特許第6665150号(P6665150)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トクセン工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6665150-中空撚線 図000006
  • 特許6665150-中空撚線 図000007
  • 特許6665150-中空撚線 図000008
  • 特許6665150-中空撚線 図000009
  • 特許6665150-中空撚線 図000010
  • 特許6665150-中空撚線 図000011
  • 特許6665150-中空撚線 図000012
  • 特許6665150-中空撚線 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6665150
(24)【登録日】2020年2月21日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】中空撚線
(51)【国際特許分類】
   B21F 3/02 20060101AFI20200302BHJP
   B21F 7/00 20060101ALI20200302BHJP
   A61M 25/00 20060101ALI20200302BHJP
   D07B 1/06 20060101ALI20200302BHJP
【FI】
   B21F3/02 Z
   B21F7/00 Z
   A61M25/00 610
   D07B1/06 Z
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-243472(P2017-243472)
(22)【出願日】2017年12月20日
(65)【公開番号】特開2019-107326(P2019-107326A)
(43)【公開日】2019年7月4日
【審査請求日】2019年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110147
【氏名又は名称】トクセン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】陰山 喜信
【審査官】 石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−068375(JP,A)
【文献】 特表2009−511184(JP,A)
【文献】 特開平08−071157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00
D07B 1/06
B21F 7/00
B21F 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3本以上の第一素線が撚られることで形成されその内側が中空となっている第一層と、
3本以上の第二素線が撚られることで形成されており上記第一層の外側に位置する第二層とを備えており、
上記第一素線及び/又は上記第二素線が平線であり、
上記第二素線の撚り方向が上記第一素線の撚り方向と逆であり、
その平均直径Dの、その厚みTに対する比(D/T)が、5以上20以下であり、
上記平線における、幅Wwの厚みTwに対する比(Ww/Tw)が、2以上11以下である中空撚線。
【請求項2】
上記第一素線及び上記第二素線のそれぞれが平線である請求項1に記載の中空撚線。
【請求項3】
上記第一素線の撚り角度が85°以下であり、上記第二素線の撚り角度が85°以下である請求項1又は2に記載の中空撚線。
【請求項4】
上記平線が角線である請求項1から3のいずれかに記載の中空撚線。
【請求項5】
中空撚線を備えており、
上記中空撚線が、3本以上の第一素線が撚られることで形成されその内側が中空となっている第一層と、3本以上の第二素線が撚られることで形成されており上記第一層の外側に位置する第二層とを有しており、
上記第一素線及び/又は上記第二素線が平線であり、
上記第二素線の撚り方向が上記第一素線の撚り方向と逆であり、
上記中空撚線における、平均直径Dの、その厚みTに対する比(D/T)が、5以上20以下であり、
上記平線における、幅Wwの厚みTwに対する比(Ww/Tw)が、2以上11以下である医療機器。
【請求項6】
3本以上の第一素線が撚られることで形成されその内側が中空となっている第一層と、
3本以上の第二素線が撚られることで形成されており上記第一層の外側に位置する第二層と、
3本以上の第三素線が撚られることで形成されており上記第二層の外側に位置する第三層とを備えており、
上記第一素線、上記第二素線及び上記第三素線のうちの少なくとも1つが平線であり、
上記第二素線の撚り方向が上記第一素線の撚り方向と逆であり、
上記第三素線の撚り方向が上記第一素線の撚り方向と同じであり、
上記中空撚線における、平均直径Dの、その厚みTに対する比(D/T)が、5以上20以下であり、
上記平線における、幅Wwの厚みTwに対する比(Ww/Tw)が、2以上11以下である中空撚線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機器等に適した中空撚線に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡検査等の医療処置に、体腔内に挿入される医療機器が用いられている。特開2006−230635公報には、中空コイルを有する医療機器が開示されている。中空コイルに他の部材が通されて、医療処置がなされる。
【0003】
医療機器用の中空コイルとして、1本のワイヤが巻かれて形成されたものが知られている。2本のワイヤが巻かれて形成されたコイルも、知られている。2層構造のコイルも、知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−230635公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
中空コイルには他の部材が通されるので、このコイルの内径が大きいことが好ましい。1本のワイヤが巻かれた中空コイルにおいて内径が大きく設定されると、このコイルは容易に伸張してしまう。この伸張は、コイルのプッシャビリティを阻害する。さらに、このコイルが巻き方向と逆の方向に回転させられると、捻りだまりが発生しやすい。捻りだまりは、コイルの回転追従性を阻害する。
【0006】
2本のワイヤが巻かれた中空コイルのプッシャビリティは、1本のワイヤが巻かれた中空コイルのそれに比べて優れている。しかし、2本のワイヤが巻かれた中空コイルであっても、回転追従性は十分ではない。
【0007】
第一層の巻き方向と第二層の巻き方向とが逆である2層構造の中空コイルは、回転追従性に優れる。しかし、このコイルであっても、プッシャビリティは、十分ではない。
【0008】
本発明は、プッシャビリティ及び回転追従性に優れた中空撚線の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る中空撚線は、3本以上の第一素線が撚られることで形成された第一層と、3本以上の第二素線が撚られることで形成されており第一層の外側に位置する第二層とを有する。第一素線及び/又は第二素線は、平線である。第二素線の撚り方向は、第一素線の撚り方向と逆である。この中空撚線における、平均直径Dの厚みTに対する比(D/T)は、5以上20以下である。平線における、幅Wwの厚みTwに対する比(Ww/Tw)は、2以上11以下である。
【0010】
好ましくは、第一素線及び第二素線のそれぞれは、平線である。
【0011】
好ましくは、第一素線の撚り角度は、85°以下である。好ましくは、第二素線の撚り角度は、85°以下である。
【0012】
好ましい平線は、角線である。
【0013】
他の観点によれば、本発明に係る医療機器は、中空撚線を有する。この中空撚線は、3本以上の第一素線が撚られることで形成された第一層と、3本以上の第二素線が撚られることで形成されており第一層の外側に位置する第二層とを有する。第一素線及び/又は第二素線は、平線である。第二素線の撚り方向は、第一素線の撚り方向と逆である。この中空撚線における、平均直径Dの、その厚みTに対する比(D/T)は、5以上20以下である。平線における、幅Wwの厚みTwに対する比(Ww/Tw)は、2以上11以下である。
【0014】
さらに他の観点によれば、本発明に係る中空撚線は、3本以上の第一素線が撚られることで形成された第一層と、3本以上の第二素線が撚られることで形成されており第一層の外側に位置する第二層と、3本以上の第三素線が撚られることで形成されており第二層の外側に位置する第三層とを有する。第一素線、第二素線及び第三素線のうちの少なくとも1つは、平線である。第二素線の撚り方向は、第一素線の撚り方向と逆である。第三素線の撚り方向は、第一素線の撚り方向と同じである。この中空撚線における、平均直径Dの、その厚みTに対する比(D/T)は、5以上20以下である。平線における、幅Wwの厚みTwに対する比(Ww/Tw)は、2以上11以下である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る中空撚線は、プッシャビリティ及び回転追従性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る中空撚線の一部が示された正面図である。
図2図2は、図1の中空撚線が示された模式的断面図である。
図3図3は、図1の中空撚線の第一素線の一部が示された斜視図である。
図4図4は、本発明の他の実施形態に係る中空撚線の素線が示された斜視図である。
図5図5は、本発明のさらに他の実施形態に係る中空撚線の一部が示された正面図である。
図6図6は、図1の中空撚線の回転追従性の測定方法が示された説明図である。
図7図7は、図6の方法で測定された回転追従性の結果が示されたグラフである。
図8図8は、図1の中空撚線のプッシャビリティの測定方法が示された説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0018】
図1には、中空撚線2が示されている。この中空撚線2は、金属材料から形成されている。この中空撚線2は、長尺である。この中空撚線2が所定長さに切断され、医療機器の部材として用いられる。例えば、その基端部が医療機器の手元操作部に連結され、その先端部が処置部に連結される。基端部に加えられた押し力、引き力及びトルクが、中空撚線2を介して先端部に伝わる。これにより、処置部が処置動作を起こす。医療機器は、この中空撚線2と他の部材とを有する。
【0019】
図2は、この中空撚線2の拡大断面図である。図2には、中空撚線2の長さ方向に対して垂直な断面が示されている。図1及び2に示されるように、この中空撚線2は、第一層4と第二層6とを有している。第二層6は、第一層4の外側に位置している。第一層4は、8本の第一素線8が撚られることで形成されている。第二層6は、8本の第二素線10が撚られることで形成されている。図2は模式的な断面図であるため、第一素線8の断面は長円に画かれ、第二素線10の断面も長円に画かれている。実際の中空撚線2では、第一素線8の断面は円弧状であり、第二素線10の断面も円弧状である。図2では、第二素線10の断面のサイズが第一素線8の断面のサイズよりも大きく画かれている。実際の中空撚線2では、第二素線10の幅(「幅」の意味は後に詳説)は、第一素線8の幅と同じである。第二素線10の幅が、第一素線8の幅と異なってもよい。
【0020】
図1に示されるように、第二素線10の撚り方向は、第一素線8の撚り方向とは逆である。本明細書では、第一素線8の撚り方向が「Z方向」と称され、第二素線10の撚り方向が「S方向」と称される。第一素線8が「S方向」に撚られ、かつ第二素線10が「Z方向」に撚られてもよい。
【0021】
図3は、第一素線8の一部が示された斜視図である。第二素線10も、図3に示された形状を有する。換言すれば、図3は、第二素線10が示された斜視図でもある。図3には、撚られる前の状態の第一素線8(又は第二素線10)が示されている。第一素線8は、内平坦面12、外平坦面14及び一対の湾曲面16を有している。本発明では、内平坦面12及び外平坦面14を有し、かつ幅が厚みよりも大きい素線は、「平線」と称される。第一素線8は、平線である。第二素線10も、平線である。
【0022】
図2及び3から明らかなように、第一素線8は、その内平坦面12が中心を向くように、撚られている。第二素線10も、内平坦面12が中心を向くように撚られている。
【0023】
図2において符号16で示された二点鎖線は、中空撚線2の外接円である。矢印Doで示されているのは、この外接円16の直径である。本発明では、この直径Doは、「中空撚線の外径」と称される。体腔内に挿入されやすいとの観点から、外径Doは5.0mm以下が好ましく、3.0mm以下がより好ましく、2.0mm以下が特に好ましい。
【0024】
図2において符号18で示された二点鎖線は、中空撚線2の内接円である。矢印Diで示されているのは、この内接円18の直径である。本発明では、この直径Diは、「中空撚線の内径」と称される。内部に他の部材が通されやすいとの観点から、内径Diは0.2mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、1.0mm以上が特に好ましい。
【0025】
本発明では、中空撚線2の平均直径Dは、下記の数式によって算出される。
D= (Do + Di) / 2
本発明では、中空撚線2の厚みTは、下記の数式によって算出される。
T= (Do − Di) / 2
【0026】
前述の通り、第一素線8は平線であり、第二素線10も平線である。従って、厚みTは、比較的小さい。換言すれば、外径Doに対する内径Diの比が、比較的大きい。この中空撚線2は、体腔に挿入されやすく、かつ、内部に他の部材が通されやすい。この観点から、厚みTは0.50mm以下が好ましく、0.40mm以下がより好ましく、0.30mm以下が特に好ましい。プッシャビリティ及び回転追従性の観点から、厚みTは0.05mm以上が好ましく、0.10mm以上がより好ましく、0.20mm以上が特に好ましい。
【0027】
平均直径Dと厚みTとの比(D/T)は、5以上20以下が好ましい。比(D/T)が5以上である中空撚線2では、内部に他の部材が通されやすい。この観点から、比(D/T)は6以上がより好ましく、8以上が特に好ましい。比(D/T)が20以下である中空撚線2は、プッシャビリティ及び回転追従性に優れる。この観点から、比(D/T)は16以下がより好ましく、14.5以下が特に好ましい。
【0028】
図3において、矢印Wwで示されているのは第一素線8(又は第二素線10)の幅であり、矢印Twで示されているのは第一素線8(又は第二素線10)の厚みである。幅Wwは、厚みTwよりも大きい。幅Wwの厚みTwに対する比(Ww/Tw)は、2以上11以下が好ましい。比(Ww/Tw)が2以上である中空撚線2は、プッシャビリティに優れる。この観点から、比(Ww/Tw)は4以上がより好ましく、6以上が特に好ましい。比(Ww/Tw)が11以下である中空撚線2では、剛性が過大でない。従ってこの中空撚線2は、体腔内を進行しやすい。しかも、比(Ww/Tw)が11以下である素線は、撚られるときに変形しにくい。これらの観点から、比(Ww/Tw)が10以下が特に好ましい。
【0029】
第一層4及び第二層6の両方に、平線が用いられる必要は無い。第一層4が平線から形成され、第二層6が丸線から形成されてもよい。第一層4が丸線から形成され、第二層6が平線から形成されてもよい。丸線とは、長さ方向に対して垂直な断面における輪郭形状が円である素線を意味する。
【0030】
理想的には、第一素線8及び第二素線10の両方が平線である。この中空撚線2では、第二素線10が第一素線8と面接触する。この中空撚線2は、プッシャビリティ及び回転追従性に優れる。
【0031】
前述の通り、第一層4は複数の第一素線8が撚られて形成されている。従ってこの第一層4は、伸びにくい。さらに、この第一層4では、長さ方向に対する第一素線8の傾斜角度θ1(図1参照)が小さい。この第一層4は、中空撚線2のプッシャビリティ及び回転追従性に寄与しうる。これらの観点から、角度θ1は85°以下が好ましく、80°以下がより好ましく、75°以下が特に好ましい。角度θ1は、30°以上が好ましい。
【0032】
小さな角度θ1が達成されるとの観点から、第一層4における第一素線8の数は3本以上が好ましく、6本以上がより好ましく、8本以上が特に好ましい。この数は、12本以下が好ましい。
【0033】
前述の通り、第二層6は複数の第二素線10が撚られて形成されている。従ってこの第二層6は、伸びにくい。さらに、この第二層6では、長さ方向に対する第二素線10の傾斜角度θ2(図1参照)が小さい。この第二層6は、中空撚線2のプッシャビリティ及び回転追従性に寄与しうる。これらの観点から、角度θ2は85°以下が好ましく、80°以下がより好ましく、75°以下が特に好ましい。角度θ2は、30°以上が好ましい。
【0034】
小さな角度θ2が達成されるとの観点から、第二層6における第二素線10の数は3本以上が好ましく、6本以上がより好ましく、8本以上が特に好ましい。この数は、12本以下が好ましい。
【0035】
前述の通り、第二素線10の撚り方向は、第一素線8の撚り方向と逆である。この中空撚線2が左方向に回転させられたとき、第一層4には捻りだまりが生じない。従って、この第一層4が、回転追従性に寄与する。この中空撚線2が右方向に回転させられたとき、第二層6には捻りだまりが生じない。従って、この第二層6が、回転追従性に寄与する。この中空撚線2は、回転方向にかかわらず、回転追従性に優れる。
【0036】
この中空撚線2が製造されるには、まず母線に伸線及び圧延が施され、第一素線8及び第二素線10が得られる。次に、芯線が準備される。この芯線の周りにて複数の第一素線8が撚られ、第一層4が形成される。この第一層4の周りにて複数の第二素線10が撚られ、第二層6が形成される。第二素線10の撚り方向は、第一素線8の撚り方とは逆である。この第一層4及び第二層6からなる撚線に、後熱処理が施される。後熱処理により、第一層4及び第二層6の形状が安定する。熱処理後の撚線が、所定長さに切断される。さらに、第一層4から芯線が引き抜かれることで、中空撚線2が得られる。
【0037】
図4は、本発明の他の実施形態に係る中空撚線の素線19が示された斜視図である。この中空素線は、図1に示された中空撚線2と同様、第一層及び第二層を有する。第一層は、3本以上の素線19が撚られることで形成されている。第二層は、3本以上の素線19が撚られることで形成されている。
【0038】
素線19は、内平坦面20、外平坦面22及び一対の側平坦面24を有している。本発明では、内平坦面20、外平坦面22及び一対の側平坦面24を有し、かつ幅Wwが厚みTwよりも大きい素線は、「角線」と称される。角線は、平線でもある。好ましい角線では、側平坦部24の厚みは、厚みTwの半分以上である。
【0039】
角線18の側平坦面24は、隣接する角線18の側平坦面24と当接する。この当接は、中空撚線の曲げに対する抵抗力を生む。角線18を有する中空撚線は、プッシャビリティに優れる。
【0040】
図5は、本発明のさらに他の実施形態に係る中空撚線26の一部が示された正面図である。この中空撚線26も、医療機器の1つの部材である。この中空撚線26は、第一層4、第二層6及び第三層28を有している。第一層4、第二層6及び第三層28のそれぞれは、3本以上の平線が撚られることで形成されている。本実施形態では、第一層4及び第二層6の構造は、図1−3に示された中空撚線2のそれらと同じである。換言すれば、この中空撚線26は、図1−3に示された中空撚線2の外周が第三層28で覆われた構造を有する。本実施形態では、第三層28は、図3に示された平線8が撚られることで形成されている。第三層28における平線8の数は、8である。
【0041】
図5に示されるように、第三層28の撚り方向は、第一層4の撚り方向と同じであり、第2層の撚り方向とは逆である。本実施形態では、第一層4及び第三層28の撚り方向は「Z方向」であり、第二層6の撚り方向は「S方向」である。この中空撚線26では、捻りだまりが抑制されうる。第一層4及び第三層28の撚り方向が「S方向」であり、かつ第二層6の撚り方向が「Z方向」であってもよい。
【0042】
この中空撚線26でも、平均直径Dと厚みTとの比(D/T)は、5以上20以下が好ましい。比(D/T)が5以上である中空撚線26では、内部に他の部材が通されやすい。この観点から、比(D/T)は6以上がより好ましく、8以上が特に好ましい。比(D/T)が20以下である中空撚線26は、プッシャビリティ及び回転追従性に優れる。この観点から、比(D/T)は16以下がより好ましく、14.5以下が特に好ましい。
【0043】
第一層4、第二層6及び第三層28の全てに、平線8が用いられる必要は無い。いずれかの層に平線8が用いられ、他の層に丸線が用いられてもよい。理想的には、第一層4、第二層6及び第三層28の全てに、平線8が用いられる。第一層4、第二層6又は第三層28に角線18が用いられてもよい。
【0044】
図5において符号θ3で示されているのは、第三層28の素線の傾斜角度である。中空撚線26のプッシャビリティ及び回転追従性の観点から、角度θ3は85°以下が好ましく、80°以下がより好ましく、75°以下が特に好ましい。角度θ3は、30°以上が好ましい。
【0045】
小さな角度θ3が達成されるとの観点から、第三層28における素線の数は3本以上が好ましく、6本以上がより好ましく、8本以上が特に好ましい。この数は、12本以下が好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0047】
[実施例1]
その材質がSUS304である鋼材に伸線加工及び圧延加工を施して、素線(平線)を得た。この素線の、幅Wwは0.27mmであり、厚みTwは0.045mmであった。芯線の上で8本の平線を撚って、第一層を形成した。この第一層の撚り方向はZ方向であった。この第一層の上にて8本の平線を撚って、第二層を形成した。この第二層の撚り方向はS方向であった。この第二層の上にて8本の平線を撚って、第三層を形成した。この第三層の撚り方向はZ方向であった。この第三層の素線の傾斜角度θ3は、67°であった。これらの素線からなる撚線を、後熱処理に供した。この撚線を、所定長さに切断した。この撚線から芯線を抜き取り、実施例1の中空撚線を得た。この中空撚線の、外径Doは1.770mmであり、内径Diは1.500mmであった。
【0048】
[実施例2−12、従来例1−3及び比較例1−3]
各層の構成を下記の表1−4に示されるとおりとした他は実施例1と同様にして、実施例2−12、従来例1−3及び比較例1−3の中空撚線を得た。
【0049】
[回転追従性]
回転追従性は、中空撚線の基端側を回転させたときの、基端側の回転角と先端側の回転角との差によって評価される。図6に示されるように、二重スパイラル部38、第一ストレート部40及び第二ストレート部42を有する硬質パイプ44が準備される。二重スパイラル部38の直径は、200mmである。この硬質パイプ44に、中空撚線が通される。この中空撚線の基端側46に、図6において矢印A1で示される方向に、回転力が負荷される。これにより、中空撚線の先端側48は、矢印A2で示されるように回転する。基端側46の回転角と先端側48の回転角とが、同時に測定される。
【0050】
図7は、図6の方法で測定された回転追従性の結果が示されたグラフである。図7では、中空撚線の基端側の回転角と、同時点の先端側の回転角とが、対応付けて表されている。換言すれば、図7は、中空撚線における、入力回転角と出力回転角との関係を示すグラフである。グラフの中の破線は、全測定角度範囲(入力回転角が0°から約720°までの範囲)において基端側の回転角と先端側の回転角との差がゼロであることを示す直線である。測定対象である中空撚線の基端側の回転角と先端側の回転角との差は、図中の破線と測定値曲線との縦軸方向の差として表される。入力回転角が0°から720°である範囲において測定された回転角度差のうちの、最大値が、回転追従性と相関する値である。各中空撚線の角度差の最大値が、指数として下記の表1−4に示されている。この指数が小さい中空撚線は、回転追従性に優れる。
【0051】
[剛性]
図8に示されるように、中空撚線2の第一端50の近傍を治具52でチャックした。この治具52から、中空撚線2の第二端54までの距離は、100mmであった。中空撚線2は自重で湾曲し、第二端54が下方へ移動した。この移動距離Lを、測定した。この移動距離Lが、指数として下記の表1−4に示されている。この指数が小さい中空撚線の剛性は、大きい。この指数が小さい中空撚線は、プッシャビリティに優れる。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
表1−4に示されるように、各実施例の中空撚線は、回転追従性及びプッシャビリティに優れている。この評価結果から、本発明の優位性は明かである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る中空撚線は、様々な医療機器に適用されうる。
【符号の説明】
【0058】
2、26・・・中空撚線
4・・・第一層
6・・・第二層
8・・・第一素線
10・・・第二素線
19・・・素線
28・・・第三層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8