特許第6667057号(P6667057)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6667057
(24)【登録日】2020年2月26日
(45)【発行日】2020年3月18日
(54)【発明の名称】表皮材
(51)【国際特許分類】
   B32B 3/24 20060101AFI20200309BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20200309BHJP
   D06N 7/00 20060101ALI20200309BHJP
【FI】
   B32B3/24 Z
   B32B5/26
   D06N7/00
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-563901(P2019-563901)
(86)(22)【出願日】2019年10月31日
(86)【国際出願番号】JP2019042732
【審査請求日】2019年11月18日
(31)【優先権主張番号】特願2019-148103(P2019-148103)
(32)【優先日】2019年8月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135448
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 泰隆
(72)【発明者】
【氏名】鰐渕 優丞
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 実公平07−045314(JP,Y2)
【文献】 特開平11−256483(JP,A)
【文献】 特開2008−087167(JP,A)
【文献】 特開2009−262393(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102877318(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 − 43/00
D06N 1/00 − 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が第一色の第一繊維質基材と、
前記第一繊維質基材の裏面に積層される、表面が前記第一色とは異なる第二色の第二繊維質基材と、を含み、
前記第一繊維質基材は、前記第一繊維質基材と前記第二繊維質基材との積層方向に前記第一繊維質基材を貫通する貫通孔を有し、
前記貫通孔の前記積層方向に直交する第一方向の寸法は、第一値に設定され、
前記貫通孔の前記積層方向及び前記第一方向の両方向に直交する第二方向の寸法は、第二値に設定され、
前記貫通孔の前記積層方向の寸法は、第三値に設定され、
前記第一値は、前記第三値に対して0.38倍以上12倍以下に設定され、
前記第二値は、前記第三値に対して0.38倍以上12倍以下に設定され、
前記第二繊維質基材の前記第二色の表面は、前記貫通孔と重なる部分に、前記第一色とは異なる前記第二色としての第三色の着色領域と、前記第一色及び前記第三色とは異なる前記第二色としての第四色の着色領域と、を含む、表皮材。
【請求項2】
前記第二値は、前記第一値と等しく設定される、請求項1に記載の表皮材。
【請求項3】
前記第一繊維質基材は、前記貫通孔として、第一貫通孔と、第二貫通孔と、を有し、
前記第二繊維質基材の前記第二色の表面は、
前記第一貫通孔と重なる部分に、前記第三色の着色領域を含み、
前記第二貫通孔と重なる部分に、前記第四色の着色領域を含む、請求項1又は請求項2に記載の表皮材。
【請求項4】
前記第二色は、前記第一色とのL表色系におけるΔEabが1.2以上に設定される、請求項1から請求項3の何れか1項に記載の表皮材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮材に関する。
【背景技術】
【0002】
表皮材に関する技術が提案されている。例えば、特許文献1は、皮地を開示する。皮地は、例えば、バッグ、衣服、靴又はベルトに使用される。皮地は、皮部材よりなる。皮部材は、例えば、皮革又は人工皮革である。皮部材には、凹凸模様及び透孔が設けられる。透孔は、凹凸模様の形状に合わせて設けられる。皮地は、皮部材の裏側にシート状体を含む。シート状体は、皮部材の表面と色又は素材が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実願昭62−165174号(実開平01−70856号)のマイクロフィルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
表皮材は、各種製品の表面を形成する。製品を見た者は、表皮材を視認する。そのため、表皮材には、高い意匠性が求められることがある。
【0005】
本発明は、意匠性に優れた表皮材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、表面が第一色の第一繊維質基材と、前記第一繊維質基材の裏面に積層される、表面が前記第一色とは異なる第二色の第二繊維質基材と、を含み、前記第一繊維質基材は、前記第一繊維質基材と前記第二繊維質基材との積層方向に前記第一繊維質基材を貫通する貫通孔を有し、前記貫通孔の前記積層方向に直交する第一方向の寸法は、第一値に設定され、前記貫通孔の前記積層方向及び前記第一方向の両方向に直交する第二方向の寸法は、第二値に設定され、前記貫通孔の前記積層方向の寸法は、第三値に設定され、前記第一値は、前記第三値に対して0.38倍以上12倍以下に設定され、前記第二値は、前記第三値に対して0.38倍以上12倍以下に設定され、前記第二繊維質基材の前記第二色の表面は、前記貫通孔と重なる部分に、前記第一色とは異なる前記第二色としての第三色の着色領域と、前記第一色及び前記第三色とは異なる前記第二色としての第四色の着色領域と、を含む、表皮材である。前記第二値は、前記第一値と等しく設定される、ようにしてもよい。前記第一繊維質基材は、前記貫通孔として、第一貫通孔と、第二貫通孔と、を有し、前記第二繊維質基材の前記第二色の表面は、前記第一貫通孔と重なる部分に、前記第三色の着色領域を含み、前記第二貫通孔と重なる部分に、前記第四色の着色領域を含む、ようにしてもよい。
【0007】
上述の表皮材によれば、第二繊維質基材の表面のうち、第一繊維質基材の貫通孔と重なる部分を表皮材の表面に露出させることができる。表皮材の表面を見た者に第二繊維質基材の表面の前述の部分を視認させることができる。その際、第二繊維質基材の表面の前述の部分を、第一繊維質基材の表面の第一色とは異なる第二色としての第三色及び第四色の複数の着色領域とすることができる。
【0008】
前記第二色は、前記第一色とのL表色系におけるΔEabが1.2以上に設定される、ようにしてもよい。
【0009】
この構成によれば、表皮材の表面を見た者に第一繊維質基材の貫通孔を通して第一繊維質基材の表面と第二繊維質基材の表面との色差を感じさせることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、意匠性に優れた表皮材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第一繊維質基材、第二繊維質基材及び表皮材の概略構成の一例を示す斜視図である。上段は、第一繊維質基材を示す。中段は、第二繊維質基材を示す。下段は、表皮材を示す。
図2図1下段のA−A線断面図である。第一繊維質基材の貫通孔を示す。
図3】第一繊維質基材の貫通孔の断面写真である。上段は、表皮材の状態を示す。下段は、第一繊維質基材単体の状態を示す。
図4】表皮材に対応するサンプル及びサンプルの第二繊維質基材の外観写真である。上段は、サンプルの表面を積層方向の表側から正視した写真である。中段は、サンプルの表面を積層方向の表側から斜めに見た写真である。下段は、第二繊維質基材の表面を積層方向の表側から正視した写真である。
図5図4下段のサンプルの第二繊維質基材の編組織を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための実施形態について、図面を用いて説明する。本発明は、以下に記載の構成に限定されるものではなく、同一の技術的思想において種々の構成を採用することができる。例えば、以下に示す構成の一部は、省略し又は他の構成等に置換してもよい。本発明は、他の構成を含むようにしてもよい。図面は、所定の構成を模式的に示したものである。従って、各図面は、他の図面との対応、又は図面中の構成を特定する後述の数値との対応が正確ではない場合もある。ハッチングは、切断面を示す。破線は、かくれ線である。
【0013】
<表皮材>
表皮材10について、図1を参照して説明する。表皮材10は、所定の製品又は部品の表面に設けられる。例えば、表皮材10は、車両内装用表皮材である。例えば、車両内装用表皮材は、座席用表皮材と、天井用表皮材と、ドア用表皮材と、フロア用表皮材とを含む。表皮材10が座席用表皮材である場合、表皮材10は、座席の表面に設けられる。表皮材10は、次の車両内装品の表面に設けられる車両内装用表皮材として採用することもできる。前述の車両内装品の例としては、インストゥルメンタルパネル、センターコンソール及びグローブボックスが挙げられる。表皮材10は、家具類、カバー類及び鞄類の素材として用いることができる。家具類の例としては、ソファー及び椅子が挙げられる。カバー類の例としては、シートカバーが挙げられる。表皮材10は、建築用内装材の素材として用いることができる。建築用内装材の例としては、クロスが挙げられる。但し、前述した製品又は部品は、例示である。表皮材10は、各種の製品又は部品の素材として採用することができる。
【0014】
表皮材10は、第一繊維質基材20と、第二繊維質基材30とを含む。第二繊維質基材30は、第一繊維質基材20の裏面に積層される。第二繊維質基材30は、第一繊維質基材20の裏面に接着される。換言すれば、第一繊維質基材20は、第二繊維質基材30の表面に積層され、裏面で第二繊維質基材30の表面と接着される。第一繊維質基材20と第二繊維質基材30との接着に用いる接着剤に関する説明は、後述する。図1下段及び後述する図2では、次の接着部の図示は、省略されている。前述の接着部は、第一繊維質基材20と第二繊維質基材30との間で硬化した接着剤によって形成される。後述する図3上段では、この接着部は、視認することができない。
【0015】
第一繊維質基材20の表面は、表皮材10の表面となり、第二繊維質基材30の裏面は、表皮材10の裏面となる。実施形態では、第一繊維質基材20と第二繊維質基材30とが積層される方向を「積層方向」という。積層方向は、表皮材10、第一繊維質基材20及び第二繊維質基材30の厚さ方向に一致する。表皮材10で第一繊維質基材20が設けられる積層方向の一方側を「表側」といい、表皮材10で第二繊維質基材30が設けられる積層方向の他方側を「裏側」という。表皮材10、第一繊維質基材20及び第二繊維質基材30では、表面は、積層方向の表側の面であり、裏面は、積層方向の裏側の面である。
【0016】
第一繊維質基材20及び第二繊維質基材30は、シート状物である。第一繊維質基材20は、複数の貫通孔22を有する。従って、表皮材10は、表面に複数の貫通孔22を有するシート状の積層体となる。貫通孔22に関する説明は、後述する。実施形態では、積層方向に直交する方向を「第一方向」という。積層方向及び第一方向の両方向に直交する方向を「第二方向」という。例えば、次の場合、第一方向及び第二方向は、水平面内の互いに直交する方向となる。前述の場合は、積層方向を鉛直方向として表皮材10を水平に広げた場合である。表皮材10は、第一方向に沿った二辺が平行で、且つ第二方向に沿った二辺が平行な長方形の形状を有する。但し、表皮材10の外形は、諸条件を考慮して適宜決定される。
【0017】
第一繊維質基材20は、第一色の表面を有する。第二繊維質基材30は、第二色の表面を有する。第二色は、第一色とは異なる。第二色は、第一色とのL表色系におけるΔEabが1.2以上に設定される。L表色系は、国際照明委員会で規格化(CIE 1976)され、JISにおいても規定(JIS Z 8781−4)された色の表示方法である。
【0018】
以下、第一繊維質基材20、第二繊維質基材30、及び接着剤及び表皮材10の製造方法について説明する。
【0019】
<第一繊維質基材>
第一繊維質基材20としては、各種の繊維質基材を採用することができる。第一繊維質基材20として採用する繊維質基材は、表皮材10が用いられる製品に応じて適宜決定される。但し、発明者は、種々の観点から、第一繊維質基材20は皮革部材とすることが好ましいと考える。皮革部材の例としては、天然皮革、合成皮革、人工皮革、合成樹脂フィルム及び合成樹脂シートが挙げられる。皮革部材としての合成樹脂フィルム及び合成樹脂シートは、型押しによって形成された凹凸模様を表面に含む。凹凸模様の例としては、皮革様のシボ模様が挙げられる。天然皮革は、床革を含む。合成皮革の例としては、ポリウレタンレザー及びポリ塩化ビニルレザーが挙げられる。実施形態では、第一繊維質基材20は、皮革部材であるとする。
【0020】
第一繊維質基材20の厚さは、0.2〜1.6mmの範囲の所定値に設定することが好ましい。第一繊維質基材20の厚さは、0.6〜1.4mmの範囲の所定値に設定することがより好ましい。第一繊維質基材20の厚さは、0.8〜1.2mmの範囲の所定値に設定することが更に好ましい。
【0021】
第一繊維質基材20に設けられる貫通孔22は、積層方向に第一繊維質基材20を貫通する。第一繊維質基材20への貫通孔22の加工は、公知の加工法によって行われる。例えば、貫通孔22は、ニードルパンチ加工、放電加工又はレーザ加工によって形成される。第一繊維質基材20への貫通孔22の加工に関する説明は、省略する。
【0022】
貫通孔22の第一方向の寸法は、第一値N1に設定される。貫通孔22の第二方向の寸法は、第二値N2に設定される。貫通孔22の積層方向の寸法は、第三値N3に設定される。第一値N1は、0.6〜2.4mmの範囲の所定値に設定することが好ましい。第一値N1は、0.8〜2.0mmの範囲の所定値に設定することがより好ましい。第二値N2は、0.6〜2.4mmの範囲の所定値に設定することが好ましい。第二値N2は、0.8〜2.0mmの範囲の所定値に設定することがより好ましい。第三値N3は、0.2〜1.6mmの範囲の所定値に設定することが好ましい。この場合、第一値N1は、第三値N3に対して0.38倍(0.6÷1.6)以上12倍(2.4÷0.2)以下に設定される。第二値N2は、第三値N3に対して0.38倍(0.6÷1.6)以上12倍(2.4÷0.2)以下に設定される。
【0023】
実施形態では、第三値N3は、第一繊維質基材20の積層方向の寸法(第一繊維質基材20の厚さ)に一致する。複数の貫通孔22は、表皮材10を積層方向の表側から見て円形の貫通孔であり、同一形状を有する。この場合、第一値N1は、第二値N2と同一値となり、第一値N1及び第二値N2は、貫通孔22の直径である。円形の貫通孔22とすることで、第一繊維質基材20の耐久性を向上させることができる。但し、表皮材10を積層方向の表側から見た貫通孔22の平面形状は、円形とは異なる形状としてもよい。例えば、貫通孔22の平面形状は、三角形以上の多角形状、楕円又は不規則な形状としてもよい。この場合、第二値N2は、第一値N1と異なる値であってもよい。貫通孔22の平面形状は、諸条件を考慮して適宜決定される。
【0024】
貫通孔22の平面形状が円形であり、第一値N1及び第二値N2が0.6〜2.4mmの範囲の所定値に設定されているとする。この場合、貫通孔22の開口面積は、0.28(π×0.6÷4)〜4.52(π×2.4÷4)mmとなる。実施形態とは異なり、貫通孔22の平面形状が正方形であり、第一値N1及び第二値N2が0.6〜2.4mmの範囲の所定値に設定されているとする。この場合、貫通孔22の開口面積は、0.36(0.6)〜5.76(2.4)mmとなる。
【0025】
貫通孔22の内壁の傾斜角θは、84〜90°の範囲の所定値に設定することが好ましい。傾斜角θは、第一繊維質基材20の裏面と、貫通孔22の内壁とのなす角度である(図2参照)。傾斜角θが90°未満である場合、上述した貫通孔22の第一方向の寸法は、積層方向の表側における貫通孔22の第一方向の寸法であり、上述した貫通孔22の第二方向の寸法は、積層方向の表側における貫通孔22の第二方向の寸法であり、上述した貫通孔22の開口面積は、積層方向の表側における貫通孔22の開口面積である。
【0026】
複数の貫通孔22の開口率は、2.77〜14.26%の範囲の所定値に設定することが好ましい。複数の貫通孔22の開口率は、10.5〜14.26%の範囲の所定値に設定することがより好ましい。複数の貫通孔22の開口率は、単位面積に対する複数の貫通孔22の総面積の比率である。複数の貫通孔22の総面積は、単位面積の第一繊維質基材20に存在する全ての貫通孔22の開口面積の合算値である。
【0027】
第一繊維質基材20に上述した形状の貫通孔22を上述したように設けることで、表皮材10の耐久性を向上させることができ、表皮材10の引裂強度を高めることができる。引裂強度は、表皮材10を引き裂きによって切断させる場合の最大荷重である。引裂強度の測定方法については、後述する。
【0028】
第一方向及び第二方向において複数の貫通孔22の配置は、諸条件を考慮して適宜決定される。例えば、図1の表皮材10では、複数の貫通孔22の配置は、次の態様である。前述の態様は、複数の貫通孔列を第二方向に所定量だけずらした状態で第一方向に並べた態様である。1本の貫通孔列は、所定数の貫通孔22を第二方向に配列させて形成される。前述の態様では、第一方向に隣り合う任意の2本の貫通孔列を対象とすると、この2本の貫通孔列を形成する貫通孔22は、千鳥状に配置される。但し、このような複数の貫通孔22の配置は、例示である。複数の貫通孔22の配置は、前述の態様(図1上段及び下段参照)とは異なる態様としてもよい。例えば、複数の貫通孔22の配置は、幾何学的な態様としてもよい。
【0029】
<第二繊維質基材>
第二繊維質基材30としては、各種の繊維質基材を採用することができる。第二繊維質基材30として採用する繊維質基材は、表皮材10が用いられる製品に応じて適宜決定される。但し、発明者は、種々の観点から、第二繊維質基材30は編地とすることが好ましいと考える。編地の例としては、丸編地、トリコット編地、シングルラッセル編地及びダブルラッセル編地が挙げられる。発明者は、前述の編地のうち、丸編地及びトリコット編地の何れか一方が好ましいと考える。丸編地及びトリコット編地は、厚さを薄くすることができ、密度を小さくすることができる。更に、丸編地及びトリコット編地は、通気度が良好である。この他、丸編地及びトリコット編地は、コストが比較的安価である。実施形態では、第二繊維質基材30は、編地であるとする。
【0030】
第二繊維質基材30の素材となる繊維としては、各種の繊維を採用することができる。前述の繊維の例としては、天然繊維、再生繊維、合成繊維及び半合成繊維が挙げられる。第二繊維質基材30は、前述の複数の繊維を含む群から選ばれる1種又は2種以上の繊維を素材とすることができる。但し、発明者は、合成繊維が好ましいと考える。更に、発明者は、合成繊維のうち、ポリエステル繊維が好ましいと考える。
【0031】
第二繊維質基材30の素材となる繊維の断面形状は、諸条件を考慮して適宜決定される。例えば、前述の断面形状は、丸形及び異形の何れであってもよい。異形の例としては、扁平形、楕円形、三角形、中空形、Y形、T形及びU形が挙げられる。
【0032】
第二繊維質基材30の素材となる繊維の糸条は、諸条件を考慮して適宜決定される。例えば、前述の糸条は、フィラメント糸(長繊維糸)及び紡績糸(短繊維糸)の何れであってもよい。フィラメント糸は、マルチフィラメント糸であってもよい。マルチフィラメント糸には、撚りをかけるようにしてもよく、捲縮性及び嵩高性の一方又は両方を付与してもよい。例えば、捲縮性及び嵩高性は、仮撚り加工又は流体攪乱処理によって付与することができる。流体攪乱処理の例としては、タスラン加工及びインターレース加工が挙げられる。
【0033】
第二繊維質基材30の素材となる繊維の単繊維繊度は、0.5〜10dtexの範囲の所定値に設定することが好ましい。単繊維繊度を0.5dtex以上とすることで、表皮材10の耐久性を向上させることができ、表皮材10の引裂強度を高めることができる。単繊維繊度を10dtex以下とすることで、表皮材10の伸び特性の低下を防止することができる。
【0034】
第二繊維質基材30の素材となる繊維の糸条の繊度は、24〜330dtexの範囲の所定値に設定することが好ましい。糸条の繊度を24dtex以上とすることで、表皮材10の耐久性を向上させることができ、表皮材10の引裂強度を高めることができる。糸条の繊度を330dtex以下とすることで、表皮材10の伸び特性の低下を防止することができる。
【0035】
第二繊維質基材30の密度は、30〜65コース/25.4mmの範囲の所定値に設定することが好ましく、25〜55ウエル/25.4mmの範囲の所定値に設定することが好ましい。密度を30コース/25.4mm以上及び25ウエル/25.4mm以上とすることで、表皮材10の耐久性を向上させることができ、表皮材10の引裂強度を高めることができる。更に、密度を30コース/25.4mm以上及び25ウエル/25.4mm以上とすることで、表皮材10を積層方向の表側から見た場合、貫通孔22を通して第二繊維質基材30の表面を視認させ易くすることができる。密度を65コース/25.4mm以下及び55ウエル/25.4mm以下とすることで、表皮材10の伸び特性の低下を防止することができる。
【0036】
第二繊維質基材30の厚さは、0.3〜1.0mmの範囲の所定値に設定することが好ましい。厚さを0.3mm以上とすることで、表皮材10の耐久性を向上させることができ、表皮材10の引裂強度を高めることができる。厚さを1.0mm以下とすることで、表皮材10の伸び特性の低下を防止することができる。
【0037】
第二繊維質基材30の開口率は、0.47〜80.63%の範囲の所定値に設定することが好ましい。第二繊維質基材30の開口率は、13.55〜48.77%の範囲の所定値に設定することがより好ましい。第二繊維質基材30が編地である場合、第二繊維質基材30には、引っ掛かり合う糸間に表面から裏面に通じる隙間(貫通孔)が形成される。第二繊維質基材30の開口率は、単位面積に対する隙間の総面積の比率である。隙間の総面積は、単位面積の第二繊維質基材30に存在する全ての隙間の開口面積の合算値である。
【0038】
第二繊維質基材30の開口率を0.47%以上とすることで、表皮材10の伸び特性の低下を防止することができる。第二繊維質基材30の開口率を80.63%以下とすることで、表皮材10の耐久性を向上させることができ、表皮材10の引裂強度を高めることができる。更に、表皮材10を積層方向の表側から見た場合、貫通孔22を通して第二繊維質基材30の表面を視認させ易くすることができる。
【0039】
<接着剤及び表皮材の製造方法>
接着剤としては、各種の接着剤を採用することができる。採用可能な接着剤の例としては、ポリウレタン接着剤、アクリル接着剤、塩化ビニル接着剤及びシリコーン接着剤が例示される。但し、発明者は、風合いの観点からポリウレタン接着剤が好ましいと考える。発明者は、ポリウレタン接着剤のうち、工程負荷の観点から一液型ポリウレタン接着剤が好ましく、ホットメルトタイプがより好ましいと考える。
【0040】
表皮材10の製造方法は、第一工程と、第二工程とを含む。第一工程は、接着剤を塗布する工程である。接着剤は、第一繊維質基材20の裏面及び第二繊維質基材30の表面の一方又は両方に塗布することができる。但し、発明者は、接着剤は第一繊維質基材20の裏面に塗布することが好ましいと考える。接着剤を第一繊維質基材20の裏面に塗布することで、貫通孔22への接着剤の侵入を低減することができる。積層方向の表側において表皮材10の外観品質の低下を防止することができる。接着剤の塗布方法としては、公知の方法を採用することができる。塗布方法の例としては、スプレーコート法、ナイフコート法、ロールコート法及びTダイ法が挙げられる。ロールコート法の例としては、グラビア法が挙げられる。
【0041】
接着剤の塗布量は、20〜40g/mの範囲の所定値に設定することが好ましい。接着剤の塗布量を20g/m以上とすることで、表皮材10の耐久性を向上させることができ、第一繊維質基材20と第二繊維質基材30との剥離強度を確保することができる。接着剤の塗布量を40g/m以下とすることで、表皮材10の風合いが粗硬になることを防止することができる。
【0042】
接着剤の塗布範囲は、第一繊維質基材20の裏面の全体としてもよく、又は第一繊維質基材20の裏面の一部としてもよい。接着剤の塗布範囲を第一繊維質基材20の裏面の一部とする場合、接着剤の塗布位置は、第一繊維質基材20の裏面に均一に分布させることが好ましい。この場合、例えば、接着剤は、第一繊維質基材20の裏面に点状、縞状又は格子状に塗布することが好ましい。これに伴い、表皮材10の耐久性を向上させることができ、第一繊維質基材20と第二繊維質基材30との剥離強度を確保することができる。
【0043】
接着剤の塗布範囲を第一繊維質基材20の裏面の一部とする場合、接着剤の塗布面積率は、5〜20%の範囲の所定値に設定することが好ましい。塗布面積率は、第一繊維質基材20の裏面の面積に対する接着剤の塗布面積の比率である。塗布面積率に関し、第一繊維質基材20の裏面の面積は、積層方向の裏側における貫通孔22の開口面積を含まない。接着剤の塗布面積率を5%以上とすることで、表皮材10の耐久性を向上させることができ、第一繊維質基材20と第二繊維質基材30との剥離強度を確保することができる。接着剤の塗布面積率を20%以下とすることで、表皮材10の風合いが粗硬になることを防止することができる。
【0044】
塗布面積率の計測方法の一例の概略を説明する。この計測方法は、完成品としての表皮材10を対象とする。先ず、表皮材10から第二繊維質基材30を剥離し、第一繊維質基材20の単体を取得する。続けて、マイクロスコープを用いて第一繊維質基材20の裏面を撮像する。撮像倍率は、100倍に設定する。マイクロスコープとしては、株式会社キーエンス製のデジタルマイクロスコープ(VHX−5000)を利用することができる。このデジタルマイクロスコープは、ソフト部に面積計測ソフトを含む。その後、面積計測ソフトを用いて接着剤の塗布面積を計測し、計測された結果から塗布面積率を取得する。塗布面積の計測では、撮像画像における接着剤の色を選択する。塗布面積の計測は、穴埋め及び小粒子除去の条件下にて実施する。
【0045】
第二工程は、第一繊維質基材20と第二繊維質基材30とを貼り付ける工程である。第二工程は、第一工程の終了後、接着剤が粘稠性を有する状態で行うことが好ましい。第二工程は、第一繊維質基材20を第二繊維質基材30に加圧して行うことが好ましく、又は第二繊維質基材30を第一繊維質基材20に加圧して行うことが好ましい。第一繊維質基材20に設けられる貫通孔22の形状は、第一繊維質基材20が表皮材10の一部である場合(図3上段参照)であっても、単体での第一繊維質基材20を対象とする上述の形状(図3下段参照)に維持される。
【0046】
<実施例>
発明者は、表皮材10の有効性を確認するため、表皮材10に対応する3種類のサンプルを対象として実験を行った。3種類のサンプルを「サンプル1」、「サンプル2」及び「サンプル3」という。この説明では、上記との対応を明らかにするため、各部に対する符号は、上記と同様とする。
【0047】
<実験方法>
(1)サンプル1〜3
サンプル1〜3の第一繊維質基材20及び第二繊維質基材30とサンプル1〜3としての表皮材10の製造方法とは、次の通りである。
【0048】
(1−1)第一繊維質基材
第一繊維質基材20は、ポリウレタン樹脂層と編地とを積層させた合成皮革とした。合成皮革製の第一繊維質基材20では、ポリウレタン樹脂層は、積層方向の表側に設けられ、編地は、積層方向の裏側に設けられる。ポリウレタン樹脂層の裏面は、接着剤によって編地の表面と接着される。
【0049】
ポリウレタン樹脂層は、ポリウレタン樹脂液を離型紙に200μmの厚さでコーティングし、その後、130℃で2分間乾燥させて作製した。ポリウレタン樹脂液は、ポリカーボネートポリウレタン樹脂100質量部に対して、次の添加剤を次の量加えて作製した。ポリウレタン樹脂液の粘度は、約2000mPa・sに調整した。
[サンプル1の添加剤]
赤顔料(C.I.Pigment RED 208、固形分15質量%):4.98質量部
黄顔料(C.I.Pigment BROWN 24、固形分52.5質量%):2.99質量部
赤顔料(C.I.Pigment RED 48:4、固形分10質量%):0.11質量部
白顔料(C.I.Pigment WHITE 21、固形分3質量%):0.03質量部
ジメチルホルムアミド:40質量部
[サンプル2の添加剤]
黒顔料(C.I.Pigment BLACK 7、固形分20質量%):2.06質量部
青顔料(C.I.Pigment BLUE 290、固形分52.5質量%):2.15質量部
白顔料(C.I.Pigment WHITE 6、固形分52.5質量%):2.73質量部
緑顔料(C.I.Pigment GREEN 7、固形分20質量%):0.06質量部
ジメチルホルムアミド:40質量部
[サンプル3の添加剤]
黄顔料(C.I.Pigment BROWN 24、固形分52.5質量%):0.84質量部
黒顔料(C.I.Pigment BLACK 7、固形分20質量%):0.16質量部
白顔料(C.I.Pigment WHITE 6、固形分52.5質量%):7.88質量部
茶顔料(C.I.Pigment YELLOW 164、固形分52.5質量%):12.08質量部
ジメチルホルムアミド:40質量部
編地は、サンプル1〜3で同じポリエステル繊維製トリコット編地とした。編地の目付は、220g/mとした。
【0050】
接着剤は、溶液の接着剤とした。接着剤は、DIC株式会社製のポリカーボネートポリウレタン接着剤(クリスボンTA−205)100質量部に対して、ジメチルホルムアミド50質量部を加えて作製した。接着剤の粘度は、約4500mPa・sに調整した。
【0051】
第一繊維質基材20の作製時、ポリウレタン樹脂層の裏面に接着剤を200μmの厚さでコーティングし、その後、接着剤を100℃で1分間乾燥させた。これに伴い、厚さ200μmの接着層がポリウレタン樹脂層の裏面に形成される。続けて、ポリウレタン樹脂層と編地とを位置合わせし、プレス装置を用いて次の圧締条件にて圧着させた。離型紙を剥離して第一繊維質基材20を得た。
[圧締条件]
加圧時間:1分
加圧力:39.2N/cm
次に、作製済みの合成皮革をパンチング加工機にセットし、この合成皮革に複数の貫通孔22を形成した。貫通孔22の加工条件は、平均直径を1.6mmに設定し、複数の貫通孔22の開口率を6.3%に設定した。作製された第一繊維質基材20の仕様は、次の通りであった。
[第一繊維質基材20の仕様]
厚さ:1.2mm
複数の貫通孔22の開口率:6.3%
貫通孔22の開口面積:2.01mm
傾斜角θ(図2参照):87°
サンプル1〜3の第一繊維質基材20の相違は、ポリウレタン樹脂層の色である(図4の上段及び中段参照)。サンプル1の第一繊維質基材20のポリウレタン樹脂層は、全体が同じ赤色に着色される。サンプル2の第一繊維質基材20のポリウレタン樹脂層は、全体が同じ濃灰色に着色される。サンプル3の第一繊維質基材20のポリウレタン樹脂層は、全体が同じ灰色に着色される。
【0052】
(1−2)第二繊維質基材
第二繊維質基材30は、次の仕様の丸編地とした。丸編地の表面には、サンプル1〜3でそれぞれ異なる幾何学柄を記録した(図4下段参照)。
[第二繊維質基材30の仕様]
編組織:図5参照
糸:84dtex/72fのポリエステル加工糸(図5のNo.1,3,5参照)
84dtex/36fのポリエステル加工糸(図5のNo.2,4,6,7参照)
90dtex/48fのポリエステル異収縮混繊糸(図5のNo.8参照)
密度:44コース/25.4mm、44ウエル/25.4mm
厚さ:0.4mm
(1−3)表皮材の製造方法
第一繊維質基材20と第二繊維質基材30との接着には、DIC株式会社製の反応性ホットメルトポリウレタン樹脂(NH129)からなる接着剤を用いた。接着剤は、120℃に加熱した。
【0053】
第一工程では、第一繊維質基材20の裏面に接着剤を塗布した。塗布方法は、グラビア法を採用した。グラビア法の実施に用いたグラビアロールは、次の仕様とした。塗布量は、40g/mとした。
[グラビアロールの仕様]
ドット直径:600μm
ドット深さ:200μm
容積:35cm/m
第二工程では、第一工程で第一繊維質基材20の裏面に塗布された接着剤が粘稠性を有する状態で、第一繊維質基材20と第二繊維質基材30とを接着した。第二工程の終了に伴い、サンプル1〜3としての表皮材10を得た。圧締条件は、上述した第一繊維質基材20の場合と同じとした。サンプル1〜3としての表皮材10では、接着剤の塗布面積率は、14%であった。
【0054】
(2)外観観察
サンプル1〜3の外観を目視観察した。観察方向は、サンプル1〜3の表面を積層方向の表側から正視する方向と、サンプル1〜3の表面を積層方向の表側から斜めに見る方向とした。
【0055】
(3)ΔEab
サンプル1〜3を対象として、第一繊維質基材20の表面のL、a及びbを測定し、第二繊維質基材30の表面のL、a及びbを測定し、これら測定結果から次の式(1)に基づきΔEabを求めた。式(1)において、ΔL、Δa及びΔbは、次の通りである。ΔLは、第一繊維質基材20の表面のLと、第二繊維質基材30の表面のLとの差である。Δaは、第一繊維質基材20の表面のaと、第二繊維質基材30の表面のaとの差である。Δbは、第一繊維質基材20の表面のbと、第二繊維質基材30の表面のbとの差である。
【数1】
【0056】
第一繊維質基材20の表面のL、a及びbは、第一繊維質基材20の表面の任意の4箇所を測定して得られる各4個のL、a及びbの平均値である。第二繊維質基材30の表面のL、a及びbは、第二繊維質基材30の表面の任意の4箇所を測定して得られる各4個のL、a及びbの平均値である。但し、第二繊維質基材30の表面のL、a及びbは、サンプル1,2では、第二繊維質基材30の表面に記録された幾何学柄に含まれる白色領域、赤色領域及び黒色領域毎に4箇所を測定対象とし、サンプル3では、第二繊維質基材30の表面に記録された幾何学柄に含まれる白色領域、灰色領域及び黒色領域毎に4箇所を測定対象とした。測定には、X−Rite社製の分光測色計(Color I 5DV)を用いた。光源は、C光源とした。
【0057】
(4)機械的強度
サンプル3を測定対象として、機械的強度を測定した。サンプル1〜3の相違は、第一繊維質基材20のポリウレタン樹脂層の色と、第二繊維質基材30の表面に記録された幾何学柄とである。このような相違は、今回の実験で測定した機械的強度に影響を与えない。サンプル1,2の機械的強度は、サンプル3の機械的強度と同一視できる。そこで、今回の実験では、前述した通り、サンプル3を測定対象とした。
【0058】
機械的強度の測定には、株式会社島津製作所製の引張試験機(オートグラフAG−100A)を用いた。この引張試験機では、下側に設けられるつかみ具は、定位置に固定され、上側に設けられるつかみ具が鉛直方向に移動する。測定環境は、次の通りとした。
[測定環境]
室温:20±2℃
湿度:65±5%RH
(4−1)引裂強度
引裂強度の測定には、幅50mm及び長さ250mmの矩形状の試験片を用いた。試験片数は、サンプル3の経方向に沿ってサンプル3から採取した3枚と、サンプル3の緯方向に沿ってサンプル3から採取した3枚とした。例えば、編地である第二繊維質基材30を基準とした場合、サンプル3の経方向は、第二繊維質基材30の経方向に一致する。サンプル3の緯方向は、サンプル3の経方向に直交する。試験片は、長さが10mmの切り込みを含む。切り込みは、試験片の2個の短辺のうちの一方の短辺の中心位置から他方の短辺の側に試験片の長辺の方向に沿って形成される。
【0059】
試験片は、切り込みによって分割された2個の短冊の先端部を、表裏が反転する状態で引張試験機の一対のつかみ具に取り付けた。短冊の先端部は、上述した「2個の短辺のうちの一方の短辺」の側となる短冊の端部である。引裂強度の測定は、JIS L1913:2010 6.4.2に準拠して実施した。測定条件は、次の通りとした。
[測定条件]
つかみ間隔:10mm
引張速度:200mm/分
引張速度は、つかみ具の移動速度である。経方向に沿って採取された3枚の試験片を測定対象として得られた3個の最大荷重の平均値をサンプル3の経方向の引裂強度とした。緯方向に沿って採取された3枚の試験片を測定対象として得られた3個の最大荷重の平均値をサンプル3の緯方向の引裂強度とした。
【0060】
機械的強度に関する説明では、サンプル3の経方向を単に「経方向」といい、サンプル3の緯方向を単に「緯方向」という。サンプル3から採取した試験片の長辺の方向を「長辺方向」という。
【0061】
(4−2)剥離強度
剥離強度の測定には、幅30mm及び長さ120mmの矩形状の試験片を用いた。試験片数は、経方向に沿ってサンプル3から採取した3枚と、緯方向に沿ってサンプル3から採取した3枚とした。試験片は、第一繊維質基材20と第二繊維質基材30とを長辺方向の一端側から長辺方向に沿って40mm剥離させた。長辺方向の一端側は、試験片の2個の短辺のうちの一方の短辺の側に一致する。
【0062】
試験片は、第一繊維質基材20の剥離部分と第二繊維質基材30の剥離部分とを、試験片に弛みがなく且つ張力が作用していない状態で引張試験機の一対のつかみ具に取り付けた。測定条件は、次の通りとした。
[測定条件]
つかみ幅:30mm
引張速度:200mm/分
経方向に沿って採取された3枚の試験片を測定対象として得られた3個の最大荷重をそれぞれつかみ幅で除した値の平均値をサンプル3の経方向の剥離強度とした。緯方向に沿って採取された3枚の試験片を測定対象として得られた3個の最大荷重をそれぞれつかみ幅で除した値の平均値をサンプル3の緯方向の剥離強度とした。
【0063】
(4−3)破断強度及び伸び
破断強度及び伸びの測定には、幅50mm及び長さ250mmの矩形状の試験片を用いた。試験片数は、経方向に沿ってサンプル3から採取した5枚と、緯方向に沿ってサンプル3から採取した5枚とした。試験片には、長辺方向の中央部に100mm間隔で2個の標点を設定した。
【0064】
試験片は、長辺方向の両端部分を、試験片に弛みがなく且つ張力が作用していない状態で引張試験機の一対のつかみ具に取り付けた。測定条件は、次の通りとした。
[測定条件]
つかみ幅:50mm
引張速度:200mm/分
経方向に沿って採取された5枚の試験片を測定対象として得られた5個の最大荷重をそれぞれつかみ幅で除した値の平均値をサンプル3の経方向の破断強度とした。経方向に沿って採取された5枚の試験片のそれぞれから式(2)によって得られた5個の伸びの平均値をサンプル3の経方向の伸びとした。緯方向に沿って採取された5枚の試験片を測定対象として得られた5個の最大荷重をそれぞれつかみ幅で除した値の平均値をサンプル3の緯方向の破断強度とした。緯方向に沿って採取された5枚の試験片のそれぞれから式(2)によって得られた5個の伸びの平均値をサンプル3の緯方向の伸びとした。
【0065】
伸び(%)=(L−L)/L×100 ・・・(2)
:試験前の標点間距離(mm)
:破断時の標点間距離(mm)
(5)総開口率
上記では、総開口率の説明を省略した。そこで、総開口率の測定方法の説明に先立ち、総開口率について説明する。第一繊維質基材20に複数の貫通孔22を設け、且つ第二繊維質基材30を編地とした表皮材10では、貫通孔22と編地の隙間とが積層方向に通じ合う。表皮材10は、積層方向に表皮材10を貫通する複数の連続孔を含む。そのため、表皮材10は、通気性を有する。総開口率は、単位面積に対する連続孔の総面積の比率である。連続孔の総面積は、単位面積の表皮材10に存在する全ての連続孔の開口面積の合算値である。
【0066】
総開口率の測定対象は、サンプル3とした。総開口率の測定には、幅20mm及び長さ20mmの矩形状の試験片を用いた。試験片数は、経方向に沿ってサンプル3から連続して採取した5枚と、緯方向に沿ってサンプル3から連続して採取した5枚とした。
【0067】
総開口率の測定装置は、画像処理システムと、カメラと、透過照明台とを含む。カメラは、透過照明台上に設けた。画像処理システムは、キーエンス株式会社製のマルチカメラ画像システム/ラインスキャンカメラ対応コントローラ(XG−8700L)とした。カメラは、キーエンス株式会社製の2100万画素カメラ(CA−H2100M)とした。透過照明台は、株式会社アイテックシステム製の高輝度面照明(TMW100x300−32WD−4)とした。取込分解能は、7.4μm/pixelに設定した。
【0068】
測定装置の校正には、基準フィルムを用いた。基準フィルムは、5mm間隔で形成された直径1.3mmの複数の黒ドットを含む。測定装置の校正は、次の通りとした。即ち、測定装置の校正は、撮影画像中に32個の黒ドットが含まれる状態を基準とした。その上で、この校正は、次の比率が93.59±0.01%となるように、透過照明台の光量及びカメラの絞りを調整して行った。前述の比率は、32個の黒ドットの総面積を次の面積で除して得られる百分率である。前述の面積は、32個の黒ドットの総面積と、32個の黒ドットを含む領域で黒ドットを除く領域の面積との合計である。前述の面積は、撮影画像の撮影範囲の面積でもある。
【0069】
総開口率の測定は、次の第一手順、第二手順、第三手順及び第四手順を含む。第一手順では、試験片が透過照明台に載せ置かれ、その後、試験片上にガラス板が載せ置かれる。試験片は、透過照明台上でガラス板によって平らな状態となる。試験片は、カメラと正対する透過照明台の位置に載せ置かれる。第二手順では、カメラによって試験片が撮影される。これに伴い、撮影画像に対応する画像データが取得される。この画像データは、画像処理システムに取り込まれる。
【0070】
第三手順は、画像処理システムによって行われる。画像処理システムは、画像データを2値化する。2値化後の画像データでは、試験片の第一領域は、白色となり、試験片の第二領域は、黒色となる。第一領域は、透過照明台からの光が透過した試験片の領域である。第一領域は、上述した連続孔が存する試験片の領域に対応する。第二領域は、透過照明台からの光が透過しない試験片の領域である。第二領域は、上述した連続孔が存しない試験片の領域に対応する。画像処理システムは、第一領域の面積と第二領域の面積とを取得し、第一領域及び第二領域の両面積を出力する。第四手順では、10枚の試験片毎に、次の式(3)に従い総開口率が取得される。
【0071】
総開口率(%)=第一領域の面積÷(第一領域の面積+第二領域の面積)×100 ・・・(3)
次の10個の総開口率の平均値をサンプル3の総開口率とした。前述の10個の総開口率のうちの5個は、経方向に沿って採取された5枚の試験片のそれぞれから式(3)によって得られた5個の総開口率である。前述の10個の総開口率のうちの残りの5個は、緯方向に沿って採取された5枚の試験片のそれぞれから式(3)によって得られた5個の総開口率である。
【0072】
<実験結果>
(1)外観観察
次の第一の場合及び第二の場合、サンプル1〜3の全てで貫通孔22を通して第二繊維質基材30の表面の着色された幾何学柄を視認することができた。第一の場合は、サンプル1〜3の表面を積層方向の表側から正視した場合である。第二の場合は、サンプル1〜3の表面を積層方向の表側から斜めに見た場合である。第二の場合、貫通孔22の壁面と第二繊維質基材30の表面の着色された幾何学柄との組み合わせから立体的な印象を感じ取ることができた(特に図4中段に示す「サンプル2」参照)。
【0073】
(2)ΔEab
サンプル1〜3では、第一繊維質基材20及び第二繊維質基材30の表面のL、a及びbの測定結果は、表1に示す通りであった。サンプル1では、第二繊維質基材30の表面の白色領域、赤色領域及び黒色領域の全領域で、第一繊維質基材20の表面の赤色とのΔEabは、1.2以上に設定されていた。サンプル2では、第二繊維質基材30の表面の白色領域、赤色領域及び黒色領域の全領域で、第一繊維質基材20の濃灰色とのΔEabは、1.2以上に設定されていた。サンプル3では、第二繊維質基材30の表面の白色領域、灰色領域及び黒色領域の全領域で、第一繊維質基材20の表面の灰色とのΔEabは、1.2以上に設定されていた。表1で、ΔLは、第一繊維質基材20のLと第二繊維質基材30のLとの差の絶対値を示し、Δaは、第一繊維質基材20のaと第二繊維質基材30のaとの差の絶対値を示し、Δbは、第一繊維質基材20のbと第二繊維質基材30のbとの差の絶対値を示す。
【表1】
【0074】
(3)機械的強度
サンプル3の機械的強度は、次の通りであった。
[引裂強度]
経方向:75N
緯方向:91N
[剥離強度]
経方向:2.74kgf/cm
緯方向:3.32kgf/cm
[破断強度及び伸び]
経方向:117.8N/cm、84.8%
緯方向:110.4N/cm、64.1%
(4)総開口率
サンプル3の総開口率は、14.3%であった。この場合、通気度は、430mm/mm・sとなる。通気度の測定は、JIS L1913:2010 6.8.1(フラジール形法)に準拠して実施した。
【0075】
<実施形態の効果>
実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
【0076】
(1)表皮材10は、第一繊維質基材20と、第二繊維質基材30とを含む(図1参照)。第一繊維質基材20は、第一色の表面を有する。第二繊維質基材30は、第一色とは異なる第二色の表面を有する。第二繊維質基材30は、第一繊維質基材20の裏面に積層される。第一繊維質基材20は、貫通孔22を有する。貫通孔22は、積層方向に第一繊維質基材20を貫通する。貫通孔22の第一方向の寸法は、第一値N1に設定される。貫通孔22の第二方向の寸法は、第二値N2に設定される。貫通孔22の積層方向の寸法は、第三値N3に設定される。第一値N1は、第三値N3に対して0.38倍以上12倍以下に設定される。第二値N2は、第三値N3に対して0.38倍以上12倍以下に設定される。更に、第二値N2は、第一値N1と等しく設定される。
【0077】
そのため、第二繊維質基材30の表面のうち、貫通孔22と重なる部分を表皮材10の表面に露出させることができる(図4上段及び中段参照)。表皮材10の表面を見た者に第二繊維質基材30の表面の前述の部分を視認させることができる。意匠性に優れた表皮材10を得ることができる。
【0078】
(2)第二色は、第一色とのL表色系におけるΔEabが1.2以上に設定される。そのため、表皮材10の表面を見た者に貫通孔22を通して第一繊維質基材20の表面と第二繊維質基材30の表面との色差を感じさせることができる(図4上段及び中段参照)。
【0079】
(3)表皮材10は、積層方向に表皮材10を貫通する複数の連続孔を含む。そのため、表皮材10は、通気性を有する。表皮材10は、ベンチレーションシート用表皮材として採用することができる。
【0080】
表皮材10では、総開口率は、0.01〜9.26%の範囲の所定値に設定することが好ましい。総開口率は、1.67〜5.43%の範囲の所定値に設定することがより好ましい。総開口率を0.01%以上とすることで、貫通孔22から第二繊維質基材30の表面を視認させ易くすることができる。表皮材10の意匠性を高めることができる。総開口率を9.26%以下とすることで、表皮材10の耐久性を向上させることができ、表皮材10の引裂強度を高めることができる。更に、第一繊維質基材20と第二繊維質基材30との剥離強度を確保することができる。
【0081】
<変形例>
実施形態は、次のようにすることもできる。以下に示す変形例のうちの幾つかの構成は、適宜組み合わせて採用することもできる。以下では、上記とは異なる点を説明することとし、同様の点についての説明は、適宜省略する。
【0082】
(1)表皮材10の製造方法は、第一工程と、第二工程とを含む。第一工程は、接着剤を塗布する工程である。例えば、接着剤は、第一繊維質基材20の裏面に塗布される。第二工程は、第一繊維質基材20と第二繊維質基材30とを貼り付ける工程である。製造方法は、第三工程を含んでもよい。第三工程は、公知の湿熱処理を実施する工程である。湿熱処理は、接着剤の硬化反応を促進させる。
【0083】
(2)第一繊維質基材20及び第二繊維質基材30の一方又は両方の表面に記録される柄は、各種の柄を含む。従って、分光測色計を用いて第一繊維質基材20又は第二繊維質基材30の表面のL、a及びbを測定する場合、測定範囲は、単一色ではなく、複数の色を含むこともある。例えば、柄を形成する要素が細かな態様である場合、測定範囲は、複数の色を含み易くなる。この場合、第一繊維質基材20の表面のL、a及びbは、上述した実施例の場合と同様、第一繊維質基材20の表面の任意の4箇所を測定して得られる各4個のL、a及びbの平均値としてもよい。第二繊維質基材30の表面のL、a及びbは、色領域毎の測定によって得られる各4個のL、a及びbの平均値ではなく、上述した実施例の第一繊維質基材20の場合と同様、第二繊維質基材30の表面の任意の4箇所を測定して得られる各4個のL、a及びbの平均値としてもよい。ΔEabは、このようにして得られた第一繊維質基材20の表面のL、a及びbと第二繊維質基材30の表面のL、a及びbとの差であるΔL、Δa及びΔbから上述した式(1)に基づき取得される。
【符号の説明】
【0084】
10 表皮材、 20 第一繊維質基材、 22 貫通孔
30 第二繊維質基材、 N1 第一値、 N2 第二値
N3 第三値、 θ 傾斜角
【要約】
表皮材(10)では、第一繊維質基材(20)の表面は、第一色であり、第二繊維質基材(30)の表面は、第二色である。第二繊維質基材(30)は、第一繊維質基材(20)の裏面に積層される。第一繊維質基材(20)の貫通孔(22)は、積層方向に第一繊維質基材(20)を貫通する。貫通孔(22)の第一方向の寸法は、第一値(N1)に設定される。貫通孔(22)の第二方向の寸法は、第二値(N2)に設定される。貫通孔(22)の積層方向の寸法は、第三値(N3)に設定される。第一値(N1)及び第二値(N2)は、第三値(N3)に対して0.38倍以上12倍以下に設定される。
図1
図2
図3
図4
図5