(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本説明において、同一の構成要素には同一の番号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る洗濯機(洗濯乾燥機)の外観斜視図であり、
図2は、内部構造を示すために筐体の一部および外槽を切断して示した右側断面図である。
【0018】
洗濯乾燥機1は、洗濯兼脱水槽8の回転軸が略鉛直方向の縦型洗濯乾燥機である。洗濯乾燥機1の筐体2の上部には上面カバー2aが設けられており、上面カバー2aには外蓋3が設けられている。外蓋3は、山型に折れ曲がりながら後ろ側に開くことにより、開口部2bを開口し、洗濯兼脱水槽8に衣類(洗濯物)が出し入れ可能になっている。また、洗濯中は外蓋3を閉じて行うが、少なくとも洗濯兼脱水槽8が回転中や、乾燥時に内部が高温になっている場合は、使用者が誤って外蓋3を開けないよう、外蓋3のロック機構(図示せず)を設けてある。上面カバー2aの背面側には、水道栓からの給水ホース接続口4および風呂の残り湯の吸水ホース接続口5が設けられている。上面カバー2aの正面側には、電源スイッチ6が設けられ、外蓋3の正面側には、操作スイッチ群7aおよび表示器7bからなる操作表示パネル7が設けられている。操作表示パネル7は、筐体2下部に設けた制御装置100に電気的に接続されている。
【0019】
有底円筒状の洗濯兼脱水槽8は、回転可能に外槽9に支持されており、その外周壁に通水および通風のための多数の貫通孔8bを有し、上側が開口している。外槽9は、円盤状の底壁部9dと円筒状の周壁部9eとを有して有底円筒状に形成され、洗濯兼脱水槽8を同軸上に内包し、上側が開口している。また、外槽9の上部には、槽カバー9bが設けられており、その略中央に開口部2bを有しており、開口部9fを覆うように内蓋9aが設けられている。洗濯乾燥機1の使用者は、外蓋3および内蓋9aを開くことにより、開口部2b、9fから洗濯兼脱水槽8内に衣類の出し入れを行うことができる。
【0020】
洗濯兼脱水槽8の内側底面に回転翼8aを備える。回転翼8aの上面には上方に凸状の攪拌リブが形成されている。また、外槽9の底面の外側中央に駆動装置10を備える。駆動装置10は、モータ10aとクラッチ機構10bとを有し、駆動装置10の回転軸10cは外槽9を貫通し、洗濯兼脱水槽8および回転翼8aと結合している。クラッチ機構10bは、脱水モードではモータ10aの回転動力を洗濯兼脱水槽8および回転翼8aに伝達し、攪拌モードでは洗濯兼脱水槽8を固定あるいは回転自由の状態としてモータ10aの回転動力を回転翼8aに伝達する。モータ10aは、その回転を検出するホール素子あるいはフォトインタラプタなどで構成される回転センサ28と、モータ10aに流れる電流を検出するモータ電流センサ29を備える。
【0021】
洗剤・仕上剤の投入装置11は、上面カバー2aの前側に備えられる。洗剤、仕上剤は投入ホース11aを通り、外槽9と洗濯兼脱水槽8の間に投入される。給水ユニット12は、上面カバー2aの背面側に設けられる。給水ユニット12は、内部に複数の水路を有する給水ボックスと、各々の水路に接続される槽内給水電磁弁、洗剤給水電磁弁、仕上剤給水電磁弁、冷却水給水電磁弁とで構成され、給水ホース接続口4からの水道水を洗濯兼脱水槽8内や洗剤・仕上剤の投入装置11、後述する水冷除湿機構(図示せず)へ給水する。また、吸水ホース接続口5には風呂水吸水ポンプ(図示せず)が接続しており、風呂水を注水ホース11bを介して洗濯兼脱水槽8内に注水することができる。槽内給水電磁弁からの水道水は、注水ホース11bを通り洗濯兼脱水槽8内に給水される。また、洗剤給水電磁弁からの水道水は、給水ホース12iを通り洗剤・仕上剤投入装置11の洗剤投入室に給水される。仕上剤給水電磁弁からの水道水は、給水ホース12jを通り洗剤・仕上剤投入装置11の仕上剤投入室に給水される。
【0022】
外槽9の底面に設けられた落込部9cは、下部連通管13と連通するように接続されている。下部連通管13は、排水弁14を介して、洗濯水排水路15と連通するように接続されている。排水弁14を閉弁することにより、外槽9内に洗い水やすすぎ水を貯水可能となる。また、排水弁14を開弁することにより、外槽9内の水を、洗濯水排水路15を介して、洗濯乾燥機1の機外へ排水することができる。
【0023】
また、下部連通管13は、筐体2の下部に設置された異物除去装置16および循環ポンプ17を介して洗濯水循環水路18と連通するように接続されている。また、洗濯水循環水路18は、洗濯兼脱水槽8より上側に設けられた糸くず除去装置19と連通するように接続されている。循環ポンプ17を駆動すると、外槽9内の水が、落込部9cおよび下部連通管13を介して異物除去装置16に流入し異物が除去され、循環ポンプ17の吸込口に流入する。循環ポンプ17の吐出口から吐出された水は、洗濯水循環水路18を介して糸くず除去装置19に流入し糸くずが除去され、糸くずが除去された水(循環水)は糸くず除去装置19から洗濯兼脱水槽8内に散布するように注水される。
【0024】
乾燥ダクト20は、筐体2の背面内側に縦方向に設置され、ダクト下部は外槽9の落込部9cとゴム製の蛇腹管20aで接続される。乾燥ダクト20内には、水冷除湿機構(図示せず)を内蔵しており、給水ユニット12の冷却水給水電磁弁から水冷除湿機構へ冷却水を供給する。冷却水は乾燥ダクト20の壁面を伝わって流下して落込部9cに入り、下部連通管13、洗濯水排水路15を通り機外へ排出される。乾燥ダクト20の出口はファン21の吸気口と接続され、ファン21の吐出口はヒータ22と接続されている。ヒータ22の出口は、送風ダクト23およびゴム製の蛇腹管23aを介して、吹出ノズル24と接続されている。このように、乾燥工程においては、外槽9内の衣類から蒸発した水分を含む高温多湿の空気を乾燥ダクト20で水冷除湿してファン21の吸込口から吸込し、ファン21の吐出口から吐出された空気をヒータ22で加熱して、高温低湿の風として吹出ノズル24から洗濯兼脱水槽8内に向けて吹き出すことができる。
【0025】
外槽9には、空圧チャンバ25aが設けられており、その上側には、外槽9に溜められた洗濯水の水位を検出する水位センサ25を備えている。送風ダクト23には、乾燥運転中に洗濯兼脱水槽8内に向けて吹き出される風の温度を検出する温度センサ26aを備えている。外槽9の落込部9cには、洗濯水の温度や、乾燥運転中に乾燥ダクト20に吸い込まれる空気の温度を検出する温度センサ26bを備えている。下部連通管13と排水弁14の間には、洗濯水の温度や、乾燥運転中に洗濯水排水路15から機外に排出される空気の温度を検出する温度センサ26cを備えている。外槽9の側面上部には、外槽9の振動による振動加速度を検知する加速度センサ27を備えている。
【0026】
操作パネル7の操作スイッチ群7aは、実行する運転(洗濯・乾燥)の種類を設定するコース設定スイッチや、洗濯物に応じて洗濯および乾燥の実行方法を設定するモード設定スイッチを備える。コース設定スイッチには、洗濯コース、乾燥コース、洗濯・乾燥コースを選択的に設定する操作スイッチを設け、モードスイッチには、標準モード、手造りモード、おいそぎモードなどを選択的に設定する操作スイッチを設ける。また、洗いの水量や時間、すすぎ回数、脱水時間をそれぞれ設定する操作スイッチや、温水洗濯、温風ほぐしなどの特殊な運転モードを設定する操作スイッチを設ける。さらに、実行する運転の開始時に操作するスタートスイッチを設ける。
【0027】
操作パネル7の表示器7bは、操作スイッチ群で設定された内容を表示するもので、実行するコースや、モード、水量、時間、回数、洗濯コースの残時間などを表示する表示器を備える。
【0028】
図5は、本実施例の洗濯乾燥機の制御装置100のブロック図である。50はマイクロコンピュータで、各操作スイッチ群7aに接続される操作ボタン入力回路51や水位センサ25、温度センサ26a、26b、26c、加速度センサ27、回転センサ28、モータ電流センサ29と接続され、使用者のボタン操作や洗濯工程、乾燥工程での各種情報信号を受ける。マイクロコンピュータ50からの出力は、駆動回路54に接続され、給水ユニット12、排水弁14、循環ポンプ17、モータ10a、クラッチ機構10b、ファン21、ヒータ22などに接続され、これらの開閉や回転、通電を制御する。また、使用者に洗濯機の動作状態を知らせるための7セグメント発光ダイオードもしくは液晶の表示器7bや発光ダイオード52、ブザー53に接続される。
【0029】
次に、本実施形態に係る洗濯機(洗濯乾燥機)の洗濯コースの運転について説明する。マイクロコンピュータ50は、電源スイッチ6が押されると起動し、
図6に示すフローを実行する。
【0030】
ステップS501
電源が投入されると、制御処理系の初期化処理を行った後に、クラッチ機構10bの初期化制御処理を行う。具体的には、攪拌モードの駆動形態となるよう、クラッチ機構10bを制御する。
【0031】
ステップS502
操作パネル7の表示器7bを点灯し、操作スイッチ群7aからの指示入力に従って洗濯/乾燥コースを設定する。ここでは、洗濯コースの標準モードが選択され、「温風ほぐし」運転の設定スイッチが押された場合の運転制御を例示する。その後、スタートスイッチが押されると、洗濯を開始する。
【0032】
ステップS503
洗濯物の布量の検出を行う。この布量検出は、給水前の乾布状態において、モータ10aに短時間通電し、回転翼8aを回転駆動し、この時に回転翼8aに作用する回転負荷に基づいて行う。検出した布量に基づいて、洗い水量および好ましい洗剤濃度の洗い水を生成するための洗剤量を算出して決定し、この洗剤量を表示器7bに表示する。
【0033】
ステップS504
給水では、給水ユニット12の洗剤給水電磁弁を開弁して、洗剤・仕上剤投入装置11の洗剤投入室に入れられた洗剤を投入ホース11aを介して外槽9に沿って水とともに供給する。そして、規定の水量を給水後、洗剤給水弁を閉弁して、循環ポンプ17(または洗濯兼脱水槽8、または回転翼8a)を駆動して水と洗剤を攪拌して洗剤を溶かし、高濃度の洗剤溶液を生成する。そして、洗濯に必要な水量になるまで槽内給水電磁弁または/および洗剤給水電磁弁を開弁して、外槽9内(洗濯兼脱水槽8内)に給水する。
【0034】
ステップS505
モータ10aに通電し回転翼8aを回転駆動し、洗いを実行する。この時、回転翼8aが正逆回転するようモータ10aを制御する。具体的には、右回転−停止−左回転−停止を繰り返す。この時の回転時間(オン)と停止時間(オフ)をそれぞれオン時限、オフ時限と呼び、時限は布量や洗濯モードに応じて予め設定されている。また、攪拌翼8aの回転数についても、布量や洗濯モードに応じてあらかじめ設定されている。攪拌翼8aの正逆回転により衣類が攪拌され汚れが落ちる。あらかじめ決められた時間洗いを実行し洗い運転を終了する。
【0035】
ステップS506
排水を実行する。排水弁14を開弁し、外槽9内の洗い水を排水する。
【0036】
ステップS507
高速脱水1を実行する。クラッチ機構10bを脱水モードにし、モータ10aに通電し、洗濯兼脱水槽8と攪拌翼8aを一体で高速回転する。高速回転に伴う遠心力により洗濯物に含まれた洗剤分を含む水は、洗濯兼脱水槽8に設けられた貫通孔8bから外槽9に排出され、洗濯水排水路15を通り洗濯機1の機外へ排水される。高速脱水1では、モータ10aの回転数を段階的に上昇させる。これは、脱水初期には洗濯物から洗剤分を含んだ水が多量に排出され、排水速度を上回り外槽9内に溜まり過ぎ、洗濯兼脱水槽8の回転により泡立てられて発泡してしまうことを防ぐためである。
【0037】
洗濯物に含まれている水が十分に脱水(脱水率は約55〜60%)された後の洗濯物は、洗濯兼脱水槽8の内壁面に張り付き押し付けられた状態となっている。
【0038】
ステップS508
高速脱水1で洗濯兼脱水槽8の高速回転から回転を停止させずに、約35r/minの回転数まで減速し、槽内給水電磁弁を開弁して、洗濯兼脱水槽8内の洗濯物にすすぎ水を散布する回転シャワーを規定時間実施する。
【0039】
一般的に、回転シャワーすすぎにおける洗濯兼脱水槽8の回転数は高い程大きなすすぎ効果があるとされる。しかし、実際の運転において、高速回転していると、散布した水は、洗濯物の表面にある凸凹に弾かれたり、洗濯物の一部だけを伝わって脱水されたりするため、洗濯物中にすすぎ水が浸透しにくく、十分なすすぎ効果を得るのは難しい。そのため、すすぎ水を洗濯物中に効率よく含浸させるためには、洗濯兼脱水槽8の回転数は、一次共振が発生しない低い回転数(例えば35〜130r/min)にするのが望ましい。この回転数では、洗濯兼脱水槽8内で洗濯物に片寄りがあっても洗濯兼脱水槽8が大きく振れることもなく、振動が過大で脱水を中断する処理が実行されることもない。あらかじめ決められた時間回転シャワーを実行し、シャワーすすぎ運転を終了する。
【0040】
ステップS509
高速脱水2を実行する。ステップS508から洗濯兼脱水槽8を停止させずに回転数を上昇させ、高速回転して洗濯物に含まれた水分を脱水する。規定時間が経過したら、モータ10aの通電を停止し、洗濯兼脱水槽8の回転を停止する。
【0041】
ステップS510
排水弁14を閉弁し、槽内給水電磁弁を開弁して、すすぎに必要なすすぎ水を外槽9および洗濯兼脱水槽8に供給する。
【0042】
ステップS511
クラッチ機構10bを攪拌モードにし、モータ10aに通電して回転翼8aを正逆回転させて洗濯物を攪拌するためすすぎを実行する。このとき、仕上剤給水電磁弁を開弁して、洗剤・仕上剤投入装置11に給水し、洗剤・仕上剤投入装置11の仕上剤室に投入されていた仕上剤を水とともに洗濯兼脱水槽8内に投入する。規定時間ためすすぎを実行し、ためすすぎ運転を終了する。
【0043】
ステップS512
排水を実行する。排水弁14を開弁し、外槽9内のすすぎ水を排水する。排水では、脱水時の起動を安定させるため、ある一定量のすすぎ水が残った状態でステップS513の最終脱水に移行する場合もある。
【0044】
ステップS513
クラッチ機構10bを脱水モードにし、モータ10aに通電し、最終脱水を実行する。洗濯兼脱水槽8を高速で回転させて洗濯物に含まれる水を脱水する。規定時間が経過したら洗濯兼脱水槽8の回転を停止し、脱水運転を終了する。
【0045】
ステップS514
ほぐしを実行する。脱水運転後の洗濯物は、洗濯兼脱水槽8の内壁面に押し付けられた状態であり、そのままで終了した場合、衣類を取り出すのに張り付いた衣類をほぐさなければならず力がいる。また、脱水後そのまま放置し、時間が経過してから衣類を取り出す場合、洗濯兼脱水槽8の内壁面に張り付いたままで放置されるためシワがきつくなってしまう。そこで、脱水後にほぐしを行うことにより衣類を取り出しやすく、またすぐに衣類を取り出せず槽内に放置した場合でも、洗濯兼脱水槽8の内壁面に張り付いたままに比べてシワつきを軽減する効果がある。
【0046】
ここでほぐし動作について詳細を説明する。クラッチ機構10bを攪拌モードにし、モータ10aに通電し回転翼8aを正逆回転する。最終脱水後に洗濯兼脱水槽8の内壁面に押し付けられて張り付いた状態の洗濯物を、回転翼8aの攪拌リブで引っかけることにより洗濯兼脱水槽8の内壁面から引き剥がし、布をほぐして取り出し易くする。この時、ほぐし動作の最初は回転翼8aの回転速度を洗いやすすぎの攪拌時よりも遅くすることで、攪拌リブと洗濯物とのすべりや擦りが発生せずに確実に洗濯物を引っ掛けるようにでき、洗濯物の布傷みを抑えながら洗濯物を引き剥がすことができる。また、駆動装置10に過大なトルクが作用せず、異音の発生を防止できる。
【0047】
このときの攪拌翼8aの正逆運転におけるオン−オフ時限や、回転数、正逆運転の回数は、洗濯物の量や攪拌翼8aの直径、攪拌リブの形状や洗濯兼脱水槽8の内壁面の形状により異なる。例えば、洗濯物の量が少ない時は回転数を低くし、正逆運転の回数を少なくする。また、オン−オフ時限は、例えば、洗濯物の量に応じて、オン時限は、0.4〜1.5秒、オフ時限は0.4〜3.0秒に設定する。また、数パターンのオン−オフ時限を組み合わせてもよく、より効率よく布をほぐすことができる。
【0048】
あらかじめ決められた時間ほぐし動作を実行し、ほぐしを終了する。
【0049】
ステップS515
温風ほぐし運転が設定されているかどうかを確認して処理を分岐する。温風ほぐし運転が設定されている場合はステップS516を実行し、されていない場合は洗濯コースを終了する。
【0050】
ステップS516
温風攪拌を実行する。クラッチ機構10bを攪拌モードにし、モータ10aに通電し、回転翼8aを正逆回転させながら衣類を攪拌し、同時に、ファン21とヒータ22に通電し、吹出ノズル24から洗濯兼脱水槽8内に向けて温風を吹き出し、洗濯物を温める。洗濯物を温めた温風は、乾燥ダクト20を通りファン21に戻り、ヒータ22で再度加熱されて洗濯兼脱水槽8内に吹出すように循環する。
【0051】
普通の乾燥運転では、乾燥ダクト20内での除湿および温度上昇による部品変形を防ぐために冷却水を流す。しかし、温風攪拌運転では短時間に循環空気や洗濯兼脱水槽8内および洗濯物の温度を上げるために冷却水は流さない方がよい。温風攪拌運転は、基本的には、予め設定した所定のタイムスケジュールに従って実行し、洗濯コースを終了する。
【0052】
温風攪拌工程について、その効果と望ましい攪拌動作について詳細に説明する。温風攪拌動作の目的は、短時間に衣類をムラなく温め、衣類の脱水シワやごわつきを抑えることである。したがって、ステップS514のほぐし後の衣類に万遍なく温風が当たるように攪拌することで、衣類をムラなく温めることができる。また、シワは同じ折り形状のままで長い時間放置するほど、強いシワになる。このため、シワを少なくするには形状を時々刻々変化させ、同じ部分を折れたままにしないよう、攪拌を続けるとよい。ごわつきについては、衣類を揉むことで改善するが、このためには、衣類の攪拌が重要である。しかし、縦型洗乾機の場合は回転翼8aにより衣類を攪拌するが、攪拌が強すぎたり、攪拌時間が長すぎたりすると、ほぐした衣類が再び絡んでしまい、シワの改善が困難となる。
【0053】
図7は、温風攪拌の時限について、攪拌の強さ(攪拌翼8aの回転数とオン時限)が布絡み、衣類の温度ムラ、仕上がりに与える影響を定性的に図示したものである。
【0054】
図7(A)に示すように、布絡みは、攪拌を強くしていくと(攪拌翼8aの回転数:高、オン時限:長)多くなる傾向を示す。特に、攪拌翼8aの回転数が高すぎたりオン時限が長すぎたりすると、急激に布絡みが増加する。
【0055】
図7(B)は衣類の温度ムラについてであり、攪拌が弱いと布の入替わりが少ないため、温風が当たる衣類と当らない衣類があることから温度ムラが大きくなる。攪拌の強さを強くしていくと、衣類の入替りが増加し温度ムラが少なくなっていくが、攪拌が強くなりすぎると
図7(A)に示したように布絡みが増え、絡みの中にある部分に温風があたらず、温度ムラが増えていく。
【0056】
図7(C)は仕上がりについてであり、攪拌が弱いと衣類の動きが小さく、衣類が脱水シワが付いたままの形状を保ちやすい。また、衣類の入替わりが少ないため、下部の衣類は上部の衣類に押しつぶされてシワが付いてしまう。攪拌の強さを強くしていくと、
図7(A)に示したように布絡みが徐々に増加していくが、布動きが増加し衣類の形状変化の頻度が増す効果の方が大きく、脱水シワが減少していく。しかし、攪拌が強すぎると衣類同志がきつく絡みあい、そのため衣類にシワがつき、仕上がりが悪くなる。このように、攪拌が弱いと最初に付いていたシワが取れずに残り、攪拌が強すぎると絡みによるシワが増加する。
【0057】
攪拌の強さは、許容できる布の温度ムラや衣類の仕上りにより決定する。例えば、
図7(B)(C)で温度ムラやシワの許容値を破線とすると、攪拌の強さの適正範囲は、図中塗りつぶした範囲となる。両範囲でオーバーラップした範囲を攪拌の強さをとすればよい。本実施形態では、攪拌翼8aの回転数を100〜130r/min、オン時限を5秒、オフ時限を2秒としている。攪拌の強さは、攪拌翼8aの形状や洗濯兼脱水槽8の内壁面の形状に合わせて決める必要があることはもちろんである。なお、温度ムラとシワの許容範囲がオーバーラップしない場合は、温度ムラとシワ(仕上り)のどちらを優先するかで撹拌の強さを決定する。
【0058】
温風攪拌中に衣類に温風を当てるのは、衣類を温めることが主目的であるが、次のような効果もある。文献(日本家政学会 第19回総会 研究発表要旨集(1967)B−20機械洗濯時のシワの挙動について、京都女大家政 北田総雄)によると、洗濯攪拌時の水温が25℃より40℃がシワの除去の程度が大きい。これは、脱水後の水分を含む衣類にも当てはまる。したがって、温風攪拌工程で、衣類に温風を当て温めることで、常温で撹拌するよりも効果的にシワを除去することができる。さらに、衣類の入れ替わりや布動きが良いため、衣類を揉むことによるごわつき低減の効果もある。
【0059】
また、布量や水温に応じて、最終脱水(ステップS513)、ほぐし(ステップS514)および温風攪拌(ステップS516)の運転時間および運転内容を適切化した方がよい。例えば、布量が多いほどほぐし時間や温風攪拌時間を長くし、水温や室温が低いほど温風攪拌時間を長くすればよい。
【0060】
図8は、温風攪拌で1000Wのヒータを使用し風量約1m
3/minの温風を吹き付けた場合の、最終脱水工程、ほぐし工程、温風攪拌工程の、負荷量や水温による設定時間の一例である。
【0061】
図8(A)は、布量による最終脱水時間、ほぐし時間、温風攪拌時間の一例である。布量が多いほど、脱水時間、ほぐし時間、温風攪拌時間を長くしている。こうすることで、衣類の脱水率やほぐれ具合、温度上昇をある範囲に抑えることができる。この例では、布量によらず、衣類の温度上昇値を8〜10℃程度にできる。
【0062】
図8(B)は、水温による最終脱水時間、ほぐし時間、温風攪拌時間の一例である。水温が低いほど、水の表面張力や粘性係数が高くなるため、脱水率が低下する。そこで、最終脱水の時間を水温が低いほど長くして、水温によらず衣類の脱水度をほぼ同じにする。そして、水温が低いほど温風攪拌時間を長くしている。こうすることで、水温によらず、衣類の温度上昇値を8〜10℃程度にできる。
【0063】
図8(C)は、布量と水温による最終脱水条件、ほぐし時間、温風攪拌時間の一例である。布量や水温によらず脱水率をほぼ同じにするために、布量が多いほど、水温が低いほど最終脱水時間と最終脱水回転数を高くしている。
【0064】
なお、上記では温度センサ26bで検知した洗濯時の水温により、最終脱水、温風攪拌の時間を制御したが、洗濯乾燥機が設置してある部屋の室温に応じて制御してもよい。
【0065】
図9は、
図4と同じ実験条件(布量2.0kg(綿と化繊混紡の混合実衣類)、水温20±2℃)で、本実施形態の温風攪拌を行った場合の衣類の温度である。9枚の衣類の最高温度は26.0〜29.0℃(温度ムラ3.0℃)、平均最高温度は27.8℃(平均温度上昇9.8℃)であった。従来の脱水時(ケースA)やほぐし時(ケースB)に温風を当てる場合に比べ、温度ムラが顕著に低減しており、温度上昇も高い結果であった。また、衣類のシワについても目視で分かる程度に低減しており、ごわつきに関しても手触りが最も柔らかかった。このように、本発明のほぐし運転の後に温風攪拌運転を実行する効果が確認できた。
【0066】
次に、ほぐし工程終了後に温風攪拌工程を実行する効果について説明する。ほぐし工程でも、衣類を撹拌しており、ほぐし工程中に温風を衣類に当てても、上記と同様な効果が出そうである。しかし、ほぐし工程は最終脱水で洗濯兼脱水槽8の内壁面に円筒状に張り付いた衣類を剥がし、その後、洗濯兼脱水槽8内に衣類がほぼ均一に分散するようにしている。このために、最適な攪拌翼8aのオン―オフ時限としているため、衣類の入れ替わりや布動きに対しては、最適な時限ではない。したがって、ほぐし工程で温風を衣類に吹き付けても、洗濯兼脱水槽8内の上部に位置する衣類の温度は高くなるが、下部に位置する衣類の温度はあまり上がらず、温度ムラが生じる。また、布動きも不十分なため、シワの低減も十分に行えず、上部にある衣類のみに温風が吹き付けられるため、シワが固定化してしまう可能性もある。したがって、ほぐし工程では、衣類のほぐしを十分に行い、その後の温風攪拌工程で衣類の入れ替えと布動きが良いオン―オフ時限で運転することで、衣類全体の温度が均一に上がり、シワの低減効果も大きくできる。
【0067】
ヒータ22とファン21を使用する普通の乾燥運転では、乾燥終了時に衣類や内蓋9aや洗濯兼脱水槽8が高温になっており、衣類を取り出すときにやけどをしないよう、乾燥の終了を検知後、冷却のための送風運転を行っており、この間はふたロック機構により外蓋3が開かないようになっている。これに対し、温風攪拌運転は短時間(本実施形態では3〜7分)であり、衣類温度は30℃前後であることから、運転終了と同時に外蓋3のロック機構を解除し、すみやかに衣類を取り出すことができるようにする。また、温風攪拌運転中に一時停止スイッチが押された場合も、同様に外蓋3のロック機構を即解除し、衣類が取り出せるようにする。これは、折角温めた衣類を冷めないうちに取り出すことができるようにするためである。さらに、温風攪拌が終了した時点で、シワが低減して温まった衣類がそのまま放置されると、再びシワが増えたり、ごわつきが増したりして、温風攪拌の効果が低減するのを防ぐためでもある。
【0068】
以上、本実施形態に係る洗濯機として、洗濯兼脱水槽8の回転軸が略鉛直方向の縦型洗濯乾燥機を用いて説明したが、これに限られるものではなく、回転ドラム(洗濯兼脱水槽8)の回転軸が略水平方向のドラム式洗濯乾燥機であってもよい。
【0069】
ドラム式の場合、脱水時のドラム壁面への衣類の張り付きが懸念される。これは、縦型では洗濯兼脱水槽を固定し回転翼を回転することで、衣類を剥がすことができるが、ドラム式では衣類を剥がす手段が重力しかないためである。脱水時の衣類の張り付きは、脱水中の遠心力によるものである。すすぎ排水後の衣類含水状態から一気に脱水回転までドラムの回転数を上昇すると、水を含んだ重い衣類に遠心力が作用し、衣類の張り付き具合が強固となり、特に綿衣類の場合は、剥がすことが非常に困難となる。
【0070】
通常の脱水時には、
図10(A)に示すように、規定の回転数までドラムの回転数を増加する。こうすると、脱水後のほぐし運転が上述の理由で非常に困難になる。そこで、
図10(B)に示すように、ドラム回転数をa、b、cと数回に分けて徐々に上げて、その間にドラムの回転を一旦停止し、ドラムを低速回転で短周期で左右に反転回転することで、衣類自身の重さで衣類をドラムから剥がす、衣類剥がし動作を実行する。こうすることで、衣類の含水量を減らした状態で高い回転数のステップへ移行することにより、遠心力による衣類の張り付き具合を低減でき、脱水終了後に衣類を容易に剥がすことができる。
【0071】
最終脱水後は、ほぐし動作、温風攪拌動作を実行するのは、縦型洗濯乾燥機と同様である。ほぐし動作は、衣類剥がし動作と同様、ドラムを左右に短時間反転回転することにより行う。ほぐし動作の時間は、布量が少ないほど長くした方がよい。これは、上述のようにドラムから衣類を剥がすのに重力を利用しているため、衣類の量が多いほど剥れやすいからである。ほぐした後に、温風攪拌を実行する。やや長めの周期でドラムを左右に反転回転し衣類の入替えを行いつつ温風をかけて温める。水温や布量により温風攪拌の時間を設定するのは、もちろんである。こうすることで、縦型と同様、衣類の温め、脱水シワの低減、ごわつき低減効果が得られる。
【0072】
また、ファンを高速で回転する圧力タイプとして、温風吹き出し口の面積を絞り、吹き付ける温風の風速を高くすることで、風の風圧で衣類のシワを伸ばすことができ、より一層脱水シワを低減することができる。
【0073】
図10(B)で示した最終脱水時の運転を、縦型洗濯乾燥機で行ってもよい。縦型洗濯乾燥機でほぐし動作を実施する場合、布量が多いほど、洗濯兼脱水槽8の内壁面に張り付いた衣類を攪拌翼8aの回転で剥がすのに、攪拌翼8aに作用する負荷トルクが通常の洗濯や乾燥時に攪拌翼8aに作用する負荷トルクより大きくなる。ほぐし時の負荷トルクに合わせた駆動装置10の容量とすると、洗濯乾燥機のコストアップにつながる。そこで、布量が多い場合(例えば、洗濯容量10kgの場合に布量6kg以上)は、脱水回転数が低い段階で一旦回転を停止し、ステップS514と同様のほぐし動作を実行する。この場合、衣類が洗濯兼脱水槽8に均一に配置されるまでほぐす必要はなく、衣類が洗濯兼脱水槽8の内壁面から剥れる程度までほぐせば十分である。こうすることで、洗濯兼脱水槽8内での衣類の移動が少なく、再度脱水回転数を上昇させた場合にアンバランスになりにくく、脱水時の振動や騒音の増大を防ぐことができる。脱水工程中のほぐし動作の回数は、洗濯乾燥機の駆動装置10の許容トルクに応じて設定すればよい。こうすることで、縦型洗濯乾燥機においても、布量によらず確実に衣類をほぐすことができ、駆動装置10のコストアップを防止できる。
【0074】
また、「温風ほぐし」運転として温風攪拌を洗濯コースの最後に付加する動作だけでなく、「温風ほぐし」コースを設け、温風攪拌を単独で運転できるようにしてもよい。これは、脱水された衣類を洗濯兼脱水槽8内に投入後、「温風ほぐし」スイッチを選択し、スタートスイッチを押すことで、
図6の温風攪拌(ステップS516)を短時間行うようにするものである。通常の洗濯コースが終了し、衣類を干すが、この時脱水シワを低減したい衣類がある場合に、その衣類を投入し温風攪拌を行うようにする。少ない衣類の量で、温風攪拌を実行できるため、他の洗濯物と絡み合う確率が低減し、シワの少ない仕上がりを実現でき、部屋干しや外干しで、乾燥後のアイロンがけの手間を省力化できる。また、上述の温風ほぐし運転を選択して洗濯を終了したが、生地が厚手のためもう少し温風をかけて温めたい場合にも利用できる。なお、投入される衣類の状態を検知することができないため、ステップS514のほぐし動作を温風攪拌の前に行うようにしてもよい。
【0075】
以上、乾燥の熱源としてヒータ式を例に述べてきたが、ヒートポンプ式でも構わない。ヒートポンプ式は、加熱(凝縮器)と除湿(放熱器)を同時に行えるため、水冷除湿機構は不要である。ヒートポンプ式は、ヒータ式に比べヒートポンプサイクルが成立するのに時間が必要で、温風の温度上昇が遅い。そこで、温風攪拌工程より前の最終脱水やほぐし工程中からファンを回転せずに、ヒートポンプの圧縮機の運転を開始し、凝縮器の温度を高めておくとよい。こうすることで、温風攪拌工程の開始から洗濯兼脱水槽内の衣類へ温風を吹き付けることができる。