(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の電池においては、負極がマグネシウムまたはマグネシウム合金の粉末(本発明においては、これらを纏めて「マグネシウム系粉末」とする。以下、同じ。)を含有している。本発明の電池に係る負極では、マグネシウム系粉末のマグネシウムが活物質として作用する。
【0017】
また、本発明の電池の(i)の態様においては、あらかじめマグネシウム系粉末の表面に、インジウム、スズ、ビスマス、ガリウムおよび亜鉛よりなる群から選択される少なくとも1種の元素を偏在させておき、そのマグネシウム系粉末を用いて負極を作製する。この場合、マグネシウム系粉末の表面に偏在している前記インジウムなどの元素の作用によって、マグネシウム系粉末の接触抵抗が小さくなるため、電池の放電が進んでも、マグネシウム系粉末と負極の集電体(電池ケースを構成する封口板や外装缶、または電池ケースと別に使用される集電体など)との間の接触や、マグネシウム系粉末同士の接触が悪くなることによる放電特性の低下が抑制される。また、表面に偏在している前記インジウムなどの元素の作用によって、マグネシウム系粉末に起因する電池内でのガス発生も抑制されるため、電池の膨れや漏液が抑えられるなど、電池の貯蔵特性が向上する。
【0018】
マグネシウム系粉末の表面に偏在させる元素としては、前記効果を生じやすい点から、インジウム、スズおよびビスマスが好ましく、インジウムおよびスズがより好ましい。
【0019】
更に、本発明の電池の(ii)の態様においては、インジウム化合物、スズ化合物、ビスマス化合物、ガリウム化合物および亜鉛化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する電解液を使用する。この電解液中に含有させた前記インジウム化合物などの化合物によって、電池の組み立て後に負極のマグネシウム系粉末の表面に、インジウム、スズ、ビスマス、ガリウムおよび亜鉛よりなる群から選択される少なくとも1種の元素が偏在するようになり、これが(i)の態様の場合と同様に作用して、電池の放電特性の低下を抑制したり、貯蔵特性を高めたりする。
【0020】
電解液に含有させる化合物としては、前記効果を生じやすい点から、インジウム化合物、スズ化合物およびビスマス化合物が好ましく、インジウム化合物およびスズ化合物がより好ましい。
【0021】
本発明の電池は、例えば、正極に空気極を用いる空気電池や、二酸化マンガン、酸化銀などの正極活物質を含有する正極を用い、正極および負極を含む発電要素が外装体内に封入された密閉型電池(コイン形、ボタン形などの扁平形電池;円筒形、角筒形などの筒形電池;など)の形態を採ることができる。
【0022】
負極に使用するマグネシウム系粉末のうち、マグネシウム合金粉末の合金成分としては、例えば、カルシウム(例えば含有量が質量基準で1〜3%)、マンガン(例えば含有量が質量基準で0.1〜0.5%)、亜鉛(例えば含有量が質量基準で0.4〜1%)、アルミニウム(例えば含有量が質量基準で8〜10%)などが挙げられる(残部はマグネシウムおよび不可避不純物である)。負極の有するマグネシウム系粉末は、1種単独でもよく、2種以上であってもよい。
【0023】
マグネシウム系粉末は、空気中または不活性ガス中(より好ましくは不活性ガス中)で噴霧アトマイズ法により作製された粉末、すなわち、噴霧アトマイズ粉末であることが好ましい。マグネシウム系粉末は、マグネシウムやマグネシウム合金の板などから削り出すことで作製されることが一般的であるが、このような製法で得られる粉末を使用すると、電池内においてガスが発生しやすい。ところが、噴霧アトマイズ法により作製された粉末の場合には、前記の削り出し法により得られる粉末よりも表面積が小さくなるためか、電池内でのガス発生が抑えられるため、これを負極に用いることで、電池の貯蔵特性が更に向上する。
【0024】
マグネシウム系粉末の平均粒径は、電池内でのガス発生量を少なくして、その貯蔵特性をより高める観点から、50μm以上であることが好ましく、75μm以上であることがより好ましい。ただし、マグネシウム系粉末が大きすぎると、反応性が低くなりすぎて、電池の放電特性の向上効果が小さくなる虞がある。よって、電池の放電特性をより高める観点から、マグネシウム系粉末の平均粒径は、300μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましい。
【0025】
本明細書でいうマグネシウム系粉末の平均粒径は、レーザー散乱粒度分布計(例えば、堀場製作所製「LA−920」)を用い、粉末を溶解しない媒体に、これらの粉末を分散させて測定した、体積基準での累積頻度50%における粒径(D
50)である。
【0026】
本発明の(i)の態様で使用する、表面にインジウム、スズ、ビスマス、ガリウムおよび亜鉛よりなる群から選択される少なくとも1種の元素が偏在したマグネシウム系粉末においては、前記インジウムなどの元素を偏在させることによる電池の放電特性や貯蔵特性の向上効果をより良好に確保する観点から、マグネシウム系粉末の表面におけるインジウム、スズ、ビスマス、ガリウムおよび亜鉛の含有量が、質量基準で、粉末全体のマグネシウムまたはマグネシウム合金との総量中、20ppm以上であることが好ましく、100ppm以上であることがより好ましい。ただし、表面にインジウムが偏在したマグネシウム系粉末においては、表面でのインジウムの量が多くなりすぎると、マグネシウムの反応性が低下し、放電特性の低下を生じるため、粉末表面でのインジウムの含有量は、粉末全体のマグネシウムまたはマグネシウム合金との総量中、2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
【0027】
なお、インジウム、スズ、ビスマス、ガリウムおよび亜鉛のうち、2種以上の元素がマグネシウム系粉末の表面に偏在するのであってもよく、その場合には、前記偏在する複数の元素の含有量の総量が前記範囲となるよう、それぞれの元素の含有量を調整すればよい。
【0028】
表面にインジウム、スズ、ビスマス、ガリウムおよび亜鉛よりなる群から選択される少なくとも1種の元素が偏在したマグネシウム系粉末における前記インジウムなどの偏在元素の含有量は、ICP分析などにより、粉末全体のマグネシウムまたはマグネシウム合金の量およびインジウムなどの偏在元素の量を測定することにより求めることができる。また、マグネシウム系粉末の表面に前記インジウムなどの元素が偏在していることは、EPMAなどの分析装置により粉末の断面を調べることにより確認することができる。
【0029】
マグネシウム系粉末の表面にインジウム、スズ、ビスマス、ガリウムおよび亜鉛よりなる群から選択される少なくとも1種の元素を偏在させるに際しては、例えば、インジウム塩など当該元素の塩を溶解させた水溶液にマグネシウム系粉末を投入し、加熱するなどの方法で水を蒸発除去する方法などが採用できる。この場合、単にマグネシウム系粉末の表面にインジウム塩など当該元素の塩が付着するのではなく、粉末表面のマグネシウムの一部が、インジウムなどマグネシウムより貴な元素に置換される置換反応が生じる。
【0030】
負極には、例えば、前記のマグネシウム系粉末〔(i)の態様においては表面にインジウム、スズ、ビスマス、ガリウムおよび亜鉛よりなる群から選択される少なくとも1種の元素を偏在させたマグネシウム系粉末〕の他に、必要に応じて添加されるゲル化剤(ポリアクリル酸ソーダ、カルボキシメチルセルロースなど)を含んでもよく、これに電解液を加えることで構成される負極剤(ゲル状負極)を使用してもよい。負極中のゲル化剤の量は、例えば、0.5〜1.5質量%とすることが好ましい。
【0031】
また、負極は、前記のようなゲル化剤を実質的に含有しない非ゲル状の負極とすることもできる(なお、非ゲル状負極の場合、マグネシウム系粉末近傍に存在する電解液が増粘しなければゲル化剤を含有しても構わないので、「ゲル化剤を実質的に含有しない」とは、電解液の粘度への影響がない程度に含有していてもよい、という意味である)。ゲル状負極の場合には、マグネシウム系粉末の近傍に、ゲル化剤と共に電解液が存在しているが、ゲル化剤の作用によってこの電解液が増粘しており、電解液の移動、ひいては電解液中のイオンの移動が抑制されている。このため、負極での反応速度が抑えられ、これが電池の負荷特性(特に重負荷特性)の向上を阻害しているものと考えられる。これに対し、負極を非ゲル状として、マグネシウム系粉末近傍に存在する電解液の粘度を増大させずに電解液中のイオンの移動速度を高く保つことで、負極での反応速度を高めて、負荷特性(特に重負荷特性)をより高めることができる。
【0032】
負極に含有させる電解液には、電池に注入するものと同じものを使用することができる。
【0033】
負極におけるマグネシウム系粉末の含有量は、例えば、60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、また、75質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。
【0034】
また、表面にインジウム、スズ、ビスマス、ガリウムおよび亜鉛よりなる群から選択される少なくとも1種の元素を偏在させたマグネシウム系粉末を用いる場合であっても、負極に、さらにインジウム化合物、スズ化合物、ビスマス化合物、ガリウム化合物および亜鉛化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有させることもできる。負極が前記化合物を含有することによって、マグネシウム系粉末と電解液との腐食反応によるガス発生をより効果的に防ぐことができるためである。
【0035】
前記のインジウム化合物としては、例えば、塩化インジウム、酸化インジウム、水酸化インジウムなど、後述する、(ii)の態様において電解液に含有させることのできるインジウム化合物と同様の化合物を使用することができる。また、スズ化合物、ビスマス化合物、ガリウム化合物および亜鉛化合物についても同様である。
【0036】
負極に使用するインジウム化合物の量は、質量比で、マグネシウム系粉末:100に対し、0.003〜1であることが好ましい。
【0037】
電池に係る正極には、正極活物質および導電助剤などを含有する正極合剤の成形体や、正極活物質および導電助剤などを含有する正極合剤層を、集電体の片面または両面に形成した構造のものなどの、正極合剤で構成される正極が使用できるほか、空気極からなる正極を用いることもできる。
【0038】
正極合剤で構成される正極の場合、その正極活物質には、二酸化マンガンなどのマンガン酸化物、AgOやAg
2Oといった銀酸化物などを使用することができる。
【0039】
正極合剤で構成される正極における導電助剤としては、カーボンブラック、黒鉛などの炭素質材料などが挙げられる。
【0040】
正極合剤で構成される正極には、必要に応じてバインダを使用することができる。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)などを用いることができる。
【0041】
正極合剤で構成される正極においては、正極合剤(正極合剤の成形体や正極合剤層)の組成としては、容量を確保するために、正極活物質の含有量は、例えば、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。また、導電助剤の含有量は、導電性の点から0.2質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることが特に好ましく、一方、容量低下や充電時のガス発生を防ぐため、7質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。
【0042】
また、正極合剤で構成される正極において、正極合剤にバインダを含有させる場合には、正極合剤中のバインダ量は、例えば、0.1〜1質量%であることが好ましい。
【0043】
正極は、正極合剤の成形体の場合には、例えば、正極活物質および導電助剤、更には必要に応じて電解液やバインダなどを混合して調製した正極合剤を所定の形状に加圧成形することで製造することができる。
【0044】
また、正極合剤層と集電体とを有する形態の正極の場合には、例えば、正極活物質および導電助剤、更には必要に応じて使用するバインダなどを水またはN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの有機溶媒に分散させて正極合剤含有組成物(スラリー、ペーストなど)を調製し、これを集電体上に塗布し乾燥し、必要に応じてカレンダ処理などのプレス処理を施す工程を経て製造することができる。
【0045】
ただし、正極合剤で構成される正極は、前記の各方法で製造されたものに限定されず、他の方法で製造したものであってもよい。
【0046】
正極合剤の成形体の場合、その厚みは、0.15〜4mmであることが好ましい。他方、正極合剤層と集電体とを有する形態の正極の場合、正極合剤層の厚み(集電体の片面あたりの厚み)は、100〜500μmであることが好ましい。
【0047】
正極合剤で構成される正極において、集電体を用いる場合には、その集電体としては、例えば、SUS316、SUS430、SUS444などのステンレス鋼;アルミニウムやアルミニウム合金;を素材とするものが挙げられ、その形態としては、平織り金網、エキスパンドメタル、ラス網、パンチングメタル、金属発泡体、箔(板)などが例示できる。集電体の厚みは、例えば、0.05〜0.2mmであることが好ましい。このような集電体の表面には、カーボンペーストや銀ペーストなどのペースト状導電材を塗布しておくことも望ましい。
【0048】
また、空気電池の形態の場合、正極として使用される空気極には、例えば、触媒層と集電体とを積層した構造のものを使用することができる。
【0049】
触媒層に係る触媒には、例えば、銀、白金族金属またはその合金、遷移金属、Pt/IrO
2などの白金/金属酸化物、La
1−xCa
xCoO
3などのペロブスカイト酸化物、WCなどの炭化物、Mn
4Nなどの窒化物、マンガン酸化物などが用いられ、例えば、前記触媒物質を炭素材料で担持した担持体などの形態で用いることができる。
【0050】
触媒層には、バインダを含有させることができる。触媒層に係るバインダとしては、例えば、PTFEやPVDFなどのフッ素樹脂などが用いられる。
【0051】
集電体には、例えば、チタン鋼、ニッケル網、ステンレス網などの金属や炭素製の網、箔、エキスパンドメタル、パンチングメタルなどを用いることができる。
【0052】
触媒層は、例えば、前記触媒や必要に応じて使用するバインダなどを水と混合してロールで圧延し、多孔性の集電体と密着させることにより製造することができる。また前記の触媒や必要に応じて使用するバインダなどを、水や有機溶媒に分散させて調製した触媒層形成用組成物(スラリー、ペーストなど)を、集電体の表面に塗布し乾燥した後に、必要に応じてカレンダ処理などのプレス処理を施す工程を経て製造することもできる。
【0053】
前記の空気極において、触媒層の厚みは、100〜500μmであることが好ましく、集電体の厚みは、50〜300μmであることが好ましい。
【0054】
電池に係る電解液(電池内に注入する電解液、負極に含有させる電解液および正極合剤の成形時に使用する電解液を含む)には、酸性水溶液、中性水溶液および弱アルカリ性の水溶液などの、pHが10以下の水溶液を使用することができる。電解液として使用する水溶液に溶解させる塩などの電解質としては、塩化ナトリウムなどの塩化物、水酸化ナトリウムなどの水酸化物、炭酸水素ナトリウムなどの炭酸水素塩、過炭酸ナトリウムなどの過炭酸塩、フッ化物などのハロゲンを含む化合物、多価カルボン酸などが挙げられ、電解液は、これらの電解質のうちの1種または2種以上を含有していればよい。このような電解液の中でも、塩化ナトリウム水溶液などの塩化物の水溶液がより好ましい。
【0055】
例えば、塩化ナトリウム水溶液の場合、その塩化ナトリウムの濃度は、1〜20質量%であることが好ましい。
【0056】
本発明の(ii)の態様においては、インジウム化合物、スズ化合物、ビスマス化合物、ガリウム化合物および亜鉛化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する電解液を使用する。これにより、前記の通り、電池内において、負極が有するマグネシウム系粉末の表面に、インジウム、スズ、ビスマス、ガリウムおよび亜鉛よりなる群から選択される少なくとも1種の元素を偏在させて、電池の放電特性および貯蔵特性を高めることが可能となる。また、本発明の(i)の態様においても、インジウム化合物、スズ化合物、ビスマス化合物、ガリウム化合物および亜鉛化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する電解液を使用してもよく、この場合には、負極が有するマグネシウム粉末(表面にインジウムなどの元素が偏在しているマグネシウム系粉末)の表面において、電池内で電解液中の前記インジウム化合物などの化合物によってインジウムなどの元素が偏在する反応が更に進行するため、電池の放電特性および貯蔵特性がより向上する。
【0057】
なお、(ii)の態様において、電池内で形成される、表面にインジウム、スズ、ビスマス、ガリウムおよび亜鉛よりなる群から選択される少なくとも1種の元素が偏在したマグネシウム系粉末についても、そのインジウムなどの偏在元素の含有量は、前述した(i)の態様におけるマグネシウム系粉末のインジウムなどの偏在元素の含有量と同じ範囲となることが好ましい。
【0058】
(ii)の態様において電解液に含有させるインジウム化合物としては、水酸化インジウム、酸化インジウム、硫酸インジウム、硫化インジウム、硝酸インジウム、臭化インジウム、塩化インジウムなどが挙げられる。また、スズ化合物、ビスマス化合物、ガリウム化合物および亜鉛化合物についても同様に、当該元素の水酸化物、酸化物、硫酸塩、硫化物、硝酸塩、臭化物および塩化物などを用いることができる。
【0059】
インジウム化合物、スズ化合物、ビスマス化合物、ガリウム化合物および亜鉛化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する電解液において、前記化合物の濃度(含有量)は、前記化合物を含有させることによる前記の効果をより良好に確保する観点から、質量基準で、10ppm以上であることが好ましく、50ppm以上であることがより好ましく、500ppm以上であることが特に好ましい。ただし、電解液中の前記化合物の量が多すぎると、マグネシウム系粉末表面での、インジウムなどの元素とマグネシウムとの置換量が多くなり、マグネシウムの放電を阻害してしまう虞があるため、電解液における前記化合物の濃度(含有量)は、質量基準で2%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることが特に好ましい。
【0060】
なお、前記化合物のうちの2種以上を電解液に含有するのであってもよく、その場合には、それら化合物の含有量の総量が前記範囲となるよう、それぞれの化合物の含有量を調整すればよい。
【0061】
電解液には、前記の各成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて公知の各種添加剤を添加してもよい。
【0062】
電池において、正極と負極との間に介在させるセパレータには、ビニロンとレーヨンを主体とする不織布、ビニロン・レーヨン不織布(ビニロン・レーヨン混抄紙)、ポリアミド不織布、ポリオレフィン・レーヨン不織布、ビニロン紙、ビニロン・リンターパルプ紙、ビニロン・マーセル化パルプ紙などを用いることができる。また、親水処理された微孔性ポリオレフィンフィルム(微孔性ポリエチレンフィルムや微孔性ポリプロピレンフィルムなど)とセロファンフィルムとビニロン・レーヨン混抄紙のような吸液層(電解液保持層)とを積み重ねたものをセパレータとしてもよい。セパレータの厚みは、20〜500μmであることが好ましい。
【0063】
電池の形態については特に制限はなく、外装缶と封口板とをガスケットを介してカシメ封口したり、外装缶と封口板とを溶接して封口したりする電池ケースを有する扁平形(コイン形、ボタン形を含む);金属ラミネートフィルムからなる外装体を有するラミネート形;有底筒形の外装缶と封口板とをガスケットを介してカシメ封口したり、外装缶と封口板とを溶接して封口したりする電池ケースを有する筒形〔円筒形、角形(角筒形)〕;など、いずれの形態とすることもできる。
【0064】
なお、カシメ封口を行う形態の外装体を使用する場合、外装缶と封口板との間に介在させるガスケットの素材には、ポリプロピレン、ナイロンなどを使用できるほか、電池の用途との関係で耐熱性が要求される場合には、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)などのフッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル(PEE)、ポリスルフォン(PSF)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの融点が240℃を超える耐熱樹脂を使用することもできる。また、電池が耐熱性を要求される用途に適用される場合、その封口には、ガラスハーメチックシールを利用することもできる。
【0065】
また、充電時に外装缶を構成する鉄などの元素が溶出するのを防ぐため、外装缶の内面には、スズ、亜鉛、インジウムなどの耐食性の金属をメッキしておくことが望ましい。
【0066】
本発明の電池の一例を模式的に表す側面図を
図1に、
図1の電池の要部断面図を
図2に、それぞれ示している。
図1および
図2に示す電池1は、正極4に空気極を用いた空気電池の例であり、正極4およびセパレータ6を内填した外装缶2の開口部に、負極5を内填した封口板3が、断面L字状で環状のガスケット(樹脂製ガスケット)10を介して嵌合しており、外装缶2の開口端部が内方に締め付けられ、これにより樹脂製ガスケット10が封口板3に当接することで、外装缶2の開口部が封口されている。すなわち、
図1および
図2に示す電池では、外装缶2、封口板3および樹脂製ガスケット10からなる電池容器内の空間に、正極4、負極5およびセパレータ6を含む発電要素が装填されており、更に電解液(図示しない)が注入され、セパレータに保持されている。そして、外装缶2は正極端子を兼ね、封口板3は負極端子および負極集電体を兼ねている。なお、
図2では、正極4の触媒層と集電体とを区別して示していない。
【0067】
外装缶2には、電池容器内に空気を取り込むための空気孔9が設けられている。また、外装缶2と正極4との間には、空気孔9から電池容器内に取り込んだ空気を拡散させて正極へ供給するための空気拡散膜7と、空気孔9から電池内に水分が侵入することを防止するための撥水膜8とが配置されている。
【0068】
空気拡散膜7には、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ナイロンなどの樹脂で構成された不織布を用いることができる。空気拡散膜の厚みは、100〜250μmであることが好ましい。
【0069】
撥水膜8には、撥水性がある一方で空気を透過できる膜が使用され、具体的には、例えば、PTFEなどのフッ素樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン;などの樹脂で構成された膜を用いることができる。撥水膜の厚みは、50〜250μmであることが好ましい。
【0070】
本発明の電池は、例えば、従来から知られている空気電池やアルカリ一次電池(酸化銀一次電池など)が採用されている用途と同じ用途に適用することができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0072】
実施例1
<正極>
正極には、カーボンに担持した触媒(二酸化マンガン):30質量部とPTFE:20質量部とを混合し、ロール圧延してシート状にし、ステンレス網を圧着させてから乾燥して、全体の厚みが300μmの空気極を作製した。前記の空気極は、直径11mmの円形に打ち抜いて使用した。
【0073】
<負極>
負極には、添加元素としてCa:2質量%、Al:9質量%、Zn:0.7質量%およびMn:0.3質量%を含有するマグネシウム合金粉末(噴霧アトマイズ粉末、平均粒径100μm)を用いた。
【0074】
前記マグネシウム粉末を、0.5質量%濃度の塩化インジウム水溶液に24時間浸漬させて、その表面にインジウムが偏在する粉末とした。得られたマグネシウム粉末のICP分析により求めたインジウムの量は、100ppmであった。そして、負極には、表面にインジウムを偏在させた前記マグネシウム粉末:35mgを計り取って使用した。
【0075】
<電解液>
3質量%濃度の塩化ナトリウム水溶液に、0.2質量%となる量の塩化インジウムを溶解させて、ほぼ中性の電解液を調製した。
【0076】
<セパレータ>
セパレータには、ポリエチレン主鎖にアクリル酸をグラフト共重合させた構造を有するグラフト共重合体で構成された2枚のグラフトフィルム(厚み:30μm)を、セロハンフィルム(厚み:20μm)の両側に配置し、更にビニロン−レーヨン混抄紙(厚み:100μm)を積層したものを打ち抜いて用いた。
【0077】
<空気拡散膜および撥水膜>
空気拡散膜には、厚みが100μmのセルロース製不織布(紙)を、直径7mmに打ち抜いて用いた。また、撥水膜には、厚みが100μmのPTFE製シートを、直径11mmに打ち抜いて用いた。
【0078】
前記の空気拡散膜、撥水膜、空気極、負極(表面にインジウムを偏在させたマグネシウム合金粉末)、電解液およびセパレータを、内面にスズメッキを施した鋼板よりなり、径が11mmの底面に空気孔を5個有する外装缶と、銅−ステンレス鋼(SUS304)−ニッケルクラッド板よりなる封口板と、ナイロン66製の環状ガスケットとから構成された電池ケース内に収容し、
図1に示す外観で、
図2に示す構造を有し、直径11.6mm、厚さ3.0mmの空気電池を作製した。
【0079】
実施例2
マグネシウム合金粉末の表面にインジウムを偏在させる処理を行わずに、そのまま負極に使用した以外は、実施例1と同様にして空気電池を作製した。
【0080】
参考例1
3質量%濃度の塩化ナトリウム水溶液に、0.2質量%となる量の塩化スズを溶解させて、ほぼ中性の電解液を調製した。この電解液を用いた以外は、実施例2と同様にして空気電池を作製した。
【0081】
比較例1
3質量%濃度の塩化ナトリウム水溶液をそのまま電解液として用いた以外は、実施例2と同様にして空気電池を作製した。
【0082】
実施例
、参考例および比較例の電池について、下記の放電特性評価と貯蔵特性評価とを行った。
【0083】
<放電特性評価>
実施例
、参考例および比較例の各電池について、2mAの電流値で電圧が0.9Vになるまで放電させたときの電気量(放電容量)を測定した。
【0084】
<貯蔵特性評価>
実施例
、参考例および比較例の電池各10個を、60℃の環境下で20日間貯蔵し、漏液を生じた電池の個数を調べた。
【0085】
前記の各評価結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示す通り、前記(i)の態様の電池に該当する実施例1の電池、および前記(ii)の態様の電池に該当する実施例2および
参考例1の電池は、放電電気量が大きく、また、貯蔵特性評価時に漏液が生じておらず、表面にインジウムなどの特定の元素が偏在していないマグネシウム系粉末を負極に使用し、かつインジウム化合物などの特定の元素の化合物を含有させていない電解液を使用した比較例1の電池に比べて、放電特性および貯蔵特性が優れていた。