(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
図1は、本発明の一実施形態における周波数特性検知システムの機能構成を示す概略ブロック図である。同図において、検知システム1は、検知装置100と、繊維シート200とを具備する。検知装置100は、交流信号出力部110と、周波数特性取得部120と、警報出力部130と、記憶部180と、制御部190とを具備する。記憶部180は、検知条件記憶部181を具備する。制御部190は、検知信号出力部191を具備する。繊維シート200は、第一導電体210と、第二導電体220とを具備する。
【0022】
検知システム1は、人工透析時における漏血を検知することで抜針を検知する。
図2は、人工透析における抜針の例を示す説明図である。同図において、血管911にテフロン針(テフロンは登録商標)921が挿入されており、テフロン針921には、側溝H11が設けられている。体内から人工透析器への取血側では、動脈にテフロン針921が挿入される。また、人工透析器から体内への返血側では、静脈にテフロン針921が挿入される。
【0023】
図2の例において、テフロン針921の一部が体外(皮膚912の外)へ、抜け出ており、体外に露出した側溝H11から血液が漏出している。
特に、返血側では、人工透析器にて血液の圧を高める影響で、取血側よりも抜針が生じやすい。また、人工透析を繰り返すことや糖尿病の影響等で血管がもろくなった場合も、抜針が生じやすくなる。
【0024】
繊維シート200は、人工透析の際、針を穿刺される腕、即ち漏血監視対象部位に巻きつけられる包帯である。例えば、人工透析の間、患者はベッドに横たわって透析を受ける。そして、繊維シート200は、患者の腕に巻かれ、繊維シート200が巻かれた患者の腕にテフロン針921(
図2)が穿刺される。繊維シート200は吸水性を有しており、血液や汗などがベッド側に漏出するのを防止する。繊維シート200が、吸水性に加えて、あるいは代えて、防水性を有するようにしてもよい。これにより、血液や汗などがベッド側に漏出することを、より確実に防止できる。
【0025】
患者が寝返りを打つなど大きく動いた場合、繊維シート200をベッドの上に敷き、その上に患者の腕が置かれる用法では、繊維シート200の大きさによっては繊維シート200外に漏血する可能性がある。
これに対し、包帯として構成されている繊維シート200を漏血監視対象部位に巻きつけて用いることで、繊維シート200が漏血監視対象部位から外れる可能性を低減させることができ、より確実に漏血を検知し得る。
【0026】
また、患者が自ら抜針してしまう可能性がある場合など、包帯で穿刺箇所を巻いて固定する場合がある。この場合、繊維シート200をベッドの上に敷き、その上に患者の腕が置かれる用法では、検知装置100が包帯内部の漏血を検知できない可能性がある。これに対し、包帯として構成されている繊維シート200で穿刺箇所を巻いて固定することで、検知装置100は、より確実に包帯内部の漏血を検知し得る。
【0027】
なお、患者が動くことがない短時間の使用などにおいては、繊維シート200は、を患者の腕の下に敷く形態としてもよい。
また、ガーゼとして構成されている繊維シート200を、漏血監視対象部位に当て、包帯で巻いて用いることができる。ガーゼとして構成されている繊維シート200を、漏血監視対象部位に当て、包帯で巻いて用いることで、繊維シート200が漏血監視対象部位から外れる可能性を低減させることができ、より確実に漏血を検知し得る。
【0028】
第一導電体210および第二導電体220は、それぞれ、繊維シート200に設けられた導電体であり、交流信号出力部110からの交流信号が入力される。
第一導電体210と第二導電体220とは接触していない。また、繊維シート200の本体(第一導電体210および第二導電体220が設けられるベースとなる部分)は絶縁性の繊維で作られている。このため、繊維シート200に液体が付着していない状態では、第一導電体210と第二導電体220とは絶縁されているか、あるいは、コンデンサ効果等による微小な交流電流が流れるのみである。
一方、第一導電体210と第二導電体220との間に液体が垂れると、第一導電体210と第二導電体220とは垂れた液体に応じた周波数特性で通電する。
【0029】
なお、繊維シート200が吸水性を有し液体を拡散させることで、液体が第一導電体210と第二導電体220との間以外の位置に垂れた場合でも、第一導電体210と第二導電体220とが通電する可能性を高めることができる。特に、検知システム1が血液の漏出を検知できる可能性を高めることができる。
なお、第一導電体210と第二導電体220との表面に吸水性のある絶縁性の層を設けた構成にするなど、患者の腕が第一導電体210や第二導電体220に直接接触しない構成としてもよい。あるいは、検知システム1(検知装置100)が、患者の腕の接触と区別可能な通電の特性(周波数特性)を検知することで、血液の漏出を検知するようにしてもよい。
【0030】
第一導電体210や第二導電体220の素材として、導電性のある様々な素材を用いることができる。例えば、第一導電体210や第二導電体220として導電性糸(導電性を有する糸)を用いて、繊維シート200の製造の際に編み込むようにしてもよい。あるいは、第一導電体210や第二導電体220として導電性糸を用いて、製造後の繊維シート200本体に縫い付けるようにしてもよい。
第一導電体210や第二導電体220として導電性糸を用いることで、繊維シート200の肌触りを良くすることができる。これにより、患者が繊維シート200に腕を置いた際に不快感を与えずに済む。
【0031】
検知装置100は、繊維シート200へ交流信号を入力し、繊維シート200側における周波数特性を取得して漏血の有無を判定する。
検知装置100が、繊維シート200へ入力する交流信号として、電圧の変化する様々な信号(すなわち、周波数を有する様々な信号)を用いることができる。例えば、検知装置100が繊維シート200へ正弦波を入力するようにしてもよいし、三角波を入力するようにしてもよいし、矩形波を入力するようにしてもよい。
【0032】
また、検知装置100が取得する周波数特性は、入力する交流信号の周波数に応じて測定される様々なデータとすることができる。本実施形態では、検知装置100が周波数特性としてインピーダンス(Impedance)の大きさやその位相回転を測定する場合を例に説明するが、これに限らない。さらに、インピーダンスの測定は2電極法を例に説明するが4電極法などを用いてもよい。
検知装置100は、例えばマイコン(Microcomputer)を含んで構成される。あるいは、検知装置100の各部が専用回路にて構成される、あるいはスマートフォンまたはパーソナルコンピュータ等を用いて構成されるなど、マイコンを含む構成以外の構成としてもよい。
【0033】
交流信号出力部110は、繊維シート200へ入力するための交流信号を出力する。具体的には交流信号出力部110は、繊維シート200に設けられた複数の導電体間(本実施形態では第一導電体210と第二導電体220との間)に交流信号を入力する。上記のように、交流信号出力部110が出力する交流信号として、電圧の変化する様々な信号を用いることができる。
周波数特性取得部120は、繊維シート200に設けられた複数の導電体間に、交流信号出力部110が交流信号を入力した場合の当該導電体間の周波数特性を取得する。例えば、周波数特性取得部120は、交流信号出力部110が出力する交流信号の周波数における繊維シート200のインピーダンスの大きさや、交流信号出力部110の出力する交流信号に対する、繊維シート200における交流信号の位相回転を測定する。さらに例えば、周波数特性取得部120は、第一導電体210と第二導電体220との間のインピーダンスや、第一導電体210と第二導電体220との間に流れる電流の、交流信号出力部110の出力する交流信号に対する位相回転を測定する。
【0034】
特に、周波数特性取得部120は、第一周波数の交流信号、第二周波数の交流信号それぞれを第一導電体210と第二導電体220とに入力した場合の周波数特性を取得する。
後述するように、血液と汗とでは、周波数の変化に対するインピーダンスの変化の大きさや位相回転の変化の大きさが異なる。そこで、周波数特性取得部120は、周波数の異なる交流信号の各々について、当該交流信号を第一導電体210と第二導電体220とに入力した場合の周波数特性を測定する。
検知装置100(検知信号出力部191)がこれら周波数の異なる交流信号の各々についての周波数特性に基づいて血液の漏出を検知することで、血液と汗とを区別することができる。これにより、抜針の誤検知を低減させることができる。
【0035】
警報出力部130は、周波数特性取得部120の取得した周波数特性に基づいて検知装置100(検知信号出力部191)が血液の漏出を検知すると、警報を出力する。
警報出力部130の警報出力方法として様々な方法を用いることができる。例えば、警報出力部130はスピーカを具備し、検知信号出力部191の出力する検知信号に応じて警報音を出力する。あるいは、警報出力部130が、スピーカに加えて、あるいは代えてランプを具備し、当該ランプの発光にて警報を出力するようにしてもよい。あるいは、警報出力部130が、ナースセンターに設置されたパソコン(Personal Computer;PC)に警報信号を送信するなど、他機器に警報信号を送信するようにしてもよい。
【0036】
記憶部180は、例えば検知装置100の具備する記憶デバイスを含んで構成され、各種データを記憶する。
検知条件記憶部181は、検知信号出力部191が検知信号を出力するか否かの判定閾値を記憶する。すなわち、当該閾値は、検知信号出力部191が、血液の漏出を検知したか否かを判定する際の検知条件として用いられる。
【0037】
制御部190は、検知装置100の各部を制御して各種機能を実行する。制御部190は、例えば検知装置100の具備するCPU(Central Processing Unit、中央処理装置)が、記憶部180からプログラムを読み出して実行することで実現される。
検知信号出力部191は、周波数特性取得部120が所定の周波数特性を取得した場合に検知信号を出力する。より具体的には、検知信号出力部191は、周波数特性取得部120が取得した周波数特性が、検知条件記憶部181の記憶する検知条件を満たすか否かを判定する。そして、検知信号出力部191は、検知条件を満たすと判定した場合に、警報出力部130へ検知信号を出力する。
【0038】
特に、検知信号出力部191は、交流信号出力部110が導電体間(第一導電体210と第二導電体220との間)に周波数の異なる複数の交流信号を入力して周波数特性取得部120が取得した周波数特性が、交流信号出力部110からの交流信号の周波数の相違に応じて所定の相違を示し、かつ、交流信号出力部110が導電体間に同一周波数の交流信号を入力して周波数特性取得部120が取得した異なる時刻における周波数特性が、時間経過に応じて所定の変化を示す場合に、検知信号を出力する。
【0039】
例えば、交流信号出力部110は、第一導電体210と第二導電体220との間に、周波数を変えながら交流信号を複数回入力する。そして、周波数特性取得部120は、交流信号出力部110が交流信号を入力する毎に、第一導電体210と第二導電体220との間の周波数特性(例えば、インピーダンス又は位相)を測定する。そして、検知信号出力部191は、交流信号出力部110からの交流信号の周波数の変化に応じて、第一導電体210と第二導電体220との間の周波数特性が所定の大きさ以上に変化しているか否かを判定する。
【0040】
また、交流信号出力部110は、第一導電体210と第二導電体220との間に交流信号を入力し、所定時間経過した後、同じ周波数の交流電流を再度入力する。交流信号出力部110が交流信号を入力する回数は2回であってもよいし3回以上であってもよい。あるいは、交流信号出力部110が、同じ周波数の交流信号を第一導電体210と第二導電体220との間に所定時間入力し続けるようにしてもよい。
そして、周波数特性取得部120は、交流信号出力部110が同一周波数の交流信号を入力しているときに、第一導電体210と第二導電体220との間の周波数特性を複数回測定する。そして、検知信号出力部191は、周波数特性取得部120が周波数特性を測定してから次に周波数特性を取得するまでの時間経過に応じて、第一導電体210と第二導電体220との間の周波数特性が所定の大きさ以上に変化しているか否かを判定する。
【0041】
そして、検知信号出力部191は、交流信号出力部110からの交流信号の周波数の変化に応じて、第一導電体210と第二導電体220との間の周波数特性が所定の大きさ以上に変化しており、かつ、周波数特性取得部120が周波数特性を測定してから次に周波数特性を取得するまでの時間経過に応じて、第一導電体210と第二導電体220との間の周波数特性が所定の大きさ以上に変化していると判定した場合に、警報出力部130へ検知信号を出力する。
このように、検知信号出力部191が、入力周波数の違いに基づく周波数特性の違い、及び、時間経過に基づく周波数特性の変化の両方を判定することで、繊維シート200に血液が垂れたか否かを、より高精度に判定し得る。
【0042】
次に、
図3〜
図8を参照して、検知信号出力部191が血液の漏出を検知するための判定条件について説明する。実験にて、人間の血液を模擬した豚の血液と、汗を模擬した食塩水とでは異なる周波数特性が得られており、かかる実験結果に基づいて、検知信号出力部191が血液の漏出を検知するための判定条件を設定することができる。
【0043】
図3は、実験に用いた容器および測定電極の外形の概略を示す外観図である。実験において、アクリル容器801の両端にそれぞれ電極802を挿入し、容器内に血液や食塩水を入れた。アクリル容器801を恒温槽内に置き、体温に近い温度(37度(℃))で実験を行った。
また、電極802のそれぞれを定電流源803と接続して交流信号を流した。電極802のそれぞれは電圧計804との接続されており、電圧計804にて電極802間の電圧を測定した。
電極802は、第一導電体210および第二導電体220を模擬する。定電流源803は、交流信号出力部110を模擬する。電圧計804は、周波数特性取得部120を模擬する。
【0044】
図4は、実験における回路の概略を示す説明図である。同図に示すように、定電流源803は、2つの電極802の間に接続されて、これら2つの電極802に交流信号を入力する。電圧計804は、2つの電極802の間に接続されて、これら2つの電極802間の電圧を測定する。
また、実験では、豚10頭の血液を使用し、平均値を算出した。実験に用いた血液のヘマトクリット値(Hct)は、約40パーセント(%)である。
また、非凝固血では、抗凝固剤としてクエン酸ナトリウムを用いた。
【0045】
図5は、アクリル容器801に食塩水が入った状態でのインピーダンスの大きさZの測定結果を示すグラフである。なお、インピーダンスの大きさを単にインピーダンスとも表記する。同図に示すグラフの横軸は周波数を示し、縦軸はインピーダンスを示す。
実験では、大きさの異なる3つのアクリル容器801(以下、容器A、容器B、容器Cと表記する。)に食塩水を入れてインピーダンスを測定した。アクリル容器801に食塩水が入った状態での周波数特性は、アクリル容器801自体の周波数特性を示す。また、アクリル容器801に食塩水が入った状態での周波数特性は、汗の周波数特性を模擬している。
線L11、L12、L13は、それぞれ、容器A、容器B、容器Cでのインピーダンス測定値を示す。線L11、L12、L13のいずれも、約3キロヘルツ(kHz)から約2メガヘルツ(MHz)の範囲では、おおよそ一定のインピーダンスを示している。それ以外の周波数範囲では、電極の接触インピーダンス及び測定ケーブルの影響が生じていると考えられる。
【0046】
図6は、アクリル容器801に食塩水が入った状態での位相差(位相回転)の測定結果を示すグラフである。ここでの位相差は、定電流源803が出力する交流信号の位相と、電圧計804が電圧を測定する電極802間の交流信号の位相との差である。
図6に示すグラフの横軸は周波数を示し、縦軸は位相差を示す。また、線L21、L22、L23は、それぞれ、容器A、容器B、容器Cでの位相差を示す。線L11、L12、L13のいずれも、約40キロヘルツから約2メガヘルツの範囲では、おおよそ一定の位相差(おおよそ位相差0)を示している。
図5および
図6の測定結果から、食塩水では、約40キロヘルツから約2メガヘルツまでの範囲で振幅、位相ともにおおよそ一定となっている。それ以外の周波数範囲では、電極の接触インピーダンス及び測定ケーブルの影響が生じていると考えられる。
【0047】
図7は、アクリル容器801に豚血液が入った状態でのインピーダンスの大きさZの測定結果を示すグラフである。同図に示すグラフの横軸は周波数を示し、縦軸はインピーダンスを示す。アクリル容器801に豚血液が入った状態での周波数特性は、人の血液の周波数特性を模擬している。
【0048】
線L31は、非凝固血液のインピーダンスを示す。線L32は、凝固血液のインピーダンスを示す。
線L31にて示される非凝固血液では、100キロヘルツから900キロヘルツへと周波数が大きくなるほどインピーダンスが小さくなっている。また、線L32にて示される凝固血では、非凝固血の場合よりもインピーダンスが大きくなっており、また、周波数の増大に対するインピーダンスの減少の割合が大きくなっている。
【0049】
図8は、アクリル容器801に豚血液が入った状態での位相差(位相回転)の測定結果を示すグラフである。
図6の場合と同様、
図8での位相差は、定電流源803が出力する交流信号の位相と、電圧計804が電圧を測定する電極802間の交流信号の位相との差である。
図8に示すグラフの横軸は周波数を示し、縦軸は位相差を示す。
【0050】
線L41は、非凝固血液での位相差を示す。線L42は、凝固血液での位相差を示す。
線L41にて示される非凝固血液では、100キロヘルツから900キロヘルツへと周波数が大きくなるほど位相差(位相遅れ)が大きくなっている。また、線L42にて示される凝固血では、非凝固血の場合よりも位相差が大きくなっており、また、周波数の増大に対する位相遅れの増大の割合も大きくなっている。
【0051】
図5〜
図8に示される測定結果から、比較的低周波の場合と比較的高周波の場合とで振幅または位相、あるいはこれら両方を比較することで、食塩水(汗)と血液とを区別することが考えられる。具体的には、周波数の変化に応じた変化が比較的小さい場合は、食塩水または汗と判断し、比較的大きい場合は、血液と判断する。
比較的低周波の場合として、例えば100キロヘルツ以下の交流信号を用いる。また、比較的高周波の場合として、例えば900キロヘルツ以上の交流信号を用いる。
【0052】
例えば、交流信号出力部110は、第一周波数の交流信号として100キロヘルツの交流信号を第一導電体210および第二導電体220に入力する。また、また、交流信号出力部110は、第二周波数の交流信号として900キロヘルツの交流信号を第一導電体210および第二導電体220に入力する。
また、周波数特性取得部120は、第一周波数の場合、第二周波数の場合それぞれについて、第一導電体210と第二導電体220との間のインピーダンス、および、第一導電体210と第二導電体220との間を電流の、交流信号出力部110の出力する電流に対する位相遅れを測定する。
【0053】
そして、検知信号出力部191は、例えば、周波数特性取得部120による測定値が以下の条件(1)、(2)の両方を満たす場合に、検知信号を出力する。
(1)第一周波数の場合のインピーダンスの大きさに対し、第二周波数の場合のインピーダンスの大きさが95パーセント以下である。(すなわち、5パーセント以上小さくなっている。)
(2)第一周波数の場合の位相遅れの大きさに対し、第二周波数の場合の位相遅れの大きさが2倍以上である。
【0054】
図7や
図8に示す例では、条件(1)、条件(2)の両方を満たしている。一方、
図5や
図6に示す例のように、食塩水や汗の場合はインピーダンスや位相遅れの変化がほとんど見られず、条件(1)や条件(2)を満たさないと考えられる。
従って、条件(1)または条件(2)、あるいはこれらの条件の併用により、血液の流出を検知し、かつ、汗等による誤検知を低減させることができる。
【0055】
また、
図7や
図8に示されるように、非凝固血と凝固血とで位相変化が異なることから、検知信号出力部191が、凝固血と非凝固血とを区別して検知するように検知条件を設定できる。
例えば、手術後等に傷口に当てるガーゼまたは包帯に繊維シート200を用い、検知信号出力部191が、時間経過に伴って漏血が凝固する状態変化を検知するようにしてもよい。より具体的には、検知信号出力部191がタイマを具備し、手術終了時などから所定時間経過したことを検知すると血液凝固の有無を判定する。血液凝固無しと判定した場合、検知装置100は、止血の確認を促す警報を出力する。
また、傷口からの出血が止まった後、検知信号出力部191が非凝固血を検知した場合、検知装置100が、傷口が開いた可能性を示す警報を出力するようにしてもよい。
【0056】
次に、
図9〜
図12を参照して、センサ繊維(糸)を用いての周波数特性の時間変化の測定実験について説明する。
図9及び
図10は、センサ繊維の概略構造を示す構造図である。同図に示すセンサ繊維230は、有機繊維によって形成された芯234と、芯234を被覆する銅箔235と、を有する導電性糸231、233を有している。導電性糸231及び導電性糸233は、それぞれ、吸水性を有する絶縁素材である絶縁用木綿232(第一絶縁部)、第二絶縁用木綿236(第二絶縁部)によって被覆されている。具体的には、センサ繊維230は、複数の第一導電性糸231(第一導電体210として機能する)からなる導電性糸群を絶縁用木綿232によって被覆し、絶縁用木綿232の外周に絶縁性木綿236によって被覆されている第二導電性糸233(第二導電体220として機能する)を螺旋状に巻き付けることで構成されている。即ち、第二導電性糸233は、第二絶縁部236の外周側に配置されている。
第一導電性糸231が絶縁性木綿232に覆われるとともに、第二導電性糸233が絶縁性木綿236で覆われていることによって、絶縁性糸231、233が体表面等に直接触れることがなくなる。
なお、導電性糸232、233を被覆する絶縁素材は、木綿に限ることはなく、吸水性を有する絶縁素材であれば採用が可能である。例えば、レーヨン、絹等も採用することができる。
【0057】
図10は、センサ繊維230の層構造を示す説明図である。
図10は、センサ繊維230の断面における層構造を示している。同図に示すように、導電性糸231と導電性糸233との間に絶縁用木綿232及び絶縁用木綿236が介在している。絶縁用木綿232及び絶縁用木綿236が液体を吸収すると、導電性糸231と導電性糸233との間の周波数特性が変化する。
このような同軸構造とする主な理由は、体動や腕部上の重ね巻によるノイズの低減である。同軸構造とすることで、導電性糸231と導電性糸233間の電流密度が最大となり、かつ、センサ繊維外側からのノイズの影響を少なくできる。さらに、センサ繊維230が誘電率の高い皮膚に触れたり、腕部にセンサ繊維230を多重に巻くことでセンサ繊維230同士が接触しても、測定値の変動はほとんど生じない。
【0058】
次に、センサ繊維230の製造装置について説明する。
図9及び
図10に示すセンサ繊維230は、延伸された芯線に被覆線を巻き付ける、所謂カバーリングを用いて製造することができる。
図11は、センサ繊維の製造装置50の概略図である。
図11に示すように、センサ繊維の製造装置50は、芯線を供給する第一供給リール51と、被覆糸を供給する第二供給リール52と、複数のフィードローラー53と、仮撚装置54と、巻き取りローラー55と、を有している。製造装置50は、仮撚装置54を調整することによって、被覆する被覆線のピッチ(糸の長手方向のピッチ)を、任意に変更することができる。
【0059】
次に、センサ繊維230の製造方法について説明する。
まず、芯線として導電性糸231(導電性糸群)を第一供給リール51にセットすると共に、被覆糸として絶縁用木綿232をセットして、絶縁用木綿232によって被覆(カバーリング)された導電性糸231(以下、第一加工糸と呼ぶ)を製造する。第一加工糸は、巻き取りローラー55によって巻き取られる。
同様の方法で、絶縁用木綿236によって被覆された導電性糸233を製造する。
【0060】
次に、第一加工糸を第一供給リール51にセットすると共に、導電性糸233を第二供給リール52にセットして、導電性糸233が巻かれた第一加工糸(以下、第二加工糸と呼ぶ)を製造する。
このような製造方法を用いることによって、より容易にセンサ繊維230を製造することができる。即ち、カバーリングを用いることによって、既存の製造装置を利用してセンサ繊維230を製造することができる。
センサ繊維230の製造方法はこれに限らず、例えば、組み紐のように、芯線である導電性糸と被覆線である絶縁性木綿とを編むなどして製造してもよい。
【0061】
図12は、センサ繊維に食塩水または血液(豚血液)を滴下した状態でのインピーダンスの大きさZの測定値の時間変化を示すグラフである。同図に示すグラフの横軸は滴下からの経過時間を示し、縦軸はインピーダンスを示す。線L51は、食塩水を滴下した状態でのインピーダンスを示し、線L52は、血液を滴下した状態でのインピーダンスを示す。
図12の例では、センサ繊維230(導電性糸231および233)に、75キロヘルツの交流信号を入力している。
線L51に示される食塩水の滴下ではインピーダンスがほとんど変化していないのに対し、線L52に示される血液の滴下ではインピーダンスが一度減少した後増大している。
なお、センサ繊維に食塩水または血液を滴下する前は、インピーダンスが非常に高値を示すことは、いうまでもない。
【0062】
図13は、センサ繊維に食塩水または血液(豚血液)を滴下した状態での位相差の測定値の時間変化を示すグラフである。ここでの位相差は、導電性糸231および233に入力される交流信号の位相に対する、導電性糸231と233との間に流れる交流信号の位相差(位相遅れ)である。
図13に示すグラフの横軸は滴下からの経過時間を示し、縦軸は位相差を示す。線L61は、食塩水を滴下した状態での位相差を示し、線L62は、血液を滴下した状態での位相差を示す。
図12の例では、センサ繊維230(導電性糸231および233)に、1メガヘルツの交流信号を入力している。
【0063】
線L61に示される食塩水を滴下した状態よりも、線L62に示される血液を滴下した状態の方が、位相差が大きい。また、食塩水の滴下では位相差がほとんど変化していないのに対し、血液の滴下では時間経過に伴って位相が遅れている。
図12や
図13に示されるように、食塩水と血液とでは周波数特性の時間変化にも差が生じる。そこで、検知信号出力部191の検知条件として、周波数の違いによる周波数特性の違いに加えて、あるいは代えて、時間経過による周波数特性の変化についての条件を用いるようにしてもよい。
【0064】
図3〜
図13を参照して説明した食塩水と血液との周波数特性の違いは、血液中の赤血球の構造に起因すると考えられる。より具体的には、赤血球細胞膜に起因する誘電体により、インピーダンスや位相差が周波数に応じて変化すると考えられる。このことから、検知装置100は、汗に限らず水やコーラなど、赤血球細胞膜のような構造を含まない様々な液体と区別して血液を検知し得る。従って、検知装置100では、患者が水やコーラ等の飲料をこぼした場合にも、抜針を誤検知する可能性を低減させることができる。
【0065】
なお、繊維シート200に液体が垂れるとインピーダンス比率が低下する。ここでいうインピーダンス比率は、第一導電体210と第二導電体220との間に、ある周波数の交流信号を入力した場合のインピーダンスを、他の周波数の交流信号を入力した場合のインピーダンスで除算した値である。なお、周波数が低い方の交流信号を入力した場合のインピーダンスを、周波数が高い方の交流信号を入力した場合のインピーダンスで除算する。
図14は、血液及び生理食塩水のインピーダンス比率の時間変化の例を示す説明図である。同図のグラフの横軸は液の滴下からの経過時間を示し、縦軸はインピーダンス比率を示す。
【0066】
同図の例では、サンプリング時間毎に、第一導電体210と第二導電体220との間に5メガヘルツの交流信号と、10キロヘルツの交流信号とを入力してそれぞれインピーダンスを測定している。そして、5メガヘルツの交流信号を入力した場合のインピーダンスを、10キロヘルツの交流信号を入力した場合のインピーダンスで除算してインピーダンス比率を求めている。
【0067】
線L71は、繊維シート200に生理食塩水を滴下した場合のインピーダンス比率の時間変化の例を示す。線L72〜L76は、それぞれ繊維シート200にヘマトクリット(Ht)値20%、30%、43%、41%、44%の血液を滴下した場合のインピーダンス比率の時間変化の例を示す。
同図に示すように、生理食塩水(線L71)を滴下した場合も、いずれのヘマトクリット値の血液(線L72〜L76)を滴下した場合も、インピーダンス比率が低下しているが、滴下後の血液(線L72〜L76)のインピーダンス比率は、生理食塩水(線L71)のそれよりも高値を示しているため、滴下5秒以降であればインピーダンス比率の閾値判別だけでも血液と生理食塩水(汗)を分離できることがわかる。さらに、インピーダンス比率が低下した後、整理食塩水(線L71)の場合は、低いインピーダンス比率を維持している。一方、血液(線L72〜L76)の場合は、インピーダンス比率が一旦低下した後、上昇している。
【0068】
このインピーダンス比率の低下を検知することで、血液に限らず何らかの液体が繊維シート200に垂れたことを検知することができる。検知装置100が、繊維シート200に液体が垂れたことを検知し、さらにその液体が血液か否かを判定することで、血液の漏出に加えて、輸液など血液以外の液体の漏出を検知することができる。
なお、インピーダンス比率の低下に加えて、或いは代えて、インピーダンスの低下を検知することでも、液体の漏出を検知することができる。
【0069】
繊維シート200に垂れた液体が血液か否かの判定は、例えば、インピーダンス比率の時間微分が所定の閾値以上か否かを判定することで行うことができる。具体的には、繊維シート200に垂れた液体が血液である場合、第一導電体210と第二導電体220との間のインピーダンス比率が低下した後、上昇する。このインピーダンス比率の上昇を、インピーダンス比率の時間微分の値にて検知することができる。
【0070】
そこで、検知信号出力部191は、インピーダンス比率の時間微分を算出し、得られたインピーダンス比率の時間微分が所定の閾値以上か否かを判定する。インピーダンス比率の時間微分が所定の閾値以上である場合、検知信号出力部191は、繊維シート200に血液が垂れたと判定する。一方、インピーダンス比率の時間微分が所定の閾値未満である場合、検知信号出力部191は、繊維シート200に血液以外の液体が垂れたと判定する。
【0071】
次に、
図15及び
図16を参照して、検知装置100が、繊維シート200に血液が垂れたこと、及び、血液以外の液体が垂れたことを検知する動作について説明する。
図15は、検知装置100が、繊維シート200に血液が垂れたこと、及び、血液以外の液体が垂れたことを検知する処理手順の例を示すフローチャートである。
同図の処理にて、検知信号出力部191は、変数i(iは、i≧1の正整数)の初期値及び変数jの初期値を設定する(ステップS101)。具体的には、検知信号出力部191は、i=1、j=1とする。ここで、変数iは、周波数特性取得部120が第一導電体210と第二導電体220との間のインピーダンスを測定するサンプリング回数を示す変数である。また、変数jは、検知信号出力部191がインピーダンス測定値に基づいてインピーダンス比率を算出する算出回数を示す変数である。
【0072】
次に、周波数特性取得部120は、第一導電体210と第二導電体220との間のインピーダンス測定値を取得する(ステップS102)。具体的には、交流信号出力部110が、第一導電体210と第二導電体220との間に、所定の第1周波数の交流信号、第2周波数(第1周波数と異なる所定の周波数)の交流信号をそれぞれ入力する。そして、周波数特性取得部120は、第1周波数の交流信号を入力した場合、第2周波数の交流信号を入力した場合それぞれについて、第一導電体210と第二導電体220との間のインピーダンスを測定する。なお、第1周波数は第2周波数よりも低周波であるとする。
なお、以下では、ステップS102で検知装置100が第1周波数を入力した場合、第2周波数を入力した場合それぞれについて、インピーダンスを複数回測定する。1回の測定でも検知装置100は血液の検出及び血液以外の液体を検知し得るが、複数回測定することで、ノイズによる誤検知を低減させることができる。以下では、i番目のサンプリングにて交流信号出力部110が第1周波数の交流信号を入力した場合のインピーダンス測定値をZa(i)と表記し、第2周波数の交流信号を入力した場合のインピーダンス測定値をZb(i)と表記する。周波数特性取得部120は、取得したインピーダンス測定値Za(i)及びZb(i)を記憶部180に記憶させる。
【0073】
次に、検知信号出力部191は、i≧Nか否かを判定する(ステップS103)。ここで、定数N(Nは、N≧1の正整数)は、検知信号出力部191がインピーダンス測定値の移動平均を算出するのに用いるデータ数として予め設定されている定数である。
i<Nであると判定した場合(ステップS103:NO)、検知信号出力部191は、iの値に1を加算(i:=i+1)する(ステップS141)。
ステップS141の後、ステップS102へ戻る。
【0074】
一方、i≧Nであると判定した場合(ステップS103:YES)、検知信号出力部191は、ステップS102で得られたインピーダンス測定値の移動平均を算出する(ステップS104)。具体的には、検知信号出力部191は、周波数特性取得部120が取得した、第1周波数の交流信号入力でのインピーダンス測定値のうち直近N個分(Za(i−N+1)〜Za(i))の移動平均Za_mean(i)を算出する。また、検知信号出力部191は、周波数特性取得部120が取得した、第2周波数の交流信号入力でのインピーダンス測定値のうち直近N個分(Zb(i−N+1)〜Zb(i))の移動平均Zb_mean(i)を算出する。検知信号出力部191は、算出した移動平均Za_mean(i)及びZb_mean(i)を記憶部180に記憶させる。
【0075】
なお、記憶部180は、ステップS102で周波数特性取得部120が取得したインピーダンス測定値を全て記憶しておく必要はない。記憶部180は、第1周波数の交流信号入力でのインピーダンス測定値のうち直近N個分(Za(i−N+1)〜Za(i))と、第2周波数の交流信号入力でのインピーダンス測定値のうち直近N個分(Zb(i−N+1)〜Zb(i))とを記憶知れていればよい。
また、記憶部180は、ステップS104で検知信号出力部191が算出した移動平均を全て記憶しておく必要はない。記憶部180は、第1周波数の交流信号入力でのインピーダンス測定値の移動平均のうち直近1個分Za_mean(i)と、第2周波数の交流信号入力でのインピーダンス測定値の移動平均のうち直近1個分Zb_mean(i)とを記憶していればよい。
【0076】
次に、検知信号出力部191は、ステップS104で得られたインピーダンス測定値の移動平均Za_mean(i)及びZb_mean(i)に基づいてインピーダンス比率Zmean(i)を算出し、Z(j)に格納する(ステップS105)。具体的には、検知信号出力部191は、インピーダンス測定値の移動平均Za_mean(i)をインピーダンス測定値の移動平均Zb_mean(i)で除算して、インピーダンス比率Zmean(i)を算出する。そして、検知信号出力部191は、算出したインピーダンス比率Zmean(i)を、インピーダンス比率Z(j)として記憶部180に記憶させる。
【0077】
次に、検知信号出力部191は、j≧Mか否かを判定する(ステップS106)。ここで、定数M(Mは、M≧2の正整数)は、検知信号出力部191が繊維シート200への液体の滴下の有無を判定するのに用いるデータ数として予め設定されている定数である。
なお、記憶部180は、ステップS105で検知信号出力部191が算出したインピーダンス比率のうち、少なくとも直近M個分(Z(j−M+1)〜Z(j))を記憶しておく。記憶部180が、ステップS105で検知信号出力部191が算出したインピーダンス比率を全て(Z(1)〜Z(j))記憶しておくようにしてもよい。
【0078】
j<Mであると判定した場合(ステップS106:NO)、検知信号出力部191は、i、jそれぞれの値に1を加算(i:=i+1、j:=j+1)する(ステップS151)。
ステップS151の後、ステップS102へ戻る。
【0079】
一方、j≧Mであると判定した場合(ステップS106:YES)、検知信号出力部191は、ステップS106で得られた直近M個のインピーダンス比率が全て液体検知閾値以下か否かを判定する(ステップS107)。すなわち、検知信号出力部191は、Z(j−M+1)≦液体検知判定閾値、・・・、かつ、Z(j)≦液体検知判定閾値か否かを判定する(ステップS107)。
直近M個のインピーダンス比率のいずれかが液体検知閾値より大きいと判定した場合(ステップS107:NO)、ステップS151へ遷移する。
【0080】
一方、直近M個のインピーダンス比率が全て液体検知閾値以下であると判定した場合(ステップS107:YES)、検知信号出力部191は、血液判定処理を行う(ステップS111)。ここでいう血液判定処理は、繊維シート200に垂れた液体が血液か否かの判定を行う処理である。
【0081】
図16は、検知信号出力部191が血液判定処理を行う手順を示すフローチャートである。検知信号出力部191は、
図15のステップS111にて
図16の処理を行う。
図16の処理にて、検知信号出力部191は、
図15のステップS105で得られた直近のインピーダンス比率Z(j)が所定のインピーダンス比率閾値以上か否かを判定する(ステップS201)。
【0082】
直近のインピーダンス比率Z(j)がインピーダンス比率閾値以上であると判定した場合(ステップS201:YES)、検知信号出力部191は、
図15のステップS105で得られた直近M個のインピーダンス比率Z(j−M+1)〜Z(j)から時間微分の平均値Z(j)div_meanを算出する(ステップS211)。
具体的には検知信号出力部191は、インピーダンス比率Z(j−M+2)からインピーダンス比率Z(j−M+1)を減算した差を、
図15のステップS102でのインピーダンス測定の時間間隔(サンプリング周期)で除算して、インピーダンス比率Z(j−M+1)の時間微分を算出する。検知信号出力部191は、このように、インピーダンス比率Z(j−M+k+1)からインピーダンス比率Z(j−M+k)を減算した差を、
図15のステップS102でのインピーダンス測定の時間間隔で除算してインピーダンス比率Z(j−M+k)の時間微分を算出する処理を、1≦k≦M−1となる全ての正整数kについて行う。
そして、検知信号出力部191は、得られた全ての時間微分(インピーダンス比率Z(j−M+1)の時間微分〜インピーダンス比率Z(j−1)の時間微分)の平均値を算出して、時間微分の平均値Z(j)div_meanとする。
【0083】
そして、検知信号出力部191は、ステップS211で得られたインピーダンス比率の時間微分Z(j)div_meanが所定の時間微分閾値以上か否かを判定する(ステップS212)。
インピーダンス比率の時間微分Z(j)div_meanが時間微分閾値以上であると判定した場合(ステップS212:YES)、検知信号出力部191は、繊維シート200に垂れた液体は血液であると判定する(ステップS221)。
ステップS221の後、
図16の処理を終了し、
図15の処理に戻る。
【0084】
一方、ステップS221にて、インピーダンス比率の時間微分Z(j)div_meanが時間微分閾値未満であると判定した場合(ステップS212:NO)、検知信号出力部191は、繊維シート200に垂れた液体は血液以外の液体であると判定する(ステップS231)。
ステップS231の後、
図16の処理を終了し、
図15の処理に戻る。
一方、ステップS201でインピーダンス比率Z(j)がインピーダンス比率閾値未満であると判定した場合(ステップS201:NO)、ステップS231へ遷移する。
【0085】
図15の処理に戻って、ステップS111での血液判定処理を終了すると、検知信号出力部191は、ステップS111での判定結果に基づいて条件分岐を行う(ステップS112)。具体的には、検知信号出力部191は、繊維シート200に垂れた液体が血液であると判定したか否かで条件分岐を行う。
繊維シート200に垂れた液体が血液であると判定した場合(ステップS112:YES)、警報出力部130が、漏血検知警報を出力する(ステップS121)。ここでいう漏血検知警報は、繊維シート200に血液が垂れたことを示す警報である。
ステップS121では、検知信号出力部191が、繊維シート200に血液が垂れたことを示す検知信号を警報出力部130へ出力する。そして、警報出力部130は、検知信号出力部191からの検知信号に従って、漏血検知警報を出力する。
ステップS121の後、
図15の処理を終了する。
【0086】
一方、繊維シート200に垂れた液体が血液以外の液体であると判定した場合(ステップS122:NO)、警報出力部130が、液体検知予備警報を出力する(ステップS131)。ここでいう液体検知予備警報は、繊維シート200に血液以外の液体が垂れたことを示す警報である。
ステップS122では、検知信号出力部191が、繊維シート200に血液以外の液体が垂れたことを示す検知信号を警報出力部130へ出力する。そして、警報出力部130は、検知信号出力部191からの検知信号に従って、液体検知予備警報を出力する。
ステップS131の後、
図15の処理を終了する。
なお、検知装置100が
図15の処理を繰り返し行うようにしてもよい。これにより、検知装置100は、繊維シート200に血液以外の液体が垂れたことを検知した後、さらに繊維シート200に血液が垂れた場合に、当該血液が垂れたことを検知することができる。
【0087】
なお、検知装置100又は人が、Cole−Cole軌跡を用いて血液と血液以外の液体とを区別するようにしてもよい。例えば、検知信号出力部191が、
図16のステップS201での、繊維シート200に垂れた液体が血液か否かをインピーダンス比率の平均値と閾値との比較にて判定する処理に代えて、Cole−Cole軌跡を用いて当該判定を行うようにしてもよい。Cole−Cole軌跡を用いて血液と血液以外の液体とを区別する処理について
図17及び
図18を参照して説明する。
なお、
図17の説明及び
図18の説明では、インピーダンスを、レジスタンス(Resistance)を実部に含み、リアクタンス(Reactance)を虚部に含む複素数で示す。
【0088】
図17は、インピーダンスの測定にて得られるCole−Cole軌跡の例を示す説明図である。同図に示すグラフの横軸はインピーダンスの実部を示し、縦軸はインピーダンスの虚部を示す。なお、
図17では、規格化されたインピーダンス値(インピーダンス値を所定の大きさ(実数)で除算した値)を用いている。但し、インピーダンス値を規格化せず、インピーダンス値そのものに基づいてCole−Cole軌跡を求めるようにしてもよい。
【0089】
同図の線L81は、インピーダンスの測定値をベクトルで示す。角度φは、入力信号とインピーダンス測定値との位相差を示す。このように、インピーダンスの大きさ(またはインピーダンスの実部の大きさ=レジスタンス)と位相差に基づいて、インピーダンス測定値をグラフにプロットすることができる。
また、線L82は、Cole−Cole軌跡を示す。ここで、Cole−Cole軌跡は円弧の一部の形状を有する。
Cole−Cole軌跡は、インピーダンス測定値から求められる。具体的には、繊維シート200への入力信号の周波数を変えて複数回、インピーダンスの大きさ(またはレジスタンス)と、位相差(角度φ)とを測定し、得られた測定値を円弧の一部で近似する(カーブフィッティングを行う)ことでCole−Cole軌跡を得る。インピーダンス測定値からCole−Cole軌跡を求める方法(カーブフィッティングを行う方法)として、例えば最小二乗法など公知の近似手法を用いることができる。Cole−Cole軌跡を求めるため、交流信号出力部110は、第一導電体210と第二導電体220との間に周波数の異なる少なくとも3つの交流信号を入力し、周波数特性取得部120は、第一導電体210と第二導電体220との間の周波数特性を、入力された交流信号毎に取得する。
【0090】
点P11は、Cole−Cole軌跡を示す円弧の中心(当該円弧を円周の一部に含む円の中心)を示す。点P12、P13は、それぞれCole−Cole軌跡と横軸との交点である。2つある交点のうち、インピーダンスの実部が小さい方を点P12とし、インピーダンスの実部が大きい方を点P13とする。また、点P14は、Cole−Cole軌跡を示す円弧の中点である。従って、点P11と点P14とを結んだ線分(線L84)は、点P11と点P12(線L83)とを結んだ線分と、点P11と点P13とを結んだ線分のなす角を二等分する。
角度απ/2は、点P12と点P11(線L83)とを結んだ線分と横軸とのなす角である。
Cole−Cole軌跡は、式(1)のように示される。
【0092】
ここで、Z(f)は、周波数fの信号を入力した場合のインピーダンスを示す。R
∞は、周波数無限大の信号を入力した場合のレジスタンス(インピーダンスの実部)を示す。R
∞を実測することはできないので、Cole−Cole軌跡と横軸との交点(2つある交点のうち、レジスタンスが小さい方)から読み取る。
図17の例では、点P12が示すレジスタンスを、R
∞として用いる。
R
0は、周波数0の信号、すなわち直流信号を入力した場合のレジスタンスを示す。R
0を実測するようにしてもよいし、Cole−Cole軌跡と横軸との交点(2つある交点のうち、レジスタンスが大きい方)から読み取るようにしてもよい。
図17の例では、点P13が示すレジスタンスを、R
0として用いることができる。
また、f
cは、点P14に対応する中心周波数(点P14が示すインピーダンス値を得られる入力周波数)を示す。
また、jは虚数単位を示す。αは、上述した角度απ/2をπ/2で除算して得られる値の係数を示す。
【0093】
図18は、膜を有する液体のインピーダンスを模擬する等価回路モデルを示す説明図である。
R
iは液体に含まれる膜を有する物体によるレジスタンスを示す。例えば液体が血液である場合、赤血球が膜を有する物体に該当する。C
mは、液体に含まれる膜を有する物体によるキャパシタンスを示す。なお、ここでのキャパシタンスは、
図17におけるリアクタンスと同視できる。R
eは、液体に含まれる膜を有する物体以外の物体によるレジスタンスを示す。例えば液体が血液である場合、血漿が膜を有する物体以外の物体に該当する。
【0094】
ここでいう等価回路モデルは、モデル化対象(ここでは、膜を有する液体)のインピーダンスと等しい、又は、ほぼ等しいインピーダンスを示す電気回路である。等価回路を構成する素子として、電気抵抗(レジスタ)、コンデンサ(キャパシタ)及びコイル(リアクタ)のうち1つ以上を用いる。例えば、
図18に示す等価回路モデルは、レジスタンスR
iの電気抵抗、キャパシタンスC
mのコンデンサ、及び、レジスタンスR
eの電気抵抗を用いて構成されている。
【0095】
また、等価回路モデルを構成する素子のレジスタンス、キャパシタンス又はインピーダンスを回路パラメータと称する。例えば、
図18に示す等価回路モデルでは、レジスタンスR
i、キャパシタンスC
m、レジスタンスR
eの各々が回路パラメータに該当する。
回路パラメータの値が変化すると、等価回路モデルのインピーダンスが変化する。検知信号出力部191又は人は、後述するように、等価回路モデルのインピーダンスがモデル化対象のインピーダンス測定値と等しくなる、又は、ほぼ等しくなる回路パラメータ値(回路パラメータの値)を算出する。
【0096】
なお
図18は、等価回路モデルの一例であり、より複雑な構造を有する等価回路モデルにおいても同手法を適用可能である。例えば、
図18に示す1分散モデルに代えて、検知信号出力部191又は人が、2分散モデル又は3分散モデルを用いるようにしてもよい。
ここでいう1分散モデルは、電気抵抗とコンデンサ(又はコイル)との直列接続1つと電気抵抗とが並列接続された電気回路にて構成されるモデルである。一方、2分散モデルは、電気抵抗とコンデンサ(又はコイル)との直列接続2つと電気抵抗とが並列接続された電気回路にて構成されるモデルである。3分散モデルは、電気抵抗とコンデンサ(又はコイル)との直列接続3つと電気抵抗とが並列接続された電気回路にて構成されるモデルである。
【0097】
モデル化対象が血液である場合、赤血球は、1重の膜の構造になっていることから、1分散モデルを用いてモデル化対象のインピーダンスを模擬することができる。
一方、モデル化対象が動物細胞である場合、動物細胞は、細胞膜の中に核を有していることから2重の膜の構造になっている。このように、モデル化の対象が2重の膜の構造を有している場合、2分散モデルを用いてモデル化対象のインピーダンスを模擬することができる。また、モデル化の対象が3重の膜の構造を有している場合、3分散モデルを用いてインピーダンスを模擬することができる。
【0098】
検知信号出力部191又は人は、インピーダンス測定値から得られたCole−Cole軌跡に基づいて、モデルパラメータの値(レジスタンスR
i、キャパシタンスC
m及びレジスタンスR
eの値)を求める。
具体的には、Cole−Cole軌跡から求められるレジスタンスR
0、レジスタンスR
∞及び中心周波数f
cを用いて、以下のようにレジスタンスR
i、キャパシタンスC
m及びレジスタンスR
eの値を求めることができる。
まず、レジスタンスR
eは、式(2)のように求められる。
【0100】
また、レジスタンスR
∞は式(3)のように表される。
【0102】
式(2)を式(3)に代入して式(4)を得られる。
【0104】
また、中心周波数f
cは式(5)のように示される。
【0106】
式(5)を変形して式(6)を得られる。
【0108】
検知信号出力部191又は人は、式(1)、(3)、(6)を用いて、それぞれインピーダンスR
e、インピーダンスR
i、キャパシタンスC
mを算出する。
ここで、液体に含まれる膜や組織構造によってレジスタンスR
i、キャパシタンスC
m、レジスタンスR
eの値が異なる。そこで、これらの値から液体の種類を推定することができる。
例えば、検知信号出力部191又は人は、キャパシタンスC
mと所定の閾値(血液検出用の閾値)とを比較することで、繊維シート200に垂れた液体(測定対象となっている液体)が血液か否かを判定する。キャパシタンスC
mが血液検出用の閾値よりも大きい場合、検知信号出力部191又は人は、繊維シート200に垂れた液体は血液であると判定する。一方、キャパシタンスC
mが血液検出用の閾値以下である場合、検知信号出力部191又は人は、繊維シート200に垂れた液体は血液以外の液体であると判定する。
【0109】
なお、検知信号出力部191又は人が、等価回路モデルに含まれる全てのモデルパラメータの値を求めるようにしてもよいし、一部のモデルパラメータの値のみを求めるようにしてもよい。
例えば、
図18の例で、検知信号出力部191又は人が、インピーダンスR
e、インピーダンスR
i、及び、キャパシタンスC
mを算出し、それぞれの値と閾値とを比較して、繊維シート200に垂れた液体が血液か否かを判定するようにしてもよい。あるいは、検知信号出力部191又は人が、インピーダンスR
e、インピーダンスR
i、及び、キャパシタンスC
mのうちキャパシタンスC
mのみを算出し、上記のようにキャパシタンスC
mと閾値とを比較して、繊維シート200に垂れた液体が血液か否かを判定するようにしてもよい。
【0110】
なお、Cole−Cole軌跡を求めるために周波数の異なる少なくとも3つの交流信号を入力する方法として、導電体間にパルス信号またはステップ信号を入力するようにしてもよい。この場合、インピーダンス測定値をフーリエ変換することで、異なる入力周波数毎のインピーダンス測定値を得られる。
これにより、周波数を変化させながら導電体間に交流信号を入力する場合よりも、導電体間への信号の入力に要する時間が短くてすむ。
【0111】
あるいは、Cole−Cole軌跡を求めるために周波数の異なる少なくとも3つの交流信号を入力する方法として、異なる周波数の正弦波を3つ以上重ね合わせた信号を導電体間に入力するようにしてもよい。この場合も、インピーダンス測定値をフーリエ変換することで、異なる入力周波数毎のインピーダンス測定値を得られる。
これにより、周波数を変化させながら導電体間に交流信号を入力する場合よりも、導電体間への信号の入力に要する時間が短くてすむ。
【0112】
以上のように、交流信号出力部110は、繊維シートに設けられた複数の導電体間に周波数の異なる少なくとも3つの交流信号を入力する交流信号入力ステップを実行する。あるいは、人が複数の導電体間に周波数可変の交流信号出力装置(交流電源)を接続して交流信号入力ステップを実行するようにしてもよい。
そして、周波数特性取得部120は、交流信号入力ステップで入力した交流信号毎に導電体間のインピーダンス測定値を取得するインピーダンス測定値取得ステップを実行する。あるいは、人がインピーダンス測定装置(例えばオシロスコープ)を用いてインピーダンス測定値取得ステップを実行するようにしてもよい。
【0113】
そして、検知信号出力部191は、インピーダンス測定値取得ステップで得られたインピーダンス測定値を円弧の一部で近似するCole−Cole軌跡を求めるCole−Cole軌跡取得ステップを実行する。あるいは、人がCole−Cole軌跡取得ステップを実行するようにしてもよい。
そして、検知信号出力部191は、膜を有する液体のインピーダンスを模擬する所定の等価回路モデルにおけるキャパシタンスをCole−Cole軌跡に基づいて求めるキャパシタンス取得ステップを実行する。あるいは人が、キャパシタンス取得ステップを実行するようにしてもよい。
そして、検知信号出力部191は、得られたキャパシタンスに基づいて液体の種類を推定する液体種類推定ステップを実行する。あるいは人が、液体種類推定ステップを実行するようにしてもよい。
これにより、検知信号出力部191又は人は、繊維シート200に血液が垂れたか否かの判定を高精度に行うことができる。
なお、検知信号出力部191が、繊維シート200に血液が垂れたと液体種類推定ステップで判定した場合、警報出力部130が漏血検知警報を出力するようにしてもよい。
【0114】
なお、検知信号出力部191又は人が、繊維シート200に垂れた液体が血液以外の所定の液体か否かを判定するようにしてもよい。例えば、繊維シート200に牛乳が垂れた場合、キャパシタンスC
mは血液の場合よりも小さくなる。そこで、検知信号出力部191又は人は、血液検出用の閾値とキャパシタンスC
mとの比較に加えて、牛乳検出用の閾値として予め定められている血液検出用の閾値よりも小さい値の閾値と、キャパシタンスC
mとを比較する。キャパシタンスC
mが牛乳検出用の閾値よりも大きく、かつ、血液検出用の閾値以下である場合、検知信号出力部191又は人は、繊維シート200に垂れた液体は牛乳であると判定する。
【0115】
以上のように、交流信号出力部110が導電体間(第一導電体210と、第二導電体220との間)に周波数の異なる複数の交流信号を入力し、周波数特性取得部120が取得した周波数特性が交流信号出力部110からの交流信号の周波数の相違に応じて所定の相違を示し、かつ、交流信号出力部110が導電体間に交流信号を複数回入力し、周波数特性取得部120が取得した周波数特性が交流信号出力部110からの交流信号の入力の時間経過に応じて所定の変化を示す場合、検知信号出力部191が検知信号(漏血検知警報)を出力する。
このように、検知信号出力部191が、導電体間に入力される交流信号の周波数の相違による導電体間の周波数特性の相違と、時間経過による導電体間の周波数特定の変化との両方に基づいて、検知信号を出力するか否かを判定することで、繊維シートに垂れた液体が所定の液体(例えば血液)か否かを高精度に判定することができ、検知信号を誤って出力する可能性を低減させることができる。
【0116】
また、検知信号出力部191又は人は、導電体間(第一導電体210と第二導電体220との間)のインピーダンス測定値を円弧の一部で近似するCole−Cole軌跡を求める。そして、検知信号出力部191又は人は、膜を有する液体のインピーダンスを模擬する所定の等価回路モデルにおけるキャパシタンスをCole−Cole軌跡に基づいて求め、得られたキャパシタンスから液体の種類を推定する。
このように、繊維シート200に垂れた液体のインピーダンスをモデルで模擬してキャパシタンスを求めることで、検知信号出力部191又は人は、繊維シート200に垂れた液体が所定の液体(例えば血液)か否かの判定を高精度に行うことができる。
【0117】
なお、検知装置100又は人が、入力信号の周波数とインピーダンス測定値との関係を近似する直線の傾きに基づいて血液と血液以外の液体とを区別するようにしてもよい。例えば、検知信号出力部191が、
図16のステップS201での、繊維シート200に垂れた液体が血液か否かをインピーダンス比率の平均値と閾値との比較にて判定する処理に代えて、上記の直線の傾きに基づいて血液と血液以外の液体とを区別するようにしてもよい。上記の直線の傾きに基づいて血液と血液以外の液体とを区別する処理について
図19を参照して説明する。
【0118】
図19は、ある周波数帯域において、入力信号の周波数とインピーダンス測定値との関係を近似する直線の例を示す説明図である。同図に示すグラフの横軸は入力信号の周波数(入力周波数)を示し、縦軸はインピーダンス(インピーダンスの大きさ)を示す。
線L91は、血液に対する入力信号の周波数とインピーダンス測定値との関係を近似する直線の例を示す。具体的には、点P911、P912、P913、P914は、それぞれ、血液に交流信号を入力した場合の、入力周波数とその周波数でのインピーダンスとの関係を示す。線L91は、点P911、P912、P913、P914を直線近似して得られる線である。
【0119】
また、線L92は、食塩水に対する入力信号の周波数とインピーダンス測定値との関係を近似する直線の例を示す。具体的には、点P921、P922、P923、P924は、それぞれ、食塩水に交流信号を入力した場合の、入力周波数とその周波数でのインピーダンスとの関係を示す。線L92は、点P921、P922、P923、P924を直線近似して得られる線である。
【0120】
線L91に例示されるように、血液の場合は、近似直線の傾きが負の値になる。すなわち、血液は、入力周波数が高いほど小さいインピーダンスを示し、これにより、血液の場合の近似直線は右下がりになる。これに対し、線L92に例示されるように、食塩水の場合は、近似直線の傾きの大きさは、血液の場合よりも小さくなる。すなわち、食塩水の場合は、入力周波数の変化に対するインピーダンスの変化の大きさが小さく、これにより、食塩水の場合の近似直線は、血液の場合と比較すると水平(横軸と平行)に近い。
【0121】
そこで、検知装置100又は人が、入力信号の周波数とインピーダンス測定値との関係を近似する直線の傾きに基づいて血液と血液以外の液体とを区別する。
例えば、検知装置100の記憶部180は、近似直線の傾きの閾値を負の実数の定数にて予め記憶しておく。そして、検知装置100の検知信号出力部191は、測定対象物への入力信号の周波数とインピーダンス測定値との関係を直線近似する線の傾きを求める。直線近似の方法としては、例えば最小二乗法を用いることができるが、これに限らない。また近似式は一次関数に限らず、多次関数、指数関数、対数関数、ロジスティック曲線などによる曲線近似を用いてもよい。そして、検知信号出力部191は、得られた傾きと閾値とを比較し、傾きが閾値よりも小さい場合(すなわち、傾きの大きさが閾値の大きさよりも大きい場合)、血液を検知したと判定する。一方、傾きが閾値以上である場合(すなわち、傾きの大きさが閾値の大きさ以下である場合)、検知信号出力部191は、血液を検知していないと判定する。
【0122】
さらに例えば、記憶部180は、閾値の値を、−0.000001(−1×10
−6)と記憶しておく。そして、得られた傾きが−0.000004(−4×10
−6)であった場合、検知信号出力部191は、血液を検知したことを示す検知信号を出力する。すなわち、検知信号出力部191は、血液を検知した判定する。
一方、得られた傾きが−0.0000008(−8×10
−7)であった場合、検知信号出力部191は、検知信号の出力を抑制する。すなわち、検知信号出力部191は、血液を検知していないと判定する。
【0123】
このように、検知信号出力部191は、入力信号の周波数とインピーダンス測定値との関係を近似する直線の傾きを求め、得られた傾きと閾値とを比較するという比較的簡単な処理で、血液など所定の液体を検出したか否かを判定することができる。この点で、検知信号出力部191の負荷を低減させることができる。
さらに、
図16のステップS211からS212において近似直線または近似曲線の傾きなどの時間変化を用いて血液などの検知判定を行うようにしてもよい。
【0124】
次に、
図20を参照して、第一導電体210として機能する第一導電性糸231、及び第二導電体220として機能する第二導電性糸233を有する包帯状の繊維シート200の詳細構造について説明する。
包帯状の繊維シート200は、例えば人工透析時に針を穿刺される腕など漏血監視対象部位に巻きつけて用いられる。その際、繊維シート200を任意の長さに切断可能であり、導電性糸231、233の端部の一方において2つの導電性糸231、233をそれぞれ交流信号出力部110に接続することで、
図1の構成とすることができる。これにより、検知装置100は、上述したように漏血を検知することができる。
図20に示すように、繊維シート200は、吸水性を有する絶縁性の繊維シート本体201に、センサ繊維230が波状に蛇行して編み込まれて(縫い付けられて)構成されている。
【0125】
センサ繊維230の端部の一方において2本の導電性糸231、233をそれぞれ交流信号出力部110に接続することで、
図1の構成とすることができる。これにより、検知装置100は、上述したように漏血を検知することができる。特に、センサ繊維230を蛇行させて配置することで、検知装置100は、繊維シート200の様々な部分において、漏血など液体の染み込みを検知することができる。
【0126】
2つの導電性糸231、233が絶縁用木綿232によって互いに接触しないように配置されたセンサ繊維230を用いることで、1本のセンサ繊維230を繊維シート本体201に編み込んで、または縫い付けて繊維シート200を構成することができる。
これにより、2つの導電体を比較的狭い間隔で配置することができ、液体が繊維シート200に染み込んだ際に、検知信号出力部191の検知精度を高めることができる。
しかも、2つの導電体(導電性糸231、233)を、互いに接触しないように、かつ、比較的狭い間隔で、包帯または繊維シート等にそれぞれ編み込む、または縫い付ける場合よりも簡単に繊維シート200を生成することができる。これにより、繊維シート200の製造コストを低減させることができる。
【0127】
次に、センサ繊維230を含んだ包帯状の繊維シート200の製造方法について説明する。
センサ繊維230を編み込んだ繊維シート200は、以下の三つのパターンで製造することができる。
(パターンA)
パターンAの繊維シート200(包帯)は、構成要素として(1)経糸、(2)弾性糸、(3)緯糸、及び(4)センサ繊維、を有している。
次に、パターンAの繊維シート200の製造方法を説明する。まず、伸縮性を有する糸(例えば、ポリウレタンを芯材としたカバーリング糸)を経糸として編目を作り、弾性糸(例えば、ポリウレタンを芯材としたカバーリング糸)を挿入しながら緯糸を編み込んだものをベース生地となる繊維シート本体201(伸縮性包帯)とする。この繊維シート本体201に、センサ繊維を挿入編み込みしてパターンAの繊維シート200とする。
【0128】
(パターンB)
パターンBの繊維シート200は、構成要素として(1)経糸、(2)弾性糸、(3)緯糸、及び(4)センサ繊維、を有している。パターンBの繊維シート200は、経糸として非伸縮性の糸を使用する以外は、パターンBの繊維シート200と同様の構成である。
【0129】
(パターンC)
パターンCの繊維シート200は、構成要素として(1)経糸、(2)緯糸、及び(3)センサ繊維、を有している。即ち、パターンCの繊維シート200は、弾性糸を用いない繊維シート200である。
次に、パターンCの繊維シート200の製造方法を説明する。まず、伸縮性を有する糸(例えば、ポリウレタンを芯材としたカバーリング糸)を経糸として編目を作り、緯糸を編み込んだものをベース生地となる繊維シート本体201とする。この繊維シート本体201に、センサ繊維を挿入編み込みしてパターンCの繊維シート200とする。
【0130】
次に、パターンAの繊維シート200を例に、包帯状の繊維シート200の製造方法の詳細を説明する。
図21は、包帯状の繊維シート200の経糸の編組織を示した図である。
まず、
図21に示すように、経糸のニッティング方法は、
図21(a)に示すオープンクロッシェ、
図21(b)に示すクローズクロッシェ、
図21(c)に示すクローズトリコット、
図21(d)に示すオープントリコット、のいずれかを採用することができる。また、これらを組み合わせてもよい。トリコット編みに関しては、
図21に示すように、隣り合う編み針にニットするだけでなく、1針飛ばしや2針飛ばしとしてもよい。
図21において、Nは編み針を示している。
図21(a)から
図21(d)は、縦方向Pの下方から時系列で上方へと編み工程が進んでいくことを示している。線S1は、編み針Nにかかる経糸の運びを示している。
【0131】
図21(a)に示すオープンクロッシェ、及び
図21(b)に示すクローズクロッシェは、左右方向に1本の編み針Nによって編成されている。
図21(a)に示すように、オープンクロッシェでは、一番下に示すメインシャフト1回転目P1において左から右へ経糸S1がかかり、次のメインシャフト2回転目P2において、右から左へ経糸S1がかかる。次のメインシャフト3回転目P3において、左から右左へ経糸S1がかかり、以下、この経糸S1の運びが繰り返される。
図21(c)に示すクローズトリコット、及び
図21(d)に示すオープントリコットは、左右方向に隣り合う2本の編み針Nによって編成されている。つまり、一本の経糸S1が、左の編み針Nにかかったり、右の編み針Nにかかったりを繰り返して編成している。具体的には、
図21(d)に示すように、メインシャフト1回転目においては、左側の針Nに左から右へ経糸S1がかかり、メインシャフト2回転目においては、右側の隣り合う針Nに右から左へ経糸S1がかかる。メインシャフト3回転目以降は、この経糸S1の運びが繰り返される。
図21(b)に示すクローズクロッシェを用いて編むことによって、
図21(e)に示すような編み紐ができる。この編み紐を緯糸でつなぎ合わせることによって、例えば、80mm幅の包袋状とすることができる。
【0132】
次に、弾性糸S3を編み込む。
図22に示すように、弾性糸S3は、コース方向(矢印C方向で示す伸縮方向、繊維シート200の長手方向)に対して1針に対して1編目ごとに交互に挿入させて編み込む。
【0133】
緯糸S2の挿入方法は、例えば、以下の4つの方法を採用することができる。
緯糸S2の第1の挿入方法について説明する。緯糸S2の第1の挿入方法は、
図23に示すように、繊維シート200の繊維シート本体201(ベース生地、
図20参照)を形成する緯糸S2を1編目ごとに繊維シート200の両端を往復するように挿入させて繊維シート本体201を編成する方法である。
このような方法を採用することによって、より容易に包帯のベース生地となる繊維シート本体201を編成することができる。
【0134】
緯糸S2の第2の挿入方法について説明する。緯糸S2の第2の挿入方法は、
図24に示すように、繊維シート本体201を形成する緯糸S2を繊維シート200のウェール方向(矢印W方向で示す非伸縮方向、繊維シート200の巾方向)に並べて配置することで繊維シート本体201を編成する方法である。
【0135】
緯糸S2の第3の挿入方法について説明する。緯糸S2の第3の挿入方法は、
図25に示すように、繊維シート本体201を形成する緯糸S2を任意の編目ごとに振り方を変化させるように挿入させてベースとなる繊維シート本体201の任意の部分にメッシュMなどの特殊なベース生地を編成する方法である。
【0136】
緯糸S2の第4の挿入方法について説明する。緯糸S2の第4の挿入方法は、
図26に示すように、繊維シート本体201を形成する緯糸S2を任意の編目ごとに振り方を変化させるように挿入させて繊維シート本体201の任意の部分にボタンホールBHなどの特殊なベース生地を編成する方法である。
【0137】
次に、センサ繊維230を編み込む。センサ繊維230の編み込み方法は、例えば、以下の2つの方法を採用することができる。
センサ繊維230の第1の編み込み方法について説明する。センサ繊維230の第1の編み込み方法は、
図27に示すように、センサ繊維230を波形(サインカーブ状)となるように、任意の長さ、任意の周期で繊維シート200の中央部に挿入させて編成する方法である。
このような方法を採用することによって、バランス良くセンサ繊維230を配置することができる。なお、センサ繊維230の配置形状は、上記した波形に限らず、例えば、矩形波状としてもよい。
【0138】
センサ繊維230の第2の編み込み方法について説明する。センサ繊維230の第2の編み込み方法は、
図28に示すように、センサ繊維230を、例えば、繊維シート200の一方の端に挿入して、特定の部分でウェール方向Wの幅を大きくしたり、コース方向C方向の周期(繊維シート200の延在方向に隣り合うセンサ繊維230の間隔)を小さくしたりする方法である。即ち、センサ繊維230の波形の振幅、及び周期は、任意に変更してもよい。
このような方法を採用することによって、目的に応じたセンシングが可能となる。
【0139】
次に、センサ繊維230が配置された繊維シート200と、検知装置100との接続方法について説明する。
センサ繊維230の第一導電性糸231(第一導電体210)及び第二導電性糸233(第二導電体220)と検知装置100との接続には、コネクタを使用する。以下、第一コネクタ60、第二コネクタ75、第三コネクタ90、及び第四コネクタ95を用いた、四種類の接続構造について説明する。
【0140】
まず、第一コネクタ60について説明する。
図29に示すように、第一コネクタ60は、ケーシング61と、ケーシング61の内部に配置されている基板62と、センサ繊維230と基板62とを接続する接続ユニット63と、を備えている。基板62は、ケーブルなどを介して検知装置100(
図1参照)と接続されている。
接続ユニット63は、ベース部64と、ベース部64上に圧縮コイルばね65を介して載置されているセンサガイド66と、センサガイド66にセンサ繊維230と押し込む押込部材67と、押込部材67をセンサガイド66に押し込むロックレバー68と、を備えている。
【0141】
第一コネクタ60は、センサガイド66に形成されている凹溝69にセンサ繊維230を押し込んで、センサガイド66の凹溝69に配置された端子70、71を介して、センサ繊維230と基板62とを接続する。
図30に示すように、センサガイド66は、例えば、ポリアセタール樹脂などのプラスチックによって形成されている、ブロック状の部材である。センサガイド66の上面には、少なくとも1本の凹溝69が形成されている。凹溝69は、一方向に延在する端面U字状の溝であり、直線状に形成されている。
図31に示すように、本実施形態の凹溝69は、センサガイド66の上面に2本設けられており、互いに交差している。
この理由は、
図20のような包帯に波目状にセンサ繊維230が織り込まれた場合、包帯断面となる横方向からコネクタを挟んだ場合、センサ繊維230はその切断箇所によって「右斜め上方向」と「右斜め下方向」の二方向となるため、センサガイド69がどちらの向きでも一つのコネクタで対応できるようにしたからである。
【0142】
凹溝69は、センサ繊維230の太さに対応した大きさを有している。凹溝69の長手方向と直交する方向の幅W2は、センサ繊維230の直径よりもやや小さく形成されている。即ち、凹溝69は、上方からセンサ繊維230を押し込むことによって、センサ繊維230が凹溝69内に固定されるように形成されている。センサガイド66の下面は、基板62と平行に配置されている。
【0143】
図32に示すように、基板62からは複数の端子70、71が鉛直方向上方に突出している。複数の端子70、71は、少なくとも1本の中心導体用端子70と、少なくとも1本の外部導体用端子71と、から構成されている。端子70、71は、センサガイド66の下方からセンサガイド66に形成された貫通孔を介して凹溝69の内部空間に突出するように配置されている。センサガイド66は、圧縮コイルばね65によって支持されており、端子70、71は、上方からセンサガイド66を押圧することによって、凹溝69の内周面から突出する。
【0144】
中心導体用端子70は、凹溝69の幅方向の中心に配置されている。換言すれば、中心導体用端子70は、凹溝69にセンサ繊維230を挿入するとともに、センサガイド66を上方から押圧することによって、中心導体用端子70がセンサ繊維230の中心近傍を刺すように配置されている。これによって、センサ繊維230の第一導電性糸231(
図9、
図10参照)と、検知装置100とが接続される。なお、中心導体用端子70の一部には、絶縁塗料Iが塗布されており、中心導体用端子70とセンサ繊維230の第二導電性糸233とが電気的に接続されないようになっている。
【0145】
外部導体用端子71は、凹溝69の幅方向の中心よりも幅方向の外側に配置されている。換言すれば、外部導体用端子71は、凹溝69にセンサ繊維230を挿入するとともに、センサガイド66を上方から押圧することによって、外部導体用端子71がセンサ繊維230の中心よりも外周側を刺すように配置されている。これによって、センサ繊維230の第二導電性糸233と、検知装置100とが接続される。
【0146】
上記第一コネクタ60を用いることによって、センサ繊維230の被覆を剥くなどすることなく、センサガイド66の凹溝69にセンサ繊維230を嵌め込むだけで、容易に導電性糸と検知装置100とを接続することができる。
【0147】
なお、端子70、71の構成は、
図32に示す構成に限ることはない。例えば、
図33に示すように、中心導体用端子70の長さを短くしてもよい。
第一導電性糸231と第二導電性糸233とは、電気的に接続されないような構造となっているが、製造時に両電極間には固有のインピーダンス値を与えることができる。このため、万が一中心導体用端子70と外部導体用端子71がそれぞれの導電性糸と良好な接触がされない場合は、固有インピーダンス値以外の値を示すため、接触不良事故を未然に防ぐことができる。同様に、中心導体用端子70と外部導体用端子71が製造不良等で接触している場合は、極めて低いインピーダンス値を示すため、検出ミスを未然に防ぐことができる。
【0148】
また、第一コネクタは、上記した構造に限らず、簡素化も可能である。
例えば、
図34に示す第一コネクタ60Bのように、断面U字状の凹溝69Bが形成されたブロック形状のセンサガイド66Bと、蓋部材72のみを備える構成としてもよい。
凹溝69Bは、センサ繊維230の太さに対応した形状を有しており、センサ繊維230と基板62とを接続する端子70、71が配置されている。蓋部材72は、凹溝69Bにセンサ繊維230を押し込むとともに固定する部材である。蓋部材72の下面には、センサガイド66Bの上面に形成されたガイド穴74に差し込まれる突起73が形成されている。
【0149】
次に、第二コネクタ75について説明する。
図35に示すように、第二コネクタ75は、ベース部76と、ベース部76に回動自在に取り付けられたワイヤーストリッパー部77と、ベース部76に回動自在に取り付けられた端子部78と、を有している。
ワイヤーストリッパー部77は、所謂ワイヤーストリッパーの機能を有する部位である。
図36に示すように、ワイヤーストリッパー部77は、回動軸81を中心に回動可能なワイヤーストリッパー部本体82と、第一丸穴刃79と、を有している。第一丸穴刃79は、ベース部76に固定されている第二丸穴刃80と協働してセンサ繊維230の導電性糸231を除く部位に切り込みを入れる半円溝状の刃である。
【0150】
端子部78は、回動軸81を中心に回動可能な端子部本体83と、第一導電性糸231と接続される中心導体用端子85と、第二導電性糸233と接続される外部導体用端子86と、回動軸81と一体に取り付けられたローラー84と、を有している。中心導体用端子85と外部導体用端子86とは、ケーブルなどを介して検知装置100(
図1参照)と接続されている。
【0151】
外部導体用端子86は、複数の針状から構成されている。外部導体用端子86をセンサ繊維230の外周面から押し付けることによって、外部導体用端子86が第二導電性糸233と接続される。
ローラー84は、円筒状をなし外周面に複数の細かい凹凸が形成されている(ローレット加工)。ローラー84は、回動軸81に偏心して取り付けられている。端子部78を
図35に示す直立状態から、
図36に示す倒れ状態とすることによって、ローラー84の外周面がベース部76の固定溝87に固定されているセンサ繊維230の外周面に食い込む。
【0152】
第二コネクタ75を用いて、センサ繊維230と検知装置100との接続を行う際は、まず、
図37に示すように、ベース部76の固定溝87にセンサ繊維230を配置する。これにより、第二丸穴刃80がセンサ繊維230の第一導電性糸231を除く部位に切り込まれる。
次いで、
図38に示すように、ワイヤーストリッパー部77を倒すことで、センサ繊維230の第一導電性糸231を残すように、それ以外に切り込みを入れる。ワイヤーストリッパー部77が倒されることによって、ワイヤーストリッパー部本体82によってセンサ繊維230が固定される。
次いで、
図39に示すように、端子部78を倒すことによって、ローラー84が第一導電性糸231を露出させるとともに、中心導体用端子85が第一導電性糸231に押し付けられて、第一導電性糸231と中心導体用端子85とが接続される。同時に、外部導体用端子86がセンサ繊維230を貫通して、第二導電性糸233と接続される。
【0153】
上記第二コネクタ75を用いることによって、ワイヤーストリッパー部77の操作によってセンサ繊維230の被覆を剥くことができ、容易に導電性糸と検知装置100とを接続することができる。なお、より被覆を剥き易くするためにローラー84と同等の機構をベース部76に組み込んでもよい。
【0154】
次に、第三コネクタ90について説明する。
図40に示すように、第三コネクタ90は、ケーシング91と、ケーシング91に固定された中心導体用端子92と、外部導体用端子93と、を有している。中心導体用端子92と外部導体用端子93とは、検知装置100(
図1参照)と接続されている。
ケーシング91は、箱状をなし、上方から見てU字状に延在するワイヤ収容溝94が形成されている。
【0155】
図41に示すように、ワイヤ収容溝94は、中心導体用端子92が収容される第一直線部94aと、外部導体用端子93が収容される第二直線部94bと、第一直線部94aと第二直線部94bとを滑らかに接続する曲線部94cとを有している。なお、ワイヤ収容溝94は上方から見てU字状である必要はないが、使用者の利便性から鑑みるとU字状であることが好ましい。
【0156】
中心導体用端子92は、第一直線部94aの延在方向の一方向に向かって徐々に近づくように配置された一対の端子から構成されている。一対の端子の先端部は接触されているが、一対の端子間に第一導電性糸231を挟み込むことが可能である。
外部導体用端子93も、第二直線部94bの延在方向の一方向に向かって徐々に近づくように配置された一対の端子から構成されている。一対の端子は、一対の端子の先端部間の距離がセンサ繊維230の直径よりもやや小さくなるように配置されている。
【0157】
使用者が、センサ繊維230を第三コネクタ90に接続する際には、ワイヤーストリッパーや、ニッパーなどで、第一導電性糸231及び第二導電性糸233をワイヤ収容溝94に合わせて露出させる。次いで、センサ繊維230をワイヤ収容溝94に収容することによって、第一導電性糸231が中心導体用端子92と接続されると共に、第二導電性糸233が外部導体用端子93と接続される。
【0158】
上記第三コネクタ90を用いることによって、センサ繊維230の被覆を剥くだけで、導電性糸と検知装置100とを接続することができる。
【0159】
次に、第四コネクタ95について説明する。
図42に示すように、第四コネクタ95は、一般的な同軸コネクタを利用したコネクタである。第四コネクタ95は、雌コネクタ96と、雌コネクタ96と接続される雄コネクタ97と、雄コネクタ97を繊維シート200に固定するための固定用フォルダ98と、を有している。雌コネクタ96は複数の端子(図示せず)を有しており、これらの端子は、検知装置100と接続されている。
【0160】
雄コネクタ97及び雌コネクタ96は、樹脂によって形成されている同軸ケーブル用のコネクタである。使用者は、センサ繊維230の端末処理を行い、センサ繊維230を雄コネクタ97に接続し、固定用フォルダ98を用いて雄コネクタ97を繊維シート200に固定することができる。そして、雄コネクタ97に雌コネクタ96を接続することによって、導電性糸231、233と検知装置100とを接続することができる。
【0161】
以上、四種類のコネクタについて説明したが、例えば、第一コネクタ60、第二コネクタ75、第三コネクタ90を用いることによって、コネクタの価格は高価になるものの、消耗品である繊維シート200の価格を抑えることができる。
【0162】
次に、
図43〜
図53を参照して、繊維シートにおける第一導電体210および第二導電体220の別の配置例について説明する。繊維シートにおいて第一導電体210と第二導電体220とを様々に配置することができる。
図43は、繊維シート202上における第一導電体210および第二導電体220の配置の別の第1例を示す説明図である。同図に示す配置例では、第一導電体210と第二導電体220とが交互に配置されている。第一導電体210と第二導電体220との間に血液が滴下すると、第一導電体210と第二導電体220との間の周波数特性が変化する。これにより、検知信号出力部191は、血液の漏出を検知し得る。
【0163】
なお、第一導電体210や第二導電体220が、ある程度の幅を持って配置されていてもよい。
図44は、第一導電体210および第二導電体220の配置の別の第2例を示す説明図である。
図43の例と同様、
図44の例でも第一導電体210と第二導電体220とが交互に配置されている。但し、
図44の例では、第一導電体210や第二導電体220の幅が、
図43の場合よりも太くなっている。これにより、
図43の場合よりも、第一導電体210と第二導電体220との間隔が狭くなる。第一導電体210と第二導電体220との間隔が狭くなることで、第一導電体210と第二導電体220との間に血液が滴下された場合のインピーダンス特性の変化がより大きくなり、検知装置100が血液の滴下を検知し易くなることが期待される。
【0164】
図45は、第一導電体210および第二導電体220の配置の別の第3例を示す説明図である。同図の配置例では、繊維シート202は、第一導電体210を含むシート241と第二導電体220を含むシート243との間にシート242が挟まれた3層構造にて構成されている。なお、第一導電体210と第二導電体220とが異なる向きになるように配置されていてもよいし、同じ向きになるように配置されていてもよい。
【0165】
シート241の本体、シート243の本体、およびシート242は、いずれも吸水性を有する絶縁性のシートとなっている。シート242が挟まれることで、第一導電体210と第二導電体220とが非接触となっている。また、シート242が血液等の水分を吸収すると、第一導電体210と第二導電体220との間のインピーダンス特性が変化する。これにより、検知信号出力部191は、繊維シート202への血液の漏出を検知し得る。
【0166】
なお、第一導電体210および第二導電体220において、各線が独立したチャネルを構成するようにしてもよい。
図46は、第一導電体210および第二導電体220の配置の別の第4例を示す説明図である。
図46の例において、繊維シート202は、第一導電体210を含むシート251と第二導電体220を含むシート253との間にシート252が挟まれた3層構造にて構成されている。また、第一導電体210と第二導電体220とは異なる向きになるように配置されている。また、シート251の本体、シート253の本体、およびシート252は、いずれも吸水性を有する絶縁性のシートとなっている。シート252が挟まれることで、第一導電体210と第二導電体220とが非接触となっている。
【0167】
一方、
図45の例と異なり
図46の例では、第一導電体210の各線は電気的に接続されておらず、それぞれの線がチャネル1〜チャネル4を構成している。また、第二導電体220の各線も電気的に接続されておらず、それぞれの線がチャネル5〜チャネル8を構成している。
【0168】
図47は、第一導電体210の各チャネルと第二導電体220の各チャネルとの位置関係の例を示す説明図である。同図の例において第一導電体210の各チャネルと第二導電体220の各チャネルとは互いに直交して配置されている。但し、シート252が挟まれていることで、第一導電体210の各チャネルと第二導電体220の各チャネルとは非接触となっている。シート252の一部に液体が染み込んだ場合、染み込んだ位置に応じたチャネルにおいて、第一導電体210と第二導電体220との周波数特性が変化する。これにより、検知信号出力部191は、液体の浸出の有無に加えて浸出した位置を検知し得る。
【0169】
例えば、繊維シート202がカーペットとして用いられており、繊維シート202の上の領域A11、A12、A13の各々に、機器が設置されているとする。この場合、チャネル2とチャネル5との間の周波数特性が変化すれば、領域A11に設置されている機器について液体が付着することによる故障等から保護する必要性を検知できる。一方、チャネル3とチャネル7との間の周波数特性が変化すれば、領域A12に設置されている機器や領域A13に設置されている機器について、液体が付着することによる故障等から保護する必要性を検知できる。
このように、検知システム1は、抜針の検知に限らず、第一導電体210と第二導電体220との間の周波数特性を変化させる様々な液体の検知に適用し得る。
【0170】
なお、液体の種類を区別する必要がない場合、交流信号に代えて直流電流をチャネルに印加するようにしても、繊維シート202に液体が染み込んだ位置を検知し得る。
例えば、チャネル1とチャネル2とに直流電流を印加した状態で、チャネル5、チャネル6それぞれの電圧を測定することで、領域A11への液体の染み込みの有無を判定し得る。この場合、液体の導電率が空気の導電率に対して十分大きな値を示し、チャネル5とチャネル6との電位差について、所定の大きさ以下の測定値が得られた場合、領域A11に液体が染み込んだと判定する。
【0171】
また、包帯状の繊維シートに関して、少なくとも2つの導電体(導電性糸)が互いに接触しないように組み合わせて1本の糸を構成することができれば、他の構成を採用することもできる。
図48は、2つの導電体が互いに接触しないように組み合わせられた糸の配置の第1例を示す説明図である。
同図において、包帯261(繊維シート)は、包帯261自らの中央に縦に編み込まれた糸262を含んで構成されている。糸262は、互いに接触しないように組み合わせられた2つの導電体を含んで構成されている。包帯261は、繊維シート200の例に該当し、糸262に含まれる2つの導電体が、第一導電体210および第二導電体220の例に該当する。
【0172】
なお、1本の糸に含まれる2つの導電体の配置は、
図9および
図10の例に示されるものに限らない。
例えば、
図49に示すように、導電性糸233を絶縁用木綿236で被覆することなく、絶縁用木綿232で被覆された導電性糸231に巻き付け、これらを絶縁用木綿236B(第三絶縁部)で被覆する構成としてもよい。
また、
図9に示すセンサ繊維230を更に
図49に示す絶縁用木綿236Bで被覆してもよい。
【0173】
また、
図50に示すように、絶縁用木綿232の外周に巻き付けられた導電性糸233及び絶縁用木綿236が導電性糸231の延在方向に移動するのを抑制するために、絶縁用木綿236を絶縁用木綿232とを互いに編んでもよい。即ち、絶縁用木綿232の外表面にループ239を形成して、導電性糸233及び絶縁用木綿236をループ239にくぐらせてもよい。
【0174】
図51は、1本の糸に含まれる2つの導電体の配置のもう1つの例を示す説明図である。同図において、糸280は、互いに接触しないように撚り合わせられた2本の導電性糸281および282を含んで構成される。
例えば、導電性糸281および282をゴムなど伸縮性のある素材によって被覆し、これをねじって
図51のような配置にする。これにより、導電性糸281と282とを比較的狭い間隔で配置することができ、かつ、糸280に伸縮性を持たせることができる。
導電性糸281と導電性糸282のそれぞれを絶縁用木綿で被覆してもよいし、
図51に示すように、撚り合せた導電性糸281と導電性糸282とを絶縁用木綿236Cで被覆してもよい。
【0175】
なお、
図49、
図50、及び
図51に示す何れの形態においても、その外周側に吸水性を有する絶縁素材(例えば、絶縁用木綿)で覆われた導電性糸からなるシールド層を設けてよい。
例えば、
図49に示す形態の導電性糸233の外周側、又は絶縁用木綿236Bの外周側に、更に、絶縁用木綿で覆われた導電性糸を巻き付けたり、編み込んだりした上で、導電性糸をアース接地させてよい。
シールド層を設けることによって、ノイズや外乱の影響を少なくすることができる。
【0176】
図52は、1本の糸に含まれる2つの導電体の配置のさらにもう1つの例を示す説明図である。
図53は、
図52に例示される糸の断面における2つの導電体の配置例を示す説明図である。
図52および
図53に例示される糸280では、2本の導電性糸281および282が平行に配置され、それら2本の導電性糸が絶縁用木綿232など吸水性のある絶縁素材で覆われた構造となっている。この構造では、導電性糸を撚り合わせる必要がなく、この点において、比較的容易に糸を生成し得る。
【0177】
図52に示す形態においても、絶縁用木綿232の外周側に、更に、絶縁用木綿で覆われた導電性糸を巻き付けたり、編み込んだりした上で、導電性糸をアース接地させてよい。
【0178】
以上のように、周波数特性取得部120は、繊維シートに設けられた少なくとも2つの導電体に交流信号を入力した場合の周波数特性を取得する。また、検知信号出力部191は、周波数特性取得部120が所定の周波数特性を取得した場合に検知信号を出力する。
これにより、検知装置100では、周波数特性の違いに基づいて他の液体と区別して特定の液体の付着を検知可能である。
かつ、検知装置100では、少なくとも2つの導電体(第一導電体210および第二導電体220)が設けられた繊維シートを使用可能である。当該繊維シートとして、例えば、複数の導電性糸が編み込まれた繊維シートを用いることができ、繊維シート構造を簡単にできる。これにより、繊維シートの製造コストを低減させ、当該繊維シート(液体の付着する部分)を使い捨てにし得る。
【0179】
また、周波数特性取得部120は、第一周波数の交流信号、第二周波数の交流信号それぞれを少なくとも2つの導電体(第一導電体210および第二導電体220)に入力した場合の周波数特性を取得する。そして、検知信号出力部191は、第一周波数の交流信号を導電体に入力した場合の周波数特性と、第二周波数の交流信号を導電体に入力した場合の周波数特性との相違が所定の相違である場合に検知信号を出力する。
ここで、上述したように、汗と血液とでは、周波数の変化に対する周波数特性の変化の割合が異なる。このため、検知信号出力部191は、複数の周波数における周波数特性の違いに基づいて、汗と区別して血液を検知することができ、抜針の誤検知を低減させることができる。
このように、検知信号出力部191は、複数の周波数における周波数特性の違いに基づいて、特定の液体と他の液体と区別して検知し得る。
【0180】
また、繊維シート200は、互いに接触しないように組み合わせられた少なくとも2つの導電体210および220を含む導電性糸231、233(糸262または糸280)を含む。
これにより、2つの導電体210および220を比較的狭い間隔で配置することができ、液体が繊維シート200に染み込んだ際に、検知信号出力部191の検知精度を高めることができる。
【0181】
なお、検知信号出力部191の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することで各部の処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【0182】
以上、本発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。