特許第6663923号(P6663923)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6663923
(24)【登録日】2020年2月19日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】レドックス電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20200302BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20200302BHJP
   H01M 8/1067 20160101ALI20200302BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20200302BHJP
【FI】
   H01M8/18
   H01M8/02
   H01M8/1067
   H01M4/96 M
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-545822(P2017-545822)
(86)(22)【出願日】2016年10月21日
(86)【国際出願番号】JP2016081324
(87)【国際公開番号】WO2017069261
(87)【国際公開日】20170427
【審査請求日】2018年4月27日
(31)【優先権主張番号】特願2015-209009(P2015-209009)
(32)【優先日】2015年10月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517206993
【氏名又は名称】株式会社大原興商
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100205730
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 重輝
(74)【代理人】
【識別番号】100213551
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 智貴
(72)【発明者】
【氏名】細淵 馨
(72)【発明者】
【氏名】中井 貴之
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−223513(JP,A)
【文献】 特開平09−245805(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103427104(CN,A)
【文献】 ZHIJIANG Tang, et al.,Characterization of Sulfonated Diels-Alder Poly(phenylene) Membranes for Electrolyte Separators in V,Journal of The Electrochemical Society,米国,2014年,Vol.161,No.12,,p.A1860-A1868,ISSN C0285A
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18
H01M 4/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質液を流通又は含浸させる正極と、
負極活物質液を流通又は含浸させる負極と、
前記正極と前記負極との間に設けられた隔膜とを備え、
前記正極活物質液及び前記負極活物質液は、それぞれ活物質濃度が1.8M以上であり、
前記隔膜は、イオン交換容量が2.0(meq/g−乾燥イオン交換膜)以上であり、且つ膜厚が120μm以下であり、
前記正極、及び前記負極は、それぞれ炭素繊維からなり、
前記炭素繊維の繊維径が1μm〜12μmの範囲であり、かさ密度が1.0g/mL〜1.2g/mLの範囲であり、
前記隔膜面に垂直方向の前記正極及び前記負極の厚さが、前記正極活物質液及び前記負極活物質液を流通させて充放電を行う場合には、それぞれ2mm以下であることを特徴とするレドックス電池。
【請求項2】
前記隔膜面に垂直方向の前記正極及び前記負極の厚さが、前記正極活物質液及び前記負極活物質液を静止又は間欠的に流動させて充放電を行う場合には、それぞれ6mm以下であることを特徴とする請求項1記載のレドックス電池。
【請求項3】
前記正極活物質液及び前記負極活物質液は、それぞれ活物質としてバナジウムを含有し、バナジウム原子の含有量が100g/L以上であり、且つ硫酸根及び硫酸水素根としての硫黄原子の含有量が120g/L以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のレドックス電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レドックス電池に関し、より詳しくは、高濃度系活物質液における導電率低下と粘性率及び溶液抵抗増大による電池内部抵抗の上昇を抑制して、充放電効率を向上できるレドックス電池に関する。
【背景技術】
【0002】
大規模なエネルギー貯蔵源としてレドックス電池が知られている。活物質としてバナジウム電解液(活物質液ともいう)等を用いたレドックスフロー型二次電池は、室温で作動し、活物質が液体であるため、外部タンクに貯蔵でき、過充電、過放電耐久性にも優れている。そのため、電池の維持管理が容易で、長寿命である等の利点がある。
【0003】
バナジウムレドックスフロー電池の場合、正極活物質液にはバナジウム5価、4価系のレドックス対が用いられ、負極活物質液にはバナジウム2価、3価系のレドックス対が用いられている(特許文献1、2)。
【0004】
非特許文献1〜3では、レドックスフロー電池において出力密度、エネルギー密度の増大を実現するために、活物質液中のバナジウム濃度を高濃度にする試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−186473号公報
【特許文献2】特開平4−286871号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】L. D. Kurbatova, D. I. Kurbatov, "Vanadium(V) extraction from sulfuric acid solutions", Russian Journal of Inorganic Chemistry, July 2008, 53(7), 1154-1157
【非特許文献2】Faizur Rahman, Maria Skyllas-Kazacos, "Vanadium redox battery: Positive half-cell electrolyte studies", Journal of Power Sources, April 2009, 189(2), 1212-1219
【非特許文献3】織地学他, "バナジウムレドックスフロー電池負極におけるV(II)/V(III)反応", 電池討論会講演要旨集, 2003年11月04日, 44巻, 630-631
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1、2は、正極活物質液として用いられ得る硫酸酸性の5価のバナジウム含有液について報告している。
【0008】
非特許文献1は、硫酸酸性の5価のバナジウム含有液について、バナジウム濃度が2.0Mを超えるとバナジウム塩の析出が生じやすくなることを明らかにしている。
【0009】
また、析出を生じた5価のバナジウム含有液に更に硫酸を添加し、加熱することによって一時的にこの沈殿を再溶解できるとしている。しかし、このようにして得られた正極活物質液は、サイクリックボルタングラムにおいて可逆性の低下が見られることから充放電における電圧効率の点で好ましくないとされている。この原因として、活物質液の著しい流動性の低下があり、非特許文献1は、このような高濃度の活物質系は、結果として実用性がないと結論付けている。
【0010】
非特許文献2も、サイクリックボルタングラムに基づいて非特許文献1と同様の知見を報告している。
【0011】
このように、硫酸酸性バナジウム化合物を含有する従来型の正極活物質液では、特にバナジウムを高い濃度で用いる場合において、十分な電極反応性と流動性を維持して、安定かつエネルギー効率のよい充放電を行なうことが困難であった。
【0012】
一方、非特許文献3は、負極活物質液として用いられ得る2価、3価のバナジウム含有液について報告している。
【0013】
非特許文献3は、負極活物質液中においてバナジウムが如何なる錯形態として存在するかを推定するために、クロノポテンシオメトリーにより、液中の2価、3価のバナジウムのそれぞれについて拡散係数を求め、実測した粘度から化学種のストークス半径を算出している。そして、算出されたストークス半径が、従来から2価、3価のバナジウムの化学種と考えられてきたアコ錯体、具体的にはV2+(HO)あるいはV3+(HO)のストークス半径と同程度であることを確認している。
【0014】
本発明者の知見によると、今まで、非特許文献3に示されるように、バナジウム2価、3価を含む負極液側は、水和イオンであって、他の配位子と錯体を作らないと考えられていた。しかし、1M乃至それ以下の希薄系と異なり1.5Mを越えるような系では、いわば固体的な性質を示してくるため、それに対応した考え方が重要である。単純に電荷の担い手がバナジウムというのではなく、むしろプロトンによる寄与が強くなり、これはNMRスペクトルからも推定される。また、このような溶液はビンガム流体性を強く示す。結果として、ストークスの式を用いてイオン径を評価することはできない。
【0015】
また、非特許文献3は、「実用的なバナジウム濃度」として1.6Mの溶液を調製している。本発明者による試験結果においても、従来の負極活物質液において、バナジウムの析出を防止して、安定に充放電を継続できる濃度は1.5M〜1.7M程度までであることが確かめられており、非特許文献3が記載する上記濃度は、従来の観点では妥当な値といえる。
【0016】
硫酸酸性バナジウム化合物液を含有する従来型の負極活物質液もまた、特にバナジウムを高い濃度で用いる場合において、十分な電極反応性と流動性を維持することが困難であり、安定かつエネルギー効率のよい充放電を行ない得る電池にはならなかった。
【0017】
以上、非特許文献1〜3を参照して従来のバナジウム濃度の高濃度化の試みについて説明した。なお、特許文献として、2.0Mを超えるバナジウム濃度を記載するものも多く見受けられるが、本発明者は、非特許文献を参照して上述したように、このような高濃度系ではバナジウムの析出を防止することが困難であり、十分な電極反応性及び流動性に劣ることを認識していた。この点については、実際に試験を行うことにより確認することができる。すでに実用化して稼動しているバナジウム系レドックスフロー型二次電池は、何れもバナジウム濃度として1.5〜1.7M程度である。
【0018】
このように、従来の技術では、レドックス電池において、高濃度系活物質液における導電率低下と粘性率及び溶液抵抗増加による電池内部抵抗の上昇を抑制することが困難であり、充放電効率を向上する上で更なる改善の余地が見出される。
【0019】
そこで本発明の課題は、高濃度系活物質液における導電率低下と粘性率及び溶液抵抗増大による電池内部抵抗の上昇を抑制して、充放電効率を向上できるレドックス電池を提供することにある。
【0020】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0022】
(請求項1)
正極活物質液を流通又は含浸させる正極と、
負極活物質液を流通又は含浸させる負極と、
前記正極と前記負極との間に設けられた隔膜とを備え、
前記正極活物質液及び前記負極活物質液は、それぞれ活物質濃度が1.8M以上であり、
前記隔膜は、イオン交換容量が2.0(meq/g−乾燥イオン交換膜)以上であり、且つ膜厚が120μm以下であることを特徴とするレドックス電池。
(請求項2)
前記正極及び前記負極は、それぞれ炭素繊維からなり、
前記炭素繊維の繊維径が1μm〜12μmの範囲であり、かさ密度が0.5g/mL〜1.2g/mLの範囲であると共に、
前記隔膜面に垂直方向の前記正極及び前記負極の厚さが、前記正極活物質液及び前記負極活物質液を流通させて充放電を行う場合には、それぞれ3mm以下、前記正極活物質液及び前記負極活物質液を静止又は間欠的に流動させて充放電を行う場合には、それぞれ6mm以下であることを特徴とする請求項1記載のレドックス電池。
(請求項3)
前記正極活物質液及び前記負極活物質液は、それぞれ活物質としてバナジウムを含有し、バナジウム原子の含有量が100g/L以上であり、且つ硫酸根及び硫酸水素根としての硫黄原子の含有量が120g/L以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のレドックス電池。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高濃度系活物質液における導電率低下と粘性率及び溶液抵抗増大による電池内部抵抗の上昇を抑制して、充放電効率を向上できるレドックス電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明のレドックス電池の一例を概念的に説明する図
図2】本発明のレドックス電池の他の例を概念的に説明する図
図3】電極ユニットの展開図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明を実施するための形態について説明する。
【0026】
本発明のレドックス電池は、正極活物質液を流通又は含浸させる正極と、負極活物質液を流通又は含浸させる負極と、前記正極と前記負極との間に設けられた隔膜とを備える。
【0027】
本発明において、前記正極活物質液及び前記負極活物質液は、それぞれ活物質濃度が1.8M以上であり、前記隔膜は、イオン交換容量が2.0(m当量/g−乾燥イオン交換膜)以上であり、且つ膜厚が120μm以下である。
【0028】
これにより、レドックス電池において、高濃度系活物質液における導電率低下と粘性率及び溶液抵抗増加による電池内部抵抗の上昇を抑制して、充放電効率を向上できる効果が得られる。
【0029】
以下に、図面を参照して本発明を実施するための形態について更に詳しく説明する。
【0030】
図1は、本発明のレドックス電池の一例を概念的に説明する図である。
【0031】
図1において、1は正極セル、2は負極セル、3は正極セル1と負極セル2とを分離する隔膜である。4はスペーサーであり、正極セル1、負極セル2のそれぞれに対応する間隙を形成している。
【0032】
正極セル1内には正極11が設けられ、負極セル2内には負極21が設けられている。
【0033】
正極11及び負極21は、それぞれ炭素繊維からなることが好ましい。かかる炭素繊維としては、セルロース、ポリアクリロニトリル(PAN)、石油等から得られるピッチ、フェノール樹脂等を原料として焼成製造した略円形である炭素繊維を用いることができる。前記炭素繊維は、高晶質部(以下、グラファイト質炭素とも言う)と低晶質部を含み、平均直径は7μm〜20μmの範囲であることが好ましい。
本発明における炭素繊維としては、かかる炭素繊維をそのまま用いるか、酸化性処理したものを好ましく用いることができる。本発明における炭素繊維としては、該炭素繊維を酸化性処理したものを特に好ましく用いることができる。
【0034】
前記酸化性処理は格別限定されないが、例えば湿式処理法や乾式処理法を用いることができる。
【0035】
湿式処理法としては、例えば、電解酸化処理の他、過酸化ナトリウムや過酸化水素などを含有する溶液あるいは硝酸や過硫酸等の酸を含有する酸化性の酸溶液中での加熱処理等を好ましく用いることができる。ここで、電解酸化処理は、高晶質部と低晶質部を含む炭素繊維に対する見掛けの電流密度や通電時間を任意に選択でき、処理を調整しやすい点で優れた方法と言える。
【0036】
乾式処理法としては、例えば、炉内に若干の空気を混合するなどの酸化性雰囲気中での加熱処理(例えば空気を0.1%程度混入して窒素雰囲気下での酸化性処理を含む)や、水蒸気とアルミニウム化合物等のエッチング剤とを混合した雰囲気中での加熱処理等を好ましく用いることができる。
【0037】
焼成によって得られた、高晶質部と低晶質部を含む炭素繊維を酸化性処理することにより、炭素繊維中のグラファイト化されていない低晶質部の部分は、耐酸化性が低いために選択的に酸化分解され、耐酸化性の高い高晶質部の部分は酸化されにくく残存する。その結果、炭素繊維の繊維径が5μm以下程度と細くなり、同時に、炭素繊維におけるグラファイト化度の高い高晶質部の割合を高めることができる。
【0038】
酸化性処理した炭素繊維は、繊維径が細いことによって物質移動性が向上し、被電解物質の拡散がより多次元的(例えば2次元から2.5次元拡散)となり、更に、表面がグラファイト質炭素になるので、電極反応性(電荷移動反応性)も向上する。これらの相乗的な作用により、正極11及び負極21は、被電解物質に対して高い電流密度をもって電解できる効果を奏するため、酸化性処理した炭素繊維がより好ましい。
【0039】
上記のような観点から、炭素繊維の繊維径が1μm〜12μmの範囲であり、かさ密度が0.5g/mL〜1.2g/mLの範囲であることが好ましい。これにより、電極による活物質の捕捉性を好適に発揮させると共に、電池内部抵抗の上昇を好適に抑制できる効果が得られる。
【0040】
ここで、炭素繊維の繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定することができ、繊維断面が略円形でない場合は、該繊維における最も短い径を繊維径とする。炭素繊維のかさ密度は、無荷重時の見掛けの体積と重さから算出された値である。
【0041】
また、正極11及び負極21の厚さが、正極活物質液及び前記負極活物質液を流通させて充放電を行う場合には、それぞれ3mm以下、好ましくは2mm以下、より好ましくは1mmであり、前記正極活物質液及び前記負極活物質液を静止又は間欠的に流動させて充放電を行う場合には、それぞれ6mm以下、好ましくは5mm以下であることが好ましい。活物質液静止又は間欠的流動型電池の場合は、必要な充放電容量を確保するために、セル面積抵抗率の低減をある程度犠牲にする必要があるため、フロー型電池の場合に比べて厚い電極を用いることが好ましい。ここでいう厚さは、隔膜3面に垂直方向の厚さを指す。
【0042】
本発明者は、当初、正極11及び負極21の厚さを、フロー型電池の場合にそれぞれ3mm以下、静止又は間欠的流動型電池の場合にそれぞれ6mm以下にまで薄くすることは、電極による活物質の捕捉性が抑制されてしまい、好ましくないものと考えた。ところが、実際に試験を行い鋭意検討した結果、正極11及び負極21の厚さを、フロー型電池の場合にはそれぞれ3mm以下、静止又は間欠的流動電池の場合にはそれぞれ6mm以下にまで薄くすることにより、活物質濃度が1.8M以上である高濃度活物質液を用いる場合において、導電性低下を好適に抑制することができ、電池内部抵抗の上昇を防止できることを見出した。電極による活物質の捕捉性についても、活物質濃度が1.8M以上である高濃度活物質液を用いることにより好適に保持できることがわかった。特に炭素繊維の繊維径が5μm以下である場合には、正極11及び負極21の厚さを、フロー型電池の場合にはそれぞれ3mm以下、静止又は間欠的流動電池の場合にはそれぞれ6mm以下にすることの効果が顕著になる。
【0043】
正極セル1には、該正極セル1内に正極活物質液を流入するための流入口12と、該正極セル1内の正極活物質液を流出するための流出口13とが設けられている。
【0044】
正極活物質液タンク14内に貯留された正極活物質液は、ポンプ15の駆動によって、流入口12に接続された流入管16を介して、正極セル1内に流入するように構成されている。また、流出口13から流出された正極活物質液は、流出口13に接続された流出管17を介して正極活物質液タンク14内に返送されるように構成されている。このようにして、正極活物質液タンク14から正極セル1内に正極活物質液を循環供給する循環系が構成されている。
【0045】
負極セル2には、該負極セル2内に負極活物質液を流入するための流入口22と、該負極セル2内の負極活物質液を流出するための流出口23とが設けられている。
【0046】
負極活物質液タンク24内に貯留された負極活物質液は、ポンプ25の駆動によって、流入口22に接続された流入管26を介して、負極セル2内に流入するように構成されている。また、流出口23から流出された負極活物質液は、流出口23に接続された流出管27を介して負極活物質液タンク24内に返送されるように構成されている。このようにして、負極活物質液タンク24から負極セル2内に負極活物質液を循環供給する循環系が構成されている。
【0047】
図示の例では、正極11及び負極21のそれぞれに接触するように導電性シート5、5が設けられ、導電性シート5、5の外側から押え板6、6によってセル全体を挟持している。正極11及び負極21は、それぞれ導電性シート5、5を介して外部回路に接続することができる。図示しないが、導電性シート5、5としてバイポーラープレート等を用いることによって、正極セル及び負極セルからなるセルユニットを複数積層した積層構造を構成することも好ましいことである。
【0048】
レドックス電池は、正極セル1及び負極セル2にそれぞれ負極活物質液及び正極活物質液を循環供給して、両極における活物質液中の活物質の電極反応(酸化還元反応)に伴って充放電を行う。
【0049】
本発明において、正極活物質液及び負極活物質液は、それぞれ活物質濃度が1.8M以上である。硫酸酸性のバナジウム2価、3価、及び4価、5価の化合物を含有する活物質液に限らず、鉄やクロム、チタン系等の活物質液においても、それらの濃度が1.8Mを超えると、電極面への物質移動性が著しく低下してくる。
【0050】
正極活物質液及び負極活物質液における、各活物質をバナジウムとした場合、レドックス電池の充電時及び放電時の電極反応は、それぞれ下記のように表される。
(充電時の電極反応)
正極反応:VO2+(4価)+HO → VO(5価)+2H+e
負極反応:V3+(3価)+e → V2+(2価)
(放電時の電極反応)
正極反応:VO(5価)+2H+e → VO2+(4価)+H
負極反応:V2+(2価) → V3+(3価)+e
【0051】
正極活物質液及び負極活物質液が、それぞれ活物質としてバナジウムを含有する場合は、バナジウム原子の含有量が100g/L以上であることが好ましく、より好ましくは、130g/L以上である。硫酸根及び硫酸水素根としての硫黄原子の含有量は120g/L以上であることが好ましく、より好ましくは180g/Lである。これにより、活物質であるバナジウムの析出、沈殿が防止される効果が得られる。なお、バナジウム原子の含有量は、感光法、吸光法等一般的な定量方法により測定できる。また、硫酸根及び硫酸水素根としての硫黄原子の含有量も同様の定量方法により測定できる。
【0052】
隔膜3は、充電時及び放電時において、電池内部の電荷キャリアであるプロトンの透過を許容すると共に、自己放電抑制のために活物質の透過を防止する役割を担う。
【0053】
本発明において、隔膜3は、イオン交換容量が2.0(meq/g−乾燥イオン交換膜)以上であり、且つ膜厚が120μm以下、好ましくは80μm以下、より好ましくは50μm以下である。20μmが引張強度上の薄さの限界である。
【0054】
ここで、イオン交換容量(meq/g−乾燥イオン交換膜)は、乾燥させた隔膜(イオン交換膜)の単位重量(g)当たりに含まれるイオン交換基の電気当量数(meq)を意味する。
【0055】
本発明では、正極活物質液及び負極活物質液の活物質濃度がそれぞれ1.8M以上という高濃度であることと、上述した特定のイオン交換容量及び膜厚を有する隔膜3を用いることとによって、これらの相乗的な作用として、レドックス電池において、高濃度系活物質液における導電率低下と粘性率及び溶液抵抗増加による電池内部抵抗の上昇を抑制して、充放電効率を向上できる効果が得られる。
【0056】
隔膜3の膜厚の下限は格別限定されないが、十分な強度を得る観点では、10μm以上であることが好ましい。
【0057】
膜厚が120μm以下である隔膜は、市販品として入手可能であり、例えばデュポン社製「ナフィオン(登録商標)N212」(膜厚57μm(0.057mm))、「ナフィオン(登録商標)N211」(膜厚25μm(0.025mm))等のイオン交換膜等が挙げられる。
【0058】
図1に示したレドックス電池では、シート状に形成された電極(正極11及び負極21)の電極面方向と平行に活物質液を透過させる「flow by」方式を用いたが、これに限定されるものではない。シート状に形成された電極に対して液を横断させるように透過させる「flow through」方式を用いることも好ましいことである。
【0059】
「flow through」方式を用いたレドックス電池の一例について、図2を参照して説明する。図2において、図1と同符号は同構成を指し、図1を参酌してした説明が援用される。
【0060】
図2に示すレドックス電池において、正極11はシート状に形成されており、支持体である導電性シート11a、11b間に挟持されて電極ユニット10を構成している。
【0061】
図3の展開図に示すように、電極ユニット10は、導電性シート11a、11bと、該導電性シート11a、11b間に挟持されるシート状の正極11と、により構成されている。
【0062】
導電性シート11a、11bには、互いに対向する位置に孔110a、110bが設けられており、これらの孔110a、110bから正極11を露出するように構成されている。ここでは、各導電性シート11a、11bに、それぞれ1つの孔110a、110bを設ける場合について示しているが、複数の孔を設けることによって、複数の部位で正極11を露出させることも好ましいことである。
【0063】
導電性シート11a、11b間にはスペーサー11cを介在させている。スペーサー11cを設けることによって、正極11を所定の厚さで保持でき、更に正極11を構成する炭素繊維が活物質液の透過等によって偏ったりバラバラになったりすることを防止できる。
【0064】
正極セル1は、電極ユニット10によって、流入口12が設けられた流入側マニホールド1aと、流出口13が設けられた流出側マニホールド1bとに分割されている。
【0065】
流入口12からの正極活物質液は、まず流入側マニホールド1aに流入した後、電極ユニット10が備えるシート状の正極11を横断するように透過し、流出側マニホールド1bに排出される。流出側マニホールド1bに排出された正極活物質液は、流出口13から流出される。
【0066】
負極21についても同様の構成とすることができる。即ち、負極21用の電極ユニット20は、導電性シート21a、21bと、該導電性シート21a、21b間に挟持されるシート状の負極21と、スペーサー21cとにより構成することができる。
【0067】
負極セル2は、電極ユニット20によって、流入口22が設けられた流入側マニホールド2aと、流出口23が設けられた流出側マニホールド2bとに分割されている。
【0068】
流入口22からの負極活物質液は、まず流入側マニホールド2aに流入した後、電極ユニット20が備えるシート状の負極21を横断するように透過し、流出側マニホールド2bに排出される。流出側マニホールド2bに排出された負極活物質液は、流出口23から流出される。
【0069】
「flow through」方式のレドックス電池においても、正極セル1及び負極セル2にそれぞれ負極活物質液及び正極活物質液を循環供給して、両極における活物質液中の活物質の電極反応(酸化還元反応)に伴って充放電を行う。レドックス電池の充電時及び放電時の電極反応式は、「flow by」方式と同様である。
【0070】
「flow through」方式のレドックス電池においても、活物質濃度が1.8M以上である正極活物質液及び前記負極活物質液を用い、且つイオン交換容量が2.0(meq/g−乾燥イオン交換膜)以上であり、膜厚が120μm以下である隔膜を用いることによって、「flow by」方式と同様に、本発明の効果が奏される。
【0071】
以上の説明では、正極活物質液を正極に流通させ、負極活物質液を負極に流通させるレドックス電池(レドックスフロー電池ともいう)について主に示したが、これに限定されるものではない。
【0072】
本発明では、レドックス電池の充放電時において、活物質液は必ずしも流動状態にある必要はなく、キャパシタのように活物質液を静止させた状態にしてもよいし、あるいは間欠的に流動させるようにしてもよい。即ち、充放電時において、正極活物質液及び負極活物質液を、それぞれ正極及び負極に流通させる場合に限定されず、それぞれ正極及び負極に含浸させていればよい。活物質液を静止又は間欠的に流動させた状態で充放電を行うレドックス電池においても、活物質濃度が1.8M以上である正極活物質液及び前記負極活物質液を用い、且つイオン交換容量が2.0(meq/g−乾燥イオン交換膜)以上であり、膜厚が120μm以下である隔膜を用いることによって、活物質を電極に流通させる場合と同様に、本発明の効果が奏される。
【実施例】
【0073】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はかかる実施例により限定されない。
【0074】
(実施例1)
図2に示したフロースルー型レドックス電池において、膜厚が57(μm)であり、且つイオン交換容量が2.5(meq/g−乾燥イオン交換膜)であるフッ素系イオン交換膜を用い、以下の条件で充放電試験を実施した。
【0075】
<正極活物質液及び負極活物質液>
・正極活物質液
活物質濃度:2.5Mバナジウム(4価、5価)
硫酸根及び硫酸水素根としての硫黄原子の含有量:180g/L
・負極活物質液
活物質濃度:2.5Mバナジウム(2価、3価)
硫酸根及び硫酸水素根としての硫黄原子の含有量:180g/L
【0076】
<正極及び負極>
・材質及び処理:炭素繊維フェルト(PAN系、空気を0.1%程度混入して窒素雰囲気、1500℃にて焼成)
・炭素繊維の繊維径:5〜10μm
・かさ密度:1.0g/mL
・厚さ:1mm
【0077】
(実施例2)
実施例1において、前記イオン交換膜に代えて、膜厚が25(μm)であり、且つイオン交換容量が2.0(meq/g−乾燥イオン交換膜)であるフッ素系イオン交換膜を用いたこと以外は実施例1と同様にして充放電試験を実施した。
【0078】
(比較例1)
実施例1において、前記イオン交換膜に代えて、膜厚が150(μm)であり、且つイオン交換容量が2.8(meq/g−乾燥イオン交換膜)であるポリエチレンスルホン酸系イオン交換膜を用いたこと以外は実施例1と同様にして充放電試験を実施した。
【0079】
(比較例2)
実施例1において、前記イオン交換膜に代えて、膜厚が25(μm)であり、且つイオン交換容量が1.5(meq/g−乾燥イオン交換膜)であるポリエチレンスルホン酸系イオン交換膜を用いたこと以外は実施例1と同様にして充放電試験を実施した。
【0080】
<評価方法>
(1)充放電電圧効率
実施例及び比較例において、正極活物質液及び負極活物質液を静止させた状態で、200mA/cmの定電流で充放電を行い、充放電電圧効率(%)を以下の式から求めた。結果を表1に示す。
充放電電圧効率(%)=A/B
ここで、Aは充電電圧における最高値と最低値の中間の電圧値(V)、Bは放電電圧における最高値と最低値の中間の電圧値(V)を指す。
【0081】
(2)セル面積抵抗率
実施例及び比較例において、正極活物質液及び負極活物質液を3ml/minで送液し、それぞれ正極及び負極に流通させた状態で、200mA/cmの定電流で充電を行い、セル面積抵抗率(Ωcm)を以下の式から求めた。結果を表1に示す。
セル面積抵抗率(Ωcm)=((A−B)/2)÷電流密度(Acm−2
【0082】
【表1】
【0083】
<評価>
以上の結果より、レドックス電池において、活物質濃度が1.8M以上である正極活物質液及び前記負極活物質液を用い、且つイオン交換容量が2.0(meq/g−乾燥イオン交換膜)以上であり、膜厚が120μm以下である隔膜を用いることによって、セル面積抵抗率を低下でき、正極活物質液及び負極活物質液を静止させた状態であっても、充放電電圧効率を向上できる効果が得られることがわかる。
従来の低出力密度セルでは、セル面積抵抗率が2.0〜3.0Ωcmでも十分に小さい値とされてきたが、本発明によれば、これよりも更に小さいセル面積抵抗率、好ましくは1.0Ωcm以下のセル面積抵抗率を実現できることがわかる。
【0084】
(実施例3)
実施例1において、正極及び負極として、繊維径7〜10μmのセルロース系の焼成炭素繊維を電解酸化処理によって主に繊維径5μm以下の炭素繊維フェルトとしたものを用い、これをそれぞれ厚さ2mmとなるように設けた。
正極活物質液及び負極活物質液を3ml/minで送液し、それぞれ正極及び負極に流通させた状態で、200mA/cmの定電流で充電を行い、セル面積抵抗率(Ωcm)を求めた。結果を表2に示す。
【0085】
(実施例4)
実施例3において、正極及び負極をそれぞれ厚さ3mmとなるように設けたこと以外は実施例3と同様にして、セル面積抵抗率(Ωcm)を求めた。結果を表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
<評価>
以上の結果より、フロー型レドックス電池において、特に炭素繊維の繊維径が5μm以下である場合に、正極及び負極の厚さをそれぞれ3mm以下にすることにより、セル面積抵抗率が好適に低下することがわかる。
【0088】
更に、以下の計算例により、実施例3のフロー型レドックス電池の電池単位体積当たりの定格出力密度を求めた。
バナジウムレドックス電池の開路電圧1.2V、セル面積抵抗1Ωcm、見掛けの電流密度200mA/cmのとき、単位面積当たりの出力電圧は、1.2V−0.2V=1.0Vである。
よって、単位面積当たりの出力は、200mA/cm×1V=0.2W/cmである。
ここで、10cm×10cmの電極を用いた場合、電極面積当たりの出力は、20W/100cmである。
1セルを、厚さ4mmで構成したとする。
このようなセルを、10cm間に25セル配置すれば、電池単位体積当たりの定格出力密度(体積1L当たりの出力)は、20W×25=500W/Lとなる。
【0089】
以上の実施例3に係る計算例で示されるように、本発明によると、条件設定によって、電池単位体積当たりの定格500W/L以上の出力密度を実現することができると推定される。該条件設定を異ならせることで、定格出力密度を更に向上することもできる。また、他の実施例においても、条件設定を適宜設定することで、500W/L以上を達成できると推定される。
【0090】
<考察>
本発明は、一つの局面において、電池活物質元素であるバナジウム濃度を高く維持し(1.8M以上)、かつ、高濃度化によって発生する活物質析出やセル面積抵抗率の増大などの問題点を解決して、大きな出力密度が得られるレドックス電池を提供することを目的としている。高濃度化によって活物質液がゲル化する現象は、高濃度活物質液がチキソトロピー(揺変性)を示す結果であり、適度に流動状態を維持することによって解決でき、また、ビンガム流体性と矛盾しない。
【0091】
高濃度系バナジウム活物質液では、流動性の低下によって、ほかのイオンの易動性が大きく低下して、プロトンの輸率が大きくなる。ただし、そのプロトンも易動度そのものは、希薄な液に対して大きく低下する。これは結果として、活物質液の導電率低下に繋がり、電池としての内部抵抗(面積抵抗率)が大きくなってしまう。この問題点を解決する方法は、液抵抗の影響を最も大きく受ける隔膜部分の最小化(隔膜を薄くすること)であった。セル内電極部分は電極の導電性によって、活物質液の導電率低下の影響を緩和できる。ただし、電極面(炭素繊維表面)に活物質が速やかに到達できるようにするために炭素(グラファイト)繊維表面積を大きくする処置が性能向上を図る上で重要である。比表面積の増加によって、活物質の電極面への物質移動性を向上させるとともに、比表面積増加が電極そのものの導電性向上(体積抵抗率の軽減)に寄与している。
【0092】
以上のような効果によって、高濃度系の活物質液であっても、高い反応性(見掛けの電流密度)を維持することができ、かつ、高濃度系である分だけ反応性を向上させることができるようになった。具体的には200mA/cm程度の電流密度の電池反応(充放電の電極反応)によって、500W/L以上の出力密度を出せるレドックス電池を提供することも可能になった。この出力密度は、サイクル仕様の鉛二次電池を超えるものである。
【符号の説明】
【0093】
1:正極セル
11:正極
12:流入口
13:流出口
14:正極活物質液タンク
15:ポンプ
16:流入管
17:流出管
2:負極セル
21:負極
22:流入口
23:流出口
24:負極活物質液タンク
25:ポンプ
26:流入管
27:流出管
3:隔膜
4:スペーサー
5:導電性シート
6:押え板
図1
図2
図3