【文献】
Plant and Cell Physiology, 2001, Vol. 42, No. Supplement, p. s95,URL,http://www.publish.csiro.au/?act=view_file&file_id=SA0403733.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アシル−ACPチオエステラーゼをコードする遺伝子が、配列番号1で示されるアミノ酸配列又はこれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子である、請求項3記載の方法。
前記アシル−ACPチオエステラーゼをコードする遺伝子が、配列番号1で示されるアミノ酸配列又はこれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子である、請求項8記載の改変シアノバクテリア。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1.定義)
本明細書において、ヌクレオチド配列及びアミノ酸配列の同一性は、Lipman−Pearson法(Science,1985,227:1435−1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx−Winのホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
【0011】
本明細書において、機能の「喪失」とは、該機能の一部喪失(すなわち、機能の低減、抑制又は一部阻害)及び該機能の完全な喪失を包含する概念である。例えば、本明細書において、「LexA型転写制御因子の機能喪失」とは、該因子の転写制御機能が低減することであり得る。また本明細書において、「アシル−ACPシンテターゼの機能喪失」とは、該酵素のアシル−ACP合成活性が低減すること、又は該酵素のアシル−ACP合成活性が完全に失われることであり得る。例えば、「シアノバクテリアにおけるLexA型転写制御因子又はアシル−ACPシンテターゼの機能喪失」とは、該因子又は該酵素の発現量を低下させることでシアノバクテリアにおけるLexA型転写制御機能又はアシル−ACP合成活性を低減させること、あるいは、該因子又は該酵素をコードする遺伝子を欠失させることであり得る。
【0012】
シアノバクテリアは、藍藻とも呼ばれ、クロロフィルを用いた光合成を行う原核生物の一群である。シアノバクテリアは多様性に富んでおり、細胞の形状のみを見ても、シネコシスティス・エスピー(Synechocystis sp.)PCC6803のような単細胞性のものや、ヘテロシストを形成し窒素固定を行うアナベナ・エスピー(Anabaena sp.)PCC7120のように多細胞がヒモ状に繋がっている糸状性のもの、又はらせん状や分岐状のもの等がある。生育環境についても、別府温泉から単離されたサーモシネココッカス・エロンガタス(Thermosynechococcus elongatus)BP−1のような好熱性のもの、海洋性で沿岸部に生息するシネココッカス・エスピー(Synechococcus sp.)CC9311、又は外洋に生息するシネココッカス・エスピーWH8102など、様々な条件に適応した種が見られる。また、種独自の特徴を持つものとして、ミクロシスティス・エルギノーサ(Microcystis aeruginosa)のように、ガス小胞を持ち毒素を産生することのできるものや、チラコイドを持たず集光アンテナであるフィコビリソームが原形質膜に結合しているグロイオバクター・ビオラセウス(Gloeobacter violaceus)PCC7421、又は一般的な光合成生物のようにクロロフィルaでなくクロロフィルdを主要な(>95%)光合成色素として持つ海洋性のアカリオクロリス・マリナ(Acaryochloris marina)なども挙げられる。
【0013】
シアノバクテリアでは、光合成により固定された二酸化炭素は多数の酵素反応プロセスを経てアセチル−CoAへと変換される。脂肪酸合成の最初の段階は、アセチル−CoAカルボキシラーゼの作用による、アセチル−CoAとCO
2からのマロニル−CoAの合成である。次に、マロニル−CoAがマロニルCoA:ACPトランスアシラーゼの作用によってマロニル−ACPへと変換される。その後、脂肪酸シンテターゼ(又はアシル−ACPシンテターゼ)の進行的作用時に、炭素単位2個の連続的付加が起こり、炭素が2個ずつ増加したアシル−ACPが合成され、膜脂肪酸等の合成中間体として利用される。
【0014】
LexA型転写制御因子(transcription factor LexA;以下の本明細書中において、単にLexAと称する場合がある)は、N末端側のヘリックスターンヘリックス構造を有するDNA結合ドメイン(pfam01726)と、C末端側のPeptidase_S24−like配列(pfam00717)とを有することを特徴とするタンパク質であり、遺伝子発現の制御に重要な役割を果たす転写因子として知られている。LexA型転写制御因子は、グラム陽性細菌及びグラム陰性細菌に広く分布している。例えば、大腸菌においては、LexAはSOS−box配列(TACTGTATATATATACAGTA;配列番号23)を認識して結合し、SOSレギュロンに属するDNA修復や細胞分裂の制御に関する遺伝子群の転写を抑制している。すなわち、ゲノムDNAが損傷を受けた際にLexA自身が自己プロテアーゼ活性によって分解し、そのDNA結合能が不活化することで、LexAによる遺伝子群の抑制が解除され、その結果、SOSレギュロンの遺伝子が発現し、DNA修復能の活性化や突然変異の誘発が起こることが報告されている(Friedberg,E.C.et al.,DNA Repair and Mutagenesis,American Society of Microbiology Press,2005,463−508)。
【0015】
シアノバクテリアの多くの種でも、LexAが保存されている。LexAを有するシアノバクテリア種、又は個々のシアノバクテリア種が有するLexAに関する情報は、例えば、CyanoBase([genome.microbedb.jp/cyanobase/])、又はNCBIデータベース([www.ncbi.nlm.nih.gov/genome/]又は[www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/])から取得することができる。例えば、上述したシネコシスティス属のシネコシスティス・エスピーPCC6803は、LexAをコードする遺伝子として、sll1626遺伝子を保有している。また例えば、シネココッカス属の遺伝子SYNPCC7002_A1849及びSYNW1582、プロクロロコッカス属の遺伝子P9303_19141及びPMT0380、アカリオクロリス属の遺伝子AM1_3948、シアノセイス属の遺伝子cce_1899、cce_5074、及びPCC8801_2186、ならびにアナベナ属の遺伝子alr4908及びall3272は、いずれもLexAをコードする遺伝子である。
【0016】
一方、シアノバクテリアのLexAは、大腸菌等のLexAとは異なる機能を有する場合もあることが示されている。例えば、シネコシスティス・エスピーPCC6803のLexAをコードするsll1626遺伝子は、生育必須遺伝子であることが知られているが、それがコードするタンパク質は、大腸菌等のLexAとは異なり、DNA修復等のSOSレギュロンの発現制御には関与していないことが報告されている(Mol Microbiol,2004,53(1):65−80)。また、シネコシスティス・エスピーPCC6803のLexAは、光照射条件下で水素発生に関与する双方向性ヒドロゲナーゼをコードするhoxオペロン(hoxEFUYH)の発現を促進することが報告されている(Mol Microbiol,2005,58(3):810−823)。その他、シネコシスティス・エスピーPCC6803のLexAにより発現抑制される遺伝子としては、LexA自身をコードする遺伝子、及びredox−sensitive RNA helicase,crhR(Nucleic Acids Res,2006,34(12):3446−354)が報告されている。シネコシスティス・エスピーPCC6803のLexAの認識配列としては、例えば、“CTA−N9−CTA”の12塩基を含む配列が報告されている(FEBS Lett,2008,582(16):2424−30)。一方、アナベナ・エスピーPCC7120のLexAについては、上記PCC6803株と同様に双方向性ヒドロゲナーゼの発現を促進すること、シュードパリンドローム配列RGTACNNNDGTWCB(配列番号24)を認識することが報告されている(Mol Genet Genomics,2004,271(1):40−9)。さらに、シアノバクテリアのLexAの推定認識配列として、おおよそAGTACWNWTGTACT(配列番号25)で示される14bpのパリンドローム配列が報告されている(BMC Genomics,2010,11:527)。
【0017】
したがって、本明細書において、シアノバクテリアにおける「LexA型転写制御因子」とは、広義には、N末端側にはヘリックスターンヘリックス構造を有するDNA結合ドメイン(pfam01726)として同定されるアミノ酸配列を、C末端側にはPeptidase_S24−like配列(pfam00717)として同定されるアミノ酸配列を有し、かつ遺伝子の転写を制御する機能を有するタンパク質をいう。より実際的には、LexA型転写制御因子は、BLAST(blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?CMD=Web&PAGE_TYPE=BlastHome)を用いた既知のLexA遺伝子とのホモロジー検索により、同定することができる。本明細書において、ポリペプチドが「LexA型転写制御因子としての構造及び機能を有する」とは、該ポリペプチドが、上記のDNA結合ドメインとして働くN末端側のヘリックスターンヘリックスと、C末端側のPeptidase_S24−like配列とを含む構造を有し、かつ遺伝子の転写を制御する機能を有することをいう。
【0018】
シアノバクテリアの遺伝子やタンパク質に関する情報は、例えば上述のCyanoBaseやNCBIデータベースにおいて公開されている。当業者は、これらのデータベースの情報に基づいて、目的のシアノバクテリアのタンパク質(例えば、LexA型転写制御因子若しくはアシル−ACPシンテターゼ)のアミノ酸配列、又はそれらをコードする遺伝子のヌクレオチド配列を取得することができる。
【0019】
(2.改変シアノバクテリア)
シアノバクテリアの光合成に依存した、大気CO
2の炭素を原料にした様々なバイオ燃料生産技術が開発されているが、その生産性はまだ低いレベルであり、より生産効率の高い技術の開発が望まれている。本発明は、脂肪酸生産性が向上したシアノバクテリアを提供することに関する。
【0020】
本発明者は、シアノバクテリアにおいて、LexA型転写制御因子と、アシル−ACPシンテターゼとを機能喪失させることによって、又はさらにアシル−ACPチオエステラーゼをコードする遺伝子を導入することによって得られた改変シアノバクテリアにおいて、該シアノバクテリアの培養液あたり又は細胞あたりの脂肪酸分泌生産量が増大することを見出した。
【0021】
本発明によれば、脂肪酸分泌生産性の向上した改変シアノバクテリアを製造することができる。本発明の改変シアノバクテリアを培養すれば、効率のよい微生物学的脂肪酸生産が可能になる。
【0022】
本発明は、脂肪酸の分泌生産性が向上した改変シアノバクテリアを提供する。本発明の改変シアノバクテリアは、そのLexA型転写制御因子と、アシル−ACPシンテターゼとを機能喪失させるように改変されたシアノバクテリアである。
【0023】
本発明の改変シアノバクテリアの親微生物となる、LexA型転写制御因子とアシル−ACPシンテターゼの機能喪失改変前のシアノバクテリア(以下、親シアノバクテリアということがある)の種類には、特に制限はなく、あらゆる種類のものが挙げられる。好ましくは、親シアノバクテリアの例としては、シネコシスティス属(Synechocystis)、シネココッカス属(Synechococcus)、プロクロロコッカス属(Prochlorococcus)、アカリオクロリス属(Acaryochloris)、シアノセイス属(Cyanothece)、及びアナベナ属(Anabaena)に属するシアノバクテリアを挙げることができ、より好ましくは、シネコシスティス属(Synechocystis)、シネココッカス属(Synechococcus)、及びアナベナ属(Anabaena)に属するシアノバクテリアを挙げることができ、さらに好ましくは、シネコシスティス・エスピーPCC6803、シネコシスティス・エスピーPCC7509、シネコシスティス・エスピーPCC6714、シネココッカス・エスピーPCC7002、シネココッカス・エスピーWH8102、プロクロロコッカス・エスピーMIT9303、プロクロロコッカス・マリナスMIT9313、アカリオクロリス・マリアナMBIC11017、シアノセイス・エスピーATCC51142、シアノセイス・エスピーPCC8801、及びアナベナ・エスピーPCC7120を挙げることができ、さらにより好ましくは、シネコシスティス・エスピーPCC6803、シネコシスティス・エスピーPCC6714、及びシネコシスティス・エスピーPCC7509を挙げることができ、なお好ましくはシネコシスティス・エスピーPCC6803である。
【0024】
上記親シアノバクテリアのLexA型転写制御因子のアミノ酸配列、それをコードする遺伝子、及び当該遺伝子のゲノム又はプラスミド上での位置やそのヌクレオチド配列は、上述のCyanoBaseやNCBIデータベースで確認することができる。例えば、本発明において親シアノバクテリアから機能喪失されるLexA型転写制御因子の好ましい例としては、以下の遺伝子:シネコシスティス・エスピーPCC6803のsll1626、シネココッカス・エスピーPCC7002のSYNPCC7002_A1849、シネココッカス・エスピーWH8102のSYNW1582、プロクロロコッカス・エスピーMIT9303のP9303_19141、プロクロロコッカス・マリナスMIT9313のPMT0380、アカリオクロリス・マリアナMBIC11017のAM1_3948、シアノセイス・エスピーATCC51142のcce_1899若しくはcce_5074、シアノセイス・エスピーPCC8801のPCC8801_2186、又はアナベナ・エスピーPCC7120のalr4908若しくはall3272、にコードされるLexAが挙げられる。あるいは、本発明において機能喪失されるLexAとしては、上記に例示したLexAのいずれかのアミノ酸配列と、40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上、なお好ましくは90%以上、なお好ましくは95%以上、なお好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつLexA型転写制御因子としての構造及び機能を有するポリペプチドを挙げることができる。
【0025】
シアノバクテリアのアシル−ACPシンテターゼのアミノ酸配列、それをコードする遺伝子、及び該遺伝子の位置やそのヌクレオチド配列は、上述のCyanoBaseやNCBIデータベースで確認することができる。本発明において親シアノバクテリアから機能喪失されるアシル−ACPシンテターゼの好ましい例としては、シネコシスティス・エスピーPCC6803のSlr1609、シネココッカス・エスピーPCC7002のSYNPCC7002_A0675、シネココッカス・エスピーWH8102のSYNW0669、プロクロロコッカス・エスピーMIT9303のP9303_21391、プロクロロコッカス・マリナスMIT9313のPMT0215、アカリオクロリス・マリアナMBIC11017のAM1_5562及びAM1_2147、シアノセイス・エスピーATCC51142のCCE_1133、シアノセイス・エスピーPCC8801のPCC8801_0332、アナベナ・エスピーPCC7120のAlr3602などを挙げることができる。あるいは、本発明において機能喪失されるアシル−ACPシンテターゼとしては、上記に例示したアシル−ACPシンテターゼタンパク質のいずれかのアミノ酸配列と、40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上、なお好ましくは90%以上、なおより好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつアシル−ACPを合成する機能を有するポリペプチドを挙げることができる。
【0026】
シアノバクテリアにおけるLexA型転写制御因子又はアシル−ACPシンテターゼを機能喪失させる手段としては、タンパク質の機能喪失に通常使用される手段であれば特に限定されないが、例えば、LexA又はアシル−ACPシンテターゼをコードする遺伝子を欠失又は不活性化させること、該遺伝子に対し、発現したタンパク質が活性低減又は不活性化する変異を導入すること、該遺伝子の転写を阻害する変異を導入すること、該遺伝子の転写産物の翻訳を阻害すること、又は発現した目的のタンパク質を特異的に阻害する阻害剤を投与することなどが挙げられる。このうち、シアノバクテリアにおけるLexA型転写制御因子をコードする遺伝子と、アシル−ACPシンテターゼをコードする遺伝子とを欠失又は不活性化させることが好ましい。
【0027】
本発明において、LexA型転写制御因子を機能喪失させるために欠失又は不活性化させるべき、LexA型転写制御因子をコードする遺伝子の例としては、上述したシネコシスティス・エスピーPCC6803のsll1626、シネコシスティス・エスピーPCC7002のSYNPCC7002_A1849、シネココッカス・エスピーWH8102のSYNW1582、プロクロロコッカス・エスピーMIT9303のP9303_19141、プロクロロコッカス・マリナスMIT9313のPMT0380、アカリオクロリス・マリアナMBIC11017のAM1_3948、シアノセイス・エスピーATCC51142のcce_1899及びcce_5074、シアノセイス・エスピーPCC8801のPCC8801_2186、アナベナ・エスピーPCC7120のalr4908及びall3272などが挙げられる。これらの遺伝子及びそのヌクレオチド配列は、上述したCyanoBase又はNCBIデータベース上で確認することができる。例えば、シネコシスティス・エスピーPCC6803のSll1626をコードするポリヌクレオチドは、sll1626遺伝子(NCBI Gene ID:954404)として、またシネコシスティス・エスピーPCC7002のSYNPCC7002_A1849をコードするポリヌクレオチドは、SYNPCC7002_A1849遺伝子(NCBI Gene ID:6057790)として同定することができる。さらに、これらの遺伝子のいずれかのヌクレオチド配列と、40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上、なお好ましくは90%以上、なお好ましくは95%以上、なお好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、かつLexA型転写制御因子としての構造及び機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドもまた、本発明で欠失又は不活性化させるべきLexA転写制御因子をコードする遺伝子の例として挙げることができる。
【0028】
本発明において欠失又は不活性化させるべきLexA型転写制御因子をコードする遺伝子の好ましい例としては、sll1626遺伝子、及びsll1626遺伝子のヌクレオチド配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、かつLexA型転写制御因子としての構造及び機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが挙げられる。
【0029】
また、本発明で機能喪失させるために、欠失又は不活性化させるべきアシル−ACPシンテターゼをコードする遺伝子の例としては、以下のタンパク質:シネコシスティス・エスピーPCC6803のSlr1609、シネココッカス・エスピーPCC7002のSYNPCC7002_A0675、シネココッカス・エスピーWH8102のSYNW0669、プロクロロコッカス・エスピーMIT9303のP9303_21391、プロクロロコッカス・マリナスMIT9313のPMT0215、アカリオクロリス・マリアナMBIC11017のAM1_5562若しくはAM1_2147、シアノセイス・エスピーATCC51142のCCE_1133、シアノセイス・エスピーPCC8801のPCC8801_0332、又はアナベナ・エスピーPCC7120のAlr3602、をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。これらの遺伝子及びそのヌクレオチド配列は、上述したCyanoBase又はNCBIデータベース上で確認することができる。例えば、シネコシスティス・エスピーPCC6803のSlr1609をコードするポリヌクレオチドは、slr1609遺伝子(NCBI Gene ID:953643)として、シネココッカス・エスピーPCC7002のSYNPCC7002_A0675をコードするポリヌクレオチドは、SYNPCC7002_A0675遺伝子(NCBI Gene ID:6057029)として、シネココッカス・エスピーWH8102のSYNW0669をコードするポリヌクレオチドは、SYNW0669遺伝子(NCBI−Gene ID:1730682)として、及びアナベナ・エスピーPCC7120のAlr3602をコードするポリヌクレオチドはalr3602遺伝子として、同定することができる。さらに、これらの遺伝子のいずれかのヌクレオチド配列と、40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上、なお好ましくは90%以上、なお好ましくは95%以上、なお好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、かつアシル−ACPを合成する機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドもまた、本発明で欠失又は不活性化させるべきアシル−ACPシンテターゼをコードする遺伝子の例として挙げることができる。
【0030】
本発明で欠失又は不活性化させるべきアシル−ACPシンテターゼをコードする遺伝子の好ましい例としては、slr1609遺伝子、SYNPCC7002_A0675遺伝子、及びslr1609遺伝子又はSYNPCC7002_A0675遺伝子のヌクレオチド配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、かつアシル−ACPを合成する機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが挙げられ、より好ましい例は、slr1609遺伝子である。
【0031】
上記遺伝子を欠失又は不活性化させる手段としては、該遺伝子のヌクレオチド配列上の1つ以上のヌクレオチドに対する突然変異導入、又は該ヌクレオチド配列に対する別のヌクレオチド配列の置換若しくは挿入、あるいは該遺伝子の配列の一部若しくは全部の削除などが挙げられる。発現したタンパク質が活性低減又は不活性化する変異を遺伝子に導入する手段としては、該遺伝子がコードするタンパク質の活性に関与する部位に変異が生じるように、該遺伝子に突然変異を導入することが挙げられる。上記遺伝子の転写を阻害する変異を導入する手段としては、該遺伝子のプロモーター領域に対する突然変異導入や、別のヌクレオチド配列での置換若しくは挿入による、当該プロモーターの不活性化が挙げられる。上記突然変異導や、ヌクレオチド配列の置換若しくは挿入のための具体的な手法としては、紫外線照射や部位特異的変異導入、相同組換え法、SOE(splicing by overlap extension)−PCR法(Gene,1989,77:61−68)などを挙げることができる。上記転写産物の翻訳を阻害する手段としては、マイクロRNAによるRNA干渉を挙げることができる。タンパク質の特異的阻害剤としては、当該タンパク質や、その受容体又はリガンドに特異的な抗体が挙げられる。
【0032】
好ましい実施形態において、本発明の改変シアノバクテリアは、上述の改変に加えて、さらにアシル−ACPチオエステラーゼをコードする異種遺伝子が導入されていてもよい。言い換えると、本発明の好ましい実施形態における改変シアノバクテリアは、LexA転写制御因子とアシル−ACPシンテターゼが機能喪失されており、かつさらにアシル−ACPチオエステラーゼをコードする異種遺伝子を保有するシアノバクテリアであり得る。アシル−ACPチオエステラーゼは、脂肪酸合成経路において、アシル−ACPから脂肪酸鎖を遊離させる酵素である。シアノバクテリアへのアシル−ACPチオエステラーゼの導入により、脂肪酸合成で生成したアシル−ACPから脂肪酸が切り出されて、遊離脂肪酸が生成されることが報告されている(非特許文献4)。一方で、シアノバクテリアでアシル−ACPチオエステラーゼの働きにより生成された遊離脂肪酸を効率的に分泌させるために、内生のアシル−ACPシンテターゼ遺伝子を機能喪失させることが有効であることが報告されている(Plant Physiol,2010,152:1598−1610)。したがって、本発明の改変シアノバクテリアに対して、アシル−ACPチオエステラーゼをコードする遺伝子を外部から導入することにより、その細胞内における脂肪酸の生成を促進し、改変シアノバクテリアの脂肪酸の分泌生産性を一層向上させることができる。
【0033】
本発明の改変シアノバクテリアに導入するアシル−ACPチオエステラーゼをコードする遺伝子としては、種子油に大量の中鎖脂肪酸を含有する植物、又は脂肪酸生産性藻類等から単離されたものを挙げることができる。例えば、以下の植物又は藻類:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana);ブラディリゾビウム・ジャポニクム(Bradyrhizobium japonicum);セイヨウアブラナ(Brassica napus);クスノキ(Cinnamonum camphorum);カプシカム・シネンセ(Capsicum chinense);クフェア・フッケリアナ(Cuphea hookeriana);クフェア・ランセオラータ(Cuphea lanceolata);クフェア・パルストリス(Cuphea palustris);コリアンダー(Coriandrum sativum L.);ベニバナ(Carthamus tinctorius);クフェア・ライチイ(Cuphea wrightii);ギニアアブラヤシ(Elaeis guineensis);ワタ(Gossypium hirsutum);マンゴスチン(Garcinia mangostana);ヒマワリ(Helianthus annuus);ジャーマン・アイリス(Iris germanica);イチハツ(Iris tectorum);ナツメグ(Myristica fragrans);コムギ(Triticum aestivum);アメリカニレ(Ulmus Americana);シナモン(Cinnamomum camphorum);ココヤシ(Cocos nucifera);又は、ウンベルラリア・カリフォルニカ(Umbellularia californica)、に由来するアシル−ACPチオエステラーゼをコードする遺伝子が挙げられる。あるいは、大腸菌(Escherichia coli)のアシル−ACPチオエステラーゼをコードする遺伝子を、本発明の改変シアノバクテリアに導入することもできる。本発明の上記アシル−ACPチオエステラーゼをコードする異種遺伝子は、好ましくは、ウンベルラリア・カリフォルニカ由来のアシル−ACPチオエステラーゼ(NCBIデータベース GI:595955)をコードする遺伝子、シナモンのアシル−ACPチオエステラーゼ(GI:AAC49151.1)をコードする遺伝子、ココヤシのアシル−ACPチオエステラーゼ(GI:AEM72521.1)をコードする遺伝子、又は大腸菌のアシル−ACPチオエステラーゼ(GI:AAC73596.1)をコードする遺伝子である。上記植物や藻類、又は大腸菌由来のアシル−ACPチオエステラーゼをコードする遺伝子は、NCBIデータベース上で同定することができる。例えば、ウンベルラリア・カリフォルニカ由来のアシル−ACPチオエステラーゼ(UcTE)の遺伝子は、NCBIデータベースにてGenBank ID:U17097として登録されている。また例えば、シナモン及びココヤシのアシル−ACPチオエステラーゼをコードする遺伝子は、それぞれGenBank ID:U31813、及びGenBank ID:JF338905として登録されている。また例えば、E.coli K−12株のアシル−ACPチオエステラーゼをコードする遺伝子は、NCBI Gene ID:945127として登録されている。
【0034】
本発明でシアノバクテリアに導入するアシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子の好ましい例としては、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるウンベルラリア・カリフォルニカ由来のアシル−ACPチオエステラーゼUcTEをコードする遺伝子、及び配列番号1で示されるUcTEのアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつアシル−ACPから脂肪酸鎖を遊離させる機能を有するポリペプチドをコードする遺伝子が挙げられる。
【0035】
アシル−ACPチオエステラーゼは、基質となるアシル−ACPの脂肪酸鎖長及び不飽和度に対して特異性を有する(米国特許第5298421号、Planta,1993,189:425−432)。したがって、導入するアシルACPチオエステラーゼの種類を変えることによって、シアノバクテリアに所望の鎖長や不飽和度の遊離脂肪酸を生産させることが可能である。例えば、上述のウンベリラリア・カリフォルニカ由来アシル−ACPチオエステラーゼ(UcTE)は、C12鎖長のアシル基に基質特異性を有し、生成する遊離脂肪酸は主にラウリン酸(C12:0)などのC12鎖長の遊離脂肪酸である。また例えば、上述のシナモン及びココヤシのアシル−ACPチオエステラーゼは、C14鎖長のアシル基に基質特異性を有し、生成する遊離脂肪酸は主にミリスチン酸(C14:0)などのC14鎖長の遊離脂肪酸である。また例えば、上述のE.coli K−12株のアシル−ACPチオエステラーゼは、C16又はC18鎖長のアシル基に基質特異性を有し、生成する遊離脂肪酸は主にパルミチン酸(C16:0)、パルミトレイン酸(C16:1)、ステアリン酸(C18:0)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、リノレン酸(C18:3)などのC16又はC18鎖長の遊離脂肪酸である。
【0036】
本発明の改変シアノバクテリアに導入される異種アシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子は、シアノバクテリアにおけるコドン使用頻度にあわせて、コドンを至適化されることが好ましい。各種生物が使用するコドンの情報は、Codon Usage Database([www.kazusa.or.jp/codon/])から入手可能である。シアノバクテリア用にコドン至適化されたアシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子の例としては、配列番号2で示されるヌクレオチド配列からなるUcTE(配列番号1)をコードするポリヌクレオチド、又は配列番号2で示されるヌクレオチド配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、かつアシル−ACPから脂肪酸鎖を遊離させる機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが挙げられる。
【0037】
シアノバクテリアへの異種アシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子の導入には、例えば、プラスミドベクターなどのベクターを用いることができる。ベクターは、発現ベクターが好ましい。例えば、異種アシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子のDNA断片及びそれを発現させるためのプロモーターを含む発現ベクターを構築する。プロモーターとしては、lac、tac若しくはtrcプロモーター、イソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)の添加によって誘導可能な誘導体に関するプロモーター、又は、Rubiscoオペロン(rbc)、PSI反応中心タンパク質をコードする遺伝子(psaAB)若しくはPSII反応中心D1タンパク質をコードする遺伝子(psbA)などの発現に関わるシアノバクテリアから単離されたプロモーターを利用できるが、これらに限定されるわけではなく、シアノバクテリアにおいて機能する多様なプロモーターを利用することができる。また上記発現ベクターには、当該ベクターが適切に導入された宿主を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、カナマイシン、クロラムフェニコール、スペクチノマイシン、エリスロマイシンなどの薬剤の耐性遺伝子)がさらに組み込まれていてもよい。上記発現ベクターを、公知の手段で親シアノバクテリア又は本発明の改変シアノバクテリアに導入し、形質転換する。シアノバクテリアへのベクターの導入法としては、自然形質転換法、エレクトロポレーション法、接合法などの一般的な方法を用いることができる。形質転換処理後のシアノバクテリアを選択培地、例えば、抗生物質含有培地で培養すれば、所望の形質を有する形質転換体を選択することができる。
【0038】
好ましい実施形態において、異種アシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子は、シアノバクテリアのゲノム上の内因性アシル−ACPシンテターゼ遺伝子の領域に導入され、該シアノバクテリアにおいてアシル−ACPシンテターゼを機能喪失させるとともに、異種アシル−ACPチオエステラーゼの発現能を付与する。例えば、SOE−PCR法(Gene, 1989, 77:61-68)によって、両端にアシル−ACPシンテターゼ遺伝子領域のDNA断片が付加された異種アシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子のDNA断片を構築し、これをベクターに挿入し、該ベクターをシアノバクテリアに導入してゲノム上アシル−ACPシンテターゼ遺伝子領域との相同組換えを起こさせることによって、ゲノム上のアシル−ACPシンテターゼ遺伝子の領域に異種アシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子が導入された改変シアノバクテリアを得ることができる。別の実施形態において、異種アシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子は、シアノバクテリアのゲノム上における、遺伝子導入をしてもシアノバクテリアに害を与えない領域(ニュートラルサイト)に導入されてもよい。
【0039】
(3.脂肪酸生産方法)
以上の手順で、本発明の改変シアノバクテリアを製造することができる。本発明の改変シアノバクテリアは、脂肪酸分泌生産性が向上している。したがって、本発明の改変シアノバクテリアを適切な条件で培養し、次いで分泌された脂肪酸を回収すれば、効率のよい微生物学的脂肪酸生産を実施することができる。本発明の脂肪酸生産方法でシアノバクテリアにより分泌生産される脂肪酸としては、各種遊離脂肪酸が挙げられ、好ましくはラウリン酸(C12:0)を豊富に含有する遊離脂肪酸であり得る。
【0040】
シアノバクテリアの培養は、一般に、BG−11培地(J Gen Microbiol,1979,111:1−61)を用いた液体培養又はその変法に基づいて実施することができる。脂肪酸生産のための培養期間としては、十分に菌体が増殖した条件で脂肪酸が高濃度に蓄積するように行えばよく、例えば、7〜45日間、好ましくは10〜30日間、より好ましくは14〜21日間通気攪拌培養又は振とう培養することが好適である。
【0041】
上記培養により、シアノバクテリアは脂肪酸を生産し、当該脂肪酸を培養物中に分泌する。分泌された脂肪酸を回収する場合、培養物からろ過、遠心分離等により細胞等の固形分を除去し、残った液体成分を回収した後、クロロホルム/メタノール抽出法、ヘキサン抽出法、エタノール抽出法等により脂肪酸を回収又は精製すればよい。また、大規模な生産の場合は、細胞を除去した後の培養物より油分を圧搾又は抽出により回収後、脱ガム、脱酸、脱色、脱蝋、脱臭等の一般的な精製を行い、脂肪酸を得ることができる。本発明による脂肪酸生産方法では、脂肪酸がシアノバクテリアの細胞外に分泌されるので、脂肪酸回収のために細胞を破壊する必要がない。脂肪酸回収後に残った細胞は、繰り返し脂肪酸生産に使用することができる。
【0042】
本発明の改変シアノバクテリアを用いた脂肪酸生産方法により得られる脂肪酸は、食用として用いられ得る他、化粧品等に配合する乳化剤や、石鹸や洗剤等の洗浄剤、繊維処理剤、毛髪リンス剤、又は殺菌剤や防腐剤などの原料として利用することができる。
【0043】
(4.例示的実施形態)
上述した本発明の別の例示的実施形態として、さらに以下の組成物、製造方法、用途あるいは方法を本明細書に開示する。ただし、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0044】
<1>シアノバクテリアにおけるLexA型転写制御因子と、アシル−ACPシンテターゼとを機能喪失させることを含む、改変シアノバクテリアの製造方法。
【0045】
<2>シアノバクテリアにおけるLexA型転写制御因子と、アシル−ACPシンテターゼとを機能喪失させることを含む、シアノバクテリアの脂肪酸分泌生産性の向上方法。
【0046】
<3>LexA型転写制御因子と、アシル−ACPシンテターゼとが機能喪失した改変シアノバクテリア。
【0047】
<4>好ましくは、シアノバクテリアにおけるLexA型転写制御因子をコードする遺伝子と、アシル−ACPシンテターゼをコードする遺伝子とを欠失又は不活性化することを含む、<1>記載の方法。
【0048】
<5>好ましくは、シアノバクテリアにおけるLexA型転写制御因子をコードする遺伝子と、アシル−ACPシンテターゼをコードする遺伝子とを欠失又は不活性化することを含む、<2>記載の方法。
【0049】
<6>好ましくは、LexA型転写制御因子をコードする遺伝子と、アシル−ACPシンテターゼをコードする遺伝子とが欠失又は不活性化されている、<3>記載の改変シアノバクテリア。
【0050】
<7>好ましくは、さらにアシル−ACPチオエステラーゼをコードする異種遺伝子を導入することを含む、<1>又は<4>記載の方法。
【0051】
<8>好ましくは、さらにアシル−ACPチオエステラーゼをコードする異種遺伝子を導入することを含む、<2>又は<5>記載の方法。
【0052】
<9>好ましくは、アシル−ACPチオエステラーゼをコードする異種遺伝子を含む、<3>又は<6>記載の改変シアノバクテリア。
【0053】
<10>上記<4>〜<9>のいずれか1において、好ましくは、上記LexA型転写制御因子をコードする遺伝子は以下より選択される:
(1)sll1626、SYNPCC7002_A1849、SYNW1582、P9303_19141、PMT0380、AM1_3948、cce_1899、cce_5074、PCC8801_2186、alr4908、及びall3272からなる群より選択される遺伝子;ならびに
(2)上記(1)に示される遺伝子のいずれかのヌクレオチド配列と、40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上、なお好ましくは90%以上、なお好ましくは95%以上、なお好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、かつLexA型転写制御因子としての構造及び機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0054】
<11>上記<4>〜<10>のいずれか1において、好ましくは、上記アシル−ACPシンテターゼをコードする遺伝子は以下より選択される:
(1)Slr1609、SYNPCC7002_A0675、SYNW0669、P9303_21391、PMT0215、AM1_5562、AM1_2147、CCE_1133、PCC8801_0332、及びAlr3602からなる群より選択されるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;ならびに
(2)上記(1)に示されるポリヌクレオチドのいずれかのヌクレオチド配列と、40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上、なお好ましくは90%以上、なお好ましくは95%以上、なお好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、かつアシル−ACPを合成する機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0055】
<12>上記<7>〜<11>のいずれか1において、好ましくは、上記アシル−ACPチオエステラーゼをコードする異種遺伝子は以下より選択される:
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子;ならびに
(2)配列番号1で示されるアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつアシル−ACPから脂肪酸鎖を遊離させる機能を有するポリペプチドをコードする遺伝子;
(3)配列番号2で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド;及び
(4)配列番号2で示されるヌクレオチド配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、かつアシル−ACPから脂肪酸鎖を遊離させる機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0056】
<13>上記<7>〜<11>のいずれか1において、好ましくは、上記アシル−ACPチオエステラーゼをコードする異種遺伝子は、シナモン(Cinnamomum camphorum)又はココヤシ(Cocos nucifera)のアシル−ACPチオエステラーゼをコードする遺伝子である。
【0057】
<14>上記<7>〜<11>のいずれか1において、好ましくは、上記アシル−ACPチオエステラーゼをコードする異種遺伝子は、大腸菌(Escherichia coli)K−12のアシル−ACPチオエステラーゼをコードする遺伝子である。
【0058】
<15>上記<7>〜<14>のいずれか1において、好ましくは、上記アシル−ACPチオエステラーゼをコードする異種遺伝子は、上記シアノバクテリアのゲノム配列中における、上記アシル−ACPシンテターゼをコードする遺伝子の領域に導入されるか、又はニュートラルサイトに導入される。
【0059】
<16>上記<1>〜<15>のいずれか1において、上記シアノバクテリアは、
好ましくは、シネコシスティス属(Synechocystis)、シネココッカス属(Synechococcus)、プロクロロコッカス属(Prochlorococcus)、アカリオクロリス属(Acaryochloris)、シアノセイス属(Cyanothece)、又はアナベナ属(Anabaena)のシアノバクテリアであり、
より好ましくは、シネコシスティス・エスピーPCC6803、シネコシスティス・エスピーPCC7509、シネコシスティス・エスピーPCC6714、シネココッカス・エスピーPCC7002、シネココッカス・エスピーWH8102、プロクロロコッカス・エスピーMIT9303、プロクロロコッカス・マリナスMIT9313、アカリオクロリス・マリアナMBIC11017、シアノセイス・エスピーATCC51142、シアノセイス・エスピーPCC8801、又はアナベナ・エスピーPCC7120である。
【0060】
<17>上記<1>、<4>、<7>、<10>〜<16>のいずれか1に記載の方法で製造された改変シアノバクテリア、又は<3>、<6>、<9>、<10>〜<16>のいずれか1に記載の改変シアノバクテリアを培養することを含む、脂肪酸生産方法。
【0061】
<18>好ましくは、上記改変シアノバクテリアに、ウンベリラリア・カリフォルニカ由来アシル−ACPチオエステラーゼをコードする遺伝子が導入されており、かつC12鎖長の遊離脂肪酸が主に生産される、<17>記載の方法。
【0062】
<19>好ましくは、上記改変シアノバクテリアに、シナモン(Cinnamomum camphorum)又はココヤシ(Cocos nucifera)のアシル−ACPチオエステラーゼをコードする遺伝子が導入されており、かつC14鎖長の遊離脂肪酸が主に生産される、<17>記載の方法。
【0063】
<20>好ましくは、上記改変シアノバクテリアに、大腸菌(Escherichia coli)K−12のアシル−ACPチオエステラーゼをコードする遺伝子が導入されており、かつC16又はC18鎖長の遊離脂肪酸が主に生産される、<17>記載の方法。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0065】
実施例1 LexA型転写制御因子/アシル−ACPシンテターゼ二重欠損シアノバクテリア改変株の構築
(1)LexA転写制御因子破壊株の構築
単細胞光ヘテロ栄養性シアノバクテリウムであるシネコシスティス・エスピーPCC6803において、LexA型転写制御因子の遺伝子sll1626を削除した。シネコシスティス・エスピーPCC6803野生株のゲノムDNAを鋳型として、表1記載のプライマーセットを用いて、sll1626up断片(配列番号19)及びsll1626down断片(配列番号20)を増幅した。これらのPCR産物とカナマイシン耐性マーカー遺伝子(pRL161プラスミドからHincII処理により切り出したもの)の3断片を混合したDNA溶液を鋳型として、fusion PCRを実施し、lexA破壊コンストラクトΔsll1626::Km断片を取得した。このΔsll1626::Km断片でシネコシスティス・エスピーPCC6803株を形質転換し、カナマイシン耐性選抜でLexA転写制御因子破壊株(Δsll1626株)を取得した。
【0066】
【表1】
【0067】
(2)LexA転写制御因子破壊株におけるLexA発現量の検証
上記(1)で構築したΔsll1626株におけるLexA発現量を調べた。シアノバクテリアの培養は、50mL大型試験管に加えた50mLのBG−11培地中で、一定の照明下(50μE・m
-2・sec
-1)、30℃で無菌空気を吹き込みながら行った。野生株及びΔsll1626株を培養後、遠心分離によって培養液上清を除き得られた菌体を破砕バッファー(50mM Tris−HCl(pH7.5)、50mM NaCl)で懸濁した。懸濁液にジルコニアビーズを加えて菌体を破砕し、菌体由来のタンパク質溶液を取得した。各サンプルにつき、1.0x10
7細胞分に相当するタンパク質溶液を分取し、SDS−PAGEに供し、LexAタンパク質をウエスタンブロット解析により検出した。
【0068】
ウエスタンブロット解析では、まず、得られたタンパク質溶液に1×サンプルバッファー(62.5mM Tris−HCl(pH6.8),5% 2−メルカプトエタノール,2%SDS,5%スクロース,0.002%Bromophenol blue)になるよう可溶化し、15%SDS−PAGEを行った後、PVDF(polyvinyl difluoridine membrane:Immobilon;0.45μm pore size;Millipore)にブロッティングした。一次抗体として抗His−lexAポリクローナル抗体を用いた。二次抗体としてHRP標識抗ウサギIgG抗体(Biorad)を使用した。その後、EzWestLumi plus(ATTO)を用いて発光させ、X線フィルムに感光させることでLexA由来のバンドを検出した。
【0069】
その結果、
図1に示したように、野生株ではLexAバンドが確認できたが、lexA欠損株(Δsll1626株)ではLexAに由来するバンドがほぼ確認されず、LexAタンパク質量が顕著に低減していることが示された。この結果から、lexA欠損Δsll1626株では、LexA型転写制御因子の機能が低減されていることが確認された。
【0070】
(3)LexA型転写制御因子/アシル−ACPシンテターゼ二重欠損株の構築
シネコシスティス・エスピーPCC6803での脂肪酸の培養液中への分泌生産は、内生のアシル−ACPシンテターゼ(Slr1609)の機能喪失によって達成できる(Plant Physiol,2010,152:1598−1610)。また、PCC6803株にアシル−ACPチオエステラーゼ酵素をコードする遺伝子を導入することで、脂肪酸生産量が促進されることが報告されている(非特許文献4)。本実施例では、Δsll1626株のゲノム上のアシル−ACPシンテターゼをコードする遺伝子であるslr1609のコード領域間に、スペクチノマイシン耐性遺伝子を挿入してslr1609遺伝子を不活性化させることで、アシル−ACPシンテターゼが機能喪失し、脂肪酸生産性が向上した改変株を作製した。さらに、該slr1609コード領域にシネコシスティス・エスピーPCC6803にあわせてコドンを最適化したウンベリラリア・カリフォルニカ(Umbellularia californica)由来のアシル−ACPチオエステラーゼ(UcTE)遺伝子を挿入することで、脂肪酸生産性がさらに向上した改変株を作製した。以下に改変株の作製手順を詳細に説明する。
【0071】
シネコシスティス・エスピーPCC6803株の野生株のゲノムDNAより、表2記載のプライマーslr1609f−F及びslr1609r−Rを用いてslr1609遺伝子の部分断片(2049bp)を増幅し、pUC118プラスミド(タカラバイオ株式会社)のHincIIサイト間にクローニングし、pUC118−slr1609プラスミドを取得した。
【0072】
pDG1726プラスミド(Guerout−Fleury et al.,Gene,1995,167:335−336)を鋳型として、表2記載のプライマーslr1609/sp−F及びslr1609/sp−Rを用いたPCRにより、スペクチノマイシン耐性マーカー遺伝子断片(sp断片:配列番号21)を取得した。次に、上記pUC118−slr1609プラスミドを鋳型として、表2記載のプライマーslr1609f−R及びslr1609r−Fを用いたPCRにより、slr1609遺伝子コード領域間の242bp領域が削除された直鎖DNA断片を取得し、該断片とsp断片をIn−Fusion(登録商標)PCRクローニング法(Clontech)を用いて結合し、間にsp断片が挿入されたslr1609遺伝子コード領域のDNA配列を含むpUC118−slr1609::spプラスミドを得た。
【0073】
上記pUC118−slr1609::spプラスミドを鋳型とし、表2記載のプライマーslr1609f−R及びSp−Fを用いたPCRにより、該プラスミドを線状化した。表2記載のプライマーslr1609/psbA2−F及びpsbA2/UcTE−Rを用いてシネコシスティス・エスピーPCC6803由来psbA2遺伝子のプロモーター領域断片(配列番号22)をPCR増幅した。ウンベリラリア・カリフォルニカ由来のアシル−ACPチオエステラーゼ(UcTE)遺伝子断片(UcTE断片:配列番号2)は、非特許文献4に記載されているシネコシスティス・エスピーPCC6803にあわせてコドンを最適化した配列を人工合成により作製し、これを表2記載のプライマーUcTE−F及びUcTE/sp−Rを用いてPCR増幅することで作製した。次いで、上記線状化したプラスミドに、上記psbA2のプロモーター領域断片、及びUcTE断片を加えてIn−Fusion(登録商標)PCRクローニング法(Clontech)によりクローニングし、slr1609遺伝子コード領域間にpsbA2プロモーター領域断片、UcTE断片、及びsp断片の順序に並んで挿入されたpUC118−slr1609::psbA2−UcTE−spプラスミドを得た。
【0074】
上記で得たpUC118−slr1609::spプラスミドでシネコシスティス・エスピーPCC6803野生株を形質転換し、スペクチノマイシン耐性により選抜することで、ゲノム上のアシル−ACPシンテターゼ遺伝子slr1609を不活性化させたΔslr1609::sp株を取得した。
【0075】
上記で得たpUC118−slr1609::psbA2−UcTE−spプラスミドで別のシネコシスティス・エスピーPCC6803野生株を形質転換し、スペクチノマイシン耐性により選抜することで、ゲノム上のアシル−ACPシンテターゼslr1609遺伝子コード領域間にコドンを最適化したアシル−ACPチオエステラーゼ(UcTE)遺伝子を導入することにより、アシル−ACPシンテターゼ遺伝子slr1609が不活性化するとともにアシル−ACPチオエステラーゼ発現能が付与されたΔslr1609::UcTE株を取得した。
【0076】
さらに、pUC118−slr1609::spプラスミドで、上記(1)で作製したΔsll1626株を形質転換し、スペクチノマイシン耐性により選抜することで、ゲノム上のLexAの遺伝子sll1626及びアシル−ACPシンテターゼ遺伝子slr1609を不活性化させたΔsll1626Δslr1609::sp株を取得した。
【0077】
さらに、pUC118−slr1609::psbA2−UcTE−spプラスミドで別の上記(1)で作製したΔsll1626株を形質転換し、スペクチノマイシン耐性により選抜することで、ゲノム上のLexAの遺伝子sll1626が不活性化し、さらにアシル−ACPシンテターゼslr1609遺伝子コード領域間にコドンを最適化したアシル−ACPチオエステラーゼ(UcTE)遺伝子を導入することにより、アシル−ACPシンテターゼ遺伝子slr1609が不活性化するとともにアシル−ACPチオエステラーゼ発現能が付与されたΔsll1626Δslr1609::UcTE株を取得した。
【0078】
【表2】
【0079】
実施例2 シアノバクテリア改変株における脂肪酸分泌生産性向上
(1)改変株の培養
実施例1で製造したシアノバクテリア改変株を培養し、脂肪酸分泌生産性を調べた。シアノバクテリアの培養は、OD730=0.2を初発菌体濃度として、50mL三角フラスコに加えた25mLのBG−11培地中で、一定の照明下(60μE・m
-2・sec
-1)、30℃で、ロータリーシェーカー(120rpm)を用いて行った。この条件で、Δslr1609::sp株、Δsll1626Δslr1609::sp株、Δslr1609::UcTE株、及びΔsll1626Δslr1609::UcTE株をそれぞれ2週間培養した。
【0080】
(2)脂肪酸組成分析
培養終了後、培養液50mLに1g NaHPO
4、及び内部標準としてメタノールに溶解した7−ペンタデカノン(1mg/mL)を50μL添加した。この液に対してヘキサン10mLを添加し、十分に攪拌した後に10分間静置した。室温、2500rpmで10分間遠心分離を行った後、上層部分をナス型フラスコに採取し、減圧濃縮を行った。遠心分離した下層にさらにヘキサン5mLを添加して攪拌し、遠心分離する操作を2回繰り返し、乾燥サンプルを得た。乾燥したサンプルに5%塩酸メタノール溶液を3mL添加し、80℃で3時間恒温処理することにより、脂肪酸のメチルエステル化処理を行った。その後、ヘキサン3mLを添加し、十分に攪拌した後に5分間静置した。上層部分を採取し、適宜濃縮を実施し、ガスクロマトグラフィー解析に供した。測定条件を以下に示す。[キャピラリーカラム:DB−1 MS 30m×200μm×0.25μm(J&W Scientific)、移動相:高純度ヘリウム、カラム内流量:1.0mL/分、昇温プログラム:100℃(1分間)→10℃/分→300℃(5分間)、平衡化時間:1分間、注入口:スプリット注入(スプリット比:100:1),圧力14.49psi,104mL/分、注入量1μL、洗浄バイアル:メタノール・クロロホルム、検出器温度:300℃]
【0081】
ガスクロマトグラフィー解析により得られた波形データのピーク面積より、各脂肪酸のメチルエステル量を定量した。なお、測定した各ピーク面積を内部標準である7−ペンタデカノンのピーク面積と比較することで試料間の補正を行った。培養液1リットルあたりに含まれる各脂肪酸の量及びその合計量を算出した。
【0082】
結果を
図2、3、及び表3に示す。なお、
図2、3及び表3の値は、独立した3回の培養とクロマトグラフィー解析の結果の平均値である。
図2から明らかなように、LexAの遺伝子sll1626とアシルACPシンテターゼの遺伝子slr1609を破壊したΔsll1626Δsl
r1609::sp株では、LexAの遺伝子を破壊していないΔslr1609::sp株と比べて、各遊離脂肪酸生産量が増加し、総遊離脂肪酸量も大幅に増加した。また
図3から明らかなように、LexAの遺伝子sll1626とアシルACPシンテターゼの遺伝子slr1609を破壊し、チオエステラーゼUcTEの遺伝子を導入したΔsll1626Δsl
r1609::UcTE株では、LexAの遺伝子を破壊していないΔslr1609::UcTE株と比べて、各遊離脂肪酸及び総遊離脂肪酸生産量が大幅に増加した。具体的には、表3に示すとおり、培養2週間で、Δsll1626Δsl
r1609::sp株は、Δslr1609::sp株に比べて2.92倍の総脂肪酸生産量を示し、Δsll1626Δsl
r1609::UcTE株は、Δslr1609::UcTE株に比べて1.41倍の総脂肪酸生産量を示した。さらに、チオエステラーゼUcTEを導入したΔsll1626Δsl
r1609::UcTE株では、アシル−ACPチオエステラーゼ遺伝子を導入していないΔsll1626Δsl
r1609::sp株に比べて、脂肪酸生産量が1.84倍に増加した。また、UcTE遺伝子導入株では、UcTE遺伝子非導入株と比べて、C12脂肪酸の生産量が大きく増加した。
【0083】
【表3】