特許第6664312号(P6664312)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6664312
(24)【登録日】2020年2月20日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】ディーゼルエンジンの排気処理装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/24 20060101AFI20200302BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20200302BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20200302BHJP
【FI】
   F01N3/24 L
   F01N3/24 E
   F01N3/20 K
   F01N3/20 E
   F01N3/035 E
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-242536(P2016-242536)
(22)【出願日】2016年12月14日
(65)【公開番号】特開2017-120081(P2017-120081A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2018年12月26日
(31)【優先権主張番号】特願2015-253233(P2015-253233)
(32)【優先日】2015年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】井上 勝支
(72)【発明者】
【氏名】石田 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】坂井 亮太
【審査官】 村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−265862(JP,A)
【文献】 特開平06−033744(JP,A)
【文献】 特開平05−202740(JP,A)
【文献】 特開2008−128170(JP,A)
【文献】 特開2006−161718(JP,A)
【文献】 特開2009−036055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下流側排気浄化材(101)と、下流側排気浄化材(101)の排気上流側に配置された上流側排気触媒(102)と、ヒータ(3)とを備えたディーゼルエンジンの排気処理装置であって、
エンジン始動装置(131)と、ヒータ(3)への通電を制御すると共にエンジン始動装置(131)でのエンジン始動処理(S12)を制御する制御装置(4)と、制御装置(4)に接続された始動指令装置(105)を備え、
ヒータ(3)は上流側排気触媒(102)の排気入口(102a)に配置され、
エンジン停止後、始動指令装置(105)から制御装置(4)に始動指令がなされた場合には、制御装置(4)の制御により、始動指令がなされた時から所定時間はエンジン始動処理(S12)を行うことなく、エンジン停止状態を維持したまま、ヒータ(3)への通電(S11)がなされ、その後、エンジン始動処理(S12)が行われるように構成され、
上流側排気触媒(102)に付着した未燃焼付着物の付着量を推定する推定装置(6)を備え、前記エンジン停止の前に行われたエンジン運転中、推定装置(6)で上流側排気触媒(102)の付着推定値が推定され、この付着推定値が所定の基準値を越えている場合に限り、前記エンジン停止後のエンジン始動処理(S12)直前のヒータ(3)への通電(S11)がなされるように構成されている、ことを特徴とするディーゼルエンジンの排気処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたディーゼルエンジンの排気処理装置において、
上流側排気触媒(102)の排気上流側に燃料を噴射する燃料噴射装置(107)と、上流側排気触媒(102)の入口側排気温度を検出する入口側排気温度センサ(8)と、上流側排気触媒(102)の出口側排気温度を検出する出口側排気温度センサ(9)を備え、
前記推定装置(6)は、燃料噴射装置(107)からの燃料の噴射で生じる、上流側排気触媒(102)の入口側排気温度と出口側排気温度の温度差に基づいて、上流側排気触媒(102)に付着した未燃焼付着物の付着量を推定するように構成されている、ことを特徴とするディーゼルエンジンの排気処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載されたディーゼルエンジンの排気処理装置において、
燃料噴射装置(107)がコモンレール式燃料噴射装置(7)であり、上記燃料噴射がメイン噴射後に燃焼室(23)内に行われるポスト噴射である、ことを特徴とするディーゼルエンジンの排気処理装置。
【請求項4】
請求項2に記載されたディーゼルエンジンの排気処理装置において、
燃料噴射装置(107)が排気管噴射式の燃料噴射装置であり、上記燃料噴射が上流側排気触媒(102)よりも排気上流側の排気管内に行われる噴射である、ことを特徴とするディーゼルエンジンの排気処理装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載されたディーゼルエンジンの排気処理装置において、
始動指令装置(105)が信号発信装置であり、始動指令が信号発信装置から制御装置(4)への電気信号である、ことを特徴とするディーゼルエンジンの排気処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載されたディーゼルエンジンの排気処理装置において、
始動指令装置(105)が操作者の操作に基づいて指令信号を発信する操作式始動指令装置である、ことを特徴とするディーゼルエンジンの排気処理装置。
【請求項7】
請求項6に記載されたディーゼルエンジンの排気処理装置において、
操作式の始動指令装置(105)がキースイッチ(5)である、ことを特徴とするディーゼルエンジンの排気処理装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載されたディーゼルエンジンの排気処理装置において、
上流側排気触媒(102)がDOC(2)であり、下流側排気浄化材(101)がDPF(1)である、ことを特徴とするディーゼルエンジンの排気処理装置。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれかに記載されたディーゼルエンジンの排気処理装置において、
上流側排気触媒(102)が上流側DOCであり、下流側排気浄化材(101)が下流側DOCである、ことを特徴とするディーゼルエンジンの排気処理装置。
【請求項10】
請求項1から請求項7のいずれかに記載されたディーゼルエンジンの排気処理装置において、
上流側排気触媒(102)がDOCであり、下流側排気浄化材(101)がSCR触媒である、ことを特徴とするディーゼルエンジンの排気処理装置。
【請求項11】
請求項1から請求項7のいずれかに記載されたディーゼルエンジンの排気処理装置において、
上流側排気触媒(102)がSCR触媒であり、下流側排気浄化材(101)がDOCである、ことを特徴とするディーゼルエンジンの排気処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの排気処理装置に関し、詳しくは、排気触媒に付着した未燃焼付着物がヒータの発熱で速やかに燃焼する、ディーゼルエンジンの排気処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、DPFと、DPFの排気上流側に配置されたDOCと、ヒータと、制御装置を備え、制御装置の制御により、ヒータへの通電がなされ、DOCに詰った未燃焼堆積物がヒータの発熱で加熱されるように構成された、ディーゼルエンジンの排気処理装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この種の排気処理装置によれば、DOCに詰った未燃焼堆積物の燃焼をヒータからの加熱で促進し、DOCの詰りを解消させ、DPFの再生時に、ポスト噴射等で排気に含ませた未燃焼燃料をDOCで触媒燃焼させ、排気の昇温で、DPFに堆積したPMを速やかに焼却除去することができる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−68184号公報(図1図2参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
《問題点》 DOCを詰まらせている未燃焼堆積物がヒータの発熱では燃焼しにくい。
特許文献1のものでは、ヒータは、DOCから排気上流側に遠く離れた位置に設けられているため、ヒータの熱がDOCを詰らせている未燃焼堆積物に伝わりにくいうえ、エンジン運転中にヒータへの通電が行われるため、未燃焼堆積物に伝わった僅かな熱も排気で持ち去られ、DOCを詰まらせている未燃焼堆積物がヒータの発熱では燃焼しにくい。
【0006】
本発明の課題は、排気触媒に付着した未燃焼付着物がヒータの発熱で速やかに燃焼する、ディーゼルエンジンの排気処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
図1に例示するように、下流側排気浄化材(101)と、下流側排気浄化材(101)の排気上流側に配置された上流側排気触媒(102)と、ヒータ(3)とを備えたディーゼルエンジンの排気処理装置であって、
エンジン始動装置(131)と、ヒータ(3)への通電を制御すると共にエンジン始動装置(131)でのエンジン始動処理(S12)を制御する制御装置(4)と、制御装置(4)に接続された始動指令装置(105)を備え、
ヒータ(3)は上流側排気触媒(102)の排気入口(102a)に配置され、
図1図2に例示するように、エンジン停止後、始動指令装置(105)から制御装置(4)に始動指令がなされた場合には、制御装置(4)の制御により、始動指令がなされた時から所定時間はエンジン始動処理(S12)を行うことなく、エンジン停止状態を維持したまま、ヒータ(3)への通電(S11)がなされ、その後、エンジン始動処理(S12)が行われるように構成され、
図1に例示するように、上流側排気触媒(102)に付着した未燃焼付着物の付着量を推定する推定装置(6)を備え、図1図2に例示するように、前記エンジン停止の前に行われたエンジン運転中、推定装置(6)で、上流側排気触媒(102)の付着推定値が推定され、この付着推定値が所定の基準値を越えている場合に限り、前記エンジン停止後のエンジン始動処理(S12)直前のヒータ(3)への通電(S11)がなされるように構成されている、ことを特徴とするディーゼルエンジンの排気処理装置。
【発明の効果】
【0008】
図1に例示するように、本発明では、ヒータ(3)は上流側排気触媒(102)の排気入口(102a)に配置されるため、ヒータ(3)の熱が上流側排気触媒(102)に付着した未燃焼付着物に伝わりやすいうえ、エンジン停止状態を維持したままヒータ(3)への通電が行われるため、未燃焼付着物に伝わる熱が排気で持ち去られず、未燃焼付着物がヒータ(3)の発熱で速やかに燃焼する。
これにより、上流側排気触媒(102)の詰まりや汚染が速やかに解消する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る排気処理装置を備えたエンジンの模式図である。
図2図1のエンジンの制御装置の制御によるDPF及びDOCの再生処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1図2は本発明の実施形態に係る排気処理装置を備えたエンジンを説明する図で、この実施形態では、立形の直列4気筒ディーゼルエンジンについて説明する。
【0011】
エンジンの構成は、次の通りである。
クランク軸(11)の架設方向を前後方向、フライホイール(12)の配置された側を後側、その反対側を前側、前後方向と直交するエンジン幅方向を横方向とする。
図1に示すように、このエンジンは、シリンダヘッド(13)の横一側に組みつけられた吸気マニホルド(14)と、シリンダヘッド(13)の横他側に組み付けられた排気マニホルド(15)と、エンジン後部に配置されたフライホイール(12)を備えている。
【0012】
図1に示すように、このエンジンは、吸排気装置を備え、これは、排気マニホルド(15)に設けられた過給機(16)と、過給機(16)の吸気入口(16a)側に設けられたエアフローセンサ(17)と、過給機(16)のコンプレッサ(16b)と吸気マニホルド(14)の間に配置されたインタークーラ(18)と、インタークーラ(18)と吸気マニホルド(14)の間に配置された吸気絞り弁(19)と、排気マニホルド(15)と吸気マニホルド(14)の間に配置されたEGRクーラ(20)と、EGRクーラ(20)と吸気マニホルド(14)の間に配置されたEGR弁(21)を備えている。EGRは、排気ガス還流の略称である。
吸気絞り弁(19)とEGR弁(21)は、いずれも電動式開閉弁で、これらは制御装置(4)を介してバッテリ(22)に電気的に接続されている。
制御装置(4)は、エンジンECUである。ECUは、電子制御ユニットの略称で、マイコンである。
【0013】
図1に示すように、このエンジンは、燃料噴射装置を備え、これは、各燃焼室(23)に設けられた燃料噴射弁(24)と、燃料噴射弁(24)から噴射する燃料を蓄圧するコモンレール(25)と、コモンレール(25)に燃料タンク(26)から燃料を圧送する燃料サプライポンプ(27)を備えている。
燃料噴射弁(24)は電磁式開閉弁を備え、燃料サプライポンプ(27)は、電動式調圧弁を備え、これらは制御装置(4)の燃料噴射制御機能部を介してバッテリ(22)に電気的に接続されている。
【0014】
図1に示すように、このエンジンは、調速装置を備え、これは、エンジンの目標回転数を設定するアクセルレバー(28)の設定位置を検出するアクセルセンサ(29)と、エンジンの実回転数を検出する実回転数センサ(30)を備え、これらセンサ(29)(30)は制御装置(4)に電気的に接続されている。
【0015】
図1に示すように、このエンジンは、エンジン始動装置(131)を備え、これは、スタータモータ(31)を備え、スタータモータ(31)とキースイッチ(5)は、制御装置(4)を介してバッテリ(22)に電気的に接続されている。キースイッチ(5)は、OFF位置と、ON位置と、スタート位置を備えている。
【0016】
制御装置(4)は、エンジンの目標回転数と実回転数の回転数偏差を小さくするように、燃料噴射弁(24)からの燃料噴射量や噴射タイミングを設定し、負荷変動によるエンジンの回転数変動を小さくする。また、制御装置(4)は、エンジンの回転数と負荷と吸気量に応じ、EGR弁(21)の開度を調節し、EGR率を調節する。また、制御装置(4)は、キースイッチ(5)がスタート位置に投入されると、スタータモータ(31)を駆動し、エンジンの始動を行う。キースイッチ(5)がON位置に投入されると、バッテリ(22)からエンジン各部への通電により、エンジン運転状態が維持され、キースイッチ(5)がOFF位置に投入されると、燃料噴射弁(24)からの燃料噴射が停止され、エンジンが停止される。
【0017】
図1に示すように、このエンジンは、排気処理装置を備えている。
排気処理装置は、下流側排気浄化材(101)と、下流側排気浄化材(101)の排気上流側に配置された上流側排気触媒(102)と、ヒータ(3)とを備えている。
この排気処理装置は、エンジン始動装置(131)と、ヒータ(3)への通電を制御すると共にエンジン始動装置(131)でのエンジン始動処理(S12)を制御する制御装置(4)と、制御装置(4)に接続された始動指令装置(105)を備えている。
ヒータ(3)は上流側排気触媒(102)の排気入口(102a)に配置されている。
【0018】
この排気処理装置では、エンジン停止後、始動指令装置(105)から制御装置(4)に始動指令がなされた場合には、制御装置(4)の制御により、始動指令がなされた時から所定時間はエンジン始動処理(S12)を行うことなく、エンジン停止状態を維持したまま、ヒータ(3)への通電(S11)がなされ、その後、エンジン始動処理(S12)が行われるように構成されている。
【0019】
この排気処理装置では、ヒータ(3)は上流側排気触媒(102)の排気入口(102a)に配置されるため、ヒータ(3)の熱が上流側排気触媒(102)に付着した未燃焼付着物に伝わりやすいうえ、エンジン停止状態を維持したままヒータ(3)への通電が行われるため、未燃焼付着物に伝わる熱が排気(10)で持ち去られず、未燃焼付着物がヒータ(3)の発熱で速やかに燃焼する。
これにより、DOC等の上流側排気触媒(102)の詰りや汚染が速やかに解消する。
【0020】
この排気処理装置は、上流側排気触媒(102)に付着した未燃焼付着物の付着量を推定する推定装置(6)を備え、推定装置(6)で推定された上流側排気触媒(102)の付着推定値が所定の基準値を越えている場合に限り、前記ヒータ(3)の通電がなされるように構成されている。
このため、この排気処理装置では、ヒータ(3)の電力消費を抑制することができる。
すなわち、この排気処理装置は、上流側排気触媒(102)に付着した未燃焼付着物の付着量を推定する推定装置(6)を備え、前記エンジン停止の前に行われたエンジン運転中、推定装置(6)で、上流側排気触媒(102)の付着推定値が推定され、この付着推定値が所定の基準値を越えている場合に限り、前記エンジン停止後のエンジン始動処理(S12)直前のヒータ(3)への通電(S11)がなされるように構成されている。
【0021】
この排気処理装置は、上流側排気触媒(102)の排気上流側に燃料を噴射する燃料噴射装置(107)と、上流側排気触媒(102)の入口側排気温度を検出する入口側排気温度センサ(8)と、上流側排気触媒(102)の出口側排気温度を検出する出口側排気温度センサ(9)を備えている。
前記推定装置(6)は、燃料噴射装置(107)からの燃料の噴射で生じる、上流側排気触媒(102)の入口側排気温度と出口側排気温度の温度差に基づいて、上流側排気触媒(102)に付着した未燃焼付着物の付着量を推定するように構成されている。
推定装置(6)は、上流側排気触媒(102)への未燃焼付着物への付着の程度に応じて敏感に変化する上流側排気触媒(102)の出入口の温度差に基づいて燃焼付着物の付着量を推定するため、その堆積量を正確に推定することができる。
【0022】
この排気処理装置では、燃料噴射装置(107)がコモンレール式の燃料噴射装置(7)であり、上記燃料噴射がメイン噴射後に燃焼室(23)内に行われるポスト噴射である。
【0023】
この排気処理装置では、燃料噴射装置(107)が排気管噴射式の燃料噴射装置であり、上記燃料噴射が上流側排気触媒(102)よりも排気上流側の排気管内に行われる噴射であってもよい。
【0024】
この排気処理装置では、始動指令装置(105)が信号発信装置であり、始動指令が信号発信装置から制御装置(4)への電気信号である。
このため、速やかな始動指令を行うことができる。
【0025】
この排気処理装置では、始動指令装置(105)が操作者の操作に基づいて指令信号を発信する操作式のキースイッチ(5)である。
操作式の始動指令装置(105)は、キースイッチの他、ボタン式、レバー式、べダル式、タッチパネル式であってもよい。
【0026】
この排気処理装置では、始動指令装置(105)が操作者の操作に基づかずに指令信号を発信する非操作式始動指令装置であり、非操作式始動指令装置がエンジン負荷の投入の予測に基づいて指令信号を発信する負荷投入予測式のものや、所定時間毎に指令信号を発信するタイマ式のものであってもよい。
負荷投入予測式のものとしては、エンジンと作業機の間のクラッチの接続を検出してエンジン負荷投入を予測するものがある。
【0027】
この排気処理装置では、上流側排気触媒(102)がDOC(2)であり、下流側排気浄化材(101)がDPF(1)である。
未燃焼付着物は、上流側排気触媒(102)にPMが固着した未燃焼堆積物である。
この排気処理装置では、上流側排気触媒(102)として未燃焼付着物による機能低下を生じ易いDOCを用いるため、上流側排気触媒(102)の機能回復効果が顕著に現れる。
【0028】
DPFは、ディーゼル・パティキュレート・フィルタの略称であり、排気(10)に含まれるPMを捕捉する。PMは、粒子状物質の略称である。
DPF(1)は、内部に軸長方向に沿う多数のセルが並設され、隣り合うセルの入口と出口が交互に目封じされたウォールフローハニカム型のものである。
【0029】
図2に示すように、DPF(1)に堆積するPMの堆積量の推定値(F)が所定のDPFの再生開始基準値(FS)を越えると、制御装置(4)の制御により、DPF再生処理が実施される。
排気処理装置は、DPF(1)の出入口の差圧を検出する差圧センサ(32)を備え、差圧センサ(32)は制御装置(4)に電気的に接続され、DPF(1)の出入口の差圧に基づいて、制御装置(4)がDPF(1)に堆積したPMの堆積量を推定する。
【0030】
DPF再生処理では、燃料噴射弁(24)からポスト噴射がなされ、未燃焼のポスト噴射燃料が排気(10)に混入され、この燃料がDOC(2)で触媒燃焼され、排気(10)が昇温され、排気(10)の熱でDPF(1)に堆積したPMが焼却される。
ポスト噴射とは、燃焼サイクル中、燃料噴射弁(24)からメイン噴射後、膨張行程または排気行程で燃焼室(23)に行われる燃料噴射である。
ポスト噴射は、DOC(2)の排気入口(2a)に流入する排気(10)の温度がDOC(2)の活性化温度を越えた後に開始され、排気(10)の温度が活性化温度に達しない間は、制御装置(4)の制御により、吸気絞り弁(19)の開度を絞り、排気(10)を昇温させる。
DPF再生処理では、ポスト噴射に代え、排気管に設けた燃料噴射弁から排気に燃料を噴射する排気管噴射を行ってもよい。
【0031】
図2に示すように、DPF(1)に堆積するPMの堆積量の推定値(F)がDPF(1)の再生終了基準値(FF)を下回ると、制御装置(4)の制御により、DPF(1)の再生処理は終了する。
DPF(1)の再生処理は、DPF(1)の再生処理の開始後、DPF(1)の入口排気温度が所定の再生可能温度を維持した時間が所定の再生終了基準値を越えた場合に終了させてもよい。DPF(1)の入口排気温度は、DOC(2)の出口側排気温度センサ(9)で検出することができる。
なお、排気処理装置は、DPF(1)の出口側排気温度センサ(33)を備え、DPF(1)の出口側排気温度が所定の異常燃焼基準値を越えた場合には、制御装置(4)がDPFの再生処理を緊急終了させる。
【0032】
DOCは、ディーゼルエンジン酸化触媒の略称である。
DOC(2)は、内部に軸長方向に沿う多数のセルが貫通状に並設されたフロースルーハニカム型のものである。DOC(2)には、セル内に酸化触媒成分が担持されている。
DOC(2)を詰らせる未燃焼堆積物は、メイン噴射燃料の未燃燃料とPMの混合物であり、エンジン負荷が小さく、排気温度が低い場合に、DOC(2)に堆積しやすく、特にDOC(2)の入口(2a)を詰らせる。
【0033】
図1に示すように、排気処理装置は、キースイッチ(5)を構成要素として含み、ヒータ(3)はDOC(2)の排気入口(2a)に配置され、図1図2に示すように、エンジン停止後、キースイッチ(5)でエンジン始動操作がなされた場合には、制御装置(4)の制御により、エンジン始動操作から所定時間はエンジン始動処理(S12)を行うことなく、エンジン停止状態を維持したまま、ヒータ(3)に通電(S11)がなされ、その後、エンジン始動処理(S12)が行われるように構成されている。
【0034】
ヒータ(3)はDOC(2)の排気入口(2a)に配置されるため、ヒータ(3)の熱がDOC(2)を詰らせている未燃焼堆積物に伝わりやすいうえ、エンジン停止状態を維持したままヒータ(3)への通電が行われるため、未燃焼堆積物の熱が排気で持ち去られず、DOC(2)を詰まらせている未燃焼堆積物がヒータ(3)の発熱で速やかに燃焼する。
これにより、DOC(2)の詰まりが速やかに解消する。
【0035】
ヒータ(3)は、フロースルーハニカム型のヒータである。ヒータ(3)は、制御装置(4)を介してバッテリ(22)に電気的に接続されている。
ヒータ(3)は、絶縁体を介してDOC(2)の排気入口(2a)に取り付けられている。
ヒータ(3)は、電熱線であってもよい。
【0036】
図1に示すように、排気処理装置は、DOC(2)に詰った未燃焼堆積物の堆積量を推定する推定装置(6)を備えている。
図1図2に示すように、この排気処理装置では、推定装置(6)で推定されたDOC(2)の堆積量推定値(C)がDOC(2)の所定の再生開始基準値(CS)を越えている場合に限り、前記ヒータ(3)の通電がなされるように構成されている。
【0037】
DOC(2)の堆積量が僅かである場合にもヒータ(3)への通電を行うと、ヒータ(3)への通電頻度が高まり、電力消費が過大になるおそれがあるが、図1図2に示すように、この排気処理装置では、推定装置(6)で推定されたDOC(2)の堆積量推定値(C)が所定の基準値(CS)を越えている場合に限り、前記ヒータ(3)の通電がなされるため、電力消費を抑制することができる。
【0038】
図1に示すように、排気処理装置は、コモンレール式燃料噴射装置(7)を構成要素として含み、DOC(2)の入口側排気温度を検出する入口側排気温度センサ(8)と、DOC(2)の出口側排気温度を検出する出口側排気温度センサ(9)を備えている。
前記推定装置(6)は、コモンレール式燃料噴射装置(7)からのポスト噴射が行われるDPF(1)の再生処理時に生じる、DOC(2)の入口側排気温度と出口側排気温度の温度差に基づいて、DOC(2)に詰った未燃焼堆積物の堆積量を推定するように構成されている。
推定装置(6)は、制御装置(4)の演算処理部で構成されている。
【0039】
推定装置(6)は、DOC(2)の詰りの程度に応じて敏感に変化するDOC(2)の出入口の温度差に基づいて、DOC(2)に詰った未燃焼堆積物の堆積量を推定するため、その堆積量を正確に推定することができる。
【0040】
制御装置(4)によるDPFとDOCの再生処理の流れを図2に示す。
ステップ(S1)では、DPF(2)に溜まったPMの堆積量が推定され、次のステップ(S2)に進む。
ステップ(S2)では、DPF(2)の堆積量推定値(F)がDPFの再生開始基準値(FS)を越えたか否かが判定され、判定が否定されている間は、ステップ(S1)とステップ(S2)が繰り返され、判定が肯定されると、次のステップ(S3)に進む。
ステップ(S3)では、DPF(2)の再生処理が実施される。この再生処理では、DOC(2)に流入する排気(10)の温度が活性化温度に達した後に、ポスト噴射が行われる。ステップ(S3)の後は、ステップ(S4)に進む。
ステップ(S4)では、DPF(2)のPM堆積量が推定され、次のステップ(S5)に進む。
【0041】
ステップ(S5)では、DOC(2)の未然堆積物の堆積量が推定され、次のステップ(S6)に進む。
ステップ(S6)では、DOC(2)の堆積量推定値(C)がDOC(2)の再生開始基準値(CS)を越えているか否かが判定され、判定が肯定された場合には、ステップ(S7−1)に進む。判定が否定された場合には、ステップ(S7−2)に進む。
ステップ(S7−1)の場合、ステップ(S6)での肯定の判定が制御装置(4)の不揮発メモリに記憶され、次のステップ(S8)に進む。
ステップ(S7−2)の場合、DPF(1)の堆積量推定値(F)がDPF(1)の再生終了基準値(FF)未満となったか否かが判定され、判定が肯定の場合には、ステップ(S1)に戻り、DPFの再生処理が終了し、判定が否定の場合には、ステップ(S3)に戻り、DPFの再生処理が継続される。
【0042】
ステップ(S8)では、エンジン停止操作があったか否かが判定され、判定が否定されている間は、ステップ(S8)の判定が繰り返され、判定が肯定されると、次のステップ(S9)に進む。
ステップ(S9)では、エンジン停止処理がなされる。
エンジン停止後、キースイッチ(5)がONの位置に投入されると、次のステップ(S10)に進む。
ステップ(S10)では、エンジン始動操作があつたか否かが判定され、判定が否定されている間は、ステップ(S10)の判定が繰り返され、判定が肯定されると、ステップ(S7−1)での記憶に基づいて、次のステップ(S11)に進む。
【0043】
ステップ(S11)では、所定時間ヒータ(3)への通電がなされ、次のステップ(S12)に進む。ステップ(S11)の通電時間は、制御装置(4)のタイマによって予め定められている。
ステップ(S12)では、エンジン始動処理が実施され、ステップ(S1)に戻る。
【0044】
上記実施形態では、上流側排気触媒(102)がDOC(2)であり、下流側排気浄化材(101)がDPF(1)であるものについて説明したが、この発明は上記実施形態に限定されるものではない。
この発明は、上流側排気触媒(102)が上流側DOCであり、下流側排気浄化材(101)が下流側DOCであるもの、上流側排気触媒(102)がDOCであり、下流側排気浄化材(101)がSCR触媒であるもの、上流側排気触媒(102)がSCR触媒であり、下流側排気浄化材(101)がDOCであるもの等にも適用することができる。
【0045】
上流側DOCと下流側DOCに用いるDOCには、前記実施形態で用いたDOC(2)と同じ構造のものを用いることができる。
SCR触媒は、選択触媒還元(Selective Catalytic Reduction)型の触媒の略称で、内部に軸長方向に沿う多数のセルが貫通状に並設されたフロースルーハニカム型のものが用いられ、その排気上流側には尿素水インジェクタが配置され、尿素水を排気中に噴射することにより高温下でアンモニアガスを得、このアンモニアによりNOx(窒素酸化物)を還元し、N(窒素ガス)とHO(水蒸気)を得る。
上流側排気処理部(102)がSCR触媒であり、下流側排気処理部(101)がDOCである場合、このDOCはアンモニア浄化にも用いられる。
【符号の説明】
【0046】
(1)…DPF,(2)…DOC,(2a)…排気入口,(3)…ヒータ,(4)…制御装置,(5)…キースイッチ,(6)…推定装置,(7)…コモンレール式燃料噴射装置,(8)…入口側排気温度センサ,(9)…出口側排気温度センサ,(10)…排気,(S11)…ヒータに通電,(S12)…エンジン始動処理,(C)…DOCの堆積量推定値,(CS)…DOCの再生開始基準値,(101)…下流側排気浄化材,(102)…上流側排気触媒,(102a)…排気入口,(107)…燃料噴射装置。
図1
図2