特許第6663933号(P6663933)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6663933
(24)【登録日】2020年2月19日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】バソプレシン様作用増強剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4174 20060101AFI20200302BHJP
   A61P 7/12 20060101ALI20200302BHJP
【FI】
   A61K31/4174
   A61P7/12
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-558242(P2017-558242)
(86)(22)【出願日】2016年12月22日
(86)【国際出願番号】JP2016088283
(87)【国際公開番号】WO2017110965
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2019年7月1日
(31)【優先権主張番号】特願2015-253018(P2015-253018)
(32)【優先日】2015年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001395
【氏名又は名称】杏林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】山崎 貴信
【審査官】 小堀 麻子
(56)【参考文献】
【文献】 夜尿症研究,2010年,Vol.25,p.19-23
【文献】 Adv Urol,2011年,Vol.2011,Article ID 854697
【文献】 Korean J Urol,2011年,Vol.52, No.6,p.396-400
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内因性バソプレシンの抗利尿作用の低下に起因する夜間頻尿の治療用組成物であって、内因性バソプレシンの抗利尿作用を増強するために使用される、イミダフェナシンを含有する前記組成物。
【請求項2】
夜間頻尿が夜間多尿に起因する夜間頻尿である、請求項1に記載の組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イミダフェナシンを含有する、バソプレシン又はバソプレシンV2受容体アゴニストの抗利尿作用の増強用組成物に関する。また、本発明は、バソプレシン又はバソプレシンV2受容体アゴニストの抗利尿作用の増強作用を有する、イミダフェナシンを含有する抗利尿用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
イミダフェナシンはムスカリンM1受容体及びM3受容体を選択的に阻害する抗コリン薬であり、現在、過活動膀胱(OAB)における尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁の治療薬として広く使用されている。イミダフェナシンは膀胱において、M1拮抗によるアセチルコリン遊離抑制作用と、M3拮抗による膀胱平滑筋収縮抑制作用を示すことで薬理効果を発揮すると考えられている(非特許文献1)。
【0003】
イミダフェナシンの効能・効果である過活動膀胱とは、尿意切迫感を必須とした症状症候群であり、通常は頻尿と夜間頻尿を伴うといわれている(非特許文献2)。また、夜間頻尿とは、夜間に排尿のために1回以上起きなければならない訴えであり、そのことにより困っている状態であるとされている(非特許文献3)。
【0004】
イミダフェナシンには夜間尿量減少効果があり、その背景のひとつとして、膀胱知覚神経を介した抗利尿効果が考えられるものの、メカニズムについてはまだよくわかっていないことが報告されている(非特許文献4)。
【0005】
ところで、尿量を調節するホルモンとしてバソプレシンが知られている。バソプレシンは抗利尿ホルモンとも呼ばれるペプチドであり、その受容体としてV1a、V1b及びV2受容体が知られている。V2受容体は腎集合管に存在し、バソプレシンが結合すると水の再吸収が促進され尿量が減少する(抗利尿作用)。したがって、バソプレシンの作用が低下すると、多尿、夜尿症、尿崩症などをきたす。
【0006】
また、バソプレシン様の抗利尿作用を示すV2受容体アゴニストとして、デスモプレシンが知られている。デスモプレシンもまたペプチドであり、V2受容体に選択的に結合して抗利尿作用を発揮することにより、現在、夜尿症や中枢性尿崩症の治療薬として使用されている。
【0007】
したがって、バソプレシンやバソプレシンV2受容体アゴニストの抗利尿作用を増強する化合物を含有する組成物は、頻尿、夜間頻尿、多尿、夜間多尿、夜尿症、尿崩症等の予防用又は治療用組成物として有用と思われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ウリトス錠0.1mg、ウリトスOD錠0.1mg 添付文書、2014年6月改訂(第11版)
【非特許文献2】過活動膀胱診療ガイドライン、2005年8月
【非特許文献3】夜間頻尿診療ガイドライン、2009年4月
【非特許文献4】泌尿器外科、2013年、Vol26 No7、1091〜1098頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
バソプレシンやバソプレシンV2受容体アゴニストの抗利尿作用を増強する組成物を見出すこと、並びに、当該組成物により、頻尿や夜間頻尿、特に夜間多尿に起因する夜間頻尿を予防又は治療する手段を提供することが、本発明が解決しようとする課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、イミダフェナシンがバソプレシンやバソプレシンV2受容体アゴニストの抗利尿作用を増強させることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]バソプレシン又はバソプレシンV2受容体アゴニストの抗利尿作用を増強するために使用される、イミダフェナシンを含有する医薬組成物。
[2]イミダフェナシンを含有する、バソプレシン又はバソプレシンV2受容体アゴニストの抗利尿作用の増強用組成物。
[3]バソプレシン又はバソプレシンV2受容体アゴニストの抗利尿作用の増強作用を有する、イミダフェナシンを含有する抗利尿用組成物。
[4]バソプレシン又はバソプレシンV2受容体アゴニストと共に使用される、イミダフェナシンを含有する抗利尿用組成物。
[5]イミダフェナシン、及びバソプレシン又はバソプレシンV2受容体アゴニストを含有する抗利尿用組成物。
[6]バソプレシンV2受容体アゴニストがデスモプレシン又はその薬学的に許容される塩である、[1]〜[5]のいずれか1つに記載の組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、イミダフェナシンにより、バソプレシン又はバソプレシンV2受容体アゴニストの抗利尿作用を増強させることが可能となり、頻尿や夜間頻尿、特に夜間多尿に起因する夜間頻尿を予防又は治療することができる。また、イミダフェナシンの当該作用に基づく、イミダフェンシンを含有する抗利尿用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】イミダフェナシンの抗利尿作用を表す。
図2】デスモプレシンの抗利尿作用を表す。
図3】イミダフェナシンとデスモプレシンの併用効果を表す。
図4】イミダフェナシンの抗利尿作用へのモザバプタンの影響を表す。
図5】イミダフェナシンによるデスモプレシンの抗利尿作用の増強効果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、イミダフェナシンの経口投与量としては0.05〜1.0mg/日が好ましく、0.1〜0.4mg/日が更に好ましく、0.2mg/日が特に好ましい。
【0014】
本発明において、イミダフェナシンの投与方法としては上記投与量を1日2回、朝食後と夕食後に分けて経口投与してもよいし、1日1回、夕食後にまとめて経口投与してもよい。
【0015】
本発明において、「バソプレシンV2受容体アゴニスト」とは、バソプレシンの受容体であるV2受容体に結合し、バソプレシン様作用(抗利尿作用)を引き起こす化合物を表す。本発明において特に好ましいバソプレシンV2受容体アゴニストはデスモプレシン又はその薬学的に許容される塩である。本明細書において、バソプレシンV2受容体アゴニストとV2受容体アゴニストは同義である。
【0016】
本発明において、「バソプレシン又はバソプレシンV2受容体アゴニストの抗利尿作用の(を)増強」とは、バソプレシン又はバソプレシンV2受容体アゴニスト単独の抗利尿作用を超える抗利尿作用を示す状態を表す。
【0017】
本発明の組成物は、任意の薬学的に許容される担体を含むことができる。また、本発明の組成物は、任意の薬学的に許容される添加剤を含むことができる。添加剤としては、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、着色剤、光沢剤などが挙げられる。
【0018】
賦形剤としては、乳糖、ブドウ糖などの糖類、D−ソルビトール、マンニトールなどの糖アルコール類、結晶セルロースなどのセルロース類、部分アルファ化デンプン、トウモロコシデンプンなどのデンプン類などが挙げられる。
【0019】
崩壊剤としては、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、メチルセルロースなどのセルロース類、クロスポビドンなどが挙げられる。
【0020】
結合剤としては、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロースなどのセルロース類、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール部分けん化物、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0021】
滑沢剤としては、ステアリン酸及びその金属塩類、タルク、硬化油、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0022】
コーティング剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロースなどのセルロース類、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタアクリル酸コポリマー、ポビドン、ステアリルアルコール、アンモニオメタクリレート・コポリマー、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、メタクリル酸コポリマー(L、S)などが挙げられる。
【0023】
着色剤としては、酸化チタン、三二酸化鉄などが挙げられる。
【0024】
光沢剤としては、カルナウバロウなどが挙げられる。
【0025】
本発明の組成物は、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、吸入剤、シロップ剤若しくはゼリー剤などの経口投与形態、又は注射剤、座剤若しくは貼付剤などの非経口投与形態により投与することができる。
【0026】
本発明の組成物は当該技術分野において慣用されている方法により製造することができる。例えば、本発明の組成物がフィルムコーティング錠の場合は国際公開WO2001/034147に記載の方法により製造することができる。また、本発明の組成物が口腔内崩壊錠の場合は国際公開WO2009/096559に記載の方法により製造することができる。
【実施例】
【0027】
<実験例1 イミダフェナシンの抗利尿作用>
【0028】
Watanabeらの方法( Watanabe et al 2013 Antidiuretic effect of antimuscanrinic agents in rat model depends on C−fibre afferent nerves in the bladder. BJU Int 112(1) 131−6)を一部変更して実施した。雌ラット(10−11週、日本チャールス・リバー)に溶媒(生理食塩水)またはイミダフェナシン(3,10,30,100,300μg/mL)の静脈内投与(1mL/kg)、及び経口水負荷(25mL/kg)を行った後、ラットをボールマンケージに移し、あらかじめラット膀胱頂部に挿入・固定したカテーテルから尿採取を2時間行った(各群8例)。
【0029】
イミダフェナシンの抗利尿作用を図1に示す。図1に示すとおり、イミダフェナシンには用量依存的な抗利尿作用が認められた。また、最大で約50%の尿量減少作用を示した。
【0030】
<実験例2 デスモプレシンの抗利尿作用>
【0031】
Watanabeらの方法( Watanabe et al 2013 Antidiuretic effect of antimuscanrinic agents in rat model depends on C−fibre afferent nerves in the bladder. BJU Int 112(1) 131−6)を一部変更して実施した。雌ラット(10−11週、日本チャールス・リバー)に溶媒(生理食塩水)またはデスモプレシン(0.001,0.003,0.01,0.03,0.1μg/mL)の静脈内投与(1mL/kg)、及び経口水負荷(25mL/kg)を行った後、ラットをボールマンケージに移し、あらかじめラット膀胱頂部に挿入・固定したカテーテルから尿採取を2時間行った(各群8例)。
【0032】
デスモプレシンの抗利尿作用を図2に示す。図2に示すとおり、デスモプレシンには用量依存的な抗利尿作用が認められた。また、最大でほぼ100%の尿量減少作用を示した。
【0033】
<実験例3 イミダフェナシンとデスモプレシンの併用効果>
【0034】
Watanabeらの方法( Watanabe et al 2013 Antidiuretic effect of antimuscanrinic agents in rat model depends on C−fibre afferent nerves in the bladder. BJU Int 112(1) 131−6)を一部変更して実施した。雌ラット(10−11週、日本チャールス・リバー)に溶媒(生理食塩水)、イミダフェナシン(10μg/mL)、デスモプレシン(0.003μg/mL)あるいは両者の静脈内投与(1mL/kg)、及び経口水負荷(25mL/kg)を行った後、ラットをボールマンケージに移し、あらかじめラット膀胱頂部に挿入・固定したカテーテルから尿採取を2時間行った(各群8例)。
【0035】
イミダフェナシンとデスモプレシンを併用投与したときの抗利尿作用を図3に示す。図3に示すとおり、イミダフェナシン又はデスモプレシンを単独投与した場合と比較して、両者を併用した場合は抗利尿作用が増強した。イミダフェナシンとデスモプレシンの併用によって抗利尿作用が増強されることは本発明により初めて見出されたものであり、また、これらの薬剤は作用機序も異なることから当該増強効果は予想できない驚くべき結果である。また、デスモプレシンはバソプレシンのアナログであるため、バソプレシンの抗利尿作用もデスモプレシンと同様にイミダフェナシンとの併用により増強されると考えられる。
【0036】
<実験例4 イミダフェナシンの抗利尿作用へのモザバプタンの影響>
【0037】
Watanabeらの方法( Watanabe et al 2013 Antidiuretic effect of antimuscanrinic agents in rat model depends on C−fibre afferent nerves in the bladder. BJU Int 112(1) 131−6)を一部変更して実施した。雌ラット(10−11週、日本チャールス・リバー)の静脈内に溶媒(ジメチルホルムアミドまたは生理食塩水)、モザバプタン(30mg/mL溶液を0.1mL/kg投与)、モザバプタン3mg/kgとイミダフェナシン(10μg/kgまたは300μg/kg)、モザバプタン3mg/kgとデスモプレシン(0.003μg/kgまたは0.1μg/kg)、またはモザバプタン3mg/kgとイミダフェナシン(10μg/kgまたは300μg/kg)とデスモプレシン(0.003μg/kgまたは0.1μg/kg)の投与、並びに経口水負荷(25mL/kg)を行った後、ラットをボールマンケージに移し、あらかじめラット膀胱頂部に挿入・固定したカテーテルから尿採取を2時間行った(各群8例)。
【0038】
モザバプタンはバソプレシンやデスモプレシンと拮抗し、これらの抗利尿作用を阻害する、いわゆるV2拮抗薬である。モザバプタンによる、イミダフェナシン又はデスモプレシンの抗利尿作用の阻害作用を図4に示す。図4に示すとおり、イミダフェナシンの抗利尿作用は最大反応用量である300μg/kgにおいてもモザバプタンにより完全に抑制された。一方、デスモプレシンの抗利尿作用もモザバプタンにより抑制されたが、デスモプレシンの最大反応用量である0.1μg/kgにおいては抗利尿作用が回復した。また、図5に示すとおり、モザバプタンとデスモプレシン0.1μg/kgの併用群にイミダフェナシン300μg/kgを加えると、抗利尿作用は更に増強した。すなわち、内因性バソプレシンの抗利尿作用がモザバプタンによりほぼ完全に抑制された状態(図4)ではイミダフェナシンを投与しても抗利尿作用が認められなかったことに対して、バソプレシン系を介した抗利尿作用がデスモプレシンにより回復した状態(図5)ではイミダフェナシンを投与することにより抗利尿作用が増強するという結果が得られた。これらと図3に示す結果から、イミダフェナシンの抗利尿作用にはバソプレシン系が関与しており、イミダフェナシンはバソプレシンの活性を増強することによって抗利尿作用を発揮することが示唆される。イミダフェナシンの抗利尿作用にバソプレシン系が関与していることは本発明により初めて見出されたものである。また、イミダフェナシンはラットにおいてバソプレシンのリリースに影響しないことから、イミダフェナシンの抗利尿作用にはバソプレシンの関与はないことが報告されていたため( Watanabe et al 2013 Antidiuretic effect of antimuscanrinic agents in rat model depends on C−fibre afferent nerves in the bladder. BJU Int 112(1) 131−6)、本発明の効果は予想できない驚くべき結果である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、イミダフェナシンによりバソプレシン又はバソプレシンV2受容体アゴニストの抗利尿作用を増強することにより、頻尿や夜間頻尿、特に夜間多尿に起因する夜間頻尿の予防又は治療が期待できる。
図1
図2
図3
図4
図5