特許第6666487号(P6666487)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社LTTバイオファーマの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6666487
(24)【登録日】2020年2月25日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】ドライアイ治療用点眼剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/196 20060101AFI20200302BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20200302BHJP
【FI】
   A61K31/196
   A61P27/04
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-23458(P2019-23458)
(22)【出願日】2019年2月13日
(62)【分割の表示】特願2018-21983(P2018-21983)の分割
【原出願日】2014年12月25日
(65)【公開番号】特開2019-70055(P2019-70055A)
(43)【公開日】2019年5月9日
【審査請求日】2019年3月13日
(31)【優先権主張番号】特願2013-267514(P2013-267514)
(32)【優先日】2013年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】303010452
【氏名又は名称】株式会社LTTバイオファーマ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 佑次
(72)【発明者】
【氏名】水島 徹
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−528014(JP,A)
【文献】 Adv. Exp. Med. Biol.,2002年,Vol.506, Part.B,pp.1237-1240
【文献】 Ocul. Surf.,2007年,Vol.5 No.2,pp.75-92
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00〜33/44
A61F 9/00〜 9/08
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.05重量/容量%のジクロフェナクまたはその薬学的に許容可能な塩を含み、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含まない、涙液の高浸透圧によるアポトーシス(但し、COXに起因する炎症によるアポトーシスを除く)を抑制するための、ドライアイ治療用点眼剤。
【請求項2】
0.05重量/容量%のジクロフェナクまたはその薬学的に許容可能な塩を含み、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースを含まない、涙液の高浸透圧によるアポトーシス(但し、COXに起因する炎症によるアポトーシスを除く)を抑制するための、ドライアイ治療用点眼剤。
【請求項3】
1日3回の投与に用いられる、請求項1又は2に記載の点眼剤。
【請求項4】
ジクロフェナクの薬学的に許容可能な塩がジクロフェナクナトリウムである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の点眼剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライアイ治療用点眼剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライアイは、様々な要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり、目の不快感や視機能異常を伴う疾患である。ドライアイは、欧米および日本では成人の10〜20%が罹患している主要な眼疾患であり、ディスプレイ画面の使用時間の増加、空調設備による空気の乾燥、コンタクトレンズの使用等により、患者数は増加傾向にある。
【0003】
ドライアイは、涙腺における涙液の分泌量の減少や、涙液中の脂質やムチン質の異常による水分量の蒸発促進によって、涙液の量が減ることにより引き起こされる。涙液の減少によって、角膜表面および結膜表面の慢性的な刺激や炎症が生じ、患者の生活の質の低下につながる。従来、炎症を抑制してドライアイを治療するためにステロイド剤が用いられてきたが、安全性が充分とはいえず、副作用を生じる傾向もある。ステロイド剤に代えて炎症を抑制する薬剤として、ジクロフェナクやブロムフェナク等の非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)が知られている。特許文献1は、ジクロフェナクを有効成分として含む抗炎症点眼剤を開示している。
【0004】
ドライアイの治療方法としては、炎症抑制作用による治療法が知られているが、ドライアイの病因としては、炎症の他にも、加齢、ホルモンの変化、環境要因、自己免疫等が関連することが疑われており、抗炎症以外の作用機序によるドライアイの治療法が必要とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−174310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、涙液の高浸透圧によるアポトーシスを抑制するための、ドライアイ治療用点眼剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ジクロフェナクまたはその薬学的に許容可能な塩を含む、涙液の高浸透圧によるアポトーシスを抑制するための、ドライアイ治療用点眼剤に関する。
【0008】
ジクロフェナクまたはその薬学的に許容可能な塩を0.01〜0.7重量/容量%の濃度で含むことが好ましい。
【0009】
ジクロフェナクの薬学的に許容可能な塩がジクロフェナクナトリウムであることが好ましい。
【0010】
さらに、ポリソルベート80、ホウ砂、またはポリビニルピロリドンを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のドライアイ治療用点眼剤は、ジクロフェナクまたはその薬学的に許容可能な塩を含むことにより、涙液の高浸透圧によるアポトーシスを抑制し、ドライアイを効果的に治療できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】実施例1および比較例1の結果を示した図である。
図1B】実施例1および比較例1の結果を示した図である。
図2A】実施例2および比較例2の結果を示した図である。
図2B】実施例2および比較例2の結果を示した図である。
図3A】実施例3および比較例3の結果を示した図である。
図3B】実施例3および比較例3の結果を示した図である。
図3C】実施例3および比較例3の結果を示した図である。
図4A】実施例4および比較例4の結果を示した図である。
図4B】実施例4および比較例4の結果を示した図である。
図4C】実施例4および比較例4の結果を示した図である。
図5A】実施例5および比較例5の結果を示した図である。
図5B】実施例5および比較例5の結果を示した図である。
図5C】実施例5および比較例5の結果を示した図である。
図5D】実施例5および比較例5の結果を示した図である。
図5E】実施例5および比較例5の結果を示した図である。
図6】実施例6および比較例6の結果を示した図である。
図7】実施例7および比較例7の結果を示した図である。
図8】実施例8および比較例8の結果を示した図である。
図9】実施例9および比較例9の結果を示した図である。
図10】実施例10および比較例10の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ジクロフェナクまたはその薬学的に許容可能な塩を含む、涙液の高浸透圧によるアポトーシスを抑制するための、ドライアイ治療用点眼剤に関する。
【0014】
ジクロフェナクまたはその薬学的に許容可能な塩の、点眼剤中の濃度は、0.01〜0.7重量/容量%であることが好ましく、0.05〜0.5重量/容量%であることがより好ましい。0.01重量/容量%未満では、治療効果が弱くなる傾向がある。0.7重量/容量%を超えると、組成物の調製が困難となる傾向がある。
【0015】
ジクロフェナクの薬学的に許容可能な塩としては、ジクロフェナクナトリウム、ジクロフェナクカリウムが挙げられる。
【0016】
点眼剤のpHは、6.0〜8.5であることが好ましく、7.0〜8.0であることがより好ましい。pH6.0未満では眼刺激の緩和が得られない傾向があり、pH8.5を超えると生理的pHから外れることになる。
【0017】
点眼剤の浸透圧比は0.9〜1.4が好ましい。なお、ここでいう浸透圧比は、生理食塩液と比較した場合の浸透圧比を意味する。
【0018】
本発明の点眼剤は、ジクロフェナクまたはその薬学的に許容可能な塩に加えて、緩衝剤、等張化剤、保存剤、増粘剤、溶解補助剤、洗浄剤を含んでいてもよい。
【0019】
緩衝剤として、リン酸とリン酸塩との組み合わせ、ホウ酸とホウ砂との組み合わせ、有機酸と有機酸塩との組み合わせ等が挙げられる。この中でも、ホウ酸とホウ砂との組み合わせが好ましい。点眼剤における緩衝剤の含有量は、0.01〜10重量/容量%であることが好ましく、0.1〜3重量/容量%であることがより好ましい。0.01重量/容量%未満では本発明の効果を充分に奏し難い傾向がある。10重量/容量%を超えると眼刺激が生じる傾向がある。
【0020】
等張化剤として、ブドウ糖等の糖類、プロピレングリコール、グリセリン、塩化ナトリウム、塩化カリウム、マンニトール、ソルビトール、キシリトール等の糖アルコール等が挙げられる。この中でも、塩化ナトリウム、塩化カリウムが好ましい。点眼剤における等張化剤の含有量は、0.01〜10重量/容量%であることが好ましく、0.1〜3重量/容量%であることがより好ましい。
【0021】
保存剤として、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムおよびグルコン酸クロルヘキシジン等の逆性石鹸類、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベンおよびブチルパラベン等のパラベン類、クロロブタノール、フェニルエチルアルコールおよびベンジルアルコール等のアルコール類が挙げられる。この中でも、クロロブタノールが好ましい。点眼剤における保存剤の含有量は0.001〜0.5重量/容量%であることが好ましい。
【0022】
増粘剤として、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。この中でも、ポリビニルピロリドンが好ましい。
【0023】
溶解補助剤として、ポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、商品名Tween80)、ポリオキシエチレンオキシステアリン酸トリグリセライド、ポリエチレングリコール、αまたはβ−シクロデキストリン等が挙げられる。この中でも、ポリソルベート80が好ましい。
【0024】
眼刺激を緩和するためにカルシウム塩またはマグネシウム塩を含んでいてもよい。このような塩として、例えばパントテン酸カルシウム、塩化カルシウム、プロピオン酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム等のカルシウム塩、または相当するマグネシウム塩が挙げられる。この中でも、パントテン酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムが好ましい。
【0025】
本発明の点眼剤は、高浸透圧によるアポトーシス抑制効果を増強するために、前記併用成分の中でも、ポリソルベート80、ホウ砂、またはポリビニルピロリドンを含むことが好ましい。
【0026】
高浸透圧によるアポトーシス抑制効果の増強のためには、点眼剤におけるポリソルベート80の濃度は、0.1〜5.0重量/容量%であることが好ましく、0.3〜3.0重量/容量%であることがより好ましい。
【0027】
高浸透圧によるアポトーシス抑制効果の増強のためには、点眼剤におけるホウ砂の濃度は、0.1〜20.0重量/容量%であることが好ましく、0.3〜15.0重量/容量%であることがより好ましい。
【0028】
高浸透圧によるアポトーシス抑制効果の増強のためには、点眼剤におけるポリビニルピロリドンの濃度は、1.0〜15.0重量/容量%であることが好ましく、2.0〜10.0重量/容量%であることがより好ましい。
【0029】
本発明の点眼剤は、点眼剤の中でも、涙液の高浸透圧によるアポトーシスを抑制するためのドライアイ治療用点眼剤に関する。通常、ドライアイでは、涙液が減少し、涙液の浸透圧が上昇する。この上昇にともない、細胞内から水分が排出され、細胞が縮小するという浸透圧ストレスにさらされる。これに対して、細胞は外部のナトリウムイオン等を細胞内に取り込み、細胞内のイオン強度が上昇して、アポトーシスが生じる。アポトーシスが生じる眼組織として、角膜、結膜、涙腺が挙げられる。より具体的には、アポトーシスが生じる細胞として、角膜上皮細胞、結膜上皮細胞、涙腺細胞が挙げられる。
【0030】
本発明の点眼液に使用するジクロフェナクは、NFAT5(Nuclear Factor of Activated T−cells 5)遺伝子の発現および核内移行を促進することにより、涙液の高浸透圧条件下でもアポトーシスを抑制する。NFAT5遺伝子産物は、BGT−1(betaine/GABA transporter−1)遺伝子等を活性化する。その結果、細胞は、浸透圧ストレスに対して、イオン強度に影響しない有機性の浸透圧調節物質の細胞内への取り込みにより対応することが可能になる。細胞内のイオン強度上昇を回避できるので、涙液の高浸透圧条件でもアポトーシスが抑制されると考えられる。本発明の点眼剤は、涙液の高浸透圧による、角膜、結膜、涙腺におけるアポトーシスを抑制する効果を奏する。より具体的には、角膜上皮細胞、結膜上皮細胞、涙腺細胞のアポトーシスを抑制する効果を奏する。
【0031】
本発明の点眼剤を使用する際、1回あたりの片眼に対する点眼量は、1〜3滴であることが好ましく、1〜2滴であることがより好ましい。また、1回あたりの片眼に対する点眼量を容量で表すと、10〜300μLであることが好ましく、20〜200μLであることがより好ましく、30〜100μLであることが更に好ましい。本発明の点眼剤の投与間隔は、1日1〜6回であることが好ましく、1日1〜3回であることがより好ましい。
【実施例】
【0032】
実施例において、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0033】
(実施例1)高浸透圧条件での細胞障害の抑制効果
HCE細胞(ヒト角膜上皮細胞)を、ジクロフェナクを含む高浸透圧培地で培養した。培地は、150mMのNaCl、280mMのグルコース、または280mMのソルビトールにより高浸透圧条件とした。生細胞の数をMTT法により測定し、コントロール(等張圧条件)の吸光度に対する相対値を算出した。結果を図1Aおよび図1Bに示した。数値は平均±S.D.(n=3)、*P<0.05;**P<0.01である。
【0034】
(比較例1)
ジクロフェナクに代えて、その他の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)を用いた以外は実施例1と同じ操作を行った。結果を図1Aに示した。
【0035】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の中でも、特にジクロフェナクが高浸透圧条件での細胞障害の抑制効果が高いことが確認された。
【0036】
(実施例2)高浸透圧条件でのアポトーシス抑制および細胞増殖効果
HCE細胞を、ジクロフェナク、および150mMのNaClを含む高浸透圧培地で培養した。6時間培養後のカスパーゼ3様活性を、蛍光ペプチド基質を使用して測定し、結果を図2Aに示した。また、12時間培養後、細胞増殖をBrdU取り込みアッセイにより検討し、その結果をコントロール(等張圧条件)の吸光度に対する相対値として記載した。結果を図2Bに示した。数値は平均±S.D.(n=3)、*P<0.05;**P<0.01である。
【0037】
(比較例2)
ジクロフェナクに代えて、ブロムフェナクを用いた以外は実施例2と同じ操作を行った。結果を図2A〜Bに示した。
【0038】
ジクロフェナクが、高浸透圧条件でのアポトーシスを抑制し、さらに細胞増殖効果を奏することが確認された。
【0039】
(実施例3)COX−阻害への非依存性
HCE細胞を、ジクロフェナク、150mMのNaCl、および/またはPGEを含む高浸透圧培地で24時間培養した。生細胞の数をMTT法により測定し、コントロール(等張圧条件)の吸光度に対する相対値として記載した。結果を図3A、および図3Cに示した。
【0040】
また、HCE細胞を、ジクロフェナクを含む培地で30分間、前培養し、10μMのアラキドン酸およびジクロフェナクを含む培地でさらに30分培養した。なお、アラキドン酸はPGEを誘導するために添加したものである。培養液に含まれるPGEの量を、EIAにより測定した。結果を図3Bに示した。数値は平均±S.D.(n=3)、*P<0.05;**P<0.01である。
【0041】
(比較例3)
ジクロフェナクに代えて、ブロムフェナクを用いた以外は実施例3と同じ操作を行った。結果を図3A〜Cに示した。
【0042】
図3AにおいてPGEを添加しても生細胞数は変化しなかった。図3Bおよび図3Cにおいて、PGEを減少させるために必要なジクロフェナクの濃度が0.1nMであったのに対し、図3Cにおいて高浸透圧による細胞障害を低減するために必要な濃度が100nMであった。一般に、炎症はシクロオキシゲナーゼ(COX)がプロスタグランジンE(PGE)の生産を増強することにより生じることが知られているので、図3A〜Cの結果から、ジクロフェナクの効果が、COXを阻害してPGEの発現量を減少させる作用とは別個独立の作用によるものであることが確認された。
【0043】
(実施例4)NFAT5の発現向上および核内移行促進効果
HCE細胞を、ジクロフェナク、および150mMのNaClを含む高浸透圧培地で6時間(図4Aおよび図4C)、または1時間(図4B)培養した。全細胞破砕液(図4Aおよび図4B)、または核抽出液(図4B)を、NFAT5、アクチンまたはラミンBに対する抗体を使用して、イムノブロット法により解析した。NFAT5のバンドの強度を測定し、コントロール(ジクロフェナクを含まない等張圧条件)に対する相対値として記載した(図4Aおよび図4B)。bgt1 mRNAの相対的な発現量をリアルタイムRT−PCRで測定し、アクチンの発現量により基準化した数値を、コントロール(ジクロフェナクを含まない等張圧条件)に対する相対値として記載した(図4C)。数値は平均±S.D.(n=3)、*P<0.05;**P<0.01である。
【0044】
(比較例4)
ジクロフェナクに代えて、ブロムフェナクを用いた以外は実施例4と同じ操作を行った。結果を図4A〜Cに示した。
【0045】
ジクロフェナクが、NFAT5の発現向上および核内移行促進の作用により、高浸透圧条件でアポトーシス抑制していることが確認された。
【0046】
(実施例5)ラットの角膜表面障害治療効果
ラットの涙腺を除去し、ドライアイモデルを作製した。涙腺除去の1〜5週間後、ジクロフェナク(0.1%、3.1mM)を含む目薬(5μl)を1日3回投与した。涙液量をコットン糸テストにより測定し、結果を図5Aに示した。フルオロセイで染色された角膜の画像を図5Bに示した。フルオレセインのスコアを算出し、図5Cに示した。涙腺除去の5週間後に眼組織の切片を作製し、TUNELアッセイおよびDAPI染色を行い、結果を図5Dに示した(スケールバーは50μm)。TUNEL陽性細胞数を図5Eに示した。数値は平均±S.E.M.、*P<0.01であり、n.s.はnot significantを意味する。
【0047】
(比較例5)
ジクロフェナクに代えて、ブロムフェナクを用いた以外は実施例5と同じ操作を行った。結果を図5A〜Eに示した。
【0048】
ジクロフェナクが、ドライアイモデルの角膜表面障害を治療する効果を奏することが確認された。
【0049】
(実施例6)ジクロフェナクとポリソルベート80の併用
HCE細胞を、0μg/ml、1μg/ml、または10μg/mlのポリソルベート80を含む培地で24時間、前培養した。さらに、1μMのジクロフェナク、150mMのNaCl、および前培養と同じ濃度のポリソルベート80を含む高浸透圧培地で24時間培養した。生細胞の数をMTT法により測定し、結果を図6に示した。
【0050】
(比較例6)
ジクロフェナクを用いない以外は、実施例6と同じ操作を行い、結果を図6に示した。
【0051】
ポリソルベート80を併用することによりジクロフェナクの効果を向上できることが確認された。
【0052】
(実施例7)ジクロフェナクとホウ砂の併用
HCE細胞を、0μg/ml、4μg/ml、または40μg/mlのホウ砂を含む培地で24時間、前培養した。さらに、1μMのジクロフェナク、150mMのNaCl、および前培養と同じ濃度のホウ砂を含む高浸透圧培地で24時間培養した。生細胞の数をMTT法により測定し、結果を図7に示した。
【0053】
(比較例7)
ジクロフェナクを用いない以外は、実施例7と同じ操作を行い、結果を図7に示した。
【0054】
ホウ砂を併用することによりジクロフェナクの効果を向上できることが確認された。
【0055】
(実施例8)ジクロフェナクとポピドンの併用
HCE細胞を、0μg/ml、10μg/ml、または100μg/mlのポピドンを含む培地で24時間、前培養した。さらに、1μMのジクロフェナク、150mMのNaCl、および前培養と同じ濃度のポピドンを含む高浸透圧培地で24時間培養した。生細胞の数をMTT法により測定し、結果を図8に示した。
【0056】
(比較例8)
ジクロフェナクを用いない以外は、実施例8と同じ操作を行い、結果を図8に示した。
【0057】
ポピドンを併用することによりジクロフェナクの効果を向上できることが確認された。
【0058】
(実施例9)ホウ砂、ホウ酸、クロロブタノール、ポピドン、およびポリソルベート80を併用した点眼薬(以下、併用点眼液という)による効果
HCE細胞を、1μg/mlの併用点眼薬を含む培地で24時間、前培養した。さらに、3μMの併用点眼薬、150mMのNaClを含む高浸透圧培地で24時間培養した。生細胞の数をMTT法により測定した。また、併用点眼薬に代えてジクロフェナクを使用して同じ操作を行った。結果を図9に示した。なお、併用点眼液は処方例3の組成の点眼薬である。
【0059】
(比較例9)
ジクロフェナクまたは併用点眼薬を用いない(CTRL)、または緩衝液を用いた(Vehicle)以外は、実施例9と同じ操作を行い、結果を図9に示した。
【0060】
ホウ砂、ホウ酸、クロロブタノール、ポピドン、およびポリソルベート80を併用することによりジクロフェナクの効果を向上できることが確認された。
【0061】
(実施例10)
ラットの涙腺を除去し、ドライアイモデルを作製した。涙腺除去の1週間後、ジクロフェナク(0.05%、1.55mM、または0.1%、3.1mM)を含む目薬(5μl)を1日3回投与した。投与4週間後に涙液をフルオレセインで染色しそのスコアを算出した。結果を図10に示した。
【0062】
(比較例10)
ジクロフェナクに代えて緩衝液を用いた(Vehicle)以外は、実施例10と同じ操作を行い、結果を図10に示した。
【0063】
ジクロフェナク0.05%によりドライアイモデルの角膜表面障害を治療できることが確認された。
【0064】
(処方例1)
ジクロフェナクナトリウム100mg、ホウ砂573mg、ホウ酸868mg、塩化ナトリウム290mg、およびβ−シクロデキストリン100mgを蒸留水約80mlに溶解し、これに乳酸カルシウム150mgを添加して溶解し、蒸留水で希釈して100mlとし、除菌濾過して点眼剤を得る。
【0065】
(処方例2)
ジクロフェナクナトリウム100mg、NaHPO(無水)200mg、NaHPO(無水)710mg、塩化ナトリウム300mgおよびβ−シクロデキストリン1000mgを蒸留水約80mlに溶解し、これにパントテン酸カルシウム150mgを加えて溶解し、蒸留水で希釈して100mlとし、除菌濾過して点眼剤を得る。
【0066】
(処方例3)
ジクロフェナクナトリウム100mg、ホウ砂450mg、ホウ酸1500mg、クロロブタノール500mg、ポリビニルピロリドンK25 3000mgおよびポリソルベート80(Tween80)500mgを滅菌精製水で溶解して全量100mlとし点眼剤を得る。


図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
図7
図8
図9
図10