【実施例】
【0055】
(実施例1)
コージェライト化原料100質量部に、造孔材を2.0質量部、分散媒を60質量部、有機バインダを5.6質量部、分散剤を30質量部、それぞれ添加し、混合、混練して坏土を調製した。コージェライト化原料としては、アルミナ、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、シリカ、及びシリカゲルを使用した。なお、コージェライト化原料については、コージェライト化原料100質量%中に、シリカゲルが14質量%含まれるように調整した。分散媒としては水を使用し、造孔材としては平均粒子径20μmの吸水性ポリマーを使用し、有機バインダとしてはヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用し、分散剤としてはエチレングリコールを使用した。なお、吸水性ポリマーは粒子状のポリアクリル系アンモニウム塩であり、吸水倍率が15〜25倍で、吸水後の平均粒径が上記の値(20μm)となるものを使用した。
【0056】
次に、ハニカム成形体作製用の口金を用いて坏土を押出成形し、全体形状が円柱形のハニカム成形体を得た。ハニカム成形体のセルの形状は、四角形とした。
【0057】
次に、ハニカム成形体をマイクロ波乾燥機で乾燥し、更に熱風乾燥機で完全に乾燥させた後、ハニカム成形体の両端面を切断し、所定の寸法に整えた。
【0058】
次に、乾燥したハニカム成形体を、脱脂し、焼成して、実施例1のハニカム構造体を製造した。脱脂は、窒素雰囲気で、10時間行った。焼成は、窒素雰囲気で、80時間行った。
【0059】
実施例1のハニカム構造体は、流入端面及び流出端面の形状が円形の、円柱形状のものであった。流入端面及び流出端面の直径の大きさは、266.7mmであった。また、ハニカム構造体のセルの延びる方向の長さは、152.4mmであった。実施例1のハニカム構造体は、隔壁の厚さが0.114mmであり、セル密度が93個/cm
2であった。表1に、ハニカム構造体の端面の直径、長さ、隔壁の厚さ、及びセル密度の値を示す。
【0060】
実施例1のハニカム構造体の隔壁の気孔率は、50%であった。隔壁の気孔率は、水銀ポロシメータ(Micromeritics社製のAutopore 9500)によって測定した値である。表1の気孔率の欄に、隔壁の気孔率の値を示す。
【0061】
また、実施例1のハニカム構造体について、以下の方法で、開口面積率、細孔密度、メジアン開口径、濡れ面積、及び円形度を測定した。なお、開口面積率、細孔密度、メジアン開口径、濡れ面積、及び円形度は、隔壁の表面に開口した細孔のうち、円相当径が10μm以上の細孔について測定した値である。表1に、開口面積率、細孔密度、メジアン開口径、濡れ面積、及び円形度の測定結果を示す。
【0062】
(円相当径が10μm以上の細孔の開口面積率)
実施例1のハニカム構造体のハニカム構造部から、縦20mm、横20mm、高さ20mmの測定用の試料片を切り出した。その試料片の隔壁の表面について、隔壁の処理を実施せずに走査型電子顕微鏡(SEM)によってSEM画像を任意に、3視野、撮影した。撮影視野の1視野の大きさは、隔壁間の幅×セルの延びる方向2mmとした。次に、撮影された各画像について画像解析によって二値化を行い、空洞部分(即ち、細孔部分)と空洞以外の部分(即ち、隔壁の実体部分)とに分けた。次に、各空洞部分について、その面積を求めた。求められた面積から、各空洞部分の円相当径を算出した。そして、SEM画像中の「円相当径が10μm以上の細孔」に該当する空洞部分の面積を求めた。求められた空洞部分の面積を、その画像全体の面積で除算した値の百分率を、「円相当径が10μm以上の細孔の開口面積率」とした。表1の示す開口面積率は、3視野のSEM画像の各開口面積率の、算術平均値である。
【0063】
(円相当径が10μm以上の細孔の細孔密度)
円相当径が10μm以上の細孔の開口面積率の測定方法と同様にして、SEM画像中の各空洞部分の円相当径を算出した。そして、SEM画像中の「円相当径が10μm以上の細孔」に該当する空洞部分の個数を求めた。求められた空洞部分の個数を、その画像全体の面積(mm
2)で除算した値を、「円相当径が10μm以上の細孔の細孔密度」とした。表1の示す細孔密度は、3視野のSEM画像の各
細孔密度の、算術平均値である。
【0064】
(円相当径が10μm以上の細孔のメジアン開口径)
円相当径が10μm以上の細孔の開口面積率の測定方法と同様にして、SEM画像中の各空洞部分の円相当径を算出した。そして、SEM画像中の各空洞部に該当する細孔を、円相当径が10μm以上の細孔と、円相当径が10μm未満の細孔とに分類した。そして、求められた円相当径に基づき、縦軸を、隔壁の表面に開口した細孔の累積面積(%)とし、横軸を、円相当径(μm)とした、グラフを作成した。そして、作成したグラフにおいて、全細孔面積の50%に相当する累積面積(%)における、円相当径(μm)の値を求め、その値を「円相当径が10μm以上の細孔のメジアン開口径」とした。
【0065】
(濡れ面積)
隔壁に対してCTスキャンを行うことによって得た3次元のボクセルデータを用いて、隔壁の濡れ面積を算出した。まず、隔壁の厚さ方向をX方向とし、セルの軸方向をY方向として、XY平面を撮影断面とした。次に、撮影
断面をXY方向に垂直なZ方向にずらして複数撮影するように隔壁のCTスキャンを行って複数の画像データを取得し、この画像データに基づいてボクセルデータを得た。X、Y、Zの各方向の解像度はそれぞれ1.2μmとし、これにより得られる1辺が1.2μmの立方体が3次元のボクセルデータの最小単位とした。なお、CTスキャンで得られる撮影断面の画像データはZ方向の厚みのない平面のデータであるが、各撮影断面は撮影断面のZ方向の間隔分の厚みがあるものとして扱った。CTスキャンは、島津製作所製のSMX−160CT−SV3を用いて行った。次に、得られたボクセルデータを用いて、隔壁の濡れ面積Sを算出した。具体的には、濡れ面積S=(ボクセルデータ中の境界面の数)×(1つの境界面の面積)として導出した。1つの境界面の面積は1.44μm
2(=1.2μm×1.2μm)である。
【0066】
(円相当径が10μm以上の細孔の円形度)
円相当径が10μm以上の細孔の開口面積率の測定方法と同様にして、SEM画像中の各空洞部分の円相当径を算出した。円形度を求める細孔の開口面積と、その細孔の外形の長さを求めた。そして、円形度を求める細孔Pの開口面積をA
0とし、その細孔の外形の長さをLとし、円周長さがLの円の面積をA
1とし、下記式(1)によって求められる値を、細孔Pの円形度とした。SEM画像中の「円相当径が10μm以上の細孔」のそれぞれの円形度を算出し、その算
術平均値を、「円相当径が10μm以上の細孔の円形度」とした。
式(1):細孔Pの円形度=A
1/A
0
【0067】
実施例1のハニカム構造体に、触媒を担持した。まず、所定の触媒を含有する触媒スラリーを調製した。次いで、この触媒スラリーを、実施例1のハニカム構造体の一方の端面側からセル内に流入させた。触媒スラリーをセル内に流入させるときには、ディッピングにより行った。触媒の担持量は、298g/Lとした。表
2の「触媒量」の欄に、触媒の担持量(g/L)を示す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
また、実施例1のハニカム構造体について、以下の方法で、「触媒コート後の圧損上昇率(%)」、「触媒充填率(%)」、「NOx浄化性能」、及び「アイソスタティック強度(MPa)」の評価を行った。結果を表2に示す。
【0071】
(触媒コート後の圧損上昇率(%))
まず、触媒を担持していないハニカム構造体について、25℃の状態における、流入端面と流出端面との圧力差を求めた。このとき、空気を成分とする気体を、流量10Nm
3/minでハニカム構造体に流入させた。このようして求められた、触媒無しハニカム構造体の圧力損失値を「P
0」とした。また、別途、表2に示す値となるように触媒を担持したハニカム構造体について、25℃の状態における、流入端面と流出端面との圧力差を求めた。このようして求められた、触媒付きハニカム構造体の圧力損失値を「P
1」とした。下記式(2)によって求められる値を、触媒コート後の圧損上昇率(%)とした。なお、触媒コート後の圧損上昇率(%)の値については、120%以下を合格値とする。
式(2):触媒コート後の圧損上昇率(%)=(P
1−P
0)/P
0×100
【0072】
(触媒充填率(%))
実施例1のハニカム構造体のハニカム構造部から、縦20mm、横20mm、高さ20mmの測定用の試料片を切り出した。その試料片の隔壁について研磨を施した後、走査型電子顕微鏡(SEM)によってSEM画像を任意に、3視野、撮影した。撮影視野の1視野の大きさは、X方向(隔壁1枚の幅)×Y方向(600μm)とした。そして、ハニカム構造体に触媒を担持した際に、隔壁に形成された全細孔の容積(V
0)に対して、実際に触媒が充填された細孔の容積(V
1)の比率(百分率)を求めた。具体的には、隔壁に形成された全細孔の容積(V
0)を、画像解析によって二値化を行って抽出した細孔部分(即ち触媒が浸透していない細孔と触媒が浸透した細孔)から算出した。次に、ハニカム構造体に触媒を担持し、画像解析によって二値化を行って触媒が浸透した細孔部分を抽出して容積V
1を求めた。そして、これらの値を用いて、触媒充填率(%)を算出した。なお、表2の触媒充填率(%)の値については、3視野のSEM画像の各触媒充填率の算術平均値である。触媒充填率が50%未満の場合、隔壁表面上の触媒量が増加して実使用時に触媒が担体から剥がれてしまい浄化性能が低下する可能性がある。よって50%以上を合格値とする。
図4に、実施例1のハニカム構造体のハニカム構造部から切り出した試料片のSEM画像を示す。
【0073】
(NOx浄化性能(%))
排気量8L、6気筒のディーゼルエンジンを備えた尿素SCRシステムを用いてNOx浄化率の評価を行った。ハニカム構造体へ排ガスとNOx浄化に必要な尿素を流通させ、ハニカム構造体の前段及び後段のNOx量を測定し、100−{(後段のNOx量)/(前段のNOx量)}×100として、NOx浄化性能(%)を求めた。NOx浄化率測定は、測温位置をハニカム構造体の入口端面から20mm手前としたときの排ガス温度を250℃とし、排ガス流量を380kg/h、NOx/NH
3当量比が1.0となる条件で行った。なお、NOx浄化性能(%)の値については、90%以上を合格値とする。
【0074】
(アイソスタティック強度(MPa))
アイソスタティック強度の測定は、社団法人自動車技術会発行の自動車規格(JASO規格)のM505−87で規定されているアイソスタティック破壊強度試験に基づいて行った。アイソスタティック破壊強度試験は、ゴムの筒状容器に、ハニカム構造体を入れてアルミ製板で蓋をし、水中で等方加圧圧縮を行う試験である。即ち、アイソスタティック破壊強度試験は、缶体に、ハニカム構造体が外周面把持される場合の圧縮負荷加重を模擬した試験である。このアイソスタティック破壊強度試験によって測定されるアイソスタティック強度は、ハニカム構造体が破壊したときの加圧圧力値(MPa)で示される。なお、アイソスタティック強度(MPa)の値については、0.5MPa以上を合格値とする。
【0075】
(実施例2)
実施例2においては、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、隔壁の厚さを0.140mm、セル個数を62個/cm
2、造孔材の添加量を1.2質量部に変更してハニカム構造体を製造した。
【0076】
(実施例3)
実施例3においては、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を3.4質量部に変更してハニカム構造体を製造した。
【0077】
(実施例4)
実施例4においては、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、隔壁の厚さを0.140mm、セル個数を62個/cm
2、造孔材の添加量を6.0質量部に変更してハニカム構造体を製造した。
【0078】
(実施例5)
実施例5においては、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、隔壁の厚さを0.140mm、セル個数を62個/cm
2、造孔材の添加量を4.5質量部に変更してハニカム構造体を製造した。
【0079】
(実施例6)
実施例6においては、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を6.0質量部、造孔材の平均粒子径を25μmにハニカム構造体を製造した。
【0080】
(実施例7)
実施例7においては、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を6.0質量部、造孔材の平均粒子径を15μmに変更してハニカム構造体を製造した。
【0081】
(実施例8)
実施例8においては、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の平均粒子径を10μmに変更してハニカム構造体を製造した。
【0082】
(実施例9)
実施例9においては、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を4.5質量部、造孔材の平均粒子径を15μmに変更してハニカム構造体を製造した。
【0083】
実施例2〜9のハニカム構造体について、隔壁の厚さ、セル密度、気孔率、開口面積率、メジアン開口径、細孔密度、濡れ面積、及び円形度を、実施例1と同様の方法で測定した。結果を、表1に示す。また、実施例2〜9のハニカム構造体についても、表2に示す触媒の担持量(g/L)の値となるように触媒を担持した。そして、実施例1と同様の方法で、「触媒コート後の圧損上昇率(%)」、「触媒充填率(%)」、「NOx浄化性能(%)」、及び「アイソスタティック強度(MPa)」の評価を行った。結果を表2に示す。
【0084】
(比較例1〜10)
以下の方法で、比較例1〜10のハニカム構造体を作製し、隔壁の厚さ、セル密度、気孔率、開口面積率、メジアン開口径、細孔密度、濡れ面積、及び円形度を、実施例1と同様の方法で測定した。結果を、表1に示す。また、比較例1〜10のハニカム構造体についても、表2に示す触媒の担持量(g/L)の値となるように触媒を担持した。そして、実施例1と同様の方法で、「触媒コート後の圧損上昇率(%)」、「触媒充填率(%)」、「NOx浄化性能(%)」、及び「アイソスタティック強度(MPa)」の評価を行った。結果を表2に示す。
図5に、比較例1のハニカム構造体のハニカム構造部から切り出した試料片のSEM画像を示す。
【0085】
比較例1は、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材を添加せずハニカム構造体を製造した。
比較例2は、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を6.6質量部に変更してハニカム構造体を製造した。
比較例3は、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を6.0質量部、造孔材の平均粒子径を5μmに変更してハニカム構造体を製造した。
比較例4は、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を1.2質量部、造孔材の平均粒子径を100μmに変更してハニカム構造体を製造した。
比較例5は、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を2.5質量部、造孔材の平均粒子径を100μmに変更してハニカム構造体を製造した。
比較例6は、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を6.0質量部、造孔材の平均粒子径を100μmに変更してハニカム構造体を製造した。
比較例7は、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を1.2質量部、造孔材の平均粒子径を70μmに変更してハニカム構造体を製造した。
比較例8は、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を6.0質量部、造孔材の平均粒子径を150μmに変更してハニカム構造体を製造した。
比較例9は、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を2.5質量部、造孔材の平均粒子径を130μmに変更してハニカム構造体を製造した。
比較例10は、実施例1のハニカム構造体の製造方法に対して、造孔材の添加量を4.5質量部、造孔材の平均粒子径を5μmに変更してハニカム構造体を製造した。
【0086】
(結果)
実施例1〜9のハニカム構造体は、触媒コート後の圧損上昇率、触媒充填率、NOx浄化性能、及びアイソスタティック強度の評価において、共に良好な結果のものであった。
比較例1のハニカム構造体は、触媒充填率が5%と極めて低く、触媒コート後の圧損上昇率も200%となってしまった。更に、比較例1のハニカム構造体は、触媒コート後の圧損上昇率が悪く、これ以上の量の触媒を担持することが困難であるにも関わらず、NOx浄化性能が悪いものであった。
比較例2のハニカム構造体は、触媒コート後の圧損上昇率、触媒充填率、及びNOx浄化性能については合格値を満たしていたが、アイソスタティック強度が著しく低いものであった。
比較例3のハニカム構造体は、触媒充填率が30%と低く、触媒コート後の圧損上昇率も125%となってしまった。比較例4のハニカム構造体は、触媒コート後の圧損上昇率が125%であった。更に、比較例3,4のハニカム構造体は、触媒コート後の圧損上昇率が悪く、これ以上の量の触媒を担持することが困難であるにも関わらず、NOx浄化性能が悪いものであった。なお、比較例3〜10のハニカム構造体は、いずれもNOx浄化性能が90%未満であり、合格基準を満たしていなかった。
比較例6のハニカム構造体は、メジアン開口径が67μmと大きく、アイソスタティック強度が著しく低いものであった。