(54)【発明の名称】デヒドロコール酸化合物の生体触媒ホールセル還元のための新規方法、新規7β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ変異体、およびウルソデオキシコール酸を産生するための改良された生体触媒法
【文献】
BRAUN M. et al.,Appl Microbiol Biotechnol,95(2012),p.1457-1468
【文献】
BAKONYI D. et al.,Z. Naturforsch.,67b(2012),p.1037-1044
【文献】
LIU L. et al.,Appl. Microbiol. Biotechnol.,97(2013),p.633-639
【文献】
SUN B. et al.,Biotechnology and Bioengineering,Vol.110, No.1(2013),p.68-77
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
7β−HSDH、3α−HSDH、およびGDHが、NAD(H)およびNADP(H)から選択される同じかまたは異なる補因子を利用する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
7−ケトステロイドの対応する7−ヒドロキシステロイドへの少なくとも立体特異的酵素的還元を触媒する、7β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(7β−HSDH)であって、これにおいて前記酵素が、配列番号2の位置G39およびR40のそれぞれにおいて、あるいは配列番号2と少なくとも90%の配列同一性をもってそれから派生したアミノ酸配列において変異を有し、二重変異G39D/R40Fを含む、7β−HSDH。
7−ケトステロイドの対応する7−ヒドロキシステロイドへの少なくとも立体特異的酵素的還元を触媒する、7β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(7β−HSDH)であって、これにおいて前記酵素が、配列番号2の位置G39およびR40のそれぞれにおいて、および任意に配列番号2の位置R41および/または位置K44において、あるいは配列番号2と少なくとも90%の配列同一性をもってそれから派生したアミノ酸配列において変異を有し、
a)三重変異G39D/R40F/R41X1[式中、X1が、任意の他のアミノ酸残基、特にK、Q、S、またはR、および中でもKを表す]
または
b)四重変異G39D/R40F/R41X1/K44X2[式中、X1は、任意の他のアミノ酸残基、特にK、Q、S、またはR、および中でもKを表し、かつX2は、任意の他のアミノ酸残基、特にG、N、またはQ、および中でもGを表す]
を含む、7β−HSDH。
請求項17に記載の組換え微生物であり、加えて、ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(HSDH)および補因子再生に適するデヒドロゲナーゼから選択される、少なくとも1つのさらなる酵素をコードするためのポリヌクレオチドをもつ、該組換え微生物。
請求項18に記載の組換え微生物であり、これにおいて、さらなるHSDHが3α−HSDHから選択され;かつデヒドロゲナーゼがNADH−再生酵素、例えばNADHデヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)、およびNADH再生ギ酸デヒドロゲナーゼ(FDH)、およびグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(G−6−PDH)、または亜リン酸デヒドロゲナーゼ(PtDH)、またはおよびNADH再生グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)から選択される、該組換え微生物。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、とりわけ以下の具体的な実施形態に関する:
1. 生体触媒性還元のための方法、とりわけ一般式3:
【0029】
[式中、Rは、アルキル、H、アルカリ金属イオン、またはN(R
3)
4+を表し、ここで、残基R
3は、同じかまたは異なり、かつHまたはアルキルを表し、あるいは基−CO
2Rは酸アミド基−CONR
1R
2で置き換えられ、ここで、R
1およびR
2は、互いに独立してアルキル残基を表す]のデヒドロコール酸化合物(DHCA)の;
式(5):
【0031】
[式中、Rは、上記に示した意味を有し、あるいは基−CO
2Rは、酸アミド基−CONR
1R
2で、上記に定義されたように置き換えられる]の対応する12−ケト−ウルソデオキシコール酸化合物(12−ケト−UDCA)へのホールセル還元のための方法であって、
これにおいて、1つ以上の同じかまたは異なるホールセル生体触媒、とりわけ1つのホールセル生体触媒が、液体反応媒体中に、変換に必要な酵素の補因子特異性に依存して、NAD(H)および/またはNADP(H)、グルコース、および任意でさらなる添加剤を含み、かつ、少なくとも1つの式(3)の基質が、ホールセル生体触媒と接触せられ、かつ任意に反応生成物が反応媒体から分離され;これにおいて、反応が、7β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(7β−HSDH)(NAD(H)−および/またはNADP(H)−依存性、とりわけNADP(H)−依存性);3α−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(3α−HSDH)(NAD(H)−および/またはNADP(H)−依存性、とりわけNAD(H)−依存性)、およびグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)(NAD(H)−および/またはNADP(H)−依存性;とりわけ補因子非特異的、すなわちNAD(H)−およびNADP(H)−利用)の存在下に起こり、ここで、必要な酵素の補因子特異性に依存してNAD(H)および/またはNADP(H)と、グルコースと、任意に更なる添加剤と、および少なくとも1つの式(3)の基質とは、本質的に生体触媒の内在性成分ではないが、液体、特に水性の反応媒体へ添加され;
かつここで、ホールセル生体触媒が(または種々のホールセル生体触媒が一緒に)、同時に以下の酵素活性:
(1)7β−HSDHおよび
(2)3α−HSDH、および任意に
(3)GDHが液体反応媒体へ添加されていない場合は、GHDを発現し、
かつここで、反応混合物中のホールセル生体触媒、NAD(H)、NADP(H)、および式(3)の基質の濃度が、以下の数学的関係:
X<Y・200 またはX<Y・175、例えば特にX<Y・150
であり、同時に
Y=C
DHCA/70
であり、かつ
X=C
Cat・40+C
NAD(H)・300+C
NADP(H)・1200
[式中、パラメータは以下の通りである:
C
DHCA=式(3)の化合物の基質初濃度[mM]
C
Cat=ホールセル生体触媒濃度[g
BDM L
−1]
C
NAD(H)=NAD(H)濃度[mM]
C
NADP(H)=NADP(H)濃度[mM]]にある、該方法。
【0032】
ここで、上記に述べたパラメータについては、以下の好ましい意味が、とりわけ単独で、または全体として該当する;
a)C
Catは、0.05〜50、0.1〜10、とりわけ0.5〜5g
BDM L
−1の範囲内であり、ここで「BDM」は細菌の乾燥質量を表す;
b)C
NAD(H)およびC
NADP(H)は、同時に0を表すことはない;特に、双方の値は0より大きく、すなわちNAD(H)−およびまたNADP(H)の双方に依存性の工程が生体触媒法の一部である、
c)C
NAD(H)+C
NADP(H)の合計は、少なくとも10μM、とりわけ少なくとも20μM、例えば10〜1000mM、または15〜500mM、または20〜250mM、または25〜100mMである。
d)C
NAD(H)およびC
NADP(H)はそれぞれ、NAD(H)およびNADP(H)の各々の飽和濃度よりも低く、例えば、それぞれの場合で1〜500mM、5〜200mM、または10〜150mM、または15〜100mMなどであり、かつ
e)C
DHCAは、約0.1〜500mM、とりわけ1〜200mM、または10〜100mMの範囲内にある。
【0033】
例えば、少なくとも条件a)、b)、およびc)、またはa)、b)、c)、およびd)、あるいは、またはa)〜e)が、上記の定義に従って同時に設定されるべきである。
【0034】
好ましい構成は、ホールセル生体触媒を液体反応媒体において含み;これにおいて、反応は、7β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(7β−HSDH)、(NADP(H)依存性);3α−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(3α−HSDH)(NAD(H)依存性)、およびグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)(非特異的補因子、すなわちNAD(H)−およびNADP(H)−利用)の存在下で起こる。
【0035】
さらに好ましい構成は、上記の好ましい補因子特異性をもつ以下の:
(1)7β−HSDH
(2)3α−HSDHおよび
(3)GDH、
の酵素活性を同時に発現するホールセル生体触媒を含む。
【0036】
特に、本発明の教示に従うことにより、当業者は、上記の濃度値を、>95%、>98%、99%、または>99.5%の変換が4〜24時間、とりわけ6〜12時間、または7〜8時間の時間間隔で、例えば>98%が6〜12、または7〜8時間以内に達成され;あるいは>99.5%が4〜24時間、または6〜12時間以内に起こる、というように選択できる。特に好ましいのは、10時間未満、例えば特に3〜9.5時間、または4〜9時間、5〜9時間、6〜9時間、7〜9時間、および約8時間を超える全ての反応時間内での>99%の変換である。これらの変換は、例えば標準的な試験法(IPC法)により、DHCAの12−ケト−UDCAへの変換が測定される以下の実験のセクションにおいてより詳細に説明される通り測定できる。
【0037】
2. ホールセル生体触媒が組換え微生物である、実施形態1に記載の方法。
【0038】
3. 生体触媒が、1つ以上の、特に1つもしくは2つの、プラスミド、または特にゲノムインテグレートされたプラスミド上に発現された、7β−HSDH、3α−HSDH、およびGDHの酵素活性のためのコーディング配列をもつ、先行する実施形態の1つに記載の方法。例えば、プラスミド:
p7(A)T3rG = p7(A)T3rG−A =pET22b 7ベータ−HSDH (G39A) T7P 3アルファ−HSDH rbs bsGDH (配列番号18);
p7(A)T3rG−K = pET28a 7ベータ−HSDH(G39A) T7P 3アルファ−HSDH rbs bsGDH (配列番号19);
p7(A)T3TG = p7(A)T3TG−A = pET22b 7ベータ−HSDH(G39A) T7P 3アルファ−HSDH T7P bsGDH (配列番号20);
p7(A)T3TG−K = pET28a 7ベータ−HSDH(G39A) T7P 3アルファ−HSDH T7P bsGDH (配列番号21)が挙げられるべきであり;
またそれらに由来する、1つ以上の酵素コーディング配列が含有されたプラスミドは、酵素変異体をコードする配列により置換され、例えば、7ベータ−HSDH(G39A)コーティング配列は、別の7β−HSDH変異体配列、例えば配列番号9、10、11、12、または13による変異体あるいは本明細書に記載されたかまたは先行技術から公知の別の変異体をコードする配列により置き換えられ得る。
【0039】
4. 生体触媒が何ら7α−HSDH酵素活性を発現しない(とりわけ、配列番号6によるものがない)、先行する実施形態の1つに記載の方法。
【0040】
5. 7β−HSDH、3α−HSDH、およびGDHが、外来性に発現された酵素活性であり、すなわち組換え微生物の内在性成分ではない(ホールセル生体触媒)、先行する実施形態の1つに記載の方法。
【0041】
6. 7β−HSDH、3α−HSDH、および/またはGDHが、野生型酵素または遺伝的に修飾された酵素(酵素変異体)である、先行する実施形態の1つに記載の方法。
【0042】
7. 先行する実施形態の1つに記載の方法であって、これにおいて:
a)7β−HSDHが、配列番号2のアミノ酸配列、またはこの配列に対し少なくとも60%、例えば少なくとも65、70、75、80、85、または90%、例えば少なくとも91,92、93、94、95、96、97、98、99、または99.5%の
配列同一性をもってそれから派生したアミノ酸配列;例えば本出願者のWO2012/080504から公知の変異体、例えば単一変異体:G39A、G39S、G39D、G39V、G39T、G39P、G39N、G39E、G39Q、G39H、G39R、G39KおよびG39W、ならびにR40D、R40E、R40I、R40V、R40L、R40G、およびR40A
二重変異体:(G39D,R40I)、(G39D,R40L)、(G39D,R40V)、(R40D,R41I)、(R40D,R41L)、(R40D,R41V)、(R40I,R41I)、(R40V,R41I)および(R40L,R41I)、または
三重変異体(G39D,R40I,R41N)、または
以下の実施形態20〜24で本明細書において新規に記載された多重変異体から選択される酵素変異体、に由来する配列を有し;
b)3α−HSDHが、配列番号4のアミノ酸配列、またはこの配列に対し少なくとも60%、例えば少なくとも65、70、75、80、85、または90%、例えば少なくとも91,92、93、94、95、96、97、98、99、または99.5%の
配列同一性をもってそれから派生したアミノ酸配列を有し;および/または
c)GDHが、配列番号8によるアミノ酸配列、またはこの配列に対し少なくとも60%、例えば少なくとも65、70、75、80、85、または90%、例えば少なくとも91,92、93、94、95、96、97、98、99、または99.5%の配列同一性をもってそれから派生したアミノ酸配列を有する。
【0043】
8. 生体触媒がEscherichia属、特にE.coli株の微生物の組換え株である、先行する実施形態の1つに記載の方法。
【0044】
9. 7β−HSDH、3α−HSDH、およびGDHが、NAD(H)およびNADP(H)から選択される同じかまたは異なる補因子を利用し;例えば、7β−HSDHがNADP(H)を、3α−HSDHがNAD(H)を、そしてGDHがNAD(H)およびNADP(H)を利用する、先行する実施形態の1つに記載の方法。
【0045】
10. GDHが、7β−HSDHによりかつ3α−HSDHにより触媒される部分反応において消費される、補因子(NAD(H)および/またはNADP(H)、とりわけNAD(H)およびNADP(H)の、少なくとも一部、とりわけ完全な再生ができる、先行する実施形態の1つに記載の方法。
【0046】
11. 反応が、緩衝された水性反応媒体中で、pH6〜8において行なわれる、先行する実施形態の1つに記載の方法。
【0047】
12. グルコースが、10mM〜3000mM、例えば100〜1000mMの初濃度において使用される、先行する実施形態の1つに記載の方法。
【0048】
13. 反応が、連続的または不連続的に行なわれる、先行する実施形態の1つに記載の方法。
【0049】
14. 生体触媒が固定されていないか、または不活性な担体物質上に固定されている、先行する実施形態の1つに記載の方法。
【0050】
15. 反応媒体が、さらなる添加剤、例えばアルカリまたはアルカリ土類金属塩、低分子量多価アルコール、および/または緩衝剤を含有する、先行する実施形態の1つに記載の方法。とりわけ、1つ以上の添加剤、例えばアルカリまたはアルカリ土類金属塩、例えばMgCl
2(例えば、0〜20、特に1〜10mM)、および/または低分子量多価アルコール、例えばグリセリン0〜30、特に1〜20%(v/v)が、反応媒体へ添加され得る。さらに、緩衝物質、例えばトリス、酢酸塩、またはリン酸緩衝剤が10〜500mM、とりわけ20〜150、または25〜100mMの範囲内で、例えばリン酸ナトリウム緩衝剤もしくは特にリン酸カリウム酸緩剤が添加され得る。ここでpHは、5.5〜9、とりわけ6〜8、例えば7〜7.5に調整され得る。
【0051】
16. ホールセル生体触媒が、任意に、用いた反応媒体中ではもはや増殖できない、先行する実施形態の1つに記載の方法。
【0052】
17. ホールセル生体触媒が、反応媒体へそれが添加される前に、その細胞膜を破壊することによりそれを活性化することで得られる、実施形態16に記載の方法。
【0053】
ホールセル生体触媒の「活性化」には、いくつかの可能性がある。原則的には、膜のみが、例えば凍結融解によるか、または室温もしくは4℃での貯蔵によるか、または細胞膜を化学的もしくは機械的に穿孔することにより破壊されるべきである。
【0056】
[式中、Rは、アルキル、H、アルカリ金属イオン、またはN(R
3)
4+を表し、ここで、残基R
3は、同じかまたは異なり、かつHまたはアルキルを表し、あるいは基−CO
2Rは酸アミド基−CONR
1R
2で置き換えられ、ここで、R
1およびR
2は、互いに独立してアルキル残基を表す]
のウルソデオキシコール酸化合物(UDCA)を産生するための方法であり、
これにおいて、
a)任意に、式(2):
【0058】
[式中、Rは、上記に示した意味を有し、あるいは基−CO
2Rは、酸アミド基−CONR
1R
2で、上記に定義されたように置き換えられる]のコール酸(CA)が、例えば化学的または酵素的に、とりわけ化学的に、式(3):
【0060】
[式中、Rは、上記に示した意味を有し、あるいは基−CO
2Rは、酸アミド基−CONR
1R
2で、上記に定義されたように置き換えられる]
のデヒドロコール酸化合物(DHCA)へ酸化され;
b)DHCAは、先行する実施形態の1つに記載されたような生体触媒法により、式(5):
【0062】
[式中、Rは、上記に示した意味を有し、あるいは基−CO
2Rは、酸アミド基−CONR
1R
2で、上記に定義されたように置き換えられる]
の対応する12−ケト−ウルソデオキシコール酸化合物(12−ケト−UDCA)へ還元され、次いで、
c)式(5)の12−ケト−UDCAは、化学的にUDCA化合物へ還元され;かつ
d)反応生成物は、任意にさらに精製される。
【0063】
19. 酵素活性が、反応混合物中に以下の濃度範囲:
(1)7β−HSDH:100〜3000、例えば100〜1500、例えば500〜1000 U/g
BDM
(2)3α−HSDH:50〜500、例えば10〜300 U/g
BDM
(3)GDH:100〜2000、例えば200〜1000 U/g
BDM
において含有され、これにおいてC
Catが0.05〜50、0.1〜10、特に0.5〜5g
BDML
−1の範囲である、先行する実施形態の1つに記載の方法。
【0064】
20. 7−ケトステロイドの対応する7−ヒドロキシステロイドへの少なくとも立体特異的酵素的還元を触媒する、7β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(7β−HSDH)であり、これにおいて該酵素が、配列番号2の位置G39およびR40のそれぞれにおいて、および任意に配列番号2の位置R41および/または任意に位置K44において、あるいは配列番号2と少なくとも80%の、例えば少なくとも85または90の、例えばこの配列に対し少なくとも91、92、93、94、95、96、97、98、99、または99.5%の配列同一性をもってそれから派生したアミノ酸配列の、それぞれの対応する配列位置において変異を含む、該酵素。
【0065】
21. 二重変異G39D/R40Fを含む、実施形態20に記載の7β−HSDH。
【0066】
22. 三重変異G39D/R40F/R41X
1を含み、これにおいて、X
1は、任意の他のアミノ酸残基、特にタンパク質構成アミノ酸配列残基、とりわけNADH特異性を増す残基、特にK、Q、S、またはR、および中でもKを表す、実施形態20または21に記載の7β−HSDH。
【0067】
23. 四重変異G39D/R40F/R41X
1,/K44X
2[式中、X
1は、任意の他のアミノ酸残基、特にタンパク質構成アミノ酸配列残基、とりわけNADH特異性を増す残基、特にK、Q、S、またはR、および中でもKを表し、またX
2は、任意の他のアミノ酸残基、特にタンパク質構成アミノ酸配列残基、とりわけNADH特異性を増す残基、特にG、N、またはQ、および中でもGを表す]を含む、実施形態20〜22の1つに記載の7β−HSDH。
【0068】
24. 配列番号2の7β−HSDHに比較して、以下の特性プロフィール:
a)NADHを補因子として用いる、DHCAの酵素的還元において、NADHに対し増大された比活性(Vmax [U/mg]);および任意に
b)NADHを補因子として用いる、7−ケトステロイド(特に、ステロイド環の位置C7にケト基をもつ胆汁酸塩)の酵素的還元において、NADHに対し増大された比活性(Vmax [U/mg])
を示す、実施形態20〜23の1つに記載の7β−HSDH。
【0069】
25. 実施形態20〜24の1つに記載の7β−HSDHをコードするヌクレオチド配列。
【0070】
26. 少なくとも1つの調節配列の制御下にある実施形態25に記載の少なくとも1つのヌクレオチド配列と、任意に、ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、とりわけ3α−HSDH、および補因子再生に適したデヒドロゲナーゼ、例えばFDH、GDH、ADH、G−6−PDH、またはPDHから選択される少なくとも1つ(例えば1つ、2つ、または3つ)のさらなる酵素のためのコーディング配列とを含む、発現カセット。とりわけ、発現カセットに含有される酵素は、異なるがしかし好ましくは同一の補因子ペア、例えばNAD+/NADH、またはNADP+/NADPH補因子ペアを利用し得る。
【0071】
27. 実施形態26に記載の少なくとも1つの発現カセットを含む発現ベクター。
【0072】
28. 実施形態25に記載の少なくとも1つのヌクレオチド配列、または実施形態26に記載の少なくとも1つの発現カセット、または実施形態27に記載の少なくとも1つの発現ベクターをもつ、組換え微生物。
【0073】
29. 加えて、任意に、ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(HSDH)および補因子再生に適するデヒドロゲナーゼから選択される、少なくとも1つのさらなる酵素をコードするための配列をもつ、実施形態28に記載の組換え微生物。
【0074】
30. さらなるHSDHが3α−HSDHから選択され;かつデヒドロゲナーゼがNADH−再生酵素、例えばNADHデヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)、およびNADH再生ギ酸デヒドロゲナーゼ(FDH)、およびグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(G−6−PDH)、または亜リン酸デヒドロゲナーゼ(PtDH)、およびNADH再生グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)から選択される、実施形態29に記載の組換え微生物。
【0075】
31. 7α−HSDHノックアウト株である、実施形態28〜30の1つに記載の組換え微生物。
【0076】
32. 実施形態28〜30の1つに記載の微生物を用いて実施される、実施形態1〜19の1つに記載の方法。
【0077】
33. 7β−ヒドロキシステロイドの酵素的または微生物的合成のための方法であって、これにおいて、対応する7−ケト−ステロイドが、実施形態20〜24の1つにおける定義による7β−HSDHの存在下に、または実施形態28〜32の1つに記載のこの7β−HSDHを発現する組換え微生物の存在下に還元され、かつ任意に、生成された少なくとも1つの還元産物が反応混合物から分離される、該方法。
【0078】
34. 7−ケトステロイドが、
デヒドロコール酸(DHCA)、
7−ケト−リトコール酸(7−ケト−LCA)、
7,12−ジケト−リトコール酸(7,12−ジケト−LCA)、および
それらの誘導体、例えばとりわけ該酸の塩、アミド、またはアルキルエステル、
から選択される、実施形態33に記載の方法。
【0079】
35. 還元が、NADHおよび/またはNAPHの存在下で、および特にNADHおよび/またはNAPHの消費により;とりわけNADHの消費によって起こる、実施形態33または34に記載の方法。
【0080】
36. 使用されたNADHが、NADH再生酵素と組合せることにより再生され、これにおいて、該酵素がとりわけ、NADPHデヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)、およびNADH再生ギ酸デヒドロゲナーゼ(FDH)、およびNADH再生グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)から選択され、ここで、該NADH再生酵素が任意に組換え微生物により発現され;
および/または、これにおいて、使用されたNADPHが、NADPH再生酵素と組合せることにより再生され、これにおいて、該酵素がとりわけ、NADPHデヒドロゲナーゼ、NADPH再生ギ酸デヒドロゲナーゼ(FDH)、NADPH再生アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)、NADPH再生グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)、NADH再生亜リン酸デヒドロゲナーゼ(PtDH)、およびNADPH再生グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)から選択され、ここで、該NADPH再生酵素が任意に組換え微生物により発現される、実施形態35に記載の方法。
【0081】
37. NADPH再生酵素がGDHから選択される、実施形態36に記載の方法。
【0084】
[式中、Rは、アルキル、H、アルカリ金属イオン、またはN(R
3)
4+を表し、ここで、残基R
3は、同じかまたは異なり、かつHまたはアルキルを表し、あるいは基−CO
2Rは酸アミド基−CONR
1R
2で置き換えられ、ここで、R
1およびR
2は、互いに独立してアルキル残基を表す]
のウルソデオキシコール酸化合物(UDCA)を産生するための方法であり、
これにおいて、
a)任意に、式(2):
【0086】
[式中、Rは、上記に示した意味を有し、あるいは基−CO
2Rは、酸アミド基−CONR
1R
2で、上記に定義されたように置き換えられる]のコール酸(CA)が、例えば化学的または酵素的に、とりわけ化学的に、式(3):
【0088】
[式中、Rは、上記に示した意味を有し、あるいは基−CO
2Rは、酸アミド基−CONR
1R
2で、上記に定義されたように置き換えられる]
のデヒドロコール酸化合物(DHCA)へ酸化され;
b)DHCAは、実施形態20〜24の1つにおける定義による少なくとも1つの7β−HSDH変異体の存在下に、および少なくとも1つの3α−HSDHの存在下に、式(5):
【0090】
[式中、Rは、上記に示した意味を有し、あるいは基−CO
2Rは、酸アミド基−CONR
1R
2で、上記に定義されたように置き換えられる]
の対応する12−ケト−ウルソデオキシコール酸(12−ケト−UDCA)へ、特にNADHおよび/またはNADPHの存在下およびNADHおよび/またはNADPH消費により還元され、次いで、
c)式(5)の12−ケト−UDCAが、化学的にUDCAへ還元され;そして
d)反応生成物は、任意にさらに精製される。
【0091】
39. 少なくとも1つの工程b)が、実施形態28〜32の1つに記載されたような組換え微生物の存在下に実施される、実施形態39に記載の方法。
【0092】
40. 工程b)が、同じかまたは異なる補因子再生系と組合される、実施形態38または39に記載の方法。
【0095】
[式中、Rは、アルキル、NR
1R
2、H、アルカリ金属イオン、またはN(R
3)
4+を表し、ここで、残基R
3は、同じかまたは異なり、かつHまたはアルキルを表し、あるいは基−CO
2Rは酸アミド基−CONR
1R
2で、上記に定義されたように置き換えられる]
のUDCAを産生するための方法であり、
これにおいて、
a)任意に、式(2):
【0097】
[式中、Rは、上記に示した意味を有し、あるいは基−CO
2Rは、酸アミド基−CONR
1R
2で、上記に定義されたように置き換えられる]のCAが、例えば化学的または酵素的に、とりわけ化学的に、式(3):
【0099】
[式中、Rは、上記に示した意味を有し、あるいは基−CO
2Rは、酸アミド基−CONR
1R
2で、上記に定義されたように置き換えられる]
のDHCAへ酸化され;
b)DHCAは、少なくとも1つの7β−HSDHの存在下、および少なくとも1つの3α−HSDHの存在下に、式(5):
【0101】
[式中、Rは、上記に示した意味を有し、あるいは基−CO
2Rは、酸アミド基−CONR
1R
2で、上記に定義されたように置き換えられる]
の対応する12−ケト−UDCAへ、特にNADHおよび/またはNADPHの存在下およびNADHおよび/またはNADPHの消費により還元され、次いで、
c)式(5)の12−ケト−UDCAが、化学的にUDCAへ還元され;そして
d)反応生成物は、任意にさらに精製され;
これにおいて、工程b)の変換が、実施形態28〜32の1つに記載されたような組換え微生物の存在下に起こる。
【0102】
本発明は、本明細書に記載された具体的な実施形態に限定されない。むしろ、本発明の教示を介し、当業者には本発明のさらなる構成を、受け入れ難い努力なし提供することが可能となる。したがって例えば、当業者はさらなる酵素変異体を意図的に発生させ、所望の特性プロフィール(改良された補因子依存性および/または安定性、低減された基質阻害)のためにこれらを選別および最適化し;あるいは、さらに適した野生型酵素(7β−および3α−HSDH、FDH、GDH、ADHなど)を分離して、本発明に従って使用することも可能である。さらに、例えば用いたHSDH、例えば特に7β−HSDHおよび3α−HSDH、またはそれらの変異体の、特性プロフィールに基づき、当業者は使用できるデヒドロゲナーゼ(GDH、FHD、ADHなど)、および補因子再生に適したその変異体を選択し、かつ選択された酵素を1つ以上の発現構築物またはベクター上に分布させ、それにより、必要であれば1つ以上の組換え微生物を作成でき、それが次に最適化されたホールセルベースの産生法を可能にする。
【0103】
本発明のさらなる構成
1.一般的な定義および用いた略語
「ホールセル生体触媒」は、生存できる(任意の増殖段階において増殖できる)微生物、およびもはや生存できない微生物の双方、特に、発現された形態において、本発明の方法を実施するのに必要な酵素活性を完全に、または少なくとも部分的に含有する組換え微生物を含む。ここで、ホールセル生体触媒はさらに、周囲の反応媒体との物質(とりわけ基質、生成物、補因子)の交換をさらに促進する目的で、化学的、機械的、または他の作用(温度、貯蔵)により穿孔された細胞壁を有しうる。
【0104】
別に指定しない限り、用語「7β−HSDH」は、DHCAまたは7,12−ジケト−UDCA(7,12−ジケト−LCA)の3,12−ジケト−UDCAまたは12−ケト−UDCAへの、特にNADPHの化学量論的消費による、少なくとも立体特異的および/または位置特異的還元、および任意に、対応する逆反応を触媒するデヒドロゲナーゼ酵素を示す。ここで、酵素は、天然かまたは組換えにより産生される酵素であってよい。酵素は原則的に、細胞性の、例えばタンパク質不純物と混合されていてもよいが、純粋な形態であることが好ましい。適切な検出法は、例えば以下の実験のセクションにおいて記載されるか、または文献から公知である(例えば、Characterization of NADP-dependent 7 beta-hydroxysteroid dehydrogenases from Peptostreptococcus productus and Eubacterium aerofaciens. S Hirano and N Masuda. Appl Environ Microbiol. 1982)。この活性をもつ酵素は、EC番号1.1.1.201に分類される。
【0105】
別に指定しない限り、用語「3α−HSDH」は、3,12−ジケト−UDCAまたはDHCAの、12−ケト−UDCAまたは7,12−ジケト−UDCA(7,12−ジケト−LCA)への、特にNADHおよび/またはNADPHの化学量論的消費による、少なくとも立体特異的および/または位置特異的還元、および任意に、対応する逆反応を触媒するデヒドロゲナーゼ酵素を示す。適切な検出法は、例えば以下の実験のセクションにおいて記載されるか、または文献から公知である。適切な酵素は、例えばComanomonas testosteroni(例えばATCC11996)から得ることが可能である。NADPH依存性3α−HSDHは、例えばげっ歯類由来のものが公知であり、これもまた使用可能である。(Cloning and sequencing of the cDNA for rat liver 3 alpha-hydroxysteroid/dihydrodiol dehydrogenase, J E Pawlowski, M Huizinga and T M Penning, May 15, 1991 The Journal of Biological Chemistry, 266, 8820-8825)。この活性をもつ酵素は、EC番号1.1.1.50に分類される。
【0106】
別に指定しない限り、用語「GDH」は、β−D−グルコースのD−グルコース−1,5−ラクトンへの、NAD
+および/またはNADP
+の化学量論的消費による、少なくとも1つの酸化、および任意に、対応する逆反応を触媒するデヒドロゲナーゼ酵素を示す。適切な酵素は、例えばBacillus subtilisまたはBacillus megateriumから得ることが可能である。この活性をもつ酵素は、EC番号1.1.1.47に分類される。
【0107】
別に指定しない限り、用語「FDH」は、ギ酸(または対応するギ酸塩)の二酸化炭素への、NAD
+および/またはNADP
+の化学量論的消費による、少なくとも酸化、および任意に、対応する逆反応を触媒するデヒドロゲナーゼ酵素を示す。適切な検出方法は、例えば、以下の実験のセクションにおいて記載されるか、または文献から公知である。適切な酵素は、例えばCandida boidinii、Pseudomonas sp、またはMycobacterium vaccaeから得ることが可能である。この活性をもつ酵素は、EC番号1.2.1.2に分類される。
【0108】
「純粋な形態」または「純粋」もしくは「本質的に純粋」な酵素は、本発明によれば、通常のタンパク質測定法、例えばビウレット法またはLowryらによるタンパク質測定(R.K. Scopes, Protein Purification, Springer Verlag, New York, Heidelberg, Berlin (1982)における記載を参照)により測定された全タンパク質含量に基づき、80wt.%を超え、好ましくは90wt.%を超え、特に95wt.%を超え、中でも99wt.%を超える純度をもつ酵素を意味するものと理解される。
【0109】
「レドックス等価物」は、電子供与体または電子受容体として使用可能な低分子量有機化合物、例えばニコチンアミド誘導体、例えばNAD
+およびNADH
+、またはそれぞれその還元型であるNADHおよびNADPHを意味するものと理解される。「レドックス等価物」および「補因子」は、本発明に関しては同義語として使用される。したがって、本発明の意味における「補因子」は、また「レドックス対応因子」、すなわち還元型および酸化型で存在できる補因子としても記載され得る。
【0110】
「消費された」補因子は、基質の所定の還元または酸化反応の過程において、それぞれ対応する酸化型または還元型へ変換される、還元型または酸化型の補因子を意味するものと理解される。反応において産生された酸化または還元された補因子型は、再生により、それぞれ還元または酸化された出発型へ戻し変換されるため、これが再び基質の変換に利用可能となる。
【0111】
「修飾された補因子使用」は、本発明に関しては、基準との比較における定性的または定量的変化を意味するものと理解される。特に、アミノ酸配列の変異の実施を介した修飾された補因子使用が、観察されることとなる。この修飾は次に、未変異の出発酵素との比較において観察可能となる。ここで、特定の補因子に関する活性は、変異の実施により増大もしくは低減されるか、または完全に阻止され得る。しかしながら、修飾された補因子使用はまた、単一の補因子に対する特異性に代わり、もはや第1の補因子とは異なる少なくとも1つのさらなる第2の補因子が使用可能なようにする、タイプの変更も含む(すなわち、拡張された補因子使用が存在する)。しかしながら逆に、元から存在する2つの異なる補因子の利用能はまた、これらの補因子の1つだけについて特異性が増大されるか、あるいは1つの補因子について低減されるかまたは完全に除去されるように変更されることも可能である。したがって例えば、補因子NAD(NADH)に依存性である酵素が、補因子使用の変更の結果として、NAD(NADH)およびまた補因子NADP(NADPH)の双方に依存するか、または元のNAD(NADH)に対する依存性が完全にNADP(NADPH)に対する依存性に変更されるか、またその逆も可能である。
【0112】
本発明によれば、別に指定しない限り、用語「NAD
+/NADH依存性」および「NADP
+/NADPH依存性」は、幅広く解釈されるべきである。これらの用語は、双方の「特異的」な依存性、すなわち、それぞれNAD
+/NADHまたはNADP
+/NADPHにのみに対する専用の依存性と、およびまた本発明により使用される酵素の双方の補因子、すなわちNAD
+/NADHおよびNADP
+/NADPHに対する依存性とを含む。
【0113】
同じことが、用いた用語「NAD
+/NADH受容性」および「NADP
+/NADPH受容性」についてもそれぞれ適用される。
【0114】
本発明によれば、別に指定しない限り、用語「NAD
+/NADH再生」および「NADP
+/NADPH再生」は、広範囲に解釈される。これらの用語は、「特異的」、すなわち消費された補因子NAD
+/NADHまたはNADP
+/NADPHを専用に再生する能力と、およびまた双方の補因子、すなわちNAD
+/NADHおよびNADP
+/NADPHを再生する能力とを含む。
【0115】
「タンパク質構成」アミノ酸は、とくに(一文字コード):G、A、V、L、I、F、P、M、W、S、T、C、Y、N、Q、D、E、K、R、およびHを含む。
【0116】
「固定化」は、本発明によれば、本発明により使用される生体触媒、例えば7β−HSDHの、固体、すなわち周囲の液体媒体には本質的に不溶性の担体物質への、共有または非共有結合を意味する。したがって、本発明によれば、本発明により使用される組換え微生物などのホールセルもまた、かかる担体によって固定化され得る。
【0117】
「未変異酵素に比較して低減された基質阻害」は、特定の基質に対し未変異酵素により観察される基質阻害剤が、もはや観察されないこと、すなわち、もはや本質的に測定できないか、またはより高い基質濃度、すなわち増大されたK
i値においてのみ起こることを意味する。
【0118】
「コール酸化合物」は、本発明によれば、基本炭素骨格、特に、コール酸のステロイド構造をもち、かつ環の位置7および任意に環の位置3および/または12に、ケトおよび/またはヒドロキシまたはアシルオキシ基が存在する化合物を意味する。
【0119】
特別なタイプの化合物、例えば「コール酸化合物」または「ウルソデオキシコール酸化合物」は、特にまた、基礎となる出発化合物(例えばコール酸またはウルソデオキシコール酸)の誘導体も意味するものと理解される。
【0120】
かかる誘導体は、「塩」、例えば化合物のアルカリ金属塩、例えばリチウム、ナトリウム、およびカリウム塩、およびアンモニウム塩を含み、ここでアンモニウム塩とは、NH
4+塩、および少なくとも1つの水素原子がC
1−C
6アルキル残基で置き換えられ得るアンモニウム塩を含む。典型的なアルキル残基は、特に、メチル、エチル、n−またはi−プロピル、n−、sec−、またはtert−ブチルなどのC
1−C
4アルキル残基、およびn−ペンチルおよびn−ヘキシル、ならびにそれらの一回または複数回の分枝類似体である。
【0121】
本発明の化合物の「アルキルエステル」は、特に低級アルキルエステル、例えばC
1−C
6アルキルエステルである。限定しない例としては、メチル、エチル、n−もしくはi−プロピル、n−、sec−、もしくはtert−ブチルエステル、またはより長鎖のエステル、例えばn−ペンチルおよびn−ヘキシルエステル、ならびにそれらの一回または複数回の分枝類似体が挙げられる。
【0122】
「アミド」は、特に、本発明による酸と、アンモニアまたは一級もしくは二級モノアミンとの変換産物である。かかるアミンは、例えばモノ−またはジ−C
1−C
6アルキルモノアミンであり、これにおいて、アルキル残基は互いに独立して、例えばカルボキシ、ヒドロキシ、ハロゲン(例えばF、Cl、Br、I)、ニトロ、およびスルホネート基により任意にさらに置換され得る。
【0123】
本発明による「アルキル基」は、特に、2〜4個の炭素原子をもつ非芳香族基、例えばアセチル、プロピオニル、およびブチリル、ならびに任意に置換された単核芳香環をもつ芳香族基であり、これにおいて、適切な置換基は、例えばヒドロキシ、ハロゲン(例えばF、Cl、Br、I)、ニトロ、およびC
1−C
6アルキル基、例えばベンゾイルまたはトルオイルから選択される。
【0124】
本発明により使用されるかまたは産生されるヒドロキシステロイド化合物、例えばコール酸、ウルソデオキシコール酸、12−ケト−ケノデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、および7−ケト−リトコール酸は、本発明の方法において、立体異性的に純粋な純粋形態か、または他の立体異性体と混合されて使用されるか、またはそれらから得られ得る。しかしながら好ましくは、使用される化合物または産生される化合物は、本質的に立体異性的に純粋な形態で使用されるかまたは単離される。
【0125】
ここで用いた同義語は、CDCSとCDCA;UDCSとUDCA;DHCSとDHCA;NADとNAD
+;NADPとNADP
+である。
【0127】
以下の表1においては、基本的な化学化合物の構造式、その化学名、および略語が表形式で要約されている:
【0131】
3,12−ジケト−7−ベータ−コール酸は、3,12−ジケト−ウルソデオキシコール酸(3,12−ジケト−UDCA)の同義語である。
7,12−ジケト−リトコール酸は、7,12−ジケト−ウルソデオキシコール酸(7,12−ジケト−UDCA)の同義語である。
【0132】
2.タンパク質
本発明は、本明細書において具体的に開示された、特に7β−HSDH、FDH、GDH、または3α−HSDH活性をもつタンパク質および酵素、ならびにそれらの変異体に限定されず、むしろそれらの機能的等価物にも及ぶ。
【0133】
本発明に関連して、具体的に開示された酵素の「機能的等価物」または類似体とは、例えば7β−HSDH活性などの所望の生物活性をさらにもつ、種々のポリペプチドである。
【0134】
したがって例えば、「機能的等価物」は、7β−HSDH、FDH、GDH、または3α−HSDH活性に用いられる試験において、本明細書に定義されるアミノ酸配列を含む出発酵素よりも、少なくとも1%、例えば少なくとも10%または20%、例えば少なくとも50%または75%または90%高いか低い活性を示す酵素であると理解される。
【0135】
さらに、機能的等価物は、好ましくはpH4〜11の間で安定であり、かつ有利にはpH6〜10、とりわけ8.5〜9.5の範囲内に最適pHを、また15℃〜80℃、または20℃〜70℃、例えば約45〜60℃、または約50〜55℃の範囲内に最適温度をもつ。
【0136】
7β−HSDH活性は、種々の公知の試験により測定できる。これらに限定されるものではないが、実験のセクションにおいて記載されるような標準的な条件下で、参考基質、例えばCAまたはDHCAを用いる試験が挙げられる。
【0137】
FHD、GDH、または3α−HSDH活性を測定するための試験もまた、それ自体が公知である。
【0138】
「機能的等価物」は、本発明によればまた特に、前述のアミノ酸配列の少なくとも1つの配列位置において、具体的に言及されたもの以外のアミノ酸をもつにもかかわらず、前述の生物活性の1つをもつ「変異体」を意味するものと理解される。それ故、「機能的等価物」は、1つ以上の、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15個のアミノ酸の付加、置換、欠失、および/または逆位によって得られた変異体を含み、これにおいて、それらが本発明の特性プロフィールをもつ変異体をもたらす限り、前記修飾は任意の配列位置において起こりうる。機能的等価物は、特にまた、変異体と未修飾ポリペプチドとの間で反応性のパターンが定性的に一致する場合、すなわち、例えば同じ基質が異なる速度で変換される場合にも存在する。適切なアミノ酸置換の例は、以下の表2に要約される:
【0140】
上記の意味での「機能的等価物」はまた、記載されたポリペプチドの「前駆体」、ならびにポリペプチドの「機能的誘導体」および「塩」でもある。
【0141】
ここで「前駆体」は、所望の生物活性をもつかまたはもたない、ポリペプチドの天然または合成の前駆体である。
【0142】
「塩」という表現は、本発明のタンパク質分子の、カルボキシル基の塩と、およびまたアミノ基の酸付加塩との双方を意味するものと理解される。カルボキシル基の塩は、それ自体が公知の方法で産生可能であり、また無機塩、例えばナトリウム、カルシウム、アンモニウム、鉄、および亜鉛の塩、ならびに有機塩基、例えばアミン、例えばトリエタノールアミン、アルギニン、リジン、ピペリジンなどとの塩を含む。酸付加塩、例えば、塩酸または硫酸などの無機酸との塩、および、酢酸およびシュウ酸などの有機酸との塩もまた、本発明の対象である。
【0143】
本発明のポリペプチドの「機能性誘導体」はまた、公知の技術により、機能性アミノ酸側基上に、またはN−もしくはC−末端に産生され得る。かかる誘導体は、例えばカルボン酸基の脂肪族エステル、アンモニアまたは第一級もしくは第二級アミン基との反応によって取得可能な、カルボン酸基のアミド;アシル基との反応により産生される、遊離アミノ基のN−アシル誘導体;またはアシル基との反応により産生される、遊離ヒドロキシル基のO−アシル誘導体を含む。
【0144】
「機能的等価物」は、当然、他の生物体から利用可能なポリペプチド、および天然産の変異体も含む。例えば、相同配列領域の範囲は、配列比較により同定でき、同等の酵素が本発明の具体的な条件に基づき規定される。
【0145】
「機能的等価物」はまた、例えば所望の生物学的機能をもつ、本発明のポリペプチドのフラグメント、好ましくは個々のドメイン、または配列モチーフも含む。
【0146】
これとは別に、「機能的等価物」は融合タンパク質であり、これは、前記のポリペプチド配列の1つまたはそれに由来する機能的等価物、およびそれとは機能的に異なる少なくとも1つのさらなる異種配列を、機能性N−またはC−末端結合において有する(すなわち、融合タンパク質部分の有意な相互の機能的障害がない)。かかる異種配列の非限定的例は、例えばシグナルペプチド、ヒスチジンアンカー、または酵素である。
【0147】
本発明による「機能的等価物」にはまた、具体的に開示されたタンパク質の相同体も含まれる。これらは、具体的に開示されたアミノ酸配列の1つに対し、Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad, Sci. (USA) 85(8), 1988, 2444-2448.のアルゴリズムに従って計算された、少なくとも60%、好ましくは少なくとも75%、とりわけ少なくとも85%、例えば90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99%の相同性(または同一性)をもつ。本発明による相同ポリペプチドのパーセント相同性または同一性は、特に、本明細書において具体的に記載されたアミノ酸配列の1つの全長に対する、アミノ酸残基のパーセント同一性を意味する。
【0148】
パーセント同一性の値はまた、BLASTアラインメント、アルゴリズムblastp(タンパク質−タンパク質BLAST)に基づき、または以下に述べたclustal設定を使用しても決定できる。
【0149】
タンパク質のグリコシル化の可能性がある場合、本発明による「機能的等価物」は、上記記載のタイプのタンパク質の脱グリコシル化またはグリコシル化型、およびグリコシル化パターンの修飾により得られた修飾型を含む。
【0150】
本発明によるタンパク質またはポリペプチドの相同体は、突然変異誘発により、例えば点突然変異、タンパク質の延長またはトランケーションにより作成され得る。
【0151】
本発明によるタンパク質の相同体は、トランケーション変異体などの、変異体のコンビナトリアルバンクのスクリーニングにより同定され得る。例えば、タンパク質変異体の変化に富むバンクが、核酸レベルでのコンビナトリアルな突然変異誘発により、例えば合成オリゴヌクレオチド混合物の酵素的連結により作成され得る。縮重オリゴヌクレオチド配列から可能性のある相同体のバンクを生成するために使用可能な、数多くの方法がある。縮重遺伝子配列の化学合成は、DNAシンセサイザにおいて実施され得、また合成遺伝子は次に、適切な発現ベクター内へ連結され得る。縮重遺伝子セットの使用により、可能性のあるタンパク質配列の所望のセットをコードする、全ての配列を1つの混合中に提供することが可能となる。縮重オリゴヌクレオチドの合成法は、当業者に周知である(例えば、Narang, S.A. (1983) Tetrahedron 39:3; Itakura et al. (1984) Annu. Rev. Biochem. 53:323; Itakura et al., (1984) Science 198:1056; Ike et al. (1983) Nucleic Acids Res. 11:477)。
【0152】
先行技術においては、点突然変異またはトランケーションにより生成されたコンビナトリアルバンクの遺伝子産物のスクリーニングのための、また選択された特性をもつ遺伝子産物用のcDNAバンクのスクリーニングのためのいくつかの技術が知られている。これらの技術は、本発明による相同体のコンビナトリアル突然変異誘発により作成された遺伝子バンクの、迅速なスクリーニングに適用され得る。ハイスループットを用いた分析に供される、大きい遺伝子バンクのスクリーニングに最も頻繁に使用される技術は、複製可能な発現ベクターにおける遺伝子バンクのクローニングと、得られたベクターバンクによる適切な細胞の形質転換と、および、その下での所望の活性の検出がその産物が検出された遺伝子をコードするベクターの分離を促進する条件下での、コンビナトリアル遺伝子の発現とを含む。バンク中の機能的変異体の頻度を拡大する技術、すなわち再帰的アンサンブル突然変異誘発(REM)を、スクリーニングテストと組合せて相同体を同定するために使用できる(Arkin and Yourvan (1992) PNAS 89:7811-7815; Delgrave et al. (1993) Protein Engineering 6(3):327-331)。
【0153】
本発明はさらに、本明細書において明確に参照される、本出願者による以前の国際特許出願であるWO2011/064404 (PCT/EP2010/068576)に記載されたような、Collinsella aerofaciens ATCC 25986由来の7β−HSDH野生型の使用も含む。
【0154】
3.核酸および構築物
3.1 核酸
本発明の対象はまた、本明細書に記載された7β−HSDH、FDH、GDH、および/または3α−HSDH活性をもつ酵素ならびにそれらの変異体をコードする、核酸配列も対象とする。
【0155】
本発明はまた、本明細書に記載された具体的な配列に対し一定程度の同一性をもつ核酸にも関する。
【0156】
2つの核酸間の「同一性」は、個々の全核酸長にわたるヌクレオチドの同一性、特にInformax社(US)からのVector NTI Suite 7.1 Softwareにより、clustal法(Higgins DG, Sharp PM. Fast and sensitive multiple sequence alignments on a microcomputer. Comput Appl. Biosci. 1989 Apr;5(2):151-1)を使用し、以下のパラメータを設定して比較することにより計算される同一性を意味するものと理解される:
【0157】
マルチプルアラインメントパラメータ:
ギャップオープニングパラメータ 10
ギャップエクステンションペナルティ 10
ギャップセパレーションペナルティ範囲 8
ギャップセパレーションペナルティ オフ
アラインメント遅延のための%同一性 40
残基特異的ギャップ オフ
親水性残基ギャップ オフ
トランジション重み付け 0
【0158】
ペアワイズアラインメントパラメータ:
FASTアルゴリズム オン
k−tupleサイズ 1
ギャップペナルティ 3
ウィンドウサイズ 5
ベストダイアゴナル数 5
【0159】
これに代えて、同一性はまた、Chenna, Ramu, Sugawara, Hideaki, Koike, Tadashi, Lopez, Rodrigo, Gibson, Toby J, Higgins, Desmond G, Thompson, Julie D. Multiple sequence alignment with the Clustal series of programs. (2003) Nucleic Acids Res 31 (13):3497-500, インターネットアドレス: http://www.ebi.ac.uk/Tools/clustalw/index.html#
に従い、かつ以下のパラメータを用いて決定できる:
【0160】
DNAギャップオープンペナルティ 15.0
DNAギャップエクステンションペナルティ 6.66
DNAマトリックス アイデンティティ
タンパク質ギャップオープンペナルティ 10.0
タンパク質ギャップエクステンションペナルティ 0.2
タンパク質マトリックス Gonnet
タンパク質/DNA ENDGAP −1
タンパク質/DNA GAPDIST 4
【0161】
本明細書に述べられた全ての核酸配列(例えばcDNAおよびmRNAなどの、一本鎖および二本鎖DNAおよびRNA配列)は、ヌクレオチド構成単位からの化学合成により、例えば二重らせんの個々の重複する相補的核酸構成単位のフラグメント縮合により、それ自体が公知の方法で産生できる。オリゴヌクレオチドの化学合成は、例えば、ホスホアミド法(Voet, Voet, 2
nd Edition, Wiley Press New York, pages 896-897)により、公知の方法で実施され得る。合成オリゴヌクレオチドの付加、およびDNAポリメラーゼのクレノウフラグメントによるギャップ充填、および連結反応、および一般クローニング法は、Sambrook et al. (1989), Molecular Cloning: A laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載されている。
【0162】
本発明の対象はまた、上記のポリペプチド配列およびそれらの機能的等価物の1つをコードする核酸配列(例えばcDNAおよびmRNAなどの、一本鎖および二本鎖DNAおよびRNA配列)であり、これらは例えば人工のヌクレオチド類似体を用いて入手可能である。
【0163】
本発明は、本発明のポリペプチドもしくはタンパク質、またはその生物活性セグメントをコードする単離された核酸分子と、およびまた、例えば本発明のコード核酸の同定もしくは増幅のためのハイブリダイゼーションプローブもしくはプライマーとして使用され得る核酸フラグメントとの双方に関する。
【0164】
本発明の核酸分子はさらに、コード遺伝子領域の3’および/または5’末端からの非翻訳配列を含有し得る。
【0165】
本発明はさらに、具体的に記載された核酸配列またはそのセグメントに対し、相補性である核酸分子を含む。
【0166】
本発明のヌクレオチド配列は、他の細胞タイプおよび生物体における相同配列の同定および/またはクローニングのために使用可能なプローブおよびプライマーの作成を可能にする。かかるプローブおよびプライマーは、通常、「ストリンジェント」な条件下(以下を参照)で、本発明の核酸配列のセンス鎖の、または対応するアンチセンス鎖の、少なくとも約12、好ましくは少なくとも約25、例えば約40、50、または75の連続するヌクレオチドにハイブリダイズするヌクレオチド配列領域を含む。
【0167】
「単離された」核酸分子は、該核酸の天然の供給源に存在する他の核酸分子から分離され、またさらに、それが組換え技術により産生される場合には、他の細胞性物質もしくは培地を本質的に含まないか、またはそれが化学合成される場合には、化学的前駆体または他の化学物質を含まないことができる。
【0168】
本発明の核酸分子は、標準的な分子生物学の技術と、および本発明により提供された配列情報とにより単離できる。例えばcDNAは、具体的に開示された完全な配列またはそのセグメントの1つをハイブリダイゼーションプローブとして、また標準的なハイブリダイゼーション技術(例えば、Sambrook, J., Fritsch, E.F. and Maniatis, T. Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2
nd Edn., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載されたような)を用いて適当なcDNAバンクから単離できる。さらに、開示された配列またはそのセグメントの1つを含む核酸分子は、ポリメラーゼ連鎖反応により単離でき、これにおいて、この配列に基づき確立されたオリゴヌクレオチドプライマーが使用される。かくて増幅された核酸は、適当なベクター内へクローン化され、DNA配列分析により特徴づけられる。さらに、本発明のオリゴヌクレオチドは、標準的な合成法により、例えば自動DNAシンセサイザを用いて産生できる。
【0169】
本発明の核酸配列またはその誘導体、相同体、またはこれらの配列の一部は、例えば、通常のハイブリダイゼーション法またはPCR技術により、他の細菌から、例えばゲノムまたはcDNAバンクを介して単離できる。これらのDNA配列は、標準的な条件下で、本発明の配列とハイブリダイズする。
【0170】
「ハイブリダイズ」は、ポリ−またはオリゴヌクレオチドが、標準的な条件下で、ほぼ完全に相補的な配列に結合する能力を意味するが、これらの条件下では、非相補的な相手との間の非特異的結合は起こらない。このためには、配列は90〜100%の相補性であり得る。相補的配列が互いに特異的に結合する特性は、例えば、ノーザンもしくはサザンブロット技術において、またはPCRもしくはRT−PCRにおけるプライマー結合において利用される。
【0171】
ハイブリダイゼーションには、保存領域の短いオリゴヌクレオチドが有利に使用される。しかしながら、本発明の核酸のより長いフラグメントまたは完全配列は、ハイブリダイゼーションに使用できる。用いる核酸(オリゴヌクレオチド、より長いフラグメント、または完全配列)に依存して、あるいはどの核酸種、DNAまたはRNA、がハイブリダイゼーションに使用されるかに依存して、これらの標準的な条件は異なる。それ故例えば、DNA:DNAハイブリッドの融点は、同じ長さのDNA:RNAハイブリッドのものよりも約10℃低い。
【0172】
標準的な条件は、例えば核酸に依存して、0.1〜5xSSC(1 X SSC=0.15M NaCl、15mM クエン酸ナトリウム、pH7.2)の間の濃度の緩衝水溶液中では42〜58℃の間、またはさらに、50%ホルムアミドの存在下では、例えば5xSSC、50%ホルムアミド中では42℃の温度を意味するものと理解されるべきである。有利には、DNA:DNAハイブリッドのためのハイブリダイゼーション条件は、0.1xSSC、および約20℃〜45℃の間の温度であり、好ましくは約30℃〜45℃の間である。DNA:RNAハイブリッドについては、ハイブリダイゼーション条件は、有利には0.1xSSC、および約30℃〜55℃の間の温度であり、好ましくは約45℃〜55℃の間である。ハイブリダイゼーションについてこれらの示された温度は、ホルムアミド不在下で、約100ヌクレオチド長と、50%のG+C含量とをもつ核酸について計算された融点である。DNAハイブリダイゼーションのための実験条件は、関連する遺伝学の教科書、例えばSambrook et al., “Molecular Cloning”, Cold Spring Harbor Laboratory, 1989に記載されており、また当業者に公知の式に従い、例えば核酸の長さ、ハイブリッドの特性、またはG+C含量に依存して計算され得る。当業者は、ハイブリダイゼーションについてのさらなる情報を以下の教科書から得ることができる:Ausubel et al. (eds), 1985, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York; Hames and Higgins (eds), 1985, Nucleic Acids Hybridization: A Practical Approach, IRL Press at Oxford University Press, Oxford; Brown (ed), 1991, Essential Molecular Biology: A Practical Approach, IRL Press at Oxford University Press, Oxford.
【0173】
「ハイブリダイゼーション」は、とりわけストリンジェントな条件下で起こり得る。かかるハイブリダイゼーション条件は、例えばSambrook, J., Fritsch, E.F., Maniatis, T., in: Molecular Cloning (A Laboratory Manual), 2
nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989, pages 9.31-9.57、または Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1-6.3.6.に記載されている。
【0174】
「ストリンジェント」なハイブリダイゼーション条件は、特に:50%ホルムアミド、5xSSC(750mM NaCl、75mM クエン酸三ナトリウム)、50mM リン酸ナトリウム(pH7.6)、5x Denhardt溶液、10%デキストラン硫酸、および20g/mlの変性剪断サケ精子DNAからなる溶液中での、42℃で一晩のインキュベーションと、それに続く0.1xSSCを用いた65℃におけるフィルタの洗浄工程であることが理解される。
【0175】
本発明の対象はまた、具体的に開示されたかまたは誘導可能な核酸配列の誘導体である。
【0176】
それ故、本発明のさらなる核酸配列は、例えば、配列番号1、3、または7から誘導され得、それらとは単一または数個のヌクレオチドの付加、置換、挿入、または欠失により異なるが、なお所望の特性プロフィールをもつポリペプチドをコードする。
【0177】
また本発明により、いわゆるサイレント変異を含むか、または、特定の供給源もしくは宿主生物体のコドン利用により、例えばそのスプライス変異体もしくはアレル変異体などの天然産変異体と同様に、具体的に挙げた配列との比較において改変された核酸配列も含まれる。
【0178】
また、対象は、保存的ヌクレオチド置換(すなわち、関係するアミノ酸が、同じ電荷、サイズ、極性および/または溶解度のアミノ酸により置き換えられる)により得られる配列でもある。
【0179】
本発明の対象はまた、具体的に開示された核酸から配列多型により誘導された分子でもある。これらの遺伝的多型は、自然変動のために集団内の個体間に存在し得る。これらの自然変動は、通常、遺伝子のヌクレオチド配列中に1〜5%の変動を引き起こす。
【0180】
本発明の核酸配列の誘導体は、例えば、誘導されたアミノ酸レベルにおいて、少なくとも60%相同性、好ましくは少なくとも80%相同性、非常に特別に好ましくは少なくとも90%相同性を、全配列領域にわたり示すアレル変異体を意味するものと理解されるべきである(アミノ酸レベルにおける相同性についはポリペプチドに関する上記の説明を参照)。配列の部分領域にわたり、有利には相同性はより高くなり得る。
【0181】
さらに、誘導体はまた、本発明の核酸配列の相同体、例えば真菌もしくは細菌相同体、トランケートされた配列、またはコードおよび非コードDNA配列の一本鎖DNAもしくはRNAを意味するものと理解されるべきである。したがって例えば、相同体は、DNAレベルにおいて、示した全DNA領域にわたり、少なくとも40%、好ましくは少なくとも60%、特に好ましくは少なくとも70%、非常に特別に好ましくは少なくとも80%の相同性をもつ。
【0182】
さらに、誘導体はまた、プロモーターとの融合体も意味するものと理解されるべきである。示したヌクレオチド配列の上流に結合されるプロモーターは、少なくとも1つのヌクレオチド置き換え、少なくとも1つの挿入、逆位、および/または欠失により修飾され得るが、しかしプロモーターの機能性および有効性が損なわれることはない。さらに、プロモーターの有効性は、それらの配列における修飾により増大され得、あるいはそれらはまた他種の生物体のより有効なプロモーターにより完全に置き換えられ得る。
【0183】
さらに、機能性変異体を作成するための方法は、当業者には公知である。
【0184】
用いた技術に依存して、当業者は、完全にランダムかまたはより標的化された変異を、遺伝子または非コード核酸領域(例えば発現の調節に重要であるもの)内へ導入して、遺伝子バンクを生じ得る。これに必要な分子生物学的方法は、当業者には公知であり、例えば、Sambrook and Russell, Molecular Cloning. 3
rdEdition, Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001に記載されている。
【0185】
遺伝子の修飾と、およびそれ故これらによりコードされたタンパク質の修飾のための方法は、当業者には長年にわたり熟知されており、例えば以下の通りである:
−遺伝子の単一または数個のヌクレオチドが交換される、部位特異的突然変異誘発(Trower MK (Publ.) 1996; In vitro mutagenesis protocols. Humana Press, New Jersey)、
−遺伝子の任意の部位において任意のアミノ酸のためのコドンが交換または付加される、飽和突然変異(Kegler-Ebo DM, Docktor CM, DiMaio D (1994) Nucleic Acids Res 22:1593; Barettino D, Feigenbutz M, Valcarel R, Stunnenberg HG (1994) Nucleic Acids Res 22:541; Barik S (1995) Mol Biotechnol 3:1)、
−不適切に動作するDNAポリメラーゼによりヌクレオチド配列が変異される、エラープローンポリメラーゼ連鎖反応(エラープローンPCR)(Eckert KA, Kunkel TA (1990) Nucleic Acids Res 18:3739)、
−例えば、欠陥のあるDNA修復メカニズムによりヌクレオチド配列の変異率の増加が起こる、突然変異誘発株における遺伝子の継代(Greener A, Callahan M, Jerpseth B (1996) An efficient random mutagenesis technique using an E.coli mutator strain. In: Trower MK (Publ.) In vitro mutagenesis protocols. Humana Press, New Jersey)、または
−密に関連した遺伝子のプールが形成および消化されて、フラグメントがポリメラーゼ連鎖反応の鋳型として使用され、これにおいて、反復する鎖分離および再接近により、完全長のモザイク遺伝子が最終的に作成される、DNAシャフリング(Stemmer WPC (1994) Nature 370:389; Stemmer WPC (1994) Proc Natl Acad Sci USA 91:10747)。
【0186】
いわゆる定向進化(特に、Reetz MT and Jaeger K-E (1999), Topics Curr Chem 200:31; Zhao H, Moore JC, Volkov AA, Arnold FH (1999), Methods for optimizing industrial enzymes by directed evolution, In: Demain AL, Davies JE (Publ.) Manual of industrial microbiology and biotechnology. American Society for Microbiologyに記載)を用いて、当業者はまた機能性変異体を、標的化された方法でかつまた大規模に作成できる。これにおいては、最初の工程において、該当するタンパク質の遺伝子バンクが作成され、ここで、例えば上記記載の方法が使用できる。遺伝子バンクは、適当な方法で、例えば、細菌によるかまたはファージディスプレイシステムにより発現される。
【0187】
所望の特性に大部分一致する特性をもつ機能性変異を発現する、宿主生物体の関連遺伝子は、さらなる突然変異のラウンドに供され得る。突然変異および選別もしくはスクリーニングの工程は、存在する機能性変異体が所望の特性を充分な程度もつまで、相互作用的に反復され得る。この相互作用的様式の操作により。限られた数の突然変異、例えば1〜5個の突然変異が段階的に実施され、該当する酵素特性に対するそれらの影響について評価および選別され得る。選別された変異体は、次に同じ方法で更なる突然変異工程に供され得る。この方法で、試験されるべき個々の変異体の数を著しく減らし得る。
【0188】
本発明による結果は、所望の修飾された特性をもつさらなる酵素を計画的に発生させるために必要な、関連酵素の構造および配列について、重要な情報をもたらす。特に、いわゆる「ホットスポット」、すなわち標的化された突然変異の導入により酵素特性を修飾するのに潜在的に適した配列セグメント、を規定できる。
【0189】
3.2 構築物
本発明の対象はまた、調節核酸配列の遺伝子制御下にある本発明の少なくとも1つのポリペプチドをコードする核酸配列を含有する発現構築物、およびこれらの発現構築物の少なくとも1つを含むベクターである。
【0190】
本発明によれば、「発現ユニット」は、発現活性をもつ核酸を意味するものと理解され、これは、本明細書で定義されたような、また発現されるべき核酸または遺伝子との機能的連結の後、発現、すなわちこの核酸または遺伝子の転写および翻訳を調節する、プロモーターを含む。それ故これに関連して、これは、「調節核酸配列」とも記載される。プロモーターに加えて、例えばエンハンサーなどのさらなる調節エレメントも含まれ得る。
【0191】
本発明によれば、「発現カセット」または「発現構築物」は、発現されるべき核酸または発現されるべき遺伝子に、機能的に連結された発現ユニットを意味するものと理解される。それ故発現ユニットとは対照的に、発現カセットは転写および翻訳を調節する核酸配列のみならず、転写および翻訳の結果、タンパク質として発現されるべき核酸配列も含む。
【0192】
本発明に関しては、用語「発現」または「過剰発現」は、対応するDNAによりコードされた1つ以上の酵素の、微生物体における産生または細胞内活性の増大を記述する。このためには、例えば遺伝子が生物体内へ導入されるか、既存の遺伝子が異なる遺伝子で置き換えられるか、遺伝子もしくは複数の遺伝子のコピー数が増大されるか、強力なプロモーターが使用されるか、または高い活性をもつ対応する酵素をコードする遺伝子の使用が可能であり、かつこれらの方策を任意に組合せてもよい。
【0193】
好ましくは、本発明によるかかる構築物は、特定のコード配列から5’上流にプロモーター、および3’下流にターミネーター配列を、また任意にさらなる通常の調節エレメントを含み、これらはそれぞれコード配列に動作的に連結されている。
【0194】
本発明によれば、「プロモーター」、「プロモーター活性をもつ核酸」、または「プロモーター配列」は、転写されるべき核酸との機能的連結において、この核酸の転写を調節する核酸を意味するものと理解される。
【0195】
これに関連して、「機能的」または「動作的」な連結は、例えば、プロモーター活性をもつ核酸の1つと、転写されるべき核酸配列と、および任意にさらなる調節エレメント、例えば核酸の転写を保証する核酸配列、および例えばターミネーター配列とが、それぞれの調節エレメントが核酸配列の転写においてその機能を果たし得るような様式で、連続的配置されることを意味するものと理解される。このためには、化学的意味での直接的な結合が絶対に必要というわけではない。例えばエンハンサーなどの遺伝子調節配列はまた、標的配列に対するそれらの機能をより遠い位置から、または別のDNA分子からでも及ぼし得る。転写されるべき核酸配列がプロモーター配列の後ろに(すなわち3’末端に)位置して、2つの配列が互いに共有結合されるようにする配列が好ましい。ここで、プロモーター配列と、遺伝子導入的に発現されるべき核酸配列との間の距離は、200塩基対未満、または100塩基対未満、または50塩基対未満でよい。
【0196】
プロモーターおよびターミネーターと同様、さらなる調節エレメントとして、標的化配列、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、選択マーカー、増幅シグナル、複製開始点などが挙げられるべきである。適当な調節配列は、例えば、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)に記載されている。
【0197】
本発明による核酸構築物は、配列番号1、3、または7、あるいはその誘導体および相同体、およびそれらに由来する核酸配列を含み、これらは有利には、遺伝子発現を制御、例えば増大するための1つ以上の調節シグナルと、動作的または機能的に連結される。
【0198】
これらの調節配列に加えて、これらの配列の天然の調節がなお、実際の構造遺伝子の前に存在し、かつ任意に遺伝的に改変され、天然の調節がサイレント化されて遺伝子の発現が増大されるようにし得る。しかしながら核酸構築物はまた、より単純に組込まれることも可能であり、すなわち、コード配列の前には何ら追加の調節シグナルは挿入されず、かつ天然のプロモーターはその調節とともに除去されることはなかった。この代わりに、天然の調節配列は、調節がもはや起こらず、遺伝子発現が増大するように突然変異される。
【0199】
好ましい核酸構築物は、有利にはまた、プロモーターと機能的に連結された1つ以上の既に述べた「エンハンサー」配列を含み、これにより、核酸配列の増大された発現が可能となる。また、DNA配列の3’末端では、さらなる調節エレメント、またはターミネーターなどの、さらなる有利な配列が挿入され得る。本発明の核酸は、構築物中に1つ以上のコピーで含有され得る。なおさらなるマーカー、例えば抗生物質耐性または栄養要求性を補充する遺伝子が、任意に構築物を選択するために構築物中に含有されてもよい。
【0200】
適切な調節配列の例は、グラム陰性菌において有利に使用される、cos−、tac−、trp−、tet−、trp−tet−、lpp−、lac−、lpp−lac−、lacI
q−、T7−、T5−、T3−、gal−、trc−、ara−、rhaP (rhaP
BAD)SP6−、ラムダ−P
R−などのプロモーター中に、またはラムダ−P
L プロモーター中に含有される。さらなる有利な調節配列は、例えばグラム陽性菌プロモーター、amyおよび SPO2中に、また酵母または真菌プロモーター ADC1、 MFalpha、AC、P−60、CYC1、GAPDH、TEF、rp28 およびADH中に含有される。人工的なプロモーターもまた、調節に使用され得る。
【0201】
宿主生物体における発現のためには、核酸構築物は有利には、宿主における遺伝子の最適な発現を可能にする、プラスミドまたはファージなどのベクター内へ挿入される。プラスミドおよびベクターとは別に、ベクターはまた当業者には公知の全ての他のベクター、例えば、SV40、CMV、バキュロウイルス、およびアデノウィルスなどのウイルス、トランスポゾン、ISエレメント、ファスミド、コスミド、および直鎖もしくは環状DNAなどを意味するものと理解されるべきである。これらのベクターは、宿主生物体内で自律的に複製するか、または染色体的に複製され得る。これらのベクターは、本発明のさらなる構成を表す。
【0202】
適当なプラスミドは、例えばE. coli におけるpLG338、pACYC184、pBR322、pUC18、pUC19、pKC30、pRep4、pHS1、pKK223−3、pDHE19.2、pHS2、pPLc236、pMBL24、pLG200、pUR290、pIN−III
113−B1, λgt11、または pBdCI;StreptomycesにおけるpIJ101、pIJ364、pIJ702、またはpIJ361;BacillusにおけるpUB110、pC194 、またはpBD214;CorynebacteriumにおけるpSA77、またはpAJ667;真菌における pALS1、pIL2、または pBB116、酵母における2alphaM、pAG−1、YEp6、YEp13、またはpEMBLYe23、あるいは植物におけるpLGV23、pGHlac
+、pBIN19、pAK2004、または pDH51である。前記プラスミドは、可能なプラスミドを小規模に選んだものである。さらなるプラスミドが当業者には周知であり、例えば、書籍Cloning Vectors (Eds. Pouwels P. H. et al. Elsevier, Amsterdam−New York−Oxford, 1985, ISBN 0 444 904018)から選択できる。
【0203】
ベクターのさらなる構成においては、本発明の核酸構築物、または本発明の核酸を含有するベクターはまた、有利には、直鎖DNAの形態で微生物内へ導入され、かつ異種組換えまたは同種組換えにより、宿主ゲノム内へインテグレートされ得る。この直鎖DNAは、直鎖化されたベクター、例えばプラスミドから、または単に本発明の核酸構築物もしくは核酸のみから構成され得る。
【0204】
生物体における異種遺伝子の最適の発現には、該生物体において使用される特異的な「コドン使用」に従って核酸配列を修飾することが有利である。「コドン使用」は、該当する生物体の他の既知の遺伝子のコンピュータ評価に基づき容易に決定できる。
【0205】
本発明による発現カセットの産生は、適当なプロモーターの、適当なコードヌクレオチド配列と、およびターミネーターまたはポリアデニル化シグナルとの融合により行なわれる。標準的な組換えおよびクローニング技術が、このために使用され、例えば、T. Maniatis, E.F. Fritsch and J. Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1989) において、および T.J. Silhavy, M.L. Berman and L.W. Enquist, Experiments with Gene Fusions, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1984) において、および Ausubel, F.M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Assoc. and Wiley Interscience (1987) において記載されている。
【0206】
適当な宿主生物体における発現には、組換え核酸構築物または遺伝子構築物は、有利には、宿主における遺伝子の最適発現を可能にする宿主特異的ベクター内へ挿入される。ベクターは、当業者に周知であり、例えば、”Cloning Vectors” (Pouwels P. H. et al., Eds., Elsevier, Amsterdam-New York-Oxford, 1985) から選択可能である。
【0207】
4. 微生物
状況に応じて、用語「微生物」は、出発微生物(野生型)、もしくは遺伝的に改変された組換え微生物、または双方を意味するものと理解できる。
【0208】
本発明のベクターにより、組換え微生物を産生可能であり、これらは例えば、本発明の少なくとも1つのベクターを用いて形質転換され、かつ本発明のポリペプチドの産生のために使用され得る。有利には、上記記載の組換え構築物は、適当な宿主系内へ導入され、かつ発現される。これにおいて、当業者には公知の標準的なクローニングおよびトランスフェクション法、例えば共沈、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、レトロウイルストランスフェクションなどが、好ましくは、前記核酸を特定の発現系における発現へ導くのに使用される。適当な系は、例えば、Current Protocols in Molecular Biology, F. Ausubel et al., Publ., Wiley Interscience, New York 1997, または Sambrook et al. Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2
nd Edn., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989 に記載されている。タンパク質の異種発現のための細菌の発現系についての概説は、例えば、Terpe, K. Appl. Microbiol. Biotechnol. (2006) 72: 211-222 により提供されている。
【0209】
本発明の核酸または核酸構築物のための組換え宿主生物体としては、原則的には全ての原核生物または真核生物が可能である。有利には、細菌、真菌、または酵母などの微生物が、宿主生物体として使用される。有利には、グラム陽性またはグラム陰性細菌、好ましくは、Enterobacteriaceae、Pseudomonadaceae、Rhizobiaceae、Streptomycetaceae、またはNocardiaceae科の細菌、特に好ましくはEscherichia、Pseudomonas、Streptomyces、 Nocardia、Burkholderia、 Salmonella、 Agrobacterium、 Clostridium、または Rhodococcus属の細菌が使用される。Escherichia coliの属および種が、非常に特に好ましい。さらなる有利な細菌が、αプロテオバクテリア、またはベータプロテオバクテリア、またはガンマプロテオバクテリアの群においてさらに見いだされる。
【0210】
本発明の宿主生物体、または複数の宿主生物体は、ここでは、好ましくは、上記の定義に従って7β−HSDH活性をもつ酵素をコードする、少なくとも1つの核酸配列、核酸構築物、またはベクターを含む。
【0211】
本発明の方法において使用される生物体は、宿主生物体に依存して、当業者に公知の方法で増殖または培養される。微生物は、原則として、主として糖の形態にある炭素源、主として酵母エキスなどの有機窒素源または硫酸アンモニウムなどの塩の形態にある窒素源、鉄、マンガン、およびマグネシウム塩などの微量元素、および任意にビタミンを含有する液体培地中で、0℃と100℃の間、好ましくは10℃と60℃の間の温度において、酸素を通気して増殖される。この間に、栄養液のpHは固定値に保持され、言い換えれば培養中に調節してもしなくてもよい。培養は、「バッチ法」、「半バッチ法」、または連続的に実施され得る。栄養物は、発酵開始時に与えられるか、またはさらに半連続的または連続的に与えられてもよい。
【0212】
それらを使用するまで、本発明による生物体は適切に、例えば−20℃で凍結された状態で;あるいはまた凍結乾燥物として保存してもよい。使用には、凍結された培養物は室温にされ、任意に1回以上の凍結/融解サイクルを実施するのもよい。凍結乾燥された標品は、さらなる使用に向けて、緩衝溶液などの適当な液体媒体中で溶解/懸濁され得る。
【0213】
5.UDCAの産生
第1工程:CAのDHCAへの化学的変換
CAのヒドロキシ基は、クロム酸または酸性溶液(例えばH
2SO
4)中のクロム酸塩を用いて、古典的な化学的経路により、それ自体が公知の方法でカルボニル基へ酸化される。結果としてDHCAが生成される。
【0214】
第2工程:DHCAの12−ケト−UDCAへの酵素的または微生物的変換
水溶液中では、DHCAは、3α−HSDHおよび7β−HSDHまたはそれらの変異体により、それぞれNADPHまたはNADHの存在下に、12−ケト−UDCAへ特異的に還元される。補因子NADPHまたはNADHは、ADHまたはFDHまたはGDHまたはその変異体により、イソプロパノールまたはギ酸ナトリウムまたはグルコースから再生され得る。反応は穏やかな条件下で進行する。例えば、反応はpH6〜9、とりわけ約pH=8において、また約10〜30、15〜25、または約23℃において行なわれ得る。
【0215】
微生物変換工程の場合、必要な酵素活性を発現する組換え微生物は、変換されるべき基質(DHCA)の存在下に、適当な液体培地中で、嫌気的または好気的に培養され得る。適当な培養条件は、それ自体当業者には公知である。それらは、例えば5〜10、6〜9のpH範囲、10〜60、または15〜45、または25〜40の温度範囲、または37℃における変換を含む。適当な培地は、例えば、以下に記載されるLBおよびTB培地を含む。ここでの変換期間は、例えばバッチ式もしくは連続式で、または他の通常の方法の変形(上記記載)で行なわれ得る。変換期間は、例えば、数分から数時間または数日の範囲内であり、また例えば1時間〜48時間であり得る。酵素活性が連続的に発現されない場合には、任意に、標的細胞密度が例えば約OD
600=0.5〜1.0に達した後に、適当なインデューサーを添加することによりこれを開始してもよい。
【0216】
発酵の操作、培地への添加、酵素固定化、および価値ある物質の分離に関する、微生物産生法のさらなる可能な適切な改変は、「酵素および変異体の産生」に関する以下のセクションからも選択できる。
【0217】
第3工程:12−ケト−UDCAのUDCAへの化学的変換
12−ケト−UDCAの12−カルボニル基は、Wolff−Kishner還元により、それ自体公知の方法で除去され、結果として12−ケト−UDCAからUDCAが生成される。この反応において、カルボニル基はまずヒドラジンを用いてヒドラゾンへ変換される。次に、ヒドラゾンは塩基(例えばKOH)の存在下で200℃に加熱され、これにより窒素が除去されてUDCAが生成される。
【0218】
6.酵素および変異体の組換え体産生
本発明の対象はまた、本発明のポリペプチド、またはその機能的、生物学的な活性フラグメントの組換え体産生のための方法であり、これにおいて、ポリペプチド産生微生物が培養され、任意にポリペプチドの発現が誘導され、そしてこれらが培養物から単離される。それ故ポリペプチドはまた、所望であれば大工業規模で製造され得る。
【0219】
本発明により産生される微生物は、連続的に、あるいはバッチ法または流加培養もしくは反復流加培養において非連続的に培養され得る。公知の方法の要約は、Chmielによる教科書(Bioprozeβtechnik 1. Einfuhrung in die Bioverfahrenstechnik [Bioprocess Technology 1. Introduction to Bioprocess Technology] (Gustav Fischer Verlag, Stuttgart, 1991))またはStorhasによる教科書(Bioreaktoren und periphere Einrichtungen [Bioreactors and Peripheral Equipment] (Vieweg Verlag, Braunschweig/Wiesbaden, 1994))に見出し得る。
【0220】
用いるべき培地は、特定の株の要求性を適切に満たさねばならない。種々の微生物のための培地の記載は、American Society for Bacteriology manual "Manual of Methods for General Bacteriology" (Washington D. C., USA, 1981) に含まれている。
【0221】
本発明に従って使用可能なこれらの培地は、通常、1つ以上の炭素源、窒素源、無機塩、ビタミン、および/または微量元素を含む。
【0222】
好ましい炭素源は、単糖、二糖、または多糖類などの糖である。非常に良好な炭素源は、例えばグルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、リボース、ソルボース、リブロース、ラクトース、マルトース、サッカロース、ラフィノース、デンプン、またはセルロースである。糖はまた、糖蜜、または精糖の他の副産物などの、複合化合物を通して培地へ添加してもよい。種々の炭素源の混合物を添加することもまた有利であり得る。他の可能な炭素源は、例えば大豆油、ヒマワリ油、落花生油、およびヤシ油などの油脂、パルミチン酸、ステアリン酸、またはリノール酸などの脂肪酸、例えばグリセリン、メタノール、またはエタノールなどのアルコール、例えば酢酸、または乳酸などの有機酸である。
【0223】
窒素源は、通常、有機もしくは無機窒素化合物、またはこれらの化合物を含む物質である。窒素源の例は、アンモニアガス、または硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、もしくは硝酸アンモニウムなどのアンモニウム塩、硝酸塩、尿素、アミノ酸、または、コーンスティープリカー、大豆粉、大豆タンパク質、酵母エキス、肉エキスなどの複合窒素源を含む。窒素源は、単独で、または混合物として使用できる。
【0224】
培地中に含有され得る無機塩化合物は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、コバルト、モリブデン、カリウム、マンガン、亜鉛、銅、および鉄の、塩化物、リン酸塩、または硫酸塩を含む。
【0225】
硫黄源としては、例えば硫酸塩、亜硫酸塩、ジチオナイト、テトラチオナイト、チオ硫酸塩、硫化物などの無機硫黄含有化合物が、しかしまたメルカプタンおよびチオールなどの有機硫黄化合物もまた使用できる。
【0226】
リン源としては、リン酸、リン酸二水素カリウム、もしくはリン酸水素二カリウム、または対応するナトリウム含有塩が使用できる。
【0227】
キレート剤は、溶液中に金属イオンを保持する目的で、培地に添加され得る。特に適したキレート剤は、カテコールまたはプロトカテキュエートなどのジヒドロキシフェノール、またはクエン酸などの有機酸を含む。
【0228】
本発明に従って使用される発酵培地は、通常、ビタミンまたは増殖プロモーターなどの他の増殖因子を含有し、これらは例えばビオチン、リボフラビン、チアミン、葉酸、ニコチン酸、パントテン酸、およびピリドキシンを含む。増殖因子および塩は、酵母エキス、糖蜜、コーンスティープリカーなどの複合培地成分からしばしば誘導される。さらに、適当な前駆体を培地に添加してもよい。培地化合物の正確な組成は、特定の実験に強く依存し、それぞれの特定の事例のために個々に決定される。培地の最適化についての情報は、教科書"Applied Microbiol. Physiology, A Practical Approach" (Publ. P.M. Rhodes, P.F. Stanbury, IRL Press (1997) pp.53-73, ISBN 0 19 963577 3) から得ることが可能である。増殖培地はまた、商用供給業者から得ることもでき、例えばStandard 1(Merk)またはBHI(Brain heart infusion,DIFCO)などである。
【0229】
全ての培地成分は、熱(1.5barおよび121℃で20分間)によるか、または濾過滅菌により滅菌される。成分は一緒に、または必要であれば別個に滅菌されてもよい。全ての培地成分は、培養の開始時に存在してもよく、または任意に、連続的にもしくはバッチ式に添加してもよい。
【0230】
培養の温度は、通常15℃と45℃の間、好ましくは25℃〜40℃であり、実験の間一定に保持されるか、または変更されてもよい。培地のpHは、5〜8.5の範囲にあり、好ましくは7.0前後にあるべきである。培養のためのpHは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、もしくはアンモニア水などの塩基性化合物、またはリン酸もしくは硫酸などの酸性化合物の添加により、培養中にコントロールされ得る。発砲をコントロールするため、例えば脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤が使用できる。プラスミドの安定性を維持するため、例えば抗生物質などの選択的に作用する物質を培地に添加してもよい。好気性の条件を維持する目的で、酸素または酸素含有ガス混合物、例えば周囲の空気が培養物へ導入される。培養温度は、通常、20℃から45℃である。培養は、所望の産物が最大に生成されるまで継続される。この目標は、通常10時間から160時間の間に達成される。
【0231】
発酵ブロスは、その後さらに処理される。必要に応じ、バイオマスが、例えば遠心分離、濾過、デカンテーション、またはこれらの方法の組合せなどの分離法により、完全にまたは部分的に発酵ブロスから除去されるか、あるいはその中に完全に放置されてもよい。
【0232】
ポリペプチドが培地中に分泌されない場合には、細胞はまた破壊され、生成物はライセートから公知のタンパク質単離法により取得できる。細胞は、任意に、高周波超音波により、例えばフレンチプレス内などの高圧により、オスモリシスにより、界面活性剤、溶解酵素、もしくは有機溶媒の作用により、ホモジナイザーにより、または示した方法のいくつかの組合せにより破壊され得る。
【0233】
ポリペプチドの精製は、Qセファロースクロマトグラフィーなどの分子篩クロマトグラフィー(ゲル濾過)、イオン交換クロマトグラフィー、および疎水性クロマトグラフィーなどの、既知のクロマトグラフ法、および限外濾過、結晶化、塩析、透析、および未変性ゲル電気泳動などの、他の通常の方法を用いて達成され得る。適当な方法は、例えば、Cooper, F. G., Biochemische Arbeitsmethoden [Biochemical Work Methods], Verlag Walter de Gruyter, Berlin, New York、または、Scopes, R., Protein Purification, Springer Verlag, New York, Heidelberg, Berlinに記載されている。
【0234】
組換えタンパク質の単離には、既定のヌクレオチド配列によりcDNAを延長し、したがって、例えばより簡単な精製に役立つ修飾されたポリペプチドまたは融合タンパク質をコードする、ベクター系またはオリゴヌクレオチドを使用することが有利であり得る。かかる適当な修飾は、例えば、アンカーとして機能するいわゆる「タグ」、例えばヘキサヒスチジンアンカー、または抗体により抗原として認識され得るエピトープである(例えば、Harlow, E. and Lane, D., 1988, Antibodies: A Laboratory Manual. Cold Spring Harbor (N.Y.) Pressに記載)。これらのアンカーは、例えばクロマトグラフィーカラム内に充填可能な、またはマイクロタイタープレート上もしくは別の支持体上で使用可能な、ポリマーマトリックスなどの固体担体上への、タンパク質の付着に役立ち得る。
【0235】
同時に、これらのアンカーはまた、タンパク質の認識にも使用できる。タンパク質の認識のためには、これとは別に、蛍光色素などの通常のマーカー、基質との反応後に検出可能な反応産物を生成する酵素マーカー、または放射性マーカーが、単独で、またはアンカーと組合せて、タンパク質の誘導体化に使用できる。
【0236】
7.酵素固定
本発明の酵素は、本明細書に記載の方法において、遊離で、または固定して使用できる。固定された酵素とは、不活性な担体上に固定された酵素を意味するものと理解される。適当な担体材料、およびその上に固定された酵素は、EP−A−1149849、EP−A−1 069 183および DE−OS 100193773、およびそれらに引用された参考文献から公知である。この点に関しては、これらの明細書の開示全体が参照される。適当な担体材料は、例えば粘土、カオリナイトなどの粘土鉱物、珪藻土、パーライト、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、セルロース粉末、陰イオン交換物質、および、ポリスチレンなどの合成ポリマー、アクリル樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、ポリウレタン、ならびにポオリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィンを含む。担体材料は、通常、担持された酵素の産生のために、微粉化された粒子の形態で使用され、多孔性の形態であることが好ましい。担体材料の粒径は、通常、5mm以下、とりわけ2mm以下である(粒度曲線)。同様に、デヒドロゲナーゼをホールセル触媒として使って、遊離または固定された形態を選択できる。担体材料は、例えばアルギン酸Ca、およびカラギーナンである。酵素、およびまた細胞も、グルタールアルデヒドにより直接架橋され得る(CLEAを生じる架橋)。同様にまたさらに、固定化法は、例えば、J. Lalonde and A. Margolin “Immobilization of enzymes” in K. Drauz and H. Waldmann, Enzyme Catalysis in Organic Synthesis 2002, Vol.III, 991-1032, Wiley-VCH, Weinheim に記載されている。
【0237】
実験のセクション:
A. 一般的情報
1. 材料:
Collinsella aerofaciens DSM 3979のゲノムDNA(ATCC 25986、以前の名称Eubacterium aerofaciens)は、German Collection of Micro−organisms and Cell Cultures(DSMZ)から入手した。UDCAおよび7−ケト−LCAは、それ自体が公知の出発化合物であり、文献に記載されている。全ての他の化学物質および酵素は、様々な製造業者の市販の製品であった。
【0238】
2. 微生物およびベクター:
2.1 微生物
【0239】
E. coli BL21(DE3) F
- ompT gal dcm lon hsdS
B(r
B-m
B-)_(DE3 [lacI lacUV5-T7 gene 1 ind1 sam7 nin5])
E. coli BL49 F
- ompT gal dcm lon hsdS
B(r
B-m
B-)_(DE3 [lacI lacUV5-T7 gene 1 ind1 sam7 nin5]) hdhA::KanR
E. coli BLLiu F
- ompT gal dcm lon
(=E. coli BL21ΔhdhA) hsdS
B(r
B-m
B-) _(DE3 [lacI lacUV5-T7 gene 1 ind1 sam7 nin5]) _hdhA
E. coli NovaBlue(DE3) endA1 hsdR17(r
K12- m
K12 +) supE44 thi
-1recA1 gyrA96 relA1lac [F’ proA+B+ lacIqZ M15::Tn10(Tc
R)]
E. coli NB13 endA1 hsdR17(r
K12 - m
K12 +) supE44 thi
-1 recA1 gyrA96 relA1lac [F’ proA
+B
+lacIqZ M15::Tn10(Tc
R)] hdhA::KanR
【0240】
2.2 発現ベクターおよびベクター構築物
発現プラスミド(
図3参照)
p7(A)T3rG ( = p7(A)T3rG-A) (WO2012/080504参照)
p7(A)T3rG-K および
p7(A)T3TG (=p7(A)T3TG-A)
【0241】
各々は、その中に7β−HSDH、3α−HSDH、およびGDHがコードされた遺伝子がある発現カセットをもつが、異なる発現カセット構造をもち、異なる抗生物質抵抗性をもつ。これらのプラスミドは、任意に、宿主株E.coli BL49、またはE.coli BL21、ΔhdhA(双方とも本出願人のWO 2012/080504またはWO 2011/147957から公知)において使用された。
【0242】
かくて修飾された以下の株が使用された:
E.coli BL49 p7(A)T3rG、
E.coli BL21 ΔhdhA p7(A)T3rG−K
E.coli BL49 p7(A)T3TG
【0243】
3. 微生物学的方法
別に指定しない限り、分子生物学的操作は、例えば、Sambrook, J., Fritsch, E.F. and Maniatis, T. Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2
nd Edn., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989; Ausubel et al. (eds.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NY (1993); Kriegler, Gene Transfer and Expression, A Laboratory Manual, Stockton Press, NY (1990) に記載された、確立された方法に基づき実施される。
【0244】
3.1 シェーカーフラスコ内でのEscherichia coliの培養
組換えタンパク質の発現には、まず、適当な抗生物質を加えた5mLのLB培地に、細菌コロニーまたは凍結培養物を接種し、次に30℃および200rpmで一夜インキュベートした。翌日、適当な抗生物質を加えた100〜200mLのTB培地に、1〜5mLの一夜培養物を接種し、37℃および250rpmでインキュベートした。0.6〜0.8のOD600の達成時に、組換えタンパク質の発現を1mM IPTGの添加により誘導し、培養物を25℃および160rpmでさらに21時間インキュベートした。
【0245】
3.2 7.5Lの攪拌槽型反応器でのEscherichia coliの培養
ホールセル生体触媒のリットルスケールでの培養は、Infors AG(Infors 3, Bottmingen, Switzerland)製の攪拌槽型反応器(V=7.5L)内で行なわれた。反応器には、温度、pH、およびpO
2のためのプローブが具備され、これらのパラメータがコントロールユニットによりオンラインで読み取られ、かつ任意に調節可能なようにした。反応器は、コントロールユニットへ接続されたダブルジャケットにより温度コントロールされた。通気は、浸漬管により、または徹底した混合は、3つの6ブレードインペラにより行い、これらをリアクターカバー上のモータにより駆動した。加えて、基質および塩基(水酸化アンモニウム溶液、25%(w/v))は、フィードポンプによりリアクタへ供給できた。
【0246】
前培養
7.5Lの攪拌槽型反応器での培養には、合計2回の前培養段階を適用した。最初の前培養は、試験管内で、適当な抗生物質を加えた5mLのLB培地を用いて行なった。朝には、これに100μLの凍結培養物を接種し、30℃および200rpmで6〜10時間、目に見える濁りが現れるまで培養した。次に、500〜100μLの最初の前培養物を、Wilms et al. (2001)にならい、200mLの最小培地で満たした1Lの細首円錐フラスコ内へ移し、これを37℃、250rpmで一夜インキュベートした(偏心距離5cm)。
【0247】
バッチ相
攪拌槽型培養には、2.8〜3.8Lの最小培地と、1.5mLの消泡剤(Antifoam 204, Sigma-Aldrich, Munich)とを満たした無菌の攪拌槽型反応器を使用し、そのプローブを培養開始の前に標準的な方法でキャリブレートした。これをバッチグルコース(終濃度2gL
−1)および適当な抗生物質で処理し、次いで200mLの第2段階の前培養物を接種した。通気は、2L min
−1の圧縮空気を用いて開始時に行い、開始時の培養物のスターラー回転速度は200rpmであった。pO
2が30%の閾値より下に低下すれば、スターラー回転速度を、1100rpmの理論的最大値まで5rpmずつ追加的に上昇させた。pHは、塩基(25% 水酸化アンモニウム、w/v)の添加により一方向的に7.0に調節するとともに、温度は37℃に保持した。pO
2の急激な上昇により特定されるバッチグルコースの消費後、基質制限供給期への移行が行なわれた。
【0248】
基質制限増殖期
供給期の開始時に、圧縮空気による通気を5L min
−1に増大し、温度を30℃に下げ、追加的なスターラー回転速度上昇のための閾値を20%pO
2に下げた。基質供給の計量は、特定の増殖率μ=0.15hrs
−1に基づき行なわれた。その供給培地は500gL
−1のグルコース、および99gL
−1のリン酸水素二アンモニウムを含有していた。
バイオマス収量は、0.45g
BDMg
Glc−1と推定された。
【0249】
基質制限増殖期の継続時間は、19時間であった。この期の終了1時間前に、温度を20℃に下げ、さらに、それぞれV0に基づき、3mL L
−1の微量元素溶液、および2mL L
−1の硫酸マグネシウム溶液(1M)を添加した。選択抗生物質としてアンピシリンを使用する場合、50mg L
−1アンピシリンも開始時に、また基質制限増殖期終了の1時間前にも添加した。
【0250】
発現期
基質制限増殖期の終了後、発現期の開始時に、0.5mM IPTG(V0に基づく)の添加を行った。温度を20℃に保ち、あらかじめ設定された増殖速度をμ=0.06hrs
−1に低下させた。さもなければpO2≧20%の酸素飽和を確保できないので18時間後、フィード体積流量を最後の調整値において一定に保持した。3mL L
−1の微量元素溶液、2mL L
−1の硫酸マグネシウム溶液(1M)、および任意で50mgL
−1のアンピシリンのさらなる添加を、発現期開始の8時間後に行なった。細胞は発現期開始の24時間後に収穫し、任意で30%グリセリン(v/v)で処理して、−20℃に保存した。
【0251】
3.3 ディープウェルプレート内でのEscherichia coliライブラリの培養
ディープウェルプレート内でのE.coliの培養には、まず、無菌の96ウェルマイクロタイタープレート内で前培養を調製した。このため、150μLの前培養培地(5%(v/v)DMSOで処理したTB培地)を各ウェルに入れた。次いでこのウェルに、寒天平板から無菌の爪楊枝によりコロニーを接種した。マイクロタイタープレートを次に無菌の通気性フィルム(Breathe-Easy, Diversified Biotech, USA)で密閉し、37℃で一夜、200〜250rpmで一夜インキュベートした。インキュベーション後、マイクロタイタープレートを−80℃においてストックプレートとして無菌保存した。タンパク質発現は、2.2mLのウェル容積の96ウェルと、方形のウェル開口とを備えた無菌のディープウェルプレートにおいて行なった。これには、適当な抗生物質を加えた600μLの無菌のTB培地を、各ウェルに移し入れ、次いで各ウェルに、ストックプレートから10μLの前培養物を接種した。ディープウェルプレートを無菌の通気性フィルムで密閉し、37℃で9時間、200〜250rpmでインキュベートした。9時間のインキュベーション後、培養物をそれぞれ100μLの誘導溶液で処理した。次に、ディープウェルプレートを無菌の通気性フィルムで密閉し、30℃でさらに21時間、200〜250rpmでインキュベートした。細胞を遠心分離(30分間、3000g)により収穫した。細胞ペレットをさらなる使用まで−80℃に保存した。
【0252】
3.4 系統維持
E.coliの短期および中期の系統維持は、適当な選択抗生物質を加えたLB寒天平板上で、4℃において行なった。長期の系統維持には、E.coli培養物をLB培地中で増殖させること、およびそれらを対数増殖期(OD≦0.8)に20%の無菌グリセリン(v/v)で処理することにより凍結培養物を調製し、1.5mLの無菌の反応容器中に−80℃で保存した。
【0253】
3.5 振動ミルでのEscherichia coli細胞破壊
振動ミルでのE.coliの細胞破壊は、2mLの反応容器内で行なった。これには、1mLのガラスビーズ(直径0.25〜0.5mm、Carl Roth, Karlsruhe)および1mLの破壊されるべき細菌懸濁液を、各反応容器に入れ、これを次に振動ミル(MM 200, Retsch, Haan)内に取付け、30Hzで6分間振動させた。次いで、容器を4℃および17880gにおいて10分間ベンチ遠心分離機(Biofuge Stratos, Thermo Fischer Scientific, Waltham, USA)で遠心分離した。上清は、さらなる用途に向けて使用できた。
【0254】
3.6 高圧式ホモジナイザーでのEscherichia coliの細胞破壊
バイオリアクターでの培養物からの細胞を、高圧式ホモジナイザー(Ariete, GEA Niro Soavi, Lubeck)で破壊した。これには、細胞懸濁液をまず、50Lのリン酸カリウム緩衝液(20mM、pH7.4)を充填した200Lのステンレス鋼タンクに移し入れ、4℃に冷却した。破壊は、950barの圧力および300〜350L hr
−1の体積流量で行ない、これを15〜20分後に150L hr
−1に絞った。最初のパッセージの後、細胞ブロスを、4℃に冷却された第2の200Lのステンレス鋼タンクに収集して20℃未満に冷却し、50Lのリン酸カリウム緩衝液を充填しかつ4℃に冷却した第3の200Lのステンレス鋼タンクに移し入れた。次に、高圧式ホモジナイザーによる2回目のパッセージを上記記載のように実施した。
【0255】
この方法は、高圧式ホモジナイザーによる1回のパッセージが培地を10〜15℃まで加熱することから、破壊中の細胞ブロスの温度が35℃を超えないことを確認するべきである。第1の工程での細胞破壊に続き、細胞破壊片をディスク型遠心分離機(CAA 08, GEA Westphalia, Oelde)により分離した。これを、100L hr
−1の体積流量、0〜3barのバックプレッシャー、および999秒の固体排出物の部分排出間隔において操作した。清澄な細胞ブロスを、10Lのプラスチックキャニスターに分取して、さらなる使用に向けて−20℃に保存した。
【0256】
3.7 リゾチームを用いたEscherichia coliの細胞破壊
リゾチームを用いた酵素的細胞破壊には、ペレット化された細胞をディープウェルプレート内で、600μLの破壊緩衝液(50mM KPi、10mM MgCl
2、70000U mL
−1のリゾチーム、50U mL
−1のDNAseI)中に再懸濁し、37℃で1時間インキュベートした。次に、細胞破壊片をフロアスタンド遠心分離機(Rotixa 50 RS, Hettich, Tuttlingen)における遠心分離(30分間、3000 g、4℃)により分離した。上清をさらなる検査に使用した。
【0257】
4.分子生物学的方法
4.1 プラスミドDNAの単離
プラスミドDNAの単離は、GenElute
TM Plasmid Miniprep Kit(Sigma-Aldrich, Munich)を用いて実施した。これには、5mLのE.coliのLB一夜培養物を、製造業者の指示に従って処理した。単離されたプラスミドDNAの溶出には、70℃に温度調節された100μLの無菌の再蒸留水を用いた。
【0258】
4.2 ポリメラーゼ連鎖反応
DNAフラグメントの分離用増幅のためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、
Saiki R. K. et al. Science, 239:487-491, 1988の方法により実施した。反応混合物は、1〜2.5μLの鋳型DNA、0.5μMの各オリゴヌクレオチド、0.2mMの各デオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)、および0.02UμL
−1のPhusion DNAポリメラーゼから構成した。DNA増幅のための温度プログラムは、ポリメラーゼ製造業者からのデータ、およびオリゴヌクレオチドの融解温度を基にした。
【0259】
4.3 分析および分離用アガロースゲル電気泳動
DNA分子の分離には、1%アガロース(w/v)濃度のアガロースゲルを使用した。これにおいて、1gのアガロースを沸騰により100mLの1x TAE緩衝液中に溶解し、5μLの臭化エチジウム(≧98%)、またはこれに代えて5μLのRoti(登録商標)GelStain(Carl Roth, Karlsruhe)で処理し、次いでゲルチャンバ(C.B.S. Scientific, San Diego, USA)へ注入した。適用に先立ち、分離されるべきDNAを、5xアガロースゲルローディング緩衝液でSambrook & Russell (2001)に従って処理しゲルにアプライした。100bpの拡張DNAラダー(Carl Roth, Karlsruhe)を、長さの標準として用いた。電気泳動は1x TAE緩衝液中で、120Vの定電圧において行なった。
【0260】
4.4 ゲル抽出によるDNAフラグメントの精製
アガロースゲルからのDNAフラグメントの精製には、GenElute
TM Gel Extraction Kit(Sigma-Aldrich, Munich)を用いた。これは、製造業者の指示に従って実施した。単離されたDNAフラグメントの溶出には、70℃に温度調節された50μLの無菌の再蒸留水を用いた。
【0261】
4.5 PCR Clean−Up Kitを用いたDNAフラグメントの精製
GenElute
TM PCR Clean−Up Kit(Sigma-Aldrich, Munich)を用いたDNAフラグメントの精製は、製造業者の指示に従って実施した。精製されたDNAフラグメントの溶出には、70℃に温度調節された50μLの無菌の再蒸留水を用いた。
【0262】
4.6 エンドヌクレアーゼによる制限
DNAの制限には、40〜45μLの切断されるべきDNAを、10〜20Uの該当する制限酵素で処理し、そして製造業者により推奨される適当な添加剤を加えた反応緩衝液中で、37℃で2時間インキュベートした。次にフラグメントを、アガロースゲル電気泳動とそれに続くゲル抽出か、またはPCR Clean−Up Kitの使用のいずれかにより精製した。
【0263】
4.7 DNAフラグメントの連結
DNAフラグメントの連結には、予め制限ずみでかつ精製されたDNAフラグメントを使用した。連結は、12μLの切断されたベクターDNA、4μLの切断されたインサートDNA、および20U mL
−1のT4 DNAリガーゼ(New England Biolabs, Frankfurt)を用いて、このために製造業者から提供された緩衝液中の0.5mMのATPを加えて16℃で行なった。別法として、連結は、Quick Ligation
TM Kit(New England Biolabs, Frankfurt)を用いて、製造業者の指示に従って実施した。これにおいて、6μLの切断されたベクターDNA、および3μLの切断されたインサートDNAを使用した。
【0264】
4.8 部位特異的突然変異誘発
プラスミドDNA上での部位特異的突然変異誘発は、Sanchis et al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 81(2):387-97, 2008 または Liu, H. & Naismith, J. H., BMC Biotechnol., 8:91, 2008による方法を用いて選択的に実施した。飽和突然変異誘発が実施される場合、縮重コドンを用いてプライマーを使用した。Sanchis et al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 81(2):387-97, 2008による方法の場合、反応混合物は0.4μLの鋳型DNA、0.1μMの各オリゴヌクレオチド、0.2mMの各dNTP、および0.02UμL
−1のPhusion Hot Start DNAポリメラーゼから構成した。DNA増幅のための温度プログラムは、公開された方法に基づいており、かつポリメラーゼ製造業者からの情報およびオリゴヌクレオチドの融解温度に従って適合したに過ぎない。
【0265】
Liu & Naismith (2008)の方法において、反応混合物は0.2μLの鋳型DNA、1μMの各オリゴヌクレオチド、0.2mMの各dNTP、および0.02UμL
−1のPhusion Hot Start DNAポリメラーゼから構成された。DNA増幅のための温度プログラムは、公開された方法に基づいており、かつポリメラーゼ製造業者からの情報およびオリゴヌクレオチドの融解温度に従って適合したに過ぎない。突然変異誘発PCRに続き、親のDNAは、各回0.5UμL
−1のDpnIを連続して2回添加すること、、および次に37℃で1時間インキュベートすることにより制限された。
【0266】
4.9 ケミカルコンピテント細胞の産生および形質転換
ケミカルコンピテントE.coli細胞の産生には、対数増殖期にある100mLのLB液体培養物(OD 0.5)を、50mLの反応容器に移し入れ、遠心分離(3220g、4℃、10分間)によりペレット化した。次いで上清を捨て、細胞ペレットを40mLの氷冷TFB1培地中に再懸濁し、氷上で15分間インキュベートした。この後、細胞を再度遠心分離(3220 g、4℃、10分間)によりペレット化し、上清を捨て、細胞を4mLの氷冷TFB2培地で再懸濁し、氷上でさらに15分間インキュベートした。次に、200μLのアリコートを無菌の1.5mLの反応容器内に入れ、−80℃で凍結した。形質転換には、場合ごとにアリコートを解凍し、1〜10μLのDNA溶液で処理し、氷上で45分間インキュベートした。Thermomixer(RiO, QUANTIFOIL Instruments, Jena)中での熱ショック(42℃、1:30分)の後、細胞を再度氷上に1〜2分間保持した。次いで、600μLの無菌のLB培地を添加し、混合物をThermomixer中で、37℃および600rpmでさらに45分間インキュベートした。穏やかな遠心分離(3000rpm、1分間)の後、50〜100μLを除いて上清を捨て、ペレットを残っている上清中に再懸濁し、適当な寒天平板上に播種した。これを次にインキュベーター内で、37℃で一夜インキュベートした。
【0267】
4.10 エレクトロコンピテント細胞の産生および形質転換
エレクトロコンピテントE.coli細胞の産生には、対数増殖期にある200mLのLB液体培養物(OD 0.5)を、氷冷された50mLの反応容器に移し入れ、氷上で20分間インキュベートし、遠心分離(4000 g、4℃、15分間)によりペレット化した。細胞を次に、連続的に200mL、100mL、および8mLの氷冷10%グリセリン(v/v)溶液中にペレットを懸濁すること、および遠心分離(6000 g、4℃、15分間)により再度ペレット化することにより洗浄した。次いで細胞を、氷冷10%グリセリン(v/v)を用いて、全体積0.4〜0.8mLに懸濁し、氷冷された無菌の1.5mLの反応容器に20μLのアリコートで充填して、−80℃で凍結した。
【0268】
形質転換には、細胞を2〜10μLの脱イオンされたDNA溶液で処理し、1〜2mmの電極ギャップを備えたエレクトロポレーションキュベットにおいて、エレクトロポレーターの製造業者のプロトコール(Gene Pulser Xcell
TM, Bio-Rad, Munich.)に従って電気穿孔した。次に、1mLのLB培地を直ちに細胞へ添加し、次いで懸濁液を無菌の1.5mLの反応容器へ移し入れ、Thermomixer (RiO, QUANTIFOIL Instruments, Jena)において、37℃および600rpmで60分間インキュベートした。穏やかな遠心分離(3000rpm、1分間)の後、50〜100μLを除いて上清を捨て、残りの上清中にペレットを再懸濁し、適当な寒天平板上に播種した。これを次にインキュベーター内で、37℃で一夜インキュベートした。
【0269】
4.11 コロニーポリメラーゼ連鎖反応
分離用のコロニーポリメラーゼ連鎖反応(コロニーPCR)は、Bacillus subtilisからグルコースデヒドロゲナーゼの遺伝子を単離するために実施した。方法は、セクション4.2に述べたものと一致するが、鋳型DNAの代わりに、寒天平板上で培養された単一コロニーからの細菌スワブを反応混合物へ添加するという修正を行った。分析的なコロニーPCRを用いて、正しい連結についてチェックした。ここでもまた、単一コロニーからの細菌スワブを鋳型として用いた。コロニーPCR用のプライマーを選択して、これらが挿入部位のフランキング領域をもつ標的DNAにハイブリダイズして、増幅産物の長さに基づき挿入が成功したかどうかを推定できるようにした。反応混合物は、0.5μMの各オリゴヌクレオチド、0.2mMの各dNTP、および0.05UμL
−1のTag DNAポリメラーゼから構成した。DNA増幅のための温度プログラムは、ポリメラーゼ製造業者の指示、およびオリゴヌクレオチドの融解温度を基にした。
【0270】
4.12 染色体遺伝子の特異的サイレンシング
E.coliの染色体の7α−HSDHの特異的なサイレンシングは、Sigma Aldrich(Munich)からのキット、TargeTron
TM Gene Knockout Systemにより行なった。サイレンシングに必要なプラスミドpMB13は、Braun, M., PhD thesis, Technische Universitat Munich, 2011に記載されている。このプラスミドは、ケミカルコンピテントなE.coliへ形質転換され、標的遺伝子のサイレンシングが製造業者の指示に従って実施された。カナマイシンを用いたLB寒天平板上での選択、およびコロニーPCRにより、好首尾のサイレンシングが検出できた。細菌中に残留するプラスミドを除去するため、細胞を、カナマイシン(50mgL
−1)およびノボビオシン(62mgL
−1)を加えたLB培地中で、37℃で一夜培養した。次に培養物を、カナマイシンを加えたLB寒天平板上に播種し、37℃で一夜培養した。除去されるべきプラスミドの存在は、クロラムフェニコール感受性について個々のコロニーを検査することにより試験した。このことは、LB培地中で37℃での平行した一夜培養において、一度は33mgL
−1のクロラムフェニコールを添加して、また一度はそれらの添加なしに行われた。
【0271】
5. タンパク質化学的方法
5.1 mLスケールでのタンパク質の精製
mLスケールでのタンパク質の精製は、固定化金属アフィニティクロマトグラフィー(IMAC)の原理により行なった。分離原理は、マトリックスに結合された金属リガンドと、精製されるべき標的タンパク質上のヒスチジン残基との特異的相互作用に基づく。この目的のため、標的タンパク質の発現中に、His6アンカーがN−またはC−末端のいずれかに融合される。高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)ユニットでの精製には、そのアガロースマトリックスにNi
2+イオンがロードされたHisTrapカラム(カラム容積1mLまたは5mL)を使用した。移動相の流量は、それぞれの場合に1分間あたり1カラム容積(CV)に設定した。この間に、溶出物流中のタンパク質濃度を280nmでのUV吸光度によってモニターできた。まず、カラムを少なくとも5CVの結合緩衝液で平衡化し、次いで試料をアプライした。この後、カラムを結合緩衝液で洗浄して、非特異的に結合する外来タンパク質を除去した。洗浄は、UVシグナルのベースラインに再度達するまで実施した。標的タンパク質の溶出は、0%から100%まで20分間にわたり直線的に上昇する溶出緩衝液勾配により達成され、この間に、それぞれ2CVの溶出物分画が収集された。標的タンパク質を含有する分画は、UVシグナルにより同定できる。次に、カラムを再度10CVの溶出緩衝液で洗浄した。次いで標的タンパク質を含有する分画を、Vivaspin遠心濃縮器(排除サイズ 10kDa)で濃縮し、標的緩衝液を充填することにより緩衝液を交換して3回濃縮した。原則として標的緩衝液は、タンパク質のさらなる使用に必要な反応緩衝液に相当する。
【0272】
遠心分離ユニットを用いた精製には、ベッドボリュームが3mLの、
HisPur
TMNi−NTA Resin Spin Column (Thermo Fischer Scientific, Waltham, USA) が使用される。このための方法は、製造業者の指示に対応する。濃度及び緩衝液交換は、既に記載された方法に一致する。
【0273】
5.2 Lスケールでのタンパク質の精製
Lスケールでのタンパク質の精製もまた、IMACに基づき行われた。このためには、Ni Sepharose 6 Fast Flow(GE Healthcare Life Science, Uppsala, Sweden)を充填した、容積600mL、および直径50mmのクロマトグラフィーカラムを使用した。充填に先立ち、20%エタノール中に保存されたカラム充填剤を、三重のデカンテーション、水の再充填、スラリー化、および沈降により洗浄した。次に、スラリー化された充填媒体を、空のカラム内に入れ、最大流量150mL min
−1、および最大圧力1.5barにおいてカラム充填した。完了した充填カラムを、次に、1.2barの最大圧力において、5CVの結合緩衝液で平衡化した。解凍後、アプライされるべき試料をまず500mMのNaClで処理し、1M NaOHでpH7.4に調整した。次に、試料を透明にするため、連続的に結合された無菌のフィルタを備えた、2つのSartocon(登録商標) Slice Hydrosart(登録商標)フィルターカセット(それぞれ、排出サイズ0.2 μm、フィルタ面積0.1 m
2、 Sartorius Stedim Biotech, Gottingen)を用いて、クロスフロー濾過を実施した。試料を次に、流出方向に対し1.2barの最大圧力でカラム上にアプライした。次いで、カラムを結合緩衝液で、溶出物流のUVシグナルが再びベースラインを示すまで、溶出方向に洗浄した。タンパク質の溶出は、0%から100%まで180分間にわたり直線的に上昇する溶出緩衝液勾配により行われ、この間に、それぞれ2Lの分画が収集された。標的タンパク質を含有する分画は、検出器のUVシグナルにより同定できた。次いでこれらの分画を、まず、2つのSartocon(登録商標) Slice Hydrosart(登録商標)フィルターカセット(それぞれ、排出サイズ10kDa、フィルタ面積0.1 m2、 Sartorius Stedim Biotech, Gottingen)を用いて、クロスフロー濾過により濃縮し、そして次に標的緩衝液の5〜10倍の交換体積を用いた透析濾過により再度緩衝した。
【0274】
5.3 ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)
タンパク質混合の分析的分離は、不連続ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により、12.5%分離ゲルおよび3%収集ゲル(Laemmli, U. K., Nature, 227 (5259); 680-5, 1970; Fling, S. P. & Gregerson, D. S., Anal. Biochem., 155(1):83-8, 1986.)を用いて行なった。分離ゲル用には、17.5mLの蒸留水を、10mLの分離ゲル緩衝液(4x)および12.5mLのアクリルアミド(40%)と混合し、そして重合を、100μLの過硫酸アンモニウム(APS、10%)および10μLのテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)で開始した。収集ゲルの組成は、15mLの蒸留水、20mLの収集ゲル緩衝液(2x)、5mLのアクリルアミド(40%)、100μLのAPS、および10μLのTEMEDからなる。使用に先立ち、タンパク質を変性するため、タンパク質試料をLaemmli緩衝液で処理し、95℃で5分間インキュベートした。次に、これらをゲル上にアプライし、Roti(登録商標) -Mark standard (14−212 kDa, Carl Roth, Karlsruhe)をサイズ標準として使用した。電気泳動は、電気泳動チャンバ(PEQLAB, Erlangen)において、Rotiphorese(登録商標) SDS-PAGE (Carl Roth, Karlsruhe)を移動相として、ゲルあたり30mAの定電流で行なった。タンパク質バンドの染色には、Roti(登録商標)-Blue色素溶液 (Carl Roth, Karlsruhe)を、製造業者の指示に従って使用した。
【0275】
5.4 ビシンコニン酸アッセイ(BCAアッセイ)によるタンパク質濃度測定
全タンパク質濃度は、Pierce
TM BCA Protein Assay Kit (Thermo Scientific, Rockford, USA)を用いて、製造業者の指示に従って測定した。タンパク質標準として、キットに含まれるウシ血清アルブミン(BSA)を使用した。
【0276】
5.5 マイクロタイタープレート光度計における酵素活性の測定
酵素活性測定は、30℃のマイクロタイタープレート光度計において、250μLの試料体積を用いて30℃で実施し、これにおいて、NAD(P)H濃度(ε340=6.22mL μmol
−1cm
−1)をλ=340nmの波長においてモニターした。ここで活性は、反応が直線的に進行する部分における線形回帰により測定された。このため、検査されるべき試料を、リン酸カリウム緩衝液(50mM、pH8.0)で適切に希釈して、基質および補因子で処理した。基質および補因子の最終濃度は、7β−HSDH用には10mM DHCAおよび100μM NADPHであり、3α−HSDH用には10mM DHCAおよび100μM NADHであり、またGDH用には200mMグルコースおよび1000μM NAD(P)であった。
【0277】
全ての基質および補因子は、リン酸カリウム緩衝液(50mM、pH8.0)中に溶解した。測定は全て三重に行い、次いで平均値を測定した。DHCAの12−ケト−UDCAへの多酵素還元の機械的モデリングのための人為的単位(AU)の測定においては、酵素活性測定のためのプロトコールが修正された。これにおいて、反応緩衝液としては、20%(v/v)グリセリン、0.6%(w/v)BSA、および0.006%(v/v)Antifoam 204(Sigma-Aldrich, Munich)がそれに混合ずみの、リン酸カリウム緩衝液(100mM、pH7.0)が使用された。基質および補因子の濃度は、3α−HSDH用には500μM DHCAおよび200μM NADHであり、7β−HSDH用には500μM DHCAおよび200μM NADPHであり、またGDH用には200mMグルコースおよび1000μM NADであった。酵素は、測定される最初の吸光度変化が、GDHについて0.0005〜0.0020 s
−1、およびHSDHについて0.00025〜0.00100 s
−1の範囲である希釈において使用した。測定は全て八重に実施し、25%トランケートした平均値を測定した。ここでAUは、これらの指定された反応条件下で1μmolの基質または補因子の1分間以内の変換を触媒する活性酵素の量として定義される。
【0278】
6.分析法
6.1 細菌懸濁液の光学密度の測定
E.coli懸濁液の光学密度は、キュベット光度計において、層厚1cmのキュベットで、λ=600nmの波長において測定した。細菌懸濁液は、任意に適当な培地もしくは緩衝液で希釈して、測定された吸光度が0.5を超えないようにした。
【0279】
6.2 細菌懸濁液の乾燥バイオマス濃度の測定
別に指定しない限り、乾燥バイオマス濃度は重量測定法により測定した。これには、1mLの該当する細菌懸濁液を、予め乾燥されかつ予め秤量された1.5mLの反応容器に入れ、次いで細胞をベンチ遠心分離機で、13000rpmで10分間、室温においてペレット化し、上清を捨てた。この後、容器を定重量まで乾燥させ、再度秤量した。そこで乾燥バイオマス濃度を、以下の等式により計算できた。
C
X=(m
full−m
empty)/V
[式中、
C
X=乾燥バイオマス濃度、gBDM L
−1
m
full=乾燥後の試料物質で満たした反応容器の質量、g
m
empty=乾燥後の空の反応容器の質量、g
V=沈降前の細胞懸濁液の体積、L]
【0280】
6.3 補因子濃度の光度測定
NAD(P)およびNADP(H)の濃度は、キュベット光度計において、Lambert−Beerの法則に従って測光法により測定した。これには、層厚1cmの石英キュベット(Hellma Analytics, Mulheim)を用い、これを1mLの試料で満たした。NAD(P)濃度の測定は、λ=259nmの波長において実施し、これにおいてモル吸光係数はε
259nm=16.9mL μmol
−1cm
−1であった。NAD(P)Hの濃度は、λ=340nmの波長において測定し、かつここでモル吸光係数はε
340nm=6.22mL μmol
−1cm
−1であった。
【0281】
6.4 高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
胆汁酸塩の定性的及び定量的分析は、HPLCによる物質の分離によって行なった。これには、タイプHibar(登録商標)125−4 RP−18e (5 μm) (Merck, Darmstadt)の逆相クロマトグラフィーカラムを備えたHPLCシステム、Finnigan Surveyor Plus (Thermo Fischer Scientific, Waltham, USA)を使用した。移動相として、リン酸水溶液(pH2.6)とアセトニトリルとの移動相混合物を用い、分離には、移動相勾配を用いた。移動相の流量は、1mL min
−1であり、各場合に20μLの試料を注入した。胆汁酸塩は、λ=200nmにおけるUV吸光度により検出した。この方法は、標準法により参考物質を用いてキャリブレートした。
【0282】
勾配プロフィールは以下の通りであった:
0〜3min:35%(v/v)の一定したアセトニトリル含量、3〜7min:39%(v/v)までのアセトニトリル含量の直線的増加;7〜8min:70%(v/v)までのアセトニトリル含量の直線的増加、8〜9.5min:70%(v/v)の一定したアセトニトリル含量、9.5〜10.5min:35%(v/v)までのアセトニトリル含量の直線的減少;10.5〜14min:35%(v/v)の一定したアセトニトリル含量。
【0283】
6.5 フローサイトメトリー(FACS)
フローサイトメトリー(蛍光活性化細胞選別、FACS)を用いて、ホールセル生体触媒の細胞完全性を調べた。これには、細胞を約109 mL
−1の粒子密度に希釈し、これは1mL s
−1の流量での1000シグナルs
−1に相当する。これらの細胞を、細胞膜の脱分極に打ち勝って細胞内タンパク質および膜への結合により蛍光を発生する、0.75mMの色素ビス−(1,3−ジブチルバルビツール酸)−トリメチン−オキソノール(Dibac4[3])で処理した。Dibac4[3]媒介性の蛍光を、粒子サイズの指標である粒子の光散乱に対してプロットすることにより、細胞完全性について推論を引き出すことが可能であった(Suller, M. T.& Lloyd D., Cytometry, 35(3):235-41, 1999; Langemann et al., Bioeng. Bugs, 1(5):326-36, 2010)。
【0284】
6.6 DHCAの12−ケト−UDCAへの酵素的変換の決定のための標準的検査法(IPC法)
a.設備
装置:UV検出器とオートサンプラーとを備えたHPLC(Merck Hitachi, LaChrom Elite (high pressure gradient system) または同等のもの);
カラム:Merck, Purospher(登録商標) STAR RP-18e, 125 mm X 4,0 mm, 5 μm, Art. #5I0 036;または同等のもの
【0285】
b.勾配作成に適した試薬
アセトニトリル Merck LiChroSolv(登録商標)
水 超純水
H
3PO
4 オルトリン酸85.0%;Merck
メタノール Merck LiChroSolv(登録商標)
【0286】
c.HPLCパラメータ
流量 1.0ml/min
カラム温度 25℃
注入体積 20μl
【0288】
検出 UV200nm
ランタイム 36.0min
洗浄 メタノール/水:9/1(v/v)
【0289】
d.溶液および試料の調製
移動相A H
2O(H
3PO
4(85%)でpH2.6に調整)
移動相B アセトニトリル
ブランク 希釈液:メタノール/水:9/1(v/v)
システム適合溶液(SST) 10.0mlの希釈液中、5.00mg DHCA、5.00mg 12−ケト−UDCA、5.00mg 3,12−ジケト−UDCA、および5.00mg 7,12−ジケト−CA(それぞれ正確に秤量)
試験溶液 9mlの希釈液で希釈された1mlの反応溶液;室温で超音波処理され、10分間遠心分離された。
【0290】
e.手順
分析順序:
−ブランク 1x注入
−システム適合溶液(SST) 1x注入
−試験溶液 2x注入
−ブランク 1x注入
再生:
それぞれの分析順序の後、メタノール/水(4/6〜9/1(v/v))でカラムを再生する。その後、カラムをアセトニトリル/水(4/6(v/v))ですすぐ。
【0291】
f.評価
SST試料の分析からの化合物の保持時間(RT)の測定
以下の%領域分析
・DHCA(抽出物)
・12−ケト−UDCA(生成物)
・3,12−ジケト−UDCA(中間体)
・7,12−ジケトCA(中間体)
【0293】
RT:保持時間
RRT:相対的保持時間
【0294】
7.デヒドロコール酸の立体選択的還元
7.1 2mLスケールでのバッチ還元
2mLスケールでのバッチ還元は、DHCAの12−ケト−UDCAへの多酵素還元の機構モデルのための検証実験として実施した。これには、ウェル当たり2.0mLの規格容積をもつ、方形のウェル開口およびV型底を備えたディープウェルプレートを使用した。完全に混合するため、ディープウェルプレートをラボ用シェイカーにて、500rpmで振盪した。一定温度を確保するため、装置全体を30℃に温度調節されたインキュベーションキャビネット内に設置した。DHCA、NAD、NADP、3α−HSDH、7β−HSDH、およびGDHからなる反応混合物は、0.6%((W)/v)BSAを加えたリン酸カリウム緩衝液(100mM、pH7.0)中にあり、直接ウェルに配置した。反応は、グルコース溶液の添加により開始され、続いてディープウェルプレートを3回反転した。セクション5.2に従って精製された酵素が使用された。サンプリングは半時間ごとに、100μLの反応混合物を抜取ることにより行なわれ、これを900μLのメタノール(77%v/v)で直接処理した。メタノール処理された試料は次に、ボルテックスにより混合され、ベンチ遠心分離機において13000rpmで10分間、室温で遠心分離された。上清を次にHPLCにより分析した。全ての反応は、三重に実施された。
【0295】
7.2 20mLスケールでのバッチ還元
20mLスケールでのDHCAの立体選択的還元は、50mLの規格容積、内径41mm、およびGL32スクリューキャップスレッドを備えた細首スクリューキャップボトル(DURAN Group, Wertheim/Main)中で行なった。完全な混合は、マルチスターラープレート(Variomag Multipoint, Thermo Scientific, Waltham, USA)により駆動された、450rpmでの十字形マグネチックスターラーにより提供された。一定温度を確保するため、装置全体を温度調節されたインキュベーションキャビネット内に設置した。反応混合物用には、基質DHCAをまず、等モル量のNaOHで予め溶解した。DHCA、補基質(グルコースまたはギ酸塩)、および任意でさらなる添加剤、例えばNAD(P)、グリセリン、およびMgCl
2からなる反応混合物を、反応の開始前に一緒に混合した。リン酸カリウム(50mM)を緩衝液として用い、必要に応じて水酸化ナトリウム溶液、リン酸、またはギ酸(各5M)を用いてpHを所望の値に調整した。反応は、ホールセル生体触媒の添加により開始した。反応の間、pHを手動のpHメータ(pH-Tester Checker(登録商標), Carl Roth, Karlsruhe)を用いて30分間隔で測定し、必要に応じて水酸化ナトリウム溶液、リン酸、またはギ酸(各5M)を用いてpHを出発値に調整した。サンプリングは30または60分間隔で、300μLの反応混合物を抜取ることにより行ない、これを700μLのメタノール(≧99%)と混合した。次に、試料−メタノール混合物を70%メタノール(v/v)で3:10に希釈し、ベンチ遠心分離機において13000rpmで10分間、室温で遠心分離した。試料は上清から採り、70%メタノール(v/v)で希釈し(1:10)、試験管に入れて、HPLCにより分析した。全ての反応は、三重に実施された。
【0296】
7.3 1Lスケールでのバッチ還元
1LスケールでのDHCAの立体選択的還元は、バッフルのない、Infors AG (Infors 3, Bottmingen, Schweiz)からの1.5Lの攪拌槽型反応器において実施した。反応器は、温度およびpH用のセンサーを具備し、これらのパラメータがコントロールユニットからオンラインで読み取られ、かつ任意に調節できるようにした。反応器は、コントロールユニットへ接続されたダブルジャケットにより温度コントロールされ、完全な混合は、2つの6ブレードインペラにより500〜1000rpmにおいて行い、これらをリアクターカバー上のモータにより駆動した。さらに、pH調節には、酸(リン酸、5M)または塩基(水酸化ナトリウム溶液、5M)が、フィードポンプにより反応器内へ供給可能であった。基質DHCAは、等モルの水酸化ナトリウム溶液中に予め溶解されるか、あるいはまた粉末形態の遊離酸として直接添加された。他の全ての成分もまた、固体として、またはストック溶液としてのいずれかで添加された。適当な体積まで充填し、かつ所望のpHを設定した後、反応をホールセル生体触媒の添加により開始した。試料は、30または60分間隔で、セクション7.2に記載されたように採取した。
【0297】
7.4 酸沈殿による胆汁酸塩の単離
胆汁酸塩の単離は、酸性pHにおける、そのプロトン化された形態にある胆汁酸塩の低い溶解度に基づく。これには、攪拌された状態の、溶解された胆汁酸塩を用いた混合物が、塩酸(6M)を用いてpH≦2.0まで滴下により滴定される。この間に、溶解された胆汁酸塩はほぼ完全に、固体として析出される。これを次に、濾紙(直径約150mm、保持範囲≧4μm)を挿入したBuchner漏斗により、残留溶液から分離する。必要であれば、胆汁酸塩を超純水中に入れること、およびそれを水酸化ナトリウム溶液(5M)でpH8〜9に滴定すること、Buchner漏斗によりろ過すること、および次に再び酸沈殿により単離することにより、それを洗浄することが可能であった。7,12−ジケト−UDCAおよび12−ケト−UDCAの調製には、2回の洗浄が行なわれ、3,12−ジケト−UDCAの調製には、洗浄法は1回行なわれた。次に、単離された胆汁酸塩を60℃で定重量まで乾燥した。
【0298】
8. ホールセル生体触媒(3α−HSDH、7β−HSDH、およびGDH活性をもつ)を用いた、デヒドロコール酸(DHCA)の12−ケト−ウルソデオキシコール酸(12−ケト−UDCA)への変換のための標準化された試験法
8.1 試薬
K
2HPO
4 * 3 H
2o (≧99%, p.a.); Roth
KH
2PO
4 (結晶質、puriss.); Merck
C
6H
12o
6 * H
2o (≧99.5%, Ph. Eur.); Roth
MgCl
2 * 6 H
2o (≧9%, p.a.); Roth
DHCA: PharmaZell
β−NAD: Roth
β−NADP−Na
2: Merck,
ホールセル生体触媒 (3α−HSDH、7β−HSDH、およびGDH活性をもつ)−20℃に保存)
HCl (37%)
NaOH (10%)
【0299】
8.2 緩衝溶液(ストック溶液)の産生
緩衝ストック溶液の産生には、2.54gのリン酸水素二カリウム三水和物および0.18gのリン酸二水素カリウムを、連続して秤量し、1000mlの脱イオン水中に溶解する;溶液のpH:25℃で7.8。
【0300】
8.3 NAD/NADP溶液(ストック溶液)の産生
NAD/NADPストック溶液の産生には、158mgのβ−NADP−Na
2、および663mgのβ−NADを連続的に、1000mlのメスフラスコに秤量し、脱イオン水で体積に合わせ、そして溶解させる。
【0301】
8.4 ホールセル触媒試料調製(細胞懸濁液)
細胞懸濁液の取出しに先立ち、試料を室温(RT)に加温する必要がある。加温時間は約30分間〜約3時間。
【0302】
8.5 反応混合物(ホールセル変換およびDHCAから12−ケト−UDCA)
180mlの前記緩衝ストック溶液を、三角フラスコ内で26〜28℃に予熱し、次に250mlの三ツ口フラスコ内の13.87g(0.07mol)のα−D(+)−グルコース一水和物を、予熱された緩衝液の体積の約2/3で溶解する。5.64g(0.014mol)のデヒドロコール酸(DHCA)を残りの緩衝液と一緒にグルコース緩衝溶液中で懸濁し、ウォーターバス上で26〜28℃に加温し、この間に、pHは既に低下しており、6.8に調整される。遅延なく、36mg(0.18mmol)の塩化マグネシウム六水和物、10mlのNAD/NADPストック溶液、及び5mlの融解された細胞懸濁物を、連続的に懸濁液に添加する。
【0303】
反応懸濁液を、ウォーターバス上で8時間攪拌する(26〜28℃)。pHメータおよび手作業によるpH調節(10%NaOH溶液による滴定)の使用により、懸濁液のpHを常に6.70と6.90の間にするべきである。pH−スタットの代替え使用では、pHを常に6.8にするべきである。
【0304】
8.6 HPLC分析
0.5時間、1時間、1.5時間、2時間、2.5時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、および8時間の反応時間後、反応をモニタリングするための試料(体積1ml)を反応懸濁液からピペットで抜取り、HPLCにより分析する(上記IPC法参照):
【0305】
これには、1mlの試料体積を、20mlのスナップリッドバイアル中で、メタノール/H
2O(9:1;v/v)の溶媒混合物9mlを用いて希釈し、充分に混合する。スナップリッドバイアルを密閉する。HPLCカラムへのインジェクションの前には、混濁した、希釈された溶液を遠心分離する必要がある。次に透明な上清を採り、インジェクション用の体積をそこから抜取る。
【0306】
適当な時間の後、例えば7〜10時間、例えば8時間後に、反応を終了する。これには、混濁した反応溶液を、約4〜5mlの濃HClを用いて酸性化し(pH≦1.5)、さらに30分間攪拌する。
【0307】
8.7 評価
反応動態の測定:
反応モニタリング/反応動態は、(分析されない)出発点「0時間」(DHCA:100%面積、全ての他の分析物:0%面積)と、および例えば11のさらなる測定点/HPLC分析(例えば、0.5時間、1時間、1.5時間、2時間、2.5時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、および8時間の反応時間後)とで構成される。
【0308】
現時の(時点:x時間の反応時間における)サンプリングにおける分析物の組成が測定されることになる。これには、分析物であるDHCA(抽出物)、12−ケト−UDCA(最終産物)、3,12−ジケト−ウルソデオキシコール酸(3,12−ジケト−UDCA;中間体)、及び7,12−ジケト−コール酸(7,12−ジケト−CA;中間体)について、HPLC−UVクロマトグラムにおける%面積のデータが評価されかつ記録される。
【0309】
B. ホールセル還元
実施例B.1: 3つの異なるホールセル生体触媒によるDHCAの2段階ホールセル還元(X=67)
変換には、生体触媒株E.coli BL49 p7(A)T3rG、E.coli BL21 ΔhdhA p7(A)T3rG−K、およびE.coli BL49 p7(A)T3TGを用いた。プラスミド p7(A)T3rG、p7(A)T3rG−K、およびp7(A)T3TGは、それぞれ、その中に遺伝子7β−HSDH、3α−HSDH、およびGDHがコードされている発現カセットをもつが、発現カセット構造は異なり、かつ抗生物質抵抗性が異なる。これらのプラスミドは、所望のように、宿主株E.coli BL49またはE.coli BL21 ΔhdhA(双方ともWO 2012/080504 および本出願者の WO 2011/147957から公知)に形質転換されるが、これらは異なるノックアウト株であり、その各々において、ゲノムの7α−HSDHがノックアウトされている。発現プラスミドは、
図3に示されている。
【0310】
前記の生体触媒を用いて、変換を1Lスケールで実施した。各場合に、1g
BDM L
−1の生体触媒、0.05mM NAD、および0.01mM NADPを使用し、したがって全3標品についてX=67であった。さらなる変換条件は:70mM DHCA、350mM グルコース、10mM MgCl
2、50mM リン酸カリウム緩衝液、pH7、および30℃であった。変換の評価にとり極めて重要であるのは、反応混合物中の生成された産物(12−ケト−UDCA)の量である。基質DHCA、中間体3,12−ジケト−UDCAおよび7,12−ジケト−UDCAの、ならびに反応混合物中の生成物12−ケト−UDCAの濃度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定できる。
【0311】
反応の経過は、
図4に示される。全ての標品で、5〜6時間後に>99%の変換が達成可能であった。したがって、全3酵素、7β−HSDH、3α−HSDH、およびGDHが発現される限り、種々のホールセル生体触媒株について配合が妥当であることは明らかである。
【0312】
実施例B.2 3.5g
BDM L
−1の生体触媒および0.025mM NADを用いたDHCAの2段階ホールセル還元(X=147.5)
変換には、生体触媒株E.coli BL49 p7(A)T3rGを使用した。これにおいて、3.5g
BDM L
−1の生体触媒、0.025mM NADを使用し、NADPは使用せず、したがってこの標品については、X=147.5であった。さらなる変換条件は:70mM DHCA、350mM グルコース、10mM MgCl
2、50mM リン酸カリウム緩衝液、pH7、30℃、および20mLの反応体積であった。
【0313】
反応の経過は、
図5に示される。この標品で、24時間後に>99%の変換が達成可能であった。したがって、このアプローチについて配合は妥当である。さらに、NADおよびNADPが添加されることが絶対に必要というわけではなく、基質の1つの添加でも充分であり得ることが示されている。
【0314】
実施例B.3 1.75g
BDM L
−1の生体触媒、0.025mM NAD、および0.01mM NADPを用いたDHCAの2段階ホールセル還元(X=89.5)
変換には、生体触媒株E.coli BL49 p7(A)T3rGを使用した。これにおいて、1.75g
BDM L
−1の生体触媒、0.025mM NAD、および0.01mM NADPを使用し、したがってこの標品については、X=89.5であった。さらなる変換条件は:70mM DHCA、350mM グルコース、10mM MgCl
2、50mM リン酸カリウム緩衝液、pH7、30℃、および20mLの反応体積であった。
【0315】
反応の経過は、
図6に示される。このアプローチで、24時間後に>98%の変換が達成可能であった。したがって、このアプローチについて配合は妥当である。
【0316】
実施例B.4 1g
BDM L
−1の生体触媒、0.04mM NAD、および0.0075mM NADPを用いたDHCAの2段階ホールセル還元(X=61)
変換には、生体触媒株E.coli BL21 ΔhdhA p7(A)T3rG−Kを使用した。これにおいて、1g
BDM L
−1の生体触媒、0.04mM NAD、および0.0075mM NADPを使用し、したがってこの標品については、X=61であった。さらなる変換条件は:70mM DHCA、200mM グルコース、5mM MgCl
2、4%(v/v)グリセリン、50mM リン酸カリウム緩衝液、pH7、30℃、および20mLの反応体積であった。
【0317】
反応の経過は、
図7に示される。このアプローチで、24時間後に>99%の変換が達成可能であった。したがって、このアプローチについて配合は妥当である。
【0318】
実施例B.5 ホールセル生体触媒E.coli BLLiu p7(A)T3TG−Kを用いたDHCAの2段階ホールセル還元
増大されたGDH発現をもつ、カナマイシン抵抗性のホールセル生体触媒株が産生された。これにおいては、プラスミドp7(A)T3rG−Kが、付加的なT7プロモーターがGDHの前の発現カセット内に挿入ずみであるという程度に改変されている。得られたプラスミドは、p7(A)T3TG−Kという名称をもち、宿主株E.coli BLLiuに形質転換された。得られたホールセル生体触媒は、E.coli BLLiu p7(A)T3TG−Kという名称をもつ。
【0319】
a)ホールセル生体触媒E.coli BuLLiu p7(A)T3TG−Kの培養
株E.coli BuLLiu p7(A)T3TG−Kは、攪拌槽型反応器中で、標準的なプロトコールに従って培養され、増殖および発現挙動について関連する株と比較された。
【0320】
これには、株E.coli BuLLiu p7(A)T3TG−Kを、攪拌槽型反応器中で、25℃の発現温度において、標準的なプロトコールに従って培養した。収穫の時点で存在する細胞濃度および酵素活性は、以下の表3に示されている。これと対比されるのは、元のカナマイシン抵抗性株E.coli BuLLiu p7(A)T3rG−Kのデータと、これもまた増大されたGDH活性をもつアンピシリン抵抗性株BL49 p7(A)T3TGのデータとである。
【0321】
表から、新規な株E.coli BuLLiu p7(A)T3TG−Kが個別に比較される株よりも著しく高い7β−HSDH活性をもつことが見て取れる(2.4〜2.7倍)。3α−HSDH活性は、比較された株の中で最も高いレベルにある。一方、GDH活性は、カナマイシン抵抗性株E.coli BuLLiu p7(A)T3rG−Kのそれよりも4〜10倍高いが、しかしアンピシリン抵抗性株BL49 p7(A)T3TGのGDH活性の70%にすぎない。収穫の時点で得られた細胞濃度は、比較株よりも一貫して高かった。
【0323】
b)ホールセル生体触媒E.coli BuLLiu p7(A)T3TG−Kの生体内変化
攪拌槽型反応器中で培養された新規な株E.coli BuLLiu p7(A)T3TG−Kを、ホールセル生体触媒性能について調べた。
【0324】
ホールセル生体触媒性能の評価には、−20℃で保存された細胞、およびまた室温および4℃で保存された細胞の双方を用いた。先の株とは異なり、この株では室温での1日の保存期間は、細胞の完全な活性を得るには不充分であった。このことから、室温での1日の保存、および4℃で3日の保存の後、株を再度室温で3日間保存し、次いで生体内変化のために使用した。
【0325】
ホールセル生体内変化のための反応条件は:70mM DHCA、350mM グルコース、OD2 細胞、50μM NAD、10μM NADP、1mM MgCl
2、50mM KPi緩衝液(pH7.0)、および30℃であった。加えて、室温で保存した細胞では、実験は二倍のNAD濃度、100μMを用いて実施した。pHは、手作業により、NaOH溶液(5M)を用いて半時間ごとに出発値に調整した。生体内変化の経過は、
図11に示されている。
【0326】
標準的なNAD濃度(50μM)での生体内変化の比較では、反応は4時間後(−20℃で保存された細胞で)および4.5時間後(RT/4℃で保存された細胞で)に完了していた。したがって生体内変化の継続時間は、他の生体触媒株で達成された時間(4.5時間〜6時間)の範囲内か、またはわずかに下回る。しかしながら、一様ではない副産物生成が認められる。双方の標品において、7β−HSDHの中間体生成物(3,12−ジケト−UDCA)は、3α−HSDHの中間体生成物よりもより強く蓄積する。このことは、他のホールセル生体触媒株に比較して著しく増大された、この株の7β−HSDH活性に起因し得る。もしNAD濃度−およびしたがって3α−HSDH用の補因子濃度が増大されれば、このことは、これら2つの中間体生成物の等しい生成において認められるべき、2つのHSDHの反応速度が等しくなる結果をもたらす。さらに、生体内変化の継続時間が4.5時間から4時間に低減される。
【0327】
C. 7β−HSDH変異体
実施例C.1 NAD特異性をもつ7β−HSDH変異体の産生
本明細書では、タンパク質工学により産生され、かつ補因子としてNADPHの代わりにNADHを受け入れる、Collinsella aerofaciens由来の7β−HSDHの酵素変異体が記載される。
【0328】
本発明による7β−HSDH変異体は、公開された天然酵素の配列とは位置39、40、41、および/または44において、また公知の7β−HSDH変異体とは位置40、41、および44において、アミノ酸配列が異なる。
【0329】
変異体7β−HSDH DFは、野生型配列に比較してアミノ酸置換G39D R40Fを含み、変異体7β−HSDH DFKは、野生型配列に比較してアミノ酸置換G39D R40F R41Kを含み、また変異体7β−HSDH DFKGは、野生型配列に比較してアミノ酸置換G39D R40F、R41K、K44Gを含む(
図8参照)。
【0330】
C.1.2 NADH−依存性単一変異体G39Dの産生
7β−HSDHのG39D変異体は、WO 2012/080504に記載されたように産生された。タンパク質は、N−末端Hisタグを用いて発現され、IMACにより精製された。第1の活性アッセイは、非常にわずかなNADPH活性のみを示した(10mM DHCA、0.5mM NADPH、およびpH8.0で、0.040±0.005 Umg
−1)。一方、著しいNADH活性が観察された。
【0331】
C.1.3 NADH依存性7β−HSDHの定向進化
a)変異体ライブラリのための宿主株の産生
さらなる突然変異誘発は、反復飽和突然変異誘発(Reetz et al., Mol. Biosyst., 5(2):115-22, 2009)の原理に従ってなる。これには、変異体ライブラリの産生のため、高い形質転換効率をもつと同時に、細胞ライセートを用いたスクリーニングに充分適するE.coli宿主株が必要である。E.coliは、スクリーニングにおいて副反応を触媒するゲノム的にコードされた7β−HSDHをもち、したがって測定データを偽る可能性があることから、この遺伝子がサイレンス化されている宿主株に対し援助が行なわれたはずである。しかしながら、既存の2つのノックアウト株BL49およびBLLiuは、双方とも、低い形質転換効率をもつE.coli−BL21(DE3)誘導体である。したがって、ゲノムの7α−HSDHがサイレンス化されている適当な宿主株を産生することが第1に必要であった。
【0332】
ノックアウトのための出発株として、高い形質転換効率をもつK−12派生株、E.coli NovaBlue(DE3)が選ばれた。同時に、DE3カセットは、T7発現系を用いて外来タンパク質の発現を可能にし、そのことによりこれはE.coliDH5αとは異なる。7α−HSDHのための遺伝子の好首尾のサイレンシング、およびその後のノックアウトプラスミドの分泌は、適当な選択的抗生物質上での培養、PCR、およびシーケンシングにより確認される。この株は、E.coli NB13という名称をもつ。
【0333】
b)変異されるべき位置の選択
NADPH−結合SDR(短鎖デヒドロゲナーゼレダクターゼ)中の保存領域は、主として、補因子結合ポケットの塩基性アミノ酸残基を含み、これらは、NADP(H)のアデノシンリボース上の2’−リン酸との酸−塩基相互作用により、NADP(H)結合を安定化する(Carugo, O. & Argos, P., Proteins, 28(1):10-28, , 1997a + Proteins, 28(1): 29-40, 1997b; Woodyer et al., Biochemistry, 42(40):11604-14, 2003)。
【0334】
中でも、位置39に隣接する位置40が考慮されるべきであり、ここには原則として、NADPH結合性SDRのアルギニンまたはリジンが位置している(Bellamacina, C. R., FASEB J., 10(11):1257-69, 1996; Kallberg et al., Eur. J. Biochem., 269(18):4409-4417, 2002; Persson, B., Chem. Biol. Interact., 143-144:271-278, 2003)。
【0335】
7β−HSDHでは、R40について、塩基性アミノ酸がまた39に隣接する位置に存在する。さらに、R41およびK44とともに、2つのさらなる塩基性アミノ酸が、結合ポケットに直接近接して同定された。これらの3つの位置が、反復飽和突然変異誘発の標的位置として定義された。
【0336】
c)定向進化の実施
使用したプライマー:
7β-HSDH G39D R40F (DF).
7beta mut G39D R40F fwd:
CGTCGTCATGGTCGACTTTCGCGAGG (配列番号14)
AntiMid rev:
CCGCCGCATCCATACCGCCAGTTGTTTACCC (配列番号15)
7β-HSDH G39D R40F R41K (DFK)
7beta DF mut R41K fwd:
CGTCGTCATGGTCGACTTTAAAGAGGAGAAGCTG (配列番号16)
AntiMid rev:
CCGCCGCATCCATACCGCCAGTTGTTTACCC (配列番号15)
7β-HSDH G39D R40F R41K K44G (DFKG)
7beta DFK mut K44NDT fwd:
GTCGACTTTAAAGAGGAGNDTCTGAACGTGCTC (配列番号17)
【0337】
このプライマーは、縮重コドンを含有するため、G以外の他のアミノ酸もまた、位置44に生じ得る。
【0338】
AntiMid rev:
CCGCCGCATCCATACCGCCAGTTGTTTACCC (配列番号15)
【0339】
定向進化は、突然変異の3つのラウンドにおいて実施され、その各々において、1つの位置が変異される。スクリーニングにおいて最も高いNADH活性を示した、各ラウンドの変異体をシーケンスして変異を同定し、次のラウンドにおける出発変異体として役立てた。突然変異誘発は、7β−HSDH G39D(D)から、まず位置R40において出発した。これにおける最良の変異体は7β−HSDH G39D R40F(DF)であった。次に、位置R41において突然変異誘発を行い、7β−HSDH G39D R40F R41K(DFK)を最良の変異体とし、そして最後に位置K44において、7β−HSDH G39D R40F R41K K44G(DFKG)を最良の変異体とした。
【0340】
実施例C.2 NADH特異性をもつ7β−HSDH変異体の酵素動態研究
作成された変異体は、酵素動態研究により評価された。DHCA動態の研究には、0.5mM NADHを補因子として使用し(
図9)、一方NADH動態の研究には、10mM DHCAを基質として使用した(
図10)。DHCA動態のプロットから、ミカエリス−メンテンの動態の特徴的な曲線形が7β−HSDH変異体について認められ、また基質阻害は何ら観察されなかった。したがって、古典的なミカエリス−メンテンモデル(等式1)が、動態パラメータの評価に使用された。一方NADH動態は、直線的な経過を示し、補因子濃度に何ら飽和を示さず、それ故これについて何ら動態パラメータは測定できなかった。
【0341】
等式1:ミカエリス−メンテン式
[式中、
EA
X:特異的酵素活性、Umg
−1=μmol min
−1mg
−1
V
max:最大特異的酵素活性、Umg
−1=μmol min
−1mg
−1
c
s:基質または補因子濃度、mol L
−1
K
m:半飽和濃度、mol L
−1]
【0342】
新たな7β−HSDH変異体について測定された動態パラメータが表4に示され、該表はさらに、先に報告されている変異体G39DおよびG39D R40Iについての比較値を含む。これにおいて、それぞれ5.91±0.23Umg
−1、および5.72±0.19Umg
−1をもつ、新たな変異体7β−HSDH DFKおよび7β−HSDH DFKGが、先の最も活性のある変異体G39D R40Iよりも23〜27%高い最大特異的酵素活性を示すことが見て取れる。
【0344】
実施例C.3 NADH依存性7β−HSDH変異体を用いた一段階の生体内変化
NADH依存性7β−HSDHの比較のため、50mM DHCAの3,12−ジケト−UDCAへの一段階生体内変化を、2mLスケールで三重に実施した。
【0345】
これにおいて、精製された酵素を使用し、補因子としてNADのみを添加した。補因子再生には、GDHを用いた。調べた7β−HSDH(野生型(WT)および変異体:D、DF、DFK、およびDKFG)の、0.2mg mL
−1の酵素を各場合に使用した。他の反応条件は:10 UmL
−1 GDH、0.5mM NAD、50mM DHCA、200mM グルコース、500mM リン酸カリウム、およびpH8.0であった。反応は、30℃の振盪式ディープウェルプレート内で、強力に緩衝された系においてpH調節なしのバッチプロセスとして、三重に実施した。
【0346】
生体内変化の結果が
図12に示されている。全てのNADH依存性変異体で、野生型酵素を用いるよりも多くの3,12−ジケト−UDCAを生成できた。変異体DFKGでは、16時間後にDHCAの3,12−ジケト−UDCAへの完全な変換が達成できた。
【0347】
実施例C.4 NADH依存性7β−HSDH変異体を用いた二段階の生体内変化
さらに、NADH依存性7β−HSDH変異体DFKおよびDFKGを用いて、50mM DHCAの12−ジケト−UDCAへの二段階生体内変化を、2mLスケールで三重に実施した。
【0348】
これにおいて、精製された酵素を使用し、補因子としてNADのみを添加した。7β−HSDHだけでなく、Comomonas testosteroni由来の3α−HSDH、及び補因子再生用のGDHを使用した。調べた7β−HSDH変異体の、0.2mg mL
−1の酵素を各場合に使用した。他の反応条件は:1 UmL
−1 3α−HSDH、10 UmL
−1 GDH、0.5mM NAD、50mM DHCA、200mM グルコース、500mM リン酸カリウム、およびpH8.0であった。反応は、30℃の振盪式ディープウェルプレート内で、強力に緩衝された系においてpH調節なしのバッチプロセスとして、三重に実施した。
【0349】
各標品の反応曲線が
図13に示されている。双方の7β−HSDH変異体で、DHCAの12−ジケト−UDCAへの完全な変換が、NADPの添加なしに達成できた。
【0351】
本明細書に述べた刊行物の開示が特に参照される。