特許第6665511号(P6665511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6665511センサホルダ部を有する保護カバーの製造方法、及び前記保護カバーを備えた軸受装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6665511
(24)【登録日】2020年2月25日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】センサホルダ部を有する保護カバーの製造方法、及び前記保護カバーを備えた軸受装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 41/00 20060101AFI20200302BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20200302BHJP
   B29C 33/38 20060101ALI20200302BHJP
   B29K 105/20 20060101ALN20200302BHJP
【FI】
   F16C41/00
   B29C45/14
   B29C33/38
   B29K105:20
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-242102(P2015-242102)
(22)【出願日】2015年12月11日
(65)【公開番号】特開2016-156497(P2016-156497A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2018年9月19日
(31)【優先権主張番号】特願2015-32431(P2015-32431)
(32)【優先日】2015年2月23日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-32432(P2015-32432)
(32)【優先日】2015年2月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000211695
【氏名又は名称】中西金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】上地 通之
(72)【発明者】
【氏名】中村 成嘉
(72)【発明者】
【氏名】駒井 俊也
【審査官】 渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−186392(JP,A)
【文献】 特開2008−32444(JP,A)
【文献】 実開平3−48768(JP,U)
【文献】 特開平11−51949(JP,A)
【文献】 特開2011−84265(JP,A)
【文献】 特開2013−44350(JP,A)
【文献】 特開2004−354299(JP,A)
【文献】 特開2008−106795(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0088467(US,A1)
【文献】 特開2013−117455(JP,A)
【文献】 特開2008−164083(JP,A)
【文献】 米国特許第1766313(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 41/00− 41/04
F16C 19/00− 19/56
F16C 33/30− 33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に内輪軌道面が形成された内輪、及び内周面に外輪軌道面が形成された外輪、並びに、前記内輪軌道面及び前記外輪軌道面間を転動する転動体を有する軸受、前記軸受の軸方向の一端部に位置して前記内輪に固定された、N極とS極を一定間隔で周方向に交互に並べてなる磁気エンコーダ、並びに、前記磁気エンコーダの磁極に対向して前記磁気エンコーダの回転を検知するための磁気センサを備えた軸受装置に用いられる保護カバーの製造方法であって、
前記保護カバーが、前記軸受の軸方向の一端部に位置して前記外輪に圧入される、非磁性体の鋼板をカップ状に成形したカップ状本体部、及び、前記磁気センサを取り付けるためのナットを保持しながら前記カップ状本体部に一体接合された合成樹脂製のセンサホルダ部を有するものであり、
前記カップ状本体部は、その底部に通孔が形成されたものであり、前記カップ状本体部をプレス加工により成形するプレス加工工程と、
前記ナット及び前記カップ状本体部をインサート品として金型内にセットし、型締めした後、溶融したプラスチックをキャビティ内に充填することにより、前記ナット及び前記カップ状本体部と一体化された前記センサホルダ部に、前記通孔を通って前記底部の内面側で径方向外方へ延びる回り込み部を形成するように射出成形を行う射出成形工程と、
を含むことを特徴とするセンサホルダ部を有する保護カバーの製造方法。
【請求項2】
前記カップ状本体部の前記通孔の周囲に無端状のシール体を加硫接着する加硫接着工程、及び前記周囲に熱硬化性接着剤を塗布する接着剤塗布工程の少なくともどちらかの工程を有する請求項記載のセンサホルダ部を有する保護カバーの製造方法。
【請求項3】
前記カップ状本体部の底部が、最底部である円盤部、前記円盤部の外周縁から軸方向に延びる円筒部、前記円筒部の軸方向端縁から径方向外方に延びる円環部を有するものであり、前記センサホルダ部が前記円盤部及び前記円筒部を被う部分を有する請求項記載のセンサホルダ部を有する保護カバーの製造方法。
【請求項4】
外周面に内輪軌道面が形成された内輪、及び内周面に外輪軌道面が形成された外輪、並びに、前記内輪軌道面及び前記外輪軌道面間を転動する転動体を有する軸受、前記軸受の軸方向の一端部に位置して前記内輪に固定された、N極とS極を一定間隔で周方向に交互に並べてなる磁気エンコーダ、並びに、前記磁気エンコーダの磁極に対向して前記磁気エンコーダの回転を検知するための磁気センサを備えた軸受装置に用いられる保護カバーの製造方法であって、
前記保護カバーが、前記軸受の軸方向の一端部に位置して前記外輪に圧入される、非磁性体の鋼板をカップ状に成形したカップ状本体部、及び、前記磁気センサを取り付けるためのナットを保持しながら前記カップ状本体部に一体接合された合成樹脂製のセンサホルダ部を有するものであり、
前記カップ状本体部は、その底部が、最底部である円盤部、前記円盤部の外周縁から軸方向に延びる円筒部、前記円筒部の軸方向端縁から径方向外方に延びる円環部を有するものであるとともに、前記円筒部には凹部又は凸部が形成されたものであり、前記カップ状本体部をプレス加工により成形するプレス加工工程と、
前記ナット及び前記カップ状本体部をインサート品として金型内にセットし、型締めした後、溶融したプラスチックをキャビティ内に充填することにより、前記ナット及び前記カップ状本体部と一体化された前記センサホルダ部に、前記円盤部及び前記円筒部により形成される段部を被う段部被い部を形成するように射出成形を行う射出成形工程と、
を含むことを特徴とするセンサホルダ部を有する保護カバーの製造方法。
【請求項5】
外周面に内輪軌道面が形成された内輪、及び内周面に外輪軌道面が形成された外輪、並びに、前記内輪軌道面及び前記外輪軌道面間を転動する転動体を有する軸受、前記軸受の軸方向の一端部に位置して前記内輪に固定された、N極とS極を一定間隔で周方向に交互に並べてなる磁気エンコーダ、並びに、前記磁気エンコーダの磁極に対向して前記磁気エンコーダの回転を検知するための磁気センサを備えた軸受装置の製造方法であって、
請求項1〜4の何れか1項に記載のセンサホルダ部を有する保護カバーの製造方法により製造された保護カバーを、前記外輪に圧入する工程を含む、保護カバーを備えた軸受装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受の外輪に圧入されて磁気エンコーダを被うカップ状の保護カバーに関わり、さらに詳しくは、前記磁気エンコーダに対向する磁気センサを保持するセンサホルダ部を有する保護カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に広く普及している、車輪のロックを無くして効率良く安全に制動するアンチロックブレーキシステムは、例えば、回転速度検出装置(車輪速センサ)により各車輪の回転速度を検出し、制御装置により加速度及び減速度を演算するとともに車体速度とスリップ率を推定し、その結果に基づいてアクチュエータを駆動してブレーキ液圧の制御を行うものである。
このような回転速度検出装置を自動車のホイール支持用の転がり軸受(ハブベアリング)に備えた軸受装置も広く用いられており、N極とS極を一定間隔で周方向に交互に並べた磁気エンコーダを軸受の内輪に取り付け、前記磁気エンコーダの回転を検知するための磁気センサを前記磁気エンコーダに対向させて軸受の外輪に取り付けるとともに、前記磁気エンコーダを保護するように前記磁気エンコーダをインナー側から被う保護カバーを前記外輪のインナー側の端部に圧入したものがある(例えば、特許文献1参照)。
前記保護カバーにより、前記磁気エンコーダに小石や泥水等が当たらないことから前記磁気エンコーダの破損を防止できるとともに、前記磁気エンコーダのアウター側のシール部材が不要になることから摺動抵抗の低減により前記軸受装置の回転トルクを低減できる。
また、前記磁気エンコーダと前記磁気センサとのエアギャップ調整作業の煩雑さを解消するために、前記磁気センサを保持するセンサホルダ部を有する前記保護カバーとして、非磁性体の鋼板をプレス加工によりカップ状に形成したカップ状本体部(キャップ)の底部の一部に合成樹脂からなるボス部を一体に接合し、このボス部に前記磁気センサを固定するナットを一体に接合したものがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−084265号公報
【特許文献2】特開2013−117455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2のようなセンサホルダ部を有する保護カバーの構造において、カップ状本体部(キャップ)の底部の一部への合成樹脂からなるボス部の接合は、接着によるのが一般的である。したがって、前記底部の接着面に微小なディンプルを形成したとしても、長期間の使用、及びその使用環境によっては、カップ状本体部とボス部との固着力が弱まってボス部が脱落する等、信頼性が低下するおそれがある。
【0005】
そこで本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところはセンサホルダ部を有する保護カバーの製造方法、及び前記保護カバーを備えた軸受装置の製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るセンサホルダ部を有する保護カバーの製造方法は、前記課題解決のために、外周面に内輪軌道面が形成された内輪、及び内周面に外輪軌道面が形成された外輪、並びに、前記内輪軌道面及び前記外輪軌道面間を転動する転動体を有する軸受、前記軸受の軸方向の一端部に位置して前記内輪に固定された、N極とS極を一定間隔で周方向に交互に並べてなる磁気エンコーダ、並びに、前記磁気エンコーダの磁極に対向して前記磁気エンコーダの回転を検知するための磁気センサを備えた軸受装置に用いられる保護カバーの製造方法であって、
前記保護カバーが、前記軸受の軸方向の一端部に位置して前記外輪に圧入される、非磁性体の鋼板をカップ状に成形したカップ状本体部、及び、前記磁気センサを取り付けるためのナットを保持しながら前記カップ状本体部に一体接合された合成樹脂製のセンサホルダ部を有するものであり、前記カップ状本体部は、その底部に通孔が形成されたものであり、
前記カップ状本体部をプレス加工により成形するプレス加工工程と、
前記ナット及び前記カップ状本体部をインサート品として金型内にセットし、型締めした後、溶融したプラスチックをキャビティ内に充填することにより、前記ナット及び前記カップ状本体部と一体化された前記センサホルダ部に、前記通孔を通って前記底部の内面側で径方向外方へ延びる回り込み部を形成するように射出成形を行う射出成形工程と、
を含むことを特徴とする(請求項)。
【0009】
このような製造方法により製造された保護カバーを、内輪に磁気エンコーダが固定された軸受の外輪に圧入することにより、磁気エンコーダに対して保護カバーが軸方向に位置決めされるとともに、保護カバーのセンサホルダ部により磁気センサが保護カバーに対して軸方向に位置決めされた状態で保持されるので、磁気エンコーダに対する磁気センサのエアギャップ調整が完了する。
よって、磁気エンコーダと磁気センサとのエアギャップ調整作業の煩雑さを解消できる。
その上、前記製造方法によれば、ナット及びカップ状本体部をインサート品として行った射出成形により、ナット及びカップ状本体部と一体化された合成樹脂製のセンサホルダ部に、カップ状本体部の底部の通孔を通って前記底部の内面側で径方向外方へ延びる回り込み部が形成される。
したがって、このような製造方法により製造された保護カバーにおいて、カップ状本体部とセンサホルダ部とが機械的に結合する。よって、カップ状本体部とセンサホルダ部との固着力が大きくなるため、カップ状本体部とセンサホルダ部との結合の高い信頼性を長期間にわたって確保できる。
【0010】
ここで、前記カップ状本体部の前記通孔の周囲に無端状のシール体を加硫接着する加硫接着工程、及び前記周囲に熱硬化性接着剤を塗布する接着剤塗布工程の少なくともどちらかの工程を有するのが好ましい(請求項)。
このような製造方法によれば、カップ状本体部の底部に通孔を形成しても、前記加硫接着工程又は前記接着剤塗布工程により、前記通孔の周囲のシール体又は接着剤層がカップ状本体部及びセンサホルダ部間に介在するので、保護カバーの気密性を保持できる。
【0011】
また、前記カップ状本体部の底部が、最底部である円盤部、前記円盤部の外周縁から軸方向に延びる円筒部、前記円筒部の軸方向端縁から径方向外方に延びる円環部を有するものであり、前記センサホルダ部が前記円盤部及び前記円筒部を被う部分を有するようにしてもよい(請求項)。
このような製造方法によれば、プレス加工工程で成形されるカップ状本体部の底部が、最底部である円盤部、前記円盤部の外周縁から軸方向に延びる円筒部、前記円筒部の軸方向端縁から径方向外方に延びる円環部を有するものであり、射出成形工程で成形されるセンサホルダ部が、カップ状本体部の通孔が形成された円盤部及び円盤部の外周縁から軸方向に延びる円筒部により形成される段部を被う部分を有する。よって、前記加硫接着工程や前記接着剤塗布工程を設けなくても、前記製造方法により製造された保護カバーにおいて一定の気密性を保つ効果があるため、製造コストを低減できる。
【0012】
さらに、本発明に係るセンサホルダ部を有する保護カバーの製造方法は、前記課題解決のために、外周面に内輪軌道面が形成された内輪、及び内周面に外輪軌道面が形成された外輪、並びに、前記内輪軌道面及び前記外輪軌道面間を転動する転動体を有する軸受、前記軸受の軸方向の一端部に位置して前記内輪に固定された、N極とS極を一定間隔で周方向に交互に並べてなる磁気エンコーダ、並びに、前記磁気エンコーダの磁極に対向して前記磁気エンコーダの回転を検知するための磁気センサを備えた軸受装置に用いられる保護カバーの製造方法であって、
前記保護カバーが、前記軸受の軸方向の一端部に位置して前記外輪に圧入される、非磁性体の鋼板をカップ状に成形したカップ状本体部、及び、前記磁気センサを取り付けるためのナットを保持しながら前記カップ状本体部に一体接合された合成樹脂製のセンサホルダ部を有するものであり、
前記カップ状本体部は、その底部が、最底部である円盤部、前記円盤部の外周縁から軸方向に延びる円筒部、前記円筒部の軸方向端縁から径方向外方に延びる円環部を有するものであるとともに、前記円筒部には凹部又は凸部が形成されたものであり、
前記カップ状本体部をプレス加工により成形するプレス加工工程と、
前記ナット及び前記カップ状本体部をインサート品として金型内にセットし、型締めした後、溶融したプラスチックをキャビティ内に充填することにより、前記ナット及び前記カップ状本体部と一体化された前記センサホルダ部に、前記円盤部及び前記円筒部により形成される段部を被う段部被い部を形成するように射出成形を行う射出成形工程と、
を含むことを特徴とする(請求項)。
【0013】
このような製造方法により製造された保護カバーを、内輪に磁気エンコーダが固定された軸受の外輪に圧入することにより、磁気エンコーダに対して保護カバーが軸方向に位置決めされるとともに、保護カバーのセンサホルダ部により磁気センサが保護カバーに対して軸方向に位置決めされた状態で保持されるので、磁気エンコーダに対する磁気センサのエアギャップ調整が完了する。
よって、磁気エンコーダと磁気センサとのエアギャップ調整作業の煩雑さを解消できる。
その上、前記製造方法によれば、ナット及びカップ状本体部をインサート品として行った射出成形により、ナット及びカップ状本体部と一体化された合成樹脂製のセンサホルダ部に、カップ状本体部の円盤部及び円筒部により形成される段部を被う段部被い部が形成される。また、センサホルダ部の合成樹脂が、カップ状本体部の円筒部に形成された凹部又は凸部に係合する。
したがって、このような製造方法により製造された保護カバーにおいて、カップ状本体部とセンサホルダ部とが機械的に結合する。よって、カップ状本体部とセンサホルダ部との固着力が大きくなるため、カップ状本体部とセンサホルダ部との結合の高い信頼性を長期間にわたって確保できる。
【0014】
さらにまた、本発明に係る軸受装置の製造方法は、外周面に内輪軌道面が形成された内輪、及び内周面に外輪軌道面が形成された外輪、並びに、前記内輪軌道面及び前記外輪軌道面間を転動する転動体を有する軸受、前記軸受の軸方向の一端部に位置して前記内輪に固定された、N極とS極を一定間隔で周方向に交互に並べてなる磁気エンコーダ、並びに、前記磁気エンコーダの磁極に対向して前記磁気エンコーダの回転を検知するための磁気センサを備えた軸受装置の製造方法であって、前記センサホルダ部を有する保護カバーの製造方)。
【発明の効果】
【0015】
以上のようセンサホルダ部を有する保護カバーの製造方法、及び前記保護カバーを備えた軸受装置の製造方法によれば、インサート成形品(保護カバー)の合成樹脂(センサホルダ部)がインサート品(カップ状本体部)と機械的に結合する。よって、インサート品と合成樹脂との固着力が大きくなるため、インサート品と合成樹脂との結合の高い信頼性を長期間にわたって確保できるという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態1に係るセンサホルダ部を有する保護カバーを備えた軸受装置の部分縦断面図である。
図2】本発明の実施の形態1に係るセンサホルダ部を有する保護カバーに磁気センサを装着した状態を示す要部拡大縦断面斜視図である。
図3】射出成形金型の一例を示す縦断面図である。
図4】本発明の実施の形態2に係るセンサホルダ部を有する保護カバーを備えた軸受装置の部分縦断面図である。
図5】本発明の実施の形態2に係るセンサホルダ部を有する保護カバーに磁気センサを装着した状態を示す要部拡大縦断面斜視図である。
図6】本発明の実施の形態3に係るセンサホルダ部を有する保護カバーを備えた軸受装置の部分縦断面図である。
図7】本発明の実施の形態3に係るセンサホルダ部を有する保護カバーに磁気センサを装着した状態を示す要部拡大縦断面斜視図である。
図8】同じく部分縦断面図である。
図9】射出成形金型の一例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明の実施の形態を添付図面に基づき詳細に説明するが、本発明は、添付図面に示された形態に限定されず特許請求の範囲に記載の要件を満たす実施形態の全てを含むものである。
【0018】
実施の形態1.
図1の部分縦断面図に示す本発明の実施の形態1に係る軸受装置11は、外輪13に対して内輪12が回転する軸受の他に、前記軸受の軸方向の一端部に配置した、磁気エンコーダ16、保護カバー1、及び磁気センサA、並びに前記軸受の軸方向の他端部に配置したシール部材15等を備える。
前記軸受は、外周面に内輪軌道面12Aが形成された内輪12、及び内周面に外輪軌道面13Aが形成された外輪13、並びに、内輪軌道面12A及び外輪軌道面13A間を転動する転動体14,14,…等を有する。
磁気エンコーダ16は、N極とS極を一定間隔で周方向に交互に並べたものであり、前記軸受の軸方向の一端部に位置する支持部材17により内輪12に固定される。
保護カバー1は、前記軸受の軸方向の一端部を密封するように外輪13に取り付けられ、磁気センサAを保持するセンサホルダ部8を有する。
保護カバー1のセンサホルダ部8に装着された磁気センサAは、磁気エンコーダ16に対向し、磁気エンコーダ16の回転を検知する。
【0019】
図1に示す軸受装置11において、内輪12に磁気エンコーダ16が固定された軸受の外輪13に対し、保護カバー1のカップ状本体部1Aを圧入することにより、磁気エンコーダ16に対して保護カバー1が軸方向に位置決めされる。
また、保護カバー1のセンサホルダ部8により磁気センサAが保護カバー1に対して軸方向に位置決めされた状態で保持されているので、磁気エンコーダ16に対する磁気センサAのエアギャップ調整が完了する。
よって、磁気エンコーダ16と磁気センサAとのエアギャップ調整作業の煩雑さを解消できる。
【0020】
図1の部分縦断面図、及び図2の要部拡大縦断面斜視図に示すように、本発明の実施の形態1に係る保護カバー1は、非磁性体の鋼板をプレス加工によりカップ状に成形したカップ状本体部1A、及び、磁気センサAを取り付けるための取付ボルトBが螺合するナット10を保持しながらカップ状本体部1Aに一体接合された合成樹脂製のセンサホルダ部8を有する。
ここで、保護カバー1はインサート成形品であり、カップ状本体部1A及びナット10がインサート品である。
【0021】
カップ状本体部1Aは、外輪13に圧入される第1円筒部2、第1円筒部2よりも縮径して第1円筒部2の端縁に繋がり、外周面にシール体7が加硫接着された第2円筒部3、第2円筒部3の端縁に繋がって径方向内方へ延びる円環部4、円環部4の内径側端縁に繋がって軸方向に延びる第3円筒部5、及び第3円筒部5の端縁に繋がる円盤部6からなり、円盤部6(カップ状本体部1Aの底部)には通孔6Aが形成される。
ここで、カップ状本体部1Aの底部は、最底部である円盤部6、円盤部6の外周縁から軸方向に延びる第3円筒部5、第3円筒部5の軸方向端縁から径方向外方に延びる円環部4を有し、円盤部6及び円盤部6の外周縁から軸方向に延びる第3円筒部5により形成される段部C(図2参照)を有する。
【0022】
カップ状本体部1Aと一体化されたセンサホルダ部8は、ナット10を保持する基部8A、及び円盤部6の通孔6Aを通ってカップ状本体部1Aの内面側で径方向外方へ延びる回り込み部8Bを有し、基部8Aは、円盤部6及び第3円筒部5を被う部分を有する。
また、通孔6Aの周囲でカップ状本体部1A及びセンサホルダ部8間には、無端状のシール体Sが介在する。
【0023】
ここで、シール体7及びSは、合成ゴム等の弾性体であり、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、アクリルゴム(ACM)、エチレン・アクリルゴム(AEM)、フッ素ゴム(FKM、FPM)、シリコーンゴム(VQM)等のゴムから、1種、あるいは2種以上のゴムを適当にブレンドして使用することができる。
【0024】
次に、センサホルダ部8を有する保護カバー1の製造方法について説明する。
<プレス加工工程>
保護カバー1を構成するカップ状本体部1Aを、例えばオーステナイト系ステンレス鋼製の板材からプレス加工により成形するプレス加工工程を行う。
【0025】
<加硫接着工程>
前記プレス加工工程で成形されたカップ状本体部1Aの第2円筒部3の外周面にシール体7を加硫接着するとともに、円盤部6の通孔6Aの周囲に無端状(例えば円環状)のシール体Sを加硫接着する加硫接着工程を行う。
なお、シール体Sに換えて円盤部6の通孔6Aの周囲に熱硬化性接着剤を塗布する接着剤塗布工程を行ってもよく、あるいはシール体Sを加硫接着する加硫接着工程及び熱硬化性接着剤を塗布する接着剤塗布工程の両方を行ってもよい。
【0026】
<射出成形工程>
図3の縦断面図に示す射出成形金型において、先ず、固定型18の支持軸21にインサート品であるナット10をセットする。
また、前記プレス加工工程で成形され、前記加硫接着工程を経た、インサート品であるカップ状本体部1Aを可動型19にセットする。
次に、射出成形機に取り付けられた固定型18及び可動型19を型締めした状態で、溶融したプラスチックをスプルーから注入してゲート20から固定型18及び可動型19間のキャビティ内に充填する。
次に、溶融したプラスチックを冷却・固化させた後、可動型19を開いてインサート成形品を取り出す。
このような射出成形工程を経た保護カバー1(図1及び図2参照)は、ナット10の周溝10Aに合成樹脂が入り込んでいるのでナット10の抜け止めがされるとともに、円盤部6の通孔6Aを通って径方向外方へ合成樹脂が回り込んで回り込み部8Bが形成されているので、カップ状本体部1Aとセンサホルダ部8は機械的に結合する。
【0027】
また、円盤部6の通孔6Aの周囲のカップ状本体部1A及びセンサホルダ部8間には、シール体S及び接着剤層の一方又は両方が介在するので、保護カバー1の気密性が保持される。
なお、センサホルダ部8の基部8Aは、円盤部6及び第3円筒部5(図2に示す段部C)を被う部分を有するので、シール体Sや接着剤層が無くても一定の気密性を保つ効果があるため、要求仕様によってはシール体S又は接着剤層を無くしてもよい。
【0028】
実施の形態2.
図4の部分縦断面図に示す本発明の実施の形態2に係る軸受装置11及び保護カバー1、並びに図5の要部拡大縦断面斜視図に示す本発明の実施の形態2に係る保護カバー1において、実施の形態1の図1及び図2と同一符号は同一又は相当部分を示しているので、同一部分についての説明は省略する。
実施の形態2の保護カバー1のカップ状本体部1Aは、外輪13に圧入される第1円筒部2、第1円筒部2よりも縮径して第1円筒部2の端縁に繋がり、外周面にシール体7が加硫接着された第2円筒部3、及び第2円筒部3の端縁に繋がる円盤部6からなり、円盤部6(カップ状本体部1Aの底部)には通孔6Aが形成される。
よって、実施の形態2のカップ状本体部1Aには、実施の形態1の図2に示す段部Cが無く、カップ状本体部1Aの加工工程を簡単化できるため、保護カバー1の製造コストを低減できる。
【0029】
実施の形態1及び2のような保護カバー1の構成によれば、インサート成形品である保護カバー1の合成樹脂製のセンサホルダ部8が、インサート品であるカップ状本体部1Aの底部の通孔6Aを通って径方向外方へ延びる回り込み部8Bを有するので、カップ状本体部1Aとセンサホルダ部8とが機械的に結合する。
よって、カップ状本体部1Aとセンサホルダ部8との固着力が大きくなるため、カップ状本体部1Aとセンサホルダ部8との結合の高い信頼性を長期間にわたって確保できる。
【0030】
なお、以上のような保護カバー1におけるカップ状本体部1Aとセンサホルダ部8とを機械的に結合させる技術は、インサート成形によりインサート品と合成樹脂とを一体化した保護カバー1以外のインサート成形品にも適用できる。
すなわちインサート品の合成樹脂との接合面に通孔を形成し、前記合成樹脂に、前記接合面から前記通孔を通って径方向外方へ延びる回り込み部を形成すればよい。
【0031】
実施の形態3.
図6の部分縦断面図に示す本発明の実施の形態3に係る軸受装置11及び保護カバー1、並びに図7の要部拡大縦断面斜視図及び図8の部分縦断面図に示す本発明の実施の形態3に係る保護カバー1において、実施の形態1の図1及び図2と同一符号は同一又は相当部分を示しているので、同一部分についての説明は省略する。
実施の形態3の保護カバー1のカップ状本体部1Aは、その第3円筒部5の外周面には、外方からパンチ等を押圧することにより凹部9,9,…が形成されており、実施の形態1のような通孔6Aは無い。
センサホルダ部8は、ナット10を保持する基部8A、及び円盤部6及び第3円筒部5により形成される段部Cを被う段部被い部8Cを有し、センサホルダ部8の合成樹脂が凹部9,9,…内に入り込んでいるので、カップ状本体部1Aと一体化される。
【0032】
次に、センサホルダ部8を有する保護カバー1の製造方法について説明する。
<プレス加工工程>
保護カバー1を構成するカップ状本体部1Aを、例えばオーステナイト系ステンレス鋼製の板材からプレス加工により成形するプレス加工工程を行う。
【0033】
<加硫接着工程>
前記プレス加工工程で成形されたカップ状本体部1Aの第2円筒部3の外周面にシール体7を加硫接着する加硫接着工程を行う。
なお、カップ状本体部1Aの合成樹脂との接合面に熱硬化性接着剤を塗布する接着剤塗布工程を行ってもよく、それによりカップ状本体部1Aと合成樹脂の結合強度が向上する。
【0034】
<射出成形工程>
図9の縦断面図に示す射出成形金型において、先ず、固定型18の支持軸21にインサート品であるナット10をセットする。
また、前記プレス加工工程で成形され、前記加硫接着工程を経た、インサート品であるカップ状本体部1Aを可動型19にセットする。
次に、射出成形機に取り付けられた固定型18及び可動型19を型締めした状態で、溶融したプラスチックをスプルーから注入してゲート20から固定型18及び可動型19間のキャビティ内に充填する。
次に、溶融したプラスチックを冷却・固化させた後、可動型19を開いてインサート成形品を取り出す。
このような射出成形工程を経た保護カバー1(図6図8参照)は、ナット10の周溝10Aに合成樹脂が入り込んでいるので、ナット10の抜け止めがされる。また、センサホルダ部8は、カップ状本体部1Aの段部Cを被う段部被い部8Cを有するとともに、センサホルダ部8の合成樹脂がカップ状本体部1Aの第3円筒部5の外周面に形成された凹部9,9,…内に入り込んでいる。よって、カップ状本体部1Aとセンサホルダ部8は機械的に結合する。
【0035】
なお、図6図8に示すように、第3円筒部5の外周面への凹部9,9,…の形成により、第3円筒部5の内周面に凸部が形成されるので、アンダーカット部があるが、図9に示す可動型19には、前記凸部に対応する位置に縮径部D,D,…を設けているので、可動型19へのカップ状本体部1Aのセット、及び可動型19からの磁気エンコーダ1の取り外しが容易になる。
【0036】
実施の形態3のような保護カバー1の構成によれば、インサート品であるカップ状本体部1Aの最底部である円盤部6及び円盤部6の外周縁から軸方向に延びる第3円筒部5により形成される段部Cを、合成樹脂製のセンサホルダ部8が被うとともに、第3円筒部5に形成された凹部9,9,…にセンサホルダ部8が係合するので、カップ状本体部1Aとセンサホルダ部8とが機械的に結合する。
よって、カップ状本体部1Aとセンサホルダ部8との固着力が大きくなるため、カップ状本体部1Aとセンサホルダ部8との結合の高い信頼性を長期間にわたって確保できる。
【0037】
以上の説明においては、カップ状本体部1Aの小径の側部である第3円筒部5の外周面に凹部9,9,…を形成する場合を示したが、第3円筒部5の外周面に凸部を形成してもよく、その場合には、図9の可動型19に縮径部D,D,…を形成する必要がなくなる。
なお、以上のような保護カバー1におけるカップ状本体部1Aとセンサホルダ部8とを機械的に結合させる技術は、インサート成形によりインサート品と合成樹脂とを一体化した保護カバー1以外のインサート成形品にも適用できる。
すなわちインサート品をカップ状とし、前記カップ状の底部に、前記カップ状の側部よりも小径の側部を有して最底部に繋がる段部を形成するとともに、前記小径の側部に凹部又は凸部を形成し、前記合成樹脂が、前記段部(前記最底部及び前記小径の側部)を被う部分を有するようにすればよい。
【符号の説明】
【0038】
1 保護カバー(インサート成形品)
1A カップ状本体部(インサート品)
2 第1円筒部
3 第2円筒部
4 円環部
5 第3円筒部(小径の側部)
6 円盤部(最底部)
6A 通孔
7 シール体
8 センサホルダ部(合成樹脂)
8A 基部
8B 回り込み部
8C 段部被い部
9 凹部
10 ナット(インサート品)
10A 周溝
11 軸受装置
12 内輪
12A 内輪軌道面
13 外輪
13A 外輪駆動面
14 転動体
15 シール部材
16 磁気エンコーダ
17 支持部材
18 固定型
19 可動型
20 ゲート
21 支持軸
A 磁気センサ
B 取付ボルト
C 段部
D 縮径部
S シール体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9