特許第6663639号(P6663639)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6663639
(24)【登録日】2020年2月19日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】架構の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/32 20060101AFI20200302BHJP
   E04H 3/14 20060101ALI20200302BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20200302BHJP
【FI】
   E04B1/32 102H
   E04H3/14 A
   E04H3/14 C
   E04H9/02 331A
   E04H9/02 331E
   E04H9/02 331D
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-218983(P2014-218983)
(22)【出願日】2014年10月28日
(65)【公開番号】特開2016-84648(P2016-84648A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2017年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 利明
(72)【発明者】
【氏名】星野 正宏
(72)【発明者】
【氏名】浜田 勇気
(72)【発明者】
【氏名】中井 政義
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英二
(72)【発明者】
【氏名】水島 靖典
(72)【発明者】
【氏名】車 創太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 良祐
(72)【発明者】
【氏名】津山 皓司
【審査官】 藤澤 和浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−248544(JP,A)
【文献】 特開平08−035258(JP,A)
【文献】 特開2007−191865(JP,A)
【文献】 米国特許第04400927(US,A)
【文献】 特開2004−156388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/32
E04H 3/14
E04H 9/02
E04G 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側の架構脚部が外側へ変位可能に支持される架構の中間部を仮設支柱によって支持しながら施工する架構の施工方法において、
前記架構の前記中間部を支持する前記仮設支柱の支持を解除する工程と、
前記仮設支柱の支持解除に伴う両側の前記架構脚部の外側への変位量に応じて、両側の前記架構脚部を連結する引張材を緊張させることにより、該架構脚部の外側への変位をそれぞれ規制する工程と、
を備える架構の施工方法。
【請求項2】
前記引張材は、前記架構脚部間に配置されたPC連結梁を軸方向に圧縮させた状態で該PC連結梁の両端部に固定されると共に、両端側が前記架構脚部にそれぞれ貫通され、
前記仮設支柱の支持解除に伴い、両側の前記架構脚部に対して前記引張材の両端側をそれぞれ引っ張ることにより該架構脚部の外側への変位を規制すると共に、前記PC連結梁を軸方向に伸長させた状態で前記PC連結梁の両端部と前記架構脚部とをそれぞれ接合する、
請求項1の記載の架構の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架構の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アーチと、アーチの両側の脚部を連結する引張線材とを備えるアーチ構造が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−129047号公報
【特許文献2】特開平10−183767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アーチ等の架構の施工方法としては、ベント工法が知られている。このベント工法では、例えば、アーチを長手方向に分割した複数の分割ユニットを、昇降ジャッキが取り付けられた仮設支柱(ベント)上で接合することによりアーチを形成する。次に、各仮設支柱の昇降ジャッキを徐々に下げ、仮設支柱で支持していたアーチの自重をアーチの両側のアーチ脚部に流すことによりアーチを自立させる。
【0005】
この際、両側のアーチ脚部には、外側へ向かうスラスト力がそれぞれ発生する。このスラスト力によって両側のアーチ脚部が外側へ開くと、例えば、アーチの仕上げ材やアーチの脚部を支持する支持部が破損等する可能性がある。
【0006】
本発明は、上記の事実を考慮し、架構に対する仮設支柱の支持解除に伴う架構の両側の架構脚部の開きを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様に係る架構の施工方法は、両側の架構脚部が外側へ変位可能に支持される架構の中間部を仮設支柱によって支持しながら施工する架構の施工方法において、両側の前記架構脚部を連結する引張材を、前記架構に対する前記仮設支柱の支持解除に伴って緊張させることにより、該架構脚部の外側への変位をそれぞれ規制する。
【0008】
第1態様に係る架構の施工方法によれば、架構の中間部を仮設支柱によって支持しながら架構を施工する。その後、架構に対する仮設支柱の支持を解除する。この際、両側の架構脚部に外側へ向かうスラスト力がそれぞれ発生し、これらの架構脚部が外側へ開こうとする。
【0009】
この対策として、架構に対する仮設支柱の支持解除に伴って、両側の架構脚部を連結する引張材を緊張させることにより、これらの架構脚部の外側への変位を規制する。これにより、架構に対する仮設支柱の支持解除に伴う両側の架構脚部の開きが抑制される。したがって、架構の仕上げ材や架構脚部を支持する支持部の破損等が抑制される。
【0010】
第2態様に係る架構の施工方法は、第1態様に係る架構の施工方法において、前記引張材は、前記架構脚部間に配置されたPC連結梁を軸方向に圧縮させた状態で該PC連結梁の両端部に固定されると共に、両端側が前記架構脚部にそれぞれ貫通され、前記仮設支柱の支持解除に伴い、両側の前記架構脚部に対して前記引張材の両端側を外側へそれぞれ引っ張ることにより該架構脚部の外側への変位を規制すると共に、前記PC連結梁を軸方向に伸長させた状態で前記PC連結梁の両端部と前記架構脚部とをそれぞれ接合する。
【0011】
第2態様に係る架構の施工方法によれば、引張材は、両側の架構脚部間に配置されたPC連結梁を軸方向に圧縮させた状態で当該PC連結梁の両端部に固定されており、この状態で、その両端側が両側の架構脚部にそれぞれ貫通される。
【0012】
そして、架構に対する仮設支柱の支持解除に伴い、両側の架構脚部に対して引張材の両端側を架構脚部の外側へそれぞれ引っ張る。これにより、架構脚部の外側への変位が規制される。
【0013】
また、両側の架構脚部に対して引張材の両端側をそれぞれ外側へ引っ張ると、引張材が伸長する。この結果、圧縮されていたPC連結梁が軸方向に伸長し、両側の架構脚部とPC連結梁の両端部との隙間が狭くなる。この状態で、両側の架構脚部とPC連結梁の両端部とをそれぞれ接合し、両側の架構脚部をPC連結梁によって連結する。
【0014】
このように両側の架構脚部をPC連結梁によって連結することにより、両側の架構脚部に発生するスラスト力に対してPC連結梁が抵抗する。これにより、架構に対する仮設支柱の支持解除に伴う架構脚部の開きがより確実に抑制される。
【0015】
また、引張材は、PC連結梁を軸方向に圧縮させた状態で当該PC連結梁の両端部に固定されている。つまり、引張材によって、PC連結梁にプレストレスが導入されている。このPC連結梁によって両側の架構脚部を連結することにより、例えば、地震時にPC連結梁にスラスト力が作用した場合であっても、PC連結梁のひび割れ等が抑制される。したがって、架構の耐震性能が向上する。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明に係る架構の施工方法によれば、架構に対する仮設支柱の支持解除に伴う架構の両側の架構脚部の開きを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る架構の施工方法によって施工されたアーチ状架構を示す立面図である。
図2図1に示されるPC連結梁の設置工程を説明する立面図である。
図3図2に示されるPC連結梁にプレストレスを導入する手順を説明する立面図である。
図4図3に示される引張材の両端側を両側の架構脚部にそれぞれ貫通させる手順を説明する立面図である。
図5図4に示される架構脚部のPC連結梁と反対側に緊張ジャッキを設置した状態を示す立面図である。
図6図5に示される引張材の両端側を緊張ジャッキによって外側へ引っ張る手順を説明する拡大立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の一実施形態に係る架構の施工方法について説明する。
【0019】
図1には、本実施形態に係る架構の施工方法によって施工されたアーチ状架構20を備える構造物10が示されている。構造物10は、例えば、コンサートホールや各種イベント等を行う多目的ホール、体育館、競技場等のように、内部に大空間を有する施設とされる。
【0020】
構造物10は、基礎12と、基礎12上に建てられるアーチ状架構20と、アーチ状架構20の両側の架構脚部20Lをそれぞれ支持する架構用免震装置26と、アーチ状架構20の両側の架構脚部20Lを連結するPC連結梁30と、PC連結梁30を支持する複数の連結梁用免震装置32とを備えている。
【0021】
基礎12は、地盤Gを掘り下げて形成されている。この基礎12は、基礎スラブ12Aと、基礎スラブ12Aの外周部から立ち上げられた擁壁12Bとを有している。この基礎スラブ12A上には、後述する複数の架構用免震装置26及び連結梁用免震装置32が設置されている。
【0022】
架構の一例としてのアーチ状架構20は、その下側(内側)に大空間を形成する屋根架構とされている。このアーチ状架構20は、上側へ凸状に湾曲したアーチ状に形成されており、図示しない折板や屋根膜等の屋根材を支持している。また、アーチ状架構20は、軸方向に分割された複数の分割ユニット22を有し、後述するベント工法によって施工される。
【0023】
アーチ状架構20の端部(下端部)20Tには、脚部基礎24が設けられている。脚部基礎24は、例えば、鉄筋コンクリート造とされており、架構用免震装置26に固定されている。このアーチ状架構20の端部20T及び脚部基礎24によって、架構脚部20Lが形成されている。つまり、本実施形態に係る架構脚部20Lとは、アーチ状架構20の端部20Tだけでなく、脚部基礎24も含む概念である。
【0024】
また、アーチ状架構20の中間部20Mとは、両側の架構脚部20Lを繋ぐ部位であり、アーチ状架構20の施工時に、後述する複数の仮設支柱50A,50Bによって仮支持される。なお、脚部基礎24は、必要に応じて設ければ良く、適宜省略可能である。
【0025】
アーチ状架構20の両側の架構脚部20Lは、架構用免震装置26を介して基礎12に支持されている。架構用免震装置26は、基礎スラブ12Aにおける両側にそれぞれ設置されている。これらの架構用免震装置26は、積層ゴム支承とされている。なお、架構用免震装置26は、積層ゴム支承に限らず、滑り支承や転がり支承であっても良い。
【0026】
架構用免震装置26は、図示しないアンカー等によって基礎スラブ12Aに固定されている。これらの架構用免震装置26にアーチ状架構20の両側の架構脚部20Lをそれぞれ固定することにより、各架構脚部20Lが基礎12に対して水平方向に変位可能に支持されている。換言すると、架構用免震装置26によって、両側の架構脚部20Lが互いの対向方向に相対変位可能に支持されている。
【0027】
また、アーチ状架構20の両側の架構脚部20Lは、PC連結梁(アーチタイ)30によって連結されている。具体的には、PC連結梁30は、両側の脚部基礎24の間に配置されており、その軸方向の両端部30Tが両側の脚部基礎24にそれぞれ接合されている。このPC連結梁30は、複数(本実施形態では、2つの)の連結梁用免震装置32を介して基礎12に支持されている。
【0028】
各連結梁用免震装置32は、架構用免震装置26と同様に、積層ゴム支承とされており、図示しないアンカー等によってPC連結梁30及び基礎スラブ12Aに固定されている。これらの連結梁用免震装置32によって、PC連結梁30が基礎12に対して水平方向に変位可能に支持されている。なお、連結梁用免震装置32は、積層ゴム支承に限らず、滑り支承や転がり支承であっても良い。また、連結梁用免震装置32は、適宜省略可能である。
【0029】
また、PC連結梁30には、その軸方向に沿って配置された引張材40によってプレストレスが導入されている。具体的には、PC連結梁30には、軸方向に沿った貫通孔34(図6参照)が形成されている。この貫通孔34に、引張材40が挿入されている。
【0030】
引張材40は、PC鋼線、PC鋼棒等の引張線材によって形成されている。この引張材40は、緊張された状態でその両端側40Tが定着具42(図6参照)によってPC連結梁30の両端部30Tにそれぞれ固定(係止)されている。これにより、PC連結梁30にプレストレスが導入されている。
【0031】
また、引張材40の両端側40Tは、両側の脚部基礎24に形成された貫通孔28(図6参照)にそれぞれ挿入されている。この引張材40の両端側40Tは、緊張された状態で、両側の脚部基礎24におけるPC連結梁30と反対側の外側面24Aに定着具44によってそれぞれ固定(係止)されている。これにより、両側の架構脚部20Lが、引張材40によって連結されている。
【0032】
また、両側の脚部基礎24とPC連結梁30の両端部30Tとの隙間Sには、充填材60がそれぞれ充填されている。これにより、両側の脚部基礎24とPC連結梁30の両端部30Tとがそれぞれ接合されており、両側の脚部基礎24がPC連結梁30によって連結されている。そして、矢印Kで示されるように、PC連結梁30及び引張材40が両側の脚部基礎24に作用するスラスト力Fに対して抵抗することにより、スラスト力Fに起因する両側の架構脚部20Lの外側への開きが抑制されている。
【0033】
次に、アーチ状架構20の施工方法の一例について説明する。なお、以下で参照する各図では、理解を容易にするために、引張材40、PC連結梁30、及び連結梁用免震装置32等の変形状態を誇張して示している。
【0034】
図2に示されるように、先ず、地盤Gを掘り下げて基礎12を構築すると共に、基礎12の基礎スラブ12A上に架構用免震装置26及び連結梁用免震装置32を設置する。
【0035】
次に、架構用免震装置26上に、アーチ状架構20の架構脚部20Lとなる脚部基礎24を構築し、当該脚部基礎24を架構用免震装置26に固定する。また、複数の連結梁用免震装置32上にPC連結梁30を設置し、当該PC連結梁30を複数の連結梁用免震装置32にそれぞれ固定する。
【0036】
次に、図3に示されるように、ベント工法によってアーチ状架構20を施工する。具体的には、地盤G上に、脚部基礎24と隣接する仮設支柱50Aを仮設し、これらの脚部基礎24と仮設支柱50Aとにアーチ状架構20を形成する分割ユニット22を架設する。
【0037】
ここで、仮設支柱50Aの上端部には、昇降ジャッキ52が設けられており、この昇降ジャッキ52を介して分割ユニット22が仮設支柱50Aに支持されている。これと同様に、後述する仮設支柱50Bの上端部にも昇降ジャッキ52がそれぞれ設けられている。なお、昇降ジャッキ52は、仮設支柱50A,50Bの上端部に限らず、中間部や下端部に設けても良い。
【0038】
また、上記分割ユニット22の施工に並行して、PC連結梁30にプレストレスを導入する。具体的には、PC連結梁30の貫通孔34(図6参照)に引張材40をスライド可能に挿入する。そして、PC連結梁30の両端部30Tに設置された緊張ジャッキ54によって、引張材40の両端側40Tを脚部基礎24側(矢印a方向)へ引っ張ることにより緊張させる。
【0039】
この状態で、引張材40の両端側40Tを定着具42(図4参照)によってPC連結梁30の両端部30Tに固定する。これにより、PC連結梁30が軸方向に圧縮された状態で保持される。つまり、PC連結梁30にプレストレスが導入される。また、PC連結梁30の軸方向の圧縮変形に追従して、各連結梁用免震装置32がPC連結梁30の中央部へ向けて僅かにせん断変形する。
【0040】
なお、PC連結梁30には、例えば、アーチ状架構20の長期荷重に起因するスラスト力と、地震荷重に起因するスラスト力との合計値以上のプレストレス(圧縮軸力)が導入される。これにより、地震時におけるPC連結梁30のひび割れ等が抑制される。
【0041】
次に、図4に示されるように、地盤G上に仮設支柱50Aに隣接する仮設支柱50Bを仮設し、これらの仮設支柱50A,50Bに分割ユニット22を架設する。そして、隣接する分割ユニット22同士を接合する。また、これに並行して、引張材40の両端側40Tを、両側の脚部基礎24にそれぞれ貫通させる。
【0042】
具体的には、両側の脚部基礎24の貫通孔28(図6参照)に延長用引張材46をそれぞれスライド可能に挿入し、継手56を介して引張材40の両端部とそれぞれ接続する。これにより、延長された引張材40の両端側40Tが、両側の脚部基礎24にそれぞれ貫通される。
【0043】
次に、図5に示されるように、隣接する仮設支柱50Bに分割ユニット22を架設し、当該分割ユニット22とその両側の分割ユニット22とを接合する。これにより、上側へ凸状に湾曲するアーチ状架構20が形成される。また、これに並行して、両側の脚部基礎24におけるPC連結梁30と反対側に、緊張ジャッキ58をそれぞれ設置する。
【0044】
次に、図6に矢印bで示されるように、アーチ状架構20を支持する仮設支柱50A,50Bの昇降ジャッキ52を徐々に下げ(ジャッキダウンし)、アーチ状架構20の自重を両側の架構脚部20Lへ流すことにより、アーチ状架構20を自立させる。
【0045】
この際に、両側の架構脚部20Lには、外側へ向かうスラスト力Fがそれぞれ発生する。このスラスト力Fによって両側の架構脚部20Lが外側へ開くと、アーチ状架構20の仕上げ材が破損したり、架構脚部20Lを支持する架構用免震装置26がせん断変形したりする可能性がある。
【0046】
この対策として本実施形態では、昇降ジャッキ52のジャッキダウンに伴って、すなわちアーチ状架構20に対する複数の仮設支柱50A,50Bの支持解除に伴って、引張材40を緊張させることにより、両側の架構脚部20Lの外側への変位をそれぞれ規制する。
【0047】
具体的には、スラスト力Fによる両側の脚部基礎24の外側への変位量に応じて、矢印cで示されるように、各緊張ジャッキ58により両側の脚部基礎24に対して引張材40の両端側40Tを外側へそれぞれ引っ張る。換言すると、各緊張ジャッキ58により、脚部基礎24の外側面24Aに反力を取って引張材40の両端側40Tを外側へそれぞれ引っ張る。また、見方を変えると、各緊張ジャッキ58により、引張材40の両端側40Tに対して両側の脚部基礎24をPC連結梁30側へそれぞれ押圧する。
【0048】
これにより、アーチ状架構20に対する仮設支柱50A,50Bの支持解除に伴う両側の脚部基礎24の外側への変位が規制され、架構用免震装置26のせん断変形が抑制される。この状態で、引張材40の両端側40Tを定着具44(図1参照)によって両側の脚部基礎24の外側面24Aにそれぞれ固定する。
【0049】
また、両側の脚部基礎24に対して引張材40の両端側40Tを外側へそれぞれ引っ張ると、引張材40が伸長する。この引張材40の伸長に追従して、引張材40をPC連結梁30の両端部30Tに固定する定着具42が両側の脚部基礎24側へそれぞれ移動する。
【0050】
この結果、圧縮されていたPC連結梁30が軸方向に伸長し(矢印e)、PC連結梁30と脚部基礎24との隙間Sが狭くなる。また、PC連結梁30の軸方向の伸長に連結梁用免震装置32が追従し、当該連結梁用免震装置32のせん断変形量が小さくなる。
【0051】
この状態で、図1に示されるように、隙間Sにモルタル、グラウト等の充填材60を充填し、PC連結梁30の両端部30Tをその両側の脚部基礎24にそれぞれ接合する。これにより、PC連結梁30によって、両側の架構脚部20Lが連結される。その後、仮設支柱50A,50Bを適宜撤去する。
【0052】
なお、PC連結梁30の軸方向の伸長に伴い、アーチ状架構20の長期荷重に起因するスラスト力分のプレストレスがPC連結梁30から抜ける。この結果、PC連結梁30には、地震荷重に起因するスラスト力分のプレストレスが導入された状態となる。
【0053】
このように本実施形態に係る架構の施工方法によれば、アーチ状架構20に対する仮設支柱50A,50Bの支持解除に伴い、両側の架構脚部20Lに対して引張材40の両端側40Tを外側へそれぞれ引っ張ることにより、両側の架構脚部20Lの外側への変位が規制される。これにより、アーチ状架構20に対する仮設支柱50A,50Bの支持解除に伴う両側の架構脚部20Lの開きが抑制される。
【0054】
これにより、アーチ状架構20の仕上げ材や架構用免震装置26のせん断変形等が抑制される。また、両側の架構脚部20Lの開きに伴ってアーチ状架構20に発生する曲げモーメントが低減される。したがって、アーチ状架構20の部材断面や、アーチ状架構20に対する曲げ補強等が低減される。
【0055】
また、両側の架構脚部20LをPC連結梁30によって連結することにより、引張材40だけでなくPC連結梁30も両側の架構脚部20Lに発生するスラスト力Fに対して抵抗する。これにより、両側の架構脚部20Lの開きがより確実に抑制される。
【0056】
さらに、引張材40は、PC連結梁30を軸方向に圧縮させた状態で当該PC連結梁30の両端部30Tに固定されている。つまり、引張材40によって、PC連結梁30にプレストレスが導入されている。このPC連結梁30によって両側の架構脚部20Lを連結することにより、例えば、地震時にPC連結梁30にスラスト力が作用した場合であっても、PC連結梁30のひび割れ等が抑制される。したがって、アーチ状架構20の耐震性能が向上する。
【0057】
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0058】
上記実施形態では、ポストテンション方式によってPC連結梁30にプレストレスを導入した例を示したが、プレテンション方式によってPC連結梁30にプレストレスを導入しても良い。また、工場等において予めプレストレスを導入されたPC連結梁30によって、両側の架構脚部20Lを連結しても良い。
【0059】
また、上記実施形態では、架構脚部20Lに対するPC連結梁30と反対側に緊張ジャッキ58を設置して引張材40を緊張させた例を示したが、これに限らない。例えば、架構脚部20LとPC連結梁30との間に緊張ジャッキを設置して引張材40を緊張させても良い。
【0060】
また、上記実施形態では、PC連結梁30の軸方向の伸縮に追従して連結梁用免震装置32がせん断変形する例を示したが、これに限らない。例えば、PC連結梁30と連結梁用免震装置32との間に滑り材等を介在させ、PC連結梁30の軸方向の伸縮に連結梁用免震装置32を追従させないようにしても良い。これにより、連結梁用免震装置32のせん断変形量が小さくなる。なお、この場合は、PC連結梁30の軸方向を伸縮させた後に、PC連結梁30を各連結梁用免震装置32に固定すれば良い。
【0061】
また、例えば、PC連結梁30の軸方向の伸縮量に応じて連結梁用免震装置32を予めせん断変形させておくことにより、PC連結梁30の軸方向の伸縮に伴う連結梁用免震装置32のせん断変形を吸収しても良い。
【0062】
また、上記実施形態では、PC連結梁30にプレストレスを導入した例を示したが、両側の架構脚部20Lを連結する連結梁には必ずしもプレストレスを導入しなくても良い。また、両側の架構脚部20Lは、例えば、鉄骨造やトラス構造の連結梁等によって連結しても良い。さらに、PC連結梁30は必要に応じて設ければ良く、適宜省略可能である。
【0063】
なお、PC連結梁30を省略した場合は、例えば、両側の架構脚部20Lを引張材40で連結し、昇降ジャッキ52のジャッキダウンに伴って当該引張材40を緊張させることにより、両側の架構脚部20Lの開きを抑制することができる。この場合は、例えば、両側の架構脚部20Lの間(内側)で引張材40を緊張させても良いし、上記実施形態と同様に、両側の架構脚部20Lの外側で引張材40を緊張させても良い。
【0064】
また、上記実施形態では、両側の架構脚部20Lを架構用免震装置26によって支持した例を示したが、これに限らない。例えば、両側の架構脚部20Lを柱でそれぞれ支持しても良い。この場合、柱が左右に傾倒することにより、両側の架構脚部20Lが水平方向に変位可能に支持される。
【0065】
また、上記実施形態では、両側の架構脚部20Lを水平方向に変位可能に支持した例を示したが、両側の架構脚部20Lは少なくとも外側へ変位可能に支持されていれば良い。換言すると、両側の架構脚部20Lは、少なくとも互いに離れる方向へ変位可能に支持されていれば良い。
【0066】
また、上記実施形態では、アーチ状架構20を施工した例を示したが、これに限らない。上記実施形態は、両側の架構脚部にスラスト力が発生する種々の架構に対して適用可能であり、例えば、立面視にて上側に凸を成す略三角形状の架構や略台形状の架構、ドーム状の架構にも適宜適用可能である。
【0067】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0068】
20 アーチ状架構(架構)
20L 架構脚部
20M 中間部(架構の中間部)
30 PC連結梁
40 引張材
40T 両端側(引張材の両端側)
50A 仮設支柱
50B 仮設支柱
図1
図2
図3
図4
図5
図6