(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
硬化性組成物中の前記ポリエステル樹脂の含有量が、前記ウレタン化合物100質量部に対して、15質量部以上240質量部以下である請求項1又は請求項2に記載の硬化性組成物。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0020】
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、各成分に該当する物質が組成物中に複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0021】
[硬化性組成物]
本発明の硬化性組成物は、分子内にビニルエーテル基を2個以上有するウレタン化合物(以下、適宜「ビニルエーテル基含有ウレタン化合物」と称する。)と、分子内にチオール基を2個以上有するチオール化合物(以下、適宜「多官能チオール化合物」と称する。)と、ポリエステル樹脂と、ラジカル発生剤と、を含む硬化性組成物である。
【0022】
従来のビニルエーテル基を有する化合物を含む粘着剤では、柔軟性を高めて伸び特性を改善することで、被着体であるポリオレフィン等の非極性樹脂に対する優れた接着性(所謂、界面接着性)を実現している。その一方で、上記の粘着剤には、硬さが足りないため、過度の応力がかかると被着体が剥離し易く、衝撃に弱いという問題がある。
【0023】
これに対して、本発明の硬化性組成物は、ポリオレフィン等の非極性樹脂を被着体としたときの耐衝撃性に優れる。
本発明の硬化性組成物がこのような効果を奏し得る理由については、明らかではないが、本発明者は、以下のように推測している。
【0024】
本発明の硬化性組成物は、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物と、多官能チオール化合物と、ラジカル発生剤と、を含むため、以下のような硬化反応を示す。
本発明の硬化性組成物に対して、光又は熱を照射すると、ラジカル発生剤からラジカルが生成する。この生成したラジカルにより、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物と多官能チオール化合物とのエンチオール反応が進行し、網目構造を有する硬化物が形成される。本発明の硬化性組成物では、極性の低い反応性基であるビニルエーテル基を有するウレタン化合物を含むため、ポリオレフィン等の非極性樹脂に対して良好な親和性を示す硬化物が形成される。また、本発明の硬化性組成物は、分子内にビニルエーテル基を2個以上有するウレタン化合物を含むため、硬化の際にウレタン骨格による分子同士の引き合いが生じ、硬化収縮が緩和されるとともに、硬化物の網目構造が緻密になり(即ち、架橋密度が上昇し)、凝集力が高くなる。これらの結果、本発明の硬化性組成物は、接着性に優れると考えられる。
【0025】
本発明の硬化性組成物に含まれるポリエステル樹脂は、架橋反応に寄与しないため、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物と多官能チオール化合物との反応により形成された網目構造の隙間に、化学結合を伴うことなく入り込むと考えられる。
つまり、本発明では、硬さを有するポリエステル樹脂が、ポリオレフィン等の非極性樹脂に対して優れた接着性を示す硬化物の網目構造の隙間に入り込むため、硬化物によってもたらされる優れた接着性が損なわれることなく、硬化物の硬度が高まり、せん断接着力が向上し、優れた耐衝撃性が実現できると考えられる。
なお、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物がポリエステル骨格を有していても、上記のような効果は得られない。
【0026】
<ビニルエーテル基含有ウレタン化合物>
本発明の硬化性組成物は、分子内にビニルエーテル基を2個以上有するウレタン化合物(ビニルエーテル基含有ウレタン化合物)を含む。
ビニルエーテル基含有ウレタン化合物は、分子内にビニルエーテル基を2個以上有し、好ましくは2個〜4個有し、より好ましくは2個又は3個有する。
本発明の硬化性組成物では、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物が、分子内に極性の低い反応性基であるビニルエーテル基を2個以上有するため、ポリオレフィン等の非極性樹脂との親和性が良好となり、非極性樹脂との界面での接着性が優れたものとなる。
【0027】
ビニルエーテル基含有ウレタン化合物としては、下記の式(1)で表されるウレタン化合物が好ましい。下記の式(1)で表されるウレタン化合物は、その構造中にウレタン結合〔−NH(CO)O−〕を有し、分子の両末端にビニルエーテル基を有する。
【0029】
式(1)において、−X
1−及び−X
2−は、各々独立に、−C
4H
8−、−C
2H
4−、−C
2H
4OC
2H
4−、−C
2H
4OC
2H
4OC
2H
4−、−C
3H
6−、−C
3H
6OC
3H
6−、−C
3H
6OC
3H
6OC
3H
6−、又は下記の式(2)で表される連結基のいずれかを表す。
−Z−は、下記の式(3)で表される連結基を表す。
Lは、エステル骨格、カプロラクトン骨格、エーテル骨格、及びカーボネート骨格から選ばれる少なくとも1種の骨格を表す。
【0032】
式(2)で表される連結基は、シクロへキシル骨格を有しており、式(3)で表される連結基は、イソホロンに由来する骨格を有している。
【0033】
ビニルエーテル基含有ウレタン化合物は、下記の式(4)で表されるウレタン化合物及び下記の式(5)で表されるウレタン化合物から選ばれる少なくとも1種のウレタン化合物であることが好ましい。
【0036】
式(4)で表されるビニルエーテル基含有ウレタン化合物は、分子内に繰り返し構造としてカーボネート骨格を有する。なお、式(4)における−X
1−、−X
2−、及び−Z−は、式(1)における−X
1−、−X
2−、及び−Z−と同義である。
式(5)で表されるビニルエーテル基含有ウレタン化合物は、分子内に繰り返し構造として炭素数が3個のエーテル骨格を有する。なお、式(5)における−X
1−、−X
2−、及び−Z−は、式(1)における−X
1−、−X
2−、及び−Z−と同義である。
【0037】
式(4)において、l及びnは、繰り返し構造単位の数を表す。l及びnは、それぞれ独立に正の整数を表し、1〜200が好ましく、合成時のハンドリングの観点から、1〜50がより好ましい。
式(5)において、mは、繰り返し構造単位の数を表す。mは、正の整数を表し、1〜700が好ましく、合成時のハンドリングの観点から、1〜100がより好ましい。
【0038】
ビニルエーテル基含有ウレタン化合物の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されるものではない。例えば、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは50,000以下であり、より好ましくは10,000以下であり、更に好ましくは5,000以下である。
ビニルエーテル基含有ウレタン化合物の重量平均分子量(Mw)の下限は、特に限定されるものではなく、例えば、800以上である。
ビニルエーテル基含有ウレタン化合物の重量平均分子量(Mw)が50,000以下であると、硬化物のせん断接着力がより高まるため、耐衝撃性がより優れたものとなる。また、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物の粘度が高くなりすぎないため、ハンドリング性が良好である。
【0039】
上記のビニルエーテル基含有ウレタン化合物の重量平均分子量(Mw)は、下記のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いた標準ポリスチレン換算法により算出される値である。
【0040】
〜条件〜
測定装置:高速GPC装置 HLC−8220 GPC(東ソー(株))
検出器:示差屈折率計(RI) RI−8220(東ソー(株))
カラム:TSK−GEL GMHXL(4本使用)(東ソー(株))
カラムサイズ:7.8mmID×30cm
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
試料濃度:0.6mg/mL
注入量:100μL
流量:0.8mL/分
【0041】
本発明の硬化性組成物は、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0042】
本発明の硬化性組成物中のビニルエーテル基含有ウレタン化合物の含有率は、硬化性組成物の全固形分に対して、15質量%〜70質量%が好ましく、25質量%〜60質量%がより好ましく、35質量%〜55質量%が更に好ましい。
硬化性組成物中のビニルエーテル基含有ウレタン化合物の含有率が、上記の範囲内であると、密着性と凝集力とが得られ、耐衝撃性がより優れたものとなる。
【0043】
(ビニルエーテル基含有ウレタン化合物の合成方法)
ビニルエーテル基含有ウレタン化合物は、少なくとも、分子内にヒドロキシ基を2個以上有するポリオール化合物(以下、適宜「ポリオール化合物」と称する。)と、分子内にイソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物(以下、適宜「多官能イソシアネート化合物」と称する。)と、分子内にヒドロキシ基を有するモノビニルエーテル化合物(以下、適宜「ヒドロキシ基含有モノビニルエーテル化合物」と称する。)と、から合成される。
ビニルエーテル基含有ウレタン化合物の合成方法は、特に限定されるものではなく、少なくとも、ポリオール化合物と、多官能イソシアネート化合物と、ヒドロキシ基含有モノビニルエーテル化合物と、を用い、必要に応じて、公知の重合触媒存在下で加熱混合することにより合成できる。
例えば、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物は、以下の方法により好適に合成できる。但し、本発明におけるビニルエーテル基含有ウレタン化合物の合成方法は、以下の方法に限定されるものではない。
【0044】
反応容器内に、ポリオール化合物と、多官能イソシアネート化合物と、ジブチルスズジラウレート(DBTDL)等の重合触媒と、を入れ、反応容器内の内容物の温度を60℃に昇温させ2時間反応させる。反応後の反応容器内に、重合触媒と、ヒドロキシ基含有モノビニルエーテル化合物と、を投入し、更に2時間反応させることにより、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物を合成する。反応の終了は、赤外吸収スペクトル(IR)でイソシアネート由来の2250cm
−1のピークが消失したことにより確認できる。
以下、ポリオール化合物、多官能イソシアネート化合物、及びヒドロキシ基含有モノビニルエーテル化合物について、詳細に説明する。
【0045】
−ポリオール化合物−
本発明におけるポリオール化合物は、分子内にヒドロキシ基を2個以上有するポリオール化合物であれば、特に限定されるものではない。
ポリオール化合物としては、ポリカーボネートポリオール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリエステルポリオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリオキシエチレン−ビスフェノールAエーテル等が挙げられる。
ビニルエーテル基含有ウレタン化合物の合成では、ポリオール化合物を、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
ポリオール化合物が分子内に有するヒドロキシ基は、合成時のハンドリングの観点から、2個〜4個が好ましく、2個又は3個がより好ましい。
【0047】
ポリオール化合物の数平均分子量は、3,000未満が好ましく、100以上2,000以下がより好ましく、300以上1,000以下が更に好ましい。
ポリオール化合物の数平均分子量が3,000未満であると、合成されるビニルエーテル基含有ウレタン化合物の、硬化性組成物中でのウレタン骨格による分子同士の引き合いが強くなり、硬化収縮が更に緩和されるため、被着体に対する接着性がより優れたものとなる。
【0048】
上記のポリオール化合物の数平均分子量(Mn)は、下記のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いた標準ポリスチレン換算法により算出される値である。
なお、後述のとおり、ポリオール化合物としては、市販品を用いることができる。ポリオール化合物が市販品の場合には、市販品のカタログデータを優先して採用する。
【0049】
〜条件〜
測定装置:高速GPC装置 HLC−8220 GPC(東ソー(株))
検出器:示差屈折率計(RI) RI−8220(東ソー(株))
カラム:TSK−GEL GMHXL(4本使用)(東ソー(株))
カラムサイズ:7.8mmID×30cm
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
試料濃度:0.6mg/mL
注入量:100μL
流量:0.8mL/分
【0050】
ポリオール化合物は、分子内に炭素数1〜4のアルキル基を有することが好ましい。炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、炭素数1のメチル基、炭素数2のエチル基、炭素数3の1−プロピル基[−(CH
2)
2−CH
3]等の直鎖アルキル基に加えて、炭素数3の1−メチルエチル基[−CH(CH
3)
2]等の分岐アルキル基が挙げられる。ポリオール化合物が分子内に炭素数1〜4のアルキル基を有する場合、アルキル基としては、メチル基がより好ましい。
ポリオール化合物が分子内にメチル基を有すると、硬化性組成物のポリオレフィン等の非極性樹脂との親和性が更に向上し、接着性がより優れたものとなる。
【0051】
ポリオール化合物は、分子内に分岐アルキル基を有することがより好ましい。
ポリオール化合物が分子内に分岐アルキル基を有すると、硬化性組成物のポリオレフィン等の非極性樹脂との親和性が更に向上し、接着性がより優れたものとなる。
【0052】
ポリオール化合物としては、上市されている市販品を用いてもよい。
ポリオール化合物の市販品の例としては、プラクセル(登録商標)CD205PL(Mn=500、カタログ値)、CD210(Mn=1,000、カタログ値)、CD220PL(Mn=2,000、カタログ値)等〔いずれも商品名、(株)ダイセル〕、サンニックス(登録商標)PP−400(Mn=400、カタログ値)、PP−1000(Mn=1,000、カタログ値)、PP−2000(Mn=2,000、カタログ値)等〔いずれも商品名、三洋化成工業(株)〕、ユニオール(登録商標)DA−700〔商品名、日油(株)、Mn=700、カタログ値〕、クラレ ポリオールP−510〔商品名、(株)クラレ、Mn=500、カタログ値〕、プラクセル(登録商標)205U〔商品名、(株)ダイセル、Mn=530、カタログ値〕、PTMG650〔商品名、三菱化学(株)、Mn=650、カタログ値〕等が挙げられる。
【0053】
−多官能イソシアネート化合物−
本発明における多官能イソシアネート化合物は、分子内にイソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物であれば、特に限定されるものではない。
多官能イソシアネート化合物としては、分子内にイソシアネート基を2個有するジイソシアネート化合物、分子内にイソシアネート基を3個有するトリイソシアネート化合物、分子内にイソシアネート基を4個有するテトライソシアネート化合物等が挙げられる。
【0054】
ジイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)、ジシクロヘキシルメタン4,4’−ジイソシアネート(H12MDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)等が挙げられる。
トリイソシアネート化合物としては、トリフェニルメタントリイソシアネート、1−メチルベンゾール−2,4,6−トリイソシアネート等が挙げられる。
テトライソシアネート化合物としては、ジメチルトリフェニルメタンテトライソシアネート等が挙げられる。
【0055】
これらの中でも、多官能イソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン4,4’−ジイソシアネート、及び、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートから選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましく、ポリオール化合物とヒドロキシ基含有モノビニルエーテル化合物とが良好に反応し、直鎖状のビニルエーテル基含有ウレタン化合物が効率良く合成されるという観点から、イソホロンジイソシアネートがより好ましい。
ビニルエーテル基含有ウレタン化合物の合成では、多官能イソシアネート化合物を、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
多官能イソシアネート化合物は、分子内に炭素数1〜4のアルキル基を有することが好ましい。炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、炭素数1のメチル基、炭素数2のエチル基、炭素数3の1−プロピル基[−(CH
2)
2−CH
3]等の直鎖アルキル基に加えて、炭素数3の1−メチルエチル基[−CH(CH
3)
2]等の分岐アルキル基が挙げられる。多官能イソシアネート化合物が分子内に炭素数1〜4のアルキル基を有する場合、アルキル基としては、メチル基がより好ましい。
多官能イソシアネート化合物が分子内にメチル基を有すると、硬化性組成物のポリオレフィン等の非極性樹脂との親和性が更に向上し、接着性がより優れたものとなる。
分子内にメチル基を有する多官能イソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1−メチルベンゾール−2,4,6−トリイソシアネート、ジメチルトリフェニルメタンテトライソシアネート等が挙げられる。
【0057】
多官能イソシアネート化合物は、分子内に分岐アルキル基を有することがより好ましい。
多官能イソシアネート化合物が分子内に分岐アルキル基を有すると、硬化性組成物のポリオレフィン等の非極性樹脂との親和性が更に向上し、接着性がより優れたものとなる。
分子内に分岐アルキル基を有する多官能イソシアネート化合物としては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン4,4'−ジイソシアナート等が挙げられる。
【0058】
多官能イソシアネート化合物の使用量は、ポリオール化合物1モルに対して、好ましくは1.5モル〜2.5モルであり、より好ましくは1.8モル〜2.2モルである。
【0059】
−ヒドロキシ基含有モノビニルエーテル化合物−
本発明におけるヒドロキシ基含有モノビニルエーテル化合物は、分子内にヒドロキシ基を有するモノビニルエーテル化合物であれば、特に限定されるものではない。
ヒドロキシ基含有モノビニルエーテル化合物としては、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル(HEVE)、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル(HPVE)、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル(HBVE)、4−ヒドロキシメチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル(DEGMVE)、トリエチレングリコールモノビニルエーテル(TEGDVE)、ジプロピレングリコールモノビニルエーテル(DPGMVE)等が挙げられる。
ビニルエーテル基含有ウレタン化合物の合成では、ヒドロキシ基含有モノビニルエーテル化合物を、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
ヒドロキシ基含有モノビニルエーテル化合物は、分子内に炭素数1〜4のアルキル基を有することが好ましい。炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、炭素数1のメチル基、炭素数2のエチル基、炭素数3の1−プロピル基[−(CH
2)
2−CH
3]等の直鎖アルキル基に加えて、炭素数3の1−メチルエチル基[−CH(CH
3)
2]等の分岐アルキル基が挙げられる。
ヒドロキシ基含有モノビニルエーテル化合物が、分子内に炭素数1〜4のアルキル基を有する場合、アルキル基としては、炭素数1のメチル基がより好ましい。
ヒドロキシ基含有モノビニルエーテル化合物が分子内にメチル基を有すると、硬化性組成物のポリオレフィン等の非極性樹脂との親和性が更に向上し、接着性がより優れたものとなる。
【0061】
ヒドロキシ基含有モノビニルエーテル化合物が、分子内にヒドロキシアルキル基を有する場合、ヒドロキシアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。
ヒドロキシ基含有モノビニルエーテル化合物が、分子内に直鎖状のヒドロキシアルキル基を有する場合、ヒドロキシアルキル基の炭素鎖の炭素数は、1〜4が好ましく、1〜3がより好ましく、1〜2が更に好ましく、2が特に好ましい。
直鎖状のヒドロキシアルキル基の炭素鎖の炭素数が上記範囲内であると、合成されるビニルエーテル基含有ウレタン化合物の、硬化性組成物中でのウレタン骨格による分子同士の引き合いが強くなり、硬化収縮が更に緩和されるため、接着性がより優れたものとなる。
【0062】
ヒドロキシ基含有モノビニルエーテル化合物が分子内に分岐状のヒドロキシアルキル基を有する場合、ヒドロキシアルキル基の炭素鎖の炭素数は、3〜6が好ましく、3が特に好ましい。
ヒドロキシアルキル基が分岐状であると、硬化性組成物のポリオレフィン等の非極性樹脂との親和性が更に向上し、接着性がより優れたものとなる。
分子内に分岐のヒドロキシアルキル基を有するモノビニルエーテル化合物としては、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、ジプロピレングリコールモノビニルエーテル等が挙げられる。
なお、ポリオール化合物、多官能イソシアネート化合物、及びヒドロキシ基含有モノビニルエーテル化合物のうち、ヒドロキシ基含有モノビニルエーテル化合物が、分子内に炭素数1〜4のアルキル基を有することがより好ましい。
【0063】
ヒドロキシ基含有モノビニルエーテル化合物の使用量は、ポリオール化合物1モルに対して、好ましくは1.5モル〜2.5モルであり、より好ましくは1.8モル〜2.2モルである。
【0064】
−他の成分−
ビニルエーテル基含有ウレタン化合物の合成方法では、ポリオール化合物、多官能イソシアネート化合物、及びヒドロキシ基含有モノビニルエーテル化合物以外に、必要に応じて、他の成分を使用してもよい。
他の成分としては、重合触媒、希釈剤等が挙げられる。
【0065】
重合触媒としては、トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、トリエチレンジアミン(TEDA)、ビス(N,N−ジメチルアミノ−2−エチル)エーテル、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミン、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル等のアミン系触媒、酢酸カリウム、オクチル酸カリウム等のカルボン酸金属塩、ジブチルスズジラウレート等の有機金属化合物などが挙げられる。
これらの中でも、重合触媒としては、ジブチルスズジラウレートが好ましい。
ビニルエーテル基含有ウレタン化合物の合成では、重合触媒を、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0066】
重合触媒の使用量は、ポリオール化合物と多官能イソシアネート化合物とヒドロキシ基含有モノビニルエーテル化合物との合計100質量部に対して、0.01質量部〜0.3質量部が好ましく、0.05質量部〜0.1質量部がより好ましい。
【0067】
<多官能チオール化合物>
本発明の硬化性組成物は、分子内にチオール基を2個以上有するチオール化合物(多官能チオール化合物)を含む。
多官能チオール化合物は、本発明の硬化性組成物の硬化に寄与する。
本発明の硬化性組成物は、既述のビニルエーテル基含有ウレタン化合物と多官能チオール化合物とのエンチオール反応が進行することにより硬化する。
【0068】
本発明における多官能チオール化合物は、分子内にチオール基を2個以上有するチオール化合物であれば、特に限定されるものではない。
多官能チオール化合物としては、テトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン等の2官能チオール化合物、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトブチレート)、トリメチロールエタントリス(3−メルカプトブチレート)等の3官能チオール化合物、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)等の4官能チオール化合物、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)等の6官能チオール化合物などが挙げられる。
これらの中でも、多官能チオール化合物としては、耐溶剤性の観点から、3官能チオール化合物及び4官能チオール化合物から選ばれる少なくとも1種が好ましく、4官能チオール化合物がより好ましい。
【0069】
多官能チオール化合物としては、上市されている市販品を用いてもよい。
多官能チオール化合物の市販品の例としては、カレンズMT(登録商標)BD〔商品名、2官能チオール化合物、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、昭和電工(株)〕、カレンズMT(登録商標)NR〔商品名、3官能チオール化合物、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、昭和電工(株)〕、カレンズMT(登録商標)PE1〔商品名、4官能チオール化合物、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、昭和電工(株)〕、EGMP−4〔商品名、2官能チオール化合物、テトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、SC有機化学(株)〕、TMMP〔商品名、3官能チオール化合物、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート、SC有機化学(株)〕、TEMPIC〔商品名、3官能チオール化合物、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート、SC有機化学(株)〕、PEMP〔商品名、4官能チオール化合物、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、SC有機化学(株)〕、DPMP〔商品名、6官能チオール化合物、ジペンタエリスリトールヘキサキス、(3−メルカプトプロピオネート)、SC有機化学(株)〕等が挙げられる。
【0070】
本発明の硬化性組成物は、多官能チオール化合物を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0071】
本発明の硬化性組成物中の多官能チオール化合物の含有量は、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物100質量部に対して、5質量部〜100質量部が好ましく、10質量部〜50質量部がより好ましく、15質量部〜35質量部が更に好ましい。
硬化性組成物中の多官能チオール化合物の含有量が、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物100質量部に対して5質量部以上であると、硬化性組成物が十分な架橋点を有し、十分な凝集力が得られるため、被着体との界面での接着性がより良好なものとなる。
硬化性組成物中における多官能チオール化合物の含有量が、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物100質量部に対して100質量部以下であると、多官能チオール化合物の影響による硬化性組成物の極性の上昇が抑制されるため、ポリオレフィン等の非極性樹脂に対する接着性がより良好なものとなる。
【0072】
本発明の硬化性組成物では、多官能チオール化合物が有するチオール基の当量数と、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物が有するビニルエーテル基の当量数との比率(ビニルエーテル基含有ウレタン化合物が有するビニルエーテル基の当量数:多官能チオール化合物が有するチオール基の当量数)が、1:0.5〜1:1.5であることが好ましく、1:0.7〜1:1.3であることがより好ましく、1:0.9〜1:1.1であることが更に好ましい。
多官能チオール化合物が有するチオール基の当量数と、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物が有するビニルエーテル基の当量数との比率が、上記の範囲内であると、未反応の多官能チオール化合物の影響による接着力の低下、及び架橋点が少なくなることによる凝集力の低下が抑制されるため、被着体との界面での接着性がより良好なものとなる。
【0073】
<ポリエステル樹脂>
本発明の硬化性組成物は、ポリエステル樹脂を含む。
本発明の硬化性組成物では、ポリエステル樹脂が、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物と多官能チオール化合物とのエンチオール反応により形成される網目構造の隙間に入り込むため、硬化物の硬度が高まり、耐衝撃性が向上する。
【0074】
本発明におけるポリエステル樹脂の種類は、特に限定されるものではない。
ポリエステル樹脂は、合成品を用いてもよく、市販品を用いてもよい。
ポリエステル樹脂は、例えば、原料物質として、ジカルボン酸成分とジオール成分とを用いて、公知の方法により、これらの成分を重縮合することで得られる。
【0075】
ジカルボン酸成分としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、ノルボルネンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸類、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類などのジカルボン酸又はそのエステル誘導体が挙げられる。
ポリエステル樹脂の合成では、ジカルボン酸成分を、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0076】
ジオール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等の脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール類、ビスフェノールA、1,3―ベンゼンジメタノール、1,4−ベンゼンジメタノール等の芳香族ジオール類などのジオール化合物が挙げられる。
ポリエステル樹脂の合成では、ジオール成分を、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0077】
ポリエステル樹脂としては、未変性ポリエステル樹脂であってもよく、変性ポリエステル樹脂であってもよい。
変性ポリエステル樹脂としては、ポリエステル樹脂に塩素を反応させて得られる塩素化ポリエステル樹脂、ポリエステル骨格にアクリロイル基を付加させたポリエステル樹脂(所謂、ポリエステルアクリレート)等が挙げられる。
例えば、塩素化ポリエステル樹脂は、硬化性組成物のせん断接着力を比較的少量で高めることができるため、好ましい。
【0078】
ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されるものではない。
例えば、ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは400以上100,000以下であり、より好ましくは700以上50,000以下であり、更に好ましくは1,000以上10,000以下である。
ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)が400以上であると、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物と多官能チオール化合物とのエンチオール反応により形成される網目構造の隙間に入り込むため、硬化物の硬度が高まり、耐衝撃性がより優れたものとなる。
ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)が100,000以下であると、他の成分との相溶性が良好であるため、耐衝撃性がより優れたものとなる。
【0079】
上記のポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、既述のビニルエーテル基含有ウレタン化合物の重量平均分子量(Mw)と同様の方法により算出される値である。
【0080】
ポリエステル樹脂の市販品の例としては、EBECRYL(登録商標)436〔商品名、塩素化ポリエステル/トリメチロールプロパントリアクリレート(質量比)=60/40、重量平均分子量:5,000、ダイセル・オルネクス(株)〕、EBECRYL(登録商標)438〔商品名、塩素化ポリエステル/グリセリンプロポキシトリアクリレート(質量比)=60/40、重量平均分子量:5,000、ダイセル・オルネクス(株)〕、EBECRYL(登録商標)800〔商品名、ポリエステルアクリレート、重量平均分子量:780、ダイセル・オルネクス(株)〕、EBECRYL(登録商標)446〔商品名、塩素化ポリエステル/トリメチロールプロパントリアクリレート(質量比)=68/32、重量平均分子量:4,400、ダイセル・オルネクス(株)〕、EBECRYL(登録商標)524〔商品名、ポリエステル/1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(質量比)=70/30、重量平均分子量:1,000、ダイセル・オルネクス(株)〕、EBECRYL(登録商標)525〔商品名、ポリエステル/ジプロピレングリコールジアクリレート(質量比)=60/40、重量平均分子量:40,000、ダイセル・オルネクス(株)〕等が挙げられる。
【0081】
本発明の硬化性組成物は、ポリエステル樹脂を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0082】
本発明の硬化性組成物中のポリエステル樹脂の含有量は、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物100質量部に対して、好ましくは10質量部以上300質量部以下であり、より好ましくは15質量部以上240質量部以下であり、更に好ましくは15質量部以上60質量部以下である。
硬化性組成物中のポリエステル樹脂の含有量が、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物100質量部に対して10質量部以上であると、硬さを担保するポリエステル樹脂が十分に含まれるため、硬化性組成物の耐衝撃性がより向上する。
硬化性組成物中におけるポリエステル樹脂の含有量が、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物100質量部に対して300質量部以下であると、硬さを担保するポリエステル樹脂が、被着体との親和性を担保するビニルエーテル基含有ウレタン化合物に対して多すぎないため、界面での接着性と耐衝撃性とのバランスにより優れる硬化性組成物となる。
【0083】
<ラジカル発生剤>
本発明の硬化性組成物は、ラジカル発生剤を含む。
本発明の硬化性組成物は、ラジカル発生剤から発生したラジカルによって、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物と多官能チオール化合物とのエンチオール反応が進行することで硬化する。
【0084】
ラジカル発生剤としては、特に限定されるものではなく、当業者間で公知のものを制限なく用いることができる。ラジカル発生剤としては、熱ラジカル発生剤(熱重合開始剤)、レドックス開始剤、光ラジカル発生剤(光重合開始剤)等が挙げられる。
【0085】
熱ラジカル発生剤としては、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、カプロイルパーオキシド、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート等の有機過酸化物、2,2’−アゾビス−イソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物などが挙げられる。
【0086】
レドックス開始剤としては、パーメックN〔商品名、メチルエチルケトンパーオキサイド、日油(株)〕とナフテン酸コバルトとの組み合わせ、パークミルH〔商品名、クメンヒドロパーオキサイド、日油(株)〕と五酸化バナジウムとの組み合わせ、ナイパーBMT〔商品名、ジ(3−メチルベンゾイル)パーオキサイド+ベンゾイル(3−メチルベンゾイル)パーオキサイド+ジベンゾイルパーオキサイド、日油(株)〕とジメチルアニリンとの組み合わせ、ナイパーPMB〔商品名、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキサイド、日油(株)〕とジメチルアニリンとの組み合わせ、ナイパーBW〔商品名、ジベンゾイルパーオキサイド、日油(株)〕とジメチルアニリンとの組み合わせ等が挙げられる。
【0087】
光ラジカル発生剤としては、ベンゾイン誘導体化合物、ベンジルケタール化合物、α−ヒドロキシアセトフェノン化合物、チオキサントン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物等が挙げられる。
具体的には、光ラジカル発生剤としては、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン〔商品名:イルガキュア184、BASFジャパン(株)〕、2−ヒドロキシ−2−メチル−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノールオリゴマー〔商品名:エサキュアONE、ランバルティ(株)〕、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン〔商品名:イルガキュア2959、BASFジャパン(株)〕、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン〔商品名:イルガキュア127、BASFジャパン(株)〕、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン〔商品名:イルガキュア651、BASFジャパン(株)〕、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン〔商品名:ダロキュア1173、BASFジャパン(株)〕、2−メチル−1−[(4−メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン〔商品名:イルガキュア907、BASFジャパン(株)〕、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0088】
これらの中でも、ラジカル発生剤としては、操作の簡便性の観点から、光ラジカル発生剤が好ましい。また、光ラジカル発生剤としては、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物との相溶性が良好であり、硬化性組成物の黄変が生じ難く、かつ、臭いが少ないという観点から、α−ヒドロキシアセトフェノン化合物が好ましく、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが特に好ましい。
【0089】
本発明の硬化性組成物は、ラジカル発生剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0090】
本発明の硬化性組成物が、ラジカル発生剤として光ラジカル発生剤を含む場合、硬化性組成物中の光ラジカル発生剤の含有量は、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物と多官能チオール化合物とビニルエーテル基含有ウレタン化合物以外のエチレン不飽和結合を有する化合物との合計100質量部に対して、0.1質量部〜20質量部が好ましく、0.5質量部〜10質量部がより好ましく、1質量部〜7質量部が更に好ましい。
硬化性組成物の光ラジカル発生剤の含有量が、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物と多官能チオール化合物とビニルエーテル基含有ウレタン化合物以外のエチレン不飽和結合を有する化合物との合計100質量部に対して、0.1質量部以上であると、光照射の際に硬化性組成物の光硬化が十分に進むため、硬化不良が生じ難い。
硬化性組成物中の光ラジカル発生剤の含有量が、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物と多官能チオール化合物とビニルエーテル基含有ウレタン化合物以外のエチレン不飽和結合を有する化合物との合計100質量部に対して、20質量部以下であると、光ラジカル発生剤が過度に光を吸収しないため、硬化性組成物の硬化不良が生じ難い。また、光ラジカル発生剤が経時により析出し難く、硬化性組成物の保存安定性がより良好となる。
【0091】
<他の成分>
本発明の硬化性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物、多官能チオール化合物、ポリエステル樹脂、及びラジカル発生剤以外の他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物以外のエチレン性不飽和結合を有する化合物、重合禁止剤、増感剤、酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤、レべリング剤、消泡剤、顔料等の各種添加剤が挙げられる。
【0092】
ビニルエーテル基含有ウレタン化合物以外のエチレン性不飽和結合を有する化合物としては、例えば、アクリロイル基を2個以上有する多官能アクリレートが挙げられる。このような多官能アクリレートとしては、例えば、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリテトラエチレングリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、アルコキシ化グリセリントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、アルコキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、アルコキシ化ペンタエリスリトールトリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルコキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが挙げられる。
【0093】
重合禁止剤としては、メチルヒドロキノン、t−ブチルヒドロキノン、4−メトキシナフトール、1,4−ベンゾキノン、メトキノン、ジブチルヒドロキシトルエン、N−ニトロソフェニルヒドロシキルアミンアルミニウム塩、1,4−ナフトキノン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル(4−ヒドロキシTEMPO)等が挙げられる。
【0094】
〔用途〕
本発明の硬化性組成物は、例えば1MPa以上という高いせん断接着力を示し、耐衝撃性に優れることから、接着剤として好適に用いることができる。本発明の硬化性組成物は、金属、ガラス、陶磁器、木材、セラミックス等の極性物質だけでなく、非極性樹脂を被着体としたときの耐衝撃性にも優れ、特に、オレフィン系樹脂の接着に好適に用いることができる。
【0095】
本発明の硬化性組成物は、極性物質と非極性樹脂との接着、及び、非極性樹脂同士の接着に好適に用いることができる。
また、本発明の硬化性組成物は、各種商品のラベル、ステッカー等の接着剤として好適に用いることができる。本発明の硬化性組成物を各種商品のラベル、ステッカー等の接着剤として用いる場合には、例えば、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂等を材料とする各種樹脂フィルム上に本発明の硬化性組成物を塗布し、塗布面を各種被着体上に貼り合わせた後、光を照射することで、ラベル、ステッカー等を被着体である商品に接着させることができる。
【実施例】
【0096】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0097】
本実施例において製造したウレタン化合物の重量平均分子量(Mw)は、既述の方法により測定した。
【0098】
−ウレタン化合物の製造−
[製造例1]
温度計、攪拌機、及び還流冷却管を備えた反応容器内に、サンニックス(登録商標)PP−400(下記の構造式(a)で表されるポリオキシプロピレングリコール(m=7)、数平均分子量(Mn)=400(カタログ値)、三洋化成工業(株))100質量部と、イソホロンジイソシアネート(IPDI)112質量部と、ジブチルスズジラウレート(DBTDL)0.03質量部と、を入れ、攪拌下、上記反応容器の内容物の温度を60℃に昇温させ2時間反応させた。その後、ジブチルスズジラウレート(DBTDL)0.20質量部と、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル(HBVE)56質量部と、を投入し、更に2時間反応させて、分子鎖の両末端にビニルエーテル基を有するウレタン化合物(以下、「ビニルエーテルウレタン化合物(A)」と称する。)を得た。なお、反応の終了は、赤外吸収スペクトル(IR)でイソシアネート由来の2250cm
−1のピークが消失したことにより確認した。
得られたビニルエーテルウレタン化合物(A)の重量平均分子量(Mw)を測定したところ、2,200であった。
なお、ビニルエーテルウレタン化合物(A)は、既述の式(5)で表される化合物であり、式(5)における−X
1が、−C
4H
8−であり、−X
2が、−C
4H
8−であり、−Z−が、既述の式(3)で表される連結基であり、mが、7である。
【0099】
【化9】
【0100】
[製造例2]
温度計、攪拌機、及び還流冷却管を備えた反応容器内に、サンニックス(登録商標)PP−400(既述の構造式(a)で表されるポリオキシプロピレングリコール(m=7)、数平均分子量(Mn)=400(カタログ値)、三洋化成工業(株))100質量部と、イソホロンジイソシアネート(IPDI)112質量部と、ジブチルスズジラウレート(DBTDL)0.03質量部と、を入れ、攪拌下、上記反応容器の内容物の温度を60℃に昇温させ2時間反応させた。その後、ジブチルスズジラウレート(DBTDL)0.20質量部と、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル(HEVE)43質量部と、を投入し、更に2時間反応させて、分子鎖の両末端にビニルエーテル基を有するウレタン化合物(以下、「ビニルエーテルウレタン化合物(B)」と称する。)を得た。なお、反応の終了は、赤外吸収スペクトル(IR)でイソシアネート由来の2250cm
−1のピークが消失したことにより確認した。
得られたビニルエーテルウレタン化合物(B)の重量平均分子量(Mw)を測定したところ、2,100であった。
なお、ビニルエーテルウレタン化合物(B)は、既述の式(5)で表される化合物であり、式(5)における−X
1が、−C
2H
4−であり、−X
2が、−C
2H
4−であり、−Z−が、既述の式(3)で表される連結基であり、mが、7である。
【0101】
[製造例3]
温度計、攪拌機、及び還流冷却管を備えた反応容器内に、プラクセル(登録商標)205U(下記の構造式(c)で表されるポリカプロラクトンジオール(l、n=2)、数平均分子量(Mn)=530(カタログ値)、(株)ダイセル)100質量部と、イソホロンジイソシアネート(IPDI)89質量部と、ジブチルスズジラウレート(DBTDL)0.03質量部と、を入れ、攪拌下、上記反応容器の内容物の温度を60℃に昇温させ2時間反応させた。その後、ジブチルスズジラウレート(DBTDL)0.16質量部と、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル(HBVE)44質量部と、を投入し、更に2時間反応させて、ポリエステル骨格を有し、かつ、分子鎖の両末端にビニルエーテル基を有するウレタン化合物(以下、「ビニルエーテルウレタン化合物(C)」と称する。)を得た。なお、反応の終了は、赤外吸収スペクトル(IR)でイソシアネート由来の2250cm
−1のピークが消失したことにより確認した。
得られたビニルエーテルウレタン化合物(C)の重量平均分子量(Mw)を測定したところ、2,900であった。
【0102】
【化10】
【0103】
−硬化性組成物の製造−
[実施例1]
上記の製造例1で得られたビニルエーテルウレタン化合物(A)100質量部と、ラジカル発生剤であるイルガキュア(登録商標)184〔光ラジカル発生剤、1−ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン、BASFジャパン(株)〕3.75質量部と、を褐色のサンプル瓶に量りとり、60℃で20分間加熱した後に5分間スパチュラで攪拌した。次いで、攪拌後の褐色のサンプル瓶に、ポリエステル樹脂であるEBECRYL(登録商標)438〔塩素化ポリエステル/グリセリンプロポキシトリアクリレート(質量比)=60/40、重量平均分子量:5,000、ダイセル・オルネクス(株)〕25質量部と、多官能チオール化合物であるカレンズMT(登録商標)PE1〔分子内にチオール基を4個有するチオール化合物(4官能チオール化合物)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、昭和電工(株)〕22.4質量部と、を量りとり、40℃で10分間加熱した後に5分間スパチュラで攪拌混合することにより、実施例1の硬化性組成物を得た。
【0104】
[実施例2〜7]
硬化性組成物の組成を、下記の表1に示す組成に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例2〜7の硬化性組成物を得た。
【0105】
[比較例1〜8]
硬化性組成物の組成を、下記の表2に示す組成に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例1〜8の硬化性組成物を得た。
【0106】
<せん断接着力の測定>
硬化性組成物の耐衝撃性の評価の指標として、せん断接着力を測定した。
25mm幅のポリプロピレン板(以下、「PP板」と称する。)〔商品名:PP−N−BN、(株)パルテック〕を2枚準備した。
実施例1〜7及び比較例1〜8の硬化性組成物をそれぞれ、塗布後の厚みが30μmになるように、アプリケータを用いてPP板の上に塗布した後、塗布面にもう1枚のPP板を貼り合わせ、PP板/硬化性組成物/PP板の構成を有するシートを作製した。次いで、このシートに、照度150mW/cm
2及び積算光量500mJ/cm
2の条件で光を照射し、硬化性組成物を硬化させ、試験片とした。
この試験片を、引張試験機(型番:RTF−1350、エー・アンド・デイ(株))を用いて、23℃、50%RHの環境下、引張速度10mm/minの条件で、接着面に対して平行に、一定速度で引っ張り、荷重をかけて接着部を破断させ、せん断接着力(単位:MPa、接着部が破断するときの最大荷重)を測定した。なお、接着部が破断するまでの時間は、およそ5秒であった。
せん断接着力が1MPa以上であれば、耐衝撃性に優れることを意味する。
【0107】
実施例1〜7の硬化性組成物の組成及びせん断接着力の測定結果を表1に示す。また、比較例1〜8の硬化性組成物の組成及びせん断接着力の測定結果を表2に示す。
なお、表1及び表2において、「−」は、該当成分を配合していないことを意味する。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
上記の表1及び表2における成分の詳細は、以下のとおりである。
<ビニルエーテルウレタン化合物>
(A):上記の製造例1で得られたビニルエーテルウレタン化合物
(B):上記の製造例2で得られたビニルエーテルウレタン化合物
(C):上記の製造例3で得られたビニルエーテルウレタン化合物
<ポリエステル樹脂>
EBECRYL(登録商標)438:塩素化ポリエステル/グリセリンプロポキシトリアクリレート(OTA480)(質量比)=60/40、重量平均分子量:5,000、ダイセル・オルネクス(株)
EBECRYL(登録商標)436:塩素化ポリエステル/トリメチロールプロパントリアクリレート(質量比)=60/40、重量平均分子量:5,000、ダイセル・オルネクス(株)
EBECRYL(登録商標)800:ポリエステルアクリレート、重量平均分子量:780、ダイセル・オルネクス(株)
【0111】
<多官能アクリレート>
OTA480:グリセリンプロポキシトリアクリレート、重量平均分子量:480、ダイセル・オルネクス(株)
<変性エポキシアクリレート>
EBECRYL(登録商標)3708:重量平均分子量:1,500、ダイセル・オルネクス(株)
<多官能チオール化合物>
カレンズMT(登録商標)PE1:分子内にチオール基を4個有するチオール化合物(4官能チオール化合物)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、昭和電工(株)
<ラジカル発生剤>
イルガキュア(登録商標)184:光ラジカル発生剤、1−ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン、BASFジャパン(株)
【0112】
表1に示すように、分子内にビニルエーテル基を2個以上有するウレタン化合物(ビニルエーテル基含有ウレタン化合物)、分子内にチオール基を2個以上有するチオール化合物(多官能チオール化合物)、ポリエステル樹脂、及びラジカル発生剤を含む実施例1〜7の硬化性組成物は、十分に高いせん断接着力を示し、耐衝撃性に優れることが示唆された。
一方、表2に示すように、ビニルエーテル基含有ウレタン化合物、多官能チオール化合物、及びポリエステル樹脂の少なくともいずれかを含まない比較例1〜6、及び8の硬化性組成物は、実施例の硬化性組成物と比較して、せん断接着力が低く、耐衝撃性に劣ることが示唆された。なお、多官能チオール化合物を含まない比較例7の硬化性組成物は、光を照射しても硬化せず、せん断接着力を測定できなかった。
【0113】
ポリエステル樹脂を含まず、アクリル樹脂を含む比較例4の硬化性組成物では、せん断接着力の向上が認められたものの、1MPaを超えるせん断接着力は得られなかった。
ポリエステル骨格を有するビニルエーテル基含有ウレタン化合物を含み、ポリエステル樹脂を含まない比較例5の硬化性組成物は、せん断接着力が低く、耐衝撃性に劣ることが示唆された。
実施例2、比較例1、及び比較例3の硬化性組成物の対比によれば、実施例2の硬化性組成物において認められた高いせん断接着力は、EBECRYL(登録商標)438中に含まれるグリセリンプロポキシトリアクリレートに起因するものではなく、塩素化ポリエステルに起因するものであることが明らかとなった。