(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
経験豊富な設備管理者が不足し、ビル常駐の管理形態から非常駐の巡回点検による管理形態に変えるビルが増えているため、従来にも増して、設備の性能劣化や異常を検知する効率的な手法が求められている。
【0007】
特許文献1に開示された方法では、空調機器メーカーが自社製品である空調機器の運転データを、自社の遠隔監視センターでデータ収集し、空調機器の性能劣化や異常を判断する。この際、メンテナンス要否判断のために必要なデータは、空調機器毎に詳細に計測され、現場から全て遠隔監視センターへ送られ収集されているものと想定している。
【0008】
しかし、実際の現場では、必要なデータが全て計測され、かつ、空調機器メーカーがデータを外部に公開して利用可能な状態になっていることは稀である。そのため、特許文献1に開示された方法を適用できるビルや適用範囲が限定されてしまうという問題点があった。
【0009】
また、特許文献1に開示された方法では、通常の稼働時間帯の運転データを用いて空調機器のメンテナンスの要否を判断するため、取得できる運転データに制約があり、メンテナンスの要否を的確に判断できない可能性があった。空調機器のメンテナンスの要否を的確に判断するためには、メンテナンスの要否の判断に適した運転データを取得する必要があるが、このような運転データを通常の稼働時間帯に取得するためには、メンテナンスのために特別にセンサを追加設置する必要があり、メンテナンスに要するコストが上昇してしまうという問題点があった。
【0010】
したがって、メンテナンスのために特別にセンサを追加設置することなく、空調制御のために大多数の建物で一般的に収集されている運転データ(機器発停、室内温度、湿度、風量、給気温度、インバータ回転数、動力電力、バルブ開度、等)のみを使用してデータ分析を実施し、性能劣化や異常のためメンテナンスを必要とする可能性がある空調機器を抽出することが望ましい。
このように、メンテナンスを必要とする可能性がある空調機器をあらかじめ抽出すれば、メンテナンス対象を絞ってから現場にサービスマンが入るので、サービスマンが現場でメンテナンス作業を実施する時間を大幅に削減することができる。
【0011】
しかし、空調機器を機器単体毎に性能評価する場合、BEMSによる空調機器の制御用温度や運転状態、制御弁等のデータを利用することになるが、同一空間の他の空調機器の運転による影響を受けたり、外窓付近では日射などの影響を受けたりする場合が多い。
そのため、通常通りの空調機器の運転を行い、その運転データから、個々の空調機器の性能評価を行なうことは難しいという問題点があった。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、メンテナンスのために特別にセンサを追加設置することなく、メンテナンスを必要とする可能性がある空調機器を抽出することができるメンテナンス支援システムおよび方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のメンテナンス支援システムは、空調機器のメンテナンスモード運転のスケジュールを作成するスケジュール作成手段と、前記メンテナンスモード運転の対象となる空調機器の稼働状態に基づいて前記メンテナンスモード運転の実行可否を判断する実行可否判断手段と、この実行可否判断手段がメンテナンスモード運転実行可と判断した場合に、対象となる空調機器に対し前記メンテナンスモード運転の実行を指示する機器運転指示手段と、前記メンテナンスモード運転を実行した空調機器から運転データを収集する運転データ収集手段と、前記運転データの挙動に基づいて空調機器のメンテナンスの要否を判断するメンテナンス要否判断手段と
、過去のメンテナンスモード運転で収集された運転データを記憶する運転データ記憶手段とを備え
、前記メンテナンス要否判断手段は、前記運転データ収集手段によって収集された運転データの計測値の変化と過去のメンテナンスモード運転における対応する運転データの計測値の変化との差異に基づいて空調機器のメンテナンスの要否を判断することを特徴とするものである。
また、本発明のメンテナンス支援システムは、空調機器のメンテナンスモード運転のスケジュールを作成するスケジュール作成手段と、前記メンテナンスモード運転の対象となる空調機器の稼働状態に基づいて前記メンテナンスモード運転の実行可否を判断する実行可否判断手段と、この実行可否判断手段がメンテナンスモード運転実行可と判断した場合に、対象となる空調機器に対し前記メンテナンスモード運転の実行を指示する機器運転指示手段と、前記メンテナンスモード運転を実行した空調機器から少なくとも設定値データおよび計測値データを含む運転データを収集する運転データ収集手段と、前記運転データの制御に関連する挙動に基づいて空調機器のメンテナンスの要否を判断するメンテナンス要否判断手段とを備え、前記メンテナンス要否判断手段は、空調機器が空調の対象とする空間の室内温度、室内湿度、空調機器が対象とする空間へ供給する給気風量、給気温度、空調機器の送風機のインバータの回転数、および空調機器の熱交換器に供給される熱媒の量を制御するバルブの開度のうち少なくとも1つの計測値データとこれに対応する設定値データとの偏差に基づいて空調機器のメンテナンスの要否を判断することを特徴とするものである。
また、本発明のメンテナンス支援システムは、空調機器のメンテナンスモード運転のスケジュールを作成するスケジュール作成手段と、前記メンテナンスモード運転の対象となる空調機器の稼働状態に基づいて前記メンテナンスモード運転の実行可否を判断する実行可否判断手段と、この実行可否判断手段がメンテナンスモード運転実行可と判断した場合に、対象となる空調機器に対し前記メンテナンスモード運転の実行を指示する機器運転指示手段と、前記メンテナンスモード運転を実行した空調機器から少なくとも計測値データを含む運転データを収集する運転データ収集手段と、前記運転データの制御に関連する挙動に基づいて空調機器のメンテナンスの要否を判断するメンテナンス要否判断手段とを備え、前記メンテナンス要否判断手段は、前記計測値データについて、空調機器を起動させて前記メンテナンスモード運転を開始させた時点から所定時間内の前記計測値の起動時初期値に対する変化に基づいて空調機器のメンテナンスの要否を判断することを特徴とするものである。
また、本発明のメンテナンス支援システムの1構成例において、前記メンテナンス要否判断手段は、空調機器が空調の対象とする空間の室内温度、室内湿度、空調機器が対象とする空間へ供給する給気風量、給気温度、空調機器の送風機のインバータの回転数、および空調機器の熱交換器に供給される熱媒の量を制御するバルブの開度のうち少なくとも1つの計測値データについて、空調機器を起動させて前記メンテナンスモード運転を開始させた時点から所定時間内の前記計測値の起動時初期値に対する変化に基づいて空調機器のメンテナンスの要否を判断することを特徴とするものである。
また、本発明のメンテナンス支援システムの1構成例は、さらに、メンテナンスが必要な空調機器のリストを作成して出力するメンテナンス機器リスト出力手段を備えることを特徴とするものである。
また、本発明のメンテナンス支援システムの1構成例において、前記機器運転指示手段は、前記運転データに対応する空調制御の設定値を対象となる空調機器に与え、前記メンテナンスモード運転を実行させることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明のメンテナンス支援システムの1構成例は、前記実行可否判断手段は、前記メンテナンスモード運転の実施日の実施時間帯の直前の時刻に、前記メンテナンスモード運転の対象となる空調機器の中に稼働中の空調機器がなく、かつ空調の対象とする空間の環境条件があらかじめ定めた所定の範囲内にある場合に、メンテナンスモード運転実行可と判断し、対象となる空調機器の中に稼働中の空調機器があるか、あるいは空調の対象とする空間の環境条件があらかじめ定めた所定の範囲内にない場合に、メンテナンスモード運転実行不可と判断することを特徴とするものである。
また、本発明のメンテナンス支援システムの1構成例は、さらに、過去のメンテナンスモード運転の実施日の実施時間帯の外部環境条件を記憶する外部環境条件記憶手段を備え、前記実行可否判断手段は、前記メンテナンスモード運転の実施日の実施時間帯の直前の時刻に、前記メンテナンスモード運転の対象となる空調機器の中に稼働中の空調機器がなく、かつ前記メンテナンスモード運転を実行しようとする現在の外部環境条件が過去のメンテナンスモード運転の実施日の実施時間帯の外部環境条件と略同一である場合に、メンテナンスモード運転実行可と判断し、対象となる空調機器の中に稼働中の空調機器があるか、あるいは現在の外部環境条件が過去のメンテナンスモード運転の実施日の実施時間帯の外部環境条件と略同一でない場合に、メンテナンスモード運転実行不可と判断することを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明のメンテナンス支援システムの1構成例は、さらに、過去のメンテナンスモード運転の実施日の実施時間帯の外部環境条件を記憶する外部環境条件記憶手段を備え、前記実行可否判断手段は、前記メンテナンスモード運転の実施日の実施時間帯の直前の時刻に、前記メンテナンスモード運転の対象となる空調機器の中に稼働中の空調機器がなく、空調の対象とする空間の環境条件があらかじめ定めた所定の範囲内にあり、かつ前記メンテナンスモード運転を実行しようとする現在の外部環境条件が過去のメンテナンスモード運転の実施日の実施時間帯の外部環境条件と略同一である場合に、メンテナンスモード運転実行可と判断し、対象となる空調機器の中に稼働中の空調機器がある場合、あるいは空調の対象とする空間の環境条件があらかじめ定めた所定の範囲内にない場合、あるいは現在の外部環境条件が過去のメンテナンスモード運転の実施日の実施時間帯の外部環境条件と略同一でない場合に、メンテナンスモード運転実行不可と判断することを特徴とするものである。
また、本発明のメンテナンス支援システムの1構成例において、前記スケジュール作成手段は、空調機器が空調の対象とする空間に居住者が不在の時間帯を、前記メンテナンスモード運転を実施する時間帯として設定することを特徴とするものである。
また、本発明のメンテナンス支援システムの1構成例において、前記スケジュール作成手段は、
各空調機器と空調の対象となる空間との対応関係を示す対応情報および複数の空間の間の熱干渉の有無を示す情報を予め記憶し、この記憶している情報を基に、空調機器の稼働が互いの運転データに影響を与える
と判断される複数の空調機器を同時稼働の対象から外し、空調機器の稼働が互いの運転データに影響を与えない
と判断される複数の空調機器を同時稼働の対象とするように、前記メンテナンスモード運転のスケジュールを作成することを特徴とするものである。
また、本発明のメンテナンス支援システムの1構成例において、前記スケジュール作成手段は、前記メンテナンスモード運転を実施する時間帯が、空調機器の通常の稼働時間帯の直前に設定されるように、前記メンテナンスモード運転のスケジュールを作成することを特徴とするものである
。
【0016】
また、本発明のメンテナンス支援方法は、空調機器のメンテナンスモード運転のスケジュールを作成するスケジュール作成ステップと、前記メンテナンスモード運転の対象となる空調機器の稼働状態に基づいて前記メンテナンスモード運転の実行可否を判断する実行可否判断ステップと、この実行可否判断ステップでメンテナンスモード運転実行可と判断した場合に、対象となる空調機器に対し前記メンテナンスモード運転の実行を指示する機器運転指示ステップと、前記メンテナンスモード運転を実行した空調機器から運転データを収集する運転データ収集ステップと、前記運転データの挙動に基づいて空調機器のメンテナンスの要否を判断するメンテナンス要否判断ステップとを含
み、前記メンテナンス要否判断ステップは、過去のメンテナンスモード運転で収集された運転データを記憶する運転データ記憶手段を参照し、前記運転データ収集ステップで収集された運転データの計測値の変化と過去のメンテナンスモード運転における対応する運転データの計測値の変化との差異に基づいて空調機器のメンテナンスの要否を判断するステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明のメンテナンス支援方法は、空調機器のメンテナンスモード運転のスケジュールを作成するスケジュール作成ステップと、前記メンテナンスモード運転の対象となる空調機器の稼働状態に基づいて前記メンテナンスモード運転の実行可否を判断する実行可否判断ステップと、この実行可否判断ステップでメンテナンスモード運転実行可と判断した場合に、対象となる空調機器に対し前記メンテナンスモード運転の実行を指示する機器運転指示ステップと、前記メンテナンスモード運転を実行した空調機器から少なくとも設定値データおよび計測値データを含む運転データを収集する運転データ収集ステップと、前記運転データの制御に関連する挙動に基づいて空調機器のメンテナンスの要否を判断するメンテナンス要否判断ステップとを含み、前記メンテナンス要否判断ステップは、空調機器が空調の対象とする空間の室内温度、室内湿度、空調機器が対象とする空間へ供給する給気風量、給気温度、空調機器の送風機のインバータの回転数、および空調機器の熱交換器に供給される熱媒の量を制御するバルブの開度のうち少なくとも1つの計測値データとこれに対応する設定値データとの偏差に基づいて空調機器のメンテナンスの要否を判断するステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明のメンテナンス支援方法は、空調機器のメンテナンスモード運転のスケジュールを作成するスケジュール作成ステップと、前記メンテナンスモード運転の対象となる空調機器の稼働状態に基づいて前記メンテナンスモード運転の実行可否を判断する実行可否判断ステップと、この実行可否判断ステップでメンテナンスモード運転実行可と判断した場合に、対象となる空調機器に対し前記メンテナンスモード運転の実行を指示する機器運転指示ステップと、前記メンテナンスモード運転を実行した空調機器から少なくとも計測値データを含む運転データを収集する運転データ収集ステップと、前記運転データの制御に関連する挙動に基づいて空調機器のメンテナンスの要否を判断するメンテナンス要否判断ステップとを含み、前記メンテナンス要否判断ステップは、前記計測値データについて、空調機器を起動させて前記メンテナンスモード運転を開始させた時点から所定時間内の前記計測値の起動時初期値に対する変化に基づいて空調機器のメンテナンスの要否を判断するステップを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、スケジュール作成手段と、実行可否判断手段と、機器運転指示手段と、運転データ収集手段と、メンテナンス要否判断手段とを設けることにより、メンテナンスのために特別にセンサを追加設置することなく、空調制御のために大多数の建物で一般的に収集されている運転データのみを使用して、メンテナンスを必要とする可能性がある空調機器を抽出することができる。
【0018】
また、本発明では、運転データに対応する空調制御の設定値を、メンテナンスモード運転の対象となる空調機器に与えることにより、メンテナンスの要否の判断に特化したメンテナンスモード運転を空調機器に実行させることができる。
【0019】
また、本発明では、収集された運転データの計測値とこれに対応する設定値との偏差を指標として採用することにより、空調機器の性能劣化や異常を判断することができる。
【0020】
また、本発明では、収集された運転データの計測値の初期値に対する変化を指標として採用することにより、空調機器の性能劣化や異常を判断することができる。
【0021】
また、本発明では、収集された運転データの計測値の変化と過去のメンテナンスモード運転における対応する運転データの計測値の変化との差異を指標として採用することにより、空調機器の性能劣化や異常を判断することができる。
【0022】
また、本発明では、空調の対象とする空間の環境条件があらかじめ定めた所定の範囲内にある場合にメンテナンスモード運転を実行することにより、室内温度や湿度などの影響を排除した判断が可能になる。
【0023】
また、本発明では、現在の外部環境条件が過去のメンテナンスモード運転の実施日の実施時間帯の外部環境条件と略同一である場合にメンテナンスモード運転を実行することにより、外気温度や日射などの影響を排除した判断が可能になる。
【0024】
また、本発明では、空調機器が空調の対象とする空間に居住者が不在の時間帯を、メンテナンスモード運転を実施する時間帯として設定することにより、その居住環境に影響を与えずに空調機器のメンテナンスの要否の判断に特化した運転データを収集することができる。
【0025】
また、本発明では、空調機器の稼働が互いの運転データに影響を与える複数の空調機器を同時稼働の対象から外し、空調機器の稼働が互いの運転データに影響を与えない複数の空調機器を同時稼働の対象とするように、メンテナンスモード運転のスケジュールを作成することにより、他の空調機器の運転による影響を受けない状態でメンテナンスモード運転を実行させることができ、空調機器のメンテナンスの要否を的確に判断することができる。
【0026】
また、本発明では、メンテナンスモード運転を実施する時間帯が、空調機器の通常の稼働時間帯の直前に設定されるように、メンテナンスモード運転のスケジュールを作成することにより、プレクールまたはプレヒートの効果が得られるので、エネルギーの無駄を最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[発明の原理]
発明者は、上記の課題を解決するため、居住者が不在のためにその居住環境に影響を与えない時間帯に、個々の空調機器を順次独立に稼働させるメンテナンスモード運転を導入すれば、空調機器毎にそれぞれ独立した入出力データを獲得することができるということに想到した。
【0029】
本発明の方法は、本来は空調機器を稼働させる必要がない時間帯に、メンテナンスデータを獲得するためだけに無駄に空調機器を稼働させることになるので、顧客にとっては増エネルギーに繋がり、常に限度一杯の省エネルギー運転を要求されている建物管理者にとっては本来は受け入れがたい方法である。
【0030】
しかし、空調機器のメンテナンスモード運転を実施するのは多くても年間で数時間と限られているため、メンテナンスモード運転の増エネルギーの影響によるデメリットは、建物管理者の理解を得ることができる程度で収まると考えられる。
【0031】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施の形態に係るメンテナンス支援システムの構成を示すブロック図である。メンテナンス支援システムは、管理対象の建物1に設置された空調機器2−1〜2−Nと、各空調機器2−1〜2−Nから運転データを収集して空調機器2−1〜2−Nのメンテナンスの要否を判断する監視センター3と、空調機器2−1〜2−Nと監視センター3とを接続する管理システムまたはネットワーク4とから構成される。
【0032】
空調機器2−1〜2−Nは、VAV(Variable Air Volume)ユニット、FCU(Fan Coil Unit)、AHU(Air Handling Unit)、ビルマルチのいずれであってもよく、これらの空調機器が混在するものであってもよい。
【0033】
監視センター3は、空調機器2−1〜2−Nのメンテナンスモード運転のスケジュールを作成するスケジュール作成部30と、メンテナンスモード運転の対象となる空調機器2−1〜2−Nの稼働状態に基づいてメンテナンスモード運転の実行可否を判断するメンテナンスモード実行可否判断部31と、メンテナンスモード実行可否判断部31がメンテナンスモード運転実行可と判断した場合に、対象となる空調機器2−1〜2−Nに対しメンテナンスモード運転の実行を指示する機器運転指示部32と、メンテナンスモード運転を実行した空調機器2−1〜2−Nから運転データを収集する運転データ収集部33と、運転データの挙動に基づいて空調機器2−1〜2−Nのメンテナンスの要否を判断するメンテナンス要否判断部34と、メンテナンスが必要な空調機器のリストを作成して出力するメンテナンス機器リスト出力部35と、過去のメンテナンスモード運転の実施日の実施時間帯の外部環境条件を記憶する外部環境条件記憶部36と、過去のメンテナンスモード運転で収集された運転データを記憶する運転データ記憶部37とを備えている。
【0034】
監視センター3は、管理対象の建物1の内部もしくは建物1の外部(巡回点検の拠点等)に設置され、建物1内の各空調機器2−1〜2−Nから収集した運転データを分析し、性能劣化や異常のためメンテナンスを必要とする可能性がある空調機器2−1〜2−Nを抽出する。
【0035】
この際、空調機器2−1〜2−Nの性能評価用などのために特別なセンサを追加設置することなく、空調制御用の運転データ(機器発停、室内温度、湿度、風量、給気温度、インバータ回転数、動力電力、バルブ開度、等)を使用してデータ分析を実施したい。そこで、監視センター3は、居住者が不在のためその居住環境に影響を与えない時間帯に、個々の空調機器2−1〜2−Nを順次独立に稼働させるメンテナンスモード運転を実行し、空調機器毎にそれぞれ独立した入出力データを獲得する。
【0036】
図2は本実施の形態のメンテナンス支援システムの動作を説明するフローチャートである。最初に、スケジュール作成部30は、管理対象の建物1内の各空調機器2−1〜2−Nのメンテナンスモード運転のスケジュールを空調機器毎に作成する(
図2ステップS1)。
【0037】
スケジュール作成部30は、顧客(建物1の管理者または居住者)から事前に提供された居住者スケジュール情報に基づいて、空調機器のメンテナンスモード運転を実施する時間帯を、居住者が不在のためその居住環境に影響を与えない時間帯(例えば、夜間、早朝、休日)に設定する。メンテナンスモード運転を実施する時間帯においては、通常、全ての空調機器2−1〜2−Nは停止している。居住者スケジュール情報には、居住者が不在の日時が、各空調機器2−1〜2−Nが空調の対象とする、建物1内の空間ごとに記述されている。
【0038】
スケジュール作成部30は、個々の空調機器2−1〜2−Nを順次独立に稼働させ、空調機器毎にそれぞれ独立した入出力データを獲得できるよう、メンテナンスモード運転のスケジュール情報を作成する。メンテナンスモード運転のスケジュール情報は、空調機器2−1〜2−Nの起動日時情報と停止日時情報とからなる。
【0039】
このとき、スケジュール作成部30は、建物1内の各空調機器2−1〜2−Nのうち、異なるフロアに設置されている空調機器、同じフロアであっても壁で仕切られた異なる部屋に設置されている空調機器、または同じ大空間にあっても離れた場所に設置されていて互いに影響を与えないと判断できる空調機器については、同時に稼働させるようにメンテナンスモード運転のスケジュール情報を作成してもよい。
【0040】
スケジュール作成部30には、各空調機器2−1〜2−Nと空調の対象となる空間との対応関係を示す対応情報が予め登録されている。スケジュール作成部30は、この対応情報を基に、スケジュール情報を作成する必要がある複数の空調機器について、空調の対象となる空間が異なるフロアにある場合、空調機器の稼働が互いの運転データに影響を与えないと判断し、複数の空調機器の同時稼働が可能と判断する。
【0041】
また、スケジュール作成部30は、前記の対応情報を基に、スケジュール情報を作成する必要がある複数の空調機器について、空調の対象となる空間が同一か否かを判断し、空調の対象となる空間が異なる場合、空調機器の稼働が互いの運転データに影響を与えないと判断し、複数の空調機器の同時稼働が可能と判断してもよい。
【0042】
また、前記の対応情報に、複数の空間の間の熱干渉の有無を示す情報が付加されていてもよい。また、スケジュール作成部30は、スケジュール情報を作成する必要がある複数の空調機器について、空調の対象となる空間の間に熱干渉がない場合、空調機器の稼働が互いの運転データに影響を与えないと判断し、複数の空調機器の同時稼働が可能と判断してもよい。
【0043】
また、スケジュール作成部30は、建物1内に空調機器2−1〜2−Nが多数ある場合、メンテナンスモード運転を複数日に分割して実施するようにスケジュール情報を作成してもよい。
【0044】
また、スケジュール作成部30は、メンテナンスモード運転を実施する時間帯が、空調機器2−1〜2−Nの通常稼働時間帯の直前に設定されるようにスケジュール情報を作成してもよい。メンテナンスモード運転を実施することで、プレクールまたはプレヒートの効果が得られるので、エネルギーの無駄を最小限に抑えることができる。各空調機器2−1〜2−Nの通常稼働時間帯の情報は、顧客から事前に提供される通常稼働スケジュール情報から取得することができる。
【0045】
メンテナンスモード運転のスケジュールの例を
図3に示す。
図3の例では、例えば建物1の1階のゾーン1(1F−1)に設置されている空調機器であるFCUを3時から3時30分まで稼働させ、また1階のゾーン2(1F−2)に設置されているFCUを4時から4時30分まで稼働させる、というようにメンテナンスモード運転のスケジュールが作成されている。また、2階のゾーン1(2F−1)に設置されているFCUを、1F−1のFCUと同時に稼働させるように、メンテナンスモード運転のスケジュールが作成されている。
【0046】
なお、スケジュール作成部30は、メンテナンスモード運転で空調機器を起動/停止させた後、他の空調機器を起動させるまでに一定時間のインターバルが空くように、メンテナンスモード運転のスケジュールを作成する。これにより、室内環境がある程度元に戻り落ち着くまでの待ち時間を設けることができる。
図3の例では、1階のゾーン1(1F−1)のFCUと2階のゾーン1(2F−1)のFCUを3時に起動して3時30分に停止させた後、1階のゾーン2(1F−2)のFCUと2階のゾーン2(2F−2)のFCUを4時に起動させるというように、30分のインターバルを設けている。
【0047】
次に、メンテナンスモード実行可否判断部31は、メンテナンスモード運転の実行可否を判断する(
図2ステップS2,S3)。具体的には、メンテナンスモード実行可否判断部31は、スケジュール作成部30が作成したスケジュールで定められたメンテナンスモード運転の実施日の実施時間帯の直前の時刻になったときに、このメンテナンスモード運転の対象となる全ての空調機器の稼働状態を確認し、これらの空調機器の中に稼働中の空調機器がない場合にはメンテナンスモード運転実行可と判断し、稼働中の空調機器がある場合にはメンテナンスモード運転実行不可と判断する。ここで実行不可と判断した場合は、メンテナンスモード運転の実施を次回の候補日まで延期する。
【0048】
図3の例で、例えば2時50分になったときには、現在時刻から通常稼働時間帯までの時間帯でメンテナンスモード運転の実行スケジュールが設定された全てのFCU、具体的には3時に起動する1F−1のFCUと2F−1のFCU、4時に起動する1F−2のFCUと2F−2のFCU、5時に起動する1F−3のFCUと2F−3のFCU、これら6台のFCUがメンテナンスモード運転の対象となる。メンテナンスモード実行可否判断部31は、これら6台のFCUが全て稼働していない場合にはメンテナンスモード運転実行可と判断し、これら6台のFCUのうち少なくとも1台が稼働している場合にはメンテナンスモード運転実行不可と判断する。
【0049】
また、メンテナンスモード実行可否判断部31は、メンテナンスモード運転の実行可否の判断に、室内温度または湿度があらかじめ診断条件として定めた一定の範囲内にあるかどうかの確認を加えてもよい。
【0050】
具体的には、メンテナンスモード実行可否判断部31は、メンテナンスモード運転の実施日の実施時間帯の直前の時刻になったときに、このメンテナンスモード運転の対象となる全ての空調機器の稼働状態と、これらの空調機器が空調の対象とする空間の室内温度とを確認し、これらの空調機器の中に稼働中の空調機器がなく、かつ空調の対象となる空間の室内温度が所定の室内温度範囲内にある場合には、メンテナンスモード運転実行可と判断し、稼働中の空調機器があるか、あるいは空調の対象となる空間の室内温度が前記室内温度範囲から外れている場合には、メンテナンスモード運転実行不可と判断する。
【0051】
また、メンテナンスモード実行可否判断部31は、メンテナンスモード運転の実施日の実施時間帯の直前の時刻になったときに、このメンテナンスモード運転の対象となる全ての空調機器の稼働状態と、これらの空調機器が空調の対象とする空間の湿度とを確認し、これらの空調機器の中に稼働中の空調機器がなく、かつ空調の対象となる空間の湿度が所定の湿度範囲内にある場合には、メンテナンスモード運転実行可と判断し、稼働中の空調機器があるか、あるいは空調の対象となる空間の湿度が前記湿度範囲から外れている場合には、メンテナンスモード運転実行不可と判断する。
【0052】
上記のとおり、スケジュール作成部30には、各空調機器2−1〜2−Nと空調の対象となる空間との対応関係を示す対応情報が予め登録されているので、この対応情報を利用すれば、メンテナンスモード運転の空調の対象となる空間を認識することが可能である。そして、メンテナンスモード実行可否判断部31は、空調の対象となる空間に設置されている室内温度センサから室内温度の情報を取得し、当該空間に設置されている湿度センサから湿度の情報を取得すればよい。室内温度と湿度は両方とも確認してもよいし、どちらか一方のみを確認してもよい。
【0053】
また、メンテナンスモード実行可否判断部31は、メンテナンスモード運転の実行可否の判断に、過去のメンテナンスモード運転実施日と外部環境条件(外気温度、外気湿度、天候等)が略同一であるかどうかの確認を加えてもよい。
【0054】
例えば、メンテナンスモード実行可否判断部31は、メンテナンスモード運転の実施日の実施時間帯の直前の時刻になったときに、このメンテナンスモード運転の対象となる全ての空調機器の稼働状態と、これらの空調機器の過去のメンテナンスモード運転の実施日の同時間帯の外気温度と、現在の外気温度とを確認し、これらの空調機器の中に稼働中の空調機器がなく、かつ現在の外気温度が過去のメンテナンスモード運転の実施日の同時間帯の外気温度を中心とする所定の外気温度範囲内にある場合には、メンテナンスモード運転実行可と判断し、稼働中の空調機器があるか、あるいは現在の外気温度が前記外気温度範囲から外れている場合には、メンテナンスモード運転実行不可と判断する。
【0055】
また、メンテナンスモード実行可否判断部31は、メンテナンスモード運転の実施日の実施時間帯の直前の時刻になったときに、このメンテナンスモード運転の対象となる全ての空調機器の稼働状態と、これらの空調機器の過去のメンテナンスモード運転の実施日の同時間帯の外気湿度と、現在の外気湿度とを確認し、これらの空調機器の中に稼働中の空調機器がなく、かつ現在の外気湿度が過去のメンテナンスモード運転の実施日の同時間帯の外気湿度を中心とする所定の外気湿度範囲内にある場合には、メンテナンスモード運転実行可と判断し、稼働中の空調機器があるか、あるいは現在の外気湿度が前記外気湿度範囲から外れている場合には、メンテナンスモード運転実行不可と判断する。
【0056】
また、メンテナンスモード実行可否判断部31は、メンテナンスモード運転の実施日の実施時間帯の直前の時刻になったときに、このメンテナンスモード運転の対象となる全ての空調機器の稼働状態と、これらの空調機器の過去のメンテナンスモード運転の実施日の同時間帯の天候(晴、曇り、雨等)と、現在の天候とを確認し、これらの空調機器の中に稼働中の空調機器がなく、かつ現在の天候が過去のメンテナンスモード運転の実施日の同時間帯の天候と同じ場合には、メンテナンスモード運転実行可と判断し、稼働中の空調機器があるか、あるいは現在の天候が過去のメンテナンスモード運転の実施日の同時間帯の天候と異なる場合には、メンテナンスモード運転実行不可と判断する。
【0057】
外部環境条件記憶部36には、過去のメンテナンスモード運転の実施日の実施時間帯の外部環境条件(外気温度、外気湿度、天候等)が建物毎に記録されている。メンテナンスモード実行可否判断部31は、外部環境条件記憶部36から、メンテナンスモード運転の対象となる空調機器の過去のメンテナンスモード運転の実施日の実施時間帯の外部環境条件の情報を取得することができる。
【0058】
現在の外部環境条件のうち、外気温度と外気湿度については、建物1に設置されたセンサから取得してもよいし、ネットワークを介して外部の観測システムから最新の観測データを取得してもよい。また、天候については、外部の観測システムから最新の天候データを取得すればよい。外気温度と外気湿度と天候は、これらのうち少なくとも1つを確認すればよい。
【0059】
また、メンテナンスモード実行可否判断部31は、メンテナンスモード運転の実行可否の判断に、上記の室内温度または湿度があらかじめ診断条件として定めた一定の範囲内にあるかどうかの確認と、上記の過去のメンテナンスモード運転実施日と外部環境条件(外気温度、外気湿度、天候等)が略同一であるかどうかの確認とを、同時に実行するよう加えてもよい。この際、双方の確認ともメンテナンスモード運転実行可と判断できる場合のみメンテナンスモード運転実行可とし、少なくとも一方の確認でメンテナンスモード運転実行不可と判断される場合はメンテナンスモード運転実行不可とする。
【0060】
メンテナンスモード実行可否判断部31は、以上のようなメンテナンスモード運転の実行可否の判断を、スケジュール作成部30が作成したスケジュールで定められたメンテナンスモード運転の実施日の実施時間帯の直前の時刻になる度に行う。
【0061】
続いて、機器運転指示部32は、メンテナンスモード実行可否判断部31がメンテナンスモード運転実行可と判断した場合に、建物1内の空調機器2−1〜2−Nのうち、メンテナンスモード運転の対象となる個々の空調機器に対して管理システムまたはネットワーク4を介してメンテナンスモード運転の実行を指示する(
図2ステップS4)。管理システムとしては例えばBEMSがあり、ネットワークとしては例えばインターネットがある。
【0062】
このとき、機器運転指示部32は、スケジュール作成部30が作成したメンテナンスモード運転のスケジュールに基づく起動/停止の指示だけでなく、予め定められたメンテナンスモード運転設定値(例えば設定温度)をメンテナンスモード運転の対象となる空調機器に渡す。
【0063】
メンテナンスモード運転の対象となる空調機器は、機器運転指示部32からの指示に応じてメンテナンスモード運転を実行する。具体的には、空調機器は、機器運転指示部32から起動の指示があったときに起動し、空調の対象となる空間の室内温度が機器運転指示部32から指示のあった設定温度と一致するように制御し、機器運転指示部32から停止の指示があったときに停止する。
【0064】
また、メンテナンスモード運転中にメンテナンスモード運転設定値(設定温度)が変わるようにしてもよい。具体的には、例えば夏季のメンテナンスモード運転であれば、空調機器の起動時に標準の設定温度よりも降温方向へ設定温度を変更し、この設定温度で空調機器の停止時刻になるまでメンテナンスモード運転を継続させた後に、標準の設定温度に戻して空調機器を停止させるといった、メンテナンスモード運転設定値の変更スケジュールが機器運転指示部32に予め登録されている。
【0065】
また、冬季のメンテナンスモード運転であれば、空調機器の起動時に標準の設定温度よりも昇温方向へ設定温度を変更し、この設定温度で空調機器の停止時刻になるまでメンテナンスモード運転を継続させた後に、標準の設定温度に戻して空調機器を停止させるといった、メンテナンスモード運転設定値の変更スケジュールが機器運転指示部32に予め登録されている。
【0066】
メンテナンスモード運転設定値の変更スケジュールの例を
図4に示す。
図4の例は、夏季の例を示しており、標準の設定温度が26℃に定められている状態で、3時に空調機器を起動(ON)させると同時に設定温度を25℃に変更し、メンテナンスモード運転を継続させた後に、3時30分に空調機器を停止(OFF)させると同時に設定温度を標準の値に戻している。
【0067】
なお、以上の例では、機器運転指示部32が空調機器に与えるメンテナンスモード運転設定値として室内温度の目標値である設定温度を例に挙げて説明しているが、これに限るものではなく、室内湿度の目標値である設定湿度、空調機器が対象とする空間へ供給する給気の風量の目標値である設定給気風量、給気温度の目標値である設定給気温度、空調機器の送風機のインバータの回転数の目標値である設定回転数、空調機器の熱交換器に供給される熱媒の量を制御するバルブの開度の目標値である設定開度等の値を空調機器に与えるようにしてもよい。
【0068】
次に、運転データ収集部33は、メンテナンスモード運転中の個々の空調機器から管理システムまたはネットワーク4を介して運転データを収集する(
図2ステップS5)。具体的には、運転データ収集部33は、空調機器の運転データとして、機器発停データ(起動日時、停止日時のデータ)、室内温度データ、室内湿度データ、給気風量データ、給気温度データ、インバータ回転数データ、空調機器が消費する電力のデータ、バルブ開度データ等を収集する。運転データ収集部33が収集した運転データは、運転データ記憶部37に格納される。
【0069】
また、この運転データの収集と同時に、運転データ収集部33は、メンテナンスモード運転中の外部環境条件(外気温度、外気湿度、天候等)を収集する。外部環境条件のうち、外気温度と外気湿度については、建物1に設置されたセンサから取得してもよいし、ネットワークを介して外部の観測システムから最新の観測データを取得してもよい。また、天候については、外部の観測システムから最新の天候データを取得すればよい。運転データ収集部33が収集した外部環境条件の情報は、メンテナンスモード運転の実施日時の情報と共に外部環境条件記憶部36に格納される。
【0070】
次に、メンテナンス要否判断部34は、運転データ収集部33が収集した最新の運転データに基づいて、空調機器のメンテナンスの要否を、メンテナンスモード運転を実行した空調機器毎に判断する(
図2ステップS6)。具体的には、メンテナンス要否判断部34は、運転データの挙動を観察し、空調制御の設定値に対する精度差異や変化速度等を閾値と比較したり、運転データの過去との差異を閾値と比較したりすることで、空調機器2−1〜2−Nの性能劣化や異常を判断する。
【0071】
図5(A)は運転データの計測値PVとこれに対応する設定値SPとの偏差に基づいて空調機器のメンテナンスの要否を判断する方法を説明する図である。メンテナンス要否判断部34は、空調機器を起動させて設定値SPでメンテナンスモード運転開始させた時点から所定時間内に計測値PVと設定値SPとの偏差の絶対値|PV−SP|が予め定められた一定の閾値δ1以下になった場合、空調機器は正常で、メンテナンスは不要と判断し、所定時間が経過しても偏差の絶対値|PV−SP|が閾値δ1より大きい場合、空調機器に性能劣化や異常がある可能性が高く、メンテナンスが必要と判断する。
【0072】
図5(B)は運転データの計測値PVの初期値PV0からの変化に基づいて空調機器のメンテナンスの要否を判断する方法を説明する図である。メンテナンス要否判断部34は、空調機器を起動させて設定値SPでメンテナンスモード運転開始させた時点から所定時間内に計測値PVの起動時初期値PV0に対する変化量の絶対値|PV−PV0|が予め定められた一定の閾値δ2以上になった場合、空調機器は正常で、メンテナンスは不要と判断し、所定時間が経過しても変化量の絶対値|PV−PV0|が閾値δ2より小さい場合、空調機器に性能劣化や異常がある可能性が高く、メンテナンスが必要と判断する。
【0073】
図5(C)は今回のメンテナンスモード運転における運転データの計測値PVnewの初期値PVnew0からの変化と、過去のメンテナンスモード運転における対応する運転データの計測値PVoldの初期値PVold0からの変化との差異に基づいて空調機器のメンテナンスの要否を判断する方法を説明する図である。
【0074】
メンテナンス要否判断部34は、空調機器を起動させて設定値SPでメンテナンスモード運転開始させた時点から所定時間後までのnポイント(nは2以上の整数)の計測値PVnewの起動時初期値PVnew0に対する変化量x1i=PVnew−PVnew0をポイント毎に計算すると共に(iは1〜nの整数)、過去のメンテナンスモード運転において同空調機器を起動させて設定値SPでメンテナンスモード運転開始させた時点から所定時間後までのnポイントの計測値PVoldの起動時初期値PVoldに対する変化量x2i=PVold−PVold0をポイント毎に計算し、変化量x1iとx2iとの差異を示す二乗平均平方根誤差rmseを次式により計算する。
【0076】
メンテナンス要否判断部34は、計算した二乗平均平方根誤差rmseが予め定められた一定の閾値δ3以下になった場合、空調機器は正常で、メンテナンスは不要と判断し、二乗平均平方根誤差rmseが閾値δ3より大きい場合、空調機器に性能劣化や異常がある可能性が高く、メンテナンスが必要と判断する。過去のメンテナンスモード運転における対応する運転データは運転データ記憶部37から取得することができる。
【0077】
なお、この
図5(C)で説明した方法を用いる場合には、上記のように、メンテナンスモード運転の実行可否の判断に、過去のメンテナンスモード運転の実施日と外部環境条件が略同一であるかどうかの確認を加えることが望ましい(ステップS2,S3)。これにより、例えば外気温度や日射などの影響を排除した判断が可能になる。
【0078】
図5(A)、
図5(B)、
図5(C)で説明した方法で対象となる運転データとしては、室内温度、室内湿度、給気風量、給気温度、インバータ回転数、バルブ開度がある。これら運転データのうち少なくとも1つを用いて空調機器のメンテナンスの要否を判断すればよい。複数の運転データを用いる場合には、運転データ毎の全ての判断で空調機器は正常という結果が得られたときに、メンテナンスは不要と判断し、少なくとも1つの運転データに基づく判断で空調機器に性能劣化や異常がある可能性が高いという結果が得られたときに、メンテナンスが必要と判断すればよい。
【0079】
また、
図5(A)、
図5(B)、
図5(C)で説明した全ての方法を用いて空調機器のメンテナンスの要否を判断してもよいし、少なくとも1つの方法を用いてメンテナンスの要否を判断してもよい。複数の方法を用いる場合には、方法毎の全ての判断で空調機器は正常という結果が得られたときに、メンテナンスは不要と判断し、少なくとも1つの方法で空調機器に性能劣化や異常がある可能性が高いという結果が得られたときに、メンテナンスが必要と判断すればよい。
【0080】
次に、メンテナンス機器リスト出力部35は、メンテナンス要否判断部34の判断結果を基に、メンテナンスが必要な空調機器のリストを作成して出力する(
図2ステップS7)。この空調機器のリストは、現場でメンテナンス作業を実施するサービスマンに提供されることになるが、リストを出力する方法は限定されない。
【0081】
例えばメンテナンス機器リスト出力部35が空調機器のリストをレポートとして印刷することにより、レポートがサービスマンに配布されるようにしてもよいし、メンテナンス機器リスト出力部35がWeb上に空調機器のリストをアップロードすることにより、サービスマンがWebページの画面で空調機器のリストを確認できるようにしてもよいし、メンテナンス機器リスト出力部35が空調機器のリストをサービスマンのメールアドレス宛に電子メールで送ることにより、サービスマンが確認できるようにしてもよい。
以上で、メンテナンス支援システムの動作が終了する。
【0082】
以上のように、本実施の形態では、メンテナンスのために特別にセンサを追加設置することなく、空調制御のために大多数の建物で一般的に収集されている運転データのみを使用して、性能劣化や異常のためメンテナンスを必要とする可能性がある空調機器を抽出することができる。
【0083】
特許文献1に開示された方法では、通常の稼働時間帯の運転データを用いて空調機器のメンテナンスの要否を判断するため、取得できる運転データに制約があり、メンテナンスの要否を的確に判断できない可能性があった。これに対して、本実施の形態では、居住者が不在のためその居住環境に影響を与えない時間帯においてメンテナンスモード運転を実施して運転データを収集するので、空調機器のメンテナンスの要否の判断に特化した運転データの収集が可能であり、空調機器のメンテナンスの要否をより的確に判断することができる。
【0084】
本実施の形態で説明した監視センター3の構成は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って本実施の形態で説明した処理を実行する。