(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6663770
(24)【登録日】2020年2月19日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】車両の配光制御装置
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/24 20060101AFI20200302BHJP
B60Q 1/18 20060101ALI20200302BHJP
B60R 21/00 20060101ALI20200302BHJP
【FI】
B60Q1/24 A
B60Q1/18 B
B60R21/00 991
B60R21/00 993
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-66032(P2016-66032)
(22)【出願日】2016年3月29日
(65)【公開番号】特開2017-177942(P2017-177942A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】特許業務法人イトーシン国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】木下 真
【審査官】
下原 浩嗣
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−047390(JP,A)
【文献】
特開平11−208367(JP,A)
【文献】
特開2013−119357(JP,A)
【文献】
特開2003−072461(JP,A)
【文献】
特開2006−248246(JP,A)
【文献】
特開2017−159871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/24
B60Q 1/18
B60R 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前方に照明光を照射する第1の照明装置と、
車両前部から側方に照明光を照射可能な第2の照明装置と、
車両前方の障害物を検出する第1の検出装置と、
前記第1の検出装置の検出領域外の障害物を検出可能な第2の検出装置と、
前記第1の検出装置の検出結果に基づいて前記第1の照明装置の配光を制御するとともに、左右の少なくとも一方の視界が制限された特定の走行状態で、前記第2の検出装置の検出結果に応じて前記第2の照明装置からの照明光を車両側方に照射するように制御する制御装置と
を備え、
前記特定の走行状態で前記第1の検出装置の検出領域外に前記第2の検出装置で障害物を検出した場合、前記第2の照明装置からの照明光を、前記障害物を検出した側の車両側方に照射するように制御し、前記特定の走行状態で前記第1の検出装置の検出領域外に前記第2の検出装置で障害物を検出しない場合、視界が制限された側の車両側方に前記第2の照明装置から照明光を照射するよう制御する
ことを特徴とする車両の配光制御装置。
【請求項2】
前記特定の走行状態は、道路側方の立体物によって左右の少なくとも一方の側の視界が制限された状態で交差路に進入する状態であることを特徴とする請求項1記載の車両の配光制御装置。
【請求項3】
前記第2の照明装置からの照明光は、前記第1の照明装置からの照明光と比較して、照射範囲が狭く、より明るい注意喚起用の照明光であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両の配光制御装置。
【請求項4】
前記第1の検出装置は、車両前方を所定の視野角で撮像するカメラユニットを備え、前記第2の検出装置は、前記カメラユニットよりも広視野角のレーダユニットを備えることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の車両の配光制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の照明装置から照射する照明光の配光を制御する車両の配光制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の車両においては、自車両の前方領域をカメラにより撮像して先行車両や対向車両等の前方車両を検出し、検出した前方車両に眩惑を与えないように、車両前方を照明する照明光の配光を制御する技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ハイビーム配光での光照射を行う際に、前方車両に対して眩惑する虞のある領域を遮光して眩惑を防止する一方、前方領域の可及的に広い領域を照明して視認性を向上するADB(Adaptive Driving Beam )制御の配光制御に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−166633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されるような従来の配光制御は、前照灯で照明されたカメラの撮像領域内に検出された先行車両や対向車両等に対する眩惑を防止することを主としている。しかしながら、走行状態によっては、ドライバの視野内に障害物が存在しても、カメラの撮像視野外となるような周囲状況となる場合があり、このような場合、従来の配光制御装置では配光領域を拡大することはできず、安全確保の上では必ずしも十分とは言えない。
【0006】
例えば、
図4に示すように、自車両C0が左右両側に建築物B1,B2等の立体物が存在して左右の視界が制限される道路を走行して正面のT字路に進入したとき、右側の建築物B2の陰に歩行者Hがいても、カメラの撮像エリアR及び前照灯の照射エリアLから外れて歩行者Hを検出することができず、安全を確保することが困難となる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、照明光の配光領域を周囲状況に応じて拡大し、交通環境の安全向上に寄与することのできる車両の配光制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による車両の配光制御装置は、車両前方に照明光を照射する第1の照明装置と、車両前部から側方に照明光を照射可能な第2の照明装置と、車両前方の障害物を検出する第1の検出装置と、前記第1の検出装置の検出領域外の障害物を検出可能な第2の検出装置と、前記第1の検出装置の検出結果に基づいて前記第1の照明装置の配光を制御するとともに、左右の少なくとも一方の視界が制限された特定の走行状態で、前記第2の検出装置の検出結果に応じて前記第2の照明装置からの照明光を車両側方に照射するように制御する制御装置とを備え
、前記特定の走行状態で前記第1の検出装置の検出領域外に前記第2の検出装置で障害物を検出した場合、前記第2の照明装置からの照明光を、前記障害物を検出した側の車両側方に照射するように制御し、前記特定の走行状態で前記第1の検出装置の検出領域外に前記第2の検出装置で障害物を検出しない場合、視界が制限された側の車両側方に前記第2の照明装置から照明光を照射するよう制御する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、照明光の配光領域を周囲状況に応じて拡大することができ、交通環境の安全向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】撮像エリア外に歩行者が存在する場合の照明光の配光を示す説明図
【
図4】従来例に係り、撮像エリア外に歩行者が存在する場合の照明光の配光を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は自動車等の車両の前方周辺に照射する照明光の配光特性を制御する配光制御装置を示し、車両の前方周辺に照明光を照射する第1,第2の照明装置10,20と、車両の前方周辺に存在する障害物を検出する第1,第2の検出装置30,40と、障害物の検出結果に基づいて基づいて第1,第2の照明装置10,20を制御する制御装置50とを主として構成されている。
【0012】
尚、第1,第2の検出装置30,40、制御装置50は、車内ネットワーク100に接続されており、車内ネットワーク100に接続されるナビゲーション装置60、エンジン制御装置70、変速機制御装置80、ブレーキ制御装置90等の他の装置と各種データを送受信して必要な情報を取得する。
【0013】
第1の照明装置10は、車両前方に向けてロービーム及びハイビームの照明光を照射するヘッドランプ部10aと、ヘッドランプ部10aの配光パターンを切り換えるアクチュエータ部10bとを含んで構成されている。ヘッドランプ部10a及びアクチュエータ部10bは、車両の左右に配置されており、左右の相違に関する構成を除いて基本的な構成は同様である。
【0014】
ヘッドランプ部10aは、例えば発光ダイオード(LED)や放電バルブ(HID)等からなる光源と、光源からの光を反射するリフレクタと、リフレクタの反射光を集光して車両前部の所定範囲に照射する照射レンズとを有するランプユニット内に、照射レンズから出射する光の配光パターンを形成するための可変シェード等の配光パターン調整部材を備えている。可変シェードは、例えば、光源の前方に配置された複数の異なる形状の遮光板等によって構成され、その回転位置が可変とされている。
【0015】
アクチュエータ部10bは、ヘッドランプ部10aの可変シェードを構成する複数の遮光板の回転位置を可変するシェードアクチュエータと、ランプユニットを左右方向に偏向させるスイブルアクチュエータとを含んでいる。シェードアクチュエータにより複数の遮光板の回転位置を変化させることでランプ光軸上に位置する遮光板が変化し、ランプユニットから投射する光の配光パターンを変化させることができる。また、スイブルアクチュエータによってランプユニットを左右方向に偏向させることで、光源からの光の照射方向を左右に偏向させて左右の配光を調整することができる。
【0016】
一方、第2の照明装置20は、第1の照明装置10の照射領域外の側方に向けて照明光を照射し、第1の照明装置10からの照明光と併せて照明光の配光領域を拡大するものである。通常では、第2の照明装置20はOFFで側方への照明光は出射されず、周囲状況に応じて照明光が出射され、所定時間或いは点滅のパターンで自車両の前部側方が照明される。
【0017】
この第2の照明装置20は、車両の前部左右、或いは第1の照明装置10の左右のランプユニット内に設けられる。車両の前部左右に設ける場合には、専用のランプとして設けても良く、操舵或いはウィンカ作動によって側方に照明光を照射するサイドランプと兼用するようにしても良い。また、第1の照明装置10のランプユニット内に設ける場合には、第1の照明装置10の光源とは独立した別の光源を備えても良く、第1の照明装置10の光源を利用するようにしても良い。
【0018】
第2の照明装置20からの照明光は、ドライバの注意を喚起するための照明光であり、第1の照明装置10からの照明光と比較して、照射範囲が狭く、より明るい照明光とすることが望ましい。後述するように、第2の照明装置20は、特定の走行状態下において、第1の検出装置30で検出されない障害物に対してドライバの注意を喚起するために用いられる。
【0019】
第1の検出装置30は、車両前方を撮像するカメラユニット30aと、カメラユニット30aで撮像した画像を処理して自車の前方領域に存在する対向車両、先行車両、歩行者等の障害物を検出する画像処理ユニット30bとを備えて構成されている。カメラユニット30aは、1台の単眼のカメラ、或いは距離情報を取得可能な2台1組のステレオカメラを用いることができ、車両前方を所定の視野角(撮像エリア)で撮像する。
【0020】
一方、第2の検出装置40は、例えばミリ波レーダ等のレーダユニット40aと、このレーダユニット40aの送受信を制御し、受信波を処理して障害物を検出するレーダ制御ユニット40bとを備えて構成されている。レーダユニット40aは、例えば広帯域アンテナを備えた近接レーダとして構成され、カメラユニット30aよりも広視野角で比較的近距離の障害物を検出することができる。
【0021】
制御装置50は、主として、第1の検出装置30による前方障害物の検出結果に応じて、第1の照明装置10を制御し、自車両前方に存在する先行車両や対向車両に対する眩惑を防止するともに、第1の照明装置10からの照明光の配光パターンを適切に切り換え、前方領域の視認性を向上させる。また、制御装置50は、ナビゲーション装置60からの位置情報に基づいて自車両が特定の走行状態下にあるか否かを判断し、特定の走行状態下にあるとき、第2の検出装置40の検出結果に応じて第2の照明装置20からの照明光を車両側方に照射するように制御する。尚、第1,第2の検出装置30,40によって自車両の外部環境を認識し、特定の走行状態にあるか否かを判断するようにしても良い。
【0022】
特定の走行状態は、道路の左右両側或いは少なくとも一方の側に塀やビルの壁面等の立体物が存在し、走行中の視界が制限されるような走行状態を含み、立体物の陰の歩行者や自転車等の検出に支障がある状況を示す。また、道路脇にトラック等の車両が駐車(停車)しており、この駐車(停車)車両によって視界が制限される場合も同様であり、歩行者、自転車、二輪車等の検出に支障が生じるような状況である。尚、視界の制限は、ドライバ(人間)の視界に対する制限を含めて、カメラユニット30aの検出領域(撮像エリア)、レーダユニット40aの検出領域(検知エリア)の制限を意味する。
【0023】
ここでは、
図2に示すように、自車両Cが左右両側に建築物Bl,Br等の立体物が存在して左右の視界が制限される道路P1を走行し、この道路P1に道路P2が交差するT字路に進入する場合を例に取って説明する。T字路に自車両Cが進入したとき、右側の建築物Brの陰に歩行者Hmがいて、道路P1を横断しようとするような状況では、歩行者Hmはカメラユニット30aの撮像エリアRcから外れているため、第1の検出装置30で検出することは困難である。このとき、歩行者Hmの一部がドライバの視野Rdに入っても、ドライバの回避操作が遅れる虞があり、更には、歩行者Hmは、第1の照明装置10の照射エリアL1から外れているため、ドライバが歩行者Hmを認識できない場合もある。
【0024】
これに対して、本実施の形態における配光制御装置1は、歩行者Hmがカメラユニット30aの撮像エリアRc外であっても、歩行者Hmをレーダユニット40aの検知エリアRr内で捕捉することが可能であり、第2の検出装置40によって歩行者Hmを検出することが可能となる。第1の検出装置30の検出領域外に第2の検出装置40で歩行者Hmを検出した場合、制御装置50は、第2の照明装置20から照明光を自車両Cの前部側方に投射させる。
【0025】
第2の照明装置20による側方への照明光は、第1の照明装置10による前方への照明光の照射エリアL1よりも狭い照射エリアL2で、より明るい照明光であり、自車両Cのドライバと歩行者Hmとの双方に注意を喚起して警告を与えることができる。また、状況によっては、ブレーキ制御装置90を介して強制的にブレーキを作動させることで、安全を確保することができる。
【0026】
尚、レーダユニット40aの検知エリアRr内に障害物を検出しない場合には、視界が制限される特定の走行状態下においては、視界が制限される側に第2の照明装置20から照明光を側方に照射し、注意を喚起する。例えば、
図2において歩行者Hmが存在しないような状況でも、左右に第2の照明装置20から照明光を照射し、自転車の飛び出し等に対して警告を発することで事故を未然に防止することが可能となる。
【0027】
次に、制御装置50で実行される配光制御のプログラム処理について、
図3に示すフローチャートを用いて説明する。
【0028】
この配光制御処理は、例えばライトスイッチをONして第1の照明装置10から照明光を前方に照射したときに実行される処理である。先ず、最初のステップS1において、車内ネットワーク100を介してナビゲーション装置60から自車両の現在位置を含む走行環境情報を読み込む。
【0029】
次に、ステップS2へ進み、第1,第2の検出装置30,40による障害物の検出結果を読み込む。そして、ステップS3で、現在の走行状態が道路の少なくとも一方の側に塀やビルの壁面等の立体物が存在し、走行中の視界が制限されるような特定の走行状態か否かを調べる。
【0030】
ステップS3で現在の走行状態が特定の走行状態でない場合、ステップS3からステップS4へ進み、第1の照明装置10からの照明光の配光パターンが最適となるように制御する(ADB制御)。このADB制御は、主として第1の検出装置30による障害物の検出結果に基づいて行われ、第1の照明装置10のランプユニットの可変シェードを駆動して配光パターンを切り換え、また、ランプユニットをスイブル制御して左右の配光を調整することにより、先行車両、対向車両、歩行者等への眩惑を防止するともに、前方領域の視認性を向上させる。
【0031】
一方、現在の走行状態が特定の走行状態である場合には、ステップS3からステップS5へ進み、第1の検出装置30の検出領域(第1の検出領域)に、障害物が検出されているか否かを調べる。第1の検出領域に障害物が検出されている場合、前述のステップS4の配光制御を実行し、第1の検出領域に障害物が検出されていない場合には、ステップS5からステップS6に進んで、第2の検出装置40の検出領域(第2の検出領域)に、障害物が検出されているか否かを調べる。
【0032】
その結果、ステップS6において、第2の検出領域に障害物が検出されている場合、ステップS7で障害物が検出されている側に第2の照明装置20から照明光を照射させ、第2の検出領域に障害物が検出されていない場合には、ステップS8で自車両の左右両側に第2の照明装置20から照明光を照射させる。このときの照明光は、連続点灯による照射、或いは点滅による所定間隔の照射として、既検出又は予想される障害物と自車両のドライバとの双方に注意を喚起する。
【0033】
尚、以上の処理では、特定の走行状態下において第2の検出装置40で障害物が検出されない場合であっても、ステップS8で第2の照明装置20から照明光を照射させるようにしているが、このステップS8を廃止し、特定の走行状態下において第2の検出装置40で障害物が検出された場合にのみ、第2の照明装置20から照明光を照射させるようにしても良い。
【0034】
このように本実施の形態においては、走行中に左右の少なくとも一方の視界が制限される特定の走行状態下で、第1の検出装置30の検出領域外に障害物が存在或いは想定される場合、第2の照明装置20から側方に照明光を照射して注意を喚起する。これにより、照明光の配光領域を周囲状況に応じて拡大し、交通環境の安全向上に寄与することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 配光制御装置
10 第1の照明装置
10a ヘッドランプ部
10b アクチュエータ部
20 第2の照明装置
30 第1の検出装置
30a カメラユニット
30b 画像処理ユニット
40 第2の検出装置
40a レーダユニット
40b レーダ制御ユニット
50 制御装置
60 ナビゲーション装置