(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
位置の順で、5’−隣接領域、非ガイド領域、ループ領域、ガイド領域および3’−隣接領域からなる人工一次miRNA転写産物(pri−miRNA)をコードする核酸であって、前記ガイド領域は、配列番号37(miHDss3)または配列番号7(miHDS1v6A)からなり、前記非ガイド領域は、前記ガイド領域に対して少なくとも80%相補的である、核酸。
前記5’−隣接領域が、前記非ガイド領域と接して連結され、前記ループ領域が、前記非ガイド領域と前記ガイド領域との間に配置され、前記ガイド領域が、前記3’−隣接領域と接して連結される、請求項1に記載の核酸。
位置の順で、5’−隣接領域、非ガイド領域、ループ領域、ガイド領域および3’−隣接領域からなる人工一次miRNA転写産物(pri−miRNA)をコードする核酸を含む、長さが80〜4000ヌクレオチドの間の単離された核酸であって、前記ガイド領域は、配列番号37(miHDss3)または配列番号7(miHDS1v6A)からなり、前記非ガイド領域は、前記ガイド領域に対して少なくとも80%相補的である、単離された核酸。
Pri−miHDS1v5U(配列番号8)、Pri−miHDS1v6A(配列番号9)、Pre−miHDS1v5U(配列番号10)またはPre−miHDS1v6A(配列番号11)からなる、単離された核酸。
核酸のガイド領域および核酸の非ガイド領域を含む、単離されたmiRNA二重鎖であって、前記ガイド領域は、配列番号37(miHDss3)または配列番号7(miHDS1v6A)からなり、前記非ガイド領域は、前記ガイド領域に対して少なくとも80%相補的である、単離されたmiRNA二重鎖。
請求項1から33もしくは48から49のいずれか一項に記載の核酸、請求項34から42のいずれか一項に記載の発現カセット、請求項43から47のいずれか一項に記載のベクター、または請求項50から51のいずれか一項に記載の二重鎖を含む非ヒト動物。
RNA干渉を誘導するための組成物であって、請求項1から33もしくは48から49のいずれか一項に記載の核酸、請求項34から42のいずれか一項に記載の発現カセット、請求項43から47のいずれか一項に記載のベクター、または請求項50から51のいずれか一項に記載の二重鎖の有効量を含む、組成物。
治療における使用のための組成物であって、請求項1から33もしくは48から49のいずれか一項に記載の核酸、請求項34から42のいずれか一項に記載の発現カセット、請求項43から47のいずれか一項に記載のベクター、または請求項50から51のいずれか一項に記載の二重鎖を含む、組成物。
ハンチントン病を処置するための組成物であって、請求項1から33もしくは48から49のいずれか一項に記載の核酸、請求項34から42のいずれか一項に記載の発現カセット、請求項43から47のいずれか一項に記載のベクター、または請求項50から51のいずれか一項に記載の二重鎖を含む、組成物。
前記オーバーハングが、CUU(配列番号27)、CUUU(配列番号28)またはCUUUU(配列番号29)配列である、請求項56に記載の単離されたRNAi分子。
低毒性RNA干渉を誘導するための組成物であって、請求項1から33もしくは48から49のいずれか一項に記載の核酸、請求項34から42のいずれか一項に記載の発現カセット、請求項43から47のいずれか一項に記載のベクター、または請求項50から51のいずれか一項に記載の二重鎖を含む、組成物。
低毒性RNA干渉を誘導するための組成物であって、miRNAをコードする核酸に作動可能に連結したpolIIプロモーターをコードする請求項35に記載の発現カセットを含む、組成物。
ハンチントン病を有する被験体を処置するための組成物であって、請求項1から33もしくは48から49のいずれか一項に記載の核酸、請求項34から42のいずれか一項に記載の発現カセット、請求項43から47のいずれか一項に記載のベクター、または請求項50から51のいずれか一項に記載の二重鎖を含む、組成物。
ハンチントン病を処置するための組成物であって、請求項1から33もしくは48から49のいずれか一項に記載の核酸、請求項34から42のいずれか一項に記載の発現カセット、請求項43から47のいずれか一項に記載のベクター、または請求項50から51のいずれか一項に記載の二重鎖を含み、前記核酸、発現カセット、ベクターまたは二重鎖が細胞と接触させられることを特徴とし、前記細胞が、上衣、軟膜、内皮、脳室および/または髄膜細胞である、組成物。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、限定されたオフターゲット毒性を有する治療的siRNAを発現する、単離されたmiRNAシャトルベクターを提供する。ある特定の実施形態では、本発明のmiRNAシャトルベクターとの関連でオフターゲット毒性を示すsiRNAを埋め込むことは、siRNAのオフターゲット毒性を限定する。ある特定の実施形態では、このmiRNAシャトルベクターは、脳において、限定されたオフターゲット毒性を有する治療的siRNAを発現させる。ある特定の実施形態では、このmiRNAシャトルベクターは、線条体において、限定されたオフターゲット毒性を有する治療的siRNAを発現させる。ある特定の実施形態では、このmiRNAシャトルベクターは、大脳において、限定されたオフターゲット毒性を有する治療的siRNAを発現させる。
【0005】
本発明は、位置の順で、5’−隣接領域、非ガイド(パッセンジャー)領域、ループ領域、ガイド領域および3’−隣接領域を含む一次転写産物(pri−miRNA)をコードする単離された核酸を提供し、このガイド領域は、配列番号37(miHDss3)、配列番号6(miHDS1v5U)または配列番号7(miHDS1v6A)からなり、この非ガイド領域は、ガイド領域に対して少なくとも80%相補的である。ある特定の実施形態では、この非ガイド領域は、ガイド領域に対して、少なくとも81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%相補的である。ある特定の実施形態では、この5’−隣接領域は、非ガイド領域と接して連結され(contiguously linked)、ループ領域は、非ガイド領域とガイド領域との間に配置され、ガイド領域は、3’−隣接領域と接して連結される。本明細書で使用する場合、用語「siRNAガイド領域」は、標的配列に対して相補的なRNAの一本鎖配列である。本明細書で使用する場合、用語「siRNA非ガイド領域」は、「siRNAガイド領域」に対して相補的なRNAの一本鎖配列である。したがって、適切な条件下で、siRNAガイド領域およびsiRNA非ガイド領域は、会合して、RNA二重鎖を形成する。本明細書で使用する場合、全ての核酸配列は、通例により、5’から3’の方向で列挙される。
【0006】
ある特定の実施形態では、この5’−隣接領域は、非ガイド領域と接して連結された5’−連結配列を含む。本明細書で使用する場合、用語「連結部位」(joining site)または「連結配列」(joining sequence)は、2つの他の核酸配列を結びつける60ヌクレオチド未満の短い核酸配列である。ある特定の実施形態では、この連結部位は、4と50との間の、端数を含めた任意の整数の長さのものである。ある特定の実施形態では、この5’−連結配列は、5〜8ヌクレオチドからなる(例えば、6ヌクレオチドからなる)。ある特定の実施形態では、この5’−連結配列は、GUGAGCGA(配列番号13)またはGUGAGCGC(配列番号14)をコードする。
【0007】
ある特定の実施形態では、この5’−隣接領域は、5’−連結配列の上流に配置された5’−バルジ配列をさらに含む。本明細書で使用する場合、用語「バルジ配列」は、二重鎖中のそれと向かい合った核酸に対して非相補的である核酸の領域である。例えば、二重鎖は、相補的核酸の領域、次いで非相補的核酸の領域、その後相補的核酸の第2の領域を含む。相補的核酸の領域は、互いに結合するが、中心の非相補的領域は結合せず、それによって「バルジ」を形成する。ある特定の実施形態では、2つの相補的領域間に配置された核酸の2つの鎖は、異なる長さのものであり、それによって「バルジ」を形成する。ある特定の実施形態では、この5’−バルジ配列は、2〜15ヌクレオチドを含む。ある特定の実施形態では、この5’−バルジ配列は、約1〜10ヌクレオチドからなる。ある特定の実施形態では、この5’−バルジ配列は、UAAACUCGA(配列番号15)をコードする。ある特定の実施形態では、この5’−バルジ配列は、3’−バルジ配列に対して0〜50%の相補性を有する。
【0008】
ある特定の実施形態では、この5’−隣接領域は、5’−バルジ配列の上流に配置された5’−スペーサー配列をさらに含む。ある特定の実施形態では、この5’−スペーサー配列は、9〜12ヌクレオチド、例えば、10〜12ヌクレオチドからなる。ある特定の実施形態では、この5’−スペーサー配列は、3’−スペーサー配列に対して60〜100%の相補性を有する。ある特定の実施形態では、この5’−バルジ配列は、クローニング部位、例えば、XhoI部位を含む。ある特定の実施形態では、この5’−スペーサー配列は、UGGUACCGUU(配列番号16)である。
【0009】
ある特定の実施形態では、この5’−隣接領域は、5’−スペーサー配列の上流に配置された5’−上流配列をさらに含む。ある特定の実施形態では、この5’−上流配列は、長さが約5〜5000ヌクレオチド、例えば、長さが30〜2000ヌクレオチドである。
【0010】
ある特定の実施形態では、この3’−隣接領域は、ガイド領域と接して連結された3’−連結配列を含む。ある特定の実施形態では、この連結部位は、4と50との間の、端数を含めた任意の整数の長さのものである。ある特定の実施形態では、この3’−連結配列は、5〜8ヌクレオチドからなる(例えば、6ヌクレオチドからなる)。ある特定の実施形態では、この3’−連結配列は、5’−連結配列に対して少なくとも約85%相補的である。ある特定の実施形態では、この3’−連結配列は、CGCYUAC(配列番号17)をコードし、ここで、Yは、CまたはUである。ある特定の実施形態では、この3’−連結配列は、CGCCUAC(配列番号18)をコードする。
【0011】
ある特定の実施形態では、この3’−隣接領域は、3’−連結配列の下流に配置された3’−バルジ配列をさらに含む。ある特定の実施形態では、この3’−バルジ配列は、クローニング部位、例えば、SpeI/XbaI部位またはSpeI部位を含む。ある特定の実施形態では、この3’−バルジ配列は、約1〜15ヌクレオチド(例えば、2〜15ヌクレオチドまたは1〜10ヌクレオチド)からなる。ある特定の実施形態では、この3’−バルジ配列は、UAG(配列番号30)をコードする。ある特定の実施形態では、5’−バルジ配列は、配列の各末端の1ヌクレオチドのみにおいて、この3’−バルジ配列に対して相補的である。
【0012】
ある特定の実施形態では、この3’−隣接領域は、3’−バルジ配列の下流に配置された3’−スペーサー配列をさらに含む。ある特定の実施形態では、この3’−スペーサー配列は、9〜12ヌクレオチド、例えば、10〜12ヌクレオチドからなる。ある特定の実施形態では、この3’−スペーサー配列は、AGCGGCCGCCA(配列番号19)である。ある特定の実施形態では、この3’−スペーサー配列は、5’−スペーサー配列に対して少なくとも約70%相補的である。
【0013】
ある特定の実施形態では、この3’−隣接領域は、3’−スペーサー配列の下流に配置された3’−下流配列をさらに含む。ある特定の実施形態では、5’−上流配列は、3’−下流配列と顕著には対合しない。本明細書で使用する場合、用語「〜と顕著には対合しない」とは、2つの鎖が20%未満相同であることを意味する。ある特定の実施形態では、この3’−下流配列は、長さが約5〜5000ヌクレオチド、例えば、長さが30〜2000ヌクレオチドである。
【0014】
ある特定の実施形態では、このループ領域は、長さが4〜20ヌクレオチド、例えば、長さが15〜19ヌクレオチドである。ループ領域の0〜50%は、そのループ領域の別の部分に対して相補的であり得る。本明細書で使用する場合、用語「ループ領域」は、核酸の2つの相補鎖を連結する配列である。ある特定の実施形態では、核酸の相補鎖と直接的に接しているループ領域の1〜3ヌクレオチドは、そのループ領域の最後の1〜3ヌクレオチドに対して相補的であり得る。例えば、ループ領域中の最初の2つの核酸は、ループ領域の最後の2つのヌクレオチドに対して相補的であり得る。ある特定の実施形態では、このループ領域は、長さが17ヌクレオチドである。ある特定の実施形態では、このループ領域は、CUNNNNNNNNNNNNNNNGG(配列番号20)またはCCNNNNNNNNNNNNNNNGG(配列番号21)をコードする。ある特定の実施形態では、このループ領域は、CUGUGAAGCCACAGAUGGG(配列番号22)またはCCGUGAAGCCACAGAUGGG(配列番号23)をコードする。
【0015】
本発明は、本明細書に記載される核酸によってコードされるRNAをさらに提供する。
【0016】
本発明は、本明細書に記載される核酸と接して連結されたプロモーターを含む発現カセットをさらに提供する。ある特定の実施形態では、このプロモーターは、polIIまたはpolIIIプロモーター、例えば、U6プロモーター(例えば、マウスU6プロモーター)である。ある特定の実施形態では、この発現カセットは、マーカー遺伝子をさらに含む。ある特定の実施形態では、このプロモーターは、polIIプロモーターである。ある特定の実施形態では、このプロモーターは、組織特異的プロモーターである。ある特定の実施形態では、このプロモーターは、誘導性プロモーターである。ある特定の実施形態では、このプロモーターは、polIIIプロモーターである。
【0017】
ある特定の実施形態では、この発現カセットは、マーカー遺伝子をさらに含む。
【0018】
本発明は、本明細書に記載される発現カセットを含むベクターを提供する。ある特定の実施形態では、このベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。ある特定の実施形態では、このAAVは、AAV1、AAV2、AAV5、AAV6および/またはAAV9である。ある特定の実施形態では、このAAVはAAV2である。ある特定の実施形態では、このAAVはAAV2/1である。かかるAAVの例は、Davidsonら、PNAS(2000年)97巻:3428〜3432頁中に見出される。ある特定の実施形態では、このAAVはAAV2/1である。ある特定の実施形態では、このAAVはAAV2/5である。本明細書で使用する場合、用語AAV2/1は、AAV2 ITRおよびAAV1カプシドを意味するために使用され、用語AAV2/2は、AAV2 ITRおよびAAV2カプシドであり、用語AAV2/4は、AAV2 ITRおよびAAV4カプシドである、など。ある特定の実施形態では、このAAVは、AAV1、AAV2、AAV5、AAV6および/またはAAV9である。ある特定の実施形態では、このAAVはAAV1である。ある特定の実施形態では、このAAVはAAV2である。ある特定の実施形態では、このAAVはAAV5である。ある特定の実施形態では、このAAVはAAV6である。ある特定の実施形態では、このAAVはAAV8である。ある特定の実施形態では、このAAVはAAV9である。ある特定の実施形態では、このAAVはAAVrh10である。
【0019】
ある特定の実施形態では、このAAVカプシドは、任意の参照AAV血清型カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3、例えば、AAV1カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3、または例えば、AAV2カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3、または例えば、AAV3カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3、または例えば、AAV4カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3、または例えば、AAV5カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3、または例えば、AAV6カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3、または例えば、AAV7カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3、または例えば、AAV8カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3、または例えば、AAV9カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3、または例えば、AAVrh10カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3、または例えば、AAVrh74カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3に対して、少なくとも80%の相同性を有する。
【0020】
ある特定の実施形態では、このAAVカプシドは、任意の参照AAV血清型カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3、例えば、AAV1カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3、または例えば、AAV2カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3、または例えば、AAV3カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3、または例えば、AAV4カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3、または例えば、AAV5カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3、または例えば、AAV6カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3、または例えば、AAV7カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3、または例えば、AAV8カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3、または例えば、AAV9カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3、または例えば、AAVrh10カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3、または例えば、AAVrh74カプシドタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3に対して、100%の相同性を有する。
【0021】
本発明は、本明細書に記載される核酸、発現カセット、ベクターまたは二重鎖を含む非ヒト動物を提供する。
【0022】
本発明は、位置の順で、5’−隣接領域、非ガイド領域、ループ領域、ガイド領域および3’−隣接領域からなる人工一次miRNA転写産物(pri−miRNA)をコードする核酸を含む、長さが80〜4000ヌクレオチドの間の単離された核酸を提供し、このガイド領域は、配列番号37(miHDss3)、配列番号6(miHDS1v5U)または配列番号7(miHDS1v6A)からなり、この非ガイド領域は、ガイド領域に対して少なくとも80%相補的である。
【0023】
本発明は、Pri−miHDS1v5U(配列番号8)、Pri−miHDS1v6A(配列番号9)、Pre−miHDS1v5U(配列番号10)またはPre−miHDS1v6A(配列番号11)からなる、単離された核酸を提供する。一実施形態では、全長miHDS1(配列番号12)は、以下の配列を有する:
5'-GCGUUUAGUGAACCGUCAGAUGGUACCGUUUAAACUCGAGUGAGCGAUGCUGGCUCGCAUGGUCGAUACUGUAAAGCCACAGAUGGGUGUCGACCAUGCGAGCCAGCACCGCCUACUAGAGCGGCCGCCACAGCGGGGAGAUCCAGACAUGAUAAGAUACAUU-3'(配列番号12)
【0024】
本発明は、核酸のガイド領域および核酸の非ガイド領域を含む、単離されたRNA二重鎖を提供し、このガイド領域は、配列番号37(miHDss3)、配列番号6(miHDS1v5U)または配列番号7(miHDS1v6A)であり、この非ガイド領域は、ガイド領域に対して少なくとも80%相補的である。ある特定の実施形態では、この単離されたRNA二重鎖は、長さが19〜30塩基対の間である。ある特定の実施形態は、上記単離された核酸をコードする発現カセットを含む。ある特定の実施形態では、この発現カセットは、マーカー遺伝子をさらに含む。
【0025】
本発明は、本明細書に記載される核酸、発現カセット、ベクターまたは組成物を被験体に投与することによって、RNA干渉を誘導する方法を提供する。
【0026】
本発明は、miRNAをコードする核酸に作動可能に連結したU6プロモーターを含むベクターを提供する。本発明の構築物の予測された転写開始部位は、過去に研究者らに使用されたものとは異なっている。本発明のある特定の実施形態では、このU6miRNAは、伸長された5’末端を有する。この5’末端が以前のCMVベースの戦略と似るようにトランケートされると、サイレンシング効力は、激しく低減される。本発明は、天然のmiR−30隣接配列を超える改善された効力を示す改善された隣接配列もまた提供する。本発明のmiRNA戦略の使用は、伝統的shRNAアプローチと関連する毒性を軽減するようである。このmiRNA戦略は、U6shRNAアプローチがするように過剰量のRNAiを生成することは一般にはない。
【0027】
本明細書で使用する場合、用語「ステム配列」は、同じ分子中の別の配列に対して相補的な配列であり、2つの相補鎖がアニーリングして、二重鎖(例えば、非ガイドおよびガイド領域)を形成する。形成される二重鎖は、互いに対して、完全に相補的であり得るか、または完全に満たずに相補的、例えば、99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、90%、89%、88%、87%、86%、85%、84%、83%、82%、81%、80%、75%もしくは70%相補的であり得る。さらに、ある特定の実施形態では、一方の鎖は、他方の鎖よりも多いヌクレオチドを含み得、サイドループの形成を可能にする。
【0028】
本発明は、本明細書に記載される発現カセットを含むベクターもまた提供する。適切なベクターの例には、アデノウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ポリオウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)またはマウスモロニーベースのウイルスベクターが含まれる。一実施形態では、このベクターは、アデノ随伴ウイルスベクターである。これらのカセットおよびベクターは、細胞、例えば、哺乳動物細胞中に含まれ得る。非ヒト哺乳動物は、このカセットまたはベクターを含み得る。
【0029】
本発明は、本明細書に記載される核酸分子、発現カセットまたはベクターを含む、細胞(例えば、哺乳動物細胞)を提供する。本発明は、本明細書に記載される核酸分子、発現カセットまたはベクターを含む、非ヒト哺乳動物もまた提供する。
【0030】
本発明は、神経変性疾患を処置するためのなどの、治療における使用のための、本明細書に記載される核酸、発現カセット、ベクターまたは組成物を提供する。
【0031】
本発明は、3’末端においてオーバーハングを有するマイクロRNAを有する単離されたRNAi分子を提供する。ある特定の実施形態では、このオーバーハングは、2〜5ヌクレオチドのリピートである。ある特定の実施形態では、このオーバーハングは、UU(配列番号24)、UUU(配列番号25)、UUUU(配列番号26)、CUU(配列番号27)、CUUU(配列番号28)またはCUUUU(配列番号29)配列である。ある特定の実施形態では、このマイクロRNAは、天然に存在するマイクロRNAである。ある特定の実施形態では、マイクロRNAは、人工マイクロRNAである。ある特定の実施形態では、このRNAi分子は、減少したレベルのオフターゲット毒性を生じる。
【0032】
本発明は、本明細書に記載される核酸、発現カセット、ベクターまたは組成物を被験体に投与することによって、低毒性RNA干渉を誘導する方法を提供する。ある特定の実施形態では、この発現カセットは、polIIプロモーターを含む。
【0033】
本発明は、miRNAをコードする核酸に作動可能に連結したpolIIプロモーターをコードする発現カセットを被験体に投与することによって、低毒性RNA干渉を誘導する方法を提供する。ある特定の実施形態では、このmiRNAは、2または3ヌクレオチドの5’または3’−オーバーハングを含む。ある特定の実施形態では、このmiRNAは、2ヌクレオチドの3’−オーバーハングを含む。ある特定の実施形態では、このmiRNAは、人工miRNAである。
【0034】
本発明は、ハンチントン病を処置するために、本明細書に記載される核酸、発現カセット、ベクターまたは組成物を被験体に投与することによって、ハンチントン病を有する被験体を処置する方法を提供する。
【0035】
本発明は、細胞におけるハンチンチンの蓄積を抑制するのに十分な量で、本明細書に記載される核酸分子(例えば、リボ核酸(RNA))を細胞中に導入することによって、細胞におけるハンチンチンの蓄積を抑制する方法を提供する。ある特定の実施形態では、ハンチンチンの蓄積は、少なくとも10%抑制される。ある特定の実施形態では、ハンチンチンの蓄積は、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%抑制される。ある特定の実施形態では、このタンパク質の蓄積の抑制は、治療効果を引き起こすのに、例えば、もつれの形成を低減させるのに、十分な量においてである。
【0036】
本発明は、ハンチンチンの蓄積を抑制するのに十分な量で、本明細書に記載される核酸分子(例えば、リボ核酸(RNA))を細胞中に導入することによって、細胞における変異体ハンチンチンの細胞傷害効果を予防する方法を提供する。ある特定の実施形態では、これらの核酸分子は、例えばニューロン細胞において、ハンチンチンの細胞傷害効果を予防する。
【0037】
本発明は、ハンチンチンの発現を阻害するのに十分な量で、本明細書に記載される核酸分子(例えば、リボ核酸(RNA))を細胞中に導入することによって、細胞におけるハンチンチン遺伝子の発現を阻害する方法を提供し、ここで、このRNAは、ハンチンチン遺伝子の発現を阻害する。ある特定の実施形態では、ハンチンチンは、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%阻害される。
【0038】
本発明は、(a)ニューロン細胞を含む哺乳動物を提供することであって、このニューロン細胞は、ハンチンチン遺伝子を含み、このニューロン細胞は、RNA干渉に対して感受性であり、このハンチンチン遺伝子は、このニューロン細胞において発現される、こと;および(b)この哺乳動物を、本明細書に記載されるリボ核酸(RNA)またはベクターと接触させることであって、それによって、ハンチンチン遺伝子の発現を阻害する、こと、によって、哺乳動物(例えば、ヒトまたは非ヒト哺乳動物)においてハンチンチン遺伝子の発現を阻害する方法を提供する。ある特定の実施形態では、ハンチンチンの蓄積は、少なくとも10%抑制される。ある特定の実施形態では、ハンチンチンは、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%阻害される。ある特定の実施形態では、この細胞は、in vivoで哺乳動物中に位置する。
【0039】
本発明は、プロモーターおよび標的配列に対して特異的な埋め込まれたsiRNAを含むマイクロRNA(miRNA)シャトルを含むウイルスベクターを提供する。ある特定の実施形態では、このプロモーターは、誘導性プロモーターである。ある特定の実施形態では、このベクターは、アデノウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ポリオウイルス、HSVまたはマウスモロニーベースのウイルスベクターである。ある特定の実施形態では、標的化される配列は、ハンチントン病と関連する配列である。この標的配列は、ある特定の実施形態では、ハンチンチンをコードする配列である。
【0040】
本発明は、ハンチントン病と関連するタンパク質の蓄積を抑制するのに十分な量で、本明細書に記載されるmiRNAをコードするベクターを細胞中に導入することによって、それを必要とする哺乳動物において、神経変性疾患の細胞傷害効果を予防する方法を提供し、このRNAは、ハンチントン病(HDとも呼ばれ、関与するタンパク質は、httとも呼ばれるハンチンチンである)の細胞傷害効果を予防する。
【0041】
本発明は、ハンチンチンタンパク質の発現を阻害するのに十分な量で、本明細書に記載されるmiRNAをコードするベクターを細胞中に導入することによって、それを必要とする哺乳動物において、ハンチントン病と関連するタンパク質の発現を阻害する方法もまた提供し、ここで、このRNAは、ハンチンチンタンパク質の発現を阻害する。このハンチンチンタンパク質は、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%阻害される。
【0042】
本発明は、短鎖干渉核酸(siRNA)分子を使用する、ハンチントン病遺伝子発現をモジュレートするために有用な、化合物、組成物および方法に関する。本発明は、低分子核酸分子を使用するRNA干渉(RNAi)によって、HD遺伝子の発現および/または活性の経路に関与する他の遺伝子の発現および活性をモジュレートするために有用な、化合物、組成物および方法にも関する。特に、本発明は、低分子核酸分子、例えば、短鎖干渉核酸(siNA)、短鎖干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、マイクロ−RNA(miRNA)および短鎖ヘアピンRNA(shRNA)分子、ならびにHD遺伝子の発現をモジュレートするために使用される方法を特徴とする。本発明のsiRNA分子は、例えば、化学的に合成され得、ベクターから発現され得、または酵素的に合成され得る。
【0043】
本明細書で使用する場合、特許請求の範囲が「〜に対応する」RNAを示す場合、これは、ウラシルがチミンに置換されることを除いて、DNAと同じ配列を有するRNAを意味する。
【0044】
本発明は、治療効果を提供するために、目的の標的遺伝子または目的の遺伝子についての標的化された対立遺伝子を実質的にサイレンシングする方法を、さらに提供する。本明細書で使用する場合、用語「実質的にサイレンシングする」または「実質的にサイレンシングされた」とは、この標的遺伝子または標的対立遺伝子の発現を、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%〜100%減少、低減または阻害することを指す。本明細書で使用する場合、用語「治療効果」とは、病理学的および挙動的欠陥を含む、疾患状態の関連する異常における変化;疾患状態の腫瘍増殖停止時間における変化;疾患の症状の低減、弱まりもしくは変更;または疾患に罹患した人の生活の質における改善を指す。治療効果は、医師によって定量的に、またはsiRNAによって標的化される疾患状態に罹患した患者によって定性的に、測定され得る。変異体および野生型の両方の対立遺伝子が実質的にサイレンシングされるある特定の実施形態では、用語治療効果は、患者が治療効果を有さないような、野生型対立遺伝子の発現のサイレンシングが正常な機能に対して有害な影響も害になる影響も有さない状態を規定する。
【0045】
一実施形態では、本発明は、被験体または生物においてハンチントン病を処置または予防するための方法を特徴とし、この方法は、被験体または生物においてHD遺伝子の発現をモジュレートするのに適切な条件下で、この被験体または生物を本発明のsiRNAと接触させることを含み、それによって、ハンチントン病の処置または予防が達成され得る。一実施形態では、このHD遺伝子標的は、両方のHD対立遺伝子(例えば、トリヌクレオチド(CAG)リピート伸長を含む対立遺伝子、および野生型対立遺伝子)を含む。本発明のsiRNA分子は、被験体または生物中の適切な組織または細胞を標的化するために、本明細書に記載されるようにまたは当技術分野で公知の他の方法で、ベクターから発現され得る。
【0046】
一実施形態では、本発明は、被験体または生物においてハンチントン病を処置または予防するための方法を特徴とし、この方法は、適切な組織または細胞、例えば、脳の細胞および組織(例えば、基底核、線条体または皮質)への局所投与を介して、例えば、適切な細胞(例えば、基底核、線条体または皮質)への、本発明のsiRNA分子を提供する本発明のベクターまたは発現カセットの投与によって、この被験体または生物を本発明のsiRNA分子と接触させることを含む。一実施形態では、このsiRNA、ベクターまたは発現カセットは、脳への定位的な送達または対流増強送達によって、被験体または生物に投与される。例えば、米国特許第5,720,720号は、脳への試薬の定位的な送達および対流増強送達に有用な方法およびデバイスを提供する。かかる方法およびデバイスは、本発明のsiRNA、ベクターまたは発現カセットの、被験体または生物への送達のために容易に使用され得、米国特許第5,720,720号は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。米国特許出願公開第2002/0141980号;米国特許出願公開第2002/0114780号;および米国特許出願公開第2002/0187127号は全て、本発明のsiRNA、ベクターまたは発現カセットの、被験体または生物への送達のために容易に適合され得る、試薬の定位的な送達および対流増強送達に有用な方法およびデバイスを提供し、これらは、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。本発明のsiRNA、ベクターまたは発現カセットを被験体または生物に送達することにおいて有用であり得る特定のデバイスは、例えば、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2004/0162255号中に記載されている。本発明のsiRNA分子は、被験体または生物中の適切な組織または細胞を標的化するために、本明細書に記載されるようにまたは当技術分野で公知の他の方法で、ベクターから発現され得る。
【0047】
ウイルスベクターの送達の方法には、動脈内、筋内、静脈内、鼻腔内および経口経路が含まれるがこれらに限定されない。一般に、AAVビリオンは、in vivoまたはin vitroのいずれかの形質導入技術を使用して、CNSの細胞中に導入され得る。in vitroで形質導入される場合、所望のレシピエント細胞が、被験体から取り出され、AAVビリオンで形質導入され、被験体中に再導入される。あるいは、同系間または異種間細胞が使用され得、ここで、これらの細胞は、被験体において不適切な免疫応答を生じない。
【0048】
被験体中への形質導入された細胞の送達および導入のための適切な方法は、記載されている。例えば、細胞は、組換えAAVビリオンを、例えば適切な培地中でCNS細胞と合わせることによって、in vitroで形質導入され得、目的のDNAを保有する細胞についてのスクリーニングは、従来の技術、例えば、サザンブロットおよび/もしくはPCRを使用して、または選択可能なマーカーを使用することによって、スクリーニングされ得る。次いで、形質導入された細胞は、以下により完全に記載される医薬組成物へと製剤化され得、この組成物は、種々の技術によって、例えば、移植、筋内、静脈内、皮下および腹腔内注射によって、被験体中に導入され得る。
【0049】
一実施形態では、in vivo送達のために、AAVビリオンは、医薬組成物へと製剤化され、一般には、非経口で、例えば、骨格筋もしくは心筋中への直接的な筋内注射によって、またはCNS中への注射によって、投与される。
【0050】
一実施形態では、本発明のウイルスベクターは、被験体の脳の大きい領域(例えば、線条体および/または皮質)にわたって、ウイルスベクター、例えばAAVを効率的に送達できる対流増強送達(CED)系を介して、CNSに送達される。以下に詳細に記載され例示されるように、これらの方法は、種々のウイルスベクター、例えば、治療的遺伝子(例えば、siRNA)を保有するAAVベクターに適切である。
【0051】
任意の対流増強送達デバイスが、ウイルスベクターの送達のために適切であり得る。一実施形態では、このデバイスは、浸透圧ポンプまたは注入ポンプである。浸透圧ポンプおよび注入ポンプの両方は、種々の供給業者、例えば、Alzet Corporation、Hamilton Corporation、Aiza,Inc.、Palo Alto、Calif.)から市販されている。典型的には、ウイルスベクターは、以下のようにCEDデバイスを介して送達される。カテーテル、カニューレまたは他の注射デバイスが、選択された被験体においてCNS組織中に挿入される。本明細書の教示を考慮すると、当業者は、CNSのどの一般的なエリアが適切な標的であるかを容易に決定できる。例えば、HDを処置するために治療的遺伝子をコードするAAVベクターを送達する場合、線条体が、標的化するのに適切な脳のエリアである。定位的なマップおよび配置決定(positioning)デバイスが、例えばASI Instruments、Warren、Mich.から入手可能である。配置決定は、選択された標的へと注射デバイスをガイドするのを助けるために、被験体の脳のCTおよび/またはMRI画像化によって取得された解剖学的マップを使用することによっても実施され得る。さらに、本明細書に記載される方法は、脳の比較的大きいエリアがウイルスベクターを取り込むように実施され得るので、必要とされる注入カニューレは、より少ない。手術合併症は、貫通の数に関連するので、本明細書に記載される方法は、従来の送達技術で見られる副作用を低減させるようにも機能する。
【0052】
一実施形態では、医薬組成物は、目的のsiRNAの治療有効量、即ち、問題の疾患状態の症状を低減もしくは寛解させるのに十分な量、または所望の利益を付与するのに十分な量を産生するのに十分な遺伝子材料を含む。これらの医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤もまた含み得る。かかる賦形剤には、組成物を受けている個体にとって害になる抗体の産生をそれ自体は誘導せず、過度の毒性なしに投与され得る、任意の薬学的薬剤が含まれる。薬学的に許容される賦形剤には、ソルビトール、Tween80、ならびに液体、例えば、水、食塩水、グリセロールおよびエタノールが含まれるがこれらに限定されない。その中で、薬学的に許容される塩には、例えば、鉱酸塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩など;および有機酸の塩、例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩などが含まれ得る。さらに、補助的物質、例えば、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝化物質などが、かかるビヒクル中に存在し得る。薬学的に許容される賦形剤の詳細な論述は、REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES(Mack Pub. Co.、N.J. 1991年)において入手可能である。
【0053】
本明細書の教示を考慮して当業者に明らかなように、添加される必要があるウイルスベクターの有効量は、実験的に決定され得る。投与は、1つの用量で、処置の過程を通じて持続的にまたは間欠的に、もたらされ得る。投与の最も有効な手段および投薬量を決定する方法は、当業者に周知であり、ウイルスベクター、治療の組成物、標的細胞、および処置されている被験体によって変動する。単一および複数回の投与が、処置を行う医師によって選択される用量レベルおよびパターンで実施され得る。
【0054】
1よりも多い導入遺伝子が、送達されたウイルスベクターによって発現され得ることを理解すべきである。あるいは、各々1または複数の異なる導入遺伝子を発現する別々のベクターもまた、本明細書に記載されるようにCNSに送達され得る。さらに、本発明の方法によって送達されるウイルスベクターは、他の適切な組成物および治療と組み合わされることもまた、意図される。
【0055】
本発明は、医学的処置または診断における使用のための、本明細書に記載されるmiRNAもしくはshRNA、発現カセットおよび/またはベクターをさらに提供する。
【0056】
本発明は、動物において、RNAiに従順な条件を処置するために有用な、例えば、ハンチントン病を処置するために有用な医薬を調製するための、本明細書に記載されるmiRNAもしくはshRNA、発現カセットおよび/またはベクターの使用を提供する。
【0057】
本発明は、治療における使用のための、本発明の核酸、発現カセット、ベクターまたは組成物もまた提供する。
【0058】
本発明は、ハンチントン病を処置するための、例えば、ハンチントン病の予防的処置または治療的処置における使用のための、本発明の核酸、発現カセット、ベクターまたは組成物もまた提供する。
【0059】
ある特定の実施形態では、薬剤が被験体の脳に投与される。ある特定の実施形態では、この薬剤は、直接または血流を介して脳に投与される。ある特定の実施形態では、この治療剤は、頭蓋内投与される。ある特定の実施形態では、この治療剤は、被験体の大槽、線条体、皮質もしくは室、くも膜下腔(subarachnoid space)および/または髄腔内(intrathecal space)に投与される。ある特定の実施形態では、この被験体はヒトである。ある特定の実施形態では、この被験体は、非ヒト哺乳動物である。ある特定の実施形態では、この薬剤は、脳中の1〜5つの場所において、例えば、脳中の1、2または3つの場所において、注射される。ある特定の実施形態では、この方法は、rAAVを、非ヒト霊長類の脳室、くも膜下腔および/または髄腔内にさらに投与することをさらに含む。より具体的には、本発明は、核酸を、循環CSFと接触した細胞、例えば、上衣細胞、軟膜細胞、髄膜細胞、脳内皮細胞に送達する方法を提供し、この方法は、AAV逆位末端リピートの対間に挿入された核酸を含むベクターを含むAAV粒子を細胞に投与することを含み、それによって、核酸を細胞に送達する。
【0060】
本発明は、ハンチントン病を処置するために、細胞を、本明細書に記載される核酸、発現カセット、ベクターまたは二重鎖と接触させる方法もまた提供し、この細胞は、上衣、軟膜、内皮、脳室および/または髄膜細胞である。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
位置の順で、5’−隣接領域、非ガイド領域、ループ領域、ガイド領域および3’−隣接領域からなる人工一次miRNA転写産物(pri−miRNA)をコードする核酸であって、前記ガイド領域は、配列番号37(miHDss3)、配列番号6(miHDS1v5U)または配列番号7(miHDS1v6A)からなり、前記非ガイド領域は、前記ガイド領域に対して少なくとも80%相補的である、核酸。
(項目2)
前記5’−隣接領域が、前記非ガイド領域と接して連結され、前記ループ領域が、前記非ガイド領域と前記ガイド領域との間に配置され、前記ガイド領域が、前記3’−隣接領域と接して連結される、項目1に記載の核酸。
(項目3)
前記5’−隣接領域が、前記非ガイド領域と接して連結された5’−連結配列を含む、項目1または2に記載の核酸。
(項目4)
前記5’−連結配列が、5〜8ヌクレオチドからなる、項目3に記載の核酸。
(項目5)
前記5’−連結配列が、7ヌクレオチドからなる、項目4に記載の核酸。
(項目6)
前記5’−連結配列が、GUGAGCGA(配列番号13)またはGUGAGCGC(配列番号14)をコードする、項目3に記載の核酸。
(項目7)
前記5’−隣接領域が、前記5’−連結配列の上流に配置された5’−バルジ配列をさらに含む、項目3から6のいずれか一項に記載の核酸。
(項目8)
前記5’−バルジ配列が、クローニング部位を含む、項目7に記載の核酸。
(項目9)
前記5’−バルジ配列が、約1〜10ヌクレオチドからなる、項目7に記載の核酸。
(項目10)
前記5’−バルジ配列が、UAAACUCGA(配列番号15)をコードする、項目7に記載の核酸。
(項目11)
前記5’−隣接領域が、前記5’−バルジ配列の上流に配置された5’−スペーサー配列をさらに含む、項目7から10のいずれか一項に記載の核酸。
(項目12)
前記5’−スペーサー配列が、10〜12ヌクレオチドからなる、項目11に記載の核酸。
(項目13)
前記5’−スペーサー配列が、UGGUACCGUU(配列番号16)をコードする、項目11に記載の核酸。
(項目14)
前記5’−隣接領域が、前記5’−スペーサー配列の上流に配置された5’−上流配列をさらに含む、項目11から13のいずれか一項に記載の核酸。
(項目15)
前記5’−上流配列が、長さが約30〜2000ヌクレオチドである、項目14に記載の核酸。
(項目16)
前記3’−隣接領域が、前記ガイド領域と接して連結された3’−連結配列を含む、項目1から15のいずれか一項に記載の核酸。
(項目17)
前記3’−連結配列が、5〜8ヌクレオチドからなる、項目16に記載の核酸。
(項目18)
前記3’−連結配列が、前記5’−連結配列に対して少なくとも約85%相補的である、項目16に記載の核酸。
(項目19)
前記3’−連結配列が、CGCCUAC(配列番号18)をコードする、項目16に記載の核酸。
(項目20)
前記3’−隣接領域が、前記3’−連結配列の下流に配置された3’−バルジ配列をさらに含む、項目16から19のいずれか一項に記載の核酸。
(項目21)
前記3’−バルジ配列が、クローニング部位を含む、項目20に記載の核酸。
(項目22)
前記3’−バルジ配列が、約1〜10ヌクレオチドからなる、項目20に記載の核酸。
(項目23)
3’−バルジ配列が、UAG(配列番号30)をコードする、項目20に記載の核酸。
(項目24)
前記5’−バルジ配列が、前記バルジ配列の各末端の1ヌクレオチドのみにおいて、前記3’−バルジ配列に対して相補的である、項目20に記載の核酸。
(項目25)
前記3’−隣接領域が、前記3’−バルジ配列の下流に配置された3’−スペーサー配列をさらに含む、項目20から24のいずれか一項に記載の核酸。
(項目26)
前記3’−スペーサー配列が、10〜12ヌクレオチドからなる、項目25に記載の核酸。
(項目27)
前記3’−スペーサー配列が、AGCGGCCGCCA(配列番号19)をコードする、項目25に記載の核酸。
(項目28)
前記3’−スペーサー配列が、前記5’−スペーサー配列に対して少なくとも約70%相補的である、項目25から27のいずれか一項に記載の核酸。
(項目29)
前記3’−隣接領域が、前記3’−スペーサー配列の下流に配置された3’−下流配列をさらに含む、項目25から28のいずれか一項に記載の核酸。
(項目30)
前記5’−上流配列が、前記3’−下流配列と顕著には対合しない、項目29に記載の核酸。
(項目31)
前記3’−下流配列は、長さが約30〜2000ヌクレオチドである、項目29または30に記載の核酸。
(項目32)
前記ループ領域は、長さが15〜25ヌクレオチドである、項目1から31のいずれか一項に記載の核酸。
(項目33)
項目1から32のいずれか一項に記載の核酸によってコードされるRNA。
(項目34)
項目1から32のいずれか一項に記載の単離された核酸をコードする発現カセット。
(項目35)
前記核酸と接して連結されたプロモーターをさらに含む、項目34に記載の発現カセット。
(項目36)
前記プロモーターが、polIIまたはpolIIIプロモーターである、項目35に記載の発現カセット。
(項目37)
前記polIIIプロモーターが、U6プロモーターである、項目36に記載の発現カセット。
(項目38)
前記polIIIプロモーターが、マウスU6プロモーターである、項目36に記載の発現カセット。
(項目39)
前記プロモーターが、polIIプロモーターである、項目36に記載の発現カセット。
(項目40)
前記プロモーターが、組織特異的プロモーターである、項目35に記載の発現カセット。
(項目41)
前記プロモーターが、誘導性プロモーターである、項目35に記載の発現カセット。
(項目42)
マーカー遺伝子をさらに含む、項目35から41のいずれか一項に記載の発現カセット。
(項目43)
項目34から42のいずれか一項に記載の発現カセットを含むベクター。
(項目44)
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、項目43に記載のベクター。
(項目45)
前記AAVが、AAV1、AAV2、AAV5、AAV6および/またはAAV9である、項目44に記載のベクター。
(項目46)
前記AAVがAAV2である、項目45に記載のベクター。
(項目47)
前記AAVがAAV2/1である、項目45に記載のベクター。
(項目48)
位置の順で、5’−隣接領域、非ガイド領域、ループ領域、ガイド領域および3’−隣接領域からなる人工一次miRNA転写産物(pri−miRNA)をコードする核酸を含む、長さが80〜4000ヌクレオチドの間の単離された核酸であって、前記ガイド領域は、配列番号37(miHDss3)、配列番号6(miHDS1v5U)または配列番号7(miHDS1v6A)からなり、前記非ガイド領域は、前記ガイド領域に対して少なくとも80%相補的である、単離された核酸。
(項目49)
Pri−miHDS1v5U(配列番号8)、Pri−miHDS1v6A(配列番号9)、Pre−miHDS1v5U(配列番号10)またはPre−miHDS1v6A(配列番号11)からなる、単離された核酸。
(項目50)
核酸のガイド領域および核酸の非ガイド領域を含む、単離されたRNA二重鎖であって、前記ガイド領域は、配列番号37(miHDss3)、配列番号6(miHDS1v5U)または配列番号7(miHDS1v6A)からなり、前記非ガイド領域は、前記ガイド領域に対して少なくとも80%相補的である、単離されたRNA二重鎖。
(項目51)
前記二重鎖は、長さが19〜30塩基対の間にある、項目44に記載の単離されたRNA二重鎖。
(項目52)
項目1から33もしくは48から49のいずれか一項に記載の核酸、項目34から42のいずれか一項に記載の発現カセット、項目43から47のいずれか一項に記載のベクター、または項目50から51のいずれか一項に記載の二重鎖を含む非ヒト動物。
(項目53)
項目1から33もしくは48から49のいずれか一項に記載の核酸、項目34から42のいずれか一項に記載の発現カセット、項目43から47のいずれか一項に記載のベクター、または項目50から51のいずれか一項に記載の二重鎖の有効量を被験体に投与することを含む、RNA干渉を誘導する方法。
(項目54)
治療における使用のための、項目1から33もしくは48から49のいずれか一項に記載の核酸、項目34から42のいずれか一項に記載の発現カセット、項目43から47に記載のベクター、または項目50から51のいずれか一項に記載の二重鎖。
(項目55)
ハンチントン病を処置するための、項目1から33もしくは48から49のいずれか一項に記載の核酸、項目34から42のいずれか一項に記載の発現カセット、項目43から47に記載のベクター、または項目50から51のいずれか一項に記載の二重鎖の使用。
(項目56)
3’末端においてオーバーハングを有する項目1に記載の核酸を含む、単離されたマイクロRNA分子。
(項目57)
前記オーバーハングが、2〜5ヌクレオチドのリピートである、項目56に記載の単離されたマイクロRNA分子。
(項目58)
前記マイクロRNAが、天然に存在するマイクロRNAである、項目56または57に記載の単離されたマイクロRNA分子。
(項目59)
前記マイクロRNAが、人工マイクロRNAである、項目56または57に記載の単離されたマイクロRNA分子。
(項目60)
前記マイクロRNA分子が、減少したレベルのオフターゲット毒性を生じる、項目56から59のいずれか一項に記載の単離されたマイクロRNA。
(項目61)
前記オーバーハングが、UU(配列番号24)、UUU(配列番号25)またはUUUU(配列番号26)配列である、項目56に記載の単離されたマイクロRNA。
(項目62)
前記オーバーハングが、CUU(配列番号27)、CUUU(配列番号28)またはCUUUU(配列番号29)配列である、項目56に記載の単離されたマイクロRNA。
(項目63)
項目1から33もしくは48から49のいずれか一項に記載の核酸、項目34から42のいずれか一項に記載の発現カセット、項目43から47のいずれか一項に記載のベクター、または項目50から51のいずれか一項に記載の二重鎖を被験体に投与することを含む、低毒性RNA干渉を誘導する方法。
(項目64)
前記発現カセットが、polIIプロモーターを含む、項目63に記載の方法。
(項目65)
miRNAをコードする核酸に作動可能に連結したpolIIプロモーターをコードする項目35に記載の発現カセットを被験体に投与することを含む、低毒性RNA干渉を誘導する方法。
(項目66)
前記miRNAが、2または3ヌクレオチドの5’または3’−オーバーハングを含む、項目65に記載の方法。
(項目67)
前記miRNAが、2ヌクレオチドの3’−オーバーハングを含む、項目65または66に記載の方法。
(項目68)
前記miRNAが人工miRNAである、項目65から67のいずれか一項に記載の方法。
(項目69)
ハンチントン病を有する被験体を処置する方法であって、前記ハンチントン病を処置するために、項目1から33もしくは48から49のいずれか一項に記載の核酸、項目34から42のいずれか一項に記載の発現カセット、項目43から47のいずれか一項に記載のベクター、または項目50から51のいずれか一項に記載の二重鎖を前記被験体に投与することを含む、方法。
(項目70)
前記治療剤が、直接または血流を介して前記被験体の脳に投与される、項目53または63から69のいずれか一項に記載の方法。
(項目71)
前記治療剤が、頭蓋内投与される、項目70に記載の方法。
(項目72)
前記治療剤が、前記被験体の大槽、線条体、皮質もしくは室、くも膜下腔および/または髄腔内に投与される、項目71に記載の方法。
(項目73)
前記被験体がヒトである、項目70から72のいずれか一項に記載の方法。
(項目74)
前記薬剤が、CNS中の1〜5つの場所において注射される、項目70から73のいずれか一項に記載の方法。
(項目75)
前記薬剤が、脳中の単一の場所において注射される、項目70から73のいずれか一項に記載の方法。
(項目76)
ハンチントン病を処置するために、細胞を、項目1から33もしくは48から49のいずれか一項に記載の核酸、項目34から42のいずれか一項に記載の発現カセット、項目43から47のいずれか一項に記載のベクター、または項目50から51のいずれか一項に記載の二重鎖と接触させる方法であって、前記細胞が、上衣、軟膜、内皮、脳室および/または髄膜細胞である、方法。
【発明を実施するための形態】
【0062】
(発明の詳細な説明)
RNA干渉(RNAi)は、低分子dsRNAによって媒介される遺伝子調節のプロセスである。RNAiは、遺伝子機能を研究するための一般的な生物学的ツールとして使用され、種々の疾患を処置するための治療剤として調査されている。RNAiの送達または発現は、外因性siRNAの投与を介して(一過的遺伝子サイレンシング)またはステム−ループRNAを発現するベクターの投与を介して(持続的遺伝子サイレンシング)であり得る。RNAiの絶対的特異性は、疑問の余地がある。取り組むべき問題には、dsRNA(IFN−b、PKR、OAS1)に対する細胞応答、およびRNAiマシナリーの飽和に起因する、または意図しないmRNAとの部分的相補性を介した、オフターゲット効果が含まれる。RNAiベクターを最適化し、組織特異的かつ調節された発現戦略を潜在的に開発することが現在必要とされている。
【0063】
治療剤としてのRNAiの使用は、以下を含むいくつかの因子の解明に依存する:i)標的遺伝子配列の有効なサイレンシングのためのRNAi構築物の送達および持続;ii)標的配列の有効なノックダウンまたは遺伝子抑制を達成するためのsiRNAの設計、ならびにiii)治療的siRNAの送達のための最適なsiRNA発現系(shRNAまたはmiRNA)。多くの研究が、多くの臨床状態および疾患状態、例えばハンチントン病について、化学的に合成されたオリゴヌクレオチド構造として送達されるRNAiの使用を評価してきたが、治療的利益を達成するために、発現されたsiRNAの内因性産生によって達成されるような、治療的siRNAの長期にわたるおよびまたは持続的な高レベル発現が必要とされると考えられる。今日まで、shRNAベースのおよび人工miRNAベースの戦略が、矛盾する結果を伴って比較されてきた。発現されたRNAiの治療的有用性は、dsRNA(IFN−b、PKR、OAS1)に対する細胞応答、RNAiマシナリーの飽和、または意図しないmRNAとの部分的相補性を介したオフターゲットのサイレンシングから生じる、オフターゲット毒性の結果としての安全性の懸念に起因して、未解決である。したがって、安全かつ有効な発現されたRNAiベクターを最適化することが現在必要とされている。
【0064】
shRNAは、5’隣接領域、siRNA領域セグメント、ループ領域、3’siRNA領域および3’隣接領域を含むように設計されたステム−ループ構造から構成される。ほとんどのRNAi発現戦略は、強いpolIIIベースのプロモーターによって駆動される短鎖ヘアピンRNA(shRNA)を利用してきた。多くのshRNAは、in vitroならびにin vivoでの標的配列の有効なノックダウンを実証しているが、標的遺伝子の有効なノックダウンを実証した一部のshRNAは、in vivoで毒性を有することもまた見出された。最近発見された代替的アプローチは、RNAiベクターとしての人工miRNA(siRNA配列をシャトリングするpri−miRNA足場)の使用である。人工miRNAは、より天然に、内因性RNAi基質と似ており、Pol−II転写(例えば、RNAiの組織特異的発現を可能にする)およびポリシストロニック戦略(例えば、複数のsiRNA配列の送達を可能にする)により従順である。今日まで、shRNAと比較したmiRNAベースのベクター系の効力は、矛盾する結果によって混乱されてきた。重要なことに、2つの系によって生じるオフターゲット毒性の問題は、評価されていない。
【0065】
発現されたsiRNAの開発のための重要な検討事項は、発現されたsiRNA構築物を宿主細胞に「投薬する」という概念である。本発明の文脈において、発現されたsiRNAについて「投薬する」とは、送達ビヒクル(例えば、ウイルス性または非ウイルス性)、送達ビヒクルの相対的な量または濃度、ならびにsiRNA配列の発現を駆動するために利用されるプロモーターの強度および特異性を指し、それらに依存し得る。
【0066】
本発明者らは、これらの低分子干渉RNA(siRNA)配列をシャトリングするように機能する天然に存在するヒトマイクロRNA 30配列またはmi30配列の改変内に、shRNA中に含まれるステムループ配列を取り込む、人工miRNAシャトルベクターを開発した。例えば、参照によって本明細書に組み込まれるPCT公開公報WO2008/150897を参照のこと。
【0067】
本発明者らは、ハンチントン病を処置するための、人工miRNA、pri−miRNA、pre−miRNA、発現ベクター、二重鎖および方法を開発した。例えば、参照によって本明細書に組み込まれるPCT公開公報WO2012/109667を参照のこと。
【0068】
RNAiのためのマイクロRNAシャトル
miRNAは、前駆体ステムループ転写産物からプロセシングされた低分子細胞性RNA(約22nt)である。公知のmiRNAステムループは、目的の遺伝子に対して特異的なRNAi配列を含むように改変され得る。miRNAは、内因的に発現されるので、miRNA分子は、shRNA分子よりも好まれ得る。したがって、miRNA分子は、dsRNA応答性インターフェロン経路を誘導する可能性が低く、shRNAよりも効率的にプロセシングされ、80%より有効にサイレンシングすることが示されている。
【0069】
また、プロモーターの役割は、shRNA分子と比較して、miRNA分子について異なっている。shRNAの組織特異的な誘導性の発現は、転写開始部位までのpolIIプロモーターのトランケーションを含む。対照的に、miRNAは、任意のpolIIプロモーターから発現され得るが、それは、転写開始および停止部位が、比較的任意であり得るからである。
【0070】
ハンチントン病の処置
脊髄小脳失調症1型(SCA1)およびハンチントン病(HD)を含む、優性なポリグルタミン伸長疾患は、進行性の処置不能な神経変性障害である。誘導性マウスモデルHDでは、変異体対立遺伝子発現の抑圧は、疾患表現型を改善する。したがって、疾患遺伝子発現を阻害するように設計された治療は、有益である。本発明は、ハンチントン病を処置するためにRNAiをin vivoで使用する方法を提供する。「処置する」とは、本明細書で使用する場合、疾患もしくは状態の少なくとも1つの症状を寛解すること、疾患もしくは状態を治癒すること、および/または疾患もしくは状態の発生を予防することを指す。
【0071】
本発明のある特定の実施形態では、RNAi分子は、標的遺伝子の発現を阻害するために使用される。「発現を阻害する」とは、標的遺伝子の発現を低減、減退または抑制することを意味する。標的遺伝子の発現は、「遺伝子サイレンシング」を介して阻害され得る。遺伝子サイレンシングとは、転写に影響を与えるプロセスおよび/または転写後機構に影響を与えるプロセスを介して媒介され得る、遺伝子発現、例えば、導入遺伝子、異種遺伝子および/または内因性遺伝子の発現の抑制を指す。一部の実施形態では、遺伝子サイレンシングは、RNAi分子が、RNA干渉を介して配列特異的様式で目的の遺伝子から転写されるmRNAの阻害または分解を開始する場合に生じ、それによって、遺伝子の産物の翻訳を防止する。
【0072】
本明細書で、siRNAに対する言及は、例えばRNA干渉を介して、標的化された遺伝子、例えばHD遺伝子の発現をモジュレートできる、またはモジュレートすることが可能な、shRNAおよび他の低分子RNAを含むことを意味する。かかる低分子RNAには、shRNAおよびmiroRNA(miRNA)が含まれるがこれらに限定されない。
【0073】
RNAiを介して、標的化された遺伝子の実質的なサイレンシングを生じる戦略が、本明細書に開示される。この戦略の使用は、標的化された遺伝子のin vitroおよびin vivoでの発現を顕著に減退させる。この戦略は、生物学的プロセスをモデル化するため、またはヒト疾患に対する治療を提供するために、標的化された遺伝子の発現を低減させる際に有用である。例えば、この戦略は、ハンチントン病に適用され得る。本明細書で使用する場合、用語「実質的なサイレンシング」とは、標的化された遺伝子のmRNAが、導入されたsiRNAの存在によって阻害および/または分解され、その結果、標的化された遺伝子の発現が、siRNAが存在しない場合に見られる発現のレベルと比較して、約10%〜100%低減されることを意味する。一般に、遺伝子が実質的にサイレンシングされる場合、それは、siRNAが存在しない場合と比較して、少なくとも40%、50%、60%、〜70%、例えば、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、〜79%、一般には少なくとも80%、例えば、81%〜84%、少なくとも85%、例えば、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはさらには100%の発現の低減を有する。本明細書で使用する場合、用語「実質的に正常な活性」とは、siRNAが細胞に導入されていない場合の遺伝子の発現のレベルを意味する。
【0074】
ハンチントン病(HD)は、siRNAベースの治療のための強力な候補である。HDは、疾患タンパク質中のポリQをコードするCAGリピート伸長によって引き起こされる。ポリQ伸長は、変異体タンパク質に、ニューロンにおける疾患タンパク質の異常な蓄積と関連する優性な毒性特性を付与する。HDは、典型的には成人期に始まる、進行性の、最終的には致死的な障害である。CAGリピート/ポリQドメインの伸長は、コードされたタンパク質に、優性な毒性特性を付与する。したがって、治療戦略として、細胞死の前に変異体遺伝子産物の発現を低下させる試みが、患者にとって高度に有益であり得る。
【0075】
RNA干渉(RNAi)分子
「RNA干渉」、「RNAi」、「低分子干渉RNA」または「短鎖干渉RNA」または「siRNA」または「短鎖ヘアピンRNA」または「shRNA」分子または「miRNA」は、目的の核酸配列、例えば、ハンチンチン(htt)に対して標的化される、ヌクレオチドのRNA二重鎖である。本明細書で使用する場合、用語「siRNA」は、shRNAおよびmiRNAのサブセットを包含する一般的用語である。「RNA二重鎖」とは、1つのRNA分子の2つの領域間の相補的対合によって形成される構造を指す。siRNAは、siRNAの二重鎖部分のヌクレオチド配列が、標的化された遺伝子のヌクレオチド配列に対して相補的であるという点で、遺伝子に「標的化」される。ある特定の実施形態では、このsiRNAは、アタキシン−1またはハンチンチンをコードする配列に標的化される。一部の実施形態では、siRNAの二重鎖の長さは、30塩基対未満である。一部の実施形態では、この二重鎖は、長さが29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11または10塩基対であり得る。一部の実施形態では、二重鎖の長さは、長さが19〜25塩基対である。ある特定の一実施形態では、二重鎖の長さは、長さが19または21塩基対である。siRNAのRNA二重鎖部分は、ヘアピン構造の一部であり得る。この二重鎖部分に加えて、このヘアピン構造は、二重鎖を形成する2つの配列間に配置されたループ部分を含み得る。このループは、長さが変動し得る。一部の実施形態では、このループは、長さが5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24または25ヌクレオチドである。ある特定の実施形態では、このループは、長さが18ヌクレオチドである。このヘアピン構造は、3’および/または5’オーバーハング部分もまた含み得る。一部の実施形態では、このオーバーハングは、長さが0、1、2、3、4または5ヌクレオチドの3’および/または5’オーバーハングである。
【0076】
「shRNA」の転写単位は、対合していないヌクレオチドのループによって結びつけられたセンス配列およびアンチセンス配列から構成される。shRNAは、エキスポーチン−5によって核からエキスポートされ、一旦細胞質中に入ると、Dicerによってプロセシングされて機能的siRNAを生成する。「miRNA」ステム−ループは、Drosha−DGCR8複合体によって切り出されてpre−miRNAとして公知の中間体を生成し、エキスポーチン−5によって引き続いて核からエキスポートされ、一旦細胞質中に入ると、Dicerによってプロセシングされて機能的siRNAを生成する、より大きい一次転写産物(pri−miRNA)の一部として典型的には発現される対合していないヌクレオチドのループによって結びつけられたセンス配列およびアンチセンス配列から構成される。「人工miRNA」または「人工miRNAシャトルベクター」とは、本明細書で相互交換可能に使用する場合、有効なDroshaプロセシングに必要なステムループ内の構造的エレメントを保持しつつ、標的遺伝子に対するsiRNA配列で置き換えられた、DroshaおよびDicerプロセシングを介して切り出される二重鎖ステムループ(少なくとも約9〜20ヌクレオチド)の領域を有している一次miRNA転写産物を指す。用語「人工」は、隣接配列(約35ヌクレオチド上流および約40ヌクレオチド下流)が、siRNAのマルチクローニング部位内の制限酵素部位から生じるという事実から生じる。本明細書で使用する場合、用語「miRNA」は、天然に存在するmiRNA配列ならびに人工的に生成されたmiRNAシャトルベクターの両方を包含する。
【0077】
このsiRNAは、核酸配列によってコードされ得、この核酸配列は、プロモーターもまた含み得る。この核酸配列は、ポリアデニル化シグナルもまた含み得る。一部の実施形態では、このポリアデニル化シグナルは、合成の最小ポリアデニル化シグナルまたは6Tの配列である。
【0078】
「オフターゲット毒性」とは、siRNAを発現するまたは含む宿主細胞の、有害な、望ましくないまたは意図しない表現型変化を指す。オフターゲット毒性は、望ましい機能の喪失、望まれない機能の獲得、またはさらには細胞レベルもしくは生物レベルでの死を生じ得る。オフターゲット毒性は、siRNAの発現の際に即座に生じ得るか、または経時的に徐々に生じ得る。オフターゲット毒性は、siRNAの発現の直接的結果として生じ得るか、またはsiRNAを発現する細胞に対する宿主免疫応答の誘導の結果として生じ得る。理論によって束縛されることは望まないが、オフターゲット毒性は、細胞内の高レベルのまたは過多のRNAi基質から生じると推論される。これらの過多のまたは過剰発現された、pre−またはpri RNAi基質ならびに過多の成熟アンチセンス−RNAが含まれるがこれらに限定されないRNAi基質は、内因性RNAiマシナリーについて競合し得、こうして、天然のmiRNAのバイオジェネシスおよび機能を破壊する。オフターゲット毒性は、配列の部分的相補性に起因した意図しないmRNA(即ち、オフターゲット)のサイレンシングの増加した可能性からも生じ得る。オフターゲット毒性は、RNAiの標的化された領域またはガイド領域を超える、非ガイド領域の優先的なローディングが存在するような、非ガイド領域の適切でない鎖偏向からも生じ得る。オフターゲット毒性は、dsRNA(IFN−b、PKR、OAS1)を含むdsRNAに対する細胞応答の刺激からも生じ得る。「減少されたオフターゲット毒性」とは、改善された寿命もしくは生活の質、またはsiRNAによって標的化されている疾患もしくは状態の改善された徴候もしくは症状によって測定されるように、毒性が限定的または有害であるというよりも、治療効果が宿主にとってより有益であるような、オフターゲット毒性における減少、低減、抑止または減弱を指す。「限定されたオフターゲット毒性」または「低いオフターゲット毒性」は、検出可能であってもなくても、siRNAで処置された宿主にとっての治療的利益を妨げることも、それに勝ることも、それを限定することもない、治療の「副作用」とみなされ得る、細胞または生物に対する意図しない望ましくない表現型変化を指すために使用される。減少されたまたは限定されたオフターゲット毒性は、等価なshRNAベクターを本発明のmiRNAシャトルベクターと比較する、siRNA基質またはin vivo効果のレベルについてのin vitro分析、例えば、ノーザンブロットまたはQPCRを比較することによって、決定または推論され得る。
【0079】
「ノックダウン」、「ノックダウンテクノロジー」とは、標的遺伝子産物の産生の阻害をもたらし得る、標的遺伝子の発現がsiRNAの導入前の遺伝子発現と比較して低減される、遺伝子サイレンシングの技術を指す。用語「低減される」は、標的遺伝子発現が1〜100%低下されることを示すために、本明細書で使用される。言い換えると、ポリペプチドまたはタンパク質への翻訳に利用可能なRNAの量が、最小化される。例えば、タンパク質の量は、10、20、30、40、50、60、70、80、90、95または99%低減され得る。一部の実施形態では、発現は、約90%低減される(即ち、タンパク質の量の約10%のみが、siRNA分子が投与されていない細胞と比較してある細胞において観察される)。遺伝子発現のノックダウンは、dsRNAまたはsiRNAの使用によって指示され得る。
【0080】
「RNA干渉(RNAi)」は、siRNAによって開始される配列特異的な転写後遺伝子サイレンシングのプロセスである。RNAiの間に、siRNAは、遺伝子発現の、結果としての配列特異的阻害と共に、標的mRNAの分解を誘導する。
【0081】
本発明の方法によれば、ハンチンチンの発現は、RNAiを介して改変され得る。例えば、ハンチンチンの蓄積は、細胞において抑制され得る。用語「抑制する」とは、特定の細胞中に存在する転写産物の数または量における減退、低減または排除を指す。例えば、ハンチンチンをコードするmRNAの蓄積は、RNA干渉(RNAi)によって細胞において抑制され得、例えば、この遺伝子は、短鎖干渉RNA(siRNA)とも呼ばれる配列特異的二本鎖RNA(dsRNA)によってサイレンシングされる。これらのsiRNAは、一緒にハイブリダイズした2つの別々のRNA分子であり得るか、または単一のヘアピンであり得、ここで、1つのRNA分子の2つの部分は、一緒にハイブリダイズして二重鎖を形成している。
【0082】
変異体タンパク質とは、ハンチンチン中に変異、例えば、ミスセンスまたはナンセンス変異を有する遺伝子によってコードされるタンパク質を指す。変異体ハンチンチンは、疾患原因性であり得る、即ち、1つまたは2つのいずれかの変異体対立遺伝子(複数可)を有する動物において、ハンチンチンの存在と関連する疾患をもたらし得る。
【0083】
用語「遺伝子」は、生物学的機能と関連する核酸の任意のセグメントを指すために広く使用される。したがって、遺伝子は、コード配列および/またはそれらの発現に必要とされる調節配列を含む。例えば、「遺伝子」とは、調節配列を含む、mRNA、機能的RNAまたは特定のタンパク質を発現する核酸断片を指す。「遺伝子」は、例えば、他のタンパク質に対する認識配列を形成する、発現されないDNAセグメントもまた含む。「遺伝子」は、目的の供給源からクローニングすることまたは既知のもしくは予測された配列情報から合成することを含め、種々の供給源から取得され得、所望のパラメーターを有するように設計された配列を含み得る。「対立遺伝子」は、染色体上の所与の遺伝子座を占める遺伝子のいくつかの代替的形態のうちの1つである。
【0084】
用語「核酸」とは、糖、リン酸およびプリンまたはピリミジンのいずれかである塩基を含むモノマー(ヌクレオチド)から構成される、一本鎖または二本鎖のいずれかの形態の、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)およびそれらのポリマーを指す。特に限定しない限り、この用語は、参照核酸と類似の結合特性を有し、天然に存在するヌクレオチドと類似の様式で代謝される、天然のヌクレオチドの公知のアナログを含む核酸を包含する。特記しない限り、特定の核酸配列は、その保存的に改変されたバリアント(例えば、縮重コドン置換)および相補的配列、ならびに明確に示された配列もまた包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1もしくは複数の選択された(または全ての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/もしくはデオキシイノシン残基で置換された配列を生成することによって、達成され得る。「核酸断片」は、所与の核酸分子の一部分である。
【0085】
「ヌクレオチド配列」は、DNAまたはRNAポリマー中への取込みが可能な、合成の、非天然のまたは変更されたヌクレオチド塩基を任意選択で含む、一本鎖または二本鎖であり得るDNAまたはRNAのポリマーである。
【0086】
用語「核酸」、「核酸分子」、「核酸断片」、「核酸配列またはセグメント」または「ポリヌクレオチド」は、相互交換可能に使用され、遺伝子、遺伝子によってコードされるcDNA、DNAおよびRNAとも、相互交換可能に使用され得る。
【0087】
本発明は、単離されたまたは実質的に精製された核酸分子およびかかる分子を含む組成物を包含する。本発明の文脈では、「単離された」または「精製された」DNA分子またはRNA分子は、そのネイティブ環境から離れて存在し、したがって天然の産物ではない、DNA分子またはRNA分子である。単離されたDNA分子もしくはRNA分子は、精製された形態で存在し得、または例えば、トランスジェニック宿主細胞などの非ネイティブ環境中に存在し得る。例えば、「単離された」または「精製された」核酸分子または生物学的に活性なその部分は、他の細胞性材料、もしくは組換え技術によって産生される場合には培養培地を実質的に含まない、または化学的に合成される場合には、化学物質前駆体もしくは他の化学物質を実質的に含まない。一実施形態では、「単離された」核酸は、その核酸が由来する生物のゲノムDNA中のその核酸に天然に隣接する配列(即ち、その核酸の5’および3’末端に位置する配列)を含まない。例えば、種々の実施形態では、この単離された核酸分子は、その核酸が由来する細胞のゲノムDNA中のその核酸分子に天然に隣接するヌクレオチド配列の、約5kb、4kb、3kb、2kb、1kb、0.5kbまたは0.1kb未満を含み得る。開示されたヌクレオチド配列の断片およびバリアントもまた、本発明によって包含される。「断片」または「部分」とは、全長または全長未満のヌクレオチド配列を意味する。
【0088】
「天然に存在する」、「ネイティブ」または「野生型」は、人工的に産生されるのではなく、天然に見出され得る物体を記載するために使用される。例えば、自然における供給源から単離され得る、および研究員によって故意に改変されていない、生物(ウイルスを含む)中に存在するタンパク質またはヌクレオチド配列は、天然に存在する。
【0089】
分子の「バリアント」は、ネイティブ分子の配列と実質的に類似した配列である。ヌクレオチド配列について、バリアントには、遺伝子コードの縮重に起因して、ネイティブタンパク質の同一のアミノ酸配列をコードする、配列が含まれる。これらのような、天然に存在する対立遺伝子バリアントは、分子生物学技術の使用によって、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)およびハイブリダイゼーション技術によって、同定され得る。バリアントヌクレオチド配列には、例えば、部位特異的変異誘発を使用することによって生成されたものなどの、ネイティブタンパク質をコードする、合成由来のヌクレオチド配列、ならびにアミノ酸置換を有するポリペプチドをコードするものもまた含まれる。一般に、本発明のヌクレオチド配列バリアントは、ネイティブ(内因性)ヌクレオチド配列に対して、少なくとも40%、50%、60%、〜70%、例えば、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、〜79%、一般には少なくとも80%、例えば、81%〜84%、少なくとも85%、例えば、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、〜98%の配列同一性を有する。
【0090】
「導入遺伝子」とは、形質転換によってゲノム中に導入された遺伝子を指す。導入遺伝子には、例えば、形質転換される特定の細胞のDNAに対して異種または相同のいずれかであるDNAが含まれる。さらに、導入遺伝子には、非ネイティブ生物中に挿入されたネイティブ遺伝子、またはキメラ遺伝子が含まれ得る。
【0091】
用語「内因性遺伝子」とは、生物のゲノム中のその天然の場所にあるネイティブ遺伝子を指す。
【0092】
用語「タンパク質」、「ペプチド」および「ポリペプチド」は、本明細書で相互交換可能に使用される。
【0093】
「野生型」とは、天然に見出される正常の遺伝子または生物を指す。
【0094】
「ゲノム」とは、生物の完全遺伝子材料を指す。
【0095】
「ベクター」は、とりわけ、自己伝播性もしくは可動性であってもなくてもよく、細胞ゲノム中への組込みによって原核生物宿主もしくは真核生物宿主のいずれかを形質転換でき、または染色体外に存在し得る(例えば、複製起点を有する自律複製性プラスミド)、二本鎖または一本鎖の線状または環状形態の、任意のウイルスベクター、ならびに任意のプラスミド、コスミド、ファージまたはバイナリーベクターを含むと定義される。
【0096】
「発現カセット」とは、本明細書で使用する場合、終結シグナルに作動可能に連結し得る目的のヌクレオチド配列に作動可能に連結したプロモーターを含み得る、適切な宿主細胞において特定のヌクレオチド配列の発現を指示することが可能な核酸配列を意味する。コード領域は、通常、目的の機能的RNA、例えばsiRNAをコードする。目的のヌクレオチド配列を含む発現カセットは、キメラであり得る。この発現カセットは、天然に存在するが、異種発現のために有用な組換え形態で取得されているものでもあり得る。この発現カセット中のヌクレオチド配列の発現は、構成的プロモーターの、または宿主細胞がある特定の刺激に曝露された場合にのみ転写を開始させる調節可能なプロモーターの制御下にあり得る。多細胞生物の場合、このプロモーターは、特定の組織もしくは臓器または発生段階に特異的でもあり得る。
【0097】
かかる発現カセットは、目的のヌクレオチド配列に連結された転写イニシエーション領域を含み得る。かかる発現カセットには、調節領域の転写調節下になるような目的の遺伝子の挿入のための複数の制限部位が提供される。この発現カセットは、選択可能なマーカー遺伝子をさらに含み得る。
【0098】
「コード配列」とは、特定のアミノ酸配列をコードするDNAまたはRNA配列を指す。これは、「中断されていないコード配列」、即ち、例えばcDNA中の、イントロンを欠くコード配列を構成し得、または適切なスプライスジャンクションによって境界された1もしくは複数のイントロンを含み得る。「イントロン」は、一次転写産物中に含まれるが、細胞内でのRNAの切断および再ライゲーションを介して除去されて、タンパク質へと翻訳され得る成熟mRNAを創出する、RNAの配列である。
【0099】
用語「オープンリーディングフレーム」(ORF)とは、コード配列の翻訳イニシエーションコドンと終結コドンとの間の配列を指す。用語「イニシエーションコドン」および「終結コドン」とは、タンパク質合成(mRNA翻訳)のイニシエーションおよび鎖終結をそれぞれ特定する、コード配列中の3つの隣接するヌクレオチドの単位(「コドン」)を指す。
【0100】
「機能的RNA」とは、センスRNA、アンチセンスRNA、リボザイムRNA、siRNA、または翻訳されない可能性があるが、少なくとも1つの細胞性プロセスに対する影響をなおも有する他のRNAを指す。
【0101】
用語「RNA転写産物」または「転写産物」とは、DNA配列のRNAポリメラーゼで触媒された転写から生じる産物を指す。RNA転写産物がDNA配列の完全な相補的コピーである場合、これは一次転写産物と呼ばれるか、またはこれは、一次転写産物の転写後プロセシングに由来するRNA配列であり得、成熟RNAと呼ばれる。「メッセンジャーRNA」(mRNA)とは、イントロンなしの、細胞によってタンパク質へと翻訳され得るRNAを指す。
【0102】
「cDNA」とは、mRNAに対して相補的でありそのmRNAに由来する、一本鎖または二本鎖のDNAを指す。
【0103】
「調節配列」は、コード配列の上流(5’非コード配列)、コード配列の内部、またはコード配列の下流(3’非コード配列)に位置し、関連するコード配列の転写、RNAプロセシングもしくは安定性、または翻訳に影響を与える、ヌクレオチド配列である。調節配列には、エンハンサー、プロモーター、翻訳リーダー配列、イントロンおよびポリアデニル化シグナル配列が含まれる。これらには、天然および合成の配列、ならびに合成および天然の配列の組合せであり得る配列が含まれる。本明細書で留意するように、用語「適切な調節配列」は、プロモーターに限定されない。しかし、本発明において有用ないくつかの適切な調節配列には、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、発生特異的プロモーター、調節可能なプロモーターおよびウイルスプロモーターが含まれるがこれらに限定されない。
【0104】
「5’非コード配列」とは、コード配列に対して5’側(上流)に位置するヌクレオチド配列を指す。これは、イニシエーションコドンの上流の完全にプロセシングされたmRNA中に存在し、mRNAへの一次転写産物のプロセシング、mRNA安定性または翻訳効率に影響を与え得る。
【0105】
「3’非コード配列」とは、コード配列に対して3’側(下流)に位置するヌクレオチド配列を指し、ポリアデニル化シグナル配列、およびmRNAプロセシングまたは遺伝子発現に影響を与えることが可能な調節シグナルをコードする他の配列が含まれ得る。このポリアデニル化シグナルは、通常、mRNA前駆体の3’末端へのポリアデニル酸トラクトの付加に影響を与えることによって特徴付けられる。
【0106】
用語「翻訳リーダー配列」とは、プロモーターと、RNAへと転写されるコード配列との間の遺伝子のDNA配列部分を指し、翻訳開始コドンの上流(5’側)の完全にプロセシングされたmRNA中に存在する。この翻訳リーダー配列は、mRNAへの一次転写産物のプロセシング、mRNA安定性または翻訳効率に影響を与え得る。
【0107】
用語「成熟」タンパク質とは、そのシグナルペプチドなしの、翻訳後プロセシングされたポリペプチドを指す。「前駆体」タンパク質とは、mRNAの翻訳の一次産物を指す。「シグナルペプチド」とは、前駆体ペプチドを形成するポリペプチドと併せて翻訳され、分泌経路へのその進入のために必要とされる、ポリペプチドのアミノ末端伸長を指す。用語「シグナル配列」とは、シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列を指す。
【0108】
「プロモーター」とは、RNAポリメラーゼおよび適切な転写のために必要とされる他の因子に対する認識を提供することによって、コード配列の発現を指示および/または制御する、通常はそのコード配列の上流(5’側)の、ヌクレオチド配列を指す。「プロモーター」には、TATA−ボックスから構成される短いDNA配列であるミニマルプロモーター、および調節エレメントが発現の制御のために付加される、転写イニシエーションの部位を特定するように機能する他の配列が含まれる。「プロモーター」とは、ミニマルプロモーター+コード配列または機能的RNAの発現を制御することが可能な調節エレメントを含むヌクレオチド配列もまた指す。この型のプロモーター配列は、近位およびより遠位の上流エレメントからなり、後者のエレメントは、エンハンサーと呼ばれる場合が多い。したがって、「エンハンサー」は、プロモーター活性を刺激でき、プロモーターの生得的エレメント、またはプロモーターのレベルもしくは組織特異性を増強するために挿入された異種エレメントであり得る、DNA配列である。これは、両方の配向(正常または反転した)で作動することが可能であり、プロモーターから上流または下流のいずれかに移動させた場合であっても機能することが可能である。エンハンサーおよび他の上流プロモーターエレメントの両方が、それらの効果を媒介する配列特異的DNA結合性タンパク質を結合する。プロモーターは、その全体がネイティブ遺伝子に由来し得る、または天然に見出される異なるプロモーター由来の異なるエレメントから構成され得る、またはさらには合成DNAセグメントから構成され得る。プロモーターは、生理学的条件または発生条件に応答した転写イニシエーションの有効性を制御するタンパク質因子の結合に関与するDNA配列もまた含み得る。本発明において使用され得るプロモーターの例には、マウスU6 RNAプロモーター、合成ヒトH1RNAプロモーター、SV40、CMV、RSV、RNAポリメラーゼIIおよびRNAポリメラーゼIIIプロモーターが含まれる。
【0109】
「イニシエーション部位」は、+1位としても規定される、転写された配列の一部である最初のヌクレオチド周辺の位置である。この部位に対して、遺伝子およびその制御領域の全ての他の配列が番号付けされる。下流配列(即ち、3’方向にあるさらなるタンパク質コード配列)は、正で表示され、上流配列(大部分は、5’方向にある制御領域の)は、負で表示される。
【0110】
プロモーターエレメント、特に、上流活性化の非存在下で不活性であるかまたは大きく低減されたプロモーター活性を有するTATAエレメントは、「ミニマルまたはコアプロモーター」と呼ばれる。適切な転写因子の存在下で、このミニマルプロモーターは、転写を可能にするように機能する。したがって、「ミニマルまたはコアプロモーター」は、転写イニシエーションに必要な全ての基本エレメント、例えば、TATAボックスおよび/またはイニシエーターのみからなる。
【0111】
「構成的発現」とは、構成的または調節されたプロモーターを使用した発現を指す。「条件的」および「調節された発現」とは、調節されたプロモーターによって制御される発現を指す。
【0112】
「作動可能に連結した」とは、配列のうちの1つの機能が別の配列によって影響を受けるような、単一の核酸断片上での核酸配列の関連を指す。例えば、コードするDNA配列の発現に調節DNA配列が影響を与える(即ち、コード配列または機能的RNAが、プロモーターの転写制御下にある)ように2つの配列が配置される場合、調節DNA配列は、RNAまたはポリペプチドをコードするDNA配列「に作動可能に連結した」またはそれ「と関連した」と言われる。コード配列は、センス配向またはアンチセンス配向で調節配列に作動可能に連結し得る。
【0113】
「発現」とは、細胞中での内因性遺伝子、異種遺伝子もしくは核酸セグメント、または導入遺伝子の転写および/または翻訳を指す。例えば、siRNA構築物の場合、発現とは、siRNAのみの転写を指し得る。さらに、発現とは、センス(mRNA)または機能的RNAの転写および安定な蓄積を指す。発現は、タンパク質の産生もまた指し得る。
【0114】
「変更されたレベル」とは、正常なまたは形質転換されていない細胞または生物のものとは異なる、トランスジェニック細胞または生物における発現のレベルを指す。
【0115】
「過剰発現」とは、正常なまたは形質転換されていない細胞または生物における発現のレベルを超える、トランスジェニック細胞または生物における発現のレベルを指す。
【0116】
「アンチセンス阻害」とは、内因性遺伝子または導入遺伝子からのタンパク質の発現を抑制することが可能なアンチセンスRNA転写産物の産生を指す。
【0117】
「転写停止断片」とは、転写を終結させることが可能な、ポリアデニル化シグナル配列などの1または複数の調節シグナルを含むヌクレオチド配列を指す。例には、ノパリンシンターゼ、およびリブロース二リン酸カルボキシラーゼの小サブユニットをコードする遺伝子の3’非調節領域が含まれる。
【0118】
「翻訳停止断片」とは、翻訳を終結させることが可能な、3つ全てのフレームでの1または複数の終結コドンなどの1または複数の調節シグナルを含むヌクレオチド配列を指す。コード配列の5’末端におけるイニシエーションコドンに隣接するまたはその近傍での翻訳停止断片の挿入は、翻訳を生じないまたは不適切な翻訳を生じる。部位特異的組換えによる翻訳停止断片の切り出しは、イニシエーションコドンを使用する適切な翻訳を妨害しないコード配列中の部位特異的配列を残す。
【0119】
用語「シス作用性配列」および「シス作用性エレメント」とは、それらの機能が、同じ分子上にそれらが存在することを必要とする、DNAまたはRNA配列を指す。レプリコン上のシス作用性配列の一例は、ウイルス複製起点である。
【0120】
用語「トランス作用性配列」および「トランス作用性エレメント」とは、それらの機能が、同じ分子上にそれらが存在することを必要としない、DNAまたはRNA配列を指す。
【0121】
「染色体に組み込まれた」とは、共有結合による宿主DNA中への外来遺伝子または核酸構築物の組込みを指す。遺伝子が「染色体に組み込まれ」ていない場合、それらは、「一過的に発現され」得る。遺伝子の一過的発現とは、宿主染色体中に組み込まれていないが、自律複製性プラスミドもしくは発現カセットの一部としての、例えば、またはウイルスなどの別の生物学的系の一部としての、独立して機能する遺伝子の発現を指す。
【0122】
以下の用語は、2またはそれ超の核酸またはポリヌクレオチド間の配列の関連性を記載するために使用される:(a)「参照配列」、(b)「比較ウインドウ」、(c)「配列同一性」、(d)「配列同一性の百分率」および(e)「実質的同一性」。
【0123】
(a)本明細書で使用する場合、「参照配列」は、配列比較のための基礎として使用される規定された配列である。参照配列は、例えば、全長cDNAもしくは遺伝子配列のセグメント、または完全cDNAもしくは遺伝子配列など、特定された配列のサブセットまたは全体であり得る。
【0124】
(b)本明細書で使用する場合、「比較ウインドウ」は、ポリヌクレオチド配列の連続している特定されたセグメントに言及し、ここで、比較ウインドウ中のポリヌクレオチド配列は、2つの配列の最適なアラインメントのために、参照配列(付加も欠失も含まない)と比較して、付加または欠失(即ち、ギャップ)を含み得る。一般に、この比較ウインドウは、長さが少なくとも20連続しているヌクレオチドであり、任意選択で、30、40、50、100またはそれ超であり得る。当業者は、ポリヌクレオチド配列中にギャップを含むことに起因した参照配列との高い類似性を回避するために、ギャップペナルティが典型的には導入され、マッチの数から差し引かれることを理解している。
【0125】
比較のための配列のアラインメントの方法は、当技術分野で周知である。したがって、任意の2つの配列間のパーセント同一性の決定は、数学アルゴリズムを使用して達成され得る。
【0126】
これらの数学アルゴリズムのコンピューター実行は、配列同一性を決定するための配列の比較のために利用され得る。かかる実行には、以下が含まれるがこれらに限定されない:PC/Geneプログラム中のCLUSTAL(Intelligenetics、Mountain View、Californiaから入手可能);Wisconsin Genetics Software Package、バージョン8(Genetics Computer Group(GCG)、575 Science Drive、Madison、Wisconsin、USAから入手可能)中のALIGNプログラム(バージョン2.0)ならびにGAP、BESTFIT、BLAST、FASTAおよびTFASTA。これらのプログラムを使用するアラインメントは、デフォルトパラメーターを使用して実施され得る。
【0127】
BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Informationを通じて公に入手可能である。このアルゴリズムは、データベース配列中の同じ長さのワードとアラインした場合にマッチするまたはいくつかの正の値の閾値スコアTを満たす、クエリー配列中の長さWのショートワードを同定することによって、高スコアリング配列対(HSP)を最初に同定することを含む。Tは、近隣ワードスコア閾値と呼ばれる。これらの初期近隣ワードヒットは、それらを含むより長いHSPを見出すための検索を開始するためのシードとして作用する。次いで、これらのワードヒットは、累積アラインメントスコアが増加され得る限り、各配列に沿って両方の方向で伸長される。累積スコアは、ヌクレオチド配列について、パラメーターM(マッチする残基の対についての報酬スコア(reward score);通常>0)およびN(ミスマッチする残基についてのペナルティスコア;通常<0)を使用して計算される。アミノ酸配列について、スコアリングマトリックスが、累積スコアを計算するために使用される。各方向でのワードヒットの伸長は、累積アラインメントスコアが、その最大の達成された値から量X下落する場合、累積スコアが、1もしくは複数の負のスコアの残基アラインメントの蓄積に起因してゼロもしくはそれ未満になる場合、またはいずれかの配列の末端に到達した場合に、停止する。
【0128】
パーセント配列同一性を計算することに加えて、BLASTアルゴリズムは、2つの配列間の類似性の統計分析もまた実施する。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の1つの尺度は、2つのヌクレオチド配列間のマッチが偶然生じる確率の指標を提供する、最小和確率(smallest sum probability)(P(N))である。例えば、試験核酸配列は、試験核酸配列と参照核酸配列との比較における最小和確率が、約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合に、参照配列と類似とみなされる。
【0129】
比較目的のためにギャップ付きアラインメントを取得するために、Gapped BLAST(BLAST 2.0中の)が利用され得る。あるいは、PSI−BLAST(BLAST 2.0中の)が、分子間の距離関係を検出する反復検索を実施するために使用され得る。BLASTを利用する場合、Gapped BLAST、PSI−BLAST、それぞれのプログラム(例えば、ヌクレオチド配列についてはBLASTN)のデフォルトパラメーターが使用され得る。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列について)は、11のワード長(W)、10の期待値(E)、100のカットオフ、M=5、N=−4、および両方の鎖の比較を、デフォルトとして使用する。アラインメントは、検査によって手動でも実施され得る。
【0130】
本発明の目的のために、本明細書に開示されるプロモーター配列に対するパーセント配列同一性の決定のためのヌクレオチド配列の比較は、好ましくは、そのデフォルトパラメーターを用いるBlastNプログラム(バージョン1.4.7またはそれ以降)または任意の等価なプログラムを使用して行われる。「等価なプログラム」とは、問題の任意の2つの配列について、好ましいプログラムによって生成された対応するアラインメントと比較した場合に、同一のヌクレオチドマッチおよび同一のパーセント配列同一性を有するアラインメントを生成する、任意の配列比較プログラムを意図する。
【0131】
(c)本明細書で使用する場合、2つの核酸配列に関して「配列同一性」または「同一性」は、配列比較アルゴリズムまたは目視検査によって測定されるような、特定された比較ウインドウにわたる最大の対応のためにアラインされた場合に同じである2つの配列中のヌクレオチドの、特定された百分率に言及する。
【0132】
(d)本明細書で使用する場合、「配列同一性の百分率」とは、比較ウインドウにわたって2つの最適にアラインされた配列を比較することによって決定される値を意味し、ここで、比較ウインドウ中のポリヌクレオチド配列の部分は、2つの配列の最適なアラインメントのために、参照配列(付加も欠失も含まない)と比較して、付加または欠失(即ち、ギャップ)を含み得る。この百分率は、同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が両方の配列中に存在する位置の数を決定して、マッチした位置の数を得、マッチした位置の数を比較のウインドウ中の位置の総数によって除算し、結果に100を乗算して配列同一性の百分率を得ることによって、計算される。
【0133】
(e)ポリヌクレオチド配列の用語「実質的同一性」は、ポリヌクレオチドが、標準的なパラメーターを使用して記載されるアラインメントプログラムの1つを使用して、参照配列と比較して、少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%または79%、好ましくは少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%または89%、より好ましくは少なくとも90%、91%、92%、93%または94%、最も好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する配列を含むことを意味する。
【0134】
ヌクレオチド配列が実質的に同一であることの別の指標は、2つの分子が、ストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズするかどうかである。一般に、ストリンジェントな条件は、規定されたイオン強度およびpHにおいて、特異的配列についての熱的融点(thermal melting point)(Tm)よりも約5℃低くなるように、選択される。しかし、ストリンジェントな条件は、本明細書で他の方法で適格とされる場合、ストリンジェンシーの所望の程度に依存して、約1℃〜約20℃の範囲の温度を包含する。
【0135】
配列比較のために、典型的には1つの配列が、試験配列が比較される参照配列として作用する。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験配列および参照配列は、コンピューター中にインプットされ、必要に応じて下位配列座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムパラメーターが指定される。次いで、この配列比較アルゴリズムは、指定されたプログラムパラメーターに基づいて、参照配列と比較した、試験配列(複数可)についてのパーセント配列同一性を計算する。
【0136】
本明細書で留意するように、2つの核酸配列が実質的に同一であることの別の指標は、2つの分子が、ストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズすることである。語句「〜に特異的にハイブリダイズする」とは、その配列が複雑な混合物(例えば、総細胞性)DNAまたはRNA中に存在する場合、ストリンジェントな条件下での、特定のヌクレオチド配列のみへの分子の結合、二重鎖形成またはハイブリダイズを指す。「実質的に結合する」とは、プローブ核酸と標的核酸との間の相補的ハイブリダイゼーションを指し、標的核酸配列の所望の検出を達成するためにハイブリダイゼーション媒体のストリンジェンシーを低減させることによって達成され得る軽微なミスマッチを包含する。
【0137】
核酸ハイブリダイゼーション実験、例えば、サザンおよびノーザンハイブリダイゼーションに関して、「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」および「ストリンジェントなハイブリダイゼーション洗浄条件」は、配列依存的であり、異なる環境パラメーターの下で異なる。より長い配列は、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。Tmは、完全にマッチしたプローブに標的配列の50%がハイブリダイズする温度(規定されたイオン強度およびpHの下)である。特異性は、典型的には、ハイブリダイゼーション後洗浄の関数であり、重要な因子は、最終洗浄溶液のイオン強度および温度である。DNA−DNAハイブリッドのために、このTmは、以下の方程式から概算され得る:Tm 81.5℃+16.6(log M)+0.41(%GC)−0.61(%ホルム)−500/L;式中、Mは、一価カチオンのモル濃度であり、%GCは、DNA中のグアノシンおよびシトシンヌクレオチドの百分率であり、%ホルムは、ハイブリダイゼーション溶液中のホルムアミドの百分率であり、Lは、塩基対中のハイブリッドの長さである。Tmは、各1%のミスマッチにつき約1℃低減される;したがって、Tm、ハイブリダイゼーションおよび/または洗浄条件は、所望の同一性の配列にハイブリダイズするように調整され得る。例えば、>90%同一性を有する配列が求められる場合、Tmは、10℃減少され得る。一般に、ストリンジェントな条件は、規定されたイオン強度およびpHにおいて、特異的配列およびその相補体についての熱的融点(Tm)よりも約5℃低くなるように、選択される。しかし、苛酷にストリンジェントな条件は、熱的融点(Tm)よりも1、2、3または4℃低い温度におけるハイブリダイゼーションおよび/または洗浄を利用し得る;中程度にストリンジェントな条件は、熱的融点(Tm)よりも6、7、8、9または10℃低い温度におけるハイブリダイゼーションおよび/または洗浄を利用し得る;低いストリンジェンシーの条件は、熱的融点(Tm)よりも11、12、13、14、15または20℃低い温度におけるハイブリダイゼーションおよび/または洗浄を利用し得る。この方程式、ハイブリダイゼーションおよび洗浄組成物、ならびに所望のTを使用して、当業者は、ハイブリダイゼーションおよび/または洗浄溶液のストリンジェンシーにおけるバリエーションが、固有に記載されることを理解する。所望の程度のミスマッチが、45℃(水溶液)または32℃(ホルムアミド溶液)未満のTを生じる場合、より高い温度が使用できるように、SSC濃度を増加させることが好ましい。一般に、高度にストリンジェントなハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は、規定されたイオン強度およびpHにおいて、特異的配列についての熱的融点(Tm)よりも約5℃低くなるように、選択される。
【0138】
高度にストリンジェントな洗浄条件の一例は、72℃で約15分間の0.15M NaClである。ストリンジェントな洗浄条件の一例は、65℃で15分間の0.2×SSC洗浄である(SSC緩衝液の記述については、SambrookおよびRussell 2001年を参照のこと)。しばしば、高いストリンジェンシーの洗浄には、背景プローブシグナルを除去するための低いストリンジェンシーの洗浄が先行する。短い核酸配列(例えば、約10〜50ヌクレオチド)について、ストリンジェントな条件は、典型的には、pH7.0〜8.3で、約1.5M未満、より好ましくは約0.01〜1.0MのNaイオン濃度(または他の塩)の塩濃度を含み、この温度は、典型的には少なくとも約30℃である。ストリンジェントな条件は、ホルムアミドなどの不安定化剤の添加によっても達成され得る。一般に、特定のハイブリダイゼーションアッセイにおいて無関係のプローブについて観察されるものの2×(またはそれよりも高い)のシグナル対ノイズ比は、特異的ハイブリダイゼーションの検出を示す。非常にストリンジェントな条件は、特定の核酸分子についてのTmと等しくなるように、選択される。
【0139】
非常にストリンジェントな条件は、特定のプローブについてのT
mと等しくなるように、選択される。サザンまたはノーザンブロットにおけるフィルター上での、100よりも多い相補的残基を有する相補的核酸のハイブリダイゼーションのためのストリンジェントな条件の一例は、50%ホルムアミド、例えば、37℃で50%ホルムアミド、1M NaCl、1%SDS中でのハイブリダイゼーション、および60〜65℃で0.1×SSC中での洗浄である。例示的な低いストリンジェンシーの条件は、37℃で30〜35%ホルムアミド、1M NaCl、1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)の緩衝溶液を用いたハイブリダイゼーション、および50〜55℃で1×〜2×SSC(20×SSC=3.0M NaCl/0.3Mクエン酸三ナトリウム)中での洗浄を含む。例示的な中程度のストリンジェンシーの条件は、37℃で40〜45%ホルムアミド、1.0M NaCl、1%SDS中でのハイブリダイゼーション、および55〜60℃で0.5×〜1×SSC中での洗浄を含む。
【0140】
用語「形質転換」とは、遺伝的に安定な遺伝を生じる、宿主細胞のゲノム中への核酸断片の移入を指す。「宿主細胞」は、外因性核酸分子によって形質転換されたまたは形質転換が可能な細胞である。形質転換された核酸断片を含む宿主細胞は、「トランスジェニック」細胞と呼ばれる。
【0141】
「形質転換された」、「形質導入された」、「トランスジェニック」および「組換え」とは、異種核酸分子が導入された宿主細胞を指す。本明細書で使用する場合、用語「トランスフェクション」とは、真核生物(例えば、哺乳動物)細胞中へのDNAの送達を指す。用語「形質転換」は、原核生物(例えば、E.coli)細胞中へのDNAの送達を指すために、本明細書で使用される。用語「形質導入」は、ウイルス粒子を細胞に感染させることを指すために、本明細書で使用される。核酸分子は、当技術分野で一般に公知のゲノム中に安定に組み込まれ得る。PCRの公知の方法には、対プライマー、ネステッドプライマー、単一特異的プライマー、縮重プライマー、遺伝子特異的プライマー、ベクター特異的プライマー、部分的にミスマッチしたプライマーなどを使用する方法が含まれるがこれらに限定されない。例えば、「形質転換された」、「形質転換体」および「トランスジェニック」細胞は、形質転換プロセスを経ており、それらの染色体中に組み込まれた外来遺伝子を含む。用語「形質転換されていない」とは、形質転換プロセスを経ていない正常細胞を指す。
【0142】
「遺伝的に変更された細胞」は、組換え核酸または異種核酸(例えば、1もしくは複数のDNA構築物またはそれらのRNA対応物)の導入によって改変された細胞を示し、かかる遺伝的改変の一部または全てを保持するかかる細胞の子孫をさらに含む。
【0143】
本明細書で使用する場合、ヌクレオチド分子に関して、用語「由来する(derived)」または「〜に対する(directed to)」とは、その分子が、目的の特定の分子に対して相補的な配列同一性を有することを意味する。
【0144】
本発明のsiRNAは、当技術分野で公知の任意の方法によって、例えば、in vitro転写、組換えまたは合成手段によって、生成され得る。一例では、siRNAは、組換え酵素、例えばT7 RNAポリメラーゼ、およびDNAオリゴヌクレオチド鋳型を使用することによって、in vitroで生成され得る。
【0145】
本発明の核酸分子
用語「単離および/または精製された」とは、核酸が配列決定、複製および/または発現され得るような、その天然の細胞環境からの、および核酸またはポリペプチドなどの細胞の他の構成成分との関連からの、DNAまたはRNA分子などの核酸のin vitro単離を指す。RNAまたはDNAは、そのRNAまたはDNAの天然の供給源においてそれが通常関連する少なくとも1つの混入核酸を含まない、好ましくは、任意の他の哺乳動物のRNAまたはDNAを実質的に含まないという点で、「単離され」ている。語句「それが通常関連する少なくとも1つの混入供給源核酸を含まない」は、核酸が、供給源もしくは天然の細胞中に再導入されるが、異なる染色体場所にある場合、または供給源細胞中に通常は見出されない核酸配列が他の方法で、例えば、ベクターもしくはプラスミド中で隣接する場合を含む。
【0146】
siRNAをコードするDNA配列に加えて、本発明の核酸分子は、標的遺伝子の発現を阻害するためにも有用な二本鎖干渉RNA分子を含む。
【0147】
本明細書で使用する場合、用語「組換え核酸」、例えば、「組換えDNA配列またはセグメント」とは、その配列が、天然には存在していないか、または外因性DNAで形質転換されていないゲノム中に配置されるようには配置されていない天然に存在する配列に対応するように、任意の適切な細胞性供給源から誘導または単離され、引き続いてin vitroで化学的に変更され得る、DNAなどの核酸を指す。供給源に「由来する」予め選択されたDNAの一例は、所与の生物内で有用な断片として同定され、次いで本質的に純粋な形態で化学的に合成される、DNA配列である。供給源から「単離された」かかるDNAの一例は、それが、本発明における使用のために、遺伝子操作の方法論によって、さらに操作、例えば増幅され得るように、化学的手段によって、例えば、制限エンドヌクレアーゼの使用によって、供給源から切り出されたまたは取り出された有用なDNA配列である。「組換えDNA」には、完全に合成のDNA配列、半合成DNA配列、生物学的供給源から単離されたDNA配列、およびRNAに由来するDNA配列、ならびにそれらの混合物が含まれる。
【0148】
本発明の発現カセット
発現カセットを調製するために、組換えDNA配列またはセグメントは、環状または線状、二本鎖または一本鎖であり得る。一般に、このDNA配列またはセグメントは、得られた形質転換された細胞中に存在する組換えDNAの発現を促進する制御配列が隣接するコード領域もまた含み得る、キメラDNA、例えば、プラスミドDNAまたはベクターの形態である。
【0149】
「キメラ」ベクターまたは発現カセットとは、本明細書で使用する場合、少なくとも2つの異なる種由来の核酸配列を含むベクターもしくはカセットを意味し、または「ネイティブ」もしくは野生型の種には存在しない様式で連結もしくは関連する同じ種由来の核酸配列を有する。
【0150】
RNA転写産物のための転写単位として機能する組換えDNA配列またはその部分とは別に、調節機能または構造的機能を果たす組換えDNAの一部分は、転写されない可能性がある。例えば、この組換えDNAは、哺乳動物細胞において活性なプロモーターを有し得る。
【0151】
宿主細胞において機能的な他のエレメント、例えば、イントロン、エンハンサー、ポリアデニル化配列などもまた、組換えDNAの一部であり得る。かかるエレメントは、DNAの機能に必要であってもなくてもよいが、転写、siRNAの安定性などに影響を与えることによって、DNAの改善された発現を提供し得る。かかるエレメントは、細胞中でのsiRNAの最適な性能を得ることが望まれる場合に、DNA中に含まれ得る。
【0152】
制御配列は、特定の宿主生物中での、作動可能に連結したコード配列の発現に必要なDNA配列である。原核生物細胞に適切な制御配列には、例えば、プロモーター、および任意選択でオペレーター配列、およびリボソーム結合部位が含まれる。真核生物細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナルおよびエンハンサーを利用することが公知である。
【0153】
作動可能に連結した核酸は、別の核酸配列と機能的に関連して配置された核酸である。例えば、プロモーターまたはエンハンサーは、それが配列の転写に影響を与える場合、コード配列に作動可能に連結されている;またはリボソーム結合部位は、それが翻訳を促進するように配置される場合、コード配列に作動可能に連結されている。一般に、作動可能に連結したDNA配列は、連結された、接しているDNA配列である。しかし、エンハンサーは、接している必要はない。連結は、簡便な制限部位におけるライゲーションによって達成される。かかる部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが、従来の実務に従って使用される。
【0154】
細胞中に導入される組換えDNAは、ウイルスベクターを介してトランスフェクトまたは感染させることが求められる細胞の集団からの発現細胞の同定および選択を促進するために、選択可能なマーカー遺伝子もしくはレポーター遺伝子のいずれかまたはそれら両方を含み得る。他の実施形態では、選択可能なマーカーは、DNAの別々の小片上に保有され得、共トランスフェクション手順において使用され得る。選択可能なマーカーおよびレポーター遺伝子の両方が、宿主細胞における発現を可能にするために、適切な調節配列と隣接され得る。有用な選択可能なマーカーは、当技術分野で公知であり、これには、例えば、例えばneoなどの抗生物質耐性遺伝子が含まれる。
【0155】
レポーター遺伝子は、潜在的にトランスフェクトされた細胞を同定するため、および調節配列の機能性を評価するために、使用される。容易にアッセイ可能なタンパク質をコードするレポーター遺伝子は、当技術分野で周知である。一般に、レポーター遺伝子は、レシピエント生物または組織中に存在することもレシピエント生物または組織によって発現されることもない、いくつかの容易に検出可能な特性、例えば酵素活性によってその発現が顕在化されるタンパク質をコードする、遺伝子である。例えば、レポーター遺伝子には、E.coliのTn9由来のクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(cat)およびホタルPhotinus pyralis由来のルシフェラーゼ遺伝子が含まれる。レポーター遺伝子の発現は、DNAがレシピエント細胞中に導入された後の適切な時点においてアッセイされる。
【0156】
標的細胞をトランスフェクトできる組換えDNAを構築するための一般的方法は、当業者に周知であり、構築の同じ組成物および方法が、本明細書で有用なDNAを産生するために利用され得る。
【0157】
この組換えDNAは、本発明のDNA分子または配列が宿主細胞によって発現されるように、そのゲノム中に安定に組み込まれたまたはエピソームエレメントとして存在する組換えDNAを有する細胞を得るために、特定の細胞中への導入のために有用な任意の手順、例えば、物理的または生物学的方法による、siRNAをコードするDNAから構成される発現ベクターによるトランスフェクションによって、宿主細胞、例えば、哺乳動物、細菌、酵母または昆虫細胞中に容易に導入され得る。好ましくは、DNAは、ベクターを介して宿主細胞中に導入される。この宿主細胞は、好ましくは、真核生物起源、例えば、植物、哺乳動物、昆虫、酵母または真菌供給源のものであるが、非真核生物起源の宿主細胞もまた使用され得る。
【0158】
予め選択されたDNAを宿主細胞中に導入するための物理的方法には、リン酸カルシウム沈殿、リポフェクション、粒子銃、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどが含まれる。目的のDNAを宿主細胞中に導入するための生物学的方法には、DNAおよびRNAウイルスベクターの使用が含まれる。哺乳動物遺伝子治療のために、本明細書の以下に記載されるように、1コピーの遺伝子を宿主ゲノム中に挿入する効率的な手段を使用することが望ましい。ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターは、遺伝子を哺乳動物、例えば、ヒト細胞中に挿入するための、最も広く使用される方法になっている。他のウイルスベクターは、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルスI、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスなどに由来し得る。例えば、米国特許第5,350,674号および米国特許第5,585,362号を参照のこと。
【0159】
本明細書で論じる場合、「トランスフェクトされた」または「形質導入された」宿主細胞または細胞株は、ゲノムが、少なくとも1つの異種または組換え核酸配列の存在によって変更または増強されている、宿主細胞または細胞株である。本発明の宿主細胞は、典型的には、プラスミド発現ベクター、ウイルス発現ベクター中のDNA配列による、または単離された線状DNA配列としてのトランスフェクションによって、産生される。トランスフェクトされたDNAは、siRNAをコードする配列から構成される、染色体に組み込まれた組換えDNA配列になり得る。
【0160】
宿主細胞中の組換えDNA配列の存在を確認するために、種々のアッセイが実施され得る。かかるアッセイには、例えば、当業者に周知の「分子生物学的」アッセイ、例えば、サザンおよびノーザンブロッティング、RT−PCRおよびPCR;例えば、免疫学的手段(ELISAおよびウエスタンブロット)による、または本発明の範囲内に入る薬剤を同定するための本明細書に記載されるアッセイによる、特定のペプチドの存在または非存在を検出するなどの、「生化学的」アッセイが含まれる。
【0161】
導入された組換えDNAセグメントから産生されたRNAを検出および定量化するために、RT−PCRが使用され得る。PCRのこの適用では、最初に、逆転写酵素などの酵素を使用してRNAをDNAに逆転写し、次いで、従来のPCR技術の使用を介してDNAを増幅することが、必要である。ほとんどの場合、PCR技術は、有用ではあるが、RNA産物の完全性を実証しない。RNA産物の性質に関するさらなる情報は、ノーザンブロッティングによって取得され得る。この技術は、RNA種の存在を実証し、そのRNAの完全性に関する情報を提供する。RNA種の存在または非存在は、ドットまたはスロットブロットノーザンハイブリダイゼーションを使用しても決定され得る。これらの技術は、ノーザンブロッティングの改変であり、RNA種の存在または非存在を実証するだけである。
【0162】
サザンブロッティングおよびPCRは、問題の組換えDNAセグメントを検出するために使用され得るが、これらは、予め選択されたDNAセグメントが発現されているかどうかに関する情報を提供しない。発現は、導入された組換えDNA配列のペプチド産物を具体的に同定すること、または宿主細胞における導入された組換えDNAセグメントの発現によってもたらされる表現型変化を評価することによって、評価され得る。
【0163】
本発明は、哺乳動物レシピエントにおいて外因性核酸材料を発現するための細胞発現系を提供する。この発現系は、「遺伝的に改変された細胞」とも呼ばれ、細胞および外因性核酸材料を発現するための発現ベクターを含む。遺伝的に改変された細胞は、哺乳動物レシピエントへの投与に適切であり、そこで、これらは、レシピエントの内因性細胞を置き換える。したがって、好ましい遺伝的に改変された細胞は、不死化されておらず、非腫瘍原性である。
【0164】
一実施形態によれば、これらの細胞は、ex vivoでトランスフェクトされるまたは他の方法で遺伝的に改変される。これらの細胞は、哺乳動物(好ましくはヒト)から単離され、治療剤をコードする異種(例えば、組換え)遺伝子を発現させるためのベクターで核酸導入され(即ち、in vitroで形質導入またはトランスフェクトされ)、次いで、in situでの治療剤の送達のために哺乳動物レシピエントに投与される。この哺乳動物レシピエントは、ヒトであり得、改変される細胞は、自家細胞である、即ち、これらの細胞は、哺乳動物レシピエントから単離される。
【0165】
別の一実施形態によれば、これらの細胞は、in vivoでトランスフェクトもしくは形質導入されまたは他の方法で遺伝的に改変される。哺乳動物レシピエント由来の細胞は、治療剤をコードする異種(例えば、組換え)遺伝子を発現させるための外因性核酸材料を含むベクターでin vivoで形質導入またはトランスフェクトされ、この治療剤は、in situで送達される。
【0166】
本明細書で使用する場合、「外因性核酸材料」とは、細胞中に天然には見出されない、天然または合成のいずれかの核酸またはオリゴヌクレオチドを指し;またはそれが細胞中に天然に見出される場合には、その元のまたはネイティブ形態から改変されている。したがって、「外因性核酸材料」には、例えば、アンチセンスRNAへと転写され得る天然に存在しない核酸、siRNA、ならびに「異種遺伝子」(即ち、同じ型の天然に存在する細胞において発現されないまたは生物学的に顕著でないレベルで発現されるタンパク質をコードする遺伝子)が含まれる。説明するために、ヒトエリスロポエチン(EPO)をコードする合成または天然の遺伝子は、ヒト腹膜中皮細胞に関して「外因性核酸材料」とみなされるが、それは、後者の細胞が、EPOを天然には発現しないからである。「外因性核酸材料」のなお別の例は、相同組換えを介して調節可能なプロモーターを内因性コード配列と組み合わせるなどの、組換え遺伝子を創出するための遺伝子の一部のみの導入である。
【0167】
遺伝子阻害治療に従順な状態は、予防的プロセス、即ち、疾患または望ましくない医学的状態を予防するためのプロセスであり得る。したがって、本発明は、予防的機能を有するsiRNA(即ち、予防剤)を哺乳動物レシピエントに送達するための系を包含する。
【0168】
細胞中に本発明の発現カセットを導入するための方法
阻害性核酸材料(例えば、目的の遺伝子に対するsiRNAをコードする発現カセット)は、遺伝的に改変された細胞を提供するために、遺伝子移入方法、例えば、トランスフェクションまたは形質導入によって、ex vivoまたはin vivoで細胞中に導入され得る。種々の発現ベクター(即ち、標的細胞中への外因性核酸の送達を促進するためのビヒクル)が、当業者に公知である。
【0169】
本明細書で使用する場合、「細胞のトランスフェクション」とは、添加されたDNAの取込みによる、細胞による新たな核酸材料の獲得を指す。したがって、トランスフェクションとは、物理的または化学的方法を使用した、細胞中への核酸の挿入を指す。リン酸カルシウムDNA共沈殿、DEAE−デキストラン、エレクトロポレーション、カチオン性リポソーム媒介性トランスフェクション、タングステン粒子促進性微粒子銃およびリン酸ストロンチウムDNA共沈殿を含む、いくつかのトランスフェクション技術が、当業者に公知である。
【0170】
対照的に、「細胞の形質導入」とは、DNAまたはRNAウイルスを使用して細胞中に核酸を移入させるプロセスを指す。細胞中に核酸を移入させるためのRNAウイルス(即ち、レトロウイルス)は、本明細書で、形質導入性キメラレトロウイルスと呼ばれる。レトロウイルス内に含まれる外因性核酸材料は、形質導入された細胞のゲノム中に取り込まれる。キメラDNAウイルス(例えば、治療剤をコードするcDNAを保有するアデノウイルス)が形質導入された細胞は、そのゲノム中に取り込まれた外因性核酸材料を有さないが、細胞内に染色体外で保持される外因性核酸材料を発現することが可能である。
【0171】
この外因性核酸材料は、転写を制御するためのプロモーターと一緒に、siRNAをコードする核酸を含み得る。このプロモーターは、特徴的に、転写を開始するために必要な特異的ヌクレオチド配列を有する。この外因性核酸材料は、所望の遺伝子転写活性を得るために必要とされるさらなる配列(即ち、エンハンサー)をさらに含み得る。この論述の目的のために、「エンハンサー」は、単に、プロモーターによって命令される基底転写レベルを変化させるために、コード配列と(シスで)共に働く任意の非翻訳DNA配列である。この外因性核酸材料は、プロモーターおよびコード配列が、コード配列の転写を可能にするように作動可能に連結されるように、プロモーターのすぐ下流で細胞ゲノム中に導入され得る。発現ベクターは、挿入された外因性遺伝子の転写を制御するための外因性プロモーターエレメントを含み得る。かかる外因性プロモーターには、構成的プロモーターおよび調節可能なプロモーターの両方が含まれる。
【0172】
天然に存在する構成的プロモーターは、重要な細胞機能の発現を制御する。結果として、構成的プロモーターの制御下にある核酸配列は、細胞成長の全ての条件下で発現される。構成的プロモーターには、特定の構成的または「ハウスキーピング」機能をコードする以下の遺伝子のためのプロモーターが含まれる:ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、アデノシンデアミナーゼ、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)、ピルビン酸キナーゼ、ホスホグリセロールムターゼ、ベータ−アクチンプロモーター、および当業者に公知の他の構成的プロモーター。さらに、多くのウイルスプロモーターが、真核生物細胞において構成的に機能する。これらには、とりわけ、以下が含まれる:SV40の初期および後期プロモーター;モロニー白血病ウイルスおよび他のレトロウイルスの長鎖末端リピート(LTR);ならびに単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼプロモーター。
【0173】
調節可能なプロモーターの制御下にある核酸配列は、それのみで、または誘導剤もしくは抑圧剤の存在下でより高いもしくはより低い程度まで、発現される(例えば、メタロチオネインプロモーターの制御下での転写は、特定の金属イオンの存在下で、大きく増加される)。調節可能なプロモーターは、それらの誘導因子が結合した場合に転写を刺激する応答性エレメント(RE)を含む。例えば、血清因子、ステロイドホルモン、レチノイン酸、サイクリックAMP、ならびにテトラサイクリンおよびドキシサイクリンに対するREが存在する。特定のREを含むプロモーターが、調節可能な応答を得るために選択され得、一部の場合には、RE自体が、異なるプロモーターに結合され得、それによって、コードされた核酸配列に調節可能性を付与する。したがって、適切なプロモーター(構成的対調節可能な;強い対弱い)を選択することによって、遺伝的に改変された細胞における核酸配列の発現の存在およびレベルの両方を制御することが可能である。核酸配列が調節可能なプロモーターの制御下にある場合、in situでの治療剤の送達は、例えば、この薬剤の転写を制御する調節可能なプロモーターの特異的誘導因子の腹腔内注射によって、この核酸配列の転写を可能にするための条件に、遺伝的に改変された細胞をin situで曝露することによって、誘発される。例えば、遺伝的に改変された細胞におけるメタロチオネインプロモーターの制御下にある核酸配列のin situ発現は、この遺伝的に改変された細胞を適切な(即ち、誘導性の)金属イオンを含む溶液とin situで接触させることによって、増強される。
【0174】
したがって、in situで生成されるsiRNAの量は、核酸配列の転写を指示するために使用されるプロモーターの性質(即ち、プロモーターが構成的か調節可能か、強いか弱いか)、および細胞中にあるsiRNA配列をコードする外因性核酸配列のコピー数などの因子を制御することによって、調節される。
【0175】
少なくとも1つのプロモーター、およびsiRNAをコードする少なくとも1つの異種核酸配列に加えて、この発現ベクターは、この発現ベクターでトランスフェクトまたは形質導入された細胞の選択を促進するために、選択遺伝子、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子を含み得る。
【0176】
細胞は、2つまたはそれ超の発現ベクター、siRNA(複数可)をコードする核酸配列(複数可)を含む少なくとも1つのベクター、選択遺伝子を含む他のベクターでも、トランスフェクトされ得る。適切なプロモーター、エンハンサー、選択遺伝子および/またはシグナル配列の選択は、過度の実験なしに当業者の技術範囲内であるとみなされる。
【0177】
以下の論述は、本発明の種々の有用性に関する。例えば、本発明は、目的の遺伝子(複数可)の発現をサイレンシングするのに適切な発現系としての有用性を有する。
【0178】
本発明は、哺乳動物レシピエントの細胞をin vivoで遺伝的に改変するための方法もまた提供する。一実施形態によれば、この方法は、例えば、ベクターをレシピエント中に注射することによって、哺乳動物レシピエントの細胞においてsiRNA配列をin situで発現させるための、発現ベクターを導入することを含む。
【0179】
本発明の発現カセットのための送達ビヒクル
組織中へのおよび血液脳関門を横切る化合物の送達は、その化合物のサイズおよび生化学的特性によって限定され得る。現在、in vivoでの細胞中への化合物の効率的な送達は、分子が小さい(通常は600ダルトン未満)場合にのみ、達成され得る。中枢神経系(CNS)の代謝の先天性異常および神経変性疾患の補正のための、ならびにがんの処置のための遺伝子移入は、組換えアデノウイルスベクターを用いて達成されている。
【0180】
細胞において特定のsiRNAを発現するための特定の発現ベクターの選択および最適化は、おそらくは1または複数の適切な制御領域(例えば、プロモーター、挿入配列)と共に、siRNAの核酸配列を取得すること;siRNAをコードする核酸配列が挿入されるベクターを含むベクター構築物を調製すること;培養細胞にin vitroでベクター構築物をトランスフェクトまたは形質導入すること;およびsiRNAが培養細胞中に存在するかどうかを決定することによって、達成され得る。
【0181】
細胞遺伝子治療のためのベクターには、ウイルス、例えば、複製欠損ウイルス(以下に詳細に記載される)が含まれる。例示的なウイルスベクターは、ハーベイ肉腫ウイルス、ラウス肉腫ウイルス、(MPSV)、モロニーマウス白血病ウイルスおよびDNAウイルス(例えば、アデノウイルス)由来である。
【0182】
複製欠損レトロウイルスは、全てのビリオンタンパク質の合成を指示することが可能であるが、感染性粒子を作製することはできない。したがって、これらの遺伝的に変更されたレトロウイルス発現ベクターは、培養細胞における核酸配列の高効率の形質導入のための一般的有用性、および本発明の方法における使用のための具体的な有用性を有する。かかるレトロウイルスは、in vivoでの細胞中への核酸配列の効率的な形質導入のための有用性をさらに有する。レトロウイルスは、細胞中に核酸材料を移入させるために広範に使用されている。複製欠損レトロウイルスを産生するためのプロトコール(プラスミド中への外因性核酸材料の取込みのステップ、プラスミドによるパッケージング細胞株のトランスフェクションのステップ、パッケージング細胞株による組換えレトロウイルスの産生のステップ、組織培養培地からのウイルス粒子の収集のステップ、およびウイルス粒子による標的細胞の感染のステップを含む)は、当技術分野で周知である。
【0183】
遺伝子治療にレトロウイルスを使用することの利点は、これらのウイルスが、siRNAをコードする核酸配列を宿主細胞ゲノム中に挿入し、それによって、細胞が分裂するときに、siRNAをコードする核酸配列がその細胞の子孫に受け継がれることを可能にすることである。LTR領域中のプロモーター配列は、種々の細胞型において、挿入されたコード配列の発現を増強し得る。レトロウイルス発現ベクターを使用することのいくつかの欠点は、以下である:(1)挿入変異誘発、即ち、例えば、調節されない細胞成長をもたらす、標的細胞ゲノム中の望ましくない位置への、siRNAをコードする核酸配列の挿入、および(2)ベクターが保有するsiRNAをコードする核酸配列が標的ゲノム中に組み込まれるための、標的細胞増殖の必要。
【0184】
細胞の形質転換のための発現ベクターとして有用な別のウイルス候補は、アデノウイルス、二本鎖DNAウイルスである。アデノウイルスは、例えば、筋肉および内皮細胞を含む、広範な細胞型において感染性である。
【0185】
アデノウイルス(Ad)は、36kbのゲノムを有する二本鎖線状DNAウイルスである。アデノウイルスのいくつかの特色が、in vivo遺伝子送達を促進するなどの治療的適用のための導入遺伝子送達ビヒクルとして、アデノウイルスを有用にしている。組換えアデノウイルスベクターは、肺、脳、膵臓、胆嚢および肝臓を含む種々の臓器の実質細胞への効率的なin situ遺伝子移入が可能であることが示されている。これは、嚢胞性線維症などの遺伝性の遺伝子疾患を処置するための方法におけるこれらのベクターの使用を可能にしており、ここで、ベクターは、標的臓器に送達され得る。さらに、in situ腫瘍形質導入を達成するアデノウイルスベクターの能力は、非播種性疾患に対する種々の抗がん遺伝子治療方法の開発を可能にしている。これらの方法では、ベクターの封じ込めは、腫瘍細胞特異的形質導入に都合が良い。
【0186】
レトロウイルスと同様、アデノウイルスゲノムは、遺伝子治療のための発現ベクターとしての使用のために、即ち、ウイルス自体の産生を制御する遺伝情報を除去することによって、適合可能である。アデノウイルスは、染色体外様式で機能するので、この組換え体アデノウイルスは、挿入変異誘発の理論的問題を有さない。
【0187】
いくつかのアプローチが、伝統的に、組換えアデノウイルスを生成するために使用されてきた。1つのアプローチは、アデノウイルスゲノムの部分への、目的の核酸配列を含む制限エンドヌクレアーゼ断片の直接的ライゲーションを含む。あるいは、目的の核酸配列は、相同組換えの結果によって、欠陥アデノウイルス中に挿入され得る。所望の組換えは、相補細胞の叢において生成された個々のプラークをスクリーニングすることによって、同定される。
【0188】
ほとんどのアデノウイルスベクターは、初期領域1(E1)または初期領域3(E3)の代わりに目的の核酸配列を含む発現カセットが導入されている、アデノウイルス5型(Ad5)骨格に基づく。E1が欠失されているウイルスは、複製について欠陥があり、欠けている遺伝子E1およびpIXをトランスで供給するヒト相補細胞(例えば、293または911細胞)においてプロパゲートされる。
【0189】
本発明の一実施形態では、脳細胞または脳組織においてsiRNAを生成することが所望される。この適用に適切なベクターは、FIVベクターまたはAAVベクターである。例えば、AAV5を使用してもよい。また、ポリオウイルスまたはHSVベクターを適用してもよい。
【0190】
siRNAの適用は、一般に、合成siRNA、in vitroで合成されたRNA、またはshRNAもしくはmiRNAを発現するプラスミドのトランスフェクションによって、達成される。より最近、ウイルスは、in vitro研究のために、および標的化された遺伝子のトランスジェニックマウスノックダウンを生成するために、使用されている。組換えアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)およびネコ免疫不全ウイルス(FIV)は、in vitroおよびin vivoで遺伝子を送達するために使用され得る。各々が、それ自身の利点および欠点を有する。アデノウイルスは、大きいゲノム(36kb)を有する二本鎖DNAウイルスであり、別個の領域中に発現カセットを収容するために、我が実験室などによって操作されている。
【0191】
アデノ随伴ウイルスは、Adと類似のカプシドで包まれたゲノムを有するが、サイズおよびパッケージング能においてはより小さい(約30nm対約100nm;約4.5kbのパッケージング限界)。AAVは、+鎖または−鎖の一本鎖DNAゲノムを含む。8つの血清型のAAV(1〜8)が、広範に研究されており、そのうち3つは、脳において評価されている。本出願のための重要な検討事項は、AAV5が線条体および皮質ニューロンを形質導入し、任意の公知の病理と関連しないことである。
【0192】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、パルボウイルス科の小さい非病原性ウイルスである。AAVは、複製についてのヘルパーウイルスへのその依存によって、この科の他のメンバーとは別個である。ヘルパーウイルスの非存在下では、AAVは、第19染色体のqアーム中に、遺伝子座特異的な様式で組み込まれ得る。AAVのおよそ5kbのゲノムは、プラスまたはマイナスのいずれかの極性の一本鎖DNAの1つのセグメントからなる。このゲノムの末端は、ヘアピン構造へと折り畳まれ得る短い逆位末端リピートであり、ウイルスDNA複製起点として機能する。物理的には、パルボウイルスビリオンは、非エンベロープ型であり、その正二十面体カプシドは、直径およそ20nmである。
【0193】
キメラウイルスが、本発明によってさらに提供され、ここで、AAVは、別のウイルスと関連する所望のトロピズムを達成するために、ヘルペスウイルス、ヘルペスウイルスアンプリコン、バキュロウイルスまたは他のウイルスと組み合わされ得る。例えば、AAV4 ITRは、ヘルペスウイルス中に挿入され得、細胞が感染され得る。感染後、AAV4のITRは、ゲノムからAAV4をレスキューするために、その系中または別々のビヒクル中に提供されたAAV4 repによって作用され得る。したがって、単純ヘルペスウイルスの細胞トロピズムが、AAV4 rep媒介性の標的化された組込みと組み合わされ得る。キメラウイルスを構築するために利用され得る他のウイルスには、レンチウイルス、レトロウイルス、シュードタイプレトロウイルスベクターおよびアデノウイルスベクターが含まれる。
【0194】
バリアントAAVベクターもまた、本発明によって提供される。例えば、AAV5などのネイティブAAVの配列は、個々のヌクレオチドにおいて改変され得る。本発明は、ネイティブおよび変異体AAVベクターを含む。本発明は、全てのAAV血清型をさらに含む。
【0195】
FIVは、ヒトにおいて強い安全性プロファイルを有するエンベロープ型ウイルスである;FIV感染したネコに咬まれたまたは引っかかれた個体は、セロコンバージョンせず、疾患のいずれの徴候も示さないことが報告されている。AAVと同様、FIVは、マウスおよび非ヒト霊長類のニューロンにおいて、持続する導入遺伝子発現を提供し、形質導入は、ウイルスのネイティブエンベロープを別のウイルス由来のエンベロープに交換するプロセス、シュードタイプ化によって、異なる細胞型へと指向され得る。
【0196】
したがって、当業者に明らかなように、種々の適切なウイルス発現ベクターが、細胞中に外因性核酸材料を移入させるために利用可能である。遺伝子サイレンシング治療に従順な特定の状態に対する治療剤を発現する適切な発現ベクターの選択、および細胞中への選択された発現ベクターの挿入のための条件の最適化は、過度の実験の必要なしに当業者の技術範囲内である。
【0197】
別の一実施形態では、この発現ベクターは、種々の方法:物理的(例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、スクレイプローディング(scrape loading)、微粒子銃)のうち1つによって、または化学的複合体(例えば、カルシウムまたはストロンチウム共沈殿、脂質との複合体化、リガンドとの複合体化)としての細胞取込みによって、標的細胞中に移入される、プラスミドの形態である。Lipofectin(商標)(Gibco−BRL、Gaithersburg、Md.)およびTransfectam(商標)(Promega(登録商標)、Madison、Wis.)を含む、いくつかの市販の製品が、カチオン性リポソーム複合体化のために入手可能である。しかし、これらの方法によるトランスフェクションの効率は、標的細胞の性質に高度に依存し、したがって、本発明で言及した手順を使用した細胞中への核酸の最適なトランスフェクションのための条件は、最適化する必要がある。かかる最適化は、過度の実験の必要なしに当業者の技術範囲内である。
【0198】
アデノ随伴ウイルス(AAV)
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、パルボウイルス科の小さい非病原性ウイルスである。AAVは、複製についてのヘルパーウイルスへのその依存によって、この科の他のメンバーとは別個である。ヘルパーウイルスの非存在下では、AAVは、第19染色体のqアーム中に、遺伝子座特異的な様式で組み込まれ得る。AAVのおよそ5kbのゲノムは、プラスまたはマイナスのいずれかの極性の一本鎖DNAの1つのセグメントからなる。このゲノムの末端は、ヘアピン構造へと折り畳まれ得る短い逆位末端リピートであり、ウイルスDNA複製起点として機能する。物理的には、パルボウイルスビリオンは、非エンベロープ型であり、その正二十面体カプシドは、直径およそ20nmである。
【0199】
今日まで、多くの血清学的に別個のAAVが同定されており、12よりも多くが、ヒトまたは霊長類から単離されている。AAV2のゲノムは、長さが4680ヌクレオチドであり、2つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含む。左のORFは、非構造Repタンパク質、Rep40、Rep52、Rep68およびRep78をコードし、これらは、一本鎖子孫ゲノムの産生に加えて、複製および転写の調節に関与する。さらに、これらのRepタンパク質のうち2つは、ヒト第19染色体のqアームの領域中へのAAVゲノムの優先的な組込みと関連付けられてきた。Rep68/78は、NTP結合活性ならびにDNAおよびRNAヘリカーゼ活性を有することもまた示されている。これらのRepタンパク質は、核局在化シグナルならびにいくつかの潜在的リン酸化部位を有する。これらのキナーゼ部位のうち1つの変異は、複製活性の喪失を生じた。
【0200】
このゲノムの末端は、ウイルスDNA複製起点として機能する、T型ヘアピン構造へと折り畳まれる潜在力を有する短い逆位末端リピート(ITR)である。ITR領域内の、ITR、GAGCリピートモチーフおよび末端分割部位(terminal resolution site)(trs)の機能の中核をなす2つのエレメントが、記載されている。ITRが線状またはヘアピンコンフォメーションのいずれかである場合、このリピートモチーフは、Repを結合することが示されている。この結合は、部位特異的様式および鎖特異的様式で生じるtrsにおける切断のために、Rep68/78を配置するように機能する。複製におけるそれらの役割に加えて、これら2つのエレメントは、ウイルス組込みの中核をなすようである。第19染色体の組込み遺伝子座内には、隣接するtrsとのRep結合部位が含まれる。これらのエレメントは、機能的であり、遺伝子座特異的組込みに必要であることが示されている。
【0201】
AAVビリオンは、VP1、VP2およびVP3と呼ばれる3つの関連するタンパク質からなる、直径およそ25nmの非エンベロープ型の正二十面体粒子である。右のORFは、カプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3をコードする。これらのタンパク質は、それぞれ1:1:10の比で見出され、全て、右手のORFに由来する。これらのカプシドタンパク質は、選択的スプライシングおよび普通と違う開始コドンの使用によって、互いに異なる。欠失分析は、選択的スプライシングされたメッセージから翻訳されるVP1の除去または変更が、低減された収量の感染性粒子を生じることを示している。VP3コード領域内の変異は、任意の一本鎖子孫DNAまたは感染性粒子を産生することを失敗させる。AAV粒子は、AAVカプシドタンパク質を含むウイルス粒子である。AAVカプシドポリペプチドは、VP1、VP2およびVP3ポリペプチド全体をコードし得る。この粒子は、AAV2および他のAAVカプシドタンパク質(即ち、キメラタンパク質、例えば、AAV1およびAAV2)を含む粒子であり得る。標準的な方法によって慣用的に決定され得るように、AAV2カプシドを含む得られたウイルス粒子が、AAV1とは抗原的にまたは免疫学的に別個のままである限り、AAV2カプシドタンパク質のアミノ酸配列におけるバリエーションが、本明細書で企図される。具体的には、例えば、ELISAおよびウエスタンブロットが、ウイルス粒子がAAV1と抗原的にまたは免疫学的に別個であるかどうかを決定するために使用され得る。さらに、このAAV2ウイルス粒子は、好ましくは、AAV1とは別個の組織トロピズムを保持する。
【0202】
AAV2粒子は、AAV2カプシドタンパク質を含むウイルス粒子である。VP1、VP2およびVP3ポリペプチド全体をコードするAAV2カプシドポリペプチドは、全体として、NC_001401(AAV2カプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列)に示されるヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を有するポリペプチドに対して、少なくとも約63%の相同性(または同一性)を有し得る。このカプシドタンパク質は、NC_001401に示されるヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質に対して、約70%の相同性、約75%の相同性、80%の相同性、85%の相同性、90%の相同性、95%の相同性、98%の相同性、99%の相同性またはさらには100%の相同性を有し得る。このカプシドタンパク質は、NC_001401に示されるヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質に対して、約70%の同一性、約75%の同一性、80%の同一性、85%の同一性、90%の同一性、95%の同一性、98%の同一性、99%の同一性またはさらには100%の同一性を有し得る。この粒子は、別のAAVおよびAAV2カプシドタンパク質を含む粒子、即ち、キメラタンパク質であり得る。標準的な方法によって慣用的に決定され得るように、AAV2カプシドを含む得られたウイルス粒子が、AAV4とは抗原的にまたは免疫学的に別個のままである限り、AAV2カプシドタンパク質のアミノ酸配列におけるバリエーションが、本明細書で企図される。具体的には、例えば、ELISAおよびウエスタンブロットが、ウイルス粒子がAAV1と抗原的にまたは免疫学的に別個であるかどうかを決定するために使用され得る。さらに、このAAV2ウイルス粒子は、好ましくは、本明細書の実施例で例示されるものなど、AAV1とは別個の組織トロピズムを保持するが、少なくとも1つのAAV2コートタンパク質を含むAAV2キメラ粒子は、AAV2コートタンパク質のみからなるAAV2粒子のものとは異なる組織トロピズムを有し得る。
【0203】
ある特定の実施形態では、本発明は、一対のAAV2逆位末端リピートを含むベクターを含む、即ちカプシドで包む、AAV2粒子をさらに提供する。AAV2 ITRのヌクレオチド配列は、当技術分野で公知である。さらに、この粒子は、AAV1およびAAV2カプシドタンパク質の両方を含む粒子、即ち、キメラタンパク質であり得る。さらに、この粒子は、他のAAV(例えば、AAV1〜AAV9およびAAVrh10)由来の一対のAAV逆位末端リピートを含むベクターをカプシドで包んでいる粒子であり得る。この粒子中にカプシドで包まれたベクターは、逆位末端リピート間に挿入された外因性核酸をさらに含み得る。
【0204】
AAVの以下の特色が、AAVを、遺伝子移入のための魅力的なベクターにしている。AAVベクターは、in vitroで細胞ゲノム中に安定に組み込まれ;広い宿主範囲を有し;分裂細胞および非分裂細胞の両方をin vitroおよびin vivoで形質導入し、形質導入された遺伝子の高いレベルの発現を維持することが示されている。ウイルス粒子は、熱安定で、溶媒、界面活性剤、pHにおける変化、温度に対して耐性であり、CsCl勾配でまたは他の手段によって、濃縮され得る。本発明は、AAV粒子、組換えAAVベクターおよび組換えAAVビリオンを投与する方法を提供する。例えば、AAV2粒子は、AAV2カプシドタンパク質を含むウイルス粒子であり、またはAAV1粒子は、AAV1カプシドタンパク質を含むウイルス粒子である。組換えAAV2ベクターは、AAV2の少なくとも1つの独自の核酸を含む核酸構築物である。組換えAAV2ビリオンは、組換えAAV2ベクターを含む粒子である。用語「AAV2 ITR」内で考えると、このヌクレオチド配列は、AAV1 ITRからAAV2 ITRを識別する、本明細書に記載される一方または両方の特色を保持しなくてはならない:(1)3つ(AAV1のように4つではなく)の「GAGC」リピート、および(2)AAV2 ITR Rep結合部位では、最初の2つの「GAGC」リピートにおける4番目のヌクレオチドは、TではなくCである。
【0205】
送達されるタンパク質、または別の薬剤をコードする配列の発現を駆動するためのプロモーターは、公知の検討事項、例えば、プロモーターに機能的に連結した核酸の発現のレベル、およびこのベクターが使用される細胞型によって選択される、任意の所望のプロモーターであり得る。プロモーターは、外因性または内因性プロモーターであり得る。プロモーターには、例えば、公知の強いプロモーター、例えば、SV40もしくは誘導性メタロチオネインプロモーター、またはAAVプロモーター、例えばAAV p5プロモーターが含まれ得る。プロモーターのさらなる例には、アクチン遺伝子、免疫グロブリン遺伝子、サイトメガロウイルス(CMV)、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス、アデノウイルスプロモーター、例えば、アデノウイルス主要後期プロモーター、誘導性ヒートショックプロモーター、呼吸器多核体ウイルス、ラウス肉腫ウイルス(RSV)由来のプロモーターなどが含まれる。さらなる例には、調節されたプロモーターが含まれる。
【0206】
このAAVベクターは、プロモーターに機能的に連結した外因性(異種)核酸をさらに含み得る。「異種核酸」とは、任意の異種または外因性の核酸が、細胞、組織または生物中への移入のために、ベクター中に挿入され得ることを意味する。この核酸は、例えば、ポリペプチドもしくはタンパク質またはアンチセンスRNAをコードし得る。「機能的に連結した」とは、プロモーターが異種核酸の発現を促進できるような、当技術分野で公知のような、異種核酸に対するプロモーターの適切な配向などを意味する。さらに、この異種核酸は、好ましくは、この核酸を機能的にコードする、即ち、その核酸の発現を可能にするような、当技術分野で公知のような、核酸の発現のための全ての適切な配列を有する。この核酸は、例えば、発現制御配列、例えばエンハンサー、ならびに必要な情報処理部位、例えば、リボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位および転写ターミネーター配列を含み得る。この核酸は、パッケージングされ得る核酸のサイズのみによって限定される、1よりも多い遺伝子産物をコードし得る。
【0207】
本発明のある特定の実施形態では、この異種核酸は、ベクターが移入される被験体によって必要とされる、欠けているまたは欠陥タンパク質を置き換える有益なタンパク質、例えば、RhebまたはRhesをコードし得る。
【0208】
AAV1粒子は、AAV1カプシドタンパク質を含むウイルス粒子である。標準的な方法によって慣用的に決定され得るように、AAV1カプシドを含む得られたウイルス粒子が、他のAAVカプシドとは抗原的にまたは免疫学的に別個のままである限り、AAV1カプシドタンパク質のアミノ酸配列におけるバリエーションが、本明細書で企図される。具体的には、例えば、ELISAおよびウエスタンブロットが、ウイルス粒子が他のAAV血清型と抗原的にまたは免疫学的に別個であるかどうかを決定するために使用され得る。
【0209】
用語「ポリペプチド」とは、本明細書で使用する場合、アミノ酸のポリマーを指し、これには、全長タンパク質およびその断片が含まれる。したがって、「タンパク質」および「ポリペプチド」は、本明細書で相互交換可能に使用される場合が多い。置換は、公知のパラメーターによって中性であるように選択され得る。当業者に理解されるように、本発明は、アミノ酸配列または他の特性における僅かなバリエーションを有するポリペプチドもまた含む。かかるバリエーションは、対立遺伝子バリエーション(例えば、遺伝子多型に起因する)として天然に生じ得、または誘導された点変異体、欠失変異体、挿入変異体および置換変異体など、ヒト介入(例えば、クローニングされたDNA配列の変異誘発)によって生成され得る。アミノ酸配列における軽微な変化、例えば、保存的アミノ酸置き換え、小さい内部欠失または挿入、および分子の末端における付加または欠失が、一般には好ましい。これらの改変は、アミノ酸配列における変化を生じ得、サイレント変異を提供し得、制限部位を改変し得、または他の特異的変異を提供し得る。
【0210】
本発明の方法は、AAV逆位末端リピートの対の間に挿入された核酸を含むベクターを含むAAV粒子を細胞に投与し、それによって核酸を細胞に送達することを含む、核酸を細胞に送達する方法を提供する。細胞への投与は、所望の液体、例えば、組織培養培地または緩衝食塩水溶液中に任意選択で含まれた粒子を、細胞と単に接触させることを含む、任意の手段によって達成され得る。この粒子は、任意の所望の長さの時間にわたって細胞と接触したままにされ得、典型的には、この粒子は、投与され、無制限に残存する。かかるin vitro方法のために、ウイルスは、当技術分野で公知であり、本明細書に例示されるように、標準的なウイルス形質導入方法によって、細胞に投与され得る。投与するウイルスの力価は、特に細胞型に依存して変動し得るが、一般には、AAV形質導入に使用される細胞型に特有である。さらに、本発明の実施例において特定の細胞を形質導入するために使用される力価が、利用され得る。これらの細胞には、ヒトならびに他の大型(非げっ歯類)哺乳動物、例えば、霊長類、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタおよびイヌにおける、任意の所望の細胞が含まれ得る。
【0211】
より具体的には、本発明は、AAV逆位末端リピートの対の間に挿入された核酸を含む核酸を、脳中の細胞、特に中型有棘ニューロンに送達し、それによって、核酸を細胞に送達する方法を提供する。
【0212】
本発明は、AAV逆位末端リピートの対の間に挿入された核酸を含むAAV粒子を被験体に投与し、それによって、核酸を被験体中の細胞に送達することを含む、核酸を被験体中の細胞に送達する方法をさらに提供する。
【0213】
AAV逆位末端リピートの対の間に挿入された核酸を含むAAV粒子を被験体に投与し、それによって、核酸を被験体中のニューロンまたは他の細胞に送達することを含む、核酸を被験体中の脳細胞、例えば、線条体または皮質中のニューロンに送達する方法もまた、提供される。
【0214】
本開示のある特定の実施形態は、本明細書に記載されるようなウイルスベクターを含む細胞を提供する。
【0215】
AAVベクター
一実施形態では、本開示のウイルスベクターは、AAVベクターである。「AAV」ベクターとは、アデノ随伴ウイルスを指し、天然に存在する野生型ウイルス自体またはその誘導体を指すために使用され得る。この用語は、別のことが要求される場合を除いて、全てのサブタイプ、血清型およびシュードタイプ、ならびに天然に存在する形態および組換え形態の両方をカバーする。本明細書で使用する場合、用語「血清型」とは、規定された抗血清とのカプシドタンパク質反応性によって同定され、それに基づいて他のAAVから識別される、AAVを指し、例えば、霊長類AAVの8つの公知の血清型、AAV−1〜AAV−9およびAAVrh10が存在する。例えば、血清型AAV2は、AAV2のcap遺伝子からコードされるカプシドタンパク質ならびに同じAAV2血清型由来の5’および3’ITR配列を含むゲノムを含むAAVを指すために使用される。本明細書で使用する場合、例えば、rAAV1は、同じ血清型由来のカプシドタンパク質および5’−3’ITRの両方を有するAAVを指すために使用され得、またはrAAV1は、1つの血清型由来のカプシドタンパク質および異なるAAV血清型由来の5’−3’ITR、例えば、AAV血清型2由来のカプシドおよびAAV血清型5由来のITRを有する、AAVを指し得る。本明細書に例示される各例について、ベクターの設計および産生の記載は、カプシドおよび5’−3’ITR配列の血清型を記載する。略称「rAAV」とは、組換えAAVベクター(または「rAAVベクター」)とも呼ばれる、組換えアデノ随伴ウイルスを指す。
【0216】
「AAVウイルス」または「AAVウイルス粒子」とは、少なくとも1つのAAVカプシドタンパク質(好ましくは、野生型AAVのカプシドタンパク質の全てによって)およびカプシドで包まれたポリヌクレオチドから構成されるウイルス粒子を指す。粒子が異種ポリヌクレオチド(即ち、哺乳動物細胞に送達される導入遺伝子などの野生型AAVゲノム以外のポリヌクレオチド)を含む場合、これは、典型的には、「rAAV」と呼ばれる。
【0217】
一実施形態では、これらのAAV発現ベクターは、作動可能に連結した構成成分として、転写の方向で、転写イニシエーション領域を含む制御エレメント、目的のDNAおよび転写終結領域を少なくとも提供するために、公知の技術を使用して構築される。これらの制御エレメントは、哺乳動物細胞において機能的であるように選択される。作動可能に連結した構成成分を含む得られた構築物は、機能的AAV ITR配列と隣接している(5’および3’)。
【0218】
「アデノ随伴ウイルス逆位末端リピート」または「AAV ITR」とは、DNA複製起点として、およびウイルスのためのパッケージングシグナルとしてシスで一緒に機能する、AAVゲノムの各末端において見出される、当技術分野で認識された領域を意味する。AAV ITRは、AAV repコード領域と一緒になって、2つの隣接ITR間に介在するヌクレオチド配列の、そこからの効率的な切り出しおよびレスキュー、ならびに哺乳動物細胞ゲノム中へのその組込みを提供する。
【0219】
AAV ITR領域のヌクレオチド配列は、公知である。本明細書で使用する場合、「AAV ITR」は、示された野生型ヌクレオチド配列を有する必要はないが、例えば、ヌクレオチドの挿入、欠失または置換によって変更され得る。さらに、AAV ITRは、限定ではなくAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV7などが含まれる、いくつかのAAV血清型のいずれかに由来し得る。さらに、意図したように、即ち、宿主細胞ゲノムまたはベクターからの目的の配列の切り出しおよびレスキューを可能にするように、ならびにAAV Rep遺伝子産物が細胞中に存在する場合にレシピエント細胞ゲノム中への異種配列の組込みを可能にするようにそれらが機能する限り、AAVベクター中の選択されたヌクレオチド配列に隣接する5’および3’ITRは、同じAAV血清型または単離体と同一である必要もそれらに由来する必要も必ずしもない。
【0220】
一実施形態では、AAV ITRは、限定ではなくAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV7などが含まれる、いくつかのAAV血清型のいずれかに由来し得る。さらに、意図したように、即ち、宿主細胞ゲノムまたはベクターからの目的の配列の切り出しおよびレスキューを可能にするように、ならびにAAV Rep遺伝子産物が細胞中に存在する場合にレシピエント細胞ゲノム中へのDNA分子の組込みを可能にするようにそれらが機能する限り、AAV発現ベクター中の選択されたヌクレオチド配列に隣接する5’および3’ITRは、同じAAV血清型または単離体と同一である必要もそれらに由来する必要も必ずしもない。
【0221】
一実施形態では、AAVカプシドは、AAV2由来であり得る。AAVベクターにおける使用に適切なDNA分子は、約5キロベース(kb)未満、約4.5kb未満、約4kb未満、約3.5kb未満、約3kb未満、約2.5kb未満のサイズであり、当技術分野で公知である。
【0222】
一実施形態では、この選択されたヌクレオチド配列は、被験体においてin vivoでその転写または発現を指示する制御エレメントに作動可能に連結される。かかる制御エレメントは、選択された遺伝子と通常関連する制御配列を含み得る。あるいは、異種制御配列が使用され得る。有用な異種制御配列には、一般に、哺乳動物またはウイルスの遺伝子をコードする配列由来のものが含まれる。例には、SV40初期プロモーター、マウス乳癌ウイルスLTRプロモーター;アデノウイルス主要後期プロモーター(Ad MLP);単純ヘルペスウイルス(HSV)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、例えば、CMV最初期プロモーター領域(CMVIE)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、pol IIプロモーター、pol IIIプロモーター、合成プロモーター、ハイブリッドプロモーターなどが含まれるがこれらに限定されない。さらに、マウスメタロチオネイン遺伝子などの非ウイルス遺伝子由来の配列もまた、本明細書で使用を見出す。かかるプロモーター配列は、例えば、Stratagene(San Diego、Calif.)から市販されている。
【0223】
一実施形態では、異種プロモーターならびに他の制御エレメント、例えば、CNS特異的および誘導性プロモーター、エンハンサーなどの両方が、特に使用される。異種プロモーターの例には、CMVプロモーターが含まれる。CNS特異的プロモーターの例には、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、グリア線維酸性タンパク質(GFAP)およびニューロン特異的エノラーゼ(NSE)由来の遺伝子から単離されたものが含まれる。誘導性プロモーターの例には、エクジソン、テトラサイクリン、低酸素およびオーフィン(aufin)に対するDNA応答性エレメントが含まれる。
【0224】
一実施形態では、AAV ITRによって境界された目的のDNA分子を保有するAAV発現ベクターは、主要AAVオープンリーディングフレーム(「ORF」)がそこから切り出されたAAVゲノム中に、選択された配列(複数可)を直接挿入することによって構築され得る。AAVゲノムの他の部分は、ITRの十分な部分が複製およびパッケージング機能を可能にする限り、欠失されることもできる。かかる構築物は、当技術分野で周知の技術を使用して設計され得る。
【0225】
あるいは、AAV ITRは、ウイルスゲノムから、または標準的なライゲーション技術を使用して別のベクター中に存在する選択された核酸構築物の同じおよび融合された5’および3’を含むAAVベクターから、切り出され得る。例えば、ライゲーションは、20mM Tris−Cl pH7.5、10mM MgCl
2、10mM DTT、33μg/ml BSA、10mM〜50mMのNaCl、ならびに0℃における40uM ATP、0.01〜0.02(Weiss)単位のT4 DNAリガーゼ(「粘着末端」ライゲーションについて)または14℃における1mM ATP、0.3〜0.6(Weiss)単位のT4 DNAリガーゼ(「平滑末端」ライゲーションについて)のいずれかにおいて、達成され得る。分子間「粘着末端」ライゲーションは、30〜100μg/mlの総DNA濃度(5〜100nMの総最終濃度)で、通常実施される。ITRを含むAAVベクター。
【0226】
さらに、キメラ遺伝子は、1または複数の選択された核酸配列の5’側および3’側に整列されたAAV ITR配列を含むように、合成によって産生され得る。哺乳動物CNS細胞におけるキメラ遺伝子配列の発現に好ましいコドンが使用され得る。完全キメラ配列は、標準的な方法によって調製された重複するオリゴヌクレオチドからアセンブルされる。
【0227】
rAAVビリオンを産生するために、AAV発現ベクターは、公知の技術を使用して、例えばトランスフェクションによって、適切な宿主細胞中に導入される。いくつかのトランスフェクション技術が、当技術分野で一般に公知である。例えば、Sambrookら(1989年)Molecular Cloning、a laboratory manual、Cold Spring Harbor Laboratories、New Yorkを参照のこと。特に適切なトランスフェクション方法には、リン酸カルシウム共沈殿、培養細胞中への直接的マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リポソーム媒介性遺伝子移入、脂質媒介性形質導入、および高速度微粒子射出(high-velocity microprojectile)を使用する核酸送達が含まれる。
【0228】
一実施形態では、rAAVビリオンを産生するのに適切な宿主細胞には、異種DNA分子のレシピエントとして使用され得る、または使用されてきた、微生物、酵母細胞、昆虫細胞および哺乳動物細胞が含まれる。この用語は、トランスフェクトされた元の細胞の子孫を含む。したがって、「宿主細胞」とは、本明細書で使用する場合、外因性DNA配列でトランスフェクトされた細胞を一般に指す。安定なヒト細胞株、293(例えば、受託番号ATCC CRL1573の下でAmerican Type Culture Collectionから容易に入手可能)由来の細胞が、本開示の実施において使用され得る。特に、ヒト細胞株293は、アデノウイルス5型DNA断片で形質転換されたヒト胎児由来腎臓細胞株であり、アデノウイルスE1aおよびE1b遺伝子を発現する。293細胞株は、容易にトランスフェクトされ、rAAVビリオンを産生するための特に簡便なプラットホームを提供する。
【0229】
「AAV repコード領域」とは、複製タンパク質Rep78、Rep68、Rep52およびRep40をコードする、AAVゲノムの、当技術分野で認識された領域を意味する。これらのRep発現産物は、DNA複製のAAV起点の認識、結合およびニック形成、DNAヘリカーゼ活性、ならびにAAV(または他の異種)プロモーターからの転写のモジュレーションを含む、多くの機能を有することが示されている。これらのRep発現産物は、AAVゲノムを複製するために集合的に必要とされる。AAV repコード領域の適切なホモログには、AAV−2 DNA複製を媒介することも公知のヒトヘルペスウイルス6(HHV−6)rep遺伝子が含まれる。
【0230】
「AAV capコード領域」とは、カプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3、またはそれらの機能的ホモログをコードする、AAVゲノムの、当技術分野で認識された領域を意味する。これらのCap発現産物は、ウイルスゲノムをパッケージングするために集合的に必要とされるパッケージング機能を供給する。
【0231】
一実施形態では、AAVヘルパー機能は、AAV発現ベクターのトランスフェクションの前にまたはそれと同時に、AAVヘルパー構築物で宿主細胞をトランスフェクトすることによって、宿主細胞中に導入される。したがって、AAVヘルパー構築物は、生産的なAAV感染に必要な欠けているAAV機能を補完するために、AAV repおよび/またはcap遺伝子の少なくとも一過的な発現を提供するために使用される。AAVヘルパー構築物は、AAV ITRを欠き、それ自体では複製もパッケージングもできない。これらの構築物は、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、ウイルスまたはビリオンの形態であり得る。RepおよびCapの両方の発現産物をコードする、一般に使用されるプラスミドpAAV/AdおよびpIM29+45などの、いくつかのAAVヘルパー構築物が記載されている。Repおよび/またはCap発現産物をコードするいくつかの他のベクターが記載されている。
【0232】
ウイルスベクターの送達の方法は、AAVを被験体中に注射することを含む。一般に、rAAVビリオンは、in vivoまたはin vitroのいずれかの形質導入技術を使用して、CNSの細胞中に導入され得る。in vitroで形質導入される場合、所望のレシピエント細胞が、被験体から取り出され、rAAVビリオンで形質導入され、被験体中に再導入される。あるいは、同系間または異種間細胞が使用され得、ここで、これらの細胞は、被験体において不適切な免疫応答を生じない。
【0233】
被験体中への形質導入された細胞の送達および導入のための適切な方法は、記載されている。例えば、細胞は、組換えAAVビリオンを、例えば適切な培地中でCNS細胞と合わせることによって、in vitroで形質導入され得、目的のDNAを保有する細胞についてのスクリーニングは、従来の技術、例えば、サザンブロットおよび/もしくはPCRを使用して、または選択可能なマーカーを使用することによって、スクリーニングされ得る。次いで、形質導入された細胞は、以下により完全に記載される医薬組成物へと製剤化され得、この組成物は、種々の技術によって、例えば、移植、筋内、静脈内、皮下および腹腔内注射によって、被験体中に導入され得る。
【0234】
一実施形態では、医薬組成物は、目的の核酸の治療有効量、即ち、問題の疾患状態の症状を低減もしくは寛解させるのに十分な量、または所望の利益を付与するのに十分な量を産生するのに十分な遺伝子材料を含む。これらの医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤もまた含む。かかる賦形剤には、組成物を受けている個体にとって害になる抗体の産生をそれ自体は誘導せず、過度の毒性なしに投与され得る、任意の薬学的薬剤が含まれる。薬学的に許容される賦形剤には、ソルビトール、Tween80、ならびに液体、例えば、水、食塩水、グリセロールおよびエタノールが含まれるがこれらに限定されない。その中で、薬学的に許容される塩には、例えば、鉱酸塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩など;および有機酸の塩、例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩などが含まれ得る。さらに、補助的物質、例えば、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝化物質などが、かかるビヒクル中に存在し得る。薬学的に許容される賦形剤の詳細な論述は、Remington's Pharmaceutical Sciences(Mack Pub. Co.、N.J. 1991年)において入手可能である。
【0235】
1よりも多い導入遺伝子が、送達されたウイルスベクターによって発現され得ることを理解すべきである。あるいは、各々1または複数の異なる導入遺伝子を発現する別々のベクターもまた、本明細書に記載されるように被験体に送達され得る。さらに、本開示の方法によって送達されるウイルスベクターは、他の適切な組成物および治療と組み合わされることもまた、意図される。
【0236】
本明細書の教示を考慮して当業者に明らかなように、添加される必要があるウイルスベクターの有効量は、実験的に決定され得る。投与は、1つの用量で、処置の過程を通じて持続的にまたは間欠的に、もたらされ得る。投与の最も有効な手段および投薬量を決定する方法は、当業者に周知であり、ウイルスベクター、治療の組成物、標的細胞、および処置されている被験体によって変動する。単一および複数回の投与が、処置を行う医師によって選択される用量レベルおよびパターンで実施され得る。
【0237】
ある特定の実施形態では、このrAAVは、約0.3〜2mlの1×10
5〜1×10
16vg/mlの用量で投与される。ある特定の実施形態では、このrAAVは、約1〜3mlの1×10
7〜1×10
14vg/mlの用量で投与される。ある特定の実施形態では、このrAAVは、約1〜2mlの1×10
8〜1×10
13vg/mlの用量で投与される。
【0238】
rAAV粒子を含む製剤は、ビヒクル中に有効量のrAAV粒子を含み、この有効量は、当業者によって容易に決定される。これらのrAAV粒子は、典型的には、組成物の約1%から約95%(w/w)までの、または、必要に応じて、さらにより高いもしくはより低いところまでの範囲であり得る。投与すべき量は、処置が考慮される動物またはヒト被験体の齢、体重および肉体的状態などの因子に依存する。有効な投薬量は、用量反応曲線を確立する慣用的な試験によって、当業者によって確立され得る。被験体は、1または複数の用量でのrAAV粒子の投与によって処置される。適切な酵素活性を維持することが必要とされる場合、複数の用量が投与され得る。
【0239】
水、水性食塩水、人工CSFまたは他の公知の物質を含むビヒクルが、本発明で使用され得る。製剤を調製するために、精製された組成物は、単離、凍結乾燥および安定化され得る。次いで、この組成物は、任意選択で抗炎症剤と組み合わせて、適切な濃度に調整され得、使用のためにパッケージングされ得る。
【0240】
本発明は、タンパク質、または上記タンパク質をコードする核酸分子を、細胞における標的タンパク質のレベルを増加させるのに十分な量で細胞中に導入することによって、細胞における標的タンパク質のレベルを増加させる方法を提供する。ある特定の実施形態では、標的タンパク質の蓄積は、少なくとも10%増加される。標的タンパク質の蓄積は、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%増加される。
【0241】
さらに、このAAVベクターは、投与の所望の経路に従って、例えば限定ではなく全身投与のために、選択/設計され得、血液脳関門を横断することが可能なAAVベクターが使用され得る(例えば、AAV9、またはAAV9カプシドタンパク質を有するキメラAAVベクター)。一部の血清型は、血液脳関門を横切ることが可能であるので、本発明は、AAVを血流に投与する方法もまた提供する。
【0242】
標的化ペプチド
ウイルスベクターなどの薬剤を中枢神経系の血管内皮細胞に標的化するように機能するペプチドが同定されている。本開示は、例えば、ウイルスカプシドを目的の細胞型に再指向させるためにこれらの新規ペプチドを利用する方法を記載している。この例では、脳血管を裏打ちする内皮細胞が、同定されたペプチドによって標的化される。かかるペプチドを含むように改変されたカプシドタンパク質を保有するベクターは、治療剤を中枢神経系(例えば、脳)に提供するために使用され得る。
【0243】
本明細書で使用する場合、用語「標的化する」とは、アデノ随伴ウイルス(AAV)などのウイルスのカプシドタンパク質が、別の型の組織(例えば、肝臓組織)を超えて1つの型の組織(例えば、脳組織)に優先的に結合し、および/または特定の状態(例えば、野生型または罹患した)にある組織に結合することを意味する。ある特定の実施形態では、この遺伝的に改変されたカプシドタンパク質は、匹敵する未改変のカプシドタンパク質よりも10%〜1000%高いレベルで結合することによって、脳血管上皮組織を「標的化」し得る。例えば、遺伝的に改変されたカプシドタンパク質を有するAAVは、未改変のAAVウイルスよりも50%〜100%高いレベルで脳血管上皮組織に結合し得る。ある特定の実施形態では、ウイルスのカプシドタンパク質をコードする核酸は、ウイルスカプシドが、リソソーム蓄積症に罹患している哺乳動物において脳血管内皮に優先的に結合し、または異なる配列を使用して、同じ種の脳における野生型脳血管内皮に優先的に結合するように、改変される。
【0244】
本発明は、標的化ペプチドを含む改変されたアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質を提供し、この標的化ペプチドは、長さが3〜10アミノ酸であり、この標的化ペプチドは、AAVを脳血管内皮に標的化する。ある特定の実施形態では、この標的化ペプチドは、長さが3、4、5、6または7アミノ酸である。ある特定の実施形態では、このAAVはAAV2であるが、トロピズムは、かかる改変が任意のAAVのトロピズムを変化させることになるように、改変される。
【0245】
本開示のある特定の実施形態は、改変されたカプシドを含むウイルスベクターを提供し、この改変されたカプシドは、ウイルスベクターを脳血管内皮に標的化する少なくとも1つのアミノ酸配列を含む。
【0246】
ある特定の実施形態では、このウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)である。ある特定の実施形態では、このAAVはAAV2である。
【0247】
ある特定の実施形態では、この標的化ペプチドは、野生型脳血管内皮を標的化する。ある特定の実施形態では、この標的化ペプチドは、アミノからカルボキシの配向でまたはカルボキシからアミノの配向で表される、PXXPS(配列番号44)、SPXXP(配列番号45)、TLH(配列番号46)またはQSXY(配列番号47)である。ある特定の実施形態では、この標的化ペプチドは、アミノからカルボキシの配向でまたはカルボキシからアミノの配向で表される、PYFPSLS(配列番号48)、YAPLTPS(配列番号49)、PLSPSAY(配列番号50)、DSPAHPS(配列番号51)、GTPTHPS(配列番号52)、PDAPSNH(配列番号53)、TEPHWPS(配列番号54)、SPPLPPK(配列番号55)、SPKPPPG(配列番号56)、NWSPWDP(配列番号57)、DSPAHPS(配列番号58)、GWTLHNK(配列番号59)、KIPPTLH(配列番号60)、ISQTLHG(配列番号61)、QSFYILT(配列番号62)、またはTTQSEYG(配列番号63)である。配列の配向が重要でないことに留意すべきである。例えば、このペプチドは、TTQSEYG(配列番号63)になるように、ペプチドのアミノ末端からカルボキシ末端へと配向され得、またはGYESQTT(配列番号65)になるように、ペプチドのアミノ末端からカルボキシ末端へであり得る。
【0248】
ある特定の実施形態では、この標的化ペプチドは、罹患した脳血管内皮を標的化する。ある特定の実施形態では、この標的化ペプチドは、リソソーム蓄積症を有する被験体において脳血管内皮を標的化する。ある特定の実施形態では、この標的化ペプチドは、ムコ多糖(mucopolysaccharide)(MPS)VII脳血管内皮を標的化する。ある特定の実施形態では、この標的化ペプチドは、アミノからカルボキシの配向またはカルボキシからアミノの配向で表される、LXSS(配列番号66)、PFXG(配列番号67)またはSIXA(配列番号68)である。ある特定の実施形態では、この標的化ペプチドは、アミノからカルボキシの配向でまたはカルボキシからアミノの配向で表される、MLVSSPA(配列番号69)、LPSSLQK(配列番号70)、PPLLKSS(配列番号71)、PXKLDSS(配列番号72)、AWTLASS(配列番号73)、WPFYGTP(配列番号74)、GTFPFLG(配列番号75)、GQVPFMG(配列番号76)、ANFSILA(配列番号77)、GSIWAPA(配列番号78)、またはSIAASFS(配列番号79)である。
【0249】
ある特定の実施形態では、標的化ペプチドは、TPP1脳血管内皮を標的化する。ある特定の実施形態では、この標的化ペプチドは、アミノからカルボキシの配向でまたはカルボキシからアミノの配向で表される、GMNAFRA(配列番号64)である。
【0250】
ある特定の実施形態では、脳血管内皮を標的化するアミノ酸配列は、配列番号44〜47のうち少なくとも1つを含む。
【0251】
ある特定の実施形態では、脳血管内皮を標的化するアミノ酸配列は、配列番号66〜68のうち少なくとも1つを含む。
【0252】
ある特定の実施形態では、脳血管内皮を標的化するアミノ酸配列は、配列番号48〜63のうち少なくとも1つを含む。
【0253】
ある特定の実施形態では、脳血管内皮を標的化するアミノ酸配列は、配列番号69〜79のうち少なくとも1つを含む。
【0254】
ある特定の実施形態では、脳組織を標的化するアミノ酸配列は、以下の表1に列挙されたものから選択される:
【0256】
ある特定の実施形態では、脳血管内皮を標的化するアミノ酸配列は、リソソーム蓄積症などの疾患を有する被験体において、脳血管内皮を標的化する。
【0257】
ある特定の実施形態では、脳血管内皮を標的化するアミノ酸配列は、リソソーム蓄積症を有さない被験体において、脳血管内皮を標的化する。
【0258】
ある特定の実施形態では、このウイルスベクターは、治療剤をコードする核酸配列を含む。ある特定の実施形態では、この治療剤は、β−グルクロニダーゼである。
【0259】
ある特定の実施形態では、脳血管内皮を標的化するアミノ酸配列は、長さが多くても10アミノ酸である。
【0260】
ある特定の実施形態では、脳血管内皮を標的化するアミノ酸配列は、長さが3、4、5、6または7アミノ酸である。
【0261】
本開示のある特定の実施形態は、本明細書に記載されるウイルスベクターをコードする核酸配列を提供する。
【0262】
本開示のある特定の実施形態は、本明細書に記載される改変されたカプシドをコードする核酸配列を提供する。本開示のある特定の実施形態は、本明細書に記載される核酸配列によってコードされる改変されたカプシドを提供する。
【0263】
本開示のある特定の実施形態は、本明細書に記載されるウイルスベクターを含む細胞を提供する。
【0264】
本開示のある特定の実施形態は、本明細書に記載されるウイルスベクターによって形質導入された細胞を提供する。
【0265】
ある特定の実施形態では、この細胞は、哺乳動物細胞である。ある特定の実施形態では、この細胞は、ヒト細胞である。ある特定の実施形態では、この細胞は、非ヒト細胞である。ある特定の実施形態では、この細胞は、in vitroである。ある特定の実施形態では、この細胞は、in vivoである。ある特定の実施形態では、この細胞は、内皮細胞である。ある特定の実施形態では、この細胞は、血管内皮細胞である。
【0266】
本発明の薬剤の投薬量、製剤化および投与の経路
本発明の薬剤は、好ましくは、疾患と関連する少なくとも1つの症状における低減を生じるように、投与される。投与される量は、選択された組成物、特定の疾患、体重、肉体的状態、哺乳動物の齢、および予防または処置が達成されるかどうかが含まれるがこれらに限定されない、種々の因子に依存して変動する。かかる因子は、当技術分野に周知の動物モデルまたは他の試験系を使用して、医師によって容易に決定され得る。本明細書で使用する場合、用語「治療的siRNA」とは、レシピエントに対して有益な効果を有する任意のsiRNAを指す。したがって、「治療的siRNA」は、治療的siRNAおよび予防的siRNAの両方を包含する。
【0267】
siRNAの投与は、siRNAをコードする核酸分子の投与を介して達成され得る。核酸のための医薬製剤、投薬量および投与の経路は、一般に公知である。
【0268】
本発明は、薬剤、例えば、本発明の核酸組成物、発現ベクターまたはウイルス粒子の投与によって、哺乳動物においてハンチントン病を処置することを想定する。本発明に従う治療剤の投与は、例えば、レシピエントの生理学的状態、投与の目的が治療的であるか予防的であるか、および当業者に公知の他の因子に依存して、持続的または間欠的であり得る。本発明の薬剤の投与は、予め選択された期間にわたって本質的に持続的であり得、または一連の間隔をあけた用量であり得る。局所的投与および全身投与の両方が企図される。
【0269】
以下に論じるように、徐放のために(例えば、マイクロカプセル化を使用して、それらの開示が参照によって本明細書に組み込まれる、WO94/07529および米国特許第4,962,091号を参照のこと)任意選択で製剤化され得る本発明の治療剤(複数可)を有する1または複数の適切な単位剤形は、静脈内および筋内経路によるもの、ならびに罹患組織中への直接的注射によるものを含む、非経口を含む種々の経路によって投与され得る。例えば、この治療剤は、脳中に直接注射され得る。あるいは、この治療剤は、脳および脊髄の状態のために、くも膜下腔内に導入され得る。別の例では、この治療剤は、筋肉から罹患ニューロンに戻り移動するウイルス、例えば、AAV、レンチウイルスおよびアデノウイルスについては、筋内で導入され得る。これらの製剤は、適切な場合、個別の単位剤形中に簡便に提示され得、薬学に周知の方法のいずれかによって調製され得る。かかる方法は、治療剤を液体担体、固体マトリックス、半固体担体、微細に分割された固体担体またはそれらの組合せと会合させるステップ、および次いで、必要に応じて、その産物を所望の送達系中に導入するまたは所望の送達系の形状にするステップを含み得る。
【0270】
本発明の治療剤が投与のために調製される場合、それらは、好ましくは、医薬製剤または単位剤形を形成するために、薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤と組み合わされる。かかる製剤中の総活性成分は、製剤の0.1〜99.9重量%を含む。「薬学的に許容される」は、製剤の他の成分と適合性であり、そのレシピエントにとって有害でない、担体、希釈剤、賦形剤および/または塩である。投与のための活性成分は、粉末としてまたは顆粒として、溶液、懸濁物またはエマルジョンとして、存在し得る。
【0271】
本発明の治療剤を含む医薬製剤は、周知かつ容易に入手可能な成分を使用して、当技術分野で公知の手順によって調製され得る。本発明の治療剤は、例えば、筋内、皮下または静脈内経路による非経口投与に適切な溶液としても、製剤化され得る。
【0272】
本発明の治療剤の医薬製剤は、水性もしくは無水の溶液もしくは分散物の形態、またはあるいは、エマルジョンもしくは懸濁物の形態もまたとり得る。
【0273】
したがって、この治療剤は、(例えば、注射、例えば、ボーラス注射または持続的注入による)非経口投与のために製剤化され得、アンプル、事前充填シリンジ、小容量注入コンテナ中に、または防腐剤が添加された多用量コンテナ中に、単位用量形態で提示され得る。活性成分は、油性または水性ビヒクル中の懸濁物、溶液またはエマルジョンなどの形態をとり得、懸濁剤、安定化剤および/または分散剤などの製剤用薬剤を含み得る。あるいは、活性成分は、使用前の、適切なビヒクル、例えば、無菌の、発熱物質を含まない水による構成のための、無菌固体の無菌性単離または溶液からの凍結乾燥によって取得された粉末形態であり得る。
【0274】
必要な有効量は、複数の投薬単位の投与によって達成され得るので、各剤形の個々のエアロゾル用量中に含まれる活性成分(単数または複数)の単位含量は、特定の適応症または疾患を処置するための有効量をそれ自体で構成する必要はないことが、理解される。さらに、この有効量は、個々に、または一連の投与で、剤形中の用量未満を使用して、達成され得る。
【0275】
本発明の医薬製剤は、任意選択の成分として、当技術分野で周知の型の、薬学的に許容される担体、希釈剤、可溶化剤または乳化剤および塩を含み得る。本発明の医薬製剤において有用な担体および/または希釈剤の具体的な非限定的な例には、水および生理学的に許容される緩衝食塩水溶液、例えば、リン酸緩衝食塩水溶液 pH7.0〜8.0食塩水溶液および水が含まれる。
【0276】
本発明は、以下の非限定的な実施例によってここで例示される。
【実施例】
【0277】
(実施例1)
単一ヌクレオチドのシード改変は、マウス脳における毒性miRNA配列のin vivo許容性を回復させる
【0278】
ハンチントン病(HD)は、ハンチンチン(HTT)のポリグルタミン伸長形態の発現によって引き起こされる、致死的な神経変性疾患である。最近の研究により、RNA干渉(RNAi)を含む遺伝子サイレンシングアプローチが、HDマウスモデルにおいて疾患リードアウトを改善することが示されている。HTT標的化RNAiをクリニックまで前進させるために、本発明者らは、頑強なオンターゲットサイレンシング効力および意図しないヒト転写産物の最小化されたサイレンシングを有するRNAi構築物、HDS1を設計した(McBrideら、Mol Ther. 2011年12月、19巻(12号)、2152〜2162頁)。Rhesus macaquesでは、被殻へのAAV.miHDS1の送達は、注射の6週間後まで、細かい運動スキルおよび大まかな運動スキルを含む神経学的状態に対する有害効果なし、免疫活性化なし、ならびに神経病理学なしで、HTT発現を低減させた。他者は、注射後6ヶ月間にわたって、サルにおいて異なるHTT標的化RNAiの安全性を示した。
【0279】
HD患者へのHDS1の適用は、それがヒトのために最適化されたという事実にもかかわらず、げっ歯類におけるさらなる安全性試験を必要とする。この規制上の要件を満たすために、本発明者らは、AAV.miHDS1注射後にマウスを評価した。サルとは対照的に、神経学的欠陥がマウス脳において急性的に生じ、これは、miHDS1と他の転写産物の3’非翻訳領域との相互作用を介したオフターゲットサイレンシングに起因し得る。本発明者らは、マウス脳におけるmiHDS1毒性を解決し、miHDS1−サイレンシング効力を維持したが、これらの研究は、ヒト使用のために安全性のために核酸ベースの薬を最適化することが、げっ歯類または他の遠縁の種における安全性試験にとって、課題を提示することを強調している。
【0280】
HDは、ハンチンチンの第1エクソン内でのCAGリピート伸長(>36リピート)によって引き起こされる。変異体ハンチンチン(mHTT)は、遍在的に発現されるが、脳、特に線条体は、頑強かつより早期の変性を示す。HDの発生率は、欧州および米国において100,000個体当たり約5〜10人であり、発病は、一般には、20歳代または30歳代に生じる。今日まで、HDの管理は、運動症状または精神症状を低減させ得る薬物を含んでいる。
【0281】
HDの誘導可能なモデルを使用した以前の研究により、mHTT発現が一旦止まると、疾患発病および線条体萎縮症の数週間後であっても、疾患症状が改善することが示されている。これは、初期症状発病後にHDを処置する絶好のチャンスが存在することを暗示している。したがって、RNAiを含む遺伝子サイレンシングテクノロジーを使用して遺伝子発現を低減させる方法を、治療的代替法として調査すべきである。
【0282】
RNAiは、二本鎖低分子非コードRNA(例えば、miRNA)が、標的化されたmRNA配列の配列特異的分解を引き起こす、転写後遺伝子サイレンシングの進化的に保存されたプロセスである。内因性RNAi経路は、マイクロプロセッサー複合体の構成成分Droshaによって核において順次切断されて、前駆体miRNA(pre−miRNA)を生成する、より大きい一次RNA転写産物(pri−miRNA)の発現によって始まる。Pre−miRNAは、細胞質にエキスポートされ、引き続いてDicerによって切断されて、成熟miRNAを放出する。miRNA配列の2つの鎖のうち、一方(アンチセンス「ガイド」鎖)は、一般に、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)中に優先的に取り込まれ、ここで、標的mRNAに直接結合し、発現を阻害する。miRNAは、典型的には、部分的相補性を介してmRNA発現を抑圧する。Dicer切断から出現するdsRNAの一方の鎖が、その標的に対して完全に相補的である場合、得られた低分子干渉RNA(siRNA)は、「ガイド」鎖のヌクレオチド10および11の向かいの塩基における標的のエンドヌクレアーゼ的切断を指示し、mRNA破壊を誘発する。科学者は、内因性RNAi経路を選出し、特異的遺伝子の発現を抑制するために、異なる発現ベースの系を開発した。例えば、RNAi発現系は、標的化されたmRNAに対して相補的なその鎖の一方を有する低分子ヘアピンRNA配列を発現させ、pre−miRNA(短鎖ヘアピンRNA;shRNA)またはpri−miRNA(人工miRNA)ステップにおいてこの経路に進入するように、設計され得る。
【0283】
細胞中に急性的にトランスフェクトされる発現系またはsiRNAについて、活性なガイド鎖を、最小のオフシークエンス(off-sequence)サイレンシングと可能な限り特異的であるように設計する。ガイドと、完全な相補性を有する他の転写産物との相互作用から生じるオフシークエンスサイレンシングは、標準的な検索アルゴリズムを使用して回避され得る。回避がより困難な型のオフターゲティングは、他のmRNA 3’UTR配列との、ロードされた鎖の5’末端における塩基2〜7の、RNAiシード配列の部分的相補性に起因して生じるものである。この場合、発現の抑圧は、miRNA様機構を介して生じる。以前の研究において、本発明者らは、RISCローディングへの強い鎖偏向、および意図しないヒト転写産物に対する最小化されたオフターゲットサイレンシング潜在力を有する、強力なRNAi配列を設計するために、アルゴリズムsiSPOTRを開発した。siSPOTRを使用して、HTTサイレンシングのためのトリガーを設計した場合、本発明者らは、AAVベクターから発現されたmiHDS1が、非ヒト霊長類被殻への送達後に複数のレベルで安全性を示したことを見出した。
【0284】
ヒト適用のための前提条件として、本発明者らは、正常なげっ歯類において安全性を評価するための追跡実験を実施した。特に、本発明者らは、HDS1が、Bcl2の意図しないサイレンシングに起因し得る、線条体注射後の頑強な運動欠陥を誘導したことを見出した。本発明者らは、オフターゲティング毒性が、HTT−サイレンシング効力を維持したままで、いくつかの戦略によって解決され得ることを、さらに示している。全体として、これらの研究は、遠縁の種において使用した場合に、異なる、おそらくは疾患誘導性のオフターゲティングプロファイルを示す核酸ベースの薬を、ヒトにおける特異性および安全性のために最適化するという課題を強調している。
【0285】
結果
【0286】
miHDS1は、マウス脳において神経学的欠陥を誘導する。
【0287】
以前の研究において、本発明者らは、高いオンターゲットサイレンシング効力および最小化されたオフターゲット潜在力を有する、ハンチンチンに対する人工miRNA配列、miHDS1を設計した(
図1A)。miHDS1を発現するAAVベクターを非ヒト霊長類の被殻中に注射した場合、HTTレベルは有意に低減され、ニューロン変性、免疫応答または運動欠陥の徴候は存在しなかった。全体として、これらの研究は、HD治療剤としてのmiHDS1の潜在力を強調した。しかし、ヒト適用のための前提条件として、げっ歯類などの別の種におけるさらなる試験が必要とされる。したがって、本発明者らは、それがヒト細胞における安全性のために設計されたという事実にもかかわらず、正常マウスにおけるAAV.miHSD1の安全性試験を実施することを目指した。
【0288】
前臨床構築物を構築することにおける最初のステップとして、本発明者らは、形質導入された領域の可視化のために本発明者らの以前の研究において使用したeGFP発現カセットではなく、スタッファー配列を含むように、AAV.miHSD1ベクターを再設計した。このスタッファー配列は、エンハンサーまたはリプレッサー配列、スプライスアクチベーターまたはリプレッサー、およびアンチセンスまたは他の非コードRNAを欠き、小さいRNAi発現カセットの最適なパッケージングのための十分なサイズであるように、設計した。最終AAV2/1ベクターは、本発明者らのin vivo研究の多くにおいて以前に使用した対照、miHDS1またはmiCtlを発現した(
図1B)。
【0289】
野生型マウスを計量し、基底ロータロッド成績を、等しい能力の群への動物の分配の前に7週齢の時点で評価した(群間の処置前の差異を回避するため)。AAV.miHDS1またはAAV.miCtlを、AAVmiHDS1/スタッファー(n=13)およびAAVmiCtl/スタッファー(n=11)ウイルスによって、8週齢の時点で線条体中に両側的に注射した(
図1C、D)。AAV送達の早くも2ヶ月後に、miHDS1を発現するマウスは、対照処置した同腹仔と比較して、有意なロータロッド欠陥を有し、減少した落下までの潜時を示した(
図1D)。そして、全ての動物は、研究の過程にわたって体重増加したが、HDS1処置したマウスは、miCtl処置したマウスよりも増加が有意に少なかった(
図1E)。
【0290】
マウス脳におけるmiHDS1オフターゲット遺伝子の特徴付け。
【0291】
miHDS1を、ヒト転写産物の最小のオフターゲットサイレンシングを有するように設計したが、マウスにおける安全性のためには最適化せず、本発明者らは、マウス転写産物に対する潜在的毒性について、配列をin silicoで事前に評価しなかった。サルにおいて以前に使用したAAV.miHDS1.eGFP構築物は、適切な鎖ローディングを示したが、本発明者らは、次に、いずれか一方の鎖が、ロードされた場合に、オフターゲットサイレンシングを惹起できるので、鎖偏向についてmiHDS1.スタッファー発現カセットの忠実度を試験した。このために、本発明者らは、ルシフェラーゼレポーターの下流にクローニングされたmiHDS1標的からなるレポーター構築物を設計した。本発明者らは、ガイド鎖からの抑圧を見出し、非ガイド鎖からの抑圧がないことを見出した(
図1G)。これは、HDS1.eGFP発現カセットの本発明者らの以前のin vitro発現分析と一致しており、本発明者らが、RISC複合体中へのガイド「アンチセンス」鎖の適切なローディングを促進するために、低い5’末端熱力学的安定性を有するmiHDS1配列を設計したという事実によって支持される。したがって、miHDS1発現によって観察されたニューロン欠陥は、意図しないmRNAの3’UTRへのガイド「アンチセンス」鎖の結合、およびmiRNA様機構によるサイレンシング発現に起因する可能性が高い。
【0292】
以前の研究により、ほとんどのオフターゲット効果は、他のmRNA 3’UTRへのシード媒介性の結合に起因していることが実証されているので、本発明者らは、一般的なin silicoアプローチを使用して、可能性のあるmiHDS1オフターゲットを最初に同定した。TargetScan(TS)およびPITAアルゴリズムなどの、多くの異なる標的予測プログラムが、推定miRNA結合部位を同定すると記載されている。TargetScanは、miRNAシード配列に対して相補的な8マーおよび7マー部位の存在について3’UTR配列を検索することによって、特異的miRNAのための生物学的標的を予測する。このアルゴリズムは、miRNA媒介性調節に好都合であることが公知の、代償的3’塩基対合、局所的配列コンテクストおよび強い配列保存を有する標的部位を優先順位付けすることによって、標的予測精度を改善している。以前の研究により、シード媒介性のオフターゲット効果が種特異的であることが示されているので、本発明者らは、TargetScanを使用して、マウス3’UTRトランスクリプトームにおいて、シード配列相補性に基づいて標的を予測した。PITAアルゴリズムは、miRNA結合部位を予測するために、標的−部位アクセス可能性を取り込む。所与の標的部位について、PITAは、標的へのmiRNAの結合(dG
二重鎖)と対合していない標的−部位ヌクレオチド(dG
オープン)との間での自由エネルギー差、ddGスコア値を決定する。PITAに基づいて、−10を下回るddGスコアは、内因性miRNA標的に対して機能的である可能性がより高いが、過剰発現されたmiRNA配列についての閾値は、より高くなり得る(0と−10との間)。したがって、本発明者らのアプローチにおいて、本発明者らは、TargetScanを使用して、全ての潜在的シード結合部位を同定し、その後、PITAアルゴリズムによって、ddGスコアを決定し、全ての潜在的miHDS1部位をランク付けした。マウス3’UTRomeに対して本発明者らのアプローチを使用して、本発明者らは、miHDS1についての潜在的オフターゲットとして197の転写産物を予測し、170が線条体において発現された(
図3c)。予測されたように、オルソロガスなヒトおよびアカゲザルの3’UTRにおけるmiHDS1オフターゲットの予測により、マウスにおけるmiHDS1オフターゲティングが保存されないことが明らかになった。
【0293】
本発明者らは、オフターゲット遺伝子リストの上位25パーセンタイルの中で、Bcl2、Sdf4、Smad9、Bmi1、Mettl2、Lancl1およびMap2k6を同定した(
図2a、b)。本発明者らは、これらの予測されたオフターゲットおよびマウスHttについてのQ−PCRによって、miCtlまたはmiHDS1で処置したマウスから取得した線条体試料を分析した。予測されたように、マウスHtt発現は、miCtl処置したマウスと比較して、miHDS1処置したマウスにおいて、有意に低減された(最大70%)(
図2c)。評価したオフターゲット転写産物のセットの中で、Bcl2、Sdf4およびMap2k6は、AAV.miHDS1で処置したマウスから取得された組織試料上で、有意に低減された(
図2c)。これらの転写産物の中には、miCtlによって影響されると予測されたものはなかった。本発明者らは、正常Htt対立遺伝子を有する不死化マウスニューロン線条体細胞株(SthdhQ7細胞)を使用して、これらの結果を確認した。SthdhQ7細胞を、miHDS1、miCtlまたは転写産物なし(U6プロモーターのみを含んだ)を発現するプラスミドでエレクトロポレーションし、24時間後、転写産物を、Q−PCRによって分析した。マウス脳において観察されたように、Bcl2発現は、miHDS1発現細胞において低減されたが、miCtlを発現するものまたは対照U6プラスミド処理したものでは低減されなかった(
図2d)。対照的に、Sdf4およびMap2k6発現は、miHDS1の過剰発現によって低減されず(
図2d)、このことは、これらの遺伝子が、in vivoで直接的なオフターゲットではない可能性があり、経時的なHtt抑制または非ニューロン細胞におけるオフターゲット抑制の間接的効果を反映している可能性があることを示唆している;しかし、AAV2/1は、ニューロンを主に形質導入する。興味深いことに、Smad9発現は、SthdhQ7細胞において有意に増加し、miHDS1処置した線条体では、それほど有意ではないものの、上昇した(
図2d)。したがって、本発明者らのスクリーニングにより、マウス3’UTRomeにおいて、HDS1の潜在的な有害なオフターゲットとして、Bcl2が明らかになった。
【0294】
マウス脳における安全性のために、miHDS1をレスキューする。
【0295】
miRNA配列が、触媒的アルゴノートタンパク質(Ago2)を含むRISC中にロードされる場合、miRNAとその標的配列との間の完全な結合相補性が、エンドヌクレアーゼ的mRNA切断を媒介するために必要である。しかし、miRNA配列上の単一点変異によって生成されたミスマッチは、許容され得る。したがって、シード領域によって主に指向されるmiHDS1のオフターゲットプロファイルを改変するために、本発明者らは、サイレンシング効力に影響を与えることなしにシードを変更するように設計した単一点変異を導入した(
図3A)。
【0296】
どのシード変異が(i)オフターゲットプロファイルを効率的に変化させ、(ii)低い全体的オフターゲティング潜在力を維持し、(iii)ヒトHTTをサイレンシングするか、を同定するための最初のステップとして、本発明者らは、miHDS1の全ての単一ヌクレオチドシードバリアント(2〜7位)を使用して、オフターゲット予測分析を繰り返した(
図3C)。オフターゲットプロファイルは、miHDS1のものと広範に重複したので、8位の変異体は放棄した。8位での対合は、miRNA媒介性のサイレンシングに必要でないので、これは予測されたことであった。3位および4位におけるシード変異体もまた放棄したが、それは、これらの変異が、予測されたオフターゲットの数を顕著に増加させたからである。残りのシードバリアントについて、全体的オフターゲティング潜在力は、miHDS1と匹敵し、miHDS1オフターゲットの10%未満は、miHDS1バリアントと共有されていた(
図3C)。
【0297】
したがって、本発明者らは、miHDS1シード領域の2、5、6および7位において単一点変異を導入して、miHDS1バリアントを生成した。本発明者らの目的は、ヒトHTTのサイレンシングであるので、本発明者らは、ヒト由来HEK293細胞株において全てのバリアントを最初にスクリーニングし、Q−PCRによってサイレンシング効力を決定した(
図4A)。全てのmiHDS1バリアントが、元のmiHDS1と同等にHTT発現を低減させたわけではない。miHDS1と比較して、2位および7位においてミスマッチを有するmHDS1バリアントは、miHDS1−サイレンシング効力を混乱させる。しかし、5位または6位においてミスマッチを含むmiHDS1バリアントについては、有意差は観察されなかった。注目すべきは、7位にミスマッチを有する異なるmiHDS1バリアントの中で、C>U置換を有するバリアントだけが、G:Uゆらぎの熱力学的安定性におそらくは起因して、miHDS1と同等のサイレンシング効力を有した。本発明者らは、以下に基づいて、さらなる実験のためにmiHDS1v6AおよびmiHDS1v5Uを選択する:(1)同じシード位置においてミスマッチを含む他のmiRNAバリアントと比較した、そのより高いサイレンシング効力、および(2)HDS1と広く異なる中程度のオフターゲットプロファイルを有する、生成されたヌクレオチドミスマッチ型(U:U、miHDS1v5U;A:G、miHDS1v6A、
図4D)(
図4B、4C、4E、4F)。
【0298】
RISCロードされたmiRNA配列は、以下である(注:3’→5’):
【化1】
【0299】
そのPri−miHDS1は、以下である(5’→3’):
【化2】
【0300】
そのPre−miHDS1は、以下である(5’→3’):
【化3】
【0301】
予測されたように、miHDS1v6AおよびmiHDS1v5Uの発現は、マウス(SthdhQ7)およびヒト(HEK293)細胞株の両方においてHttタンパク質レベルを低減させ、miHDS1に対して有意差はなかった(
図4A〜4E)。
【0302】
次に、本発明者らは、検証されたmiHDS1オフターゲットマウス転写産物に対する、miHDS1v6AおよびmiHDS1v5Uの効果を評価した。miRNAシードとその標的mRNAとの間での自由エネルギー結合、シード対合安定性(SPS)は、miRNA配列がオフターゲットサイレンシング効果を生じるかどうかに影響する。miHDS1バリアントは、それ自身の標的に対して、元のmiHDS1と類似のSPS値を有したが、miHDS1オフターゲット上の、miHDS1バリアントのシード領域におけるミスマッチは、SPS値を減少させた(
図3b)。PITAに基づくと、シード領域におけるミスマッチの導入は、全てのHDS1の予測されたオフターゲット遺伝子に対するddGスコア値を低減させ、miHDS1v5UよりもmiHDS1v6Aについて顕著であった。興味深いことに、miHDS1バリアントのシード配列は、同じmiHDS1オフターゲットのいくつかの上に、異なる標的部位を生じた。
【0303】
本発明者らは、miHDS1によって、in vivoおよびin vitroでのBcl2のサイレンシングを以前に実証している。TargetScanに基づくと、miHDS1v6AおよびmiHDS1v5Uは、Bcl2 3’UTRをもはや標的化せず、PITAは、miHDS1部位において低減されたddGスコアを予測しており、このことは、Bcl2サイレンシングがmiHDS1v6AまたはmiHDS1v5Uによって弱められることを示唆している。これを試験するために、SthdhQ7細胞を、miRNA発現カセットを含むプラスミドまたはU6プロモーターのみの対照プラスミドでエレクトロポレーションし、24時間後に、Bcl2、HttおよびSmad9の発現を、Q−PCRによって決定した。対照(miCtlおよびU6)と比較して、Htt mRNAレベルは、miHDS1でエレクトロポレーションした細胞およびmiHDS1バリアントでエレクトロポレーションした細胞の両方において、有意に低減された(
図4g)。しかし、重要なことに、miHDS1は、Bcl2発現を40%有意に低減させたが、miHDS1v6Aのエレクトロポレーション後にはサイレンシングは観察されなかった。miHDS1v5U発現は、Bcl2に対してなおも活性であり、サイレンシングレベルを20%に保持した(
図4h)。興味深いことに、miHDS1発現と関連するSmad9過剰発現は、miHDS1v5UまたはmiHDS1v6でエレクトロポレーションした細胞においては観察されなかった(
図4i)。
【0304】
ヒトハンチンチンmRNAに対してmiCtlを再指向させる。
【0305】
本発明者らの以前の実験は、そのオフターゲット効果に起因するmiHDS1の毒性を露呈したが、マウス脳において発現される場合、miCtlが許容可能であることもまた強調した。miCtlは、低いオフターゲットサイレンシングプロファイルで設計したが、ハンチンチンmRNAを標的化することは意図しなかった。したがって、本発明者らは、本発明者らが、マウス線条体におけるmiCtrlシードの相対的安全性を利用できるかどうか、およびそのシード周辺でHTT標的化RNAiトリガーを設計できるかどうかを試験した。
【0306】
最初のステップとして、本発明者らは、miCtlシード領域に対して完全に相補的な配列について、ヒトHTT mRNAまたは臨床的標的をスクリーニングしたが、何も見出さなかった。miHDS1バリアントを設計するための同じ戦略に従って、本発明者らは、miRNA配列のヌクレオチド2〜7の間に単一のミスマッチを許容するこのin silico分析を反復した。本発明者らは、4つの相補的配列(miHDss1〜4)を見出した:MiHDss1(7位におけるミスマッチ)およびmiHDss4(4位におけるミスマッチ)は、3’UTRにおいてHTTを標的化し、一方、miHDss2(6位におけるミスマッチ)およびmiHDss3(5位におけるミスマッチ)は、それぞれエクソン7−8接合部にまたがるまたはエクソン33におけるコード領域において、HTTを標的化した(
図5a、b)。HEK293細胞において試験した場合、miHDss3のみが、Q−PCR(
図5c)およびウエスタンブロット(
図5d、e)によって決定したように、対照処理した細胞の40〜50%までHTT発現をサイレンシングした。
【0307】
miCtlおよびmiHDSS3は、同じシード配列を共有するので、本発明者らは、両方のmiRNAが同じオフターゲットプロファイルを有すると予測する。しかし、特定のmiRNAファミリー由来の内因性miRNAで観察されるように、サイレンシング効力は、各miRNAの3’領域上の配列差異に起因して変化し得る。本発明者らは、PITAアルゴリズムを使用して、miCtlとmiHDss3オフターゲットとの間で、miRNA結合安定性およびサイレンシング潜在力を比較した。本発明者らのin silicoアプローチによって、本発明者らは、miCtlおよびmiHDss3の両方について89のオフターゲット部位を予測し、67が線条体において発現された。興味深いことに、miHDss3の3’領域は、miCtlと比較して、オフターゲット−miRNA結合安定性を増加させる(
図5f)。
【0308】
マウス脳におけるmiHDS1バリアントおよびmiHDss3の許容性の特徴付け。
【0309】
新たな配列のin vivo許容性を決定するために、miRNA発現カセットを、本発明者らのAAVシャトルベクター中にクローニングした(
図6b)。7週齢の野生型マウスを、同等な体重および基底ロータロッド成績に基づいて群に分け、引き続いて、miHDS1v6A、miHDS1v5U、miHDss3またはmiHDS1、miCtlを発現するウイルス、および実験対照としての製剤化緩衝液(FB)を、線条体中に両側的に注射した。注射の2ヶ月後および4ヶ月後に、マウス体重を記録し、神経性の有害効果を、加速ロータロッド、握りおよびオープンフィールド試験を使用することによって決定した(
図6a)。
【0310】
本発明者らの以前の結果と一致して、miHDS1を発現するマウスは、加速ロータロッド装置上で運動欠陥を示した(
図6c)。また、FB緩衝液単独またはmiCtlを注射したマウス間では、差異は観察されなかった。有害効果が、内因性経路を選出した結果ではなく、特異的miHDS1オフターゲット効果の結果であることを示唆しているので、この結果は重要である。興味深いことに、かつ本発明者らのin vitro研究と一致して、miHDS1v5Uもまた、ロータロッド欠陥を示した。これは、ピリミジン:ピリミジンミスマッチ(U:U、miRNA:mRNA)が中程度の識別力を示し、このバリアントがBcl2をなおも部分的にサイレンシングしたことを反映している可能性がある(
図4H)。本発明者らのin vitro研究からも予測されるが、miHDS1v6Aは、miHDS1媒介性の毒性を改善し、AAV注射の2ヶ月後または4ヶ月後に、miHDS1v6AとmiCtlとの間で有意差は観察されなかった。ヒトハンチンチンをサイレンシングすることに加えて、miHDss3は、miCtlと同じオフターゲットプロファイルを共有する。しかし、PITAアルゴリズムは、miHDss3が、miRNA:mRNA対の結合安定性を増加させることによって、miCtlオフターゲットレパートリーをサイレンシングする傾向がより高いことを示唆している(
図5f)。しかし、2ヶ月または4ヶ月の時点では、加速ロータロッド上で、有意差は観察されなかった(
図6c)。
【0311】
経時的に体重減少する(4ヶ月の時点で、−1.7g、8%低減)、miHDS1v5Uを注射したマウスを除いて、体重増加が、全ての他の群において記録された。また、体重増加は、前述のように、miHDS1処置で有意に低減された。4ヶ月の時点で、miHDS1注射したマウスは、1.3グラム(5%)の体重増加を有したが、他の群は、3.6および5.2グラムからの体重増加を有した(4ヶ月の時点で、15〜22%増加)(
図6d)。
【0312】
考察
【0313】
この研究において、本発明者らは、ヒトにおける安全性のために設計されたRNAiトリガーの、正常マウスにおける安全性を試験することを目指し、以前の研究において、非ヒト霊長類において安全であることを示した。2つの種、一般には、げっ歯類および大型哺乳動物において、ヒト使用について薬物を試験することは、規制当局の承認を初期相研究に向かって前進させるための標準的な手順である。本発明者らは、後の研究において他者によっても報告された、サルにおける著しい毒性は見出さなかったが、意図した構築物をげっ歯類において試験した場合、急性毒性が認められた。
【0314】
本発明者らは、本発明者らが、オフターゲットプロファイルを変更するために、シードにおいて点変異を作製することによって、試験した配列、miHDS1の毒性を低減できることを見出した。単一のシード配列改変は、サイレンシング効力を維持しつつ、元のmiHDS1のオフターゲットプロファイルを変化させた。miHDS1v5ではなくmiHDS1v6は、マウス脳においてmiHDS1許容性を回復させた。miHDS1v5Uは、ピリミジン:ピリミジンミスマッチであるU:Uミスマッチを生じ、一方でmiHDS1v6Aは、プリン:ピリミジンミスマッチであるA:Gを生じ、識別するのに最も効果的であることが見出された。
【0315】
HDS1のシードを変更することの代替法として、本発明者らは、低いオフターゲティング潜在力のためにも設計された本発明者らの制御配列が、ヒトHTTを標的化するように再操作され得ることを、以前に認めていた。マウスにおいて試験した場合、両方の配列が、十分に許容され、親HDS1について以前に認められたような、神経病理学も神経学的欠陥も誘導しなかった。
【0316】
これらの知見は、伝統的薬物開発と核酸ベースの薬の新たに出現した分野との間のコントラストを強調している。全てのヒト薬物開発の目的は、標的集団における安全性および効力であるが、核酸ベースの薬の場合、意図した薬物は、ゲノムおよび/または発現された転写産物と直接相互作用する。したがって、配列特異性に依存し、ヒトにおける安全性のために最適化された薬物は、他の種のゲノムと、特に、げっ歯類などの遠縁の種のゲノムと、示差的に相互作用する可能性が高い。他方、配列が、げっ歯類における安全性のために最適化される場合、ヒトゲノムに関連する問題のリスクはより高い。
【0317】
まとめ
【0318】
本発明の結果は、以下を強調する:(1)miRNAの安全性および許容性プロファイルは、種特異的であり、疾患のマウスモデルを使用する初期の研究の注意深い解釈を強調している、および(2)単一のシード配列改変は、サイレンシング効力を維持しつつ、miRNA配列のオフターゲット毒性を解決するための有効な戦略である。
【0319】
材料および方法
【0320】
細胞株およびトランスフェクション。
【0321】
HEK293を、ATCCから取得し、製造業者によって提供される条件下で培養した。SthdhQ7は、Marcy MacDonaldの厚意により取得した。HEK293に対する全てのプラスミドDNAトランスフェクションを、製造業者によって提供されるガイドラインを使用して、リポフェクタミン2000(Invitrogen)を用いて行った。SthdhQ7細胞のDNAトランスフェクションを、エレクトロポレーション条件を使用し、製造業者によって提供されるガイドラインに従って、Invitrogen Neonトランスフェクションシステムを使用して行った。
【0322】
ベクター設計およびAAV産生。
【0323】
人工miRNA配列(miCtl、miHDssバリアント、miHDS1およびmiHDS1バリアントを、重複するDNAオリゴヌクレオチド(IDT、Coralville)のポリメラーゼ伸長によって生成した。ポリメラーゼ伸長産物を、Qiaquick PCR精製キットを使用して精製し、XhoI−SpeIで消化し、マウスU6プロモーター、MCSおよびPol−III−ターミネーター(6T)を含むPol−III発現カセット上のXhoI−XbaI部位中にクローニングした。
【0324】
RNAiルシフェラーゼレポーターベクターを、psiCheck2ベクター(Promega)を使用して構築した。miHDS1のセンス鎖またはアンチセンス鎖に対する単一の完全に相補的なRNAi標的部位を含むテイル付きDNAオリゴヌクレオチドを、アニーリングさせ、ウミシイタケルシフェラーゼcDNA配列の停止コドンの下流のXhoI−NotI部位中にクローニングした。
【0325】
in vivo研究のために、miRNA発現カセットを、DNAスタッファー配列の上流のAAVシャトルプラスミド中に移動させた。miRNA発現カセットおよびスタッファー配列を、AAV血清型2の145−bpの逆位末端リピート配列によって、各末端において隣接させた。
【0326】
in vitroルシフェラーゼアッセイ。
【0327】
24ウェルプレート中で成長させた70%コンフルエンスのHEK293細胞に、miRNA発現プラスミドおよびRNAiルシフェラーゼレポータープラスミドを共トランスフェクトした。24時間後に、細胞を、氷冷PBSでリンスし、ウミシイタケおよびホタルのルシフェラーゼ活性を、20μlの細胞溶解物を使用して、製造業者の指示に従ってDual−Luciferase Reporter Assay System(Promega)を使用して評価した。発光リードアウトを、Monolight 3010ルミノメーター(Pharmigen、USA)を用いて得た。相対発光量を、ウミシイタケ/ホタル相対発光量の商として計算し、結果を対照miRNAと比較して表した。
【0328】
ウエスタンブロット分析。
【0329】
HEK293細胞を、示されたようにmiRNA発現カセットでトランスフェクトした。48時間の時点で、細胞を、氷冷PBSで1回リンスし、Passive lysis緩衝液(PBL、Promega)で溶解させた。タンパク質濃度を、Bradford−Lowry法(BioRad)、およびNuPAGE3〜8% Tris−Acetateゲル(Novex Life technologies)上にロードした10μgのタンパク質によって決定した。タンパク質を、PVDFメンブレン上に移し、マウス抗Htt(1:5000、Millipore、CA)またはウサギ抗ベータ−アクチン(1:40000、Sigma)抗体と共に、その後、西洋ワサビペルオキシダーゼカップリング抗体(1:10,000、マウス;または1:50,000、ウサギ;Jackson ImmunoResearch、West Grove、PA)と共にインキュベートした。ブロットを、ECL−Plus試薬(Amersham Pharmacia)を用いて発色させた。サイレンシング効力を、VersaDoc(商標)Imaging System(Biorad)およびQuantity OneR分析ソフトウェアを用いて、ベータアクチンと比較したタンパク質レベルのデンシトメトリー(n=4の独立した実験)によって決定した。
【0330】
RNA抽出およびQPCR分析。
【0331】
総RNA単離を、イソプロパノール沈殿ステップでの水相への1μl Glycoblue添加、および冷70%エタノールによる単回洗浄を除いて、製造業者のプロトコールに従ってTrizol(Life Technologies、Grand Island、NY)を使用して抽出した。RNA試料を、分光光度法によって定量化し、引き続いて、cDNAを、ランダムヘキサマー(TaqMan RT試薬、Applied Biosystems)を用いて500ngの総RNAから生成した。マウスオフターゲット遺伝子のためのSyBrGreen Q−PCRプライマー対を、RealTime PCR Custom Assay Designウェブサーバー(IDT、Coralville)を使用して設計した。最終融解曲線アッセイを用いた7点検量線を実施して、各プライマー対を検証した。100±5%の増幅効率および単一増幅産物を有するプライマー対のみを使用して、ddCt法を使用して、相対的遺伝子発現を決定した。
【0332】
マウス研究
【0333】
全ての動物プロトコールは、University of Iowa Animal Care and Use Committeeによって承認された。野生型FBVおよびBACHDマウスを、Jackson Laboratories(Bar Harbor、ME、USA)から取得した。マウスを、CAGリピートに隣接する変異体ヒトハンチンチン導入遺伝子に対して特異的なプライマーを使用して遺伝子型決定し、トランスジェニック同腹仔および同齢野生型同腹仔を、示された実験に使用した。マウスを、12時間の明/暗サイクルで、温度制御した環境に収容した。食物および水を、自由に提供した。示された時点において、マウスに、AAV2/1−mU6−miRNA/スタッファーウイルスを注射した。AAV注射のために、マウスを、ケタミンおよびキシラジンミックスで麻酔し、5μlのAAVを、0.2μl/分の速度で線条体中に両側的に注射した(座標:十字縫合に対して+0.86mm吻側、内側に対して+/−1.8mm外側、脳表面から−2.5mm腹側)。遺伝子発現分析に使用するマウスを、ケタミンおよびキシラジンミックスで麻酔し、2mlのRNAlater(Ambion)溶液と混合した18mlの0.9%冷食塩水で灌流した。示された時点において、マウスを屠殺し、脳を取り出し、ブロッキングし、1mm厚の冠状スライスへとカットした。線条体由来の組織パンチを、組織芯抜き機(直径1.4mm;Zivic Instruments、Pittsburgh、PA、USA)を使用することによって採取した。全ての組織パンチを、液体窒素で急速冷凍し、使用するまで−80℃で貯蔵した。
【0334】
挙動分析
【0335】
注射したマウスの運動協調性を、ロータロッド装置(モデル47,600;Ugo Basile、Comerio、Italy)を使用して決定した。基底ロータロッド試験を、7週齢の時点で、ならびにAAV注射の2ヶ月後および4ヶ月後に再度、実施した。マウスを、1日当たり3回の試行で連続する4日間にわたって試験し、各日の、試行と5分間の馴化期間との間の30分間の休息期間は、最初の試行の60分前に開始した。マウス1匹当たりの落下までの潜時を、試験した連続する4日間の1日当たりの各マウスの最良の2試行を平均することによって計算した。握り試験のために、各マウスを、1分間尾で吊るし、マウスがその胴体近くでその前足を一緒に抱える場合に、握りとしてスコアリングした。
【0336】
全ての刊行物、特許および特許出願は、参照によって本明細書に組み込まれる。上述の明細書中で、本発明は、そのある特定の好ましい実施形態に関連して記載され、多くの詳細が例示目的のために示されてきたが、本発明が、さらなる実施形態に影響されやすいこと、および本明細書に記載される詳細の一部が、本発明の基本原理から逸脱することなしに相当に変動され得ることは、当業者に明らかである。
【0337】
本発明を説明する文脈において、用語「1つの(a)」および「1つの(an)」および「この(the)」ならびに類似の指示対象の使用は、本明細書で特記しない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、単数形および複数形の両方をカバーすると解釈すべきである。用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」および「含む(containing)」は、特記しない限り、オープンエンドの用語(即ち、「〜を含むがそれらに限定されない」を意味する)として解釈すべきである。本明細書での値の範囲の列挙は、本明細書で特記しない限り、その範囲内に入る各別々の値に個々に言及する速記方法として機能することのみを意図しており、各別々の値は、それらが本明細書で個々に列挙されているかのように、本明細書中に組み込まれる。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書で特記しない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施され得る。本明細書に提供される任意のおよび全ての例、または例示的な言語(例えば、「例えば/など(such as)」)の使用は、本発明をより明らかにすることのみを意図しており、他の仕方で特許請求されない限り、本発明の範囲に対する限定にはならない。本明細書中の言語は、任意の特許請求されていない要素を、本発明の実施に必須として示していると解釈すべきではない。
【0338】
本発明を実施するための、本発明者らが知る最良の様式を含む、本発明の実施形態が、本明細書に記載されている。かかる実施形態のバリエーションは、上述の説明を読めば、当業者に明らかになり得る。本発明者らは、当業者が、かかるバリエーションを必要に応じて使用することを予測しており、本発明者らは、本発明が、本明細書に具体的に記載されたものとは異なって実施されることを意図する。したがって、本発明は、適用法によって許容される通り、本明細書に添付の特許請求の範囲において列挙された主題の全ての改変および等価物を含む。さらに、その全ての可能なバリエーションでの上記要素の任意の組合せは、本明細書で特記しない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、本発明によって包含される。