【実施例】
【0037】
以下、実施例等に基づいて本発明をより具体的に説明する。
【0038】
〔実施例1:SBL88株のセロトニン分泌促進作用〕
<菌体処理物の調製>
SBL88株をMRS液体培地10mL中で、1〜2日間、30℃、静置培養した。培養液を10,000rpmで10分間遠心分離し、菌体の沈殿を滅菌生理食塩水(10mL)で2回洗浄した。得られた菌体は、5mLの滅菌水に懸濁し、凍結乾燥させた。凍結乾燥した菌体を10mg/mLになるように滅菌水に懸濁した後、105℃で10分間加熱処理し、菌体溶液を得た。
【0039】
<大腸細胞COLO−320DMの培養>
COLO−320DM(JCRB0225)は(財)ヒューマンサイエンス振興財団より購入した。10%FBS含有D’MEM培地を使用し、5%CO
2インキュベーター内で、COLO−320DMを3日おきに継代しながら培養した。
【0040】
<COLO−320DMのセロトニン分泌促進アッセイ>
10%FBS含有D’MEM培地で3日間培養したCOLO−320DM培養液を、1,000rpmで5分間遠心分離して細胞を回収した。回収した細胞を、約2×10
5cells/mLとなるように無血清RPMI1640培地に懸濁して24穴マイクロプレートに播種した後(0.5mL/ウェル)、菌体の濃度が100質量ppmとなるように菌体溶液を添加した(1%添加)。5%CO
2インキュベーター内で2時間培養した後、培養液を遠心分離して菌体及び細胞を除去した。得られた上清中のセロトニン濃度を、セロトニンEIAキット(品番900−175、コスモバイオ)を使用して測定した。菌体を添加せずに同様の操作を行った対照(菌体非添加)との比較から、SBL88株のセロトニン分泌促進作用を評価した。
【0041】
図2に、セロトニン分泌促進アッセイの結果を示す。
図2中、Blankは、菌体非添加のウェル中のセロトニン濃度(nM/ウェル)の測定結果を示す。
図2から明らかなように、SBL88株の菌体を添加することによって、COLO−320DMのセロトニン分泌が強く促進された(
図2)。すなわち、SBL88株は、セロトニン分泌を促進する作用を有する。
【0042】
〔実施例2:SBL88株の自律神経への作用〕
SBL88株の胃迷走(副交感)神経活動、皮膚動脈交感神経活動及び褐色脂肪組織交感神経活動への作用を解析した。
【0043】
<菌体処理物の調製>
SBL88株を培地(マルトース2質量%,酵母エキス1.4質量%,酢酸ナトリウム0.5質量%,硫酸マンガン0.005質量%,pH6.5〜7.0)に植菌し、30℃で1日間静置培養した。得られた培養液(約8×10
8cfu/mL)を、8,000rpmで10分間遠心分離して菌体を回収した。回収した菌体を蒸留水に懸濁し、8,000rpmで10分遠心分離して菌体を回収した。この操作を2度繰り返した後、蒸留水に懸濁した菌体を105℃で10分間加熱処理した後、凍結乾燥して加熱処理菌体粉末を得た。
【0044】
<胃迷走神経活動、皮膚動脈交感神経活動及び褐色脂肪組織交感神経活動の測定>
12時間毎の明暗周期(8時〜20時まで点灯)下で、24℃の恒温動物室にて1週間以上飼育した体重約300gのWistar系雄ラット(約9週齢)を試験に使用した。試験当日は3時間絶食させた後、ウレタン麻酔し、十二指腸に菌体投与用のカニューレを挿入した。その後、胃迷走神経の遠心枝、右大腿部の皮膚動脈交感神経の遠心枝、又は背甲間の褐色脂肪組織交感神経の遠心枝を銀電極で吊り上げて、これらの神経の電気活動を測定した。測定値が落ち着いた段階(13時頃)でカニューレを使用して、加熱処理菌体粉末の懸濁液1mL(8×10
7cfu/mL)を十二指腸に投与し、胃迷走神経活動、皮膚動脈交感神経活動又は褐色脂肪組織交感神経活動の変化を測定した。対照として、加熱処理菌体粉末の懸濁液1mLに代えて水1mLを十二指腸に投与し、これらの神経活動の変化を測定した。測定の間、体温維持装置で体温(ラット直腸温)を35.0±0.5℃に保った。神経活動の測定データは、5分間毎の5秒あたりの発火頻度(pulse/5秒)の平均値をとり、菌体(又は水)投与前5分間の平均値(0分値)を100%とした百分率で表した。なお、測定データから平均値±標準誤差を計算すると共に、群としての統計学的有意差の検定を、反復測定分散分析(ANOVA with repeated measures)により行った。また、菌体(又は水)投与前(0分)の電気活動の測定値(絶対値)間の統計学的有意差の検定は、マン・ホイットニーのU検定(Mann−Whitney U−test)により行った。なお、各群それぞれ3匹のラットを用いた。
【0045】
図3に、胃迷走神経活動(gastric vagal nerve acitivity:GVNA)の測定結果を示す。SBL88株の菌体を投与した群(以下「SBL88群」という。)では、投与直後からGVNAが上昇し続け、投与60分後には325.8%に達した(
図3)。一方、対照として水を投与した群(以下「対照群」という。)では、GVNAはほとんど変化せず、最低値97.6%(投与15分後)及び最高値111.8%(投与55分後)の間でほぼ一定の値を維持した(
図3)。
【0046】
投与5分後から90分後までの間のGVNAを、対照群及びSBL88群の2群間で分散分析(ANOVA)法により統計学的に検討した結果、SBL88群のGVNAは対照群のGVNAより有意に(P<0.0005,F=31.0(反復測定分散分析))高かった。また、これら2群の菌体(又は水)投与前(0分)の電気活動は、対照群が130±18、SBL88群が253±32であった。マン・ホイットニーのU検定の結果、これら2群の菌体(又は水)投与前(0分)の電気活動には、有意差は認められなかった。
【0047】
すなわち、SBL88株は胃迷走(副交感)神経の活動を亢進する作用を有する。この胃迷走神経亢進作用により、整腸効果、並びに便通及び食欲を促進する効果が期待できる。
【0048】
図4に、皮膚動脈交感神経活動(cutaneous arteral sympathetic nerve acitivity:CASNA)の測定結果を示す。SBL88群は、投与直後CASNAがやや上昇し、投与5分後に最高値124.4%に達したものの、その後はCASNAが低下し続け、投与60分後には63.3%に達した(
図4)。一方、対照群では、投与25分後以降CASNAが徐々に上昇し、投与60分後には122.4%に達した(
図4)。
【0049】
投与5分後から90分後までの間のCASNAを、対照群及びSBL88群の2群間で、ANOVA法により統計学的に検討した結果、SBL88群のCASNAは対照群のCASNAより有意に(P<0.0005,F=29.0(反復測定分散分析))低かった。また、これら2群の菌体(又は水)投与前(0分)の電気活動は、対照群が316±70、SBL88群が250±4であった。マン・ホイットニーのU検定の結果、これら2群の菌体(又は水)投与前(0分)の電気活動には、有意差は認められなかった。
【0050】
すなわち、SBL88株は皮膚動脈交感神経の活動を抑制する作用を有する(投与60分後において、投与前の約60%にまで神経活動を抑制した)。この皮膚動脈交感神経抑制作用により、皮膚への血流を増加させて皮膚の保湿度を高めるという美容効果、及び入眠を促進する効果が期待できる。
【0051】
図5に、褐色脂肪組織交感神経活動(brown adipose tissue sympathetic nerve acitivity:BAT−SNA)の測定結果を示す。SBL88群は、投与直後からBAT−SNAが上昇し続け、投与55分後には167.2%に達した(
図5)。一方、対照群では、BAT−SNAはほとんど変化せず、最低値91.0%(投与15分後)及び最高値101.1%(投与55分後)の間でほぼ一定の値を維持した(
図5)。
【0052】
投与5分後から90分後までの間のBAT−SNAを、対照群及びSBL88群の2群間で、ANOVA法により統計学的に検討した結果、SBL88群のBAT−SNAは対照群のBAT−SNAより有意に(P<0.0005,F=48.6(反復測定分散分析))高かった。また、これら2群の菌体(又は水)投与前(0分)の電気活動は、対照群が183±19、SBL88群が243±9であった。マン・ホイットニーのU検定の結果、これら2群の菌体(又は水)投与前(0分)の電気活動には、有意差は認められなかった。
【0053】
すなわち、SBL88株は褐色脂肪組織交感神経の活動を亢進する作用を有する。この褐色脂肪組織交感神経亢進作用により、褐色脂肪組織でのエネルギー消費及び熱産生を高める効果が期待できる。
【0054】
〔参考例1:胃迷走神経亢進作用に対するセロトニン受容体阻害剤の影響〕
SBL88株の胃迷走神経亢進作用に関して、セロトニン受容体阻害剤による影響を解析した。
【0055】
<菌体処理物の調製>
実施例2と同様にして、SBL88株の加熱処理菌体粉末を得た。
【0056】
<セロトニン受容体阻害剤の影響>
12時間毎の明暗周期(8時〜20時まで点灯)下で、24℃の恒温動物室にて1週間以上飼育した体重約300gのWistar系雄ラット(約9週齢)を試験に使用した。試験当日は3時間絶食させた後、ウレタン麻酔し、十二指腸に菌体投与用のカニューレを挿入した。その後、胃迷走神経の遠心枝を銀電極で吊り上げて、胃迷走神経の電気活動を測定した。測定値が落ち着いた段階(13時頃)でカニューレを使用して、加熱処理菌体粉末の懸濁液1mL(8×10
7cfu/mL)を十二指腸に投与した。なお、菌体投与の5分前に、ウレタン麻酔下で、頚静脈にカニューレを挿入し、0.1mLのセロトニン受容体阻害剤(後述のセロトニン受容体アンタゴニスト)溶液、又は当該溶液の溶媒を静脈内に投与した。なお、各群それぞれ1匹のラットを用いた。
【0057】
セロトニン受容体阻害剤:
Ketanserine(シグマ社製,5−HT2Aアンタゴニスト:生理食塩水に溶解させ、10μg/kgを静脈投与)
Granisetron(シグマ社製,5−HT3アンタゴニスト:生理食塩水に溶解させ、10μg/kgを静脈投与)
GR113808(シグマ社製,5−HT4アンタゴニスト:ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させ、10μg/kg及び100μg/kgを静脈投与)
【0058】
測定の間、体温維持装置で体温(ラット直腸温)を35.0±0.5℃に保った。神経活動の測定データは、5分間毎の5秒あたりの発火頻度(pulse/5秒)の平均値をとり、菌体投与前5分間の平均値(0分値)を100%とした百分率で表した。
【0059】
図6に、胃迷走神経活動(GVNA)の測定結果を示す。セロトニン受容体5−HT3に対するアンタゴニストであるGranisetronを直前に投与することで、SBL88株の胃迷走神経亢進作用が顕著に阻害された(
図6(A))。また、セロトニン受容体5−HT4に対するアンタゴニストであるGR113808を高濃度(100μg/kg)で投与した場合にも同様に、胃迷走神経亢進作用が阻害された(
図6(B))。この結果は、SBL88株の胃迷走神経亢進作用は、セロトニンを介した作用であることを示している。
【0060】
また、5−HT3受容体は抹消神経及び最終野で、5−HT4受容体は海馬及び胃腸管で、5−HT2A受容体は血小板、平滑筋及び小脳皮質で発現していることが知られている。これらセロトニン受容体の発現部位と、セロトニン受容体阻害剤による胃迷走神経亢進作用の阻害(
図6)との関係から、SBL88株の投与により腸管上皮細胞(例:EC細胞等)がセロトニンを分泌し(SBL88株のセロトニン分泌促進作用)、分泌されたセロトニンにより腸管の末梢神経(5−HT3受容体)が興奮して脳が刺激を受け、脳から各臓器に繋がる自律神経系へ指令が出されるものと考えられる。
【0061】
〔実施例3:他の乳酸菌株によるセロトニン分泌促進作用〕
各種乳酸菌及びビフィズス菌の菌体調製は、実施例1の<菌体処理物の調製>と同様に行った。また、それら菌体調製液について、<COLO−320DMのセロトニン分泌促進アッセイ>を実施例1と同様に行った。その結果を
図7及び8並びに表1及び2に示した。表1及び2中、セロトニン濃度が0.0のものは、測定値が検出限界(3nM/ウェル以下)以下であったことを意味する。
【0062】
図7及び8中の略号と乳酸菌及びビフィズス菌との対応を表1及び2に示す。
【表1】
【表2】
【0063】
ラクトバチラス・デルブリッキィー、ラクトバチラス・アシドフィルス(acidophilus)、ラクトバチラス・ガセリ(gasseri)、ラクトバチラス・ジョンソニー(johnsonii)等のラクトバチラス・デルブリッキィーグループに属する乳酸菌等には、セロトニン分泌促進作用は認められなかった(
図7)。
【0064】
一方、ラクトバチラス・デルブリッキィーグループに属する乳酸菌以外のラクトバチラス属に属する乳酸菌には、セロトニン分泌促進作用が認められた(
図8)。特に、SBL88株は、強いセロトニン分泌促進作用を有していた(
図8)。
【0065】
〔実施例4:SBL88株の血流量への作用〕
<菌体処理物の調製>
実施例2と同様にして、SBL88株の加熱処理菌体粉末を得た。
【0066】
<血流量の測定>
12時間毎の明暗周期(8時〜20時まで点灯)下で、24℃の恒温動物室にて1週間飼育した体重約300gのWistar系雄ラット(約9週齢)を試験に使用した。試験当日は3時間絶食させた後、ウレタン麻酔し、十二指腸に菌体投与用のカニューレを挿入した。その後、ラットの尾の背部表面の起始部に近い所にレーザー血流計(ALF21、アドバンス社製)のプローブ(径1cm)を外科用テープで固定し、血流の測定を開始した。測定値が安定した段階でカニューレを使用して、加熱処理菌体粉末の懸濁液1mL(8×10
7cfu/mL)又は水1mLを十二指腸に投与した。なお、各群それぞれ4匹のラットを用いた。
【0067】
血流量のデータはPower−Lab analog−to−digital converterを用いて採取した。得られたデータから5分間毎の血流量(mL/分/組織100g)の平均値をとり、加熱処理菌体粉末の投与前5分間の平均値(0分値)を100%とした百分率で表した。なお、測定データから平均値±標準誤差を計算すると共に、群としての統計学的有意差の検定を、反復測定分散分析により行った。また、菌体(又は水)投与前(0分)の血流量の測定値(絶対値)間の統計学的有意差の検定は、マン・ホイットニーのU検定により行った。
【0068】
図9に、血流量(ラットの尾の皮膚血流量)の測定結果を示す。SBL88株の菌体を投与した群(以下「SBL88群」という。)では、投与直後に血流量がやや上昇し、投与10分後には最高値の114.0%に達した(
図9)。その後、血流量は徐々に低下したが、投与60分後の血流量は94.8%であった(
図9)。一方、対照として水を投与した群(以下「対照群」という。)では、投与直後から血流量が徐々に低下し、投与30分後には71.7%にまで減少した。その後、血流量はゆっくりと低下し、投与55分後には、67.7%の最低値に達した(
図9)。
【0069】
投与5分後から60分後までの間の血流量を、対照群及びSBL88群の2群間で分散分析(ANOVA)法により統計学的に検討した結果、SBL88群の血流量は対照群の血流量より有意に(P<0.0005,F=191(反復測定分散分析))高かった。また、これら2群の菌体(又は水)投与前(0分)の血流量は、対照群が4.52±0.7[mL/分/組織100g]、SBL88群が3.62±0.5[mL/分/組織100g]であった。マン・ホイットニーのU検定の結果、これら2群の菌体(又は水)投与前(0分)の血流量には、有意差は認められなかった。
【0070】
実施例4の結果により、SBL88株による血流量増加作用(血流促進作用)が確認された。
【0071】
〔実施例5:SBL88株の経皮水分蒸散量への作用〕
<菌体処理物の調製>
実施例2と同様にして、SBL88株の加熱処理菌体粉末を得た。
【0072】
<経皮水分蒸散量の測定>
12時間毎の明暗周期(8時〜20時まで点灯)下で、24℃の恒温動物室にて1週間飼育した体重約300gの雄性HWYヘアレスラットを試験に使用した。試験期間中、ラットには、加熱処理菌体粉末の懸濁液(8×10
7cfu/mL)又は水を自由摂取させた。毎日13時に、背中の部位における経皮水分蒸散量(transepidermal water loss:TEWL)を、ケタミン麻酔下で、VapoMeter Delfine,Finland)を用いて測定した。なお、各群それぞれ5匹のラットを用いた。
【0073】
得られたデータから経皮水分蒸散量の平均値をとり、加熱処理菌体粉末の懸濁液、又は水の自由摂取開始前(0日目)の平均値を100%とした百分率で表した。なお、測定データから平均値±標準誤差を計算すると共に、群としての統計学的有意差の検定を、反復測定分散分析により行った。また、自由摂取開始前(0日目)の経皮水分蒸散量の測定値(絶対値)間の統計学的有意差の検定は、マン・ホイットニーのU検定により行った。
【0074】
図10に、経皮水分蒸散量の測定結果を示す。対照として水を自由摂取させた群(以下「対照群」という。)では、TEWL値はわずかに低下したもののほとんど変化せず、試験開始から3日目の値が97.3%であった(
図10)。これに対し、SBL88株の菌体懸濁液を自由摂取させた群(以下「SBL88群」という。)では、TEWL値が徐々に低下していき、試験開始から3日目には、76.4%にまで低下した(
図10)。
【0075】
自由摂取開後1日目から3日目までの間のTEWL値を、対照群及びSBL88群の2群間で分散分析(ANOVA)法により統計学的に検討した結果、SBL88群のTEWL値は対照群のTEWLの値より有意に(P<0.0005,F=46.1(反復測定分散分析))低かった。また、これら2群の自由摂取開始前(0日目)の経皮水分蒸散量は、対照群が11.1±0.2[g/m
2/時間]、SBL88群が11.7±0.4[g/m
2/時間]であった。マン・ホイットニーのU検定の結果、これら2群の自由摂取開始前(0日目)の経皮水分蒸散量には、有意差は認められなかった。
【0076】
実施例5の結果により、SBL88株による経皮水分蒸散量低下作用(経皮水分蒸散抑制作用)が確認された。
【0077】
〔参考例2:皮膚動脈交感神経抑制作用に対するセロトニン受容体阻害剤の影響〕
SBL88株の皮膚動脈交感神経抑制作用に関して、セロトニン受容体阻害剤による影響を解析した。
【0078】
<菌体処理物の調製>
実施例2と同様にして、SBL88株の加熱処理菌体粉末を得た。
【0079】
<セロトニン受容体阻害剤の影響>
12時間毎の明暗周期(8時〜20時まで点灯)下で、24℃の恒温動物室にて1週間以上飼育した体重約300gのWistar系雄ラット(約9週齢)を試験に使用した。試験当日は3時間絶食させた後、ウレタン麻酔し、頚静脈及び十二指腸に菌体投与用のカニーレを挿入した。その後、左大腿部の皮膚動脈交感神経の遠心枝を銀電極で吊り上げて、皮膚動脈交感神経の電気活動を測定した。測定値が落ち着いた段階(13時頃)で、0.1mLのセロトニン受容体阻害剤(上述のGranisetron)又は0.1mLの生理食塩水を静脈内に投与した。投与から5分後に加熱処理菌体粉末の懸濁液(8×10
7cfu/ml)を十二指腸に投与した。なお、各群それぞれ3匹のラットを用いた。
【0080】
測定の間、体温維持装置で体温(ラット直腸温)を35.0±0.5℃に保った。神経活動のデータは、5分間毎の5秒あたりの発火頻度(pulse/5秒)の平均値をとり、菌体投与前5分間の平均値(0分値)を100%とした百分率で表した。なお、測定データから平均値±標準誤差を計算すると共に、群としての統計学的有意差の検定を、反復測定分散分析により行った。また、菌体投与前(0分)の電気活動の絶対値の統計学的有意差の検定は、マン・ホイットニーのU検定により行った。
【0081】
図11に、皮膚動脈交感神経活動(cutaneous arterial sympathetic nerve activity:CASNA)の測定結果を示す。生理食塩水のみを直前に投与した群(以下、「生理食塩水+SBL88群」という。)では、菌体投与直後からCASNAは徐々に減少していき、菌体投与55分後には最低値の53.5%に達した(
図11)。一方、セロトニン受容体5−HT3に対するアンタゴニストであるGranisetronを直前に投与した群(以下、「Granisetron+SBL88群」という。)では、CASNAは、菌体投与10分後に一時的に95.8%まで減少したものの、その後は徐々に上昇し、菌体投与60分後には128.1%に達し、SBL88株の皮膚動脈交感神経抑制作用が顕著に阻害された(
図11)。
【0082】
菌体投与5分後から60分後までの間のCASNAを、生理食塩水+SBL88群及びGranisetron+SBL88群の2群間で分散分析法により統計学的に検討した結果、Granisetron+SBL88群のCASNAは、生理食塩水+SBL88群のCASNAより有意に(P<0.0005,F=45.8(反復測定分散分析))高かった。また、これら2群の菌体投与前の電気活動(0分値)は、生理食塩水+SBL88群が211±53(spikes/5秒)、Granisetron+SBL88群が259±11(spikes/5秒)であった。マン・ホイットニーのU検定の結果、これら2群の菌体投与前の電気活動(0分値)には、有意差は認められなかった。
【0083】
この結果は、SBL88株の皮膚動脈交感神経抑制作用は、セロトニンを介した作用であることを示している。