特許第6664812号(P6664812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6664812
(24)【登録日】2020年2月21日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】仮想資源自動選択システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 12/70 20130101AFI20200302BHJP
   G06F 9/50 20060101ALI20200302BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20200302BHJP
【FI】
   H04L12/70 D
   G06F9/50 120Z
   G06N20/00 130
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-94780(P2016-94780)
(22)【出願日】2016年5月10日
(65)【公開番号】特開2017-204712(P2017-204712A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2019年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 高也
(72)【発明者】
【氏名】原井 洋明
【審査官】 鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2016/0094395(US,A1)
【文献】 特表2015−515037(JP,A)
【文献】 特開2003−208594(JP,A)
【文献】 特開2015−185149(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/125781(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 12/00−12/26
H04L 12/50−12/955
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
仮想ネットワーク構築時に割り当てる仮想資源を自動的に選択する仮想資源自動選択システムにおいて、
2以上のパラメータで構成される複数の訓練データに対して、仮想資源の容量に応じて予め複数にランク分けされた仮想資源クラスタの分類境界を当該2以上のパラメータの関係において設定するための分類境界設定手段と、
新たに上記仮想ネットワークの構築要求を受けた場合に、その構築すべき仮想ネットワークに要求される上記2以上のパラメータからなる入力情報を受け付ける入力情報受付手段と、
上記分類境界設定手段により設定された分類境界を参照することにより、上記入力情報受付手段により受け付けられた入力情報を構成する2以上のパラメータが何れの仮想資源クラスタに属するかを判定するクラスタ判定手段と、
上記クラスタ判定手段により判定された仮想資源クラスタに応じた仮想資源の容量を、上記構築要求を受けた仮想ネットワークに割り当てる割当手段と、
上記割当手段により割り当てられた仮想資源に基づいて構築された仮想ネットワークからネットワーク性能情報を取得する性能情報取得手段と、
上記性能情報取得手段により取得されたネットワーク性能情報が所望のサービス品質を満たしているか否かを判定するサービス品質判定手段とを備え、
上記分類境界設定手段は、上記サービス品質判定手段による判定結果に応じて上記分類境界を更新すること
を特徴とする仮想資源自動選択システム。
【請求項2】
上記分類境界設定手段は、2つのパラメータで構成される複数の訓練データが、各パラメータをそれぞれ座標軸としてプロットされた二次元座標を予め取得するとともに、上記各訓練データが割り当てられていた仮想資源の容量に基づいて当該二次元座標上に上記分類境界を設定すること
を特徴とする請求項1記載の仮想資源自動選択システム。
【請求項3】
イベントの発生の有無を検出するイベント発生検出手段を更に備え、
上記分類境界設定手段は、上記イベントが発生した場合に要求されるアプリケーションの品質レベルに応じたイベント発生用の仮想資源クラスタの分類境界を予め設定しておき、
クラスタ判定手段は、上記イベント発生検出手段により上記イベントの発生が検出された場合に、イベント発生用の仮想資源クラスタの分類境界にシフトさせた上で上記判定を行うこと
を特徴とする請求項1又は2記載の仮想資源自動選択システム。
【請求項4】
上記分類境界設定手段は、上記入力情報受付手段により受け付けられた入力情報を構成する2以上のパラメータと、上記割当手段により割り当てられた仮想資源の容量とに基づいて新たに訓練データを生成すると共に、その新たに生成した訓練データと、上記サービス品質判定手段による判定結果とに基づいて上記分類境界を更新すること
を特徴とする請求項1〜3のうち何れか1項記載の仮想資源自動選択システム。
【請求項5】
上記割当手段は、上記サービス品質判定手段により取得されたネットワーク性能情報が所望のサービス品質を満たしていない旨を判定された場合には、上記分類境界設定手段による上記分類境界の更新後、上記クラスタ判定手段により判定された仮想資源クラスタに応じた仮想資源の容量を上記構築要求を受けた仮想ネットワークに割り当てること
を特徴とする請求項1〜4のうち何れか1項記載の仮想資源自動選択システム。
【請求項6】
仮想ネットワーク構築時に割り当てる仮想資源を自動的に選択する仮想資源自動選択方法において、
2以上のパラメータで構成される複数の訓練データに対して、仮想資源の容量に応じて予め複数にランク分けされた仮想資源クラスタの分類境界を当該2以上のパラメータの関係において設定する分類境界設定ステップと、
新たに上記仮想ネットワークの構築要求を受けた場合に、その構築すべき仮想ネットワークに要求される上記2以上のパラメータからなる入力情報を受け付ける入力情報受付ステップと、
上記分類境界設定ステップにおいて設定した分類境界を参照することにより、上記入力情報受付ステップにおいて受け付けた入力情報を構成する2以上のパラメータが何れの仮想資源クラスタに属するかを判定するクラスタ判定ステップと、
上記クラスタ判定ステップにおいて判定した仮想資源クラスタに応じた仮想資源の容量を、上記構築要求を受けた仮想ネットワークに割り当てる割当ステップと、
上記割当ステップにおいて割り当てた仮想資源に基づいて構築された仮想ネットワークからネットワーク性能情報を取得する性能情報取得ステップと、
上記性能情報取得ステップにおいて取得したネットワーク性能情報が所望のサービス品質を満たしているか否かを判定するサービス品質判定ステップとを有し、
上記分類境界設定ステップでは、上記サービス品質判定ステップにおける判定結果に応じて上記分類境界を更新すること
を特徴とする仮想資源自動選択方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮想ネットワーク構築時に割り当てる仮想資源を自動的に選択する上で好適な仮想資源自動選択及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年において、ネットワークやその機能の仮想化技術の研究が盛んに行われている。このネットワーク仮想化技術では、仮想ネットワークサービス提供者(Virtual Network Service Provider: VNSP)からの資源要求に応じて、物理インフラ提供者(Infrastructure Provider:InP)が各仮想ネットワークに対して異なる物理資源を割り当てる。これにより、仮想ネットワーク同士を完全に分離することができ、各VNSPは、共通の物理インフラ上に構築された仮想ネットワークの資源を用いて個々にサービス提供及び資源管理を行うことができる。
【0003】
一方、IoT(Internet of Things)環境の急速な普及により、例えばパーソナルコンピュータ(PC)、スマートフォン、車両、センサ、ロボットを始めとしたデータ生成機器やサービス品質(QoS)要求がますます多種多様化していくことが予想される。特にモバイル端末の増加に伴い、VNSPにとって、突発的に変動するネットワーク利用環境(トラヒック負荷、障害や緊急事例の発生等)や多様化するサービス要求をエッジコンピューティング基盤等で自動認知し、各仮想ネットワークに対して状況に適した資源を自動的かつ迅速に選択、確保する仕組みが必要となる。
【0004】
しかしながら、現在のネットワーク構築は、資源割当、識別番号割当、コンフィグレーション、管理等を始め、手動によるところが多い。ネットワーク設定時間や人為的ミス等を減らすために、それら処理の自動化を進める必要がある。
【0005】
このため、従来より仮想ネットワークへの資源割当方法が提案されており、中でも非特許文献1では、OpenFlowのフレームワーク(FlowSpace)に基づく方法が提案されている。また非特許文献2には、数理計画法に基づく方法が、更に非特許文献3にはルータの地理的な位置に基づいた資源割当方法が提案されている。しかしながら、これら非特許文献1−3に開示されている資源割当方法によれば、仮想ネットワーク構築要求に対する仮想資源選択のポリシーが固定的である。換言すれば、サービス要求に対してどのような仮想資源をどのくらい割り当てるかを決定するための基準が固定的であるため、突発的なネットワークの利用環境変動が生じる場合には、そのポリシーがサービス品質保証や資源有効利用の点で常に最適とは限らない。サービス品質保証のためには、ネットワーク利用環境変化の度に、人手や複雑な計算処理を通じて仮想資源選択ポリシーを決定し変更していくこととなれば、それこそ処理時間が長期化し、労力の負担も増大するため、実現が困難なものとなる。
【0006】
また、物流における事故による交通渋滞、特定地域の警備強化、自然災害や建造物倒壊、エンタテイメントのイベント等が急遽発生した際に、それらを実現する上で必要な量の資源が不足しているために、サービス品質が保証されなくなるという問題も生じる。これに加えて、元々サービス品質要求レベルの高い仮想ネットワーク構築要求に対しては、状況に応じた適切な仮想資源選択や確保が自動的かつ高速に行われることで、サービス品質を保証する必要がある。即ちVNSPは、緊急事例やトラヒック急変動が発生した場合においても、仮想ネットワークのサービス要求や利用環境に応じた適切な仮想資源選択を行うことができるように、プロアクティブな制御を実現できるようにする必要がある。
【0007】
これに加えて、上述した非特許文献1〜3の開示技術によれば、ネットワークでのノードおよびリンクの資源割当に関する技術が中心であり、エッジネットワーク、コアネットワーク、データセンタで構成された大規模ネットワークにおいて、データ処理を行うサーバ等のコンピュータ資源も含めた資源選択、割当については殆ど言及されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】P. Skoldstrom and K. Yedavalli, "Network Virtualization and Resource Allocation in OpenFlow-based Wide Area Networks," IEEE ICC2012, Ottawa, Canada, pp.6622-6626, Jun. 2012.
【非特許文献2】F. Esposito and I. Matta, "A Decomposition-Based Architecture for Distributed Virtual Network Embedding," ACM SIGCOMM Workshop on Distributed Cloud Computing (DCC'14), Chicago, IL, USA, pp.53-58, Aug. 2014.
【非特許文献3】X. Liu, P. Juluri and D. Medhi, "An Experimental Study on Dynamic Network Reconfiguration in a Virtualized Network Environment Using Autonomic Management," IFIP/IEEE IM2013, Ghent, Belgium, pp.616-622, May 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、アプリケーションサービス品質レベル要求やトラヒック負荷、障害状況等に基づいて、仮想ネットワークのネットワーク資源およびコンピュータ資源(以下、双方をまとめて仮想資源という。)を選択する際に、機械学習の1つである教師あり学習の分類手法を適用することで効率的な選択が可能な仮想資源自動選択システム及び方法を提供する。これにより、データ処理を行うサーバ等のコンピュータ資源も含めた資源選択や割当を迅速に行うことができ、緊急事例やトラヒック急変動が発生した場合においても、仮想ネットワークのサービス要求や利用環境に応じた適切な仮想資源選択を行うことを可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述したように、エッジネットワーク、コアネットワーク、データセンタを跨ぐ大規模ネットワーク上で仮想ネットワークを構築する際に、突発的な緊急事例発生やトラヒック変動等のネットワーク利用環境変化が生じても、サービス品質要求レベルの高い仮想ネットワークに対して適切な資源を自動的に選択し、サービス品質を保証するため、本発明者らは鋭意検討を行った。その結果、各仮想ネットワークのための仮想資源を自動選択するためのポリシー設定に対して,機械学習の1つである教師あり学習を使用する仮想資源自動選択システムを発明した。即ち、新たな仮想ネットワーク構築の際には、事前に学習により自動決定された仮想資源選択ポリシーに従って仮想資源を選択する。また突発的な緊急事例発生や仮想ネットワークの品質性能監視結果に応じて再学習を自律的に実行する。これにより、仮想資源選択ポリシーを自動的かつ適応的に変更することが可能となり、サービス品質要求レベルの高い新たな仮想ネットワーク構築要求に対して、サービス品質を保証可能な資源を優先的に提供することができる。これに伴い、資源不足をプロアクティブに緩和し、状況に応じて適切な資源の確保を可能とするものである。
【0011】
第1発明に係る仮想資源自動選択システムは、仮想ネットワーク構築時に割り当てる仮想資源を自動的に選択する仮想資源自動選択システムにおいて、2以上のパラメータで構成される複数の訓練データに対して、仮想資源の容量に応じて予め複数にランク分けされた仮想資源クラスタの分類境界を当該2以上のパラメータの関係において設定するための分類境界設定手段と、新たに上記仮想ネットワークの構築要求を受けた場合に、その構築すべき仮想ネットワークに要求される上記2以上のパラメータからなる入力情報を受け付ける入力情報受付手段と、上記分類境界設定手段により設定された分類境界を参照することにより、上記入力情報受付手段により受け付けられた入力情報を構成する2以上のパラメータが何れの仮想資源クラスタに属するかを判定するクラスタ判定手段と、上記クラスタ判定手段により判定された仮想資源クラスタに応じた仮想資源の容量を、上記構築要求を受けた仮想ネットワークに割り当てる割当手段と、上記割当手段により割り当てられた仮想資源に基づいて構築された仮想ネットワークからネットワーク性能情報を取得する性能情報取得手段と、上記性能情報取得手段により取得されたネットワーク性能情報が所望のサービス品質を満たしているか否かを判定するサービス品質判定手段とを備え、上記分類境界設定手段は、上記サービス品質判定手段による判定結果に応じて上記分類境界を更新することを特徴とする。
【0012】
第2発明に係る仮想資源自動選択システムは、第1発明において、上記分類境界設定手段は、2つのパラメータで構成される複数の訓練データが、各パラメータをそれぞれ座標軸としてプロットされた二次元座標を予め取得するとともに、上記各訓練データが割り当てられていた仮想資源の容量に基づいて当該二次元座標上に上記分類境界を設定することを特徴とする。
【0013】
第3発明に係る仮想資源自動選択システムは、第1又は第2発明において、イベントの発生の有無を検出するイベント発生検出手段を更に備え、上記分類境界設定手段は、上記イベントが発生した場合に要求されるアプリケーションの品質レベルに応じたイベント発生用の仮想資源クラスタの分類境界を予め設定しておき、クラスタ判定手段は、上記イベント発生検出手段により上記イベントの発生が検出された場合に、イベント発生用の仮想資源クラスタの分類境界にシフトさせた上で上記判定を行うことを特徴とする。
【0014】
第4発明に係る仮想資源自動選択システムは、第1〜第3発明の何れかにおいて、上記分類境界設定手段は、上記入力情報受付手段により受け付けられた入力情報を構成する2以上のパラメータと、上記割当手段により割り当てられた仮想資源の容量とに基づいて新たに訓練データを生成すると共に、その新たに生成した訓練データと、上記サービス品質判定手段による判定結果とに基づいて上記分類境界を更新することを特徴とする。
【0015】
第5発明に係る仮想資源自動選択システムは、第1〜第4発明の何れかにおいて、上記割当手段は、上記サービス品質判定手段により取得されたネットワーク性能情報が所望のサービス品質を満たしていない旨を判定された場合には、上記分類境界設定手段による上記分類境界の更新後、上記クラスタ判定手段により判定された仮想資源クラスタに応じた仮想資源の容量を上記構築要求を受けた仮想ネットワークに割り当てることを特徴とする。
【0016】
第6発明に係る仮想資源自動選択方法は、仮想ネットワーク構築時に割り当てる仮想資源を自動的に選択する仮想資源自動選択方法において、2以上のパラメータで構成される複数の訓練データに対して、仮想資源の容量に応じて予め複数にランク分けされた仮想資源クラスタの分類境界を当該2以上のパラメータの関係において設定する分類境界設定ステップと、新たに上記仮想ネットワークの構築要求を受けた場合に、その構築すべき仮想ネットワークに要求される上記2以上のパラメータからなる入力情報を受け付ける入力情報受付ステップと、上記分類境界設定ステップにおいて設定した分類境界を参照することにより、上記入力情報受付ステップにおいて受け付けた入力情報を構成する2以上のパラメータが何れの仮想資源クラスタに属するかを判定するクラスタ判定ステップと、上記クラスタ判定ステップにおいて判定した仮想資源クラスタに応じた仮想資源の容量を、上記構築要求を受けた仮想ネットワークに割り当てる割当ステップと、上記割当ステップにおいて割り当てた仮想資源に基づいて構築された仮想ネットワークからネットワーク性能情報を取得する性能情報取得ステップと、上記性能情報取得ステップにおいて取得したネットワーク性能情報が所望のサービス品質を満たしているか否かを判定するサービス品質判定ステップとを有し、上記分類境界設定ステップでは、上記サービス品質判定ステップにおける判定結果に応じて上記分類境界を更新することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上述した構成からなる本発明によれば、新たな仮想ネットワーク構築の際には、学習により自動決定された仮想資源選択ポリシーに従って仮想資源を即座に選択することができる。また突発的な緊急事例発生やトラヒック変動等のネットワーク利用環境変動が生じた時、それをデータ解析や仮想ネットワーク品質性能監視によって認知し、その結果に応じて再学習を自律的に実行することができる。これにより本発明によれば、仮想資源選択ポリシーを自動的かつ適応的に更新することができる。
【0018】
本発明によれば、突発的なネットワークの利用環境変動やサービス品質要求の多様化が生じた場合においても、それを自動認知し、仮想資源の選択ポリシーを機械学習のモデルに基づいて自律的に変更することができる。その結果、サービス品質レベルを保証する資源を迅速かつ適応的に自動確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明を適用した仮想資源自動選択システム1のネットワーク構成を示す図である。
図2】仮想ネットワークに対して物理資源としてのコアネットワークへマッピングするイメージを示す図である。
図3】教師あり学習を行う上での訓練データをプロットした例を示す図である。
図4】構築すべき仮想ネットワークに要求される2以上のパラメータからなる入力ベクトルを受け付けた例を示す図である。
図5】新たに構築しようとする仮想ネットワークについて資源を割り当てるためのフローチャートである。
図6】再学習による分類境界の自動更新の例を示す図である。
図7】実施例において説明する分類境界並びに訓練データのパラメータのモデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を適用した仮想資源自動選択システムを実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明をする。
【0021】
図1は、本発明を適用した仮想資源自動選択システム1のネットワーク構成を示している。この仮想資源自動選択システム1は、アプリケーションサービス提供者2、仮想ネットワークサービス提供者3、インフラサービス提供者4の3つの主体により動作される。仮想資源自動選択システム1は、アプリケーションサービス提供者2の下で制御される電子機器21と、仮想ネットワークサービス提供者3の下で制御される制御装置31とを備えている。
【0022】
アプリケーションサービス提供者2は、例えば、携帯電話、スマートフォン、タブレット型端末、ウェアラブル端末、ノート型のパーソナルコンピュータ(PC)等の通信端末において実行することが可能なアプリケーションサービスを提供する業者等である。このアプリケーションサービス提供者2により制御される電子機器21は、パーソナルコンピュータ(PC)、サーバ等であり、少なくともアプリケーションサービス提供者2の意思に基づいて動作可能なデバイスである。電子機器21は、アプリケーションサービス提供者2を通じて実行されるアプリケーションサービスに必要なサービス品質レベルを予め取得し、或いはその必要なサービス品質レベルを測定し、これを記憶する。電子機器21は、上述したアプリケーションサービスを実行する上で仮想ネットワークの構築が必要な場合には、制御装置31に対して仮想ネット構築要求を送信する。また電子機器21は、制御装置31の要求に応じて、アプリケーションサービスに必要なサービス品質レベルを通知する。電子機器21は、通信回線を介して接続されるインターネット網等で構成される図示しない公衆通信網に接続されており、かかる公衆通信網に接続されたあらゆるデバイスとの間で通信が可能とされている。
【0023】
仮想ネットワークサービス提供者3は、アプリケーションサービス提供者2がアプリケーションサービスを実行する上で仮想ネットワークの構築が必要な場合に、それに見合った最適な仮想ネットワークを構築する役割を担う。この仮想ネットワークサービス提供者3により制御される制御装置31は、電子機器21から通知されたアプリケーションサービスに必要なサービス品質レベルを取得すると共に、各種情報を収集する。この制御装置31は、インターネット網等で構成される図示しない公衆通信網に接続されていてもよく、この公衆通信網を介して上述した情報の収集を行うこともできる。
【0024】
仮想ネットワークサービス提供者3は、取得したサービス品質レベル、並びに収集した各種情報に基づいて論理トポロジを構成し、仮想資源を選択する。その後、仮想ネットワークサービス提供者3は、仮想資源の物理資源へのマッピングを行いインフラサービス提供者4に対して物理資源を要求する。
【0025】
インフラサービス提供者4は、エッジネットワーク41、コアネットワーク42、データセンタ43等で構成された大規模ネットワークを保有し、仮想ネットワークサービス提供者からの指示に基づいて、仮想ネットワーク51に対して資源を提供することで通信インフラを整える役割を担う。エッジネットワーク41は、多種多様なIoT端末からの情報を収集、処理する装置群から構成される。コアネットワーク42は、エッジネットワーク41並びにデータセンタ43に接続され、複数のコアノードからなる通信網を構成する。データセンタ43は、通信等の必要な各種データを保存するサーバ群から構成される。
【0026】
インフラサービス提供者4は、コアネットワーク42に接続されるいずれかの図示しない端末装置を介して上述した各種処理を行っていくこととなる。
【0027】
仮想ネットワーク51は、エッジネットワーク41、コアネットワーク42、データセンタ43の全てを跨いで構築され,リンク帯域やノードのバッファスペースといったネットワーク資源だけでなく,サーバ等のコンピュータ資源として、例えばCPU、 メモリ、ストレージ容量等も含む。各仮想ネットワーク51−1、51−2、・・・51−Xは、仮想ネットワークサービス提供者3からの資源要求に応じて、インフラサービス提供者4により互いに異なる物理資源、ネットワーク資源、コンピュータ資源、仮想トポロジが割り当てられることとなる。
【0028】
図2は、仮想ネットワーク51に対して、物理資源としてのエッジネットワーク41、コアネットワーク42、データセンタ43へマッピングするイメージを示している。仮想ネットワーク51は、既存の物理資源の何れか1以上が割り当てられて一つの独立した仮想的な通信ネットワークにより構成されるものである。
【0029】
次に、本発明を適用した仮想資源自動選択システム1により、仮想ネットワーク51に対して資源を選択する方法について説明をする。
【0030】
本発明によれば、各仮想ネットワーク51の仮想資源を機械学習の1つである教師あり学習の分類手法により、自動的に選択する。即ち、教師あり学習を通じて仮想資源を自動的に選択するためのポリシーを決定し、適応的に変更する制御を行うこととなる。
【0031】
図3は、教師あり学習を行う上での訓練データをプロットした例を示している。この訓練データは、2つのパラメータx1、x2と、実際に割り当てられた仮想資源の組み合わせから特定されるものである。この訓練データは、過去において実際に仮想ネットワーク51に対して仮想資源の割り当てを行った際のパラメータx1、x2と、仮想資源とから特定される。割り当てられた仮想資源として、図3の例ではファーストクラス資源とセカンドクラス資源の2種類とされている場合を例に挙げている。これら資源は、リンク帯域、ノードのバッファスペース、およびサーバのCPU/メモリ/ストレージ容量等の組合せにより表現されていてもよい。ここでいうファーストクラス資源とは、割り当てる資源の中でも容量がより高いものであり、例えば、「コアネットワークにおける10Gbpsの速度のリンク帯域(資源占有)と1GBのノードバッファサイズ,エッジネットワークおよびデータセンタにおける10GHzのサーバCPU、1GBのサーバメモリ、10GBのストレージ容量」等を想定する。セカンドクラス資源は、割り当てる資源の中でも容量がより低いものであり、例えば、「コアネットワークにおける1Gbpsの速度のリンク帯域(資源共有)と10MBのノードバッファサイズ,エッジネットワークおよびデータセンタにおける100MHzのサーバCPU,10MBのサーバメモリ,100MBのストレージ容量」等を想定する。
【0032】
パラメータx1、x2の例としては、リンク帯域に対する要求、パケット損失率に対する要求、遅延および遅延分散に対する要求、データの受信する地理的な位置、トラヒック負荷、機器障害状況等である。
【0033】
このようなパラメータについて、いかにしてデータ化してプロットするかについて説明をする。リンク帯域に対する要求については約1Mbps〜100Gbpsの間を想定し、各アプリケーションによって要求される数値がプロットされる。例えば、8Mbps(動画の伝送)、1.5Gpbs (HD映像非圧縮伝送)、6.4Gbps(4K映像非圧縮伝送)、24Gbps(8K映像非圧縮伝送)等の数値をプロットするようにしてもよい。パケット損失率については、ITU-T Y.1541で定義されているサービス品質クラス0〜4に適合するアプリケーションではパケット損失率が1×10-3以下であることが要求され、クラス6〜7はパケット損失率が1×10-5以下であることが要求される。このため、このようなパケット損失率の数値をプロットする。
【0034】
また、遅延に対する要求については例えばITU-T Y.1541で定義されているサービス品質クラス0,2,6に適合するアプリケーションでは遅延が100ms以下であることが要求され、クラス1,3,7では遅延が400ms以下であることが要求され、クラス4では遅延が1s以下であることが要求される。このため、このような遅延量をプロットするようにしてもよい。遅延分散に関しては、クラス0,1,6,7において遅延分散が50ms以下であることが要求されるため、かかる数値をプロットする。機器障害状況は、機器障害に対して相関のあるパラメータとしてコアネットワーク上の各ノードにおける受信光信号のパワー等をプロットするようにしてもよい。
【0035】
例えば訓練データpは、パラメータx1の値がp1であり、パラメータx2の値がp2であり、割り当てられた仮想資源がセカンドクラス資源である場合を示している。また訓練データqは、パラメータx1の値がq1であり、パラメータx2の値がq2であり、割り当てられた仮想資源がファーストクラス資源である場合を示している。このように、過去のデータからなる各訓練データにつき、2つのパラメータx1、x2と、割り当てられた仮想資源を入力することで、図3に示すような2次元座標上の散布図ができあがることとなる。このようにして、各訓練データのパラメータx1、x2に加え、これに割り当てられていた仮想資源の容量の情報もこの2次元座標上の散布図上にプロットすることとなる。
【0036】
このような散布図を俯瞰した場合、x1の値がより大きく、かつx2の値がより小さい場合にセカンドクラス資源が割り当てられているケースが多いことを判別することができる。即ち、右下においてセカンドクラス資源からなる仮想資源クラスタが形成されている。同様にx1の値がより小さく、かつx2の値がより大きい場合にファーストクラス資源が割り当てられているケースが多いことを判別することができる。即ち、左上においてファーストクラス資源からなる仮想資源クラスタが形成されている。
【0037】
このようなファーストクラス資源からなる仮想資源クラスタと、セカンドクラス資源からなる仮想資源クラスタとを分類するための分類境界を設定することができる。この分類境界は、例えばサポートベクターマシン(SVM)を用いるようにしてもよい。このSVMは、訓練データの集合であるクラスタと分類境界線の間のマージンを最大化することで分類を行うものである。
【0038】
このような図3に示すような訓練データのパラメータx1、x2と分類境界との関係を予め取得しておく。そして、新たに構築しようとする仮想ネットワーク51について、ファーストクラス資源と、セカンドクラス資源の何れを割り当てるかを決定する際に、この訓練データのパラメータx1、x2と分類境界との関係を参照することとなる。
【0039】
図4に示すように、その構築すべき仮想ネットワークに要求される2以上のパラメータx1、x2からなる入力情報を受け付ける。以下、この受け付ける入力情報を入力ベクトルRという。この入力ベクトルRからパラメータx1、x2を読み取る。その結果、入力ベクトルRのパラメータx1の値がr1であり、入力ベクトルRのパラメータx2の値がr2である場合をこの座標軸にプロットした場合、ちょうど分類境界を介してセカンドクラス資源からなる仮想資源クラスタ側に位置する場合には、構築すべき仮想ネットワークに対してセカンドクラス資源を割り当てる。一方、入力ベクトルRのパラメータx1、x2の値がちょうど分類境界を介してファーストクラス資源からなる仮想資源クラスタ側に位置する場合には、構築すべき仮想ネットワークに対してファーストクラス資源を割り当てる。その理由として、入力ベクトルRのパラメータx1、x2の値(r1、r2)が分類境界を介してセカンドクラス資源からなる仮想資源クラスタ側に位置する場合には、過去の訓練データの結果から同様にセカンドクラス資源を割り当てても、問題なく通信を行うことができることが裏付けられているためである。同様に、入力ベクトルRのパラメータx1、x2の値(r1、r2)が分類境界を介してファーストクラス資源からなる仮想資源クラスタ側に位置する場合には、過去の訓練データの結果から同様にファーストクラス資源を割り当てないと所望の通信品質を確保することができないことが示されている。即ち、本発明によれば過去の訓練データを参照し、割り当てる資源の容量を制御するものである。
【0040】
図5に、新たに構築しようとする仮想ネットワーク51について資源を割り当てるためのフローチャートを示す。先ずステップS11において、仮想ネットワークサービス提供者3は、アプリケーションサービス提供者2から仮想ネット構築要求を受け付ける。この仮想ネット構築要求は、アプリケーションサービス提供者2により提供されるアプリケーションサービスを実行する上で新たに仮想ネットワーク51の構築が必要となり、仮想ネットワークサービス提供者3に対して送信されるその構築要求である。なお、このステップS11の開始前において、図3に示すような訓練データのパラメータx1、x2と分類境界との関係を予め取得しておくことは勿論である。
【0041】
仮想ネットワークサービス提供者3は、ステップS12においてアプリケーションサービス提供者2から仮想ネット構築要求を受信した場合、ステップS13へ移行し、入力ベクトルRの検知を行う。このステップS13における入力ベクトルRの検知は、上述した訓練データを構成するパラメータx1、x2に応じたものであり、例えば訓練データのパラメータx1、x2が、データの受信する地理的な位置、トラヒック負荷であれば、その入力ベクトルも新たに構築しようとする仮想ネットワーク51における地理的な位置、トラヒック負荷を測定し、これを入力ベクトルRのパラメータx1、x2の値(p1、p2)とする。
【0042】
次にステップS14へ移行し、上述したステップS13において取得した入力ベクトルRのパラメータx1、x2の値(r1、r2)を読み取り、訓練データのパラメータx1、x2と分類境界との関係を参照した上で、この(r1、r2)が分類境界を介してファーストクラス資源からなる仮想資源クラスタ側に位置するか、又はセカンドクラス資源からなる仮想資源クラスタ側に位置するかを判別する。その結果、この(r1、r2)がファーストクラス資源からなる仮想資源クラスタ側に位置するのであれば、ファーストクラス資源を、またセカンドクラス資源からなる仮想資源クラスタ側に位置するのであれば、セカンドクラス資源を自動的に割り当てる。ステップS14における、いかなる資源を割り当てるかの判断は、制御装置31が行う。そして、この制御装置31(仮想ネットワークサービス提供者3)は、インフラサービス提供者4に対して、自らが判断したファーストクラス資源又はセカンドクラス資源の何れかを割り当てるための資源要求を送る。
【0043】
インフラサービス提供者4は、この仮想ネットワークサービス提供者3からの資源要求を受けて、これから構築しようとする仮想ネットワーク51に対して物理資源を割り当てる。この割り当ては、仮想ネットワークサービス提供者3により選択された、ファーストクラス資源又はセカンドクラス資源の何れかに基づくものである。インフラサービス提供者4により仮想ネットワーク51に対して資源が割り当てられた後、ステップS15に移行する。ちなみに仮想ネットワーク51は、このインフラサービス提供者4により資源が割り当てられることでネットワークとして機能することとなり、構築が完了することとなる。
【0044】
ステップS15に移行した後、ステップS14において構築が完了した仮想ネットワーク51からネットワーク性能情報の送信を待ち続ける。このネットワーク性能情報とは、ステップS14において割り当てられた資源に基づいて仮想ネットワーク51が正常に所望の動作を実現できているか否か、仮想ネットワーク51において実行されるアプリケーションサービスの品質レベルを満たしているか否かについての情報である。その結果、ステップS16においてネットワーク性能情報を受信することができた場合には、ステップS17に移行し、ネットワーク性能情報を解析する。その結果、ネットワーク性能情報を通じて仮想ネットワーク51において実行されるアプリケーションサービスの品質レベルが所望のサービス品質レベルを満たすものであり、正常に所望の動作を実現できている場合には、ステップS14において割り当てた資源が適切であったことが分かる。かかる場合には、特段新たな制御を加えることなく再びステップS15に戻り、その後の処理を継続して行うこととなる。なお、ステップS16におけるネットワーク性能情報の受信、並びにステップS17における判断は、アプリケーションサービス提供者2、仮想ネットワークサービス提供者3、インフラサービス提供者4の何れが行うようにしてもよい。
【0045】
一方、ステップS17においてネットワーク性能情報を解析した結果、ネットワーク性能情報を通じて仮想ネットワーク51において実行されるアプリケーションサービスの品質レベルが所望のサービス品質レベルを満たさないものであり、正常に所望の動作を実現できていない場合には、ステップS14において割り当てた資源が不適切であったことが分かる。かかる場合には、ステップS18へ移行する。
【0046】
ステップS18に移行した場合には、再学習による分類境界の自動更新を行う。例えば図6(a)に示すように、入力ベクトルRがセカンドクラス資源からなる仮想資源クラスタ側に位置しているものと判断し、仮想ネットワーク51に対してセカンドクラス資源を割り当てた結果、ステップS17においてサービスの品質レベルが所望のサービス品質レベルを満たさないものである旨が判断された場合は、これにファーストクラス資源を割り当てる必要があることが分かる。かかる場合の具体的な例としては、トラヒック変動や機器障害等に起因して、その資源が仮想ネットワーク51のサービス要求を満たしていないことを検知した場合等が挙げられる。かかる場合には、この入力ベクトルRに対応するプロットをセカンドクラス資源からファーストクラス資源へと切り替えるとともに分類境界の自動更新を行う。即ち、この入力ベクトルRに対応するプロットもファーストクラス資源のクラスタに分類されるように、分類境界を更新することとなる。
【0047】
このステップS18では、再学習並びに分類境界の自動更新に加えて、ステップS14にて構築した仮想ネットワーク51について資源の再割り当てを行うようにしてもよい。かかる場合には、入力ベクトルRに対応するプロットは、更新された分類境界を介してファーストクラス資源からなる仮想資源クラスタ側に位置するため、仮想ネットワーク51に対してファーストクラス資源を割り当てる。その結果、当該仮想ネットワーク51は、以前のセカンドクラス資源よりも高容量からなるファーストクラス資源が割り当てられるため、実行されるアプリケーションサービスの品質レベルが所望のサービス品質レベルを満たすものであり、正常に所望の動作を実現できる可能性が高くなる。
【0048】
仮にステップS14において、入力ベクトルRがファーストクラス資源からなる仮想資源クラスタ側に位置しているものと判断し、仮想ネットワーク51に対してファーストクラス資源を割り当てた結果、ステップS17においてサービスの品質レベルが要求性能を相当上回っている場合も同様である。かかる場合には、セカンドクラス資源を割り当てた場合においても、所望のサービス品質レベルが実現できる場合も多いため、その入力ベクトルRのプロット位置がセカンドクラス資源のクラスタに入るように分類境界を更新する。
【0049】
即ち、本発明によれば、仮想ネットワーク51の品質性能の監視結果に応じて仮想資源の選択ポリシーを適応的に変更することができる。その結果、新たに構築すべき仮想ネットワーク51に対して提供する資源のミスマッチが生じるのを防止することが可能となる。特にこのような学習を繰り返し行うことでパラメータx1、x2に対する分類境界がより適正化されてくることとなり、その仮想資源の選択ポリシーの精度を向上させることが可能となる。しかもサービス品質要求を満たさなくなった仮想ネットワーク51に対しては、資源の再割り当てが自動的に実行されることとなるため、特にユーザ側が特段の操作を行わなくても、自然に適切な資源が割り当てられて所望のアプリケーションが実行されることとなる。
【0050】
なお、本発明においては、緊急事例発生時においてステップS19〜22の処理を実行するようにしてもよい。
【0051】
ステップS19では、データ情報の受信を待ち続けるが、具体的には緊急事例に関する情報の受信を待ち続ける。ここでいう緊急事例は、地震、台風、洪水、津波等を始めとする自然災害や、政治的、社会的な要因に基づく様々な緊急事態、その他人命に関わるような、より優先的に通信資源を割り当てなければならない事例を意味する。この緊急事例に関する情報を関連情報提供WebサイトやTwitter(登録商標)等から定期的に収集されるものであってもよい。
【0052】
緊急事例に関する情報を受信した場合(ステップS20)には、ステップS21に移行し、その受信した情報を解析する。その結果、この受信した情報が緊急事例でない場合には特段処理動作の変更は行わない。これに対して、受信した情報が緊急事例であるものと判断した場合には、ステップS22へ移行し、分類境界を自動更新した上で資源の再割り当てを行う。
【0053】
この緊急事例に関する資源の再割り当ては、緊急事例に関する仮想ネットワーク51に対してファーストクラス資源が優先的に割り当てられるように、分類境界を図6(b)に示すようにずらすものである。このケースでは、緊急事例の訓練データと、それ以外の訓練データを予め取得しておき、緊急事例の訓練データのみファーストクラス資源を割り当てるものである。そして、緊急事例以外の訓練データについては、セカンドクラス資源を割り当てる。このような緊急事例と、非緊急事例との間で振り分けられるファーストクラス資源とセカンドクラス資源の分類境界を予め設定しておく。
【0054】
なお、緊急事例においてファーストクラス資源を全て使い切れない場合も考えられ、かかる場合には、非緊急事例においてファーストクラス資源を必要としている通信に対してこれを割り当てる余地を少しだけ残しておくことも有効である。かかる場合には、図6(b)に右側に示す分類境界を僅かに右方向にずらしておくようにしてもよい。
【0055】
緊急事例の訓練データは、実際に緊急事例発生時に収集した情報をステップS21によりデータ解析することにより、かかる緊急事例の訓練データのパラメータx1、x2を識別すると共に、かかる緊急事例における仮想ネットワーク51の構築時に要求される資源の品質レベルを予測する。これにより図6(b)に示すような訓練データのプロット得ることが可能となる。
【0056】
ステップS19において緊急事例に関する情報を受信しなかった場合には、ステップS11、S12、S13を経て、ステップS14へ移行し、図6(b)の左側に示す分類境界に基づいて資源の割り当てを行う。一方、ステップS19において緊急事例に関する情報を受信した場合、ステップS20、S21を経て、ステップS22において、図6(b)の右側に示す分類境界にシフトさせ、その後、ステップS11、S12、S13を経て、ステップS14において、図6(b)の右側に示す分類境界に基づいて資源の割り当てを行う。緊急事例であれば、入力ベクトルRのパラメータx1、x2の値(r1、r2)も分類境界を介してちょうど緊急事例の訓練データと同じクラスタに属するため、ファーストクラス資源を割り当てる。その一方で、分類境界を介してセカンドクラス資源の領域が広くなるため、緊急事例以外では、セカンドクラス資源が割り当てられる可能性が高くなるが、その分においてファーストクラス資源を緊急事例に割り当てられる可能性が高くなる。特に緊急事例では、通常よりも高いサービス品質レベルが要求されることから必要な量の資源を割り当てやすくなる。その結果、緊急事例における仮想ネットワーク51の資源不足(資源要求のブロッキング)を緩和でき、状況に応じた適切な資源の確保が可能となる。
【0057】
なお、ステップS14に戻る過程でステップS22を経ることとなるが、このステップS22において、ステップS18と同様に再学習による分類境界の更新を行うようにしてもよい。またこのステップS22からステップS14に戻る以外にステップS19にも戻り、再び緊急事例の待ちうけ状態に入ることとなる。
【0058】
特に図6(b)中のクラスタUについては、通常時と緊急時において分類境界がシフトする結果、ファーストクラス資源が割り当てられる場合もあれば、セカンドクラス資源が割り当てられる場合もある。このような入力ベクトルがこのようなクラスタUに位置する場合において、緊急性の高い入力ベクトルが他に存在する場合には、これらにファーストクラス資源を割り当てるため、図6(b)の右側に示すように分類境界をシフトさせることは勿論である。但し、緊急性の高い入力ベクトルが他に存在しない場合には、このようなクラスタUに対しても極力ファーストクラス資源を割り当てることで、その仮想ネットワーク51のパフォーマンスを向上させることが望ましい。このため、緊急事例による仮想ネットワークが不要になったら、図6(b)の右側に示す分類境界から図6(b)の左側に示す分類境界へシフトさせ、資源を解放し、分類境界を自動的に元に戻すようにしてもよい。
【0059】
なお、上述した例では緊急事例における分類境界のシフトを例にとり説明をしたが、これに限定されるものではなく、緊急事例とは別のいかなるイベントを対象としたものであってもよい。このイベントは、例えば物流における事故による交通渋滞、特定地域の警備強化、災害、急なエンタテイメントイベントの開催等がある。
【0060】
イベントの発生の有無をステップS20において検出し、イベントが発生した場合におけるアプリケーションの品質レベル要求に応じたイベント発生用の仮想資源クラスタの分類境界を予め設定しておく。そして、イベントの発生が検出された場合に、イベント発生用の分類境界にシフトさせ、イベントが発生した場合における仮想資源の容量(例えばファーストクラス資源)が割り当てられる可能性を高くすることができる。
【0061】
ステップS19以降が緊急事例の検出時におけるフローチャートであるが、これらは、ステップS18以前の非緊急事例のフローチャートにおける動作と別々に同時並行して実行されるものであってもよい。
【0062】
図6(c)の例では、資源の再割当は実行されないが、分類境界に近いセカンドクラス資源の訓練データを構成するクラスタVが増加したことにより、分類境界を変更するケースである。クラスタVの訓練データが増加した結果、図6(c)左側に示す当初の分類境界のままでは、各クラスタと分類境界の間隔がアンバランスなものとなっている。このため、各クラスタと分類境界の間のマージンを最大化するように、当該分類境界を自動的に最適な位置となるようにシフトさせる。即ち、訓練データがある程度追加で蓄積された段階において、訓練データの分散具合を俯瞰し、分類境界を自動的に最適な位置に再設定するようにしてもよい。これにより、クラスタVの訓練データから少しずれた、新たな仮想ネットワーク構築要求に対する入力ベクトルに対して、別クラスタの仮想資源を割り当ててしまう可能性が減り、資源の有効利用を図りつつ、状況に応じた仮想資源の自動選択が実現できる。
【0063】
なお、本発明においては、分類境界を線形SVMを用いて設定する場合を例にとり説明をしたが、これに限定されるものではない。例えば、分類境界は線形とされる場合に限定されるものではなく、非線形な線で構成されていてもよい。
【0064】
また、上述した例では、入力ベクトルはあくまでパラメータx1、x2の2次元座標系で構成される場合を例にとり説明をしたが、この入力ベクトルの次元数、換言すれば、入力ベクトルを構成するパラメータ数は3つ以上で構成されていてもよい。同様に分類境界の数を2以上に設定することで、資源のランクを3以上に設定し、クラスタ領域を3領域以上に構成するようにしてもよい。このとき、One-versus-Rest法や、All-Pair法といった既存手法を適用して多値分類を行うようにしてもよい。即ち、仮想資源の容量に応じて予め複数にランク分けされた仮想資源クラスタが予め定義されているものであればいかなるランク数で構成されていてもよい。かかる場合には、既存手法を適用して多値分類を実現することによって仮想資源の選択肢の数を増やすことができる。
【0065】
また各仮想ネットワークに対する仮想資源選択時、出力の各構成要素の値が既に決められる想定だが、実際に物理資源を割り当てた後、エッジ・コア・クラウドから構成された大規模ネットワークのトラヒック負荷等の利用環境を考慮しつつ、必要に応じて物理資源増減の微調整を行うことも可能である。
【0066】
また、上述した実施の形態において、SVMに代表される教師あり学習は、多数の訓練データが得られていることが前提となる。十分な数の訓練データが得られていない場合には、訓練データを手動で登録するようにしてもよいし、半教師あり学習や強化学習といった他の機械的学習手法を用いるようにしてもよい。
【0067】
上述した構成からなる本発明は、例えばネットワーク利用環境(トラヒック負荷、障害や緊急事例の発生)が時間変動する環境において特に効果を発揮する。そのような環境の例としては、物流における事故による交通渋滞、特定地域の警備強化、災害、急なエンタテイメントイベントの開催が起こりえる環境や、今後急増するモバイル端末やセンサ端末等の移動機器の利用が想定されるIoT関連アプリケーションサービスが提供される環境等である。
【実施例1】
【0068】
以下、分類境界をSVMを用いて設定する場合の実施例を説明する。図7が本実施例において説明する分類境界並びに訓練データのパラメータのモデルを示す。訓練データは、例えば入力ベクトルが2次元の場合、xi, yi, tiから構成される。xi, yiが入力ベクトルである。tiが各訓練データの出力の値であり、1もしくは-1である。また分類境界からファーストクラス資源のクラスタ、セカンドクラス資源のクラスタに至るまでの距離をdとする。訓練データ数を n とすると、i = 1, 2, …, n (自然数)とされる。このとき、分類境界と分類境界から最も近くにある訓練データとの距離dを最大化させるのがSVMの特徴である。
【0069】
入力ベクトルが2次元の場合の分類境界の導出式を下記に示す。
【0070】
【数1】
【0071】
ここでCはスカラー変数であり、バイアスともいう。また制約条件は、下記で表される。
制約条件:ti×(ω1i+ω2i+C)≦1
【0072】
このような制約条件のもとで、上述したdの分母が最小となるω1、ω2、Cを求める。その結果、分類境界は、下記の式で表される。
f(x)=ω1i+ω2i+C=0
【0073】
次に、入力ベクトルが3次元のケースにおける分類境界の導出方法について説明をする。訓練データは、xi,yi,ziの3値から構成される。入力ベクトルが3次元の場合の分類境界の導出式を下記に示す。
【0074】
【数2】
【0075】
また制約条件は、下記で表される。
制約条件:ti×(ω1i+ω2i+ω3i+C)≦1
【0076】
このような制約条件のもとで、dの分母が最小となるω1、ω2、ω3、Cを求める。その結果、分類境界は、下記の式で表される。
f(x)=ω1i+ω2i+ω3i+C=0
【符号の説明】
【0077】
1 仮想資源自動選択システム
2 アプリケーションサービス提供者
3 仮想ネットワークサービス提供者
4 インフラサービス提供者
21 電子機器
31 制御装置
31 制御端末
41 エッジネットワーク
42 コアネットワーク
43 データセンタ
51 仮想ネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7