(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
縦材と横材とを骨組みしてなるアーチフレームの外周部に膜振動型吸音バルーンを設け、前記膜振動型吸音バルーンを空気によりアーチ状に膨張させてなるトンネル工事に伴う騒音の低減装置であって、
前記膜振動型吸音バルーンが、アーチ状に膨張させてトンネル表面に密着させた状態で前記トンネル工事に伴う騒音を低減させる共振周波数を備えるように、膜厚さが、0.35〜1.00mm程度、面密度が、0.43〜2.17kg/m2、膨張状態での空気層厚さが、20〜200cm程度で構成されていること、
前記アーチフレームは、トンネル表面に対して前記空気層の厚さに相当する間隔をあけて設けられていることを特徴とする、トンネル工事に伴う騒音の低減装置。
前記膜振動型吸音バルーンは、その面密度を増大させるために、前記アーチフレーム側の表面に防音シートを1枚又は複数枚、積層する構成で貼着されてなることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載したトンネル工事に伴う騒音の低減装置。
前記アーチフレームは、トンネル延長方向の長さが10m程度のアーチフレームを1ユニットとして、トンネル延長方向に2ユニット又は3ユニットを連結してなる構成であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一に記載したトンネル工事に伴う騒音の低減装置。
前記膜振動型吸音バルーンは、前記ユニット毎に、膜厚さ、面密度、および膨張状態での空気層厚さが可変され、相互に異なる共振周波数を有する構成とされていることを特徴とする、請求項7又は8に記載したトンネル工事に伴う騒音の低減装置。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、本出願人らの発明者が、前記トンネル工事に伴う騒音のうち、トンネル発破音の伝播の性質について鋭意追究し、検討を行った結果、トンネル発破音の周波数成分の多くはトンネル(一次覆工、二次覆工コンクリート)表面に衝突し反射して拡散することに着目し、トンネル(一次覆工、二次覆工コンクリート)を剛壁とみなし、剛壁と発破音と間に、膨張させた通気性のない柔軟な膜材料(バルーン)を介在させると、空気層(背後空気層)がバネとして働く単一共振系を構成すると考え、単一共振系に基づく共振周波数を求める式に着眼したことに端を発する(詳しくは、
図4に基づいて後述する。)。
そこで、前記膜材料の吸音効果の程度を確認するため、既に貫通したトンネル坑内に設置されている所謂養生バルーンを利用して実際に試験を行った結果、そのままトンネル発破音の低周波帯域の低減装置(吸音装置)として適用できないながらも、それなりの吸音効果を奏することを確認できた(詳しくは、
図11〜
図14に基づいて後述する。)。
すなわち、本発明は、前記養生バルーンの構成を応用した低減装置により、トンネル表面に衝突し反射して拡散するトンネル発破音の周波数成分(特には低周波成分)、ひいてはトンネル発破音を含む前記トンネル工事に伴う騒音を効果的に低減する技術的思想に立脚している。
【0025】
以下、本発明に係る前記トンネル工事に伴う騒音の低減装置の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0026】
本発明に係る前記トンネル工事に伴う騒音の低減装置7は、
図1〜
図3に示したように、縦材1aと横材1bとを骨組みしてなるアーチフレーム1の外周部に膜振動型吸音バルーン2を設け、前記膜振動型吸音バルーン2を空気によりアーチ状に膨張させてなる。
前記膜振動型吸音バルーン2は、アーチ状に膨張させてトンネル(一次覆工、二次覆工コンクリート)10の表面に密着させた状態での共振周波数が、前記トンネル工事に伴う騒音を低減させるのに適正な膜の面密度および空気層の厚さを備えている。
また、前記アーチフレーム1は、トンネル10の表面に対して前記空気層の厚さに相当する間隔をあけて設けられている。
本実施例では、さらに、前記アーチフレーム1の下部に車輪3が設けられ、トンネル延長方向に移動可能な構成で実施されている。
【0027】
ちなみに、
図1中の符号4はトンネル坑内の地面9に敷設されたレールを示し、符号5は送風管を示し、符号6は、アーチフレーム1から垂下されたリング状の送風管支持部材を示している。この送風管支持部材6は、トンネル延長方向に所定の間隔をあけて複数設けられている。
【0028】
(アーチフレーム1の構成)
前記アーチフレーム1は、トンネル10の表面形状(内側面形状)と略相似(類似)する形状で、トンネル延長方向へ所定の間隔をあけて並設された複数の金属製の縦材1aと、前記複数の縦材1aを溶接、ボルト等の接合手段で固定する複数の金属製の横材1bとを骨組みしてなる。縦材1aと横材1bの材質は金属製に限定されず、ポリ塩化ビニル製やグラスファイバー製で実施することもできる。
ちなみに、本実施例に係る縦材1aは、トンネル10の表面との間隔を50cm程度確保したアーチ形状で、且つアーチフレーム1の前端部と後端部に相当する部位に計2本、および中間部に2本の計4本をほぼ等間隔に並設している。
なお、前記トンネル10の表面との間隔は50cm程度に限定されず、使用する前記バルーン2を膨張させたときの空気層の厚さに応じて、20〜200cm程度の範囲内に適宜設計変更される。
勿論、縦材1a、横材1bの使用本数もアーチフレーム1の形態に応じて適宜増減される。
【0029】
本実施例に係る前記アーチフレーム1(低減装置7)のトンネル延長方向の長さ(スパン)は、10.5mの長さのアーチフレーム1を1ユニットとして3ユニットを連結した、全長が31.5mの3連式で実施している。これは、特に設計変更することなく養生装置としても機能させるためである。
なお、アーチフレーム1の全長はこれに限定されず、1ユニット又は2ユニットで実施する場合もあるし、4ユニット以上を連結して実施する場合もある。吸音(低減)効果の観点からは、前記吸音バルーン2の設置面積は広ければ広いほど吸音効果は高まる。
【0030】
(膜振動型吸音バルーン2の構成)
前記膜振動型吸音バルーン2は、斜線で示したように、アーチフレーム1の外周部のトンネル延長方向に連続的に4体配置(並設)され、各吸音バルーン2は、
図1に示したように、アーチ状に膨張するように前記アーチフレーム1の外周部のトンネル周方向に沿って設けられている。
本実施例に係る各吸音バルーン2は、幅が1.8m〜3.0m程度(図示例では2.5m程度)で、膨張させると、前記トンネル10の表面に隙間なく密着するように取り付けられている。
前記吸音バルーン2は、通気性がなく、可撓性に優れた材質が好適に用いられる。ちなみに本実施例では、前記送風管5に用いる材質と同じポリ塩化ビニル等の樹脂製が好適に用いられている。
なお、前記吸音バルーン2は、特に固定手段を講ずることなく脱着可能な構成で実施され、前記アーチフレーム1の外周部のアーチ形状に沿って載置するだけで、良好な膨張状態と膨張形態を保持することができる構成で実施されている。勿論、要所を接着テープにより縦材1aや横材1bとともに貼着して実施することもできる。
【0031】
前記膜振動型吸音バルーン2は、当該吸音バルーン2の共振周波数をfr(Hz)、空気密度をp(kg/m
3)、音速をc(m/s)、前記膜の面密度をm(kg/m
2)、前記空気層の厚さをL(m)としたとき、fr=(1/2π)√{(pc
2)/(mL)}の式で求める前記共振周波数が、100Hz以下になる膜の面密度(m)および空気層の厚さ(L)を備えている。
本出願人らの発明者が実験および解析したところによると、面密度が、0.43〜2.17kg/m
2、膨張状態での空気層厚さが、20〜200cm程度、膜厚さが、0.35〜1.00mm程度であれば、前記トンネル工事に伴う騒音のうち、低周波帯域(100Hz以下)の騒音はもとより、300Hz以下の騒音まで、効果的に低減できることが分かっている。
【0032】
ちなみに本実施例1に係る前記吸音バルーン2は、面密度が、1.22kg/m
2、膨張状態での空気層厚さが、50cm、膜厚さが、1.00m程度の防音シートで実施されている(
図5のケースB−2参照)。ただし、前記吸音バルーン2は、前記アーチフレーム1上で膨張させたとき、トンネル10の表面に十分に密着できる構成で実施することを条件とする。
【0033】
(膜振動型吸音バルーン2による低減効果の原理)
次に、本出願人らの発明者が着眼した、単一共振系に基づく共振周波数を求める式について、
図4に基づいて説明する。
要するに本発明は、前記トンネル工事に伴う騒音に対し、膜振動型の吸音特性(
図4Bの式1)を利用した騒音低減技術である。
剛壁(トンネル10、特には覆工コンクリート)との間に、厚さL(m)の空気層にわたって張設した通気性のない柔軟な膜材料(前記膜振動型吸音バルーン2)は、膜の質量に対して背後の空気層がバネとして働き単一共振系を構成する(
図4A参照)。
その共振周波数は、単位面積当たりの質量(膜の面密度)をm(kg/m
2)とすると
図4Bに示す[式1](前記式(段落[0031]参照)と同一。)となり、共振周波数(Hz)は前記膜の面密度m(kg/m
2)と空気層L(m)が増大するほど、低い周波数で共振するメカニズムである。
前記[式1]に基づく共振周波数の算出例を
図4Cに示す。この
図4Cに示す通り、前記吸音バルーン2の膜の面密度m(kg/m
2)及び/又は空気層L(m)を増大させると、共振周波数が低減することが分かる。
発破音の周波数成分のうち、低周波成分を効果的に低減させるためには、前記吸音バルーン2の膜の面密度m(kg/m
2)、及び/又は空気層L(m)を適正に設定して低い共振周波数(例えば、100Hz以下)でチューニングする原理に本発明は基づいている。
すなわち、本発明に係る前記吸音バルーン2は、理論上、その面密度を増大させればさせるほど、又はトンネル10の表面に対してアーチフレーム1の間隔を広げれば広げるほど(前記吸音バルーン2がトンネル10の表面に密着するまで十分に膨張させることを条件とする。)、前記トンネル工事に伴う騒音の低周波成分を効果的に低減させることができる。
【0034】
(従来のバルーン(養生バルーン)の実物大試験による低減効果の確認)
本出願人らの発明者は、前記吸音バルーン2の吸音効果(減音効果)の程度を確認するため、既に貫通したトンネル坑内に設置されている所謂養生バルーンを利用して実際に試験を行った。
<試験条件>
・音源:低域特化用スピーカーを用いたピンクノイズ。
・測定条件:養生バルーン内に送気し膨張させたケースと、吸気し縮小させたケースで原音効果を比較
・試験の概要:
図11参照(註記:試験日は貫通したトンネル内の風の影響を考慮した結果、スピーカーを図示例の位置に置いたが、実施工においては当然ながら、セントル養生バルーンは、養生バルーンよりも発破音側に設置されている。測定点29、30はトンネル坑外に設置されている。バルーンのトンネル延長方向の長さは31.5mである。)。
・バルーンの膜素材:
図5のケースA参照(面密度(m)=0.43kg/m
2、空気層厚さ(L)=20cm、膜厚さ(t)=0.35mm)。
・前記各数値を前記[式1]に代入して得られる共振周波数:204.6Hz。
【0035】
<試験結果>
・
図12のコンター図で示すとおり、出願図面上はクリアに表れてはいないものの、バルーンを膨張させると、トンネル発破音の低減効果を奏することが分かった。更に言えば、バルーンを通過した地点における音圧レベル(周波数帯:40〜250Hz)では、平均して4.8dB低減できることが分かった(
図12の破線Xと、
図13の左端列の測定点20〜23参照)。
・
図14に示すとおり、測定点30では、横軸の1/3オクターブバンド中心周波数が200Hzの箇所で、5dB程度低減できることが分かった。これは、前記式1で求めた共振周波数204.6Hzと略一致する。
なお、
図14によると、前記中心周波数が40Hzの箇所でも5bB以上の低減効果が認められる。これは、試験を行ったトンネル構造上の特性により40Hz周辺にピークを有しており、養生バルーンの相乗効果と相まって減音していると推測される。
<考察>
・式1による計算上の共振周波数(204.6Hz)と、実物大試験による音圧レベル(dB)を効果的に下げる前記中心周波数(200Hz)とは、略一致することが分かった。
・従来のバルーン(養生バルーン)は、養生専用ということもあり、面密度(m)=0.43kg/m
2、空気層厚さ(L)=0.2mで実施されている。そのため、前記式1より共振周波数は204.6Hzと、低周波成分を効果的に低減できる構成ではない。
しかし、バルーンの面密度、空気層厚さを増大させることができれば、前記式1による共振周波数が低下するので、前記トンネル工事に伴う騒音の低減効果、特には低周波帯域(100Hz以下)の音圧レベルを効果的に低減することは十分に可能と判断した。
【0036】
(膜振動型吸音バルーンの室内試験その1、及び当該試験結果に基づく実施例)
吸音バルーンの効果を確認するために、本出願人らは、残響室法吸音率の測定方法(JIS A 1409:1998)に倣って吸音率を測定する試験を行った。
ちなみに前記倣って、としたのは、残響室法は、100Hz以上の中心周波数の1/3オクターブバンドで実施すると規定されているため、100Hz以下の低周波数帯域を対象とする本試験結果は、厳密にいえば残響室法吸音率では規格外となるからである。
所定の条件を前記式1に代入して得られた共振周波数算出例(以下、試験ケースという。)と、実際に行った試験結果(以下、実試験結果という。)とを
図5、
図6に対比して示す。
ちなみに、
図6の鉛直方向の破線は、式1による計算上の共振周波数の位置を示している。
【0037】
<試験ケースAについて>
この試験は、面密度(m)=0.43kg/m
2、空気層厚さ(L)=0.2m、前記式1よる共振周波数は204.6Hzである。要するに、前記養生バルーンの実物大実験と各数値が一致している。
実試験結果によると、
図6Aより、中心周波数が200Hzの位置で、残響室法吸音率が0.24と最も高いことが分かる。
このことから、この実試験は、低減効果が認められる中心周波数が、前記実物大試験による中心周波数と略一致しているので、信頼性が高いことが分かる。
また、低減効果が認められる中心周波数が200Hzの位置にあるので、低周波帯域(100Hz以下)を効果的に減音するのに適していないことが分かる。さらに、残響室法吸音率のピークは0.24と、さほど高い減音効果を期待できないことも分かる。
以上より、従来の養生バルーンを用いた低減装置では、前記トンネル工事に伴う騒音のうち、低周波数成分を多く含むトンネル発破音の低減装置としては、適していないことが分かった。
【0038】
<試験ケースB−1について>
この試験は、面密度(m)=1.22kg/m
2、空気層厚さ(L)=0.2m、前記式1よる共振周波数は、121.5Hzである。要するに、試験ケースAと比し、バルーン(汎用される防音シート)の面密度だけ増大させた。
実試験結果によると、
図6Bより、中心周波数が160Hzの位置で、残響室法吸音率が0.26と最も高いことが分かる。
このことから、低減効果が認められる中心周波数が160Hzの位置にあるので、低周波帯域(100Hz以下)を効果的に減音するのに適していないことが分かる。また、残響室法吸音率のピークは0.26と、さほど高い減音効果を期待できないことも分かる。
以上より、この程度の面密度を増大させたバルーンを用いた低減装置では、前記トンネル工事に伴う騒音のうち、低周波数成分を多く含むトンネル発破音の低減装置として、適していないことが分かった。
【0039】
<試験ケースB−2について>
この試験は、面密度(m)=1.22kg/m
2、空気層厚さ(L)=0.5m、前記式1よる共振周波数は、76.8Hzである。これは、本実施例1に係る低減装置の前記膜振動型吸音バルーン2と各数値が一致している(前記段落[0032]参照)。
実試験結果によると、
図6Cより、中心周波数が50Hzの位置で、残響室法吸音率が0.61と最も高いことが分かる。
このことから、低減効果が認められる中心周波数が50Hzの位置にあるので、低周波帯域(100Hz以下)を効果的に減音するのに適していることが分かる。また、残響室法吸音率のピークは0.61と、高い減音効果を期待できることも分かる。
以上より、前記面密度等の諸条件に基づくバルーンを用いた低減装置によれば、低周波数成分を多く含むトンネル発破音の低減装置に十分に適していることが分かった。
【0040】
(実施例1に係るトンネル発破音の低減装置の作用効果)
前記実施例1に係る低減装置は、前記膜振動型吸音バルーン2の膜の面密度(m)が、1.22kg/m
2、空気層厚さ(L)が、0.5m、前記式1よる共振周波数が、76.8Hzで実施しており、各数値が前記試験ケースB−2と一致している。
したがって、試験ケースB−2の結果より、この条件の吸音バルーン2を用いた本実施例1に係る低減装置7によれば、トンネル発破音に特有の低周波騒音を効果的に低減することができる。
なお、計算上の共振周波数(76.8Hz)と実試験結果による吸音率のピーク周波数数(50Hzと)の間に誤差があるのは、残響室内での拡散条件の違いによるものと、膜材料の端部がしっかり固定されることによる剛性の増大が考えられる。以下の試験ケースについても同様の理由が考えられる。例えば、試験体に対して垂直に音圧エネルギーを与えれば誤差は少なくなると考えられる。さらに、実施工においては、膜材料の端部の固定状態は試験よりも弱くなるので、さらに誤差は少なくなると考えられる。
【0041】
<試験ケースB−3について>
この試験は、面密度(m)=1.22kg/m
2、空気層厚さ(L)=1.0m、前記式1よる共振周波数は、54.3Hzである。これは、本実施例1に係る低減装置の前記膜振動型吸音バルーン2と比し、空気層厚さを2倍に広げたものに相当する。
実試験結果によると、
図6Dより、中心周波数が40Hzの位置で、残響室法吸音率が0.49と最も高いことが分かる。
このことから、低減効果が認められる中心周波数が40Hzの位置にあるので、低周波帯域(100Hz以下)を効果的に減音するのに適していることが分かる。また、残響室法吸音率のピークは0.49と、高い減音効果を期待できることも分かる。
以上より、前記面密度等の諸条件に基づくバルーンを用いた低減装置によれば、低周波数成分を多く含むトンネル発破音の低減装置に十分に適していることが分かった。
【実施例2】
【0042】
実施例2では、前記試験ケースB−3のデータに基づき、トンネル10の表面との間隔を1.0m程度に広げたアーチフレーム1の外周部に、膜の面密度(m)が、1.22kg/m
2、空気層厚さ(L)が、1.0mを実現する前記吸音バルーン2を用いた低減装置7で実施する(
図1〜
図3を援用して参照)。
この実施例2に係る低減装置7によれば、試験ケースB−3の結果に基づき、低周波数成分を多く含むトンネル発破音を効果的に低減することができる。さらに云えば、空気層厚さ(L)を0.5mで実施した上記実施例1と比し、さらに低い低周波帯域を効果的に減音することができる。
【0043】
<試験ケースB−4について>
この試験は、面密度(m)=1.22kg/m
2、空気層厚さ(L)=1.4m、前記式1よる共振周波数は、45.9Hzである。これは、本発明に係る低減装置にかかる前記膜振動型吸音バルーン2と比し、空気層厚さを3倍程度に広げたものに相当する。
実試験結果によると、
図6Eより、中心周波数が31.5Hzの位置で、残響室法吸音率が0.71と最も高いことが分かる。
このことから、低減効果が認められる中心周波数が31.5Hzの位置にあるので、低周波帯域(100Hz以下)を効果的に減音するのに適していることが分かる。また、残響室法吸音率のピークは0.71と、非常に高い減音効果を期待できることも分かる。
以上より、前記面密度等の諸条件に基づくバルーンを用いた低減装置によれば、トンネル発破音の低減装置に十分に適していることが分かった。
なお、ケースA〜ケースB−4から分かるように、吸音率は低周波にピークが移行するほど増大した。これは共振周波数が低いほど膜が振動しやすいことによると考えられる。
【実施例3】
【0044】
実施例3では、前記試験ケースB−3のデータに基づき、トンネル10の表面との間隔を1.4m程度に広げたアーチフレーム1の外周部に、膜の面密度(m)=1.22kg/m
2、空気層厚さ(L)=1.4mを実現する前記吸音バルーン2を用いた低減装置7で実施する(
図1〜
図3を援用して参照)。
この実施例3に係る低減装置7によれば、試験ケースB−4の結果に基づき、低周波数成分を多く含むトンネル発破音を効果的に低減することができる。さらに云えば、空気層厚さ(L)を1.0mで実施した上記実施例2と比し、さらに低い低周波帯域で効果的に減音することができる。
【実施例4】
【0045】
上記実施例1〜3のバリエーションとして、3ユニットを連結した3連式(全長31.5m)のアーチフレーム1を、ユニット毎に前記実施例1〜3に係る各数値を適用し、それぞれ空気層厚さが異なる吸音バルーン2を用いて実施すると、低周波帯域での吸音率のピーク周波数が異なる柔軟性に富む低減装置7を実現できる。
【0046】
(膜振動型吸音バルーンの室内試験。その2)
本出願人らは、前記その1に加え、主に面密度を変えたシートについて、残響室法吸音率の測定方法(JIS A 1409:1998)に倣って吸音率を測定する試験を行った。
所定の条件を前記式1に代入して得られた共振周波数算出例(以下、試験ケースという。)と、実際に行った試験結果(以下、実試験結果という。)とを
図7、
図8に対比して示す。
ちなみに、
図8、
図9の鉛直方向の破線は、式1による計算上の共振周波数の位置を示している。
【0047】
<試験ケースCについて>
この試験は、面密度(m)=1.70kg/m
2、空気層厚さ(L)=1.0m、前記式1よる共振周波数は46.1Hzである。これは、前記その1の試験で用いた前記吸音バルーン(防音シート)2に鉛シート(0.59kg×5枚)を貼着して面密度を1.22kg/m
2から1.70kg/m
2に増大させている。
実試験結果によると、
図8Aより、中心周波数が31.5Hzの位置で、残響室法吸音率が0.37と最も高いことが分かる。
このことから、低減効果が認められる中心周波数が31.5Hzの位置にあるので、低周波帯域(100Hz以下)を効果的に減音するのに適していることが分かる。残響室法吸音率のピークは0.37と、低減効果もある程度は期待できることが分かる。
以上より、前記面密度等の諸条件に基づくバルーンを用いた低減装置によれば、低周波数成分を多く含むトンネル発破音の低減装置に適していることが分かった。
【実施例5】
【0048】
実施例5では、前記試験ケースAのデータに基づき、トンネル10の表面との間隔を1.0m程度に広げたアーチフレーム1の外周部に、面密度(m)が1.70kg/m
2、空気層厚さ(L)が1.0mを実現する前記吸音バルーン2を用いた低減装置7で実施する(
図1〜
図3を援用して参照)。前記吸音バルーン2のアーチフレーム1側の表面には、鉛シートが横向き(又は縦向き)に貼着されている。
この実施例5に係る低減装置7によれば、試験ケースCの結果に基づき、低周波数成分を多く含むトンネル発破音を効果的に低減することができる。さらに云えば、鉛シートを貼着しない上記実施例2と比し、前記吸音バルーン2の面密度を増大させたので、さらに低い低周波帯域で効果的に減音することができる。
【0049】
<試験ケースDについて>
この試験は、面密度(m)=2.17kg/m
2、空気層厚さ(L)=1.0m、前記式1よる共振周波数は40.7Hzである。これは、前記その1の試験で用いた防音シートに鉛シート(0.59kg×10枚)を貼着して面密度を1.22kg/m
2から2.17kg/m
2に増大させている。
実試験結果によると、
図8Bより、中心周波数が31.5Hzの位置で、残響室法吸音率が0.39と最も高いことが分かる。
このことから、低減効果が認められる中心周波数が31.5Hzの位置にあるので、低周波帯域(100Hz以下)を効果的に減音するのに適していることが分かる。残響室法吸音率のピークは0.39と、低減効果もある程度は期待できることが分かる。
以上より、前記面密度等の諸条件に基づくバルーンを用いた低減装置によれば、トンネル発破音の低減装置に適していることが分かった。
【実施例6】
【0050】
実施例6では、前記試験ケースBのデータに基づき、トンネル10の表面との間隔を1.0m程度に広げたアーチフレーム1の外周部に、面密度(m)が2.17kg/m
2、空気層厚さ(L)が1.0mを実現する前記吸音バルーン2を用いた低減装置7で実施する(
図1〜
図3を援用して参照)。前記吸音バルーン2のアーチフレーム1側の表面には、鉛シートが横向き(又は縦向き)に貼着されている。
この実施例6に係る低減装置7によれば、試験ケースDの結果に基づき、低周波数成分を多く含むトンネル発破音を効果的に低減することができる。さらに云えば、鉛シートを貼着しない上記実施例2と比し、前記吸音バルーン2の面密度を増大させたので、さらに低い低周波帯域で効果的に減音することができる。
【0051】
<試験ケースEについて>
この試験は、面密度(m)=1.22kg/m
2、空気層厚さ(L)=1.0m、前記式1よる共振周波数は54.3Hzである。これは、前記その1の試験で用いた前記吸音バルーン(防音シート)2の下方に少し間隔をあけて厚さ(t)が5cmのグラスウールを位置決めしたものである。
実試験結果によると、
図8Cより、中心周波数が25Hzの位置で、残響室法吸音率が0.67と最も高いことが分かる。
このことから、低減効果が認められる中心周波数が25Hzの位置にあるので、低周波帯域(100Hz以下)を効果的に減音するのに適していることが分かる。また、残響室法吸音率のピークは0.67と、低減効果も期待できることが分かる。
以上より、前記面密度等の諸条件に基づくバルーンを用いた低減装置によれば、トンネル発破音の低減装置に十分に適していることが分かった。
【実施例7】
【0052】
実施例7では、前記試験ケースCのデータに基づき、トンネル10の表面との間隔を1.0m程度に広げたアーチフレーム1の外周部に、面密度(m)が1.22kg/m
2、空気層厚さ(L)が1.0mを実現する前記吸音バルーン2を用いた低減装置7で実施する(
図1〜
図3を援用して参照)。前記吸音バルーン2のアーチフレーム1側には、厚さ5cmのグラスウールが内蔵されている。
この実施例7に係る低減装置7によれば、試験ケースEの結果に基づき、低周波数成分を多く含むトンネル発破音を効果的に低減することができる。
【0053】
<試験ケースFについて>
この試験は、面密度(m)=1.22kg/m
2、空気層厚さ(L)=1.0m、前記式1よる共振周波数は54.3Hzである。これは、前記その1の試験で用いた前記吸音バルーン(防音シート)2の下方に大きく間隔をあけて(床側に近づけて)厚さ(t)が25cmのグラスウールを位置決めしたものである。
実試験結果によると、
図9Aより、中心周波数が25Hzの位置で、残響室法吸音率が0.51と最も高いことが分かる。
このことから、低減効果が認められる中心周波数が25Hzの位置にあるので、低周波帯域(100Hz以下)を効果的に減音するのに適していることが分かる。また、残響室法吸音率のピークは0.51と、減音効果も期待できることが分かる。
以上より、前記面密度等の諸条件に基づくバルーンを用いた低減装置によれば、トンネル発破音の低減装置に十分に適していることが分かる。
【実施例8】
【0054】
実施例8では、前記試験ケースDのデータに基づき、トンネル10の表面との間隔を1.0m程度に広げたアーチフレーム1の外周部に、面密度(m)が1.22kg/m
2、空気層厚さ(L)が1.0mを実現する前記吸音バルーン2を用いた低減装置7で実施する(
図1〜
図3を援用して参照)。前記吸音バルーン2のトンネル10の表面側には、厚さ25cmのグラスウールが内蔵されている。
この実施例8に係る低減装置7によれば、試験ケースFの結果に基づき、低周波数成分を多く含むトンネル発破音の低周波騒音を効果的に低減することができる。
【0055】
<試験ケースGについて>
この試験は、面密度(m)=1.70kg/m
2、空気層厚さ(L)=1.0m、前記式1よる共振周波数は46.1Hzである。これは、前記その1の試験で用いた前記吸音バルーン(防音シート)2の下方に少し間隔をあけて厚さ(t)が5cmのグラスウールを位置決めしたものである。また、前記吸音バルーン2の上面に鉛シート(0.59kg×5枚)を貼着して面密度を1.22kg/m
2から1.70kg/m
2に増大させている。
実試験結果によると、
図9Bより、中心周波数が31.5Hzの位置で、残響室法吸音率が0.65と最も高いことが分かる。
このことから、低減効果が認められる中心周波数が31.5Hzの位置にあるので、低周波帯域(100Hz以下)を効果的に減音するのに適していることが分かる。また、残響室法吸音率のピークは0.65と、低減効果も期待できることが分かる。
以上より、前記面密度等の諸条件に基づくバルーンを用いた低減装置によれば、トンネル発破音の低減装置に十分に適していることが分かる。
【実施例9】
【0056】
実施例9では、前記試験ケースEのデータに基づき、トンネル10の表面との間隔を1.0m程度に広げたアーチフレーム1の外周部に、面密度(m)が1.70kg/m
2、空気層厚さ(L)が1.0mを実現する前記吸音バルーン2を用いた低減装置7で実施する(
図1〜
図3を援用して参照)。前記吸音バルーン2のアーチフレーム1側には、厚さ5cmのグラスウールが内蔵されている。また、前記吸音バルーン2のアーチフレーム1側の表面には、鉛シートが横向き(又は縦向き)に貼着されている。
この実施例9に係る低減装置7によれば、試験ケースGの結果に基づき、低周波数成分を多く含むトンネル発破音の低周波騒音を効果的に低減することができる。
【0057】
<試験ケースHについて>
この試験は、面密度(m)=2.17kg/m
2、空気層厚さ(L)=1.0m、前記式1よる共振周波数は40.7Hzである。これは、前記その1の試験で用いた防音シートの下方に少し間隔をあけて厚さ(t)が5cmのグラスウールを位置決めしたものである。また、防音シートの上面に鉛シート(0.59kg×10枚)を貼着して面密度を1.22kg/m
2から2.17kg/m
2に増大させている。
実試験結果によると、
図9Cより、中心周波数が25.5Hzの位置で、残響室法吸音率が0.71と最も高いことが分かる。
このことから、低減効果が認められる中心周波数が25.5Hzの位置にあるので、低周波帯域(100Hz以下)を効果的に減音するのに適していることが分かる。また、残響室法吸音率のピークは0.71と、低減効果も期待できることが分かる。
以上より、前記面密度等の諸条件に基づくバルーンを用いた低減装置によれば、トンネル発破音の低減装置に十分に適していることが分かる。
【実施例10】
【0058】
実施例10では、前記試験ケースFのデータに基づき、トンネル10の表面との間隔を1.0m程度に広げたアーチフレーム1の外周部に、面密度(m)が2.17kg/m
2、空気層厚さ(L)が1.0mを実現する前記吸音バルーン2を用いた低減装置7で実施する(
図1〜
図3を援用して参照)。前記吸音バルーン2のアーチフレーム1側には、厚さ5cmのグラスウールが内蔵されている。また、前記吸音バルーン2のアーチフレーム1側の表面には、鉛シートが横向き(又は縦向き)に貼着されている。
この実施例10に係る低減装置7によれば、試験ケースHの結果に基づき、低周波数成分を多く含むトンネル発破音の低周波騒音を効果的に低減することができる。
【0059】
<試験ケースIについて>
この試験は、
図15Aに示したように、面密度(m)=1.65kg/m
2、空気層厚さ(L)=0.35m、前記式1よる共振周波数は79.0Hzである。これは、厚さ0.35mmの防音シート(養生シート)に厚さ1mmの防音シートを1枚(又は複数枚)、積層する構成で貼着してなる。
実試験結果によると、
図15Bより、中心周波数が25Hzと125Hzの2つの位置で、残響室法吸音率がともに約0.3と顕著に高いことが分かる。
このことから、低減効果が認められる中心周波数が25Hzと125Hzの2つの位置にあるので、低周波帯域(100Hz以下)を効果的に減音するのに適していることが分かる。また、残響室法吸音率のピークはともに約0.3と、低減効果も期待できることが分かる。
以上より、前記面密度等の諸条件に基づくバルーンを用いた低減装置によれば、トンネル発破音の低減装置に適していることが分かった。
【実施例11】
【0060】
実施例11では、前記試験ケースIのデータに基づき、トンネル10の表面との間隔を0.35m程度に広げたアーチフレーム1の外周部に、面密度(m)が1.65kg/m
2、空気層厚さ(L)が0.35mを実現する前記吸音バルーン2を用いた低減装置7で実施する(
図1〜
図3を援用して参照)。前記厚さ0.35mmの吸音バルーン2のアーチフレーム1側の表面には、さらに、厚さ1mmの防音シートを1枚積層する構成で実施している。
この実施例11に係る低減装置7によれば、試験ケースIの結果に基づき、低周波数成分を多く含むトンネル発破音を効果的に低減することができる。
また、前記積層状態に形成した防音シートの表面に鉛シートを貼着すると、さらに低周波成分を低減できることが期待できる。前記トンネル10の表面との間隔を0.5mや1.0m程度に広げると、さらに低周波成分を低減できることが期待できる。
【0061】
以上、実施例1〜11を図面等に基づいて説明したが、本発明は、この限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
【0062】
例えば、前記実施例1〜11に係る前記膜振動型吸音バルーン2の面密度等の数値はこれに限定されず、前記段落[0031]でも言及したように、本出願人らの発明者が実験および解析したところによると、面密度が、0.43〜2.17kg/m
2程度、膨張状態での空気層厚さが、20〜200cm程度、膜厚さが、0.35〜1.00mm程度の範囲内であれば、トンネル発破音の発破騒音のうち、低周波帯域(100Hz以下)の騒音はもとより、300Hz以下の騒音まで、効果的に低減できることが分かっている。
すなわち、前記実施例1〜11に係る低減装置は、低周波数成分を多く含むトンネル発破音を低減させる効果があるだけでなく、トンネル工事に伴う掘削騒音、又はずり運搬時に生じる騒音に対しても低減効果があることを容易に類推できる。
【0063】
また、前記アーチフレーム1(縦材1a)の脚部を二重管構造とし、軸方向の所要の箇所で段階的にボルト止めする伸縮自在な構造で実施することにより、トンネル10の表面との間隔を可変可能な構造で実施すると、当該アーチフレーム1が、前記吸音バルーン2のサイズに応じて柔軟な対応が可能となる。
図10に示したように、吸音バルーン2の中央部に更なる吸音バルーン2aを内蔵し、ファスナーを開くと内蔵した吸音バルーン2aが飛び出す2段階方式の構造で実施することにより、膨張させた吸音バルーン2の空気層厚さを可変可能な構造で実施することもできる。
【0064】
また、低減装置7の前方にトンネル中空断面を覆う膜等の遮蔽材を垂下して実施すると音が拡散してより減音効果が高まる。音圧と爆風圧の場合、音圧が先に到達するが、切羽面に近い部位での実施は、ほぼ同時に低減装置7に到達するため、爆風圧で吸音バルーン2が揺れる虞があり想定した低減効果を発揮できない場合がある。その対策として、前記したように、低減装置7の前方に膜等の遮蔽材を垂下して実施すると、爆風の到達を防止でき、想定した低減効果を得ることができる。加えて、音を拡散する効果も働くので、さらなる低減効果を期待できる。
その他、実施工においては、抗口に設けた防音扉により、高周波騒音および低周波騒音をともに低減できる。