(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アミン化合物(G)が、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、またはイソオキサゾール骨格を有することを特徴とする請求項20〜27のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明をパートI、パートIIおよびパートIIIに分けて以下に説明する。各パートを独立して説明するが、各パートの説明において、そのパート発明の趣旨に矛盾しない限り他のパートで説明した成分、化合物、方法等を採用することもできる。
【0028】
本出願において、テトラカルボン酸残基とは、テトラカルボン酸から4つのカルボキシル基(−COOH)を除いた4価の基を意味する。アミン残基とは、アミン化合物からアミノ基(−NH
2)を除いた基を意味し、ジアミン残基は2価の基、トリアミン残基は3価の基である。
【0029】
また、本出願において、テトラカルボン酸成分とは、ポリイミドの原料となるテトラカルボン酸エステル、テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸等のカルボン酸化合物を意味し、アミン成分は、ポリイミドの原料となるアミン化合物、即ち3つ以上のアミノ基有するアミン化合物やジアミン化合物を意味する。
【0030】
テトラカルボン酸成分とアミン成分を、所定の工程において反応させてポリイミドを合成したとき、原料化合物に由来するテトラカルボン酸残基およびアミン残基を有するポリイミドが得られる。本件明細書において、ポリイミドの化学構造を特定する場合に、構造を化学式で直接的に示す代わりに、テトラカルボン酸成分およびアミン成分を説明することにより、化学構造の説明とする場合がある。
【0031】
本出願においてポリイミド前駆体は、本明細書で記載される所定の化合物を含有し、その後の製造方法によってポリイミドを形成するものであれば、その状態や形態に関して特に限定されない。パートI、パートIIおよびパートIIIの発明において、含有されるテトラカルボン酸成分、アミン成分(ジアミン、トリアミン)、および必要によりその他の成分が規定されており、従って、ポリイミド前駆体は、これらの規定される成分または化合物の混合物や、これらが形成する会合体や塩であってよい。また、存在する成分(化合物)がいくつかに分かれた状態(例えば異なる相で存在する)で存在していてもよく、例えば、一部の成分が固体で他の成分が液体や溶液である混合物のように、存在する成分の一部が他の成分と異なる状態であってもよい。これらは、ポリイミドを製造する工程で存在する成分が反応し、ポリイミドを形成するものであればよい。その形態は、特に限定されないが、粉状、塊状、ペレット、フィルムのような固体状、または液体、溶液、分散液のような液状、さらには、その他の物質との複合体であってもかまわない。
【0032】
<<パートI>>
パートIの発明は、適切に高い架橋密度のポリイミドを容易に製造できるポリイミド前駆体と、耐熱性、高温での寸法安定性に優れる架橋ポリイミド、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0033】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、これまで一般的に使用されてきたポリイミド前駆体であるポリアミド酸でなく、テトラカルボン酸と3つ以上のアミノ基を有する化合物を用いることで、適切に高密度に架橋されたポリイミドを容易に製造できることを見出し、パートIの発明に至った。
【0034】
すなわち、パートIの発明は、以下の事項に関する。
【0035】
1. すくなくとも、テトラカルボン酸(a)と、3つ以上のアミノ基を有するアミン化合物(b)を含むことを特徴とするポリイミド前駆体。
【0036】
2. テトラカルボン酸(a)として、一般式(1)で表される化合物から選ばれるテトラカルボン酸を少なくとも1種類以上含むことを特徴とする上記1に記載のポリイミド前駆体。
【0037】
【化7】
〔式中のX
1は、直接結合または、2価の基である。〕
3. テトラカルボン酸(a)として、ピロメリット酸および一般式:
【0038】
【化8】
で表され且つX
1が直接結合または下記一般式(2)で示されるいずれかの2価の基であるテトラカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種類を含むことを特徴とする上記1または2に記載のポリイミド前駆体。
【0039】
【化9】
〔式中のX
2は、2価の有機基である。〕
4. 前記アミン化合物(b)として、一般式(3)で表されるアミン化合物から選ばれる少なくとも1種類を含むことを特徴とする上記1〜3のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体。
【0040】
【化10】
〔式中のZ
1は3価以上の基、Z
2およびZ
3は直接結合または2価の基であり、R
31〜R
36はそれぞれ独立に1価の基を表し、n
1は3以上、m
1およびm
3は0〜4、m
2およびm
4〜m
6は0〜3の整数を表す。〕
5. さらに、ジアミン(C)を含むことを特徴とする上記1〜4のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体。
【0041】
6. 前記アミン化合物(b)と、存在する場合にジアミン(C)とからなる全ジアミン成分の総モル量に対し、前記アミン化合物(b)が1モル%以上含まれることを特徴とする上記1〜5のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体。
【0042】
7. ジアミン(C)として、一般式(4)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種類を含むことを特徴とする上記5または6に記載のポリイミド前駆体。
【0043】
【化11】
〔式中のY
1は直接結合または2価の基を表し、R
5〜R
7はそれぞれ独立に1価の基を表し、m
5〜m
7は0〜4の整数を表す。〕
8. 粒子径5mm以下の粉末である上記1〜7のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体。
【0044】
9. 上記1〜7のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体と、溶媒(D)を含むことを特徴とするポリイミド前駆体溶液。
【0045】
10. 上記1〜8のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体、または上記9の溶液中のポリイミド前駆体をイミド化処理する工程を含むことを特徴とする架橋構造を有するポリイミドの製造方法。
【0046】
11. テトラカルボン酸成分に由来する構造単位およびアミン成分に由来する構造単位を有するポリイミドであって、
前記アミン成分に由来する構造単位が、3つ以上のアミノ基を有するアミン化合物(bi)およびジアミン(Ci)にそれぞれ由来する構造単位を、下記式の値が、0.01〜1となる範囲で含むことを特徴とする架橋構造を有するポリイミド。
【0047】
[アミン化合物(bi)の総モル数]/([アミン化合物(bi)の総モル数]+[ジアミン(Ci)の総モル数])
12. ガラス転移温度が180℃以上であることを特徴とする上記11記載の架橋構造を有するポリイミド。
【0048】
13. 膜厚10μmのフィルムで測定したときの50℃〜200℃の平均線膨張係数が60ppm/K以下であること特徴とする上記11または12に記載の架橋構造を有するポリイミド。
【0049】
14. TGAで求めた5%重量減少温度が、450℃以上であることを特徴とする上記11〜13のいずれか1項に記載の架橋構造を有するポリイミド。
【0050】
15. 上記11〜14のいずれか1項に記載の架橋構造を有するポリイミドを含有することを特徴とするポリイミドフィルム。
【0051】
16. ガラス層、金属層、樹脂層、セラミック層のいずれかと、上記11〜14のいずれか1項に記載の架橋構造を有するポリイミドを含むことを特徴とする積層体。
【0052】
<パートIの発明の効果>
パートIの発明によって、適切に高い架橋密度のポリイミドを容易に製造できるポリイミド前駆体と、耐熱性、高温での寸法安定性、折り曲げ耐性に優れる架橋ポリイミド、そしてその製造方法を提供することができる。
【0053】
<パートIの発明の詳細>
本出願の以下の説明において、3つ以上のアミノ基を有するアミン化合物(b)(トリ
アミン化合物、テトラアミン化合物等)については、単に「アミン化合物(b)」という場合がある。
【0054】
(ポリイミド前駆体)
パートIの発明のポリイミド前駆体は、イミド化反応によりポリイミドを形成するポリイミド前駆体であって、すくなくとも、テトラカルボン酸(a)と、3つ以上のアミノ基を有するアミン化合物(b)を含む。
【0055】
ポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸(a)として、好ましくは一般式(1)で表されるテトラカルボン酸から少なくとも1種類以上含む。
【0057】
式中、X
1は、直接結合または、2価の基である。
【0058】
テトラカルボン酸(a)として、ピロメリット酸および一般式:
【0059】
【化13】
で表され且つX
1が直接結合または下記一般式(2):
【0060】
【化14】
〔式中のX
2は、2価の有機基である。〕
で示されるいずれかの2価の基であるテトラカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上を含む場合、耐熱性に優れることから、より好ましい。
【0061】
X
2は、好ましくは、芳香環、脂環構造を含む2価の有機基であり、より好ましくは、一般式:
【0063】
で表される2価の基から選ばれるが、R
111〜R
124は、好ましくは、直接結合、および
【0064】
【化16】
からなる群より選ばれる基である。
【0065】
テトラカルボン酸(a)としては、好ましくは、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸、ピロメリット酸、オキシジフタル酸、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、m−ターフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピレン)ジフタル酸、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、4,4’−(ジメチルシラジイル)ジフタル酸、4,4’−(1,4−フェニレンビス(オキシ))ジフタル酸等であり、特に好ましくは3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、ピロメリット酸、オキシジフタル酸、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピレン)ジフタル酸等である。
【0066】
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、ピロメリット酸等を使用すると耐熱性と寸法安定性が優れることから好ましく、4,4’−オキシジフタル酸、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピレン)ジフタル酸等を使用すると、溶解性とポリイミドの着色が低減できることから好ましい。
【0067】
パートIの発明のポリイミド前駆体は、特に限定されるわけではないが、3つ以上のアミノ基を有するアミン化合物(b)として、耐熱性に優れることから、芳香環が含まれる化合物を少なくとも1種類以上含むことが好ましく、一般式(3)で表される化合物を少なくとも1種類以上含むことがより好ましい。
【0069】
式中、Z
1は3価以上の基、Z
2およびZ
3は直接結合または2価の基であり、R
1〜R
6はそれぞれ独立に1価の基を表し、n
1は、Z
1の価数であって3以上の整数を表し、好ましくは6以下、より好ましくは3または4の整数であり、m
1およびm
3は0〜4、m
2およびm
4〜m
6は0〜3の整数を表す。
【0070】
Z
1は、好ましくは、3価の窒素原子(N)、ヘテロ原子を有していてもよい3価以上の芳香族基またはヘテロ原子を有していてもよい3価以上の脂肪族基を表す。特に限定されないが、前記一般式(3)中のZ
1は、一般式(5)で表される3価以上の基であることが好ましい。
【0072】
式中のR
51〜R
100は、それぞれ独立に、直接結合または下記式(6)で表される2価の基の一つを表し、R
101は水素または脂肪族基、芳香族基(どちらも好ましくは炭素数18程度まで)を表す。
【0074】
但し、R
51〜R
53は、直接結合または式:
【0075】
【化20】
で示される基から選ばれることが好ましい。
【0076】
また特に限定されないが、前記一般式(3)中のZ
2およびZ
3は、直接結合または上記式(6)で表される2価の基であることが好ましく、その中でも耐熱性に優れることから、直接結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、イソプロピリデン結合、ヘキサフルオロイソプロピリデン結合を有することがより好ましく、直接結合、エーテル結合であることが特に好ましい。
【0077】
式(3)中のR
1〜R
6としては、炭素数12以下の芳香族基(例えば、フェニル基、ベンジル基、フェノキシ基)、炭素数1〜6のアルキル基、フッ素、塩素等が好ましい。
【0078】
m
1は好ましくは0、1または2、m
2は好ましくは0または1、m
3は好ましくは0、1または2、m
4は好ましくは0または1、m
5およびm
6は独立して好ましくは0または1である。
【0079】
アミン化合物(B)は、反応性に優れることから、その化学構造中のアミノ基と結合する環が複素環や、キノン構造を有さない芳香環であることが好ましく、また、テトラカルボン酸誘導体とイミド化反応以外の副反応を抑制できるため、その化学構造中に水酸基、チオール、2級アミンを含まないことがより好ましい。
【0080】
アミン化合物(B)の具体例としては、
1,3,5−トリアミノベンゼン、4,4’,4”−トリアミノトリフェニルアミン、
3,5−ジ(4−アミノフェノキシ)アニリン、3,5−ジ(3−メチル,4−アミノフェノキシ)アニリン、3,5−ジ(3−メトキシ,4−アミノフェノキシ)アニリン、3,5−ジ(2−メチル,4−アミノフェノキシ)アニリン、3,5−ジ(2−メトキシ,4−アミノフェノキシ)アニリン、3,5−ジ(3−エチル,4−アミノフェノキシ)アニリン、
1,3,5−トリ(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3,5−トリ(3−メチル,4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3,5−トリ(3−メトキシ,4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3,5−トリ(2−メチル,4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3,5−トリ(2−メトキシ,4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3,5−トリ(3−エチル,4−アミノフェノキシ)ベンゼン、
1,3,5−トリ(4−アミノフェニルアミノ)ベンゼン、1,3,5−トリ(3−メチル,4−アミノフェニルアミノ)ベンゼン、1,3,5−トリ(3−メトキシ,4−アミノフェニルアミノ)ベンゼン、1,3,5−トリ(2−メチル,4−アミノフェニルアミノ)ベンゼン、1,3,5−トリ(2−メトキシ,4−アミノフェニルアミノ)ベンゼン、1,3,5−トリ(3−エチル,4−アミノフェニルアミノ)ベンゼン、
1,3,5−トリ(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3,5−トリ(3−メチル,4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3,5−トリ(3−メトキシ,4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3,5−トリ(2−メチル,4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3,5−トリ(2−メトキシ,4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3,5−トリ(3−エチル,4−アミノフェニル)ベンゼン、
1,3,5−トリ(4−アミノフェニル)アミン、1,3,5−トリ(3−メチル,4−アミノフェニル)アミン、1,3,5−トリ(3−メトキシ,4−アミノフェニル)アミン、1,3,5−トリ(2−メチル,4−アミノフェニル)アミン、1,3,5−トリ(2−メトキシ,4−アミノフェニル)アミン、1,3,5−トリ(3−エチル,4−アミノフェニル)アミン、
トリス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)メタン、トリス(4−(3−メチル,4−アミノフェノキ)フェニル)メタン、トリス(4−(3−メトキシ,4−アミノフェノキシ)フェニル)メタン、トリス(4−(2−メチル,4−アミノフェノキシ)フェニル)メタン、トリス(4−(2−メトキシ,4−アミノフェノキシ)フェニル)メタン、トリス(4−(3−エチル,4−アミノフェノキシ)フェニル)メタン、
トリス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)エタン、トリス(4−(3−メチル,4−アミノフェノキシ)フェニル)エタン、トリス(4−(3−メトキシ,4−アミノフェノキシ)フェニル)エタン、トリス(4−(2−メチル,4−アミノフェノキシ)フェニル)エタン、トリス(4−(2−メトキシ,4−アミノフェノキシ)フェニル)エタン、トリス(4−(3−エチル,4−アミノフェノキシ)フェニル)エタン、
4−(4−アミノフェノキシ)ベンゼン−1,3−ジアミン、4−(4−アミノフェノキシ)ベンゼン−2,4−ジアミン、
3,5−ジアミノ−N−(4−アミノフェニル)ベンズアミド、3,5−ジアミノ−N−(4−アミノフェニル)−4−メトキシベンズアミド、
3,3’−ジアミノベンジジン
等を挙げることができ、好ましくは、1,3,5−トリアミノベンゼン、4,4’,4”−トリアミノトリフェニルアミン、1,3,5−トリ(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4−(4−アミノフェノキシ)ベンゼン−1,3−ジアミン、3,5−ジアミノ−N−(4−アミノフェニル)ベンズアミド、3,5−ジアミノ−N−(4−アミノフェニル)−4−メトキシベンズアミドが好ましく、4,4’,4”−トリアミノトリフェニルアミン、4−(4−アミノフェノキシ)ベンゼン−1,3−ジアミン、より好ましくは、
4,4’,4”−トリアミノトリフェニルアミン、4−(4−アミノフェノキシ)ベンゼン−1,3−ジアミン、3,5−ジアミノ−N−(4−アミノフェニル)ベンズアミド、3,5−ジアミノ−N−(4−アミノフェニル)−4−メトキシベンズアミドである。また、これらのアミン化合物は単独あるいは2種以上混合して用いられてもよい。
【0081】
パートIの発明のポリイミド前駆体は、必要に応じて、ジアミン(C)を含むことができる。特に限定されないが、ジアミン(C)として、一般式(4)で表される化合物のうち少なくとも1種類以上含まれることが耐熱性に優れることから好ましい。
【0083】
式中、Y
1は直接結合または2価の基を表し、R
5〜R
7はそれぞれ独立に1価の基を表し、m
5〜m
7は0〜4の整数を表す。
【0084】
また特に限定されないが、前記一般式(4)中のY
1は、前述の式(6)で表される基、下記一般式(7)で表される2価の基から選ばれることが好ましい。
【0086】
式中、R
9はそれぞれ独立に(一分子内でも独立に)、直接結合または前記式(6)で表される2価の基を表す。R
9としては、耐熱性に優れることから、直接結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、イソプロピリデン結合、ヘキサフルオロイソプロピリデン結合を有することがより好ましく、直接結合、エーテル結合であることが特に好ましい。
【0087】
Y
1としては、耐熱性に優れることから、直接結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、イソプロピリデン結合、ヘキサフルオロイソプロピリデン結合を有することがより好ましく、直接結合、エーテル結合であることが特に好ましい。
【0088】
R
5〜R
7は、炭素数12以下の芳香族基(例えば、フェニル基、ベンジル基、フェノキシ基)、炭素数1〜6のアルキル基、フッ素、塩素等が好ましい。
【0089】
m
5〜m
7は好ましくは0、1または2である。
【0090】
ジアミン(C)の具体例としては、例えば、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、2,5−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4、4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス−(4−アミノフェニル)プロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン等が挙げられる。なお、これらのジアミン化合物は単独あるいは2種以上混合して用いられてもよい。なお、これらの中でも、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンが好ましい。
【0091】
パートIの発明のポリイミド前駆体において、[アミン化合物(b)の総モル数]/([アミン化合物(b)の総モル数]+[ジアミン(C)の総モル数])の値が、0.01〜1であることが好ましく、0.03〜1であることがより好ましく、0.1〜1であることが特に好ましい。この範囲であれば、高温での寸法安定性や、耐溶剤性に優れる。
【0092】
パートIの発明のポリイミド前駆体は、特に限定されるわけではないが、テトラカルボン酸成分の総カルボン酸基数(モル数)/アミン成分の総アミン基数(モル数)の値は、1〜3が好ましく、1.6〜2.4がより好ましく、1.8〜2.2が更に好ましく、実質的に2であることが特に好ましく。この範囲であれば、耐熱性や、高温での寸法安定性、耐溶剤性に優れる。
【0093】
パートIの発明のポリイミド前駆体は、ポリイミドを形成した場合の架橋点間分子量αが、好ましくは500〜100,000g/mol、より好ましくは1,300〜10,000の範囲内であることが、更に好ましくは1,500〜5,000、特に好ましくは1,800〜4,000である。架橋点間分子量αは、樹脂の伸度と概ね正の相関があり、樹脂弾性率と概ね負の相関があるため、この範囲であれば、高伸度、高弾性率、折り曲げ耐性、高温での寸法安定性が両立できる。ここでの架橋点間分子量αとは、公知の方法(例えば、高分子化学 P.J.フローリ著、岡小天・金丸競訳、丸善株式会社、昭和31発行に記載の方法)を好適に用いることができ、その値は、理論値として求められる値であっても、粘弾性測定などの実験値から求められる値であっても良い。
【0094】
理論値として求められる架橋点間分子量αについて、以下に述べる。
【0095】
樹脂中に、k種(kは整数)のモノマーX成分が含まれる場合、このうちi番目(iは1〜kの整数)のモノマーX成分の配合量をa
i(単位:g)とする。また、樹脂中に、l種(lは整数)のモノマーY成分が含まれる場合、このうちj番目(jは1〜lの整数)のモノマーY成分の配合量をb
j(単位:g)とすると、全樹脂の重量W(単位:g)は式(1)で求められる。
【0097】
i番目のモノマーXの官能基当量をE
i(単位:g/mol)、i番目のモノマーX 1分子が持つ官能基の数をx
iとする。また、j番目のモノマーYの官能基当量をH
j(単位:g/mol)、j番目のモノマーY 1分子が持つ官能基の数をy
jとする。全樹脂に含まれる架橋点の数c(単位:mol)は、モノマーXとモノマーYとの配合比が、化学量論量の場合、モノマーYが過剰の場合、および、モノマーXが過剰の場合で求め方が異なる。どの求め方を採用するかは、式(2)により求められる、モノマーXとモノマーYとの配合比を表す配合比指数βにより決定する。
【0099】
ここで、β=1である場合は、モノマーXとモノマーYとの配合比が化学量論量であり、架橋点の数cは式(3)により求められる。この架橋点の数cは、反応し得る全てのモノマーXの官能基と全てのモノマーYの官能基とが反応することによって生じる架橋点の数を表す。
【0101】
また、β>1の場合は、モノマーYが化学量論量よりも過剰であり、架橋点の数cは式(4)により求められる。
【0103】
また、β<1の場合は、モノマーXが化学量論量よりも過剰であり、架橋点の数cは式(5)により求められる。
【0105】
ここで、E
i×x
i、およびH
j×y
j
はそれぞれi番目のモノマーX成分の平均分子量、およびj番目のモノマーY成分の平均分子量を表す。また、(x
i−2)は、i番目のモノマーX成分1分子中の全てのモノマーXの官能基がモノマーYと反応し、架橋構造に取り込まれることによって生じる架橋点の数を表す。また、(y
j−2)はj番目のモノマーY成分1分子中の全ての官能基がモノマーXと反応し、架橋構造に取り込まれることによって生じる架橋点の数を表す。例えば、i番目のモノマーXが4官能モノマーXの場合、1分子は4個の官能基を持ち、生じる架橋点の数は4−2の2個となる。また、j番目のモノマーY成分が1分子当たり2個の官能基を持つ場合、生じる架橋点の数は2−2の0個となる。
【0106】
上述した式により求められたW、cを用い、架橋点間分子量αは式(6)により求められる。
【0108】
なお、ポリイミドの場合では、モノマーXをテトラカルボン酸成分、モノマーYをアミン成分(ジアミンおよび3つ以上のアミノ基を有する化合物)とすると、モノマーXの配合量をa
i、モノマーYの配合量をb
jは、イミド化した場合に生じる脱離成分(例えば、水やアルコール)の重量を除した値を用いる。また、モノマーX(テトラカルボン酸成分)は、イミド環を形成する2つのカルボン酸基を1つの官能基として計算する。
【0109】
実験値から求められる値として求められる架橋点間分子量αについて、以下に述べる。
【0110】
粘弾性測定結果より、貯蔵弾性率が極小となる点での絶対温度T、及び極小点における貯蔵弾性率E’を求め、樹脂の密度ρ、気体定数Rとした場合、架橋点間分子量αは、式(7)により求めることもできる。ポリイミド組成中にケトン結合や不飽和結合などの付加的な架橋形成を生じる官能基を含む場合には、実験値より求めることが好ましい。
【0112】
パートIの発明の架橋点間分子量αは、特に限定されるわけではないが、前述の式(6)より求められる値を好適に採用することができる。ポリイミド組成中にケトン結合や不飽和結合などの付加的な架橋形成を生じる官能基を含むとき、通常は、上記のとおり実験値より求めることが好ましいが、簡易的に、前述の式(6)より求められる値を架橋点間分子量αとして採用してもよい。付加的な架橋形成官能基は、アミン成分中のアミノ基(−NH
2)の数の75%以下が好ましく、より好ましくは50%以下であり、さらに好ましくは25%以下、特に好ましくは10%以下である。
【0113】
パートIの発明のポリイミド前駆体の平均分子量は、特に限定されるわけではないが、実質上、低分子化合物で構成されるため、50〜5,000が好ましく、100〜2,000がより好ましく、200〜1,000が特に好ましい。この範囲であるとポリイミド前駆体が低分子量であり、低粘度と高固形分を両立したポリイミド前駆体溶液が得られる。ここでの分子量は、GPC測定による数平均分子量や、TOF−MASS,FAB−MASSから求められる分子量であってもよく、その他公知の分析方法の値を採用しても良い。また、実質的に重合が生じない条件では、ポリイミドを形成する各成分の平均分子量を好適に採用することもできる。
【0114】
パートIの発明のポリイミド前駆体の対数粘度(ηinh)は、実質上、低分子化合物で構成されるため、0.2未満であり、好ましくは0.15未満、より好ましくは0.1未満である。この範囲であるとポリイミド前駆体が低分子量であり、低粘度と高固形分を両立したポリイミド前駆体溶液が得られる。
【0115】
パートIの発明のポリイミド前駆体は、実質上、低分子化合物で構成されるため、ポリアミド酸の繰り返し単位を含まないことが好ましい。ポリアミド酸の繰り返し単位の確認は、NMRやFT−IR等の公知の分析方法を好適に用いることができる。ポリアミド酸の繰り返し単位(モル)の比率は、アミン成分のアミノ基の総モル(もしくは、テトラカルボン酸成分のカルボニル基の総モルの1/2倍)あたり、0.05モル/モル以下、好ましく0.03モル/モル以下、より好ましくは0.01モル/モル以下であり、特に好ましくは、検出下限以下である。この範囲であるとポリイミド前駆体が低分子量であり、低粘度と高固形分を両立したポリイミド前駆体溶液が得られる。
【0116】
パートIの発明のポリイミド前駆体は、粉末であってもよく、好ましくは平均粒子径5mm以下、より好ましくは1mm以下、特に好ましくは0.5mm以下であり、最大粒子径5mm以下、より好ましくは1mm以下、特に好ましくは0.5mm以下である。これらの粒子径は、レーザー回折法、画像イメージング法、重力沈降法などの公知の測定方法を用い、公知の解析方法を使用した結果を用いることができる。
【0117】
(ポリイミド前駆体溶液)
ポリイミド前駆体溶液については、パートI、パートIIおよびパートIIIをまとめて説明する。この項目において、特に区別しない限り、「ポリイミド前駆体」はパートI、パートIIおよびパートIIIの全てのポリイミド前駆体を意味する。
【0118】
ポリイミド前駆体は、溶液および分散液の形態(合わせてポリイミド前駆体溶液という)とすることも好ましい。即ち、ポリイミド前駆体溶液は、前記のポリイミド前駆体が溶解した溶液もしくは、前記のポリイミド前駆体が分散した液であればよく、前記のポリイミド前駆体の粉末を溶媒に溶解、分散したり、溶媒にテトラカルボン酸成分とアミン成分をそれぞれ別個に投入し、溶解、分散することでも得られる。
【0119】
ポリイミド前駆体(および溶液)には、必要に応じて、化学イミド化剤(無水酢酸などの酸無水物や、ピリジン、イソキノリンなどのアミン化合物)、酸化防止剤、フィラー(無機粒子、有機粒子)、染料、顔料、シランカップリング剤などのカップリング剤、プライマー、難燃材、消泡剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤(流動補助剤)、剥離剤、界面活性剤などを添加することができる。これらの添加剤は、ポリイミド前駆体が溶液状態でなく、一部または全部が固体の場合、例えば粉体の場合であっても添加することができる。
【0120】
ポリイミド前駆体溶液で用いる溶剤(D)としては、好ましくは、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどを用いることができる。さらに、その他の一般的な有機溶剤、即ち酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、プチルセロソルブ、2−メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども用いることができる。
【0121】
ポリイミド前駆体溶液は、好ましくは低分子化合物で構成されるため、高濃度でも低粘度の溶液となる。特に限定されるわけではないが、30℃における溶液のE型粘度計で測定される粘度が、好ましくは、1000Pa・sec以下、より好ましくは0.01〜500Pa・sec、特に好ましくは0.05〜300Pa・secである。この範囲であれば、その後のポリイミド製造等のハンドリング性に優れる。一方、固形分濃度(好適には実施例記載の方法で求められる)は、1%以上が好ましく、5%〜80%がより好ましく、10%〜50%が特に好ましい。
【0122】
ポリイミド前駆体溶液は、フィルム製造用ポリイミド前駆体として好適に用いることができる。特に限定されるわけではないが、ドープ(ポリイミド前駆体溶液)の30℃における粘度は、好ましくは、1000Pa・sec以下、より好ましくは10〜500Pa・sec、特に好ましくは50〜300Pa・secである。一方、固形分濃度(好適には実施例記載の方法で求められる)は、5%以上が好ましく、10%〜80%がより好ましく、20%〜50%が特に好ましい。この範囲であれば、その後のポリイミドフィルム製造時のハンドリング性に優れる。
【0123】
ポリイミド前駆体は、耐熱性塗料(塗料の原料、添加剤)として好適に用いることができる。特に限定されるわけではないが、ポリイミド前駆体は低分子化合物で構成されるため、一般的なポリイミド前駆体に比べ、高濃度且つ低粘度の塗料が得られる。そのため例えば、ディップコート、バーコート、スピンコート、ブレードコート、ドクターコート、ダイコートグラビアコート、スプレーコート、超音波スプレーコート、静電塗装などの各種コーティング方法や、インクジェット、凸版、凹版、平版、孔版、スクリーンなどの各種印刷方法に好適に用いることができる。塗料に使用される溶剤は、例えばポリイミド前駆体溶液に関して説明した前述の溶剤を使用することができる。
【0124】
(ポリイミド前駆体・無機粒子複合材)
パートI、パートIIおよびパートIIIの発明のポリイミド前駆体(および溶液)には、必要に応じて、無機粒子(E)を含むことができる。無機粒子として、例えば、シリカ、アルミナ(酸化アルミニウム)、ベリリア(酸化ベリリウム)、マグネシア(酸化マグネシウム)、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、膨張性黒鉛、カーボンナノチューブが挙げられる。分散性や着色性から、好ましくは、アルミナ(酸化アルミニウム)、マグネシア(酸化マグネシウム)、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素が好適である。これらは、1種のみ使用しても良く、または2種以上を混合して用いても良い。また、無機粒子(E)の粒子径としては、レーザー回折粒度分布計で求められる平均粒子径が20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下であることが更に好ましい。また、無機粒子は、ポリイミド前駆体溶液の固形分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上、特に好ましくは50質量部以上用いることが好ましい。
【0125】
(架橋構造を有するポリイミド)
パートIの発明の架橋構造を有するポリイミドは、テトラカルボン酸成分に由来する構造単位およびアミン成分に由来する構造単位を有するポリイミドであって、前記アミン成分に由来する構造単位が、3つ以上のアミノ基を有するアミン化合物(bi)およびジアミン(Ci)にそれぞれ由来する構造単位を、下記式の値が、0.01〜1となる範囲で含む。
【0126】
[アミン化合物(bi)の総モル数]/([アミン化合物(bi)の総モル数]+[ジアミン(Ci)の総モル数])
【0127】
ここで、式、[アミン化合物(bi)の総モル数]/([アミン化合物(bi)の総モル数]+[ジアミン(Ci)の総モル数])の値は、好ましくは0.1〜1、より好ましくは0.2〜1、更に好ましくは0.25〜1、特に好ましくは0.5〜1である。この範囲であれば、高い架橋密度を達成できるため、ガラス転移温度が高く、寸法安定性に優れる。
【0128】
パートIの発明の架橋構造を有するポリイミドは、特に限定されるわけではないが、前述のポリイミド前駆体により好適に製造される。従って、テトラカルボン酸成分は、前述のテトラカルボン酸(a)が好ましい。また同様に、3つ以上のアミノ基を有するアミン化合物(bi)は、前述の3つ以上のアミノ基を有するアミン化合物(b)が好ましく、またジアミン(Ci)は、前述のジアミン(C)が好ましい。
【0129】
架橋構造を有するポリイミドは、架橋点間分子量αが、好ましくは500〜100,000g/mol、より好ましくは1,300〜10,000の範囲内であることが、更に好ましくは1,500〜5,000、特にこのましくは1,800〜4,000である。この範囲であれば、高温での寸法安定性と、折り曲げ耐性に優れる。
【0130】
架橋構造を有するポリイミドは、特に限定されるわけではないが、ガラス転移温度が180℃以上、好ましくは200℃以上、より好ましくは220℃以上、更に好ましくは230℃以上、特に好ましくは260℃以上である。この範囲であると寸法安定性に優れることから好ましい。
【0131】
一方で、パートIの発明の架橋構造を有するポリイミドは、加熱時の変形が小さいことから、比較的ガラス転移温度が低いポリイミドでも高温で使用が可能であり、ガラス転移温度としては、180℃〜300℃が好ましく、180℃〜260℃がより好ましく、180℃〜240℃が更に好ましく、180℃〜230℃が特に好ましい。
【0132】
ここでのガラス転移温度とは、例えば、熱可塑性ポリイミド層のみのフィルムや多層ポリイミドフィルムを用い、動的粘弾性測定(DMS)や、熱機械分析(TMA)、示差走査熱量測定(DSC)、示差熱分析(DTA)より求められ公知の条件、解析方法を用いたいずれのガラス転移温度を採用してもよい。
【0133】
架橋構造を有するポリイミドは、適切に高密度な架橋構造を有することができるため、熱膨張が小さく、50℃〜200℃における平均線膨張係数(Tgが200℃以下の場合は、50℃〜Tgにおける平均線膨張係数)は、特に限定されるわけではないが、70ppm/K以下、好ましくは60ppm/K未満、より好ましくは55ppm/K以下、50ppm/K以下、45ppm/K以下、更に好ましくは40ppm/K以下、特に好ましくは10ppm/K以下である。
【0134】
架橋構造を有するポリイミドは、適切に高密度な架橋構造を有することができるため、耐熱性に優れ、TGAで求めた5%重量減少温度は、好ましくは430℃以上、より好ましくは450℃以上、さらに好ましくは470℃以上、特に好ましくは500℃以上、パートIの発明にあっては、最も好ましくは530℃以上である。
【0135】
架橋構造を有するポリイミドは、適切に高密度な架橋構造を有することができるため、耐溶剤性に優れる。限定されるわけではないが、好ましくは前述のポリイミド前駆体溶液で用いる溶剤(D)への耐溶剤性を有し、より好ましくはNMPなどのアミド系溶剤への耐溶剤性を有する。
【0136】
架橋構造を有するポリイミドは、特に限定されるわけではないが、耐熱性と無色透明性を有するため、ディスプレイ、照明、光学機器、太陽光発電の基板に好適に用いることができる。特に限定されるわけではないが、膜厚10μmとした時の全光透過率は、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上である。一方、膜厚10μmとした時の420nmの光透過率は、60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、特に好ましくは80%以上である。
【0137】
架橋構造を有するポリイミドは、種々の形状が可能であるが、好ましい形態の一つはフィルムである。即ち、発明のポリイミドフィルムは、発明の架橋構造を有するポリイミドを含み、フィルムを構成する樹脂成分がこのポリイミドから実質的になることが好ましい。好ましくは、生産性に優れるため、膜厚1〜250μmであり、より好ましくは5〜150μm、特に好ましくは、7.5〜75μmである。
【0138】
発明の積層体は、ガラス層、金属層、樹脂層、セラミック層のいずれかと、発明の架橋ポリイミドを積層した積層体である。この積層体の膜厚は、生産性に優れるため、膜厚5〜150μmがより好ましく、膜厚10〜150μmが特に好ましい。
【0139】
(架橋構造を有するポリイミドの製造方法)
架橋構造を有するポリイミドは、前述のポリイミド前駆体をイミド化することで製造される。特に限定されるわけではないが、製造方法としては、発明のポリイミド前駆体を用いる以外は、公知のポリイミド製造方法を好適採用することができる。
【0140】
具体的には、上記で得られたポリイミド前駆体(溶液)を、熱的または化学的方法により重縮合反応と閉環反応(イミド環の形成)を行うことで、ポリイミドを得るが、ポリイミド前駆体を熱処理する熱的方法(熱イミド化法)、脱水剤を用いる化学的方法(化学イミド化法)のいずれも用いられる。また、減圧下で加熱してイミド化する方法も用いることができる。以下に各方法について説明する。
【0141】
熱的方法として、上記ポリイミド前駆体を加熱処理により重縮合反応およびイミド化反応を進行させると同時に、溶媒を蒸発させる等により行う方法を例示することができる。この方法により、固形のポリイミドを得ることができる。加熱の条件は特に限定されないが、200℃以下の温度で3分〜120分の時間範囲で有機溶媒を除去した後、400℃以下の温度で1分〜200分の時間範囲で行うのが好ましい。
【0142】
また化学的方法として、上記ポリイミド前駆体に化学量論以上の脱水剤と触媒を加えることで重縮合反応およびイミド化反応を進行させると同時に、有機溶媒を蒸発させる等により行う方法を例示することができる。この方法により、固形のポリイミドを得ることができる。化学的方法に使用される脱水剤としては、例えば無水酢酸等の脂肪族酸無水物、無水安息香酸等の芳香族酸無水物などが挙げられる。また触媒としては、例えばトリエチルアミンなどの脂肪族第3級アミン類、ジメチルアニリン等の芳香族第3級アミン類、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、イソキノリン等の複素環式第3級アミン類などが挙げられる。化学的方法の際の条件は100℃以下の温度が好ましく、有機溶媒の蒸発は、200℃以下の温度で約5分〜120分の時間の範囲で行うのが好ましい。
【0143】
また、ポリイミドを得るための別の方法として、上記の熱的または化学的方法において溶媒の蒸発を行わない方法もある。具体的には、溶媒中で熱的イミド化処理または脱水剤による化学的イミド化処理を行って得られるポリイミド溶液を貧溶媒中に投入して、ポリイミド樹脂を析出させ、未反応モノマーを取り除いて精製、乾燥させ固形のポリイミドを得る方法である。貧溶媒としては、溶媒とは良好に混合するがポリイミドは溶解しにくい性質のものを選択し、例示すると、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ベンゼン、メチルセロソルブ、メチルエチルケトン等が挙げられるがこれに限定されない。
【0144】
また、減圧下で加熱して重縮合反応およびイミド化反応を進行させる方法も挙げられる。この方法によれば、重縮合およびイミド化によって生成する水(パートIIの発明にあっては水および/またはアルコール)を積極的に系外に除去できるので、ポリイミド前駆体の加水分解を抑えることが可能で高分子量のポリイミドが得られる。
【0145】
減圧下で加熱イミド化する方法の加熱条件は80〜400℃が好ましいが、イミド化が効率よく行われ、しかも水が効率よく除かれる100℃以上がより好ましく、さらに好ましくは120℃以上である。最高温度は目的とするポリイミドの熱分解温度以下が好ましく、通常のイミド化の完結温度すなわち250〜350℃程度が通常適用される。減圧する圧力の条件は、低圧条件が好ましいが、具体的には0.9〜0.001気圧、好ましくは0.8〜0.001気圧、より好ましくは0.7〜0.01気圧である。
【0146】
(ポリイミド前駆体の用途、積層体、その製造方法)
パートI、パートII、およびパートIIIの発明のポリイミド前駆体は、種々の用途が可能であり、例えば前述のとおりポリイミドフィルムの製造用、ポリイミド積層体におけるポリイミド層製造用のコーティング材料、電池その他の各種用途におけるバインダーおよび接着剤として使用することができる。
【0147】
ポリイミド積層体は、例えばガラス、金属、樹脂、セラミック等の材料で形成された基材層または基体と、ポリイミド層とが積層された構造である。ここでポリイミド層は、基材層または基体の表面を部分的に被覆していてもよい。製造方法としては、ポリイミド前駆体からポリイミドフィルムを製造し、前記基材層または基体と貼り合わせる方法や、前記基材層または基体の表面の少なくとも一部にポリイミド前駆体溶液を塗布した後、イミド化して積層体とする方法が挙げられる。本発明のポリイミド前駆体は、優れた特性のポリイミドを容易に製造できるので、耐熱電線絶縁層の製造、ディスプレイ用基板、タッチパネル用基板、太陽電池用基板、薄膜半導体用基板の製造、摺動部品の製造、フレキシブル回路基板の製造用途において好適に使用することができる。
【0148】
<<パートII>>
パートIIの発明は、適切に高い架橋密度のポリイミドを容易に製造できるポリイミド前駆体と、耐熱性、高温での寸法安定性、折り曲げ耐性に優れるに優れる架橋ポリイミド、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0149】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、特定のテトラカルボン酸エステル化合物と、特定の3つ以上のアミノ基を有する化合物の組合せにより、フィルム、塗膜に適切な架橋密度のポリイミドを製造できるポリイミド前駆体を見出し、パートIIの発明を完成した。
【0150】
すなわち、パートIIの発明は、以下の事項に関する。
【0151】
1. すくなくとも、
一般式(II−1)で表される化合物から選ばれるテトラカルボン酸エステル誘導体(A)と、
一般式(II−3)で表される化合物から選ばれる、3つ以上のアミノ基を有するアミン化合物(B)
を含むことを特徴とするポリイミド前駆体。
【0152】
【化23】
〔式中のX
1は直接結合もしくは、下記式(II−2)で示される基から選ばれる2価の基を表し、R
11〜R
30は、それぞれ独立に水素、炭素数1〜8の1価の脂肪族基(ただし、テトラカルボン酸となる場合を除く)を表す。〕
【0153】
【化24】
〔式中のX
2は、2価の有機基である。〕
【0154】
【化25】
〔Z
1は3価の窒素原子、3価以上の芳香族基、3価以上の脂肪族基、Z
2およびZ
3は直接結合または2価の基であり、R
31〜R
36は1価の芳香族基、脂肪族基、ハロゲン、n
1は3以上、m
1およびm
3は0〜4、m
2およびm
4〜m
6は0〜3の整数を表す。〕
2. さらに、ジアミン(C)を含むことを特徴とする上記1に記載のポリイミド前駆体。
【0155】
3. 下記式で示される前記アミン化合物(B)の割合が、0.01〜1の範囲であることを特徴とする上記2に記載のポリイミド前駆体。
【0156】
[前記アミン化合物(B)の総モル数]/([前記アミン化合物(B)の総モル数]+[ジアミン(C)の総モル数])
4. ポリイミドを形成した場合の架橋点間分子量αが、500〜10,000g/molの範囲内であることを特徴とする上記1〜3のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体。
【0157】
5. ジアミン(C)として、一般式(II−4)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種類以上を含むことを特徴とする上記2又は3に記載のポリイミド前駆体。
【0158】
【化26】
〔式中のY
1は直接結合または2価の基を表し、R
41〜R
43はそれぞれ独立に1価の芳香族基、脂肪族基、ハロゲンを表し、m
5〜m
7は0〜4の整数を表す。〕
6. 上記1〜5のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体と、溶媒(D)を含むことを特徴とするポリイミド前駆体溶液。
【0159】
7. 上記1〜5のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体を含むことを特徴とするフィルム製造用ポリイミド前駆体溶液。
【0160】
8. 上記1〜5のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体を含むことを特徴とするポリイミド塗膜形成用塗料。
【0161】
9. 上記1〜5のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体をイミド化して架橋構造を有するポリイミドを製造することを特徴とするポリイミドの製造方法。
【0162】
10. テトラカルボン酸成分に由来する構造単位およびアミン成分に由来する構造単位を有するポリイミドであって、
前記アミン成分に由来する構造単位が、3つ以上のアミノ基を有するアミン化合物(Bi)およびジアミン(Ci)にそれぞれ由来する構造単位を、下記式の値が、0.01〜1となる範囲で含むことを特徴とする架橋構造を有するポリイミド。
【0163】
[アミン化合物(Bi)の総モル数]/([アミン化合物(Bi)の総モル数]+[ジアミン(Ci)の総モル数])
11. 架橋点間分子量αが、500〜10,000g/molの範囲内であることを特徴とする上記10に記載の架橋構造を有するポリイミド。
【0164】
12. 架橋構造を有するポリイミドのガラス転移温度が200℃以上であることを特徴とする上記10又は11に記載の架橋構造を有するポリイミド。
【0165】
13. 膜厚10μmのフィルムで測定したときの50℃〜200℃の平均線膨張係数が60ppm/K以下であることを特徴とする上記10〜12のいずれか1項に記載の架橋構造を有するポリイミド。
【0166】
14. TGAで求めた5%重量減少温度が、430℃以上であることを特徴とする上記10〜13のいずれか1項に記載の架橋構造を有するポリイミド。
【0167】
15. 上記10〜14のいずれか1項に記載の架橋構造を有するポリイミドを含むことを特徴とするフィルム。
【0168】
16. ガラス層、金属層、樹脂層、セラミック層のいずれかと、上記10〜14のいずれか1項に記載の架橋構造を有するポリイミドを含むことを特徴とする積層体。
【0169】
<パートIIの発明の効果>
パートIIの発明のポリイミド前駆体を用いることにより、フィルム、塗膜に適切な架橋密度のポリイミドを製造することができる。そして、パートIIの発明の架橋構造を有するポリイミドを用いることにより、耐熱性、高温での寸法安定性、折り曲げ耐性に優れるものを提供することができる。さらにこれらをフィルム等に用いることにより、耐熱性、高温での寸法安定性、折り曲げ耐性に優れるものを提供することができる。
【0170】
<パートIIの発明の詳細>
パートIIの発明の説明において、一般式(II−1)で表される化合物から選ばれるテトラカルボン酸エステル誘導体(A)については、単に「テトラカルボン酸エステル誘導体(A)」、一般式(II−3)で表される化合物から選ばれる、3つ以上のアミノ基を有するアミン化合物(B)(トリアミン化合物、テトラアミン化合物等)については、単に「アミン化合物(B)」という場合がある。
【0171】
(ポリイミド前駆体)
パートIIの発明のポリイミド前駆体は、化学反応によりポリイミドを形成するポリイミド前駆体であって、前述のとおり、すくなくともテトラカルボン酸エステル誘導体(A)と、アミン化合物(B)を含む。
【0172】
テトラカルボン酸エステル誘導体(A)は、下記一般式(II−1)で示される化合物から選ばれる。
【0174】
式中のX
1は直接結合もしくは、下記式(II−2)で示される基から選ばれる2価の有機基を表し、R
11〜R
30は、それぞれ独立に水素、炭素数1〜8の1価の脂肪族基(ただし、テトラカルボン酸となる場合を除く)を表す。
【0176】
式中のX
2は、2価の有機基を表す。好ましくは、芳香環、脂環構造を有する2価の有機基であり、より好ましくは、一般式:
【0178】
で表される2価の基から選ばれるが、R
111〜R
124は、直接結合、および
【0179】
【化30】
からなる群より選ばれる基である。
【0180】
フィルム、塗膜に適切な架橋密度のポリイミドを得るために、使用されるテトラカルボン酸エステル誘導体(A)は、ケトン結合を分子構造中に有しないことが好ましい。例えば、ベンゾフェノンテトラカルボン酸エステル化合物を用いると、製膜性が劣り、フィルムを製造することが困難になる(実施例参照)。
【0181】
テトラカルボン酸エステル誘導体(A)としては、具体的には、パートIにおいてテトラカルボン酸(a)として例示したもののエステル誘導体が挙げられ、より好ましくは3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、ピロメリット酸、オキシジフタル酸、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピレン)ジフタル酸等のエステル誘導体である。
【0182】
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、ピロメリット酸等のエステル誘導体を使用すると耐熱性と寸法安定性が優れることから好ましく、4,4’−オキシジフタル酸、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピレン)ジフタル酸等のエステル誘導体を使用すると、溶解性とポリイミドの着色が低減できることから好ましい。
【0183】
また、これらのテトラカルボン酸エステル誘導体は、モノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステル誘導体のいずれも好適に使用することができるが、ジエステル誘導体、テトラエステル誘導体が容易に製造できることから好ましく、また、ジエステル誘導体が反応性に優れることから、より好ましい。
【0184】
また、一般式(II−1)中、R
11〜R
30が取り得る炭素数1〜8の1価の脂肪族基としては、炭素数1〜3のアルキルが好ましく、特に炭素数1〜3のn−アルキルが好ましい。
【0185】
アミン化合物(B)は、3つ以上のアミノ基を有し、一般式(II−3)で表される化合物から選ばれる。
【0187】
式中のZ
1は3価の窒素原子(N)、環員にヘテロ原子を有していても良い3価以上の芳香族基、またはヘテロ原子を有していてもよい3価以上の脂肪族基を表し、Z
2およびZ
3は直接結合または2価の基であり、R
31〜R
36はそれぞれ独立に1価の芳香族基、脂肪族基、ハロゲンを表し、n
1は、Z
1の価数であって3以上の整数を表し、好ましくは6以下、より好ましくは3または4の整数であり、m
1およびm
3は0〜4、m
2およびm
4〜m
6は0〜3の整数を表す。
【0188】
特に限定されないが、前記一般式(II−3)中のZ
1は、一般式(II−5)で表される3価以上の基であることが好ましい。
【0190】
式中のR
51〜R
100は、それぞれ独立に、直接結合または下記式(II−6)で表される2価の基の一つを表し、R
101は水素または脂肪族基、芳香族基(どちらも好ましくは炭素数18程度まで)を表す。
【0192】
R
51〜R
53は、直接結合または式:
【0193】
【化34】
で示される基から選ばれることが好ましい。
【0194】
また特に限定されないが、前記一般式(II−3)中のZ
2およびZ
3は、直接結合または上記式(II−6)で表されるいずれかの2価の基であることが好ましく、その中でも耐熱性に優れることから、直接結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、イソプロピリデン結合、ヘキサフルオロイソプロピリデン結合を有することがより好ましく、直接結合、エーテル結合であることが特に好ましい。
【0195】
式(II−3)中のR
31〜R
36としては、炭素数12以下の芳香族基(例えば、フェニル基、ベンジル基、フェノキシ基)、炭素数1〜6のアルキル基、フッ素、塩素等が好ましい。
【0196】
m
1は好ましくは0、1または2、m
2は好ましくは0または1、m
3は好ましくは0、1または2、m
4は好ましくは0または1、m
5およびm
6は独立して好ましくは0または1である。
【0197】
アミン化合物(B)は、反応性に優れることから、その化学構造中のアミノ基と結合する環が複素環や、キノン構造を有さない芳香環であることが好ましく、また、テトラカルボン酸誘導体とイミド化反応以外の副反応を抑制できるため、その化学構造中に水酸基、チオール、2級アミンを含まないことがより好ましい。
【0198】
アミン化合物(B)の具体例としては、パートIにおいて、アミン化合物(B)として例示したものが挙げられ、好ましいものも同様であり、また単独または2種以上をを混合して用いてもよい点も同じである。
【0199】
パートIIの発明のポリイミド前駆体は、必要に応じて、ジアミン(C)を含むことができる。特に限定されないが、ジアミン(C)として、一般式(II−4)で表されるいずれかの化合物のうち少なくとも1種類以上含まれることが耐熱性に優れることから好ましい。
【0201】
式中、Y
1は直接結合または2価の基を表し、R
41〜R
43はそれぞれ独立に1価の芳香族基、脂肪族基、ハロゲン基を表し、m
5〜m
7は0〜4の整数を表す。
【0202】
また特に限定されないが、前記一般式(II−4)中のY
1は、前述の式(II−6)で表される基、下記一般式(II−7)で表される2価の基から選ばれることが好ましい。
【0204】
式中、R
111〜R
124はそれぞれ独立に、直接結合または前記式(II−6)で表される2価の基を表す。R
111〜R
124としては、耐熱性に優れることから、直接結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、イソプロピリデン結合、ヘキサフルオロイソプロピリデン結合がより好ましく、直接結合、エーテル結合であることが特に好ましい。
【0205】
Y
1としては、耐熱性に優れることから、直接結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、イソプロピリデン結合、ヘキサフルオロイソプロピリデン結合、および式(II−7)の基の中でR
111〜R
124が直接結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、イソプロピリデン結合およびヘキサフルオロイソプロピリデン結合から選ばれる基であるものが好ましい。
【0206】
R
41〜R
43は、炭素数12以下の芳香族基(例えば、フェニル基、ベンジル基、フェノキシ基)、炭素数1〜6のアルキル基、フッ素、塩素等が好ましい。
【0207】
m
5〜m
7は好ましくは0、1または2である。
【0208】
ジアミン(C)の具体例としては、パートIにおいて、ジアミン(C)として例示したものが挙げられ、好ましいものも同様であり、また単独または2種以上をを混合して用いてもよい点も同じである。
【0209】
パートIIの発明のポリイミド前駆体において、[アミン化合物(B)の総モル数]/([アミン化合物(B)の総モル数]+[ジアミン(C)の総モル数])の値は、特に限定されるわけではないが、0.01〜1、好ましくは0.05〜1、より好ましくは0.2〜1、更に好ましくは0.25〜1、特に好ましくは0.5〜1である。この範囲であれば、ポリイミドの高温での寸法安定性と、折り曲げ耐性に優れる。
【0210】
パートIIの発明のポリイミド前駆体は、特に限定されるわけではないが、テトラカルボン酸成分のカルボン酸基数(エステル化されたカルボン酸基の数を含む)(モル数)/アミン成分の総アミン基数(モル数)の値は、1〜3が好ましく、1.6〜2.4がより好ましく、1.8〜2.2が更に好ましく、実質的に2であることが特に好ましい。この範囲であれば、耐熱性や、高温での寸法安定性、耐溶剤性に優れる。
【0211】
パートIIの発明のポリイミド前駆体は、ポリイミドを形成した場合の架橋点間分子量αが、好ましくは500〜100,000g/mol、より好ましくは1,300〜10,000の範囲内であることが、更に好ましくは1,500〜5,000、特に好ましくは1,800〜4,000である。架橋点間分子量αは、樹脂の伸度と概ね正の相関があり、樹脂弾性率と概ね負の相関があるため、この範囲であれば、高伸度、高弾性率、折り曲げ耐性、高温での寸法安定性が両立できる。
【0212】
ここで、架橋点間分子量αについては、パートIについて説明したとおり、理論値として式(6)により、または実験値から式(7)により求めることができる。
【0213】
パートIIの発明の架橋点間分子量αは、特に限定されるわけではないが、パートIIの発明においてケトン結合を有する原料を用いた場合、ポリイミドが付加的な架橋形成を生じる場合があるが、ケトン結合などの付加的な架橋形成を生じる官能基を含まない場合、前述の式(6)より求められる値を好適に採用することができる。
【0214】
パートIIの発明のポリイミド前駆体の平均分子量は、特に限定されるわけではないが、実質上、低分子化合物で構成されるため、50〜5,000が好ましく、100〜2,000がより好ましく、200〜1,000が特に好ましい。この範囲であるとポリイミド前駆体が低分子量であり、低粘度と高固形分を両立したポリイミド前駆体溶液が得られる。ここでの分子量は、GPC測定による数平均分子量や、TOF−MASS,FAB−MASSから求められる分子量であってもよく、その他公知の分析方法の値を採用しても良い。また、実質的に重合が生じない条件では、ポリイミドを形成する各成分の平均分子量を好適に採用することもできる。
【0215】
パートIIの発明のポリイミド前駆体の対数粘度(ηinh)は、実質上、低分子化合物で構成されるため、0.2未満であり、好ましくは0.15未満、より好ましくは0.1未満である。この範囲であるとポリイミド前駆体が低分子量であり、低粘度と高固形分を両立したポリイミド前駆体溶液が得られる。
【0216】
パートIIの発明のポリイミド前駆体は、実質上、低分子化合物で構成されるため、ポリアミド酸の繰り返し単位を含まないことが好ましい。ポリアミド酸の繰り返し単位の確認は、NMRやFT−IR等の公知の分析方法を好適に用いることができる。ポリアミド酸の繰り返し単位(モル)の比率は、アミン成分のアミノ基の総モル(もしくは、テトラカルボン酸成分のカルボニル基の総モルの1/2倍)あたり、0.05モル/モル以下、好ましく0.03モル/モル以下、より好ましくは0.01モル/モル以下であり、特に好ましくは、検出下限以下である。この範囲であるとポリイミド前駆体が低分子量であり、低粘度と高固形分を両立したポリイミド前駆体溶液が得られる。
【0217】
パートIIの発明のポリイミド前駆体は粉末であっても良く、好ましくは平均粒子径5mm以下、より好ましくは1mm以下、特に好ましくは0.5mm以下であり、最大粒子径5mm以下、より好ましくは1mm以下、特に好ましくは0.5mm以下である。これらの粒子径は、レーザー回折法、画像イメージング法、重力沈降法などの公知の測定方法を用い、公知の解析方法を使用した結果を用いることができる。
【0218】
(ポリイミド前駆体溶液)
パートIIの発明のポリイミド前駆体溶液については、パートIにおいてまとめて説明した。
【0219】
(架橋構造を有するポリイミド)
パートIIの発明の架橋構造を有するポリイミドは、テトラカルボン酸成分に由来する構造単位およびアミン成分に由来する構造単位を有するポリイミドであって、前記アミン成分に由来する構造単位が、3つ以上のアミノ基を有するアミン化合物(Bi)およびジアミン(Ci)にそれぞれ由来する構造単位を、下記式の値が、0.01〜1となる範囲で含む。
【0220】
[アミン化合物(Bi)の総モル数]/([アミン化合物(Bi)の総モル数]+[ジアミン(Ci)の総モル数])
【0221】
ここで、式、[アミン化合物(Bi)の総モル数]/([アミン化合物(Bi)の総モル数]+[ジアミン(Ci)成分の総モル数])の値は、好ましくは0.05〜1、より好ましくは0.2〜1、更に好ましくは0.25〜1、特に好ましくは0.5〜1である。この範囲であれば、高い架橋密度を達成できるため、ポリイミドの高温での寸法安定性と、折り曲げ耐性、ガラス転移温度が高く、寸法安定性に優れる。
【0222】
パートIIの発明の架橋構造を有するポリイミドは、特に限定されるわけではないが、前述のポリイミド前駆体により好適に製造される。従って、テトラカルボン酸成分は、一般式(II−1)で表されるテトラカルボン酸エステル誘導体(A)が好ましい。また同様に、3つ以上のアミノ基を有するアミン化合物(Bi)は、前述のアミン化合物(B)が好ましく、またジアミン(Ci)は、前述のジアミン(C)が好ましい。
【0223】
架橋構造を有するポリイミドは、架橋点間分子量αが、好ましくは500〜100,000g/mol、より好ましくは1,300〜10,000の範囲内であることが、更に好ましくは1,500〜5,000、特にこのましくは1,800〜4,000である。この範囲であれば、高温での寸法安定性と、折り曲げ耐性に優れる。
【0224】
パートIIの発明の架橋構造を有するポリイミドは、特に限定されるわけではないが、寸法安定性の観点からは、ガラス転移温度が200℃以上、好ましくは230℃以上、より好ましくは260℃以上、更に好ましくは280℃以上、特に好ましくは290℃以上である。この範囲であると寸法安定性に優れる。
【0225】
一方、パートIIの発明の架橋構造を有するポリイミドは、加熱時の変形が小さいことから、比較的ガラス転移温度が低いポリイミドでも高温で使用が可能であり、この観点からは、ガラス転移温度としては、180℃〜300℃が好ましく、180℃〜260℃がより好ましく、180℃〜240℃が更に好ましく、180℃〜230℃が特に好ましい。ガラス転移温度の測定は、パートIにおいて説明した。
【0226】
パートIにおいて、架橋構造を有するポリイミドの線膨張係数、5%重量減少温度、耐溶剤性、膜厚10μmとした時の全光透過率、フィルム、積層体の説明は、パート1の発明の架橋構造を有するポリイミドについても当てはまる。
【0227】
(架橋構造を有するポリイミドの製造方法)
パートIIの発明のポリイミド前駆体をイミド化してポリイミドを製造する方法は、特に限定されず、公知のポリイミド製造方法を適宜採用することができる。ポリイミド前駆体としてパートIIで説明したポリイミド前駆体を用いる以外は、例えば、パートIにおいて、「(架橋構造を有するポリイミドの製造方法)」の項目で説明した方法によりポリイミドを製造することができる。
【0228】
(ポリイミド前駆体の用途、積層体、その製造方法)
パートIIの発明のポリイミド前駆体は、パートIの「(ポリイミド前駆体の用途、積層体、その製造方法)の項目」で説明した用途に使用することができる。
【0229】
<<パートIII>>
パートIIIの発明は、s-BPTAやその誘導体とパラ位結合の芳香環を有するジアミンの組み合わせを主体とし、高耐熱性のポリイミドを与えるポリイミド前駆体を提供することを目的とする。
【0230】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、高耐熱性を与えるs-BPTAとパラ位結合の芳香環を有するジアミンの組み合わせからなるポリイミドにおいて、特定のテトラカルボン酸を用いること、更には、分子構造中に環状構造有するアミン化合物を用いることで、良質なポリイミドが得られることを見出し、パートIIIの発明を完成した。
【0231】
すなわち、パートIIIの発明は、以下の事項に関する。
【0232】
1. 3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸およびそのエステル誘導体から選ばれる少なくとも1種のテトラカルボン酸(A31)と、
前記テトラカルボン酸(A31)と異なるテトラカルボン酸およびそのエステル誘導体から選ばれる少なくとも1種のテトラカルボン酸(A32)と
を含むテトラカルボン酸成分、
下記一般式(III−1)で表される芳香環ジアミン(B31)を含むジアミン成分
を含有することを特徴とするポリイミド前駆体。
【0233】
【化37】
〔式中のY
1は直接結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、ケトン結合、メチレン、イソプロピリデン、ジメチルシリレンまたは、炭素数1〜6のアルキレン、炭素数12以下の芳香族基、または下記一般式(III−2)で表されるいずれかの分子構造を表し、R
1〜R
3は、それぞれ独立に炭素数12以下の芳香族基、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン基、水酸基、カルボン酸基であり、n
1〜n
3は0〜4の整数を表す。〕
【0234】
【化38】
〔式中のY
2は直接結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、ケトン結合、メチレン、イソプロピリデン、ジメチルシリレンまたは、炭素数1〜6のアルキレン、炭素数12以下の芳香族基を表し、R
4、R
5は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキレン、炭素数12以下の芳香族基を表す。〕
【0235】
2. 前記テトラカルボン酸(A32)が、一般式(III−3)で表されるテトラカルボン酸およびこれらのエステル誘導体の1種以上を含有することを特徴とする上記1に記載のポリイミド前駆体。
【0236】
【化39】
〔式中のX
1は、直接結合または、2価の基である。ただし、X
1が直接結合の場合は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸を除く。〕
【0237】
3. 前記テトラカルボン酸(A32)が、ピロメリット酸およびそのエステル誘導体、並びに前記一般式(III−3)中のX
1が、直接結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、ケトン結合、メチレン、イソプロピリデン、ヘキサフルオロイソプロピリデン、ジメチルシリレンまたは、炭素数1〜6のアルキレン、炭素数12以下の芳香族基、または一般式(III−4)のいずれかで表されるテトラカルボン酸およびそのエステル誘導体から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする上記1または2のいずれかに記載のポリイミド前駆体。
【0238】
【化40】
〔式中のX
2は、2価の有機基である。〕
【0239】
4. 前記テトラカルボン酸成分が、全テトラカルボン酸成分の総モル量に対し、テトラカルボン酸(A31)を50モル%以上含むことを特徴とする上記1〜3のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体。
【0240】
5. 前記ジアミン成分が、前記ジアミン(B31)と異なるジアミンであって、一般式(III−5)で表される化合物から選ばれる1種以上のジアミン(B32)を含むことを特徴とする上記1〜4のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体。
【0241】
【化41】
〔式中のY
3は直接結合または2価の基を表し、R
6〜R
8は、それぞれ独立に炭素数12以下の芳香族基、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン基、水酸基、カルボン酸基であり、n
4〜n
6は0〜4の整数を表す。ただし、前記一般式(III−1)で表されるジアミンを除く。〕
【0242】
6. 前記ジアミン成分が、全ジアミン成分の総モル量に対し、前記ジアミン(B31)を50モル%以上含むことを特徴とする上記1〜5のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体。
【0243】
7. さらに、分子中に環状構造を有するアミン化合物(G)を含むことを特徴とする上記1〜6のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体。
【0244】
8. 前記アミン化合物(G)が、環状構造を有する脂肪族アミン、芳香族アミンおよび複素環式アミンからなる群より選ばれることを特徴とする上記7に記載のポリイミド前駆体。
【0245】
9. 前記アミン化合物(G)が、環員原子として窒素を含むことを特徴とする上記7または8に記載のポリイミド前駆体。
【0246】
10. 前記アミン化合物(G)が、ピリジン、ピリミジン、トリアゾールまたはイミダゾール骨格を有することを特徴とする上記7〜9のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体。
【0247】
11. 全テトラカルボン酸成分の総モル量に対し、前記アミン化合物(G)を10モル%以上含むことを特徴とする上記7〜10のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体。
【0248】
12. さらに、少なくとも1種の3つ以上のアミノ基を有する化合物(H)を含むことを特徴とする上記1〜11のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体。
【0249】
13. 粒子径5mm以下の粉末である上記1〜12のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体。
【0250】
14. 上記1〜12のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体と、溶媒(D)を含むことを特徴とするポリイミド前駆体溶液。
【0251】
15. さらに、無機粒子(E)を含むことを特徴とする上記14に記載のポリイミド前駆体溶液。
【0252】
16. 上記1〜12のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体、または上記13〜15のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液を用い、ポリイミド前駆体をイミド化して、ガラス転移温度が250℃以上のポリイミドを製造することを特徴とするポリイミドの製造方法。
【0253】
17. 上記1〜12のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体、または上記13〜15のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液を用い、ポリイミド前駆体をイミド化して、膜厚10μmのフィルムで測定したときの50℃〜200℃の平均線膨張係数が60ppm/K以下であるポリイミドを製造すること特徴とするポリイミドの製造方法。
【0254】
18. 上記1〜12のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体、または上記13〜15のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液を用い、ポリイミド前駆体をイミド化して、TGAで求めた5%重量減少温度が、450℃以上であるポリイミドを製造することを特徴とするポリイミドの製造方法。
【0255】
19. 上記1〜12のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体、または上記13〜15のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液を用い、ポリイミド前駆体をイミド化して、引っ張り試験の応力―ひずみ曲線から求めた初期弾性率が、2.5GPa以上であるポリイミドを製造することを特徴とするポリイミドの製造方法。
【0256】
20. 上記1〜12のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体、または上記13〜15のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液を用いて、ポリイミド層と、ガラス、金属、樹脂およびセラミックから選ばれる少なくとも1つの材料の層または基体とが積層されたポリイミド積層体を製造することを特徴とする製造方法。
【0257】
21. 上記1〜12のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体、または上記13〜15のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液から得られるポリイミド層と、ガラス、金属、樹脂およびセラミックから選ばれる少なくとも1つの層または基体とが積層されたポリイミド積層体。
【0258】
22. 上記1〜12のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体、または上記13〜15のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液を用いて、耐熱電線絶縁層、摺動部品、フレキシブル回路基板、またはディスプレイ用基板、タッチパネル用基板、太陽電池用基板および薄膜半導体用基板から選ばれる基板を製造することを特徴とする製造方法。
【0260】
パートIIIの発明によって、容易に高耐熱性ポリイミドを製造できるポリイミド前駆体と、その製造方法を提供することができる。また、パートIIIの発明のポリイミド前駆体溶液は、溶解性に優れるため、高固形分化が可能であり、保存安定性に優れるものである。さらにパートIIIの発明のポリイミド前駆体から得られるポリイミドは、製膜性に優れ、折り曲げ性を有する良質な膜が形成可能であり、さらに、従来のポリアミック酸から得られるポリイミドに比べ、機械強度(弾性率、降伏点応力、破断点応力)が高く、線膨張係数は低いなどの特性に優れる。
【0261】
<パートIIIの発明の詳細>
(ポリイミド前駆体)
パートIIIの発明は、前述のとおり、テトラカルボン酸成分として、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸およびそのエステル誘導体から選ばれる少なくとも1種のテトラカルボン酸(A31)と、前記テトラカルボン酸(A31)と異なるテトラカルボン酸およびそのエステル誘導体から選ばれる少なくとも1種のテトラカルボン酸(A32)とを含み、ジアミン成分として、一般式(III−1)で表される芳香環ジアミン(B31)を含むポリイミド前駆体である。テトラカルボン酸(A31)およびテトラカルボン酸(A32)は、「酸」と表記されているが、この定義のとおり、それぞれエステル誘導体も包含する。「ポリイミド前駆体」の定義や状態については、冒頭部分で説明したとおりである。
【0262】
テトラカルボン酸(A31)は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸およびそのエステル誘導体から選ばれるものであれば、限定されない。一実施形態においては、脱離成分が水のみとなることから、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸が好ましい。一方、異なる実施形態においては、エステル誘導体は、溶解性に優れることから好ましい。この場合、4つのカルボン酸基がエステル化されていても、一部のみがエステル化されていてもよい。一実施形態において、テトラカルボン酸の4つのカルボン酸のうち、2つがエステル化されていることが好ましい。エステル基を与える化合物としては、炭素数1〜3のアルコール、炭素数6〜12のフェノール、炭素数3〜12のシラノールが好ましい。
【0263】
ジアミン(B31)は、一般式(III−1)で表される化合物から選ばれる芳香環ジアミン(B31)である。
【0265】
〔式中のY
1は直接結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、ケトン結合、メチレン、イソプロピリデン、ジメチルシリレンまたは、炭素数1〜6のアルキレン、炭素数12以下の芳香族基、または下記一般式(III−2)で表されるいずれかの分子構造を表し、R
1〜R
3は、それぞれ独立に炭素数12以下の芳香族基、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン基、水酸基、カルボン酸基であり、n
1〜n
3は0〜4の整数を表す。〕
【0266】
【化43】
〔式中のY
2は直接結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、ケトン結合、メチレン、イソプロピリデン、ジメチルシリレンまたは、炭素数1〜6のアルキレン、炭素数12以下の芳香族基を表し、R
4、R
5は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキレン、炭素数12以下の芳香族基を表す。〕
【0267】
ジアミン(B31)は、パラ位結合の芳香環を有し、また、熱分解しやすい官能基(例えば、スルホン酸基や、トリフルオロメタン基など)を含まないため、ポリイミドのジアミン主成分として好適である。耐熱性、力学特性、低線膨張係数のポリイミドを与えるため、式(III−1)中の式(1−1)のジアミンが好ましく、n
1が0のもの、n
1が1でR
1がメチル基のものがより好ましく、n
1が0のものが特に好ましい。一方、ポリイミド前駆体溶液の溶解性、保存安定性と、ポリイミドでの耐熱性、高い機械強度、低線膨張係数を両立できる観点から、式(1−2)のジアミンが好ましい。特に、高い機械強度と低線膨張係数となることから、式(1−2)においてY
1は、好ましくは直接結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、ケトン結合、メチレンであり、より好ましくは直接結合、エーテル結合、アミド結合であり、特に好ましくはエーテル結合である。一方、(1−2)のジアミンのうち、ポリイミド前駆体溶液の溶解性、保存安定性と、ポリイミドの製膜性に優れることから、Y
1が、一般式(III−2)で表されるいずれかの分子構造であることが好ましく、より好ましくは式(2−2)および式(2−3)の構造であり、特に好ましくは式(2−2)においてR
4,R
5がイソプロピリデンであるもの、(2−3)においてY
2がイソプロピリデンであるものである。
【0268】
テトラカルボン酸(A32)は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸およびそのエステル誘導体以外のテトラカルボン酸およびそのエステル誘導体であれば、限定されない。ポリイミド前駆体溶液の溶解性、保存安定性と、ポリイミドの製膜性、耐熱性を両立できることから、一般式(III−3)で表されるいずれかのテトラカルボン酸または、これらのエステル誘導体が好ましい。
【0270】
〔式中のX
1は、直接結合または、2価の基である。ただし、X
1が直接結合の場合は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸を除く。〕
【0271】
さらに、ポリイミド前駆体溶液の溶解性、保存安定性と、ポリイミドの製膜性、耐熱性、高い機械強度、低線膨張係数を両立できることから、テトラカルボン酸(A32)として、ピロメリット酸およびそのエステル誘導体、または、前記一般式(III−3)中の式(3−2)において、X
1が、直接結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、ケトン結合、メチレン、イソプロピリデン、ヘキサフルオロイソプロピリデン、ジメチルシリレン、炭素数1〜6のアルキレン、炭素数12以下の芳香族基、または下記一般式(III−4)のいずれかで表されるテトラカルボン酸およびそのエステル誘導体であることが好ましい。
【0272】
【化45】
〔式中のX
2は、2価の有機基であり、例えば、直接結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、ケトン結合、メチレン、イソプロピリデン、ヘキサフルオロイソプロピリデン、ジメチルシリレンおよび炭素数1〜6のアルキレンである。〕
【0273】
テトラカルボン酸(A32)として、より好ましくは、ピロメリット酸、および式(3−2)のX
1が、直接結合、エーテル結合、エステル結合、ケトン結合、イソプロピリデン、ヘキサフルオロイソプロピリデン、ジメチルシリレンであるテトラカルボン酸およびそのエステル誘導体であり、さらに好ましくは、式(3−2)のX
1が、直接結合またはエーテル結合であるテトラカルボン酸およびそのエステル誘導体であり、特に好ましくは2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸およびそのエステル誘導体である。
【0274】
全テトラカルボン酸成分の総モル量に対して、テトラカルボン酸(A31)とテトラカルボン酸(A32)の合計の割合は、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、最も好ましくは実質的に100モル%である。得られるポリイミドの耐熱性、機械強度、低線膨張係数に優れることから、テトラカルボン酸(A31)の割合は、全テトラカルボン酸成分の総モル量に対し、好ましくは50モル%以上、より好ましく75モル%以上、更に好ましくは、80モル%以上、特に好ましく90モル%以上である。一方、ポリイミド前駆体溶液の溶解性、保存安定性に優れることから、全テトラカルボン酸成分の総モル量に対し、テトラカルボン酸(A31)の割合は、好ましくは95モル%以下、より好ましく90モル%以下、更に好ましくは、85モル%以下、特に好ましく80モル%以下である。この場合、テトラカルボン酸(A32)の割合としては、全テトラカルボン酸成分の総モル量に対し、好ましくは5モル%以上、より好ましく10モル%以上、更に好ましくは15モル%以上、特に好ましく20モル%以上である。
【0275】
ジアミン成分は、一般式(III−1)で表される芳香環ジアミン(B31)に加えて、下記一般式(III−5)で表されるジアミン(B32)を用いることができる。
【0276】
【化46】
〔式中のY
3は直接結合または2価の基を表し、R
6〜R
8は、それぞれ独立に炭素数12以下の芳香族基、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン基、水酸基、カルボン酸基、トリフルオロメチル基であり、n
4〜n
6は0〜4の整数を表す。ただし、前記一般式(III−1)で表されるジアミンを除く。〕
【0277】
特に限定されるわけではないが、Y
3としては、直接結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、ケトン結合、メチレン、イソプロピリデン、ジメチルシリレンまたは、炭素数1〜6のアルキレン、炭素数12以下の芳香族基、または前記一般式(III−2)で表されるいずれかの分子構造が好ましい。ジアミン(B32)として例えば、パートIにおいてジアミン(C)と挙げたもののうち、一般式(III−1)に含まれない化合物を挙げることができる。
【0278】
ポリイミド前駆体溶液の溶解性、保存安定性と、ポリイミドの製膜性、耐熱性を両立できることから、式(5−1)の化合物、または式(5−2)のY
3が、直接結合、エーテル結合、アミド結合、炭素数12以下の芳香族基である化合物が好ましく、さらに、低線膨張、機械特性に優れるため、式(5−1)の化合物、または式(5−2)のY
3が、直接結合またはエーテル結合である化合物がより好ましい。
【0279】
全ジアミン成分の総モル量に対して、ジアミン(B31)とジアミン(B32)の合計の割合は、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、最も好ましくは実質的に100モル%である。得られるポリイミドの耐熱性、機械強度、低線膨張係数に優れることから、パラ位結合の芳香環を有するジアミン(B31)の割合は、全ジアミン成分の総モル量に対し、好ましくは50モル%以上、より好ましく75モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましく90モル%以上であり、100モル%も好ましい。一方、ポリイミド前駆体溶液の溶解性、保存安定性に優れる観点から、ジアミン(B32)の割合を、0モル%超としてよく、好ましくは5モル%以上、より好ましく10モル%以上、更に好ましくは15モル%以上、特に好ましく20モル%以上としてもよい。この場合、パラ位結合の芳香環を有するジアミン(B31)の割合は、100モル%未満、好ましくは95モル%以下、より好ましく90モル%以下、更に好ましくは、85モル%以下、特に好ましく80モル%以下となる。
【0280】
さらに、パートIIIの発明のポリイミド前駆体には、特に限定されるわけではないが、分子中に環状構造を有するアミン化合物(G)を添加することができる。ポリイミド前駆体溶液の溶解性、保存安定性と、ポリイミドの製膜性に優れることから、環状構造を有する脂肪族アミン、芳香族アミン、複素環式アミンのいずれかであることが好ましい。更に、得られるポリイミドが低着色であることから、窒素原子を環員原子として含む芳香族複素環化合物および脂肪族複素環化合物がより好ましい。
【0281】
芳香族複素環化合物としては、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、フタラジン、またはピロール、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、インドール、ベンズイミダゾール骨格を有する化合物が挙げられる。ここでは、芳香族複素環構造の一部が水素化されていても良く、他の環構造と縮環された構造を有していても良く、環構造に置換基を有していても良い。この中でも、特にポリイミド前駆体の溶解性が優れ、且つ得られるポリイミドの耐熱性、機械特性に優れることから、ピリジン、イミダゾール骨格を有する化合物が好ましく、イミダゾール骨格を有する化合物がより好ましい。イミダゾール骨格を有する化合物としては、メチルイミダゾール、ジメチルイミダゾール、エチル−メチルイミダゾール等を挙げることができる。特に好ましくは、1,2−ジメチルイミダゾール、1−メチルイミダゾールなどが挙げられる。ピリジン骨格を有する化合物としては、ピリジン、ピコリン、ジメチルピリジン、ビニルピリジン、シアノピリジン、アミノピリジン、アミノ−メチルピリジン、(ジメチルアミノ)ピリジン、ヒドロキシピリジン、フェニルピリジン、キノリン、イソキノリン、ビビリジン等を挙げることができる。特に好ましくは、イソキノリン、ピコリン、ジメチルピリジン、等を挙げることができる。
【0282】
脂肪族複素環化合物としては、ピペリジン、ピペラジン、ヘキサヒドロピリミジン、ヘキサヒドロピリダジン、モルホリン、キヌクリジン、トリエチレンジアミン(1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)、ピロリジン、トロパン、アゼチジン、アジリジン等の骨格を有する化合物が挙げられる。ここでは、脂肪族複素環構造の一部に不飽和結合を有していても良く、他の環構造と縮環された構造を有していても良く、環構造に置換基を有していても良い。この中でも、特にポリイミド前駆体の溶解性が優れることから、モルホリン、トリエチレンジアミン、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネンが好ましい。
【0283】
環状構造を有するアミン化合物(G)の含有割合は、全テトラカルボン酸成分の総モル量に対し、5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは20モル%以上、特に好ましくは30モル%以上である。さらに含有割合が、50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは100モル%以上であると、ポリイミド前駆体溶液の溶解性、保存安定性がさらに優れる。さらに含有量が、150モル%以上、より好ましくは200モル%以上であると、ポリイミドの製膜性に特に優れる。
【0284】
パートIIIの発明のポリイミド前駆体は、必要に応じて、3つ以上のアミノ基を有する化合物(H)を含んでもよい。3つ以上のアミノ基を有する化合物(H)としては、パートIにおいてアミン化合物(b)として説明した化合物が好ましい。
【0285】
パートIIIの発明のポリイミド前駆体の平均分子量は、特に限定されるわけではないが、実質上、低分子化合物で構成されるため、50〜5,000が好ましく、100〜2,000がより好ましく、200〜1,000が特に好ましい。この範囲であるとポリイミド前駆体が低分子量であり、低粘度と高固形分を両立したポリイミド前駆体溶液が得られる。ここでの分子量は、GPC測定による数平均分子量や、TOF−MASS,FAB−MASSから求められる分子量であってもよく、その他公知の分析方法の値を採用しても良い。また、実質的に重合が生じない条件では、ポリイミドを形成する各成分の平均分子量を好適に採用することもできる。
【0286】
パートIIIの発明のポリイミド前駆体の対数粘度(ηinh)は、実質上、低分子化合物で構成されるため、0.2未満であり、好ましくは0.15未満、より好ましくは0.1未満である。この範囲であるとポリイミド前駆体が低分子量であり、低粘度と高固形分を両立したポリイミド前駆体溶液が得られる。
【0287】
パートIIIの発明のポリイミド前駆体は、実質上、低分子化合物で構成されるため、ポリアミド酸の繰り返し単位を含まないことが好ましい。ポリアミド酸の繰り返し単位の確認は、NMRやFT−IR等の公知の分析方法を好適に用いることができる。ポリアミド酸の繰り返し単位(モル)の比率は、アミン成分のアミノ基の総モル(もしくは、テトラカルボン酸成分のカルボニル基の総モルの1/2倍)あたり、0.05モル/モル以下、好ましく0.03モル/モル以下、より好ましくは0.01モル/モル以下であり、特に好ましくは、検出下限以下である。この範囲であるとポリイミド前駆体が低分子量であり、低粘度と高固形分を両立したポリイミド前駆体溶液が得られる。
【0288】
パートIIIの発明のポリイミド前駆体は粉末であっても良く、好ましくは平均粒子径5mm以下、より好ましくは1mm以下、特に好ましくは0.5mm以下であり、最大粒子径5mm以下、より好ましくは1mm以下、特に好ましくは0.5mm以下である。これらの粒子径は、レーザー回折法、画像イメージング法、重力沈降法などの公知の測定方法を用い、公知の解析方法を使用した結果を用いることができる。
【0289】
(ポリイミド前駆体溶液)
パートIIIの発明のポリイミド前駆体溶液については、パートIにおいてまとめて説明したとおりである。
【0290】
(ポリイミド前駆体・無機粒子複合材)
パートIIIの発明のポリイミド前駆体は、パートIで説明したように、無機粒子を添加してポリイミド前駆体・無機粒子複合材とすることが特に好ましい。
【0291】
(ポリイミド)
パートIIIの発明のポリイミド前駆体から製造されるポリイミドは、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類からなるテトラカルボン酸(A31)と、パラ位結合の芳香環を有するジアミン(B31)の組み合わせに基づく剛直な分子構造を有する。そのため、高いガラス転移温度を有し、特に限定されないが、例えば好ましくは250℃以上、より好ましくは280℃以上、さらに好ましくは300℃以上のガラス転移温度を有する。
【0292】
また、製造されるポリイミドは熱膨張が小さく、50℃〜200℃における平均線膨張係数、または50℃〜Tgにおける平均線膨張係数は、好ましくは60ppm/K以下、より好ましくは50ppm/K以下、更に好ましくは45ppm/K以下である。
【0293】
また、製造されるポリイミドは、耐熱性に優れ、TGAで求めた5%重量減少温度は、好ましくは450℃以上、より好ましくは470℃以上、更に好ましくは500℃以上、特に好ましくは550℃以上である。
【0294】
また、製造されるポリイミドは、弾性率が高く、引っ張り試験の応力―ひずみ曲線から求めた初期弾性率が、好ましくは2.5GPa以上、より好ましくは3.0GPa以上、更に好ましくは3.5GPa以上、特に好ましくは4.0GPa以上である。
【0295】
(ポリイミドの製造方法)
パートIIIの発明のポリイミド前駆体をイミド化してポリイミドを製造する方法は、特に限定されず、公知のポリイミド製造方法を適宜採用することができる。ポリイミド前駆体としてパートIIIで説明したポリイミド前駆体を用いる以外は、例えば、パートIにおいて、「(架橋構造を有するポリイミドの製造方法)」の項目で説明した方法によりポリイミドを製造することができる。
【0296】
(ポリイミド前駆体の用途、積層体、その製造方法)
パートIIIの発明のポリイミド前駆体は、種々の用途が可能であり、例えばポリイミドフィルムの製造用、ポリイミド積層体におけるポリイミド層製造用のコーティング材料、電池その他の各種用途におけるバインダーおよび接着剤として使用することができる。
【0297】
ポリイミド積層体は、例えばガラス、金属、樹脂、セラミック等の材料で形成された基材層または基体と、ポリイミド層とが積層された構造である。ここでポリイミド層は、基材層または基体の表面を部分的に被覆していてもよい。製造方法としては、ポリイミド前駆体からポリイミドフィルムを製造し、前記基材層または基体と貼り合わせる方法や、前記基材層または基体の表面の少なくとも一部にポリイミド前駆体溶液を塗布した後、イミド化して積層体とする方法が挙げられる。
【0298】
パートIIIの発明では、そのポリイミド前駆体溶液中の固形分濃度を高めることが可能であり、また保存安定性に優れる。さらにパートIIIの発明のポリイミド前駆体から得られるポリイミドは、製膜性に優れ、折り曲げ性を有する良質な膜の形成が可能であり、さらに、従来のポリアミック酸から得られるポリイミドに比べ、機械強度(弾性率、降伏点応力、破断点応力)が高く、線膨張係数は低いなどの特性に優れる。パートIIIの発明のポリイミド前駆体は、優れた特性のポリイミドを容易に製造できるので、耐熱電線絶縁層の製造、ディスプレイ用基板、タッチパネル用基板、太陽電池用基板、薄膜半導体用基板の製造、摺動部品の製造、フレキシブル回路基板の製造用途において好適に使用することができる。
【実施例】
【0299】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0300】
<<パートIの発明の実施例>>
【0301】
以下の各例で使用した原材料は、次のとおりである。
[テトラカルボン酸(a)]
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸:s−BPTA
2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸:a−BPTA
4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸):BPABP
4,4’ −(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸:6FDP
4,4’ −オキシジフタル酸:ODP
3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸:BTTA
【0302】
[3つ以上のアミノ基を有する化合物(b)]
1,3,5−トリス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン:TAPOB
【0303】
【化47】
【0304】
4,4’,4”−トリアミノトリフェニルアミン:TATPA
【0305】
【化48】
【0306】
2,4,4’−トリアミノジフェニルエーテル:TADE
【0307】
【化49】
【0308】
2,4,6−トリアミノピリミジン:TAP
【0309】
【化50】
【0310】
1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼン:TAPB
【0311】
【化51】
【0312】
[ジアミン(C)]
1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン:APB
4,4−ジアミノジフェニルエーテル:DADE
2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン:TFMB
m−フェニレンジアミン:MPD
【0313】
[溶剤(D)]
N,N−ジメチルアセトアミド:DMAc
N−メチル−2−ピロリドン:NMP
【0314】
[その他]
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物:s−BPDA
ガラス基板:厚さ2mmのソーダガラス板
【0315】
以下の各例において評価は次の方法で行った。
【0316】
ポリイミド前駆体の評価
[回転粘度]
東機産業製TV−22 E型回転粘度計を用い、温度30℃ せん断速度100sec
−1でのポリイミド前駆体溶液の粘度を求めた。
【0317】
[対数粘度]
ポリイミド前駆体溶液をNMPで0.5g/dlに希釈し、ウベローデ粘度計を用いて、30℃で測定した。対数粘度(η
inh)は、次式より求めた。
【0318】
η
inh=ln(T/T
0 )/C
C=不揮発分濃度×組成物秤取量/試料の体積×100(g/dl)
T=試料の粘度管落下時間、T
0 =N−メチル−2−ピロリドンの落下速度
不揮発分濃度=350℃×30分の熱処理後重量/熱処理前重量
(濃度単位:重量%、重量単位:g、体積単位:dl、時間単位:秒)
【0319】
[ワニス固形分]
アルミシャーレにポリイミド前駆体溶液1gを量り取り、200℃の熱風循環オーブン中で2時間加熱して固形分以外を除去し、その残分の質量よりワニス固形分(加熱残分質量%)を求めた。
【0320】
製膜性の評価
[製膜性]
各例で得られたポリイミド前駆体溶液を洗浄されたガラス基板上にバーコーターを用い、ポリイミド膜の厚さ10μmとなるように塗工した。その基板を120℃で5分乾燥させた後、150℃、200℃で各10分、次いで250℃で1時間加熱して熱的にイミド化を行なった。表中には、透明で均一な皮膜が得られた場合を○、皮膜ににごりが生じた場合を△、白化や割れが生じたり、粉状となった場合を×と記した。
【0321】
ポリイミドフィルムの評価
[熱機械特性(TMA):ガラス転移温度、加熱時の変形:1%,5%,10%伸長時温度]
膜厚約10μmのポリイミド膜を幅4mmの短冊状に切り取って試験片とし、島津製作所製TMA−50を用い、チャック間長15mm、荷重2g、昇温速度20℃/minで475℃まで昇温した。得られたTMA曲線より、線膨張係数及び、1%、5%、10%伸長時温度(℃)を求め、またその変曲点から、ガラス転移温度(℃)を求めた。なお、線膨張係数は、50℃〜200℃における平均線膨張係数とし、200℃以下もしくは近傍にガラス転移温度がある場合には、50℃〜ガラス転移の開始温度における平均線膨張係数とした。
【0322】
[5%熱重量減少温度]
膜厚10μmのポリイミドフィルムを試験片とし、エスアイアイ・ナノテクノロジー製 示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA6300)を用い、窒素気流中、昇温速度10℃/minで25℃から600℃まで昇温した。得られた重量曲線から、5%熱重量減少温度を求めた。
【0323】
[折り曲げ性]
ポリイミドフィルム(膜厚約10μm、幅1cm、長さ5cm)をスライドガラスに挟み折り曲げ(はぜ折)、折り曲げ部分に重さ100gの分銅をおき、1分間静置した。折り曲げ部分を戻し、異常がない場合を○、割れ等が生じた場合を×とした。
【0324】
[耐溶剤性]
ポリイミドフィルム(膜厚約10μm、幅1cm、長さ1cm)をNMP 10gに25℃ 30分間浸漬した。異常がない場合を○、溶解や顕著な膨潤が見られた場合を×とした。
【0325】
[光学特性:全光透過率、420nmの光透過率]
膜厚10μmのポリイミドフィルムを試験片とし、分光光度計 (日本分光製V650, 絶対反射ユニット ARSV−732)を用いて、測定した。
【0326】
[耐吸湿性]
各例で得られたポリイミドフィルム(膜厚約10μm)をエスペック社製高度加速寿命試験EHS−411を用い、121℃、濡れ飽和の条件下、1時間処理した。異常がない場合は○、一部白化等の異常が見られた場合は△、全面に白化等の異常のあった場合は×とした。
【0327】
〔実施例I−1〕
テトラカルボン酸(a)として、s−BPTA(2水和物) 1.015モル当量(1.291g)、3つ以上のアミノ基を有する化合物(b)として、TAPOB 0.03モル当量(0.042g)、ジアミン(C)として、APB 0.97モル当量(1.000g)を乳鉢に入れ、十分にすりつぶし、混合することでポリイミド前駆体の粉末を得た。この粉末を顕微鏡で確認したところ、粒子径0.5mm以上の粒子は確認されなかった。この粉末に溶剤(D)として、DMAcをモノマー濃度 20質量%となる量(9.33g)を加え、50℃で加熱溶解し、ポリイミド前駆体溶液(固形分20%、粘度50mPa・s)を得た。
【0328】
得られたポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、120℃、5分乾燥させた後、150℃、200℃で各10分、次いで250℃で1時間加熱して熱的にイミド化を行なって、ポリイミド/ガラス積層体を得た。次いで、得られたポリイミド/ガラス積層体を湯浴に浸漬した後剥離し、膜厚が約10μmのポリイミド(フィルム)を得た。このポリイミドの特性を測定した結果を表I−1に示す。
【0329】
〔実施例I−2〜24〕
各成分を表I−1記載へ変更した以外は、実施例I−1と同様にしてポリイミド前駆体粉末、溶液を作製した。なお、実施例I−23〜24では、溶剤(D)として、NMPを用いた。得られたポリイミド前駆体溶液は、実施例I−1と同様の方法で、ポリイミド(フィルム)を得た。このポリイミドの特性を測定した結果を表I−1に示す。
【0330】
〔比較例I−1〕
各成分を表I−1記載へ変更した以外は、実施例I−1と同様にしてポリイミド前駆体粉末、溶液を作製した。得られたポリイミド前駆体溶液は、実施例I−1と同様の方法で、ポリイミド(フィルム)を得た。このポリイミドの特性を測定した結果を表I−1に示す。
【0331】
〔比較例I−2〕
テトラカルボン酸(a)成分として、テトラカルボン酸二無水物であるs−BPDA 1.015モル当量(1.048g)、3つ以上のアミノ基を有する化合物(b)として、TAPOB 0.03モル当量(0.042g)、ジアミン(C)として、APB 0.97モル当量(1.000g)を乳鉢に入れ、十分にすりつぶし、混合することでポリイミド前駆体の粉末を得た。この粉末に溶剤(D)として、DMAcをモノマー濃度 20質量%となる量(8.36g)を加え、50℃で加熱攪拌した。粉末が溶解すると伴に溶液粘度が上昇し、流動性がなくなった(ゲル化)ため、ポリイミド前駆体溶液は得られなかった。
【0332】
表I−1に実施例、比較例の組成および評価結果をまとめて示す。また、
図1に実施例I−2〜6で得られたポリイミドと比較例I−1で得られたポリイミドの熱機械分析(TMA)の測定結果を示す。
【0333】
【表1】
【0334】
【表2】
【0335】
パートIの発明のポリイミド前駆体は、表I−1に示した結果から分かるとおり、ポリイミド前駆体のアミン化合物中で、3つ以上のアミノ基を有する化合物(b)の比率を高めた場合でも、前駆体溶液が製造可能であり、また、熱的方法(重縮合およびイミド化反応)により容易に架橋型ポリイミドを得ることが可能であった。また、パートIの発明の架橋構造を有するポリイミドは、前述のポリイミド前駆体より製造されるため、適切な(所望により高い)架橋密度を有するポリイミドが得られ、線膨張係数が小さく、高温でも加熱時変形しにくいため、寸法安定性に優れることが確認された。
【0336】
<<パートIIの発明の実施例>>
【0337】
以下の各例で使用した原材料は、次のとおりである。
【0338】
[テトラカルボン酸のエステル誘導体(A)]
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸のエステル誘導体:s−BPTA/E
4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸のエステル誘導体:6FDP/E
[他のテトラカルボン酸のエステル誘導体]
3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸のエステル誘導体:BTA/E
【0339】
[3つ以上のアミノ基を有する化合物(B)]
1,3,5−トリス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン:TAPOB
【0340】
【化52】
【0341】
4,4’,4”−トリアミノトリフェニルアミン:TATPA
【0342】
【化53】
【0343】
[他の3つ以上のアミノ基を有する化合物]
2,4,6−トリアミノピリミジン:TAP
【0344】
【化54】
【0345】
1,4,5,8−テトラアミノアントラキノン:TAAQ
【0346】
【化55】
【0347】
[ジアミン(C)]
1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン:APB
2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン:TFMB
m−フェニレンジアミン:MPD
【0348】
[溶剤(D)]
N,N−ジメチルアセトアミド:DMAc
N−メチル−2−ピロリドン:NMP
【0349】
[その他]
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物:s−BPDA
4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物:6FDA
3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物:BTDA
エタノール:EtOH
1,2−ジメチルイミダゾール:12DMZ
ガラス基板:厚さ2mmのソーダガラス板
【0350】
以下の各例において評価は次の方法で行った。
【0351】
ポリイミド前駆体の評価
[回転粘度]、[対数粘度]、および[ワニス固形分]は、パートIと同様にして求めた。
【0352】
[架橋点間分子量]
前述の式(6)より求めた値を表II−1に示す。
【0353】
製膜性の評価
[製膜性]を、パートIと同様に評価した。
【0354】
ポリイミドフィルムの評価
[熱機械特性(TMA):ガラス転移温度、加熱時の変形:1%,5%,10%伸長時温度]、[5%熱重量減少温度]、[折り曲げ性]、[耐溶剤性]、[光学特性:全光透過率、420nmの光透過率]、および[耐吸湿性]を、パートIと同様に評価した。
【0355】
〔実施例II−1〕
ガラス製の容器に、s−BPDAを1.25モル当量(1.842g)、EtOHをテトラカルボン酸無水物に対して2倍モル(0.577g)、DMAcをモノマー濃度(テトラカルボン酸エステル誘導体(A)、アミン化合物(B)、ジアミン(C)を溶質とした濃度)が20質量%となる量(13.72g)、さらに触媒として12DMZを0.02g加え、80℃で3時間加熱攪拌した。FT−IRにより、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸のエステル誘導体s−BPTA/Eの生成を確認した。得られた溶液に、アミン化合物(B)として、TAPOB 0.5モル当量(1.000g)、ジアミン(C)として、APB 0.5モル当量(0.732g)を加え、50℃で加熱溶解し、ポリイミド前駆体溶液(固形分20%、粘度62mPa・s)を得た。
【0356】
得られたポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、120℃、5分乾燥させた後、150℃、200℃で各10分、次いで250℃で1時間加熱して熱的にイミド化を行なって、ポリイミド/ガラス積層体を得た。次いで、得られたポリイミド/ガラス積層体を湯浴に浸漬した後剥離し、膜厚が約10μmのポリイミド(フィルム)を得た。このポリイミドの特性を測定した結果を表1に示す。
【0357】
〔実施例II−2〜5〕
各成分を表1記載へ変更した以外は、実施例II−1と同様にしてポリイミド前駆体溶液を作製した。得られたポリイミド前駆体溶液は、実施例II−1と同様の方法で、ポリイミド(フィルム)を得た。このポリイミドの特性を測定した結果を表1に示す。
【0358】
〔比較例II−1〜3〕
各成分を表1記載へ変更した以外は、実施例II−1と同様にしてポリイミド前駆体溶液を作製した。得られたポリイミド前駆体溶液は、実施例II−1と同様の方法で、ポリイミド(フィルム)を得た。このポリイミドの特性を測定した結果を表1に示す。
【0359】
〔比較例II−5〕
ガラス製の容器に、ポリイミド前駆体溶液の固形分が43重量%となるように3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)109.53g(0.340mol)、エタノール45.85g(1.02mol)およびN−メチル−2−ピロリドン(NMP)113.20gを投入し、その混合物を80℃に加熱して2時間攪拌し、BTA/Eの溶液を得た。次いで、メタフェニレンジアミン(MPDA)15.79g(0.136mol)及び2,4,6−トリアミノピリミジン(TAP)18.27g(0.136mol)を加え、再び80℃に加熱して3時間攪拌し、ポリイミド前駆体溶液を得た。得られたポリイミド前駆体溶液は、実施例II−1と同様の方法で、ポリイミド(フィルム)を製造したが、加熱時に粉状になってしまい、フィルムは得られなかった。ここで得られたポリイミド(粉末状)の特性を測定した結果を表1に示す。
【0360】
〔比較例II−6〕
BTDAの投入量を102.70g(0.319mol)に代え、エタノールの投入量を44.05g(0.956mol)に代え、NMPの投入量を115.47gに代え、MPDAの投入量を20.68g(0.191mol)に代え、TAP18.27g(0.136mol)をTAAQ 17.10g(0.064mol)に代えた以外は、比較例II−5と同様にしてポリイミド前駆体溶液を得た。得られたポリイミド前駆体溶液は、実施例II−1と同様の方法で、ポリイミド(フィルム)を製造したが、加熱時に粉状になってしまい、フィルムは得られなかった。
【0361】
表II−1に実施例、比較例の組成および評価結果をまとめて示す。また、
図1に実施例II−1〜5で得られたポリイミドと比較例II−1で得られたポリイミドの熱機械分析(TMA)の測定結果を示す。
【0362】
【表3】
【0363】
パートIIの発明のポリイミド前駆体は、表II−1に示した結果から分かるとおり、ポリイミド前駆体のアミン化合物中で、3つ以上のアミノ基を有する化合物(B)の比率を高めた場合でも、前駆体溶液が製造可能であり、また、熱的方法(重縮合およびイミド化反応)により容易に架橋型ポリイミドを得ることが可能であった。また、パートIIの発明の架橋構造を有するポリイミドは、前述のポリイミド前駆体より製造されるため、適切な(所望により高い)架橋密度を有するポリイミドが得られ、線膨張係数が小さく、高温でも加熱時変形しにくいため、寸法安定性に優れ、更に折り曲げ可能な柔軟性を有していることが確認された。
【0364】
一方、比較例II−2〜3のように、パートIIの発明で定義されるアミン化合物(B)以外のトリアミン(TAP)を用いたものでは、製造時フィルムに亀裂が生じ、折り曲げ可能な柔軟なフィルムが得られず、5%重量減少温度も低かった。さらに、比較例II−5〜6のようにパートIIの発明のテトラカルボン酸エステル誘導体(A)以外のテトラカルボン酸エステル誘導体を用いた場合、製造時粉状になってしまい、フィルムを得ることができなかった。
【0365】
<<パートIIIの発明の実施例>>
【0366】
以下の各例で使用した原材料は、次のとおりである。
【0367】
[テトラカルボン酸(A31)]
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸:s−BPTA
[テトラカルボン酸(A32)]
2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸:a−BPTA
4,4’ −オキシジフタル酸:ODP
4,4’ −(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸:6FDP
4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸):BPABP
3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸:BTTA
[ジアミン(B31)]
パラフェニレンジアミン:PPD
4,4−ジアミノジフェニルエーテル:4,4−ODA
2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン:BAPP
[ジアミン(B32)]
3,4−ジアミノジフェニルエーテル:3,4−ODA
[環状構造を有するアミン(H)]
1,2−ジメチルイミダゾール:12DMZ
1−メチルイミダゾール:1Mz
ピリジン:Py
イソキノリン:IQ
トリエチレンジアミン:TEDA
ジアザビシクロウンデセン:DBU
[環状構造を有しないアミン]
トリエチルアミン:TEA
トリエタノールアミン:TEtOHA
[溶剤(D)]
N,N−ジメチルアセトアミド:DMAc
N−メチル−2−ピロリドン:NMP
[無機粒子(E)]
アエロジル380(シリカ粒子)
アエロジルR972(表面処理されたシリカ粒子)
[その他]
ガラス基板:厚さ2mmのソーダガラス板
【0368】
以下の各例において評価は次の方法で行った。
【0369】
[ワニス固形分]
アルミシャーレにポリイミド前駆体溶液1gを量り取り、200℃の熱風循環オーブン中で2時間加熱して固形分以外を除去し、その残分の質量よりワニス固形分(加熱残分 質量%)を求めた。
【0370】
[溶解性]
実施例記載の方法で作成したポリイミド前駆体溶液の溶解性を求めた。表中には、完全に溶解した場合を○、不溶分ありの場合を×と記した。
【0371】
[保存安定性]
実施例記載の方法で作成したポリイミド前駆体溶液の保存安定性(25℃、静置、ガラス容器密封)を求めた。表中には、1ヶ月以上析出等の異常なしの場合を◎、2週間以上析出等の異常なしの場合を○、2週間以内に異常が発生した場合を×と記した。
[回転粘度]
東機産業製TV−22 E型回転粘度計を用い、温度 30℃ せん断速度 100sec
−1もしくは10sec
−1でのポリイミド前駆体溶液の粘度を求めた。
【0372】
[製膜性]
各例で得られたポリイミド前駆体溶液を洗浄されたガラス基板上にバーコーターを用い、ポリイミド膜の厚さ10μmもしくは、25μmとなるように塗工した。その基板を120℃で5分乾燥させた後、150℃、200℃で各10分、次いで250℃で1時間加熱して熱的にイミド化を行なった。表中には、◎:異常なし(自立フィルムが得られる。)、○:顕著な着色(茶色〜黒色)もしくは膜に濁りあり(塗膜作成可)、△:膜が白化、膨れが発生、×:膜が得られない(粉状になるなど)と記した。
【0373】
[折り曲げ性]
ポリイミドフィルム(厚さ10μmもしくは、25μm、幅1cm、長さ5cm)をスライドガラスに挟み折り曲げ(はぜ折)、折り曲げ部分に重さ100gの分銅をおき、1分間静置した。折り曲げ部分を戻し、異常がない場合を○、折り曲げ箇所で白化した場合を△、割れ等が生じた場合を×とした。
【0374】
[熱機械特性(TMA):ガラス転移温度、線膨張係数]
ポリイミド膜を幅4mmの短冊状に切り取って試験片とし、島津製作所製TMA−50を用い、チャック間長15mm、荷重2g、昇温速度20℃/minで475℃まで昇温した。得られたTMA曲線の変曲点から、ガラス転移温度(℃)を求めた。なお、線膨張係数は、50℃〜200℃における平均線膨張係数とした。
【0375】
[引っ張り特性:弾性率、降伏点応力、破断伸度、破断強度]
ポリイミド膜をIEC450規格のダンベル形状に打ち抜いて試験片とし、ORIENTEC社製TENSILONを用いて、チャック間 30mm、引張速度 2mm/minで測定した。得られたS−Sカーブより、弾性率、降伏点応力、破断伸度、破断強度を求めた。
【0376】
[5%熱重量減少温度]
膜厚10μmのポリイミドフィルムを試験片とし、エスアイアイ・ナノテクノロジー製 示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA6300)を用い、窒素気流中、昇温速度10℃/minで25℃から600℃まで昇温した。得られた重量曲線から、5%熱重量減少温度を求めた。
【0377】
〔実施例III−1〕
テトラカルボン酸(A31)として、s−BPTA 0.75モル当量、テトラカルボン酸(A32)として、a−BPTA 0.25モル当量、ジアミン(B31)として、4,4−ODA 1モル当量、環状構造を有するアミン(G)として、12DMZ 0.1モル当量を乳鉢に入れ、十分にすりつぶし、混合することでポリイミド前駆体の粉末を得た。この粉末を顕微鏡で確認したところ、粒子径0.5mm以上の粒子は確認されなかった。この粉末に溶剤(D)として、DMAcをモノマー濃度 20質量%となる量(9.33g)を加え、50℃で加熱溶解し、ポリイミド前駆体溶液(固形分20%)を得た。
【0378】
得られたポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、120℃、5分乾燥させた後、150℃、200℃で各10分、次いで250℃で1時間加熱して熱的にイミド化を行なって、ポリイミド/ガラス積層体を得た。次いで、得られたポリイミド/ガラス積層体を湯浴に浸漬した後剥離し、膜厚が約10μmそして、約25μmのポリイミド(フィルム)を得た。このポリイミドの特性を測定した結果を表III−1に示す。
【0379】
〔実施例III−2〜28〕
各成分を表III−1記載へ変更した以外は、実施例III−1と同様にしてポリイミド前駆体粉末、ポリイミド前駆体溶液を作製した(溶媒の添加は適宜調整)。実施例III−1と同様の方法で、ポリイミド(フィルム)を製造した。この結果を表III−1〜3に示す。
【0380】
〔比較例III−1〜3〕
各成分を表III−1記載へ変更した以外は、実施例III−1と同様にしてポリイミド前駆体粉末を製造し、それに溶媒を加え、加熱攪拌したが、溶解しなかった。
【0381】
〔比較例III−4〜8〕
各成分を表III−1記載へ変更した以外は、実施例III−1と同様にしてポリイミド前駆体粉末、ポリイミド前駆体溶液を作製した(溶媒の添加は適宜調整)。実施例III−1と同様の方法で、ポリイミド(フィルム)を製造したが、粉状になり、白化したりし、良質の膜が得られなかった。
【0382】
〔実施例III−30〕
実施例III−25で得られたポリイミド前駆体溶液に、原料溶液の固形分100質量部に対して、アエロジルR972 20質量部を加え、3本ロールにて分散し、無機粒子が分散されたポリイミド前駆体溶液(固形分 42%)を得た。実施例III−1と同様の方法で、ポリイミド(フィルム)を製造した。このポリイミドの評価結果を表III−4に示す。
【0383】
〔比較例III−9〕
ポリイミド前駆体溶液の原料として、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物 0.8モル当量、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物 0.2モル当量、4,4−ジアミノジフェニルエーテル 1モル当量を加え、公知の製造方法により、ポリアミック酸溶液(ポリイミド前駆体溶液)を得た。この溶液の固形分濃度は20%であった。
【0384】
実施例III−1と同様の方法で、ポリイミド(フィルム)を製造した。このポリイミドの評価結果を表III−4に示す。
【0385】
【表4】
【0386】
【表5】
【0387】
【表6】
【0388】
【表7】
【0389】
パートIIIの発明のポリイミド前駆体溶液は、表III−1〜4に示した結果から分かるとおり、溶解性に優れるため、高固形分化が可能であり、また、保存安定性に優れるものである。さらにパートIIIの発明のポリイミド前駆体から得られるポリイミドは、製膜性に優れ、折り曲げ性を有する良質な膜が形成可能である。さらに、従来のポリアミック酸から得られるポリイミドに比べ、機械強度(弾性率、降伏点応力、破断点応力)が高く、線膨張係数は低いなどの特性に優れる。