(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)を含むアクリル系グラフト共重合体(A)を含むものである。
【0016】
本発明に用いるアクリル系グラフト共重合体(A)は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の存在下において、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物(A−b)を重合して得られるものである。この際、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物(A−b)は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)にグラフト反応せずに、未グラフトの重合体となる成分(フリーポリマー)が生じることがある。アクリル系グラフト共重合体はこのフリーポリマーを含んでも良い。
【0017】
本発明で用いられるアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)は、アクリル酸エステル60〜100重量%と、共重合可能な他のビニル系単量体0〜40重量%とを含む単量体混合物(合計100重量%)、および特定量の共重合可能な架橋剤を重合させるのが好ましい。単量体混合物および架橋剤を一度に全部混合して使用してもよく、また、単量体混合物および架橋剤の組成を変化させて2段以上で使用してもよい(すなわち、2段階以上の重合を行ってもよい)。また、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)中に、メタクリル酸エステル系重合体を含んでいても良い。
【0018】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)におけるアクリル酸エステルとしては、重合性やコストの点より、アルキル基の炭素数1〜12のものを用いることができる。その具体例としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等があげられ、これらの単量体は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)におけるアクリル酸エステル量は、単量体混合物100重量%において60〜100重量%が好ましく、70〜100重量%がより好ましく、80〜100重量%が最も好ましい。アクリル酸エステル量が60重量%未満では、耐衝撃性が低下し、引張破断時の伸びが低下し、フィルム切断時にクラックが発生しやすくなる傾向がある。
【0020】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)における共重合可能な他のビニル系単量体としては、メタクリル酸エステルが使用できる。メタクリル酸エステルとしては、アルキル基の炭素数が1〜12であるものが好ましく、アルキル基は直鎖状でも分岐状でもよい。例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル等が挙げられる。また、塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル誘導体、塩化ビニリデン、弗化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カルシウム等のアクリル酸およびその塩、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸グリシジル、アクリルアミド、N−メチロ−ルアクリルアミド等のアクリル酸アルキルエステル誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カルシウム等のメタクリル酸およびその塩、メタクリルアミド、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジル等のメタクリル酸アルキルエステル誘導体等があげられ、これらの単量体は1種、または2種以上が併用されてもよい。これらのうちでも、耐候性、透明性の点より、メタクリル酸エステルが特に好ましい。
【0021】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)における共重合可能な他のビニル系単量体の量は、上記単量体混合物100重量%において0〜40重量%が好ましく、0〜30重量%がより好ましく、0〜20重量%が最も好ましい。他のビニル系単量体の量が40重量%を超えると、アクリル酸エステル系ゴム状重合体の弾性特性が低下するため耐衝撃性が低下し、引張破断時の伸びが低下し、フィルム切断時にクラックが発生しやすくなる場合がある。
【0022】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)における共重合可能な架橋剤の量は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体の平均粒子径と共に、耐温水白化、応力白化、引張破断時の伸びあるいは透明性に大きく影響する。すなわち、アクリル酸エステル系ゴム状重合体の平均粒子径d(nm)と重合中における全アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A)中の架橋剤量w(重量%)が、次式を満たすことが重要である。
0.02d≦w≦0.05d
【0023】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の平均粒子径は、50〜200nmであり、好ましくは50〜160nm、より好ましくは50〜120nm、最も好ましくは60〜120nmである。アクリル酸エステル系ゴム状重合体の平均粒子径が50nm未満では、耐衝撃性等が低下し、引張破断時の伸びが低下しフィルム切断時にクラックが発生しやすくなる傾向がある。一方、200nmを超えると応力白化が発生しやすく、透明性が低下し、さらに真空成形後の透明性が低下する傾向がある。
【0024】
架橋剤の量は、上記式0.02d≦w≦0.05dに示される範囲が好ましく、0.023d≦w≦0.047dを満たすことがより好ましく、0.025d≦w≦0.045dを満たすことがさらに好ましい。架橋剤量wが0.02d未満の場合または0.05dを超える場合には、温水白化、応力白化が発生し、耐衝撃性や透明性が低下し、引張破断時の伸びが低下し、フィルム切断時にクラックが発生しやすく、フィルムの成形性が悪化する傾向がある。
【0025】
架橋剤は、通常使用されるものでよく、1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体が挙げられ、例えば、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジビニルアジペート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチルロールプロパントリメタクリレート、テトロメチロールメタンテトラメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレートおよびこれらのアクリレート類などを使用することができる。これらの架橋剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
本発明で用いられるアクリル系グラフト共重合体(A)は、上述のように、前記アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の存在下に、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合体(A−b)を重合させて得られるものである。好ましくは、前記アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)5〜75重量部の存在下に、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物(A−b)95〜25重量部を少なくとも1段階以上で重合させることより得られる。
【0027】
メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物(A−b)中のメタクリル酸エステルは、80重量%以上が好ましく、85重量%がより好ましく、90重量%がさらに好ましい。メタクリル酸エステルが80重量%未満では、得られるフィルムの硬度、剛性が低下する傾向がある。メタクリル酸エステルとしては、上述したアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)のメタクリル酸エステルを同様に使用できる。上記(A−b)には、メタクリル酸エステルの他に、上述したアクリル酸エステルゴム状重合体(A−a)の単量体混合物で挙げられたアクリル酸エステルや、共重合体可能な他のビニル系単量体が使用可能である。透明性、硬度、耐熱性の観点から、メタクリル酸エステルが好ましい。
【0028】
アクリル系グラフト共重合体(A)のグラフト率とは、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の重量を100とした場合の、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)にグラフト結合した単量体混合物(A−b)の重量比率を表す指標である。本発明におけるアクリル系グラフト共重合体(A)のグラフト率は、60〜105%であり、より好ましくは65〜100%、最も好ましくは70〜95%の範囲である。グラフト率60%未満では耐折曲げ白化性が低下し、また、透明性が低下したり、引張破断時の伸びが低下しフィルム切断時にクラックが発生しやすくなったりする傾向がある。一方、105%を越えると、耐デラミネーション性が低下する傾向がある。
【0029】
本発明におけるアクリル系グラフト共重合体(A)は、耐候性の向上、成形加工性の向上のために、反応性紫外線吸収剤が、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)および/または単量体混合物(A−b)の重合体において共重合されていても構わない。すなわち、反応性紫外線吸収剤が、アクリル酸エステルゴム状重合体(A−a)の単量体混合物および架橋剤と共重合されていてもよいし、単量体混合物(A−b)に共重合されていても構わない。中でも、上記紫外線吸収剤は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)およびメタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物(A−b)の両方に共重合されていることがより好ましい。
【0030】
反応性紫外線吸収剤としては、公知の反応性紫外線吸収剤を使用してよく、特に限定されないが、成形加工性、耐候性の点から一般式(1)であるものが好ましい。
【0032】
(式(1)中、XはHまたはハロゲン、R
1はH、メチルまたは炭素数4〜6のt−アルキル基、R
2は直鎖または枝分かれ鎖状の炭素数2〜10のアルキレン基、R
3はHまたはメチルである。
【0033】
一般式(1)で示す反応性紫外線吸収剤としては、具体的には、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール類であり、2−(2’−ヒドロキシ−5’−アクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシプロピルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチル−3’−t−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール等が挙げられる。より好ましくは、コストおよび取り扱い性から、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールである。
【0034】
反応性紫外線吸収剤の共重合比率は、アクリル系グラフト共重合体(A)100重量部に対して、0.01〜30重量部が好ましく、0.01〜25重量部がより好ましく、0.01〜20重量部がさらに好ましく、0.05〜20重量部が特に好ましい。反応性紫外線吸収剤の共重合比率が0.01重量部未満では、得られるメタクリル系樹脂組成物から形成しうるフィルムの耐候性が低下する傾向にあり、30重量部を超えると、フィルムの耐衝撃性および耐折曲げ割れ性が低下する傾向にある。
【0035】
本発明におけるアクリル系グラフト共重合体(A)の製造方法は特に限定されず、公知の乳化重合法、乳化−懸濁重合法、懸濁重合法、塊状重合法または溶液重合法が適用可能であるが、乳化重合法が特に好ましい。
【0036】
アクリル系グラフト共重合体(A)中に反応性紫外線吸収剤を共重合させる方法も特に限定されず、アクリル系グラフト共重合体(A)の製造中に共重合することが好ましい。つまり、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の単量体混合物および架橋剤とともに、および/または単量体混合物とともに共重合すれば良い。共重合方法としては、公知の乳化重合法、乳化−懸濁重合法、懸濁重合法、塊状重合法または溶液重合法が適用可能であるが、乳化重合法が特に好ましい。
【0037】
本発明のアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の重合における開始剤としては、公知の有機系過酸化物、無機系過酸化物、アゾ化合物などの開始剤を使用することができる。具体的には、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、スクシン酸パーオキサイド、パーオキシマレイン酸t−ブチルエステル、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物や、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物、さらにアゾビスイソブチロニトリル等の油溶性開始剤も使用される。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。これらの開始剤は、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレート、アスコルビン酸、ヒドロキシアセトン酸、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸2ナトリウムの錯体なとの還元剤と組み合わせた通常のレドックス型開始剤として使用してもよい。
【0038】
前記有機系過酸化物は、重合系にそのまま添加する方法、単量体に混合して添加する方法、乳化剤水溶液に分散させて添加する方法など、公知の添加法で添加することができるが、透明性の点から、単量体に混合して添加する方法あるいは乳化剤水溶液に分散させて添加する方法が好ましい。
【0039】
また、前記有機系過酸化物は、重合安定性、粒子径制御の点から、2価の鉄塩等の無機系還元剤および/またはホルムアルデヒドスルホキシル酸ソ−ダ、還元糖アスコルビン酸等の有機系還元剤と組み合わせたレドックス系開始剤として使用するのが好ましい。
【0040】
前記乳化重合に使用される界面活性剤にも特に限定はなく、通常の乳化重合用の界面活性剤であれば使用することができる。具体的には、例えばアルキルスルフォン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、脂肪酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤や、アルキルフェノール類、脂肪族アルコール類とプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとの反応生成物等の非イオン性界面活性剤等が示される。これらの界面活性剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。更に要すれば、アルキルアミン塩等の陽イオン性界面活性剤を使用してもよい。
【0041】
本発明における得られたアクリル系グラフト共重合体(A)の平均粒子径は、上記アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の平均粒子径dよりも大きく、かつ100nm超400nm以下が好ましい。なかでも、100nm超350nm以下がより好ましく、100nm超300nm以下がさらに好ましい。アクリル系グラフト共重合体(A)の平均粒子径が100nm以下では、得られるメタクリル系樹脂組成物から形成しうるフィルムの耐衝撃性および耐折曲げ割れ性が低下する傾向があり、400nmを超えるとフィルムの透明性が低下する傾向にある。
【0042】
得られたアクリル系グラフト共重合体(A)ラテックスは、通常の凝固、洗浄および乾燥の操作により、または、スプレー乾燥、凍結乾燥などによる処理により、樹脂組成物が分離、回収される。
【0043】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、メタクリル系重合体(B)を含んでも良い。本発明で用いられるメタクリル系重合体(B)は、メタクリル酸エステルを80重量%以上含有するものが好ましく、より好ましくは85重量%以上含有するものであり、さらに好ましくは90重量%以上含有するものである。メタクリル酸エステルが80重量%未満では、得られるフィルムの硬度、剛性が低下する傾向がある。
【0044】
本発明におけるメタクリル系重合体(B)におけるメタクリル酸メチル以外の単量体としては、前記アクリル系グラフト共重合体(A)に使用できるものとして列挙したものがあげられる。これらの単量体は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。すなわち、メタクリル系重合体(B)は、メタクリル酸エステルとアクリル酸エステルを重量比で80/20〜100/0の範囲で含有していることが好ましく、90/10〜100/0がより好ましく、95/5〜100/0がさらに好ましい。メタクリル酸エステルを93重量%以上含むものであれば、透明性、硬度、耐熱性および耐薬品性が良好となり好ましい。
【0045】
本発明におけるメタクリル系重合体(B)を、アクリル系グラフト共重合体(A)と別個に重合することも可能である。その場合も重合方法は特に限定されず、公知の乳化重合法、乳化−懸濁重合法、懸濁重合法、塊状重合法または溶液重合法が適用可能である。また、メタクリル系重合体(B)として、ポリグルタルイミド、無水グルタル酸ポリマー、ラクトン環化メタクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等も含んでもよい。
【0046】
メタクリル系重合体(B)の前記重合における開始剤としては、公知の有機系過酸化物、無機系過酸化物、アゾ化合物などの開始剤を使用することができる。具体的には、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、スクシン酸パーオキサイド、パーオキシマレイン酸t−ブチルエステル、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、イソプロピル−t−ブチルパーオキシカーボネート、過安息香酸ブチル、1,1−ビス(アルキルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(アルキルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物や、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物、さらにアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物も使用される。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
前記有機系過酸化物は、重合系にそのまま添加する方法、単量体に混合して添加する方法、乳化剤水溶液に分散させて添加する方法など、公知の添加法で添加することができるが、透明性の点から、単量体に混合して添加する方法が好ましい。
【0048】
前記懸濁重合に使用される分散剤としては、一般的に懸濁重合に用いられる分散剤、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等の高分子分散剤、例えば、リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、ピロリン酸マグネシウム等の難水溶性無機塩があげられる。そして、難水溶性無機塩を用いる場合には、α−オレフィンスルフォン酸ソーダ、ドデシルベンゼンスルフォン酸ソーダ等のアニオン性界面活性剤を併用すると分散安定性が増すので効果的である。また、これらの分散剤は得られる樹脂粒子の粒子径を調整するために、重合中に1回以上追加することもある。
【0049】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、アクリル系グラフト共重合体(A)とメタクリル系重合体(B)を重合によりそれぞれ個別に製造した後、これらを混合して得ることができる。また、同一の反応機でアクリル系グラフト共重合体(A)を製造した後、メタクリル系重合体(B)を続けて製造することによって、上記メタクリル系樹脂組成物を製造することもできる。前者の混合する方法においては、アクリル系グラフト共重合体(A)およびメタクリル系重合体(B)は、それぞれ独立して、例えばラテックス状、パウダー状、ビーズ状またはペレット状等であってよい。
【0050】
本発明で用いられるメタクリル系樹脂組成物中のアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の含有量は、メタクリル系樹脂組成物100重量%において10〜40重量%が好ましく、10〜30重量%がより好ましい。アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の含有量が10重量%未満では、得られるフィルムの引張破断時の伸びが低下し、フィルムを切断する際にクラックが発生しやすく、また応力白化が発生しやすくなる傾向がある。一方、40重量%を超えると、得られるフィルムの硬度、剛性が低下する傾向がある。
【0051】
本発明で用いられるメタクリル系樹脂組成物のメチルエチルケトン可溶分の還元粘度は、0.75〜1.3dl/gであり、0.8〜1.1dl/gが好ましく、0.8〜1.0dl/gがより好ましい。メタクリル系樹脂組成物のメチルエチルケトン可溶分の還元粘度が0.75dl/g未満では、耐デラミネーション性が低下する傾向がある。一方、1.3dl/gを超えると、フィルムの成形性が低下する傾向がある。
【0052】
本発明で得られるメタクリル系樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、圧縮成形などの各種プラスチック加工法によって様々な成形品に加工できる。
【0053】
本発明のメタクリル系樹脂組成物は、特にフィルムとして有用であり、例えば、通常の溶融押出法であるインフレーション法やTダイ押出法、あるいはカレンダー法、更には溶剤キャスト法等により良好に加工される。また、必要に応じて、フィルムを成形する際、フィルム両面をロールまたは金属ベルトに同時に接触させることにより、特にガラス転移温度以上の温度に加熱したロールまたは金属ベルトに同時に接触させることにより、表面性のより優れたフィルムを得ることも可能である。また、目的に応じて、フィルムの積層成形や、二軸延伸によるフィルムの改質も可能である。
【0054】
本発明のメタクリル系樹脂組成物には、必要に応じて、他の熱可塑性樹脂を配合してもよく、たとえば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等を配合してもよい。ブレンドの方法は特に問わず、公知の方法を用いることができる。
【0055】
本発明のメタクリル系樹脂組成物には、必要に応じて、着色のために無機系顔料または有機系染料を、熱や光に対する安定性を更に向上させるために抗酸化剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤などを、あるいは、抗菌、脱臭剤、滑剤等を、単独または2種以上組み合わせて添加してもよい。
【0056】
なかでも、紫外線吸収剤は、耐候性を向上させる上で、好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、例えば、一般に用いられるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2−ヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸フェニルエステル系紫外線吸収剤などが挙げられる。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤として、具体的には、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−アミル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールなどが例示される。2−ヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤として、具体的には、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、 2−ヒドロキシ−4−メトキシ−4’−クロロベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4,4′−ジメトキシベンゾフェノンなどが例示される。また、サリチル酸フェニルエステル系紫外線吸収剤として具体的には、p−tert−ブチルフェニルサリチル酸エステル、p−オクチルフェニルサリチル酸エステルなどが例示される。 これらの紫外線吸収剤は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0057】
本発明において、紫外線吸収剤を配合する場合、その配合量は、メタクリル系樹脂組成物100重量%に対して、通常0.1〜3重量%が好ましく、より好ましくは0.3〜3重量%である。
【0058】
本発明のメタクリル系樹脂組成物から得られるフィルムの厚みは、10〜300μmが好ましく、10〜200μmがより好ましい。フィルムの厚みが10μm未満ではフィルムの加工性が低下する傾向があり、300μmを超えると、得られるフィルムの透明性が低下する傾向がある。
【0059】
また、本発明のメタクリル系樹脂組成物より得られたフィルムは、必要に応じて、公知の方法によりフィルム表面の光沢を低減させることができる。例えば、メタクリル系樹脂組成物に無機充填剤または架橋性高分子粒子を混練する方法等で実施することが可能である。また、得られるフィルムをエンボス加工により、フィルム表面の光沢を低減させることも可能である。
【0060】
本発明のメタクリル系樹脂組成物より得られたフィルムは、金属、プラスチックなどに積層して用いることができる。フィルムの積層方法としては、積層成形や、鋼板などの金属板に接着剤を塗布した後、金属板にフィルムを載せて乾燥させ貼り合わせるウエットラミネートや、ドライラミネート、押出ラミネート、ホットメルトラミネートなどがあげられる。
【0061】
プラスチック部品にフィルムを積層する方法としては、フィルムを金型内に配置しておき、射出成形にて樹脂を充填するインサート成形またはラミネートインジェクションプレス成形や、フィルムを予備成形した後に金型内に配置し、射出成形にて樹脂を充填するインモールド成形などがあげられる。
【0062】
本発明のメタクリル系樹脂組成物から得られるフィルム積層品は、自動車内装材,自動車外装材などの塗装代替用途、窓枠、浴室設備、壁紙、床材などの建材用部材、特に欧州出窓に用いられる化粧シートにラミネーションされて用いられる。また、日用雑貨品、家具や電気機器のハウジング、ファクシミリなどのOA機器のハウジング、電気または電子装置の部品などにも使用することができる。
【実施例】
【0063】
次に、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。以下で「部」および「%」は、特記が無い限り、「重量部」および「重量%」を意味する。
【0064】
なお、以下の実施例および比較例で測定した物性の各測定方法は、次のとおりである。
【0065】
(重合転化率の測定)
アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)およびアクリル系グラフト共重合体(A)のラテックスを、熱風乾燥機内にて120℃で1時間乾燥して固形成分量を求め、次式により重合転化率を算出した。
重合転化率=(固形成分量/仕込み単体量)x100
【0066】
(グラフト率の測定)
得られたアクリル系グラフト共重合体(A)1gをメチルエチルケトン40mlに溶解させ、遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い、回転数3000rpmにて1時間遠心分離を行い、不溶分と可溶分とを分離した。得られた不溶分を、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)およびグラフト分(A−b)として、次式によりグラフト率を算出した。
【0067】
グラフト率(%)={(メチルエチルケトン不溶分の重量−アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の重量)/アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の重量}×100
【0068】
(還元粘度の測定)
メタクリル系樹脂組成物1gをメチルエチルケトン40mlに溶解させ、遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い、回転数3000rpmにて1時間遠心分離を行い、不溶分と可溶分とを分離した。この操作にて得られたメチルエチルケトン可溶分150mgをN,N−ジメチルホルムアミド50mlに溶解させた溶液に対して、JIS K6721に従い、還元粘度を測定した。
【0069】
(平均粒子径の測定)
得られたアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)ラテックスおよびアクリル系グラフト共重合体(A)ラテックスを、固形分濃度0.02%に希釈したものを試料として、分光光度計(HITACHI製、Spectrophotometer U−2000)を用いて546nmの波長での光線透過率より、平均粒子径を求めた。
【0070】
(透明性の評価)
得られたフィルムの透明性は、JIS K6714に準じて、温度23℃±2℃、湿度50%±5%にてヘイズを算出することにより測定した。
【0071】
(耐折曲げ割れ性の評価)
得られたフィルムを1回180度折り曲げて、折り曲げ部の変化を目視し、以下のように評価した。
○:割れが認められない。
×:割れが認められる。
【0072】
(耐折り曲げ白化性の評価)
得られたフィルムを1回180度折り曲げて、折り曲げ部の変化を目視し、以下のように評価した。
○:折曲げ部に白化が認められない。
△:折曲げ部に白化が薄く認められる。
×:折曲げ部に濃い白化が認められる。
【0073】
(フィルムの収縮率の評価)
得られたフィルムを直径100mmの円盤状に切出し、150℃で10分間加熱後の寸法を測定し、加熱収縮率を求めた。
加熱収縮率(%)=(加熱前の寸法−加熱後の寸法)/加熱前の寸法×100
【0074】
(耐温水白化の評価)
得られたフィルムを80℃のイオン交換水中に4時間浸漬し、フィルム表面に付着した水滴を取り除き、温度23℃±2℃の環境下に1時間静置した後、JIS K7136に従ってヘイズ(曇価)を測定した。浸漬前のヘイズ値に比べ、温水白化後のヘイズを比較した。ヘイズ値より温水白化の有無を評価した。
○:浸漬前のヘイズに対して500%以内
×:浸漬前のヘイズに対して500%以上
【0075】
(耐デラミネーションの評価)
得られたフィルムと印刷PVCシートを140℃でプレス成形し、積層品を作成する。その積層品を湿度98RH%、70℃の条件下で静置し、経時でPVCシートとの剥離性について評価を行った。
○:4日以上でデラミネーションを発現する。
△:2〜3日でデラミネーションを発現する。
×:1日でデラミネーションを発現する。
【0076】
(フィルム外観)
得られたフィルムを20cmの距離から透過で目視観察し、樹脂の流動模様(フローマーク)の発生が無く、フィッシュアイと呼ばれる欠陥数が1m
2あたり500個以下であるフィルムを外観○と判断した。
【0077】
また、略号はそれぞれ下記の物質を表す。
OSA:ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム
BA:アクリル酸ブチル
MMA:メタクリル酸メチル
CHP:クメンハイドロパーオキサイド
tDM:ターシャリドデシルメルカプタン
AlMA:メタクリル酸アリル
RUVA:2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2−H−ベンゾトリアゾール(大塚化学(株)製、RUVA−93)
【0078】
(製造例1)アクリル系グラフト共重合体(A)
攪拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 200部
ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム 0.25部
ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト 0.15部
エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.001部
硫酸第一鉄 0.00025部
重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、内温を60℃にし、表1中に示した単量体混合物(A−a)を10部/時間の割合で連続的に添加し、添加終了後、さらに0.5時間重合を継続し、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)ラテックスを得た。重合転化率は99.5%であった。
【0079】
その後、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム0.05部を仕込んだ後表1中に示した単量体混合物(A−b)を10部/時間の割合で連続的に添加し、さらに1時間重合を継続し、アクリル系グラフト共重合体(A)ラテックスを得た。重合転化率は98.5%であった。
【0080】
得られたアクリル系グラフト共重合体(A)ラテックスを塩化カルシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥して樹脂粉末(1)を得た。さらに、40ミリφベント付き単軸押出機(田端機械工業(株)製、HV−40−28)を用いてシリンダ温度を250℃に設定して溶融混練を行い、ペレット化した。
【0081】
(製造例2〜9)アクリル系グラフト共重合体(A)
単量体の組成を表1のように変更した以外は、製造例1と同様に重合を行い、凝固、水洗、乾燥して樹脂粉末(2)〜(12)を得、さらに溶融混練を行い、ペレット化した。
【0082】
(製造例10)メタクリル系重合体(B)
メタクリル系重合体(B)として、懸濁重合で製造されたアクリル系エステル共重合体(旭化成ケミカルズ(株)製デルパウダ80N)を用意した。
【0083】
(製造例11)メタクリル系重合体(B)
メタクリル系重合体(B)として、懸濁重合で製造されたアクリル系エステル共重合体(旭化成ケミカルズ(株)製デルパウダ60N)を用意した。
【0084】
(製造例12)メタクリル系重合体(B)
メタクリル系重合体(B)として、懸濁重合で製造されたMMA−EA共重合体(住友化学(株)製スミペックスEX)を用意した。
【0085】
(実施例1〜
5、参考例1〜2、比較例1〜5)
製造例で得られたペレットを、表2に示す通りに組み合わせて使用し、紫外線吸収剤としてチヌビンP(チバスペシャリルケミカル社製)2.5部、抗酸化剤Irganox1010(BASF製)0.4部を添加し、Tダイ付き40ミリφ押出機(ナカムラ産機(株)製、NEX040397)を用いて、シリンダ設定温度160℃〜235℃およびダイス温度250℃で押出成形し、厚み58μmのフィルムを得た。得られたフィルムを用いて上述した種々の特性を評価し、その結果を表2に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】