(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の導電性基材の前駆体は、ポリカーボネート基材とこの基材の上に積層された塗膜(導電性ペースト)とを含む積層体である。本発明では、基材(基板)の表面改質剤として機能する分散媒を含み、銀ナノ粒子ペーストを使用するため、低温焼結が可能であることに加え、前記表面改質剤により導電膜とポリカーボネート基材との密着性が向上する。特に、樹脂成分を配合することなく、銀ナノ粒子ペーストを調製すると、導電膜中に銀以外の成分(導電性を妨げる樹脂成分など)の割合が低くなり、高い導電率を実現できる。また、基板自体に易接着層を形成する工程や、導電膜をオーバーコートする工程を省くことが可能になり、極めて簡便に製造できる。
【0016】
[ポリカーボネート基材]
ポリカーボネート基材(基板)を構成するポリカーボネートは、慣用のポリカーボネートを利用でき、脂肪族ポリカーボネート、芳香族ポリカーボネートのいずれであってもよいが、安価で、透明性や機械的特性に優れる点から、ビスフェノール類をベースとする芳香族ポリカーボネートが好ましく、ビスフェノールA型ポリカーボネートなどのビス(ヒドロキシフェニル)C
1−6アルカン類をベースとするポリカーボネートが特に好ましい。
【0017】
ポリカーボネートの粘度平均分子量は、例えば、1,000〜100,000、好ましくは3,000〜50,000、さらに好ましくは6,000〜30,000程度である。粘度平均分子量は、ポリカーボネートを塩化メチレンに溶解し(濃度6.0g/L)、ウベローデ粘度管を用いて20℃における比粘度(η
sp)を測定し、下記の式により粘度平均分子量(Mv)を算出できる。
【0018】
η
sp/C=[η](1+0.28η
sp)
[η]=1.23×10
−4Mv
0.83
([η]は極限粘度、Cはポリマー濃度を示す)。
【0019】
ポリカーボネート基材は、通常、板状であり、ポリカーボネート基板の市販品としては、例えば、ユーピロンシート(三菱ガス化学(株)製)、パンライトシート(帝人化成(株)製)、カーボグラス(旭硝子(株)製)、レキサンシート(旭硝子(株)製)、タキロンポリカーボネートプレート(タキロン(株)製)などを利用できる。
【0020】
ポリカーボネート基材は、易接着層を有していてもよいが、導電性基材の生産性の点から、易接着層を有していない基材(易接着処理されていない基材)が好ましい。
【0021】
ポリカーボネート基材(基板)の厚み(平均厚み)は、用途に応じて適宜選択すればよく、例えば、0.001〜10mm、好ましくは0.01〜5mm、さらに好ましくは0.05〜3mm(特に0.1〜1mm)程度であってもよい。
【0022】
[塗膜(導電性ペースト)]
塗膜は、導電材料として銀を含むペースト(導電性ペースト)であり、銀コロイド粒子と表面改質剤とを含む。
【0023】
(銀コロイド粒子)
銀コロイド粒子は、銀ナノ粒子及び保護コロイドを含む。保護コロイドは、ペースト中での銀ナノ粒子の分散性などに作用し、ペースト中での存在形態(銀ナノ粒子との結合状態又は形態)は特に限定されないが、銀ナノ粒子表面を被覆していてもよい。
【0024】
(1)銀ナノ粒子
銀ナノ粒子はナノメーターサイズである。銀ナノ粒子の数平均粒径(数平均一次粒径)は50nm以下(例えば、1〜50nm)、好ましくは1.5〜45nm、さらに好ましくは2〜40nm、特に5〜40nm程度であってもよく、通常10〜40nm(例えば、20〜35nm)程度であってもよい。
【0025】
また、銀ナノ粒子は、前記平均粒径を有するとともに、200nm以下の範囲で広い粒度分布を示すが、200nmを超える粗大粒子を殆ど含んでいなくてもよい。そのため、前記金属ナノ粒子の最大一次粒径は、例えば、200nm以下、好ましくは150nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。
【0026】
銀ナノ粒子は、全体として、このような数十ナノサイズの微小な平均粒子径を有するとともに、100〜200nmの比較的大粒径の粒子も一定量含有するという特徴を有している。すなわち、銀ナノ粒子は、200nm以下の範囲で広い粒度分布を示す。具体的には、粒子径が100nm未満の銀ナノ粒子(小粒子群)と、粒子径が100〜200nmの銀ナノ粒子(大粒子群)との体積比率が、小粒子群/大粒子群=90/10〜30/70、好ましくは70/30〜30/70、さらに好ましくは60/40〜35/65(特に50/50〜40/60)程度である。100nm以上の粒子が一定の体積を占めることにより、大粒子の隙間に小粒子が充填され、焼成による焼結膜の特性が向上すると推定される。
【0027】
さらに、本発明における粒度分布は、偏りの少ない正規分布に近い分布であってもよいが、偏りのある分布であってもよく、例えば、小粒子群及び大粒子群のそれぞれの分布において1以上のピーク(極大部)を有していてもよい。特に、小粒子群では、比較的均一な分布であり、かつ大粒子群では、150〜200nmの比較的大きい粒子の割合が大きい分布であるのが好ましい。例えば、150〜200nmの粒子の体積比率が、全粒子に対して、例えば、10〜60体積%、好ましくは20〜55体積%、さらに好ましくは30〜50体積%であってもよい。このような150nmを超える粒子に対して、100nm未満の粒子が満遍なく存在することにより充填効率が向上すると推定される。さらに、小粒子群の数平均粒子径が、例えば、5〜50nm、好ましくは10〜40nm、さらに好ましくは15〜35nm程度であり、大粒子群の数平均粒子径が、例えば、120〜195nm、好ましくは150〜190nm、さらに好ましくは160〜190nm程度であってもよい。
【0028】
このような分布を有する銀ナノ粒子は、低温で焼成しても、緻密な膜を形成でき、導電性が高く、高硬度の膜を形成できる。さらに、大きい粒子が増加して粒子の表面積が減少し、表面に吸着する分散剤の量が減少するため、焼成した際に膜から保護コロイド由来の有機物を除去し易くなり、厚膜とした場合にも低抵抗の導体が得られる。
【0029】
(2)保護コロイド
保護コロイドは、カルボキシル基を有する有機化合物と高分子分散剤とで構成されている。
【0030】
カルボキシル基を有する有機化合物としては、特開2010−80442号公報(特許文献1)に記載の有機化合物などが挙げられる。なかでも、飽和脂肪族カルボン酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ステアリン酸などのC
1−24アルカン酸、脂環族ヒドロキシカルボン酸(又は脂環族骨格を有するヒドロキシカルボン酸、例えば、コール酸などのC
6−34脂環族ヒドロキシカルボン酸、好ましくはC
10−34脂環族ヒドロキシカルボン酸、さらに好ましくはC
16−30脂環族ヒドロキシカルボン酸)が好ましい。特に、銀ナノ粒子の表面と親和性が高く、適度な分散性(凝集性)及び焼結性にも優れる点から、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸などのC
1−10アルカン酸(アルカンカルボン酸)が好ましく、酢酸やプロピオン酸などのC
1−6アルカン酸(好ましくはC
1−4アルカン酸、さらに好ましくはC
2−3アルカン酸、特に酢酸)がより好ましい。特に、酢酸などのC
1−4アルカン酸を用いると、金属コロイド粒子が適度に分散及び凝集されているためか、燃焼時の割れやボイドの発生が抑制され、緻密で硬質な焼成膜を形成できる。
【0031】
高分子分散剤としても、特許文献1に記載の両親媒性の高分子分散剤(又はオリゴマー型分散剤)などが挙げられる。なかでも、カルボキシル基などの酸基を有する高分子分散剤として、ポリ(メタ)アクリル酸類[又はポリアクリル酸系樹脂、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸と共重合性単量体(例えば、(メタ)アクリレート、無水マレイン酸など)との共重合体などの(メタ)アクリル酸を主成分とするポリマー、これらの塩(例えば、ポリアクリル酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩など)など]、ディスパービック190、ディスパービック194[ビックケミー・ジャパン(株)製]、アミノ基などの塩基性基を有する高分子分散剤として、ポリアルキレンイミン(ポリエチレンイミンなど)、ポリビニルピロリドン、ポリアリルアミン、ポリエーテルポリアミン(ポリオキシエチレンポリアミンなど)などが汎用され、カルボキシル基を有する高分子分散剤が好ましい。
【0032】
酸基(特にカルボキシル基)を有する高分子分散剤において、酸価は、例えば、1mgKOH/g以上(例えば、2〜1500mgKOH/g程度)、好ましくは3mgKOH/g以上(例えば、4〜1200mgKOH/g程度)、さらに好ましく5mgKOH/g以上(例えば、8〜1000mgKOH/g程度)、特に10mgKOH/g以上(例えば、12〜900mgKOH/g程度)の範囲から選択できる。特に、酸基(特にカルボキシル基)を有する高分子分散剤が、親水性ユニットおよび疎水性ユニットを有する化合物などである場合、酸価は、例えば、1mgKOH/g以上(例えば、2〜100mgKOH/g程度)、好ましくは3mgKOH/g以上(例えば、4〜90mgKOH/g程度)、さらに好ましくは5mgKOH/g以上(例えば、6〜80mgKOH/g程度)、特に7mgKOH/g以上(例えば、8〜70mgKOH/g程度)であってもよく、通常3〜50mgKOH/g程度(例えば、5〜30mgKOH/g程度)であってもよい。なお、酸基を有する高分子分散剤において、アミン価は0(又はほぼ0)であってもよい。
【0033】
高分子分散剤の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したとき、ポリスチレン換算で、1000〜1000000(例えば、1200〜900000)程度の範囲から選択でき、例えば、1500〜800000、好ましくは2000〜700000、さらに好ましくは3000〜500000(例えば、5000〜300000)、特に7000〜200000程度であってもよい。
【0034】
銀コロイド粒子において、保護コロイド(カルボキシル基を有する有機化合物及び高分子分散剤の総量)の割合は、銀ナノ粒子100質量部に対して、例えば、0.1〜100質量部(例えば、0.5〜80質量部)、好ましくは1〜50質量部、さらに好ましくは2〜40質量部(特に、3〜30質量部)程度であってもよい。
【0035】
銀コロイド粒子において、カルボキシル基を有する有機化合物の割合は、例えば、銀ナノ粒子100質量部に対して、例えば、0.05〜50質量部、好ましくは0.1〜40質量部、さらに好ましくは0.3〜30質量部程度であってもよい。
【0036】
銀コロイド粒子において、高分子分散剤の割合は、例えば、銀ナノ粒子100質量部に対して、例えば、0.01〜50質量部、好ましくは0.05〜30質量部、さらに好ましくは0.1〜20質量部程度であってもよい。
【0037】
カルボキシル基を有する有機化合物と高分子分散剤との割合(溶媒などを含む場合は固形分)は、前者/後者(質量比)=99/1〜1/99の範囲から選択でき、例えば、97/3〜1/99、好ましくは95/5〜2/98、さらに好ましくは92/8〜3/97程度であってもよい。
【0038】
なお、銀コロイド粒子は、保護コロイドとして少なくとも前記保護コロイドを含んでいればよく、他の保護コロイドを含んでいてもよい。他の保護コロイドとしては、特許文献1に記載の有機化合物などが挙げられる。保護コロイドの割合は、前記保護コロイド100質量部に対して、例えば、0.1〜100質量部、好ましくは0.5〜50質量部、さらに好ましくは1〜30質量部程度であってもよい。
【0039】
なお、銀コロイド粒子中の保護コロイドなどの割合は、慣用の方法、例えば、熱分析(例えば、熱質量/示差熱同時分析など)により、測定することができる。
【0040】
銀コロイド粒子の製造方法は、特に限定されず、慣用の方法、例えば、銀ナノ粒子に対応する銀化合物を、保護コロイド及び還元剤の存在下、溶媒中で還元することにより調製できる。具体的な製造方法としては、例えば、特許文献1や特開2010−229544号公報に記載の方法などが挙げられる。
【0041】
(表面改質剤)
表面改質剤(基材の表面改質剤)は、ヒドロキシル基及びエーテル結合を有する化合物であり、ポリカーボネート基材の表面を粗化して基材に対する導電膜の密着性を向上させる機能を有するとともに、分散媒(溶媒)としての機能も有している。
【0042】
表面改質剤において、分子内のヒドロキシル基の数は1以上であればよく、例えば、1〜10、好ましくは1〜5、さらに好ましくは1〜3(特に1〜2)程度である。分子内のエーテル結合の数も1以上であればよく、例えば、1〜10、好ましくは1〜5、さらに好ましくは1〜3(特に1〜2)程度である。
【0043】
表面改質剤は、前記範囲で分子内にヒドロキシル基とエーテル結合とを有していればよいが、通常、分子内にヒドロキシル基及びエーテル結合を有する炭化水素(エーテルアルコール類)である。エーテルアルコール類は、ヒドロキシル基及び不飽和エーテル結合を有する炭化水素であってもよいが、取り扱い性などの点から、ヒドロキシル基及び飽和エーテル結合を有する炭化水素が好ましい。
【0044】
エーテルアルコール類(括弧内沸点)としては、例えば、ポリアルキレングリコール類[例えば、ジエチレングリコール(245℃)、トリエチレングリコール(179℃)、テトラエチレングリコール(327.3℃)、ポリエチレングリコールなど]、セロソルブ類[例えば、メチルセロソルブ(別名:エチレングリコールモノメチルエーテル)(124.5℃)、エチルセロソルブ(エチレングリコールモノエチルエーテル)(135.1℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(171.2℃)、エチレングリコールモノt−ブチルエーテル(別名:2−t−ブトキシエタノール)(152℃)などのC
1−4アルキルセロソルブ;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどのプロピレングリコールモノC
1−4アルキルエーテルなど]、カルビトール類[例えば、メチルカルビトール(別名:ジエチレングリコールモノメチルエーテル)(194℃)、エチルカルビトール(200℃)、ブチルカルビトール(別名:2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール)(230.4℃)などのC
1−4アルキルカルビトール;ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルなどのジプロピレングリコールモノC
1−4アルキルエーテルなど]、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル類[例えば、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(249℃)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(271℃)などのトリエチレングリコールモノC
1−4アルキルエーテルなど]、環状エーテルアルコール(例えば、ヒドロキシテトラヒドロフラン、ヒドロキシジオキサンなど)などが挙げられる。これらのエーテルアルコール類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0045】
これらのエーテルアルコール類のうち、分子内にヒドロキシル基及びエーテル結合を有する脂肪族炭化水素、例えば、ジエチレングリコールなどのポリC
2−4アルキレングリコール、ブチルセロソルブなどのC
1−4アルキルセロソルブ、ブチルカルビトールなどのC
1−4アルキルカルビトールなどが好ましい。これらの脂肪族炭化水素の総炭素数は3以上であればよく、例えば、3〜12、好ましくは4〜10、さらに好ましくは4〜8程度である。
【0046】
表面改質剤(混合物である場合、各分散媒の沸点)の沸点は、例えば、100〜300℃、好ましくは140〜250℃、さらに好ましくは200〜250℃程度である。沸点が低すぎると、作業中に揮発して導電性ペーストが固化する虞があり、高すぎると、乾燥及び焼成による除去が困難となる虞がある。
【0047】
銀コロイド粒子と表面改質剤との質量割合は、例えば、前者/後者=40/60〜95/5、好ましくは50/50〜94/6、さらに好ましくは70/30〜93/7(特に80/20〜90/10)程度である。表面改質剤の割合が少なすぎると、導電膜の密着性が低下する虞があり、多すぎると、導電膜の割れが発生し易い。
【0048】
(他の成分)
導電性ペーストは、銀ナノ粒子以外の導電材料(導電性フィラー)を含んでいてもよい。導電性フィラーとしては、慣用の導電性フィラーを利用でき、例えば、金属粒子(一次粒径200nmを超える銀粒子(銀粉)又は銀フレーク、銅ナノ粒子、銀コート銅粉、金ナノ粒子、金粉など)、炭素材料(カーボンブラック、グラファイトなど)などを利用できる。
【0049】
導電性ペーストは、用途に応じて、さらに慣用の添加剤、例えば、着色剤(染顔料など)、色相改良剤、染料定着剤、光沢付与剤、金属腐食防止剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、界面活性剤又は分散剤(アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤など)、分散安定化剤、増粘剤又は粘度調整剤、保湿剤、チクソトロピー性賦与剤、レベリング剤、消泡剤、殺菌剤、充填剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0050】
なお、導電性ペーストは、密着性を向上させるために、バインダー樹脂などの樹脂成分を配合してもよいが、本発明では、銀コロイド粒子及び表面改質剤を含む塗膜は導電膜の密着性が高いため、バインダー樹脂が含まれていなくても、強固に密着した導電膜を形成できる。そのため、導電性を向上できる点から、バインダー樹脂などの樹脂成分を実質的に含まないのが好ましい。
【0051】
導電性ペーストは、前記構成のペーストを得ることができる限り特に限定されないが、通常、前記銀コロイド粒子を、前記表面改質剤(分散媒)に慣用の方法で分散させることにより得ることができる。
【0052】
ポリカーボネート基材と塗膜との間には易接着層を形成してもよいが、前述のように、本発明では、易接着層を介在させなくても、強固な導電膜を形成できる。そのため、生産性の点から、易接着層を介在させない積層体が好ましい。
【0053】
[導電性基材の前駆体及び導電性基材の製造方法]
本発明の導電性基材の前駆体(積層体)は、ポリカーボネート基材の上に、前記導電性ペーストを用いて塗膜を形成することにより製造できる。
【0054】
導電性ペーストを用いて塗膜を形成する方法としては、慣用のコーティング方法、例えば、フローコーティング法、ディスペンサーコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、キャスト法、バーコーティング法、カーテンコーティング法、ロールコーティング法、グラビアコーティング法、ディッピング法、スリット法、フォトリソグラフィ法、インクジェット法などを利用できる。前記コーティング方法において、塗膜でパターンを形成(描画)してもよく、形成されたパターン(描画パターン)を焼成処理することにより焼結パターン(焼結膜、金属膜、焼結体層、導体層)を形成できる。パターン(塗布層)を描画するための描画法(又は印刷法)としては、パターン形成可能な印刷法であれば特に限定されず、例えば、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、凹版印刷法(例えば、グラビア印刷法など)、オフセット印刷法、凹版オフセット印刷法、フレキソ印刷法などが挙げられる。
【0055】
得られた積層体は、導電性基材の前駆体であり、塗膜を所定の温度で加熱(又は焼成又は加熱処理)する焼成工程に供される。なお、焼成工程に先立って、必要に応じて予備乾燥工程に供してもよい。
【0056】
予備乾燥工程では、自然乾燥してもよいが、加熱して乾燥してもよい。予備乾燥工程では、溶媒の種類に応じた温度で乾燥され、例えば、80℃未満(例えば、10℃以上80℃未満)、好ましくは20〜60℃、さらに好ましくは30〜50℃で乾燥してもよい。予備乾燥は塗膜表面が乾燥すればよく、乾燥方法及び時間は特に限定されず、例えば、室温放置、温風乾燥、ホットプレート、オーブン等により5分以上(例えば30分〜1時間)程度乾燥してもよい。この予備乾燥により、焼成処理後の導電膜の割れなどを抑制できる。
【0057】
本発明では、比較的低温であっても、表面改質剤によりポリカーボネート基材の表面が粗化されるとともに、銀ナノ粒子が融着して連続膜を形成するため、低温での焼成が可能であり、ポリカーボネートで形成された基材であっても焼成できる。焼成温度は、例えば、80〜150℃、好ましくは90〜140℃、さらに好ましくは100〜130℃(特に110〜120℃)程度である。焼成温度は、高いほど銀ナノ粒子の焼結が進行し、導電性が向上するが、高すぎると、ポリカーボネート基材が劣化や変形する虞がある。焼成時間(加熱時間)は、例えば、30分以上、好ましくは30分〜3時間、さらに好ましくは45分〜2時間(例えば、1時間程度)であってもよい。
【0058】
焼成は、空気中で行われてもよく、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなど)雰囲気中で行われてもよい。
【0059】
得られた焼成膜又は導電膜(焼結後の塗膜、焼結パターン)の厚みは、用途に応じて0.01〜10000μm程度の範囲から適宜選択でき、例えば、0.1〜50μm、好ましくは0.3〜30μm、さらに好ましくは0.5〜10μm程度であってもよい。
【0060】
得られた導電膜は、導電性が高く、比抵抗が100μΩ・cm以下であってもよく、例えば、50μΩ・cm以下(例えば、0.1〜50μΩ・cm)、好ましくは30μΩ・cm以下(例えば、0.5〜30μΩ・cm)、さらに好ましくは20μΩ・cm以下(例えば、1〜20μΩ・cm)程度であってもよい。特に、バインダー樹脂を使用しない場合は、導電性を向上でき、比抵抗は、例えば、15μΩ・cm以下(例えば、1〜15μΩ・cm)、好ましくは10μΩ・cm以下(例えば、5〜10μΩ・cm)であってもよい。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下の例において、導電膜の各物性における測定方法、実施例に用いた材料を以下に示す。
【0062】
[導電膜の割れ]
導電膜の割れは、目視で割れの有無を観察し、評価した。
【0063】
[導電膜の比抵抗]
比抵抗は、四探針法での表面抵抗と膜厚とから算出した。実施例及び比較例で得られた導電膜について、それぞれ10サンプルの測定を行い、その平均値を求めた。
【0064】
[導電膜の密着性]
導電膜の密着性は、JIS K5600−5−6クロスカット法に記載の試験方法に準じて、前記クロスカット法に記載の以下の基準にしたがって分類し、評価した。
【0065】
分類0:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがない
分類1:カットの交差点における塗膜の小さなはがれ。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に5%を上回ることはない
分類2:塗膜がカットの縁に沿って、及び/又は交差点においてはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に5%を超えるが15%を上回ることはない
分類3:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/又は目のいろいろな部分が部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に15%を超えるが35%を上回ることはない
分類4:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/又は数か所の目が部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは,明確に35%を上回ることはない
分類5:分類4でも分類できないはがれ程度のいずれか。
【0066】
[実施例1]
(銀コロイド粒子凝集体の合成)
硝酸銀66.8g、カルボキシル基を有する凝集助剤(B1)として酢酸(和光純薬工業(株)製)10g、高分子分散剤としてカルボキシル基を有する高分子分散剤(ビックケミー・ジャパン(株)製、「ディスパービック190」、親水性ユニットであるポリエチレンオキサイド鎖と疎水性ユニットであるアルキル基とを有する両親媒性分散剤、溶媒:水、不揮発成分40%、酸価10mgKOH/g、アミン価0)2.0gを、イオン交換水100gに投入し、激しく撹拌した。これに2−ジメチルアミノエタノール(和光純薬工業(株)製)100gを徐々に加えたところ、反応溶液が60℃まで上昇した。液温が50℃に下がったところで70℃に設定されたウォーターバス中で2時間加熱撹拌した。1時間後、銀コロイド粒子凝集体が灰色の沈殿物として得られた。この銀コロイド凝集体が沈殿した反応溶液の上澄み液を除去し、イオン交換水で希釈した。静置した後、上澄み液を除去し、メタノールでさらに希釈した。再度、静置後、上澄み液を除去し、メタノールで希釈した。その後、メンブレンフィルタ(アドバンテック社製、ポアサイズ0.5μm)を付けた加圧ろ過機で銀コロイド粒子凝集体を回収した。
【0067】
(銀コロイド粒子凝集体の分析)
特開2010−229544号公報の実施例1に記載の方法で、得られた銀ナノ粒子の数平均粒子径を算出したところ33nmであり、粒子の全体積中において100nm未満の粒子が65.3体積%、100〜200nmの粒子が34.7体積%であった。
【0068】
(銀コロイド粒子凝集体の焼成)
合成により得られた銀コロイド粒子凝集体に、分散媒(表面改質剤)として2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール(和光純薬工業(株)製)10gを添加して攪拌し、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール分散の銀ナノ粒子ペーストを作成した。このペーストをポリカーボネートシート(タキロン(株)製、サイズ2cm×2cm×厚み0.5mm)に7000rpmで10秒間スピンコートし、ホットプレート上において、40℃で予備乾燥後、120℃で60分間焼成して膜厚7μmの導電膜を有する導電性基材を得た。
【0069】
[実施例2]
2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールをジエチレングリコール(和光純薬工業(株)製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして導電性基材を得た。
【0070】
[比較例1]
2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールを酢酸2−(2−ブトキシエトキシ)エチル(和光純薬工業(株)製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして導電性基材を得た。
【0071】
[比較例2]
2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールを1−デカノール(和光純薬工業(株)製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして導電性基材を得た。
【0072】
[比較例3]
2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールを1,5−ペンタンジオール(和光純薬工業(株)製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして導電性基材を得た。
【0073】
[比較例4]
2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールをN−メチルピロリドン(和光純薬工業(株)製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして導電性基材を得た。
【0074】
[比較例5]
2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールをエチレングリコール(和光純薬工業(株)製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして導電性基材を得た。
【0075】
[比較例6]
2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールをp−イソプロピルベンジルアルコール(東京化成工業(株)製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして導電性基材を得た。
【0076】
[比較例7]
2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールをN,N−ジメチルプロピルアミド(東京化成工業(株)製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして導電性基材を得た。
【0077】
[比較例8]
2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールをイソホロン(東京化成工業(株)製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして導電性基材を得た。
【0078】
実施例及び比較例で得られた導電性基材の評価結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
実施例で得られた導電性基材は、導電性が高い上に、割れなく、密着性が高かった。一方、比較例1,2,4及び7で得られた導電性基材では、割れが発生した。また、比較例3,5,6及び8の導電性基材では、割れは発生しなかったものの、密着性が低かった。