特許第6666055号(P6666055)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6666055インク、インクジェット記録方法及び記録メディア
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6666055
(24)【登録日】2020年2月25日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】インク、インクジェット記録方法及び記録メディア
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/326 20140101AFI20200302BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20200302BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20200302BHJP
【FI】
   C09D11/326
   B41M5/00 120
   B41M5/00 110
   B41J2/01 501
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-115538(P2016-115538)
(22)【出願日】2016年6月9日
(65)【公開番号】特開2017-218542(P2017-218542A)
(43)【公開日】2017年12月14日
【審査請求日】2019年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】荒川 久満
【審査官】 山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−124379(JP,A)
【文献】 特開2015−101705(JP,A)
【文献】 特開2013−142150(JP,A)
【文献】 特開2003−213180(JP,A)
【文献】 特開平06−080927(JP,A)
【文献】 特開2011−006657(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/136000(WO,A1)
【文献】 特開2014−043544(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/147192(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00−13/00
B41J 2/01
B41M 5/00、5/50、5/52
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性の着色剤、アルカリ可溶性樹脂、ポリマー、及び水を含有するインクであって、前記ポリマーが3種類のメタクリル酸誘導体と、1種類のアクリル酸誘導体から構成されるポリマーであり、前記アルカリ可溶性樹脂の重量平均分子量が1500〜10000であり、且つ、前記インクの総質量に対するアルカリ可溶性樹脂の含有量(AW)とポリマーの含有量(BW)が、質量基準で下記式(1)及び式(2)の両方を満たすインク。
式(1):AW/BW=0.4より大きく1.5未満。
式(2):AW+BW=2.4質量%〜4.5質量%。
【請求項2】
前記アルカリ可溶性樹脂が、水不溶性の着色剤の分散剤である請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記インクの総質量に対するポリマーの含有量が、1〜2.5質量%である請求項1に記載のインク。
【請求項4】
前記アルカリ可溶性樹脂が、スチレン‐アクリル樹脂である請求項1に記載のインク。
【請求項5】
前記ポリマーが、メタクリル酸、2種類のアルキルメタクリレート、及びアルキルアクリレートから構成されるポリマーである請求項1に記載のインク。
【請求項6】
前記ポリマーが、メタクリル酸、2種類のC1‐C3アルキルメタクリレート、及びC6‐C10アルキルアクリレートから構成されるポリマーである、請求項1、3及び5のいずれか一項に記載のインク。
【請求項7】
さらに水溶性有機溶剤を含有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載のインク。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のインクの液滴を、記録信号に応じて吐出させて記録メディアに付着させることにより記録を行うインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記の記録メディアが、圧着用紙である請求項8に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のインクが付着した記録メディア。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のインクを含有する容器を備えるインクジェットプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性インク、そのインクを用いるインクジェット記録方法、及びそのインクが付着した記録メディアに関する。
【背景技術】
【0002】
各種の情報のデジタル化が進む中で、インクジェット記録方法はオフィスや家庭における記録(印刷)用途として広く普及してきた。近年、インクジェット記録の用途は可変情報、テキスタイル、広告、及び看板等の産業用途にも拡大されている。
【0003】
産業用途においては、高速でインクジェット記録をできることが強く要求されている。高速でインクジェット記録をするためには、インクの乾燥性や耐擦性が極めて重要となる。インクの乾燥性や耐擦性が低いと、記録されたインクが乾燥する前に、複数の記録物が重ねられることになる。そうなると、乾燥していないインクで記録された画像が他の記録物と接触し、その画像と他の記録物の両方が汚染されてしまうことになる。このような事態を防止することは、1つの大きな課題である。
【0004】
また、産業用途においては、様々な種類の記録メディアへインクジェット記録できることが要求されている。その一例として、圧着用紙が挙げられる。圧着用紙は、秘匿性が高い個人情報等の可変情報を記録するために利用される記録メディアの1つである。中でも、感圧接着剤により前処理剤され、ハガキ2枚分の大きさに加工された圧着用紙は、日本国内で広く利用されている。すなわち、圧着用紙の半面に可変情報をインクジェット記録した後、他の半面を重ね合わせて圧着することにより、ハガキとして郵送できる。このため、各種の可変情報を、その情報の正しい所有者へ連絡する用途に圧着用紙が広く利用されている。
前記のようにハガキ用途の圧着用紙は、可変情報の記録面に対して白紙面を重ねて圧着するため、この2面を剥離したときに、記録面のインクが白紙面に転写しないことが必要である。
また、圧着用紙においては、感圧接着剤により前処理された紙面にインクジェット記録をするため、接着剤と接触しても滲み等を生じず、高画質で記録できることも要求される。高画質での記録の一例としては、例えばバーコードの記録が挙げられる。
【0005】
また、産業用途のインクジェット記録においては、良好な吐出性も強く要求される。特に、初期吐出性、及び連続して吐出するときの吐出安定性が課題である。
初期吐出とは、インクジェットプリンタが止まっている状態から始動したときに、ピン欠けすることなく良好な吐出ができる性能をいう。初期吐出が不良なインクは記録ヘッドのクリーニング等が必要となる。
また、初期吐出は良好であるが、連続して吐出するとピン欠けが出始めるインクもある。ピン欠けが生じた記録物は不良品となるため、連続して吐出するときの吐出安定性が不良なインクは、初期吐出が不良なインク以上に深刻な問題を生じる。
さらに、インクに対して良好な保存安定性が求められることは言うまでもない。
【0006】
特許文献1及び2には、スチレン‐アクリル樹脂、及びポリマーを含有するインク組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開2015/152291号ガゼット
【特許文献2】国際公開2015/147192号ガゼット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、転写性、初期吐出性、吐出安定性が優れ、保存安定性も良好なインク、そのインクを用いるインクジェット記録方法、及びそのインク付着した記録メディアの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明の発明者は、前記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、水不溶性の着色剤、特定のアルカリ可溶性樹脂、特定のポリマー、及び水を含有し、前記アルカリ可溶性樹脂とポリマーの含有量が、下記式(1)及び式(2)を満たすインクにより、前記の課題を解決できることを見出した。すなわち本発明は、以下の1)〜11)に関する。
【0010】
1)
水不溶性の着色剤、アルカリ可溶性樹脂、ポリマー、及び水を含有するインクであって、前記ポリマーが3種類のメタクリル酸誘導体と、1種類のアクリル酸誘導体から構成されるポリマーであり、前記アルカリ可溶性樹脂の重量平均分子量が1500〜10000であり、且つ、前記インクの総質量に対するアルカリ可溶性樹脂の含有量(AW)とポリマーの含有量(BW)が、質量基準で下記式(1)及び式(2)の両方を満たすインク。
式(1):AW/BW=0.4より大きく1.5未満。
式(2):AW+BW=2.4質量%〜4.5質量%。
2)
前記アルカリ可溶性樹脂が、水不溶性の着色剤の分散剤である前記1)に記載のインク。
3)
前記インクの総質量に対するポリマーの含有量が、1〜2.5質量%である前記1)に記載のインク。
4)
前記アルカリ可溶性樹脂が、スチレン‐アクリル樹脂である前記1)に記載のインク。
5)
前記ポリマーが、メタクリル酸、2種類のアルキルメタクリレート、及びアルキルアクリレートから構成されるポリマーである前記1)に記載のインク。
6)
前記ポリマーが、メタクリル酸、2種類のC1‐C3アルキルメタクリレート、及びC6‐C10アルキルアクリレートから構成されるポリマーである、前記1)、3)及び5)のいずれか一項に記載のインク。
7)
さらに水溶性有機溶剤を含有する、前記1)〜6)のいずれか一項に記載のインク。
8)
前記1)〜7)のいずれか一項に記載のインクの液滴を、記録信号に応じて吐出させて記録メディアに付着させることにより記録を行うインクジェット記録方法。
9)
前記の記録メディアが、圧着用紙である前記8)に記載のインクジェット記録方法。
10)
前記1)〜7)のいずれか一項に記載のインクが付着した記録メディア。
11)
前記1)〜7)のいずれか一項に記載のインクを含有する容器を備えるインクジェットプリンタ。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、転写性、初期吐出性、吐出安定性が優れ、保存安定性も良好なインク、そのインクを用いるインクジェット記録方法、及びそのインク付着した記録メディアが提供できた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書中、「C.I.」とは、「カラーインデックス」を意味する。また、本明細書中、実施例等も含めて、「%」及び「部」については特に断りのない限り、いずれも質量基準で記載する。
【0013】
[水不溶性の着色剤]
前記インクが含有する着色剤は、特に限定されず、水溶性の着色剤であれば使用できる。水不溶性の着色剤は、必要に応じて併用することができる。
本明細書中、「水不溶性」とは、25℃の水に対する着色剤の溶解性が通常3g/リットル以下、好ましくは2g/リットル以下、より好ましくは1g/リットル以下であることを意味する。下限は0g/リットルを含む。
水不溶性の着色剤としては、例えば、顔料、分散染料及び溶剤染料が挙げられる。代表的なこれらの着色剤としては、それぞれC.I.Pigment、C.I.Disperse及びC.I.Solventから選択される着色剤が挙げられる。
【0014】
前記した以外の着色剤として、前記の着色剤を水不溶性の樹脂に含有させた、着色剤を含有する樹脂も水不溶性の着色剤として挙げることができる。このような着色樹脂を着色剤として使用するときは、水溶性の着色剤を水不溶性の樹脂に含有させることもできる。このときの水溶性の着色剤としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、建染染料及び可溶性建染染料等が挙げられる。代表的なこれらの染料としては、それぞれC.I.Direct、C.I.Acid、C.I.Food、C.I.Basic、C.I.Reactive、C.I.Vat、C.I.Solubilised Vatから選択される染料が挙げられる。
【0015】
顔料としては、無機顔料、有機顔料及び体質顔料等が挙げられる。
無機顔料としては、例えばカーボンブラック;金属酸化物、水酸化物、硫化物;フェロシアン化物;及び金属塩化物;等が挙げられる。
【0016】
カーボンブラックとしては、例えば、サーマルブラック、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、ガスファーネスブラック、ランプブラック、ガスブラック、及びチャンネルブラックが挙げられる。様々な種類のカーボンブラックが、市販品として容易に入手することができる。その一例としては、例えばコロンビア・カーボン社のRavenシリーズ、キャボット社のMonarchシリーズ及びRegalシリーズ、デグサ社のColor Blackシリーズ、Printexシリーズ、Special Blackシリーズ、及び三菱化学株式会社のMAシリーズ、MCFシリーズ等が挙げられる。
【0017】
有機顔料としては、例えばアゾ、ジアゾ、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、ジオキサジン、ペリレン、ペリノン、チオインジゴ、アンスラキノン及びキノフタロン等が挙げられる。
【0018】
有機顔料の具体例としては、例えばC.I.Pigment Yellow 1、2、3、12、13、14、16、17、24、55、73、74、75、83、93、94、95、97、98、108、114、128、129、138、139、150、151、154、180、185、193、199、202等のイエロー;C.I.Pigment Red 5、7、12、48、48:1、57、88、112、122、123、146、149、166、168、177、178、179、184、185、202、206、207、254、255、257、260、264、272等のレッド;C.I.Pigment Blue 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、22、25、60、66、80等のブルー;C.I.Pigment Violet 19、23、29、37、38、50等のバイオレット;C.I.Pigment Orange 13、16、68、69、71、73等のオレンジ;C.I.Pigment Green 7、36、54等のグリーン;C.I.Pigment Black 1等のブラックの各色の顔料が挙げられる。
【0019】
体質顔料としては、例えばシリカ、炭酸カルシウム、タルク、クレー、硫酸バリウム、ホワイトカーボンなどが挙げられる。これらの体質顔料は、粉体の流動性を向上させる目的で、無機顔料又は有機顔料と併用されることが多い。
【0020】
また、顔料粒子の表面に化学的な処理を行って、自己分散性を付与した自己分散顔料を用いることもできる。
【0021】
分散染料としては、例えば、C.I.Dispers Yellow 9、23、33、42、49、54、58、60、64、66、71、76、79、83、86、90、93、99、114、116、119、122、126、149、160、163、165、180、183、186、198、200、211、224、226、227、231、237等のイエロー;C.I.Dispers Red 60、73、88、91、92、111、127、131、143、145、146、152、153、154、167、179、191、192、206、221、258、283等のレッド;C.I.Dispers Orange 9、25、29、30、31、32、37、38、42、44、45、53、54、55、56、61、71、73、76、80、96、97等のオレンジ;C.I.Dispers Violet 25、27、28、54、57、60、73、77、79、79:1等のバイオレット;C.I.Dispers Blue 27、56、60、79:1、87、143、165、165:1、165:2、181、185、197、202、225、257、266、267、281、341、353、354、358、364、365、368等のブルーの各色の分散染料が挙げられる。
【0022】
前記インクの総質量中における着色剤の含有量は通常1〜30%、好ましくは1〜15%、より好ましくは2〜10%である。
【0023】
[アルカリ可溶性樹脂]
前記アルカリ可溶性樹脂は、水不溶性の着色剤の分散剤であるのが好ましく、スチレン‐アクリル樹脂であるのがより好ましい。
【0024】
スチレン−アクリル共重合体としては、芳香族炭化水素基を含む化合物と(メタ)アクリル酸(エステル)との共重合体;芳香族炭化水素基を含む化合物と、(メタ)アクリル酸(エステル)、及び(無水)マレイン酸の共重合体;等が挙げられる。
芳香族炭化水素基を含む化合物と(メタ)アクリル酸(エステル)の共重合体としては、親水性部分と疎水性部分とを分子中に有する共重合体が好ましく挙げられる。
なお、「(メタ)アクリル酸(エステル)」とは、本明細書においてアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、及びメタクリル酸エステルを含む意味として、また「(無水)マレイン酸」とは、無水マレイン酸とマレイン酸を含む意味として、それぞれ用いる。芳香族炭化水素基を含む化合物との共重合には、これらのうち単一の化合物を使用することも、これらの中から複数を併用することもできる。また、共重合を行うときに(無水)マレイン酸を加えて、芳香族炭化水素基を含む化合物、(メタ)アクリル酸(エステル)、及び(無水)マレイン酸の共重合体とすることもできる。
これらの共重合体の具体例としては、(α‐メチル)スチレン‐アクリル酸共重合体、(α‐メチル)スチレン‐アクリル酸‐アクリル酸エステル共重合体、(α‐メチル)スチレン‐メタクリル酸共重合体、(α‐メチル)スチレン‐メタクリル酸‐アクリル酸エステル共重合体、(α‐メチル)スチレン‐(無水)マレイン酸共重合体、アクリル酸エステル‐(無水)マレイン酸共重合体、(α‐メチル)スチレン‐アクリル酸エステル‐(無水)マレイン酸マレイン酸共重合体、アクリル酸エステル‐アリルスルホン酸エステル共重合体、アクリル酸エステル‐スチレンスルホン酸共重合体、(α‐メチル)スチレン‐メタクリルスルホン酸共重合体、ポリエステル‐アクリル酸共重合体、ポリエステル‐アクリル酸‐アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル‐メタクリル酸共重合体、ポリエステル‐メタクリル酸‐アクリル酸共重合体エステル;等が挙げられる。これらの中では芳香族炭化水素基を含む化合物がスチレンのものが好ましい。
なお(α‐メチル)スチレンとは本明細書においてα‐メチルスチレン、及びスチレンを含む意味として用いる。
【0025】
アルカリ可溶性樹脂の重量平均分子量は通常1,500〜10,000、好ましくは1,700〜10,000、より好ましくは3,000〜10,000、さらに好ましくは5,000〜10,000、場合により好ましくは8,000〜10,000、特に好ましくは8,000〜9,000である。重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミッションクロマトグラフ)法で測定することができる。
【0026】
アルカリ可溶性樹脂の酸価は通常150〜250mgKOH/g、好ましくは160〜250mgKOH/gである。樹脂の酸価は、樹脂1gを中和するのに要するKOHのmg数を表し、JIS−K3054に従って測定する。
分散剤は、公知の方法により合成することも、市販品として購入することもできる。市販品のうち、スチレン−アクリル共重合体の具体例としては、例えば、BASF社製の、ジョンクリル678、682、683等が挙げられる。これらの中では678(重量平均分子量=8,500、酸価=215)、682(重量平均分子量=1,700、酸価=238)、683(重量平均分子量=8,000、酸価=160)等が好ましい。
【0027】
[ポリマー]
前記ポリマーは、3種類のメタクリル酸誘導体と、1種類のアクリル酸誘導体から構成されるポリマーである。メタクリル酸、2種類のアルキルメタクリレート、及びアルキルアクリレートから構成されるポリマーが好ましい。また、メタクリル酸、2種類のC1‐C3アルキルメタクリレート、及びC6‐C10アルキルアクリレートから構成されるポリマーがさらに好ましい。前記ポリマーとしては、ブロック共重合、ランダム共重合、及びグラフト共重合等により得られるポリマーが挙げられる。
【0028】
[メタクリル酸誘導体]
メタクリル酸誘導体としては、アルキルメタクリレート、及びメタクリル酸が好ましい。
アルキルメタクリレートとしては、アルキル部分が通常C1−C18、好ましくはC1−C12、より好ましくはC1−C8であり、飽和又は不飽和のアルキルメタクリレートが挙げられる。
飽和アルキルメタクリレートの具体例としては、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、オクチルメタクリレート等の直鎖アルキルメタクリレート;イソプロピルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、イソヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等の分岐鎖アルキルメタクリレート;シクロプロピルメタクリレート、シクロブチルメタクリレート、シクロペンチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等の環状アルキルメタクリレート;が挙げられる。
不飽和アルキルメタクリレートとしては、不飽和C1−C4アルキルメタクリレートがさらに好ましい。その具体例としては、ビニルメタクリレート、アリルメタクリレート、プロペニルメタクリレート、ブテニルメタクリレート、ブタジエニルメタクリレート等が挙げられる。
【0029】
[アクリル酸誘導体]
アクリル酸誘導体としては、前記[メタクリル酸誘導体]における「メタクリル酸」を「アクリル酸」と読み替え、また「メタクリレート」を「アクリレート」に読み替えた化合物が挙げられる。
【0030】
2種類のアルキルメタクリレートとしては、前記のうち直鎖アルキルメタクリレート、及び不飽和アルキルメタクリレートのそれぞれから選択されるモノマーが好ましい。
直鎖アルキルメタクリレートは、前記のうち直鎖C1−C3アルキルメタクリレートがより好ましく、メチルメタクリレートがさらに好ましい。
不飽和アルキルメタクリレートは、前記のうち不飽和C1−C4アルキルメタクリレートがより好ましく、アリルメタクリレートがさらに好ましい。
ポリマーを構成するアルキルアクリレートは、分岐鎖アルキルアクリレートが好ましく、分岐鎖C1−C8アルキルアクリレートがより好ましく、2−エチルヘキシルアクリレートがさらに好ましい。
【0031】
前記ポリマーは、例えば国際公開2015/147192号ガゼットが開示する合成方法により得ることができる。また、ポリマーは、エマルジョンとして使用することもできる。
【0032】
前記ポリマーのモノマー構成を「通常」、「好ましい」、「より好ましい」構成として、下記表1にまとめた。下記表1の各モノマーの範囲で、モノマーの総量が100部となるように調製することができる。下記表1中の略号は、以下の意味を有する。
MA:メタクリル酸。
ScAM:直鎖アルキルメタクリレート。
BcAA:分岐鎖アルキルアクリレート。
UsAM:不飽和アルキルメタクリレート。
【0033】
【表1】
【0034】
前記ポリマーの平均粒径(D50)は通常10nm〜1μm、好ましくは30nm〜500nm程度である。
ポリマーのガラス転移点(TG)は通常−10℃〜20℃、好ましくは−5℃〜15℃である。
ポリマーの酸価は通常0〜25KOHmg/g、好ましくは5〜15KOHmg/gである。
ポリマーのテトラヒドロフランに対する不溶解度は通常80〜100%、好ましくは100%である。
【0035】
前記アルカリ性樹脂、及びポリマーを使用するときは、その酸価を中和する中和剤を用いることができる。中和剤としては、例えばアルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アミン化合物等が挙げられる。中和剤は通常1〜5種類、好ましくは1〜4種類、より好ましくは1〜3種類程度を任意に使用することができる。
アルカリ金属の水酸化物としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが挙げられる。アルカリ土類金属の水酸化物として、例えば水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化ストロンチウム等が挙げられる。
アミン化合物としては、アンモニア(アンモニア水を含む)、アルキルアミン化合物、置換基としてヒドロキシ基を有するアルキルアミン化合物が挙げられる。
アルキルアミン化合物としては、C1−C6アルキル基を1つ〜3つ有するアミン化合物が挙げられる。その具体例としては、例えばモノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン及びトリメチルアミンが挙げられる。
置換基としてヒドロキシ基を有するアミン化合物としては、前記アルキルアミン化合物のアルキル基の少なくとも1つが、置換基としてヒドロキシ基を有するアミン化合物が挙げられる。その具体例としては、例えばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン及びN−メチルジエタノールアミンが挙げられる。
【0036】
中和剤の使用量は中和度で表すことができる。ポリマーの酸価を、理論等量で中和したときが100%中和度である。理論量を超えて中和剤を使用することもできる。ポリマーの中和度は通常50〜200%、好ましくは80〜150%、より好ましくは100〜120%である。
【0037】
前記インクは、その総質量に対するアルカリ可溶性樹脂の含有量を「AW」とし、ポリマーの含有量を「BW」としたとき、質量基準で下記式(1)及び式(2)の両方を満たすとき、本発明により得られる効果を奏することができる。式(1)及び式(2)の値は、AW/BW及びAW+BWをそれぞれ算出した後、算出された数値の小数点以下2桁目を四捨五入することにより、各式の範囲を満たすか否かを判定する。
式(1)において、AW/BWの値は通常0.4より大きく1.5未満、好ましくは0.5より大きく1.5未満、より好ましくは0.6〜1.3である。
式(2)において、AW+BWの値は通常2.4%〜4.5%、好ましくは2.5%〜4.3%、より好ましくは2.8%〜4.1%である。
【0038】
インクの調製方法としては、公知の様々な方法が存在する。その1つの調製方法として、着色剤と分散剤とを加えて分散液を調製するときのみに分散剤を加え、得られた分散液にインク調製剤を加えてインクを調製する方法が挙げられる。
また、別の方法としては、着色剤と分散剤とを加えて分散液を調製した後、さらに分散剤と、インク調製剤とを加えてインクを調製する方法も挙げられる。
前記インクは、例えば、このような調製方法で調製することができる。
【0039】
前記インクは、前記以外の成分として、インク調製剤を含有することができる。インク調製剤としては、水溶性有機溶剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、酸化防止剤、界面活性剤、消泡剤等が挙げられる。
【0040】
水溶性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール又は第三ブタノール、等の、ヒドロキシ基を1つ有するC1−C6アルカノール;N,N−ジメチルホルムアミド又はN,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン又はN−メチルピロリジン−2−オン等のラクタム;1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オン又は1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の環式尿素;アセトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン、エチレンカーボネート等のケトン又はケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,2−へキシレングリコール、1,6−へキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、分子量が400以上のポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコール、チオジグリコール又はジチオジグリコール等の、C2−C6アルキレン単位を有するモノ、オリゴ又はポリアルキレングリコール又はチオグリコール;グリセリン、ジグリセリン、ヘキサン−1,2,6−トリオール、トリメチロールプロパン等のポリオール(トリオール);エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等の、多価アルコールのC1−C4アルキルエーテル;γ−ブチロラクトン又はジメチルスルホキシド;等が挙げられる。
水溶性有機溶剤の使用により、例えば乾燥性等のインクの物性を制御できる。このため、前記のインクは水溶性有機溶剤を含有するのが好ましい。
【0041】
防腐剤の例としては、例えば有機硫黄、有機窒素硫黄、有機ハロゲン、ハロアリールスルホン、ヨードプロパギル、ハロアルキルチオ、ニトリル、ピリジン、8−オキシキノリン、ベンゾチアゾール、イソチアゾリン、ジチオール、ピリジンオキシド、ニトロプロパン、有機スズ、フェノール、第4アンモニウム塩、トリアジン、チアジン、アニリド、アダマンタン、ジチオカーバメイト、ブロム化インダノン、ベンジルブロムアセテート又は無機塩等の各化合物、及びこれらの誘導体が挙げられる。また、アーチケミカル社製、商品名プロクセルGXL(S)やプロクセルXL−2(S)等も挙げられる。
【0042】
防黴剤の具体例としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン及びその塩等が挙げられる。
【0043】
pH調整剤としては、インクのpHを通常5〜11、好ましくは7〜10に制御できる物質を使用することができる。その具体例としては、例えば、前記の中和剤;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;ケイ酸ナトリウム、酢酸カリウム等の有機酸のアルカリ金属塩;及び、リン酸二ナトリウム等の無機塩基;等が挙げられる。
【0044】
キレート試薬の具体例としては、例えばエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、及びウラシル二酢酸ナトリウム等があげられる。
【0045】
防錆剤の具体例としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、及びジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等があげられる。
【0046】
水溶性紫外線吸収剤の例としては、例えばスルホ化されたベンゾフェノン、ベンゾトリアゾ−ル、サリチル酸、桂皮酸、及びトリアジン等の各化合物、及びその誘導体が挙げられる。
【0047】
酸化防止剤の例としては、例えば、褪色防止剤を使用することができる。前記褪色防止剤の例としては、ハイドロキノン、アルコキシフェノール、ジアルコキシフェノール、フェノール、アニリン、アミン、インダン、クロマン、アルコキシアニリン、及び複素環等の各化合物、及びその誘導体が挙げられる。
【0048】
界面活性剤の例としては、例えばアニオン、カチオン、ノニオン、両性、シリコーン系、フッ素系等の、公知の界面活性剤が挙げられる。
【0049】
アニオン界面活性剤としてはアルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、N−アシルアミノ酸又はその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型リン酸エステル、アルキル型リン酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げらる。アニオン界面活性剤は、例えば第一工業製薬株式会社のハイテノール及びネオハイテノールシリーズ等として、様々な種類の製品を容易に購入することができる。
【0050】
カチオン界面活性剤としては2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
【0051】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等のアセチレングリコール(アルコール)系;日信化学株式会社製 商品名サーフィノール104、105PG50、82、420、440、465、485、オルフィンSTG;ポリグリコールエーテル系(例えばSIGMA−ALDRICH社製のTergItol 15−S−7等);等が挙げられる。
【0052】
両性界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、イミダゾリン誘導体等が挙げられる。
【0053】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸系化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物等が挙げられる。フッ素系界面活性剤は、例えばDuPont社のZonyl及びCapstoneシリーズ、ビックケミー社のBYKシリーズ等や、オムノバ社、DIC株式会社等から様々な種類の製品を容易に購入することができる。
【0054】
消泡剤の具体例としては、例えば、シリコーン系、シリカ鉱物油系、オレフィン系、アセチレン系等が挙げられる。市販の消泡剤で入手可能なものとして、例えば、いずれも信越化学工業株式会社製のサーフィノール DF37、DF58、DF−110D、DF220、MD−20、オルフィン SK−14が挙げられる。
消泡剤を使用するとき、その添加量は、添加する液の総質量に対して0.01〜5%が好ましく、0.03〜3%がより好ましく、0.05〜1%がさらに好ましい。0.01%以上とすることで消泡剤としての効果が得られ、5%以下とすることで分散安定性が良好になる。
【0055】
前記インクに対して、精密濾過をすることができる。精密濾過をするときは、メンブランフィルター及び/又はガラス濾紙等を用いることができる。前記インクをインクジェット記録に用いるときは、精密濾過を行うことが好ましい。精密濾過を行うときのフィルター等の孔径は通常0.5μm〜20μm、好ましくは0.5μm〜10μmである。
【0056】
前記インクの表面張力は通常10〜50mN/m、好ましくは20〜40mN/mである。インクの粘度は通常30mPa・s以下、好ましくは20mPa・s以下である。下限は0.1mPa・s以上が好ましい。
【0057】
前記インクをインクジェット記録に使用するときは、インク中の無機不純物を除去するのが好ましい。無機不純物としては、金属陽イオンの塩化物(例えば塩化ナトリウム)、及び硫酸塩(例えば硫酸ナトリウム)等が挙げられる。インクが含有する着色剤の総質量に対して、無機不純物の含有量は1%以下が好ましい。下限は分析機器の検出限界以下とすることができる。
無機不純物を除去する方法としては、例えば逆浸透膜を用いる方法;着色剤を水溶性有機溶剤と水との混合溶媒中で懸濁精製する方法;及び、イオン交換樹脂で無機不純物を吸着する方法;等が挙げられる。
【0058】
前記インクは水性インクとして、各種の記録・印刷分野において使用することができる。例えば、筆記、印刷、情報記録、捺染等の用途に好適である。特に、インクジェット記録に用いることが好ましい。
インクジェットプリンタの吐出方式としては、例えば、電荷制御方式;ドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式ともいう。);音響インクジェット方式;サーマルインクジェット方式;等が挙げられる。
【0059】
前記の記録メディアは、前記インクが付着できる物質を意味する。前記インクが付着できるのであれば、その材質は制限されない。そのような記録メディアの中では、例えば、微塗工紙、アート紙、コート紙、マット紙、キャスト紙等の塗工紙;いずれもインク受容層を有しない、普通紙、グラビア印刷やオフセット印刷等に用いられるメディア;インク受容層を有するインクジェット専用紙、インクジェット専用フィルム、光沢紙、又は光沢フィルム等;繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等);皮革;カラーフィルター用基材;及び、圧着紙等が好ましい。前記インクが付着した記録メディアも、本発明の範囲に含まれる。
【0060】
前記インクジェット記録方法で記録メディアに記録をするときは、前記インクを含有する容器を有するインクジェットプリンタを用いることができる。前記インクを含有する容器を有するインクジェットプリンタも、本発明の範囲に含まれる。
【0061】
前記した全ての内容について、好ましいもの同士の組み合わせはより好ましく、より好ましいもの同士の組み合わせはさらに好ましい。好ましいものとより好ましいものとの組み合わせ、より好ましいものとさらに好ましいものとの組み合わせ等についても同様である。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
特に断りのない限り、合成反応等については攪拌下に行った。また、反応温度は、反応系内の温度を意味する。
実施例で使用したカーボンブラックは、ORION社製のNipex 160IQである。
また、ジョンクリル678は重量平均分子量が8500、ジョンクリル690は重量平均分子量が16700のアルカリ可溶性樹脂である。
【0063】
[製造例1]ポリマーの調製。
前記の特許文献2の[調製例5]を追試することにより、酸価が13KOHmg/g、Tgが9℃、固形分が25%のポリマーエマルションを得た。これを「ポリマー1」とする。
【0064】
[製造例2]アルカリ可溶性樹脂の水溶液の調製。
ジョンクリル678(20部)、及びトリエタノールアミン8部をイオン交換水72部に加え、80℃に加熱して溶液とすることにより、アルカリ可溶性樹脂の濃度が20%の水溶液を得た。これを「樹脂1」とする。
【0065】
[製造例3]比較用のアルカリ可溶性樹脂の水溶液の調製。
ジョンクリル690(20部)、及びトリエタノールアミン8.9部をイオン交換水71.1部に加え、80℃に加熱して溶液とすることにより、比較用のアルカリ可溶性樹脂の濃度が20%の水溶液を得た。これを「比較樹脂1」とする。
【0066】
[製造例4]分散液1の調製。
ジョンクリル678(5.6部)、及びトリエタノールアミン3.2部をイオン交換水103.7部に溶解し、1時間攪拌した。得られた溶液にカーボンブラック37.5部を加え、1500rpmの条件下で20時間、サンドグラインダーで分散処理を行って液を得た。得られた液にイオン交換水150部を滴下した後、この液を濾過して分散用ビーズを取り除くことにより、顔料濃度12.5%の分散液を得た。これを「分散液1」とする。
【0067】
[製造例5]分散液2の調製。
ジョンクリル678(11.3部)、及びトリエタノールアミン6.4部をイオン交換水94.8部に溶解し、1時間攪拌した。得られた溶液にカーボンブラック37.5部を加え、1500rpmの条件下で20時間、サンドグラインダーで分散処理を行って液を得た。得られた液にイオン交換水150部を滴下した後、この液を濾過して分散用ビーズを取り除くことにより、顔料濃度12.5%の分散液を得た。これを「分散液2」とする。
【0068】
[製造例6]分散液3の調製。
ジョンクリル678(14.1部)、及びトリエタノールアミン8部をイオン交換水90.4部に溶解し、1時間攪拌した。得られた溶液にカーボンブラック37.5部を加え、1500rpmの条件下で20時間、サンドグラインダーで分散処理を行って液を得た。得られた液にイオン交換水150部を滴下した後、この液を濾過して分散用ビーズを取り除くことにより、顔料濃度12.5%の分散液を得た。これを「分散液3」とする。
【0069】
[製造例7]分散液4の調製。
ジョンクリル678(16.9部)、及びトリエタノールアミン9.6部をイオン交換水86部に溶解し、1時間攪拌した。得られた溶液にカーボンブラック37.5部を加え、1500rpmの条件下で20時間、サンドグラインダーで分散処理を行って液を得た。得られた液にイオン交換水150部を滴下した後、この液を濾過して分散用ビーズを取り除くことにより、顔料濃度12.5%の分散液を得た。これを「分散液4」とする。
【0070】
[製造例8]分散液5の調製。
ジョンクリル678(5.6部)、及びトリエタノールアミン3.2部をイオン交換水103.7部に溶解し、1時間攪拌した。得られた溶液にカーボンブラック37.5部を加え、1500rpmの条件下で20時間、サンドグラインダーで分散処理を行って液を得た。得られた液にイオン交換水150部を滴下した後、この液を濾過して分散用ビーズを取り除くことにより、顔料濃度12.5%の分散液を得た。これを「分散液5」とする。
【0071】
[製造例9]分散液6の調製。
ジョンクリル678(20.3部)、及びトリエタノールアミン11.6部をイオン交換水80.6部に溶解し、1時間攪拌した。得られた溶液にカーボンブラック37.5部を加え、1500rpmの条件下で20時間、サンドグラインダーで分散処理を行って液を得た。得られた分散体にイオン交換水150部を滴下した後、この液を濾過して分散用ビーズを取り除くことにより、顔料濃度12.5%の分散液を得た。これを「分散液6」とする。
【0072】
[製造例10]分散液7の調製。
ジョンクリル690(11.3部)、及びトリエタノールアミン7.2部をイオン交換水94部に溶解し、1時間攪拌した。得られた溶液にカーボンブラック37.5部を加え、1500rpmの条件下で20時間、サンドグラインダーで分散処理を行って液を得た。得られた分散体にイオン交換水150部を滴下した後、この液を濾過して分散用ビーズを取り除くことにより、顔料濃度12.5%の分散液を得た。これを「分散液7」とする。
【0073】
[実施例1〜8]インクの調製。
下記表2に記載の各成分を混合させた後、ポアサイズ3μmのメンブランフィルターで濾過することにより、評価試験用の実施例1〜3、及び比較例1〜3の各インクを得た。
表2中、各成分の数値は「部」を意味する。残部とあるのは、水としてイオン交換水を加えてインクの総量を100部に調整したことを意味する。
表2中の略号は、以下の意味を有する。
PG:プロピレングリコール。
1,2−HD:1,2−ヘキサンジオール。
DF−110D:サーフィノールDF−110D。
GXL(S):プロキセル GXL(S)。
また、表2中、ポリマー1及び樹脂1は固形分換算値である。
【0074】
【表2】
【0075】
[比較例1〜8]比較用インクの調製。
上記表2の代わりに、下記表3に記載の各成分を混合させた以外は実施例1〜8と同様にして、比較例1〜8のインクを調製した。下記表3中の略号は、上記表2中と同じ意味である。
また、表3中、ポリマー1、樹脂1、及び比較樹脂1は、いずれも固形分換算値である。
【0076】
【表3】
【0077】
[インクジェットプリンタの準備]
各実施例、及び比較例のインクをそれぞれ含有する容器(インクタンク等ともいう。)を、セイコーエプソン社製インクジェットプリンタ、商品名PX205に装填した後、下記する初期吐出性、吐出安定性、転写性、及びバーコード読取の各試験を行った。
【0078】
[初期吐出性試験]
前記のインクジェットプリンタが有する機能である「ヘッドクリーニング」を行った後、初期吐出として「ノズルチェック」を行った。このノズルチェックで観察されたピン欠けの状態を、下記4段階の評価基準で評価した。評価結果を下記表3に示す。
[初期吐出性の評価基準]
A:1回のヘッドクリーニングで、ピン欠けは観察されない。
B:3回以内のヘッドクリーニングで、ピン欠けは観察されない。
C:5回以内のヘッドクリーニングで、ピン欠けは観察されない。
D:5回のヘッドクリーニングでも、ピン欠けが観察される。
【0079】
[吐出安定性試験]
前記[初期吐出性試験]にて、ピン欠けが観察されなくなるまでヘッドクリーニングを行った後、A4用紙に全面ベタ印刷を行った。この印刷の後に「ノズルチェック」を再び行い、観察されたピン欠けの状態を下記4段階の評価基準で評価した。評価結果を下記表3に示す。
[吐出安定性の評価基準]
A:ピン欠けは観察されない。
B:1〜3ノズルでピン欠けが観察される。
C:4〜6ノズルでピン欠けが観察される。
D:7ノズル以上のピン欠けが観察される。
【0080】
[転写性試験]
前記インクジェットプリンタを使用し、圧着用紙(トッパン・フォームズ社製POSTEX107WH)に1cmx1cmの正方形をベタ印刷して70℃で1分乾燥した。得られた印刷後の圧着用紙を圧着した。この圧着された用紙を剥がして、圧着用紙の印刷面から白紙面へのインクの転写状態を目視により、下記4段階の評価基準で評価した。評価結果を下記表3に示す。
[転写性の評価基準]
A:転写が観察されない。
B:極めて微かな転写が観察される。
C:明らかに転写が観察される。
D:極めて多量の転写が観察される。
【0081】
[バーコード読取試験]
前記インクジェットプリンタを使用し、圧着用紙(トッパン・フォームズ社製POSTEX107WH)にEAN128規格のバーコードを印刷した。得られたバーコードがHoneywell社製のバーコード検証器、Quick Check PC600で読めるか否かを評価した。
その結果、各実施例のインクは、いずれもバーコード検証器で読めることが確認された。
【0082】
[保存安定性試験]
実施例、及び比較例の各インクの保存安定性を、下記する「粒子径(D90)」及び「粘度」の変化で試験した。
[粒子径の変化試験]
各インクをサンプル瓶に100ml採取し、これを密閉した後、60℃で1週間保存した。この保存後の各サンプルを室温まで冷却した後、各インクの粒子径)を測定した。初期値に対する保存後の粒子径の変化率を下記4段階の評価基準で評価した。評価結果を下記表4及び表5に示す。なお、粒子径の測定には、Microtrac(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いた。
[粒子径の評価基準]
A:変化率が±5%以内。
B:変化率が±10%以内。
C:変化率が±20%以内。
D:変化率が±20%より大きい。
【0083】
[粘度変化試験]
前記[粒子径の変化試験]と同じサンプルの試験前後の粘度を測定し、初期値に対する保存後の粒子径の変化率を下記4段階の評価基準で評価した。評価結果を下記表4及び表5に示す。なお、粘度の測定には、回転型粘度計(R115型粘度計、東機産業株式会社製)を用いた。
[粘度の評価基準]
A:変化率が±3%以内。
B:変化率が±5%以内。
C:変化率が±10%以内。
D:変化率が±10%より大きい。
【0084】
【表4】
【0085】
【表5】
【0086】
表4及び表5の結果から明らかなように、各比較例のインクは比較例4を除き、いずれかの評価が「D」であり、実用的では無いことが明らかである。また、比較例4は比較的に良好な評価結果を示した。しかし、比較例4は転写性が「C」であり、圧着用紙の汚染が観察されることから実用的では無い。一方、各実施例のインクは各評価で良好な結果が得られ、実用的であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のインクは、転写性、バーコード読取性、初期吐出性、吐出安定性に優れ、保存安定性も良好である。このため、各種の記録用途、特に圧着用紙を用いるインクジェット記録に極めて好適である。