(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アップグレーディング反応器システムが、前記アップグレーディングされた生成物及び前記スラリー混合物を含む1つのアップグレーディング反応器産出流を生じさせる、請求項1記載の方法。
前記アップグレーディングされた生成物及び前記スラリー混合物が前記アップグレーディング反応器システムから別々のストリームで運ばれるように、前記アップグレーディング反応器システムが少なくとも2つのアップグレーディング反応器産出流を生じさせる、請求項1記載の方法。
前記アップグレーディング反応器産出流、前記スラリー混合物、またはその両方を、前記か焼する工程の上流の臨界未満分離機に送るステップをさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
前記アップグレーディングされた生成物、前記スラリー混合物、またはその両方を、臨界未満分離機に送達する前に200℃以下の温度に冷却するステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の実施形態は、超臨界水を利用することにより、原油残留物105から高グレードコークスを生成するシステムに関する。本開示において使用する場合、「超臨界」とは、その臨界圧及び臨界温度の圧力及び温度よりも高い圧力及び温度にあり、その結果、異なる相が存在せず、その物質が液体のように材料を溶解しながらも気体の拡散を示し得るような物質を指す。水の臨界温度及び臨界圧よりも高い温度及び圧力においては、液相と気相の境界が消失し、その流体は、流体物質と気体物質の両方の特徴を有する。超臨界水は、有機溶媒のように有機化合物を溶解することができ、気体のように優れた拡散性を有する。温度及び圧力を調節することにより、超臨界水の特性をより液体様またはより気体様に、連続的に「チューニング」することができる。超臨界水は、臨界未満の液相水と比較して密度が低く、極性が低い。このことが、水中で行われ得る可能な化学反応の範囲を大幅に拡大する。
【0012】
理論によって束縛されるものではないが、超臨界水は、超臨界境界に達したときに、様々な予想外の特性を有する。超臨界水は、有機化合物に対する非常に高い溶解性を有し、気体との無限の混和性を有する。さらに、ラジカル種はかご効果(すなわち、1つ以上の水分子がラジカル種を取り囲み、これにより、次いでラジカル種が相互作用することが妨げられる状態)により超臨界水によって安定化され得る。ラジカル種の安定化は、ラジカル間縮合の阻害の一助となり得、これにより、本発明の実施形態における全体のコークス生成を減らす。例えば、コークス生成は、ラジカル間縮合の結果であり得る。ある特定の実施形態においては、超臨界水は、水蒸気改質反応及び水性ガスシフト反応によって水素ガスを発生させ、次いでその水素ガスをアップグレーディング反応に利用することができる。
【0013】
超臨界水は、その温度及び圧力の超臨界境界に達したときに、様々な予想外の特性を有する。例えば、超臨界水は、27メガパスカル(MPa)及び450℃において、0.123グラム毎ミリリットル(g/mL)の密度を有することができる。比較して、圧力を減少させて過熱水蒸気を生成したならば、例えば20MPa及び450℃において、水蒸気はたった0.079g/mLの密度を有するであろう。理論によって束縛されるものではないが、炭化水素により近い密度を有する流体は、より良好な溶解力を有し得る。さらに、その密度では、炭化水素は過熱水蒸気と反応して、蒸発し、混合して液相となり、加熱によりコークスを生じ得る重量分画を残し得る。コークスまたはコークス前駆体の形成は、ラインを詰まらせることがあり、除去しなければならない。したがって、一部の用途においては、超臨界水は水蒸気よりも優れる。
【0014】
述べたように、本開示の実施形態は、超臨界水を利用することにより原油残留物105から高グレードコークスを生成するシステムに関する。原油残留物は、常圧残油(AR)、減圧軽油(VGO)、または減圧残油(VR)を含んでもよい。1つ以上の実施形態において、原油残留物105は、重質原油、例えばアラブ重質原油の残留物としてもよい。
【0015】
原油残留物105については、様々な組成が企図される。1つ以上の実施形態において、原油残留物105は、原油の常圧蒸留または減圧蒸留からの生成物としてもよい。密度の観点から述べると、原油残留物105は、米国石油協会(API)比重値が27°API未満、または19°API未満としてもよい。組成的には、原油残留物105は、硫黄含有量が1.0重量%(wt%)〜7.0wt%、または3.0wt%〜6.0wt%としてもよい。さらに、原油残留物105は、重金属、例えばニッケル及びバナジウムを最大500wt ppm以下の量で含有してもよい。1つ以上の実施形態において、原油残留物105は、ニッケルを2wt ppm〜80wt ppm、または6wt ppm〜65wt ppm含んでもよい。さらに、原油残留物105は、バナジウムを10wt ppm〜250wt ppm、または15wt ppm〜200wt ppm含んでもよい。さらに、原油残留物105は、コンラドソン炭素残留物(CCR)を3wt%〜40wt%、または5wt%〜30wt%含んでもよい。他の実施形態においては、原油残留物105は、C
7−アスファルテン化合物を少なくとも5wt%含んでもよい。
【0016】
図1〜
図6の実施形態を参照すると、システム100は、原油残留物105を溶媒抽出ユニット110に供給して、原油残留物105を脱れき油(DAO)含有流114とアスファルテン含有流112とに少なくとも部分的に分離することを含んでもよい。様々な溶媒抽出ユニットが企図される。一実施形態においては、溶媒抽出ユニット110は、1つ以上の脱れきユニットを含む。溶媒抽出ユニット110では、様々な溶媒が企図される。1つ以上の実施形態において、溶媒は、軽質パラフィンから選択され、例えばC
3〜C
7パラフィンから選択される1種以上のパラフィンである。
【0017】
DAO含有流114は、アスファルテン含有流112よりも高い水素/炭素(H/C)比及び高い酸素含有量を有し、これにより、DAO含有流114にはより高い極性がもたらされる。また、DAO含有流114中の硫黄などのヘテロ原子の含有量は、アスファルテンよりも少ない。一部の実施形態においては、DAO含有流114は、1.1以上、例えば1.2以上、1.4以上、1.6以上、または1.8以上のH/C比を有してもよい。DAO含有流114は、1.1〜2、または1.2〜2、または1.4〜2、または1.5〜2、または1.6〜2、または1.8〜2のH/C比を有してもよい。いずれの特定の理論にも束縛されるものではないが、DAO含有流114の高い極性は、DAO含有流114中の樹脂分画の存在に起因し得る。高い極性により、DAO含有流114はアスファルテンを排除するが樹脂を排除しないことが可能となり得、樹脂を種晶として使用してコーカーへの原料を生成することができる。
【0018】
例えば、限定するものではないが、DAO含有流114は、硫黄化合物を5wt%未満、ニッケル及びバナジウムなどの重金属を150wt ppm未満、CCRを10wt%未満、及びC
7−アスファルテン化合物を3wt%未満含んでもよい。さらに別の実施形態においては、DAO含有流114は、硫黄化合物を4wt%未満、重金属を50wt ppm未満、CCRを8wt%未満、及びC
7−アスファルテン化合物を2wt%未満含んでもよい。さらに、DAO含有流114の芳香族含有量は、原油残留物105供給物の芳香族含有量よりも少なく、またアスファルテン含有流112の芳香族含有量よりも少ない。例えば、DAO含有流114の芳香族含有量は、30wt%未満または25wt%未満としてもよい。いずれの特定の理論にも束縛されるものではないが、アスファルテン中の芳香族は、硫黄及び金属などの不純物に結合していることがある。したがって、DAO含有流114中の芳香族含有量が低いことは、アスファルテン分離と、DAO含有流114中に存在する不純物がないこととを示すものであり得る。
【0019】
図1〜
図6に示されているように、DAO含有流114はポンプ116において加圧して、加圧したDAO含有流117を作製してもよい。加圧したDAO含有流117の圧力は、およそ水の臨界圧である、少なくとも22.1MPaとしてもよい。あるいは、加圧したDAO含有流117の圧力は、22.1MPa〜32MPa、または23MPa〜30MPa、または24MPa〜28MPaとしてもよい。一部の実施形態においては、圧力は、25MPa〜29MPa、26MPa〜28MPa、25MPa〜30MPa、26MPa〜29MPa、または23MPa〜28MPaとしてもよい。
【0020】
再び
図1〜
図6を参照すると、加圧したDAO含有流117は次いで1つ以上のDAO予備ヒーター120において加熱して、加圧し加熱したDAO含有流126を形成してもよい。一実施形態においては、加圧し加熱したDAO含有流126は、前述の水の臨界圧を超える圧力及び75℃を超える温度を有する。あるいは、加圧し加熱したDAO含有流126の温度は、10℃〜300℃、または50℃〜250℃、または75〜200℃、または50℃〜150℃、または50℃〜100℃、または100℃〜200℃、または150℃〜250℃、または200℃〜300℃である。一部の実施形態においては、温度は、75℃〜225℃、または100℃〜250℃、または125℃〜175℃、または140℃〜160℃としてもよい。
【0021】
DAO予備ヒーター120の実施形態としては、天然ガス加熱ヒーター、熱交換器、または電気ヒーターを挙げることができる。一部の実施形態においては、加圧したDAO含有流117は、二重管式熱交換器において加熱する。
【0022】
図1〜
図6に示されているように、超臨界水流124は、任意の好適な水流115から生成してもよい。水流115は、任意の水源とすることができ、例えば1マイクロジーメンス/センチメートル(μS/cm)未満、例えば0.5μS/cm未満、または0.1μS/cm未満の伝導度を有する水流とすることができる。水流115の例としては、脱塩水、蒸留水、ボイラー給水(BFW)、及び脱イオン水が挙げられる。少なくとも1つの実施形態においては、水流115は、ボイラー給水流である。
図1に示されているように、水流115はポンプ118によって加圧して、加圧した水流119を生成する。加圧した水流119の圧力は、およそ水の臨界圧である、少なくとも22.1MPaである。あるいは、加圧した水流119の圧力は、22.1MPa〜32MPa、または22.9MPa〜31.1MPa、または23MPa〜30MPa、または24MPa〜28MPaとしてもよい。一部の実施形態においては、圧力は、25MPa及び29MPa、26MPa及び28MPa、25MPa及び30MPa、26MPa及び29MPa、または23MPa及び28MPaとしてもよい。
【0023】
再び
図1〜
図6を参照すると、加圧した水流119は次いで水予備ヒーター122において加熱して、超臨界水流124を作製してもよい。超臨界水流124の温度は、およそ水の臨界温度である、約374℃を超える。あるいは、超臨界水流124の温度は、374℃〜600℃、または400℃〜550℃、または400℃〜500℃、または400℃〜450℃、または450℃〜500℃としてもよい。一部の実施形態においては、超臨界反応器システムの機械部品は600℃を超える温度に影響されることがあるので、超臨界水流124の最大温度は、600℃としてもよい。
【0024】
DAO予備ヒーター120と同様に、好適な水予備ヒーター122としては、天然ガス加熱ヒーター、熱交換器、及び電気ヒーターを挙げることができる。水予備ヒーター122は、DAO予備ヒーター120とは異なる、DAO予備ヒーター120から独立したユニットとしてもよい。
【0025】
再び
図1〜
図6を参照すると、超臨界水流124を、加圧し加熱したDAO含有流126とミキサー130において混合して、合わせた供給流132を作製してもよい。供給ミキサー130は、超臨界水流124と加圧し加熱したDAO含有流126とを混合することができる任意の種類の混合装置とすることができる。一実施形態においては、供給ミキサー130は、混合T字管、超音波ミキサー、小型の連続撹拌タンク型反応器(CSTR)、ホモジナイザー、または他の任意の好適なミキサーとしてもよい。供給ミキサー130に供給される超臨界水流124と加圧し加熱したDAO含有流126の体積流量比は、様々であってもよい。一実施形態においては、体積流量比は、標準周囲温度及び圧力(SATP)において、10:1〜1:1、または10:1〜1:10、または5:1〜1:1、または4:1〜1:1としてもよい。
【0026】
図1を参照すると、合わせた供給流132を、水の臨界温度を超える温度及び水の臨界圧を超える圧力で作動する1つ以上のアップグレーディング反応器140を含むシステム100に送って、アップグレーディングされた生成物及びスラリー混合物を含む1つ以上のアップグレーディング反応器産出流142を生じさせてもよく、スラリー混合物は硫黄及び1種以上のさらなる金属を含む。アップグレーディング反応器システムは、図の様々な実施形態において図示されているように、含むアップグレーディング反応器が1つであっても複数であっても、外部からもたらされる水素ガスの非存在下且つ触媒の非存在下で、アップグレーディング反応用の反応媒体として超臨界水を使用する。ある特定の任意選択による実施形態においては、超臨界水は水蒸気改質反応及び水性ガスシフト反応によって水素ガスを発生させ、次いでその水素ガスをアップグレーディング反応に利用することができる。
図1の実施形態においては、アップグレーディング反応器140は、アップグレーディングされた生成物とスラリー混合物の両方を含むアップグレーディング反応器産出流142を生じさせる。
【0027】
述べたように、アップグレーディング反応器140は、超臨界温度及び超臨界圧力において作動してもよい。1つ以上の実施形態において、アップグレーディング反応器140は、反応器の内壁において測定したときに、450℃〜550℃、または470℃〜530℃の温度を有してもよい。反応器内の流体の温度は、380℃〜450℃、または400℃〜430℃である。アップグレーディング反応器140は、等温反応器でも非等温反応器でもよい。反応器は、内蔵混合装置、例えばかき混ぜ機を備えた縦型の管型反応器、横型の管型反応器、槽型反応器、タンク型反応器、またはこれらの反応器のいずれかの組合せとしてもよい。さらに、さらなる構成成分、例えば撹拌棒またはかき混ぜ装置も、アップグレーディング反応器140に含まれてもよい。
【0028】
上で考察したように、また
図1、
図2、
図4、及び
図6の実施形態において示されているように、アップグレーディング反応器システムは、1つのアップグレーディング反応器140を含んでもよい。合わせた供給流132は、アップグレーディング反応器140の入口を通して供給する。
図1に示されているアップグレーディング反応器140は、入口がアップグレーディング反応器140の頂部付近に配置され、出口が第1のアップグレーディング反応器140Aの底部付近に配置された、ダウンフロー反応器である。あるいは、アップグレーディング反応器140は、入口が反応器の底部付近に配置されたアップフロー反応器としてもよいことが企図される。矢印141によって示されているように、ダウンフロー反応器は、反応物が反応器を通って下の方へ移動するときにアップグレーディング反応が生じる反応器である。逆に、アップフロー反応器は、反応物が反応器を通って上の方へ移動するときに石油アップグレーディング反応が生じる反応器である。
【0029】
アップグレーディング反応器140は、式L/Dによって規定される寸法を有することができ、式中、Lはアップグレーディング反応器140の長さであり、Dはアップグレーディング反応器140の直径である。1つ以上の実施形態において、L/D値は、2.5〜300、または20〜100としてもよい。理論によって束縛されるものではないが、反応器の寸法は、反応器内の滞留時間に影響を及ぼすことがある。先の段落で述べたように、この滞留時間の増加は、フリーラジカル反応を増加させ、これによりコークス形成が増加し得る。1つ以上の実施形態において、アップグレーディング反応器140のL/D値は、0.5メートル(m)/分(min)を超える流体の空塔速度を達成するのに充分なものとするか、または1m/min〜25m/minの流体の空塔速度を達成するのに充分なL/D値、もしくは1m/min〜5m/minの流体の空塔速度を達成するのに充分なL/D値としてもよい。流体の流れは、約5000を超えるレイノルズ数によって規定してもよい。
【0030】
図3及び
図5の実施形態において示されているように、アップグレーディング反応器システムは、2つのアップグレーディング反応器:第1のアップグレーディング反応器140A及び第2のアップグレーディング反応器140Bを含んでもよい。上で考察したように、第1のアップグレーディング反応器140A及び第2のアップグレーディング反応器140Bは、アップフローアップグレーディング反応器であってもダウンフローアップグレーディング反応器であってもよい。
図3に示されているように、第1のアップグレーディング反応器140A及び第2のアップグレーディング反応器140Bは両方ともに、ダウンフロー矢印141によって示されているように、ダウンフロー反応器としてもよい。
図5の実施形態では、ダウンフロー反応器である第1のアップグレーディング反応器140Aと、アップフロー矢印143によって示されているようにアップフロー反応器である第2のアップグレーディング反応器140Bが示されている。理論によって束縛されるものではないが、さらなるアップグレーディング反応器を含むことにより、第1のアップグレーディング反応器140Aにおける滞留時間を増加させることができ、第2のアップグレーディング反応器140Bは、反応器内でのコークスの形成を増加させることができる。使用するアップグレーディング反応器が単一であっても複数であっても、アップグレーディング反応器内での滞留時間は、10秒〜60分(min)、または1min〜30minとすることができる。一部の実施形態においては、滞留時間は、2〜30min、または2〜20min、または5〜25min、または5〜10minとしてもよい。
【0031】
図3及び
図5の実施形態を参照すると、第2のアップグレーディング反応器140Bは、第1のアップグレーディング反応器140Aの容積を超える容積、それ未満の容積、またはそれと等しい容積を有することができる。1つ以上の実施形態において、第1のアップグレーディング反応器140Aの容積対第2のアップグレーディング反応器140Bの容積の比は、0.1:1〜1:1、または0.5:1〜1:1である。第1のアップグレーディング反応器140Aの容積及び第2のアップグレーディング反応器140Bの容積は、所望の用途に基づいて調整することができる。例えば、いずれの特定の理論にも束縛されるものではないが、第2のアップグレーディング反応器140Bよりも大きな容積を有する第1のアップグレーディング反応器140Aを有することにより、第1のアップグレーディング反応器140Aにおけるより長い滞留時間及びより低い温度が可能となり、これにより、第1のアップグレーディング反応器140Aにおけるより穏和なアップグレーディングプロセスが可能となる。より短い滞留時間及びより高い温度を有する第2のアップグレーディング反応器140Bは、より深いアップグレーディングを可能にし、より高い密度を有し(例えば、15°以下のAPIを有する)且つ水とのより低い混和性を有するDAO含有流114を生成し得る。あるいは、第2のアップグレーディング反応器140Bよりも小さい容積を有する第1のアップグレーディング反応器140Aを有することは、第1のアップグレーディング反応器140Aにおけるより小さくより高温の混合プロセスと、第2のアップグレーディング反応器140Bにおけるより大きくより低温のプロセスとを作り、DAO含有流114を精製することができる。このプロセスは、より低密度のDAO含有流114(例えば、15°以上のAPIを有するもの)を生成することができる。
【0032】
図1及び
図4〜
図6に示されているように、アップグレーディング反応器(140、140A、または140B)は、1つの入口及び1つの出口を有してもよい。しかしながら、
図2の単一のアップグレーディング反応器の実施形態において、アップグレーディング反応器140は、上部入口、下部出口、及び上部入口と下部出口との間に配置された中央部出口を備えたダウンフロー反応器としてもよい。
図2に示されているように、アップグレーディング反応器140は、スラリー混合物145を底部出入口から外に移動させてもよく、一方、気体−液体油流であるアップグレーディングされた生成物流146をアップグレーディング反応器140の中央部出入口から外に移動させる。同様に、
図3の2つのアップグレーディング反応器のシステムにおいて、第2のアップグレーディング反応器140Bは、上部入口、下部出口、及び上部入口と下部出口との間に配置された中央部出口を備えたダウンフロー反応器としてもよい。第2のアップグレーディング反応器140Bは、スラリー混合物148を底部出入口から外に移動させてもよく、一方、気体−液体油−水流であるアップグレーディングされた生成物流147を第2のアップグレーディング反応器140Bの中央部出入口から外に移動させる。
【0033】
スラリー混合物をアップグレーディングされた生成物からアップグレーディング反応器で分離するか、以下の段落において記載する下流の分離機において分離するかに関わらず、スラリー混合物は、典型的には1wt%未満の微量で存在する水及び気体を除いた後に、以下の組成を含んでもよい。例えば、限定するものではないが、スラリー混合物148は、3wt%未満の硫黄化合物、150wt ppm未満のニッケル及びバナジウムなどの重金属、及び少なくとも30wt%の芳香族含有量を含んでもよい。例えば
図3を参照すると、スラリー混合物148は、気体−液体油のアップグレーディングされた生成物流147よりも低い硫黄含有量、及びアップグレーディングされた生成物流147よりも低いH/C比を有してもよい。例えば、スラリー混合物は、1.0未満、または0.8未満のH/C比を有してもよい。さらに対比すると、気体−液体油流147は、スラリー混合物148よりも低い芳香族含有量を有する。この高い芳香族含有量により、スラリー混合物148は、以下の段落において記載するように、か焼炉210によって容易にコークスに変換することができる。組成の詳細に加え、スラリー混合物148は350℃未満の融点を有することができ、したがってスラリー混合物は超臨界水中で融解相であることも注目すべきである。
【0034】
再び
図1を参照すると、アップグレーディング反応器の産出流142は、次いでか焼炉210に供給してもよい。様々なか焼炉ユニット、例えばロータリーキルンが好適なものとして企図される。か焼炉210において、産出流142を700℃〜1900℃の温度でか焼して、高グレードコークスを含む高グレードコークス生成物流214を生成し、高グレードコークス生成物流214は、か焼炉210の底部出入口から外に移動させる。か焼工程は、不活性雰囲気、例えば窒素、アルゴン、またはヘリウムを含む雰囲気で行ってもよい。一部の実施形態においては、か焼炉210は、1000℃〜1300℃の温度で作動してもよい。一部の実施形態においては、か焼炉210は、1000℃〜1200℃、または800℃〜1300℃、または1000℃〜1900℃の温度で作動してもよい。さらに、気体−液体油流である、か焼したアップグレーディングされた生成物212は、か焼炉210の頂部出入口から外に移動させる。高グレードコークス生成物流214は、表1に挙げた組成を有してもよい。
【0035】
図2及び
図4〜
図6の実施形態を参照すると、さらなる反応工程をか焼炉210の上流で行ってもよい。
図2を参照すると、アップグレーディング反応器140から出るスラリー混合物145は、か焼炉210に送達する前に、冷却、減圧、脱ガス、及び脱水してもよい。詳細には、
図2に示されているように、スラリー混合物145を冷却器ユニット360に送って、200℃未満の温度を有する冷却したスラリー混合物362を生成する。次いで冷却したスラリー混合物362を減圧ユニット、例えばバルブ370によって減圧して、0.05MPa〜2.2MPaの圧力を有する冷却し減圧したスラリー混合物372を生成する。次に冷却し減圧したスラリー混合物372を気体−液体分離機380に送って、冷却し減圧したスラリー混合物372を気相流382と液相スラリー流384とに分離してもよく、気相流382は気体−液体分離機380の頂部から排出する。次に液相スラリー流384を遠心分離機390に供給して、水392を除去し、乾燥スラリー混合物394を生成してもよく、乾燥スラリー混合物394は次いでか焼炉210に供給してもよい。乾燥スラリー混合物394は、コークス前駆体を含む。乾燥スラリー混合物394中のコークス前駆体の量は、温度及び滞留時間などの反応器作動条件に依存し得る。プロセスの連続作動では、含有量は、スラリー混合物391中5wt%未満、または1wt%未満に維持してもよい。
【0036】
同様に、
図4に示されているように、産出流142は冷却ユニット150(例えば、熱交換器)において冷却して、冷却した産出流152を生成してもよい。冷却した産出流152の温度は、約200℃未満に冷却してもよい。次いで冷却した産出流152を、か焼炉210の上流の臨界未満分離機260に移動させてもよい。臨界未満分離機260は、任意の好適な2相分離槽を含んでもよい。一実施形態においては、臨界未満分離機260は、連続撹拌タンク型反応器としてもよく、連続撹拌タンク型反応器は、アップグレーディングされた生成物流262を臨界未満分離機260の頂部から排出し、スラリー混合物流261を臨界未満分離機260の底部から排出する。臨界未満分離機260では様々な作動パラメータが企図される。1つ以上の実施形態において、温度は100℃〜350℃である。圧力は、水の蒸発を防ぐため、特定の分離機温度における水蒸気圧よりも高くなるよう維持する。臨界未満分離機260内での滞留時間は様々であってもよく、例えば1min〜120min、または30min〜60minとしてもよい。一部の実施形態においては、滞留時間は、60〜120min、または90〜120min、または30〜60min、または30〜90minとしてもよい。一部の実施形態においては、滞留時間は、2〜30min、または2〜20min、または5〜25min、または5〜10minとしてもよい。
【0037】
再び
図4を参照すると、スラリー混合物流261は減圧装置163、例えばバルブにおいて減圧して、減圧したスラリー混合物164を生成してもよい。1つ以上の実施形態において、減圧したスラリー混合物164は、0.05MPa〜2.2MPaの圧力を有してもよい。
図4にさらに示されているように、減圧したスラリー混合物164は、か焼炉210の上流の遠心分離機200において乾燥してもよく、遠心分離機200では、減圧したスラリー混合物164から水流202を除去して乾燥スラリー混合物204を生成し、次いでこれをか焼炉210に送る。示されていないが、乾燥スラリー混合物204は、か焼炉に供給する前に、CO
2を除去する分離機などの副工程に付してもよいことが企図される。
【0038】
図5に示されている代替実施形態を参照すると、アップグレーディングされた気体−液体油及びスラリー混合物を含む、アップグレーディング反応器システムの産出流142は、か焼炉210の上流の超臨界CO
2抽出機220に供給してもよい。示されているように、超臨界CO
2抽出機220は、アップグレーディングされた気体−液体油流222を超臨界CO
2抽出機220の頂部から排出し、一方、スラリー混合物224を超臨界CO
2抽出機220の底部から排出するように、第2のアップグレーディング反応器140Bの産出流144を分離してもよい。次いでスラリー混合物224を、高グレードコークス生成物流214の生成のためにか焼炉210に送達してもよい。
【0039】
別の実施形態においては、
図6に示されているように、か焼炉210の上流にディレードコーカー240を配置してもよい。示されているように、ディレードコーカー240は、アップグレーディング反応器140の産出流142をアップグレーディングされた気体−液体油流242に分離してもよく、これはディレードコーカー240の頂部から排出し、一方、スラリー混合物224は、ディレードコーカー240の底部から排出する。
【0040】
高グレードコークス生成物流214の生成のほかに、超臨界アップグレーディングプロセスによって生成された気体−液体油−水流であるアップグレーディングされた生成物に対し、さらなる分離操作も行ってもよい。
図2を参照すると、アップグレーディングされた生成物流146は冷却器160において冷却して、200℃未満の温度を有する冷却したアップグレーディングされた生成物162を生じさせてもよい。冷却器160については、様々な冷却装置、例えば熱交換器が企図される。次に、冷却したアップグレーディングされた生成物162の圧力を低下させて、0.05MPa〜2.2MPaの圧力を有する冷却し減圧したアップグレーディングされた生成物172を作製してもよい。減圧は、多くの装置、例えば
図2に示されているバルブ170によって達成することができる。
【0041】
次に冷却し減圧したアップグレーディングされた生成物172を気体−液体分離機180に供給して、冷却し減圧したアップグレーディングされた生成物172を気相流182と液相流184とに分離してもよく、気相流182は気体−液体分離機180の頂部から排出される。液相流184は、水、短鎖芳香族、及びパラフィンを含んでもよい。様々な気体−液体分離機、例えばフラッシュドラムが企図される。
【0042】
液相流184は次いで油−水分離機190に供給して、液相流184を水含有流192と油含有流194とに分離してもよく、油含有流194はパラフィン及び短鎖芳香族を含む。様々な油−液体分離機、例えば遠心油−気体分離機が企図される。
【実施例】
【0043】
以下の実験実施例は、
図4に示されているシステムを利用したシミュレーションであり、ストリーム特性及びストリーム組成は、以下の表に挙げる。
図4を参照すると、表2は、アスファルテン分離機である溶媒抽出ユニット110に供給する原油残留物105に関するデータを含む。
【0044】
【表2】
【0045】
以下の表3は、アスファルテン分離機である溶媒抽出ユニット110から排出されたDAO含有流114のストリーム特性及びストリーム組成を含む。この事例では、ASP分離機は、約71wt%のDAO含有分画を生成して硫黄及び金属含有量を減らすよう作動させた。他の例においては、DAO収率は、約95%の金属含有物(Ni+V)除去を有するよう、およそ40wt%に設定してもよい。したがって、ASP分離機は、アスファルテンの排除が少ない非常に穏和な条件で作動させた。
【0046】
【表3】
【0047】
図4を参照すると、水流115を、流速0.2kg/hrにてポンプを用いて27MPaにし、次いで400℃に予熱して、超臨界水流124を得た。DAO含有流114を、流速0.1kg/hrにてポンプを用いて27MPaにし、次いで120℃に予熱して、加圧し加熱したDAO含有流126を得た。
図4に示されているように、超臨界水流124及び加圧し加熱したDAO含有流126を、単純T字継手ミキサー130によって合わせて、合わせた供給流132を得た。合わせた供給流132を、内容積が160ミリリットル(mL)のダウンフローアップグレーディング反応器140に供給した。内部のストリーム温度及び反応器内壁温度は、熱電対によって測定した。アップグレーディング反応器140を囲むヒーターにより、反応器壁温度を460℃の温度で維持した。反応器内部のストリーム温度は430℃であった。アップグレーディング反応器産出流142を、冷却液として水道水を使用した二重管型熱交換器冷却ユニット150によって200℃に冷却した。冷却した産出流152を、内容積500mlのCSTR型槽型臨界未満分離機260に送った。CSTR温度は、ヒーター及び冷却コイルによって180℃に調整した。CSTR臨界未満分離機260は、CSTR臨界未満分離機260の底部からバルブ163を通してスラリー混合物流261を排出した。
【0048】
CSTR臨界未満分離機260の頂部から排出される、アップグレーディングされた生成物流262は、圧力調節バルブ170によって大気圧まで減少させた。このアップグレーディングされた生成物流262由来の液体油の特性を以下の表4に示す。バルブからの流出物を、気体−液体分離機180及び油−水分離機190によって気体、液体油、及び水に分離した。
【0049】
【表4】
【0050】
図4を再び参照すると、減圧したスラリー混合物164は水を含有し(約50wt%)、この水を遠心分離機200によって除去して、乾燥スラリー混合物204を生成した。乾燥スラリー混合物204は、約20wt%のDAOを含んだ。この乾燥スラリー混合物204の特性を以下の表5に示す。
【0051】
【表5】
【0052】
乾燥スラリー混合物204はか焼炉210に送り、か焼炉210において窒素を流しながら1,100℃でか焼し、高グレードコークス生成物流214を含むストリームを得た。この高グレードコークス生成物流214の特性を以下の表6に示す。
【0053】
【表6】
【0054】
特許請求された主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく、記載した実施形態に様々な変更及び変形を行うことができることは、当業者には明らかなはずである。したがって、そのような変更及び変形が添付の特許請求の範囲及びその均等物の範囲内にある場合に、本明細書は、記載した様々な実施形態の変更及び変形を包含することが意図される。
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
実施形態1
原油残留物から高グレードコークスを生成する方法であって、
溶媒抽出ユニットにおいて、前記原油残留物を脱れき油(DAO)含有流とアスファルテン含有流とに少なくとも部分的に分離するステップと、
前記DAO含有流を加圧すること及び加熱することによって、加圧し加熱したDAO含有流を生成するステップであって、前記加圧し加熱したDAO含有流は、75℃を超える温度及び水の臨界圧を超える圧力にある、生成するステップと、
超臨界水流を前記加圧し加熱したDAO含有流と混合して、合わせた供給流を作製するステップであって、前記超臨界水流は、水の臨界圧を超える圧力及び水の臨界温度を超える温度を有する、作製するステップと、
前記水の臨界温度を超える温度及び前記水の臨界圧を超える圧力で作動する1つ以上のアップグレーディング反応器を含むアップグレーディング反応器システムに、前記合わせた供給流を導入して、アップグレーディングされた生成物及びスラリー混合物を含む1つ以上のアップグレーディング反応器産出流を生じさせるステップであって、前記スラリー混合物は、硫黄及び1種以上のさらなる金属を含む、生じさせるステップと、
前記スラリー混合物を700℃〜1900℃の温度でか焼して、前記高グレードコークスを含む生成物流を生成するステップと、
を含む方法。
実施形態2
前記アップグレーディング反応器システムが、前記アップグレーディングされた生成物及び前記スラリー混合物を含む1つのアップグレーディング反応器産出流を生じさせる、実施形態1に記載の方法。
実施形態3
前記アップグレーディングされた生成物及び前記スラリー混合物が前記アップグレーディング反応器システムから別々のストリームで運ばれるように、前記アップグレーディング反応器システムが少なくとも2つのアップグレーディング反応器産出流を生じさせる、実施形態1に記載の方法。
実施形態4
前記アップグレーディングされた生成物が、気体−液体油流である、実施形態1〜3のいずれか1つに記載の方法。
実施形態5
前記スラリー混合物を、前記か焼する工程の上流の遠心分離機で乾燥するステップをさらに含む、実施形態1〜4のいずれか1つに記載の方法。
実施形態6
前記アップグレーディング反応器産出流、前記スラリー混合物、またはその両方を、前記か焼する工程の上流の臨界未満分離機に送るステップをさらに含む、実施形態1〜5のいずれか1つに記載の方法。
実施形態7
前記アップグレーディングされた生成物、前記スラリー混合物、またはその両方を、臨界未満分離機に送達する前に200℃以下の温度に冷却するステップをさらに含む、実施形態6に記載の方法。
実施形態8
前記臨界未満分離機が、連続撹拌タンク型反応器である、実施形態6または7に記載の方法。
実施形態9
前記スラリー混合物を、前記か焼する工程の上流の超臨界CO2抽出機に送達するステップをさらに含む、実施形態1〜8のいずれか1つに記載の方法。
実施形態10
前記スラリー混合物を、前記か焼する工程の上流のディレードコーカーユニットに送達するステップをさらに含む、実施形態1〜9のいずれか1つに記載の方法。
実施形態11
前記アップグレーディング反応器システムが、ダウンフロー反応器、アップフロー反応器、またはその組合せを含む、実施形態1〜10のいずれか1つに記載の方法。
実施形態12
前記アップグレーディング反応器システムには、水素ガスの外部供給及び触媒がない、実施形態1〜11のいずれか1つに記載の方法。
実施形態13
前記原油残留物が、常圧残油、減圧軽油、または減圧残油を含む、実施形態1〜12のいずれか1つに記載の方法。
実施形態14
前記DAO含有流が、30wt%未満の芳香族を含む、実施形態1〜13のいずれか1つに記載の方法。
実施形態15
前記アップグレーディング反応器システムが、第1の反応器と、前記第1の反応器の下流の第2の反応器とを含む、実施形態1〜14のいずれか1つに記載の方法。