(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記走査ライン設定部は、前記走査ラインとして、前記空気入りタイヤのタイヤ周方向に沿って延びる方向に設定される周方向走査ラインと、前記空気入りタイヤのタイヤ幅方向に沿って延びる方向に設定される幅方向走査ラインとを設定する請求項1に記載のタイヤ接地面解析装置。
前記走査ラインは、前記接地面画像における前記走査ラインと交差する前記溝の前記走査ラインの長さ方向における幅のうち、最大幅の2倍よりも長い長さで設定される請求項1または2に記載のタイヤ接地面解析装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係るタイヤ接地面解析装置、タイヤ接地面解析システム及びタイヤ接地面解析方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能、且つ、容易に想到できるもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0019】
〔実施形態〕
図1は、実施形態に係るタイヤ接地面解析システムを示す構成図である。
図2は、
図1に示すタイヤ接地面解析装置の機能を示すブロック図である。これらの図において、
図1は、タイヤ接地面解析システムの全体構成を模式的に示し、
図2は、タイヤ接地面解析装置の主たる機能を示している。
【0020】
本実施形態に係るタイヤ接地面解析システム1は、空気入りタイヤの接地面61の画像を取得することにより、接地面61の解析を行うシステムに適用される。タイヤ接地面解析システム1は、タイヤ試験機2と、撮影装置10と、タイヤ接地面解析装置20とを備える(
図1参照)。
【0021】
タイヤ試験機2は、試験を行う空気入りタイヤである試験タイヤ60に試験条件を付与する装置である。
図1の構成では、タイヤ試験機2は、支持装置3と、駆動装置5とを有する。支持装置3は、試験タイヤ60を回転可能に支持する装置であり、試験タイヤ60を装着するリム4を有する。駆動装置5は、試験タイヤ60に駆動力を付与する装置であり、試験タイヤ60を駆動するモータ6と、モータ6を駆動制御するモータ制御装置7とから構成される。
【0022】
このタイヤ試験機2では、支持装置3が、試験タイヤ60をリム4に装着して支持し、試験タイヤ60を駆動装置5の透明板11の一主面である上面11Uに押圧して試験タイヤ60に荷重を付与する。また、支持装置3が、リム4を変位させて試験タイヤ60と透明板11との位置関係を調整することにより、試験タイヤ60にスリップ角又はアングル角を付与する。また、駆動装置5は、モータ制御装置7によりモータ6を駆動してリム4を所定角度回転させることができる。これにより、車両走行時におけるタイヤの転動状態が、透明板11の表面を路面として再現される。また、支持装置3及び駆動装置5が、荷重、回転速度、スリップ角、アングル角などを調整することにより、試験条件を変更できる。
【0023】
透明板11は、光を透過する性質を有する光透過板である。透明板11は光を100%透過しなくてもよく、透明板11を介してタイヤの表面を撮影することができる光透過率を有していればよい。透明板11は、例えば、アクリル樹脂製の平面板又はガラス製の平面板である。試験タイヤ60と平面板との接触状態を撮影して画像解析するので、より現実に近いタイヤの接地状態を解析することができる。
【0024】
撮影装置10は、試験タイヤ60を撮影する撮像部であるカメラ15と、光源である照明用ランプ16とを有する。カメラ15は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)カメラにより構成される。カメラ15は、透明板11を介して試験タイヤ60を撮影することにより、透明板11に押し付けられている試験タイヤ60の接地面61を撮影する。詳しくは、カメラ15は、透明板11の他主面である下面11D側に、光軸が下面11D側に対して直交する向きで配設され、下面11D側から、透明板11を介して試験タイヤ60を撮影する。これにより、カメラ15は、少なくとも接地面61を含んで試験タイヤ60を撮影し、接地面61を含んだ試験タイヤ60のデジタル画像データを生成する。
【0025】
照明用ランプ16は、カメラ15の撮影範囲を照らすランプであり、例えば、ハロゲンランプにより構成される。この照明用ランプ16は、複数が設けられており、透明板11に押し付けられている試験タイヤ60の接地面61を、透明板11の下面11D側から透明板11を介して、または透明板11の上面11U側と試験タイヤ60との間から照射する。複数の照明用ランプ16は、支持装置3によって試験タイヤ60が回転することに伴って移動する透明板11が移動する位置以外の位置に、それぞれ配設されている。
【0026】
なお、これらの照明用ランプ16は、タイヤ試験機2での試験の条件に応じて数を異ならせてもよい。例えば、試験タイヤ60の溝に面取りが施されていない場合には、面取りを考慮して光を照射する必要がないため、照明用ランプ16は、比較的数が少なくてもよい。これに対し、試験タイヤ60の溝に面取りが施されている場合には、面取り部分とトレッド面との輝度を大きく異ならせる必要があるため、照明用ランプ16の数を増やして多くの方向から光を照射するのが好ましい。また、これらの照明用ランプ16は、常時点灯タイプであってもよく、フラッシュ点灯タイプであってもよい。
【0027】
タイヤ接地面解析装置20は、例えば、所定の解析プログラムをインストールしたPC(Personal Computer)であり、撮影装置10から入力される試験タイヤ60の画像を処理して試験タイヤ60の接地面61を解析する処理を行う。試験タイヤ60の接地面61を解析する処理は、撮影した試験タイヤ60の画像に基づき、接地面61を算出する処理を含む。タイヤ接地面解析装置20は、接地面61を解析等の演算処理やデータの保存等を行う処理装置30と、オペレータがタイヤ接地面解析装置20への入力操作を行う入力部21と、解析結果や各種情報を表示する表示部22と、を有している。入力部21には、キーボードや、マウス等のポインティングデバイスが用いられており、表示部22には、液晶ディスプレイ等のディスプレイ装置が用いられている。入力部21と表示部22とは、処理装置30に電気的に接続されており、これによりタイヤ接地面解析装置20は、オペレータが表示部22を視認しながら入力部21で入力操作をすることが可能になっている。また、カメラ15は、タイヤ接地面解析装置20の処理装置30に接続されており、これによりタイヤ接地面解析装置20は、カメラ15で撮影した画像を取得することが可能になっている。
【0028】
タイヤ接地面解析装置20が有する処理装置30は、CPU(Central Processing Unit)等を有する処理部31や、RAM(Random Access Memory)等の記憶部50を備えて構成されている。このように構成される処理部31と記憶部50とは、同一筐体内に設けられていてもよく、異なる筐体内に設けられていてもよく、或いは、複数の記憶部50が双方の形態で設けられていてもよい。
【0029】
処理装置30が有する処理部31は、接地面画像取得部32と、溝抽出部34と、輪郭線強調画像生成部33と、総接地領域算出部39と、実接地領域算出部40と、を機能的に有している。このうち、接地面画像取得部32は、試験タイヤ60の接地面61の画像である接地面画像80(
図4参照)を取得する。
【0030】
また、輪郭線強調画像生成部33は、接地面画像80の輝度を微分することにより画像中の輪郭線84(
図8参照)が強調された輪郭線強調画像83(
図8参照)を生成する。また、溝抽出部34は、接地面画像取得部32で取得した接地面画像80から試験タイヤ60の溝65(
図30参照)を抽出することが可能になっている。また、総接地領域算出部39は、接地面画像80から総接地領域110(
図26参照)を求める。また、実接地領域算出部40は、総接地領域算出部39で求めた総接地領域110から、溝抽出部34で抽出した溝65を除去して実接地領域111(
図31参照)を求める。
【0031】
また、溝抽出部34は、走査ライン設定部35と、輝度比較部36と、判定部37と、溝画像生成部38と、を含んでいる。このうち、走査ライン設定部35は、接地面画像80に対して走査ライン70(
図14参照)を設定する。また、輝度比較部36は、走査ライン70が位置する領域における平均輝度を陸部局所的輝度とし、陸部局所的輝度から一定の値を引いたものを溝局所的輝度とした場合において、走査ライン70の中心画素74(
図17参照)の輝度と溝局所的輝度とを比較する。
【0032】
また、判定部37は、中心画素74の輝度が溝局所的輝度より小さい場合に、走査ライン70が位置する範囲における接地面画像80の輝度微分プロファイル95(
図19参照)を生成すると共に、輝度微分プロファイル95より所定の閾値以上の輝度微分値を有する極大点を抽出し、極大点のうち中心画素74を挟んだ走査ライン70の長さ方向における両側のそれぞれにおいて中心画素74に最も近い2点の極大点で挟まれた領域を溝65として判定する。溝画像生成部38は、判定部37で溝65として判定された要素を合成することにより、接地面画像80から抽出した溝65の画像である溝画像87(
図30参照)を生成する。
【0033】
タイヤ接地面解析装置20で用いられる解析プログラムは、予め記憶部50に記憶されており、試験タイヤ60の接地面61の解析を行う際には、記憶部50に記憶されているプログラムを処理部31で呼び出し、プログラムに沿った動作を処理部31で実行することにより、各機能を実行する。
【0034】
本実施形態に係るタイヤ接地面解析システム1及びタイヤ接地面解析装置20は、以上のような構成からなり、以下、その作用について説明する。タイヤ接地面解析システム1によって試験タイヤ60の接地面61の解析を行う際には、試験タイヤ60をタイヤ試験機2の支持装置3に装着し、試験タイヤ60を透明板11に押し付けた状態で回転させながら、或いは停止させた状態で、カメラ15によって接地面61を撮影する。その際に、試験タイヤ60に対しては、複数の方向から複数の照明用ランプ16によって光を照射した状態で撮影する。このため、カメラ15は、接地面61と接地面61以外の部分とで、輝度差をつけて試験タイヤ60を撮影することができる。撮影した画像は、タイヤ接地面解析装置20で取得し、タイヤ接地面解析装置20は、取得した画像に基づいて、接地面61の解析を行う。
【0035】
次に、タイヤ接地面解析装置20で接地面61の解析を行う場合の処理手順について説明する。
図3は、実施形態に係るタイヤ接地面解析装置で接地面の解析を行う際の処理手順を示すフロー図である。
図4は、接地面画像の説明図である。タイヤ接地面解析装置20で接地面61の解析を行う場合には、まず、試験タイヤ60の接地面61の画像である接地面画像80を取得する(ステップST11)。本実施形態では、試験タイヤ60の接地面画像80の一例として、試験タイヤ60として、主に冬季に用いられる、いわゆるスタッドレスタイヤが用いられた場合について説明する。カメラ15は、透明板11に押し付けられている試験タイヤ60を透明板11を介して撮影するため、このカメラ15で撮影した画像をタイヤ接地面解析装置20で取得することにより、撮影した画像を接地面画像80として取得する。接地面画像80の取得は、処理装置30の処理部31が有する接地面画像取得部32で行う。
【0036】
接地面画像取得部32で取得する接地面画像80は、単に試験タイヤ60を接地面61側から撮影したものになっているため、試験タイヤ60における接地面61以外の領域も含んだ画像になっている。この接地面画像80は、例えば、輝度が256階調で表される画像として接地面画像取得部32で取得する。また、試験タイヤ60を回転させながら接地面61の撮影を行う場合には、接地面画像取得部32は、取得した接地面画像80を記憶部50に伝送し、記憶部50で逐一保存する。
【0037】
次に、接地面画像取得部32によって接地面画像80に対してノイズ除去処理を行う(ステップST12)。つまり、接地面画像80には、カメラ15による熱ノイズや、タイヤ表面上の小さなごみ等が含まれている可能性があり、解析に悪影響を及ぼすことがあるため、これらに起因する画像上のノイズを除去する。
図5は、ノイズ除去処理を行った接地面画像の説明図である。ノイズ除去処理は、例えば、メディアンフィルタを用いてノイズ除去処理を行うことにより、
図5に示すように接地面画像80から、点状に散りばめられて発生するノイズである、いわゆるゴマ塩ノイズを除去する。
【0038】
図6は、メディアンフィルタについての説明図である。ノイズ除去処理に用いるメディアンフィルタについて説明すると、メディアンフィルタを用いた処理は、注目画素100と、その注目画素100の周辺に配置される周辺画素101とについて輝度の大きい順に並び替え、並べ替えた輝度の中間値を、注目画素100の輝度値に置換する処理になっている。例えば、注目画素100と周辺画素101の輝度が、
図6の数値のようになっている場合、輝度の大きい順に並べ替えると、243、171、102、80、79、50、40、10、1の順番になる。この場合、並べ替えた輝度の中間値は79になるので、注目画素100の輝度を79に置換する。
【0039】
なお、接地面画像80のノイズ除去処理は、メディアンフィルタ以外を用いて行ってもよく、例えば、平均化フィルタやガウシアンフィルタ等を用いて行ってもよい。平均化フィルタは、所定範囲の輝度値を平均化することにより画像全体をぼやかすフィルタ処理になっている。例えば、注目画素100と周辺画素101の輝度が、
図6に示す数値のようになっている場合は、輝度を平均化すると(80+10+50+243+1+102+79+171+40)/9≒86になるため、注目画素100の輝度を86に置換する。
【0040】
また、ガウシアンフィルタは、注目画素100と周辺画素101の輝度を取り込んで、重み付き平均を求めるフィルタ処理になっている。
図7は、ガウシアンフィルタで用いる重みについての説明図である。ガウシアンフィルタは、注目画素100と周辺画素101との距離を考慮して、距離に応じた重み付けを行うため、ガウシアンフィルタで用いる重みは、
図7に示すように、注目画素100の重みが一番大きく、注目画素100からの距離が大きい周辺画素101ほど、重みを小さくする。注目画素100の輝度は、画素の輝度と重みとを掛けて平均化した値を用いる。例えば、注目画素100と周辺画素101の輝度が、
図6に示す数値のようになっている場合には、
図7に示す重みを掛けて平均化すると、{(80×1/16)+(10×2/16)+(50×1/16)+(243×2/16)+(1×4/16)+(102×2/16)+(79×1/16)+(171×2/16)+(40×1/16)}≒82になるため、注目画素100の輝度を82に置換する。
【0041】
また、
図6、
図7を用いたノイズ除去処理の説明では、注目画素100を中心とする3×3の画素の範囲でフィルタ処理を行う場合について説明したが、実際には、注目画素100に対してもっと広い範囲でフィルタ処理を行うのが好ましく、例えば、9×9の範囲の輝度情報を用いてフィルタ処理を行うのが好ましい。
【0042】
次に、ノイズ除去処理後の接地面画像80より、輪郭線強調画像83を生成する(ステップST13)。
図8は、輪郭線強調画像の説明図である。輪郭線強調画像83は、輪郭線強調画像生成部33でノイズ除去処理後の接地面画像80の輝度を微分し、輝度微分の絶対値を求めることにより、輝度の変化率が大きい部分が輪郭線84として強調される輪郭線強調画像83を生成する。輪郭線強調画像83は、例えば、ソーベルフィルタを用いて生成する。
【0043】
図9は、画素に対して垂直方向に重み付けを行う場合のソーベルフィルタの説明図である。
図10は、画素に対して水平方向に重み付けを行う場合のソーベルフィルタの説明図である。ソーベルフィルタは、注目画素100と周辺画素101の輝度を取り込んで、重み付け計算を行うフィルタ処理になっており、複数の方向で重み付けを異ならせて輝度の計算を行うことにより、複数の方向、即ち、画像の垂直方向と水平方向とのそれぞれで、輝度変化率を算出することができる。このため、ソーベルフィルタで用いるフィルタは、例えば、
図9に示すような、画素に対して垂直方向に計算する際における重み付けを行うフィルタと、
図10に示すような、画素に対して水平方向に計算する際における重み付けを行うフィルタとを有する。
【0044】
図11は、
図9に示すフィルタを用いて輝度微分の絶対値を算出する場合の説明図である。例えば、注目画素100と周辺画素101の輝度が、
図11の左側の図に示す数値のようになっている場合には、
図9に示す重みを掛けると、104×1+105×2+97×1+101×0+101×0+96×0+114×(−1)+117×(−2)+111×(−1)=−48になる。このように垂直方向に重み付けを行うフィルタを用いて算出された輝度(−48)をAとする。
【0045】
図12は、
図10に示すフィルタを用いて輝度微分の絶対値を算出する場合の説明図である。また、同じ画素の輝度値に対して、
図10に示す重みを掛けると、104×1+105×0+97×(−1)+101×2+101×0+96×(−2)+114×1+117×0+111×(−1)=20になる。このように水平方向に重み付けを行うフィルタを用いて算出された輝度(20)をBとする。
【0046】
輝度微分の絶対値は、これらのようにソーベルフィルタを用いて算出された値に対して、下記の式(1)を用いて算出する。なお、式(1)において、sqrtは括弧内の平方根である。
輝度微分(絶対値)=sqrt(A
2+B
2)・・・(1)
【0047】
式(1)にA=−48とB=20を代入すると、輝度微分の絶対値は52になる。このため、
図11、
図12に示す注目画素100は、輝度を52に置換する。なお、実施形態では、画像の輝度は256階調で表されるため、算出された輝度微分の絶対値が256以上である場合には、注目画素100の輝度は255に置換する。
【0048】
輪郭線強調画像生成部33は、接地面画像80を構成する画素に対して、それぞれを注目画素100として輝度微分の絶対値を算出し、輝度を置換することにより輪郭線強調画像83を生成する。この輪郭線強調画像83は、接地面画像80中において輝度が変化している部分における輝度の変化が強調されたものになっており、これにより、画像中の輪郭線84が強調されたものになっている。生成した輪郭線強調画像83は、接地面画像80とは別に、処理装置30の記憶部50に保存する。
【0049】
輪郭線強調画像83を生成したら、次に、溝65を抽出する(ステップST14)。なお、この場合における溝65は、試験タイヤ60のトレッド部においてタイヤ平面から凹んでいる部分を、溝65と定義する。また、溝65には、タイヤ幅方向に延びるラグ溝66と、タイヤ周方向に延びる主溝67とが含まれる。接地面画像80からのこれらの溝65の抽出は、処理装置30の処理部31が有する溝抽出部34によって行う。
【0050】
図13は、溝の抽出の処理手順を示すフロー図である。
図14は、走査ラインについての説明図である。溝抽出部34によって接地面画像80から溝65の抽出を行う場合は、まず、ノイズ除去処理後の接地面画像80に対して走査ライン70を設定する(ステップST21)。この設定は、溝抽出部34が有する走査ライン設定部35によって行う。走査ライン70としては、タイヤ周方向に延びてタイヤ周方向に走査する周方向走査ライン71と、タイヤ幅方向に延びてタイヤ幅方向に走査する幅方向走査ライン72(
図24A〜
図24E参照)とがある。このうち、周方向走査ライン71は、ラグ溝66を抽出することが可能になっており、幅方向走査ライン72は、主溝67を抽出することが可能になっている。
【0051】
これらの周方向走査ライン71と幅方向走査ライン72とは、共に長さが、抽出する溝65の最大の溝幅の2倍以上の長さになっており、幅は、接地面画像80の1画素の幅になっている。この場合における溝幅は、走査ライン70が延びる方向に対する溝65の幅になっており、タイヤ周方向やタイヤ幅方向への溝65の傾斜角度に関わらず、タイヤ周方向におけるラグ溝66の幅や、タイヤ幅方向における主溝67の幅になっている。つまり、走査ライン70の長さが、抽出する溝65の最大の溝幅の2倍未満の場合は、走査ライン70は、溝65の開口部を構成する溝幅方向の両エッジを通らないことがあり、本実施形態に係る手法での溝65の抽出が困難になる虞がある。このため、本実施形態では、走査ライン70は、走査ライン70を用いて抽出する溝65の最大の溝幅の2倍以上の長さになっている。周方向走査ライン71を用いたラグ溝66の抽出と、幅方向走査ライン72を用いた主溝67の抽出とは、同様の手法によって行われるが、以下の説明では、走査ライン70を用いた溝65の抽出の手法についての説明を、代表して周方向走査ライン71を用いて説明する。
【0052】
周方向走査ライン71は、接地面画像80に対して、接地面画像80中の試験タイヤ60におけるタイヤ周方向に沿って延びる方向に設定される。その長さは、ラグ溝66の溝幅以上の長さになっており、例えば、接地面画像80が、縦1200画素×横1600画素からなる画像の場合には、周方向走査ライン71の長さは、150画素程度で設定される。周方向走査ライン71の幅は、1画素であるため、周方向走査ライン71は、タイヤ周方向に150画素の長さで延び、タイヤ幅方向における幅が1画素となる走査ライン70として、接地面画像80に対して設定される。
【0053】
なお、走査ライン70は、画像上を一方向に移動しながら走査し、画像の一端から他端まで移動したら、隣り合う列に移動して再び一方向に移動しながら走査することを繰り返す、いわゆるラスタースキャンを行う。このため、走査ライン70によって溝65を抽出する場合、走査ライン70は、画像の角部付近を走査のスタート位置として走査しながら抽出する。従って、走査ライン設定部35で走査ライン70を設定する場合には、実際には接地面画像80における1つの角部付近に設定するが、走査ライン70を用いて溝65を抽出する手法を説明するために、以下の説明では、走査ライン70が溝65上に設定された状態のものを説明する。
【0054】
接地面画像80に走査ライン70を設定したら、走査ライン70を用いて溝65の抽出処理を行う(ステップST22)。
図15は、溝の抽出処理を行う処理手順を示すフロー図である。
図16は、
図14のA部詳細図である。接地面画像80上の溝65の抽出処理を行う場合は、まず、輝度算出ライン76を設定する(ステップST31)。輝度算出ライン76は、陸部局所的輝度を算出するためのラインになっている。また、陸部局所的輝度は、走査ライン70及びその近傍領域における平均輝度、即ち、走査ライン70が位置する領域における平均輝度であり、走査ライン70が位置する領域の陸部68の平均輝度になっている。輝度算出ライン76は、走査ライン70の長さと同じ長さで設定し、走査ライン70の幅方向の両側それぞれにおける、走査ライン70に対して走査ライン70から1画素ずらした位置と2画素ずらした位置とに設定する。即ち、輝度算出ライン76は、走査ライン70の幅方向における片側に2本ずつ設定し、合計で4本設定する。従って、周方向走査ライン71では、輝度算出ライン76は、タイヤ幅方向における周方向走査ライン71の片側に2本ずつ設定し、周方向走査ライン71のタイヤ幅方向における両側に、合計で4本設定する。走査ライン70の幅方向の両側に設定する4本の輝度算出ライン76が位置する領域は、走査ライン70の近傍領域77になっている。なお、輝度算出ライン76は、走査ライン70の片側に2本ずつ、合計で4本設定しているが、輝度算出ライン76は、これ以外の数で設定してもよい。
【0055】
次に、接地面画像80からはみ出た走査ライン70、輝度算出ライン76はあるか否かを判定部37で判定する(ステップST32)。この判定により、接地面画像80からはみ出た走査ライン70または輝度算出ライン76があると判定された場合(ステップST32、Yes判定)には、溝65の抽出処理のフローから抜け出る。つまり、走査ライン70または輝度算出ライン76が接地面画像80からはみ出ている場合には、現在の走査ライン70の位置では、溝65の抽出処理は行わない。
【0056】
これに対し、接地面画像80からはみ出た走査ライン70、輝度算出ライン76はないと判定された場合(ステップST32、No判定)には、陸部局所的輝度を算出する(ステップST33)。陸部局所的輝度は、接地面画像80上において走査ライン70が位置する領域であり、走査ライン70と近傍領域77とからなる領域である輝度算出領域78に位置する画素の輝度情報を用いて算出する。つまり、輝度算出領域78に位置する画素の平均値を算出し、その平均値を陸部局所的輝度とする。
【0057】
なお、陸部局所的輝度は、陸部68の局所的な輝度であるため、陸部局所的輝度を算出する際には、接地面画像80上において溝65に相当する画素を除外して算出するのが好ましい。具体的には、溝65に相当する画素は輝度が低いため、輝度が所定の閾値よりも低い画素を除外することにより、溝65に相当する画素を除外して平均輝度の算出から除外する。例えば、輝度が256階調で表される場合には、輝度が40以下となる低輝度画素を平均輝度の算出から除外することにより、溝65に相当する画素を除外して平均輝度の算出から除外する。
【0058】
また、非接地領域82(
図14参照)の輝度は、接地領域81の輝度とは大きく異なるため、陸部局所的輝度を算出する際には、非接地領域82に相当する画素も除外して平均輝度を算出するのが好ましい。具体的には、非接地領域82に相当する画素は、接地領域81(
図14参照)に相当する画素と比較して輝度が高いため、輝度が所定の閾値よりも高い画素を除外することにより、非接地領域82に相当する画素を除外して平均輝度の算出から除外する。例えば、輝度が256階調で表される場合には、輝度が100以上となる高輝度画素を平均輝度の算出から除外することにより、非接地領域82に相当する画素を除外して平均輝度の算出から除外する。
【0059】
陸部局所的輝度を算出したら、次に、走査ライン70の中心画素74の輝度は、溝局所的輝度よりも小さいか否かを判定する(ステップST34)。
図17は、中心画素の説明図である。走査ライン70の中心画素74は、走査ライン70の長さ方向における中心に位置する画素になっており、周方向走査ライン71においては、タイヤ周方向における周方向走査ライン71の中心に位置する画素になっている。また、溝局所的輝度は、陸部局所的輝度から一定の値を引いたものになっており、輝度が256階調で表される場合には、例えば、陸部局所的輝度から40引いた輝度を、現在の走査ライン70の位置における溝局所的輝度とする。
【0060】
溝抽出部34は、走査ライン70の中心画素74の輝度を抽出し、中心画素74の輝度と溝局所的輝度とを輝度比較部36で比較する。比較した結果、走査ライン70の中心画素74の輝度は、溝局所的輝度よりも小さくないと判定された場合(ステップST34、No判定)には、溝65の抽出処理のフローから抜け出る。つまり、中心画素74の輝度が溝局所的輝度よりも小さくない場合、現在の走査ライン70の位置における中心画素74は溝65に相当する位置ではないと判断することができるため、現在の走査ライン70の位置では溝65の抽出処理は行わない。
【0061】
これに対し、走査ライン70の中心画素74の輝度は、溝局所的輝度よりも小さいと判定された場合(ステップST34、Yes判定)には、その中心画素74を溝65の構成要素として記憶部50で記憶すると共に、輝度微分プロファイルを生成する(ステップST35)。
図18は、
図17に示す接地面画像と同一位置の輪郭線強調画像の詳細図である。
図19は、輝度微分プロファイルの説明図である。輝度微分プロファイル95は、輪郭線強調画像83を利用して生成する。輝度微分プロファイル95を生成する場合には、まず、接地面画像80において走査ライン70の中心画素74の輝度が溝局所的輝度よりも小さいと判定された場合における、接地面画像80上の走査ライン70の位置に対応する輪郭線強調画像83上の位置に、輝度微分走査ライン90を設定する。
【0062】
この輝度微分走査ライン90は、輝度微分プロファイル95を生成するために、輪郭線強調画像83における輝度微分の絶対値を検出するためのラインになっており、走査ライン70と同じ長さで、輪郭線強調画像83に対して設定される。つまり、輝度微分走査ライン90は、接地面画像80と走査ライン70との位置関係と同じ位置関係になるように、輪郭線強調画像83に対して設定される。輪郭線強調画像83に対して輝度微分走査ライン90を設定したら、輪郭線強調画像83より輝度微分走査ライン90上に位置する画素の輝度微分の絶対値を抽出し、輝度微分走査ライン90上の位置と輝度微分の絶対値とを対応付けることにより、輝度微分プロファイル95を生成する。これにより、走査ライン70が位置する範囲における接地面画像80の輝度微分を表すプロファイルである輝度微分プロファイル95を生成する。
【0063】
次に、輝度微分プロファイル95より極大点96を抽出する(ステップST36)。極大点96を抽出する際には、所定の閾値を設定し、この所定の閾値以上の輝度微分値を有する極大点96を輝度微分プロファイル95より抽出する。この場合の閾値は、溝65に相当する低輝度領域の輝度微分値を有する極大点96を除外することができるように設定される極大点カットライン97になっており、例えば、接地面画像80に含まれる総接地領域110での平均輝度微分の1.25倍以上2.5倍以下の値で設定される。この極大点カットライン97も、輝度微分プロファイル95と同様に輪郭線強調画像83を用いて算出し、接地面画像80に含まれる総接地領域110に対応する、輪郭線強調画像83での総接地領域110での平均輝度微分の1.25倍以上2.5倍以下の値で、極大点カットライン97は設定される。
【0064】
換言すると、抽出される極大点96は、(1.25≦α≦2.5)となる係数αを用いて表した場合に、各極大点96の輝度微分の絶対値が下記の式(2)を満たしたものが抽出される。
極大点96の輝度微分の絶対値≧α×総接地領域110での平均輝度微分の絶対値・・・(2)
【0065】
次に、中心画素74に最も近い2点の極大点96で挟まれた範囲GWを溝65として判定する(ステップST37)。つまり、判定部37は、抽出した複数の極大点96のうち、中心画素74を挟んだ走査ライン70の長さ方向、即ち、輝度微分走査ライン90の長さ方向における両側のそれぞれにおいて、中心画素74に最も近い2点の極大点PC,PDで挟まれた領域GWを、溝65として判定する。この場合、輪郭線強調画像83において2点の極大点PC,PDで囲まれる、タイヤ周方向に1列に並んだ画素群に対応する、接地面画像80においてタイヤ周方向に1列に並んだ画素群を、溝65の構成要素として記憶部50に記憶する。即ち、輪郭線強調画像83において2点の極大点PC,PDに挟まれた画素群と同一の位置となる接地面画像80上の画素群を、溝65の構成要素として記憶部50に記憶する。
【0066】
ここで、空気入りタイヤには、製造時にトレッド面に施される刻印63(
図4参照)や、試験時に記されるマーキング等が施されていることがあるが、これらの刻印63等が施されている部分は、刻印63等が施されていない部分とは、輝度が異なることが多い。このため、輝度に基づいて溝65を抽出する場合、刻印63が施されている部分では、適切に抽出することができなくなる虞があるが、本実施形態では、輝度を微分している。これにより、溝65に相当する位置であると判定された中心画素74の両側の位置で、輝度の変化度が大きい極大点PC,PDを輝度微分プロファイル95より抽出できるため、通常の陸部68とは輝度が異なり易い刻印63が施されている部分に設けられている溝65も、適切に抽出することができる。
【0067】
また、本実施形態では、刻印63が施されていない部分の溝65も、適切に抽出することが可能になっている。
図20は、刻印が施されていない部分に走査ラインが位置する状態を示す説明図である。刻印63が施されていない位置に走査ライン70が位置する場合でも、走査ライン70の中心画素74の輝度が溝局所的輝度よりも小さいと判定された場合(ステップST34、Yes判定)には、その中心画素74を溝65の構成要素として記憶部50で記憶すると共に、輝度微分プロファイル95を生成する(ステップST35)。即ち、走査ライン70の位置に関わらず、中心画素74の輝度が溝局所的輝度よりも小さいと判定された場合には、輝度微分プロファイル95を生成する。
【0068】
図21は、
図20に示す接地面画像と同一位置の輪郭線強調画像の詳細図である。
図22は、輝度微分プロファイルの説明図である。輝度微分プロファイル95は、接地面画像80において走査ライン70の中心画素74の輝度が溝局所的輝度よりも小さいと判定された場合における、接地面画像80上の走査ライン70の位置に対応する輪郭線強調画像83上の位置に、輝度微分走査ライン90を設定して生成する。輝度微分プロファイル95を生成したら、極大点カットライン97を設定することにより極大点96を抽出するが(ステップST36)、刻印63が施されていない位置では、陸部68は輝度の変化が小さくなっている。
【0069】
このため、溝65の幅方向におけるエッジ部分以外は、輝度微分値が小さくなっており、溝65の幅方向における2箇所のエッジ部分に相当する部分が、極大点96として表れる。判定部37は、中心画素74に最も近い2点の極大点96で挟まれた範囲GWを溝65として判定するため、輪郭線強調画像83において2点の極大点PC,PDに挟まれた画素群と同一の位置となる接地面画像80上の画素群を、溝65の構成要素として記憶部50に記憶する。これにより、刻印63が施されていない位置においても、溝65を抽出することができる。
【0070】
輪郭線強調画像83及び輝度微分走査ライン90を用いて1つの位置での溝65の抽出処理が完了したら、接地面画像80上での処理に戻り、走査ライン70の位置は終端位置であるか否かを判定する(ステップST23)。つまり、走査ライン70は、ラスタースキャンを行うため、走査ライン70の現在の位置は終端位置であるか否かを判定する。
【0071】
図23A〜
図23Eは、走査ラインの進み方についての説明図である。走査ライン70で走査を行う際における走査ライン70の進み方について、周方向走査ライン71を用いて説明すると、周方向走査ライン71は、ステップST21では、例えば、接地面画像80の最も左上に位置する部分に、左右方向に延びて設定される(
図23A)。この位置で溝65の抽出処理を行ったら、周方向走査ライン71を右方向に1画素移動させ(
図23B)、これらを繰り返すことにより、各位置で溝65の抽出を行いながら、周方向走査ライン71を右方向に移動させる。
【0072】
これにより、周方向走査ライン71が接地面画像80の右端まで移動したら(
図23C)、周方向走査ライン71を、画素における1つ下側の列の左端に、周方向走査ライン71を移動させる(
図23D)。このように、周方向走査ライン71を順次右方向に1画素ずつ移動させ、右端まで移動したら、画素における1つ下側の列の左端に移動させることを繰り返すことにより、周方向走査ライン71を接地面画像80の最も右下に位置する部分まで移動させる(
図23E)。この位置が、溝65の抽出を行いながら周方向走査ライン71を移動させる際における終端位置となる。
【0073】
現在の走査ライン70の位置での溝65の抽出処理が完了した後、走査ライン70の位置は終端位置であるか否かを判定し(ステップST23)、走査ライン70の位置は終端位置ではないと判定された場合(ステップST23、No判定)には、走査ライン70を移動させる(ステップST24)。この場合、走査ライン70の現在の位置から、走査ライン70の長さ方向に1画素分移動させるか、隣りの列の端部の位置に移動させる。走査ライン70を移動させたら、ステップST22に戻り、再び溝65の抽出処理を行う。これらを繰り返すことにより、接地面画像80の全領域で溝65の抽出処理を行う。
【0074】
なお、上記の説明では、周方向走査ライン71を用いてラグ溝66の抽出を行う場合について説明したが、幅方向走査ライン72を用いて主溝67を抽出する場合も、同様の手法で行う。即ち、幅方向走査ライン72の現在の位置での中心画素74の輝度が、溝局所的輝度よりも小さいと判定された場合には、中心画素74を挟んだ走査ライン70の長さ方向における両側のそれぞれにおいて、中心画素74に最も近い2点の極大点PC,PDを求め、主溝67の構成要素を抽出する。
【0075】
また、幅方向走査ライン72は、試験タイヤ60のタイヤ幅方向に沿って延びる方向に設定され、周方向走査ライン71とは直交する向きで設けられるため、移動させる方向も、周方向走査ライン71の移動方向に対して直交する方向になる。
図24A〜
図24Eは、幅方向走査ラインの進み方についての説明図である。幅方向走査ライン72は、ステップST21では、例えば、接地面画像80の最も左上に位置する部分に、上下方向に延びて設定される(
図24A)。この位置で主溝67の抽出処理を行ったら、幅方向走査ライン72を下方向に1画素移動させ(
図24B)、これらを繰り返すことにより、各位置で主溝67の抽出を行いながら、幅方向走査ライン72を下方向に移動させる。
【0076】
これにより、幅方向走査ライン72が接地面画像80の下端まで移動したら(
図24C)、幅方向走査ライン72を、画素における1つ右側の列の上端に、幅方向走査ライン72を移動させる(
図24D)。このように、幅方向走査ライン72を順次下方向に1画素ずつ移動させ、下端まで移動したら、画素における1つ右側の列の上端に移動させることを繰り返すことにより、幅方向走査ライン72を接地面画像80の最も右下に位置する部分まで移動させる(
図24E)。この位置が、主溝67の抽出を行いながら幅方向走査ライン72を移動させる際における終端位置となる。
【0077】
幅方向走査ライン72においても、現在の幅方向走査ライン72の位置での主溝67の抽出処理が完了した後、幅方向走査ライン72の位置は終端位置であるか否かを判定し(ステップST23)、幅方向走査ライン72の位置は終端位置ではないと判定された場合(ステップST23、No判定)には、幅方向走査ライン72を移動させる(ステップST24)。この場合、幅方向走査ライン72の現在の位置から、幅方向走査ライン72の長さ方向に1画素分移動させるか、隣りの列の端部の位置に移動させる。幅方向走査ライン72を移動させたら、ステップST22に戻り、再び主溝67の抽出処理を行う。これらを繰り返すことにより、接地面画像80の全領域で主溝67の抽出処理を行う。
【0078】
周方向走査ライン71と幅方向走査ライン72との双方で、走査ライン70の位置は終端位置であると判定された場合(ステップST23、Yes判定)には、接地面画像80の全領域で溝65の抽出処理を行ったことになるため、溝65を抽出する処理から抜け出る。
【0079】
溝65の抽出が完了したら、次に、総接地領域110を求める(ステップST15)。
図25は、輝度に基づいて生成した接地領域画像の説明図である。
図26は、総接地領域画像の説明図である。総接地領域110を求める際には、まず、総接地領域算出部39によって接地面画像80から接地領域画像85を生成する。接地領域画像85を生成する際には、接地面画像80に対して二値化処理を行うことにより生成する。つまり、接地面画像80では、溝65と陸部68とでは輝度が異なるため、溝65と陸部68とを切り分けることができる閾値で、輝度を用いて二値化する。これにより、例えば、溝65が白画素で、陸部68が黒画素となって接地領域81が表せられる接地領域画像85を生成する。
【0080】
さらに、接地領域画像85では、非接地領域82に位置する主溝67を除外する。非接地領域82に位置する主溝67を求める場合は、例えば、接地領域画像85に対して、ソーベルフィルタ等を用いて接地領域画像85の画像中の輪郭線が抽出された輪郭線画像を生成し、輪郭線画像の非接地領域82において、タイヤ周方向の黒画素総数をタイヤ幅方向における位置ごとに抽出する。抽出したタイヤ幅方向における位置ごとの黒画素の総数より、タイヤ幅方向における主溝67のエッジの位置を抽出し、主溝67の位置を抽出する。主溝67は、接地領域画像85のタイヤ周方向における全域に亘って位置すると推測されるため、このようにして抽出した主溝67の位置に位置する接地領域画像85上の黒画素を白画素に置換することにより、接地領域画像85において非接地領域82に位置する主溝67を除外する。
【0081】
接地領域画像85上で非接地領域82に位置する主溝67を除外したら、次に、接地領域画像85に対して、膨張処理と収縮処理とを繰り返すことにより、接地領域画像85において白画素で表示される溝65の部分を除去する。
図27は、膨張処理の説明図である。
図28は、収縮処理の説明図である。膨張処理は、
図27に示すように、注目画素の周辺に1画素でも黒画素があれば、注目画素を黒画素に置き換える処理になっている。つまり、膨張処理は、白画素をそれぞれ中心画素とし、その周辺の8画素(中心画素から最も近い左上、上、右上、右、右下、下、左下、左の各1画素)のうち1つでも黒画素が存在すれば、その中心画素を黒画素に置き換える処理になっている。反対に収縮処理は、例えば注目画素を黒画素とする場合に、
図28に示すように、注目画素の周辺に1画素でも白画素があれば、注目画素を白画素に置き換える処理になっている。つまり、収縮処理は、黒画素をそれぞれ中心画素とし、その周辺の8画素(中心画素から最も近い左上、上、右上、右、右下、下、左下、左の各1画素)のうち1つでも白画素が存在すれば、その中心画素を白画素に置き換える処理になっている。
【0082】
本実施形態では、接地領域画像85において溝65に該当する部分を除去するために、まず、膨張処理を複数回行うことにより白画素を黒画素に置き換え、接地領域81における溝65の部分を除去する。その後、膨張処理を行うことによって大きさが大きくなった接地領域81の大きさを、元の大きさに戻すため、膨張処理の回数と同じ回数で収縮処理を行う。総接地領域算出部39は、接地領域画像85に対して、例えば膨張処理を80回行った後、収縮処理を80回行うことにより、接地領域画像85の接地領域81における溝65の部分が除去された画像である総接地領域110の画像を生成し、総接地領域画像86を取得する。これにより、総接地領域110を求める。
【0083】
図29は、溝画像の説明図である。総接地領域110を求めたら、次に、溝画像87を生成する(ステップST16)。この溝画像87の生成は、溝抽出部34が有する溝画像生成部38によって行う。溝画像生成部38は、周方向走査ライン71を用いて抽出し、記憶部50に記憶されたラグ溝66の構成要素と、幅方向走査ライン72を用いて抽出し、記憶部50に記憶された主溝67の構成要素とを、全て黒画素として合成することにより、接地面画像80に含まれる全体の溝65の画像として、1つの溝画像87を生成する。つまり、ステップST37では、中心画素74に最も近い極大点PC,PDで挟まれた領域を溝65として判定し、この境域の画素群を溝65の構成要素として記憶部50に記憶するため、記憶された溝65の構成要素を溝画像生成部38で繋ぎ合わせることにより、接地面画像80に含まれる溝65全体の溝画像87を得ることができる。
【0084】
さらに、溝画像87に対しては、接地領域画像85において除外した、非接地領域82に位置する主溝67を除外する。これにより、接地領域画像85の接地領域81に位置する溝65のみを表示する溝画像87を生成することができる。
【0085】
また、溝画像87を生成する場合は、収縮処理と膨張処理とを繰り返すことにより、溝画像87上の黒画素の小さな塊である孤立点121を除去したり、黒画素で表示される溝65の部分に穴状に現れる穴状部122を除去したり、接続されるべきラグ溝66と主溝67とが分離した分離部123を接続したりする。これにより、溝65の抽出時に輝度ムラ等に起因して、溝65以外の部分が溝65の構成要素として抽出されたり、溝65の部分が溝65の構成要素として抽出されなかったりすることによって発生する不具合を取り除くことができ、溝65の見栄えが良くなるようにすることができる。
【0086】
図30は、収縮処理及び膨張処理を行った後の溝画像の説明図である。本実施形態では、溝画像87のこれらの不具合を取り除くために、収縮処理を1回行った後、膨張処理を7回行う。その後、収縮処理を8回行い、膨張処理を2回行う。これにより、見栄えの良い溝画像87を得ることができる。なお、これらの収縮処理や膨張処理の回数や順番、黒画素の塊を除去する際の基準となる連続する黒画素の数は、試験タイヤ60のトレッドパターンや、試験の条件、画像の解像等に応じて適宜設定するのが好ましい。
【0087】
次に、実接地領域111を求める(ステップST17)。
図31は、実接地領域画像の説明図である。実接地領域111は、総接地領域算出部39で求めた総接地領域110から、溝抽出部34で抽出した溝65を、実接地領域算出部40によって除去することにより求める。つまり、総接地領域110が黒画素となる二値画像の総接地領域画像86に対して、接地面画像80の溝65に該当する部分を白画素に置き換えることにより、溝65に相当する部分が白画素となった実接地領域111の画像である実接地領域画像88を生成する。接地面画像80を二値化処理することで生成した接地領域画像85では、刻印63の部分も画像中に現れてしまい、刻印63も溝65として解析されてしまう虞があるが、総接地領域画像86と溝画像87とを生成した後、総接地領域画像86から溝画像87に相当する部分を除去することにより、刻印63の部分が含まれない実接地領域画像88を得ることができる。
【0088】
タイヤ接地面解析システム1は、1つの試験タイヤ60で接地面画像80を多数取得し、これらの接地面画像80に対して上述したタイヤ接地面解析方法で溝65の抽出を行うことにより、各接地面画像80において、精度の高い実接地領域画像88を容易に取得することができる。
【0089】
以上の実施形態に係るタイヤ接地面解析装置20は、走査ライン70の中心画素74の輝度が溝局所的輝度より小さい場合に、輝度微分プロファイル95を生成し、輝度微分プロファイル95に基づいて溝65を抽出するため、試験タイヤ60のトレッド面に刻印63等が施されている場合でも、刻印63等に影響を受けることなく溝65を抽出することができる。
図32は、
図17に示す走査ラインの位置での輝度の説明図である。つまり、刻印63等が施されている部分は、輝度の変化が大きいため、輝度に基づいて溝65を抽出する場合において、抽出する位置に刻印63等が存在する場合、走査ライン70上の輝度は大きく変化する。このため、例えば、
図32に示す極大点PC,PDで囲まれる範囲が、実際の溝65の構成要素である場合でも、中心画素74の両側で輝度が最も大きくなる極大点PA,PBで囲まれる範囲を、溝65の構成要素として抽出してしまう虞がある。これに対し、本実施形態では、輝度をそのまま用いて溝65を抽出するのではなく、輝度の微分値を用いて溝65を抽出するため、抽出時における刻印63等の影響を、極力除外することができる。この結果、トレッド面に刻印63等が施されている場合でも、溝65の形状を適切に抽出することができ、接地領域を解析する際における解析誤差を低減することができる。
【0090】
また、走査ライン70の中心画素74の輝度は、溝局所的輝度よりも小さいか否かを判定した後に、輝度微分プロファイル95に基づいて溝65を抽出するため、溝65の誤検出を低減することができる。
図33は、溝が存在しない部分に位置する走査ラインの説明図である。
図34は、
図33に示す位置での輝度の説明図である。
図35は、
図33に対応する位置での輝度微分走査ラインの説明図である。
図36は、
図35に示す位置での輝度微分プロファイルの説明図である。例えば、
図33に示すように、溝65が存在しない部分に位置する走査ライン70が位置する場合では、中心画素74の輝度は、溝局所的輝度よりも大きくなる。つまり、溝局所的輝度を輝度カットライン75とする場合、溝65が存在しない部分に走査ライン70が位置する場合には、中心画素74の輝度は、輝度カットライン75よりも高くなる。このような場合に、輪郭線強調画像83における同じ位置に輝度微分走査ライン90を設定し、輝度微分プロファイル95を生成して極大点96を抽出した場合、中心画素74に最も近い2点の極大点PC,PDで囲まれた領域GWを溝65として判定するため、溝65が存在しない部分を、溝65の構成要素として抽出してしまう。
【0091】
図37は、中心画素の輝度が輝度カットラインよりも低い状態を示す説明図である。これに対し、本実施形態では、走査ライン70の中心画素74の輝度と輝度カットライン75とを輝度比較部36で比較し、
図37に示すように、走査ライン70の中心画素74が、輝度カットライン75より低い場合にのみ、輪郭線強調画像83における同じ位置に輝度微分走査ライン90を設定して溝65を抽出する。これにより、溝65が存在しない部分を溝65の構成要素として抽出することを抑制することができ、この結果、接地領域を解析する際における解析誤差を、より確実に低減することができる。
【0092】
また、走査ライン70として、試験タイヤ60のタイヤ周方向に沿って延びる方向に設定される周方向走査ライン71と、試験タイヤ60のタイヤ幅方向に沿って延びる方向に設定される幅方向走査ライン72とが設定されるため、試験タイヤ60の溝65の方向に関わらず、周方向走査ライン71と幅方向走査ライン72とを用いて溝65を抽出することができる。これにより、タイヤ周方向とタイヤ幅方向とのいずれの方向に延びる溝65が刻印63やマーキングに跨って形成されている場合でも、これらの刻印63等の影響を受けることなく、適切に溝65を抽出することができる。この結果、接地領域を解析する際における解析誤差を、より確実に低減することができる。
【0093】
また、走査ライン70は、接地面画像80における走査ライン70と交差する溝65の走査ライン70の長さ方向における幅のうち、最大幅の2倍よりも長い長さで設定されるため、より確実に溝65を抽出することができる。つまり、走査ライン70の長さが、抽出する溝65の最大の溝幅の2倍未満の場合は、走査ライン70は、溝65の開口部を構成する溝幅方向の両エッジを通らないことがある。この場合、輝度微分プロファイル95より、溝65の両端エッジに相当する極大点PC,PDの位置を抽出することができなくなるため、溝65の抽出が困難になる虞がある。これに対し、本実施形態では、走査ライン70の長さが、抽出する溝65の最大の溝幅の2倍以上となって設定されるため、輝度微分プロファイル95を用いて、溝65の両端エッジに相当する極大点PC,PDの位置を、より確実に抽出することができる。この結果、溝65の形状を、より確実に抽出することができ、接地領域を解析する際における解析誤差を低減することができる。
【0094】
また、極大点カットライン97は、接地面画像80に含まれる総接地領域110での平均輝度微分の1.25倍以上2.5倍以下であるため、より確実に溝65を抽出することができる。つまり、極大点カットライン97が、平均輝度微分の1.25倍未満である場合、極大点96が極大点カットライン97を超え易くなるため、溝65のエッジに相当する極大点96の誤認識が生じ、解析精度が低下する虞がある。また、極大点カットライン97が、平均輝度微分の2.5倍を超える場合、溝65のエッジに相当する極大点96が極大点カットライン97を超えられない可能性があり、溝65のエッジに相当する極大点96を認識することができず、解析精度が低下する虞がある。これに対し、極大点カットライン97を、平均輝度微分の1.25倍以上2.5倍以下の範囲内で設定した場合には、溝65のエッジに相当する極大点96の候補を抽出する際に、候補を増やし過ぎず、また絞り込み過ぎず、適切に抽出することができるため、溝65の両端エッジに相当する極大点PC,PDの位置を、より適切に抽出することができる。この結果、溝65の形状を、より確実に抽出することができ、接地領域を解析する際における解析誤差を低減することができる。
【0095】
また、接地面画像80の輝度を微分することにより画像中の輪郭線84が強調された輪郭線強調画像83を生成し、輝度微分プロファイル95は、輪郭線強調画像83を利用して生成するため、刻印63等に影響を受けることなく溝65を抽出するための輝度微分プロファイル95を、容易に生成することができる。この結果、接地領域を解析する際における解析誤差を、より容易に低減することができる。
【0096】
また、実施形態に係るタイヤ接地面解析システム1は、透明板11に押し付けられている試験タイヤ60の接地面61を複数の照明用ランプ16で照射した状態で、透明板11を介してカメラ15によって接地面61を撮影するため、接地面61と非接地面との輝度差をつけた状態で接地面61を撮影することができる。その際に、試験タイヤ60に対しては、複数の方向から複数の照明用ランプ16によって光を照射した状態で撮影するため、溝65と溝65以外の部分とで、輝度差を付けて撮影することができる。これにより、溝65の輪郭線84を、より確実に強調することができ、接地面画像80より、より確実に溝65を抽出することができる。この結果、接地領域を解析する際における解析誤差を、より確実に低減することができる。
【0097】
また、実施形態に係るタイヤ接地面解析方法は、走査ライン70の中心画素74の輝度が溝局所的輝度より小さい場合に、輝度微分プロファイル95を生成し、輝度微分プロファイル95に基づいて溝65を抽出するため、試験タイヤ60のトレッド面に刻印63等が施されている場合でも、刻印63等に影響を受けることなく溝65を抽出することができる。この結果、トレッド面に刻印63等が施されている場合でも、溝65の形状を適切に抽出することができ、接地領域を解析する際における解析誤差を低減することができる。
【0098】
〔変形例〕
なお、上述した実施形態に係るタイヤ接地面解析装置20では、極大点カットライン97は、総接地領域110での平均輝度微分に基づいて設定しているが、極大点カットライン97は、総接地領域110での平均輝度微分以外を用いて設定してもよい。例えば、輝度微分走査ライン90の位置ごとに、輝度微分走査ライン90の範囲の平均輝度微分の絶対値を算出し、平均輝度微分に基づいて輝度微分走査ライン90の位置ごとに極大点カットライン97を設定してもよい。輝度微分走査ライン90の範囲の平均輝度微分より極大点カットライン97を設定する際には、例えば、輝度微分走査ライン90の範囲の平均輝度微分の0.91倍以上1.83倍以下の値で設定する。
【0099】
極大点96は、輝度微分プロファイル95の複数のプロファイルのうち、このように設定する輝度微分走査ライン90以上のものを抽出する。つまり、抽出する極大点96は、(0.91≦β≦1.83)となる係数βを用いて表した場合に、各極大点96の輝度成分の絶対値が下記の式(3)を満たすものが抽出する。なお、この場合、βの値は、「β×輝度微分走査ライン90の範囲の平均輝度成分の絶対値」の値が、「α×総接地領域110での平均輝度微分の絶対値」と一致するように設定する。
極大点96の輝度微分の絶対値≧β×輝度微分走査ライン90の範囲の平均輝度微分の絶対値・・・(3)
【0100】
ただし、輝度微分走査ライン90が総接地領域110の外にはみ出ると、高い輝度微分値も取り込んでしまい、輝度微分走査ライン90での平均輝度微分の絶対値を正確に求めるのが困難となる。このため、輝度微分走査ライン90が、総接地領域110の外にはみ出る場合は、式(3)は用いず、式(2)によって極大点カットライン97を設定するのが好ましい。
【0101】
また、上述した実施形態では、試験タイヤ60にスタッドレスタイヤが用いられる場合について説明しているが、試験タイヤ60は、スタッドレスタイヤ以外が用いられてもよい。試験タイヤ60としては、冬以外の時期に用いられる、いわゆるサマータイヤを用いてもよい。
図38は、サマータイヤに走査ラインが設定された状態を示す説明図である。
図39は、
図38に示す位置での輝度の説明図である。
図40は、
図38に示す位置での輝度微分プロファイルの説明図である。試験タイヤ60がサマータイヤである場合でも、溝65を検出する場合には、接地面画像80に対して走査ライン70を設定し、中心画素74の輝度が、輝度カットライン75よりも低いか否かを判定する。この判定により、中心画素74の輝度が、輝度カットライン75よりも低い場合には、輝度微分プロファイル95を生成し、中心画素74に最も近い2点の極大点96を、溝65を抽出するための極大点PC,PDとして抽出する。これにより、試験タイヤ60がサマータイヤである場合であっても、刻印63等に影響を受けることなく、溝65を適切に抽出することができ、接地領域を解析する際における解析誤差を低減することができる。