特許第6663820号(P6663820)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6663820インドリルベンゾチアジアゾール誘導体、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の製造方法及び有機蛍光材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6663820
(24)【登録日】2020年2月19日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】インドリルベンゾチアジアゾール誘導体、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の製造方法及び有機蛍光材料
(51)【国際特許分類】
   C07D 417/04 20060101AFI20200302BHJP
   C09B 57/00 20060101ALI20200302BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20200302BHJP
【FI】
   C07D417/04CSP
   C09B57/00 G
   C09K11/06 655
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-153851(P2016-153851)
(22)【出願日】2016年8月4日
(65)【公開番号】特開2017-57191(P2017-57191A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2019年3月25日
(31)【優先権主張番号】特願2015-183206(P2015-183206)
(32)【優先日】2015年9月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 傑
(72)【発明者】
【氏名】淺見 真年
(72)【発明者】
【氏名】山田 武士
(72)【発明者】
【氏名】田口 智啓
【審査官】 三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6521728(JP,B2)
【文献】 Journal of Materials Chemistry C,2014年,Vol.2, No.42,pp.8932-8938
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D201/00−521/00
C09B 1/00− 69/10
C09K 11/00− 11/89
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体。
【化1】
(式(1)中、R1〜R4、及び、R6〜R8は、それぞれ、互いに独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。
また、R5は、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、アルキルスルホニル基またはアリールスルホニル基である。
また、R9は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。)
【請求項2】
前記R5が、ピバロイル基、ベンゾイル基、トシル基、または、下記式(2)から選択される群のうちのいずれか1つである請求項1に記載のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体。
【化2】
(式(2)中、R10はtert−ブチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基またはベンジル基である。)
【請求項3】
下記式(3)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体。
【化3】
(式(3)中、R9はハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。また、R6は水素原子、メチル基、ホルミル基またはシアノ基である。)
【請求項4】
下記式(4)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体。
【化4】
(式(4)中、R9はハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。また、R10はtert−ブチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基またはベンジル基である。)
【請求項5】
下記式(5)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体。
【化5】
(式(5)中、R9はハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。また、R5は、ピバロイル基、ベンゾイル基またはトシル基である。)
【請求項6】
前記R9が、メチル基、エチル基またはイソプロピル基である請求項1〜5のいずれか一項に記載のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体。
【請求項7】
下記式(6)で表されるボロン酸と、下記式(7)で表されるブロモベンゾチアジアゾールとを反応させることで、前記式(1)に記載のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体を得るインドリルベンゾチアジアゾール誘導体の製造方法。
【化6】
【化7】
(式(6)または式(7)中、R1〜R4、及び、R6〜R8は、それぞれ、互いに独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。
また、R5は、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、アルキルスルホニル基またはアリールスルホニル基である。
また、R9は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。)
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体を有機蛍光色素として用いた有機蛍光材料。
【請求項9】
蛍光パターニング材料、蛍光スイッチング材料または蛍光センサー材料である請求項8に記載の有機蛍光材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の製造方法及び有機蛍光材料に関する。
【背景技術】
【0002】
固体蛍光性の有機分子が機械的刺激により発光色を変化させ、加熱や溶媒蒸気にさらすことにより元の発光色に戻る現象は蛍光メカノクロミズムと呼ばれ、近年徐々に報告例が増えているが珍しい現象である(非特許文献1、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5697030号公報
【特許文献2】WO2012/039508号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chem. Soc. Rev. 2012, 41, 3878
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
機械的刺激を加えることにより発光特性が変化する固体蛍光性の有機分子は、通常、元の状態に戻すために加熱や溶媒蒸気にさらす必要があり、この点で不便である。また、このような分子は従来、多くの工程を経て合成されており、簡便な方法で合成できる固体蛍光性の有機分子が待ち望まれている。さらに、蛍光性有機分子は溶液中で高効率発光する(高い蛍光量子収率を示す)場合であっても固体状態では濃度消光によりほとんど発光しなくなる。このため、熱や光などの外部刺激により発光特性が変化する分子は、一般に、固体状態での発光効率(蛍光量子収率)が低いという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑み、機械的刺激により発光色を変化させた後に、加熱や溶媒蒸気にさらすだけでなく、室温付近で自発的に元の発光色に戻ることができ、短段階で簡便に合成でき、且つ、固体状態で高い蛍光量子収率を示す蛍光性有機分子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、上記課題は、下記式(1)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体を提供することによって解決できることを見出した。
【0008】
本発明は一側面において、下記式(1)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体である。
【化1】
(式(1)中、R1〜R4、及び、R6〜R8は、それぞれ、互いに独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。
また、R5は、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、アルキルスルホニル基またはアリールスルホニル基である。
また、R9は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。)
【0009】
本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は一実施形態において、前記R5が、ピバロイル基、ベンゾイル基、トシル基、または、下記式(2)から選択される群のうちのいずれか1つである。
【化2】
(式(2)中、R10はtert−ブチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基またはベンジル基である。)
【0010】
本発明は別の一側面において、下記式(3)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体である。
【化3】
(式(3)中、R9はハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。また、R6は水素原子、メチル基、ホルミル基またはシアノ基である。)
【0011】
本発明は更に別の一側面において、下記式(4)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体である。
【化4】
(式(4)中、R9はハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。また、R10はtert−ブチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基またはベンジル基である。)
【0012】
本発明は更に別の一側面において、下記式(5)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体である。
【化5】
(式(5)中、R9はハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。また、R5は、ピバロイル基、ベンゾイル基またはトシル基である。)
【0013】
本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は別の一実施形態において、前記R9が、メチル基、エチル基またはイソプロピル基である。
【0014】
本発明は更に別の一側面において、下記式(6)で表されるボロン酸と、下記式(7)で表されるブロモベンゾチアジアゾールとを反応させることで、前記式(1)に記載のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体を得るインドリルベンゾチアジアゾール誘導体の製造方法である。
【化6】
【化7】
(式(6)または式(7)中、R1〜R4、及び、R6〜R8は、それぞれ、互いに独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。
また、R5は、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、アルキルスルホニル基またはアリールスルホニル基である。
また、R9は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。)
【0015】
本発明は更に別の一側面において、本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体を有機蛍光色素として用いた有機蛍光材料である。
【0016】
本発明の有機蛍光材料は一実施形態において、蛍光パターニング材料、蛍光スイッチング材料または蛍光センサー材料である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の蛍光性有機分子によれば、以下の効果が得られる。
・短段階で簡便に合成できる。
・固体状態でも濃度消光を起こさず、良好な蛍光量子収率で発光する。
・機械的刺激により発光色を変化させた後に、加熱や溶媒蒸気にさらすだけでなく、室温付近で自発的に元の発光色に戻ることができる。
・熱やpH、或いは光に応答して発光色が変化する蛍光性高分子材料の作製にも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】インドリルベンゾチアジアゾール誘導体1aの合成反応式である。
図2】インドリルベンゾチアジアゾール誘導体1aの固体発光色素の蛍光メカノクロミズムを示す図である。
図3】インドリルベンゾチアジアゾール誘導体1aとその無置換体2aの結晶構造の模式図である。
図4】インドリルベンゾチアジアゾール誘導体1b−1dの合成反応式と、各誘導体の収率及び発光極大波長を示す表である。
図5】インドリルベンゾチアジアゾール誘導体1b−1dの固体発光色素の蛍光メカノクロミズムを示す図である。
図6】4−(3−メチル−1H−インドール−2−イル)−2,1,3−ベンゾチアジアゾール3aの合成反応式である。
図7】インドリルベンゾチアジアゾール誘導体1e−1hの合成反応式と、各誘導体の収率及び発光極大波長を示す表である。
図8】インドリルベンゾチアジアゾール誘導体1e−1hの固体発光色素の蛍光メカノクロミズムを示す図である。
図9】インドリルベンゾチアジアゾール誘導体1i−1kの合成反応式と、各誘導体の収率及び発光極大波長を示す表である。
図10】インドリルベンゾチアジアゾール誘導体1i−1kの固体発光色素の蛍光メカノクロミズムを示す図である。
図11】インドリルベンゾチアジアゾール誘導体1l、1mの合成反応式である。
図12】インドリルベンゾチアジアゾール誘導体1l、1mの固体発光色素の蛍光メカノクロミズムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(インドリルベンゾチアジアゾール誘導体)
本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、下記式(1)で表される。
【化8】
(式(1)中、R1〜R4、及び、R6〜R8は、それぞれ、互いに独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。
また、R5は、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、アルキルスルホニル基またはアリールスルホニル基である。
また、R9は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。)
【0020】
本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、電子供与基としてのインドリル基と、電子求引基としてのベンゾチアジアゾール基を有し、さらにインドリル基の窒素原子上に前述のR5基を有している。通常の蛍光性有機分子は、溶液状態で効率良く発光する場合でも固体状態では多分子間で芳香環や複素環がスタッキングすることで濃度消光が起こるため、蛍光量子収率が低下する。本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、電子豊富なインドリル基から電子不足なベンゾチアジアゾール環への電荷移動に基づく蛍光を示し、嵩高い電子求引性置換基であるR5基(アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、アルキルスルホニル基またはアリールスルホニル基)が固体状態におけるベンゾチアジアゾール環の多分子間でのスタッキングを抑制するため、式(1)の状態において固体状態で良好な蛍光量子収率(約15〜60%)を示す。本化合物は、結晶状態において、固体発光するが蛍光メカノクロミズムを示さない無置換体と同じく、ベンゾチアジアゾール環を逆平行にしてスタッキングしているが、ベンゾチアジアゾール環が水平方向にずれた状態にある(後述の図3)。このため、蛍光メカノクロミズムが発現し、機械的刺激により発光色を変化させた後に元の発光色に放置するだけで戻ることができ、加熱や蒸気にさらすといった操作が不要となる。本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体によれば、溶液中だけでなく、固体状態でも濃度消光を起こさず高効率発光することができる。また、インドール誘導体とベンゾチアジアゾール誘導体の置換基を変更するのみで蛍光発光色の異なる各種誘導体を簡便に合成することができる。また、これらを高分子材料にドープすることで、熱やpH、光等の外部刺激に応答して発光色が変化する蛍光性高分子材料への応用が可能となる。
【0021】
また、R5は、ピバロイル基、ベンゾイル基、トシル(p−トルエンスルホニル)基、または、下記式(2)から選択される群のうちのいずれか1つであってもよい。
【化9】
(式(2)中、R10はtert−ブチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基またはベンジル基である。)
【0022】
また、本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、下記式(3)で表されてもよい。
【化10】
(式(3)中、R9はハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。また、R6は水素原子、メチル基、ホルミル基またはシアノ基である。)
【0023】
また、本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、下記式(4)で表されてもよい。
【化11】
(式(4)中、R9はハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。また、R10はtert−ブチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基またはベンジル基である。)
【0024】
また、本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、下記式(5)で表されてもよい。
【化12】
(式(5)中、R9はハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。また、R5は、ピバロイル基、ベンゾイル基またはトシル基である。)
【0025】
本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、前記R9が、メチル基、エチル基またはイソプロピル基であってもよい。
【0026】
(インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の製造方法)
次に、本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体の製造方法について詳述する。前述の式(1)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、下記式(6)で表されるボロン酸と、下記式(7)で表されるブロモベンゾチアジアゾールとを、例えば、パラジウム触媒を用いた鈴木−宮浦クロスカップリング反応等の公知の方法で反応させることで得られる。
【化13】
【化14】
(式(6)または式(7)中、R1〜R4、及び、R6〜R8は、それぞれ、互いに独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。
また、R5は、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、アルキルスルホニル基またはアリールスルホニル基である。
また、R9は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。)
【0027】
(有機蛍光材料)
本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体を有機蛍光色素として用いて有機蛍光材料を作製することができる。当該有機蛍光色素を、例えばポリマーにドープすることで、機械的刺激(物理的な力による変形等)を加えることで特性の発光色に変化し、放置することで元の色に戻る有機蛍光材料が得られる。また、これを応用して加熱、光照射による光酸発生、または、酸添加によるpH制御等の外部刺激を受けた部位のみ色調が変化する有機蛍光材料を得ることもできる。
【0028】
さらに、前述の有機蛍光材料を、例えば、蛍光パターニング材料、蛍光スイッチング材料または蛍光センサー材料等に用いることができる。
【0029】
固体状態や溶液状態において機械的刺激や周囲の極性環境に応じて発光色が変化する前述の有機蛍光材料は、具体的には、高感度な蛍光検出を利用した下記の用途に応用することができる。
・書き込み、消去可能な蛍光記憶材料
・材料中の部分的な歪みの検出(自発的に発光色が戻ることで繰り返し利用可能)
・高分子材料の劣化(極性変化)の検出
・高分子重合の経時変化、高分子材料の重合度評価
・生体内の極性変化を可視化する蛍光プローブ
【実施例】
【0030】
以下に、本発明を実施例でさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
(実施例1:N−Boc−3−メチルインドリルベンゾチアジアゾール1aの合成とその蛍光メカノクロミズム)
N−Boc−3−メチルインドールにテトラヒドロフラン(THF)中、−20℃でリチウムジイソプロピルアミド(LDA)を作用させた後、ホウ酸トリイソプロピルを加えて1時間半反応させることで、N−Boc−3−メチルインドール−2−ボロン酸を得た。なお、「Boc」は下記式(8)で示すように、tert−ブトキシカルボニル基を示す。次に、得られたボロン酸を単離することなくテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(20mol%)存在下、4−ブロモ−2,1,3−ベンゾチアジアゾールとジオキサン/炭酸カリウム水溶液混合溶媒中、95℃で4時間反応させることで、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体1aを収率84%で得た(図1)。合成した1aの発光特性を測定したところ、1aは固体状態で発光極大波長485nmで発光し、その蛍光量子収率は0.46であった。また、トルエン中では発光極大波長523nm、蛍光量子収率0.43での発光が観測された。
【化15】
【0032】
また、以下に1aの融点、赤外線吸収スペクトル(KBr法):IR(KBr)、1H NMRスペクトル、13C NMRスペクトルの測定結果を示す。
1a:
融点>140℃(分解)
IR (KBr): vmax 3072, 3051, 2998, 2983, 2933, 2915, 2864, 1720, 1601, 1534, 1473, 1457, 1391, 1353, 1333, 1273, 1236, 1203, 1170, 1151, 1128, 1112, 1064, 1008, 912, 901, 872, 851, 842, 832, 810, 757, 742 cm-1.
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ (ppm) 8.29 (d, J = 8.7 Hz, 1H), 8.04 (dd, J = 1.1, 8.7 Hz, 1H), 7.57 (dd, J = 6.8, 8.7 Hz, 1H), 7.61 - 7.55 (m, 2H), 7.40 (ddd, J = 1.5, 7.5, 8.7 Hz, 1H), 7.31 (dt, J = 1.1, 7.5 Hz, 1H), 2.21 (s, 3H), 0.98 (s, 9H).
13C NMR (126 MHz, CDCl3): δ (ppm) 154.9, 154.8, 149.9, 136.7, 130.9, 130.3, 129.3, 129.0, 128.2, 125.1, 122.6, 120.9, 119.1, 118.0, 115.5, 82.4, 27.4, 9.4.
【0033】
固体蛍光色素1aに対し、スパチュラで擦ることによる機械的刺激を加えたところ、その発光色は青緑色から黄緑色へと長波長シフトした。また、機械的刺激により変化した発光色は室温下10秒程度放置することで自発的に元の発光色へ戻った(図2)。通常、機械的刺激により発光色が可逆的に変化する蛍光メカノクロミズムを示す分子は、元の状態に戻すために加熱や溶媒蒸気にさらす必要がある。機械的刺激により変化した発光色が室温下短時間で自発的に元の色に戻るのは極めて珍しい現象である。
【0034】
そこで、1aの単結晶を作成し、X線結晶構造解析を行ったところ、結晶状態において1aは、固体発光するが蛍光メカノクロミズムを示さない無置換体2aと同じく、ベンゾチアジアゾール環を逆平行にしてスタッキングしていることが明らかとなった。しかし1aは、ベンゾチアジアゾール環が水平方向にずれた状態にあり、このことが蛍光メカノクロミズムの発現に寄与していると推察される(図3)。
【0035】
(実施例2:各種置換基を有するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体の合成とその蛍光メカノクロミズム)
発光色および機械的刺激により変化した発光色の持続時間を調節することを目的として、種々の置換基を有する3−メチルインドリルベンゾチアジアゾール誘導体を合成した。なお、以下の検討ではいずれも合成した化合物の単離精製法を確立しておらず、収率には改善の余地がある。まず、ベンゾチアジアゾール環にメチル基、ホルミル基、シアノ基を有する1b−1dの合成を行った(図4)。無置換体1aの合成と同様に、N−Boc−3−メチルインドールから合成したボロン酸に対し、置換基R6の異なる種々のブロモベンゾチアジアゾールをパラジウム触媒存在下で反応させることで、カップリング体1b−1dを収率51−71%で得た(図4)。合成した1b−1dのトルエン中での蛍光スペクトルを測定したところ、R6にメチル基を有する1bは1aと同程度の発光極大波長(523nm)であり、ホルミル基やシアノ基を有する1c、1dでは40nm程度長波長シフトした。
【0036】
また、以下に1b、1c及び1dで表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体の融点、赤外線吸収スペクトル(KBr法):IR(KBr)、1H NMRスペクトル、13C NMRスペクトルの測定結果をそれぞれ示す。
【0037】
1b:
融点>160℃(分解)
IR (KBr): vmax 3070, 3053, 2982, 2932, 2914, 2861, 1720, 1596, 1456, 1354, 1335, 1243, 1214, 1147, 1093, 1077, 1008, 884, 874, 854, 844, 818, 755, 741, 689, 669 cm-1.
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ (ppm) 8.27 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 7.56 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.46 (d, J = 7.3 Hz, 1H), 7.45 (d, J = 7.3 Hz, 1H), 7.38 (dd, J = 7.3, 8.2 Hz, 1H), 7.29 (dd, J = 7.3, 8.0 Hz, 1H), 2.80 (s, 3H), 2.19 (s, 3H), 1.02 (s, 9H).
13C NMR (126 MHz, CDCl3): δ (ppm) 155.4, 154.8, 150.0, 136.6, 131.3, 131.1, 130.4, 129.3, 127.9, 125.5, 124.9, 122.5, 119.0, 117.7, 115.4, 82.4, 27.4, 18.0, 9.4.
【0038】
1c:
融点>140℃(分解)
IR (KBr): vmax 3072, 3048, 2985, 2935, 2912, 2852, 1720, 1698, 1589, 1573, 1539, 1471, 1455, 1390, 1352, 1331, 1262, 1241, 1215, 1145, 1092, 1073, 1007, 873, 850, 802, 756, 741, 688 cm-1.
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ (ppm) 10.80 (s, 1H), 8.33 (d, J = 6.9 Hz, 1H), 8.26 (dd, J = 1.4, 7.9 Hz, 1H), 7.76 (d, J = 6.9 Hz, 1H), 7.62 (dd, J = 1.3, 8.2 Hz, 1H), 7.44 (ddd, J = 1.4, 8.2, 8.8 Hz, 1H), 7.33 (ddd, J = 1.3, 7.9, 8.8 Hz, 1H), 2.25 (s, 3H), 1.08 (s, 9H).
13C NMR (126 MHz, CDCl3): δ (ppm) 188.8, 155.3, 152.9, 149.8, 136.8, 134.2, 132.3, 130.19, 130.16, 128.0, 126.8, 125.8, 122.9, 119.6, 119.4, 115.5, 83.1, 27.5, 9.5.
【0039】
1d:
融点>140℃(分解)
IR (KBr): vmax 3101, 3074, 3054, 2989, 2938, 2910, 2860, 2225, 1717, 1583, 1541, 1456, 1382, 1367, 1355, 1336, 1274, 1241, 1215, 1143, 1093, 1007, 969, 885, 862, 850, 837, 817, 756, 742, 688, 667 cm-1.
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ (ppm) 8.24 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 8.15 (d, J = 7.3 Hz, 1H), 7.65 (d, J = 7.3 Hz, 1H), 7.62 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 7.44 (dd, J = 7.6, 8.2 Hz, 1H), 7.34 (dd, J = 7.4, 8.2 Hz, 1H), 2.24 (s, 3H), 1.13 (s, 9H).
13C NMR (126 MHz, CDCl3): δ (ppm) 154.2, 152.9, 149.7, 136.8, 135.8, 133.6, 130.1, 129.5, 127.6, 126.0, 123.0, 119.8, 119.5, 115.5, 115.4, 104.8, 83.4, 27.6, 9.5.
【0040】
合成した1b−1dはいずれも固体状態で発光し、1b−1dは蛍光メカノクロミズムを示した(図5)。メチル基を有する1bとホルミル基を有する1cはそれぞれ、機械的刺激を加えることで緑色から黄色、黄色から橙色に発光色が変化し、どちらも室温下2分程度で元の発光色に戻った。また、シアノ基を有する1dでは機械的刺激により発光色が橙色から赤色に変化し、室温下で元の発光色に戻るまで10分以上必要であった。
【0041】
次に、インドール環の窒素原子上の置換基が異なる各種化合物を合成するため、1aの脱Boc化を行った。すなわち、1aをジクロロメタン中、過剰量のトリフルオロ酢酸(TFA)と室温で16時間反応させ、4−(3−メチル−1H−インドール−2−イル)−2,1,3−ベンゾチアジアゾール3aを収率99%で得た(図6)。
【0042】
また、以下に3aの融点、赤外線吸収スペクトル(KBr法):IR(KBr)、1H NMRスペクトル、13C NMRスペクトルの測定結果を示す。
【0043】
3a:
融点123 - 124℃
IR (KBr): vmax 3482, 3381, 3054, 2963, 2861, 1645, 1588, 1541, 1523, 1481, 1463, 1445, 1435, 1394, 1380, 1367, 1332, 1309, 1250, 1238, 1184, 1163, 1154, 1127, 1108, 1051, 904, 884, 858, 841, 807, 791, 746, 740, 687 cm-1.
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ (ppm) 10.47 (br s, 1H), 7.80 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 7.81 (d, J = 7.3 Hz, 1H), 7.61 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 7.56 (dd, J = 7.3, 8.8 Hz, 1H), 7.41 (dd, J = 0.9, 8.0 Hz, 1H), 7.22 (ddd, J = 0.9, 7.0, 7.6 Hz, 1H), 7.12 (ddd, J = 0.9, 7.0, 8.0 Hz, 1H), 2.56 (s, 3H).
13C NMR (126 MHz, CDCl3): δ (ppm) 155.4, 152.6, 135.9, 130.0, 129.8, 129.2, 126.3, 125.5, 123.1, 119.4, 119.1, 118.9, 111.5, 111.1, 11.4.
【0044】
得られた3aに対し、2当量の水素化ナトリウム存在下、置換基R10の異なる種々のクロロギ酸エステル(2当量)をTHF中室温で12〜19時間反応させることで、R10にエチル基(Et)、イソプロピル基(i−Pr)、イソブチル基(i−Bu)、ベンジル基(Bn)を有するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体1e−1hを収率50−73%で得た(図7)。いずれもトルエン溶液中での発光極大波長は同程度であった。
【0045】
また、以下に1e、1f、1g及び1hで表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体の融点、赤外線吸収スペクトル(KBr法):IR(KBr)、1H NMRスペクトル、13C NMRスペクトルの測定結果をそれぞれ示す。
【0046】
1e:
融点97 - 98℃
IR (KBr): vmax 3049, 2978, 2930, 2912, 2869, 1733, 1601, 1538, 1479, 1456, 1412, 1379, 1328, 1320, 1302, 1281, 1226, 1198, 1161, 1128, 1117, 1025, 889, 848, 830, 810, 742, 704, 676 cm-1.
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ (ppm) 8.26 (d, J = 8.6 Hz, 1H), 8.04 (dd, J = 0.9, 8.7 Hz, 1H), 7.70 (dd, J = 7.0, 8.7 Hz, 1H), 7.61 - 7.53 (m, 2H), 7.41 (ddd, J = 1.2, 7.2, 8.6 Hz, 1H), 7.33 (ddd, J = 0.9, 7.2, 8.2 Hz, 1H), 4.03 - 3.90 (m, 2H), 2.21 (s, 3H), 0.68 (t, J = 7.0 Hz, 3H).
13C NMR (126 MHz, CDCl3): δ (ppm) 154.82, 154.77, 151.4, 136.4, 130.9, 130.5, 129.3, 129.2, 127.7, 125.3, 122.9, 121.1, 119.2, 118.6, 115.5, 62.4, 13.3, 9.4.
【0047】
1f:
融点108 - 109℃
IR (KBr): vmax 3072, 3044, 2975, 2926, 2874, 2857, 1731, 1604, 1535, 1457, 1392, 1368, 1339, 1317, 1267, 1230, 1203, 1166, 1130, 1103, 1064, 1010, 899, 852, 834, 803, 766, 757, 707, 675 cm-1.
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ (ppm) 8.30 (d, J = 8.6 Hz, 1H), 8.05 (dd, J = 1.1, 8.8 Hz, 1H), 7.70 (dd, J = 7.0, 8.8 Hz, 1H), 7.59 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.56 (dd, J = 1.1, 7.0 Hz, 1H), 7.41 (dd, J = 7.2, 8.6 Hz, 1H), 7.32 (dd, J = 7.2, 8.0 Hz, 1H), 4.78 (quin, J = 6.3 Hz, 1H), 2.21 (s, 3H), 0.90 (d, J = 6.3 Hz, 3H), 0.52 (d, J = 6.3 Hz, 3H).
13C NMR (126 MHz, CDCl3): δ (ppm) 154.9, 154.8, 150.8, 136.6, 130.9, 130.4, 129.23, 129.21, 128.0, 125.2, 122.9, 121.1, 119.1, 118.4, 115.6, 70.3, 21.5, 20.7, 9.4.
【0048】
1g:
融点138 - 140℃
IR (KBr): vmax 3074, 3042, 3014, 2974, 2955, 2926, 2893, 2874, 1729, 1602, 1535, 1466, 1457, 1404, 1381, 1351, 1325, 1269, 1229, 1204, 1166, 1130, 1112, 1064, 1030, 1013, 965, 945, 900, 854, 830, 810, 768, 758, 707, 675 cm-1.
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ (ppm) 8.28 (d, J = 8.7 Hz, 1H), 8.04 (dd, J = 1.1, 8.7 Hz, 1H), 7.70 (dd, J = 6.8, 8.7 Hz, 1H), 7.64 - 7.56 (m, 2H), 7.42 (ddd, J = 1.2, 7.5, 8.7 Hz, 1H), 7.33 (dt, J = 1.1, 7.5 Hz, 1H), 3.84 (dd, J = 7.0, 10.4 Hz, 1H), 3.57 (dd, J = 6.2, 10.4 Hz, 1H), 2.21 (s, 3H), 1.31 - 1.15 (m, 1H), 0.54 (d, J = 5.3 Hz, 3H), 0.52 (d, J = 5.3 Hz, 3H).
13C NMR (126 MHz, CDCl3): δ (ppm) 154.8, 154.7, 151.6, 136.5, 130.8, 130.4, 129.2, 129.1, 127.6, 125.3, 122.9, 121.1, 119.1, 118.7, 115.5, 73.0, 27.2, 18.64, 18.57, 9.5.
【0049】
1h:
融点116 - 118℃
IR (KBr): vmax 3059, 3050, 3035, 2940, 2917, 2860, 1723, 1598, 1534, 1498, 1456, 1398, 1349, 1329, 1309, 1268, 1230, 1202, 1161, 1127, 1115, 1064, 1038, 1028, 1014, 979, 957, 934, 901, 849, 837, 827, 809, 754, 734, 693, 677 cm-1.
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ (ppm) 8.31 (d, J = 8.7 Hz, 1H), 7.86 (dd, J = 1.2, 8.7 Hz, 1H), 7.63 - 7.54 (m, 2H), 7.50 (dd, J = 1.2, 6.8 Hz, 1H), 7.41 (ddd, J = 1.5, 7.5, 8.7 Hz, 1H), 7.33 (dt, J = 1.2, 7.5 Hz, 1H), 7.25 - 7.19 (m, 1H), 7.19 - 7.13 (m, 2H), 6.77 - 6.72 (m, 2H), 4.93 (d, J = 12.0 Hz, 1H), 4.88 (d, J = 12.0 Hz, 1H), 2.18 (s, 3H).
13C NMR (126 MHz, CDCl3): δ (ppm) 154.58, 154.55, 151.3, 136.6, 134.0, 130.9, 130.5, 129.2, 128.8, 128.44, 128.36, 128.0, 127.4, 125.4, 123.0, 121.2, 119.2, 118.9, 115.6, 68.5, 9.5.
【0050】
合成した1e−1hはいずれも固体状態で発光するとともに、蛍光メカノクロミズムを示した(図8)。エチル基を有する1eは、機械的刺激を加えることで固体発光色が青緑色から黄緑色に変化し、変化した発光色は約1分後に元の色に戻った。イソプロピル基を有する1fの場合は、固体発光色が青色から黄色に変化し、約30秒後に元の色に戻った。イソブチル基を有する1gは発光色が戻る速度が最も大きく、機械的刺激により緑色から黄色に変化した発光色は直ちに(約3秒後)元に戻った。同様に、ベンジル基を有する1hは、緑色から黄色に変化した発光色が室温下1分程度で元に戻った。このように、カルバミン酸エステルの置換基を変更することによって、発光色および機械的刺激により変化した発光色が元に戻るまでの時間を調節することができた。
【0051】
クロロギ酸エステルを用いた1e−1hの合成と同様に、3aに水素化ナトリウム存在下、塩化ピバロイル、塩化ベンゾイル、または塩化p−トルエンスルホニルをTHF中室温で一晩反応させることで、ピバロイル(Piv)基、ベンゾイル(Bz)基、トシル(Ts)基を有するインドリルベンゾチアジアゾール誘導体1i−1kをそれぞれ収率41%、46%、40%で得た(図9)。
【0052】
また、以下に1i、1j及び1kで表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体の融点、赤外線吸収スペクトル(KBr法):IR(KBr)、1H NMRスペクトル、13C NMRスペクトルの測定結果をそれぞれ示す。
【0053】
1i:
融点95.6 - 96.2℃
IR (KBr): vmax 3065, 2970, 2927, 2864, 1715, 1475, 1449, 1327, 1299, 1220, 1172, 1126, 908, 856, 841, 823, 810, 776, 756, 750, 638, 619 cm-1.
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ (ppm) 8.05 (dd, J = 0.9, 8.4 Hz, 1H), 7.70 (dd, J = 6.9, 8.4 Hz, 1H), 7.64 (dd, J = 0.8, 7.2 Hz, 1H), 7.60 (dd, J = 0.9, 6.9 Hz, 1H), 7.53 (dd, J = 0.8, 8.2 Hz, 1H), 7.33 (ddd, J = 0.8, 7.8, 8.2 Hz, 1H), 7.25 (ddd, J = 0.8, 7.8, 8.2 Hz, 1H), 2.28 (s, 3H), 0.96 (s, 9H).
13C NMR (126 MHz, CDCl3): δ (ppm) 184.9, 155.1, 153.4, 136.4, 131.1, 130.5, 129.4, 129.2, 127.1, 124.3, 121.4, 121.3, 119.4, 116.5, 112.2, 43.9, 27.8, 9.9.
【0054】
1j:
融点191.2 - 191.6℃
IR (KBr): vmax 3052, 2913, 2858, 1673, 1598, 1598, 1535, 1473, 1453, 1390, 1351, 1331, 1230, 1201, 1152, 1051, 1024, 902, 874, 853, 829, 812, 761, 748, 716, 697, 669 cm-1.
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ (ppm) 7.80 - 7.76 (m, 1H), 7.69 - 7.64 (m, 2H), 7.54 - 7.52 (m, 2H), 7.44 (d, J = 7.3 Hz, 2H), 7.34 - 7.28 (m, 2H), 7.21 (t, J = 9.1 Hz, 1H), 7.05 (t, J = 7.9 Hz, 2H), 2.33 (s, 3H).
13C NMR (126 MHz, CDCl3): δ (ppm) 169.6, 154.6, 153.6, 137.3, 135.1, 131.94, 131.88, 130.4, 130.1, 129.2, 129.0, 127.5, 126.6, 125.1, 122.9, 121.0, 119.3, 118.9, 114.6, 9.7.
【0055】
1k:
融点177.5 - 178.3℃
IR (KBr): vmax 3067, 2975, 2921, 1597, 1537, 1452, 1371, 1360, 1222, 1188, 1173, 1132, 1121, 1089, 1018, 951, 900, 830, 820, 811, 757, 683, 667 cm-1.
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ (ppm) 8.30 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 8.11 (dd, J = 0.9, 8.8 Hz, 1H), 7.73 (dd, J = 7.0, 8.8 Hz, 1H), 7.61 (dd, J = 0.9, 7.0 Hz, 1H), 7.50 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.40 (dd, J = 7.2, 8.2 Hz, 1H), 7.32 (dd, J = 7.2, 8.0 Hz, 1H), 7.27 (d, J = 8.2 Hz, 2H), 6.96 (d, J = 8.2 Hz, 2H), 2.26 (s, 3H), 2.02 (s, 3H).
13C NMR (126 MHz, CDCl3): δ (ppm) 154.63, 154.62, 144.4, 137.4, 135.1, 132.2, 131.5, 131.3, 129.2, 128.8, 126.7, 125.38, 125.35, 123.8, 122.1, 121.5, 119.4, 115.8, 21.5, 9.7.
【0056】
窒素原子上にアシル基またはトシル基を有する1i−1kも固体状態で発光し、蛍光メカノクロミズムを示した(図10)。ピバロイル基を有する1iでは、固体発光色が機械的刺激により黄色から橙色に変化し、室温下2分程度で元の発光色に戻った。ベンゾイル基を有する1jでは、黄色から黄橙色への蛍光メカノクロミズムを示し、発光色は室温下2分程度で元に戻った。また、トシル基を有する1kも同様に、機械的刺激により青緑色から黄緑色へ発光色が変化し、その発光色は元に戻るのに室温下10分以上要した。
【0057】
(実施例3:N−Boc−3−置換インドリルベンゾチアジアゾール1l、1mの合成とその蛍光メカノクロミズム)
実施例1と同様に、N−Boc−3−置換インドールにテトラヒドロフラン(THF)中、−20℃でリチウムジイソプロピルアミド(LDA)を作用させた後、ホウ酸トリイソプロピルを加えて1時間半反応させることで、N−Boc−3−置換インドール−2−ボロン酸を得た。次に、得られたボロン酸を単離することなくテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(20mol%)存在下、4−ブロモ−2,1,3−ベンゾチアジアゾールとジオキサン/炭酸カリウム水溶液混合溶媒中、95℃で4時間反応させることで、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体1l、1mをそれぞれ収率48%、64%で得た。合成した1l、1mのトルエン中での発光スペクトルを測定したところ、どちらも1aよりわずかに短波長シフトした位置に発光極大が観測された(図11)。
【0058】
また、以下に1l、1mの融点、赤外線吸収スペクトル(KBr法):IR(KBr)、1H NMRスペクトル、13C NMRスペクトルの測定結果をそれぞれ示す。
1l:
融点128.0 - 128.6 ℃(分解)
IR (KBr): vmax 2969, 1732, 1601, 1538, 1454, 1411, 1392, 1369, 1332, 1286, 1254, 1223, 1149, 1116, 1089, 1018, 905, 878, 846, 815, 796, 763, 743, 705 cm-1.
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ (ppm) 8.31 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 8.04 (dd, J = 8.8, 1.3 Hz, 1H), 7.69 (dd, J = 8.8, 6.6 Hz, 1H), 7.63 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 7.56 (dd, J = 6.6, 1.1 Hz, 1H), 7.39 (dd, J = 8.5, 7.6 Hz, 1H), 7.30 (t, J = 7.6 Hz, 1H), 2.68 (dt, J = 21.8, 7.6 Hz, 1H), 2.53 (dt, J = 21.8, 7.6 Hz, 1H), 1.20 (t, J = 7.6 Hz, 3H), 0.97 (s, 9H).
13C NMR (126 MHz, CDCl3): δ (ppm) 155.0, 154.9, 149.9, 136.9, 130.3, 129.3, 128.7, 128.3, 124.9, 124.2, 122.6, 121.0, 119.2, 115.6, 82.4, 27.4, 17.8, 15.3.
【0059】
1m:
融点>145℃(分解)
IR (KBr): vmax 3075, 3015, 2973, 2931, 2873, 1721, 1600, 1536, 1456, 1417, 1366, 1331, 1274, 1236, 1210, 1157, 1110, 1087, 999, 903, 868, 851, 818, 811, 769, 754 cm-1.
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ (ppm) 8.34 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 8.05 (dd, J = 8.8, 1.0 Hz, 1H), 7.80 (d, J = 7.9 Hz, 1H), 7.69 (dd, J = 8.8, 6.7 Hz, 1H), 7.52 (dd, J = 6.7, 1.0 Hz, 1H), 7.36 (dd, J = 8.2, 7.9 Hz, 1H), 7.27 (t, J = 7.9 Hz, 1H), 2.93 (sept, J = 7.3 Hz, 1H), 1.42 (d, J = 7.3 Hz, 3H), 1.26 (d, J = 7.3 Hz, 3H), 0.95 (s, 9H).
13C NMR (126 MHz, CDCl3): δ (ppm) 155.1, 154.8, 149.8, 137.2, 129.3, 129.21, 129.20, 128.6, 128.0, 127.7, 124.6, 122.2, 121.1, 120.7, 115.8, 82.4, 27.4, 26.3, 22.6, 22.3.
【0060】
合成した1l、1mはいずれも固体状態で発光するとともに、蛍光メカノクロミズムを示した。また、固体蛍光色素1l、1mに対し、スパチュラで擦ることによる機械的刺激を加えた。その結果、エチル基を有する1lでは、固体発光色が青緑色から黄緑色へと変化し、発光色は室温下10分程度放置することで自発的に元の発光色へ戻った。また、イソプロピル基を有する1mも同様に、固体発光色が青緑色から黄緑色へと変化し、発光色は室温下2分程度放置することで自発的に元の発光色へ戻った(図12)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12