特許第6665711号(P6665711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6665711-誘電体組成物及び電子部品 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6665711
(24)【登録日】2020年2月25日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】誘電体組成物及び電子部品
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/488 20060101AFI20200302BHJP
   C04B 35/49 20060101ALI20200302BHJP
   C04B 35/495 20060101ALI20200302BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20200302BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20200302BHJP
【FI】
   C04B35/488
   C04B35/49
   C04B35/495
   H01B3/12 313L
   H01B3/12 304
   H01B3/12 335
   H01B3/12 338
   H01G4/30 201J
   H01G4/30 201L
   H01G4/30 515
【請求項の数】4
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-127387(P2016-127387)
(22)【出願日】2016年6月28日
(65)【公開番号】特開2018-2500(P2018-2500A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 哲弘
【審査官】 谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/114914(WO,A1)
【文献】 特開平10−335169(JP,A)
【文献】 特開2003−212650(JP,A)
【文献】 特開2008−189487(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/155945(WO,A1)
【文献】 特開平10−297969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
H01B 3/12
H01G 4/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式a{K(Ba1−xSrNb15}+b{(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)O}で表される主成分を有する誘電体組成物において、前記x、y、zが、
0.35≦x≦0.75、0.01≦y≦0.25、0.01≦z≦0.25であり、
前記aとbとの関係が、a+b=1.00であり、0.32≦a≦0.66
であることを特徴とする誘電体組成物。
【請求項2】
前記誘電体組成物が複数の結晶粒子で構成され、前記誘電体組成物を構成している結晶粒子全体の面積割合を100%とした場合に、K(Ba1−xSrNb15で構成される結晶粒子の面積割合をα(%)、(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oで構成される結晶粒子の面積割合をβ(%)とした場合、前記αとβとの関係が、0.50≦α/β≦1.90であり、80%≦α+βであることを特徴とする請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項3】
前記x、y、z、α、βが、0.35≦x≦0.50、0.02≦y≦0.10、0.02≦z≦0.10、0.60≦α/β≦1.50、90%≦α+βであることを特徴とする請求項2に記載の誘電体組成物。
【請求項4】
誘電体層と内部電極層とを有する電子部品であって、前記誘電体層が、請求項1から請求項3のいずれかに記載の誘電体組成物より成ることを特徴とする電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、たとえば車載用のような高温環境下で使用されるのに適した誘電体組成物及びその誘電体組成物を誘電体層として用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサは、その信頼性の高さやコストの安さから多くの電子機器に搭載されている。具体的な電子機器としては、携帯電話等の情報端末、家電、自動車電装品が挙げられる。この中でも車載用として使用される積層セラミックコンデンサは、家電や情報端末等に使用されている積層セラミックコンデンサに比べて、より高温域までの保証が求められることがあり、コンデンサとしての機能が劣化し難いという高い信頼性が必要となる。コンデンサの機能を劣化させないために必要な特性としては、印加される電圧に対して破壊しない、つまり高い直流耐電圧(直流電圧を印加し、漏れ電流値が10mAに達した際の直流電圧値を誘電体層の厚みで割ったもの)を有していることや、連続使用する上で高温雰囲気下において直流電圧を長時間印加しても絶縁抵抗が劣化しにくい、つまり高い高温負荷寿命(温度及び電圧を印加した後、初期の絶縁抵抗値を基準として一桁低下するまでの時間)を有することが重要となる。
【0003】
特に、150℃以上の高温域で使用が考えられているSiCまたはGaN等パワー半導体を用いたインバータ回路に搭載されるサージ電圧除去用の積層セラミックコンデンサは、−55℃〜250℃付近までの広範囲の温度において高い信頼性が要求されている。
【0004】
特許文献1には、十分な誘電率を示しつつ、かつ、175℃程度の高温においても、安定した静電容量温度特性と高い抵抗率ρが得られる誘電体セラミック組成物である組成式(1−a)(K1−xNa)(Sr1−y−zBaCaNb15−a(Ba1−bCa)TiOで表されるタングステンブロンズ構造系化合物とペロブスカイト構造系化合物との混晶系を主成分として含み、且つ、上記主成分100モル部に対して0.1〜40モル部の副成分を含有する誘電体セラミック組成物を用いた積層セラミックコンデンサに関する技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、良好な温度特性と高い高温負荷寿命を有する主組成が〔(CaSr1−x)O〕m〔(TiZr1−y)O〕(なお、0≦x≦1、 0≦y≦0.10、 0.75≦m≦1.04である)あり、副成分としてMn酸化物、Al酸化物および〔(BaCa1−z)O〕SiO(なお、0≦z≦1、0.5≦v≦4.0である)を含有する非還元性誘電体磁器材料ついての技術が開示してある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2008/155945号公報
【特許文献2】特願平10−90751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1は、高温域(175℃)において、測定時間が1分程度の比抵抗については良好な絶縁性を有しているが、直流電圧を長時間連続して印加した高温負荷寿命まで改善できるかは言及されていない。前記特許文献2においては、200℃において優れた高温負荷寿命を有するが、得られる比誘電率が低いため、所望の静電容量を得ることが困難であった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、車載用及びSiCやGaN系の半導体を用いたパワーデバイス用に対応した250℃の高温雰囲気下において、比誘電率が比較的高く、良好な高温負荷寿命を有している誘電体組成物と、それを用いた電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の誘電体組成物は、
化学式a{K(Ba1−xSrNb15}+b{(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)O}で表される主成分を有する誘電体組成物において、前記x、y、zが、
0.35≦x≦0.75、0.01≦y≦0.25、0.01≦z≦0.25であり、
前記aとbとの関係が、a+b=1.00であり、0.32≦a≦0.66
であることを特徴とする。
【0010】
誘電体組成物が上記の特徴を有することで、250℃程度の温度領域で使用されるのに適した良好な高温負荷寿命と比較的高い比誘電率を有する誘電体組成物を提供することが可能となる。
【0011】
さらに、前記誘電体組成物より成る誘電体層を使用することにより、−55℃の低温領域から150℃程度の領域での使用が求められる車載用途や、さらにより高温の250℃程度の領域まで求められているSiCやGaN系の半導体を用いたパワーデバイス用のスナバコンデンサや、自動車のエンジンルーム内のノイズ除去に用いるコンデンサ等を提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、車載用及びSiCやGaN系の半導体を用いたパワーデバイス用に対応した250℃の高温雰囲気下において、比誘電率が比較的高く、良好な高温負荷寿命を有している誘電体組成物と、それを用いた電子部品を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明の誘電体組成物の主要な用途である、積層セラミックコンデンサについて説明する。図1は、一般的な積層セラミックコンデンサの断面図を示したものである。
【0015】
積層セラミックコンデンサ1は誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。このコンデンサ素子本体10の両端部には、コンデンサ素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。コンデンサ素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0016】
内部電極層3は、各端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0017】
誘電体層2の厚さは、特に限定されないが、一層あたり100μm以下であることが好ましく、より好ましくは30μm以下である。厚さの下限は、特に限定されないが、たとえば0.5μm程度である。本発明の誘電体組成物によれば、層間厚みを0.5μm〜30μmとした場合であっても、高い直流耐電圧と長い高温負荷寿命を有する誘電体層を有する積層セラミックコンデンサ1を形成することが出来る。
【0018】
誘電体層2の積層数は、特に限定されないが、20以上であることが好ましく、より好ましくは50以上である。
【0019】
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、Ni、Ni合金、CuまたはCu系合金が好ましい。なお、Ni、Ni系合金、CuまたはCu系合金中には、P等の各種微量成分が0.1質量%程度以下含まれていてもよい。また、内部電極層3は、市販の電極用ペーストを使用して形成してもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0020】
より好ましくは、内部電極層3に含有される導電材は、誘電体層2の構成材料が耐還元性を有するため、NiまたはNi系合金である。このNiまたはNi系合金を主成分とし、これにAl、Si、Li、Cr、Feから選択された1種類以上の副成分を含有していることが更に好ましい。
【0021】
前記内部電極層3の主成分であるNiまたはNi系合金にAl、Si、Li、Cr、Feから選択された1種類以上の副成分を含有させることで、Niが大気中の酸素と反応しNiOになる前に、上記副成分と酸素が反応し、Niの表面に副成分の酸化膜を形成する。これにより、外気中の酸素が前記副成分の酸化膜を通過しないとNiと反応できなくなるため、Niが酸化され難くなる。これにより、250℃の高温下で連続使用しても、Niを主成分とする内部電極層の酸化による連続性、導電性の劣化が起り難くなる。
【0022】
外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、本発明では安価なNi、Cu及び耐熱性の高いAu、Ag、Pdや、これらの合金を用いることができる。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定されればよいが、通常、10〜50μm程度であることが好ましい。
【0023】
次に、本実施形態に係る誘電体組成物について詳細に説明する。
【0024】
本実施形態に係る誘電体組成物は、化学式a{K(Ba1−xSrNb15}+b{(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)O}で表される主成分を有する誘電体組成物において、前記x、y、zが、0.35≦x≦0.75、0.01≦y≦0.25、0.01≦z≦0.25であり、前記aとbとの関係が、a+b=1.00であり、0.32≦a≦0.66であることを特徴とする。
【0025】
誘電体組成物が上記の特徴を有することで、250℃で使用されるのに適した良好な高温負荷寿命と比較的高い比誘電率を有する誘電体組成物を提供することが可能となる。このような効果が得られた要因について以下に示す。
【0026】
発明者等は、化学式K(Ba1−xSrNb15で表されるタングステンブロンズ型複合酸化物に、化学式(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oで表されるペロブスカイト型複合酸化物と、を含むことで、高温負荷寿命の劣化原因であると考えられる酸素欠陥の移動を抑制する作用が得られることを見出した。その結果、K(Ba1−xSrNb15だけを主成分と誘電体組成物や、(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oだけを主成分とする誘電体組成物では、実現困難であった250℃における高温負荷寿命を向上させることが可能となったと考えている。更に、比誘電率が100未満の(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)OにK(Ba1−xSrNb15を含有させることで、比誘電率についても改善される。
【0027】
本実施形態においては、K(Ba1−xSrNb15で表されるタングステンブロンズ型複合酸化物と、(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oで表されるペロブスカイト型複合酸化物とが、固溶した結晶粒子として存在しても良く、それぞれ単独の結晶粒子として存在しても良い。いずれの場合も良好な高温負荷寿命を得ることが出来る。
【0028】
前記化学式中のK(Ba1−xSrNb15のBaは、Srにより置換される。その置換量xは0.35≦x≦0.75である。前記置換量xが0.35未満の場合、十分な絶縁性が得られ難く、その結果、良好な高温負荷寿命が得られ難い傾向となる。一方、前記置換量xが0.75を超えてしまうと、250℃において、直流電圧を印加した際の漏れ電流が急激に増加し易い。その結果、十分な高温負荷寿命が得られ難い傾向となる。
【0029】
前記化学式中(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)OのCaは、Srにより置換される。その置換量yは0.01≦y≦0.25である。前記置換量yが0.01未満の場合、高温負荷寿命の劣化原因であると考えられる酸素欠陥の移動を抑制する作用が得られず、十分な高温負荷寿命が得られ難い。一方、前記置換量yが0.25を超えてしまうと、高温になるに従い、絶縁性が低下し易く、その結果、低い高温負荷寿命となってしまう。
【0030】
前記化学式中(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)OのZrは、Tiにより置換される。その置換量yは0.01≦z≦0.25である。前記置換量zが0.01未満の場合、高温負荷寿命の劣化原因であると考えられる酸素欠陥の移動を抑制する作用が得られず、十分な高温負荷寿命が得られ難い。一方、前記置換量zが0.25を超えてしまうと、高温になるに従い、絶縁性が低下し易く、その結果、低い高温負荷寿命となってしまう。
【0031】
そして、前記化学式中のaとbとの関係は、a+b=1.00であり、0.32≦a≦0.66である。前記aが0.32未満や、前記aが0.66を超えてしまうと、高温負荷寿命の劣化の原因と考えられている酸素欠陥の移動を抑制する作用が得られ難く、十分な高温負荷寿命が得られ難い傾向となる。
【0032】
また、本発明の望ましい態様としては、前記誘電体組成物が複数の結晶粒子で構成され、前記誘電体組成物を構成している結晶粒子全体の面積割合を100%とした場合に、K(Ba1−xSrNb15で構成される結晶粒子の面積割合をα(%)、(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oで構成される結晶粒子の面積割合をβ(%)とした場合、前記αとβとの関係が、0.50≦α/β≦1.90であり、80%≦α+βであることが好ましい。
【0033】
上記の内容に誘電体組成物を制御することで、高温における電子なだれの発生をより抑制できることを発明者らは見出した。そのため、従来の誘電体組成物では困難であった250℃において高い直流耐電圧を得ることが可能となった。その結果、250℃において、高い直流耐電圧と良好な高温負荷寿命を両立した誘電体組成物と、それを用いた電子部品を提供することが可能となったものと考えられる。
【0034】
なお、上記の面積割合は、本実施形態の一例である積層セラミックコンデンサ試料の場合、FIB(集束イオンビーム:Focused Ion Beam)を用いてマイクロサンプリングを行い、誘電体層のTEM試料を作製し、走査透過電子顕微鏡を用いSTEM−EDS(Scanning Transmission Electron Microscopy―Energy Dispersive X−ray Spectrometry)マッピングを行うことで、求められる。マッピングの視野は7μm×7μmで、各試料に対し10視野以上のマッピングを行うことが好ましい。また、研磨した誘電体層断面に対し、EPMA(Elctron Probe Micro Analyzer)により元素マッピングを行う事でも面積割合を求めることも出来る。その際のマッピングの視野は10μm×10μmで、各試料に対し5視野以上のマッピングを行い、得られた元素マップより面積割合を算出しても良い。
【0035】
更に、本発明の望ましい態様としては、前記x、y、z、α、βが、0.35≦x≦0.50、0.02≦y≦0.10、0.02≦z≦0.10、0.60≦α/β≦1.50、90%≦α+βであることが好ましい。これにより、高温における電子なだれの発生をより抑制でき、かつ、高温負荷試験での漏れ電流の増加を抑制する効果をより高めることができる。その結果、より高い直流耐電圧と長い高温負荷寿命を得られ易くなる。
【0036】
このように、本実施形態に係る誘電体組成物は、高温領域において良好な特性を示すため、SiCやGaN系のパワーデバイスの使用温度域(−55℃〜250℃)において好適に用いることができる。また、自動車のエンジンルームなど、過酷な環境下において、ノイズ除去用などの電子部品として好適に用いられることが出来る。
【0037】
なお、前記化学式中のK(Ba1−xSrNb15は、各Kサイト、Baサイト、Nbサイト、Oサイトのモル比は基本的に1:2:5:15であるが、タングステンブロンズ構造を保持できる限りは、多少増減しても構わない。同様に、(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oは、各Caサイト、Zrサイト、Oサイトのモル比は基本的に1:1:3であるが、ペロブスカイト構造を保持できる限りは、多少増減しても構わない。
【0038】
また、本実施形態に係る誘電体組成物は、本発明の効果である高温における直流耐電圧や高温負荷寿命を大きく劣化させるものでなければ、微少な不純物や副成分を含んでいてもかまわない。例えば、Mg、Mn、Si、V、Cr等である。よって、主成分の含有量は特に限定されるものではないが、たとえば前記主成分を含有する誘電体組成物全体に対して70モル%以上、100モル%以下である。
【0039】
次に、本実施形態に係る誘電体組成物の製造方法について説明する。誘電体組成物の製造方法については、公知の方法が採用されても良い。例えば、酸化物粉末や炭酸化物等の出発原料を混合し、得られた混合粉末を熱処理合成する固相法等を採用しても良い。ここでは、二つの製造方法について記載している。第一の製造方法(誘電体組成物の製造方法1)は、a{K(Ba1−xSrNb15}+b{(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)O}の誘電体組成物が、固溶体の結晶粒子でも良く、固溶体の結晶粒子とK(Ba1−xSrNb15または(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oで構成されている結晶粒子とが混在しても良い場合の製造方法である。第二の製造方法(誘電体組成物の製造方法2)は、K(Ba1−xSrNb15または(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oで構成されている結晶粒子の面積割合を高めた、つまり、固溶体から構成される結晶粒子の面積割合を低くした場合の製造方法である。
【0040】
誘電体組成物の製造方法1
K(Ba1−xSrNb15は、出発原料として平均粒子径が1.0μm以下のKCO、BaCO、SrCO、Nb粉末を準備する。また、(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oは、出発原料として平均粒子径が1.0μm以下のCaCO、SrCO、TiO、ZrO粉末を準備する。これら出発原料を所定の割合に秤量した後、ボールミル等を用いて所定の時間、湿式混合を行う。混合粉を乾燥後、大気中において1000℃以下の熱処理を行い、平均粒径が0.5μm〜2.0μmのa{K(Ba1−xSrNb15}+b{(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)O}の仮焼き粉末を得ても良い。また、上記の出発原料を用い、1000℃以下の熱処理を行い、K(Ba1−xSrNb15の仮焼き粉末と、(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oの仮焼き粉末とを別々に準備し、その後、仮焼き粉末を混合し、平均粒径が0.5μm〜2.0μmのa{K(Ba1−xSrNb15}+b{(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)O}の仮焼き粉末を得ても良い。
【0041】
誘電体組成物の製造方法2
前記K(Ba1−xSrNb15または(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)O構成されている結晶粒子の面積割合を高める場合、以下のように誘電体組成物を製造する。
【0042】
まず、K(Ba1−xSrNb15の仮焼き粉末は、出発原料として平均粒子径が1.0μm以下のKCO、BaCO、SrCO、Nb粉末を準備する。所定の割合に秤量した後、ボールミル等を用いて所定の時間、湿式混合を行う。混合粉を乾燥後、大気中において1000℃以下の熱処理(単一相の形成)と850℃以下の熱処理(粒子内部の元素分布の均一化)の2段階の熱処理を実施し、仮焼き粉末を得る。得られた仮焼き粉末は、2段階の熱処理を実施しているため、異相がほとんど形成されず、かつ、粒子内部の元素部分布に偏りが少ないため、本焼成した際に異常粒成長や、(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oとの反応を抑制することが可能となる。
【0043】
次に、(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oの仮焼き粉末は、出発原料として平均粒子径が1.0μm以下のCaCO、SrCO、TiO、ZrO粉末を準備する。以降は、前記、K(Ba1−xSrNb15の仮焼き粉末の製造方法と同様に、所定の割合に秤量した後、ボールミル等を用いて湿式混合い、大気中において1000℃以下の熱処理と850℃以下の熱処理の2段階の熱処理を実施し、仮焼き粉末を得る。得られた仮焼き粉末は、2段階の熱処理を実施しているため、異相がほとんど形成されず、かつ、粒子内部の元素部分布に偏りが少ないため、本焼成した際に異常粒成長や、K(Ba1−xSrNb15との反応を抑制することが可能となる。
【0044】
その後、得られK(Ba1−xSrNb15の仮焼き粉末と、(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oの仮焼き粉末を混合・解砕し、平均粒径が0.5μm〜2.0μmである混合粉末を作製する。
【0045】
次に、図1示す積層セラミックコンデンサの製造方法の一例を説明する。
【0046】
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を塗布して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0047】
上記で得られた混合粉末を塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。誘電体層用ペーストは、誘電体混合粉末と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0048】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0049】
また、誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水系ビヒクルに用いる水溶性バインダは特に限定されず、たとえば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0050】
内部電極層用ペーストは、上記した各種導電性金属や合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。
【0051】
外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0052】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、例えば、バインダは1質量%〜5質量%程度、溶剤は10質量%〜50質量%程度とすれば良い。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10質量%以下とすることが好ましい。
【0053】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に印刷、積層し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0054】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層してグリーンチップとする。
【0055】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5℃/時間〜300℃/時間、保持温度を好ましくは180℃〜500℃、温度保持時間を好ましくは0.5時間〜24時間とする。また、焼成雰囲気は、空気もしくは還元雰囲気とする。また、上記した脱バインダ処理において、Nガスや混合ガス等を加湿するには、たとえばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5℃〜75℃程度が好ましい。
【0056】
また、焼成時の保持温度は、好ましくは1000℃〜1400℃、より好ましくは1100℃〜1350℃である。保持温度が上記範囲未満であると緻密化が不十分となり、前記範囲を超えると、内部電極層の異常焼結による電極の途切れや、内部電極層構成材料の拡散による容量変化率の悪化が生じやすくなる。また、前記範囲を超えると結晶粒子が粗大化して、直流耐電圧を低下させてしまう恐れがある。
【0057】
更に、前記K(Ba1−xSrNb15で構成される結晶粒子と((Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oで構成される結晶粒子の面積割合を高める場合は、下記に示す条件を厳密に制御することが重要となる。固溶させず、それぞれを独立した結晶粒子とするためには、昇温速度を好ましくは、100℃/時間〜5000℃/時間、より好ましくは1000℃/時間〜5000℃/時間とする。また、焼結後の粒度分布を0.5μm〜5.0μmの範囲内に制御するために、結晶粒子同士の体積拡散を抑制するため、温度保持時間を好ましくは0.5時間〜2.0時間、より好ましくは0.5時間〜1.0時間、冷却速度を好ましくは100℃/時間〜500℃/時間、より好ましくは200℃/時間〜300℃/時間とする。
【0058】
また、焼成する雰囲気としては、加湿したNとHとの混合ガスを用い、酸素分圧10−2〜10−9Paで焼成することが好ましい。K(Ba1−xSrNb15で構成される結晶粒子と(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oで構成される結晶粒子の面積割合を高める場合、酸素分圧10−2〜10−5Paであることがより好ましい。酸素分圧が高い雰囲気で焼成を行うことで、結晶粒子同士の体積拡散を抑制できるため、固溶体を形成し難くなる効果が得られる。しかし、酸素分圧が高い状態での焼成を実施するとNiからなる内部電極層の場合、Niが酸化してしまい、電極としての導電性が低下してしまう。この場合は、本実施形態のより好ましい形態であるNiを主成分とする導電材に対し、Al、Si、Li、Cr、Feから選択された1種類以上の副成分を含有させることで、Niの耐酸化性が向上し、酸素分圧が高い雰囲気においても、内部電極層として導電性を確保することが可能となる。
【0059】
焼成後、得られたコンデンサ素子本体に対し、必要に応じてアニール処理を行う。アニール処理条件は、公知の条件とすればよく、たとえば、アニール時の酸素分圧を焼成時の酸素分圧よりも高い酸素分圧とし、保持温度を1000℃以下とすることが好ましい。
【0060】
また、上記には脱バインダ処理、焼成およびアニール処理を独立して行う製造方法を記載しているが、連続して行なってもよい。
【0061】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に、例えばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼成し、外部電極4を形成する。そして、必要に応じ、外部電極4表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、表中において※印を付した試料は、本実施形態の範囲外である。
【0064】
実施例1
実施例1では、上記の誘電体組成物の製造方法1に従い、誘電体組成物の仮焼き粉末を作製した場合について記載した。
まず、出発原料として平均粒径1.0μm以下のKCO、BaCO、SrCO、CaCO、Nb、TiO、ZrO粉末を準備し、化学式a{K(Ba1−xSrNb15}+b{(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)O}において、表1の各試料番号に記載のx、y、z、a、bを満足するように秤量した。その後、分散媒としてのエタノールを用いでボールミルにより17時間湿式混合した。その後、得られた混合物を乾燥して混合原料粉末を得た。その後、大気中で保持温度950℃、保持時間24時間の条件で熱処理を行い、誘電体組成物原料粉末を得た。
【0065】
【表1】
【0066】
上記で得られた誘電体組成物原料粉末1000gに対して、トルエン+エタノール溶液、可塑剤及び分散剤を90:6:4で混合した溶剤を700g入れ、通常の良く知られている分散方法であるバスケットミルを用いて2時間分散させ、誘電体層用ペーストを作製した。なお、これらのペーストの粘性はいずれも約200cpsに調整した。
【0067】
内部電極層の原料として、平均粒径が0.2μmのNiと0.1μm以下のAl、Siの酸化物を準備し、副成分であるAl、Siの総量がNiに対して5質量%となるように秤量した。その後、1200℃以上の加湿したNとHとの混合ガス中で熱処理し、ボールミル等を用いて解砕することで、平均粒径0.20μmの数種の原料粉末を準備した。
【0068】
前記原料粉末100質量%と、有機ビヒクル(エチルセルロース樹脂8質量%をブチルカルビトール92質量%に溶解したもの)30質量%、及びブチルカルビトール8質量%とを、3本ロールにより混練、ペースト化し、内部電極層用ペーストを得た。
【0069】
そして、作製した誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上に、乾燥後の厚みが12μmとなるようにグリーンシートを形成した。次いで、この上に内部電極層用ペーストを用いて、内部電極層を所定パターンで印刷した後、PETフィルムからシートを剥離し、内部電極層を有するグリーンシートを作製した。次いで、内部電極層を有するグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とし、このグリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
【0070】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成、アニール処理を行うことで積層セラミック焼結体を得た。なお、脱バインダ処理、焼成及びアニールの条件は、以下の通りである。また、それぞれの雰囲気ガスの加湿にはウェッターを用いた。
【0071】
(脱バインダ処理)
昇温速度:100℃/時間
保持温度:400℃
温度保持時間:8.0時間
雰囲気ガス:加湿したNとHとの混合ガス
(焼成)
昇温速度:500℃/時間
保持温度:1100℃〜1350℃
温度保持時間:2.0時間
冷却速度:100℃/時間
雰囲気ガス:加湿したNとHとの混合ガス
酸素分圧:10−5〜10−9Pa
(アニール処理)
保持温度:800℃〜1000℃
温度保持時間:2.0時間
昇温、降温速度:200℃/時間
雰囲気ガス:加湿したNガス
【0072】
得られた各積層セラミック焼結体についてICP発光分光分析法を用いて、各試料の組成分析を行った結果、表1に記載されている誘電体組成物とほぼ同等な値であることを確認した。
【0073】
得られた積層セラミック焼結体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてIn−Ga共晶合金を塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサと同形状の試料No.1から試料No.32の積層セラミックコンデンサ試料を得た。得られた積層セラミックコンデンサ試料のサイズは、いずれも3.2mm×1.6mm×1.2mmであり、誘電体層の厚み10μm、内部電極層の厚み2μm、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は50層であった。
【0074】
得られた試料No.1から試料No.32の積層セラミックコンデンサ試料について、比誘電率、直流耐電圧、高温負荷寿命、画像解析によるK(Ba1−xSrNb15で構成される結晶粒子及び(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oで構成される結晶粒子の面積割合を下記に示す方法により測定、評価し、表2に示した。
【0075】
[比誘電率]
積層セラミックコンデンサ試料に対し、250℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4284A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの信号を入力し、静電容量を測定した。そして、比誘電率(単位なし)を、誘電体層の厚みと、有効電極面積と、測定の結果得られた静電容量Cとに基づき算出した。比誘電率は高いほうが好ましく、200以上を良好であると判断した。
【0076】
[直流耐電圧]
積層セラミックコンデンサ試料に対し、250℃において、100V/sec昇圧速度で直流電圧を印加し、漏れ電流が10mAを超えたところを直流耐電圧とした。直流耐電圧は、50V/μm以上あることが好ましく、100V/μm以上あることを良好と判断した。より好ましく直流耐電圧としては150V/μm以上である。
【0077】
[高温負荷寿命]
高温負荷寿命試験は、各試料番号の試料200個について、温度250℃で、誘電体層の厚みに対し20V/μmとなるように直流電圧を印加して、絶縁抵抗の経時変化を測定した。絶縁抵抗が1桁劣化した試料を故障と判定し、故障時間のワイブル解析から50%の平均故障時間(MTTF)を求めた。本発明では、平均故障時間(MTTF)を高温負荷寿命とした。高温負荷寿命は長い方が好ましく、80時間以上、より好ましくは120時間以上を良好であると判断した。
【0078】
[画像解析によるα、βの評価]
焼成して得られた積層セラミックコンデンサ試料に対して、FIB(集束イオンビーム:Focused Ion Beam)を用いてマイクロサンプリングを行い、誘電体層のTEM試料を作製した。このTEM試料に対しJEOL製の走査透過電子顕微鏡であるJEM2200FSを用いSTEM−EDS(Scanning Transmission Electron Microscopy―Energy Dispersive X−ray Spectrometry)マッピング行った。マッピングの視野は、7μm×7μmとし、各試料に対し10視野以上マッピングを行った。これらの方法で得られた元素マップを用いて、K(Ba1−xSrNb15の元素であるK、Ba、Sr、Nbと、(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oの元素であるCa、Sr、Ti、Zrの面積を特定し、各10視野以上の結果の平均面積を用いて、K(Ba1−xSrNb15で構成される結晶粒子の面積割合をα(%)と、(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oで構成される結晶粒子の面積割合をβ(%)とを算出した。本実施形態では、高い直流耐電圧と良好な高温負荷寿命とを得るため、0.50≦α/β≦1.90、かつ、80%≦α+βであることを良好とした。
【0079】
【表2】
【0080】
表2に示す結果によれば、試料No.1〜試料No.32のうち、本実施形態の範囲内にある積層セラミックコンデンサ試料は、250℃における比誘電率が200以上であり、250℃において、誘電体層の厚みに対し20V/μmとなるように直流電圧を連続印加した際の高温負荷寿命が80時間以上であることが確認できた。
【0081】
これに対し、試料No.1は、化学式K(Ba1−xSrNb15のxが0.35未満と本実施形態の範囲外のため、十分な絶縁性が得られ難く、55時間と低い高温負荷寿命となっている。また、試料No.7は、xが0.75を超えており本実施形態の範囲外のため、高温負荷寿命が70時間と低い高温負荷寿命となることが確認できた。
【0082】
また、試料No.8、試料No.9は、化学式(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oのyが0.01未満と本実施形態の範囲外のため、高温負荷寿命の劣化原因であると考えられる酸素欠陥の移動を抑制する作用が得られず、80時間未満の低い高温負荷寿命となっている。一方、試料No.14、試料No.21は、yが0.25を超えており本実施形態の範囲外のため、高温における絶縁性が低いため、80時間未満の低い高温負荷寿命となることが確認できた。
【0083】
また、試料No.8、試料No.15は、化学式(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oのzが0.01未満と本実施形態の範囲外のため、高温負荷寿命の劣化原因であると考えられる酸素欠陥の移動を抑制する作用が得られず、80時間未満の低い高温負荷寿命となっている。一方、試料No.20、試料No.21は、zが0.25を超えており本実施形態の範囲外のため、高温における絶縁性が低いため、80時間未満の低い高温負荷寿命となることが確認できた。
【0084】
更に、試料No.22は、aが0.32未満、試料No.28はaが0.66を超えた本実施形態の範囲外のため、80時間未満の低い高温負荷寿命となっている。
【0085】
実施例2
ここでは、上記に示した誘電体組成物の製造方法2を用いて、前記K(Ba1−xSrNb15または(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oで構成されている結晶粒子の面積割合を高めた場合について検証した結果を示した。
【0086】
まず、K(Ba1−xSrNb15は、出発原料として平均粒径1.0μm以下のKCO、BaCO、SrCO、Nb粉末を準備した。表3に示したxとなるように、上記の出発原料を秤量し、分散媒としてのエタノールを用いでボールミルにより17時間湿式混合した。その後、得られた混合物を乾燥して混合原料粉末を得た。その後、保持温度900℃〜1000℃において、保持時間10時間〜24時間で、第一の熱処理を行い、その後、保持温度750℃〜850℃において、保持時間10時間〜24時間の第二の熱処理を行うことで、K(Ba1−xSrNb15の仮焼き粉末を得た。
【0087】
次に、(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oは、出発原料として平均粒径1.0μm以下のCaCO、SrCO、TiO、ZrO粉末を準備した。表3に示したy、zとなるように、上記の出発原料を秤量し、分散媒としてのエタノールを用いでボールミルにより17時間湿式混合した。その後、得られた混合物を乾燥して混合原料粉末を得た。その後、保持温度950℃〜1100℃において、保持時間10時間〜24時間で、第一の熱処理を行い、その後、保持温度750℃〜850℃において、保持時間10時間〜24時間の第二の熱処理を行うことで、(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oの仮焼き粉末を得た。
【0088】
得られたK(Ba1−xSrNb15の仮焼き粉末と、(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oの仮焼き粉末を表3の配合比率になるように秤量した後、分散媒としてのエタノールを用いでボールミルにより17時間〜36時間湿式混合した。その後、得られた混合物を乾燥して表3に示す誘電体組成物原料粉末を得た。
【0089】
【表3】
【0090】
その後、実施例1と同様な方法で誘電体層用ペースト及び内部電極層用ペーストを作製した。
【0091】
そして、実施例1と同様な方法でグリーンチップを作製した。
【0092】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成、アニール処理を行うことで積層セラミック焼結体を得た。なお、なお、脱バインダ処理、焼成及びアニールの条件は、以下の通りである。また、それぞれの雰囲気ガスの加湿にはウェッターを用いた。
【0093】
(脱バインダ処理)
昇温速度:100℃/時間
保持温度:400℃
温度保持時間:8.0時間
雰囲気ガス:加湿したNとHとの混合ガス
(焼成)
昇温速度:2000℃/時間
保持温度:1100℃〜1350℃
温度保持時間:1.0時間
冷却速度:200℃/時間
雰囲気ガス:加湿したNとHとの混合ガス
酸素分圧:10−2〜10−5Pa
(アニール処理)
保持温度:500℃〜1000℃
温度保持時間:2.0時間
昇温、降温速度:200℃/時間
雰囲気ガス:加湿したNガス
【0094】
得られた積層セラミック焼結体について誘電体層の結晶構造をX線回折(XRD)測定したところ、本実施形態に係る積層セラミック焼結体については、K(Ba1−xSrNb15と(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oとが、それぞれ単独で存在していることを確認した。
【0095】
また、得られた各積層セラミック焼結体についてICP発光分光分析法を用いて、各試料の組成分析を行った結果、表3及び表4に記載されている誘電体組成物とほぼ同等な値であることを確認した。
【0096】
得られた積層セラミック焼結体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてIn−Ga共晶合金を塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサと同形状の試料No.33から試料No.64の積層セラミックコンデンサ試料を得た。得られた積層セラミックコンデンサ試料のサイズは、いずれも3.2mm×1.6mm×1.2mmであり、誘電体層の厚み10μm、内部電極層の厚み2μm、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は50層であった。
【0097】
得られた試料No.33から試料No.64の積層セラミックコンデンサ試料について、実施例1と同様な測定方法を用いて、比誘電率、直流耐電圧、高温負荷寿命、画像解析によるK(Ba1−xSrNb15で構成される結晶粒子及び(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oで構成される結晶粒子の面積割合を測定、評価し、表4に示した。
【0098】
【表4】
【0099】
表4に示す結果によれば、試料No.33〜試料No.64のうち、本実施形態の範囲内にあり、0.50≦α/β≦1.90であり、80%≦α+βである積層セラミックコンデンサ試料は、250℃における比誘電率が200以上であり、250℃における直流耐電圧が100V/μmであり、250℃において、誘電体層の厚みに対し20V/μmとなるように直流電圧を連続印加した際の高温負荷寿命が100時間以上であることが確認できた。
【0100】
また、表2と表4に示した結果によれば、K(Ba1−xSrNb15で構成される結晶粒子の面積割合をα(%)、(Ca1−ySr)(Zr1−zTi)Oで構成される結晶粒子の面積割合をβ(%)とした場合、αとβとの関係が0.50≦α/β≦1.90であり、80%≦α+βを満足しない積層セラミックコンデンサ試料は、250℃における直流耐電圧が100V/μm未満となることが確認できた。
このように、誘電体組成物の材料組成を制御するだけでは無く、同時に誘電体組成物を構成している結晶粒子の組成も制御することで、これまで実現することが困難であった250℃において高い高温負荷寿命と高い直流耐電圧とを両立できることが分かった。
【0101】
実施例3
実施例2と同様な方法を用いて、表5に示す誘電体組成物原料粉末を作製した。
【0102】
【表5】
【0103】
得られた誘電体組成物原料粉末を実施例2と同様な方法を用いて、積層セラミックコンデンサ試料を作製し、実施例1及び実施例2と同様な測定、評価し、結果を表6に示した。
【0104】
【表6】
【0105】
表6に示す結果によれば、本実施形態の範囲内の試料No.65〜試料No.85のうち、前記x、y、z、α、βが、0.35≦x≦0.50、0.02≦y≦0.10、0.02≦z≦0.10、0.60≦α/β≦1.50、90%≦α+βを満足する積層セラミックコンデンサ試料は、250℃における比誘電率が200以上であり、250℃における直流耐電圧が150V/μmであり、250℃において、誘電体層の厚みに対し20V/μmとなるように直流電圧を連続印加した際の高温負荷寿命が120時間以上とより良好な特性を示すことが確認できた。
【0106】
今回開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は以上の実施の形態と実施例ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものであることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0107】
250℃という高温領域において高い直流耐電圧及び高温負荷寿命を有する為、車載用としてエンジンルームに近接する環境下や、さらに、SiCやGaN系の半導体を用いたパワーデバイス近傍に搭載される電子部品としての用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0108】
1 積層セラミックコンデンサ
2 誘電体層
3 内部電極層
4 外部電極
10 コンデンサ素子本体
図1