特許第6663917号(P6663917)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スルザー ケムテック アクチェンゲゼルシャフトの特許一覧

特許6663917特に海上分留塔に使用する流体接触トレイ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6663917
(24)【登録日】2020年2月19日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】特に海上分留塔に使用する流体接触トレイ
(51)【国際特許分類】
   B01D 3/32 20060101AFI20200302BHJP
   B63B 25/16 20060101ALI20200302BHJP
   B63B 35/44 20060101ALI20200302BHJP
【FI】
   B01D3/32 Z
   B63B25/16 Z
   B63B35/44 C
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-533824(P2017-533824)
(86)(22)【出願日】2015年8月17日
(65)【公表番号】特表2018-501952(P2018-501952A)
(43)【公表日】2018年1月25日
(86)【国際出願番号】EP2015068863
(87)【国際公開番号】WO2016102082
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2018年5月11日
(31)【優先権主張番号】14200178.3
(32)【優先日】2014年12月23日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505150095
【氏名又は名称】スルザー ケムテック アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シールズ、スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】クリシュナモールシー、センシル
(72)【発明者】
【氏名】ダス、マルクス
【審査官】 目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第02457667(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0277869(US,A1)
【文献】 特公昭41−009288(JP,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0277868(US,A1)
【文献】 特公昭39−002227(JP,B1)
【文献】 特開昭54−107473(JP,A)
【文献】 特表2012−521537(JP,A)
【文献】 特表2005−534477(JP,A)
【文献】 特開昭51−080681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D1/00−8/00
B01D53/14−53/18
B63B1/00−69/00
B63J1/00−99/00
B01J10/00−12/02
B01J14/00−19/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体(29)と、
分留塔(1)のための少なくとも1つの流体接触トレイ(10)、特に海上分留塔(1)での使用に適した気液接触トレイと
を有する分留塔(1)であって、
前記トレイ(10)は、
密度が異なる2つの流体(l、g)を接触させるのに適した活性物質移動面(20)を有するトレイデッキ(12)であって、前記活性物質移動面(20)は、流体(g)を通過させるための1以上の開口部(18)を有し、また前記活性物質移動面(20)には、前記活性物質移動面(20)を少なくとも2つの部分(24−1、24−2、24−3、24−4)に分ける、少なくとも部分的に径方向に延びる少なくとも2つの分離壁(22−1、22−2、22−3、22−4)及び/又は少なくとも1つの分離堰(42)が配置される、トレイデッキ(12)と、
流体(l)の回収に適した底部(28)を有する環状流路(26)であって、前記活性物質移動面(20)の周辺部に配置され、且つ前記物質移動面(20)を取り囲む又は少なくとも部分的に取り囲む環状流路(26)と、
前記環状流路(26)から流体(l)を回収及び排出するための中央下降管(34)であって、該中央下降管(34)は、鉛直方向下方へと液体を分配するのに適した開口(36)を底部に有する中空体の形状を有し、且つ前記流体接触トレイ(10)に回転不可能に固定される、中央下降管(34)と、
前記環状流路(26)に回収された流体を、前記環状流路(26)から前記中央下降管(34)へと移動させる少なくとも1つの通流手段(40)と
を有し、また
1つの流体接触トレイ(10)の前記下降管(34)の前記開口(36)から、隣接する流体接触トレイ(10)の前記トレイデッキ(12)の上側へと液体を鉛直方向下方へ分配できるように配置された少なくとも2つの流体接触トレイ(10)を有する、分留塔(1)。
【請求項2】
前記活性物質移動面(20)は、上面視で、少なくともほぼ円環形状を有し、前記流体接触トレイ(10)は、少なくともほぼ対称的に形成され、また前記活性物質移動面(20)と、少なくとも部分的に径方向に延びる分離壁(22−1、22−2、22−3、22−4)及び/又は分離堰(42)とを有する前記トレイデッキ(12)は、前記トレイデッキ(12)に垂直なトレイの中心を通して延びる軸(A)に対してほぼ回転対称である、請求項1に記載の分留塔(1)。
【請求項3】
動作時に、液体(l)が前記活性物質移動面(20)上をその径方向内側端部から周辺部へと流れるように、また液体(l)が前記環状流路(26)から、前記流体接触トレイ(10)の中央部に位置する前記中央下降管(34)へと移動するように構成された、請求項1又は2に記載の分留塔(1)。
【請求項4】
3〜4個の少なくとも部分的に径方向に延びる分離壁(22−1、22−2、22−3、22−4)が前記活性物質移動面(20)に配置され、且つ/又は3〜4個の分離堰(42)が前記活性物質移動面(20)に配置される、請求項1から3までのいずれか一項に記載の分留塔(1)。
【請求項5】
前記少なくとも部分的に径方向に延びる少なくとも2つの分離壁(22−1、22−2、22−3、22−4)が、前記活性物質移動面(20)の径方向外側の外周縁から前記トレイデッキ(12)の中心までの距離の60〜75%にわたって、前記活性物質移動面(20)の径方向外側の外周縁から延びている、請求項1から4までのいずれか一項に記載の分留塔(1)。
【請求項6】
少なくとも部分的に径方向に延びる少なくとも1つの隔壁(30−1、30−2、30−3、30−4)が、前記環状流路(26)の底部(28)及び/又は上部に配置され、また前記少なくとも部分的に径方向に延びる少なくとも1つの隔壁(30−1、30−2、30−3、30−4)は、ほぼ鉛直方向に延びている、請求項1から5までのいずれか一項に記載の分留塔(1)。
【請求項7】
3〜4個の少なくとも部分的に径方向に延びる隔壁(30−1、30−2、30−3、30−4)が、前記環状流路(26)の底部(28)及び/又は上部に配置され、また前記環状流路(26)の前記底部(28)及び/又は前記上部に配置された前記隔壁(30−1、30−2、30−3、30−4)の数が、前記活性物質移動面(20)に配置された前記分離壁(22−1、22−2、22−3、22−4)の数と同じである、請求項6に記載の分留塔(1)。
【請求項8】
前記トレイ(10)は、少なくとも部分的に径方向に延びる隔壁(30−1、30−2、30−3、30−4)を少なくとも2つ有し、前記少なくとも部分的に径方向に延びる隔壁(30−1、30−2、30−3、30−4)は、前記環状流路(26)が前記隔壁(30−1、30−2、30−3、30−4)によってほぼ同じ大きさの部分(32−1、32−2、32−3、32−4)に分けられるように、前記環状流路(26)の底部(28)及び/又は上部に互いにほぼ等間隔に配置されている、請求項6又は7に記載の分留塔(1)。
【請求項9】
前記トレイデッキ(12)は、前記トレイデッキ(12)の中心から前記活性物質移動面(20)の周辺へ、又は前記活性物質移動面(20)の径方向内側の端部から前記活性物質移動面(20)の周辺へ、水平面に対して径方向に測定して4〜7°の負の角度(a)で下方に傾斜している、請求項1から8までのいずれか一項に記載の分留塔(1)。
【請求項10】
前記少なくとも1つの通流手段(40)はパイプであり、前記パイプ(40)の一方の開口が前記環状流路(26)の下部へと開き、他方の開口が前記中央下降管(34)へと開いている、請求項1から9までのいずれか一項に記載の分留塔(1)。
【請求項11】
前記環状流路(26)を前記隔壁(30−1、30−2、30−3、30−4)の数に対応する数の部分(32−1、32−2、32−3、32−4)に分ける、少なくとも部分的に径方向に延びる少なくとも1つの隔壁(30−1、30−2、30−3、30−4)が前記環状流路(26)の底部(28)に配置され、前記流体接触トレイ(10)が、前記部分(32−1、32−2、32−3、32−4)の数以上の通流手段を有している、請求項1から10までのいずれか一項に記載の分留塔(1)。
【請求項12】
蒸留、精留、ストリッピング、直接熱交換、吸収、又は抽出によって流体混合物をそれぞれの成分に分離する熱分離処理での請求項1から11までのいずれか一項に記載の分留塔(1)の使用であって、前記分留塔(1)は、海上の移動型プラットフォーム又は船舶に設置される、使用。
【請求項13】
少なくとも6バールの圧力で行われる前記分留塔(1)での高圧蒸留と、
結果として生じる留分の一つが液化される前に、天然ガスからの前記分留塔(1)における重質留分の除去と、
脱メタン化、脱エタン化、脱プロパン化、及び/又は、脱ブタン化等による、炭化水素混合物からの前記分留塔(1)における軽質留分の除去と
のうちの少なくとも1つを含む、請求項12に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分留塔用流体接触トレイ、特に海上(オフショア)分留塔での使用に適した気液接触トレイ、そのような流体接触トレイを有する分留塔、及び、特に非固定的浮遊物体上での海上用途のための、熱分離処理用のそのような分留塔の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸留塔、吸収塔、抽出塔等の分留塔(fractionation column)には、一般的に、分留塔の動作時にこの分留塔内を通常逆流方向に流れる様々な成分間の接触のための表面積を提供する内部装置が含まれる。この目的のために、不規則充填物や規則充填物、接触トレイ等の複数の異なる種類の内部装置が知られている。
【0003】
蒸留塔や精留塔にしばしば用いられる接触トレイは、互いに間隔をおいて塔の高さにわたって配置され、このトレイは、通常、開口部が設けられたトレイデッキと、1つ以上の下降管とを備えている。多くの場合、分留塔において、トレイは、下降する液体が、下降管を介して塔の高さにわたって、直交流トレイとして知られる各トレイを横切ってトレイからトレイへとジグザグに配向される一方で、上昇する蒸気が、液体と蒸気との間で物質移動及び/又は熱移動が生じるよう開口部を通るように配置される。液体が開口部を通って塔を流れることを防ぐために、デフレクター(バルブ)がトレイデッキの各開口部の上に位置付けられることが多い。特に、液流量が大きい大型の塔では、下降管が複数用いられる。別の塔設計では、トレイは、蒸気と液体がそれぞれの方向で開口部を介して移動するために競い合うよう円形のデュアルフロートレイとして構成される。
【0004】
接触トレイとは異なり、規則充填物は、流体が塔を通る通常の経路を取らざるを得ないように構成され配置された複数の波形の金属板で構成される。その結果、液体と、例えば蒸気等のその他の相との間の接触に対して大きな表面積が生じることとなる。これらの波形の金属板には、充填物の湿潤特性や流れ特性を変更するために、穿孔処理が行われることが多い。充填物の表面積は通常、用途に応じて調節が行われる。ここで傾向としては、比表面積が小さいと、充填物の容量が増加し、比表面積が大きいと、熱物質移動ひいては単位高さ当たりの充填物の分離効率が増大する。
【0005】
これに対し、不規則充填物は、球体やリング又はより複雑な形態をとり得るランダムに配向された小体(small body)で構成される。
【0006】
ほとんどの用途において、分留塔は固定して、すなわち、陸上に設置されている。しかし、分留塔の海上での利用は、非固定的プラットフォーム、浮遊式液化天然ガス(FLNG)船舶、浮遊式生産貯蔵出荷(FPSO)船舶、その他の非固定的浮遊物体上での分留等、近年ますます興味深いものになっている。より具体的には、FLNG方式は、ガス収集現場近くの海上、すなわち、特に特別に設計された船上での天然ガスの液化、そして、従来のように収集された天然ガスをパイプラインにより本土へと搬送するのではなく、運送船による液化天然ガスの本土への輸送を目的とするものである。この方式では、軽質炭化水素を含む精製された留分が液化される前に、二酸化炭素、水等の重質炭化水素や汚染物質を粗天然ガスから取り除かなければならない。同様に、FPSOは、海上収集処理、特に、原油の分留、貯蔵、輸送に用いられる浮遊式船舶である。
【0007】
しかしながら、各分留塔は、本土ではなく、使用中は静止せずに波や風等の動きにさらされる非固定的プラットフォーム上や船上に設置されているため、海上で分留を行うことは困難な作業である。一般的な分留塔を備えた接触トレイは、動きに対して、特にトレイデッキの液相の不均衡分布ひいては分留塔の分離効率の低下につながる傾斜に対して非常に敏感であるため、充填物で満たされた分留塔は、通常、海上用途に用いられる。しかしながら、少なくとも6バールの圧力で動作する炭化水素用分留塔等の高圧蒸留の用途では、充填物を有する塔の水圧限界からはかけ離れた設計を行わなければならず、それによって、塔の直径が大きくなり高充填となる。しかし、このような充填分留塔によって非固定的条件下でも安全な操業が可能となったとしても、その効率は低い。
【0008】
不均衡分布は、一般的に分離効率の低下につながる分留塔によく見られる現象として知られている。これは、蒸気流量及び/又は液体流量が塔断面にわたって不均一に分布することに起因する。これにより、蒸気対液体の比率の分布が不均一となる。しかしながら、最高の分離効率を得るには、蒸気と液体とが塔の断面にわたって均一な比率で接触する必要がある。非固定的浮遊物体上の分留塔は、様々な要因により理想的な垂直配向ではないことがある。まず、貯蔵物が不均等に分布することにより、物体が常に傾いたり静的に傾斜したりする場合がある。また、海と風の状態に恐らく貯蔵された液体のスロッシングも相まって、浮遊物体の規則的又は不規則な運動を引き起こすこともある。この運動により、加速度、非垂直状態(動的傾斜)、そしてその後の不均衡分布の効果に起因して、分留塔が非常に理想的でない状態となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記に鑑み、本発明は、分留塔用流体接触トレイ、特に、動きが生じた場合でも分離効率を維持した海上分留塔での使用に大変よく適したものとなるよう、その動作時に、動的傾斜、すなわち、不規則に変化する角度を有する傾斜等の動きが生じた場合でも、相、特に液相が均一に分布する分留塔用の気液(vapor−liquid)接触トレイを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、上記目的は、請求項1に記載の流体接触トレイ、すなわち、分留塔用流体接触トレイ、特に海上分留塔での使用に適した気液接触トレイを提供することにより達成される。このトレイは、
流体が通る1つ以上の開口部を有し、密度が異なる2つの流体を接触させるのに適した活性物質移動面と、前記活性物質移動面の周辺部に配置され、この物質移動面を少なくとも部分的に取り囲み、流体の回収に適した底部を有する環状流路とを備えたトレイデッキであって、上記活性物質移動面には、この活性物質移動面を少なくとも2つの部分に分ける少なくとも部分的に径方向に延在する少なくとも2つの分離壁及び/又は少なくとも1つの分離堰が配置されるトレイデッキ、
鉛直方向に下方へと液体を分配するのに適した底部に開口を有する中空体の形状を有し、上記環状流路から流体の回収と排出を行い、上記流体接触トレイに回転不可能に固定されることが好ましい中央下降管、及び
上記環状流路に回収された流体を環状流路から中央下降管へと移動させる少なくとも1つの通流手段
を備える。
【0011】
上記解決手段は、活性物質移動面に配置された少なくとも部分的に径方向に延在する少なくとも2つの分離壁及び/又は少なくとも1つの分離堰を設け、活性物質移動面の周辺部に配置され、この物質移動面を少なくとも部分的に取り囲み、流体の回収に適した底部を有する環状流路を設け、鉛直方向に下方へと液体を分配するのに適した底部に開口を有する中空体の形状を有し、環状流路から流体の回収と排出を行い、流体接触トレイに回転不可能に固定されることが好ましい中央下降管を流体接触トレイに設け、環状流路に回収された流体を環状流路から中央下降管へと移動させる通流手段を少なくとも1つ設けることにより、動きが生じた場合でも分離効率を維持した海上分留塔での使用に大変よく適したものとなるよう、その動作時に、動的傾斜、すなわち、不規則に変化する角度を有する傾斜等の動きが生じた場合でも、相特に液相が少なくともより均一に分布する分留塔用流体接触トレイが得られるという驚くべき知見に基づくものである。中央下降管によって、流体接触トレイを備える分留塔に与える動きの影響が、動きの方向に関係なく同じになる。また、中央下降管によって、液体の回収と混合が単一の下降管において行われ、それにより、通流手段を介して環状流路から中央下降管へと移動する液体の密度勾配を均一にすることができる。また、中央下降管を底部に開口を有する形状、すなわち、中空体、好ましくは、中空円筒とすることにより、隣接する流体接触トレイのトレイデッキの上側へ鉛直方向に下方へと液体を分配することが可能になる。これにより、動きが生じた場合でも、流体接触トレイのトレイデッキの活性物質移動面の表面に液体を均一に分配することができる。さらに、トレイデッキの活性物質移動面に配置された分離壁及び/又は1つ以上の分離堰によってトレイデッキの活性物質移動面がいくつかの部分に分けられることで、流体接触トレイが傾斜した場合でも、不均衡分布の結果として分離効率の大きな低下につながるトレイデッキの一部のみに流体が回収されることが回避される。これは、液体が1つ以上の分離壁及び/又は1つ以上の分離堰によってトレイデッキの各部分に流され、トレイデッキと活性物質移動面を少なくともほぼ均一に覆うためである。
【0012】
また、底部に開口を有する中央下降管を設け、活性物質移動面の周辺部に配置され、この物質移動面を少なくとも部分的に取り囲み、流体の回収に適した底部を有する環状流路を設け、環状流路に回収された流体を環状流路から中央下降管へと移動させる通流手段を設けることにより、分留塔の各流体接触トレイにおいて並行の流れが生じる、すなわち、液体が各流体接触トレイのトレイデッキをその中央部から周辺部へと流れ(すなわち、液体が各流体接触トレイの活性物質移動面をその活性物質移動面の径方向内側端から周辺部へと流れ)、その後、液体は各流体接触トレイの、すなわち、その周辺部の環状流路から中央下降管、すなわち、その中央部へと移動する。このような液体の流れの配置を、一般的に、直交流トレイの対語として並流トレイと呼ぶ。並流は、直交流に比べて分離効率が向上する(ルイスケース2対ルイスケース3)。本発明に係る流体接触トレイの中央部から周辺部への並流とは対照的に、スリットトレイ型AM(Sulzer社の登録商標)と呼ばれる従来技術のトレイは、反対の方向の並流を有するものとして知られている。このAMトレイでは、液体は、移動された地点から分配アームを介して周辺部へと中央下降管に直接流れ込み、隣接する流体接触トレイの活性物質移動面上に放出される。このようなAMトレイは、トレイの動きに対して、特に、塔軸(column axis)の垂直配向からのずれに対してさらに敏感である。
【0013】
また、活性物質移動面の周辺部に配置され、この物質移動面を少なくとも部分的に取り囲み、流体の回収に適した底部を有する環状流路を設けることで、活性物質移動面の周辺部から環状流路へと流れる混合物の液体と蒸気とを効率的かつ完全に分離させ、ほぼ液体だけを中央下降管へと移動させることができる。
【0014】
概して、本発明に係る分留塔用流体接触トレイは、特に分留塔が動きにさらされても、トレイデッキにおける蒸気と液体の不均衡分布並びにトレイからトレイへと中央下降管を介して移動する液体の密度偏差を確実に防ぐため、特に分留塔が海上に配置されることによる傾斜等の動きにさらされても、分離効率が大幅に向上することを特徴とする。
【0015】
これにより、トレイの代わりに、所定の流体処理量で同じ分離効率を得るための充填物を備える各塔と比べて、分留塔の寸法が大幅に、すなわち、35%以上小さくなることもある。そのため、本発明に係る分留塔用流体接触トレイは、海上分留塔での使用に大変よく適したものとなる。
【0016】
本発明に係る中央下降管とは、上記トレイを備えた分留塔の縦軸と少なくともほぼ同軸に配置される、すなわち、トレイデッキの少なくともほぼ中心に配置される下降管を意味する。
【0017】
また、本発明に係る活性物質移動面は、2つの異なる密度の流体、すなわち、上昇する蒸気と下降する液体を接触させるトレイデッキのほぼ水平の面の一部、すなわち、流体を通す開口部を有するトレイデッキのほぼ水平の面の一部と定義される。言い換えれば、流体を通す開口部を有さないトレイデッキのほぼ水平の面の一部は、活性物質移動面の一部ではない。
【0018】
本明細書及び請求項に記載の数値の範囲はすべて近似範囲として理解すべきである。例えば、直径が1.0〜10.0mmと特定される場合は、約1.0〜10.0mmと理解されるべきであり、ここで、約とは、上記数値の最大でも25%、好ましくは最大でも10%、より好ましくは最大でも5%の偏差を意味する。
【0019】
また、本明細書及び請求項に用いられる「ほぼ(substantially)」という用語は、各部品の通常の製造上の公差を含むものと理解されるべきである。そのため、ほぼ円形のトレイデッキとは、一般的な製造上の公差を考慮した上で円形であるトレイデッキのことである。
【0020】
本発明の特に好適な実施例によれば、流体接触トレイの活性物質移動面を備えるトレイデッキは、上面視で円形又はほぼ円形の形状を有し、流体接触トレイの活性物質移動面は、上面視で円環形状又はほぼ円環形状を有することが好ましく、その円環の内側の開口部又はトレイデッキの中央部はそれぞれ、開口部を有さない小型の板によって覆われている。すなわち、トレイデッキは円形状であることが好ましく、その円形の外側の円環が開口部を含むことにより活性物質移動面として構成される一方、中央部には全く開口部が含まれないか、含まれたとしても少ないことが好ましい。しかしながら、中央部には開口部が上記円形の外側の円環と同じ密度で開口部が含まれることも可能である。ここで説明したトレイ上の分留塔に位置するトレイの中央下降管は、円形の中央の同心部の上に位置している。本実施例において、流体接触トレイは少なくともほぼ対称的に形成され、活性物質移動面と少なくとも部分的に径方向に延在する少なくとも2つの分離壁及び/又は少なくとも1つの分離堰を備えるトレイデッキは、トレイデッキに対して垂直なトレイの中心を通って延在する軸に対して、すなわち、上記トレイを備える分留塔の縦軸に対してほぼ回転対称であることが好ましい。この対称性のため、動きが生じる方向とは無関係に、動きの影響が同じである。
【0021】
トレイデッキは、1〜10m、好ましくは1〜5m、より好ましくは2〜3mの直径を有してもよい。
【0022】
上記に示したように、本発明に係る流体接触トレイの設計により、分留塔の各流体接触トレイには並流が生じる、すなわち、動作中では、液体が活性物質移動面の径方向内側の端部にわたるトレイデッキの中心から活性物質移動面の周辺部へと流れ、その後、環状流路へと流れ込んで回収された後、トレイデッキの周辺部における環状流路から流体接触トレイの中心に位置する中央下降管へと移動する。そして、液体は、中央下降管からその底部にある1つ以上の分配開口部を介して隣接する流体接触トレイの活性物質移動面へと流れていく。このような液体の流れにより、上記トレイを備える分留塔に動きが生じた場合でも、かなり高い分離効率が得られる。
【0023】
特に、トレイデッキが円形状又は少なくともほぼ円形状で、活性物質移動面が、上面視で、トレイデッキの外側の円環又は少なくともほぼ円環状の形状を形成する実施例では、開口部により得られるトレイデッキの単位面積当たりの開口領域の和は、トレイデッキの活性物質移動面の径方向内側の端部から周辺部にかけて変化してもよく、少なくともほぼ漸次的に変化することが好ましい。従って、開口部により得られるトレイデッキの単位面積当たりの開口領域の開口部分の和は、トレイデッキの径方向に沿って増減してもよい。ここで、開口部分とは、開口部により得られる開口領域の和をトレイデッキの各部分の断面で割った商である。液体が開口部を通って塔を流れないようにするために、バルブ、すなわち、固定バルブ又はフロートバルブをトレイデッキの各開口部の上に配置してもよい。
【0024】
本発明による概念をさらに発展させると、流体接触トレイの活性物質移動面の開口部分、すなわち、開口部の総面積が、トレイデッキの活性物質移動面の総面積の5〜20%、好ましくは6〜18%、より好ましくは8〜13%であることが提案されている。
【0025】
上記に示したように、トレイデッキの活性物質移動面に配置された分離壁によってトレイデッキの活性物質移動面がいくつかの部分に分けられることで、流体接触トレイに傾斜や加速が生じた場合でも、不均衡分布の結果として分離効率の大きな低下につながるトレイデッキの一部のみに流体が回収されることが回避される。これは、液体が分離壁によってトレイデッキの各部分に流され、トレイデッキと活性物質移動面を少なくともほぼ均一に覆うためである。特に、少なくとも部分的に径方向に延在する少なくとも2つの分離壁がほぼ垂直に延在する場合に良好な結果が得られる。
【0026】
上記分離壁は穴が開けられていなくてもよいが、穴を開けることも可能である。最後に述べた場合では、穿孔が高さ又は流路に沿って徐々に変化してもよい。
【0027】
分離壁の厚さは使用する材料によって決まり、例えば、ステンレス製の分離壁の場合は0.1〜3mmでもよい。トレイデッキ自体は、1mm〜6mmの厚さを有することが好ましく、2mm〜3mmの厚さを有することがより好ましい。
【0028】
傾向として、トレイがその動作時にさらされる(動的及び静的な)傾斜や加速が高いほど、分離壁が多くなるべきである。特に、2〜8個、より好ましくは2〜6個、さらに好ましくは3〜4個の少なくとも部分的に径方向に延在する分離壁が流体接触トレイのトレイデッキの活性物質移動面に配置される場合に良好な結果が得られる。
【0029】
すべての分離壁は、活性物質移動面が分離壁によってほぼ同じ大きさの部分に分けられるよう、活性物質移動面に互いにほぼ等間隔に配置されていることが望ましい。
【0030】
分離壁は、動きが生じた場合に、トレイデッキの中心よりも周辺部で重要となる。その結果、本発明による概念をさらに発展させると、少なくとも部分的に径方向に延在する少なくとも2つの分離壁が活性物質移動面の外周縁からトレイデッキの中心までの距離の少なくとも50%にわたって活性物質移動面の径方向外側の外周縁から延在することが提案されている。
【0031】
しかしながら、少なくとも2つの分離壁は、トレイデッキの全幅(すなわち、径方向の長さ)にわたって径方向に延在する必要はない。これにより、少なくとも部分的に径方向に延在する少なくとも2つの分離壁が、活性物質移動面の外周縁からトレイデッキの中心までの距離の90%までか70%までしか延在しなくてもよい。こうすることで、材料の節約と流体接触トレイの軽量化が可能となる。このため、少なくとも部分的に径方向に延在する少なくとも2つの分離壁は、活性物質移動面の外周縁からトレイデッキの中心までの距離の50%超〜100%未満、好ましくは60〜90%、より好ましくは60〜75%にわたって活性物質移動面の径方向外側の外周縁から延在することが望ましい。
【0032】
しかしながら、また、少なくとも2つの分離壁は、トレイデッキの全幅(すなわち、径方向の長さ)にわたって径方向に延在することも可能である。
【0033】
本発明のさらに好適な実施例では、少なくとも部分的に径方向に延在する少なくとも2つの分離壁が、流体接触トレイの高さの50〜90%に相当する、及び/又はトレイ間隔の50〜90%に相当する高さを有する。これにより、塔が動いている時に、液体がトレイデッキのある部分から他の部分へと流れることを確実かつ完全に防ぐことができる。トレイ間隔とは、1つのトレイデッキの上側とその上に位置する隣接するトレイデッキの下側の間隔である。このトレイ間隔は、好ましくは100mm〜1,000mm、より好ましくは250mm〜800mm、さらに好ましくは400mm〜700mmである。
【0034】
あるいは、すなわち、分離壁の代わりに、もしくは、加えて、すなわち、分離壁に加えて、少なくとも1つの分離堰が、好ましくはトレイデッキの中間半径に設けられてもよい。本実施例では、少なくとも1つの方位角に延在する分離堰が中間半径に設けられることが好ましく、この少なくとも1つの分離堰は穴が開けられていなくても開けられていてもよい。
【0035】
特に、上記少なくとも1つの分離堰は、円形状を有していてもよい。
【0036】
活性物質移動面には、1〜8個、好ましくは2〜6個、より好ましくは3〜4個の分離堰、特に好ましくは円形の分離堰を配置することができる。
【0037】
特に、少なくとも部分的に径方向に延在する少なくとも1つの分離堰がほぼ垂直に延在する場合に良好な結果が得られる。
【0038】
この少なくとも1つの分離堰の厚さは、特にステンレス製の場合には、0.1〜3mmであればよい。
【0039】
また、少なくとも1つの分離堰は、流体接触トレイの高さの5〜90%、より好ましくは5〜60%に相当する、及び/又は、トレイ間隔の5〜60%、より好ましくは10〜40%に相当する高さを有することが望ましい。
【0040】
活性物質移動面の径方向外側の端部には、すなわち、環状流路のまさに径方向上流側には、少なくとも1つの分離堰、より好ましくは2〜6個の分離堰が配置されることが好ましい。本実施例の分離堰は、トレイ間隔の5〜60%、好ましくは10〜40%に相当する高さを有することが好ましく、堰高さに対応する一定の液位を越えた場合に、液体が環状流路にしか排出されないようにする出口堰となる。この機能を果たすために、本実施例の少なくとも1つの分離堰は円形を有し、すべての分離堰によって活性物質移動面の周辺部の少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは全周辺部が覆われる。
【0041】
また、液体が活性物質移動面の径方向外側の端部では縁を超えて環状流路に排出されるよう、活性物質移動面の径方向外側の端部には上記1つ以上の堰が存在しない。
【0042】
本発明の特に好適な実施例によれば、流体接触トレイの環状流路の底部及び/又は上部には、少なくとも部分的に径方向に延在する少なくとも1つの隔壁が配置されることが提案されている。この隔壁は、少なくとも環状流路の高さの一部にわたり延在する。隔壁は環状流路の底部に接続する方が望ましいとしても、必須ではない。そのため、隔壁の下端と環状流路の底面との間には小さめ又は大きめのスリットが設けられてもよい。
【0043】
このように、トレイデッキに動きが生じた場合に、環状流路でも液体の不均衡分布が確実に防げるよう、流体接触トレイの環状流路も活性物質移動面と同様に2つ以上の部分に分けられる。これは、動きや塔軸の垂直からのずれが原因で、液体が環状流路の一方に流れることができないためである。上記少なくとも1つの隔壁は、上記少なくとも2つの分離壁と同じ材料、例えば、ステンレス鋼で同じ厚さに形成されてもよいが、穴が開けられたり、少なくとも部分的に伝導可能とされたりしてもよい。
【0044】
また、隔壁や分離壁は、同一の壁の一部であってもよい。すなわち、分離壁と隔壁とが、活性物質移動面の周辺端部までトレイデッキにわたって延在し、環状流路にわたって延在する1つの壁によって形成されてもよい。この場合、上述の意味では、トレイデッキ上の部分が分離壁で、環状流路を延在する部分が隔壁といったように、活性物質移動面の周辺端部までトレイデッキには1つの壁しか配置されなかったとしても、その後やはりその壁の両部分はそれぞれ別々に分離壁と隔壁と呼ばれる。
【0045】
上記少なくとも部分的に径方向に延在する少なくとも1つの隔壁は、ほぼ鉛直方向に延在することが好ましい。
【0046】
傾向として、トレイがその動作時にさらされる塔の(動的又は静的な)傾斜や加速が高いほど、隔壁が多くなることが好ましい。特に、1〜8個、より好ましくは2〜6個、さらに好ましくは3〜4個の少なくとも部分的に径方向に延在する隔壁が環状流路の底部及び/又は上部に配置される場合に良好な結果が得られる。
【0047】
流体接触トレイの活性物質移動面を分割することによって、活性物質移動面に液体が確実に均一に分布し、動きが生じた場合にも液体と蒸気の良好な接触が確実に得られるため、トレイの分離効率に関して、流体接触トレイの活性物質移動面に配置された分離壁の影響は、環状流路の底部及び/又は上部に配置された隔壁の影響よりも大きいので、環状流路の底部及び/又は上部に配置された隔壁の数は、活性物質移動面に配置された分離壁の数よりも少なくてもよい。これにより、材料の節約と流体接触トレイの軽量化が図られる。また、環状流路の各部分は通流手段に接続されることが好ましいので、必要な通流手段数も軽減され、材料の大幅な節約とトレイの大幅な軽量化につながる。ここで言う液体と蒸気との良好な接触とは、蒸気と液体とがほぼ均一な比率で互いに出くわす、すなわち、液体の質量を気体の質量で割った比が活性物質移動面の全体にわたって同じであることを意味する。この状況は分離壁を用いればもっと容易に達成される。
【0048】
しかしながら、環状流路の底部及び/又は上部に配置された隔壁の数が、活性物質移動面に配置された分離壁の数と同じであることも可能である。しかし、上記に示した理由により、環状流路の底部及び/又は上部に配置された隔壁の数が、活性物質移動面に配置された分離壁の数より大きいことは望ましくない。
【0049】
流体接触トレイが2つ以上の少なくとも部分的に径方向に延在する隔壁を備えた場合、すべての隔壁は、環状流路が隔壁によってほぼ同じ大きさに分けられるよう、環状流路の底部及び/又は上部に互いにほぼ等間隔に配置されていることが望ましい。
【0050】
流体接触トレイの活性物質移動面の周辺端部までトレイデッキの径方向全長にわたって延在してはならない上記少なくとも2つの分離壁とは異なり、少なくとも1つの隔壁は、環状流路の全幅(すなわち、径方向の長さ)にわたって径方向に延在することが望ましい。少なくとも1つの隔壁は、その一部に穴が開けられてもよい。これにより、塔がより長時間ある一定の位置にとどまった場合に、液位の調整が可能となる。このような穿孔処理は、動作が中断した際、塔を完全に排水するのに特に有利である。
【0051】
本発明による概念をさらに発展させると、環状流路の底部は、トレイの高さ軸において、活性物質移動面の周辺部の下方に位置し、環状流路の深さを流体接触トレイの深さの好ましくは30〜70%、より好ましくは40〜60%とする、及び/又は、環状流路の深さをトレイ間隔の好ましくは30〜70%、より好ましくは40〜60%とすることが提案されている。環状流路の深さとは、環状流路の底部の表面の最下点から、環状流路の底部の表面の最下点の上方で垂直な活性物質移動面の外周縁の点までの距離を意味する。
【0052】
環状流路の幅(すなわち、径方向の長さ)については特に限定されないが、流路の幅は、液体荷重によって決まり、表面下降速度が一定の値より高くならないよう、すなわち、一般的に、表面下降速度が0.06〜0.14m/sとなるよう設定されることが好ましい。特に、本発明に係る流体接触トレイの環状流路の幅が50〜500mm、より好ましくは100〜400mm、さらに好ましくは200〜350mmである場合に良好な結果が得られる。環状流路の幅は、通常、堰負荷を最大表面下降管速度で割った比によって決まる。
【0053】
流体接触トレイの環状流路の少なくとも部分的に径方向に延在する少なくとも1つの隔壁は、環状流路の深さの50〜90%に相当する高さを有することが好ましい。また、流体接触トレイの環状流路の少なくとも部分的に径方向に延在する少なくとも1つの隔壁は、その上側端部が少なくとも2つの分離壁と同じ高さとなるような高さを有していてもよい。後者の場合、少なくとも部分的に径方向に延在する少なくとも1つの隔壁は、流体接触トレイの高さの50〜90%に相当する高さを有する。上記実施例によれば、塔が動いている時に、液体が環状流路の一部分から他の部分へと流れることを確実かつ少なくとも部分的に防ぐことができ、動作中に環状流路の一部分が空になることを防ぐことができる。
【0054】
環状流路が、流体、特に、トレイデッキの活性物質移動面の周辺端部から環状流路へと流れる流体を完全かつ確実に回収するのに十分に大きな容量であるものの、流体接触トレイを不要に大型化させてしまうほど大きくならないようにするため、環状流路の径方向の長さは、流体接触トレイの半径の5〜40%、より好ましくは10〜30%であることが提案されている。
【0055】
原則として、環状流路の形状については、環状流路が完全かつ確実に流体を回収し、低密度(低比重)相を高密度(高比重)相から分離し(脱ガス)、特にトレイデッキの活性物質移動面の周辺端部から環状流路へと流れる液体を回収し、その液体を完全かつ確実に通流手段へと移送する機能を果たすことができれば、特に限定されない。特に、環状流路の底部が、トレイの高さ軸に対してほぼv字状の形状を有する場合に良好な結果が得られる。これにより、環状流路の各部分の底部が各部分の中央部に向かって傾斜し、通流手段が各部分の中央部で開放された場合、環状流路内の液位が低かったとしても、通流手段によって液体をすべて環状流路から下降管へと完全に移送することができる。
【0056】
これにより、液体が環状流路の底部の最深点から通流手段へと流れるよう通流手段の開口部が配置される場合に、完全な液体の回収を行うことができる。
【0057】
しかしながら、より単純な構造を採用することにより工事費を節約するため、環状流路の底部が、トレイの高さ軸に対して水平な平面形状を有することがさらに望ましい。この場合、たとえ塔が動きにさらされていても、環状流路内の液位が十分な高さに維持されていれば、液体の回収と移送を確実に行うことができる。
【0058】
本発明のさらに特に好適な実施例によれば、流体接触トレイのトレイデッキを、例えば、トレイデッキの中心から活性物質移動面の周辺へ、もしくは、活性物質移動面の径方向内側の端部から活性物質移動面の周辺へと、水平面に対して負の角度(径方向で測定)で下方に傾斜させることが提案されている。これにより、液体の流路への動きの影響、特に、トレイデッキの活性物質移動面にわたる液体の流れの影響を軽減することができる。この角度は、予想される流体接触トレイの作動中の動きの振幅によって決まる。特に、トレイデッキの水平面に対する負の角度が、2〜10°、より好ましくは3〜8°、さらに好ましくは4〜7°、例えば、約5°等の場合に良好な結果が得られる。
【0059】
本発明の好適な実施例では、環状流路の底部が、流体接触トレイの高さ方向から見て、以下の図2Bに示すように、互いに隣接するいくつかのv字状の形状を有する規則的なパターン形状を有する。
【0060】
本発明による概念をさらに発展させると、上記少なくとも1つの通流手段は、一方の開口が環状流路の下部へと開き、他方の開口が中央下降管へと開くパイプであることが提案されている。それによって、少なくとも大部分が脱ガスが行われる環状流路内に残留する蒸気から分離され、パイプを環状流路から中央下降管へと移動する液体が、移動中に、上昇する蒸気で汚染されないことが保証される。環状流路内の液位が低い場合でも液体を完全に取り除くためには、パイプが環状流路の最下部へと開くことが好ましい。このパイプの直径は、例えば約50mm等、10〜200mm、好ましくは15〜100mm、より好ましくは20〜80mmの範囲であればよい。
【0061】
また、上記少なくとも1つの通流手段は、断面が長方形の流路等の流路であってもよい。この流路は、一方が環状流路へと開き、他方が下降管へと開く2つの開口部と上部を除き、それぞれの壁部によって完全に閉じられている。しかしながら、この実施例は、環状流路から中央下降管へと通流手段を移動する液体が上昇する蒸気で汚染されるため、それほど好ましいものではない。さらに、環状流路の出口には、通流手段をあふれさせずに環状流路を一定の液位とし、蒸気が環状流路を通って迂回することを防ぐために、抵抗を設ける必要がある。
【0062】
通流手段の数は、環状流路の各部分に少なくとも1つの通流手段が関連付けられるよう、環状流路の部分の数と同じかそれ以上であることが望ましい。そのため、環状流路を隔壁の数に対応する数の部分に分ける、少なくとも部分的に径方向に延在する少なくとも1つの隔壁が環状流路の底部に配置される場合、流体接触トレイは、その部分の数以上の通流手段が備えていることが望ましい。
【0063】
特に、各通流手段が、一方の開口が別の環状流路の下部へと開き、他方の開口が中央下降管へと開くパイプである場合に良好な結果が得られる。
【0064】
また、トレイは、通流手段として、1〜8個、より好ましくは2〜6個、さらに好ましくは3〜4個のパイプが含まれることが望ましい。
【0065】
通流手段の液体を環状流路から中央下降管へと移動する駆動力は、環状流路内で調整される液位から生じるため、通流手段は環状流路から下降管へと傾斜する必要はない。そのため、本発明の一変形例によれば、上記少なくとも1つの通流手段は、環状流路から中央下降管へとほぼ水平に延在する。
【0066】
しかしながら、本発明の別の変形例によれば、上記少なくとも1つの通流手段は、環状流路の下部へと開口する端部から中央下降管へと開口する端部へと、水平面に対して1〜10°、好ましくは2〜6°の負の角度で傾斜してもよい。
【0067】
本発明によれば、流体接触トレイの中央下降管は、中空体の形状、好ましくは、少なくともほぼ中空円筒の形状を有し、流体接触トレイの下方に配置されると考えられる後続の内部へと、すなわち、分留塔に使用された場合には後続の流体接触トレイへと液体を分配するのに適した開口部を一つその底部に有する。つまり、流体接触トレイの中央下降管の底部に開口部を有することで、隣接する流体接触トレイのトレイデッキの上側へと液体を鉛直方向に下方へ分配することができ、それによって、動きが生じた場合でも流体接触トレイのトレイデッキの活性物質移動面の表面にわたって液体を均一に分配することができる。また、中央下降管は、トレイデッキの中央部の底側に固定される等、好ましくは回転不可能に流体接触トレイに固定されている。
【0068】
中央下降管の直径は、トレイの動きによって生じる液位の偏差も小さく、トレイに動きが生じた場合に液体の不均衡分布が軽減されるよう、同等に小さくなければならない。その結果、中央下降管から後続のトレイデッキへと液体が均一に流れることになる。これを考慮して、中央下降管の直径は、下降するクリアな液体の表面速度が0.5m/sより低く、好ましくは0.3m/sより低くなるように設定されることが望ましい。従って、中央下降管の直径は、流体接触トレイの直径の5%〜40%、より好ましくは10%〜30%の範囲となる。
【0069】
また、中央下降管の高さは、トレイ間隔、すなわち、分留塔の隣接する受入下降管同士の距離の30〜100%であってもよい。下降管の高さは、トレイ間隔の50〜100%、より好ましくは75〜100%、さらに好ましくは90〜100%であることが好ましい。
【0070】
中央下降管内の液体の脱ガスを可能にする、すなわち、液体に含まれ得る残留蒸気を取り除くために、本発明による概念をさらに発展させて、中央下降管に少なくとも1つの通気孔を備えることが提案されている。この通気孔は、好ましくは中央下降管の外壁に、さらに好ましくは、中央下降管の上記少なくとも1つの通流手段が開口する部分の上方に形成される。その代わりに、中央下降管を形成する中空体が、次の上位のトレイデッキの下側に一定の距離を置いて終端してもよい。これにより、この中空体の上方の隙間を介して気体の除去を行うことができる。
【0071】
また、本発明は、
筐体と、
少なくとも1つの上記流体接触トレイと
を備えた分留塔に関する。
【0072】
分留塔は、一方の流体接触トレイの下降管の開口から、隣接する流体接触トレイのトレイデッキの上側へと液体を鉛直方向に下方へ分配できるよう配置された少なくとも2つの流体接触トレイを備えることが好ましい。
【0073】
分留塔は、隣接する流体接触トレイ間のトレイ間隔が、100mm〜1,000mm、好ましくは250mm〜800mm、より好ましくは400mm〜700mmである少なくとも2つの上記流体接触トレイを備えることが好ましい。
【0074】
本発明の別の好適な実施例によれば、分留塔のすべての流体接触トレイの接続管はそれぞれ中空管である。
【0075】
本発明の別の要旨は、好ましくは蒸留、精留、ストリッピング、直接熱交換、吸収、又は、抽出等により流体混合物をそれぞれの成分に分類する分離処理での上記分留塔の使用である。
【0076】
分留塔は、海上、好ましくは、FLNG船舶やFPSO船舶等、海上の移動型プラットフォームや船舶に設置されることが好ましい。
【0077】
本発明の別の好適な実施例によれば、上記使用には、
少なくとも6バールの圧力で行われることが好ましい分留塔での高圧蒸留と、
結果として生じる留分の一つが液化される前に、炭化水素混合物から、好ましくは天然ガスからの分留塔における重質留分の除去と、
脱メタン化、脱エタン化、脱プロパン化、及び/又は、脱ブタン化等による、炭化水素混合物からの分留塔における軽質留分の除去と
のうちの少なくとも1つが含まれる。
【0078】
分留塔は、液体が各流体接触トレイの活性物質移動面をその径方向内側の端部から周辺部へと流れ、各流体接触トレイの環状流路から中央下降管へと移動するように動作することが好ましい。
【0079】
本発明による概念をさらに発展させると、分留塔の動作中は、各流体接触トレイの通流手段内の流体の流速が、最大でも2.0m/s、好ましくは0.2〜2.0又は0.5〜1.0m/sであることが提案されている。
【0080】
次に、本発明に係る具体的な実施例について添付の図面を参照しながら例を挙げて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0081】
図1A】本発明の一実施例に係る流体接触トレイの側断面図である。
図1B図1Aに示す実施例の流体接触トレイの上面断面図である。
図1C図1A図1Bに示す実施例の流体接触トレイの概略側面図である。
図2A図1A図1Cに示す実施例の流体接触トレイを3つ備えた分留塔の側断面図である。
図2B図2Aに示す分留塔の概略側面図である。
図2C図2Aに示す分留塔の概略側面図である。
図3】本発明の別の実施例に係る流体接触トレイの上面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0082】
図1A図1Cは、特に、FLNG船舶やFPSO船舶に設置される分留塔等、海上用途に用いられる分留塔での使用に適した本発明の実施例に係る流体接触トレイ10を示す。
【0083】
図1A図1Cに示す流体接触トレイ10は、水平面又はxy面内にそれぞれ円形を有しているので、塔軸A又は高さ軸Aに対してそれぞれ回転対称である。
【0084】
流体接触トレイ10は、中央部14と主要部16とを有するトレイデッキ12を有し、主要部16は、1つ以上の開口部18を有し、上面視で外側の円環形状を有する主要部16の表面が、2つの密度の異なる流体、例えば、径方向に流れる液体(l)と上昇する気体gを接触させるのに適した活性物質移動面として構成されている。上面視でとは、x,y面を見下ろした状態を意味する。図1Aに最もよく示すように、活性物質移動面20は、活性物質移動面20の径方向内側の端部から周辺部へと、水平面に対して約5°の負の角度(a)で傾斜している。活性物質移動面20は、例えば、開口部18を有さないトレイデッキ12の中央部14を除く、流体が通る開口部18を有するトレイデッキ12のほぼ水平面の部分である。
【0085】
図1Bに最もよく示すように、活性物質移動面20には、径方向に延在する4つの分離壁22−1、22−2、22−3、22−4が配置され、これらの分離壁22−1、22−2、22−3、22−4は、活性物質移動面20を4つの部分24−1、24−2、24−3、24−4に分ける。すべての分離壁22−1、22−2、22−3、22−4は、活性物質移動面20が分離壁22−1、22−2、22−3、22−4によって同じ大きさの活性物質移動面部分24−1、24−2、24−3、24−4に分けられるよう、活性物質移動面20に互いに等間隔に配置されている。
【0086】
流体接触トレイ10は、トレイデッキ12の他に、流体の回収に適した底部28を有する環状流路26を有し、底部28は、活性物質移動面20の周辺部に配置され、この物質移動面20を少なくとも部分的に取り囲んでいる。環状流路26は、トレイを含む塔の壁であり得る側壁29によって周辺端部に接している。図1Bに最もよく示すように、径方向に延在する4つの分離壁22−1、22−2、22−3、22−4は、環状流路26上にも延在する。これらの壁がそれぞれ一つの壁だとしても、本特許明細書では、それらの活性物質移動面20上に延びる部分を分離壁22と呼び、環状流路26上に延びる部分を隔壁30と呼ぶ。図1Bに最もよく示すように、4つの隔壁30−1、30−2、30−3、30−4は、環状流路26が隔壁30−1、30−2、30−3、30−4によって同じ大きさの環状流路部分32−1、32−2、32−3、32−4に分けられるよう、環状流路26の底部28に互いに等間隔に配置されている。環状流路26の底部28は、トレイの高さ軸A方向において、活性物質移動面20の周辺部16の下方に配置されている。環状流路26の深さはトレイ間隔の約45%であり、環状流路26の幅(つまり、径方向の長さ)は流体接触トレイ10の半径の約15%である。図1Cから最もよく分かるように、環状流路26の底部28は、トレイの高さ軸Aに対してv字形状を有している。
【0087】
また、流体接触トレイ10は、環状流路26から流体(l)を回収し排出するための中央下降管34を有する。中央下降管34は、トレイデッキ12の中央部14の底部に回転不可能に固定されている(もしくは、下方のトレイの中央部14の上部にあってもよい;不図示)。この中央下降管34は、中空体の形状、この場合、中空円筒の形状を有し、その底部に、隣接する流体接触トレイのトレイデッキの上側へ鉛直方向に下方へと液体を分配するのに適した排出口36を有している。中央下降管34の直径はトレイデッキ12の直径と比べて小さく、それにより、トレイ10の動きによって生じる液位の偏りも小さく、またトレイ10に動きが生じた場合に液体の不均衡分布が軽減される。これは、直径が小さいと、その動きが、中央下降管の排出口の上方での比較的小さい液頭の偏りに通じるからである。その結果、下降管の両側において、中央下降管を出て行く液体に対する駆動力にあまり変化が見られない。従って、活性物質移動面の各部には、ほぼ同量の液体が排出されることとなる。その結果、中央下降管34から後続のトレイデッキ12へと液体が均一に流れることになる。中央下降管34内の液体の脱ガスを可能にするため、すなわち、液体(l)に含まれ得る残留蒸気(g)を取り除くために、中央下降管34はいくつかの通気孔38を有し、これらの通気孔38は、中央下降管の外壁の上部に形成される(図1A図1C図2A図2Bでは不図示だが、図2Cでは図示)。中央下降管34の直径は、下降する澄んだ液体の表面速度が0.25m/sとなるように設定される。従って、中央下降管34の直径は、流体接触トレイの直径の約20%に及ぶ。
【0088】
流体接触トレイ10は、さらに、環状流路26に回収された液体(l)を環状流路26から中央下降管34へと移動させるための通流手段40として、4つのパイプ40を有する。パイプ40の一方の開口が環状流路26の下部へと開き、パイプ40の他方の開口が中央下降管34へと開く。これにより、環状流路26内に残留する蒸気(g)から少なくとも大部分が分離された液体(l)であって、パイプ40を中央下降管34へと移動する液体(l)が、その移動中、上昇する蒸気で汚染されないことが保証される。図1Cから最もよく分かるように、パイプ40は、環状流路26の最下部へと開口する。図示の実施例では、パイプ40はすべて、環状流路26の下部へと開口する端部から、中央下降管34へと開口する端部へと、すなわち、水平面に対して約5°の負の角度βでわずかに傾斜している。
【0089】
動作中、液体(l)は、図1A図2Aに(l)を付した破線と矢印で示すように、図1Aに示すトレイ10上方に配置されたトレイ10の中央下降管34の底部の開口部36から下降し(図1A図1Cでは不図示だが、図2Aでは図示)、中央部14の表面のトレイデッキ12に到達する。そして、液体(l)は、活性物質移動面20上を流れて行き、トレイを通って上昇した気体(g)であって、開口部18を介して活性物質移動面20を横切る気体(g)と接触する。ターンダウンを拡大するため、すなわち低蒸気流量での開口部(18)を介した液体の流れを最小限に抑えるために、バルブ(不図示)、すなわち固定バルブ又はフロートバルブをトレイデッキ(12)の各開口部(18)の上方に配置してもよい。一部の気体(g)と混ぜ合わされた液体(l)は、環状流路26へと流れ込み、そこで環状流路26の底部に回収される。残留気体(g)が混合物から泡立つことで、実質液体(l)だけがパイプ40に進入し、中央下降管34へと移動し、そこで下方へと導かれ、中央下降管34の底部に設けられた開口部36を通って中央下降管34を後にし、下方のトレイのトレイデッキ12の中央部14の表面に到達する(図1A図1Cでは不図示だが、図2Aでは図示)。
【0090】
図2A図2Cは、図1A図1Cに示した実施例に係る流体接触トレイを3つ有する分留塔1を示し、この3つの流体接触トレイは互いに積み重なって配置されている。
【0091】
分留塔1の動作中の液体の流路は、(l)を付した破線と矢印で示される。
【0092】
図3は、本発明の別の実施例に係る流体接触トレイ10の上面断面図である。つまり、本実施例の流体接触トレイ10は、トレイデッキ10の中間半径に配置された円形の分離堰42を1つさらに有すること以外は、図1A図1Cで説明したものと同じである。本実施例の分離堰42は、穴が開けられ、ほぼ垂直に延在する。この分離堰42の高さは、トレイ間隔の20〜60%に相当することが好ましい。
【符号の説明】
【0093】
1 分留塔
10 流体接触トレイ
12 トレイデッキ
14 トレイデッキの中央部
16 トレイデッキの主要部
18 開口部
20 活性物質移動面
22−1、22−2、22−3、22−4 分離壁
24−1、24−2、24−3、24−4 活性物質移動面部分
26 環状流路
28 環状流路の底部
29 側壁/筐体
30−1、30−2、30−3、30−4 隔壁
32−1、32−2、32−3、32−4 環状流路部分
34 中央下降管
36 中央下降管の底部の開口部
38 通気孔
40 通流手段/パイプ
42 分離堰
A 塔軸/高さ軸
α 水平面に対する活性物質移動面の傾斜角度
β 水平面に対する通流手段の傾斜角度
x、y、z 空間方向
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3