【課題を解決するための手段】
【0016】
前記の目的を達成するために、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列内の2個以上のアミノ酸がセリンに置換され、1個以上のアミノ酸がシステインに置換され、表面のアミノ酸の1個がチロシンに置換された高安定性塩基性繊維芽細胞成長因子変異体を提供する。
【0017】
本明細書で使用される用語「塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)」又は「FGF−2」は、分子量約18kDaに達する塩基性タンパク質(pI9.58)であり、脳下垂体から主に分泌され、様々な中胚葉由来の細胞の成長を促進することが知られている。また、これは血管内膜細胞及び平滑筋細胞の成長を促進するタンパク質として外傷治療及び脈管形成に優れた効能を示し、コラーゲンとエラスチンの合成を増加させることで、皮膚の弾力を維持し、正常な細胞の成長を助け、傷からの回復を促進し、その治癒作用を行うことが知られている。
【0018】
本発明の変異体は、bFGFの3次構造と種間の相同性アライメント(homology alignment)方法、及びコンピュータを用いたタンパク質の分子モデリングを通じ、bFGFの活性部位と関連のない部位を選定し、変異実験によって製造された変異体として、bFGFと他のbFGFがジスルフィド結合を形成するシステインのアミノ酸残基が類似する構造のセリン残基に置換されて表面のジスルフィド結合による沈殿に対して安定性が高められる。また、bFGF内のループに近い残基の1個をシステイン(cysteine)に置換させてジスルフィド結合をさらに生成させることで、ループエントロピーを減少させる方法で安定性が増加したことを特徴とする。また、bFGF内にHis残基をTyrに置換することにより、水素結合及びファンデルワールス相互作用(Van der waals interaction)を増加させ、タンパク質のキャビティ構造を安定させる方法で安定性が増加されたことを特徴とする。
【0019】
本発明の好ましい実施例によれば、前記セリンに置換されたアミノ酸は、配列番号1のアミノ酸配列69番目のシステイン及び87番目のシステインである。
【0020】
本発明の好ましい具現例によれば、前記システインに置換されたアミノ酸は、配列番号1のアミノ酸配列で26番目リジン;配列番号1のアミノ酸配列で34番目イソロイシン;配列番号1のアミノ酸配列で40番目バリン;配列番号1のアミノ酸配列で50番目ヒスチジン;配列番号1のアミノ酸配列で52番目リジン;配列番号1のアミノ酸配列で75番目アラニン;配列番号1のアミノ酸配列で76番目メチオニン;配列番号1のアミノ酸配列で117番目アラニン;配列番号1のアミノ酸配列で67番目グリシン;配列番号1のアミノ酸配列で68番目バリン;配列番号1のアミノ酸配列で70番目アラニン;配列番号1のアミノ酸配列で82番目ロイシン;配列番号1のアミノ酸配列で84番目アラニン;配列番号1のアミノ酸配列で108番目セリン;配列番号1のアミノ酸配列で136番目アラニン;配列番号1のアミノ酸配列で137番目イソロイシン;配列番号1のアミノ酸配列で138番目ロイシン;及び配列番号1のアミノ酸配列で144番目アラニンからなる群から選択された1種以上であり、より好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列で40番目バリン;配列番号1のアミノ酸配列で50番目のヒスチジン;配列番号1のアミノ酸配列で52番目リジン;配列番号1のアミノ酸配列で75番目アラニン;配列番号1のアミノ酸配列で76番目メチオニン;配列番号1のアミノ酸配列で117番目アラニンからなる群から選択された1種以上であり、最も好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列で75番目アラニンである。
【0021】
さらに変異体で75番目アラニンをシステインに置換した変異体にタンパク質表面に露出された残基であるヒスチジン50番残基をチロシンに置換した変異体が最も好ましい変異体である。
【0022】
すなわち、本発明のbFGF変異体は、天然型ヒトbFGFアミノ酸配列(配列番号1)の69番目及び87番目のアミノ酸残基であるシステインがすべてセリンに置換され、50番目ヒスチジンのチロシンに置換され、75番目のアミノ酸残基であるアラニンがシステインにさらに置換されて、分子内ジスルフィド結合を形成し、残りのアミノ酸配列は、天然型のアミノ酸配列と同じヒトbFGFミューテイン(mutein)を提供する。
【0023】
本発明のbFGF変異体は、タンパク質活性を維持しながら熱に対する安定性が天然型に比べて増加する。下記の実験例1〜3に示すように、bFGF変異体は、天然型と同等の活性を有しており、熱に対する安定性がやはり顕著に増加したことがわかる。bFGF変異体の中で69番と87番のアミノ酸をセリンに置換して、75番のアミノ酸をシステインに置換した後、ジスルフィド結合を誘導した本発明のK75(Stable basic Fibroblast Growth Factor、sbFGF)は対照群である天然型bFGF、69番と87番のアミノ酸をセリンに置換したbFGF変異体、75番アミノ酸をシステインに置換したbFGF変異体に比べて熱安定性が向上した。また、前記K75の50番ヒスチジンのチロシンに置換されたHsbFGFの場合、対照群である天然型及びK75より優れた熱安定性が向上した。
【0024】
本発明の他の態様によると、本発明は、前記bFGF変異体をコードするDNA塩基配列(配列番号2)、及びこれを含む発現ベクターを提供する。
【0025】
本発明の発現ベクターは、一般的な発現用ベクターにbFGFの遺伝子を挿入して製造することができる。本発明の好ましい実施例では、発現用ベクターとしてpET21aベクターを使用したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、一般的に使用可能なすべての細胞発現用ベクターを使用することができる。本発明の好ましい実施例では、pET21aベクターにbFGF遺伝子を挿入したベクターを製造し、これを「pSSB−bFGF」と命名した(
図1bに開示)。
【0026】
本発明の他の態様によると、本発明は、前記発現ベクターによって形質転換された宿主細胞である形質転換体を提供する。
【0027】
本発明のbFGF変異体は、部位特異突然変異誘導法等により製造されたbFGF変異体をコードする遺伝子を含有するベクターで宿主細胞を形質転換させ、bFGF変異体を発現させる方法で製造することができ、また、化学的アミノ酸合成方法によって製造することができる。
【0028】
bFGF変異体をコードするDNAは、天然型bFGFの前記置換される部位のアミノ酸をコードするDNAである。bFGF変異体をコードするDNA配列として好ましいのは、69番目と87番目のコドンがセリンをコードするコドンに置換され、75番目のコドンがシステインをコードするコドンに置換されたものである。また、前記K75の50番ヒスチジンのチロシンに置換されたHsbFGFの場合、対照群である天然型及びK75より優れた熱安定性が向上した。
【0029】
一方、コドンの縮退(degeneracy)によって1個のアミノ酸をコードするコドンが多数存在するため、同じアミノ酸配列をコードするDNAであっても、そのヌクレオチド配列が異なりうることは周知の事実である。
【0030】
このようなbFGF変異体をコードするDNAは、化学的に合成するか、天然型bFGF cDNAを製造し、これを基に部位特異突然変異誘導法などの方法を用いて製造することもできる。
【0031】
前記製造された本発明のbFGF変異体をコードするDNAは、当分野で公知の適切な原核又は真核発現システムのいずれかを用いて、これを発現させることができる(Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd ed., Cold Spring Habor Laboratory, Cold Spring Habor Laboratory Press, USA, 1989)。
【0032】
発現は、糖化されていないbFGF変異体の場合、好ましくは大腸菌、例えば、大腸菌BL21(DE3)、大腸菌JM109(DE3)、大腸菌NM522などで行われ、大腸菌における発現のために使用することができる適切なベクターは、Sambrookなどの文献(同上)及びFiersなどの論文(“Proced.8th Int. Biotechnology Symposium”, Soc. Frac, de Microbiol., Paris,(Durand et al., eds.),pp.680-697, 1988)に言及されている。
【0033】
上述したベクターによる宿主細胞の形質転換は、通常の方法のいずれかによって行うことができる(Sambrooketal., Molecular Cloning, ALaboratory Manual, 1989; Ito et al., J. Bacteriol. 153:263, 1983)。
【0034】
大腸菌を形質転換させる場合には、DNAを吸収することができるコンピテントセル(competent cell)を準備し、続いて公知の方法などにより処理することができる。
【0035】
本発明の他の態様によると、本発明は、次のステップを含む高安定性塩基性繊維芽細胞成長因子(basic fibroblast growth factor、bFGF)変異体(mutant)の生産方法を提供する:
(a)前記形質転換体を培養するステップ;及び
(b)前記ステップ(a)で得られた培養液から変異体を分離するステップ。
【0036】
本発明の好ましい具現例によれば、前記方法の(b)ステップは、
(c)前記形質転換体を細胞破砕し、凝集体を分離するステップ;
(d)前記分離された凝集体を除去するステップ;
(e)前記凝集体が除去された上清をイオン交換樹脂クロマトグラフィーを用いて分離精製するステップ;及び
(f)前記イオン交換樹脂後、高安定性塩基性繊維芽細胞成長因子変異体をヘパリン親和クロマトグラフィーを用いて分離精製するステップを含む。
【0037】
一般的に、目的発現ベクターを含有する宿主微生物は、目的タンパク質の生産を最大化する範囲で最適な成長条件で培養される。例えば、アンピシリン耐性遺伝子を選択標識として含有するベクターで形質転換された大腸菌BL21(DE3)細胞は、アンピシリンが含有されたLB培地で37℃で培養する。
【0038】
形質転換された宿主細胞を培養した後、生産されたbFGF変異体の回収及び精製は、当該分野で公知の様々な方法又はそれらを組み合わせて使用することにより行うことができる。例えば、形質転換された大腸菌細胞から発現されたbFGF変異体は、細胞培養物から、又は細胞の破砕後にタンパク質化学系に公知された適切な方法によって抽出することにより、回収することができる。
【0039】
好ましくは、bFGF変異体を精製するために、組換え大腸菌細胞の培養液を遠心分離して細胞を収穫し、収穫した細胞をリゾチームを添加した緩衝溶液に懸濁させ、超音波で破砕する。細胞破砕液を遠心分離して不溶性顆粒状の凝集体を分離し、前記分離された凝集体を除去する。前記凝集体が除去された上清をイオン交換樹脂クロマトグラフィーを用いて分離精製し、イオン交換樹脂の後、ヘパリン親和クロマトグラフィーを用いて分離精製して結果物である高安定性bFGF変異体を獲得する。
【0040】
本発明の他の態様によると、本発明は、前記高安定性bFGF変異体を有効成分として含む皮膚疾患の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0041】
下記の実施例で実証されたように、本発明の高安定性bFGF変異体は、天然bFGFと同じ活性を有し、非常に優れた熱安定性及び水溶液での安定性を有する。したがって、本発明の組成物は、皮膚疾患の予防又は治療に非常に有効である。
【0042】
好ましくは、本発明の組成物は、皮膚の炎症、急性・慢性湿疹、接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、慢性単純苔癬、間擦疹、剥奪皮膚炎、丘疹状蕁麻疹、乾癬、日光皮膚炎及びニキビなどの皮膚疾患の予防又は治療に使用される。
【0043】
また、本発明の組成物は、創傷治療用組成物を提供することができる。
【0044】
好ましくは、本発明の組成物は、閉鎖創(closed wound)及び開放創(open wound)の治療に使用される。閉鎖創の例は、挫傷(contusion or Burise)を含み、開放創の例は、擦り傷(abrasion)、裂傷(laceration)、剥離傷(Avulsion)、刺し傷(penetrated wound)及び銃傷(gun shot wound)を含む。
【0045】
本発明の組成物は、(a)上述した本発明のbFGF変異体の薬学的有効量;及び(b)薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物である。
【0046】
本明細書で使用される用語「薬学的有効量」は、上述したbFGF変異体の効能又は活性を達成するのに十分な量を意味する。
【0047】
本発明の薬学的組成物に含まれる薬学的に許容される担体は、製剤時に通常的に利用されるものであり、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム、及びミネラルオイルなどを含むが、これに限定されるものではない。本発明の薬剤学的組成物は、前記成分に加えて潤滑剤、湿潤剤、甘味料、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含むことができる。適切な薬剤学的に許容される担体及び製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(19th ed., 1995)に詳細に記載されている。
【0048】
本発明の薬学的組成物は、経口又は非経口、好ましくは非経口投与することができ、非経口投与の場合には、静脈内注入、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、局所投与、経皮投与などで投与することがことができる。
【0049】
本発明の薬剤学的組成物の適切な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性、病的状態、飲食品、投与時間、投与経路、排泄速度、及び反応感応性などの要因によって多様に処方することができる。一方、本発明の薬剤学的組成物の好ましい1日投与量は、0.001〜100mg/kgである。
【0050】
本発明の薬剤学的組成物は、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施することができる方法に従って、薬剤学的に許容される担体及び/又は賦形剤を用いて製剤化することにより、単位容量形態で製造、又は多容量容器内に入れて製造することができる。このとき、剤形は、オイル又は水性媒質中の溶液、懸濁液又はエマルジョンの形態であるか、エキス剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤又はゲル(例えば、ハイドロゲル)の形態であってもよく、分散剤又は安定化剤をさらに含むことができる。
【0051】
本発明の他の態様によると、本発明は、前記高安定性bFGF変異体を有効成分として含む皮膚状態の改善用化粧料組成物を提供する。
【0052】
下記の実施例で実証されたように、本発明の高安定性bFGF変異体は、天然bFGFと同じ活性を有し、非常に優れた熱安定性及び水溶液での安定性を有する。したがって、本発明の組成物は、皮膚状態の改善に非常に有効である。
【0053】
好ましくは、本発明の組成物は、しわ改善、皮膚の弾力改善、皮膚の老化防止、脱毛防止又は発毛促進、皮膚保湿の改善、シミの除去、又はニキビの治療のような皮膚状態の改善に用いられる。
【0054】
本発明の組成物は、(a)上述した本発明のbFGF変異体の化粧品学的有効量(cosmetically effective amount);及び(b)化粧品学的に許容される担体を含む化粧料組成物である。
【0055】
本明細書で使用される用語「化粧品的有効量」は、上述した本発明の組成物の皮膚改善効果を達成するために十分な量を意味する。
【0056】
本発明の化粧品組成物は、当業界で通常的に製造されるいかなる剤形でも製造することができ、例えば、溶液、懸濁液、乳濁液、ペースト、ゲル、クリーム、ローション、パウダー、石鹸、界面活性剤含有クレンジング、オイル、粉末ファンデーション、乳濁液ファンデーション、ワックスファンデーション及びスプレーなどに剤形化することができるが、これに限定されるものではない。より詳細には、柔軟化粧水、栄養化粧水、栄養クリーム、マッサージクリーム、エッセンス、アイクリーム、クレンジングクリーム、クレンジングフォーム、クレンジングウォーター、パック、スプレー又はパウダーの剤形で製造することができる。
【0057】
本発明の剤形がペースト、クリーム又はゲルである場合には、担体成分として動物性油、植物性油、ワックス、パラフィン、デンプン、トラカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト、シリカ、タルク、又は酸化亜鉛などを用いることができる。
【0058】
本発明の剤形がパウダー又はスプレーである場合には、担体成分としてラクトース、タルク、シリカ、アルミニウムヒドロキシド、カルシウムシリケート又はポリアミドパウダーを用いることができ、特にスプレーの場合には、さらにクロロフルオロヒドロカーボン、プロパン/ブタン又はジメチルエーテルのような推進体を含むことができる。
【0059】
本発明の剤形が溶液又は乳濁液である場合には、担体成分として溶媒、溶解剤又は油濁剤が用いられ、例えば、水、エタノール、イソプロパノール、エチルカーボネート、エチルアセテート、ベンジルアルコール、ベンジルベンゾエート、プロピレングリコール、1,3−ブチルグリコールオイル、グリセロール脂肪族エステル、ポリエチレングリコール、又はソルビタンの脂肪酸エステルがある。
【0060】
本発明の剤形が懸濁液である場合には、担体成分として、水、エタノール又はプロピレングリコールのような液状の希釈剤、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールエステル及びポリオキシエチレンソルビタンエステルのような懸濁剤、微小結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、アガー又はトラカントなどを用いることができる。
【0061】
本発明の剤形が界面活性剤含有クレンジングである場合には、担体成分として脂肪族アルコール硫酸、脂肪族アルコールエーテル硫酸、スルホコハク酸モノエステル、イセチオン酸、イミダゾリウム誘導体、メチルタウレート、サルコシネート、脂肪酸アミドエーテル硫酸、アルキルアミドベタイン、脂肪族アルコール、脂肪酸グリセリド、脂肪酸ジエタノールアミド、植物性油、ラノリン誘導体又はエトキシル化グリセロール脂肪酸エステルなどを用いることができる。
【0062】
本発明の化粧品組成物に含まれる成分は、有効成分としてのbFGF変異体と担体成分に加えて、化粧品組成物に通常的に用いられる成分を含み、例えば抗酸化剤、安定化剤、溶解剤、ビタミン、顔料及び香料のような通常の補助剤を含むことができる。
【0063】
本発明の組成物は、上述した本発明の高安定性bFGF変異体を有効成分として含むため、この両者間に共通の内容は、本明細書の過度な複雑性を避けるためにその記載を省略する。