特許第6665825号(P6665825)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6665825
(24)【登録日】2020年2月25日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】送信器及びマイクロ波電力伝送システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/20 20160101AFI20200302BHJP
【FI】
   H02J50/20
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-79911(P2017-79911)
(22)【出願日】2017年4月13日
(65)【公開番号】特開2018-182913(P2018-182913A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2018年6月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【弁理士】
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【弁理士】
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】石田 将也
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 俊明
(72)【発明者】
【氏名】松沢 晋一郎
【審査官】 阿部 陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−285960(JP,A)
【文献】 特開2016−066960(JP,A)
【文献】 特開2009−254031(JP,A)
【文献】 特開平11−146580(JP,A)
【文献】 特開2008−278038(JP,A)
【文献】 特開2012−191796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/00−50/90
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線によるマイクロ波を受信して整流回路により直流電力に変換して、その直流電力を動作電力とする電子機器に対して前記マイクロ波により電力を伝送する送信器において、
搬送波を発生する搬送波発生器と、
1周期においてレベルが連続して増加し、連続して減少し、又は、連続して増加して減少する信号を発生する変調信号発生器と、
前記搬送波発生器により発生された前記搬送波を、前記変調信号発生器により出力される前記変調信号により振幅変調して増幅し、1周期において振幅が連続して増加し、連続して減少し、又は、連続して増加して減少する送信信号を出力する振幅変調器と、
前記振幅変調器の出力する振幅変調された前記送信信号を前記マイクロ波として空間に放射するアンテナと、
を有することを特徴とする送信器。
【請求項2】
前記送信信号の前記振幅の最大値と最小値は、前記電子機器がそれらの最大値と最小値に対応した前記整流回路の入力電力レベルを、それぞれ、最大入力電力レベルと最小入力電力レベルとするとき、前記整流回路の最大整流効率を実現する最適入力電力レベルが、前記最小入力電力レベル以上、前記最大入力電力レベル以下の範囲に存在するように決定されていることを特徴とする請求項1に記載の送信器。
【請求項3】
前記送信器に対して前記電子機器が動作すべきと定められた範囲における最大距離に前記電子機器が位置する時の前記最大入力電力レベルが、前記最適入力電力レベルを越えるように、前記送信信号の前記振幅の前記最大値が決定されていることを特徴とする請求項2に記載の送信器。
【請求項4】
前記変調信号発生器は、前記送信信号の前記振幅が前記最小値と前記最大値との間で連続して単調に変化する特性の周期関数で変化するように前記変調信号を生成することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の送信器。
【請求項5】
前記変調信号は鋸歯状波、三角波、又は、正弦波であることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の送信器。
【請求項6】
前記変調信号の1周期は、0.1秒以上、2秒以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の送信器。
【請求項7】
前記アンテナから放射される前記マイクロ波は、前記1周期以上のマイクロ波が間欠的に放射されることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の送信器。
【請求項8】
前記電子機器はバッテリを有さず、レクテナを有し、前記マイクロ波の前記1周期分の整流電力によりウエイクアップ動作が可能な電子機器であることを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の送信器。
【請求項9】
前記電子機器は前記変調信号の1周期の整流電力により前記送信器に対して応答信号を送信する機器であることを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の送信器。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9の何れか1項に記載の送信器と、前記送信器に対する相対距離が移動により変化し、該送信器から出力されたマイクロ波を受信して整流し、整流電力で自己の装置を起動する電子機器とから成るマイクロ波電力伝送システム。
【請求項11】
請求項1乃至請求項9の何れか1項に記載の送信器と、前記送信器に対する相対距離が異なる複数の電子機器であって、前記送信器から出力されたマイクロ波を受信して整流し、整流電力で自己の装置を起動する複数の電子機器とから成るマイクロ波電力伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を受信して直流電力に変換して、自己の装置を起動させる電子機器に対する送信器及びその送信器を用いたマイクロ波電力伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
空間にマイクロ波を放射し、放射されたマイクロ波をレクテナで受信して整流し、その整流電力を駆動電力とするシステムが知られている。このシステムは、バッテリを有さないRF−IDタグやICカード等の電子タグとの情報交換に用いられている。レクテナは非線形素子であるダイオードが用いられているので、入力インピーダンスが入力電力レベルにより変化する。このため、テクテナの整流効率は受信したマイクロ波の電力レベルにより変化する。
【0003】
この問題を解決するために、下記特許文献1に開示の技術が知られている。特許文献1に開示の技術では、複数のレクテナを設けている。そして、整流された直流電力に基づき入力電力レベルを推定し、その入力電力レベルに対して最適な整流効率特性を有したレクテナの接続構成を選択するようにしている。これにより、入力電力レベルが変化しても、最大の整流効率を実現することができる。
【0004】
また、特許文献2に開示の技術は、1周期において時間が経過するに連れて周波数が連続して低くなる波形のマイクロ波を送信器から発信している。そして、受信器において、受信したマイクロ波の周波数が高くなる程、遅延時間が大きくなる遅延フィルタを用いている。これにより、パルス幅を圧縮して整流回路の入力電力レベルを増大させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−114949号公報
【特許文献2】特開2003−348773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1に開示の技術では、受信器に複数のレクテナを設けて、整流後の電力レベルに応じて、レクテナを選択する制御装置が必要である。このことから装置が複雑になるという問題がある。さらには、整流後の電力レベルの検出や、レクテナの切換え制御のための電力が必要となり、電力損失が問題となる。このため、自動車の電子鍵や、RF−IDタグへの送電のように、短時間の間に整流した小電力を用いて応答するような、省電力で即応性が要求されるような場合には、この方式を用いることは困難である。
【0007】
また、特許文献2に開示の技術では、連続的に周波数が変化するマイクロ波が用いられている。このことから、送信アンテナには広帯域のマイクロ波を放射できる特性が必要であり、受信アンテナも広帯域のマイクロ波を受信できる特性が必要となる。しかし、アンテナの送信帯域、受信帯域を広げると、放射効率、受信効率が低下するという問題がある。放射効率の低下は送電効率の低下に直結するため、広帯域アンテナは電力伝送には不向きである。また、受信電力レベルが最適整流効率が得られるように制御してはいない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、送信器と受電する電子機器との相対距離が変化したり、距離が固定されていない場合にも、広帯域アンテナを用いることなく、受電する電子機器において整流効率を最大化することである。したがって、送信器に対する電子機器の相対距離に係わらず電子機器での整流直流電力を一定とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための発明の構成は、無線によるマイクロ波を受信して整流回路により直流電力に変換して、その直流電力を動作電力とする電子機器に対してマイクロ波により電力を伝送する送信器において、搬送波を発生する搬送波発生器と、1周期においてレベルが連続して増加し、連続して減少し、又は、連続して増加して減少する信号を発生する変調信号発生器と、搬送波発生器により発生された搬送波を、変調信号発生器により出力される変調信号により振幅変調して増幅し、1周期において振幅が連続して増加し、連続して減少し、又は、連続して増加して減少する送信信号を出力する振幅変調器と、振幅変調器の出力する振幅変調された送信信号をマイクロ波として空間に放射するアンテナと、を設けたことである。
要するに、本発明は、電子機器の有する整流回路の入力電力レベルが1周期における時間の経過に伴い連続的に上昇又は降下するように、送信するマイクロ波の振幅を変調している。これにより、電子機器が使用可能距離範囲に存在する限り、1周期において、整流回路は最大整流効率を実現できる状態とすることができる。なお、送信器に対する電子機器の距離は、以下、相対距離を意味し、電子機器が移動する場合、送信器が移動する場合、両者が移動するような場合を含む。本発明は、電子機器としては、小型化と使用上の利便性を考慮してバッテリを有さない機器への応用が有効である。しかし、本発明は、相対距離に係わらず最大整流効率を実現することにあるので、バッテリを有する電子機器を排除するものではない。
【0010】
上記発明において、送信信号の振幅の最大値と最小値は、電子機器がそれらの最大値と最小値に対応した整流回路の入力電力レベルを、それぞれ、最大入力電力レベルと最小入力電力レベルとするとき、整流回路の最大整流効率を実現する最適入力電力レベルが、最小入力電力レベル以上、最大入力電力レベル以下の範囲に存在するように決定されていることが望ましい。
最小入力電力レベルは零レベルを含む。電子機器が送信器に対して動作可能範囲に存在する限り、本発明ではこの状態が実現される。
【0011】
また、送信器に対して電子機器が動作すべきと定められた範囲における最大距離に電子機器が位置する時の最大入力電力レベルが、最適入力電力レベルを越えるように、送信信号の振幅の最大値が決定されていることが望ましい。
電子機器が使用可能最大距離に位置する時に、整流回路の最大入力電力レベルが最適入力電力レベルを越えるならば、電子機器の存在位置に係わらず、1周期において、必ず整流効率が最大となるタイミングが存在することになる。
【0012】
また、変調信号発生器は、送信信号の振幅が最小値と最大値との間で連続して単調に変化する特性の周期関数で変化するように変調信号を生成することが望ましい。
また、変調信号は鋸歯状波、三角波、又は、正弦波であることが望ましい。
また、変調信号の1周期は、0.1秒以上、2秒以下であることが望ましい。電子機器が送信器に対して遠方から接近する時、その電子機器が本来の機能を果たすためには、最適距離範囲が存在する。例えば、電子機器が電子鍵として、車に接近してドアロックを解除させる場合には、電子機器が車に接触する前には反応する必要がある。すなわち、電子機器は最大距離と最小距離との間にある時に反応する必要がある。そこで、最大距離から最小距離までに電子機器が移動する時間内には、電子機器を反応させる必要があることから、1周期の最大値は2秒としている。
【0013】
また、アンテナから放射されるマイクロ波は、1周期以上のマイクロ波が間欠的に放射されるようにしても良い。送信器における節電のためである。
さらに、電子機器はバッテリを有さず、レクテナを有し、マイクロ波の1周期分の整流電力によりウエイクアップ動作が可能な電子機器とすることができる。
また、電子機器は変調信号の1周期の整流電力により送信器に対して応答信号を送信する機器とすることができる。すなわち、電子機器は、マイクロ波の1周期分の整流電力により最低限の動作が完了するのが良い。本発明によると電子機器が使用可能距離範囲に存在する限り、最大整流効率が実現されるので、電子機器のウエイクアップ、応答信号の送信が可能となる。
【0014】
他の発明の構成は、請求項1乃至請求項9の何れか1項に記載の送信器と、送信器に対する相対距離が移動により変化し、該送信器から出力されたマイクロ波を受信して整流し、整流電力で自己の装置を起動する電子機器とから成るマイクロ波電力伝送システムである。このシステムでは、電子機器が送信器に対して移動する場合(特に、送信器に接近する過程)において、最大整流効率が実現される。例えば、車の電子鍵システムである。また、本発明のシステムの特徴は、送信器に対する電子機器の相対距離に係わらず最大整流効率を実現する電力伝送システムにあるので、電子機器はバッテリを有するものであっても良く、電子機器がバッテリを充電する目的のためにある充電器であっても良い。
【0015】
さらに、他の発明は、請求項1乃至請求項9に記載の送信器と、送信器に対する相対距離が異なる複数の電子機器であって、送信器から出力されたマイクロ波を受信して整流し、整流電力で自己の装置を起動する複数の電子機器とから成るマイクロ波電力伝送システムである。
本発明においても、上記と同様に、電子機器はバッテリを有するものであっても良く、電子機器がバッテリを充電する目的のためにある充電器であっても良い。
このシステムでは、送信器からの距離が異なる複数の電子機器が存在する場合である。送信器は移動する場合も本発明に含まれる。例えば、ある動作可能範囲に複数のセンサが存在する場合に、そのセンサに電力を伝送して、そのセンサから情報を取得するようなシステムである。複数のセンサにおいて、整流回路の入力電力レベルが1周期において時間の経過に伴い増加、又は、減少する。したがって、各電子機器において、距離によりタイミングは異なるが最大整流効率が実現する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、送信器から発信されるマイクロ波は、その振幅が1周期において、増加し、又は、減少するか、増加した後減少する特性である。したがって、このマイクロ波を受信する電子機器は、送信器に対して動作可能な或る最大距離範囲内に存在する限り、送信器に対する距離が変化する場合であっても、距離が固定でない場合であっても、マイクロ波の1周期の間に、電子機器の整流回路は整流効率が最大となる入力電力レベルが実現される。この結果、最短ではマイクロ波の1周期、場合により数周期の受信の完了により、ウエイクアップ動作をして自己のID等の認識情報を送信することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の具体的な一実施例に係る送信器と、その送信器とその送信器により給電される電子機器とを用いた電力伝送システムの構成図。
図2】同実施例に係る送信器の変調信号の一例を示す波形図。
図3】同実施例に係る送信器における搬送波を変調した後の送信信号の一例を示す波形図。
図4】同実施例システムで用いられる電子機器の整流回路の回路図。
図5】同実施例システムで用いられる電子機器の整流回路の入力電力レベルと整流効率との関係を示した特性図。
図6】同実施例システムにおける動作原理を示す説明図。
図7】他の実施例における他のマイクロ波の振幅変調を示した波形図。
図8】同実施例における整流回路の出力を示す波形図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照して説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の一実施例に係る送信器10と、一実施例に係る、その送信器10とその送信器10からのマイクロ波を受信する電子機器30とから成る電力伝送システムの構成を示している。本実施例の電力伝送システムは、車に搭載される送信器10と、車の所有者が所有する電子鍵30とから成るシステムを一例として想定している。
【0020】
送信器10は搬送波発生器11と変調信号発生器12と、搬送波発生器11の出力するマイクロ波帯の搬送波を変調信号発生器12の出力する変調信号で振幅変調し増幅する振幅変調器としてのミキサ13と、ミキサ13の出力する振幅変調された送信信号S1 のマイクロ波を放射する送信アンテナ14とを有する。また、送信器10は電子機器30からの応答信号S2 を受信する受信アンテナ16と、この受信アンテナ16の出力する信号を復調する復調回路15とを有する。搬送波発生器11は、2.45GHzの搬送波を発生する。搬送波の周波数は、この他、5.8GHz、24GHz等、電波法により許可されている帯域の周波数であっても良い。
【0021】
変調信号発生器12の出力する変調信号は図2に示すように鋸歯状波である。変調信号は1周期Tc までの期間に0レベルから最大レベルAmax まで直線的に増加する関数で、この波形の3周期を1パケットとして、この1パケットを間欠的に繰り返している。よって、ミキサ13から出力される送信信号は図3に示すように2.45GHzのマイクロ波が鋸歯状波で振幅変調された波形の間欠発振波形となる。1周期は1秒である。周期は電子機器30の要請される応答性にも関係するが、0.5秒から2秒が適切である。この振幅変調された送信信号S1 が送信アンテナ14から空間に放射される。送信信号S1 の振幅の最大値、すなわち、最大送信電力レベルは、変調信号の最大レベルAmax と対応しているので、以下、Amax は最大送信電力レベルの意味にも使用する。なお、送信信号の振幅の最小値、すなわち、最小送信電力レベルは0レベルの他、任意のレベルを用いても良い。
【0022】
電子機器30は受信アンテナ34、受信アンテナ34により受信された信号を整流する整流回路31、整流回路31の出力である直流電力により起動される受信回路32とID(鍵)情報送信器33と、送信アンテナ35とを有する。受信回路32は整流回路31の出力する直流電力によりウエイクアップして、ID(鍵)情報送信器33を起動する。ID(鍵)情報送信器33は、自己車両のIDによりマイクロ波をコード変調して、応答信号S2 として送信アンテナ35から送信器10に向けて送信する。送信器10は受信アンテナ16によりこの応答信号S2 を受信して、復調回路15により復調しIDを解読する。解読したIDが車両に登録されているIDと一致した場合には、その旨の信号を車両のドアを制御する制御装置に出力する。その制御装置は、その信号を受信して、ドアのアンロックなどの動作を実行する。なお、電子機器30はバッテリを有していない。整流した直流電力を保持するコンデンサは有していても良い。
【0023】
上記の電力伝送システムにおいて、電子機器30の整流回路31は、図4のように構成されている。図4は良く知られたシングルシャント整流回路を用いたレクテナである。レクテナは、受信アンテナ34に接続された線路40と、A点においてカソードが線路40に接続されたショットキーバリアダイオード37を有している。また、レクテナは、線路40にB点において接続された基本波に対するλ/4スタブ38と、同一位置B点において線路40に接続された2次高調波に対するλ/4スタブ41を有している。また、線路40にはA点と受信アンテナ34との間に、反射整合のためのスタブ39が接続されている。ショットキーバリアダイオード37と線路40との接続点Aとλ/4スタブ38及び41と線路40との接続点Bとの間の線路長はλ/4である。この構成により等価的に全波整流が実現される。
【0024】
かかる構成の整流回路31は非線形素子のショットキーバリアダイオード37を有するために、入力インピーダンスが入力電力レベルにより変化する。したがって、整流効率は整流回路31の入力電力レベルに対して図5のような特性を有している。すなわち、最大整流効率Emax を与える最適入力電力レベルPopt が存在する。最大整流効率Emax を含み最大整流効率に近い効率が得られる最適入力電力レベル範囲ΔPopt が存在する。
【0025】
仮に、送信器10の出力するマイクロ波の電力レベルが時間的に最大送信電力レベルAmax で一定であるとすると、電子機器30で受信するマイクロ波の受信電力レベルは、送信器10に対する電子機器30の相対距離の増加に対して減少する。図6は、送信信号が最大送信電力レベルAmax で送信器30から送信された場合において、整流回路31の最大入力電力レベルPmax と送信器10に対する電子機器30の距離との関係を示している。図6に示す最適入力電力レベル範囲ΔPopt は、図5に示されている最大整流効率を含む最適範囲ΔPopt である。
【0026】
仮に、送信信号を振幅変調しない場合には、整流回路31の入力電力レベルが最適入力電力レベル範囲ΔPopt に存在しない距離範囲に電子機器30が位置する時には、最大整流効率は実現しない。
【0027】
そこで、本実施例では、送信信号の振幅である送信電力レベルは、0レベルから最大送信電力レベルAmax まで、1周期の間に直線的に増加させている。したがって、整流回路31の入力電力レベルも0レベルから最大電力レベルPmax まで、1周期の間に直線的に増加する。図示する様に、電子機器30が距離L1 、Lx 、L2 の位置に存在するとき、1周期において入力電力レベルは、それぞれ、ΔP1 、ΔPx ΔP2 だけ時間の経過に伴って増加する。入力電力レベルは最適電力レベルPopt を、1周期の増加過程において、必ず越える。したがって、これらの距離に電子機器30が存在するときは、整流回路31では最大整流効率Emax が、必ず実現することになる。
【0028】
一方、最大入力電力レベルPmax が最適入力電力レベル範囲ΔPopt の上限レベルを越えない距離に電子機器30が位置する時には、入力電力レベルは、増加の1周期において、最適入力電力レベル範囲ΔPopt の全範囲をとることはない。したがって、この場合には、最大整流効率は実現されない。最大入力電力レベルPmax が最適入力電力レベル範囲ΔPopt の上限レベルに等しくなる距離をLmax とする。すると、送信器10に対する電子機器30の距離がLmax よりも大きくなると、最大整流効率が実現されないことになる。換言すれば、最大整流効率が実現する最大距離Lmax が存在することになる。本実施例の電力伝送システムにおいて電子機器30の使用が予定されている距離範囲が存在する。最大距離Lmax は、この距離範囲の外の遠い位置に設定することが必要である。
【0029】
このように本実施例において、送信器10に対する電子機器30の相対距離が変化しても、最大整流効率を実現することができる。したがって、電子器機器30で得られる直流電力は、相対距離に係わらず最大値で一定とすることができる。電子機器30がバッテリを有さない電子タグの場合には、ウエイクアップを確実にすることが可能となる。
【実施例2】
【0030】
送信信号S1 の別の振幅変調の例を図7に示す。変調信号を0.5Hzの正弦波とした例である。正弦波の半周期が変調信号の1周期である。送信電力レベルは、図8に示すように変化する。整流回路31の入力電力レベルは、上記の正弦波で変化する送信電力レベルが電子機器30の相対距離に応じて減衰したレベルとなる。図示するように、電子機器30が距離L1 の位置に存在する場合には、送信電力レベルがレベルP1 をとる時刻T1 で、整流回路31の入力電力レベルは最適入力電力レベルopt となる。同様に時刻T4 においても、入力電力レベルは最適入力電力レベルopt となる。したがって、1周期において、最大整流効率が実現されるのは2回存在する。得られる整流電力はこの2回の整流電力の積算となる。
【0031】
距離L1 よりも遠い距離L2 に電子機器30が位置する場合には、時刻T1 よりも遅れて送信電力レベルがレベルP2 をとる時刻T2 において、整流回路31の入力電力レベルは最適入力電力レベルopt となる。同様に、時刻T4 よりも早い時刻T3 においても、入力電力レベルは最適入力電力レベルopt となる。したがって、1周期において、最大整流効率が実現されるのは2回存在する。得られる整流電力はこの2回の整流電力の積算となる。このように、本実施例においても、送信器10に対する電子機器30の相対距離が変化しても、最大整流効率を実現することができる。したがって、電子器機器30で得られる直流電力は、相対距離に係わらず最大値で一定とすることができる。電子機器30がバッテリを有さない電子タグの場合には、ウエイクアップを確実にすることが可能となる。
【0032】
なお、上記実施例1、2において、送信器10が電子機器30から応答信号S2 を受信した後は、その受信タイミング(望ましくは、回路等の伝搬遅延時間を考慮して、その時間だけ前のタイミング)における送信電力レベルを一定に維持してマイクロ波を連続して放射するようにしても良い。そのタイミングの送信電力レベルは、最大整流効率が実現される電力レベルである。したがって、そのタイミング以降は、より効率的な電力伝送が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、バッテリを有さないRF−IDタグ、ICタグ、電子鍵の起動のための無線による電力伝送に用いることができる。
【符号の説明】
【0034】
10…送信器
11…搬送波発生器
12…変調信号発生器
13…振幅変調器(ミキサ)
30…電子機器
31…整流回路
32…受信回路
33…ID(鍵)情報送信器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8