【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の一実施例に係る送信器10と、一実施例に係る、その送信器10とその送信器10からのマイクロ波を受信する電子機器30とから成る電力伝送システムの構成を示している。本実施例の電力伝送システムは、車に搭載される送信器10と、車の所有者が所有する電子鍵30とから成るシステムを一例として想定している。
【0020】
送信器10は搬送波発生器11と変調信号発生器12と、搬送波発生器
11の出力するマイクロ波帯の搬送波を変調信号発生器12の出力する変調信号で振幅変調し増幅する振幅変調器としてのミキサ13と、ミキサ13の出力する振幅変調された送信信号S
1 のマイクロ波を放射する送信アンテナ14とを有する。また、送信器10は電子機器30からの応答信号S
2 を受信する受信アンテナ16と、この受信アンテナ16の出力する信号を復調する復調回路15とを有する。搬送波発生器11は、2.45GHzの搬送波を発生する。搬送波の周波数は、この他、5.8GHz、24GHz等、電波法により許可されている帯域の周波数であっても良い。
【0021】
変調信号発生器12の出力する変調信号は
図2に示すように鋸歯状波である。変調信号は1周期T
c までの期間に0レベルから最大レベルA
max まで直線的に増加する関数で、この波形の3周期を1パケットとして、この1パケットを間欠的に繰り返している。よって、ミキサ13から出力される送信信号は
図3に示すように2.45GHzのマイクロ波が鋸歯状波で振幅変調された波形の間欠発振波形となる。1周期は1秒である。周期は電子機器30の要請される応答性にも関係するが、0.5秒から2秒が適切である。この振幅変調された送信信号S
1 が送信アンテナ14から空間に放射される。送信信号S
1 の振幅の最大値、すなわち、最大送信電力レベルは、変調信号の最大レベルA
max と対応しているので、以下、A
max は最大送信電力レベルの意味にも使用する。なお、送信信号の振幅の最小値、すなわち、最小送信電力レベルは0レベルの他、任意のレベルを用いても良い。
【0022】
電子機器30は受信アンテナ34、受信アンテナ34により受信された信号を整流する整流回路31、整流回路31の出力である直流電力により起動される受信回路32とID(鍵)情報送信器33と、送信アンテナ35とを有する。受信回路32は整流回路31の出力する直流電力によりウエイクアップして、ID(鍵)情報送信器33を起動する。ID(鍵)情報送信器33は、自己車両のIDによりマイクロ波をコード変調して、応答信号S
2 として送信アンテナ35から送信器10に向けて送信する。送信器10は受信アンテナ16によりこの応答信号S
2 を受信して、復調回路15により復調しIDを解読する。解読したIDが車両に登録されているIDと一致した場合には、その旨の信号を車両のドアを制御する制御装置に出力する。その制御装置は、その信号を受信して、ドアのアンロックなどの動作を実行する。なお、電子機器30はバッテリを有していない。整流した直流電力を保持するコンデンサは有していても良い。
【0023】
上記の電力伝送システムにおいて、電子機器30の整流回路31は、
図4のように構成されている。
図4は良く知られたシングルシャント整流回路を用いたレクテナである。レクテナは、受信アンテナ34に接続された線路40と、A点においてカソードが線路40に接続されたショットキーバリアダイオード37を有している。また、レクテナは、線路40にB点において接続された基本波に対するλ/4スタブ38と、同一位置B点において線路40に接続された2次高調波に対するλ/4スタブ41を有している。また、線路40にはA点と受信アンテナ34との間に、反射整合のためのスタブ39が接続されている。ショットキーバリアダイオード37と線路40との接続点Aとλ/4スタブ38及び41と線路40との接続点Bとの間の線路長はλ/4である。この構成により等価的に全波整流が実現される。
【0024】
かかる構成の整流回路31は非線形素子のショットキーバリアダイオード37を有するために、入力インピーダンスが入力電力レベルにより変化する。したがって、整流効率は整流回路31の入力電力レベルに対して
図5のような特性を有している。すなわち、最大整流効率E
max を与える最適入力電力レベルP
opt が存在する。最大整流効率E
max を含み最大整流効率に近い効率が得られる最適入力電力レベル範囲ΔP
opt が存在する。
【0025】
仮に、送信器10の出力するマイクロ波の電力レベルが時間的に最大送信電力レベルA
max で一定であるとすると、電子機器30で受信するマイクロ波の受信電力レベルは、送信器10に対する電子機器30の相対距離の増加に対して減少する。
図6は、送信信号が最大送信電力レベルA
max で送信器30から送信された場合において、整流回路31の最大入力電力レベルP
max と送信器10に対する電子機器30の距離との関係を示している。
図6に示す最適入力電力レベル範囲ΔP
opt は、
図5に示されている最大整流効率を含む最適範囲ΔP
opt である。
【0026】
仮に、送信信号を振幅変調しない場合には、整流回路31の入力電力レベルが最適入力電力レベル範囲ΔP
opt に存在しない距離範囲に電子機器30が位置する時には、最大整流効率は実現しない。
【0027】
そこで、本実施例では、送信信号の振幅である送信電力レベルは、0レベルから最大送信電力レベルA
max まで、1周期の間に直線的に増加させている。したがって、整流回路31の入力電力レベルも0レベルから最大電力レベルP
max まで、1周期の間に直線的に増加する。図示する様に、電子機器30が距離L
1 、L
x 、L
2 の位置に存在するとき、1周期において入力電力レベルは、それぞれ、ΔP
1 、ΔP
x 、
ΔP2 だけ時間の経過に伴って増加する。入力電力レベルは最適電力レベルP
opt を、1周期の増加過程において、必ず越える。したがって、これらの距離に電子機器30が存在するときは、整流回路31では最大整流効率E
max が、必ず実現することになる。
【0028】
一方、最大入力電力レベルP
max が最適入力電力レベル範囲ΔP
opt の上限レベルを越えない距離に電子機器30が位置する時には、入力電力レベルは、増加の1周期において、最適入力電力レベル範囲ΔP
opt の全範囲をとることはない。したがって、この場合には、最大整流効率は実現されない。最大入力電力レベルP
max が最適入力電力レベル範囲ΔP
opt の上限レベルに等しくなる距離をL
max とする。すると、送信器10に対する電子機器30の距離がL
max よりも大きくなると、最大整流効率が実現されないことになる。換言すれば、最大整流効率が実現する最大距離L
max が存在することになる。本実施例の電力伝送システムにおいて電子機器30の使用が予定されている距離範囲が存在する。最大距離L
max は、この距離範囲の外の遠い位置に設定することが必要である。
【0029】
このように本実施例において、送信器10に対する電子機器30の相対距離が変化しても、最大整流効率を実現することができる。したがって、電子器機器30で得られる直流電力は、相対距離に係わらず最大値で一定とすることができる。電子機器30がバッテリ
を有さない電子タグの場合には、ウエイクアップを確実にすることが可能となる。
【実施例2】
【0030】
送信信号S
1 の別の振幅変調の例を
図7に示す。変調信号を0.5Hzの正弦波とした例である。正弦波の半周期が変調信号の1周期である。送信電力レベルは、
図8に示すように変化する。整流回路31の入力電力レベルは、上記の正弦波で変化する送信電力レベルが電子機器30の相対距離に応じて減衰したレベルとなる。図示するように、電子機器30が距離L
1 の位置に存在する場合には、送信電力レベルがレベルP
1 をとる時刻T
1 で、整流回路31の入力電力レベルは最適入力電力レベル
Popt となる。同様に時刻T
4 においても、入力電力レベルは最適入力電力レベル
Popt となる。したがって、1周期において、最大整流効率が実現されるのは2回存在する。得られる整流電力はこの2回の整流電力の積算となる。
【0031】
距離L
1 よりも遠い距離L
2 に電子機器30が位置する場合には、時刻T
1 よりも遅れて送信電力レベルがレベルP
2 をとる時刻T
2 において、整流回路31の入力電力レベルは最適入力電力レベル
Popt となる。同様に、時刻T
4 よりも早い時刻T
3 においても、入力電力レベルは最適入力電力レベル
Popt となる。したがって、1周期において、最大整流効率が実現されるのは2回存在する。得られる整流電力はこの2回の整流電力の積算となる。このように、本実施例においても、送信器10に対する電子機器30の相対距離が変化しても、最大整流効率を実現することができ
る。したがって、電子器機器30で得られる直流電力は、相対距離に係わらず最大値で一定とすることができる。電子機器30がバッテリを有さない電子タグの場合には、ウエイクアップを確実にすることが可能となる。
【0032】
なお、上記実施例1、2において、送信器10が電子機器30から応答信号S
2 を受信した後は、その受信タイミング(望ましくは、回路等の伝搬遅延時間を考慮して、その時間だけ前のタイミング)における送信電力レベルを一定に維持してマイクロ波を連続して放射するようにしても良い。そのタイミングの送信電力レベルは、最大整流効率が実現される電力レベルである。したがって、そのタイミング以降は、より効率的な電力伝送が可能となる。