【実施例】
【0032】
実施例において、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0033】
(実施例1)高浸透圧条件での細胞障害の抑制効果
HCE細胞(ヒト角膜上皮細胞)を、ジクロフェナクを含む高浸透圧培地で培養した。培地は、150mMのNaCl、280mMのグルコース、または280mMのソルビトールにより高浸透圧条件とした。生細胞の数をMTT法により測定し、コントロール(等張圧条件)の吸光度に対する相対値を算出した。結果を
図1Aおよび
図1Bに示した。数値は平均±S.D.(n=3)、*P<0.05;**P<0.01である。
【0034】
(比較例1)
ジクロフェナクに代えて、その他の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)を用いた以外は実施例1と同じ操作を行った。結果を
図1Aに示した。
【0035】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の中でも、特にジクロフェナクが高浸透圧条件での細胞障害の抑制効果が高いことが確認された。
【0036】
(実施例2)高浸透圧条件でのアポトーシス抑制および細胞増殖効果
HCE細胞を、ジクロフェナク、および150mMのNaClを含む高浸透圧培地で培養した。6時間培養後のカスパーゼ3様活性を、蛍光ペプチド基質を使用して測定し、結果を
図2Aに示した。また、12時間培養後、細胞増殖をBrdU取り込みアッセイにより検討し、その結果をコントロール(等張圧条件)の吸光度に対する相対値として記載した。結果を
図2Bに示した。数値は平均±S.D.(n=3)、*P<0.05;**P<0.01である。
【0037】
(比較例2)
ジクロフェナクに代えて、ブロムフェナクを用いた以外は実施例2と同じ操作を行った。結果を
図2A〜Bに示した。
【0038】
ジクロフェナクが、高浸透圧条件でのアポトーシスを抑制し、さらに細胞増殖効果を奏することが確認された。
【0039】
(実施例3)COX−阻害への非依存性
HCE細胞を、ジクロフェナク、150mMのNaCl、および/またはPGE
2を含む高浸透圧培地で24時間培養した。生細胞の数をMTT法により測定し、コントロール(等張圧条件)の吸光度に対する相対値として記載した。結果を
図3A、および
図3Cに示した。
【0040】
また、HCE細胞を、ジクロフェナクを含む培地で30分間、前培養し、10μMのアラキドン酸およびジクロフェナクを含む培地でさらに30分培養した。なお、アラキドン酸はPGE
2を誘導するために添加したものである。培養液に含まれるPGE
2の量を、EIAにより測定した。結果を
図3Bに示した。数値は平均±S.D.(n=3)、*P<0.05;**P<0.01である。
【0041】
(比較例3)
ジクロフェナクに代えて、ブロムフェナクを用いた以外は実施例3と同じ操作を行った。結果を
図3A〜Cに示した。
【0042】
図3AにおいてPGE
2を添加しても生細胞数は変化しなかった。
図3Bおよび
図3Cにおいて、PGE
2を減少させるために必要なジクロフェナクの濃度が0.1nMであったのに対し、
図3Cにおいて高浸透圧による細胞障害を低減するために必要な濃度が100nMであった。一般に、炎症はシクロオキシゲナーゼ(COX)がプロスタグランジンE
2(PGE
2)の生産を増強することにより生じることが知られているので、
図3A〜Cの結果から、ジクロフェナクの効果が、COXを阻害してPGE
2の発現量を減少させる作用とは別個独立の作用によるものであることが確認された。
【0043】
(実施例4)NFAT5の発現向上および核内移行促進効果
HCE細胞を、ジクロフェナク、および150mMのNaClを含む高浸透圧培地で6時間(
図4Aおよび
図4C)、または1時間(
図4B)培養した。全細胞破砕液(
図4Aおよび
図4B)、または核抽出液(
図4B)を、NFAT5、アクチンまたはラミンBに対する抗体を使用して、イムノブロット法により解析した。NFAT5のバンドの強度を測定し、コントロール(ジクロフェナクを含まない等張圧条件)に対する相対値として記載した(
図4Aおよび
図4B)。bgt1 mRNAの相対的な発現量をリアルタイムRT−PCRで測定し、アクチンの発現量により基準化した数値を、コントロール(ジクロフェナクを含まない等張圧条件)に対する相対値として記載した(
図4C)。数値は平均±S.D.(n=3)、*P<0.05;**P<0.01である。
【0044】
(比較例4)
ジクロフェナクに代えて、ブロムフェナクを用いた以外は実施例4と同じ操作を行った。結果を
図4A〜Cに示した。
【0045】
ジクロフェナクが、NFAT5の発現向上および核内移行促進の作用により、高浸透圧条件でアポトーシス抑制していることが確認された。
【0046】
(実施例5)ラットの角膜表面障害治療効果
ラットの涙腺を除去し、ドライアイモデルを作製した。涙腺除去の1〜5週間後、ジクロフェナク(0.1%、3.1mM)を含む目薬(5μl)を1日3回投与した。涙液量をコットン糸テストにより測定し、結果を
図5Aに示した。フルオロセイで染色された角膜の画像を
図5Bに示した。フルオレセインのスコアを算出し、
図5Cに示した。涙腺除去の5週間後に眼組織の切片を作製し、TUNELアッセイおよびDAPI染色を行い、結果を
図5Dに示した(スケールバーは50μm)。TUNEL陽性細胞数を
図5Eに示した。数値は平均±S.E.M.、*P<0.01であり、n.s.はnot significantを意味する。
【0047】
(比較例5)
ジクロフェナクに代えて、ブロムフェナクを用いた以外は実施例5と同じ操作を行った。結果を
図5A〜Eに示した。
【0048】
ジクロフェナクが、ドライアイモデルの角膜表面障害を治療する効果を奏することが確認された。
【0049】
(実施例6)ジクロフェナクとポリソルベート80の併用
HCE細胞を、0μg/ml、1μg/ml、または10μg/mlのポリソルベート80を含む培地で24時間、前培養した。さらに、1μMのジクロフェナク、150mMのNaCl、および前培養と同じ濃度のポリソルベート80を含む高浸透圧培地で24時間培養した。生細胞の数をMTT法により測定し、結果を
図6に示した。
【0050】
(比較例6)
ジクロフェナクを用いない以外は、実施例6と同じ操作を行い、結果を
図6に示した。
【0051】
ポリソルベート80を併用することによりジクロフェナクの効果を向上できることが確認された。
【0052】
(実施例7)ジクロフェナクとホウ砂の併用
HCE細胞を、0μg/ml、4μg/ml、または40μg/mlのホウ砂を含む培地で24時間、前培養した。さらに、1μMのジクロフェナク、150mMのNaCl、および前培養と同じ濃度のホウ砂を含む高浸透圧培地で24時間培養した。生細胞の数をMTT法により測定し、結果を
図7に示した。
【0053】
(比較例7)
ジクロフェナクを用いない以外は、実施例7と同じ操作を行い、結果を
図7に示した。
【0054】
ホウ砂を併用することによりジクロフェナクの効果を向上できることが確認された。
【0055】
(実施例8)ジクロフェナクとポピドンの併用
HCE細胞を、0μg/ml、10μg/ml、または100μg/mlのポピドンを含む培地で24時間、前培養した。さらに、1μMのジクロフェナク、150mMのNaCl、および前培養と同じ濃度のポピドンを含む高浸透圧培地で24時間培養した。生細胞の数をMTT法により測定し、結果を
図8に示した。
【0056】
(比較例8)
ジクロフェナクを用いない以外は、実施例8と同じ操作を行い、結果を
図8に示した。
【0057】
ポピドンを併用することによりジクロフェナクの効果を向上できることが確認された。
【0058】
(実施例9)ホウ砂、ホウ酸、クロロブタノール、ポピドン、およびポリソルベート80を併用した点眼薬(以下、併用点眼液という)による効果
HCE細胞を、1μg/mlの併用点眼薬を含む培地で24時間、前培養した。さらに、3μMの併用点眼薬、150mMのNaClを含む高浸透圧培地で24時間培養した。生細胞の数をMTT法により測定した。また、併用点眼薬に代えてジクロフェナクを使用して同じ操作を行った。結果を
図9に示した。なお、併用点眼液は処方例3の組成の点眼薬である。
【0059】
(比較例9)
ジクロフェナクまたは併用点眼薬を用いない(CTRL)、または緩衝液を用いた(Vehicle)以外は、実施例9と同じ操作を行い、結果を
図9に示した。
【0060】
ホウ砂、ホウ酸、クロロブタノール、ポピドン、およびポリソルベート80を併用することによりジクロフェナクの効果を向上できることが確認された。
【0061】
(実施例10)
ラットの涙腺を除去し、ドライアイモデルを作製した。涙腺除去の1週間後、ジクロフェナク(0.05%、1.55mM、または0.1%、3.1mM)を含む目薬(5μl)を1日3回投与した。投与4週間後に涙液をフルオレセインで染色しそのスコアを算出した。結果を
図10に示した。
【0062】
(比較例10)
ジクロフェナクに代えて緩衝液を用いた(Vehicle)以外は、実施例10と同じ操作を行い、結果を
図10に示した。
【0063】
ジクロフェナク0.05%によりドライアイモデルの角膜表面障害を治療できることが確認された。
【0064】
(処方例1)
ジクロフェナクナトリウム100mg、ホウ砂573mg、ホウ酸868mg、塩化ナトリウム290mg、およびβ−シクロデキストリン100mgを蒸留水約80mlに溶解し、これに乳酸カルシウム150mgを添加して溶解し、蒸留水で希釈して100mlとし、除菌濾過して点眼剤を得る。
【0065】
(処方例2)
ジクロフェナクナトリウム100mg、NaH
2PO
4(無水)200mg、Na
2HPO
4(無水)710mg、塩化ナトリウム300mgおよびβ−シクロデキストリン1000mgを蒸留水約80mlに溶解し、これにパントテン酸カルシウム150mgを加えて溶解し、蒸留水で希釈して100mlとし、除菌濾過して点眼剤を得る。
【0066】
(処方例3)
ジクロフェナクナトリウム100mg、ホウ砂450mg、ホウ酸1500mg、クロロブタノール500mg、ポリビニルピロリドンK25 3000mgおよびポリソルベート80(Tween80)500mgを滅菌精製水で溶解して全量100mlとし点眼剤を得る。