(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記板バネには、外周端から内周端側に向かって伸びる外周側スリットが周方向に間隔を空けて複数設けられており、前記内周側スリットと外周側スリットは周方向に交互に設けられていることを特徴とする請求項2または3に記載の密封装置。
【背景技術】
【0002】
相対的に移動する軸とハウジングとの間の環状隙間を密封する密封装置において、EGRなどの排気ガス系統の他、高温環境下で用いられる場合には、ゴム製の密封装置では品質を維持することが困難な場合がある。このような場合、従来、耐熱性,耐圧性及び耐薬品性に優れ、かつ摺動摩耗の少ないPTFEなどの樹脂製シールを用いた密封装置が用いられている。
図14を参照して、このような従来例1に係る密封装置について説明する。
図14は従来例1に係る密封装置の模式的断面図である。
【0003】
この従来例1に係る密封装置500は、PTFE製の樹脂製シール510と金属製の板バネ520とから構成される。樹脂製シール510は、内周リップ511と外周リップ512とを備えている。また、板バネ520は、断面形状がV字形状となるように折り曲げられており、内周リップ511を押圧する内周側押圧部521と、外周リップ512を押圧する外周側押圧部522とを備えている。PTFEは、上記の通り、耐熱性等に優れているものの、高温環境下で長期使用されることで、クリープ現象により経時的にへたりが生じ、密封性が低下していくという欠点を有している。これに対して、この従来例1に係る密封装置500においては、板バネ520によって、内周リップ511と外周リップ512を押圧することにより、これらのリップ自体にへたりが生じても、密封性の低下を抑制するが可能となっている。
【0004】
一方、近年、各種機器の軽量化を図るために、ハウジングの材料としてアルミニウムの採用化が進んでいる。アルミニウム製のハウジングの場合、鋳型により製造されるため、ハウジングは鋳物となる。鋳物の場合、その表面に鋳巣が多数存在しているため、接触部分が線接触となるようなシールリップでは、安定した密封性を維持することはできない。そのため、このようなハウジングの場合には、ハウジングに設けられた軸孔の内周面に密着した状態で嵌合される円筒部を有する金属環を備える密封装置が用いられている。
図15を参照して、このような従来例2に係る密封装置について説明する。
図15は従来例2に係る密封装置の模式的断面図である。
【0005】
この従来例2に係る密封装置600は、金属環610と、PTFE製の樹脂製シール620と、樹脂製シール620を金属環610に固定するための固定環630とから構成される。金属環610は、ハウジング300に設けられた軸孔の内周面に密着した状態で嵌合される円筒部を有している。これにより、ハウジング300が鋳物であっても、金属環610の外周面とハウジング300の軸孔の内周面との間に十分な密封性を得ることができる。また、樹脂製シール620は、板状かつ環状の樹脂部材により構成される。そして、この樹脂製シール620は、固定環630によって、外周側が金属環610に固定されて、内周側が密封対象領域側に向かって湾曲するように変形した状態で軸200の外周面に摺動自在に密着する。
【0006】
以上のように構成される密封装置600によって、相対的に移動する軸200とハウジング300との間の環状隙間が密封される。しかしながら、この密封装置600の場合には、高温環境下で長時間使用されると、樹脂製シール620にへたりが生じる。そのため、高温環境下で使用される条件においては、従来例1に係る密封装置500のように、長期に亘って安定的な密封性を維持することはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ハウジングが鋳物で構成される場合であっても、長期に亘って安定した密封性を維持することが可能な密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0010】
すなわち、本発明の密封装置は、
相対的に移動する軸とハウジングとの間の環状隙間を密封する密封装置において、
前記ハウジングに設けられた軸孔の内周面に密着した状態で嵌合される円筒部を有する金属環と、
板状かつ環状の樹脂部材により構成され、外周側が前記金属環に固定されて、前記軸の挿入に伴って、内周側が密封対象領域側に向かって湾曲するように変形した状態で前記軸の外周面に摺動自在に密着する樹脂製シールと、
板状かつ環状の金属部材により構成され、外周側が前記金属環に固定されて、前記軸の挿入に伴って、内周側が前記樹脂製シールに沿って湾曲するように変形し、該樹脂製シールの内周側であって、
前記軸が挿入される前の状態における内
周端よりも径方向外側の部位を径方向内側に向かって押圧する板バネと、
を備える
と共に、
前記軸が挿入される前の状態においては、前記板バネの内周端は、前記樹脂製シールの内周端よりも径方向外側に位置することを特徴とする。
【0011】
本発明の密封装置は、ハウジングに設けられた軸孔の内周面に密着した状態で嵌合される円筒部を有する金属環を備える構成を採用している。これにより、ハウジングが鋳物で構成される場合であっても、金属環の外周面とハウジングの軸孔の内周面との間に十分な密封性を得ることができる。また、本発明の密封装置は、板状かつ環状の樹脂部材により構成され、外周側が金属環に固定されて、内周側が密封対象領域側に向かって湾曲するように変形した状態で軸の外周面に摺動自在に密着する樹脂製シールを備える構成を採用している。これにより、ゴム状弾性体製のシールを用いた場合に比べて、耐熱性等に優れ、かつ摺動摩耗を少なくすることができる。そして、本発明の密封装置は、樹脂製シールの内周側を径方向内側に向かって押圧する板バネを備えているので、樹脂製シール自体にへたりが生じても、長期に亘って安定した密封性を維持することができる。
【0012】
前記板バネには、内周端から外周端側に向かって伸びる内周側スリットが周方向に間隔を空けて複数設けられているとよい。
【0013】
これにより、板バネの内周側の剛性を低下させることができ、樹脂製シールに対する押圧力が高くなり過ぎないように調整することが可能となる。
【0014】
前記内周側スリットは、内周端から外周端側に向かって、前記板バネが湾曲する位置よりも外周端側の位置まで伸びているとよい。
【0015】
これにより、板バネの内周側の剛性をより一層低下させることができ、樹脂製シールに対する押圧力が高くなり過ぎないように調整することが可能となる。
【0016】
前記板バネには、外周端から内周端側に向かって伸びる外周側スリットが周方向に間隔
を空けて複数設けられており、前記内周側スリットと外周側スリットは周方向に交互に設けられているとよい。
【0017】
これにより、板バネの内周側の剛性をより一層低下させることができ、樹脂製シールに対する押圧力が高くなり過ぎないように調整することが可能となる。また、内周側スリットと外周側スリットが交互に設けられることにより、周方向に連続的に繋がる環状の部分をなくすことができる。これにより、環境温度変化に伴って、板バネが熱膨張収縮することによる樹脂製シールへの押圧力の変動を抑制することが可能となる。
【0018】
前記板バネの内周側は、密封対象領域側に向かって湾曲するように折り曲げ加工が施されているとよい。
【0019】
これにより、軸が密封装置に挿入される際に、板バネの変形量を少なくすることができる。従って、板バネの変形量が弾性域を超えないようにすることが可能となる。
【0020】
前記樹脂製シールの内周側は、密封対象領域側に向かって湾曲するように折り曲げ加工が施されているとよい。
【0021】
これにより、軸を密封対象領域側から挿入させることも可能となる。
【0022】
前記金属環の内周面側に固定される固定環を備えると共に、
前記金属環における密封対象領域とは反対側には径方向内側に向かって伸びる内向きフランジ部が設けられており、
前記固定環が前記金属環の内周面側に配置された状態で、前記金属環における密封対象領域側の端部が前記固定環の端部に突き当たるように径方向内側に向かって折り曲げられて加締め部が形成されることにより、前記樹脂製シールの外周側の端部と、前記板バネの外周側の端部が、前記内向きフランジ部と前記固定環との間に圧縮されることによって、これら樹脂製シールの外周側と板バネの外周側が前記金属環に固定されるとよい。
【0023】
また、前記板バネの外周側には、前記金属環の内周面側に固定される固定環状部が設けられると共に、
前記金属環における密封対象領域とは反対側には径方向内側に向かって伸びる内向きフランジ部が設けられており、
前記板バネの固定環状部が前記金属環の内周面側に配置された状態で、前記金属環における密封対象領域側の端部が前記固定環状部の端部に突き当たるように径方向内側に向かって折り曲げられて加締め部が形成されることにより、前記樹脂製シールの外周側の端部が、前記内向きフランジ部と前記板バネとの間に圧縮されることによって、該樹脂製シールの外周側が前記金属環に固定されるようにすることもできる。
【0024】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得る。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、ハウジングが鋳物で構成される場合であっても、長期に亘って安定した密封性を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0028】
(実施例1)
図1〜
図6を参照して、本発明の実施例1に係る密封装置について説明する。なお、本実施例に係る密封装置は、相対的に移動する軸とハウジングとの間の環状隙間を密封する役割を担っている。なお、軸とハウジングとの相対的な移動の具体的として、軸とハウジングが相対的に回転する場合、軸とハウジングが相対的に往復移動する場合、軸とハウジングが相対的に揺動する場合、及びこれらのいずれか2つ以上の動作が複合的に行われる場合を挙げることができる。
【0029】
<密封装置>
本実施例に係る密封装置100の構成について説明する。
図1は本発明の実施例1に係る密封装置の平面図である。
図2は本発明の実施例1に係る密封装置の底面図である。
図3は本発明の実施例1に係る密封装置の模式的断面図である。なお、
図3は
図2中のAA断面図である。
図4は本発明の実施例1に係る板バネの平面図である。
図5は本発明の実施例1に係る密封装置の使用状態を示す模式的断面図である。
図6は本発明の実施例1に係る密封装置の使用状態を示す一部破断斜視図である。なお、
図6は、本発明の実施例1に係る密封装置を切断した断面付近を斜めから見た様子を模式的に示した図である。また、
図6においては、本発明の実施例1に係る密封装置の使用時の状態について、軸及びハウジングを省略して示している。
【0030】
本実施例に係る密封装置100は、金属環110と、樹脂製シール120と、板バネ130と、金属環110の内周面側に固定される金属製の固定環140とから構成される。金属環110は、ハウジング300に設けられた軸孔の内周面に密着した状態で嵌合される円筒部111を備えている。また、金属環110には、円筒部111の一端側から径方向内側に向かって伸びる内向きフランジ部112と、円筒部111の他端側において径方向内側に向かって折り曲げられることにより形成される加締め部113が設けられている。なお、密封装置100の使用時においては、上記の「一端側」は密封対象領域とは反対側(低圧側(L))に相当し、上記の「他端側」は密封対象領域側(高圧側(H))に相当する。
【0031】
樹脂製シール120は、板状かつ環状の樹脂部材により構成される。なお、本実施例で用いられる樹脂材料としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が採用されている。このPTFEは、耐熱性,耐圧性及び耐薬品性に優れ、かつ摺動摩耗が少ないといった特性を有している。また、本実施例に係る樹脂製シール120は、外周側が金属環110に固定されて、内周側が密封対象領域側(高圧側(H))に向かって湾曲するように変形した状態で軸200の外周面に摺動自在に密着するように構成されている。
【0032】
板バネ130は、板状かつ環状の金属部材により構成される。また、板バネ130は、外周側が金属環110に固定されて、内周側が樹脂製シール120に沿って湾曲するように変形し、樹脂製シール120の内周側の端部付近を径方向内側に向かって押圧するように構成されている。また、この板バネ130には、内周端から外周端側に向かって伸びる内周側スリット131が周方向に間隔を空けて複数設けられている。本実施例では、これら複数の内周側スリット131は、周方向に等間隔に設けられている。
【0033】
固定環140は、金属環110の内周面側に固定される円筒部141と、円筒部141の一端側から径方向内側に向かって伸びる内向きフランジ部142とから構成される。そして、この固定環140が金属環110の内周面側に配置された状態で、金属環110における他端側(密封対象領域側)の端部が固定環140の端部に突き当たるように径方向内側に向かって折り曲げられて加締め部113が形成される。これにより、樹脂製シール120の外周側の端部と、板バネ130の外周側の端部が、内向きフランジ部112と固定環140との間に圧縮されることによって、これら樹脂製シール120の外周側と板バネ130の外周側が金属環110に固定される。
【0034】
<密封装置の装着方法及び使用時の状態>
特に、
図5及び
図6を参照して、本実施例に係る密封装置100の装着方法及び使用時の状態について説明する。まず、密封装置100の装着方法について説明する。上記のように構成される密封装置100は、ハウジング300に設けられた軸孔内に挿入され、この軸孔内に嵌合される。このとき、密封装置100における金属環110の円筒部111の外周面が、軸孔の内周面に密着した状態となる。そして、軸200が
図5中左側(使用時における密封対象領域とは反対側(低圧側(L)))から右側(使用時における密封対象領域側(高圧側(H)))に挿入される。これにより、樹脂製シール120及び板バネ130は、その内周側の端部が軸200に押される。そのため、これら樹脂製シール120及び板バネ130は、内向きフランジ部112と固定環140との間に圧縮されている位置よりも内周側が密封対象領域側(高圧側(H))に向かって湾曲するように変形する。これにより、樹脂製シール120の湾曲した部分における先端付近の内周面が軸200の外周面に密着した状態となる。また、板バネ130の湾曲した部分における先端付近の内周面が、樹脂製シール120の湾曲した部分における先端付近の外周面に密着した状態となる。そして、板バネ130の弾性復元力によって、板バネ130の先端付近の部分により、樹脂製シール120の湾曲した部分における先端付近が径方向内側に向かって押圧される。
【0035】
<本実施例に係る密封装置の優れた点>
本実施例に係る密封装置100は、ハウジング300に設けられた軸孔の内周面に密着した状態で嵌合される円筒部111を有する金属環110を備える構成を採用している。これにより、ハウジング300が鋳物(例えば、アルミニウム製の鋳物)で構成される場合であっても、金属環110の外周面とハウジング300の軸孔の内周面との間に十分な密封性を得ることができる。つまり、ハウジング300の軸孔の内周面に鋳巣のような微小の凹部が複数存在していても、密封性を発揮させることができる。
【0036】
また、本実施例に係る密封装置100は、板状かつ環状の樹脂部材により構成され、外
周側が金属環110に固定されて、内周側が密封対象領域側に向かって湾曲するように変形した状態で軸200の外周面に摺動自在に密着する樹脂製シール120を備える構成を採用している。これにより、ゴム状弾性体製のシールを用いた場合に比べて、耐熱性等に優れ、かつ摺動摩耗を少なくすることができる。
【0037】
そして、本実施例に係る密封装置100は、樹脂製シール120の内周側を径方向内側に向かって押圧する板バネ130を備えている。従って、高温環境下で長時間使用されることによって、樹脂製シール120自体にへたりが生じても、長期に亘って安定した密封性を維持することができる。
【0038】
また、本実施例に係る板バネ130には、内周端から外周端側に向かって伸びる内周側スリット131が周方向に間隔を空けて複数設けられている。これにより、板バネ130の内周側の剛性を低下させることができ、樹脂製シール120に対する押圧力が高くなり過ぎないように調整することが可能となる。なお、内周側スリット131の周方向及び径方向の寸法と、内周側スリット131の個数を適宜設定することによって、板バネ130による樹脂製シール120に対する押圧力を調整することができる。
【0039】
(実施例2)
図7には、本発明の実施例2が示されている。本実施例においては、板バネの内周側が、密封対象領域側に向かって湾曲するように折り曲げ加工が施されている場合の構成について説明する。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0040】
本実施例に係る密封装置100においても、上記実施例1の場合と同様に、金属環110と、樹脂製シール120と、板バネ130と、金属環110の内周面に固定される金属製の固定環140とから構成される。金属環110,樹脂製シール120及び固定環140の構成については、上記実施例1と同一であるので、その説明は省略する。
【0041】
本実施例においては、板バネ130の内周側の部分130Xが、予め、密封装置100の使用時における密封対象領域側(図中、右側)に向かって湾曲するように折り曲げ加工が施されている。そして、この点のみが、上記実施例1の場合と異なっている。上記実施例1で説明したように、密封装置100に軸200が挿入されることにより、板バネ130の内周側は、密封対象領域側(高圧側(H))に向かって湾曲するように変形する。
【0042】
ここで、板バネ130による押圧力を長期に亘って安定させるためには、軸200の挿入に伴って変形する板バネ130の変形量は、弾性域内に収めるのが望ましい。つまり、塑性変形が生じないようにするのが望ましい。上記実施例1の場合には、軸200の挿入に伴う板バネ130の変形量が比較的多くなるため、変形量を弾性域内に収めることができない場合がある。そこで、本実施例においては、板バネ130の内周側の部分130Xに折り曲げ加工を施すことで、予め、ある程度塑性変形させている。これにより、軸200の挿入に伴って変形する板バネ130の変形量を少なくすることができ、軸200の挿入により変形する変形量を弾性域内に収めることが可能となる。
【0043】
以上のように構成される密封装置100においても、上記実施例1の場合と同様の効果を得ることができる。また、上記実施例1に係る密封装置100の場合には、軸200の挿入に伴って変形する板バネ130の変形量が弾性域を超えてしまう場合がある。これに対して、本実施例に係る密封装置100の場合には、板バネ130の内周側の部分130Xに折り曲げ加工が施されることにより、軸200の挿入に伴って変形する板バネ130の変形量が弾性域を超えてしまわないようにすることが可能となる。
【0044】
(実施例3)
図8には、本発明の実施例3が示されている。本実施例においては、板バネの内周側が、密封対象領域側に向かって湾曲するように折り曲げ加工が施され、かつ、樹脂製シールの内周側も、密封対象領域側に向かって湾曲するように折り曲げ加工が施されている場合の構成について説明する。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0045】
本実施例に係る密封装置100においても、上記実施例1の場合と同様に、金属環110と、樹脂製シール120と、板バネ130と、金属環110の内周面に固定される金属製の固定環140とから構成される。金属環110及び固定環140の構成については、上記実施例1と同一であるので、その説明は省略する。
【0046】
本実施例においては、上記実施例2の場合と同様に、板バネ130の内周側の部分130Xが、予め、密封装置100の使用時における密封対象領域側(図中、右側)に向かって湾曲するように折り曲げ加工が施されている。そして、本実施例の場合には、樹脂製シール120の内周側の部分120Xも、予め、密封装置100の使用時における密封対象領域側に向かって湾曲するように折り曲げ加工が施されている。これらの点のみが、上記実施例1の場合と異なっている。
【0047】
上記実施例1で説明したように、基本的に、軸200は、使用時における密封対象領域とは反対側(低圧側(L))から密封対象領域側(高圧側(H))に挿入される。しかしながら、軸200とハウジング300の構造上、軸200が使用時における密封対象領域側(高圧側(H))から密封対象領域とは反対側(低圧側(L))に挿入される場合もあり得る。この場合、上記実施例1に示す密封装置100の場合には、樹脂製シール120及び板バネ130の内周側は密封対象領域とは反対側(低圧側(L))に向かって湾曲するように変形してしまう。この場合には、密封性が発揮されなくなってしまう。
【0048】
そこで、本実施例に係る密封装置100においては、板バネ130の内周側の部分130Xと樹脂製シール120の内周側の部分120Xに予め折り曲げ加工が施される構成を採用している。これにより、軸200が使用時における密封対象領域側(高圧側(H))から密封対象領域とは反対側(低圧側(L))に挿入されることを可能としている。なお、樹脂製シール120に折り曲げ加工が施された状態で、樹脂製シール120の内周端の内径(最小部分の内径)が、軸200の先端の外径よりも大きくなるように設定する必要があることは言うまでもない。
【0049】
以上のように構成される密封装置100においても、上記実施例1の場合と同様の効果を得ることができる。また、本実施例に係る密封装置100においては、板バネ130の内周側の部分130Xに予め折り曲げ加工が施されているので、上記実施例2の場合と同様の効果も得ることができる。更に、本実施例に係る密封装置100においては、軸200が使用時における密封対象領域側(高圧側(H))から密封対象領域とは反対側(低圧側(L))に挿入される場合にも適用可能である。
【0050】
(実施例4)
図9には、本発明の実施例4が示されている。本実施例においては、上記実施例1における板バネと固定環が一体となるように構成される場合について説明する。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0051】
本実施例に係る密封装置100においては、金属環110と、樹脂製シール120と、板バネ150とから構成される。金属環110及び樹脂製シール120の構成については
、上記実施例1と同一であるので、その説明は省略する。
【0052】
本実施例に係る板バネ150は、板バネ本体部151と、板バネ150の外周側に設けられ、金属環110の内周面に固定される固定環状部152とから構成される。つまり、本実施例においては、上記実施例1における板バネ130と固定環140が一体となっている。なお、板バネ本体部151の構成については、上記実施例1における板バネ130の構成と同様である。つまり、板バネ本体部151にも、内周端から外周端側に向かって伸びる内周側スリットが周方向に間隔を空けて複数設けられている。
【0053】
本実施例においては、板バネ130の固定環状部152が金属環110の内周面側に配置された状態で、金属環110における密封対象領域側の端部が固定環状部152の端部に突き当たるように径方向内側に向かって折り曲げられて加締め部113が形成される。これにより、樹脂製シール120の外周側の端部が、金属環110の内向きフランジ部112と板バネ150との間に圧縮されることによって、樹脂製シール120の外周側が金属環110に固定される。
【0054】
以上のように構成される密封装置100においても、上記実施例1の場合と同様の効果を得ることができる。また、本実施例に係る密封装置100においては、上記実施例1の場合に比べて部品点数を削減することができる。
【0055】
なお、本実施例における板バネ150の構成は、上記実施例2及び実施例3にも適用可能である。言い換えれば、本実施例に係る密封装置100において、実施例2の場合のように、板バネ本体部151に予め折り曲げ加工を施しても良い。また、本実施例に係る密封装置100において、実施例3の場合のように、樹脂製シール120及び板バネ本体部151に予め折り曲げ加工を施しても良い。これにより、上記実施例2や実施例3の効果を得ることができる。
【0056】
(実施例5)
図10〜
図12には、本発明の実施例5が示されている。本実施例においては、板バネの構成が上記実施例1とは異なる場合について説明する。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0057】
図10は本発明の実施例5に係る密封装置の底面図である。
図11は本発明の実施例5に係る板バネの平面図である。
図12は本発明の実施例5に係る密封装置の使用状態を示す一部破断斜視図である。なお、
図12は、本発明の実施例5に係る密封装置を切断した断面付近を斜めから見た様子を模式的に示した図である。また、
図12においては、本発明の実施例5に係る密封装置の使用時の状態について、軸及びハウジングを省略して示している。
【0058】
本実施例に係る密封装置100においても、上記実施例1の場合と同様に、金属環110と、樹脂製シール120と、板バネ130aと、金属環110の内周面に固定される金属製の固定環140とから構成される。金属環110,樹脂製シール120及び固定環140の構成については、上記実施例1と同一であるので、その説明は省略する。
【0059】
本実施例に係る板バネ130aは、板状かつ環状の金属部材により構成される。また、板バネ130aは、外周側が金属環110に固定されて、内周側が樹脂製シール120に沿って湾曲するように変形し、樹脂製シール120の内周側の端部付近を径方向内側に向かって押圧するように構成されている。
【0060】
また、この板バネ130aには、内周端から外周端側に向かって伸びる内周側スリット131aが周方向に間隔を空けて複数設けられている。本実施例では、これら複数の内周側スリット131aは、周方向に等間隔に設けられている。そして、本実施例においては、内周側スリット131aが、内周端から外周端側に向かって、板バネ130aが湾曲する位置よりも外周端側の位置まで伸びている点が上記実施例1の場合とは異なっている。
【0061】
図11中の点線142Lは、固定環140の内周端縁が接触する位置を示している。上記のように、板バネ130aは、軸200の挿入に伴って、金属環110の内向きフランジ部112と固定環140との間に圧縮されている位置よりも内周側が密封対象領域側(高圧側(H))に向かって湾曲するように変形する。つまり、
図11中の点線142Lよりも径方向の内側が湾曲するように変形する。本実施例においては、内周側スリット131aが、内周端から外周端側に向かって、点線142Lよりも外周端側の位置まで伸びるように構成されている。
【0062】
更に、本実施例に係る板バネ130aには、外周端から内周端側に向かって伸びる外周側スリット132aが周方向に間隔を空けて複数設けられている。本実施例では、これら複数の外周側スリット132aは、周方向に等間隔に設けられている。そして、内周側スリット131aと外周側スリット132aは周方向に交互に設けられている。
【0063】
以上のように構成される密封装置100においても、上記実施例1の場合と同様の効果を得ることができる。また、本実施例に係る密封装置100においては、内周側スリット131aは、内周端から外周端側に向かって、板バネ130aが湾曲する位置よりも外周端側の位置まで伸びる構成が採用されている。これにより、板バネ130aの内周側の剛性をより一層低下させることができ、樹脂製シール120に対する押圧力が高くなり過ぎないように調整することが可能となる。
【0064】
なお、板バネ130aによる樹脂製シール120に対する押圧力の調整(押圧力を低減させるための調整)としては、板厚を薄くする方法と、内周側スリットの数を増やす方法がある。しかしながら、板厚を薄くするほど、板バネ130aの先端は鋭利な形状となるため、樹脂製シール120に食い込んでしまい易くなり、樹脂製シール120を傷つけてしまい易くなる。また、内周側スリットの数を増やす場合においても、加工上、限度がある。また、内周側スリットの数を増やすほど、隣り合う内周側スリット間の部分も鋭利な形状となり、樹脂製シール120に食い込んでしまい易くなり、樹脂製シール120を傷つけてしまい易くなる。従って、板厚を薄くする方法と、内周側スリットの数を増やす方法だけでは、板バネ130aによる樹脂製シール120に対する押圧力の調整には限度がある。従って、本実施例のように、内周側スリット131aが、内周端から外周端側に向かって、板バネ130aが湾曲する位置よりも外周端側の位置まで伸びる構成を採用することは、上記押圧力の調整に有効である。
【0065】
また、本実施例に係る密封装置100においては、板バネ130aには、外周端から内周端側に向かって伸びる外周側スリット132aが周方向に間隔を空けて複数設けられており、内周側スリット131aと外周側スリット132aが周方向に交互に設けられる構成を採用している。これにより、板バネ130aの内周側の剛性をより一層低下させることができる。従って、上記の押圧力の調整がより一層簡単になる。
【0066】
また、本実施例においては、内周側スリット131aと外周側スリット132aが交互に設けられることにより、板バネ130aにおいて、周方向に連続的に繋がる環状の部分をなくすことができる。言い換えれば、板バネ130a上で、板バネ130aと同心的な仮想円を描く場合に、内周側スリット131aと外周側スリット132aのいずれについても横切らない仮想円を描くことはできないように構成されている。ここで、板バネ13
0aと樹脂製シール120は材料が異なるため、両者の線膨張係数は異なっている。これにより、環境温度変化に伴う板バネ130aと樹脂製シール120の膨張収縮量は異なる。この膨張収縮量の差が大きいと、上記の押圧力が大きく変動してしまう。本実施例においては、板バネ130aにおいて、周方向に連続的に繋がる環状の部分をなくすことで、板バネ130aと樹脂製シール120の膨張収縮量の差を低減させることが可能となる。つまり、環境温度が上昇するにしたがって、板バネは熱膨張によって径方向に伸びていく。このとき、板バネに、周方向に連続的に繋がる環状の部分が存在する場合、この部分の径方向の伸びは、そのまま樹脂製シール120に対する押圧力に影響することになる。これに対して、径方向に伸びるスリットが設けられている部分においては、径方向に伸びようとする変形を周方向の変形に変えることが可能となり、押圧力の増加を抑制することが可能となる。従って、本実施例のように、周方向に連続的に繋がる環状の部分をなくすことで、環境温度変化に伴って、板バネ130aが熱膨張収縮することによる樹脂製シール120への押圧力の変動を抑制することが可能となる。
【0067】
なお、上記実施例2及び実施例3において、これらの実施例で示した板バネ130の代わりに、本実施例で示した板バネ130aを適用することも可能である。また、上記実施例4において、実施例4で示した板バネ150における板バネ本体部151に、本実施例で示した板バネ130aの構成を適用することもできる。
【0068】
(実施例6)
図13には、本発明の実施例6が示されている。上記各実施例においては、金属環における密封対象領域側の端部を径方向内側に折り曲げることにより形成される加締め部によって、樹脂製シールなどの各種部材を金属環に固定させる場合の構成を説明した。これに対し、本実施例においては、加締め部を設けずに、固定環を金属環の内周面に圧入により嵌合させることで、各種部材を金属環に固定させる場合の構成について説明する。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0069】
本実施例に係る密封装置100においても、上記実施例1の場合と同様に、金属環110と、樹脂製シール120と、板バネ130と、金属環110の内周面に固定される金属製の固定環140とから構成される。樹脂製シール120,板バネ130及び固定環140の構成については、上記実施例1と同一であるので、その説明は省略する。
【0070】
本実施例における金属環110は、実施例1と同様に、円筒部111の一端側(密封対象領域とは反対側)から径方向内側に向かって伸びる内向きフランジ部112が設けられている。しかしながら、本実施例に係る金属環110の場合には、円筒部111の他端側(密封対象領域側)には加締め部が設けられていない。そして、本実施例の場合には、固定環140が金属環110の内周面(円筒部111の内周面)に圧入により嵌合されることによって、固定環140は金属環110に固定されている。なお、樹脂製シール120の外周側の端部と、板バネ130の外周側の端部が、内向きフランジ部112と固定環140との間に圧縮されることによって、これら樹脂製シール120の外周側と板バネ130の外周側が金属環110に固定される点については、上記実施例1の場合と同様である。
【0071】
以上のように構成される密封装置100においても、上記実施例1の場合と同様の効果を得ることができることは言うまでもない。なお、上記実施例2〜5において、本実施例で示した金属環110の構成を採用することも可能である。この場合、実施例2,3及び5においては、本実施例の場合と同様に、固定環140が金属環110の内周面に圧入により嵌合されることによって、固定環140は金属環110に固定される。これに対し、実施例4においては、板バネ150における固定環状部152が金属環110の内周面に
圧入により嵌合されることによって、板バネ150は金属環110に固定される。これにより、樹脂製シール120の外周側の端部が、金属環110の内向きフランジ部112と板バネ150との間に圧縮されることによって、樹脂製シール120の外周側が金属環110に固定される。