【文献】
LOSKOG A. et al,LEUKEMIA,Vol.20 (2006),p.1819-1828
【文献】
PEGRAM H. J. et al. ,Blood,Vol.119, No.18 (2012),p.4133-4141
【文献】
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【文献】
TORIKAI H. et al.,Blood,vol.119 No.24 (2012),p.5697-5705
【文献】
LEE J. C.,Cancer Res.,71(8) (2011),p.2871-2881
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(d)制御性T細胞(Treg)の表面に発現している少なくとも1種類の抗原に対して向けられた第2のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸分子を、前記T細胞に導入する工程
をさらに含む、請求項1または2記載の方法。
(e)T細胞受容体(TCR)の1成分をコードする少なくとも1種類の遺伝子をDNA切断によって選択的に不活性化することができるレアカットエンドヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸分子を、前記T細胞に導入する工程
をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
(f)表面抗原CD25をコードする遺伝子をDNA切断によって選択的に不活性化することができるレアカットエンドヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸分子を、前記T細胞に導入する工程
をさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
(a)悪性細胞または感染細胞の表面に発現している少なくとも1種類の抗原に対して向けられた第1のキメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸分子;および
(b)FoxP3の細胞透過性ペプチド阻害物質をコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸分子
を含む、好ましくは単離された、操作されたT細胞。
(c)制御性T細胞(Treg)の表面に発現している少なくとも1種類の抗原に対して向けられた第2のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸分子
をさらに含む、請求項7〜9のいずれか一項記載の操作されたT細胞。
(d)T細胞受容体(TCR)の1成分をコードする少なくとも1種類の遺伝子をDNA切断によって選択的に不活性化することができるレアカットエンドヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸分子
をさらに含む、請求項7〜11のいずれか一項記載の操作されたT細胞。
T細胞受容体(TCR)の1成分をコードする少なくとも1種類の遺伝子における欠失または変異をさらに含む、請求項7〜12のいずれか一項記載の操作されたT細胞。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な説明
本明細書において特に定義のない限り、使用される技術用語および科学用語は全て、遺伝子療法、生化学、遺伝学、および分子生物学の分野の当業者に一般的に理解されているものと同じ意味を有する。
【0028】
本明細書に記載のものと類似のまたは同等の全ての方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができ、適切な方法および材料を本明細書において説明する。本明細書において言及された全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献が、その全体が参照により組み入れられる。矛盾する場合は、定義を含む本明細書が優先される。さらに、材料、方法、および実施例は例示にすぎず、特に定めのない限り、限定することが意図されない。
【0029】
本発明の実施では、特に定めのない限り、当業者の技術の範囲内にある細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNA、および免疫学の従来法を用いる。このような技法は文献において十分に説明されている。例えば、Current Protocols in Molecular Biology (Frederick M. AUSUBEL, 2000, Wiley and son Inc, Library of Congress, USA); Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, (Sambrook et al, 2001, Cold Spring Harbor, New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press); Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait ed., 1984); Mullis et al. 米国特許第4,683,195号; Nucleic Acid Hybridization (B. D. Harries & S. J. Higgins eds. 1984); Transcription And Translation (B. D. Hames & S. J. Higgins eds. 1984); Culture Of Animal Cells (R. I. Freshney, Alan R. Liss, Inc., 1987); Immobilized Cells And Enzymes (IRL Press, 1986); B. Perbal, A Practical Guide To Molecular Cloning (1984); the series, Methods In ENZYMOLOGY (J. Abelson and M. Simon, eds.-in-chief, Academic Press, Inc., New York)、特に、Vol.154および155 (Wu et al. eds.)ならびにVol.185, 「Gene Expression Technology」(D. Goeddel, ed.); Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells (J. H. Miller and M. P. Calos eds., 1987, Cold Spring Harbor Laboratory); Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology (Mayer and Walker, eds., Academic Press, London, 1987); Handbook Of Experimental Immunology, Volume I-IV (D. M. Weir and C. C. Blackwell, eds., 1986)、ならびにManipulating the Mouse Embryo, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1986)を参照されたい。
【0030】
操作されたT細胞を調製するための方法
概略的な局面において、本発明は、好ましくは、Treg阻害物質、例えば、FoxP3の透過性ペプチド阻害物質を異種発現させることによって、Tregによる阻害を解除する能力がある操作されたT細胞を調製するための方法に関する。
【0031】
サプレッサーT細胞とも知られる制御性T細胞は、特に、自己免疫を阻止するために免疫応答を抑制し、自己抗原寛容を維持することにおいて役割を果たしているので、癌または慢性感染症などの病気を起こさせる、ある特定の状況では、さらに強力な免疫応答が起こることができるように、この細胞タイプの活性を抑制することが望ましい。制御性T細胞を局所的に抑制するために、操作されたT細胞によって、阻害物質、好ましくは、FoxP3のペプチド阻害物質が、操作されたT細胞の環境に分泌される。この後者のペプチド阻害物質は、近くにある制御性T細胞に入り、FoxP3を阻害することによって、制御性T細胞が免疫応答を調整しないようにする。本発明の操作されたT細胞によるFoxP3のペプチド阻害物質の局所送達には、このような阻害物質が体内の他の場所で展開する毒性作用の可能性を小さくするという大きな利点がある。
【0032】
第1の局面によれば、本発明は、少なくとも、腫瘍に見られる腫瘍細胞の集団といくらかの親和性を生じたという特徴をもつ、腫瘍に見られる腫瘍浸潤リンパ球(TIL)と呼ばれるT細胞サブセットに適用される。通常、これらのTILは依然として腫瘍細胞に対する活性があり、従って、前記腫瘍を処置するための免疫療法において役立つ(Rosenberg, SA. et al. (1986) A new approach to the adoptive immunotherapy of cancer with tumor-infiltrating lymphocytes. Science. 233(4770):1318-1321)。しかしながら、これらの細胞は通常数が限られており、このような腫瘍に限定される。本発明は、以下の工程:
- 1人または数人の患者に由来する1つまたはいくつかの腫瘍からTILを抽出する工程;
- TILを増殖させて、免疫療法に有用なかなりの数、好ましくは、少なくとも105個までの細胞、より好ましくは、少なくとも106個までの細胞を得る工程;
- 制御性T細胞活性の阻害物質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を細胞に導入する工程;
- 操作されたTILをさらに活性化する、および増殖させる工程;ならびに
- 操作されたTILを前記患者または他の患者に注入する工程
の1つ、またはいくつかによる一連の出来事によってTILの活性を強化し、増殖を助けるのを可能にする。
【0033】
別の局面によれば、T細胞は、本明細書では第1のCARと呼ばれる、悪性細胞または感染細胞の表面に発現している少なくとも1種類の抗原に対して向けられたキメラ抗原受容体(CAR)と、制御性T細胞活性の阻害物質、特に、FoxP3の細胞透過性ペプチド阻害物質を両方とも発現するように操作される。CARは、操作されたT細胞を腫瘍部位または感染部位に向け、T細胞が腫瘍または感染細胞を死滅させるのを可能にする。
【0034】
従って、本発明は、操作されたT細胞を調製するための方法であって、
(a)T細胞を準備する工程;
(b)悪性細胞または感染細胞の表面に発現している少なくとも1種類の抗原に対して向けられた第1のキメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸分子を前記T細胞に導入する工程;および
(c)制御性T細胞活性の阻害物質、例えば、FoxP3の細胞透過性ペプチド阻害物質をコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸分子を前記T細胞に導入する工程
を含む、方法を提供する。
【0035】
結果として、悪性細胞または感染細胞の表面に発現している少なくとも1種類の抗原に対して向けられた第1のキメラ抗原受容体(CAR)、および制御性T細胞活性の阻害物質、例えば、FoxP3の細胞透過性ペプチド阻害物質を発現する、操作されたT細胞が得られる。
【0036】
悪性細胞または感染細胞の表面に発現している少なくとも1種類の抗原に対して向けられたキメラ抗原受容体(CAR)に加えて、操作されたT細胞は、制御性T細胞(Treg)の表面に発現している少なくとも1種類の抗原、例えば、表面抗原CD25に対して向けられた、さらなるCARを発現することも好ましい場合がある。これにより、制御性T細胞への結合が可能になり、制御性T細胞活性の阻害物質の投入(entry)が容易になる。従って、前記方法は、制御性T細胞(Treg)の表面に発現している少なくとも1種類の抗原に対して向けられた第2のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸分子を前記T細胞に導入する工程をさらに含んでもよい。前記核酸が導入された後に、次いで、前記第2のキメラ抗原受容体は前記T細胞によって発現されてもよい。
【0037】
結果として、制御性T細胞(Treg)の表面に発現している少なくとも1種類の抗原に対して向けられた第2のキメラ抗原受容体をさらに発現する、操作されたT細胞が得られる。
【0038】
本発明の操作されたT細胞は、T細胞受容体(TCR)の1成分をコードする少なくとも1種類の遺伝子をDNA切断によって選択的に不活性化することができるレアカットエンドヌクレアーゼをさらに発現することも本発明により意図される。T細胞受容体は、抗原提示に応答したT細胞活性化に関与する細胞表面受容体である。TCRは、通常、集合してヘテロ二量体を形成する2本のα鎖およびβ鎖から作られ、CD3伝達サブユニットと結合して、細胞表面に存在するT細胞受容体複合体を形成する。TCRのα鎖およびβ鎖はそれぞれ、免疫グロブリンに似たN末端可変(V)領域および定常(C)領域、疎水性膜貫通ドメイン、ならびに短い細胞質領域からなる。免疫グロブリン分子と同様に、α鎖およびβ鎖の可変領域は、T細胞集団内に抗原特異性の大きな多様性を生み出すV(D)J組換えによって生じる。しかしながら、インタクトな抗原を認識する免疫グロブリンとは対照的に、T細胞は、MHC分子と結合した処理ペプチド断片によって活性化される。これによって、MHC拘束と知られる、T細胞による抗原認識にさらなる要素が導入される。T細胞受容体を介してドナーとレシピエントとのMHC不一致が認識されると、T細胞が増殖し、場合によっては移植片対宿主病(GVHD)が発症する。正常なTCR表面発現は、複合体の7つ全ての成分の協調した合成および集合に依存することが示されている(Ashwell and Klusnor 1990)。TCRαまたはTCRβを不活性化するとT細胞表面からTCRが無くなり、それによって、アロ抗原の認識が阻止され、従って、GVHDが阻止される。従って、TCR成分をコードする少なくとも1種類の遺伝子が不活性化されると、遺伝子操作されたT細胞は非アロ反応性になる。遺伝子を「不活性化する」または遺伝子「の不活性化」とは、関心対象の遺伝子が機能的なタンパク質の形で発現されないことが意図される。
【0039】
従って、本発明の方法は、T細胞受容体(TCR)の1成分をコードする少なくとも1種類の遺伝子をDNA切断、好ましくは、二本鎖切断によって選択的に不活性化することができるレアカットエンドヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸分子を前記T細胞に導入する工程をさらに含んでもよい。特定の態様において、レアカットエンドヌクレアーゼは、TCRαまたはTCRβをコードする遺伝子をDNA切断によって選択的に不活性化することができる。
【0040】
「レアカットエンドヌクレアーゼ」という用語は、DNA分子またはRNA分子、好ましくは、DNA分子の内部にある、核酸間の結合の加水分解(切断)を触媒することができる野生型酵素または変種酵素を指す。特に、前記ヌクレアーゼは、エンドヌクレアーゼ、より好ましくは、高度に特異的であり、長さが10〜45塩基対(bp)、通常、長さが10〜35塩基対、さらに通常、12〜20塩基対の核酸標的部位を認識するレアカットエンドヌクレアーゼでもよい。本発明によるエンドヌクレアーゼは特定のポリヌクレオチド配列を認識し、前記エンドヌクレアーゼの分子構造に応じて、これらの標的配列の内部で、またはこれらの標的配列に隣接する配列の内部で核酸を切断する。この特定のポリヌクレオチド配列は「標的配列」とさらに呼ばれる。レアカットエンドヌクレアーゼは、特定のポリヌクレオチド配列を認識し、ここで一本鎖切断または二本鎖切断を生成することができる。
【0041】
特定の態様において、本発明による前記レアカットエンドヌクレアーゼは、RNAガイドエンドヌクレアーゼ、例えば、Cas9/クリスパー複合体である。RNAガイドエンドヌクレアーゼは、エンドヌクレアーゼがRNA分子と結合する次世代ゲノム操作ツールを構成する。この系では、RNA分子ヌクレオチド配列によって標的特異性が決定され、エンドヌクレアーゼが活性化される(Gasiunas, Barrangou et al. 2012; Jinek, Chylinski et al. 2012; Cong, Ran et al. 2013; Mali, Yang et al. 2013)。Cas9はCsn1とも呼ばれ、crRNAの生合成および侵入DNAの破壊の両方に関与する大きなタンパク質である。Cas9は、S.サーモフィラス(S.thermophilus)、リステリア・イノクア(Listeria innocua)(Gasiunas, Barrangou et al. 2012; Jinek, Chylinski et al. 2012)、およびS.ピヨゲネス(S.Pyogenes)(Deltcheva, Chylinski et al. 2011)などの様々な細菌種において述べられている。この大きなCas9タンパク質(>1200アミノ酸)は、タンパク質の中央にある2つの推定ヌクレアーゼドメイン、すなわち、HNH(McrA様)ヌクレアーゼドメインと、分割されたRuvC様ヌクレアーゼドメイン(RNアーゼHフォールド(RNase H fold))を含有する。Cas9変種は、天然で自然界に存在せず、タンパク質工学またはランダム変異誘発によって得られるCas9エンドヌクレアーゼでもよい。本発明によるCas9変種は、例えば、変異、すなわち、S.ピオゲネスCas9エンドヌクレアーゼのアミノ酸配列(COG3513)内にある少なくとも1つの残基からの欠失またはS.ピオゲネスCas9エンドヌクレアーゼのアミノ酸配列内にある少なくとも1つの残基の挿入もしくは置換によって得ることができる。
【0042】
特定の態様において、前記レアカットエンドヌクレアーゼは、メガヌクレアーゼの名前でも知られるホーミングエンドヌクレアーゼでもよい。このようなホーミングエンドヌクレアーゼは当業者に周知である(Stoddard 2005)。ホーミングエンドヌクレアーゼは高度に特異的であり、長さが12〜45塩基対(bp)、通常、長さが14〜40bpのDNA標的部位を認識する。本発明によるホーミングエンドヌクレアーゼは、例えば、LAGLIDADGエンドヌクレアーゼ、HNHエンドヌクレアーゼ、またはGIY-YIGエンドヌクレアーゼに対応してもよい。本発明による好ましいホーミングエンドヌクレアーゼはI-CreI変種でもよい。「変種」エンドヌクレアーゼ、すなわち、天然で自然界に存在せず、遺伝子工学またはランダム変異誘発によって得られるエンドヌクレアーゼは、野生型エンドヌクレアーゼによって認識されるDNA配列とは異なるDNA配列に結合することができる(国際出願WO2006/097854を参照されたい)。
【0043】
特定の態様において、前記レアカットエンドヌクレアーゼは、通常、IIS型制限酵素であるFokIの切断ドメインと、3つ以上のC2H2ジンクフィンガーモチーフを含有するDNA認識ドメインとの融合である「ジンクフィンガーヌクレアーゼ」(ZFN)でもよい。2つのZFNそれぞれが正確な方向および間隔でDNAの特定の位置でヘテロ二量体化するとDNAの二本鎖切断(DSB)が起こる。このようなキメラエンドヌクレアーゼの使用は、Urnov et al.(Genome editing with engineered zinc finger nucleases(2010) Nature reviews Genetics 11:636-646)により概説されるように当技術分野において広範囲にわたって報告されている。標準的なZFNは切断ドメインと各ジンクフィンガードメインのC末端とを融合する。2つの切断ドメインが二量体化して、DNAを切断できるようになるために、2つのZFNがそれぞれDNAの反対鎖に結合する。これらのC末端は、ある一定の距離をあけて離れている。ジンクフィンガードメインと切断ドメインとの間にある、最も一般的に用いられるリンカー配列は、それぞれの結合部位の5'末端が5〜7bp隔てられていることを必要とする。新たなジンクフィンガーアレイを作製する最も簡単な方法は、特異性が分かっている小さなジンクフィンガー「モジュール」を組み合わせることである。最も一般的なモジュール集合プロセスは、それぞれが3塩基対DNA配列を認識することができる3つの別個のジンクフィンガーを組み合わせて、9塩基対標的部位を認識することができる3フィンガーアレイを作製することを伴う。望ましい配列を標的とすることができるジンクフィンガーアレイを作製するために、非常に多くの選択方法が用いられてきた。初期の選択の取り組みでは、部分的にランダム化されたジンクフィンガーアレイの大きなプールから、ある特定のDNA標的に結合したタンパク質を選択するためにファージディスプレイが利用された。つい最近の取り組みでは、酵母1ハイブリッド系、細菌1ハイブリッド系および2ハイブリッド系、ならびに哺乳動物細胞が利用された。
【0044】
特定の態様において、前記レアカットエンドヌクレアーゼは、典型的には転写アクチベーター様エフェクタータンパク質(TALE)に由来するDNA結合ドメインまたはモジュラー塩基対塩基結合ドメイン(MBBBD)に由来するDNA結合ドメインと、エンドヌクレアーゼ活性を有する触媒ドメインとの融合に起因する、「TALE-ヌクレアーゼ」または「MBBBD-ヌクレアーゼ」である。このような触媒ドメインは、通常、例えば、I-TevI、ColE7、NucA、およびFok-Iなどの酵素に由来する。TALE-ヌクレアーゼは、選択された触媒ドメインに応じて単量体または二量体の形で形成することができる(WO2012138927)。このような操作されたTALE-ヌクレアーゼは、商品名TALEN(商標)(Cellectis, 8 rue de la Croix Jarry, 75013 Paris, France)で市販されている。一般的に、DNA結合ドメインは、配列特異性が、非限定的な例としてザントモナス属(Xanthomonas)またはラルストニア属(Ralstonia)の細菌タンパク質AvrBs3、PthXo1、AvrHah1、PthA、Tal1cに由来する一連の33〜35アミノ酸の反復によって動かされる転写アクチベーター様エフェクター(TALE)に由来する。これらの反復は、本質的に、塩基対との相互作用を特定する2つのアミノ酸位置だけ異なる(Boch, Scholze et al. 2009; Moscou and Bogdanove 2009)。DNA標的内にあるそれぞれの塩基対には1個の反復が接触し、この特異性は反復の2つの変種アミノ酸(いわゆる反復可変ジペプチド(repeat variable dipeptide)、RVD)に起因する。TALE結合ドメインは、標的化配列の1番目のチミン塩基(T0)の要求を担うN末端移行ドメイン(translocation domain)、および核移行シグナル(NLS)を含有するC末端ドメインをさらに含んでもよい。TALE核酸結合ドメインは、通常、複数のTALE反復配列を含む操作されたコアTALEスキャフォールドに対応し、それぞれの反復は、TALE認識部位のそれぞれのヌクレオチド塩基に特異的なRVDを含む。本発明において、前記コアスキャフォールドのそれぞれのTALE反復配列は、30〜42個のアミノ酸、より好ましくは33個または34個のアミノ酸で作られ、位置12および13に配置された2つの重要なアミノ酸(いわゆる反復可変ジペプチド、RVD)が前記TALE結合部位配列の1つのヌクレオチドの認識を媒介する。特に、33アミノ酸長または34アミノ酸長より長いTALE反復配列では、12および13以外の位置に等価な2つの重要なアミノ酸が配置されてもよい。好ましくは、異なるヌクレオチドの認識に関連するRVDは、Cを認識する場合はHD、Tを認識する場合はNG、Aを認識する場合はNI、GまたはAを認識する場合はNNである。別の態様において、ヌクレオチドA、T、C、およびGに対する特異性を調整するために、特に、この特異性を増強するために、重要なアミノ酸12および13は他のアミノ酸残基に変異されてもよい。TALE核酸結合ドメインは、通常、8〜30個のTALE反復配列を含む。より好ましくは、本発明の前記コアスキャフォールドは8〜20個のTALE反復配列を含み、より好ましくは15個のTALE反復配列を含む。本発明の前記コアスキャフォールドはまた、前記TALE反復配列セットのC末端に配置された20個のアミノ酸で作られた、さらなる1個の切断型TALE反復配列、すなわち、さらなるC末端半TALE反復配列も含んでもよい。他のモジュラー塩基対塩基特異的核酸結合ドメイン(MBBBD)がWO2014/018601に記載されている。前記MBBBDは、例えば、内部共生体菌類であるブルクホルデリア・リゾキシニカ(Burkholderia Rhizoxinica)の最近、配列決定されたゲノムに由来する新たに特定されたタンパク質、すなわち、EAV36_BURRH、E5AW43_BURRH、E5AW45_BURRH、およびE5AW46_BURRHタンパク質から操作されてもよい。これらの核酸結合ポリペプチドは、塩基特異的な約31〜33個のアミノ酸のモジュールを含む。これらのモジュールはザントモナス属TALE共通反復と40%未満の配列同一性を示し、ザントモナス属TALE共通反復より大きなポリペプチド配列可変性を示す。特定の核酸配列に対して結合特性を有する新たなタンパク質またはスキャフォールドを操作するために、ブルクホルデリア属(Burkholderia)およびザントモナス属に由来する上記タンパク質に由来する異なるドメイン(モジュール、N末端およびC末端)が有用であり、キメラTALE-MBBBDタンパク質を形成するために組み合わされてもよい。結果として、T細胞受容体(TCR)の1成分をコードする少なくとも1種類の遺伝子をDNA切断によって選択的に不活性化することができるレアカットエンドヌクレアーゼをさらに発現する、操作されたT細胞が得られる。
【0045】
本発明の操作されたT細胞は、表面抗原CD25をコードする遺伝子をDNA切断、好ましくは、二本鎖切断によって選択的に不活性化することができるレアカットエンドヌクレアーゼをさらに発現することも本発明により意図される。CD25をコードする遺伝子を不活性化することによって、操作されたT細胞は、自己結合または自己相互作用する可能性が低くなり、Treg以外のT細胞を標的としなくなる。
【0046】
本発明に従って改変されるT細胞は任意の適切なT細胞でよい。例えば、T細胞は、炎症性Tリンパ球、細胞傷害性Tリンパ球、またはヘルパーTリンパ球でよい。特に、T細胞は細胞傷害性Tリンパ球である。ある特定の態様において、前記T細胞はCD4+Tリンパ球およびCD8+Tリンパ球より選択される。特定の態様において、本発明に従って改変されるT細胞はヒトT細胞である。本発明の細胞の増殖および遺伝子組換えの前に、様々な非限定的な方法によって対象、例えば、患者から細胞供給源を得ることができる。T細胞は、末梢血単核球、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位に由来する組織、腹水、胸水、脾臓組織、および腫瘍を含む多数の非限定的な供給源から得ることができる。本発明のある特定の態様では、入手可能であり、かつ当業者に公知の任意の数のT細胞株を使用することができる。別の態様において、前記細胞は健常ドナーから得られてもよく、癌と診断された患者または感染症と診断された患者から得られてもよい。別の態様において、前記細胞は、異なる表現型特徴を示す細胞の混合集団の一部である。
【0047】
本発明によれば、本明細書において詳述された核酸分子は、当技術分野において公知の任意の適切な方法によってT細胞に導入することができる。核酸分子をT細胞内に導入する適切な非限定的な方法には、核酸分子が細胞ゲノムに組み込まれる安定形質転換法、核酸分子が細胞ゲノムに組み込まれない一過的形質転換法、およびウイルスを介した方法が含まれる。前記核酸分子は、例えば、組換えウイルスベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス)、リポソームなどによって細胞に導入されてもよい。一過的形質転換法には、例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、またはパーティクルボンバードメントが含まれる。ある特定の態様において、核酸分子は、ベクター、例えば、ウイルスベクターまたはプラスミドである。適宜、前記ベクターは、T細胞による、本明細書において詳述された、それぞれのポリペプチドまたはタンパク質の発現を可能にする発現ベクターである。
【0048】
T細胞に導入される核酸分子はDNAでもよくRNAでもよい。ある特定の態様において、T細胞に導入される核酸分子はDNAである。ある特定の態様において、T細胞に導入される核酸分子は、RNA、特に、本明細書において詳述されたポリペプチドまたはタンパク質をコードするmRNAであり、このmRNAは、例えば、エレクトロポレーションによって、T細胞に直接導入される。適切なエレクトロポレーション技法は、例えば、国際公開WO2013/176915(特に「エレクトロポレーション」ブリッジングという表題のセクション、29〜30頁)に記載されている。mRNAでもよい特定の核酸分子は、T細胞受容体(TCR)の1成分をコードする少なくとも1種類の遺伝子をDNA切断によって選択的に不活性化することができるレアカットエンドヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子である。
【0049】
FoxP3のペプチド阻害物質
本発明によるFoxP3のペプチド阻害物質は、制御性T細胞に特異的であり、その発生および機能に必要とされる転写因子であるフォークヘッド/ウィングドヘリックス転写因子3(FoxP3、好ましくは、ヒトFoxP3)の活性を阻害することができる任意のペプチドまたはポリペプチドでよい。「阻害する」とは、制御性T細胞におけるFoxP3活性が少なくとも10%、例えば、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または100%低減することを意味する。この点において、「FoxP3活性」とは転写活性を意味する。
【0050】
さらに、FoxP3阻害活性を有することに加えて、本発明によるFoxP3のペプチド阻害物質は細胞膜を透過することができる。この機能はFoxP3のペプチド阻害物質に固有のものでもよく、既知の細胞透過性ペプチド(CPP)と、FoxP3阻害活性を有するペプチドまたはポリペプチドを融合した結果でもよい。FoxP3阻害活性を提供するアミノ酸配列に、前記CPP配列のN末端またはC末端が連結されてもよい。CPPの適切な例には、ヒト免疫不全症ウイルス1型(HIV-1)によるウイルス複製に必要な101アミノ酸タンパク質である核転写活性化因子タンパク質であるTat、ドロソフィリア(Drosophilia)のホメオタンパク質アンテナペディア(Antennapedia)の3番目のヘリックスに対応するペネトラチン、カポジ線維芽細胞増殖因子(FGF)シグナルペプチド配列、インテグリンβ3シグナルペプチド配列;グアニンリッチ分子輸送体、MPG、pep-1、スィートアロー(sweet arrow)ペプチド、ダーマセプチン、トランスポータン、pVEC、ヒトカルシトニン、マウスプリオンタンパク質(mPrPr)、ポリアルギニンペプチドArgs配列、単純ヘルペスウイルスに由来するVP22タンパク質、抗菌ペプチドブフォリン(Buforin)I、およびSynB(US2013/0065314)が含まれるが、これに限定されない。
【0051】
本発明によるFoxP3のペプチド阻害物質の非限定的な例は、Casares et al.(2010)に記載のポリペプチドP60である。P60はFoxP3阻害活性に加えて、細胞膜を透過できることも示されている。このポリペプチドは、アミノ酸配列:
を有する。このポリペプチドをコードする例示的なヌクレオチド配列は
によって表される。しかしながら、遺伝暗号の縮重により、SEQ ID NO:1に示したアミノ酸配列をコードする他の任意の適切なヌクレオチド配列も本開示に包含されることが理解される。
【0052】
従って、本発明のある特定の態様において、FoxP3の細胞透過性ペプチド阻害物質は、SEQ ID NO:1に示したアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはSEQ ID NO:1の全長にわたってSEQ ID NO:1に示したアミノ酸配列と少なくとも60%、例えば、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、その変種である。従って、これらの態様によれば、SEQ ID NO:1に示したアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはSEQ ID NO:1の全長にわたってSEQ ID NO:1に示したアミノ酸配列と少なくとも60%、例えば、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、その変種をコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸分子がT細胞に導入される。前記変種は、SEQ ID NO:1と比較して1個または複数個の、例えば、2個、3個、4個、5個、または6個のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含んでもよい。好ましくは、このようなアミノ酸置換は、あるアミノ酸が、サイズおよび化学的特性が似ている別のアミノ酸と交換されることを意味する保存的置換である。従って、このような保存的アミノ酸置換は、ペプチド構造に及ぼす影響が少ない可能性があり、従って、機能を損なうことなく容認されることがある。好ましくは、このような変種はFoxP3活性を阻害することができ、細胞膜を透過することができる。
【0053】
ある特定の態様によれば、従って、外因性核酸分子は、SEQ ID NO:2 に示したヌクレオチド配列、または遺伝暗号の縮重により、同様に、SEQ ID NO:1に示したアミノ酸配列をコードする他の任意のヌクレオチド配列を含んでもよい。
【0054】
結果として、SEQ ID NO:1に示したアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはSEQ ID NO:1の全長にわたってSEQ ID NO:1に示したアミノ酸配列と少なくとも60%、例えば、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、その変種を発現する、操作されたT細胞が得られてもよい。
【0055】
本発明のある特定の態様によれば、FoxP3の細胞透過性ペプチド阻害物質は、アミノ酸配列
を含むポリペプチド、またはSEQ ID NO:3の全長にわたってSEQ ID NO:3に示したアミノ酸配列と少なくとも60%、例えば、少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、その変種である。従って、これらの態様によれば、SEQ ID NO:3に示したアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはSEQ ID NO:3の全長にわたってSEQ ID NO:3に示したアミノ酸配列と少なくとも60%、例えば、少なくとも62,5%、少なくとも75%、もしくは少なくとも87,5%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、その変種をコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸分子がT細胞に導入される。SEQ ID NO:3の全長にわたってSEQ ID NO:3に示したアミノ酸配列と少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドは、SEQ ID NO:3と比較して1個または複数個の、例えば、2個、3個、4個、5個、または6個のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含んでもよい。好ましくは、このようなアミノ酸置換は、あるアミノ酸が、サイズおよび化学的特性が似ている別のアミノ酸と交換されることを意味する保存的置換である。このように、このような保存的アミノ酸置換は、ペプチド構造に及ぼす影響が少ない可能性があり、従って、機能を損なうことなく容認されることがある。好ましくは、このような変種はFoxP3活性を阻害することができ、細胞膜を透過することができる。
【0056】
従って、ある特定の態様によれば、外因性核酸分子は、ヌクレオチド配列
、または遺伝暗号の縮重により、同様に、SEQ ID NO:3に示したアミノ酸配列をコードする他の任意のヌクレオチド配列を含んでもよい。
【0057】
結果として、SEQ ID NO:3に示したアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはSEQ ID NO:3の全長にわたってSEQ ID NO:3に示したアミノ酸配列と少なくとも60%、例えば、少なくとも62,5%、少なくとも75%、もしくは少なくとも87,5%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、その変種を発現する、操作されたT細胞が得られてもよい。
【0058】
キメラ抗原受容体(CAR)
養子免疫療法は、エクスビボで作製された自己由来の抗原特異的T細胞を導入することを伴い、癌またはウイルス感染症を処置する有望な戦略である。養子免疫療法に用いられるT細胞は、抗原特異的T細胞を増殖させることによって、または遺伝子工学によってT細胞を方向付け直すことによって作製することができる(Park, Rosenberg et al. 2011)。ウイルス抗原特異的T細胞の導入は、移植に関連するウイルス感染症と稀なウイルス関連悪性疾患を処置するのに用いられる十分に確立した手順である。同様に、腫瘍特異的T細胞の単離および導入は黒色腫を処置することに成功したことが示されている。
【0059】
T細胞における新たな特異性は、トランスジェニックT細胞受容体またはキメラ抗原受容体(CAR)を遺伝子導入することによって首尾良く作製されている(Jena, Dotti et al. 2010)。CARは、1つの融合分子の形をとる、1つまたは複数のシグナル伝達ドメインに結合した標的化部分からなる合成受容体である。通常、CARの結合部分は、可動性リンカーによってつながっているモノクローナル抗体の軽鎖可変断片を含む単鎖抗体(scFv)抗原結合ドメインからなる。受容体またはリガンドドメインをベースとする結合部分も首尾良く用いられている。第1世代CAR用のシグナル伝達ドメインはCD3ζまたはFc受容体γ鎖の細胞質領域に由来する。第1世代CARはT細胞の細胞傷害性を首尾良く方向付け直すことが示されているが、インビボで長期増殖および抗腫瘍活性をもたらさなかった。CAR改変T細胞の生存率を向上させ、増殖を増やすために、CD28、OX-40(CD134)、および4-1BB(CD137)を含む共刺激分子に由来するシグナル伝達ドメインが単独で(第二世代)または組み合わせて(第三世代)加えられている。CARを用いると、リンパ腫および固形腫瘍を含む様々な悪性疾患に由来する腫瘍細胞の表面に発現している抗原にT細胞を首尾良く方向付け直すことができた(Jena, Dotti et al. 2010)。
【0060】
B急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)の大多数が一様にCD19を発現するのに対して、非造血細胞、ならびに骨髄系細胞、赤血球細胞、およびT細胞、ならびに骨髄幹細胞では発現は存在しないので、CD19は免疫療法の魅力的な標的である。B細胞悪性疾患上にあるCD19を標的とする臨床試験が有望な抗腫瘍応答を伴って進行中である。ほとんどが、CD19特異的マウスモノクローナル抗体FMC63のscFv領域に由来する特異性をもつキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子組換えされたT細胞を注入する(WO2013/126712)。
【0061】
従って、ある特定の態様によれば、第1のキメラ抗原受容体はBリンパ球抗原CD19に対して向けられたものである。
【0062】
ある特定の態様によれば、第1のキメラ抗原受容体は単鎖キメラ抗原受容体である。本発明による操作されたT細胞において発現される単鎖キメラ抗原受容体の一例は、少なくとも1つの細胞外リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメイン、および少なくとも1つのシグナル伝達ドメインを含む単一のポリペプチドである。前記細胞外リガンド結合ドメインは、特異的抗CD19モノクローナル抗体4G7に由来するscFVを含む。このCARは、例えば、レトロウイルス形質導入またはレンチウイルス形質導入を用いてT細胞に形質導入されると、リンパ腫または白血病に関与する悪性B細胞の表面に存在するCD19抗原の認識に寄与する。
【0063】
特定の態様によれば、第1のキメラ抗原受容体は、SEQ ID NO:5に示したアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはSEQ ID NO:5の全長にわたってSEQ ID NO:5に示したアミノ酸配列と少なくとも70%、例えば、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、その変種である。好ましくは、前記変種はCD19に結合することができる。
【0064】
ある特定の他の態様によれば、第1のキメラ抗原受容体は、悪性細胞または感染細胞の表面に発現している別の抗原、例えば、分化クラスター分子、例えば、CD16、CD64、CD78、CD96、CLL1、CD116、CD117、CD71、CD45、CD71、CD123、およびCD138、腫瘍関連表面抗原、例えば、ErbB2(HER2/neu)、癌胎児抗原(CEA)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、EGFR変種III(EGFRvIII)、CD19、CD20、CD30、CD40、ジシアロガングリオシドGD2、管上皮ムチン、gp36、TAG-72、スフィンゴ糖脂質、神経膠腫関連抗原、β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン、αフェトプロテイン(AFP)、レクチン反応性AFP、チログロブリン、RAGE-1、MN-CA IX、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2(AS)、腸カルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、M-CSF、プロスターゼ(prostase)、プロスターゼ特異的抗原(PSA)、PAP、NY-ESO-1、LAGA-1a、p53、プロステイン(prostein)、PSMA、サバイビンおよびテロメラーゼ、前立腺癌腫瘍抗原-1(PCTA-1)、MAGE、ELF2M、好中球エラスターゼ、エフリンB2、CD22、インシュリン増殖因子(IGF1)-I、IGF-II、IGFI受容体、メソテリン、腫瘍特異的ペプチドエピトープを提示する主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子、5T4、ROR1、Nkp30、NKG2D、腫瘍間質抗原、フィブロネクチンのエクストラドメイン(extra domain)A(EDA)およびエクストラドメインB(EDB)、ならびにテネイシン-CのA1ドメイン(TnC A1)および線維芽細胞関連タンパク質(fap);細胞系列特異的抗原または組織特異的抗原、例えば、CD3、CD4、CD8、CD24、CD25、CD33、CD34、CD133、CD138、CTLA-4、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、GM-CSF、サイトカイン受容体、エンドグリン、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子、BCMA(CD269、TNFRSF17)、多発性骨髄腫抗原もしくはリンパ芽球性白血病抗原、例えば、TNFRSF17(UNIPROT Q02223)、SLAMF7(UNIPROT Q9NQ25)、GPRC5D(UNIPROT Q9NZD1)、FKBP11(UNIPROT Q9NYL4)、KAMP3、ITGA8(UNIPROT P53708)、およびFCRL5(UNIPROT Q68SN8)より選択される抗原、ウイルス特異的表面抗原、例えば、HIV特異的抗原(例えば、HIV gp120); EBV特異的抗原、CMV特異的抗原、HPV特異的抗原、ラッサ(Lasse)ウイルス特異的抗原、インフルエンザウイルス特異的抗原、ならびにこれらの表面抗原の任意の誘導体または変種に対して向けられてもよい。
【0065】
ある特定の他の態様において、第1のキメラ抗原受容体は多鎖キメラ抗原受容体である。T細胞に導入される先行技術のキメラ抗原受容体は、シグナル伝達ドメインの連続付加を必要とする単鎖ポリペプチドから形成された。しかしながら、シグナル伝達ドメインがその自然の膜近傍位置から動くと、その機能が妨げられる可能性がある。この欠点を克服するために、出願人は、最近、全ての関係するシグナル伝達ドメインの正常な膜近傍位置を可能にするために、FcεRIに由来する多鎖CARを設計した。WO2013/176916に記載のように、この新たな構造では、FcεRIα鎖の高親和性IgE結合ドメインは、T細胞特異性を細胞標的に方向付け直すためにscFvなどの細胞外リガンド結合ドメインと交換され、共刺激シグナルを正常な膜近傍位置に配置するためにFcεRIβ鎖のN末端テールおよび/またはC末端テールが用いられる。
【0066】
従って、本発明による遺伝子操作されたT細胞が発現するCARは、特に、本発明の操作されたT細胞の作製および増殖に合わせられた多鎖キメラ抗原受容体でもよい。このような多鎖CARは、以下の成分:
(a)FcεRIα鎖の膜貫通ドメインおよび細胞外リガンド結合ドメインを含む1つのポリペプチド、
(b)FcεRIβ鎖のN末端細胞質テールおよびC末端細胞質テールの一部ならびに膜貫通ドメインを含む1つのポリペプチド、ならびに/または
(c)それぞれが、FcεRIγ鎖の細胞質内テールの一部および膜貫通ドメイン含み、異なるポリペプチドが自発的に一緒になって多量体化して二量体CAR、三量体CAR、または四量体CARを形成する、少なくとも2つのポリペプチド
の少なくとも2つを含む。
【0067】
このような構造によれば、リガンド結合ドメインおよびシグナル伝達ドメインは別個のポリペプチドに載って運ばれる。異なるポリペプチドは近接して膜内に固定されるので互いに相互作用することが可能になる。このような構造では、シグナル伝達ドメインおよび共刺激ドメインは膜近傍位置にあってもよい(すなわち、細胞膜に隣接し、細胞膜の内側にあってもよい)。これは、共刺激ドメインの機能の改善を可能にすると考えられる。このマルチサブユニット構造はまた、さらに大きな融通性と、T細胞活性化をさらに厳密に制御するCARを設計する可能性ももたらす。例えば、多重特異性CAR構造を得るために、異なる特異性を有するいくつかの細胞外抗原認識ドメインを含めることが可能である。多鎖CARの中に入る異なるサブユニット間の相対比を制御することも可能である。このタイプの構造は、最近、出願人によってPCT/US2013/058005で詳述された。
【0068】
1つの多鎖CARの一部として異なる鎖を集合することは、例えば、シグナル伝達ドメインおよび共刺激ドメインと融合した、IgEの高親和性受容体(FcεRI)(Metzger, Alcaraz et al. 1986)の異なるα鎖、β鎖、およびγ鎖を用いることによって可能になる。γ鎖は、膜貫通領域と、1個の免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ(ITAM)(Cambier 1995)を含有する細胞質テールを含む。
【0069】
多鎖CARは、標的中の異なる要素に同時に結合し、それによって、免疫細胞の活性化および機能を増大するように、いくつかの細胞外リガンド結合ドメインを含んでもよい。一態様において、細胞外リガンド結合ドメインは同じ膜貫通ポリペプチド上にタンデムに置かれてもよく、任意で、リンカーで分けられてもよい。別の態様において、前記異なる細胞外リガンド結合ドメインは、多鎖CARを構成する異なる膜貫通ポリペプチド上に置かれてもよい。
【0070】
本発明の多鎖CARのシグナル伝達ドメインまたは細胞内シグナル伝達ドメインは、細胞外リガンド結合ドメインが標的に結合した後に、免疫細胞および免疫応答の活性化をもたらす細胞内シグナル伝達を担う。言い換えると、シグナル伝達ドメインは、多鎖CARが発現している免疫細胞の正常エフェクター機能の少なくとも1つの活性化を担う。例えば、T細胞のエフェクター機能は、細胞溶解活性、またはサイトカイン分泌を含むヘルパー活性でもよい。
【0071】
本願において、「シグナル伝達ドメイン」という用語は、エフェクターシグナル機能シグナルを伝達し、特殊化した機能を実行するように細胞を誘導するタンパク質部分を指す。
【0072】
単鎖CARまたは多鎖CARにおいて使用するためのシグナル伝達ドメインの好ましい例は、抗原受容体結合後にシグナル伝達を開始するために協調して働く、Fc受容体またはT細胞受容体および補助受容体の細胞質配列、ならびにこれらの配列の任意の誘導体または変種、および同じ機能をもつ任意の合成配列でもよい。シグナル伝達ドメインは、抗原依存的一次活性化を開始する細胞質シグナル伝達配列、および二次シグナルまたは共刺激シグナルを供給するように抗原非依存的に働く細胞質シグナル伝達配列である2つの別々のクラスの細胞質シグナル伝達配列を含む。一次細胞質シグナル伝達配列は、ITAMの免疫受容体チロシンベース活性化モチーフとして知られるシグナル伝達モチーフを含んでもよい。ITAMは、syk/zap70クラスチロシンキナーゼの結合部位として役立つ、様々な受容体の細胞質内テールにおいて発見された詳細に明らかにされたシグナル伝達モチーフである。本発明において用いられるITAMの例には、非限定的な例として、TCRζ、FcRγ、FcRβ、FcRε、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD5、CD22、CD79a、CD79b、およびCD66dに由来するITAMが含まれ得る。特定の態様によれば、多鎖CARのシグナル伝達ドメインはCD3ζシグナル伝達ドメインを含んでもよく、FcεRIβ鎖またはγ鎖の細胞質内ドメインを含んでもよい。
【0073】
特定の態様によれば、本発明の多鎖CARのシグナル伝達ドメインは共刺激シグナル分子を含む。共刺激分子は、効率的な免疫応答に必要な、抗原受容体またはそのリガンド以外の細胞表面分子である。
【0074】
リガンド結合ドメインは、文献において言及された単鎖CARに関して、以前に使用および言及された任意の抗原受容体、特に、モノクローナル抗体に由来するscFvでよい。
【0075】
特定の態様によれば、第1のキメラ抗原受容体は、SEQ ID NO:6に示した(例えば、SEQ ID NO:7によってコードされる)アミノ酸配列を含むポリペプチド、またはSEQ ID NO:6の全長にわたってSEQ ID NO:6に示したアミノ酸配列と少なくとも70%、例えば、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、その変種である。好ましくは、前記変種はCD19に結合することができる。
【0076】
特に好ましい第1のキメラ抗原受容体は、SEQ ID NO:8に示したアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはSEQ ID NO:8の全長にわたってSEQ ID NO:8に示したアミノ酸配列と少なくとも80%、例えば、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、その変種である。好ましくは、前記変種はCD19に結合することができる。
【0077】
例えば、国際公開WO2014/4011988に記載のような二重特異性CARまたは多重特異性CARも本発明に包含される。制御性T細胞の表面に発現している少なくとも1種類の抗原に対して向けられた第2のCARについて、このような二重特異性CARまたは多重特異性CARが特に意図される。
【0078】
第2のCARに適した標的抗原は、制御性T細胞の表面に発現していることが知られている表面抗原CD25である。これにより、本発明の操作されたT細胞は制御性T細胞に結合することが可能になる。他の例示的な表面抗原は、CD4、CD152、IL3R、CCR4、CCR6、CD161、およびCXR3でもよい。
【0079】
ある特定の態様によれば、第2のキメラ抗原受容体は単一特異性であり、好ましくは、表面抗原CD25に対して向けられる。
【0080】
ある特定の他の態様によれば、第2のキメラ抗原受容体は二重特異性である。特定の態様によれば、このような二重特異性の第2のキメラ抗原受容体は、表面抗原CD25と、CD4、CD152、IL3R、CCR4、CCR6、CD161、およびCXR3からなる群より選択される他の1種類の表面抗原に対して向けられる。
【0081】
第1のキメラ抗原受容体と同様に、第2のキメラ抗原受容体は単鎖キメラ抗原受容体または多鎖CARでもよい。単鎖CARおよび多鎖CARに関する上記で示された詳しい内容は、必要に応じて変更を加えて適用される。
【0082】
T細胞の活性化および増殖
T細胞を遺伝子組換えする前でも遺伝子組換えした後でも、T細胞は、通常、例えば、米国特許第6,352,694号;同第6,534,055号;同第6,905,680号;同第6,692,964号;同第5,858,358号;同第6,887,466号;同第6,905,681号;同第7,144,575号;同第7,067,318号;同第7,172,869号;同第7,232,566号;同第7,175,843号;同第5,883,223号;同第6,905,874号;同第6,797,514号;同第6,867,041号;および米国特許出願公開第20060121005号に記載の方法を用いて活性化および増殖することができる。T細胞はインビトロで増殖されてもよく、インビボで増殖されてもよい。
【0083】
概して、本発明のT細胞は、CD3 TCR複合体関連シグナルを刺激する薬剤と、T細胞表面にある共刺激分子を刺激するリガンドが取り付けられている表面と接触させることによって増殖される。特に、T細胞集団は、例えば、表面に固定化された抗CD3抗体もしくはその抗原結合断片または抗CD2抗体との接触によってインビトロで刺激されてもよく、プロテインキナーゼCアクチベーター(例えば、ブリオスタチン)とカルシウムイオノフォアとの接触によってインビトロで刺激されてもよい。T細胞表面にあるアクセサリー分子を同時刺激するために、アクセサリー分子に結合するリガンドが用いられる。例えば、T細胞増殖を刺激するのに適した条件下で、T細胞またはT細胞集団と抗CD3抗体および抗CD28抗体を接触させることができる。
【0084】
本発明のさらなる態様において、T細胞は薬剤コーティングビーズと組み合わされ、ビーズおよび細胞は後で分離され、次いで、細胞は培養される。別の態様では、培養前に薬剤コーティングビーズおよび細胞は分離されず、一緒に培養される。抗CD3および抗CD28が取り付けられている常磁性ビーズ(3x28ビーズ)がT細胞と接触するのを可能にすることで、細胞表面タンパク質が連結される場合がある。一態様によれば、細胞(例えば、4〜10個のT細胞)およびビーズ(例えば、1:1比のDYNABEADS(登録商標)M-450 CD3/CD28 T常磁性ビーズ)が、緩衝液中、好ましくは、PBS(カルシウムおよびマグネシウムなどの二価カチオンを含まない)の中で組み合わされる。これもまた、任意の細胞濃度を使用できることを当業者は容易に理解することができる。混合物は数時間(約3時間)〜約14日間、培養されてもよく、その間の任意の整数値の時間にわたって培養されてもよい。別の態様では、混合物は21日間、培養されてもよい。T細胞培養に適した条件には、血清(例えば、胎仔ウシ血清または胎児ヒト血清)、インターロイキン-2(IL-2)、インシュリン、IFN-g、1L-4、1L-7、GM-CSF、-10、-2、1L-15、TGFp、およびTNF-、または当業者に公知の細胞増殖のための他の任意の添加物を含む、増殖および生存に必要な因子を含有し得る適切な培地(例えば、最小必須培地またはRPMI培地1640またはX-vivo 5(Lonza))が含まれる。細胞増殖のための他の添加物には、界面活性剤、プラスマネート(plasmanate)、および還元剤、例えば、N-アセチル-システインおよび2-メルカプトエタノールが含まれるが、これに限定されない。培地には、アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、およびビタミンが添加され、無血清の、あるいは適量の血清(もしくは血漿)、または規定された一組のホルモン、ならびに/またはT細胞の成長および増殖に十分な量のサイトカインが加えられた、RPMI 1640、A1M-V、DMEM、MEM、a-MEM、F-12、X-Vivo 1、およびX-Vivo 20、Optimizerが含まれ得る。抗生物質、例えば、ペニシリンおよびストレプトマイシンは実験的培養物にだけ含まれ、対象に注入される細胞の培養物には含まれない。標的細胞は、増殖を支援するのに必要な条件、例えば、適切な温度(例えば、37℃)および雰囲気(例えば、空気+5%CO2)の下で維持される。異なる刺激時間に曝露されたT細胞は異なる特徴を示す場合がある。
【0085】
別の特定の態様において、T細胞は組織または細胞と共培養することによって増殖されてもよい。前記T細胞はまたインビボで増殖されてもよく、例えば、前記細胞を対象に投与した後に対象の血液中で増殖されてもよい。
【0086】
操作されたT細胞
本発明の結果として、改善された特徴を有する、操作されたT細胞を得ることができる。特に、本発明は、本明細書では第1のCARと呼ばれる、悪性細胞または感染細胞の表面に発現している少なくとも1種類の抗原に対して向けられたキメラ抗原受容体(CAR)と、制御性T細胞活性の阻害物質、好ましくは、FoxP3の細胞透過性ペプチド阻害物質が両方とも発現することを特徴とする、操作された、好ましくは、単離されたT細胞を提供する。
【0087】
さらに具体的には、本発明は、
(a)悪性細胞または感染細胞の表面に発現している少なくとも1種類の抗原に対して向けられた第1のキメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸分子;および
(b)制御性T細胞活性の阻害物質、好ましくは、FoxP3の細胞透過性ペプチド阻害物質をコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸分子
を含む、操作された、好ましくは、単離されたT細胞を提供する。
【0088】
ある特定の態様によれば、操作されたT細胞は、c)制御性T細胞(Treg)の表面に発現している少なくとも1種類の抗原に対して向けられた第2のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸分子をさらに含む。特定の態様によれば、前記第2のキメラ抗原受容体は前記T細胞によって発現される。
【0089】
ある特定の態様によれば、操作されたT細胞は、d)T細胞受容体(TCR)の1成分をコードする少なくとも1種類の遺伝子をDNA切断によって選択的に不活性化することができるレアカットエンドヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸分子をさらに含む。特定の態様によれば、T細胞受容体(TCR)の1成分をコードする少なくとも1種類の遺伝子をDNA切断によって選択的に不活性化することができる前記レアカットエンドヌクレアーゼは前記T細胞によって発現される。
【0090】
ある特定の態様によれば、操作されたT細胞は、e)表面抗原CD25をコードする遺伝子をDNA切断によって選択的に不活性化することができるレアカットエンドヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸分子をさらに含む。特定の態様によれば、表面抗原CD25をコードする遺伝子をDNA切断によって選択的に不活性化することができる前記レアカットエンドヌクレアーゼは前記T細胞によって発現される。
【0091】
特に、第1のキメラ抗原受容体、制御性T細胞活性の阻害物質、特に、FoxP3の細胞透過性ペプチド阻害物質、第2のキメラ抗原受容体、T細胞受容体(TCR)の1成分をコードする少なくとも1種類の遺伝子をDNA切断によって選択的に不活性化することができるレアカットエンドヌクレアーゼ、および表面抗原CD25をコードする遺伝子をDNA切断によって選択的に不活性化することができるレアカットエンドヌクレアーゼについて本明細書において示された詳しい内容が本発明のこの局面にも適用されることが理解される。
【0092】
さらに、本発明の範囲には、本発明による遺伝子操作されたT細胞から得られた細胞株も包含される。
【0093】
核酸、組成物、およびキット
さらなる局面において、本発明は、T細胞において様々なCAR、制御性T細胞活性の阻害物質、特に、ペプチド阻害物質FoxP3、およびエンドヌクレアーゼを発現させるのに適した核酸分子、ならびにこのような核酸分子を含む組成物およびキットを提供する。
【0094】
従って、本発明は、悪性細胞または感染細胞の表面に発現している少なくとも1種類の抗原に対して向けられたキメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列;および制御性T細胞活性の阻害物質、好ましくは、FoxP3の細胞透過性ペプチド阻害物質をコードするヌクレオチド配列を含む、単離された核酸分子を提供する。
【0095】
核酸分子はDNAでもよくRNAでもよい。ある特定の態様において、核酸分子はDNAである。ある特定の他の態様において、核酸分子は、RNA分子、特に、前記キメラ抗原受容体および前記FoxP3の細胞透過性ペプチド阻害物質をコードするmRNAである。特定の態様によれば、前記キメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列および制御性T細胞活性の阻害物質、好ましくは、FoxP3の細胞透過性ペプチド阻害物質をコードするヌクレオチド配列は、リボソームスキップ配列をコードするヌクレオチド配列、例えば、2Aペプチドをコードするヌクレオチド配列によって互いに機能的に連結されている。このようなリボソームスキップ機構は当技術分野において周知であり、単一のmRNAによってコードされる数種類のタンパク質を発現させるために、いくつかのベクターにより用いられることが知られている。
【0096】
ある特定の態様によれば、前記核酸は、ベクター、例えば、ウイルスベクターまたはプラスミドである。T細胞による発現を可能にするために、前記キメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列および制御性T細胞活性の阻害物質、好ましくは、FoxP3の細胞透過性ペプチド阻害物質をコードするヌクレオチド配列は、T細胞において発現させるのに適した1つまたは複数のプロモーターと機能的に連結されている。場合によっては、キメラ抗原受容体が、これに特異的な抗原を認識し、結合するのであれば、制御性T細胞活性の阻害物質、例えば、FoxP3の細胞透過性ペプチド阻害物質だけを発現させることが望ましい場合がある。このような場合、FoxP3の細胞透過性ペプチド阻害物質の発現は、好ましくは、NFAT最小プロモーターなどの誘導性プロモーターの制御下にある。
【0097】
本明細書において詳述された核酸分子の1つまたは複数を含む組成物も本発明の範囲内に包含される。特に、本発明は、悪性細胞または感染細胞の表面に発現している少なくとも1種類の抗原に対して向けられた第1のキメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列;およびFoxP3の細胞透過性ペプチド阻害物質をコードするヌクレオチド配列を含む1つまたは複数の核酸分子を含む、組成物を提供する。ある特定の態様によれば、前記第1のキメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列;および前記制御性T細胞活性の阻害物質、好ましくは、前記FoxP3の細胞透過性ペプチド阻害物質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を含む組成物が提供される。ある特定の他の態様によれば、悪性細胞または感染細胞の表面に発現している少なくとも1種類の抗原に対して向けられた前記第1のキメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列を含む第1の核酸分子;および制御性T細胞活性の阻害物質、好ましくは、前記FoxP3の細胞透過性ペプチド阻害物質をコードするヌクレオチド配列を含む第2の核酸分子を含む、組成物が提供される。特定の態様によれば、前記組成物は、制御性T細胞(Treg)の表面に発現している少なくとも1種類の抗原に対して向けられた第2のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含む、さらなる核酸分子を含んでもよい。他の特定の態様によれば、組成物は、T細胞受容体(TCR)の1成分をコードする少なくとも1種類の遺伝子をDNA切断によって選択的に不活性化することができるレアカットエンドヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列を含む、さらなる核酸分子、および/または表面抗原CD25をコードする遺伝子をDNA切断によって選択的に不活性化することができるレアカットエンドヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を含んでもよい。
【0098】
前記組成物に含まれる核酸分子はDNAまたはRNAでもよい。ある特定の態様において、核酸分子はDNAである。ある特定の他の態様において、核酸分子はRNA分子である。ある特定の態様によれば、核酸分子は、ベクター、例えば、ウイルスベクターまたはプラスミドである。T細胞による発現を可能にするために、前記キメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列および/または制御性T細胞活性の阻害物質、好ましくは、FoxP3の細胞透過性ペプチド阻害物質をコードするヌクレオチド配列は、T細胞における発現に適した1つまたは複数のプロモーターに機能的に連結される。
【0099】
本明細書において詳述された核酸分子の1つもしくは複数または1つもしくは複数の組成物を含む、キットも本発明の範囲内に包含される。
【0100】
特に、第1のキメラ抗原受容体、制御性T細胞活性の阻害物質、特に、FoxP3の細胞透過性ペプチド阻害物質、第2のキメラ抗原受容体、T細胞受容体(TCR)の1成分をコードする少なくとも1種類の遺伝子をDNA切断によって選択的に不活性化することができるレアカットエンドヌクレアーゼ、および表面抗原CD25をコードする遺伝子をDNA切断によって選択的に不活性化することができるレアカットエンドヌクレアーゼについて本明細書において示された詳しい内容が、本発明のこれらの局面にも適用されることが理解される。
【0101】
治療用途
本発明に従って入手可能なT細胞は、医薬、特に、必要とする患者において癌、感染症(例えば、ウイルス感染症)、または免疫疾患を処置するための医薬として用いられることが意図される。従って、本発明は、医薬として使用するための、操作されたT細胞を提供する。特に、本発明は、癌、例えば、リンパ腫、またはウイルス感染症の処置において使用するための、操作されたT細胞を提供する。少なくとも1つの本発明の遺伝子操作されたT細胞を含む組成物、特に、薬学的組成物も提供される。ある特定の態様において、組成物は、本発明の操作されたT細胞の集団を含んでもよい。
【0102】
前記処置は、寛解させる処置でもよく、根治的処置でもよく、予防的処置でもよい。前記処置は自家免疫療法の一環でもよく、同種異系免疫療法処置の一環でもよい。自家とは、患者の処置に用いられる細胞、細胞株、または細胞集団が前記患者またはヒト白血球抗原(HLA)適合ドナーに由来することを意味する。同種異系とは、患者の処置に用いられる細胞または細胞集団が前記患者に由来しないが、ドナーに由来することを意味する。
【0103】
本発明は、典型的にはドナーから得られたT細胞を形質転換して非アロ反応性細胞にすることができる限り、同種異系免疫療法に特に適している。これは標準的なプロトコール下で行われ、必要に応じて何回でも再現される場合がある。結果として得られた改変されたT細胞はプールされてもよく、1人または数人の患者に投与されてもよく、「既製の」治療製品として利用することができる。
【0104】
処置は、主として、癌と診断された患者を処置することを目的とする。癌は、好ましくは、液性腫瘍を有するが、固形腫瘍にも関係することがある白血病およびリンパ腫である。本発明の遺伝子操作されたT細胞を用いて処置される癌のタイプには、癌腫、芽腫、および肉腫、ならびにある特定の白血病またはリンパ系腫瘍、良性腫瘍および悪性腫瘍、ならびに悪性疾患、例えば、肉腫、癌腫、および黒色腫が含まれるが、これに限定されない。成人腫瘍/癌および小児科腫瘍/癌も含まれる。
【0105】
前記処置は、抗体療法、化学療法、サイトカイン療法、樹状細胞療法、遺伝子療法、ホルモン療法、レーザー光療法、および放射線療法の群より選択される1つまたは複数の療法と組み合わせて行うことができる。
【0106】
ある特定の態様によれば、本発明のT細胞は患者に投与されると活発にインビボでT細胞増殖することができ、長期間にわたって、好ましくは、1週間、より好ましくは、2週間、さらにより好ましくは、少なくとも1ヶ月にわたって体液中に残り続けることができる。本発明によるT細胞は、これらの期間にわたって残り続けると予想されるが、患者の体内での寿命は、1年、好ましくは、6ヶ月、より好ましくは、2ヶ月、さらにより好ましくは、1ヶ月を超えないことが意図される。
【0107】
本発明による細胞または細胞集団の投与は、エアロゾル吸入、注射、摂取、輸血、移植(implantation)、または移植(transplantation)を含む任意の従来のやり方で行われてもよい。本明細書に記載の組成物は、患者に、皮下に、皮内に、腫瘍内に、結節内に、髄内に、筋肉内に、静脈内注射もしくはリンパ内注射によって、または腹腔内に投与されてもよい。一態様において、本発明の細胞組成物は、好ましくは、静脈内注射によって投与される。
【0108】
細胞または細胞集団の投与は、体重1kgにつき104〜109個の細胞を、好ましくは、体重1kgにつき105〜106個の細胞を、この範囲内にある全ての整数値の細胞数を含めて投与することからなってもよい。前記の細胞または細胞集団は1回の投与または複数回の投与で投与されてもよい。別の態様において、前記有効量の細胞は単回投与として投与される。別の態様において、前記有効量の細胞は、ある期間にわたって複数回投与として投与される。投与のタイミングは、管理を行っている医師によって判断され、患者の臨床状態に左右される。前記の細胞または細胞集団は、血液バンクまたはドナーなどの任意の供給源から得ることができる。個々のニーズは異なるが、特定の疾患または状態に対する特定の細胞タイプの有効量の最適範囲の決定は当技術分野の技術の範囲内にある。有効量とは、治療的利益または予防的利益をもたらす量を意味する。投与される投与量は、レシピエントの年齢、健康状態、および体重、併用処置がもしあれば、その種類、処置の頻度、ならびに望ましい効果がどういったものかに左右される。
【0109】
別の態様において、前記有効量の細胞または細胞を含む組成物が非経口投与される。前記投与は静脈内投与でもよい。前記投与は腫瘍内に注射することによって直接行われてもよい。
【0110】
ある特定の態様において、細胞は、薬剤、例えば、抗ウイルス療法、シドホビルおよびインターロイキン-2、シタラビン(ARA-Cとも知られる)、またはMS患者の場合はナタリジマブ(nataliziimab)処置もしくは乾癬患者の場合はエファリズチマブ(efaliztimab)処置もしくはPML患者の場合は他の処置を含むが、これに限定されない任意の数の関係のある治療モダリティーと一緒に(例えば、その前に、それと同時に、またはその後に)患者に投与される。さらなる態様において、本発明のT細胞は、化学療法、放射線、免疫抑制剤、例えば、シクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキセート、ミコフェノール酸、およびFK506、抗体、または他の免疫除去剤(immunoablative agent)、例えば、CAMPATH、抗CD3抗体、または他の抗体療法、サイトキシン(cytoxin)、フルダリビン(fludaribine)、シクロスポリン、FK506、ラパマイシン、ミコプリノール酸(mycoplienolic acid)、ステロイド、FR901228、サイトカイン、ならびに放射線照射と併用されてもよい。これらの薬物はカルシウム依存性ホスファターゼカルシニューリンを阻害するか(シクロスポリンおよびFK506)、または増殖因子誘導性シグナル伝達に重要なp70S6キナーゼを阻害する(ラパマイシン)(Liu et al., Cell 66:807-815, 11; Henderson et al., Immun. 73:316-321, 1991; Bierer et al., Citrr. Opin. mm n. 5:763-773, 93)。さらなる態様において、本発明の細胞組成物は、骨髄移植、化学療法剤、例えば、フルダラビン、外部ビーム放射線療法(XRT)、シクロホスファミド、または抗体、例えば、OKT3もしくはCAMPATHのいずれかを用いたT細胞除去療法(ablative therapy)と共に(例えば、その前に、それと同時に、またはその後に)患者に投与される。別の態様において、本発明の細胞組成物は、B細胞切除療法、例えば、CD20と反応する薬剤、例えば、リツキサンの後に投与される。例えば、一態様において、対象は、高用量化学療法を用いた標準的な処置を受けた後に、末梢血幹細胞移植を受けてもよい。ある特定の態様において、移植後に、対象には、増殖された本発明の遺伝子操作されたT細胞が注入される。さらなる態様では、増殖された細胞が外科手術前または外科手術後に投与される。
【0111】
処置を必要とする患者において処置するための方法であって、a)少なくとも1つの本発明の操作されたT細胞、好ましくは、前記T細胞の集団を準備する工程;およびb)前記T細胞または集団を前記患者に投与する工程を含む、方法も本発明のこの局面に包含される。
【0112】
少なくとも1つの本発明の操作されたT細胞、好ましくは、前記T細胞の集団を用いた医薬を調製するための方法も本発明のこの局面に包含される。従って、本発明は、医薬の製造における、少なくとも1つの本発明の操作されたT細胞、好ましくは、前記T細胞の集団の使用を提供する。好ましくは、このような医薬は、癌、例えば、リンパ腫、またはウイルス感染症の処置において使用するためのものである。
【0113】
他の定義
ポリペプチド配列中のアミノ酸残基は一文字表記に従って本明細書において指定される。例えば、QはGlnまたはグルタミン残基を意味し、RはArgまたはアルギニン残基を意味し、DはAspまたはアスパラギン酸残基を意味する。
【0114】
アミノ酸の置換とは、あるアミノ酸残基と別のアミノ酸残基との交換を意味する。例えば、ペプチド配列中のアルギニン残基とグルタミン残基との交換はアミノ酸置換である。
【0115】
ヌクレオチドは以下の通りに指定される。ヌクレオシドの塩基を指定するのに一文字表記が用いられる。すなわち、aはアデニンであり、tはチミンであり、cはシトシンであり、gはグアニンである。縮重ヌクレオチドの場合、rはgまたはa(プリンヌクレオチド)を表し、kはgまたはtを表し、sはgまたはcを表し、wはaまたはtを表し、mはaまたはcを表し、yはtまたはc(ピリミジンヌクレオチド)を表し、dはg、a、またはtを表し、vはg、a、またはcを表し、bはg、t、またはcを表し、hはa、t、またはcを表し、nはg、a、t、またはcを表す。
【0116】
本明細書で使用する「核酸」または「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドおよび/またはポリヌクレオチド、例えば、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)、オリゴヌクレオチド、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって生じた断片、ならびに連結、切断、エンドヌクレアーゼ作用、およびエキソヌクレアーゼ作用のいずれかによって生じた断片を指す。核酸分子は、天然ヌクレオチド(例えば、DNAおよびRNA)もしくは天然ヌクレオチドの類似体(例えば、天然ヌクレオチドのエナンチオマー型)の単量体で構成されてもよく、両方の組み合わせで構成されてもよい。改変ヌクレオチドは糖部分および/またはピリミジン塩基部分もしくはプリン塩基部分の変化を有することがある。糖の改変には、例えば、1つまたは複数のヒドロキシル基と、ハロゲン、アルキル基、アミン、およびアジド基との交換が含まれる。または、糖はエーテルまたはエステルとして官能化されてもよい。さらに、糖部分全体が、アザ糖および炭素環式糖類似体などの立体的および電子的に似た構造と交換されてもよい。塩基部分の改変の例には、アルキル化されたプリンおよびピリミジン、アシル化されたプリンもしくはピリミジン、または他の周知の複素環式置換基が含まれる。核酸単量体がホスホジエステル結合またはこのような連結の類似体によって連結されてもよい。核酸は一本鎖でも二本鎖でもよい。
【0117】
「送達ベクター」は、本発明において必要とされる薬剤/化学物質および分子(タンパク質または核酸)を細胞に触れ合わせる(すなわち、細胞と「接触させる」)か、または細胞内もしくは細胞下区画内に送達する(すなわち、「導入する」)のに本発明において使用することができる任意の送達ベクターであることが意図される。「送達ベクター」には、リポソーム送達ベクター、ウイルス送達ベクター、薬物送達ベクター、化学的担体、ポリマー担体、リポプレックス、ポリプレックス、デンドリマー、マイクロバブル(超音波造影剤)、ナノ粒子、エマルジョン、または他の適切な導入ベクターが含まれるが、これに限定されない。これらの送達ベクターによって、分子、化学物質、高分子(遺伝子、タンパク質)、または他のベクター、例えば、プラスミド、または透過性ペプチドの送達が可能になる。これらの後者の場合、送達ベクターは分子担体である。
【0118】
「ベクター」またはという用語は、連結している別の核酸を輸送することができる核酸分子を指す。本発明における「ベクター」には、ウイルスベクター、プラスミド、RNAベクター、または染色体、非染色体、半合成、もしくは合成の核酸からなってもよい直鎖もしくは環状のDNA分子もしくはRNA分子が含まれるが、これに限定されない。好ましいベクターは、連結している核酸の自律的な複製が可能なベクター(エピソームベクター)および/または連結している核酸の発現が可能なベクター(発現ベクター)である。多数の適切なベクターが当業者に公知であり、市販されている。
【0119】
ウイルスベクターには、レトロウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルス)、コロナウイルス、マイナス鎖RNAウイルス、例えば、オルソミクソウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)、ラブドウイルス(例えば、狂犬病ウイルスおよび水疱性口内炎ウイルス)、パラミクソウイルス(例えば、麻疹およびセンダイ)、プラス鎖RNAウイルス、例えば、ピコルナウイルスおよびアルファウイルス、ならびにアデノウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス1型および2型、エプスタイン-バーウイルス、サイトメガロウイルス)ならびにポックスウイルス(例えば、ワクシニア、鶏痘、およびカナリアポックス)を含む二本鎖DNAウイルスが含まれる。他のウイルスには、例えば、ノーウォークウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、レオウイルス、パポバウイルス、ヘパドナウイルス、および肝炎ウイルスが含まれる。レトロウイルスの例には、トリ白血病肉腫ウイルス、哺乳動物C型、B型ウイルス、D型ウイルス、HTLV-BLV群、レンチウイルス、スプーマウイルスが含まれる(Coffin, J. M., Retroviridae: The viruses and their replication, In Fundamental Virology, Third Edition, B. N. Fields, et al., Eds., Lippincott-Raven Publishers, Philadelphia, 1996)。
【0120】
「レンチウイルスベクター」とは、パッケージング能が比較的大きく、免疫原性が低く、高効率で広範囲の異なる細胞タイプに安定して形質導入を生じさせる能力があるために遺伝子送達に非常に有望な、HIVをベースとするレンチウイルスベクターを意味する。レンチウイルスベクターは、通常、3つのプラスミド(パッケージング、エンベロープ、および導入)またはそれより多いプラスミドをプロデューサー細胞に一過的にトランスフェクトした後に作製される。HIVと同様に、レンチウイルスベクターは、ウイルス表面糖タンパク質と、細胞表面にある受容体との相互作用を介して標的細胞に入る。ウイルスRNAが入ったら、ウイルス逆転写酵素複合体によって媒介される逆転写を受ける。逆転写産物は、感染細胞のDNAにウイルスが組み込まれるための基質である二本鎖直鎖ウイルスDNAである。「組込みレンチウイルスベクター(またはLV)」とは、非限定的な例として、標的細胞のゲノムに組み込むことができるベクターを意味する。反対に、「非組込みレンチウイルスベクター(またはNILV)」とは、ウイルスインテグラーゼの働きによって標的細胞のゲノムに組み込まれない効率的な遺伝子送達ベクターを意味する。
【0121】
送達ベクターはソノポレーション(sonoporation)もしくはエレクトロポレーションまたはこれらの技法の派生物などの任意の細胞透過処理法と関連づけられてもよく、組み合わされてもよい。
【0122】
細胞とは、インビトロ培養するための任意の真核生物の生細胞、これらの生物に由来する初代細胞および細胞株であることが意図される。好ましくは、細胞はヒト細胞である。
【0123】
「初代細胞」とは、ごくわずかな集団倍化を経ており、従って、連続して腫瘍を形成する細胞株または人工的に不死化された細胞株と比較して、細胞が得られた組織の主要な機能成分および特徴をよく表している、生組織(すなわち、生検材料)から直接採取され、インビトロで増殖するように樹立された細胞であることが意図される。
【0124】
「変異」とは、ポリヌクレオチド(cDNA、遺伝子)配列またはポリペプチド配列への1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、20個、25個、30個、40個、50個までの、またはそれより多いヌクレオチド/アミノ酸の置換、欠失、挿入が意図される。変異は、遺伝子のコード配列またはその制御配列に影響を及ぼすことができる。変異はまた、ゲノム配列の構造またはコードされるmRNAの構造/安定性に影響を及ぼすこともある。
【0125】
「変種」とは、反復変種、変種、DNA結合変種、TALE-ヌクレアーゼ変種、親分子のアミノ酸配列中にある少なくとも1つの残基の変異または交換によって得られたポリペプチド変種であることが意図される。
【0126】
「機能的変種」とは、タンパク質、ポリペプチド、またはタンパク質ドメインの活性変異体が意図される。このような変異体は、親タンパク質、ポリペプチド、またはタンパク質ドメインと比較して同じ活性またはさらなる特性を有してもよく、親タンパク質、ポリペプチド、またはタンパク質ドメインより高い活性または低い活性を有してもよい。
【0127】
「遺伝子」とは、特定のタンパク質またはタンパク質セグメントをコードする、染色体に沿って直線的に並べられたDNAセグメントからなる遺伝の基本単位を意味する。遺伝子は、典型的に、プロモーター、5'非翻訳領域、1つまたは複数のコード配列(エキソン)、任意で、イントロン、3'非翻訳領域を含む。遺伝子は、ターミネーター、エンハンサー、および/またはサイレンサーをさらに含んでもよい。
【0128】
「切断」という用語は、ポリヌクレオチドの共有結合バックボーンの破壊を指す。ホスホジエステル結合の酵素的加水分解または化学的加水分解を含むが、これに限定されない様々な方法によって切断を開始することができる。一本鎖切断および二本鎖切断がいずれも可能であり、二本鎖切断は2つの別個の一本鎖切断事象の結果として発生してもよい。二本鎖DNA、RNA、またはDNA/RNAハイブリッド切断によって平滑末端または付着末端のいずれかが生じる可能性がある。
【0129】
「融合タンパク質」とは、元々は別々のタンパク質またはその一部をコードする2種類以上の遺伝子を結合することにある当技術分野において周知のプロセスの結果が意図される。前記「融合遺伝子」が翻訳されると、元のタンパク質のそれぞれに由来する機能的特性を有する1本のポリペプチドが生じる。
【0130】
「同一性」とは、2つの核酸分子間または2つのポリペプチド間の配列同一性を指す。同一性は、比較する目的でアラインメントされ得る各配列中の位置を比較することによって求めることができる。比較配列中の位置が同じ塩基またはアミノ酸を占める時には、これらの分子はその位置で同一である。核酸配列間またはアミノ酸配列間の類似性または同一性の程度は、それぞれ、核酸配列またはアミノ酸配列が共有する位置にある同一のヌクレオチドもしくはアミノ酸またはマッチしたヌクレオチドもしくはアミノ酸の数の関数である。2つの配列間の同一性を計算するために、GCG配列解析パッケージ(University of Wisconsin, Madison, Wis.)の一部として利用可能であり、例えば、デフォルト設定で使用することができるFASTAまたはBLASTを含めて、様々なアラインメントアルゴリズムおよび/またはプログラムが用いられる場合がある。例えば、本明細書に記載の特定のポリペプチドと少なくとも70%、85%、90%、95%、98%、または99%の同一性を有する、好ましくは、実質的に同じ機能を示すポリペプチド、ならびにこのようなポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが意図される。
【0131】
「シグナル伝達ドメイン」または「共刺激リガンド」は、T細胞上のコグネイト共刺激分子に特異的に結合し、それによって、一次シグナル、例えば、TCR/CD3複合体と、ペプチドが搭載されたMHC分子との結合によって供給される一次シグナルに加えて、増殖活性化、分化などを含むが、これに限定されないT細胞応答を媒介するシグナルを供給する、抗原提示細胞上の分子を指す。共刺激リガンドには、CD7、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、PD-L1、PD-L2、4-1BBL、OX40L、誘導性共刺激リガンド(inducible costimulatory igand)(ICOS-L)、細胞間接着分子(ICAM、CD30L、CD40、CD70、CD83、HLA-G、MICA、M1CB、HVEM、リンホトキシンβ受容体、3/TR6、ILT3、ILT4、Tollリガンド受容体に結合するアゴニストまたは抗体、およびB7-H3と特異的に結合するリガンドが含まれ得るが、これに限定されない。共刺激リガンドはまた、特に、CD27、CD28、4-IBB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LTGHT、NKG2C、B7-H3、CD83に特異的に結合するリガンドなどがあるが、これに限定されない、T細胞上に存在する共刺激分子に特異的に結合する抗体も包含する、
【0132】
「共刺激分子」とは、共刺激リガンドに特異的に結合し、それによって、増殖などがあるが、これに限定されない細胞による共刺激応答を媒介する、T細胞上のコグネイト結合パートナーを指す。共刺激分子には、MHCクラスI分子、BTLA、およびTollリガンド受容体が含まれるが、これに限定されない。
【0133】
本明細書で使用する「共刺激シグナル」は、TCR/CD3連結などの一次シグナルと組み合わせて、T細胞増殖および/または重要な分子のアップレギュレーションもしくはダウンレギュレーションを引き起こすシグナルを指す。
【0134】
「二重特異性抗体」とは、1つの抗体分子の中に、2つの異なる抗原に対する結合部位をもつ抗体を指す。標準的な抗体構造に加えて、2つの結合特異性をもつ他の分子が構築され得ることが当業者によって理解されるだろう。二重特異性抗体による抗原結合は同時に起こってもよく、連続して起こってもよいことがさらに理解されるだろう。二重特異性抗体は化学的技法によって作製されてもよく(例えば、Kranz et al. (1981) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78,5807を参照されたい)、「ポリドーマ(polydoma)」法(米国特許第4,474,893号を参照されたい)によって作製されてもよく、組換えDNA法によって作製されてもよい。これらの技法は全てそれ自体が公知である。非限定的な例として、それぞれの結合ドメインは、抗体重鎖に由来する少なくとも1つの可変領域(「VH領域またはH領域」)を含み、第1の結合ドメインのVH領域はCD3などのリンパ球マーカーに特異的に結合し、第2の結合ドメインのVH領域は腫瘍抗原に特異的に結合する。
【0135】
本明細書で使用する「細胞外リガンド結合ドメイン」という用語は、リガンドに結合することができるオリゴペプチドまたはポリペプチドと定義される。好ましくは、このドメインは細胞表面分子と相互作用することができる。例えば、細胞外リガンド結合ドメインは、特定の疾患状態に関連する標的細胞上の細胞表面マーカーとして働くリガンドを認識するように選択されてもよい。従って、リガンドとして働き得る細胞表面マーカーの例には、ウイルス感染症、細菌感染症、および寄生生物感染症、自己免疫疾患、ならびに癌細胞に関連する細胞表面マーカーが含まれる。
【0136】
本明細書で使用する「対象」または「患者」という用語は、非ヒト霊長類およびヒトを含む動物界の全メンバーを含む。
【0137】
本発明の上記の記載は、当技術分野のどんな当業者でも本発明を作製および使用することができるように、本発明を作製および使用するやり方およびプロセスを提供する。この実施可能性(enablement)は、特に、最初の説明の一部を構成する、添付の特許請求の範囲の対象(subject matter)に向けて提供される。
【0138】
数値の限界または範囲が本明細書において述べられている場合、終点が含まれる。数値の限界または範囲の中にある全ての値および部分範囲も、明瞭に書かれているように明確に含まれる。
【実施例】
【0139】
実施例1: Treg阻害試験
ヒト初代T細胞を抗CD3/CD28ビーズで活性化した。3日目に、細胞を、変異ニワトリリゾチームシグナルペプチド(3R CLSP-SEQ ID NO:12)(表1に示した代わりのSEQ ID NO.13〜17を使用してもよい)と融合したfoxp3阻害ペプチドp60(SEQ ID NO:1)をコードするメッセンジャーRNAでトランスフェクトした。4日目に、トランスフェクトしたT細胞をヒト制御性T細胞(Treg)と混合し、その増殖を、Collison, L.W et al.(In vitro Treg suppression assays, Methods Mol. Biol., 2011, 707:21-37)に記載のアッセイに従って追跡した。このアッセイから、p60メッセンジャーRNAでトランスフェクトしたT細胞は制御性T細胞と接触したときに、モックRNA(混スクランブル(scrambled)p60-SEQ ID NO:9)でトランスフェクトしたT細胞より速く増殖することが分かる。結果として、p60ペプチド発現によってT細胞はTreg阻害に抵抗できるようになった。
【0140】
実施例2:細胞傷害活性試験
ヒト初代T細胞を抗CD3/CD28ビーズで活性化する。3日目に、活性化T細胞に、変異ニワトリリゾチームシグナルペプチド(3R CLSP-SEQ ID NO:12)(表1に示した代わりのSEQ ID NO.13〜17も使用してもよい)と融合したFoxp3阻害ペプチドp60(SEQ ID NO:1)と共に、SEQ ID NO:5に示したキメラ抗原受容体抗CD19をコードするレンチウイルスベクターを形質導入する。5日目に、Yang, Z.Z. et al. (Attenuation of CD8(+) T cell function by CD4(+)CD25(+)regulatory T cells in B-cell non-Hodgkin's lymphoma, 2006, Cancer Res.)に記載の方法に従って、形質導入したT細胞の細胞傷害活性を、Tregの存在下または非存在下で、関連する標的細胞株に対してアッセイする。
【0141】
このアッセイから、制御性T細胞には、通常、CAR+T細胞の細胞傷害能力に対する阻害作用があり、これに対して、T細胞がp60ペプチド発現すると、この阻害が解除されることで細胞傷害活性が回復することが分かる。
【0142】
(表1)実施例において使用した配列
【0143】
説明において引用した参考文献のリスト