特許第6664026号(P6664026)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6664026
(24)【登録日】2020年2月19日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】籾摺りロール及び籾摺り方法
(51)【国際特許分類】
   B02B 3/04 20060101AFI20200302BHJP
【FI】
   B02B3/04 A
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2019-144766(P2019-144766)
(22)【出願日】2019年8月6日
【審査請求日】2019年8月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501174550
【氏名又は名称】国立研究開発法人国際農林水産業研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 勇喜
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 成彰
(72)【発明者】
【氏名】坂中 宏行
(72)【発明者】
【氏名】吉橋 忠
【審査官】 吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/143633(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/158868(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/159787(WO,A1)
【文献】 中国実用新案第202044972(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B02B 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
しん材部と、前記しん材部の外周面に積層されたゴム層とを備えた籾摺りロールであって、
前記ゴム層は、ポリオール成分、イソシアネート成分及び架橋剤を含有する熱硬化性ウレタン組成物の硬化物からなり、
前記硬化物は、
90℃におけるtanδ(貯蔵弾性率に対する損失弾性率の比)が0.028以上、0.040以下であり、
90℃におけるJIS A硬さが85以上であり、
60℃におけるtanδに対する90℃におけるtanδの比が0.70以上であり、かつ、
室温で測定した動摩擦係数が0.60以上である、
籾摺りロール。
【請求項2】
前記硬化物は、90℃におけるJIS A硬さと、室温におけるJIS A硬さの差の絶対値が3以下である請求項1に記載の籾摺りロール。
【請求項3】
前記イソシアネート成分は、TDI又はMDIである請求項1又は2に記載の籾摺りロール。
【請求項4】
前記架橋剤は、少なくとも1,4−BDとBHEBとを含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の籾摺りロール。
【請求項5】
前記熱硬化性ウレタン組成物は、更にシリコーンオイルを含有し、
前記シリコーンオイルの含有量は、ポリオール成分、イソシアネート成分及び架橋剤の合計量に対して、0重量%を超え、0.5重量%以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の籾摺りロール。
【請求項6】
長粒米の籾摺りに用いられる請求項1〜5のいずれか一項に記載の籾摺りロール。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の籾摺ロールを用いた籾摺り方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、籾摺りロール、及び、この籾摺りロールを用いた籾摺り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用脱穀機には籾摺りロールが取り付けられている。この籾摺りロールは、2個の籾摺りロールを一対とし、籾摺りロール同士が所定の間隔を有するように配置して使用する。このように配置された一対の籾摺りロールでは、各籾摺りロールを異なる周速度で回転させつつ、籾摺りロール同士の隙間に籾米(籾殻が付いた米、以下、籾ともいう)を投入することにより、籾殻を脱ぷし、籾殻と玄米とに分離することができる。
【0003】
籾摺りロールとしては、円筒状のしん材部とその周囲に設けられたゴム層とからなる籾摺りロールが一般に使用されている(例えば、特許文献1参照)。
上記ゴム層の素材としては、ニトリルゴム(NBR)やスチレン・ブタジエンゴム(SBR)等の合成ゴムが知られている。
また、耐久性(耐摩耗性)に優れた籾摺りロールを提供すべく、上記ゴム層の素材として、ウレタン樹脂を用いることも提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−029809号公報
【特許文献2】特開昭51−107948号公報
【特許文献3】特開昭51−74865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
米は、短粒米(ジャポニカ米)と長粒米(インディカ米)の2種類に大きくわけることができ、日本で生産されている米は、ほぼ全量が短粒米である。一方、世界的にみれば、米の生産量は長粒米の生産量が短粒米の生産量に比べて圧倒的に多くなっている。
これらの米の籾摺りを行う場合、上記の籾摺りロールを用いて籾摺りを行うと、短粒米(ジャポニカ米)については高い脱ぷ率で脱ぷすることができても、長粒米のついては、脱ぷ率が著しく低下してしまい、良好な籾摺りを行えないことがあった。特に、上記ゴム層の素材として、ウレタン樹脂を採用した籾摺りロールでは、その傾向が顕著であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、このような課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、特定の熱硬化性ウレタン組成物の硬化物からなるゴム層を備えた籾摺りロールであれば、短粒米のみならず、長粒米であっても良好な籾摺りを行うことができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
本発明の籾摺りロールは、しん材部と、上記しん材部の外周面に積層されたゴム層とを備えた籾摺りロールであって、
上記ゴム層は、ポリオール成分、イソシアネート成分及び架橋剤を含有する熱硬化性ウレタン組成物の硬化物からなり、
上記硬化物は、90℃におけるtanδ(貯蔵弾性率に対する損失弾性率の比)が0.028以上であり、かつ90℃におけるJIS A硬さが85以上である。
【0008】
上記籾摺りロールによれば、短粒米だけでなく、長粒米も高い脱ぷ率で脱ぷすることができる。
このことは、本発明者らによって見出された格別優れた効果である。
従来の籾摺りロールで長粒米の籾摺りを実施した場合に脱ぷ率が低くなる理由を検討したところ、脱ぷ率が低かったケースでは、籾米が籾摺りロール同士の間を通過する際に、籾摺りロール間の隙間寸法が大きく変動していることが観察され、これが脱ぷ率が低くなっている原因の一つではないかと考えられた。
そこで、籾擦り時における籾摺りロール間の隙間寸法の変動を小さくすべく検討したところ、ゴム層のtanδ(貯蔵弾性率に対する損失弾性率の比)や硬さを調整すれば籾摺りロール間の隙間寸法が変動しにくくなるとの着想に到達し、この着想に基づいて検証を重ねた結果、90℃におけるtanδが0.028以上であり、かつ90℃におけるJIS A硬さが85以上であれば、短粒米だけでなく、長粒米も高い脱ぷ率で脱ぷすることができることを見出した。
【0009】
上記籾摺りロールにおいて、上記硬化物は、60℃におけるtanδに対する90℃におけるtanδの比が、0.70以上であることが好ましい。
この場合、短粒米、長粒米を問わず、籾摺り時に良好な脱ぷ率を確保するのにより適している。
また、籾摺りロールの表面温度が上昇してもゴム層のtanδが変化しにくく、籾摺りロールを連続運転した際に、高い脱ぷ率を維持するのに適している。
【0010】
上記硬化物は、室温で測定した動摩擦係数が、0.60以上であることが好ましい。
本発明者らによる検討では、長粒米の籾摺りにおいて脱ぷ率が低かったケースでは、籾米が籾摺りロール同士の間を通過する際に、籾米と籾摺りロール表面との間で滑りが発生しているケースが観察されており、この滑りの発生も脱ぷ率が低くなる一因ではないかと考えられた。
一方、室温で測定した動摩擦係数を0.60以上とすれば長粒米の脱ぷ率が良好になる。これは、籾米が籾摺りロール表面に対して滑りにくくなったためと推測している。
なお、本発明において、室温とは23℃である。
【0011】
更に、上記硬化物は、90℃におけるJIS A硬さと、室温におけるJIS A硬さの差の絶対値が3以下であることが好ましい。
この場合、籾摺りロールの表面温度が上昇してもゴム層の硬度が変化しにくく、籾摺りロールを連続運転した際に、高い脱ぷ率を維持するのに適している。
【0012】
上記籾摺りロールにおいて、上記熱硬化性ウレタン組成物は、イソシアネート成分として、TDI又はMDIを含有することが好ましい。
また、上記熱硬化性ウレタン組成物は、架橋剤として、少なくとも1,4−BDとBHEBとを含むことが好ましい。
これらの熱硬化性ウレタン組成物の硬化物からなるゴム層を備えた籾摺りロールは、耐久性(耐摩耗性)が極めて優れるからである。
【0013】
上記籾摺りロールにおいて、上記熱硬化性ウレタン組成物は、更にシリコーンオイルを含有し、上記シリコーンオイルの含有量が、ポリオール成分、イソシアネート成分及び架橋剤の合計量に対して、0重量%を超え、0.5重量%以下であることが好ましい。
この場合、耐久性(耐摩耗性)や耐水性を更に良好にするのに適している。
【0014】
上記籾摺りロールは、長粒米の籾摺りに用いられても良い。
上記籾摺りロールを使用すれば、長粒米も高い脱ぷ率で脱ぷすることができる。
【0015】
本発明の籾摺り方法は、本発明の籾摺りロールを用いることを特徴とする。
本発明の籾摺り方法によれば、短粒米だけでなく、長粒米も高い脱ぷ率で脱ぷすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、短粒米だけでなく、長粒米に対しても、脱ぷ率が高い良好な籾摺りを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)は本発明の実施形態に係る籾摺りロールを模式的に示す斜視図であり、(b)は(a)に示した籾摺りロールの正面図であり、(c)は(a)のA−A線断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る籾摺りロールの使用方法を説明するための模式図である。
図3】摩擦摩耗試験機による動摩擦係数の測定方法を説明するための要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本発明の実施形態に係る籾摺りロールは、しん材部と、上記しん材部の外周面に積層されたゴム層とを備えた籾摺りロールである。
上記ゴム層は、ポリオール成分、イソシアネート成分及び架橋剤を含有する熱硬化性ウレタン組成物の硬化物からなり、上記硬化物は、90℃におけるtanδ(貯蔵弾性率に対する損失弾性率の比)が0.028以上であり、かつ90℃におけるJIS A硬さが85以上である。
すなわち、上記籾摺りロールは、熱硬化性ウレタン組成物の硬化物からなり、当該硬化物が90℃で測定した物性として、所定の物性を有することを技術的特徴としている。
【0019】
図1(a)は本発明の実施形態に係る籾摺りロールの一例を模式的に示す斜視図であり、(b)は(a)に示した籾摺りロールの正面図であり、(c)は(a)のA−A線断面図である。
図1(a)〜(c)に示す籾摺りロール10は、金属製のしん材部11と、しん材部11の外周面に積層されたゴム層12とからなる。
しん材部11は、筒内に籾摺りロール10を籾摺機に取り付けるための取付用フランジ11aが設けられた円筒状の部材である。
しん材部11の外周面の全体には均一な厚さでゴム層12が形成されている。
【0020】
上記しん材部としては、従来公知の籾摺りロールで使用されているしん材部と同様のものを用いることができる。上記しん材部の材質としては、例えば、アルミニウム、ステンレス、鉄、モリブデン、チタン等が挙げられる。
また、上記しん材部の形状やサイズも特に限定されず、従来品と同様、籾摺りロールを取り付ける籾摺機の仕様や、JIS規格(JIS B 9214:もみすり用ゴムロール)に合わせて適宜設定すれば良い。
【0021】
上記ゴム層は、ポリオール成分、イソシアネート成分及び架橋剤を含有する熱硬化性ウレタン組成物の硬化物からなる。
更に、上記硬化物は、90℃におけるtanδ(貯蔵弾性率に対する損失弾性率の比)が0.028以上であり、かつ90℃におけるJIS A硬さが85以上である。
上記籾摺りロールでは、上記硬化物からなるゴム層が、90℃で測定した所定に物性を有するため、長粒米も短粒米も良好に脱ぷすることができる。
【0022】
一方、上記硬化物の90℃におけるtanδが0.028未満では、籾摺り時の脱ぷ率、特に長粒米の脱ぷ率が低くなる。
また、上記硬化物の90℃におけるJIS A硬さが85未満の場合も、籾摺り時の脱ぷ率、特に長粒米の脱ぷ率が低くなる。
これらの理由の1つとして、90℃におけるtanδが0.028未満の場合や、90℃におけるJIS A硬さが85未満の場合には、連続運転により籾摺りロールの表面温度が上昇した際に、籾摺りロール間の隙間寸法を維持しにくく、籾米の通過によって上記隙間寸法が変動しやすいためと考えている。
【0023】
上記tanδは、貯蔵弾性率E′に対する損失弾性率E″の比であり、
tanδ=E″/E′
で表すことができる。
【0024】
上記籾摺りロールは、ゴム層を構成する上記硬化物が、90℃において所定の物性を有しており、長粒米を脱ぷするのに適している。
長粒米は、東南アジアなど、一年を通じて気温の高い熱帯地域で多く生産されており、このような地域で籾摺りを行った場合、籾摺り時に籾摺ロールのゴム層の表面温度が90℃程度まで上昇することが通常である。そのため、このような高温条件下でも確実に籾摺りを行うことができるように、上記ゴム層を構成する上記硬化物は、90℃において所定の物性を有することが重要である。
【0025】
上記硬化物の90℃におけるtanδの上限は、0.040が好ましい。この理由は、上記tanδが0.040を超えると、硬化物の内部蓄熱が大きくなり熱劣化の原因となる。また、硬化物の変形が遅く、ゴム層に編摩耗が生じることがある。
上記硬化物の90℃におけるtanδの上限は、0.037がより好ましい。
【0026】
上記硬化物は、60℃におけるtanδに対する90℃におけるtanδの比(以下、「tanδ(90℃/60℃)」ともいう)が、0.70以上であることが好ましい。
日本国内で籾摺りを行った場合、籾摺りロールの表面温度は60℃程度まで上昇することがある。一方、熱帯地方で籾摺りを行った場合、籾摺りロールの表面温度は、上述した通り90℃程度まで上昇することがある。そのため、上記tanδ(90℃/60℃)を0.70以上とすることは、短粒米、長粒米を問わず、籾摺り時に良好な脱ぷ率を確保するのにより適している。
【0027】
また、tanδ(90℃/60℃)が0.70以上であると、籾摺りロールの表面温度が上昇してもゴム層のtanδが変化しにくくなっており、籾摺りロールを連続運転した際に、高い脱ぷ率を維持するのにより適している。
上記tanδ(90℃/60℃)が、0.70未満では、籾摺り時の脱ぷ率、特に長粒米を脱ぷした際の脱ぷ率が低くなることがある。
上記tanδ(90℃/60℃)は、0.80以上がより好ましい。
【0028】
本発明において、上記硬化物のtanδは、試験機として縦振動型動的粘弾性測定装置を使用して、所定の温度(60℃及び90℃のいずれか)で計測すれば良い。
【0029】
上記硬化物の90℃におけるJIS A硬さは、良好な脱ぷ率と、優れた耐摩耗性とを確保する観点から、87以上が好ましい。
上記硬化物の90℃におけるJIS A硬さの好ましい上限は92である。上記硬化物の90℃におけるJIS A硬さが92を超えると、籾摺り時に米が破損し、砕米率が増加するおそれがある。
【0030】
また、上記硬化物は、良好な脱ぷ率と、優れた耐摩耗性とを確保する観点から、室温におけるJIS A硬さが90以上であることも好ましい。
更に、上記硬化物の室温におけるJIS A硬さの好ましい上限は95である。上記硬化物の室温におけるJIS A硬さが95を超えると、籾摺り時に米が破損し、砕米率が増加するおそれがある。
【0031】
上記硬化物は、90℃におけるJIS A硬さと、室温におけるJIS A硬さの差の絶対値が3以下であることが好ましい。
この場合、籾摺りロールの表面温度が上昇する環境下で籾摺りを行っても、高い脱ぷ率を維持するのに適している。
【0032】
本発明において、上記硬化物のJIS A硬さの計測は、籾摺りロール自体を測定サンプル(試験片)とし、籾摺りロールのゴム層の端面E(図1(c)参照)における厚さ方向さ中央部付近を測定部位とし、JIS K 7312に基づいた手法で行う。
ここで、室温におけるJIS A硬さの計測は、JIS K 7312の7.硬さ試験において、試験片を変更して行う。
また、90℃におけるJIS A硬さの計測は、JIS K 7312の15.高温・低温における硬さ及び引張試験において、試験片を変更し、かつ温度を90℃に変更して行う。
【0033】
上記硬化物は、室温で測定した動摩擦係数が、0.60以上であることが好ましい。この場合、長粒米の籾摺り時に高い脱ぷ率を確保するのに適している。
一方、上記動摩擦係数が、0.60未満では、籾摺り時の脱ぷ率、特に長粒米を脱ぷした際の脱ぷ率が低くなることがある。
上記動摩擦係数は、0.63以上がより好ましく、0.67以上が更に好ましい。
【0034】
本発明において、上記硬化物の動摩擦係数は、試験機として摩擦摩耗試験機を使用して計測すれば良い。
具体的には、サイズ:5mm×5mm×2mm厚の試験片を、カッターナイフを用いて籾摺りロールのゴム層から切り出し、この試験片を摩擦摩耗試験機の金属面と摺擦させて動摩擦係数[=(垂直荷重)/(水平荷重)]を計測する。
【0035】
次に、上記ゴム層の材料となる熱硬化性ウレタン組成物について説明する。
上記熱硬化性ウレタン組成物は、ポリオール成分、イソシアネート成分及び架橋剤を含有する。
上記ポリオール成分としては、例えば、ポリエステルポリオールが挙げられる。ポリエステルポリオールを用いると、極性の高いポリエステルポリオール基によって発現する高い分子間力により、耐摩耗性に優れたゴム層を形成することができる。
上記ポリオール成分としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール等も挙げられる。
【0036】
上記ポリエステルポリオールとしては、例えば、ジカルボン酸とグリコールとを常法に従って反応させることにより得たもの等が挙げられる。
上記ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸、それらのエステル形成性誘導体等が挙げられる。
これらのなかではアジピン酸が好ましく、グリコールや架橋剤として1,4−ブタンジオールを用いる場合にはアジピン酸が特に好ましい。アジピン酸のC原子配列は、1,4−ブタンジオールと同じ4連配列であるため、配向結晶性に優れ、結晶化構造を有することにより強固な分子間力を発現する。また、アジピン酸は安価であるため、経済的にも優れる。
上記ジカルボン酸は単独で用いても良いし、2種以上併用しても良い。
【0037】
上記グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、トリエチレングリコール等の脂肪族グリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、p−キシレンジオール等の芳香族ジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール等が挙げられる。
上記グリコールとしては、脂肪族グリコールが好ましく、エチレングリコール、1,4−ブタンジオールが更に好ましい。適度な硬さのゴム層を形成するのに適しており、かつ、安価である。
ジカルボン酸及びグリコールの反応物であるポリエステルポリオールは、線状構造であるが、3価以上のエステル形成成分を用いた分枝状ポリエステルであっても良い。
上記グリコールは単独で用いても良いし、2種以上併用しても良い。
【0038】
上記ポリエステルポリオールとしては、特に、ポリエチレンアジペート系ポリエステルポリオール、ポリブチレンアジペート系ポリエステルポリオール、及び、ポリエチレンブチレンアジペート系ポリエステルポリオールが好ましい。適度な硬さのゴム層を形成するのに適した分子構造を有しており、かつ、安価である。
【0039】
上記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
上記ポリカプロラクトンポリオールとしては、例えば、触媒の存在下で低分子量グリコールを開始剤としてε−カプロラクトンを開環付加させることにより得られるものが挙げられる。
【0040】
上記ポリオール成分の数平均分子量は、1000〜3000が好ましい。数平均分子量が1000未満では、上記ゴム層が剛性の高すぎるものとなることがある。一方、数平均分子量が3000を超えると、上記ゴム層が柔軟すぎるものとなることがある。
上記数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)測定によるポリスチレン換算の測定値である。
【0041】
上記ポリオール成分としては、数平均分子量の異なる少なくとも2種類のポリオール成分を併用することが好ましい。
数平均分子量の異なるポリオール成分の併用によって、ポリオール成分の分子量分布がブロードになることが、上記硬化物の90℃におけるtanδを高めるのに適しているからである。
具体的には、例えば、数平均分子量が1000程度のポリオール成分と、数平均分子量が2000程度のポリオール成分を併用することが、好ましい組み合わせとして挙げられる。
【0042】
上記イソシアネート成分としては、例えば、フェニレンジイソシアネート(PPDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートとポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネートとの混合物、4,4’−トリジンジイソシアネート(TODI)、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等の芳香族ジイソシアネート;シクロペンタンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)等の脂環族ジイソシアネート等が挙げられる。これらは、単独で用いても良いし、2種以上併用しても良い。
また、本明細書では、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、及び、ジフェニルメタンジイソシアネートとポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネートとの混合物、を総称してMDIともいう。
これらのなかでは、MDI、TDIが好ましく、MDIがより好ましい。
【0043】
上記TDI(トリレンジイソシアネート)としては従来公知のTDIを用いることができる。上記TDIにおいて、2,4−TDIと2,6−TDIとの配合比(2,4−TDI/2,6−TDI)は特に限定されないが、65/35〜100/0(重量比)が好ましい。上記TDIとしては、例えば、T−80(2,4−TDI/2,6−TDI=80/20)、T−100(2,4−TDI/2,6−TDI=100/0)、T−65(2,4−TDI/2,6−TDI=65/35)等を用いることができる。
上記TDIとしては各種市販品を使用することもできる。
【0044】
上記MDIは特に限定されるものではなく、その分子量分布の広狭を問わず用いることができる。上記MDIは、ピュアMDI(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート)、ポリメリックMDI(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートとポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネートとの混合物)が好ましい。
上記MDIとしては各種市販品を使用することもできる。
【0045】
上記熱硬化性ウレタン組成物におけるイソシアネート基含有率(以下、NCO%ともいう)は、3.5〜10.0重量%が好ましい。
上記イソシアネート基含有率が、3.5重量%未満では上記ゴム層の耐摩耗性が低下してしまうことがある。一方、上記イソシアネート基含有率が10.0重量%を超えると、上記ゴム層の硬度が高くなりすぎ、籾摺りロールのゴム層として適さないことがある。
上記イソシアネート基含有率(重量%)とは、熱硬化性ウレタン組成物に使用する架橋剤を除いた完全プレポリマー(全てのイソシアネート成分、全てのポリオール成分の合計量)中に含まれるイソシアネート基の重量割合をいう。
【0046】
上記架橋剤としては、例えば、1,4−ブタンジオール(1,4−BD)、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン(BHEB)、TMP(トリメチロールプロパン)、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、グリセリン、4,4’−メチレンビス(2−クロロアニリン)(MOCA)、ヒドラジン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、N,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)アニリン、水等が挙げられる。
これらは単独で用いても良いし、2種以上併用しても良い。
【0047】
上記熱硬化性ウレタン組成物としては、
(1)ポリエステルポリオールをポリオール成分とし、架橋剤として、1,4−BDとBHEBとを併用した熱硬化性ウレタン組成物、及び
(2)ポリエステルポリオールをポリオール成分とし、架橋剤として、1,4−BDとBHEBとTMPとを併用した熱硬化性ウレタン組成物、が好ましい。
(1)の場合は、上記ゴム層の耐摩耗性を向上させるのに適している。また、架橋剤として、1,4−BD及びBHEBを含む熱硬化性ウレタン組成物は、ポットライフが比較的長く、手注型でも成形することができる。
(2)の場合は、上記ゴム層の耐摩耗性を更に向上させることができる。
【0048】
上記熱硬化性ウレタン組成物は、更にシリコーンオイルを含有しても良い。
シリコーンオイルを配合することにより、上記熱硬化性ウレタン組成物の硬化物の耐摩耗性がより向上する。
また、上記熱硬化性ウレタン組成物にシリコーンオイルを配合した場合、上記硬化物からなるゴム層の耐水性もより向上する。
【0049】
上記シリコーンオイルとしては特に限定されず、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、これらのシリコーンオイルの側鎖及び/又は末端に有機基を導入した変性シリコーンオイル(例えば、シラノール基末端変性シリコーンオイルなど)等が挙げられる。
これらのなかでは、ジメチルシリコーンオイルが好ましい。ジメチルシリコーンオイルは、ポリウレタン分子中に分散しやすく、熱硬化性ウレタン組成物の硬化物を均質にするのに適している。
【0050】
上記シリコーンオイルは、25℃での動粘度が10〜3000mm/sであることが好ましい。上記熱硬化性ウレタン組成物の硬化物の耐摩耗性を更に向上させるとともに、上記硬化物の耐水性を長期間に渡って向上させるのに適しているからである。
【0051】
上記熱硬化性ウレタン組成物がシリコーンオイルを含有する場合、上記シリコーンオイルの含有量は、ポリオール成分、イソシアネート成分及び架橋剤の合計量に対して、0重量%を超え、0.5重量%以下が好ましい。
上記シリコーンオイルの含有量が0.5重量%を超えると、ゴム層の動摩擦係数が低くなり、脱ぷ率が低くなる場合がある。
上記シリコーンオイルの含有量は、耐摩耗性及び耐水性の向上により適している点から0.3重量%以上が好ましい。
【0052】
上記熱硬化性ウレタン組成物は、更に、鎖延長剤、架橋促進剤や架橋遅延剤等の反応助剤、加水分解防止剤、無機繊維や無機フィラー等の補強材、着色剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、防黴剤、難燃剤、充填剤(増量剤)等の各種添加剤などを必要に応じて含有していても良い。
【0053】
上記ゴム層(上記熱硬化性ウレタン組成物の硬化物)は、DIN摩耗減量が、40〜100mmであることが好ましい。
上記DIN摩耗減量が40mm未満では、籾摺り時に砕米の発生率が高くなることがあり、一方、100mmを超えると、耐久性が不充分となる。
上記DIN摩耗減量は、JIS K 6264のDIN摩耗試験に準拠して測定すれば良い。
上記DIN摩耗減量は、40〜85mmがより好ましい。
【0054】
上記籾摺りロールは、上記しん材部と上記ゴム層との密着性をより向上させるべく、両者の間にプライマー層及び/又は接着剤層が形成されていても良い。
上記接着剤層の形成は、例えば、フェノール系接着剤等を用いて行うことができる。
上記プライマー層の形成は、例えば、ウレタン系、ポリエステル系、シラン系、ポリアミド系、フェノール系のプライマーや、シランカップリング剤等を用いて行うことができる。
【0055】
上記籾摺りロールは、断面(使用時の回転軸に垂直な断面)の真円度が0.5mm以下であることが好ましい。上記真円度が0.5mmを超えると、使用時にロール間の間隔のバラツキが大きくなり、脱ぷ率が低下したり、砕米の発生率が増加したりすることがある。
【0056】
次に、本発明の実施形態に係る籾摺りロールの製造方法について説明する。
上記籾摺りロールは、例えば、下記(1)及び(2)の工程を経て製造することができる。
(1)しん材部を作製する。上記しん材部は、従来公知の方法により作製することができ、例えば、アルミダイキャスト等により作製することができる。
その後、必要に応じて、しん材部の外周面に接着剤層及び/又はプライマー層を形成したり、しん材部の外周面を所定の形状に加工したりする。
【0057】
(2)次に、上記しん材部の周囲にゴム層を形成する。ここでは、しん材部を円筒形の金型内に載置し、その後、しん材部の外周面と金型の内壁面との間隙に、上記熱硬化性ウレタン組成物を注入し、所定の条件で硬化させることによりゴム層を形成する。
このような製造方法では、必要に応じて、研削加工によってゴム層の表面を形成しても良い。勿論、金型から脱型したまま、上記研削加工を行わなくても良い。
【0058】
次に、本発明の実施形態に係る籾摺りロールの使用方法について説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る籾摺りロールの使用方法を説明するための模式図である。
上記籾摺りロールは、2個の籾摺りロールを1組にして、従来公知のゴムロール式の籾摺機に取り付けて使用する。
即ち、図2に示すように、一対の籾摺りロール10A、10Bを所定の間隔Lを有するように平行に取り付け、籾摺りロール10A、10Bのそれぞれを互いに逆方向に、かつ、異なる回転速度(籾摺りロール10Aの回転速度Va≠籾摺りロール10Bの回転速度Vb)で回転させる。そして、この状態で籾摺りロール10A、10B同士の間に籾米1を投入すると、籾摺りロール10Aと籾摺りロール10Bとの周速差により籾米1から籾殻が脱ぷされることとなる。
【0059】
上記籾摺りロールの使用時における、籾摺りロール10Aと籾摺りロール10Bとの隙間の距離Lや、籾摺りロール10A及び籾摺りロール10Bのそれぞれの回転速度(周速度)Va、Vbは特に限定されず、籾摺機の仕様、投入する籾米の種類や乾燥率、処理速度、脱ぷ率等の各種条件に応じて適宜設定すれば良い。
【実施例】
【0060】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
ここでは、下記の調製例によって、熱硬化性ウレタン組成物A〜Pを調製し、得られた熱硬化性ウレタン組成物を用いて籾摺りロールを製造した。その後、各籾摺りロールの性能を評価した。
【0061】
<原材料>
熱硬化性ウレタン組成物を調製するための原材料として、以下の原材料を使用した。
(1)ウレタンプレポリマーA
ポリオール成分とイソシアネート成分とを用意し、両者を反応させてウレタンプレポリマーAを得た。
ポリオール成分としては、数平均分子量(Mn)=1000のポリエチレンアジペート系ポリエステルポリオールと、Mn=2000のポリエチレンアジペート系ポリエステルポリオールとを、(Mn=1000):(Mn=2000)=1:2となる重量比で混合して、Mn=1500に調整したポリエチレンアジペート系ポリエステルポリオールを用意した。
イソシアネート成分としては、ピュアMDIとを用意した。
ポリオール成分とイソシアネート成分とは、イソシアネート基含有率(NCO%)が7.0重量%となる量比で混合し、反応させた。
【0062】
(2)ウレタンプレポリマーB
ポリオール成分とイソシアネート成分とを、イソシアネート基含有率(NCO%)が6.3重量%となる量比で混合した以外は、ウレタンプレポリマーAの調製方法と同様の方法を用いて、ウレタンプレポリマーBを調製した。
【0063】
(3)ウレタンプレポリマーC
ポリオール成分とイソシアネート成分とを用意し、両者を反応させてウレタンプレポリマーCを得た。
ポリオール成分としては、Mn=2000のポリエチレンアジペート系ポリエステルポリオールを用意した。イソシアネート成分としては、ピュアMDIを用意した。
ポリオール成分とイソシアネート成分とは、イソシアネート基含有率(NCO%)が7.0重量%となる量比で混合し、反応させた。
【0064】
(4)1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン(BHEB):三井化学ファイン社製
(5)1,4−ブタンジオール(1,4−BD):三井化学社製
(6)TMP(トリメチロールプロパン):三菱ガス化学社製
(7)シリコーンオイル:東レ・ダウコーニング社製、SH200−100CS(ジメチルシリコーンオイル:動粘度100mm/s)
【0065】
1.熱硬化性ウレタン組成物の調製
(調製例1)
(1)ウレタンプレポリマーAを100℃、0.67kPa以下の条件で脱泡した。
次に、脱泡したウレタンプレポリマーA100重量部をアジテーターに投入して撹拌し、撹拌を続けながら、液温を95℃に調整したシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング社製、SH200−100CS)0.1重量部を添加した。
(2)更に撹拌を続けながら、液温を120℃に調整したBHEB11.26重量部を添加し、更に、1,4−BD1.70重量部を添加して60秒間撹拌を続けて、熱硬化性ウレタン組成物A(以下、単にウレタン組成物Aともいう)を調製した。
【0066】
よって、熱硬化性ウレタン組成物Aの組成は、以下の通りである。
<ウレタン組成物A(重量部)>
ウレタンプレポリマーA:100
BHEB :11.26
1,4−BD :1.70
シリコーンオイル :0.10
【0067】
(調製例2)
原材料の種類、配合量を変更し、下記の組成の熱硬化性ウレタン組成物B(以下、単にウレタン組成物Bともいう)を調製例1と同様の手法を用いて調製した。
<ウレタン組成物B(重量部)>
ウレタンプレポリマーB:100
BHEB :10.67
1,4−BD :1.73
TMP :0.35
【0068】
(調製例3)
原材料の種類、配合量を変更し、下記の組成の熱硬化性ウレタン組成物C(以下、単にウレタン組成物Cともいう)を調製例1と同様の手法を用いて調製した。
<ウレタン組成物C(重量部)>
ウレタンプレポリマーB:100
BHEB :10.67
1,4−BD :1.73
TMP :0.35
シリコーンオイル :0.10
【0069】
(調製例4)
原材料の種類、配合量を変更し、下記の組成の熱硬化性ウレタン組成物D(以下、単にウレタン組成物Dともいう)を調製例1と同様の手法を用いて調製した。
<ウレタン組成物D(重量部)>
ウレタンプレポリマーA:100
BHEB :11.26
1,4−BD :1.70
【0070】
(調製例5)
原材料の種類、配合量を変更し、下記の組成の熱硬化性ウレタン組成物E(以下、単にウレタン組成物Eともいう)を調製例1と同様の手法を用いて調製した。
<ウレタン組成物E(重量部)>
ウレタンプレポリマーA:100
BHEB :10.52
1,4−BD :1.70
TMP :0.34
【0071】
(調製例6)
原材料の種類、配合量を変更し、下記の組成の熱硬化性ウレタン組成物F(以下、単にウレタン組成物Fともいう)を調製例1と同様の手法を用いて調製した。
<ウレタン組成物F(重量部)>
ウレタンプレポリマーB:100
BHEB :10.67
1,4−BD :1.73
TMP :0.35
シリコーンオイル :0.50
【0072】
(調製例7)
原材料の種類、配合量を変更し、下記の組成の熱硬化性ウレタン組成物G(以下、単にウレタン組成物Gともいう)を調製例1と同様の手法を用いて調製した。
<ウレタン組成物G(重量部)>
ウレタンプレポリマーA:100
BHEB :10.52
1,4−BD :1.42
TMP :0.28
シリコーンオイル :0.10
【0073】
(調製例8)
原材料の種類、配合量を変更し、下記の組成の熱硬化性ウレタン組成物H(以下、単にウレタン組成物Hともいう)を調製例1と同様の手法を用いて調製した。
<ウレタン組成物H(重量部)>
ウレタンプレポリマーC:100
BHEB :10.61
1,4−BD :1.60
シリコーンオイル :1.00
【0074】
(調製例9)
原材料の種類、配合量を変更し、下記の組成の熱硬化性ウレタン組成物I(以下、単にウレタン組成物Iともいう)を調製例1と同様の手法を用いて調製した。
<ウレタン組成物I(重量部)>
ウレタンプレポリマーC:100
BHEB :10.61
1,4−BD :1.60
【0075】
(調製例10)
原材料の種類、配合量を変更し、下記の組成の熱硬化性ウレタン組成物J(以下、単にウレタン組成物Jともいう)を調製例1と同様の手法を用いて調製した。
<ウレタン組成物J(重量部)>
ウレタンプレポリマーC:100
BHEB :9.80
1,4−BD :1.58
TMP :0.32
シリコーンオイル :0.10
【0076】
(調製例11)
原材料の種類、配合量を変更し、下記の組成の熱硬化性ウレタン組成物K(以下、単にウレタン組成物Kともいう)を調製例1と同様の手法を用いて調製した。
<ウレタン組成物K(重量部)>
ウレタンプレポリマーC:100
BHEB :10.61
1,4−BD :1.60
シリコーンオイル :0.10
【0077】
(調製例12)
原材料の種類、配合量を変更し、下記の組成の熱硬化性ウレタン組成物L(以下、単にウレタン組成物Lともいう)を調製例1と同様の手法を用いて調製した。
<ウレタン組成物L(重量部)>
ウレタンプレポリマーC:100
BHEB :9.80
1,4−BD :1.58
TMP :0.32
【0078】
(調製例13)
原材料の種類、配合量を変更し、下記の組成の熱硬化性ウレタン組成物M(以下、単にウレタン組成物Mともいう)を調製例1と同様の手法を用いて調製した。
<ウレタン組成物M(重量部)>
ウレタンプレポリマーC:100
BHEB :9.11
1,4−BD :1.59
TMP :0.63
シリコーンオイル :1.00
【0079】
(調製例14)
原材料の種類、配合量を変更し、下記の組成の熱硬化性ウレタン組成物N(以下、単にウレタン組成物Nともいう)を調製例1と同様の手法を用いて調製した。
<ウレタン組成物N(重量部)>
ウレタンプレポリマーB:100
BHEB :9.15
1,4−BD :1.73
TMP :1.04
シリコーンオイル :1.00
【0080】
(調製例15)
原材料の種類、配合量を変更し、下記の組成の熱硬化性ウレタン組成物O(以下、単にウレタン組成物Oともいう)を調製例1と同様の手法を用いて調製した。
<ウレタン組成物O(重量部)>
ウレタンプレポリマーB:100
BHEB :11.83
1,4−BD :1.79
【0081】
(調製例16)
原材料の種類、配合量を変更し、下記の組成の熱硬化性ウレタン組成物P(以下、単にウレタン組成物Pともいう)を調製例1と同様の手法を用いて調製した。
<ウレタン組成物P(重量部)>
ウレタンプレポリマーB:100
BHEB :11.04
1,4−BD :1.79
TMP :0.36
【0082】
2.籾摺りロールの作製
(実施例1)
本実施例では、図1(a)〜(c)に示した形状の籾摺りロール10であって、直径Dが153.0mm(図1(b)参照)、幅Wが63.5mm(図1(c)参照)、ゴム層の厚さTが16.5mm(図1(b)参照)の籾摺りロール(型式:小25)を作製した。
まず、アルミダイキャストにより、図1(a)〜(c)に示した形状を有し、JIS B 9124(1997)に準拠した寸法のしん材部を鋳造した。
【0083】
(2)次に、所定の内寸を有する円筒形の金型内に、上記しん材部の外周面と上記金型の内周面との間隔が全周に亘ってほぼ等間隔になるように上記しん材部を設置した。
その後、上記しん材部の外周面と上記金型の内周面との間隙に、ウレタン組成物Aを注入し、下記の条件で硬化させ、外径寸法と幅寸法を切削により調整し、上記しん材部の外周面にゴム層が積層された籾摺りロールを作製した。
(硬化条件)
注入時のウレタン組成物Aの温度を105℃とし、金型温度130℃で60分間硬化させた。
その後、金型から脱型し、110℃、24時間の条件で後硬化を行った。
【0084】
(実施例2〜7)
熱硬化性ウレタン組成物としてウレタン組成物Aに代えてウレタン組成物B〜Gのいずれかを使用し、実施例1と同様にして籾摺りロールを作製した。
各実施例で使用したウレタン組成物は、表1に記載の通りである。
【0085】
(比較例1〜7)
熱硬化性ウレタン組成物としてウレタン組成物Aに代えてウレタン組成物H〜Nのいずれかを使用し、実施例1と同様にして籾摺りロールを作製した。
各比較例で使用したウレタン組成物は、表1に記載の通りである。
【0086】
(実施例8)
本実施例では、図1(a)〜(c)に示した形状の籾摺りロール10であって、直径Dが254.0mm(図1(b)参照)、幅Wが254.0mm(図1(c)参照)、ゴム層の厚さTが25.0mm(図1(b)参照)の籾摺りロール(型式:大100)を作製した。
まず、アルミダイキャストにより、図1(a)〜(c)に示した形状を有し、JIS B 9124(1997)に準拠した寸法のしん材部を鋳造した。
【0087】
(2)次に、所定の内寸を有する円筒形の金型内に、上記しん材部の外周面と上記金型の内周面との間隔が全周に亘ってほぼ等間隔になるように上記しん材部を設置した。
その後、上記しん材部の外周面と上記金型の内周面との間隙に、ウレタン組成物Oを注入し、下記の条件で硬化させ、外径寸法と幅寸法を切削により調整し、上記しん材部の外周面にゴム層が積層された籾摺りロールを作製した。
(硬化条件)
注入時のウレタン組成物Oの温度を105℃とし、金型温度130℃で60分間硬化させた。
その後、金型から脱型し、110℃、24時間の条件で後硬化を行った。
【0088】
(実施例9)
熱硬化性ウレタン組成物としてウレタン組成物Oに代えてウレタン組成物Pを使用し、実施例8と同様にして籾摺りロールを作製した。
【0089】
(比較例8)
熱硬化性ウレタン組成物としてウレタン組成物Oに代えてウレタン組成物Hを使用し、実施例8と同様にして籾摺りロールを作製した。
【0090】
3.籾摺りロールの評価
実施例及び比較例で作製した籾摺りロールについて、下記の評価を行った。結果は、表1又は表2に示した。
【0091】
3−1.JIS A硬さ(室温及び90℃)
籾摺りロール自体を測定サンプル(試験片)とした以外は、JIS K 7312の硬さ試験に準拠して、室温でのゴム層の硬さを測定した。
ここでは、籾摺りロールのゴム層の端面Eにおける厚さ方向さ中央部付近の室温での硬さを、タイプA硬さ試験機(テクロック社製、GS−719N)を用いて計測した。この試験では、試験機の加圧面が密着した直後の値を計測した。計測は、上記端面Eにおける計測部位を変えながら、同一サンプルについて5回行い、5回の計測値の中央値を計測結果とした。
【0092】
更に、籾摺りロール自体を測定サンプル(試験片)とし、試験温度として90℃を選択した以外は、JIS K 7312の高温・低温における硬さ試験に準拠して、90℃でのゴム層の硬さを測定した。
ここでは、籾摺りロールのゴム層の端面Eにおける厚さ方向さ中央部付近の90℃での硬さを、タイプA硬さ試験機(テクロック社製、GS−719N)を用いて計測した。この試験では、試験機の加圧面が密着した直後の値を計測した。計測は、上記端面Eにおける計測部位を変えながら、同一サンプルについて5回行い、5回の計測値の中央値を計測結果とした。
【0093】
3−2.動摩擦係数
摩擦摩耗試験機として、トライボギアシリーズ TYPE:14(新東科学社製)を用いて、下記の手法で測定した。
図3は、摩擦摩耗試験機による動摩擦係数の測定方法を説明するための要部拡大図である。図3には、アタッチメントを介して取り付けた試験片を示す。
籾摺りロールのゴム層からサイズ:5mm×5mm×2mm厚の試験片110を切り出した。図3に示すように、この試験片110を摩擦摩耗試験機100に取り付けた棒状のアタッチメント101に接着剤を用いて固定し、試験片110の5mm×5mm面をアルミニウム製の金属板102の表面に接触させた。更に、垂直荷重用の分銅103を試験片110の上方に置き、この状態で金属板102を矢印の方向(図中、右側)に移動させることによって、試験片110と金属板102とを摺擦させた。このときの水平荷重をロードセル(図示せず)で計測し、計測結果に基づいて動摩擦係数=(垂直荷重)/(水平荷重)を算出した。
ここで、垂直荷重は200g、摺擦速度は20mm/秒とした。
また、試験片の個数は5(n=5)とし、5個の算出値のうちの中央値3つを選び、その平均値を動摩擦係数の計測結果とした。
【0094】
3−3.tanδ(貯蔵弾性率に対する損失弾性率の比)
試験機として、ユービーエム社製、縦振動型動的粘弾性測定装置(Rheogel−E4000)を用いて計測した。
試験片は、籾摺りロールのゴム層からサイズ:40mm×3mm×2mm厚で切り出した。
この試験片を測定装置に取付け、下記の条件で計測した。
チャック間:20mm
正弦波:10Hz
昇温速度:2℃/分
とし、−40℃〜100℃まで加振し、1分毎に荷重を計測、動的弾性率および損失弾性率に基づきtanδ(損失正接)を算出し、60℃直近の損失正接(60℃tanδ)及び90℃直近の損失正接(90℃tanδ)の値を取得した。
更に、tanδ(90℃/60℃)を算出した。
【0095】
4.性能評価
4−1.日本国内(国際農林水産業研究センター:JIRCAS)での評価
実施例1〜7及び比較例1〜7の籾摺りロールを籾摺機(藤原製作所社製、大屋式坪刈試験用籾摺機 25M型)に取り付け、下記の手順で籾摺りを行った。
本評価では、熱帯地方での籾摺り条件に近い条件を再現するために、予め籾摺りロールの温度を昇温して籾摺りを行った。
また、評価米としては、長粒米 IR64を用いた。評価結果は、表1に示した。
【0096】
(1)一対(2個)の籾摺りロールを炉内温度120℃のオーブンで少なくとも40分間保持し、籾摺機に取付けた後、籾摺りロールの表面温度が70〜100℃であることを確認した。このとき、籾摺りロール間の隙間寸法は、0.6mmに設定した。
(2)籾約200gを籾摺機に供給して籾摺り行い、籾摺り品約20gをサンプリングし、籾摺り状態を評価した。
具体的には、まず、サンプリングした籾摺り品の全体重量を計測した。その後、籾摺り品を、籾、米形状維持の玄米及び砕米に分類し、それぞれの重量を計測した。得られた計測値に基づいて、脱ぷ率及び砕米率を算出した。結果を表1に示した。
脱ぷ率及び砕米率の算出方法は以下の通りである。
【0097】
脱ぷ率(%)=[米形状維持の玄米の重量]/[籾摺り前の籾の重量]
砕米率(%)=[砕米の重量]/[籾摺り前の籾の重量]
【0098】
【表1】
【0099】
4−2.タイでの評価
実施例8、9及び比較例8の籾摺りロールの評価をタイで実施した。評価結果は表2に示した。ここでは、脱ぷ率(%)及び砕米率(%)を評価し、更に、実施例8、9の籾摺りロールについては、寿命も算出した。
【0100】
実施例8、9及び比較例1の籾摺りロールは、タイ、スパンブリ県のMingmonkhonjarean Tanya精米工場で評価した。具体的な手順等は以下の通りである。
Mingmonkhonjarean Tanya精米工場が保有するサタケ社製籾摺機に籾摺りロールを取付けて籾摺りを行った。籾摺りロール通過後の処理籾などをサンプリングし、脱ぷ率(%)及び砕米率(%)を評価した。
脱ぷ率(%)及び砕米率(%)の算出は、日本国内(国際農林水産業研究センター)での評価と同様の手法で行った。
また、評価米としては、品種:Pathumthani 1を用いた。評価結果は、表2に示した。
【0101】
寿命(hr)の算出は、下記の計算式によって行った。
ここで、寿命の算出は、籾摺りに使用した一対の籾摺りロールのうち、主ロール(高速回転側のロール)に対して行った。
なお、寿命(hr)の算出に使用した籾摺りロールは、ゴム層の初期厚さが25mmで、ゴム層の残り厚さが5mmになると交換するように設計したものである。
【0102】
寿命(hr)=稼働時間(hr)×20mm/稼働による摩耗厚さ(mm)
式中、20mmは、籾摺りロールを初期状態から完全に使い切った状態(ゴム層の残り厚さ5mmの状態)になるまでに摩耗するゴム層の厚さである。また、稼働による摩耗厚さは、初期厚さ(25mm)と評価時のゴム層の残り厚さ(mm)との差である。
【0103】
【表2】
【0104】
表1、2に示したように、本発明の実施形態に係る籾摺りロールによれば、長粒米を高い脱ぷ率で脱ぷすることができ、かつ、耐摩耗性に優れることが明らかとなった。
また、実施例1〜7の籾摺りロールで短粒米の籾摺りを実施した場合、脱ぷ率が85〜92%程度、砕米率が0.1%以下と、極めて良好な籾摺りを行えることが確認されている。
【符号の説明】
【0105】
10、10A、10B 籾摺りロール
11 しん材部
11a 取付用フランジ
12 ゴム層
100 摩擦摩耗試験機
101 アタッチメント
102 金属板
103 分銅
110 試験片
【要約】
【課題】 短粒米も長粒米も良好に脱ぷすることができる籾摺りロールを提供する。
【解決手段】 しん材部と、前記しん材部の外周面に積層されたゴム層とを備えた籾摺りロールであって、
前記ゴム層は、ポリオール成分、イソシアネート成分及び架橋剤を含有する熱硬化性ウレタン組成物の硬化物からなり、
前記硬化物は、90℃におけるtanδ(貯蔵弾性率に対する損失弾性率の比)が0.028以上であり、かつ90℃におけるJIS A硬さが85以上である、籾摺りロール。
【選択図】 図1
図1
図2
図3