特許第6663910号(P6663910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6663910抗TNF−α抗体療法を受けた乾癬患者を治療するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6663910
(24)【登録日】2020年2月19日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】抗TNF−α抗体療法を受けた乾癬患者を治療するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20200302BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200302BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20200302BHJP
   C07K 16/24 20060101ALI20200302BHJP
【FI】
   A61K39/395 DZMD
   A61K39/395 N
   A61P43/00 111
   A61P17/06
   C07K16/24ZNA
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-507457(P2017-507457)
(86)(22)【出願日】2015年8月26日
(65)【公表番号】特表2017-527546(P2017-527546A)
(43)【公表日】2017年9月21日
(86)【国際出願番号】JP2015004306
(87)【国際公開番号】WO2016031250
(87)【国際公開日】20160303
【審査請求日】2018年8月3日
(31)【優先権主張番号】62/041,862
(32)【優先日】2014年8月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512025931
【氏名又は名称】アムジェン ケー・エー,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 秀己
(72)【発明者】
【氏名】松戸 泰樹
【審査官】 石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−543501(JP,A)
【文献】 特表2010−505416(JP,A)
【文献】 特表2013−517277(JP,A)
【文献】 Drugs,2014年 3月,Vol.74,No.4,pp.423-441
【文献】 N ENGL J MED,2012年,Vol.366,No.13,pp.1181-1189
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00−39/44
A61K 45/00−45/08
A61P 17/06
A61P 43/00
C07K 16/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL−17RAアンタゴニストを有効成分として含有する、抗TNF−α抗体では治療できない乾癬患者に投与される乾癬の治療剤であって、
前記抗TNF−α抗体では治療できない患者が、抗TNF−α抗体に応答しないか、または抗TNF−α抗体に対する忍容性が不十分である患者であり、
前記IL−17RAアンタゴニストが抗IL−17RA抗体または該抗体断片であり、
前記抗IL−17RA抗体が、抗体のVHが配列番号7に示されるアミノ酸配列を含み、かつ抗体のVLが配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むモノクローナル抗体であり、
140mgまたは210mgの投与量で、1日目、1週目、および2週目に投与され、かつ以降は2週間に1回投与される、治療剤
【請求項2】
前記抗TNF−α抗体がアダリムマブ、インフリキシマブ、セルトリズマブペゴル、セルトリズマブ、およびゴリムマブから選択される少なくとも一つである、請求項またはに記載の治療剤。
【請求項3】
前記乾癬が尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症および適状乾癬から選ばれる少なくとも一つである、請求項1または2に記載の治療剤。
【請求項4】
前記治療剤の投与後に、患者のCGIが2または1になる、請求項のいずれか1項に記載の治療剤。
【請求項5】
前記治療剤の投与後に、患者のPASIスコアが該治療剤の投与前よりも低下している請求項のいずれか1項に記載の治療剤。
【請求項6】
前記IL−17RAアンタゴニストが、ブロダルマブである請求項1〜5のいずれか1項に記載の治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IL−17RAアンタゴニストを有効成分として含有する、抗TNF−α抗体を投与されたことがある乾癬患者に投与される膿疱性乾癬または乾癬性紅皮症の治療剤;およびIL−17RAアンタゴニストを有効成分として含有する、抗TNF−α抗体では治療できない乾癬患者に投与される乾癬の治療剤に関する。また、本発明は、抗TNF−α抗体を投与されたことがある乾癬患者にIL−17RAアンタゴニストを投与することを含む、膿疱性乾癬または乾癬性紅皮症の治療方法;および抗TNF−α抗体では治療できない乾癬患者にIL−17RAアンタゴニストを投与することを含む、乾癬の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サイトカインの過剰産生は、乾癬、乾癬性関節炎、および喘息を含む数多くの炎症性自己免疫疾患の発症の一因となる。サイトカインのインターロイキン(IL)−17ファミリーは、以下の名称をもつ6つのファミリーメンバーを含む:IL−17A、IL−17B、IL−17C、IL−17D、IL−25(IL−17Eとしても知られる)、およびIL−17F。インターロイキン17A、IL−17F、およびIL−17A/Fは、自己免疫疾患モデルにおいて炎症応答に寄与することが示されている、IL−17(Th17)細胞を産生するTヘルパー細胞および先天性免疫細胞によって産生される、代表的な炎症促進性サイトカインである(非特許文献1−6)。
【0003】
インターロイキン−17A、IL−17F、およびIL−17A/Fは、組織炎症および破壊を促進する、上皮細胞、内皮細胞、および線維芽細胞からの炎症促進性メディエイタの誘導;好中球の増殖、成熟、および走化性;ならびに樹状細胞の成熟を含む、多面的活性を有する(非特許文献7,8)。
【0004】
インターロイキン−25は、上皮細胞、T−ヘルパー2(Th2)細胞、好酸球、および好塩基球により産生され、かつ喘息等のTh2型の炎症性病理にしばしば関連付けられる(非特許文献9−11)。インターロイキン−17Cもまた上皮細胞により産生され、このサイトカインの生物活性は調査中であるが、IL−17AおよびIL−17Fの活性と類似しているように見える(非特許文献12)。
【0005】
インターロイキン−17RAは、限定するものではないが線維芽細胞、上皮細胞、および単球を含む広く多様な細胞型について検出されるI型膜貫通受容体である(非特許文献13)。インターロイキン−17A、IL−17F、IL−17A/F、IL−17C、およびIL−25は、IL−17RAに結合することにより細胞応答を刺激する。インターロイキン−17A、IL−17F、およびIL−17A/Fは、ヘテロマーIL−17RA/IL−17RC複合体を介して伝達し、IL−17Cは、ヘテロマーIL−17RA/IL−17RE複合体を介して伝達し、またIL−25は、ヘテロマーIL−17RA/IL−17RB複合体を介して伝達する(非特許文献12、14−17)。インターロイキン−17RA遮断は、限定するものではないが乾癬、乾癬性関節炎、および喘息を含む、自己免疫および炎症性疾患に関連する炎症および臨床症状を阻害するための新規なメカニズムを表わす。
【0006】
AM−14は、ヒトIL−17RAに結合し、かつ様々な自己免疫疾患および炎症性疾患に関与するIL−17A、IL−17F、IL−17A/Fヘテロダイマー、およびIL−25の生物活性を阻止する、ヒトCHO細胞由来IgG2モノクローナル抗体である(非特許文献18−20)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nat Rev Immunol.2010年、第10巻、p.479−490
【非特許文献2】Cell.2010年、第140巻、p.845−858
【非特許文献3】Nature Rev Immunol.2009年、第9巻、第8号、p.556−567
【非特許文献4】Immunity.2008年、第28巻、第4号、p.454−67
【非特許文献5】J Exp Med.2005年、第201巻、第2号、p.233−240
【非特許文献6】Nat Immunol.2005年、第6巻、第11号、p.1133−1141
【非特許文献7】Immunity.2004年、第21巻、p.467−476
【非特許文献8】J Immunol.1999年、第162巻、第1号、p.577−584
【非特許文献9】Immunological Rev.2008年、第226巻、p.172−190
【非特許文献10】J Exp Med.2007年、第204巻、第8号、p.1837−1847
【非特許文献11】Immunity.2001年、第15巻、p.985−995
【非特許文献12】Nat Immunol.2011年、第12巻、第12号、p.1159−1166
【非特許文献13】Cytokine.1997年、第9巻、第11号、p.794−800
【非特許文献14】Nat Immunol.2011年、第12巻、第12号、p.1151−1158
【非特許文献15】J Immunol.2008年、第181巻、第6号、p.4299−4310
【非特許文献16】J Immunol.2008年、第181巻、第4号、p.2799−2805
【非特許文献17】J Immunol.2006年、第177巻、第1号、p.36−39
【非特許文献18】Immunity.2008年、第28巻、第4号、p.454−67
【非特許文献19】J.Allergy.Clin.Immunol.2007年、第120巻、第6号、p.1324−31
【非特許文献20】J.Immunol.2005年、第175巻、第1号、p.404−12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、IL−17RAアンタゴニストを有効成分として含有する、抗TNF−α抗体を投与されたことがある乾癬患者に投与される膿疱性乾癬または乾癬性紅皮症の治療剤;およびIL−17RAアンタゴニストを有効成分として含有する、抗TNF−α抗体では治療できない乾癬患者に投与される乾癬の治療剤を提供することである。また本発明は、抗TNF−α抗体を投与されたことがある乾癬患者にIL−17RAアンタゴニストを投与することを含む、膿疱性乾癬または乾癬性紅皮症の治療方法、および抗TNF−α抗体では治療できない乾癬患者にIL−17RAアンタゴニストを投与することを含む、乾癬の治療方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は以下の(1)〜(34)に関する。
(1)IL−17RAアンタゴニストを有効成分として含有する、抗TNF−α抗体を投与されたことがある乾癬患者に投与される膿疱性乾癬または乾癬性紅皮症の治療剤。
(2)前記抗TNF−α抗体がアダリムマブ、インフリキシマブ、セルトリズマブペゴル、セルトリズマブ、およびゴリムマブから選択される少なくとも一つの抗体である、(1)に記載の治療剤。
(3)前記IL−17RAアンタゴニストが抗IL−17RA抗体または該抗体断片である、(1)または(2)に記載の治療剤。
(4)前記抗IL−17RA抗体が以下のa)およびb)から選ばれる、(3)に記載の治療剤:
a)抗体の重鎖可変領域(以下VHと称する)の相補性決定領域(以下CDRと称する)1、CDR2、およびCDR3が、それぞれ配列番号1、2、および3に示されるアミノ酸配列を含み、かつ抗体の軽鎖可変領域(以下VLと称する)のCDR1、CDR2、およびCDR3が、それぞれ配列番号4、5、および6に示されるアミノ酸配列を含むモノクローナル抗体;および
b)抗体のVHが配列番号7に示されるアミノ酸配列を含み、かつ抗体のVLが配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むモノクローナル抗体。
(5)前記治療剤の投与後に、全般改善度(Clinical global impression、以下CGIとも称する)が2または1になる、(1)〜(4)のいずれか1に記載の治療剤。
(6)前記治療剤の投与後に、乾癬面積と重症度指数(Psoriasis Area and Severity Index、以下、PASIと称する)スコアが該治療剤の投与前よりも低下している、(1)〜(5)のいずれか1に記載の治療剤。
(7)IL−17RAアンタゴニストを有効成分として含有する、抗TNF−α抗体では治療できない乾癬患者に投与される乾癬の治療剤。
(8)前記抗TNF−α抗体では治療できない患者が、抗TNF−α抗体に応答しないか、または抗TNF−α抗体に対する忍容性が不十分である患者である、(7)に記載の治療剤。
(9)前記抗TNF−α抗体がアダリムマブ、インフリキシマブ、セルトリズマブペゴル、セルトリズマブ、およびゴリムマブから選択される少なくとも一つである、(7)または(8)に記載の治療剤。
(10)前記IL−17RAアンタゴニストが抗IL−17RA抗体または該抗体断片である、(7)〜(9)のいずれか1に記載の治療剤。
(11)前記抗IL−17RA抗体が以下のa)およびb)から選ばれる、(10)に記載の治療剤:
a)抗体のVHのCDR1、CDR2、およびCDR3が、それぞれ配列番号1,2、および3に示されるアミノ酸配列を含み、かつ抗体のVLのCDR1、CDR2、およびCDR3が、それぞれ配列番号4、5、および6に示されるアミノ酸配列を含むモノクローナル抗体;および
b)抗体のVHが配列番号7に示されるアミノ酸配列を含み、かつ抗体のVLが配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むモノクローナル抗体。
(12)前記乾癬が尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症および適状乾癬から選ばれる少なくとも一つの乾癬である、(7)〜(11)のいずれか1に記載の治療剤。
(13)前記治療剤の投与後に、患者のCGIが2または1になる、(7)〜(12)のいずれか1に記載の治療剤。
(14)前記治療剤の投与後に、患者のPASIスコアが該治療剤の投与前よりも低下している(7)〜(13)のいずれか1に記載の治療剤。
(15)IL−17RAアンタゴニストを、抗TNF−α抗体を投与されたことがある乾癬患者に投与することを含む、膿疱性乾癬または乾癬性紅皮症の治療方法。
(16)前記抗TNF−α抗体がアダリムマブ、インフリキシマブ、セルトリズマブペゴル、セルトリズマブ、およびゴリムマブから選択される少なくとも一つである、(15)に記載の治療方法。
(17)前記IL−17RAアンタゴニストが抗IL−17RA抗体または該抗体断片である、(15)または(16)に記載の治療方法。
(18)前記抗IL−17RA抗体が以下のa)およびb)から選ばれる、(17)に記載の治療方法:
a)抗体のVHのCDR1、CDR2、およびCDR3が、それぞれ配列番号1、2、および3に示されるアミノ酸配列を含み、かつ抗体のVLのCDR1、CDR2、およびCDR3が、それぞれ配列番号4、5、および6に示されるアミノ酸配列を含むモノクローナル抗体;および
b)抗体のVHが配列番号7に示されるアミノ酸配列を含み、かつ抗体のVLが配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むモノクローナル抗体。
(19)前記IL−17RAアンタゴニストの投与後に、患者のCGIが2または1になる、(15)〜(18)のいずれか1に記載の治療方法。
(20)前記IL−17RAアンタゴニストの投与後に、患者のPASIスコアが該アンタゴニストの投与前よりも低下している(15)〜(19)のいずれか1に記載の治療方法。
(21)前記IL−17RAアンタゴニストが、140mg以上の投与量で投与される、(15)〜(20)のいずれか1に記載の治療方法。
(22)前記IL−17RAアンタゴニストが、140mg又は210mgの投与量で投与される、(15)〜(21)のいずれか1に記載の治療方法。
(23)前記IL−17RAアンタゴニストが140mgまたは210mgの投与量で、1日目、1週目、および2週目に投与され、かつ以降は2週間に1回投与される、(15)〜(22)のいずれか1に記載の治療方法。
(24)IL−17RAアンタゴニストを抗TNF−α抗体で治療できない乾癬患者に投与することを含む、乾癬の治療方法。
(25)前記抗TNF−α抗体で治療できない患者が、抗TNF−α抗体が無効であるか、または抗TNF−α抗体に対する忍容性が不十分な患者である、(24)に記載の治療方法。
(26)前記抗TNF−α抗体がアダリムマブ、インフリキシマブ、セルトリズマブペゴル、セルトリズマブ、およびゴリムマブから選択される少なくとも一つである、(24)又は(25)に記載の治療方法。
(27)前記IL−17RAアンタゴニストが抗IL−17RA抗体または該抗体断片である、(24)〜(26)のいずれか1に記載の治療方法。
(28)前記抗IL−17RA抗体が以下のa)およびb)から選ばれる、(27)に記載の治療方法:
a)抗体のVHのCDR1、CDR2、およびCDR3が、それぞれ配列番号1、2、および3に示されるアミノ酸配列を含み、かつ抗体のVLのCDR1、CDR2、およびCDR3が、それぞれ配列番号4、5、および6に示されるアミノ酸配列を含むモノクローナル抗体;および
b)抗体のVHが配列番号7に示されるアミノ酸配列を含み、かつ抗体のVLが配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むモノクローナル抗体。
(29)前記乾癬が尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症、および、適状乾癬から選ばれる少なくとも一つである、(24)〜(28)のいずれか1に記載の治療方法。
(30)前記IL−17RAアンタゴニストの投与後に、患者のCGIが2または1になる、(24)〜(29)のいずれか1に記載の治療方法。
(31)前記IL−17RAアンタゴニストの投与後に、患者のPASIスコアが該アンタゴニストの投与前よりも低下している、(24)〜(30)のいずれか1に記載の治療方法。
(32)前記IL−17RAアンタゴニストが140mg以上の投与量で投与される、(24)〜(31)のいずれか1に記載の治療方法。
(33)前記IL−17RAアンタゴニストが140mgまたは210mgの投与量で投与される、(24)〜(32)のいずれか1に記載の治療方法。
(34)前記IL−17RAアンタゴニストが、140mgまたは210mgの投与量で、1日目、1週目、および2週目に投与され、かつ以降は2週間に1回投与される、(24)〜(33)のいずれか1に記載の治療方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、IL−17RAアンタゴニストを有効成分として含有する、抗TNF−α抗体を投与されたことがある乾癬患者に投与される膿疱性乾癬または乾癬性紅皮症の治療剤;およびIL−17RAアンタゴニストを有効成分として含有する、抗TNF−α抗体では治療できない乾癬患者に投与される乾癬の治療剤を提供できる。また、本発明は、抗TNF−α抗体を投与されたことがある乾癬患者にIL−17RAアンタゴニストを投与することを含む、膿疱性乾癬または乾癬性紅皮症の治療方法;および抗TNF−α抗体では治療できない乾癬患者にIL−17RAアンタゴニストを投与することを含む、乾癬の治療方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】抗TNF−α抗体を投与されたことがある膿疱性乾癬患者に対する、AM−14の治療効果を示した図である。縦軸は全般改善度、横軸はAM−14を最初に投与してからの期間(週)を示す。(A)〜(C)は、それぞれ被験者A〜Cについての結果である。
図2】抗TNF−α抗体を投与されたことがある膿疱性乾癬患者に対する、AM−14の治療効果を示した図である。縦軸は全般改善度、横軸はAM−14を最初に投与してからの期間(週)を示す。(D)および(E)は、それぞれ被験者DおよびEについての結果である。
図3】抗TNF−α抗体を投与されたことがある乾癬性紅皮症患者に対する、AM−14の治療効果を示した図である。縦軸はPASIスコア、横軸はAM−14を最初に投与してからの期間(週)を示す。投与0週目は、投与1日目とも記載する。被験者F、G、Hの結果をそれぞれ黒丸、プラス、およびマイナス記号を用いて実線でプロットした。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、IL−17RAアンタゴニストを有効成分として含有する、抗腫瘍壊死因子(Tumor necrosis factor−α、以下、TNF−αと称する)抗体を投与されたことがある乾癬患者に投与される膿疱性乾癬または乾癬性紅皮症の治療剤;およびIL−17RAアンタゴニストを有効成分として含有する、抗TNF−αで治療できない乾癬患者に投与される乾癬の治療剤(以下、前記治療剤を合わせて「本発明の治療剤」と称することもある)に関する。
【0013】
また、本発明は、抗TNF−α抗体を投与されたことがある乾癬患者にIL−17RAアンタゴニストを投与することを含む、膿疱性乾癬または乾癬性紅皮症の治療方法;および抗TNF−α抗体では治療できない乾癬患者にIL−17RAアンタゴニストを投与することを含む、乾癬の治療方法(以下、前記治療方法を合わせて「本発明の治療方法」と称することもある)に関する。
【0014】
本発明における抗TNF−α抗体は、TNF−αに対する抗体であれば特に限定されない。抗TNF−α抗体は、好ましくはヒトTNF−αに対する抗体である。抗ヒトTNF−α抗体の具体例は、インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブペゴル、セルトリズマブ、ゴリムマブ等を含む。
【0015】
乾癬は、慢性皮膚疾患であり、臨床診療において乾癬は、症状および発現部位により5つのタイプ、即ち、尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症、および滴状乾癬に分類される。尋常性乾癬は、皮膚の肥厚、鮮明な境界(プラーク)、および鱗屑をもつ、紅斑により特徴づけられる。関節症性乾癬は、皮膚等に加えて、関節、腱鞘、腱付着部位、および軸骨格の慢性炎症性疾患である。膿疱性乾癬は、紅斑上の膿胞と称される皮膚発疹の形成により特徴づけられる。乾癬性紅皮症は、全身に及ぶ皮膚発疹により特徴づけられ、びまん性の潮紅または鱗屑を伴う。適状乾癬は、体幹、および腕や脚に直径1cmの小型の乾癬紅斑が存在することにより特徴づけられる。
【0016】
本発明に関する乾癬の例は、尋常性乾癬、関節症性乾癬(または乾癬性関節炎ともいう)、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症、滴状乾癬等を含む。尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、および乾癬性紅皮症が好ましい。中等度から重度の尋常性乾癬および関節症性乾癬、膿疱性乾癬並びに乾癬性紅皮症がより好ましい。膿疱性乾癬および乾癬性紅皮症がさらに好ましい。本発明に関する乾癬は、上記記載の複数のタイプが併発したもの、および爪乾癬も含む。
【0017】
乾癬は、局面型乾癬を含む形態であってもよく、また好ましくは中等度から重度の局面型乾癬を含む形態である。乾癬は局在してもよく、或いは全身を侵していてもよい。局所型乾癬の具体例は、頭皮乾癬等を含む。局面型乾癬を含む乾癬とは、主として、局面乾癬を含む尋常性乾癬を指し、また局面型乾癬に加えて関節症状を含む関節症性乾癬も含む。
【0018】
膿疱性乾癬は、膿胞が広範囲に現れる汎発型膿疱性乾癬か、または膿胞が小範囲に現れる限局型膿疱性乾癬であってもよく、汎発型膿胞性乾癬であることが好ましい。汎発型膿疱性乾癬の具体例は、急性汎発性膿疱性乾癬、汎発性膿疱性乾癬、環状連圏状膿疱性乾癬、疱疹状膿痂疹、無熱性疱疹状膿痂疹、または小児膿疱性乾癬等を含む。限局型膿疱性乾癬の具体例は、掌蹠膿疱症、稽留性肢端皮膚炎、尋常性乾癬の一過性限局性膿疱化等を含む。
【0019】
本発明の治療剤とは、抗TNF−α抗体を投与されたことがある乾癬患者において、膿疱性乾癬または乾癬性紅皮症の重症度を低下させることができる薬剤をいう。本発明の治療剤はまた、抗TNF−α抗体で治療できない乾癬患者において、乾癬の重症度を低下させることができる治療剤を意味する。
【0020】
本発明の治療方法とは、抗TNF−α抗体を投与されたことがある乾癬患者において、膿疱性乾癬または乾癬性紅皮症の重症度を低下させることができる方法をいう。本発明の方法はまた、抗TNF−α抗体で治療できない乾癬患者において、乾癬の重症度を低下させることができる治療方法を意味する。
【0021】
本発明において、「抗TNF−α抗体を投与されたことがある」という語句については、本発明の治療剤または本発明の治療法におけるIL−17RAアンタゴニストが最初に患者に投与される前に抗TNF−α抗体が患者に投与されれば、抗TNF−α抗体が投与される時期については特に限定されない。抗TNF−α抗体が投与された後、本発明の治療剤またはIL−17RAアンタゴニストが最初に患者に投与される前に、別の薬剤が投与されてもよい。
【0022】
抗TNF−α抗体では治療できない乾癬患者の例は、抗TNF−α抗体が乾癬患者に投与された場合、抗TNF−α抗体が無効(一次または二次無効)であるか、または忍容性が不十分である患者を含む。
【0023】
本明細書で用いる場合、「一次無効」とは、最初の投与から薬剤の薬効が不十分であることをいい、「二次無効」とは、連続投与の途中で投与薬剤の薬効が減弱することをいう。加えて、「忍容性不十分」とは、患者が耐えられない程度の重い副作用が薬剤投与によって起こることを意味する。
【0024】
乾癬の症状の改善は、公知の方法により確認してもよい。例えば改善は、本発明の治療剤または本発明の治療法におけるIL−17RAアンタゴニストの投与後に、種々の指標のスコアが投与前に比較して低下すること、具体的には乾癬面積と重症度指数(以下、PASIと称する)、爪乾癬重症度指数(Nail Psoriasis Severity Index、以下、NAPSIと称する)、頭皮乾癬重症度指数(Psoriasis Scalp Severity Index、以下、PSSIと称する)、または医師による静的全体的評価(static Physician Global Assessments、以下sPGAと称する)のスコアが低下すること;乾癬患者の生活の質(以下QOLと称する)が改善すること等で確認できる。
【0025】
PASIは、乾癬の皮膚症状の重症度を示し、[http://www.kyowa-kirin.co.jp/kayumi/kansen/jinjo_08.html]に記載された方法により測定できる。NAPSIは、爪乾癬の症状の重症度を示し、Richら(J.Am.Acad.Dermatol.2003年、第49巻、第2号、p.206−212)に記載された方法により測定できる。PSSIは、頭皮乾癬の重症度を示し、Leonardiら(J.Engl.J.Med.2012年、第366巻、p.1190−9)に記載された方法により測定できる。sPGAは、医師により総合的に評価される皮膚症状の重症度を示し、H.N.Viswanathanら(2014年7月31日にインターネット上に掲示されたJournal of Dermatological Treatment(doi:10.3109/09546634.2014.943687))に記載された方法により測定できる。QOLは、DLQIを指標として使用し、H.N.Viswanathanら(2014年7月31日にインターネット上に掲示されたJournal of Dermatological Treatment(doi:10.3109/09546634.2014.943687))に記載された方法により測定できる。
【0026】
本発明の治療剤または本発明の治療法におけるIL−17RAアンタゴニストの効果は、全般改善度(以下CGIと称する)により評価され、これは、アンタゴニストの初回投与からの乾癬の皮膚症状の変化を4段階[1:寛解、2:改善、3:不変、4:悪化]の一つとして測定し、結果として、CGIが1(寛解)または2(改善)になることから効果を確認することもできる。
【0027】
膿疱性乾癬の症状が改善することはまた、上記記載の方法に加えて、本発明の治療剤またはアンタゴニストの投与後に、程度スコアが投与前に比較して低下すること等から確認できる。程度スコアは、患者の皮膚症状(紅斑、膿胞、浮腫)および検査所見(発熱、白血球数、血清CRPレベル、および血清アルブミンレベル)の評価を、全身性炎症と併せて点数化することにより得られ、程度スコアは、「膿胞性乾癬(汎発型)診療ガイドライン2010:TNF−α阻害薬を組入れた治療指針(Iwatsuki Keijiら)」に記載された膿胞性乾癬の重症度の基準に基づき計算できる。
【0028】
乾癬性紅皮症の症状の改善の例は、具体的には、前記治療剤または前記アンタゴニストの投与後に、PASIスコアが投与前に比較して低下していること等を含む。より具体的には、乾癬性紅皮症の症状の改善は、前記治療剤の投与後にPASIスコアが投与前に比較して10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%低下していることをいい、100%低下していることが好ましい。
【0029】
本明細書で用いる場合、用語「投与」とは、一回投与または複数回投与(以下、「連投」とも記載する)を指し得る。さらに、上記記載の乾癬の重症度を示すスコアを投与の前後で比較する場合、最初の投与のスコアと一回または複数回投与後のスコアが比較されてもよく、あるいは連投中の適当な2点間のスコアが比較されてもよい。
【0030】
本発明の治療剤、および本発明の方法のIL−17RAアンタゴニストの1回あたりの投与量は特に限定されないが、70mg以上であることが好ましく、140mg以上であることがより好ましく、210mg以上であることが最も好ましく。投与量は、前記治療剤または前記アンタゴニストの連投中に、適宜増加させてもよいし低下させてもよい。
【0031】
前記治療剤および前記アンタゴニストの投与間隔は特に限定されない。具体的には、例えば、前記治療剤および前記アンタゴニストは、1日目(以下、0週目とも記載する)、1週目及び2週目に投与し、かつ以降は2週間に1回、または4週間に1回投与してもよい。投与間隔はまた、適切に延長されてもよく、または短縮されてもよい。
【0032】
前記治療剤および前記アンタゴニストの投与期間は、特に限定されない。具体的には、例えば、前記治療剤および前記アンタゴニストは、最初の投与後10、20、30、40、または50週間、あるいは50週間より長く投与することができ、50週間より長く投与することがより好ましい。投与期間中に休薬期間を含めてもよい。
【0033】
本発明におけるIL−17RAは、特に種を限定されず、好ましくはヒトのIL−17RAである。本発明におけるIL−17RAアンタゴニストとは、IL−17RAとIL−17RAリガンド(IL−17A、IL−17F、IL−17A/F、IL−25等)との間の相互作用を阻害するものであればいかなるアンタゴニストでもよい。具体的には、例えば、IL−17RAアンタゴニストは、IL−17RAと前記リガンドとの結合を阻害する活性を有するアンタゴニスト、前記リガンドの結合により開始されるIL−17RA活性化を阻害する活性を有するアンタゴニスト、またはIL−17RAとヘテロダイマーを形成する受容体との間の会合を阻害する活性を有するアンタゴニストであってもよい。
【0034】
IL−17RAアンタゴニストは、例えば、低分子、抗体、抗体断片、抗原結合断片、siRNA、アンチセンスオリゴマー等を含む、いかなる形態でもよい。好ましくは、前記アンタゴニストは抗体または抗体断片である。
【0035】
IL−17RAアンタゴニストとしての抗体の具体例は、抗IL−17RA抗体、抗IL−17A抗体、抗IL−17F抗体、抗IL−17A/F抗体、および抗IL−17E抗体を含む。抗IL−17RA抗体が好ましい。
【0036】
本発明で用いる抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体のいずれか一つであってもよく、好ましくは単一のエピトープに結合するモノクローナル抗体である。
【0037】
抗体は、ハイブリドーマから生産されるモノクローナル抗体であってもよいし、または遺伝子組換え技術によって作製された遺伝子組換え抗体であってもよい。遺伝子組換え抗体の例は、マウス抗体、ラット抗体、ヒトキメラ抗体(以下、単にキメラ抗体と称する)、ヒト化抗体[ヒト型相補性決定領域(complementarity determining region)(CDR)移植抗体ともいう]、およびヒト抗体を含む;また、ヒトにおいて免疫原性を低下させるために、好ましくはキメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体が使用される。
【0038】
具体的には、本発明のモノクローナル抗体としては、以下の(A)〜(B)から選ばれる抗体が挙げられる。
(A)抗体の重鎖可変領域(VHと表記する)のCDR1、CDR2、およびCDR3が、それぞれ配列番号1、2、および3で示されるアミノ酸配列を含み、かつ、抗体の軽鎖可変領域(VLと表記する)のCDR1、CDR2、およびCDR3が、それぞれ配列番号4、5、および6で示されるアミノ酸配列を含むモノクローナル抗体;および
(B)抗体のVHが配列番号7で示されるアミノ酸配列を含み、かつ、抗体のVLが配列番号8で示されるアミノ酸配列を含むモノクローナル抗体。
【0039】
本発明においては、抗体のVHのCDR1、CDR2、およびCDR3が、それぞれ配列番号1、2、および3で示されるアミノ酸配列を含み、かつ、抗体のVLのCDR1、CDR2、およびCDR3が、それぞれ配列番号4、5、および6で示されるアミノ酸配列を含むモノクローナル抗体、または抗体のVHが配列番号7で示されるアミノ酸配列を含み、かつ、抗体のVLが配列番号8で示されるアミノ酸配列を含むモノクローナル抗体の一実施形態は、抗ヒトIL−17RAヒトモノクローナル抗体AM14/AM14(国際公開第2008/054603号)および遺伝子組換え抗ヒトIL−17RAヒト抗体AM−14(ブロダルマブとも称する)等を包含する。
【0040】
本発明において、モノクローナル抗体とは、単一クローンの抗体産生細胞により分泌される抗体を指し、ただ1つのエピトープ(抗原決定基)を認識し、かつモノクローナル抗体を構成するアミノ酸配列(一次構造)が均一である抗体をいう。
【0041】
エピトープとは、モノクローナル抗体が結合のために認識する、単一のアミノ酸配列、アミノ酸配列からなる立体構造、糖鎖、糖脂質、多糖脂質、アミノ基、カルボキシル基、リン酸、硫酸等の修飾残基が結合したアミノ酸配列、および該修飾残基が結合したアミノ酸配列からなる立体構造をいう。立体構造とは、天然に存在するタンパク質が有する立体構造であり、細胞内または細胞膜上に発現されているタンパク質で構成される立体構造をいう。
【0042】
本発明において抗体分子はイムノグロブリン(以下、Igと表記する)とも称される。ヒト抗体は、分子構造間の差異に応じて、IgA1、IgA2、IgD、IgE、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、およびIgMのアイソタイプに分類される。アミノ酸配列の相同性が比較的高いIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4を総称してIgGとも称する。
【0043】
本発明において抗体分子は重鎖(heavy chain、以下H鎖と記す)および軽鎖(light chain、以下L鎖と記す)と呼ばれるポリペプチドより構成される。
【0044】
さらに、H鎖はN末端側よりVHおよびH鎖定常領域(CHとも表記される)により構成され、L鎖はN末端側よりVLおよびL鎖定常領域(CLとも表記される)によりそれぞれ構成される。
【0045】
キメラ抗体は、ヒト以外の動物由来の抗体のVHおよびVLと、ヒト抗体のCHおよびCLとから構成される抗体を指す。可変領域が由来する動物の種類は、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ等のハイブリドーマの作製に使用しうる動物であれば特に限定されない。
【0046】
ヒト化抗体は、非ヒト動物抗体由来のVHおよびVLのCDRを、ヒト抗体のVHおよびVLの適切な位置に移植することにより得られる抗体(ヒト型CDR移植抗体)である。
【0047】
ヒト抗体は、ヒト体内に天然に存在する抗体を意味し、また最近の遺伝子工学、細胞工学、発生工学の先進技術に基づき作製される、ヒト抗体ファージライブラリーまたはヒト抗体産生トランスジェニック動物から得られる抗体も含む。
【0048】
本発明においては、抗体断片のタイプは特に限定されず、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、ダイアボディ、dsFv、CDRを含有するペプチド等が挙げられる。
【0049】
本発明の治療剤は、有効成分としてのIL−17RAアンタゴニストのみを含むものであってもよいが、通常は薬理学的に許容される1以上の担体と一緒に混合され、かつ製剤学の技術分野において周知の任意の方法により製造された医薬製剤として提供するのが好ましい。医薬製剤の具体例は、有効成分として140mg/mLの遺伝子組換え抗ヒトIL−17RAヒト抗体AM−14を含み、かつ添加剤として10mmol/LのL−グルタミン酸、3%(w/v)のL−プロリン、および0.010%(w/v)のポリソルベート20等を用いて製剤される、医薬製剤等を包含する。医薬製剤はまた、140mg/mLの遺伝子組換え抗ヒトIL−17RAヒト抗体AM−14を含み、さらに添加剤として30mmol/LのL−グルタミン酸、2.4%(w/v)のL−プロリン、および0.01%(w/v)のポリソルベート20を含む、pH4.8の医薬製剤も包含する。医薬製剤は、例えば、国際公開第2011/088120号に記載された方法により生産され得る。
【0050】
本発明の治療剤もしくは本発明の方法で投与されるIL−17RAアンタゴニストの投与経路については、治療に際して最も効果的なものを使用するのが好ましい。投与経路の具体例は、経口投与、または口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内、若しくは静脈内等の非経口投与を含み、皮下または静脈内投与が好ましく、皮下投与がより好ましい。投与形態の例は、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏、テープ剤等を含み、かつ注射剤が好ましい。
【0051】
本発明の治療剤またはIL−17RAアンタゴニストの投与装置は、治療の間に適切に選択され得る。それらの例は、プレフィルドシリンジおよび自動注射器を含むが、装置はこの例に限定されない。
【実施例】
【0052】
[実施例1]
組換え抗ヒトIL−17RAヒト抗体AM−14の日本における第3相臨床試験
組換え抗ヒトIL−17RAヒト抗体AM−14(以下、「AM−14」)の日本における第3相臨床試験(以下、単に「臨床試験」とも称する)の概要を表1に提示する。臨床試験の被験者として、表2に示した条件を満たす膿疱性乾癬患者または乾癬性紅皮症患者を選択し、AM−14を長期投与した後の安全性および有効性等を評価した。各被験者には、140mgのAM−14を1日目、1週目、および2週目、そして以降は50週目まで2週間に1回投与した。投与4週目で十分な効果が得られなかった被験者には、投与量を増やし、投与6週目からは210mgのAM−14を2週間に1回投与した。臨床試験は投与後52週目で終了した。
【0053】
AM−14は、国際公開公報2008/054603号に記載の抗体可変領域アミノ酸配列を有し、CHO細胞由来の組換えヒト抗体として常法により作製された。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
[実施例2]
抗TNF−α抗体を投与された膿疱性患者に対するAM−14の治療効果
実施例1の臨床試験に参加した被験者のうち5人が、抗TNF−α抗体を投与されたことがある。これらの被験者について、AM−14の初回投与からの乾癬の皮膚症状における変化を表わす全般改善度(以下、CGIと称する)を経時的に測定した。得られた結果を図1(A)〜1(C)、図2(D)及び図2(E)に示す。CGIは、医師により判定された、それぞれ寛解、改善、不変、および悪化を表わす1から4のスケールで示された。
【0057】
図1(A)〜1(C)、図2(D)及び図2(E)に示すように、抗TNF−α抗体を投与されたことのある5例の膿疱性患者のうち4例は50週間にわたりAM−14を投与することができ、かつ52週目の時点でCGIが2以下であった。上記に説明したように、AM−14は、抗TNF−α抗体を投与されたことのある膿疱性患者に治療効果があることが示された。
【0058】
[実施例3]
抗TNF−α抗体で治療できなかった膿疱性乾癬患者に対するAM−14の治療効果
表3は、実施例2で調べた5人の被験者における、乾癬治療剤の使用歴を示す。表3中の被験者BおよびDは、乾癬治療剤を示した順で使用した。被験者A、C、Eの3名は、AM−14の投与直前までインフリキシマブを投与していた。インフリキシマブおよびアダリムマブは抗ヒトTNF−α抗体(インフリキシマブはキメラ抗体、アダリムマブはヒト化抗体である)、ウステキヌマブは抗ヒトIL−12/23p40ヒト化抗体である。これらの乾癬治療剤は、いずれも日本で承認されている。これらの薬剤の投与を中止した理由は、投与開始から薬効が不十分であった場合「一次無効」、連投の途中で投与薬剤の薬効が減弱した場合「二次無効」として表3に示す。また、薬効ではなく、被験者が耐え得ない程度の重い副作用が理由で薬剤投与の中止が必要であった場合を、忍容性不十分として表3に記載した。AM−14は、投与52週目の時点でCGIが2または1であった場合を治療効果あり、CGIスコアが2および1以外であった場合を治療効果なしと判定した。
【0059】
【表3】
【0060】
表3に示すように、インフリキシマブまたはアダリムマブに応答しなかった(一次無効または二次無効)4例の被験者(被験者A、B、C、E)のうち、3例(被験者A、B、およびC)で、AM−14投与が治療効果をもつことが示された。被験者Dの結果に示されるように、AM−14は50週にわたり連投でき、インフリキシマブおよびアダリムマブの投与による重い副作用を受けかつインフリキシマブおよびアダリムマブに対し忍容性不充分と判定された被験者に対しても治療効果を示したことが判明した。
【0061】
これらの結果から実証されるように、インフリキシマブおよびアダリムマブ等の抗TNF−α抗体が作用しないかまたは重い副作用を引き起こすことを理由に、抗TNF−α抗体では治療できなかった膿胞性乾癬を有する被験者について、AM−14が長期間にわたり連投されることおよび乾癬症状を改善することが可能であることが示された。
【0062】
[実施例4]
抗TNF−α抗体を投与されたことのある乾癬性紅皮症患者に対するAM−14の治療効果
実施例1の臨床試験に参加し乾癬性紅皮症患者のうち3人は、抗TNF−α抗体投与の経歴があった。当該被験者について、乾癬の重症度の目安であるPASI(乾癬面積と重症度指数)スコアを経時的に測定した。結果を図3に示す。PASIスコアは、表4に示した評価方法の使用により算出した。
【0063】
【表4】
【0064】
図3に示すように、各被験者のPASIスコアは投与回数が増えるにつれて低下した。PASIスコアは、被験者F、H、およびGではそれぞれ初回投与から10週目、12週目、および48週目にほぼ0に低下した。これらの結果から実証されるように、AM−14は、抗TNF−α抗体を投与されたことがある乾癬性紅皮症患者に治療効果があることが示された。
【0065】
表5は、これら3人の被験者について、乾癬治療剤の使用歴を示す。
【0066】
【表5】
【0067】
表5は、表3で用いたものと同じ定義に従う。AM−14は、各被験者において、投与52週目の時点で、AM−14の投与前の測定よりもPASIスコアが低下している場合に治療効果ありと判定した。表5に見られるように、AM−14は、アダリムマブに応答しなかった患者(被験者H)においても治療効果があることが示された。被験者(被験者G)ではインフリキシマブの投与により重い副作用が起き、かつ被験者Gはインフリキシマブに対し忍容性不充分であると判定された被験者であったが、AM−14は50週間にわたり連投でき、かつ治療効果があることが示された。
【0068】
これらの結果により実証されるように、インフリキシマブおよびアダリムマブなどの抗TNF−α抗体が作用しないかまたは重い副作用を引き起こすことを理由に、抗TNF−α抗体では治療できなかった乾癬性紅皮症患者について、AM−14が長期間にわたり連投されることおよび乾癬症状を改善することが可能であることが示された。
【0069】
本発明を詳細にかつその具体的な実施形態について記載してきたが、当業者には、それにおいて種々の変更及び修飾がその精神および範囲から離れることなく行われ得ることが理解されよう。
【0070】
本出願は、2014年8月26日出願の米国仮特許出願第62/041,862号に基づくものであり、その内容全体が本明細書において参考として援用される。本明細書で引用された全ての参考文献は、その記載全体が援用される。
【配列表フリーテキスト】
【0071】
配列番号1−合成配列:AM−14_HCDR1のアミノ酸配列の記載
配列番号2−合成配列:AM−14_HCDR2のアミノ酸配列の記載
配列番号3−合成配列:AM−14_HCDR3のアミノ酸配列の記載
配列番号4−合成配列:AM−14_LCDR1のアミノ酸配列の記載
配列番号5−合成配列:AM−14_LCDR2のアミノ酸配列の記載
配列番号6−合成配列:AM−14_LCDR3のアミノ酸配列の記載
配列番号7−合成配列:AM−14_VHのアミノ酸配列の記載
配列番号8−合成配列:AM−14_VLのアミノ酸配列の記載
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]