【文献】
WANG, Y. et al.,,Developments around the bioactive diketopiperazines: a patent review,Expert Opinion on Therapeutic Patents,2013年,Vol.23, No.11,p.1415-33,ISSN 1354-3776
【文献】
PRASAD, C.,Bioactive Cyclic Dipeptides,Peptides,1995年,Vol.16, No.1,p.151-64,ISSN 0196-9781
【文献】
BORTHWICK, A.D.,2,5-Diketopiperazines: Synthesis, Reactions, Medical Chemistry, and Bioactive Natural Products,Chemical Reviews,2012年,Vol.112,p.3641-716,ISSN 0009-2665
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
TRPV1(Transient Receptor Potential Cation Channel, subfamily V, member 1)は、TRP(transient receptor potential)イオンチャネルスーパーファミリーに属する分子であり、痛みや辛みといった侵害受容の認識に関わる受容体として知られている。TRPV1は感覚神経や脳において発現しており、感覚神経終末におけるTRPV1の刺激によって、陽イオン流入に伴う脱分極が生じ、侵害刺激として受容される。TRPV1のアゴニストとしては、唐辛子成分であるカプサイシン(非特許文献1)、カプシエイト(非特許文献2)、胡椒成分であるピペリン(非特許文献3)、ショウガ辛味成分であるジンゲロール及びショウガオール等が挙げられ、熱(閾値:43℃)やプロトンによっても活性化することが確認されている。
【0003】
TRPV1刺激の生体作用としてはエネルギー消費促進作用が挙げられる。例えば、非特許文献4には、TRPV1刺激剤であるカプシエイト類を正常マウスに長期投与した際にエネルギー消費が増加することや、正常マウス及びTRPV1ノックアウトマウスを用いた体熱産生解析の結果として、カプシエイト類投与によるエネルギー消費増加作用が消化管内のTRPV1を介することなどが実証されている。
【0004】
またTRPV1刺激に関しては、非特許文献5において、正常マウス及びTRPV1ノックアウトマウスを用いてカプシエイト類の体重増加抑制効果、臓器脂肪蓄積抑制効果が検討されており、正常マウスでのみその効果が認められたことから、カプシエイト類の体重増加抑制ならびに体脂肪蓄積抑制効果がTRPV1刺激を介することが実証されている。
【0005】
さらに、TRPV1刺激は、筋肉や視神経障害にも影響を及ぼすことが報告されている。例えば、特許文献1によれば、TRPV1を介した細胞内カルシウム濃度制御が、mTORによるタンパク質合成経路の活性化及びその後の筋肥大に重要であり、TRPV1刺激によって筋肥大を促進しかつ筋萎縮を軽減することができる可能性が示されている。また、特許文献2によれば、TRPV1特異的アゴニストが視神経障害、特に緑内障に起因する視神経障害又は緑内障性視野狭窄の予防剤又は治療剤として有用であることが示唆されている。
【0006】
TRPV1を刺激する物質は、上記のアゴニストの他にポリフェノール類縁体又はホップ水抽出物(特許文献3)、インヒビターシステインノット(ICK)ペプチド(バニロトキシン)(特許文献4)等が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、TRPV1刺激用組成物を提供することにある。また、本発明の課題は、TRPV1を刺激するための当該組成物の使用、及びTRPV1を刺激する方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、特定の環状ジペプチド又はその塩が顕著なTRPV1刺激作用を有することを見出した。かかる知見に基づき、本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は以下に関するが、これらに限定されない。
(1)アミノ酸を構成単位とする環状ジペプチド又はその塩を有効成分として含有するTRPV1刺激用組成物であって、
前記環状ジペプチド又はその塩が、シクロアスパルチルフェニルアラニン〔Cyclo(Asp-Phe)〕、シクロヒスチジルフェニルアラニン〔Cyclo(His-Phe)〕、シクロロイシルトリプトファン〔Cyclo(Leu-Trp)〕、シクログリシルトリプトファン〔Cyclo(Gly-Trp)〕、シクロフェニルアラニルトリプトファン〔Cyclo(Phe-Trp)〕、シクロセリルチロシン〔Cyclo(Ser-Tyr)〕、シクログルタミルグルタミン酸〔Cyclo(Glu-Glu)〕、シクロアラニルアラニン〔Cyclo(Ala-Ala)〕、シクロメチオニルプロリン〔Cyclo(Met-Pro)〕、シクロプロリルチロシン〔Cyclo(Pro-Tyr)〕、シクロセリルセリン〔Cyclo(Ser-Ser)〕、シクロアラニルプロリン〔Cyclo(Ala-Pro)〕、シクロプロリルバリン〔Cyclo(Pro-Val)〕、シクロアラニルセリン〔Cyclo(Ala-Ser)〕、シクロプロリルトレオニン〔Cyclo(Pro-Thr)〕、及びシクロアスパルチルグリシン〔Cyclo(Asp-Gly)〕からなる群から選択される1つ又は2つ以上を含むものである、前記TRPV1刺激用組成物。
(2)エネルギー消費促進、体熱産生促進、代謝促進、体重増加抑制、臓器脂肪蓄積抑制、筋増加、筋委縮軽減、又は視神経障害予防若しくは治療の用途で用いる、(1)に記載のTRPV1刺激用組成物。
(3)環状ジペプチド又はその塩が、動植物由来ペプチドから得られるものである、(1)又は(2)に記載のTRPV1刺激用組成物。
(4)TRPV1刺激により発揮される機能の表示を付した、(1)〜(3)のいずれかに記載のTRPV1刺激用組成物。
(5)機能の表示が、「肥満を予防する」、「肥満を改善する」、「体重の増加を抑制する」、「体脂肪の蓄積を抑制する」、「内臓脂肪の蓄積を抑制する」、「エネルギー消費を高める」、「体熱産生を高める」、「代謝を促進する」、「筋力を増強する」、「筋力低下を抑える」、「視神経障害を改善する」、及び「視神経障害を予防する」からなる群から選択されるものである、(4)に記載のTRPV1刺激用組成物。
(6)前記組成物が剤である、(1)〜(5)のいずれかに記載のTRPV1刺激用組成物。
(7)TRPV1を刺激するための、アミノ酸を構成単位とする環状ジペプチド又はその塩の使用であって、
前記環状ジペプチド又はその塩が、シクロアスパルチルフェニルアラニン〔Cyclo(Asp-Phe)〕、シクロヒスチジルフェニルアラニン〔Cyclo(His-Phe)〕、シクロロイシルトリプトファン〔Cyclo(Leu-Trp)〕、シクログリシルトリプトファン〔Cyclo(Gly-Trp)〕、シクロフェニルアラニルトリプトファン〔Cyclo(Phe-Trp)〕、シクロセリルチロシン〔Cyclo(Ser-Tyr)〕、シクログルタミルグルタミン酸〔Cyclo(Glu-Glu)〕、シクロアラニルアラニン〔Cyclo(Ala-Ala)〕、シクロメチオニルプロリン〔Cyclo(Met-Pro)〕、シクロプロリルチロシン〔Cyclo(Pro-Tyr)〕、シクロセリルセリン〔Cyclo(Ser-Ser)〕、シクロアラニルプロリン〔Cyclo(Ala-Pro)〕、シクロプロリルバリン〔Cyclo(Pro-Val)〕、シクロアラニルセリン〔Cyclo(Ala-Ser)〕、シクロプロリルトレオニン〔Cyclo(Pro-Thr)〕、及びシクロアスパルチルグリシン〔Cyclo(Asp-Gly)〕からなる群から選択される1つ又は2つ以上を含むものである、前記使用。
(8)アミノ酸を構成単位とする環状ジペプチド又はその塩を有効成分として使用する、TRPV1を刺激する方法であって、
前記環状ジペプチド又はその塩が、シクロアスパルチルフェニルアラニン〔Cyclo(Asp-Phe)〕、シクロヒスチジルフェニルアラニン〔Cyclo(His-Phe)〕、シクロロイシルトリプトファン〔Cyclo(Leu-Trp)〕、シクログリシルトリプトファン〔Cyclo(Gly-Trp)〕、シクロフェニルアラニルトリプトファン〔Cyclo(Phe-Trp)〕、シクロセリルチロシン〔Cyclo(Ser-Tyr)〕、シクログルタミルグルタミン酸〔Cyclo(Glu-Glu)〕、シクロアラニルアラニン〔Cyclo(Ala-Ala)〕、シクロメチオニルプロリン〔Cyclo(Met-Pro)〕、シクロプロリルチロシン〔Cyclo(Pro-Tyr)〕、シクロセリルセリン〔Cyclo(Ser-Ser)〕、シクロアラニルプロリン〔Cyclo(Ala-Pro)〕、シクロプロリルバリン〔Cyclo(Pro-Val)〕、シクロアラニルセリン〔Cyclo(Ala-Ser)〕、シクロプロリルトレオニン〔Cyclo(Pro-Thr)〕、及びシクロアスパルチルグリシン〔Cyclo(Asp-Gly)〕からなる群から選択される1つ又は2つ以上を含むものである、前記方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、優れたTRPV1刺激効果を有する組成物を提供することができる。本発明のTRPV1刺激用組成物を任意の投与方法において使用することで、TRPV1刺激を介したエネルギー消費促進、体熱産生促進、代謝促進、体重増加抑制、臓器脂肪蓄積抑制等の効果を得ることができる。また、本発明のTRPV1刺激用組成物を利用すれば、筋増加効果、視神経障害抑制作用といったTRPV1刺激の介在が報告されている各種生理作用などの発現が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.TRPV1及びTRPV1刺激
本明細書において「TRPV1」とは、生体内における侵害受容の認識に関与し、Transient Receptor Potential Cation Channel, subfamily V, member 1の名称で特定される分子を意味する。TRPV1はTRPイオンチャネルスーパーファミリーに属する分子であるが、同ファミリーの他の分子(TRPV2、TRPV3、TRPV4、TRPM2、TRPM4、TRPM5、TRPM8、TRPA1)とは区別される。
【0014】
本明細書において「TRPV1刺激」とは、TRPV1に刺激を与えてこれを活性化させることをいう。TRPV1を活性化させることで、種々の生理作用を引き起こすことができる。TRPV1が活性化されると陽イオンが通過可能となることから、これを利用してTRPV1刺激を評価することができる。例えば、TRPV1を発現させた細胞を用いて、これに被験物質を添加したときの細胞内カルシウムイオン濃度の変化を測定して評価することができる。通常は、その濃度変化が認められたとき(特に、細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が認められたとき)にTRPV1が刺激されたと判定することができる。また、TRPV1刺激の程度(強弱)は、例えばアゴニストであるカプサイシン等をコントロールに用いて、その相対値等を利用して評価することができる。
【0015】
2.環状ジペプチド
本明細書において「環状ジペプチド」とは、アミノ酸を構成単位とすることを特徴とし、アミノ酸のアミノ基とカルボキシル基とが脱水縮合することにより生成したジケトピペラジン構造を有する環状ジペプチドのことをいう。そのため、環状ジペプチドは、鎖状のジペプチドとは区別される。なお、本明細書において、環状ジペプチド又はその塩をまとめて、単に、環状ジペプチドと称する場合がある。また、本明細書において、環状ジペプチドのアミノ酸構成が同じであれば、それらの記載順序はいずれが先でも構わず、例えば、〔Cyclo(Met-Arg)〕と〔Cyclo(Arg-Met)〕とは同じ環状ジペプチドを表すものである。
【0016】
環状ジペプチドではアミド結合を介して二個のアミノ酸の末端部分が結合しているため(即ち、環状ジペプチドは、アミノ末端とカルボキシ末端とがアミド結合することによって形成される環状構造を有しているため)、分子末端部分に極性基であるカルボキシル基やアミノ基が露出している直鎖状ジペプチド(特に、同種のアミノ酸組成からなる直鎖状ジペプチド)と比較して環状ジペプチドは脂溶性が高いという特徴を有する。そのため、環状ジペプチドは直鎖状のジペプチドと比較して、消化管透過性や膜透過性に優れる。このことは、過去に報告されているラット反転腸管を用いた化合物透過試験の結果からも明らかである(J. Pharmacol, 1998, 50: 167-172)。また環状ジペプチドは、その特異的な構造から各種ペプチダーゼに対する耐性も高まると考えられる。
【0017】
本発明において有効成分として含有される環状ジペプチド又はその塩は、シクロアスパルチルフェニルアラニン〔Cyclo(Asp-Phe)〕、シクロヒスチジルフェニルアラニン〔Cyclo(His-Phe)〕、シクロロイシルトリプトファン〔Cyclo(Leu-Trp)〕、シクログリシルトリプトファン〔Cyclo(Gly-Trp)〕、シクロフェニルアラニルトリプトファン〔Cyclo(Phe-Trp)〕、シクロセリルチロシン〔Cyclo(Ser-Tyr)〕、シクログルタミルグルタミン酸〔Cyclo(Glu-Glu)〕、シクロアラニルアラニン〔Cyclo(Ala-Ala)〕、シクロメチオニルプロリン〔Cyclo(Met-Pro)〕、シクロプロリルチロシン〔Cyclo(Pro-Tyr)〕、シクロセリルセリン〔Cyclo(Ser-Ser)〕、シクロアラニルプロリン〔Cyclo(Ala-Pro)〕、シクロプロリルバリン〔Cyclo(Pro-Val)〕、シクロアラニルセリン〔Cyclo(Ala-Ser)〕、シクロプロリルトレオニン〔Cyclo(Pro-Thr)〕、及びシクロアスパルチルグリシン〔Cyclo(Asp-Gly)〕からなる群から選択される1つ又は2つ以上のものである。環状ジペプチド又はその塩の数は特に限定されないが、本発明では、上述した環状ジペプチド又はその塩から選択される3つ以上を有効成分とすることが好ましい。また、前記環状ジペプチド又はその塩の中では、シクログリシルトリプトファン〔Cyclo(Gly-Trp)〕、シクロヒスチジルフェニルアラニン〔Cyclo(His-Phe)〕、シクロロイシルトリプトファン〔Cyclo(Leu-Trp)〕、シクロアスパルチルフェニルアラニン〔Cyclo(Asp-Phe)〕、及びシクロセリルチロシン〔Cyclo(Ser-Tyr)〕からなる群から選択される1つ又は2つ以上が好ましく、シクログリシルトリプトファン〔Cyclo(Gly-Trp)〕、シクロヒスチジルフェニルアラニン〔Cyclo(His-Phe)〕、及びシクロロイシルトリプトファン〔Cyclo(Leu-Trp)〕からなる群から選択される1つ又は2つ以上がより好ましい。
【0018】
本明細書において「環状ジペプチドの塩」とは、前記環状ジペプチドの薬理学的に許容される任意の塩(無機塩及び有機塩を含む)をいい、例えば、前記環状ジペプチドのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、燐酸塩、有機酸塩(酢酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、プロピオン酸塩、蟻酸塩、安息香酸塩、ピクリン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩等)等が挙げられるが、これらに限定されない。環状ジペプチドの塩は、当該分野で公知の任意の方法により、当業者によって容易に調製され得る。
【0019】
本発明で用いる環状ジペプチドは、当該分野で公知の方法に従って調製することができる。例えば、化学合成法や酵素法、微生物発酵法により製造されてもよく、直鎖状ペプチドを脱水及び環化させることにより合成されてもよく、特開2003−252896号公報やJournal of Peptide Science, 10, 737-737, 2004に記載の方法に従って調製することもできる。例えば、動植物由来タンパク質を含む原料に酵素処理や熱処理を施して得られる動植物由来ペプチドを、さらに高温加熱処理することで、環状ジペプチドを豊富に含む動植物由来ペプチド熱処理物を得ることができる。これらの点から、本発明で用いる環状ジペプチド又はその塩は、化学的又は生物的に合成されるものであってもよいし、或いは動植物由来ペプチドから得られるものであってもよい。
【0020】
3.動植物由来ペプチド
本明細書における「動植物由来ペプチド」は特に限定されないが、例えば、大豆ペプチド、茶ペプチド、麦芽ペプチド、乳ペプチド、プラセンタペプチド、コラーゲンペプチド等を用いることができる。これらのうち、本発明ではコラーゲンペプチド及び大豆ペプチドが好ましい。動植物由来ペプチドは、動植物由来のタンパク質又はタンパク質を含む原料から調製したものを用いてもよく、或いは市販品を用いてもよい。
【0021】
3−1.大豆ペプチド
本明細書でいう「大豆ペプチド」とは、大豆タンパク質に酵素処理や熱処理を施し、タンパク質を低分子化することによって得られる低分子ペプチドをいう。原料となる大豆(学名:Glycine max)は品種や産地などの制限なく用いることができ、粉砕品などの加工品段階のものを用いることもできる。
【0022】
3−2.茶ペプチド
本明細書でいう「茶ペプチド」とは、茶(茶葉や茶殻を含む)抽出物に酵素処理や熱処理を施し、タンパク質を低分子化することによって得られる茶由来の低分子ペプチドをいう。抽出原料となる茶葉としては、茶樹(学名:Camellia sinensis)を用いて製造された茶葉の葉、茎など、抽出して飲用可能な部位を使用することができる。また、その形態も大葉、粉状など制限されない。茶葉の収穫期についても、所望する香味に合わせて適宜選択できる。
【0023】
3−3.麦芽ペプチド
本明細書でいう「麦芽ペプチド」とは、麦芽又はその粉砕物から得られる抽出物に酵素処理や熱処理を施し、タンパク質を低分子化することによって得られる麦芽由来の低分子ペプチドをいう。原料となる麦芽ペプチドは、品種や産地などの制限なく用いることができるが、特に大麦の種子を発芽させた大麦麦芽が好適に用いられる。なお、本明細書では大麦麦芽のことを単に麦芽と表記することもある。
【0024】
3−4.乳ペプチド
本明細書でいう「乳ペプチド」とは、天然の乳由来の成分である乳蛋白質をアミノ酸が少なくとも数個結合した分子に分解したものである。より具体的には、ホエイ(乳清タンパク質)又はカゼイン等の乳蛋白質をプロテナーゼ等の酵素により加水分解し、これを濾過して得られる濾液を殺菌及び/又は濃縮して乾燥することにより得られるホエイペプチド、カゼインペプチド等が挙げられる。
【0025】
3−5.プラセンタペプチド
プラセンタとは哺乳類の胎盤のことであり、その優れた機能性から、近年、健康食品、化粧品、医薬品素材として用いられている。本明細書において「プラセンタペプチド」とは、プラセンタを酵素処理、又は亜臨界処理により可溶化、低分子化したものをいう。また、本来の意味とは異なるが、植物の胎座から得られる抽出物が胎盤由来のプラセンタと同等の生理学的効果を有するものとして健康食品、化粧品等に利用されており、これらは植物プラセンタと呼ばれる。本明細書における「プラセンタペプチド」には、植物プラセンタに酵素処理、又は亜臨界処理等を施し、可溶化、低分子化したものも含まれる。
【0026】
3−6.コラーゲンペプチド
本明細書でいう「コラーゲンペプチド」とは、コラーゲン又はその粉砕物を酵素処理や熱処理を施し、コラーゲンを低分子化することによって得られる低分子ペプチドをいう。コラーゲンは動物の結合組織の主要なタンパク質であり、ヒトを含めた哺乳類の身体に最も大量に含まれるタンパク質である。
【0027】
4.動植物由来ペプチド熱処理物
上述した通り、動植物由来ペプチドを高温加熱処理することで、環状ジペプチドを豊富に含む動植物由来ペプチド熱処理物を得ることができる。本明細書において「高温加熱処理」とは、100℃以上の温度かつ大気圧を超える圧力下で一定時間処理することを意味する。高温高圧処理装置としては、耐圧性抽出装置や圧力鍋、オートクレーブなどを条件に合わせて用いることができる。
【0028】
高温加熱処理における温度は、100℃以上である限り特に限定されないが、好ましくは100℃〜170℃、より好ましくは110℃〜150℃、さらにより好ましくは120℃〜140℃である。なお、この温度は、加熱装置として耐圧性抽出装置を用いた場合には抽出カラムの出口温度を測定した値を示し、加熱装置としてオートクレーブを用いた場合には、圧力容器内の中心温度の温度を測定した値を示す。
【0029】
高温加熱処理における圧力は、大気圧を超える圧力である限り特に限定されないが、好ましくは0.101MPa〜0.79MPa、より好ましくは0.101MPa〜0.60MPa、さらにより好ましくは0.101MPa〜0.48MPaである。
【0030】
高温加熱処理時間は、環状ジペプチドを含む処理物が得られる限り特に限定されないが、好ましくは15分〜600分程度、より好ましくは30分〜500分程度、さらにより好ましくは60分〜300分程度である。
【0031】
また、動植物由来ペプチドの高温加熱処理条件は、環状ジペプチドを含む処理物が得られる限り特に限定されないが、好ましくは[温度:圧力:時間]が[100℃〜170℃:0.101MPa〜0.79MPa:15分〜600分]、より好ましくは[110℃〜150℃:0.101MPa〜0.60MPa:30分〜500分]、さらにより好ましくは[120℃〜140℃:0.101MPa〜0.48MPa:60分〜300分]である。
【0032】
なお、得られた動植物由来ペプチド熱処理物に対して、所望により、濾過、遠心分離、濃縮、限外濾過、凍結乾燥、粉末化等の処理を行ってもよい。また、動植物由来ペプチド熱処理物中の特定の環状ジペプチドが所望の含有量に満たなければ、不足する特定の環状ジペプチドについては他の動植物由来ペプチドや市販品、合成品を用いて適宜追加することもできる。
【0033】
5.TRPV1刺激用組成物
5−1.環状ジペプチド含有TRPV1刺激用組成物
本発明の一態様は、特定の環状ジペプチド又はその塩を有効成分として含むTRPV1刺激用組成物である。
【0034】
本発明のTRPV1刺激用組成物は、シクロアスパルチルフェニルアラニン〔Cyclo(Asp-Phe)〕、シクロヒスチジルフェニルアラニン〔Cyclo(His-Phe)〕、シクロロイシルトリプトファン〔Cyclo(Leu-Trp)〕、シクログリシルトリプトファン〔Cyclo(Gly-Trp)〕、シクロフェニルアラニルトリプトファン〔Cyclo(Phe-Trp)〕、シクロセリルチロシン〔Cyclo(Ser-Tyr)〕、シクログルタミルグルタミン酸〔Cyclo(Glu-Glu)〕、シクロアラニルアラニン〔Cyclo(Ala-Ala)〕、シクロメチオニルプロリン〔Cyclo(Met-Pro)〕、シクロプロリルチロシン〔Cyclo(Pro-Tyr)〕、シクロセリルセリン〔Cyclo(Ser-Ser)〕、シクロアラニルプロリン〔Cyclo(Ala-Pro)〕、シクロプロリルバリン〔Cyclo(Pro-Val)〕、シクロアラニルセリン〔Cyclo(Ala-Ser)〕、シクロプロリルトレオニン〔Cyclo(Pro-Thr)〕、及びシクロアスパルチルグリシン〔Cyclo(Asp-Gly)〕からなる群から選択される1つ又は2つ以上の環状ジペプチド又はその塩を有効成分として含むものである。本発明のTRPV1刺激用組成物に含まれる環状ジペプチド又はその塩の数は特に限定されないが、本発明では、上述した環状ジペプチド又はその塩から選択される3つ以上が含まれることが好ましい。前記環状ジペプチド又はその塩の中では、シクログリシルトリプトファン〔Cyclo(Gly-Trp)〕、シクロヒスチジルフェニルアラニン〔Cyclo(His-Phe)〕、シクロロイシルトリプトファン〔Cyclo(Leu-Trp)〕、シクロアスパルチルフェニルアラニン〔Cyclo(Asp-Phe)〕、及びシクロセリルチロシン〔Cyclo(Ser-Tyr)〕からなる群から選択される1つ又は2つ以上が好ましく、シクログリシルトリプトファン〔Cyclo(Gly-Trp)〕、シクロヒスチジルフェニルアラニン〔Cyclo(His-Phe)〕、及びシクロロイシルトリプトファン〔Cyclo(Leu-Trp)〕からなる群から選択される1つ又は2つ以上がより好ましい。
【0035】
本発明のTRPV1刺激用組成物における環状ジペプチド又はその塩の含有量は、その投与形態、投与方法などを考慮し、本発明の所望の効果が得られるような量であればよく、特に限定されるものではない。例えば、大豆ペプチド、茶ペプチド、麦芽ペプチド、乳ペプチド、プラセンタペプチド、又はコラーゲンペプチドを原料として用いる場合、本発明の組成物における環状ジペプチド又はその塩の含有量の総量は、200ppm/Brix以上、好ましくは300ppm/Brix以上であり、5000ppm/Brix以下、好ましくは4000ppm/Brix以下であり、典型的には、200〜5000ppm/Brix、好ましくは300〜4000ppm/Brixである。また、本発明のTRPV1刺激用組成物におけるシクロアスパルチルフェニルアラニン〔Cyclo(Asp-Phe)〕、シクロヒスチジルフェニルアラニン〔Cyclo(His-Phe)〕、シクロロイシルトリプトファン〔Cyclo(Leu-Trp)〕、シクログリシルトリプトファン〔Cyclo(Gly-Trp)〕、シクロフェニルアラニルトリプトファン〔Cyclo(Phe-Trp)〕、シクロセリルチロシン〔Cyclo(Ser-Tyr)〕、シクログルタミルグルタミン酸〔Cyclo(Glu-Glu)〕、シクロアラニルアラニン〔Cyclo(Ala-Ala)〕、シクロメチオニルプロリン〔Cyclo(Met-Pro)〕、シクロプロリルチロシン〔Cyclo(Pro-Tyr)〕、シクロセリルセリン〔Cyclo(Ser-Ser)〕、シクロアラニルプロリン〔Cyclo(Ala-Pro)〕、シクロプロリルバリン〔Cyclo(Pro-Val)〕、シクロアラニルセリン〔Cyclo(Ala-Ser)〕、シクロプロリルトレオニン〔Cyclo(Pro-Thr)〕、シクロアスパルチルグリシン〔Cyclo(Asp-Gly)〕、又はそれぞれに対応する塩の含有量としては、1.0ppm/Brix以上、好ましくは3.0ppm/Brix以上であり、3000ppm/Brix以下、好ましくは2000ppm/Brix以下であり、典型的には、1.0〜3000ppm/Brix、好ましくは3.0〜2000ppm/Brixである。本発明において、環状ジペプチド又はその塩の含有量は上記の通りBrix(ブリックス:Bx)あたりの量で表される。本明細書において「Brixあたりの量」は、20℃のショ糖溶液(ショ糖のみを溶質として含む水溶液)の質量百分率に相当する値で定められる量を意味する。なお、特に断りがない限り、本明細書において用いる「ppm」は、重量/容量(w/v)のppmを意味し、1.0ppm/Brixは溶媒の比重が1の場合、0.1mg/mLと換算され、0.01重量%と換算されるものである。
【0036】
環状ジペプチド又はその塩の含有量は、公知の方法に従って測定することができる。例えば、LC−MS/MS又は糖度計を用いて測定することができる。
【0037】
また、本発明のTRPV1刺激用組成物は、前記環状ジペプチド又はその塩の1つ又は2つ以上を含む動植物由来ペプチド熱処理物を有効成分として含むものであってもよい。そのような動植物由来ペプチド熱処理物としては、特に限定されないが、大豆ペプチド熱処理物及びコラーゲンペプチド熱処理物が好ましい。
【0038】
動植物由来ペプチド熱処理物を用いた場合、本発明のTRPV1刺激用組成物におけるその含有量は、その投与形態、投与方法などを考慮し、本発明の所望の効果が得られるような量であればよく、特に限定されるものではない。例えば、当該含有量は、本発明の組成物の全重量に対して0.001重量%以上、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上である。また、動植物由来ペプチド熱処理物の含有量は、本発明の組成物の全重量に対して99重量%以下、好ましくは50重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。
【0039】
5−2.他の成分
本発明のTRPV1刺激用組成物は、その形態に応じて、上記有効成分の他に、任意の添加剤や通常用いられる任意の成分を含有することができる。これらの添加剤及び/又は成分の例としては、ビタミンE、ビタミンC等のビタミン類、ミネラル類、栄養成分、香料などの生理活性成分の他、製剤化において配合される賦形剤、結合剤、乳化剤、緊張化剤(等張化剤)、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤、着色剤、凝固剤、又はコーティング剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
5−3.用途
本発明のTRPV1刺激用組成物は、上述した有効成分を含有することを特徴としており、当該有効成分がTRPV1を刺激して種々の生理作用が引き起こされる。本発明では、TRPV1を刺激して活性化させることによって、エネルギー消費促進、体熱産生促進、代謝促進、体重増加抑制、臓器脂肪蓄積抑制、筋増加、筋委縮軽減の用途に適用できるほか、視神経障害の予防若しくは治療を効果的に行うことができる。従って、本発明の組成物は、エネルギー消費促進、体熱産生促進、代謝促進、体重増加抑制、臓器脂肪蓄積抑制、筋増加、筋委縮軽減の用途のための組成物、又は視神経障害の予防若しくは治療用のTRPV1刺激用組成物である。これらの用途に基づき、本発明のTRPV1刺激用組成物は、エネルギー消費促進用組成物、体熱産生促進用組成物、代謝促進用組成物、体重増加抑制用組成物、臓器脂肪蓄積抑制用組成物、筋増加用組成物、筋委縮軽減用組成物、又は視神経障害の予防若しくは治療用組成物ともなり得る。なお、本明細書において「予防」及び「治療」には、現在の状態をより良い状態にすることと現在の状態よりも悪い状態になることを防ぐこととの両方の概念が包含されることから、改善、回復、軽減、緩和等の用語もこれらに含まれ得る。
【0041】
本発明のTRPV1刺激用組成物は、例えば、上述した他の成分等を用いて、公知の方法に従って、錠剤、顆粒剤、散剤、粉末剤、又はカプセル剤等の固形剤や、通常液剤、懸濁剤、又は乳剤等の液剤等に製剤化することができる。これらの組成物はそのまま水等と共に服用することができる。また、容易に配合することが出来る形態(例えば、粉末形態や顆粒形態)に調製後、例えば、医薬品の原材料として用いることができる。
【0042】
本発明のTRPV1刺激用組成物は、一例として、剤の形態で提供することができるが、本形態に限定されるものではない。当該剤をそのまま組成物として、或いは当該剤を含む組成物として提供することもできる。本発明の組成物としては、医薬組成物、飲食品組成物、食品組成物、飲料組成物、化粧用組成物等が挙げられるが、これらに限定されない。食品組成物の限定的でない例として、機能性食品、健康補助食品、栄養機能食品、特別用途食品、特定保健用食品、栄養補助食品、食事療法用食品、健康食品、サプリメント、食品添加剤等が挙げられる。
【0043】
本発明のTRPV1刺激用組成物は、治療的用途(医療用途)又は非治療用途(非医療用途)のいずれにも適用することができる。具体的には、医薬品、医薬部外品及び化粧料等や薬事法上はこれらに属さないが、エネルギー消費促進、体熱産生促進、代謝促進、体重増加抑制、臓器脂肪蓄積抑制、筋増加、筋委縮軽減への適用、又は視神経障害の予防若しくは治療効果等を明示的又は暗示的に訴求する組成物としての使用が挙げられる。
【0044】
本発明は、別の側面では、TRPV1刺激により発揮される機能の表示を付した、前記TRPV1刺激用組成物に関する。このような表示又は機能性表示は特に限定されないが、例えば、「肥満を予防する」、「肥満を改善する」、「体重の増加を抑制する」、「体脂肪の蓄積を抑制する」、「内臓脂肪の蓄積を抑制する」、「エネルギー消費を高める」、「体熱産生を高める」、「代謝を促進する」、「肥満を予防する」、「肥満を改善する」、「筋力を増強する」、「筋力低下を抑える」、「視神経障害を改善する」、「視神経障害を予防する」などが挙げられ、これらと同意の記載も当該表示に含まれる。本明細書において、当該表示及び機能性表示のような表示は、組成物自体に付されてもよいし、組成物の容器又は包装に付されていてもよい。
【0045】
本発明のTRPV1刺激用組成物は、その形態に応じた適当な方法で摂取することができる。摂取方法は、本発明に係る環状ジペプチド又はその塩が循環血中に移行できるのであれば特に限定はない。例えば、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、又はカプセル剤等の経口用固形製剤、内服液剤、又はシロップ剤等の経口用液体製剤、注射剤、外用剤、坐剤、又は経皮吸収剤等の非経口用製剤などの形態とすることができるが、これらに限定されない。なお、本明細書において「摂取」とは、摂取、服用、又は飲用等の全態様を含むものとして用いられる。
【0046】
本発明のTRPV1刺激用組成物の適用量は、その形態、投与方法、使用目的及び投与対象である患者又は患獣の年齢、体重、症状によって適宜設定され、一定ではない。本発明の組成物の有効ヒト摂取量は一定ではないが、例えば、その有効成分である環状ジペプチド又はその塩の総量として、体重50kgのヒトで一日あたり、好ましくは10mg以上、より好ましくは100mg以上である。また、投与は所望の投与量範囲内において、1日内において単回又は数回に分けて行ってもよい。投与期間も任意である。なお、本発明の組成物の有効ヒト摂取量とは、ヒトにおいて有効な効果を示す本発明のTRPV1刺激用組成物の摂取量のことをいう。
【0047】
本発明のTRPV1刺激用組成物の適用対象は、好ましくはヒトであるが、ウシ、ウマ、ヤギ等の家畜動物、イヌ、ネコ、ウサギ等のペット動物、又は、マウス、ラット、モルモット、サル等の実験動物であってもよい。ヒト以外の動物を対象に投与する場合、マウス1個体当たり約20gに対して1日あたりの使用量は、組成物中の有効成分の含有量、適用対象者の状態、体重、性別及び年齢等の条件により異なるが、通常、環状ジペプチド又はその塩の総配合量として、好ましくは10mg/kg以上、より好ましくは100mg/kg以上を摂取できる量にするとよい。
【0048】
6.TRPV1を刺激するための環状ジペプチド又はその塩の使用
本発明の一態様は、アミノ酸を構成単位とする特定の環状ジペプチド又はその塩のTRPV1を刺激するための使用である。好ましくは、シクロアスパルチルフェニルアラニン〔Cyclo(Asp-Phe)〕、シクロヒスチジルフェニルアラニン〔Cyclo(His-Phe)〕、シクロロイシルトリプトファン〔Cyclo(Leu-Trp)〕、シクログリシルトリプトファン〔Cyclo(Gly-Trp)〕、シクロフェニルアラニルトリプトファン〔Cyclo(Phe-Trp)〕、シクロセリルチロシン〔Cyclo(Ser-Tyr)〕、シクログルタミルグルタミン酸〔Cyclo(Glu-Glu)〕、シクロアラニルアラニン〔Cyclo(Ala-Ala)〕、シクロメチオニルプロリン〔Cyclo(Met-Pro)〕、シクロプロリルチロシン〔Cyclo(Pro-Tyr)〕、シクロセリルセリン〔Cyclo(Ser-Ser)〕、シクロアラニルプロリン〔Cyclo(Ala-Pro)〕、シクロプロリルバリン〔Cyclo(Pro-Val)〕、シクロアラニルセリン〔Cyclo(Ala-Ser)〕、シクロプロリルトレオニン〔Cyclo(Pro-Thr)〕、及びシクロアスパルチルグリシン〔Cyclo(Asp-Gly)〕からなる群から選択される1つ又は2つ以上の環状ジペプチド又はその塩のTRPV1を刺激するための使用である。より好ましくは、前記環状ジペプチド又はその塩から選択される3つ以上を含むもののTRPV1を刺激するための使用である。
【0049】
本発明の使用には、例えば、エネルギー消費促進、体熱産生促進、代謝促進、体重増加抑制、臓器脂肪蓄積抑制、筋増加、筋委縮軽減のための、又は視神経障害の予防若しくは治療のための、前記環状ジペプチド又はその塩の使用が含まれるが、これらに限定されるものではない。また、当該使用は、ヒト又は非ヒト動物における使用であり、治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。ここで、「非治療的」とは、医療行為、即ち、治療による人体への処理行為を含まない概念である。
【0050】
7.TRPV1を刺激する方法
本発明の一態様は、アミノ酸を構成単位とする特定の環状ジペプチド又はその塩を有効成分として使用する、TRPV1を刺激する方法である。当該方法は、好ましくは、シクロアスパルチルフェニルアラニン〔Cyclo(Asp-Phe)〕、シクロヒスチジルフェニルアラニン〔Cyclo(His-Phe)〕、シクロロイシルトリプトファン〔Cyclo(Leu-Trp)〕、シクログリシルトリプトファン〔Cyclo(Gly-Trp)〕、シクロフェニルアラニルトリプトファン〔Cyclo(Phe-Trp)〕、シクロセリルチロシン〔Cyclo(Ser-Tyr)〕、シクログルタミルグルタミン酸〔Cyclo(Glu-Glu)〕、シクロアラニルアラニン〔Cyclo(Ala-Ala)〕、シクロメチオニルプロリン〔Cyclo(Met-Pro)〕、シクロプロリルチロシン〔Cyclo(Pro-Tyr)〕、シクロセリルセリン〔Cyclo(Ser-Ser)〕、シクロアラニルプロリン〔Cyclo(Ala-Pro)〕、シクロプロリルバリン〔Cyclo(Pro-Val)〕、シクロアラニルセリン〔Cyclo(Ala-Ser)〕、シクロプロリルトレオニン〔Cyclo(Pro-Thr)〕、及びシクロアスパルチルグリシン〔Cyclo(Asp-Gly)〕からなる群から選択される1つ又は2つ以上の環状ジペプチド又はその塩を有効成分として使用することを含む、TRPV1を刺激する方法である。より好ましくは、前記環状ジペプチド又はその塩から選択される3つ以上を含むものを有効成分として使用することを含む、TRPV1を刺激する方法である。
【0051】
当該方法に関する別の態様は、TRPV1刺激を必要とする対象に、特定の環状ジペプチド又はその塩を有効成分として治療有効量を投与することを含む、TRPV1を刺激する方法である。好ましくは、シクロアスパルチルフェニルアラニン〔Cyclo(Asp-Phe)〕、シクロヒスチジルフェニルアラニン〔Cyclo(His-Phe)〕、シクロロイシルトリプトファン〔Cyclo(Leu-Trp)〕、シクログリシルトリプトファン〔Cyclo(Gly-Trp)〕、シクロフェニルアラニルトリプトファン〔Cyclo(Phe-Trp)〕、シクロセリルチロシン〔Cyclo(Ser-Tyr)〕、シクログルタミルグルタミン酸〔Cyclo(Glu-Glu)〕、シクロアラニルアラニン〔Cyclo(Ala-Ala)〕、シクロメチオニルプロリン〔Cyclo(Met-Pro)〕、シクロプロリルチロシン〔Cyclo(Pro-Tyr)〕、シクロセリルセリン〔Cyclo(Ser-Ser)〕、シクロアラニルプロリン〔Cyclo(Ala-Pro)〕、シクロプロリルバリン〔Cyclo(Pro-Val)〕、シクロアラニルセリン〔Cyclo(Ala-Ser)〕、シクロプロリルトレオニン〔Cyclo(Pro-Thr)〕、及びシクロアスパルチルグリシン〔Cyclo(Asp-Gly)〕からなる群から選択される1つ又は2つ以上の環状ジペプチド又はその塩を有効成分として治療有効量を投与することを含む、TRPV1を刺激する方法である。より好ましくは、前記環状ジペプチド又はその塩から選択される3つ以上を含むものを有効成分として治療有効量を投与することを含む、TRPV1を刺激する方法である。
【0052】
上記方法において、TRPV1刺激を必要とする対象とは、本発明のTRPV1刺激用組成物の前記適用対象と同様である。また、本明細書中において治療有効量とは、本発明のTRPV1刺激用組成物を上記対象に投与した場合に、投与していない対象と比較して、TRPV1が刺激される量のことである。具体的な有効量としては、投与形態、投与方法、使用目的及び対象の年齢、体重、症状等によって適宜設定され一定ではない。
【0053】
本発明の方法においては、前記治療有効量となるよう、前記特定の環状ジペプチド又はその塩をそのまま、或いは、特定の環状ジペプチド又はその塩を含有する組成物として投与してもよい。
【0054】
本発明の方法によれば、副作用を生じることなくTRPV1を刺激することが可能になる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、これにより本発明の範囲を限定するものではない。当業者は、本発明の方法を種々変更、修飾して使用することが可能であり、これらも本発明の範囲に含まれる。
【0056】
実施例1.環状ジペプチドによるTRPV1刺激作用の検討
化学合成された各種環状ジペプチド標品を用いて、これらのTRPV1刺激作用を評価した。具体的には、ヒトTRPV1を発現させたCHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣由来細胞)を0.1%FBS含有DMEM(Invitrogen)に懸濁し、3.5×10
4細胞/90μL/ウェルで384ウェルマイクロプレートに播種した。次に、蛍光プローブ(Calsium4、Molecular Device)を含有した20mM Hepes緩衝液(Invitrogen)(pH7.4)を各ウェルに加え、37℃で60分間、その後22℃で15分間平衡化させた。その後、アッセイプレートをマイクロプレートリーダー(CellLux、PerkinElmer)内に設置し、環状ジペプチド溶液又は基準アゴニスト溶液の添加による細胞内カルシウムイオン濃度の変動(応答率)を蛍光強度により測定した。なお、基準アゴニスト溶液には、最終濃度が1μMとなるように調製したカプサイシン溶液を使用した。
【0057】
環状ジペプチド標品のTRPV1刺激作用については、基準アゴニスト溶液を添加したときの細胞内カルシウムイオン濃度の変動(応答率)を100%として、環状ジペプチド標品を添加したときの応答率をその相対値(%)として算出し、評価した。試験数はn=2とし、環状ジペプチド標品を添加したときの応答率の平均値を求めた。その結果を表1に示す。なお、表中の濃度はアッセイ系における環状ジペプチドの最終濃度を示す。
【0058】
【表1】
【0059】
上記の結果から、表1に示した環状ジペプチドはいずれもTRPV1刺激作用を有することが明らかとなった。
【0060】
実施例2.コラーゲンペプチド熱処理物と大豆ペプチド熱処理物のTRPV1刺激作用の検討
(1)コラーゲンペプチド熱処理物の調製
コラーゲンペプチド熱処理物として、コラーゲンペプチドの加熱処理物を用いた。コラーゲンペプチド熱処理物は、コラーゲンペプチドを液体中にて高温高圧処理して製造した。具体的には、コラーゲンペプチド(HACP−50、ゼライス社製)に10g/100mlの濃度で蒸留水を加え、オートクレーブ(トミー精工社製)に入れて、135℃、0.31MPa、10時間高温高圧処理を加えた。
(2)大豆ペプチド熱処理物の調製
大豆ペプチド熱処理物として、大豆ペプチドの加熱処理物を用いた。大豆ペプチド熱処理物は、大豆ペプチドを液体中にて高温高圧処理して製造した。具体的には、大豆ペプチド(ハイニュートAM、不二製油社製)3gに、それぞれ約15mlの蒸留水を加え、オートクレーブ(トミー精工社製)に入れて、135℃、0.31MPa、3時間高温高圧処理を加えた。
(3)TRPV1刺激作用の評価
上記の通り調製したコラーゲンペプチド熱処理物及び大豆ペプチド熱処理物の凍結乾燥品を用いて、これらのTRPV1刺激作用を評価した。具体的には、ヒトTRPV1を発現させたCHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣由来細胞)を0.1%FBS含有DMEM(Invitrogen)に懸濁し、3.5×10
4細胞/90μL/ウェルで384ウェルマイクロプレートに播種した。次に、蛍光プローブ(Calsium4、Molecular Device)を含有した20mM Hepes緩衝液(Invitrogen)(pH7.4)を各ウェルに加え、37℃で60分間、その後22℃で15分間平衡化させた。その後、アッセイプレートをマイクロプレートリーダー(CellLux、PerkinElmer)内に設置し、アッセイ系における最終濃度が1.0mg/mLになるよう再調製したコラーゲンペプチド熱処理物又は大豆ペプチド熱処理物の溶液、又は基準アゴニスト溶液の添加による細胞内カルシウムイオン濃度の変動(応答率)を蛍光強度により測定した。なお、基準アゴニスト溶液には、最終濃度が1μMとなるように調製したカプサイシン溶液を使用した。
【0061】
コラーゲンペプチド熱処理物又は大豆ペプチド熱処理物のTRPV1刺激作用については、基準アゴニスト溶液を添加したときの細胞内カルシウムイオン濃度の変動(応答率)を100%として、試験素材を添加したときの応答率をその相対値(%)として算出し、評価した。試験数はn=2とし、試験素材を添加したときの応答率の平均値を求めた。その結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
上記の結果から、コラーゲンペプチド熱処理物及び大豆ペプチド熱処理物はいずれもTRPV1刺激作用を有することが明らかとなった。これらの素材のTRPV1刺激効果には、各種素材に含まれる環状ジペプチド(例えば、表1に示された環状ジペプチド)が因子の一つとして寄与している可能性があると考えられた。