常知られている他の方法によっても製造されることができる。例えば、オキシブチニン等の薬物を含む粘着組成物を熱融解させ、離型紙又は支持体層11に塗工後、支持体層11又は離型紙と貼り合わせて本剤を得る。あるいは、オキシブチニン等の薬物を含む粘着組成物成分をトルエン、ヘキサン又は酢酸エチルなどの溶媒に溶解させ、離型紙又は支持体層11上に展延して溶剤を乾燥除去後、支持体層あるいは離型紙と貼り合わせ本剤を得ることが可能である。
【0059】
これらの貼付剤1には、本発明の目的を損なわない範囲で、薬理上許容される各種添加剤、例えば、安定剤、酸化防止剤、香料、充填剤及び経皮吸収促進剤を添加することができる。
【0060】
コレステロール類含有等の違いによる貼付剤の付着性(粘着性)の影響を評価するために行った実験とその結果について説明する。
(実験1)付着性の評価
(1−1 サンプルの作成)
以下の4種類のサンプルを作成した(サンプルA、B、C、D)。サンプルAは、基布からなる支持体層にコレステロール類を含有しない粘着組成物を積層した貼付剤である。サンプルBは、基布からなる支持体層に、粘着組成物の合計量100質量%に対して3質量%のコレステロール類を含有する粘着組成物を積層した貼付剤である。サンプルCはフッ素化合物を含有する撥水面110を有する基布からなる支持体層11に、粘着組成物の合計量100質量%に対して3質量%のコレステロール類を含有する粘着組成物を撥水面110に積層した貼付剤1である。サンプルDは、サンプルC同様、フッ素化合物を含有する撥水面110を有する基布からなる支持体層11に、粘着組成物の合計量100質量%に対して3質量%のコレステロール類を含有する粘着組成物を撥水面110に積層した貼付剤1であり、薬物である塩酸オキシブチニンの含有率を10質量%としたものである。なお、サンプルCとサンプルDの撥水面110は、基布が粘着剤層12の粘着組成物と接する面全体に設けられている。
【0061】
粘着剤層として積層されたいずれの粘着組成物も、薬物として塩酸オキシブチニンを含み、親油性の粘着基剤を含有する。各サンプルに積層された粘着組成物の成分表を表1に示す。表中の「その他の添加物」は、薬物の吸収性を調節する成分や粘着性を調節する成分などを含む添加物である。
各成分を混和して溶液とし、必要であれば溶剤を加え、その溶液を離型処理したPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムの上にキャストした後、溶剤を乾燥して粘着剤層(140g/m)を形成した。さらに、サンプルAとサンプルBでは、撥水面を有さない基布を支持体層とし、粘着剤層を積層した。サンプルCとサンプルDでは、撥水面110を有する基布を支持体層11とし、粘着剤層12を積層した。基布はPETなどのポリエステルを材質とし、目付が100g/mでメリヤス編により編成した編布を用いた。適宜裁断し、アルミラミネート包材中に密封包装した。
【0062】
【表1】
【0063】
(1−2 実験手順)
プローブタック法による粘着力の測定を行った(JIS Z 0237)。サンプルの貼付剤の調製後(以降、これを「初期状態」という)と、アルミラミネート包材中に密封包装して60℃で2週間保存した後(以降、これを「保存後」という)において測定を行った。これら条件の異なる二つの測定には、別々のサンプルを使用している。初期状態の粘着力に対して、保存後の粘着力が10%以上低下しているものを「経時低下あり」と判断した。
【0064】
(1−3 結果)
表2に結果を示す。初期状態において、サンプルB及びサンプルCは、サンプルAに比べ粘着力が低下している。コレステロール類を含有させることで、初期状態において粘着力が低下することが観測された。保存後においては、サンプルBの粘着力が著しく低下している。撥水面110を設けたサンプルCにおいては、保存後の粘着力がサンプルBより大きく改善している。撥水面110を有する支持体層11を用いることで、粘着剤層12に配合されたコレステロール類による粘着組成物の流動を抑制することができ、保存後の貼付剤1の付着性を維持することができたと考察される。
また、薬物の含有率を10%としたサンプルDにおいても、保存後も初期状態と変わらず粘着力を維持できている。薬物の含有率を治療効果に合わせて調整した場合においても、撥水面110を設けることによるコレステロール類による粘着組成物の流動を抑制する効果は十分発揮されると考察される。
【0065】
【表2】
【0066】
次に、コレステロール類を粘着組成物に配合することによる、粘着組成物の粘度の変化を評価するために行った実験とその結果について説明する。
(実験2)粘着組成物の流動性の評価
(2−1 サンプルの作成)
以下の3種類のサンプルを作成した(サンプルA、B、B´)。サンプルA及びサンプルBは、上述のサンプルと同一の成分からなる粘着組成物である。本実験におけるサンプルA,Bは、支持体層には積層されていない粘着組成物である。サンプルB´は、粘着組成物の合計量100質量%に対して5質量%のコレステロール類を含有する粘着組成物である。
【0067】
いずれの粘着組成物も、薬物として塩酸オキシブチニンを含み、親油性の粘着基剤を含有する。各粘着組成物の成分表を表3に示す。表中の「その他の添加物」は、薬物の吸収性を調節する成分や粘着性を調節する成分などを含む添加物である。
【0068】
【表3】
【0069】
(2−2 実験手順)
定試験力押出形細管式レオメータ(フローテスタ(島津製作所))を用い、65℃における各サンプルの流出速度を測定して粘度を算出した。
【0070】
(2−3 結果)
表4に結果を示す。65℃における粘度測定の結果、コレステロール類を配合することで粘着組成物の粘度が著しく低下することが確認された。
【0071】
【表4】
【0072】
次に、コレステロール類含有等の違いによる貼付剤の放出性の影響を評価するために行った実験とその結果について説明する。
(実験3)放出性の評価
(3−1 サンプルの作成)
作成した3種類のサンプル(サンプルA、B、C)は実験1で用いたサンプル(サンプルA、B、C)と同じ成分、方法により作成した。
【0073】
(3−2 実験手順)
米国薬局方放出試験法に記載の回転シリンダー法により薬物の放出率の測定を行った。実験1と同様、サンプルの貼付剤の調製後(初期状態)と、アルミラミネート包材中に密封包装して60℃で2週間保存した後(保存後)において測定を行った。これら条件の異なる二つの測定には、別々のサンプルを使用している。
【0074】
(3−3 結果)
図2にサンプルAの測定結果を示す。初期状態において放出時間が経過するにつれて、薬物の放出率が増加しているのが観測された。保存後においては、初期状態より薬物の放出率は若干高くなっていることが観測された。
図3にサンプルBの測定結果を示す。コレステロール類を含有するサンプルBにおいて、初期段階では、コレステロール類を含まないサンプルAの薬物の放出率とほぼ同等の薬物の放出率を維持していた。一方、保存後においては、サンプルAの測定結果と比べ、薬物の放出率が20%程度増加していることが観測された。実験2で観測されたコレステロール類配合による粘着組成物の粘度低下が薬物の放出性の経時変化に影響を与えていると考察される。
図4にサンプルCの測定結果を示す。薬物の放出率が初期状態と保存後とでほとんど変化していないことが観測された。撥水面110を有する支持体層11を用いることで、コレステロール類を含有することによる薬物の放出率の増加を抑えることができていると考察される。
【0075】
次に、基布からなる支持体層11に撥水面110を有する場合における皮膚透過性の評価を行った。皮膚透過性の評価には、皮膚を用いたin vitro試験を用いた。
(実験4)皮膚透過性の評価
(4−1サンプルの作成)
作成した2種類のサンプル(サンプルA及びサンプルC)は実験1で用いたサンプル(サンプルA及びサンプルC)と同じ成分、方法により作成した。
【0076】
(4−2 実験手順)
ヘアレスマウスの背部皮膚を採取し、皮膚の角質層側に貼付剤を適用し、真皮側がレセプター槽側になるようにフロースルー型フランツセル(透過面積3cm)に装着し、セルの温度を32℃に保つ。
【0077】
次いで、セルのレセプター槽に一定流速で生理食塩水を置換しつつ、所定時間毎に槽溶液を採取し、各溶液中の薬物濃度を高速液体クロマトグラフ法により定量する。この定量結果から、薬物の最大透過速度Jmaxを算出した。
【0078】
(4−3 結果)
図5に結果を示す。図5のグラフの縦軸は、3回の実験結果から算出した薬物の透過速度の平均値を示している。算出した薬物の透過速度のうち最大の透過速度Jmaxを表5に示す。サンプルAとサンプルCにおいて、図5及び表5に示すように最大値及び経時的変化ともに、ほぼ違いはなかった。すなわち、支持体層11が撥水面110を有し、その撥水面110に粘着剤層12を積層したとしても、薬物の皮膚透過性にはほとんど影響がないことが示された。
【0079】
【表5】
【0080】
以上より、皮膚刺激の低減効果が認められるコレステロール類を配合した貼付剤1において、基布からなる支持体層11に撥水面110を厚さ方向の少なくとも一方に有する場合、過酷条件下で保存した場合においても、付着性及び薬物の放出性の変化を低減可能であることが示された。また、薬物の皮膚透過性にはほとんど影響がないことについても示された。
【0081】
次に、支持体層11における撥水面110に用いる撥水剤の種類や濃度の違いによる皮膚透過性を評価するために行った実験とその結果について説明する。
(実験5)撥水面の違いによる皮膚透過性の評価
(5−1 サンプルの作成)
表6および表7に示すように、8種類のサンプルを作成した(サンプルE、F、G、H、I、J、K、L)。サンプルEは、撥水面110を有さない基布からなる支持体層に、粘着組成物の合計量100質量%に対して3質量%のコレステロール類を含有する粘着組成物を積層した貼付剤である。一方、サンプルF、G、H、I、J、K、Lは、撥水面110を有する基布からなる支持体層11に、粘着組成物の合計量100質量%に対して3質量%のコレステロール類を含有する粘着組成物を撥水面110に積層した貼付剤1である。
【0082】
サンプルF、G、H、I、Jの撥水面110には、AG84が撥水剤として使用されている。AG84は、含フッ素化合物を含んでいる。
サンプルK、Lの撥水面110には、NKガードSが撥水剤として使用されている。NKガードSは、含フッ素化合物を含んでいる。
【0083】
いずれの粘着組成物も、薬物として塩酸オキシブチニンを含み、親油性の粘着基剤を含有する。各粘着組成物の成分表を表7に示す。表中の「その他の添加物」は、薬物の吸収性を調節する成分や粘着性を調節する成分などを含む添加物である。
【0084】
【表6】
【0085】
【表7】
【0086】
(5−2 実験手順)
上記の8種類のサンプルに対して、実験4と同様の方法で、薬物の最大透過速度Jmaxを算出した。サンプルの貼付剤の調製後(初期状態)と、アルミラミネート包材中に密封包装して60℃で1週間保存した後(保存後)において測定を行った。これら条件の異なる二つの測定には、別々のサンプルを使用している。
【0087】
(5−3 結果)
表8に結果を示す。保存後においては、撥水面を有さないサンプルEの最大透過速度が著しく低下している。撥水面110を設けたサンプルF、G、H、I、J、K、Lにおいては、保存後の最大透過速度がサンプルEよりおおむね改善している。初期状態に対する保存後の最大透過速度の割合(以降、「最大透過速度維持率」という)は、いずれも50%を超えている。
しかしながら、撥水面110を設けたサンプルF、G、H、I、J、K、Lの中で、撥水面110の撥水剤濃度が0.5%のサンプルFの最大透過速度維持率が一番低い。撥水面110の撥水剤濃度を高めることで、最大透過速度維持率を改善できると考察される。
【0088】
【表8】
【0089】
次に、長期間保存した場合における皮膚透過性を評価するために行った実験とその結果について説明する。
(実験6)保存期間の違いによる皮膚透過性の評価
(6−1 サンプルの作成)
表9および表10に示すように、2種類のサンプルを作成した(サンプルM,N)。サンプルNは、撥水面110を有さない基布からなる支持体層に、粘着組成物の合計量100質量%に対して3質量%のコレステロール類を含有する粘着組成物を積層した貼付剤である。一方、サンプルNは、撥水面110を有する基布からなる支持体層11に、粘着組成物の合計量100質量%に対して3質量%のコレステロール類を含有する粘着組成物を撥水面110に積層した貼付剤1である。
【0090】
サンプルNの撥水面110には、アサヒガードE060が撥水剤として使用されている。アサヒガードE060は、含フッ素化合物を含んでいる。
【0091】
いずれの粘着組成物も、薬物として塩酸オキシブチニンを含み、親油性の粘着基剤を含有する。各粘着組成物の成分表を表10に示す。表中の「その他の添加物」は、薬物の吸収性を調節する成分や粘着性を調節する成分などを含む添加物である。
【0092】
【表9】
【0093】
【表10】
【0094】
(6−2 実験手順)
上記の2種類のサンプルに対して、実験4と同様の方法で、薬物の最大透過速度Jmaxを算出した。サンプルの貼付剤の調製後(初期状態)と、アルミラミネート包材中に密封包装して60℃で1か月保存した後(保存後)において測定を行った。これら条件の異なる二つの測定には、別々のサンプルを使用している。
【0095】
(6−3 結果)
表11に結果を示す。保存後においては、撥水面を有さないサンプルMの最大透過速度が著しく低下している。撥水面110を設けたサンプルNにおいては、保存後の最大透過速度がサンプルEより改善している。一か月もの長期間保存する場合においても、撥水面110を設けることで薬物の最大透過速度を一定程度維持できると考察される。
【0096】
【表11】
【0097】
次に、保存後における粘着剤層を評価するために行った実験とその結果について説明する。
(実験7)保存後における粘着剤層の評価
(7−1 サンプルの作成)
サンプルは、実験5の8種類のサンプル(サンプルE、F、G、H、I、J、K、L)と同じ成分、方法により作成した。
【0098】
(7−2 実験手順)
サンプルの貼付剤の調製後(初期状態)と、アルミラミネート包材中に密封包装して60℃で1週間保存した後(保存後)において粘着剤層の厚みの測定を行った。
【0099】
(7−3 結果)
表12に結果を示す。保存後においては、撥水面を有さないサンプルEの粘着剤層の厚みが著しく減少している。撥水面110を設けたサンプルF、G、H、I、J、K、Lにおいては、保存後の粘着剤層の厚みはサンプルEより厚い。初期状態に対する保存後の粘着剤層の厚みの割合(以降、「厚み維持率」という)は、いずれも50%を超えている。
粘着剤層にコレステロール類が配合されることで、粘着剤層の流動性が増大し、保存後において、粘着剤層が支持体層に食い込み、粘着剤層の厚みが減少したと考察される。一方、サンプルF、G、H、I、J、K、Lのように、撥水面110を支持体層11に設けることで、粘着剤層12の厚みを一定程度維持できると考察される。
【0100】
【表12】
【0101】
図6に、8種類のサンプル(サンプルE、F、G、H、I、J、K、L)の「厚み維持率」と、実験5で測定した「最大透過速度維持率」の相関を示す。図6に示すように、厚み維持率が高いほど、最大透過速度維持率が高い。撥水面110を設け、支持体層11への粘着剤層12の食い込みを低減することで、薬物の最大透過速度をより維持でき、皮膚透過性をより維持できることが考察される。すなわち、薬物の放出性の経時変化を低減するために、撥水面110を設けて支持体層11への粘着剤層12の食い込みを低減することが効果的であることが本結果から考察される。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、オキシブチニンを含有する貼付剤(経皮吸収製剤)に適用できる。
【符号の説明】
【0103】
1 貼付剤(オキシブチニン含有経皮吸収製剤)
11 支持体層
12 粘着剤層
20 剥離被覆物
110 撥水面
図1
図2
図3
図4
図5
図6