特許第6665648号(P6665648)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6665648接合方法、中空容器の製造方法及び液冷ジャケットの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6665648
(24)【登録日】2020年2月25日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】接合方法、中空容器の製造方法及び液冷ジャケットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20200302BHJP
【FI】
   B23K20/12 364
   B23K20/12 330
   B23K20/12 360
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-79079(P2016-79079)
(22)【出願日】2016年4月11日
(65)【公開番号】特開2017-189784(P2017-189784A)
(43)【公開日】2017年10月19日
【審査請求日】2018年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 久司
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 伸城
【審査官】 黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−131323(JP,A)
【文献】 特開2015−213928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一金属部材の表面と板状の第二金属部材の裏面とを重ね合せて重合部を形成する配置工程と、
回転ツールを前記第二金属部材の表面から挿入し、前記回転ツールの攪拌ピンのみを前記第二金属部材のみ、又は、前記第一金属部材及び前記第二金属部材の両方に接触させた状態で前記回転ツールを閉ループとなるように相対移動させて前記重合部に対して摩擦攪拌接合を行う摩擦攪拌工程と、を含み、
前記摩擦攪拌工程では、バリが前記第二金属部材の周方向に前記回転ツールを一周させて形成された塑性化領域の外側に形成されるように接合条件を設定することを特徴とする接合方法。
【請求項2】
前記摩擦攪拌工程において、前記塑性化領域内に形成された凹溝を境にして、前記第二金属部材の外側の余剰片部をバリとともに切除する除去工程と、をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
底部と前記底部の周縁から立ち上る周壁部とを備える中空容器本体及び板状の封止体を形成する準備工程と、
前記周壁部の端面と前記封止体の裏面とを重ね合せて重合部を形成する配置工程と、
回転ツールを前記封止体の表面から挿入し、前記回転ツールの攪拌ピンのみを前記封止体のみ、又は、前記周壁部及び前記封止体の両方に接触させた状態で前記回転ツールを前記封止体の周方向に前記回転ツールを一周させるように相対移動させて前記重合部に対して摩擦攪拌接合を行う摩擦攪拌工程と、を含み、
前記摩擦攪拌工程では、バリが前記封止体の周方向に前記回転ツールを一周させて形成された塑性化領域の外側に形成されるように接合条件を設定することを特徴とする中空容器の製造方法。
【請求項4】
前記摩擦攪拌工程において、前記塑性化領域内に形成された凹溝を境にして、前記封止体の外側の余剰片部をバリとともに切除する除去工程と、をさらに含むことを特徴とする請求項3に記載の中空容器の製造方法。
【請求項5】
底部と前記底部の周縁から立ち上る周壁部とを備えるジャケット本体を形成するとともに、基板と複数のフィンとを備えるヒートシンクを形成する準備工程と、
前記周壁部の端面と前記基板の裏面とを重ね合せて重合部を形成する配置工程と、
回転ツールを前記基板の表面から挿入し、前記回転ツールの攪拌ピンのみを前記基板のみ、又は、前記基板及び周壁部の両方に接触させた状態で前記回転ツールを前記ヒートシンクの周方向に前記回転ツールを一周させるように相対移動させて前記重合部に対して摩擦攪拌接合を行う摩擦攪拌工程と、を含み、
前記摩擦攪拌工程では、バリが前記ヒートシンクの周方向に前記回転ツールを一周させて形成された塑性化領域の外側に形成されるように接合条件を設定することを特徴とする液冷ジャケットの製造方法。
【請求項6】
前記摩擦攪拌工程において、前記塑性化領域内に形成された凹溝を境にして、前記ヒートシンクの外側の余剰片部をバリとともに切除する除去工程と、をさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合方法、中空容器の製造方法及び液冷ジャケットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ジャケット本体と、当該ジャケット本体の凹部を覆う封止体とを備えた液冷ジャケットが開示されている。当該液冷ジャケットの製造方法は、樹脂性のジャケット本体と金属製の封止体とが重ね合わされた重合部に対して、封止体の表面で回転ツールを回転させ、当該回転ツールとジャケット本体との摩擦熱でジャケット本体の一部を溶融させて接合するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−158885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、封止体の板厚が大きくなると摩擦熱が重合部に到達せず、重合部を接合することができないという問題がある。回転ツールを大きくすれば、摩擦熱を大きくすることができるが、封止体の表面にバリが多く発生するとともに、塑性化領域の凹溝も大きくなる。さらには、摩擦攪拌装置への負荷も大きくなる。すなわち、従来の液冷ジャケットの製造方法では設計の自由度が低いという問題がある。
【0005】
このような観点から、本発明は、設計の自由度が高い接合方法、中空容器の製造方法及び液冷ジャケットの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために本発明は、第一金属部材の表面と板状の第二金属部材の裏面とを重ね合せて重合部を形成する配置工程と、回転ツールを前記第二金属部材の表面から挿入し、前記回転ツールの攪拌ピンのみを前記第二金属部材のみ、又は、前記第一金属部材及び前記第二金属部材の両方に接触させた状態で前記回転ツールを閉ループとなるように相対移動させて前記重合部に対して摩擦攪拌接合を行う摩擦攪拌工程と、を含み、前記摩擦攪拌工程では、バリが前記第二金属部材の周方向に前記回転ツールを一周させて形成された塑性化領域の外側に形成されるように接合条件を設定することを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、底部と前記底部の周縁から立ち上る周壁部とを備える中空容器本体及び板状の封止体を形成する準備工程と、前記周縁部の端面と前記封止体の裏面とを重ね合せて重合部を形成する配置工程と、前記回転ツールを前記封止体の表面から挿入し、前記回転ツールの攪拌ピンのみを前記封止体のみ、又は、前記周壁部及び前記封止体の両方に接触させた状態で前記回転ツールを前記封止体の周方向に前記回転ツールを一周させるように相対移動させて前記重合部に対して摩擦攪拌接合を行う摩擦攪拌工程と、を含み、前記摩擦攪拌工程では、バリが前記封止体の周方向に前記回転ツールを一周させて形成された塑性化領域の外側に形成されるように接合条件を設定することを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、底部と前記底部の周縁から立ち上る周壁部とを備えるジャケット本体を形成するとともに、基板と複数のフィンとを備えるヒートシンクを形成する準備工程と、前記周壁部の端面と前記基板の裏面とを重ね合せて重合部を形成する配置工程と、回転ツールを前記基板の表面から挿入し、前記回転ツールの攪拌ピンのみを前記基板のみ、又は、前記基板及び周壁部の両方に接触させた状態で前記回転ツールを前記ヒートシンクの周方向に前記回転ツールを一周させるように相対移動させて前記重合部に対して摩擦攪拌接合を行う摩擦攪拌工程と、を含み、前記摩擦攪拌工程では、バリが前記ヒートシンクの周方向に前記回転ツールを一周させて形成された塑性化領域の外側に形成されるように接合条件を設定することを特徴とする。
【0009】
かかる方法によれば、回転ツールの攪拌ピンのみを接触させて摩擦攪拌工程を行うので、摩擦攪拌装置に大きな負荷をかけずに、深い位置まで摩擦攪拌接合を行うことができる。つまり、本発明によれば、第二金属部材、封止体又はヒートシンクの板厚が大きくても接合可能となるため、設計の自由度を高めることができる。また、摩擦攪拌接合によって発生するバリを第二金属部材、封止体又はヒートシンクの周方向に前記回転ツールを一周させて形成された塑性化領域の外側に形成させることができるため、バリを容易に除去することができる。
【0010】
また、前記摩擦攪拌工程において、塑性化領域内に形成された凹溝を境にして、前記第二金属部材、封止体又はヒートシンクの外側の余剰片部をバリとともに切除する除去工程と、をさらに含むことが好ましい。かかる方法によれば、バリを余剰片部ごと除去することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る接合方法、中空容器の製造方法及び液冷ジャケットの製造方法によれば、設計の自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第一実施形態に係る接合方法の準備工程を示す斜視図である。
図2】第一実施形態に係る配置工程を示す斜視図である。
図3】第一実施形態に係る摩擦攪拌工程を示す斜視図である。
図4】第一実施形態に係る摩擦攪拌工程を示す断面図である。
図5】第一実施形態に係る除去工程を示す断面図である。
図6】第一実施形態に係る除去工程を示す斜視図である。
図7】第一実施形態に係る構造物を示す斜視図である。
図8】第一実施形態の第一変形例を示す斜視図である。
図9】第一実施形態の第二変形例を示す斜視図である。
図10】本発明の第二実施形態に係る中空容器の製造方法を示す斜視図である。
図11】第二実施形態に係る中空容器の製造方法の配置工程を示す斜視図である。
図12】第二実施形態に係る中空容器の製造方法の摩擦攪拌工程を示す断面図である。
図13】第二実施形態に係る中空容器の製造方法の除去工程を示す断面図である。
図14】本発明の第三実施形態に係る液冷ジャケットを示す斜視図である。
図15】第三実施形態に係る液冷ジャケットを示す断面図である。
図16】第三実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の準備工程を示す斜視図である。
図17】第三実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の配置工程を示す斜視図である。
図18】第三実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の摩擦攪拌工程を示す断面図である。
図19】第三実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の除去工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第一実施形態]
本発明の第一実施形態に係る接合方法について図面を参照して詳細に説明する。図1に示すように、本実施形態に係る接合方法は、第一金属部材2と第二金属部材3とを接合して構造物1を形成するものである。
【0014】
本実施形態に係る接合方法は、準備工程と、配置工程と、摩擦攪拌工程と、除去工程と、を行う。準備工程は、第一金属部材2及び第二金属部材3を形成する工程である。なお、説明における「表面」とは、「裏面」に対する反対側の面という意味である。
【0015】
図1に示すように第一金属部材2は、板状の金属部材である。第一金属部材2は、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、マグネシウム、マグネシウム合金等の摩擦攪拌可能な金属から適宜選択される。第一金属部材2は、本実施形態では板状としているが、他の形状であってもよい。
【0016】
第二金属部材3は、板状の部材である。第二金属部材3は、摩擦攪拌可能な金属から適宜選択される。第二金属部材3は、本実施形態では、第一金属部材2と同等の材料で形成されている。第二金属部材3は、第一金属部材2と同じ平面形状を呈するが、第一金属部材2よりも薄くなっている。第二金属部材3には、外縁から中央部に向けて延設されたスリット4が形成されている。
【0017】
配置工程は、図2に示すように、第一金属部材2に第二金属部材3を配置する工程である。配置工程では、第一金属部材2の表面2bと、第二金属部材3の裏面3cとを重ね合せて重合部J1を形成する。第一金属部材2と第二金属部材3の各側面はそれぞれ面一になる。
【0018】
摩擦攪拌工程は、第一金属部材2と第二金属部材3とを回転ツールFを用いて摩擦攪拌接合する工程である。図3及び図4に示すように、回転ツールFは、連結部F1と、攪拌ピンF2とで構成されている。回転ツールFは、例えば工具鋼で形成されている。連結部F1は、摩擦攪拌装置の回転軸(図示省略)に連結される部位である。連結部F1は円柱状を呈している。
【0019】
攪拌ピンF2は、連結部F1から垂下しており、連結部F1と同軸になっている。攪拌ピンF2は連結部F1から離間するにつれて先細りになっている。攪拌ピンF2の外周面には螺旋溝が刻設されている。本実施形態では、回転ツールFを右回転させるため、螺旋溝は、基端から先端に向かうにつれて左回りに形成されている。言い換えると、螺旋溝は、螺旋溝を基端から先端に向けてなぞると上から見て左回りに形成されている。
【0020】
なお、回転ツールFを左回転させる場合は、螺旋溝を基端から先端に向かうにつれて右回りに形成することが好ましい。言い換えると、この場合の螺旋溝は、螺旋溝を基端から先端に向けてなぞると上から見て右回りに形成されている。螺旋溝をこのように設定することで、摩擦攪拌の際に塑性流動化した金属が螺旋溝によって攪拌ピンF2の先端側に導かれる。これにより、被接合金属部材(第一金属部材2及び第二金属部材3)の外部に溢れ出る金属の量を少なくすることができる。螺旋溝は省略してもよい。
【0021】
摩擦攪拌工程では、第二金属部材3の表面3bに設定した開始位置Sp1に、右回転する回転ツールFの攪拌ピンF2を挿入し、回転ツールFを相対移動させる。本実施形態では、回転ツールFを右回転させるため、攪拌ピンF2の螺旋溝は、基端から先端に向かうにつれて左回りに形成されている。回転ツールFの移動軌跡には塑性化領域W1が形成される。摩擦攪拌工程では、塑性化領域W1が閉ループとなるように回転ツールFを相対移動させる。回転ツールFはどちら周りに移動させてもよいが、本実施形態では、第二金属部材3に対して左回りとなるように設定するとともに、第二金属部材3の外縁に沿って平面視矩形状の閉ループの塑性化領域W1が形成されるように移動させる。その際、スリット4の先端と、塑性化領域W1とが接触するようにルートを設定することが好ましい。
【0022】
摩擦攪拌工程では、図4に示すように、連結部F1を第二金属部材3に接触させない状態で、つまり、攪拌ピンF2の基端側を露出させた状態で摩擦攪拌接合を行う。回転ツールFの挿入深さは、適宜設定すればよいが、本実施形態では、攪拌ピンF2が第一金属部材2に達するように、つまり、第一金属部材2及び第二金属部材3と攪拌ピンF2とを接触させた状態で摩擦攪拌接合を行う。
【0023】
なお、攪拌ピンF2が第一金属部材2に達しない場合、つまり、攪拌ピンF2を第二金属部材3のみと接触させる場合は、第二金属部材3と攪拌ピンF2との摩擦熱によって重合部J1が塑性流動化して接合される。
【0024】
本実施形態では、回転ツールFのシアー側(advancing side:回転ツールの外周における接線速度に回転ツールの移動速度が加算される側)が第二金属部材3の内側となるように回転ツールFの移動方向と回転方向を設定している。回転ツールFの回転方向及び進行方向は前記したものに限定されるものではなく適宜設定すればよい。
【0025】
例えば、回転ツールFの回転速度が遅い場合では、塑性化領域W1のフロー側(retreating side:回転ツールの外周における接線速度から回転ツールの移動速度が減算される側)に比べてシアー側の方が塑性流動材の温度が上昇しやすくなるため、塑性化領域W1内のシアー側に凹溝が発生し、塑性化領域W1外のシアー側にバリVが多く発生する傾向にある。一方、例えば、回転ツールFの回転速度が速い場合、シアー側の方が塑性流動材の温度が上昇するものの、回転速度が速い分、塑性化領域W1内のフロー側に凹溝が発生し、塑性化領域W1外のフロー側にバリVが多く発生する傾向にある。
【0026】
本実施形態では、回転ツールFの回転速度を速く設定しているため、図4及び図5に示すように、塑性化領域W1内のフロー側に凹溝Dが発生し、塑性化領域W1外のフロー側にバリVが多く発生する傾向にある。凹溝Dは、塑性化領域W1のうち、より深くえぐれる部位である。また、回転ツールFの回転速度を速く設定することにより、回転ツールFの移動速度(送り速度)を高めることができる。これにより、接合サイクルを短くすることができる。
【0027】
摩擦攪拌工程の際に、回転ツールFの進行方向のどちら側にバリVが発生するかは接合条件によって異なる。当該接合条件とは、回転ツールFの回転速度、回転方向、移動速度(送り速度)、攪拌ピンF2の傾斜角度(テーパー角度)、第一金属部材2及び第二金属部材3の材質、第二金属部材3の厚さ等の各要素とこれらの要素の組み合わせで決定される。接合条件に応じて、バリVが発生する側又はバリVが多く発生する側が第二金属部材3の外縁側となるように設定すれば、塑性化領域W1内に形成される凹溝Dも第二金属部材3の外側に形成される傾向があるので、後記する除去工程を容易に行うことができるため好ましい。
【0028】
摩擦攪拌工程では、回転ツールFを一周させて、塑性化領域W1内で回転ツールFを離脱させる。摩擦攪拌工程では、塑性化領域W1の始端と後端が重複するようにする。
【0029】
除去工程は、図5及び図6に示すように、第二金属部材3の一部である余剰片部10を切除する工程である。余剰片部10とは、第二金属部材3において、塑性化領域W1を境にして切除される部位である。本実施形態では、第二金属部材3に形成されたの凹溝Dよりも外側の部位を余剰片部10としている。
【0030】
除去工程では、スリット4(図3も参照)を起点として、余剰片部10の端部をめくり上げつつ、折り曲げるようにして除去する。除去工程では、装置を用いて余剰片部10を折り曲げてもよいが、本実施形態では、手作業で折り曲げて切除している。これにより、図7に示す構造物1が完成する。
【0031】
図7に示すように、第二金属部材3の表面3bは、第一金属部材2の表面2bよりも板厚分高くなっている。第二金属部材3の表面3bを例えば部品の取り付け部位として利用することができる。
【0032】
以上説明した液冷ジャケットの製造方法によれば、回転ツールFの攪拌ピンF2のみを接触させて摩擦攪拌工程を行うので、摩擦攪拌装置に大きな負荷をかけずに、深い位置まで摩擦攪拌接合を行うことができる。つまり、本実施形態によれば、第二金属部材3の板厚が大きくても接合可能となる。また、本実施形態のように、バリVが第二金属部材3の外側に形成されるように接合条件を設定することにより、バリVを容易に切除することができる。
【0033】
また、図4及び図5に示すように、本実施形態によれば、凹溝Dは塑性化領域W1内で、かつ、接合中心線Cの外側(第二金属部材3に対して外側)に形成される。また、バリVは塑性化領域W1外で、かつ、接合中心線Cの外側に形成されるので、余剰片部10とともにバリVを効率よく切除することができる。これにより、切除する余剰片部10を小さくすることができるとともに、接合部(塑性化領域W1)を大きく残存させることができるため、接合強度を高めることができる。また、凹溝Dによって余剰片部10を容易に折り曲げることができるとともに、バリ除去作業を別途行わなくても接合部(塑性化領域W1)をきれいに仕上げることができる。
【0034】
図8は、第一実施形態の第一変形例を示す斜視図である。図9は、第一実施形態の第二変形例を示す斜視図である。図8に示すように、第一変形例の第二金属部材3Aの平面形状は、第一金属部材2の平面形状よりも小さい点で第一実施形態と相違する。また、図9に示すように、第二変形例の第二金属部材3Bの平面形状は、第一金属部材2の平面形状よりも大きい点で第一実施形態と相違する。
【0035】
第一変形例及び第二変形例に係る接合方法も、準備工程、配置工程、摩擦攪拌工程、除去工程を行う。準備工程以外の工程は第一実施形態と同じであるため説明を省略する。第一実施形態に係る第一変形例及び第二変形例のように、第一金属部材2と第二金属部材3A,3Bとが異なる大きさであっても第一実施形態と同じ効果を奏することができる。また、具体的な図示は省略するが、第一金属部材と第二金属部材とが異なる形状であってもよい。
【0036】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態に係る中空容器1A及び中空容器の製造方法について説明する。図10に示すように、第二実施形態では、中空部を備えた中空容器1Aを製造する点で第一実施形態と相違する。
【0037】
第二実施形態に係る中空容器の製造方法では、準備工程と、配置工程と、摩擦攪拌工程と、除去工程とを行う。準備工程は、図10に示すように、中空容器本体20と封止体24とを準備する工程である。中空容器本体20は、円形を呈する底部21と、底部21の外縁から立ち上る周壁部22とで構成されている。周壁部22は円筒状を呈する。底部21及び周壁部22とで凹部23が形成されている。中空容器本体20は、摩擦攪拌可能な金属で形成されている。
【0038】
封止体24は、薄い円板状の金属部材である。封止体24の材料は、中空容器本体20と同等である。封止体24には、外縁から中央部に向けて延設されたスリット25が形成されている。
【0039】
配置工程は、図11に示すように、中空容器本体20に封止体24を配置する工程である。配置工程では、周壁部22の端面22aと封止体24の裏面24cとを重ね合せて重合部J2を形成する。中空容器本体20の外周面と、封止体24の外周面とは面一になる。
【0040】
摩擦攪拌工程は、図11及び図12に示すように、回転ツールFを用いて中空容器本体20と封止体24とを接合する工程である。摩擦攪拌工程では、図11に示す開始位置Sp1に右回転させた回転ツールFを挿入し、重合部J2に沿って、つまり、封止体24の外周縁に沿って回転ツールFを相対移動せる。回転ツールFは、封止体24に対して左回りとなるように設定する。図12に示すように、第一実施形態と同様に攪拌ピンF2の基端側は露出させた状態で摩擦攪拌を行う。攪拌ピンF2の挿入深さは適宜設定すればよいが、本実施形態では、攪拌ピンF2を中空容器本体20及び封止体24に接触させた状態で摩擦攪拌接合を行う。また、第一実施形態と同様に、図13に示すように、塑性化領域W1外においてフロー側(封止体24の外側)にバリVが形成されるとともに、接合中心線Cの外側に凹溝Dが形成されるように接合条件を設定することが好ましい。
【0041】
除去工程は、図13に示すように、封止体24の一部である余剰片部26を切除する工程である。余剰片部26とは、封止体24において、塑性化領域W1を境にして切除されう部位である。本実施形態では、封止体24に形成された凹溝Dよりも外側の部位を余剰片部26としている。
【0042】
除去工程では、スリット25(図11参照)を起点として、余剰片部26の端部をめくり上げつつ、折り曲げるようにして除去する。除去工程では、装置を用いて余剰片部26を折り曲げてもよいが、本実施形態では、手作業で折り曲げて切除している。これにより、内部に中空部を備えた中空容器1Aが形成される。
【0043】
以上説明した第二実施形態に係る中空容器の製造方法によっても、第一実施形態と同様の効果を奏することができる。また、第二実施形態によれば、内部に中空部を備えた中空容器を容易に形成することができる。
【0044】
[第三実施形態]
次に、第三実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法及び液冷ジャケットについて説明する。図14に示すように、第三実施形態に係る液冷ジャケット1Bは、ジャケット本体31と、ヒートシンク41とで構成されている。ジャケット本体31とヒートシンク41とは摩擦攪拌接合により一体化されている。液冷ジャケット1Bは、内部の中空部に例えば水などの流体を流通させることにより、ヒートシンク41に設置された発熱体(図示省略)と熱交換を行うための器具である。
【0045】
図15に示すように、ジャケット本体31は、底部32と、周壁部33とで構成されている。底部32は平面視矩形を呈する。周壁部33は、底部32の周縁から立ち上り、平面視矩形枠状を呈する。ジャケット本体31の材料は、摩擦攪拌可能な金属から適宜選択される。
【0046】
ヒートシンク41は、基板42と、基部43と、複数のフィン44とで構成されている。基板42は、平面視矩形の板状を呈する。基部43は、基板42と一体形成されており、平面視矩形を呈する。基部43は、基板42よりも一回り小さく形成されている。フィン44は、基部43から延設されており、所定の間隔をあけて並設されている。基板42の外周縁と周壁部33の端面33aには塑性化領域W1が形成されている。
【0047】
液冷ジャケットの製造方法は、準備工程と、配置工程と、摩擦攪拌工程と、除去工程とを行う。準備工程は、ジャケット本体31を形成するジャケット本体形成工程と、ヒートシンク41を形成するヒートシンク形成工程を行う。図16に示すように、ヒートシンク形成工程では、マルチカッターMを用いて被切削部材51を切削する。
【0048】
マルチカッターMは、部材を切削する回転工具である。マルチカッターMは、軸部M1と、軸部M1に間をあけて並設された複数の円盤カッターM2とで構成されている。円盤カッターM2の外周縁には切削刃(図示省略)が形成されている。円盤カッターM2の板厚及び間隔を調節することにより、フィン44の間隔及び板厚を適宜設定することができる。
【0049】
被切削部材51は、矩形板状の基板42と、直方体の被切削ブロック52とで構成されている。被切削部材51は、摩擦攪拌可能な金属で形成されている。基板42と被切削ブロック52とは一体形成されている。被切削ブロック52の平面形状は、基板42の平面形状よりも一回り小さくなっている。被切削ブロック52は、基板42の中央に形成されている。
【0050】
ヒートシンク形成工程では、マルチカッターMを用いて被切削ブロック52の一部を切削してフィン44(図17参照)を形成する。ヒートシンク形成工程では、被切削ブロック52の辺部52aとマルチカッターMの軸部M1とが平行となるように配置して、回転させたマルチカッターMの円盤カッターM2を被切削ブロック52に挿入する。円盤カッターM2が所定の深さに達したら、辺部52aと対向する他方の辺部52bまでマルチカッターMを平行移動させる。軸部M1が辺部52bに達したらマルチカッターMを被切削ブロック52から離間する方向に相対移動させる。
【0051】
マルチカッターMの挿入深さは、適宜設定すればよいが、本実施形態では、円盤カッターM2が基板42に達しないように、つまり、被切削ブロック52に未切削領域が形成されるように調節する。これにより、図17に示すように、基板42とフィン44との間に基部43が形成される。また、ヒートシンク形成工程では、基板42の外縁から中央部に延設するスリット45を形成する。
【0052】
図17に示すように、ジャケット本体形成工程では、底部32と周壁部33とを有するジャケット本体31を形成する。ジャケット本体31の内部には、底部32と周壁部33とで構成される凹部34が形成される。凹部34の平面形状は、被切削ブロック52よりも一回り大きくなっている。また、凹部34の深さは、被切削ブロック52の高さよりも大きくなっている。
【0053】
配置工程は、ジャケット本体31にヒートシンク41を配置する工程である。配置工程では、図17に示すように、周壁部33の端面33aに基板42の裏面42cを重ね合せる。これにより、図18に示すように重合部J3が形成される。重合部J3は凹部34の周囲に形成され、矩形枠状を呈する。
【0054】
摩擦攪拌工程は、回転ツールFを用いてジャケット本体31とヒートシンク41とを接合する工程である。摩擦攪拌工程では、基板42の表面42bに右回転させた回転ツールFを挿入し、基板42の外周縁に沿わせつつ凹部34に対して左回りとなるように回転ツールFを相対移動せる。
【0055】
図18に示すように、第一実施形態と同様に攪拌ピンF2の基端側は露出させた状態で摩擦攪拌を行う。攪拌ピンF2の挿入深さは適宜設定すればよいが、本実施形態では、攪拌ピンF2をジャケット本体31及びヒートシンク41に接触させた状態で摩擦攪拌接合を行う。図19に示すように、第一実施形態と同様に、塑性化領域W1外においてフロー側(基板42の外側)にバリVが形成されるとともに、接合中心線Cの外側に凹溝Dが形成されるように接合条件を設定することが好ましい。
【0056】
除去工程は、図19に示すように、基板42の一部である余剰片部50を切除する工程である。余剰片部50とは、基板42において、塑性化領域W1を境にして切除される部位である。本実施形態では、基板42に形成された凹溝Dよりも外側の部位を余剰片部50としている。
【0057】
除去工程では、スリット45(図17参照)を起点として、余剰片部50の端部をめくり上げつつ、折り曲げるようにして除去する。除去工程では、装置を用いて余剰片部50を折り曲げてもよいが、本実施形態では、手作業で折り曲げて切除している。これにより、図14,15に示す液冷ジャケット1Bが形成される。
【0058】
以上説明した液冷ジャケットの製造方法によれば、回転ツールFの攪拌ピンF2のみを接触させて摩擦攪拌工程を行うので、摩擦攪拌装置に大きな負荷をかけずに、深い位置まで摩擦攪拌接合を行うことができる。つまり、本実施形態によれば、ヒートシンク41の基板42の板厚が大きくても接合可能となる。また、本実施形態によれば、回転ツールのショルダ部を基板42に当接させる場合に比べて、塑性化領域W1の幅を小さくすることができるため、周壁部33の幅(重合部J3の重ね代)を小さくすることができる。このように、本実施形態によれば、設計の自由度を高めることができる。また、本実施形態のように、バリVが基板42の外側に形成されるように接合条件を設定することにより、バリVを容易に切除することができる。
【0059】
また、図19に示すように、本実施形態によれば、凹溝Dは塑性化領域W1内で、かつ、接合中心線Cの外側(基板42の先端側)に形成される。また、バリVは塑性化領域W1外で、かつ、接合中心線Cの外側に形成されるので、余剰片部50とともにバリVを効率よく切除することができる。また、これにより、切除する余剰片部50を小さくすることができるとともに、接合部(塑性化領域W1)を大きく残存させることができるため、接合強度を高めることができる。また、除去工程では、凹溝Dによって余剰片部50を容易に折り曲げることができるとともに、バリ除去作業を別途行わなくても接合部(塑性化領域W1)をきれいに仕上げることができる。
【0060】
また、本実施形態の摩擦攪拌工程では、回転ツールFを重合部J3に沿って一周させ、塑性化領域W1の始端と終端とを重複させることにより、水密性及び機密性を高めることができる。また、ヒートシンク41の基部43は設けなくてもよいが、基部43を設けることによりヒートシンク41の強度を高めることができる。
【0061】
以上本発明の各製造方法について説明したが、本発明の趣旨に反しない範囲において適宜設計変更が可能である。例えば、本実施形態の摩擦攪拌工程では、回転ツールFのシアー側が第二金属部材3、封止体24又はヒートシンク41の中央部側となるように回転ツールFの進行方向及び回転方向を設定したが、フロー側が当該中央部側となるように設定してもよい。
【0062】
また、本実施形態では、回転ツールFを用いたが、ショルダ部及び攪拌ピンを備えた回転ツール(図示省略)を用いて摩擦攪拌工程を行ってもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 構造物
2 第一金属部材
3 第二金属部材
4 スリット
10 余剰片部
D 凹溝
F 回転ツール
F2 攪拌ピン
V バリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図16
図17
図18
図19