特許第6663851号(P6663851)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 電気化学工業株式会社の特許一覧

特許6663851電極用導電性組成物、それを用いた電極及びリチウムイオン二次電池
<>
  • 特許6663851-電極用導電性組成物、それを用いた電極及びリチウムイオン二次電池 図000004
  • 特許6663851-電極用導電性組成物、それを用いた電極及びリチウムイオン二次電池 図000005
  • 特許6663851-電極用導電性組成物、それを用いた電極及びリチウムイオン二次電池 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6663851
(24)【登録日】2020年2月19日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】電極用導電性組成物、それを用いた電極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20200302BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20200302BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20200302BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20200302BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20200302BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20200302BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20200302BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20200302BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20200302BHJP
   C01B 32/15 20170101ALI20200302BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M4/13
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/58
   H01M4/131
   H01M4/136
   H01B1/24 A
   H01B1/00 H
   C01B32/15
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-542555(P2016-542555)
(86)(22)【出願日】2015年8月6日
(86)【国際出願番号】JP2015072387
(87)【国際公開番号】WO2016024525
(87)【国際公開日】20160218
【審査請求日】2018年7月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-163905(P2014-163905)
(32)【優先日】2014年8月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】堀越 蓉子
(72)【発明者】
【氏名】荒井 亨
(72)【発明者】
【氏名】金子 仁
(72)【発明者】
【氏名】永井 達也
(72)【発明者】
【氏名】塚本 歩
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−041704(JP,A)
【文献】 特開2014−013671(JP,A)
【文献】 特開2012−033440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/58
C01B 32/15
H01B 1/00
H01B 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積換算のメジアン径D50値が0.1〜μmであるカーボンナノファイバー、活物質及びバインダーを含有する、電極用導電性組成物。
【請求項2】
前記カーボンナノファイバーが、さらに9.8MPaの荷重下で測定した粉体抵抗率が0.03Ωcm以下で、かつD/Gが0.5〜1.3である、請求項1に記載の電極用導電性組成物。
【請求項3】
前記カーボンナノファイバーの含有量が、前記電極用導電性組成物の総和に対し、0.1〜2質量%である、請求項1または2に記載の電極用導電性組成物。
【請求項4】
前記活物質が、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiMPO、LiMSiO、LiNiMn(2−X)、Li(MnNiCo)O、Li(AlNiCo)OまたはxLiMnO−(1−x)LiMOのいずれか1種以上から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電極用導電性組成物。
但し、LiNiMn(2−X)中のXは0<X<2という関係を満たし、Li(MnNiCo)O中又はLi(AlNiCo)O中のX、Y及びZは、X+Y+Z=1という関係を満たし、かつ0<X<1、0<Y<1、0<Z<1という関係を満たし、xLiMnO−(1−x)LiMO中のxは0<x<1という関係を満たし、さらにLiMPO中、LiMSiO中又はxLiMnO−(1−x)LiMO中のMはFe、Co、Ni、Mnから選ばれる元素の1種以上である。
【請求項5】
前記バインダーが、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエン共重合体、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリビニルアルコール、及びポリビニルアルコールとポリアクリロニトリルとの共重合体のいずれか1種以上から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電極用導電性組成物。
【請求項6】
コバルトを主成分とする活性種を、比表面積が0.01〜5m/gであるマグネシウムを含有する酸化物からなる担体に3〜150質量%担持した触媒を用い、一酸化炭素を炭素源とし、反応温度は670〜780℃とし、一酸化炭素分圧は0.04〜0.98MPaとし、水素分圧は一酸化炭素分圧に対し1〜100%とし、かつ一酸化炭素ガス流速は1NL/g−活性種・分以上とした条件下で製造したカーボンナノファイバーを用いる、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の電極用導電性組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項に記載の電極用導電性組成物を用いた、リチウムイオン二次電池用電極。
【請求項8】
請求項7に記載のリチウムイオン二次電池用電極を用いた、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極用導電性組成物、それを用いた電極及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の正極や負極は、導電剤と活物質とバインダーを配合した電極スラリーを、金属箔上に塗工することで作製される。ここで、電極スラリーとは導電剤、活物質及びバインダーを溶媒に混合したものである。
【0003】
導電剤としてはカーボンブラック(以下、CBと記載)など、電子導電性に優れた炭素粉末が用いられる。またバインダーとしては水系溶媒の場合はスチレンブタジエンゴム(以下、SBRと記載)、N−メチルピロリドン(以下、NMPと記載)等の有機溶媒の場合はポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFと記載)が用いられる。
【0004】
各種電池、特にリチウムイオン二次電池の充放電特性を向上させるため、電極の導電剤として、導電性炭素材であるカーボンナノファイバー(以下CNFと記載)、およびCBとCNFの混合物が用いられる。CNFを用いるあるいは添加する場合、比較的低い導電性炭素材含量で高い導電率が得られる特徴があり、期待が集まっている。ここでCNFは一般的に5〜100nmの外径、ファイバー長の外径に対する比を示すアスペクト比は10以上という繊維状の形状を有する。
【0005】
従来、CNFの製造には、電極放電法、触媒気相成長法、レーザー法等が用いられており、このうち、触媒気相成長法が工業的な製造方法として、最も適していると考えられている。触媒気相成長法では、遷移金属粒子を触媒とし、炭素源である原料ガス、たとえばアセチレンやベンゼンと接触させることにより、一般的には900℃以上の高温で触媒粒子よりCNFを成長させる。なかでも、コバルト等の遷移金属成分を触媒とし、原料として一酸化炭素を主体とするガスからCNFを製造する方法が、高純度、高品位のCNFを、比較的低温で得る方法として着目されている(特許文献1〜5)。
【0006】
CNFをリチウムイオン二次電池の導電付与剤として使用する場合には、CNFの分散性が重要となるが、電極中においてCNFの良好な分散状態を得る手段として、活物質と炭素繊維を乾式混合した後に、この乾式混合物とバインダーと溶媒を混合することで、CNFの凝集を抑える方法がある(特許文献6)。
【0007】
また、CNFの良好な分散状態を得る他の手段として、CNFに対して濃硝酸と濃硫酸を用い、表面酸化処理を行い、溶媒中に均一に分散させる方法がある(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−299986号公報
【特許文献2】特開2004−300631号公報
【特許文献3】特開2006−152490号公報
【特許文献4】再公表WO2009/110570号公報
【特許文献5】再公表WO2012/053334号公報
【特許文献6】特開2009−16265号公報
【特許文献7】特開2013−77479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の従来技術には、下記の点でさらなる改善の余地があった。
そもそも、一酸化炭素を主体とするガスから製造する方法で得られるCNFの収量や活性は十分ではなく、さらなる触媒の高活性が求められており、また得られるCNFを導電剤として使用する場合、より高い導電率(低い粉体抵抗率)のCNFが求められている。
【0010】
また、従来のCNF等の微細な炭素繊維は、繊維が互いに複雑に絡み合って二次構造を形成しており分散性が悪く、分散にかかるコストも大きくなってしまうという問題もあった。具体的には、特許文献6の方法では、CNFを電極スラリーに完全に均一に分散させることは難しかった。そして、分散が不十分であったために、導電剤としての性能を維持するため、電極スラリー中のCNFの質量部を大きくする必要があり、電極中の活物質の量が減少し、容量が低下するという問題があった。また、特許文献7の混酸による方法では表面酸化によりCNFの導電性を低下させ、また、強酸である濃硝酸と濃硫酸を使用するため設備および処理の面で高コストとなる問題があった。
【0011】
本発明は、上記問題と実情に鑑み、特定構造のCNFを含有する導電性及び分散性に優れた電極用導電性組成物を提供することを目的とする。さらに、この電極用導電性組成物を用いた、リチウムイオン二次電池用電極及びリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、下記より構成される。
(1)体積換算のメジアン径D50値が0.1〜8μmであるカーボンナノファイバー、活物質及びバインダーを含有する、電極用導電性組成物。
(2)前記カーボンナノファイバーが、さらに9.8MPaの荷重下で測定した粉体抵抗率が0.03Ωcm以下で、かつD/Gが0.5〜1.3である、(1)に記載の電極用導電性組成物。
(3)カーボンナノファイバーの含有量が、前記電極用導電性組成物の総和に対し、0.1〜2質量%である、(1)または(2)に記載の電極用導電性組成物。
(4)前記活物質が、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiMPO、LiMSiO、LiNiMn(2−X)、Li(MnNiCo)O、Li(AlNiCo)OまたはxLiMnO−(1−x)LiMOのいずれか1種以上から選択される、(1)〜(3)のいずれか一つに記載の電極用導電性組成物。但し、LiNiMn(2−X)中のXは0<X<2という関係を満たし、Li(MnNiCo)O中又はLi(AlNiCo)O中のX、Y及びZは、X+Y+Z=1という関係を満たし、かつ0<X<1、0<Y<1、0<Z<1という関係を満たし、xLiMnO−(1−x)LiMO中のxは0<x<1という関係を満たし、さらにLiMPO中、LiMSiO中又はxLiMnO−(1−x)LiMO中のMはFe、Co、Ni、Mnから選ばれる元素の1種以上である。
(5)前記バインダーが、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエン共重合体、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリビニルアルコール、及びポリビニルアルコールとポリアクリロニトリルとの共重合体のいずれか1種以上から選択される、(1)〜(4)のいずれか一つに記載の電極用導電性組成物。
(6)前記カーボンナノファイバーが、コバルトを主成分とする活性種を触媒として用いた、一酸化炭素を炭素源とするカーボンナノファイバーであって、前記触媒が、前記活性種を比表面積が0.01〜5m/gであるマグネシウムを含有する酸化物からなる担体に3〜150質量%担持した触媒であり、反応温度が670〜780℃であり、一酸化炭素分圧が0.04〜0.98MPaであり、水素分圧が一酸化炭素分圧に対し1〜100%であり、かつ一酸化炭素ガス流速が1NL/g−活性種・分以上の条件下で製造したものである、(1)〜(5)のいずれか一つに記載の電極用導電性組成物。
(7)(1)〜(6)のいずれか一つに記載の電極用導電性組成物を用いた、リチウムイオン二次電池用電極。
(8)(7)に記載のリチウムイオン二次電池用電極を用いた、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、体積換算のメジアン径D50値が0.1〜8μmの範囲であるCNFを用いることで、導電性及び分散性に優れた電極用導電性組成物が得られることを見出した。また、本発明の電極用導電性組成物は、分散性の改善により導電性ネットワークが向上するため、リチウムイオン二次電池用電極として用いた場合、極板抵抗が低い値に抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1で使用したCNFの粒度分布図である。
図2】比較例1で使用したCNFの粒度分布図である。
図3】実施例1で使用したCNFのTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<カーボンナノファイバー>
本明細書におけるCNFの定義は、平均外径5〜100nm、好ましくは5〜50nm、ファイバー長の外径に対する比を示すアスペクト比が10以上であり、多層カーボンナノチューブ(以下、MWCNTと記載)をも包含する概念であり、より好ましくは、MWCNTを主成分とするものである。MWCNTはおおよそ5nm以上の外径を有する。また外径が大きくなりすぎる、例えば50nmを超えると、単位重量あたりのMWCNTの本数が減少してしまい導電ネットワークを形成しづらくなる恐れがある。
本明細書におけるCNFの定義には単層カーボンナノチューブ(以下、SWCNTと記載)は含まれない。SWCNTは高導電性を示す特徴が有るが、カイラリティによる異性体が存在し、また強固なバンドル構造をとり分散が困難になる等実用上の課題が有り、本発明の目的とするものではない。本明細書のCNFとしては、MWCNTが最も好ましい。本発明のCNFの代表例として図3に実施例1で使用したCNFのTEM写真を示す。MWCNTであることが示される。
本明細書における合成活性とは、単位活性種質量あたり、単位時間あたり得られたCNFの質量である。また本明細書における触媒活性とは単位触媒質量あたり、単位時間あたり、得られたCNFの質量である。ここでいう活性種とはコバルトを主成分とする金属である。
さらに担体とは、該活性種を担持するための、酸化物を意味する。
【0016】
本発明のCNFは、体積換算のメジアン径D50値が0.1〜8μmであり、0.1〜3μmがより好ましく、0.1〜1μmが最も好ましい。ここでメジアン径はCNFの粒子にレーザー光を照射し、その散乱光からCNFの直径を球形に換算して求めることが出来る。メジアン径が大きいほどCNFの凝集塊が多く存在し、分散性が悪いことを意味する。メジアン径D50値が8μmより大きい場合、電極中でCNFの凝集塊が存在する可能性が高くなり、電極全体における導電性が不均一となる。その結果リチウムイオン二次電池用電極としての容量やレート特性が低下してしまう。一方、メジアン径D50値が0.1μmよりも小さい場合、CNFの繊維長が短くなり、CNFが活物質と集電体の間に導電パスを形成する際に接触点が増加することで、接触抵抗が大きくなり導電性が低下してしまう。メジアン径D50値が0.1〜8μmの範囲内である場合、CNFは導電性を維持したまま電極内で均一に分散することが可能になる。なお、上記メジアン径D50値は、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8μmから任意に選ばれる2つの数値の範囲にあればよい。
【0017】
本発明のCNFは、ラマン分光測定で求められるD/G値が0.5〜1.3であり、0.5〜1.0がより好ましい。D/G値が0.5〜1.3であるCNFは、導電性および結晶性に優れる。ここでD/G値とは、CNF粉体のラマン分光測定を行った際の、Dバンドピークに由来する面積の総和と、Gバンドピークに由来する面積の総和の比より求めることができる。D/G値が低いほどCNFの結晶性が高いことを示し、CNFの導電性が高くなることを意味する。D/Gが増大するとCNFの屈曲が増加するために、CNF同士の絡み合いがより複雑化し、高分子材料に対する分散性が低下するとともに、CNFの粉体抵抗率が増加してしまう傾向にある。しかし、D/Gを小さくするためには、結晶性を向上させる追加の処理工程を必要とし、優れた結晶性を有するCNFを容易に得ることは難しかった。一方、本発明の触媒を用いる方法ではD/Gが0.5〜1.3であるような優れた結晶性を有するCNFを効率良く得ることが出来る。このように、本発明の触媒による優れた分散性、導電性および結晶性を有するCNFを用いることで、導電性により優れた導電性高分子材料が得られる。また、D/Gが1.3を超え屈曲が増加したCNFは、分散性の低下による粉体抵抗率の増加が起こる場合があり、黒鉛化処理などによって結晶性を向上させない限り、D/Gが0.5未満であるMWCNTを合成することは難しいこともわかっている。なお、上記D/Gは0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3から任意に選ばれる2つの数値の範囲にあればよい。
【0018】
また、前記CNFは、9.8MPaの荷重下で測定した粉体抵抗率が0.03Ωcm以下である。粉体抵抗率が0.03Ωcmを超えると、活物質と電極間の導電性が低下する。なお、上記粉体抵抗率は0.015、0.016、0.017、0.018、0.019、0.020、0.021、0.022、0.023、0.024、0.025、0.026、0.027、0.028、0.029、0.030Ωcmから選ばれるいずれかの数値であればよい。
【0019】
CNFの含有量は、導電性組成物の総和に対し、0.1〜2質量%であることが好ましく、
0.5〜1質量%が、分散性と導電性を両立する上でより好ましい。この範囲は電池や活物質の種類によって変動するものであり、必ずしもこの範囲内に収まる必要は無い。なお、導電剤として、本発明のCNF以外の導電剤を含んでもよい。導電剤としては、炭素繊維、人造黒鉛、天然黒鉛、アセチレンブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック、膨張黒鉛、金属粉等を用いることができる。なお、上記CNFの含有量は0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2から選ばれるいずれかの数値の範囲にあればよい。
【0020】
本発明のCNFを合成するための触媒としては、コバルトを主成分とする活性種を触媒として用いることが好ましい。触媒として、コバルトを主成分とする活性種を、比表面積が0.01〜5m/gであるマグネシウムを含有する酸化物からなる担体に、3〜150質量%担持した触媒(以下コバルト−酸化マグネシウム担持触媒と記載)を用い、CNFを合成することがより好ましい。コバルトは、金属コバルトのみならず、酸化物、水酸化物、含水酸化物、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩および炭酸塩等の化合物の形態で含むこともできる。
【0021】
活性種の担体としてマグネシウムを含有する酸化物を使用する場合、マグネシウムを含有する酸化物としては、たとえば、酸化マグネシウムやマグネシウムを含むスピネル型酸化物およびペロブスカイト型酸化物等が挙げられる。これらのうち、担体としては、酸化マグネシウムが最も好ましい。マグネシウムを含有する酸化物の比表面積は0.01〜5m/gが好ましく、0.01〜3m/gが、CNFの分散性の点でより好ましい。
【0022】
活性種としてコバルトを用いる場合、担持率は、3〜150質量%が好ましく、5〜120質量%がより好ましく、10〜90質量%が最も好ましい。担持率が、3質量%未満であると得られるCNFの導電性が悪くなる場合がある。また、150質量%を超えると、コバルト粒子の粒子径が増加し、合成活性が低下してしまう場合がある。
【0023】
コバルトを担体に担持する場合、担持方法は、特に限定されない。例えば、コバルトの塩を溶解させた非水溶液中(例えばエタノール溶液)又は水溶液中に、担体を含浸し、充分に分散混合した後、乾燥させ、空気中、高温(300〜600℃)で加熱することにより、担体にコバルトを担持させることができる。また、単純にコバルトの塩を溶解させた非水溶液中(例えばエタノール)又は水溶液中に、担体を含浸し、充分に分散混合した後、水分除去乾燥させただけでも良い。
【0024】
本発明のCNFは、一酸化炭素をCNFの炭素源とすることが好ましい。原料ガスとして使用する一酸化炭素は、二酸化炭素や水素との混合ガスとして使用してもよく、窒素ガス等の不活性ガスを含んでいてもよい。一酸化炭素の分圧は0.04〜0.98MPaであることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.3MPaであり、最も好ましくは0.05〜0.1MPaである。一酸化炭素ガス分圧が0.04MPa未満であると、合成活性が低下したり、また得られるCNFの結晶性や導電性が低下する場合がある。また一酸化炭素ガス分圧が0.98MPaより高いと、得られるCNFの分散性が低下したり、触媒の失活が激しくなり合成活性が低下してしまう場合がある。
【0025】
水素ガス分圧は一酸化炭素ガス分圧に対し1〜100%であることが好ましく、10〜100%がより好ましい。一酸化炭素ガス分圧に対する水素ガス分圧が100%を超えると、合成活性が低下したり、得られるCNFの結晶性や導電性が低下する場合がある。水素ガス分圧が1%未満の場合、早期に触媒の失活が起こり合成活性が低下する場合がある。
なお、一酸化炭素ガス分圧に対する水素ガス分圧は以下の式によって計算できる。
一酸化炭素ガス分圧に対する水素ガス分圧=X1/X2×100(%)
但し、X1:水素ガスのモル比、X2:一酸化炭素ガスのモル比
例えば、原料ガス組成がCO/H/N=85/15/0の混合ガスの場合であれば、一酸化炭素ガス分圧に対する水素ガス分圧は、
一酸化炭素ガス分圧に対する水素ガス分圧=15/85×100=18(%)
と計算できる。
【0026】
一酸化炭素、水素、二酸化炭素の原料ガスに、不活性ガスを加えた全ガス分圧は1.0MPa未満が好ましい。全圧が1.0MPaを超えると、製造に当たり高圧対応設備費用やユーティリティコストが嵩んでしまう可能性がある。また0.1MPa(大気圧)と比較し大きく減圧である場合、例えば0.08MPa未満の場合には、高温の反応器に対し大気(酸素)の混入を防ぐためのシールが難しく、好ましくない場合がある。
【0027】
一酸化炭素ガス流速は、1NL/g−活性種・分以上であることが好ましい。一酸化炭素ガス流速をこの範囲に設定することで、CNFを高い合成活性で製造することができる。ここでいう高い合成活性とは、具体的には10g−CNF/g−活性種・h(時間)以上であることを意味する。一酸化炭素ガス流速の上限は特にないが、200NL/g−活性種・分を超えると、ガスの流量が多すぎて、余熱のためのユーティリティコストが嵩み、好ましくない。また、合成活性が低下する場合がある。
尚、「NL」とは標準状態(0℃、1気圧)に換算したガス量L(リットル)を示し、「NL/g−活性種・分」とは、単位活性種存在下(活性種1gあたり)での1分間のガス流量を示す。
【0028】
CNF合成時の反応温度は、670〜780℃が好ましく、700〜750℃であることがより好ましい。反応温度が670℃未満になると、CNFの結晶性、導電性および分散性が低下する場合がある。また、780℃を超えると合成活性が低下する場合がある。
【0029】
CNF合成時の製造装置としては、公知の製造方法や公知の製造装置を用いることが出来る。例えば固定床反応装置や流動床反応装置、バッチ式あるいは回分式反応装置や連続式反応装置を用いることができる。
【0030】
製造されたCNFは、純度を高めるために活性種および担体を除去することが好ましい。活性種および担体の除去は、具体的には特開2006−69850号公報等に記載された、CNFを塩酸、硝酸、硫酸等の酸に分散させた後、ろ過や遠心分離等の手段によってCNFを回収する方法により行うことができる。
【0031】
<活物質>
本発明で使用する活物質としては、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiMPO、LiMSiO、LiNiMn(2−X)、Li(MnNiCo)O、Li(AlNiCo)OまたはxLiMnO−(1−x)LiMO(但し、LiNiMn(2−X)中のXは0<X<2という関係を満たし、Li(MnNiCo)O中又はLi(AlNiCo)O中のX、Y及びZは、X+Y+Z=1という関係を満たしかつ0<X<1、0<Y<1、0<Z<1という関係を満たし、xLiMnO−(1−x)LiMO中のxは0<x<1という関係を満たし、さらにLiMPO中、LiMSiO中又はxLiMnO−(1−x)LiMO中のMはFe、Co、Ni、Mnから選ばれる元素の一種又は二種以上である)が好ましい。
【0032】
<バインダー>
バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエン共重合体、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリビニルアルコール、及びポリビニルアルコールとポリアクリロニトリルとの共重合体が挙げられる。バインダーとしてのポリマーの構造には制約がなく、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体なども使用できる。これらの中では、耐酸化性の点でPVdFが好ましい。
【0033】
<電極用導電性組成物の調製>
本発明のCNF、活物質及びバインダーの分散液を、結着剤の溶媒溶液(分散液)とボールミル、サンドミル、二軸混練機、自転公転式攪拌機、プラネタリーミキサー、ディスパーミキサー等により混合することでスラリーを得る。なお、スラリーの粘度を調整するために、粘度調整剤を使用することができる。粘度調整剤としては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース及びその塩、メチルセルロース及びその塩、ポリメタクリル酸及びその塩等の水溶性ポリマーが挙げられる。塩の具体例としては、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属が挙げられる。
【0034】
<リチウムイオン二次電池用電極>
リチウムイオン二次電池用電極(以下、電極と略)は、本発明の電極用導電性組成物のスラリーを金属板上に塗布し、乾燥して集電体を積層して得ることができる。金属板としては、通常、アルミニウムが好ましく用いられる。また、負極集電体の金属板としては、通常、銅が好ましく用いられる。金属板の形状は、特に限定するものではないが、箔状が好ましい。金属板の厚さは、加工性を容易にする点から、厚さは5〜30μmが好ましい。スラリーに用いる溶媒は活物質に対して不活性であり、且つバインダーを溶解・分散し得る限り特に制限されない。好適な溶媒の一例としては、N−メチル−2−ピロリドンが挙げられる。
【0035】
スラリーの塗布方法は、一般的な方法を用いることができる。例えば、リバースロール法、ダイレクトロール法、ブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、カーテン法、グラビア法、バー法、ディップ法及びスクイーズ法を挙げることができる。そのなかでもブレード法(コンマロールまたはダイカット)、ナイフ法及びエクストルージョン法が好ましい。この際、スラリーの溶液物性、乾燥性に合わせて塗布方法を選定することにより、良好な塗布層の表面状態を得ることができる。塗布は片面に施しても、両面に施してもよく、両面の場合、片面ずつ逐次でも両面同時でもよい。また、塗布は連続でも間欠でもストライプでもよい。スラリーの塗布厚みや長さ、巾は、電池の大きさに合わせて適宜決定すればよい。例えば、スラリーの塗布厚みを含めた電極の厚さは、10μm〜500μmの範囲とすることができる。
【0036】
金属板に塗布したスラリーの乾燥方法は、一般に採用されている方法を利用することができる。特に、熱風、真空、赤外線、遠赤外線、電子線および低温風を単独あるいは組み合わせて用いることが好ましい。
【0037】
電極は、必要に応じてプレスすることができる。プレス法は、一般に採用されている方法を用いることができるが、特に金型プレス法やカレンダープレス法(冷間または熱間ロール)が好ましい。カレンダープレス法でのプレス圧は、特に限定されないが、0.2〜3ton/cmが好ましい。
次いで、スラリーに含まれる溶媒を除去し、CNFと活物質がバインターを介して相互に結着された電極用導電性組成物を形成する。さらに複合集電体と電極合材層をロールプレス等により加圧して密着させることにより目的とする電極を得ることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0039】
<CNF合成触媒の調製>
硝酸コバルト六水和物(3N5、関東化学社製)6.17gを量り取り、質量比2:1の蒸留水とエタノール混合溶媒30gに溶解した。この硝酸コバルト水溶液に比表面積0.61m/gの酸化マグネシウム(DENMAG(登録商標)KMAOH−F、タテホ化学社製)を2.5g加え、湯浴で50℃に保持した状態で1時間撹拌した。撹拌後、エバポレータで水を蒸発させた。得られた固体成分を60℃で24時間真空乾燥し、その後400℃で5時間焼成処理を行った。焼成処理後、得られた固体成分をメノウ乳鉢で粉砕し、コバルト金属が50質量%担持したコバルト−酸化マグネシウム担持触媒を得た。
【0040】
<CNF-Aの合成>
原料の一酸化炭素は、(株)鈴木商館から購入した、G1グレード(純度99.95%)を使用した。
石英製の反応管内に、上記の触媒調製で得られた担持率50%のコバルト−酸化マグネシウム担持触媒を活性種の含有量が5mgとなるように仕込んだ触媒ホルダーを設置し、窒素を十分流して窒素置換した。さらに、窒素80%、水素20%の還元ガスを大気圧(101kPa)下、表1に示す680℃に昇温し、680℃に達してから30分間保持して触媒の還元を行った。引き続き、一酸化炭素ガス分圧を0.086MPaとし、水素ガス分圧を0.015MPaとした原料ガスを、一酸化炭素ガス流速が13NL/g−活性種・分となるように触媒層に通過させ、1時間反応を行った。その後、原料ガスを窒素ガスに切り替え、直ちに冷却した。以降、該製造条件で製造されたCNFをCNF−Aと呼ぶ。
【0041】
<CNF-Bの合成>
反応温度を700℃とした以外はCNF-Aの製造と同様の方法でCNFの合成を行った。以降、該製造条件で製造されたCNFをCNF−Bと呼ぶ。
【0042】
【表1】
【0043】
<触媒除去>
合成したCNFには担体として使用した酸化マグネシウムおよび活性種が含まれている。触媒活性が3g−CNF/g−触媒・h未満の場合には、合成により得られたCNF中の、酸化マグネシウムおよび活性種量が多くなり、導電性や分散性に影響を与える場合があるため、酸化マグネシウムと活性種の除去処理を行った。まず、2mol/L塩酸400mLに、合成したCNF2gを入れ、プライミクス社製のロボミックスFモデル、撹拌部にはモホミクサーMARK2−2.5型を使用し、回転速度7000rpmで10分間分散処理を行った。その後、CNF含有塩酸を遠心分離し、上澄みを捨て、蒸留水を加えて攪拌し、これを、上澄み中の塩化物イオンが、硝酸銀水溶液によって検出されなくなるまで繰り返した。その後、固形分を110℃で13時間減圧乾燥した。
酸化マグネシウムおよび活性種の除去処理を行った後、ラマン分光測定を行いD/G値を求め、さらに粉体抵抗率、比表面積およびメジアン径を測定した。結果を表2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
実施例及び比較例に使用したCNFもしくはカーボンブラックは、以下の方法に従い評価した。
【0046】
[比表面積]
CNF粉体の比表面積は、Mountech社製Macsorb HM model−1201を用い、JIS K6217−2に従いBET一点法で求めた。
【0047】
[平均繊維径]
前記方法で求めた比表面積の値を用いて、以下の式によりCNFの平均繊維径を算出した。なお、非特許文献Composites:PartA 41(2010)1345−1367に基づき、CNFの密度は、1.8g/cmと仮定した。算出結果を表2に示す。
平均繊維径(nm)=1000×4/(ρ×S)
但し、ρ:CNFの密度(g/cm)、S:CNFの比表面積(m/g)とする。
【0048】
[粉体抵抗率]
CNF粉体の体積抵抗率は、三菱化学アナリティック社製ロレスタGP:粉体抵抗測定システムMCP−PD51型を用い、23℃、相対湿度50%の雰囲気にて、荷重9.8MPaの条件下、四探針法にて求めた。測定には100mgのサンプルを用いた。
【0049】
[ラマン分光測定によるD/G値]
CNF粉体のラマン分光測定は、顕微レーザーラマン分光分析装置(Niolet Almega−XR型、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、レーザー532nm)を用い行った。Dバンド(D1:ピーク位置1330cm−1、D3:1500cm−1、D4:1150cm−1)とGバンド(G+:1600cm−1、G−:1570cm−1)の波形分離を行った後、Dバンドピークに由来する面積の総和とGバンドピークに由来する面積の総和の比(D/G値)を求めた。本D/G値が低いほどCNFの結晶性が高いことを示している。
(参考)
D1:グラファイト結晶構造内の点欠陥、結晶端由来の欠陥に由来
D3:アモルファスカーボンに由来
D4:ポリエンやイオン性不純物に由来
G+:グラファイトの結晶性ピーク:縦光学モード
G−:グラファイトの結晶性ピーク:横光学モード
【0050】
<分散性評価:レーザ回折・散乱法(ISO 13320:2009)による粒度分布測定>
分散性評価は、粒度分布測定装置(LS 13 320 ユニバーサルリキッドモジュール BECKMAN COULTER社製)にて行なった。
なお、1μm以下の分散粒子の割合およびメジアン径D50値の測定に先立ち、粒度分布測定装置の検定を行ない、下記各検定用試料の測定で得られたメジアン径D50値が以下の条件をすべて満足した場合、装置の測定精度は合格とし、実施例、比較例の粒度分布測定を実施した。
[水分散媒の調製]
蒸留水100mLにカルボキシメチルセルロースナトリウム(以下CMCNaと記載)0.10gを添加し、24時間以上常温で撹拌し溶解させ、CMCNa0.1質量%の水分散媒を調製した。
[CMCNa水溶液の調製]
蒸留水100mLにCMCNa2.0gを添加し、24時間以上常温で撹拌し溶解させ、CMCNa2.0質量%の水溶液を調製した。
【0051】
[検定用試料の調製および検定]
(1)ポリスチレン分散液による検定
粒度分布測定装置(LS 13 320 ユニバーサルリキッドモジュール BECKMAN COULTER社製)に付属された、測定精度確認用LATRON300LS(メジアン径D50値:0.297μm)水分散液を使用した。
光学モデルをポリスチレン1.600、水1.333とそれぞれの屈折率に設定し、モジュ−ル洗浄終了後に前記CMCNa水溶液を約1.0mL充填した。ポンプスピード50%の条件でオフセット測定、光軸調整、バックグラウンド測定を行った後、粒度分布計に、LATRON300LSを粒子によってビームの外側に散乱する光のパーセントを示す相対濃度が8〜12%、もしくはPIDS(偏光散乱強度差)が40%〜55%になるように加え、粒度分布測定を行った。粒度(粒子径)に対する体積%のグラフを得て、精度の確認を行った。測定で得られたメジアン径D50値は0.297μm±0.018μm以内、同D10値は0.245μm±0.024μm以内、同D90値は0.360μm±0.036μm以内の範囲に入ることを確認した。
【0052】
(2)アルミナ分散液による検定
バイアル瓶に電気化学工業(株)製のアルミナLS−13(メジアン径D50値:45μm)および昭和電工(株)製のアルミナAS−50(メジアン径D50値:6.7μm)をそれぞれ0.120g秤量し、前記水分散媒を12.0g添加し、バイアル瓶を良く振りアルミナ水分散液を作製した。
光学モデルをアルミナ1.768、水1.333とそれぞれの屈折率に設定し、モジュ−ル洗浄終了後に前記CMCNa水溶液を約1.0mL充填した。ポンプスピード50%の条件でオフセット測定、光軸調整、バックグラウンド測定を行った後、粒度分布計に、調製した上記アルミナ水分散液を粒子によってビームの外側に散乱する光のパーセントを示す相対濃度が8〜12%、もしくはPIDSが40%〜55%になるように加え、粒度分布測定を行った。粒度(粒子径)に対する体積%のグラフを得て、精度の確認を行った。測定で得られたメジアン径D50値がLS−13の場合は48.8μm±5.0μm以内、AS−50の場合は、12.6μm±0.75μm以内の範囲に入ることを確認した。
【0053】
[測定前処理]
バイアル瓶にCNFを6.0mg秤量し、前記水分散媒6.0gを添加した。測定前処理に超音波ホモジナイザーSmurtNR−50((株)マイクロテック・ニチオン製)を用いた。
チップの劣化がないことを確認し、チップが処理サンプル液面から10mm以上つかるように調整した。TIME SET(照射時間)を40秒、POW SETを50%、START POWを50%(出力50%)とし、出力電力が一定であるオ−トパワ−運転による超音波照射により均一化させCNF水分散液を作製した。
【0054】
[CNFの粒度分布測定]
前記の方法により調製したCNF水分散液を用い、CNFの1μm以下の分散粒子の割合およびメジアン径D50値の測定を、以下の方法に従い実施した。LS 13 320 ユニバーサルリキッドモジュールの光学モデルをCNF1.520、水1.333とそれぞれの屈折率に設定し、モジュ−ル洗浄終了後にCMCNa水溶液を約1.0mL充填する。ポンプスピード50%の条件でオフセット測定、光軸調整、バックグラウンド測定を行った後、粒度分布計に、調製したCNF水分散液を粒子によってビームの外側に散乱する光のパーセントを示す相対濃度が8〜12%、もしくはPIDSが40%〜55%になるように加え、粒度分布計付属装置により78W、2分間超音波照射を行い(測定前処理)、30秒循環し気泡を除いた後に粒度分布測定を行った。粒度(粒子径)に対する体積%のグラフを得て、1μm以下の分散粒子の存在割合及びメジアン径D50値を求めた。
測定は、CNF1試料につき、採取場所を変え3測定用サンプルを採取して粒度分布測定を行い、1μm以下の分散粒子の存在割合及びメジアン径D50値をその平均値で求めた。
【0055】
<実施例1>
(正極スラリーの調製)
先ず、溶媒としてN-メチルピロリドン(関東化学株式会社製、以下、NMPと記載)、正極活物質としてLiCoO(平均一次粒子径20μm)、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFと記載、分子量約30万)、導電剤として上記合成したCNF−Aをそれぞれ用意した。
次いで、PVdFが固形分で1質量部、CNFが固形分で1質量部となるように秤量して混合し、この混合物にNMPを添加し、均一になるまで攪拌した。
さらに、LiCoO粉末が固形分で98質量部となるように秤量し、上記混合物に添加し、均一になるまで攪拌し、正極スラリーを得た。
【0056】
(正極スラリーの評価)
[正極スラリーの固形物含有量]
調製した正極スラリー2mLをアルミ容器に入れ、これを、大気圧下、105℃において5時間放置し、NMPを蒸発させた。次に、NMPを蒸発後の質量と、蒸発前の質量比より固形分含有量を評価した。
固形分含有量=M2/M1×100(%)
但し、M1:NMP蒸発前の質量、M2:NMP蒸発後の質量
【0057】
(正極の作製)
次に、調製した正極スラリーを、アルミ箔上にアプリケータにて成膜し、乾燥機内に静置して80℃、10分、更に105℃、一時間で予備乾燥させた。次に、ロールプレス機にて0.2〜3ton/cmの線圧でプレスし、アルミ箔を含んだ膜の厚さが60μmになるように調製した。残留溶媒や吸着水分といった揮発成分を完全に除去するため、170℃で3時間真空乾燥して正極シートを得た。この正極シートから直径14mmの円形に打ち抜き、正極を得た。
【0058】
(正極の評価)
[正極の極板抵抗]
作製した正極をステンレス製のセルにはさみ、交流インピーダンス測定機(ソーラトロン社製)を用いて、振幅電圧10mV、周波数範囲1Hz〜100kHzにて交流インピーダンスを測定した。得られた抵抗成分値を極板抵抗とした。
【0059】
(負極の作製)
厚さ0.5mmのLi金属を直径15mmの円形に打ち抜き、負極とした。
【0060】
(リチウムイオン二次電池の作製)
リチウムイオン二次電池は2032型コインセルで作製した。コインセルはリチウム金属を対極とするハーフセルを用いた。
得られた正極と負極の間に、厚み20μm、直径16mmのポリプロピレン/ポリエチレン多層微多孔膜セパレーターを挿入した。次いで、電解質としてLiPFを1mol/Lの濃度で溶解した非水溶液系の電解液(エチレンカーボーネート/ジエチルカーボネート=1/2(質量比)混合液)を1mL注入した後、コインをしめて密閉し、2032型コインセルのリチウム二次電池を作製した。作製したリチウムイオン二次電池について、以下の方法により電池性能を評価した。
【0061】
(リチウムイオン二次電池の評価)
[放電レート特性(高率放電容量維持率)]
作製したリチウムイオン二次電池を、25℃において4.2V、0.2ItA(0.666mA)制限の定電流定電圧充電をした後、0.2ItAの定電流で2.5Vまで放電した。
次いで、放電電流を0.2ItA、0.5ItA、1ItA、2ItA、3ItA、5ItAと変化させ、各放電電流に対する放電容量を測定した。各測定における回復充電は4.2Vの定電流定電圧充電を行った。そして、0.2ItA放電時に対する5ItA放電時の高率放電容量維持率を計算した。
【0062】
<実施例2>
導電剤をCNF−Bとした以外は、実施例1と同様にして正極スラリーを作製した。結果を表2に示す。
【0063】
<比較例1>
導電剤をCNano社製CNF(Flotube9000)とした以外は、実施例1と同様にして正極スラリーを作製した。このCNFはD/G値が1.7、メジアン径D50値が43μmであり、極板抵抗は実施例1、2に劣る結果となった。結果を表2に示す。
【0064】
<比較例2>
導電剤をNanocyl社製CNF(NC7000)とした以外は、実施例1と同様にして正極スラリーを作製した。このCNFはD/G値が1.8、メジアン径D50値が15μmであり、極板抵抗は実施例1、2に劣る結果となった。結果を表2に示す。
【0065】
<比較例3>
導電剤をカーボンブラックーA(比表面積133m/g、DBP吸油量267mL/100g)とした以外は、実施例1と同様にして正極スラリーを作製した。このCBはD/G値が1.7、粉体抵抗率が0.088Ωcmであり、極板抵抗は実施例1、2に劣る結果となった。結果を表2に示す。
【0066】
<比較例4>
導電剤をカーボンブラックーB(比表面積39m/g、DBP吸油量177mL/100g)とした以外は、実施例1と同様にして正極スラリーを作製した。このCBはD/G値が2.4、粉体抵抗率が0.063Ωcmであり、極板抵抗は実施例1、2に劣る結果となった。結果を表2に示す。
【0067】
表2に示すように、実施例1、2の電極材料を使用した正極は、比較例1〜4の電極材料を使用した正極に比べて極板抵抗が低かった。さらに、実施例1、2の電極材料を使用したリチウムイオン二次電池は、放電レート特性も比較的良好であり、これにより本発明の実施例の電極材料は放電による電圧の低下を抑えることができ且つ放電電流の増加による容量の低下を抑えることができる。
図1
図2
図3