特許第6664248号(P6664248)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6664248
(24)【登録日】2020年2月20日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】ハニカム構造体
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/04 20060101AFI20200302BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20200302BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20200302BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20200302BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20200302BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20200302BHJP
【FI】
   B01J35/04 301K
   B01J35/04 301C
   B01J35/10 301F
   B01J35/04 301E
   B01D53/94 222
   B01D53/94 400
   C04B38/00 303Z
   C04B38/00 304Z
   F01N3/08 BZAB
   F01N3/28 301P
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-61745(P2016-61745)
(22)【出願日】2016年3月25日
(65)【公開番号】特開2017-170396(P2017-170396A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2018年10月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】山本 博隆
(72)【発明者】
【氏名】栗本 雄大
【審査官】 中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/090263(WO,A1)
【文献】 特開2010−227767(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/027837(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/102487(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/163036(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/046242(WO,A1)
【文献】 特開2013−212500(JP,A)
【文献】 特開2013−052367(JP,A)
【文献】 特開2016−187793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00− 20/34
B01J 21/00− 38/74
B01D 39/00− 41/04
B01D 46/00− 46/54
B01D 53/86− 53/96
C04B 38/00− 38/10
F01N 3/00− 3/38
F01N 9/00− 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入端面から流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有するハニカム構造部を備え、
前記隔壁の気孔率が、45〜65%であり、
前記隔壁の厚さが、114〜140μmであり、
前記隔壁の表面に開口した細孔のうち、円相当径が10μm以上の細孔の開口面積率が、20〜50%であり、
前記隔壁の表面に開口した細孔のうち、円相当径が10μm以上の細孔の細孔密度が、200〜1000個/mmであり、
前記隔壁の表面に開口した細孔のうち、円相当径が10μm以上の細孔における、当該円相当径のメジアン値であるメジアン開口径が、40〜60μmであり、
前記隔壁の表面に開口した細孔のうち、円相当径が10μm以上の細孔の円形度が、1.8〜4.0であり、
一辺の長さが300μm、480μm、480μmの体積69120000μmの直方体の前記隔壁の濡れ面積が16500μm以上である、ハニカム構造体。
【請求項2】
前記隔壁の濡れ面積が16500μm以上、21500μm以下である、請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記ハニカム構造部のセル密度が、31〜140個/cmである、請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記隔壁の材質が、コージェライト、炭化珪素、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、及びムライトから構成される群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
前記ハニカム構造部に形成された前記セルのいずれか一方の端部を封止するように配置された目封止部を、更に備えた、請求項1〜のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項6】
前記ハニカム構造部の前記隔壁の表面及び前記隔壁の細孔のうちの少なくとも一方に、排ガス浄化用の触媒が担持されている、請求項1〜のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項7】
自動車から排出される排ガスに含まれるNOxの浄化に用いられる、請求項に記載のハニカム構造体。
【請求項8】
前記触媒が、選択的触媒還元機能を有する触媒である、請求項又はに記載のハニカム構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体に関する。更に詳しくは、排ガスの拡散性に優れ、所定量の触媒を担持した場合に、従来に比して浄化性能を向上させることができるとともに、使用時における圧力損失の増大を抑制することが可能な、ハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、社会全体で環境問題に対する意識が高まっており、燃料を燃焼して動力を生成する技術分野では、燃料の燃焼時に発生する排ガスから、窒素酸化物等の有害成分を除去する様々な技術が開発されている。例えば、自動車のエンジンから排出される排ガスから、窒素酸化物等の有害成分を除去する様々な技術が開発されている。こうした排ガス中の有害成分の除去の際には、触媒を用いて有害成分に化学反応を起こさせて比較的無害な別の成分に変化させるのが一般的である。そして、排ガス浄化用の触媒を担持するための触媒担体として、ハニカム構造体が用いられている。
【0003】
従来、このようなハニカム構造体として、流入端面から流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有するハニカム構造部を備えたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、隔壁の気孔率及び平均細孔径の値を、特定の範囲としてハニカム構造体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−63422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、排ガスの規制強化に伴い、排ガス浄化用の部材として用いられるハニカム構造体に担持する触媒の量が増大する傾向にある。即ち、より厳しい排ガス規制値を満足するためには、ハニカム構造体に担持する触媒の量を増大し、ハニカム構造体の浄化性能を高める試みがなされている。例えば、NOxに対する浄化性能を高めるためには、NOxの浄化性能に優れた選択的触媒還元機能を有する触媒、例えば、SCR触媒の量を増加させる方法が考えられる。また、セル密度を大きくすることにより、排ガスと触媒の接触を上げる方法も考えられる。更に、隔壁の気孔を高くすることで、ハニカム構造体に担持する触媒の量を多くすることも考えられる。
【0006】
しかしながら、従来公知のハニカム構造体では、厳しい排ガス規制値を達成可能な量の触媒を担持すると、隔壁によって区画形成される流路(別言すれば、セル)が狭くなってしまうため、ハニカム構造体の圧力損失が増加するという問題がある。例えば、特許文献1に記載のセラミックハニカム構造体は、近年のより厳しい排ガス規制値を満足するような量の触媒を担持してしまうと、圧力損失の増大が顕著となり、実用面の問題が生じていた。特に、今後更にNOxに対する浄化性能を高めるためには、ハニカム構造体に担持する単位体積当たりの担持量を、例えば、400g/L以上とすることが求められている。しかしながら、従来のハニカム構造体に対して、多くの量の触媒を担持すると、圧力損失の増大や、隔壁によって区画形成されたセルの流路が触媒によって塞がれてしまうという問題がある。以下、セルの流路が触媒によって塞がれてしまうことを、「触媒量詰まり」ということがある。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。本発明は、排ガスの拡散性に優れ、所定量の触媒を担持した場合に、従来に比して浄化性能を向上させることができるとともに、使用時における圧力損失の増大を抑制することが可能な、ハニカム構造体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下に示すハニカム構造体が提供される。
【0009】
[1] 流入端面から流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有するハニカム構造部を備え、前記隔壁の気孔率が、45〜65%であり、前記隔壁の厚さが、114〜140μmであり、前記隔壁の表面に開口した細孔のうち、円相当径が10μm以上の細孔の開口面積率が、20〜50%であり、前記隔壁の表面に開口した細孔のうち、円相当径が10μm以上の細孔の細孔密度が、200〜1000個/mmであり、前記隔壁の表面に開口した細孔のうち、円相当径が10μm以上の細孔における、当該円相当径のメジアン値であるメジアン開口径が、40〜60μmであり、前記隔壁の表面に開口した細孔のうち、円相当径が10μm以上の細孔の円形度が、1.8〜4.0であり、一辺の長さが300μm、480μm、480μmの体積69120000μmの直方体の前記隔壁の濡れ面積が16500μm以上である、ハニカム構造体。
【0010】
[2] 前記隔壁の濡れ面積が16500μm以上、21500μm以下である、前記[1]に記載のハニカム構造体。
【0012】
] 前記ハニカム構造部のセル密度が、31〜140個/cmである、前記[1]又は前記[2]に記載のハニカム構造体。
【0013】
] 前記隔壁の材質が、コージェライト、炭化珪素、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、及びムライトから構成される群より選択される少なくとも一種を含む、前記[1]〜[]のいずれかに記載のハニカム構造体。
【0014】
] 前記ハニカム構造部に形成された前記セルのいずれか一方の端部を封止するように配置された目封止部を、更に備えた、前記[1]〜[]のいずれかに記載のハニカム構造体。
【0015】
] 前記ハニカム構造部の前記隔壁の表面及び前記隔壁の細孔のうちの少なくとも一方に、排ガス浄化用の触媒が担持されている、前記[1]〜[]のいずれかに記載のハニカム構造体。
【0016】
] 自動車から排出される排ガスに含まれるNOxの浄化に用いられる、前記[]に記載のハニカム構造体。
【0017】
] 前記触媒が、選択的触媒還元機能を有する触媒である、前記[]又は[]に記載のハニカム構造体。
【発明の効果】
【0018】
本発明のハニカム構造体は、排ガスの拡散性に優れ、所定量の触媒を担持した場合に、従来に比して浄化性能を向上させることができるとともに、使用時における圧力損失の増大を抑制することができる。また、本発明のハニカム構造体は、アイソスタティック強度(Isostatic strength)にも優れている。即ち、本発明のハニカム構造体は、隔壁の表面の細孔径等を規定することで、触媒の充填性を良好に確保し、使用時における圧力損失の増大を抑制することができる。更に、本発明のハニカム構造体は、隔壁の濡れ面積を16500μm以上とすることで、排ガスの隔壁への接触面積が増大し、排ガスの拡散性に優れている。このため、従来の排ガス浄化用部材として利用されているハニカム構造体と同じ量の触媒を担持した場合であっても、より高い浄化性能を発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明のハニカム構造体の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2図1に示すハニカム構造体の流入端面を模式的に示す平面図である。
図3図2のX−X’断面を模式的に示す、断面図である。
図4】実施例1のハニカム構造体のハニカム構造部から切り出した試料片のSEM画像である。
図5】比較例1のハニカム構造体のハニカム構造部から切り出した試料片のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。しかし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し適宜変更、改良等が加えられ得ることが理解されるべきである。
【0021】
(1)ハニカム構造体:
図1図3に示すように、本発明のハニカム構造体の一の実施形態は、多孔質の隔壁1を有するハニカム構造部4を備えたハニカム構造体100である。多孔質の隔壁1は、流入端面11から流出端面12まで延びる流体の流路となる複数のセル2を区画形成するものである。
【0022】
図1図3に示すハニカム構造部4は、セル2を区画形成する隔壁1を囲繞するように配設された外周壁3を有している。ここで、図1は、本発明のハニカム構造体の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。図2は、図1に示すハニカム構造体の流入端面を模式的に示す平面図である。図3は、図2のX−X’断面を模式的に示す、断面図である。
【0023】
ハニカム構造体100は、以下のように構成されたハニカム構造部4を備えることを特徴とするものである。まず、ハニカム構造部4は、隔壁1の気孔率が、45〜65%である。また、隔壁1の表面に開口した細孔のうち、円相当径が10μm以上の細孔の開口面積率が、20〜50%である。また、隔壁1の表面に開口した細孔のうち、円相当径が10μm以上の細孔の細孔密度が、200〜1000個/mmである。また、隔壁1の表面に開口した細孔のうち、円相当径が10μm以上の細孔における、当該円相当径のメジアン値であるメジアン開口径が、40〜60μmである。また、隔壁1の表面に開口した細孔のうち、円相当径が10μm以上の細孔の円形度が、1.8〜4.0である。更に、隔壁の濡れ面積が、16500μm以上である。
【0024】
本実施形態のハニカム構造体は、排ガスの拡散性に優れ、所定量の触媒を担持した場合に、従来に比して浄化性能を向上させることができるとともに、使用時における圧力損失の増大を抑制することができる。また、本実施形態のハニカム構造体は、アイソスタティック強度にも優れている。即ち、本実施形態のハニカム構造体は、隔壁の表面の細孔径等を規定することで、触媒の充填性を良好に確保し、使用時における圧力損失の増大を抑制することができる。更に、本実施形態のハニカム構造体は、隔壁の濡れ面積を16500μm以上とすることで、排ガスの隔壁への接触面積が増大し、排ガスの拡散性に優れている。このため、従来の排ガス浄化用部材として利用されているハニカム構造体と同じ量の触媒を担持した場合であっても、より高い浄化性能を発現させることができる。
【0025】
本実施形態のハニカム構造体において、隔壁の気孔率は、水銀ポロシメータ(Mercury porosimeter)によって計測された値とする。水銀ポロシメータとしては、例えば、Micromeritics社製のAutopore 9500(商品名)を挙げることができる。隔壁の気孔率は、以下のようにして行うことができる。まず、ハニカム構造体から、一辺の長さが、縦10mm、横10mm、高さ10mmの試験片を切り出す。その後、水銀圧入法で試験片の細孔容積を計測し、計測した細孔容積から、隔壁の気孔率を算出する。隔壁の気孔率が、45%以下であると、仮に、本実施形態のハニカム構造体のその他の構成要件が全て満たされていたとしても、ハニカム構造体に触媒を担持した際に、圧力損失が著しく増大する。一方、隔壁の気孔率が65%を超えると、仮に、その他の構成要件が全て満たされていたとしても、ハニカム構造体のアイソスタティック強度が低下してしまう。隔壁の気孔率は、45〜65%であるが、50〜65%であることが好ましく、55〜65%であることが特に好ましい。
【0026】
本明細書において、「円相当径」とは、細孔の開口面積と同等の面積を有する円の直径のことである。例えば、開口部が円形でない細孔を例として説明すると、まず、その細孔の隔壁表面の開口部の面積を求め、その面積を円周率で除算した値の平方根の2倍が、当該細孔の円相当径となる。
【0027】
細孔の円相当径は、以下のようにして行うことができる。まず、ハニカム構造部から、縦20mm、横20mm、高さ20mmの測定用の試料片を切り出す。その試料片の隔壁の表面について、隔壁の処理を実施せずに走査型電子顕微鏡(SEM)によってSEM画像を任意に、3視野、撮影する。撮影視野の1視野の大きさは、隔壁間の幅×セルの延びる方向2mmとする。なお、撮影時の倍率については特に制限はないが、60倍であることが好ましい。次に、撮影された各画像について画像解析によって二値化を行い、空洞部分(即ち、細孔部分)と空洞以外の部分(即ち、隔壁の実体部分)とに分ける。次に、各空洞部分について、その面積を求める。求められた面積から、各空洞部分の円相当径を算出する。走査型電子顕微鏡としては、日立ハイテクノロジーズ製のS−3400N(商品名)を用いることができる。また、撮影された画像の画像解析は、例えば、メディアサイバネティックス製のイメージプロプラス(商品名)の画像処理ソフトを用いることができる。
【0028】
本実施形態のハニカム構造体においては、上記した方法により、隔壁の表面に開口した細孔を、円相当径が10μm以上の細孔と、円相当径が10μm未満の細孔とに分類している。そして、本実施形態のハニカム構造体は、円相当径が10μm以上の細孔について、開口面積率、細孔密度、メジアン開口径、及び円形度が、特定の値となるように制御されている。
【0029】
本実施形態のハニカム構造体は、円相当径が10μm以上の細孔の開口面積率が、20〜50%である。この開口面積率が20%未満であると、仮に、その他の構成要件が全て満たされていたとしても、ハニカム構造体に触媒を担持した際に、圧力損失が著しく増大する。一方、この開口面積率が50%を超えると、仮に、その他の構成要件が全て満たされていたとしても、ハニカム構造体のアイソスタティック強度が低下してしまう。円相当径が10μm以上の細孔の開口面積率は、20〜50%であるが、25〜50%であることが好ましく、30〜45%であることが特に好ましい。
【0030】
円相当径が10μm以上の細孔の開口面積率は、細孔の円相当径を求める際の画像解析結果を用いて求めることができる。例えば、細孔の円相当径を求める際の3箇所の画像のそれぞれについて、「円相当径が10μm以上の細孔」に該当する空洞部分の面積を求める。求められた空洞部分の面積を、その画像全体の面積で除算した値の百分率が、「円相当径が10μm以上の細孔の開口面積率」となる。なお、円相当径が10μm以上の細孔の開口面積率は、それぞれのSEM画像の開口面積率の、算術平均値とする。
【0031】
本実施形態のハニカム構造体は、円相当径が10μm以上の細孔の細孔密度が、200〜1000個/mmである。「円相当径が10μm以上の細孔の細孔密度」とは、隔壁の表面1mm当たりに開口している、円相当径が10μm以上の細孔の個数のことである。この細孔密度が200個/mm未満であると、仮に、その他の構成要件が全て満たされていたとしても、ハニカム構造体に触媒を担持した際に、圧力損失が著しく増大する。一方、この細孔密度が1000個/mmを超えると、仮に、その他の構成要件が全て満たされていたとしても、ハニカム構造体のアイソスタティック強度が低下してしまう。円相当径が10μm以上の細孔の細孔密度は、200〜1000個/mmであるが、250〜700個/mmであることが好ましく、300〜600個/mmであることが特に好ましい。
【0032】
円相当径が10μm以上の細孔の細孔密度は、細孔の円相当径を求める際の画像解析結果を用いて求めることができる。例えば、細孔の円相当径を求める際の3箇所の画像のそれぞれについて、「円相当径が10μm以上の細孔」に該当する空洞部分の個数を求める。求められた空洞部分の個数を、その画像全体の面積(mm)で除算した値が、「円相当径が10μm以上の細孔の細孔密度」となる。なお、円相当径が10μm以上の細孔の細孔密度は、それぞれのSEM画像の細孔密度の、算術平均値とする。
【0033】
本実施形態のハニカム構造体は、円相当径が10μm以上の細孔における、当該円相当径のメジアン値であるメジアン開口径が、40〜60μmである。以下、「円相当径が10μm以上の細孔における、当該円相当径のメジアン値であるメジアン開口径」を、単に、「円相当径が10μm以上の細孔のメジアン開口径」という。「円相当径が10μm以上の細孔のメジアン開口径」は、以下のようにして求めることができる。まず、隔壁の表面に開口する細孔の円相当径を、これまでに説明した方法によって求める。そして、求められた円相当径に基づき、縦軸を、隔壁の表面に開口した細孔の累積面積(%)とし、横軸を、円相当径(μm)とした、グラフを作成する。そして、作成したグラフにおいて、全細孔面積の50%に相当する累積面積(%)における、円相当径(μm)の値が、「円相当径が10μm以上の細孔のメジアン開口径」となる。なお、全細孔面積の50%に相当する累積面積とは、上記グラフの縦軸の累積面積の値が、50%となる値のことである。
【0034】
円相当径が10μm以上の細孔のメジアン開口径が、40μm未満であると、仮に、その他の構成要件が全て満たされていたとしても、隔壁の内部にまで、細孔を通じて触媒が侵入し難くなる。このため、一定量の触媒をハニカム構造体に担持させた場合に、隔壁の表面に触媒が多く担持されてしまい、ハニカム構造体の圧力損失が著しく増大する。一方、メジアン開口径が、60μmを超えると、仮に、その他の構成要件が全て満たされていたとしても、ハニカム構造体のアイソスタティック強度が低下したり、隔壁の濡れ面積が低下したりしてしまう。円相当径が10μm以上の細孔のメジアン開口径は、40〜60μmであるが、45〜55μmであることが好ましく、50〜55μmであることが特に好ましい。
【0035】
また、本実施形態のハニカム構造体は、隔壁の表面に開口した細孔のうち、円相当径が10μm以上の細孔の円形度が、1.8〜4.0である。ここで、円相当径が10μm以上の細孔の円形度とは、以下のようにして算出された値のことをいう。まず、円形度を求める細孔Pの開口面積をAとし、その細孔の外形の長さをLとする。そして、上述した外形の長さをLと同様の円周長さを有する円の面積を、Aとする。細孔Pの円形度は、A/Aによって求めることができる。円相当径が10μm以上の細孔の円形度は、細孔の円相当径を求める際の画像解析結果を用いて求めることができる。例えば、細孔の円相当径を求める際の3箇所の画像のそれぞれについて、「円相当径が10μm以上の細孔」に該当する空洞部分の円形度を、上記した方法によって求める。求められた値が、各細孔の円形度となる。なお、円相当径が10μm以上の細孔の円形度は、SEM画像中の「円相当径が10μm以上の細孔」のそれぞれの円形度の算術平均値とする。
【0036】
円相当径が10μm以上の細孔の円形度が、1.8未満であると、仮に、その他の構成要件が全て満たされていたとしても、排ガスと触媒の接触面積が低下する点で好ましくない。円相当径が10μm以上の細孔の円形度が、4.0を超えると、仮に、その他の構成要件が全て満たされていたとしても、ハニカム構造体の圧力損失が増大してしまうことがあるという点で好ましくない。円相当径が10μm以上の細孔の円形度は、1.8〜3.0であることが更に好ましく、1.8〜2.5であることが特に好ましい。
【0037】
また、本実施形態のハニカム構造体は、隔壁の濡れ面積が、16500μm以上である。隔壁の濡れ面積が、16500μm未満であると、排ガスと隔壁との接触面積が低下し、排ガスの拡散性が低くなる。このため、ハニカム構造体の隔壁に触媒を担持して使用した際に、触媒と排ガスとの接触頻度が減少し、十分な浄化性能を発現させることが困難となる。ここで、「隔壁の濡れ面積」とは、隔壁に形成されている細孔の表面積のことをいう。「隔壁の濡れ面積」は、隔壁に対してCTスキャンを行うことによって得た3次元のボクセルデータ(Voxel data)を用いて算出する。なお、「ボクセル」とは、体積の要素であり、3次元空間での正規格子単位の値を表すものである。まず、隔壁の厚さ方向をX方向とし、セルの軸方向をY方向として、XY平面を撮影断面とする。次に、撮影断面をXY方向に垂直なZ方向にずらして複数撮影するように隔壁のCTスキャンを行って複数の画像データを取得し、この画像データに基づいてボクセルデータを得る。X、Y、Zの各方向の解像度はそれぞれ1.2μmとし、これにより得られる1辺が1.2μmの立方体が3次元のボクセルデータの最小単位すなわちボクセルとなる。なお、CTスキャンで得られる撮影断面の画像データはZ方向の厚みのない平面のデータであるが、各撮影断面は撮影断面のZ方向の間隔分の厚みがあるものとして扱う。ボクセルデータの大きさはX方向が300μm、Y方向が480μm、Z方向が480μmの直方体とする。各ボクセルはX、Y、Z座標により位置が表されるとともに、空間(例えば、隔壁の気孔)を表す空間ボクセルであるか、或いは物体を表す物体ボクセルであるか、が区別されている。空間ボクセルと物体ボクセルとの区別は、モード法を用いた2値化処理によって以下のように行う。CTスキャンによって実際に得られる複数の画像データは、X、Y、Z座標毎の輝度データである。この輝度データに基づき、全ての座標(別言すれば、複数の画像データの全画素)について輝度のヒストグラムを作成する。そして、ヒストグラムに現れる2つの山の間(谷)の部分の輝度値を閾値に設定し、各座標について輝度が閾値より大きいか小さいかで各座標の輝度を2値化する。これにより、各座標のボクセルが空間ボクセルであるか、或いは物体ボクセルであるか、を区別する。なお、このようなCTスキャンは、例えば、島津製作所製のSMX−160CT−SV3を用いて行うことができる。
【0038】
次に、このボクセルデータを用いて、隔壁の体積V、及び当該隔壁の濡れ面積Sを算出する。体積Vは、ボクセルデータの全ボクセルの体積とする。すなわち、体積V=69120000μm(=300μm×480μm×480μm)とする。濡れ面積Sはボクセルデータにおける空間ボクセルと物体ボクセルとの境界面の面積の合計として算出する。より具体的には、濡れ面積S=(ボクセルデータ中の境界面の数)×(1つの境界面の面積)として導出する。1つの境界面の面積は1.44μm(=1.2μm×1.2μm)である。そして、算出した体積Vと濡れ面積Sとにより濡れ面積割合R(=S/V)(μm−1)を算出する。なお体積Vが一定値であるため、「濡れ面積割合Rが0.000239μm−1以上」は、「濡れ面積Sが16500μm以上であると言いかえることができる。
【0039】
なお、隔壁の厚さが300μmに満たない場合には、同じ体積Vのボクセルデータを用いて算出する。例えば、隔壁の厚さが150μmである場合には、Y方向を2倍の960μmとしたボクセルデータを用いて濡れ面積割合Rを算出する。
【0040】
隔壁の濡れ面積は、16500μm以上であるが、16500μm以上、21500μm以下であることが好ましく、17000μm以上、21500μm以下であることがより好ましく、17500μm以上、21500μm以下であることが特に好ましい。なお、隔壁の濡れ面積が21500μmを超える場合、細孔径を小さく調整する必要があり、隔壁内への触媒充填が困難となることがある。よって濡れ面積は19500μm以下であることがより好ましい。
【0041】
隔壁の濡れ面積を16500μm以上とするための方法としては、例えば、ハニカム構造体をセラミック等により作製する場合には、その原料に、所定量のシリカゲルを加える方法を挙げることができる。即ち、シリカゲルを含むセラミック原料を用いてハニカム構造体を作製することにより、隔壁の濡れ面積を増大させることができる。そして、セラミック原料に加えるシリカゲルの量と、造孔材の粒径と添加量を調整することにより、隔壁の濡れ面積と、隔壁表面の開口率、細孔密度、メジアン開口径を調節することができる。
【0042】
本実施形態のハニカム構造体において、隔壁の厚さが、114〜140μmである。隔壁の厚さが、89μm未満であると、ハニカム構造部のアイソスタティック強度が低下してしまうことがある。また、隔壁の細孔内に担持することができる触媒の量が少なくなり、一定量を超える触媒を担持した際に、ハニカム構造体の圧力損失が増大してしまうことがある。一方で、隔壁の厚さが、203μmを超えると、隔壁の厚さが厚すぎて、使用時における圧力損失が増大することがある。
【0043】
本実施形態のハニカム構造体において、セル密度が、31〜140個/cmであることが好ましく、47〜93個/cmであることが更に好ましく、47〜62個/cmであることが特に好ましい。セル密度が、31個/cm未満であると、ハニカム構造体を触媒担体として用いた際に、浄化性能が低下することがある。一方で、セル密度が、140個/cmを超えると、使用時における圧力損失が増大することがある。
【0044】
ハニカム構造部の材質については特に制限はない。ハニカム構造部の隔壁の材質としては、例えば、セラミックを挙げることができる。特に、本実施形態のハニカム構造体においては、隔壁の材質が、コージェライト、炭化珪素、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、及びムライトから構成される群より選択される少なくとも一種を含むものであることが好ましい。更に、コージェライト、チタン酸アルミニウム、炭化珪素のうちの少なくとも一種を含むものであることがより好ましい。なお、隔壁の構成成分中に、コージェライトを85質量%以上含むことが特に好ましい。
【0045】
ハニカム構造部に形成されているセルの形状については特に制限はない。例えば、セルの延びる方向に直交する断面における、セルの形状としては、多角形、円形、楕円形等を挙げることができる。多角形としては、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等を挙げることができる。また、セルの形状については、全てのセルの形状が同一形状であってもよいし、異なる形状であってもよい。例えば、四角形のセルと、八角形のセルと混在したものであってもよい。また、セルの大きさについては、全てのセルの大きさが同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、複数のセルのうち、一部のセルの大きさを大きくし、他のセルの大きさを相対的に小さくしてもよい。
【0046】
ハニカム構造部の形状については特に制限はない。ハニカム構造部の形状としては、流入端面及び流出端面の形状が、円形、楕円形、多角形等の柱状を挙げることができる。例えば、流入端面及び流出端面の形状が円形の場合には、ハニカム構造部の形状は、円柱形状となる。多角形としては、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等を挙げることができる。
【0047】
ハニカム構造部の大きさ、例えば、流入端面から流出端面までの長さや、ハニカム構造部のセルの延びる方向に直交する断面の大きさについては、特に制限はない。本実施形態のハニカム構造体を、排ガス浄化用の部材として用いた際に、最適な浄化性能を得るように、各大きさを適宜選択すればよい。例えば、ハニカム構造部の流入端面から流出端面までの長さは、76〜254mmであることが好ましく、102〜203mmであることが特に好ましい。また、ハニカム構造部のセルの延びる方向に直交する断面の面積は、2027〜99315mmであることが好ましく、16233〜85634mmであることが特に好ましい。
【0048】
本実施形態のハニカム構造体においては、ハニカム構造部の隔壁の表面及び隔壁の細孔のうちの少なくとも一方に、排ガス浄化用の触媒が担持されていてもよい。このように構成することによって、排ガス中のCOやNOxやHCなどを触媒反応によって無害な物質にすることができる。触媒としては、貴金属、アルミニウム、ニッケル、ジルコニウム、チタン、セリウム、コバルト、マンガン、亜鉛、銅、スズ、鉄、ニオブ、マグネシウム、ランタン、サマリウム、ビスマス、及びバリウムから構成される群より選択された少なくとも一種の元素を含有する触媒を好適例として挙げることができる。貴金属としては、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、インジウム、銀、及び金を挙げることができる。上記元素は、金属単体、金属酸化物、及びそれ以外の金属化合物として含有されていてもよい。本実施形態のハニカム構造体においては、上記触媒が、選択的触媒還元機能を有する触媒であることがより好ましい。例えば、選択的触媒還元機能を有する触媒としては、金属置換されたゼオライトを挙げることができる。ゼオライトを金属置換する金属としては、鉄、銅等を挙げることができる。ゼオライトとしては、ベータゼオライトを好適例として挙げることができる。また、選択的触媒還元機能を有する触媒が、バナジウム、及びチタニアから構成される群より選択される少なくとも1種を主たる成分として含有する触媒であってもよい。選択的触媒還元機能を有する触媒中のバナジウム、及びチタニアの含有量は、60質量%以上であることが好ましい。
【0049】
触媒の担持量としては、150g/L以上であることが好ましく、200g/L以上、350g/L以下であることが更に好ましく、250g/L以上、350g/L以下であることが特に好ましい。触媒の担持量が150g/L未満であると、触媒作用が十分に発現しないことがある。触媒の担持量が350g/Lを超えると、触媒を担持することにより圧力損失が増大したり、ハニカム構造体の製造コストが増大したりすることがある。なお、触媒の担持量は、ハニカム構造体1L当たりに担持される触媒の質量[g]である。触媒の担持方法としては、例えば、隔壁に対して、触媒成分を含む触媒液をウォッシュコートした後、高温で熱処理して焼き付ける方法等を挙げることができる。
【0050】
本実施形態のハニカム構造体の製造方法については、特に制限はなく、例えば、以下のような方法により製造することができる。まず、ハニカム構造部を作製するための可塑性の坏土を作製する。ハニカム構造部を作製するための坏土は、原料粉末として、前述の隔壁の好適な材料の中から選ばれた材料に、適宜、バインダ等の添加剤、及び水を添加することによって作製することができる。なお、例えば、本実施形態のハニカム構造体を作製する際には、シリカゲルを含むセラミック原料により坏土を作製することが好ましい。シリカゲルを含むセラミック原料としては、例えば、シリカゲルを14質量%以上含むセラミック原料を挙げることができる。そして、坏土を調製するための成形原料としては、上記のような量のシリカゲルを含むセラミック原料100質量%と、吸水後の平均粒径が20μm以上且つ吸水前で2質量%以上の吸水性ポリマーとを含有する成形原料を挙げることができる。なお、シリカゲルは、平均粒子径が8〜20μmのものが好ましい。
【0051】
次に、作製した坏土を押出成形することにより、複数のセルを区画形成する隔壁、及び最外周に配設された外周壁を有する、柱状のハニカム成形体を得る。押出成形においては、押出成形用の口金として、所望のセル形状、隔壁厚さ、セル密度を有する口金を用いることが好ましい。
【0052】
得られたハニカム成形体を、例えば、マイクロ波及び熱風で乾燥する。次に、必要に応じて、ハニカム成形体の製造に用いた材料と同様の材料で、セルの開口部を目封止することで目封止部を配設する。目封止部を配設した後に、ハニカム成形体を更に乾燥してもよい。
【0053】
次に、ハニカム成形体を焼成することにより、ハニカム構造体を得る。なお、焼成温度及び焼成雰囲気は原料により異なり、当業者であれば、選択された材料に最適な焼成温度及び焼成雰囲気を選択することができる。例えば、コージェライトを含むハニカム構造体を製造する際には、焼成雰囲気の温度を、1350〜1440℃とすることが好ましい。また、コージェライトを含むハニカム構造体を製造する際の焼成雰囲気としては、窒素とすることが好ましい。また、焼成時間は、最高温度でのキープ時間を3〜15時間であることが好ましい。
【0054】
また、得られたハニカム構造体に対して、触媒を担持してよい。触媒を担持する方法については特に制限はないが、例えば、ハニカム構造体の隔壁に対して、触媒成分を含む触媒液をウォッシュコートした後、高温で熱処理して焼き付ける方法等を挙げることができる。
【実施例】
【0055】
(実施例1)
コージェライト化原料100質量部に、造孔材を2.0質量部、分散媒を60質量部、有機バインダを5.6質量部、分散剤を30質量部、それぞれ添加し、混合、混練して坏土を調製した。コージェライト化原料としては、アルミナ、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、シリカ、及びシリカゲルを使用した。なお、コージェライト化原料については、コージェライト化原料100質量%中に、シリカゲルが14質量%含まれるように調整した。分散媒としては水を使用し、造孔材としては平均粒子径20μmの吸水性ポリマーを使用し、有機バインダとしてはヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用し、分散剤としてはエチレングリコールを使用した。なお、吸水性ポリマーは粒子状のポリアクリル系アンモニウム塩であり、吸水倍率が15〜25倍で、吸水後の平均粒径が上記の値(20μm)となるものを使用した。
【0056】
次に、ハニカム成形体作製用の口金を用いて坏土を押出成形し、全体形状が円柱形のハニカム成形体を得た。ハニカム成形体のセルの形状は、四角形とした。
【0057】
次に、ハニカム成形体をマイクロ波乾燥機で乾燥し、更に熱風乾燥機で完全に乾燥させた後、ハニカム成形体の両端面を切断し、所定の寸法に整えた。
【0058】
次に、乾燥したハニカム成形体を、脱脂し、焼成して、実施例1のハニカム構造体を製造した。脱脂は、窒素雰囲気で、10時間行った。焼成は、窒素雰囲気で、80時間行った。
【0059】
実施例1のハニカム構造体は、流入端面及び流出端面の形状が円形の、円柱形状のものであった。流入端面及び流出端面の直径の大きさは、266.7mmであった。また、ハニカム構造体のセルの延びる方向の長さは、152.4mmであった。実施例1のハニカム構造体は、隔壁の厚さが0.114mmであり、セル密度が93個/cmであった。表1に、ハニカム構造体の端面の直径、長さ、隔壁の厚さ、及びセル密度の値を示す。
【0060】
実施例1のハニカム構造体の隔壁の気孔率は、50%であった。隔壁の気孔率は、水銀ポロシメータ(Micromeritics社製のAutopore 9500)によって測定した値である。表1の気孔率の欄に、隔壁の気孔率の値を示す。
【0061】
また、実施例1のハニカム構造体について、以下の方法で、開口面積率、細孔密度、メジアン開口径、濡れ面積、及び円形度を測定した。なお、開口面積率、細孔密度、メジアン開口径、濡れ面積、及び円形度は、隔壁の表面に開口した細孔のうち、円相当径が10μm以上の細孔について測定した値である。表1に、開口面積率、細孔密度、メジアン開口径、濡れ面積、及び円形度の測定結果を示す。
【0062】
(円相当径が10μm以上の細孔の開口面積率)
実施例1のハニカム構造体のハニカム構造部から、縦20mm、横20mm、高さ20mmの測定用の試料片を切り出した。その試料片の隔壁の表面について、隔壁の処理を実施せずに走査型電子顕微鏡(SEM)によってSEM画像を任意に、3視野、撮影した。撮影視野の1視野の大きさは、隔壁間の幅×セルの延びる方向2mmとした。次に、撮影された各画像について画像解析によって二値化を行い、空洞部分(即ち、細孔部分)と空洞以外の部分(即ち、隔壁の実体部分)とに分けた。次に、各空洞部分について、その面積を求めた。求められた面積から、各空洞部分の円相当径を算出した。そして、SEM画像中の「円相当径が10μm以上の細孔」に該当する空洞部分の面積を求めた。求められた空洞部分の面積を、その画像全体の面積で除算した値の百分率を、「円相当径が10μm以上の細孔の開口面積率」とした。表1の示す開口面積率は、3視野のSEM画像の各開口面積率の、算術平均値である。
【0063】
(円相当径が10μm以上の細孔の細孔密度)
円相当径が10μm以上の細孔の開口面積率の測定方法と同様にして、SEM画像中の各空洞部分の円相当径を算出した。そして、SEM画像中の「円相当径が10μm以上の細孔」に該当する空洞部分の個数を求めた。求められた空洞部分の個数を、その画像全体の面積(mm)で除算した値を、「円相当径が10μm以上の細孔の細孔密度」とした。表1の示す細孔密度は、3視野のSEM画像の各細孔密度の、算術平均値である。
【0064】
(円相当径が10μm以上の細孔のメジアン開口径)
円相当径が10μm以上の細孔の開口面積率の測定方法と同様にして、SEM画像中の各空洞部分の円相当径を算出した。そして、SEM画像中の各空洞部に該当する細孔を、円相当径が10μm以上の細孔と、円相当径が10μm未満の細孔とに分類した。そして、求められた円相当径に基づき、縦軸を、隔壁の表面に開口した細孔の累積面積(%)とし、横軸を、円相当径(μm)とした、グラフを作成した。そして、作成したグラフにおいて、全細孔面積の50%に相当する累積面積(%)における、円相当径(μm)の値を求め、その値を「円相当径が10μm以上の細孔のメジアン開口径」とした。
【0065】
(濡れ面積)
隔壁に対してCTスキャンを行うことによって得た3次元のボクセルデータを用いて、隔壁の濡れ面積を算出した。まず、隔壁の厚さ方向をX方向とし、セルの軸方向をY方向として、XY平面を撮影断面とした。次に、撮影面をXY方向に垂直なZ方向にずらして複数撮影するように隔壁のCTスキャンを行って複数の画像データを取得し、この画像データに基づいてボクセルデータを得た。X、Y、Zの各方向の解像度はそれぞれ1.2μmとし、これにより得られる1辺が1.2μmの立方体が3次元のボクセルデータの最小単位とした。なお、CTスキャンで得られる撮影断面の画像データはZ方向の厚みのない平面のデータであるが、各撮影断面は撮影断面のZ方向の間隔分の厚みがあるものとして扱った。CTスキャンは、島津製作所製のSMX−160CT−SV3を用いて行った。次に、得られたボクセルデータを用いて、隔壁の濡れ面積Sを算出した。具体的には、濡れ面積S=(ボクセルデータ中の境界面の数)×(1つの境界面の面積)として導出した。1つの境界面の面積は1.44μm(=1.2μm×1.2μm)である。
【0066】
(円相当径が10μm以上の細孔の円形度)
円相当径が10μm以上の細孔の開口面積率の測定方法と同様にして、SEM画像中の各空洞部分の円相当径を算出した。円形度を求める細孔の開口面積と、その細孔の外形の長さを求めた。そして、円形度を求める細孔Pの開口面積をAとし、その細孔の外形の長さをLとし、円周長さがLの円の面積をAとし、下記式(1)によって求められる値を、細孔Pの円形度とした。SEM画像中の「円相当径が10μm以上の細孔」のそれぞれの円形度を算出し、その算平均値を、「円相当径が10μm以上の細孔の円形度」とした。
式(1):細孔Pの円形度=A/A
【0067】
実施例1のハニカム構造体に、触媒を担持した。まず、所定の触媒を含有する触媒スラリーを調製した。次いで、この触媒スラリーを、実施例1のハニカム構造体の一方の端面側からセル内に流入させた。触媒スラリーをセル内に流入させるときには、ディッピングにより行った。触媒の担持量は、298g/Lとした。表の「触媒量」の欄に、触媒の担持量(g/L)を示す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
また、実施例1のハニカム構造体について、以下の方法で、「触媒コート後の圧損上昇率(%)」、「触媒充填率(%)」、「NOx浄化性能」、及び「アイソスタティック強度(MPa)」の評価を行った。結果を表2に示す。
【0071】
(触媒コート後の圧損上昇率(%))
まず、触媒を担持していないハニカム構造体について、25℃の状態における、流入端面と流出端面との圧力差を求めた。このとき、空気を成分とする気体を、流量10Nm/minでハニカム構造体に流入させた。このようして求められた、触媒無しハニカム構造体の圧力損失値を「P」とした。また、別途、表2に示す値となるように触媒を担持したハニカム構造体について、25℃の状態における、流入端面と流出端面との圧力差を求めた。このようして求められた、触媒付きハニカム構造体の圧力損失値を「P」とした。下記式(2)によって求められる値を、触媒コート後の圧損上昇率(%)とした。なお、触媒コート後の圧損上昇率(%)の値については、120%以下を合格値とする。
式(2):触媒コート後の圧損上昇率(%)=(P−P)/P×100
【0072】
(触媒充填率(%))
実施例1のハニカム構造体のハニカム構造部から、縦20mm、横20mm、高さ20mmの測定用の試料片を切り出した。その試料片の隔壁について研磨を施した後、走査型電子顕微鏡(SEM)によってSEM画像を任意に、3視野、撮影した。撮影視野の1視野の大きさは、X方向(隔壁1枚の幅)×Y方向(600μm)とした。そして、ハニカム構造体に触媒を担持した際に、隔壁に形成された全細孔の容積(V)に対して、実際に触媒が充填された細孔の容積(V)の比率(百分率)を求めた。具体的には、隔壁に形成された全細孔の容積(V)を、画像解析によって二値化を行って抽出した細孔部分(即ち触媒が浸透していない細孔と触媒が浸透した細孔)から算出した。次に、ハニカム構造体に触媒を担持し、画像解析によって二値化を行って触媒が浸透した細孔部分を抽出して容積Vを求めた。そして、これらの値を用いて、触媒充填率(%)を算出した。なお、表2の触媒充填率(%)の値については、3視野のSEM画像の各触媒充填率の算術平均値である。触媒充填率が50%未満の場合、隔壁表面上の触媒量が増加して実使用時に触媒が担体から剥がれてしまい浄化性能が低下する可能性がある。よって50%以上を合格値とする。図4に、実施例1のハニカム構造体のハニカム構造部から切り出した試料片のSEM画像を示す。
【0073】
(NOx浄化性能(%))
排気量8L、6気筒のディーゼルエンジンを備えた尿素SCRシステムを用いてNOx浄化率の評価を行った。ハニカム構造体へ排ガスとNOx浄化に必要な尿素を流通させ、ハニカム構造体の前段及び後段のNOx量を測定し、100−{(後段のNOx量)/(前段のNOx量)}×100として、NOx浄化性能(%)を求めた。NOx浄化率測定は、測温位置をハニカム構造体の入口端面から20mm手前としたときの排ガス温度を250℃とし、排ガス流量を380kg/h、NOx/NH当量比が1.0となる条件で行った。なお、NOx浄化性能(%)の値については、90%以上を合格値とする。
【0074】
(アイソスタティック強度(MPa))
アイソスタティック強度の測定は、社団法人自動車技術会発行の自動車規格(JASO規格)のM505−87で規定されているアイソスタティック破壊強度試験に基づいて行った。アイソスタティック破壊強度試験は、ゴムの筒状容器に、ハニカム構造体を入れてアルミ製板で蓋をし、水中で等方加圧圧縮を行う試験である。即ち、アイソスタティック破壊強度試験は、缶体に、ハニカム構造体が外周面把持される場合の圧縮負荷加重を模擬した試験である。このアイソスタティック破壊強度試験によって測定されるアイソスタティック強度は、ハニカム構造体が破壊したときの加圧圧力値(MPa)で示される。なお、アイソスタティック強度(MPa)の値については、0.5MPa以上を合格値とする。
【0075】
(実施例2)
実施例2においては、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、隔壁の厚さを0.140mm、セル個数を62個/cm、造孔材の添加量を1.2質量部に変更してハニカム構造体を製造した。
【0076】
(実施例3)
実施例3においては、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を3.4質量部に変更してハニカム構造体を製造した。
【0077】
(実施例4)
実施例4においては、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、隔壁の厚さを0.140mm、セル個数を62個/cm、造孔材の添加量を6.0質量部に変更してハニカム構造体を製造した。
【0078】
(実施例5)
実施例5においては、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、隔壁の厚さを0.140mm、セル個数を62個/cm、造孔材の添加量を4.5質量部に変更してハニカム構造体を製造した。
【0079】
(実施例6)
実施例6においては、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を6.0質量部、造孔材の平均粒子径を25μmにハニカム構造体を製造した。
【0080】
(実施例7)
実施例7においては、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を6.0質量部、造孔材の平均粒子径を15μmに変更してハニカム構造体を製造した。
【0081】
(実施例8)
実施例8においては、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の平均粒子径を10μmに変更してハニカム構造体を製造した。
【0082】
(実施例9)
実施例9においては、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を4.5質量部、造孔材の平均粒子径を15μmに変更してハニカム構造体を製造した。
【0083】
実施例2〜9のハニカム構造体について、隔壁の厚さ、セル密度、気孔率、開口面積率、メジアン開口径、細孔密度、濡れ面積、及び円形度を、実施例1と同様の方法で測定した。結果を、表1に示す。また、実施例2〜9のハニカム構造体についても、表2に示す触媒の担持量(g/L)の値となるように触媒を担持した。そして、実施例1と同様の方法で、「触媒コート後の圧損上昇率(%)」、「触媒充填率(%)」、「NOx浄化性能(%)」、及び「アイソスタティック強度(MPa)」の評価を行った。結果を表2に示す。
【0084】
(比較例1〜10)
以下の方法で、比較例1〜10のハニカム構造体を作製し、隔壁の厚さ、セル密度、気孔率、開口面積率、メジアン開口径、細孔密度、濡れ面積、及び円形度を、実施例1と同様の方法で測定した。結果を、表1に示す。また、比較例1〜10のハニカム構造体についても、表2に示す触媒の担持量(g/L)の値となるように触媒を担持した。そして、実施例1と同様の方法で、「触媒コート後の圧損上昇率(%)」、「触媒充填率(%)」、「NOx浄化性能(%)」、及び「アイソスタティック強度(MPa)」の評価を行った。結果を表2に示す。図5に、比較例1のハニカム構造体のハニカム構造部から切り出した試料片のSEM画像を示す。
【0085】
比較例1は、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材を添加せずハニカム構造体を製造した。
比較例2は、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を6.6質量部に変更してハニカム構造体を製造した。
比較例3は、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を6.0質量部、造孔材の平均粒子径を5μmに変更してハニカム構造体を製造した。
比較例4は、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を1.2質量部、造孔材の平均粒子径を100μmに変更してハニカム構造体を製造した。
比較例5は、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を2.5質量部、造孔材の平均粒子径を100μmに変更してハニカム構造体を製造した。
比較例6は、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を6.0質量部、造孔材の平均粒子径を100μmに変更してハニカム構造体を製造した。
比較例7は、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を1.2質量部、造孔材の平均粒子径を70μmに変更してハニカム構造体を製造した。
比較例8は、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を6.0質量部、造孔材の平均粒子径を150μmに変更してハニカム構造体を製造した。
比較例9は、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を2.5質量部、造孔材の平均粒子径を130μmに変更してハニカム構造体を製造した。
比較例10は、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を4.5質量部、造孔材の平均粒子径を5μmに変更してハニカム構造体を製造した。
【0086】
(結果)
実施例1〜9のハニカム構造体は、触媒コート後の圧損上昇率、触媒充填率、NOx浄化性能、及びアイソスタティック強度の評価において、共に良好な結果のものであった。
比較例1のハニカム構造体は、触媒充填率が5%と極めて低く、触媒コート後の圧損上昇率も200%となってしまった。更に、比較例1のハニカム構造体は、触媒コート後の圧損上昇率が悪く、これ以上の量の触媒を担持することが困難であるにも関わらず、NOx浄化性能が悪いものであった。
比較例2のハニカム構造体は、触媒コート後の圧損上昇率、触媒充填率、及びNOx浄化性能については合格値を満たしていたが、アイソスタティック強度が著しく低いものであった。
比較例3のハニカム構造体は、触媒充填率が30%と低く、触媒コート後の圧損上昇率も125%となってしまった。比較例4のハニカム構造体は、触媒コート後の圧損上昇率が125%であった。更に、比較例3,4のハニカム構造体は、触媒コート後の圧損上昇率が悪く、これ以上の量の触媒を担持することが困難であるにも関わらず、NOx浄化性能が悪いものであった。なお、比較例3〜10のハニカム構造体は、いずれもNOx浄化性能が90%未満であり、合格基準を満たしていなかった。
比較例6のハニカム構造体は、メジアン開口径が67μmと大きく、アイソスタティック強度が著しく低いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のハニカム構造体は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等から排出される排ガスを浄化するための排ガス浄化部材として利用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1:隔壁、2:セル、3:外周壁、4:ハニカム構造部、11:流入端面、12:流出端面、100:ハニカム構造体。
図1
図2
図3
図4
図5