(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6663945
(24)【登録日】2020年2月19日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】コンテンツに対するユーザの共感能力を推定するプログラム、装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G06F 16/9536 20190101AFI20200302BHJP
【FI】
G06F16/9536
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-37001(P2018-37001)
(22)【出願日】2018年3月1日
(65)【公開番号】特開2019-153014(P2019-153014A)
(43)【公開日】2019年9月12日
【審査請求日】2019年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【弁理士】
【氏名又は名称】早原 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】松本 一則
(72)【発明者】
【氏名】帆足 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】池田 和史
【審査官】
早川 学
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−223423(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0156582(US,A1)
【文献】
韓国公開特許第10−2008−0083248(KR,A)
【文献】
徳永正和、外1名,情報推薦システムにおける項目応答理論の利用可能性について,第4回データ工学と情報マネジメントに関するフォーラム論文集 (第10回日本データベース学会年次大会),電子情報通信学会データ工学研究専門委員会 日本デー,2012年 7月13日,[検索日:2012.08.30], Internet<URL:http://db-event.jpn.org/deim2012/proceedings/final-pdf/a5-4.pdf>
【文献】
橋間智博,Webサイトにおける項目反応理論を用いたおすすめコンテンツの提示,FIT2007 第6回情報科学技術フォーラム 一般講演論文集 第4分冊 ネットワーク・セキュリティ,社団法人情報処理学会 社団法人電子情報通信学会,2007年 8月22日,pp.451,452
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 16/9536
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンテンツcに対する推定対象ユーザsEのユーザの共感能力θEを推定する装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
学習機能として、
ユーザsn(s1〜sN)毎に、各コンテンツcl(c1〜cL)の共感度(t11〜t1L,〜,tN1〜tNL)を対応付けた共感度行列Tnlを記憶する共感度行列記憶手段と、
前記ユーザsn毎に、所定の各ユーザ特徴要素(v1〜vJ)の特徴量(f11〜f1J,〜,fN1〜fNJ)を対応付けたユーザ特徴量行列Fnjを記憶するユーザ特徴量行列記憶手段と、
前記ユーザsn毎に、前記各コンテンツclの共感度行列Tnlを入力し、項目反応理論IRT(Item Response Theory)に基づく共感能力θnを算出する項目反応理論算出手段と、
前記ユーザsn毎に、前記ユーザ特徴量行列Fnjと共感能力θnとを対応付けた教師データとして学習する機械学習エンジンと
として機能させ、
運用機能として、
推定対象ユーザsEについて、所定の各ユーザ特徴要素(v1〜vJ)の特徴量(fE1〜fEJ)を対応付けたユーザ特徴量行列FEを算出するユーザ特徴量行列算出手段と
して機能させると共に、
前記機械学習エンジンは、前記推定対象ユーザsEの前記ユーザ特徴量行列FEを入力し、共感能力θEを出力する
ようにコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項2】
前記共感度は、
前記コンテンツの登場人物又は著作者の感情を理解する認知度tRと、
前記コンテンツの登場人物又は著作者と同じ感情を生じる情動度tEと
からなり、
前記項目反応理論算出手段は、2母数ロジスティックモデルとして算出する
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
前記ユーザ特徴要素は、ユーザsnに対する複数の質問に基づくものであり、
前記特徴量は、前記質問に対するユーザsnの回答に基づくものである
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1又は2に記載のプログラム。
【請求項4】
前記コンテンツは、不特定多数の第三者からWebサーバに投稿されたものであり、
前記コンテンツ影響力Mは、ユーザがWebサーバの当該コンテンツを閲覧した際に受ける感情に基づくものである
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の質問回答プログラム。
【請求項5】
前記機械学習エンジンは、線形回帰、サポートベクターマシン(Support Vector Machine)、又は、深層学習の回帰学習に基づくものである
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項6】
コンテンツcに対する推定対象ユーザsEのユーザの共感能力θEを推定する装置であって、
学習機能として、
ユーザsn(s1〜sN)毎に、各コンテンツcl(c1〜cL)の共感度(t11〜t1L,〜,tN1〜tNL)を対応付けた共感度行列Tnlを記憶する共感度行列記憶手段と、
前記ユーザsn毎に、所定の各ユーザ特徴要素(v1〜vJ)の特徴量(f11〜f1J,〜,fN1〜fNJ)を対応付けたユーザ特徴量行列Fnjを記憶するユーザ特徴量行列記憶手段と、
前記ユーザsn毎に、前記各コンテンツclの共感度行列Tnlを入力し、項目反応理論IRT(Item Response Theory)に基づく共感能力θnを算出する項目反応理論算出手段と、
前記ユーザsn毎に、前記ユーザ特徴量行列Fnjと共感能力θnとを対応付けた教師データとして学習する機械学習エンジンと
を有し、
運用機能として、
推定対象ユーザsEについて、所定の各ユーザ特徴要素(v1〜vJ)の特徴量(fE1〜fEJ)を対応付けたユーザ特徴量行列FEを算出するユーザ特徴量行列算出手段と
を有し、
前記機械学習エンジンは、前記推定対象ユーザsEの前記ユーザ特徴量行列FEを入力し、共感能力θEを出力する
ことを特徴とする装置。
【請求項7】
コンテンツcに対する推定対象ユーザsEのユーザの共感能力θEを推定する装置の推定方法であって、
前記装置は、
学習機能として、
ユーザsn(s1〜sN)毎に、各コンテンツcl(c1〜cL)の共感度(t11〜t1L,〜,tN1〜tNL)を対応付けた共感度行列Tnlを記憶する共感度行列記憶部と、
前記ユーザsn毎に、所定の各ユーザ特徴要素(v1〜vJ)の特徴量(f11〜f1J,〜,fN1〜fNJ)を対応付けたユーザ特徴量行列Fnjを記憶するユーザ特徴量行列記憶部と
を有し、
前記ユーザsn毎に、前記各コンテンツclの共感度行列Tnlを入力し、項目反応理論IRT(Item Response Theory)に基づく共感能力θnを算出する第11のステップと、
機械学習エンジンを用いて、前記ユーザsn毎に、前記ユーザ特徴量行列Fnjと共感能力θnとを対応付けた教師データとして学習する第12のステップと
を実行し、
運用機能として、
推定対象ユーザsEについて、所定の各ユーザ特徴要素(v1〜vJ)の特徴量(fE1〜fEJ)を対応付けたユーザ特徴量行列FEを算出する第21のステップと、
前記機械学習エンジンが、前記推定対象ユーザsEの前記ユーザ特徴量行列FEを入力し、共感能力θEを出力する第22のステップと
を実行することを特徴とする装置の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンテンツに対するユーザの共感能力を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人と対話する対話システムが、スマートフォンアプリケーションやロボットにも搭載されてきている。
古くはELIZAやSHRDLUのように、ユーザ発話に対して一問一答形式で返答する技術がある(例えば非特許文献1参照)。この技術によれば、事前に蓄積された質問例の集合の中から、パターンマッチによってユーザ発話に近い質問例を検出する。
これに対し、現在の対話システムは、「タスク指向対話機能」及び「雑談対話機能」に大別でき、これらの機能を組み合わせて構成されている。
また、対人関係の確立と維持を目的として、「社会的対話」に注目した対話システムの技術もある(例えば非特許文献2参照)。
更に、社会的対話に共感性を適用した対話システムによって、ユーザの親近感を高めようとする技術もある(例えば非特許文献3参照)。
更に、ユーザの興味分野の情報レコメンド機能を、対話システムに適用した技術もある(例えば非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】奥村学、他、「対話システム」、コロナ社、2017年、ISBN:978-4-339-02757-0
【非特許文献2】T. W. Bickmore and R. W. Picard, “Establishing and maintaining long-term human-computer relationships”, ACM Tran. on Computer-Human Interaction ‘TOCHI), 12(2):293-327, 2005.、[online]、[平成30年2月12日検索]、インターネット<URL:http://www.ccs.neu.edu/home/bickmore/publications/toCHI.pdf>
【非特許文献3】東中竜一郎, 堂坂浩二, 磯崎秀樹, “対話システムにおける共感と自己開示の効果”, 言語処理学会第15回年次大会,446-449, 2009.、[online]、[平成30年2月12日検索]、インターネット<URL:http://www.kecl.ntt.co.jp/icl/lirg/members/rh/pdf/NLP2009.pdf>
【非特許文献4】五十島志織,富永和人,亀田弘之,“対話からの興味をもとに情報を推薦するボットの作成”, 第11 回情報科学技術フォーラム, F-024, 2012.、[online]、[平成30年2月12日検索]、インターネット<URL:https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/?action=repository_action_common_download&item_id=151579&item_no=1&attribute_id=1&file_no=1>
【非特許文献5】戸田弘二,”心理測定尺度集II 人間と社会のつながりをとらえる<対人関係・価値観> 3共感性・他者意識”, 吉田富二雄編,堀洋道監修,サイエンス社,pp. 118-137
【非特許文献6】鈴木有美, 木野和代, “多次元共感性尺度(MES)の作成 −自己志向・他者志向の弁別に焦点をあてて−”, 教育心理学研究, 56, 487-497, 2008.、[online]、[平成30年2月12日検索]、インターネット<URL:https://ci.nii.ac.jp/naid/110007028208>
【非特許文献7】項目応答理論、[online]、[平成30年2月12日検索]、インターネット<URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A0%85%E7%9B%AE%E5%BF%9C%E7%AD%94%E7%90%86%E8%AB%96>
【非特許文献8】特異値分解、[online]、[平成30年2月12日検索]、インターネット<https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%B9%E7%95%B0%E5%80%A4%E5%88%86%E8%A7%A3>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した従来技術によれば、対話システムにおけるユーザの親近感を高めようとしているが、心理学の知見に基づいた社会的対話については何ら検討されていない。
心理学の分野によれば、他者の気持ちを認知し、他者と同じ情動を持つ体験する性質として、「共感性(Empathy)」がある(例えば非特許文献5参照)。但し、共感性は、単一の観点のみから判断することできない。具体的には、共感性は、「他者の心理状態を正確に認知する能力(認知度)」と「他者の心理状態に対する代理的な反応の強さ(情動度)」との多元的な観点から判断する必要がある(例えば非特許文献6参照)。
【0005】
例えば、ある記事を閲覧したユーザは、その記事の登場人物(擬人化された物も含む)や著作者の思考及び感情を理解し、何らかの感情を抱く。これは、コンテンツに対するユーザの共感能力に基づく。ユーザの共感能力は、人によって異なり、例えば同じコンテンツであっても、各ユーザが持つ共感性は違ってくる。
【0006】
そこで、本発明は、コンテンツに対するユーザの共感能力を推定するプログラム、装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、コンテンツcに対する推定対象ユーザs
Eのユーザの共感能力θ
Eを推定する装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
学習機能として、
ユーザs
n(s
1〜s
N)毎に、各コンテンツc
l(c
1〜c
L)の共感度(t
11〜t
1L,〜,t
N1〜t
NL)を対応付けた共感度行列T
nlを記憶する共感度行列記憶手段と、
ユーザs
n毎に、所定の各ユーザ特徴要素(v
1〜v
J)の特徴量(f
11〜f
1J,〜,f
N1〜f
NJ)を対応付けたユーザ特徴量行列F
njを記憶するユーザ特徴量行列記憶手段と、
ユーザs
n毎に、各コンテンツc
lの共感度行列T
nlを入力し、項目反応理論IRT(Item Response Theory)に基づく共感能力θ
nを算出する項目反応理論算出手段と、
ユーザs
n毎に、ユーザ特徴量行列F
njと共感能力θ
nとを対応付けた教師データとして学習する機械学習エンジンと
として機能させ、
運用機能として、
推定対象ユーザs
Eについて、所定の各ユーザ特徴要素(v
1〜v
J)の特徴量(f
E1〜f
EJ)を対応付けたユーザ特徴量行列F
Eを算出するユーザ特徴量行列算出手段と
して機能させると共に、
機械学習エンジンは、推定対象ユーザs
Eのユーザ特徴量行列F
Eを入力し、共感能力θ
Eを出力する
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0008】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
共感度は、
コンテンツの登場人物又は著作者の感情を理解する認知度t
Rと、
コンテンツの登場人物又は著作者と同じ感情を生じる情動度t
Eと
からなり、
項目反応理論算出手段は、2母数ロジスティックモデルとして算出する
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0009】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
ユーザ特徴要素は、ユーザs
nに対する複数の質問に基づくものであり、
特徴量は、質問に対するユーザs
nの回答に基づくものである
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0010】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
コンテンツは、不特定多数の第三者からWebサーバに投稿されたものであり、
コンテンツ影響力Mは、ユーザがWebサーバの当該コンテンツを閲覧した際に受ける感情に基づくものである
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0011】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
機械学習エンジンは、線形回帰、サポートベクターマシン(Support Vector Machine)、又は、深層学習の回帰学習に基づくものである
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0012】
本発明によれば、コンテンツcに対する推定対象ユーザs
Eの共感能力θ
Eを推定する装置であって、
学習機能として、
ユーザs
n(s
1〜s
N)毎に、各コンテンツc
l(c
1〜c
L)の共感度(t
11〜t
1L,〜,t
N1〜t
NL)を対応付けた共感度行列T
nlを記憶する共感度行列記憶手段と、
ユーザs
n毎に、所定の各ユーザ特徴要素(v
1〜v
J)の特徴量(f
11〜f
1J,〜,f
N1〜f
NJ)を対応付けたユーザ特徴量行列F
njを記憶するユーザ特徴量行列記憶手段と、
ユーザs
n毎に、各コンテンツc
lの共感度行列T
nlを入力し、項目反応理論IRT(Item Response Theory)に基づく共感能力θ
nを算出する項目反応理論算出手段と、
ユーザs
n毎に、ユーザ特徴量行列F
njと共感能力θ
nとを対応付けた教師データとして学習する機械学習エンジンと
を有し、
運用機能として、
推定対象ユーザs
Eについて、所定の各ユーザ特徴要素(v
1〜v
J)の特徴量(f
E1〜f
EJ)を対応付けたユーザ特徴量行列F
Eを算出するユーザ特徴量行列算出手段と
を有し、
機械学習エンジンは、推定対象ユーザs
Eのユーザ特徴量行列F
Eを入力し、共感能力θ
Eを出力する
ことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、コンテンツcに対する推定対象ユーザs
Eのユーザの共感能力θ
Eを推定する装置の推定方法であって、
装置は、
学習機能として、
ユーザs
n(s
1〜s
N)毎に、各コンテンツc
l(c
1〜c
L)の共感度(t
11〜t
1L,〜,t
N1〜t
NL)を対応付けた共感度行列T
nlを記憶する共感度行列記憶部と、
ユーザs
n毎に、所定の各ユーザ特徴要素(v
1〜v
J)の特徴量(f
11〜f
1J,〜,f
N1〜f
NJ)を対応付けたユーザ特徴量行列F
njを記憶するユーザ特徴量行列記憶部と
を有し、
ユーザs
n毎に、各コンテンツc
lの共感度行列T
nlを入力し、項目反応理論IRT(Item Response Theory)に基づく共感能力θ
nを算出する第11のステップと、
機械学習エンジンを用いて、ユーザs
n毎に、ユーザ特徴量行列F
njと共感能力θ
nとを対応付けた教師データとして学習する第12のステップと
を実行し、
運用機能として、
推定対象ユーザs
Eについて、所定の各ユーザ特徴要素(v
1〜v
J)の特徴量(f
E1〜f
EJ)を対応付けたユーザ特徴量行列F
Eを算出する第21のステップと、
機械学習エンジンが、推定対象ユーザs
Eのユーザ特徴量行列F
Eを入力し、共感能力θ
Eを出力する第22のステップと
を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のプログラム、装置及び方法によれば、コンテンツに対するユーザの共感能力を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】本発明における推定装置の機能構成図である。
【
図5】コンテンツに対してユーザが持つ認知度及び情動度を表す説明図である。
【
図6】共感度として認知度及び情動度を適用した説明図である。
【
図7】共感度行列として認知度及び情動度を適用した説明図である。
【
図8】コンテンツ毎の項目反応カテゴリ特性曲線を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明におけるシステム構成図である。
【0018】
インターネットに接続されるWebサーバ2は、様々なコンテンツを公開する。Webサーバ2は、例えば、ニュースサイトや、ブログ(Web log)サイト、ミニブログサイト(例えばtwitter(登録商標)、SNS(Social Networking Service)サイト(例えばfacebook(登録商標)やLINE(登録商標))、掲示板サイトのようなものであってもよい。コンテンツは、不特定多数の第三者からWebサーバに投稿されたものであってもよい。
端末3は、アクセスネットワーク及びインターネットを介して、Webサーバ2へアクセスし、それらコンテンツをユーザに閲覧させる。
本発明における推定装置1は、コンテンツに対するユーザの共感能力を推定する。即ち、ユーザ群を、心理学的な共感性に応じて分類することができる。
【0019】
図2は、本発明における推定装置の機能構成図である。
【0020】
本発明における推定装置1は、コンテンツcに対する推定対象ユーザs
Eのユーザの共感能力θ
Eを推定する推定する。
図2によれば、推定装置1は、<学習機能>及び<運用機能>に大別され、両機能に共通して、機械学習エンジン12を有する。
推定装置1は、学習機能として、コンテンツ蓄積部101と、共感度行列記憶部102と、ユーザ特徴量行列記憶部103と、項目反応理論算出部11とを有する。
また、運用機能として、ユーザ特徴量行列算出部13を有する。
これら機能構成部は、装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムを実行することによって実現される。また、これら機能構成部の処理の流れは、装置の推定方法として理解できる。
【0021】
<学習機能>
学習機能は、教師データとしてのコンテンツc
l(c
1〜c
L)毎に、複数のユーザs
n(s
1〜s
N)の項目反応理論結果(共感能力θ
n)と、ユーザ特徴量とに基づいて、機械学習エンジン12内に学習モデルを構築する。
【0022】
[コンテンツ蓄積部101]
コンテンツ蓄積部101は、教師データとして、複数のコンテンツ(c
1〜c
L)を蓄積したものである。コンテンツとしては、例えばテキスト(記事やブログなど)、画像、映像など、ユーザに閲覧される形式のものであればよい。
【0023】
[共感度行列記憶部102]
共感度行列記憶部102は、ユーザ(s
1〜s
N)毎に、各コンテンツc
l(c
1〜c
L)の共感度(t
11〜t
1L,〜,t
N1〜t
NL)を対応付けた共感度行列T
nlを記憶する。
【0024】
図3は、共感度行列を表す説明図である。
【0025】
図3によれば、教師データとしてのコンテンツc
l毎に、例えばアンケートによって主観評価としての共感度の回答を得ている。例えば、被験者(s
1〜s
N)それぞれに、各コンテンツ(c
1〜c
L)を明示し、その共感度について例えば3段階(w=3)の回答を得る。これによって作成された共感度行列T
nl(t
11〜t
1L,〜,t
N1〜t
NL)が記憶されている。
【0026】
[ユーザ特徴量行列記憶部103]
ユーザ特徴量行列記憶部103は、ユーザs
n毎に、所定の各ユーザ特徴要素(v
1〜v
J)の特徴量(f
11〜f
1J,〜,f
N1〜f
NJ)を対応付けたユーザ特徴量行列F
nj(N行J列)を記憶する。
【0027】
ユーザ特徴要素は、一般的に、ユーザのプロファイル情報(性別、年齢、職業など)であってもよい。特に、ユーザの性格(認識能力、身体能力、知能力、人格力、忍耐力など)に基づくものであることが好ましい。ユーザ特徴要素は、用途に応じた、ユーザの特性を識別するパラメータ要素であればよい。
また、ユーザ特徴要素は、ユーザs
nに対する複数の質問に基づくものであってもよい。その場合、ユーザ特徴量は、質問に対するユーザs
nの回答に基づくものとなる。
【0028】
図4は、ユーザ特徴量行列を表す説明図である。
【0029】
図4によれば、被験者となる各ユーザが、複数の質問に対して回答する。質問の内容としては、ユーザの共感性に関するものが好ましい。これによって、ユーザs
n毎に各質問qmに対する回答行列(N行M列)が得られる。
この回答行列は、特異値分解(Singular Value Decomposition)によって、各ユーザの回答がJ次元に圧縮される.圧縮された特徴ベクトルを全てのユーザs
nでまとめた行列Uを、ユーザ特徴量行列とする。
特異値分解とは、線形代数学における、複素数又は実数を成分とする行列に対する行列分解方法である(例えば非特許文献8参照)。階数rの行列Xの分解が存在する。
X=UΣV
T -> U=X・R R=V・(V
T・V)
-1・Σ
-1
U:ユーザ特徴量行列
【0030】
[項目反応理論算出部11]
項目反応理論算出部11は、ユーザs
n毎に、各コンテンツc
lの共感度行列T
nlを入力し、項目反応理論IRT(Item Response Theory)に基づく共感能力θ
nを算出する。
【0031】
項目反応理論とは、評価項目群へのユーザの応答に基づいて、ユーザ能力θ(及び識別度α・難易度β)を測定するための試験理論をいう(例えば非特許文献7参照)。これは、評価項目に対するユーザの離散的な回答から、確率論的に、ユーザ能力(及び識別度・難易度)を算出する。ユーザに対する試験項目のストックを保守し、複数の試験の難易度を同等とみなすコンピュータ適応型テスト(Computerized Adaptive Testing)に適する。
ユーザ能力θ
l :コンテンツlに対するユーザnの能力の大きさを表す実数値
(識別度a
l :コンテンツlがユーザの共感能力を識別する力を表す実数値)
(難易度b
l :コンテンツlの難しさを表す実数値)
基本的に、ユーザ能力と識別度及び難易度との差を、ロジスティック曲線に当てはめて、回答の確率を求める。例えばコンテンツc
lがユーザs
nにとって共感度が高い場合、その確率は限りなく1に近づき、逆に共感度が低い場合、その確率は限りなく0に近づく。
2母数ロジスティックモデルの場合、以下のように確率が算出される。
p(θ)=1/(1+e
−Da(θ−b))
【0032】
[学習機能の機械学習エンジン12]
学習機能の機械学習エンジン12は、ユーザs
n毎に、ユーザ特徴量行列F
njと共感能力θ
nとを対応付けた教師データとして学習する。
機械学習エンジン12は、線形回帰、サポートベクターマシン(Support Vector Machine)、又は、深層学習の回帰学習に基づくものであってもよい。
【0033】
<運用機能>
運用機能は、未知のユーザs
lについて、コンテンツに対する共感能力θ
lを推定する。
【0034】
[ユーザ特徴量行列算出部13]
ユーザ特徴量行列算出部13は、推定対象ユーザs
Eについて、所定の各ユーザ特徴要素(v
1〜v
J)の特徴量(f
E1〜f
EJ)を対応付けたユーザ特徴量行列F
Eを算出する。
ここで、ユーザ特徴量行列算出部13は、前述したユーザ特徴量行列記憶部103と全く同じ方法で、ユーザ特徴量行列F
Eを算出する。
【0035】
[運用機能の機械学習エンジン12]
運用機能の機械学習エンジン12は、推定対象ユーザ(未知)s
Eのユーザ特徴量行列F
Eを入力し、共感能力θ
Eを出力する。
【0036】
図5は、コンテンツに対してユーザが持つ認知度及び情動度を表す説明図である。
【0037】
心理学の知見によれば、共感度は、「認知度」と「情動度」とによって表される。
「共感度」:他者の感情を理解し、他者と同じ感情を持つ人の性質
「認知度」:他者の感情(心理状態)を理解する度合い
「情動度」:他者と同じ感情(代理的な反応の強さ)を持つ度合い
ここでの「他者」とは、コンテンツの登場人物又は著作者を意味することとなる。
【0038】
図5によれば、多数のユーザ(被験者)に同一の記事を閲覧してもらい、各ユーザが「興味を引く話題か?」「心に響く話題か?」を質問して得られた、主観評価としての回答結果である。
興味を引く話題か?:引かない=認知度が低い
:引く =認知度が高い
心に響く話題か? :響かない=情動度が低い
:響く =情動度が高い
図5の表によれば、同一の記事に対して、「興味を引く」と感じる一方で「心に響かない」と感じるユーザがおり、また、「興味を引かない」と感じる一方で「心に響く」と感じるユーザもいる。
【0039】
図6は、共感度として認知度及び情動度を適用した説明図である。
図7は、共感度行列として認知度及び情動度を適用した説明図である。
【0040】
図6によれば、共感度行列記憶部102は、
図2と比較して、共感度行列Tとして、認知度T
1と情動度T
2とが別々に記憶されている。
図7によれば、被験者群 (s
1〜s
N)のN人にそれぞれに、各コンテンツ(c
1〜c
L)を明示し、その認知度及び情動度について例えば3段階(w=3)の回答を得る。これによって、評価項目数=2の共感度行列T
1nl(t
111〜t
11L,〜,t
1N1〜t
1NL)及びT
2nl(t
211〜t
21L,〜,t
2N1〜t
2NL)が、項目反応理論算出部11へ入力される。
【0041】
これに対し、項目反応理論算出部11は、2母数ロジスティックモデルとして、ユーザs
n(s
1〜s
N)について、以下のように共感能力θを算出する。
認知度の共感能力:θ
11〜θ
1N
情動度の共感能力:θ
21〜θ
2N
尚、一部のユーザが、ランダムに回答することができる場合、項目反応理論算出部11は、3母数ロジスティックモデルとして算出するものであってもよい。
【0042】
機械学習エンジン12は、コンテンツc
l毎に、特徴量行列F
lと、認知度に対する識別度α
11及び難易度β
11と、情動度に対する識別度α
12及び難易度β
12とを対応付けた教師データによって学習する。そして、以下のように学習モデルを構築する。
認知度の共感能力θ
11に対する学習モデル:M
1
情動度の共感能力θ
12に対する学習モデル:M
2
【0043】
そして、機械学習エンジン12は、推定対象ユーザs
Eの特徴量行列F
Eを入力すると、識別度に対する共感能力θ
1Eと、情動度に対する共感能力θ
2Eとを出力する。
【0044】
図8は、コンテンツ毎の項目反応カテゴリ特性曲線を表す説明図である。
【0045】
項目反応カテゴリ特性曲線(IRCCC(Item Response Category Characteristic Curve))は、以下のように作成される。
横軸:共感能力値(左側:共感度が低い、右側:共感度が高い)
(左側:識別度が低い、右側:識別度が高い)
(左側:情動度が低い、右側:情動度が高い)
縦軸:確率p
曲線:各選択肢(「共感しない」「わからない」「共感する」)
(「興味を引かない」「わからない」「興味を引く」)
(「心に響かない」「わからない」「心に響かない」)
【0046】
図8の項目反応カテゴリ特性曲線は、100件のコンテンツ(c
1〜c
100)について、300名のユーザ(s
1〜s
300)に対する認知度及び情動度の共感度行列T
1及びT
2と、8次元のユーザ特徴量行列Fとから得られたものである。
難易度bは、共感能力θと同じスケール上にあり、識別度aは、項目反応カテゴリ特性曲線の傾きを決定する。曲線の傾きが大きいほど、難易度bと共感能力θとの差が大きいほど、回答がくっきり分かれることを表す。
【0047】
図8によれば、4件のコンテンツ(ID36,ID72,ID82,ID94)について、認知度及び情動度の共感度行列それぞれの項目反応カテゴリ特性曲線が表されている。ID82及びID94は、ID72と比較して、認知度が高いことがわかる。また、ID82は、ID94及びID72と比較して、情動度が高いことがわかる。
これによって、ID82は、認知度が高く且つ情動度も高いことがわかる。また、ID94及びID72は、情動度が低いことがわかる。
尚、あるコンテンツについて共感度が低いと推定されたID72についても、ユーザの共感能力が高い場合、高い共感度が得られる。
【0048】
以上、詳細に説明したように、本発明のプログラム、推定装置及び方法によれば、コンテンツに対するユーザの共感能力を推定することができる。
【0049】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0050】
1 推定装置
101 コンテンツ蓄積部
102 共感度行列記憶部
103 ユーザ特徴量行列記憶部
11 項目反応理論算出部
12 機械学習エンジン
13 ユーザ特徴量行列算出部
2 Webサーバ
3 端末