(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
(詳細な説明)
紅海の深海無酸素塩水は地球上で最も遠く離れた、困難な極限環境の1つであり、同時
に依然として最も研究の進んでいないものの1つであると考えられている。約25のそのよ
うな塩水で満たされたプールが現在知られており、それらの全てが、上昇した温度、上昇
した種々の金属イオン型を伴う重金属の濃度を有する、無酸素で高度に塩を含む深海水域
である。該深海水域は、上層の海水との間に特徴的に急激な勾配に富む界面を形成する。
それぞれその全体が引用により組み込まれているBacker H及びSchoell Mの文献、(1972)
「紅海の塩水及び金属を含む堆積物を有する新たな海淵(New deeps with brines and me
talliferous sediments in Red Sea.)」 Nature-Physical Science 240(103):153及びHa
rtmann M、Scholten JC、Stoffers P、及びWehner Fの文献、(1998)「紅海の塩水で満た
された海淵の水界地理構造―シャバン、ケブリット、アトランチスII世及びディスカバリ
ー海淵からの新たな結果(Hydrographic structure of brine-filled deeps in the Red
Sea - new results from the Shaban, Kebrit, Atlantis II, and Discovery Deep.)」
Mar Geol 144(4):311-330を参照されたい。地質学的及び地球化学的研究が頻繁に行われ
ているのとは対照的に、紅海の深海塩水の微生物学に焦点を当てた研究は非常に少なく、
それらのバイオテクノロジーにおける応用に専心した研究は1つもない。初期の培養非依
存的研究及び培養ベースの研究は、局地的微生物群集の予期せぬ莫大な生物多様性を初め
て垣間見ることを提供し、これらはいくつかの新たな分類群の同定及びこれらの環境中で
繁栄する新たな好極限環境微生物の単離を伴っていた。それぞれその全体が引用により組
み込まれているAntunes A、Eder W、Fareleira P、Santos H、及びHuber Rの文献、(2003
) 「新属新種のサリニスファエラ・シャバネンシス(Salinisphaera shabanensis)、紅
海シャバン海淵の塩水-海水界面由来の新規中程度好塩性細菌(Salinisphaera shabanens
is gen. nov., sp nov., a novel, moderately halophilic bacterium from the brine-s
eawater interface of the Shaban Deep, Red Sea.)」 Extremophiles 7(1):29-34、Ant
unes Aらの文献、(2008) 「紅海の塩水で満たされた海淵由来の新系譜の好塩性無細胞壁
収縮性細菌(A new lineage of halophilic, wall-less, contractile bacteria from a
brine-filled deep of the Red Sea.)」 J Bacteriol 190(10):3580-3587、Antunes Aら
の文献、(2008) 「新種のハロラブダス・ティアマテア(Halorhabdus tiamatea)、紅海
の深海塩過剰含有無酸素海盆由来の非着色極限的好塩性古細菌、及びハロラブダス属の修
正された記述(Halorhabdus tiamatea sp nov., a non-pigmented, extremely halophili
c archaeon from a deep-sea, hypersaline anoxic basin of the Red Sea, and emended
description of the genus Halorhabdus.)」 Int J Syst Evol Micr 58:215-220、Eder
W、Ludwig W、及びHuber Rの文献、(1999) 「高度に塩を含む紅海のケブリット海淵塩水
堆積物から回収された新規16S rRNA遺伝子配列(Novel 16S rRNA gene sequences retrie
ved from highly saline brine sediments of Kebrit Deep, Red Sea.) Arch Microbiol
172(4):213-218、 Eder W、Jahnke LL、Schmidt M、及びHuber Rの文献、(2001) 「16S
rRNA遺伝子配列及び培養法を介して研究された、紅海ケブリット海淵塩水-海水界面の微
生物多様性(Microbial diversity of the brine-seawater interface of the Kebrit De
ep, Red Sea, studied via 16S rRNA gene sequences and cultivation methods.)」 Ap
pl Environ Microb 67(7):3077-3085、及びEder W、Schmidt M、Koch M、Garbe-Schonber
g D、及びHuber Rの文献、(2002) 「紅海シャバン海淵塩水-海水界面の原核生物の系統発
生学的多様性及び対応する地球化学的データ(Prokaryotic phylogenetic diversity and
corresponding geochemical data of the brine-seawater interface of the Shaban De
ep, Red Sea.)」 Environ Microbiol 4(11):758-763を参照されたい。この環境は非常に
過酷な条件であるために、存在する微生物が生存のために新規の代謝経路、膜を貫通する
輸送システム、酵素、及び化学物質を発達させた可能性が非常に高い。
【0024】
この環境はDNA複製機構並びにゲノムDNAを複製し、維持するためのDNAプロセシング酵
素にとってきわめて過酷な条件を提示し、このことは新規適応メカニズム及び新規核酸結
合タンパク質が利用されていることを示唆している。塩水プール由来の古細菌種及び細菌
種を使用して、新規DNAシークエンス用ポリメラーゼ及び他の重要なDNA修飾酵素をスクリ
ーニングすることができる。
【0025】
DNAシークエンスに使用される古典的な連鎖終結方法であるサンガー法は、連鎖終結因
子であるジデオキシヌクレオシド三リン酸(dideoxynucleoside triphosphate)(ddNTP
)を高い速度で取り込むDNAポリメラーゼの使用に依存する。その全体が引用により組み
込まれているTabor S及びRichardson CCの文献、(1995) 「大腸菌(Escherichia coli)D
NAポリメラーゼIファミリーのDNAポリメラーゼ中の単一残基はデオキシリボヌクレオチド
及びジデオキシリボヌクレオチドの識別に不可欠である(A single residue in DNA poly
merases of the Escherichia coli DNA polymerase I family is critical for distingu
ishing between deoxy- and dideoxyribonucleotides.)」 Proc Natl Acad Sci U S A 9
2(14):6339-6343を参照されたい。DNAポリメラーゼは通常、プライマー3'-OH基による、
流入するdNTPのα-ホスフェートへの求核攻撃を触媒する。この反応においては、プライ
マー/鋳型鎖及び流入するdNTPを整列させ、置換的求核攻撃反応を仲介するために、2つの
Mg
2+イオンが要求される。それぞれその全体が引用により組み込まれているJohnson A及
びO'Donnell Mの文献、(2005) 「細胞のDNAレプリカーゼ:複製フォークにおける構成要
素及び動力学(Cellular DNA replicases: components and dynamics at the replicatio
n fork.)」 Annu Rev Biochem 74:283-315、並びにHamdan SM及びRichardson CCの文献
、(2009) 「レプリソーム中のモータ、スイッチ、及び接触(Motors, switches, and con
tacts in the replisome)」を参照されたい。ddNTP中で3'-OH求核性基が欠如しているこ
とが、DNAポリメラーゼ阻害剤としてのその作用の原因である。その全体が引用により組
み込まれているTabor S及びRichardson CCの文献、(1995) 「大腸菌DNAポリメラーゼIフ
ァミリーのDNAポリメラーゼ中の単一残基はデオキシリボヌクレオチド及びジデオキシリ
ボヌクレオチドの識別に不可欠である(A single residue in DNA polymerases of the E
scherichia coli DNA polymerase I family is critical for distinguishing between d
eoxy- and dideoxyribonucleotides.)」Proc Natl Acad Sci U S A 92(14):6339-6343を
参照されたい。シークエンスの間、DNA合成反応は、特異的プライマーから開始し、ddNTP
の取り込みで終結する。色素標識又は放射性標識ベースのddNTPを使用することにより、
これらの産物の同一性をマッピングすることができる。一般に、DNAポリメラーゼはdNTP
を非常に高い正確性で重合し(取り込まれたヌクレオチド10
3-10
5個当たりに1つの誤り)
、プルーフリーディングエキソヌクレアーゼ活性をコードして誤って取り込まれたヌクレ
オチドを除去する(正確性は取り込まれたヌクレオチド10
5-10
7個当たり1つの誤りまで増
加する)。従って、理想的なDNAシークエンス用ポリメラーゼは、高速かつ高い進行性のD
NA合成、高いdNTP取り込みの正確性、プルーフリーディングエキソヌクレアーゼ活性、高
い熱安定性及び高いddNTP取り込みの速さを有するものである。
【0026】
実際、これらの特性の全ては、古細菌種から単離された4つのDNAポリメラーゼ、パイロ
コッカス・フリオサスDNAポリメラーゼ(pfu DNA Pol)、サーモコッカス・リトラリスVe
nt(商標)DNAポリメラーゼ(Vent DNA Pol)、サーモコッカス・コダカラエンシス(KOD
Pol)及びサーマス・アクアティクスDNAポリメラーゼ(Taq Pol)の市場への導入により
実現されている(表1)。
【0027】
表1. DNAポリメラーゼの特性。この表はTakagi Mらの文献、(1997) 「パイロコッカス種K
OD1由来のDNAポリメラーゼの特性評価及びそのPCRへの応用(Characterization of DNA p
olymerase from Pyrococcus sp. strain KOD1 and its application to PCR.)」 Applie
d and Environmental Microbilogy 63(11):4504-4510から採用されたものである。
【表1】
【0028】
本明細書で開示されるのは、広範囲の塩濃度及び金属イオン濃度並びに金属イオン型を
利用する頑強な反応特徴、並びに増強された速度進行性及びプルーフリーディング活性を
有する商業用ポリメラーゼを作出する目的で、塩水プール由来のDNAポリメラーゼを利用
する方法である。また、開示されるのは核酸を増幅させるための方法及び組成物であり、
ここで、該ポリメラーゼは高塩濃度及び高金属イオン濃度の下で、種々の金属イオン型の
存在下で、かつ高温条件でDNAを伸長することができるため、現在利用可能な分子生物学
的、生化学的及び生物物理学的技術の改良のために該ポリメラーゼを利用することが可能
となる。従来のポリメラーゼはいずれも高塩濃度、高金属濃度、及び高温のような過酷な
条件に対し理想的ではなく、ましてこれらの条件の2以上の組み合わせに対して理想的で
はない。本明細書で開示されるのは、これらの過酷な条件の1つの下で耐えることができ
るだけでなく、これらの条件の様々な組み合わせ、例えば高塩濃度かつ高金属濃度、高金
属濃度かつ高温、高塩濃度かつ高温、又は高塩濃度かつ高金属濃度かつ高温に耐えること
もできるポリメラーゼである。
【0029】
該塩水プールから単離された頑強なDNAシークエンス用酵素は、PCR中に広範囲の塩濃度
及び金属イオン濃度、種々の金属イオン型並びに広範囲のpHに耐えることができる。4つ
のDNAポリメラーゼのクローンが該塩水プールから同定された(
図9、表2)。該塩水プー
ルからの微生物由来のこれらのポリメラーゼは広範囲の緩衝条件及び金属イオン濃度及び
金属イオン型でのPCR反応を実施するために使用することができる。PCRの最適化は依然と
して注意を要するものであるが、それはPCRが高収量、高い進行性及び高い正確性の増幅
されたDNA断片をもたらす適当な塩濃度及び金属イオン濃度のスクリーニングを要求し得
るためである。該塩水プール由来の熱古細菌種が高塩濃度でそれらのゲノムを複製する能
力は、それらのDNAポリメラーゼが相対的に高い親和性でDNAと結合し、それによりPCRの
感度を潜在的に増強することができ、従って広範囲の塩濃度に耐えることができることを
示唆している。さらに、これらのDNAポリメラーゼの高金属イオン濃度に耐える能力は、
該DNAポリメラーゼが広範囲の金属イオン濃度で働くことができることを示唆している。
最後に、これらのDNAポリメラーゼの種々の金属イオン型に耐える能力は、該DNAポリメラ
ーゼが広範囲の金属イオン型で働くことができることを示唆している。該塩水プール好熱
性古細菌種由来のDNAポリメラーゼをクローニングし、発現させ、精製して特性評価した
。
【0030】
表2. 塩水プール由来のDNAポリメラーゼの同定
【表2】
【0031】
特に、サーモコッカス・リトラリスのDNA依存性ポリメラーゼと42%相同なクローン3(
BR3と呼ぶ、
図10)は、PCR及びDNAシークエンスに使用されている、いずれの公知の市販D
NAポリメラーゼよりもずっと頑強な特性を示している。
【0032】
BR3は極めて多用途の緩衝条件に耐える。
図1A及び1Bは、BR3ポリメラーゼが最大300 mM
のNaClでその最適な活性を保持するのに対し、pfu及びKODポリメラーゼは最大わずか10 m
Mでそれらの最適活性を保持することを示している。また、BR3ポリメラーゼは種々の型の
塩にも耐える。
図2は、BR3ポリメラーゼが最大300 mMのKClに(
図2A)、最大100 mMの(NH
4)
2SO
4に(
図2B)、かつ最大250 mMのK-グルタミン酸塩に(
図2C)、耐えることを示して
いる。その範囲はpfuポリメラーゼより少なくとも15〜30倍高い。
【0033】
図3は、塩濃度が高い場合に、BR3ポリメラーゼがMgCl
2及びMnCl
2存在下でpfuポリメラ
ーゼよりもずっと高い活性を示すことを示している(
図3B)。さらに、BR3ポリメラーゼ
は高い金属イオン耐性、例えば0.1〜100 mMのMgCl
2を示している(
図4A及び4B)。この範
囲はpfuポリメラーゼ及びKODポリメラーゼよりも10倍高い。塩濃度が低い場合(
図3A)、
pfuポリメラーゼはMgCl
2及びMnCl
2の存在下でより高い活性を示す。カルシウム又はリチ
ウムイオンが存在する場合、いずれのポリメラーゼも有意な活性を示さない。高塩濃度に
おいて、BR3ポリメラーゼが亜鉛イオンの存在下で活性を保持することに注目すべきであ
る(
図3B及び3C)。BR3ポリメラーゼは亜鉛イオン又はMg
2+及びMn
2+以外の何らかの金属
イオンを使用することが初めて知られたポリメラーゼである。
【0034】
BR3ポリメラーゼはpfuポリメラーゼよりも少なくとも2倍高いプルーフリーディング活
性を有する(
図5)。
図5は、BR3ポリメラーゼが、プライマー鎖上の最大3つのミスマッチ
の存在下、同じ活性レベルを生み出すpfuポリメラーゼのわずか半分の濃度しか要求しな
いことを示している。
【0035】
図6は、BR3の速度及び進行性を測定し、それをpfuポリメラーゼと比較するために使用
した一分子アッセイを示しており、表3は、この測定の結果を示している。ここで、BR3ポ
リメラーゼはpfuポリメラーゼよりも少なくとも1.5倍高い速度及び進行性を示している。
【0036】
表3. BR3ポリメラーゼ及びpfuポリメラーゼの速度及び進行性の比較
【表3】
【0037】
BR3ポリメラーゼは7.5〜9.0のpH範囲で同じ重合活性を保持する。また、BR3ポリメラー
ゼは最大65℃で高い熱安定性を示した(
図7)。BR3ポリメラーゼの熱安定性は、極限好熱
性ポリメラーゼの活性部位における高度に保存されたジスルフィド結合の形成を誘導する
ことにより、増加させることができる可能性がある。また、BR3ポリメラーゼはddNTPの取
り込みに対しよく識別する(
図8)。BR3において活性部位のF残基をYへと変異させること
により、ddNTPの取り込み効率が増加する可能性が非常に高い(
図8)。
【0038】
これらの特性のために、このポリメラーゼは最小の反応最適化を伴い、かつ種々の試料
型及び標本を用いたDNAシークエンス及び分子生物学的技術において使用するために理想
的となる。
【0039】
該BR3ポリメラーゼは組換え技術を用いて生産することができる。
【0040】
本明細書で使用される用語「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、互換的に使用され
てアミノ酸残基のポリマーを指す。用語「組換えポリペプチド」は、組換え技術によって
生産されるポリペプチドを指し、ここで一般に発現されるタンパク質をコードするDNA又
はRNAは適当な発現ベクターに挿入され、そして次に該ポリペプチドの生産用の宿主細胞
を形質転換するために使用される。
【0041】
本明細書で使用される用語「相同体」及び「相同な」は、ポリヌクレオチド又はポリペ
プチドが、対応するポリヌクレオチド又はポリペプチド配列と少なくとも約50%同一であ
る配列を含むことを指す。好ましくは、相同なポリヌクレオチド又はポリペプチドは、対
応するアミノ酸配列又はポリヌクレオチド配列との少なくとも約80%、少なくとも約85%
、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なく
とも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98
%、又は少なくとも約99%の相同性を有するポリヌクレオチド配列又はアミノ酸配列を有
する。本明細書で使用される用語、配列の「相同性」及び配列の「同一性」は互換的に使
用される。当業者は、2以上の配列間の相同性を決定する方法、例えばBLASTの使用を十分
に認識している。
【0042】
変異体又はバリアントポリペプチドは、対応する野生型ポリペプチドと少なくとも1ア
ミノ酸だけ異なっているアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。一部の実施態様にお
いて、該変異体ポリペプチドは約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50
、60、70、80、90、100、又はそれより多くのアミノ酸置換、付加、挿入、又は欠失を有
する。例えば、該変異体は1以上の保存的アミノ酸置換を含むことができる。本明細書で
使用される「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基
で置換される置換である。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野
で定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン
、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖
(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、シス
テイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン
、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β-分枝側鎖(例えば、スレオニ
ン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、
トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸がある。
【0043】
好ましいポリペプチドのバリアント又はポリペプチドの断片は、対応する野生型ポリペ
プチドの一部又は全ての生物学的機能(例えば、酵素活性)を保持する。一部の実施態様
において、該バリアント又は断片は、対応する野生型ポリペプチドの生物学的機能の少な
くとも約75%(例えば、少なくとも約80%、少なくとも約90%、又は少なくとも約95%)
を保持する。他の実施態様において、該バリアント又は断片は、対応する野生型ポリペプ
チドの生物学的機能の約100%を保持する。なおさらなる実施態様において、該バリアン
ト又は断片は、対応する野生型ポリペプチドの生物学的機能の100%超を有する。本明細
書に記載されるポリペプチドが該ポリペプチドの機能に実質的に影響を与えない、追加の
保存的アミノ酸置換又は重要でないアミノ酸置換を有することができることは、理解され
よう。
【実施例】
【0044】
(実施例)
酵素:BR3と対応するcDNA断片(
図9の配列番号:3を参照されたい)をプライマー
【化1】
を用いたPCRにより増幅し、pENTR-D/TOPOベクター(Life Technology社)へとクローニン
グした。BR3のORFをLR Clonase II酵素ミックス(Life Technology社)を用いることによ
りpDEST17ベクター(Life Technology社)に移した。プラスミドpDEST17/BR3を用いて形
質転換した後、BR3を大腸菌(E. coli)Rozetta2(DE3)(Novagen社)中で過剰発現させ
る。イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(最終濃度、1 mM)を加えることによ
り過剰発現を誘導し、細胞を3時間のインキュベーションの後に採集した。収集された細
胞を溶解緩衝液(10 mM Tris-HCl pH 8.0、80 mM KCl、5 mM 2-メルカプトエタノール、1
mM EDTA)中で溶解し、リゾチーム(最終濃度、1mM)と共に氷上で30分間インキュベート
し、続いて超音波処理により破砕した。粗抽出物を遠心して細胞残渣を除去し、上清を収
集し、アンモニア沈殿を80%の飽和度で実施した。アンモニア沈殿で得られたペレットを
緩衝液A(10 mM Tris-HCl pH 8.0、1 mM EDTA)中に溶解し、セファクリルセファロース
(GE Healthcare社)カラムに装入した。セファクリルセファロースからの通過画分を収
集し、EDTA濃度を低下させるように十分に希釈し、続いてHisTrap HP 5ml(GE Healthcar
e社)に装入した。結合したタンパク質を緩衝液B(10 mM Tris-HCl pH 8.0、50 mM KCl、
500 mMイミダゾール)により溶出した。ピーク画分を収集し、HiTrapヘパリン1ml(GE He
althcare社)を通過させ、純粋なタンパク質を含む画分を緩衝液C(10 mM Tris-HCl pH 8
.0、50 mM KCl、1 M KCl)に対する勾配を作り出すことにより溶出した。精製されたBR3
タンパク質を緩衝液D(50 mM Tris-HCl pH 7.5、50 mM KCl、1mM DTT、0.1% Tween20、5
0%グリセロール)に対して透析した。タンパク質濃度を280 nmでの吸光度により吸光係
数を用いて決定し、分子量をBR3タンパク質のアミノ酸配列に基づいて計算した。
【0045】
プライマー伸長活性及びプルーフリーディング活性のアッセイ:ポリメラーゼ活性及び
プルーフリーディング活性は、公開されている通りに特性評価した(Lundberge K.S.らの
文献、(1991) 「パイロコッカス・フリオサスから単離された熱安定性DNAポリメラーゼを
用いた高フィデリティの増幅(ポリメラーゼ連鎖反応;変異古細菌)、頻度;欠如;プル
ーフリーディング;3’40-5エキソヌクレアーゼ;組換えDNA(High-fidelity amplificat
ion using a thermostable DNA polymerase isolated from Pyrococcus furiosus (Polym
erase chain reaction; mutation archaebacteria) frequency; lack; proofreading; 3
’40-5 exonuclease; recombinant DNA.)」 Gene (108): 1-6を参照されたい)が、プル
ーフリーディングアッセイについては以下の改変を行った。内部EcoRI部位を含む35 mer
の鋳型を、3'末端に0、1、及び3個のミスマッチヌクレオチドを有する15 merのCy3標識プ
ライマーとアニーリングさせる。反応は45℃、22 μlで5分間実施し、塩基性緩衝液(20
mM Tris-HCl pH 8.8、10 mM (NH
4)
2SO
4、50 mM KCl、2 mM MgSO
4、0.1% TritonX-100)
、200 μM dNTP及び1 mM MgCl
2を含んでいた。各反応物から10 μlを分取し、反応を4 μ
lの停止溶液(100 mM EDTA pH 8.0)を加えることにより停止させ、各反応物の残る10 μ
lを5 UのEcoRIを用いて37℃で30分間消化した。反応は4 μlの停止溶液を加えることによ
り終結させた。合成された産物を15%ポリアクリルアミド/7.5 M尿素/1×TBE変性ゲルに
装入した。ゲルをTyphoon TRIO(GE Healthcare社)により可視化した。KODの重合活性を
、プライマーと結合した鋳型としてのssDNA pUC19プラスミドを用いた従来のPCRにより試
験した。
【0046】
一分子レベルでのプライマー伸長アッセイ:DNA合成を過去に記載された通りに個別のD
NA分子の長さをリアルタイムでモニタリングすることにより測定した(それぞれその全体
が引用により組み込まれているTanner, N. A.らの文献、(2008) 「大腸菌のDNA複製にお
けるフォークの動力学の一分子研究(Single-molecule studies of fork dynamics in Es
cherichia coli DNA replication.)」 Nature structural & molecular biology (15):
170-176、Jergic, S.らの文献、(2013) 「重合形態におけるPol IIIレプリカーゼを安定
化させるプルーフリーディング因子-クランプ間の直接的相互作用(A direct proofreade
r-clamp interaction stabilizes the Pol III replicase in the polymerization mode.
)」 The EMBO journal (32):1322-1333、及びLee, J. B.らの文献、(2006) 「DNAプライ
マーゼはDNA複製において分子ブレーキとして作用する(DNA primase acts as a molecul
ar brake in DNA replication.)」 Nature (439):621-624を参照されたい)。簡潔に説
明すると、ビオチン化プライマーを含むssDNA鋳型を、微小流体フローセル中で、一方の
端を介してカバーグラス表面と結合させ、もう一方の端を介して磁気ビーズと結合させた
(
図6)。DNA分子をビーズに2.6ピコニュートン(pN)の抵抗力を加える層流により引き
伸ばした。プライマーが伸長すると、表面に繋ぎ留められたssDNA(短い)がdsDNA(長い)
に変換され、
図6に模式的に示され、
図6中の軌跡において示されているようにDNAの長さ
が増加する。アッセイは、(20 mM Tris-HCl pH 8.8、10 mM (NH
4)
2SO
4、2 mM MgSO
4、0.
1% TritonX-100)、200 μM dNTP、1 mM MgCl
2、及びBR3ポリメラーゼの場合は250 mM K
Cl、又はpfuポリメラーゼの場合は50 mM KClを含む緩衝液中で、25℃で実施した。BR3及
びpfuポリメラーゼは50 nMで使用した。
【0047】
他の実施態様は、以下の特許請求の範囲の範囲内にある。
本件出願は、以下の構成の発明を提供する。
(構成1)
核酸を増幅させるためのDNAポリメラーゼ組成物であって:
配列番号:1〜4の配列と少なくとも80%の相同性を有する、単離DNAポリメラーゼを含む、前記DNAポリメラーゼ組成物。
(構成2)
核酸を増幅させるための方法であって:
鋳型DNA、プライマー、dNTP及び構成1記載のDNAポリメラーゼ組成物を反応させること;及び
該プライマーを伸長させてDNAプライマー伸長産物を合成すること、を含む、前記方法。
(構成3)
構成記載のDNAポリメラーゼ組成物を含む、核酸を増幅させるためのキット。
(構成4)
構成1記載のDNAポリメラーゼをコードする遺伝子を含むベクター。
(構成5)
塩水プールを利用してDNAポリメラーゼを単離する方法であって、該ポリメラーゼが高塩濃度及び高金属イオン濃度並びにZn2+を含む種々の金属イオン型の存在下でその活性を保持する、前記方法。
(構成6)
前記単離DNAポリメラーゼが配列番号:1の配列と少なくとも80%の相同性を有する、構成1記載のDNAポリメラーゼ組成物。
(構成7)
前記単離DNAポリメラーゼが配列番号:2の配列と少なくとも80%の相同性を有する、構成1記載のDNAポリメラーゼ組成物。
(構成8)
前記単離DNAポリメラーゼが配列番号:3の配列と少なくとも80%の相同性を有する、構成1記載のDNAポリメラーゼ組成物。
(構成9)
前記単離DNAポリメラーゼが配列番号:4の配列と少なくとも80%の相同性を有する、構成1記載のDNAポリメラーゼ組成物。