特許第6667062号(P6667062)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6667062
(24)【登録日】2020年2月27日
(45)【発行日】2020年3月18日
(54)【発明の名称】フルスペクトル発光装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/50 20100101AFI20200309BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20200309BHJP
   F21V 9/32 20180101ALI20200309BHJP
   F21V 9/38 20180101ALI20200309BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20200309BHJP
   F21Y 115/15 20160101ALN20200309BHJP
   F21Y 115/30 20160101ALN20200309BHJP
【FI】
   H01L33/50
   G02B5/20
   F21V9/32
   F21V9/38
   F21Y115:10
   F21Y115:15
   F21Y115:30
【請求項の数】1
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-217872(P2018-217872)
(22)【出願日】2018年11月21日
(62)【分割の表示】特願2017-87755(P2017-87755)の分割
【原出願日】2013年4月3日
(65)【公開番号】特開2019-62210(P2019-62210A)
(43)【公開日】2019年4月18日
【審査請求日】2018年11月21日
(31)【優先権主張番号】61/620,522
(32)【優先日】2012年4月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517152128
【氏名又は名称】ルミレッズ ホールディング ベーフェー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ヒクメット リファット アタ ムスタファ
(72)【発明者】
【氏名】バン ボメル ティエス
【審査官】 吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/147521(WO,A1)
【文献】 特表2009−544805(JP,A)
【文献】 特開2006−313902(JP,A)
【文献】 特開2007−281484(JP,A)
【文献】 特開2011−233269(JP,A)
【文献】 特表2010−507134(JP,A)
【文献】 特開2008−258171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00−33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全光出力スペクトルを提供する発光装置であって、
一次光を発する固体光源と、
前記一次光を受け取り、前記一次光を二次光へと変換するための波長変換材料を含む複数の波長変換ドメインを含む波長変換部材であって、各波長変換ドメインが前記全光出力スペクトルのサブレンジを提供する、波長変換部材と、
前記固体光源から前記波長変換部材への光の経路に配置されたシールド部材と、
を含み、
前記波長変換ドメインの少なくとも一部は、アレイとして配置されて、量子ドットを含み、異なる波長変換ドメインが、前記全光出力スペクトルの異なるサブレンジを提供する異なる二次光発光範囲を有する量子ドットを含み、各波長変換ドメインによって提供されるサブレンジが別の波長変換ドメインによって提供される少なくとも1つの他のサブレンジと重なり合う又は少なくとも連続し、
少なくとも1つの波長変換ドメインは、前記量子ドットを含む各波長変換ドメインによって提供される前記サブレンジの半値全幅(FWHM)よりも広いFWHMを持つサブレンジを提供する広帯域発光波長変換材料を含む蛍光体層であり、前記広帯域発光波長変換材料は無機蛍光体材料及び有機蛍光体材料から選択され、
前記量子ドットを含む波長変換ドメインのアレイは、前記固体光源と前記蛍光体層との間の光の経路内に配置された別の層として設けられ、
少なくとも1つの波長変換ドメインは、700nmよりも長いピーク波長を持つ二次光を提供し、
前記波長変換ドメインは、合わせて、400nm〜800nmの範囲の全波長を含む二次光を提供し、
前記シールド部材は、前記固体光源によって発せられた光が少なくとも1つの波長変換ドメインに到達することを阻止できる、
発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換材料として量子ドットを使用する事を含む固体発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
照明の分野における新製品の開発では、フルスペクトル、即ち、可視光の全波長を含む光出力を生成する光源を設計する事に多くの努力が注がれている。様々な相関色温度(CCT:correlated color temperature)における黒体放射を示す連続スペクトルを持つ光源に対する要望も存在する。この様なフルスペクトル照明は、著しい急上昇(スパイク)又は急降下(くぼみ)の無い平滑な強度スペクトルを有する白色光である。この要望は、白色昼光が最良の光であり、連続フルスペクトル人工光が二番目に良いという洞察に基づくものである。例えば、フルスペクトル照明が色覚を向上させる、視覚の明瞭さを向上させる、雰囲気を向上させる、生産性を向上させる、精神的意識を向上させる、売上高を向上させる、植物の生長を向上させる、季節性情動障害(SAD:seasonal affective disorder)及び睡眠障害を治療する際の光線療法の結果を向上させる、生徒の学業成績を向上させる、体内でのビタミンD合成を向上させる、及び虫歯の発生率を減少させるといった、連続フルスペクトルの多くの主張される利点がある。
【0003】
T12蛍光ランプ等の様々なフルスペクトルであると主張された白熱ランプが市販されている。しかしながら、これらの白熱ランプのスペクトルは、依然として急上昇及び/又は急降下を示している。加えて、フルスペクトルであると主張された白熱ランプは、比較的エネルギーを多く消費するものでもある。
【0004】
異なる色を発するLED(蛍光体無しに)は、望ましいCCT及びCRIを得るために使用され得る。しかしながら、この様な直接的な発光体を用いて得られたスペクトルは、大きな急降下を有して非常に先が尖っている(図13を参照)。直接的LEDを用いた場合、フルスペクトル照明を作る事はできない。異なる直接的LEDを使用する事の別の欠点は、各LEDが異なる駆動電流を必要とする事である。更に、異なるLEDの異なる温度依存性は、LEDの少なくとも一部の電流が温度の関数として調整される事を必要とする。
【0005】
蛍光体変換発光ダイオード(LED)を用いた場合にも、スペクトルの急上昇及び/又は急降下無しにフルスペクトル照明を得る事が難しい。蛍光体変換LEDにおいて、青色光は、白色光を得るために、黄色/橙色/赤色光に部分的に変換される。しかしながら、この様な蛍光体変換LEDを用いた場合のスペクトルは、急降下を有した先の尖ったスペクトルを常に示す。図12は、3000KのCCT及び90の演色評価数(CRI:color rendering index)を有する白色光を得るために、黄色及び赤色蛍光体によって黄色及び赤色光にそれぞれ部分的に変換された青色LEDのスペクトルを示す。連続した完全黒体放射を得るために、広帯域発光体である従来の有機及び無機蛍光体を用いて、このスペクトルのギャップを埋める事は難しい。
【0006】
米国特許出願公開第2005/0135079号は、先行するフラッシュモジュールと比較してより高いCRIを有する白色光を生成するフラッシュモジュールのLEDデバイスを提案している。このデバイスは、一次光を生成する光源及びマトリックス材料に分散された複数の量子ドットを含む波長変換オーバーレイを含む。量子ドットは、発光デバイスからの広範囲の発光を生成するために、異なる二次発光波長を有するように選択され得る。ある実施形態では、量子ドットは、従来の蛍光体材料と組み合わせられる。しかしながら、この文書に記載されたデバイスの欠点は、二次光の再吸収が効率低下につながる場合があり、所望のスペクトルの微調整を行う事が困難となる事である。
【0007】
従って、当該技術分野において、改善されたフルスペクトル光源の必要性が依然としてある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、この問題を克服する事、及び連続スペクトル光出力を生成する発光装置を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の局面によれば、この目的及び他の目的は、全光出力スペクトルを提供するように適合させられた発光装置であって、
一次光を発するように適合させられた固体光源と、
前記一次光を受け取るように配置される、及び一次光を二次光へと変換するための波長変換材料を含む複数の波長変換ドメインを含む波長変換部材であって、各波長変換ドメインは、それによって全光出力スペクトルのサブレンジを提供する、波長変換部材と、
を含み、
前記波長変換ドメインの少なくとも一部は、アレイ、一般的に画素アレイとして配置される及び量子ドットを含み、異なる波長変換ドメインが全光出力スペクトルの異なるサブレンジを提供する異なる二次光発光範囲を有する量子ドットを含み、並びに、各波長変換ドメインによって提供されるサブレンジが別の波長変換ドメインによって提供される少なくとも1つの他のサブレンジと重複する又は少なくとも連続する、発光装置によって達成される。
【0010】
発光装置は、より少ない急降下又は実質的に急降下無しに、より連続的なスペクトルを生成する。異なる波長変換特性を有する材料を異なるドメインに、好ましくは一平面に配置する事によって、二次発光の再吸収を回避する事ができる。
【0011】
一般的に、全光出力スペクトルの強度は、何れの波長においても、対応する黒体発光スペクトルから20%を超えて逸脱せず、前記黒体発光スペクトルは、500K〜10,000Kの範囲の黒体温度に対応する。「対応する黒体発光スペクトル」とは、450〜610nmの範囲の発光装置の光出力スペクトルに対する黒体スペクトルの最良適合を意味する。黒体スペクトルは、500〜10,000Kの範囲内にある黒体温度に対応するものである。
【0012】
本発明の実施形態では、波長変換ドメインは全体で、400nm〜800nmの範囲の全波長を含む二次光を提供する。この様なフルスペクトルは、前述の通り、多くの用途及び目的に有益である。
【0013】
本発明の実施形態では、各波長変換ドメインは、1種類の量子ドットを含む。
【0014】
更に、ある実施形態では、少なくとも1つのドメインは、光出力スペクトルの広いサブレンジを提供する並びに無機蛍光体材料及び有機蛍光体材料から選択される広帯域発光波長変換材料を含む。広帯域発光波長変換材料は、イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)、ルテチウムアルミニウムガーネット(LuAG)、BSSN及びECASから成る群から選択された無機蛍光体材料でもよい。あるいは、広帯域発光波長変換材料は、ペリレン誘導体等の有機蛍光体でもよい。本発明の実施形態では、量子ドットを含む少なくとも1つのドメインが、広帯域発光波長変換材料によって提供されたサブレンジと部分的又は完全に重複するサブレンジを提供し、前記量子ドットを含むドメインは、少なくともその重複領域において、広帯域発光波長変換材料よりも高い強度の二次光を提供する。
【0015】
本発明の実施形態において、広帯域発光波長変換材料を含むドメインは、蛍光体層であり、量子ドットを含む前記ドメインのアレイは、別の層として設けられ、一般的に固体光源から蛍光体層への光の経路に配置される。
【0016】
本発明の実施形態では、波長変換部材は、少なくとも異なる8種類の量子ドットを含み、少なくとも8個の異なるサブレンジを提供する。各種類の量子ドットは、好ましくは、別々のドメインに含まれる。
【0017】
発光装置に使用される量子ドットは、本発明の実施形態によれば、50nm以下、好ましくは40nm以下の半値全幅(FWHM:full width at half maximum)を持つ発光スペクトルを有し得る。好ましくは、使用される全ての量子ドットは、この様な狭い発光スペクトルを有する。
【0018】
本発明の実施形態では、光源によって発せられた一次光は、波長変換部材によって完全に変換される。従って、一次光は発光装置から出射しない。あるいは、他の実施形態では、光源によって発せられた一次光は、波長変換ドメインによって部分的にのみ変換されてもよく、前記一次光の非変換部分は、前記光出力スペクトルのサブレンジを提供する、即ち、発光装置から出射し得る。
【0019】
発光装置は、固体光源から波長変換部材への光の経路に配置されたシールド部材を更に含み得る。シールド部材は、光源によって発せられた光が少なくとも1つの波長変換ドメインに到達する事を阻止できる。従って、少なくとも1つのサブレンジの発光を阻止する事によって、特定の波長の排除により発光スペクトルを調整する事ができる。
【0020】
一般的に、発光装置の固体光源は、発光ダイオード(LED)又はレーザダイオードである。一次光は、200nm〜460nmの波長範囲に存在し得る。
【0021】
別の局面では、本発明は、本明細書に記載の発光装置を含む照明器具に関する。この様な照明器具は、例えば家庭若しくは職業的屋内環境用の一般照明、装飾的照明、又は光線療法用途といった任意の所望の用途に適合させられ得る。
【0022】
別の局面では、本発明は、連続する全光出力スペクトルを提供するための、異なる二次光発光範囲を有する複数の量子ドットの使用に関する。
【0023】
本発明は、特許請求の範囲に記載された特徴のあらゆる可能な組み合わせに関する事に留意されたい。
【0024】
本発明のこの局面及び他の局面が、本発明の実施形態を示す添付の図面を参照して、より詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1a】本発明の実施形態による発光装置の発光スペクトル例及び黒体発光スペクトル(Bで示される)を示すグラフである。
図1b】本発明による発光装置の全出力スペクトル(S)及び黒体発光スペクトル(B)を示すグラフである。
図2】本発明の実施形態による発光装置の量子ドットの吸収スペクトルを示すグラフである。
図3】画素化波長変換部材を含む本発明の実施形態による発光装置の模式側面図である。
図4】画素化波長変換部材の平面図である。
図5】画素化波長変換部材及び分離手段を含む本発明の実施形態による発光装置の模式側面図である。
図6a】発光装置の実施形態による、量子ドットの全発光スペクトルのみを示すグラフである。
図6b】発光装置の実施形態による、従来の広帯域発光蛍光体と組み合わせた量子ドットの全発光スペクトルを示すグラフである。
図7】本発明の実施形態による発光装置の模式側面図である。
図8】本発明の実施形態による発光装置の発光スペクトルを示すグラフである。
図9a】画素化波長変換部材及びシールド部材を含む、本発明の実施形態による発光装置の模式側面図である。
図9b図9aに示されたデバイスの発光スペクトルを示す。
図10a】画素化波長変換部材及び電気的に制御可能なシールド部材を含む、本発明の実施形態による発光装置の模式側面図である。
図10b】画素化波長変換部材及び電気的に制御可能なシールド部材を含む、本発明の実施形態による発光装置の模式側面図である。
図11】光混合室を含む発光装置の側断面図である。
図12】従来の蛍光体変換LEDの一般的な出力スペクトルを示すグラフである。
図13】複数の異なる色のLEDを含む従来の発光装置の一般的な出力スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図に示される様に、層及び領域のサイズは、例示を目的として誇張されており、従って、本発明の実施形態の一般構造を示すために提供されるものである。全体を通して、同様の参照符号は同様の要素を指す。
【0027】
本発明は、本発明の現在好適な実施形態が示される添付の図面を参照して、以下により完全に説明される。しかしながら、本発明は、多くの異なる形で実施する事ができ、本明細書に記載された実施形態に限定されると見なされるものではなく、むしろ、これらの実施形態は、徹底性及び完全性を目的に提供され、当業者に本発明の範囲を完全に伝える。
【0028】
本発明者らは、例えば紫外線、紫色又は青色LEDの固体光源及び複数の量子ドットを用いた発光装置では、連続した完全黒体放射スペクトルが得られる事を発見した。
【0029】
図1aは、本発明の実施形態による発光装置によって得る事ができるスペクトルを模式的に示す。このグラフは、波長(λ)の関数として強度を示す。第1のピーク(左側)は、光源(一次光)から又は量子ドットから生じ得る最短の可視波長の紫色光を表す。後続のピークは、量子ドット発光(二次光)の結果である。図1において明確なピークとして示している様に、各量子ドットの発光帯域幅は狭い。量子ドットのみを使用して連続した完全黒体放射を達成するためには、部分的に重複した発光帯を有する複数種類の量子ドットが使用される。
【0030】
図1bは、本発明による発光装置の全光出力スペクトルSの一例を示す。スペクトルは、黒体放射スペクトルBも示す。図に示される様に、発光装置の全出力スペクトルは、一般的に400〜800nmである広い波長範囲に亘って、黒体放射に酷似している。ある波長λにおいて、黒体放射は、強度Iを有し、発光装置からの発光は、強度Iを有する。一般的に、Iは、20%を超える差でIから逸脱(上方又は下方へ)しない、即ち0.8*I≧I≧1.2*Iである。従って、発光装置の発光スペクトルにおける大きな強度の急降下が避けられ、従って、この発光が、完全な黒体放射に酷似する。
【0031】
本明細書において、「連続スペクトル」という表現は、黒体放射体の発光スペクトル(波長の関数としての強度)に似た発光スペクトルを指す。ある黒体温度の黒体スペクトルは、平滑な線である。ここで「似た」とは、黒体線に重ね合わされたスペクトルに関して、強度が、何れの波長においても、20%を超える差で逸脱しない、好ましくは10%を超えない事を意味する。従って、この様なスペクトルは、「連続スペクトル」と呼ばれ、いかなる強い急降下又はピークも持たない。
【0032】
図1は、量子ドットから生じた8個の発光ピーク(又は第1のピークが光源から生じる場合は7個のピーク)のみを示すが、本発明の実施形態において、光出力スペクトルが、それより少ない又は多い数の量子ドット発光ピークを含み得る事が考えられる。任意の特定サイズの量子ドットは、一般的に、30〜60nmの範囲の半値全幅(FWHM)の光分布を有する。各発光極大の位置は、電磁スペクトル内のどこでもよいが、好ましくは、400nm〜800nmのどこかとなり得る。連続発光スペクトルを提供するためには、一般的に少なくとも8個の発光ピークが使用されるが、本発明の実施形態では、例えば12個以上の発光ピーク等の10個以上の発光ピークが存在し得る。発光ピークの数が多い程、より連続的なスペクトル、即ち、黒体線に更に近いスペクトルを生成する。
【0033】
本発明の実施形態では、例えば、所望のスペクトルが400〜800nmの全範囲に及ぶ事は必要とされないが、その一部のみに及ぶべきである場合に(一例は、量子ドットが広帯域発光蛍光体と組み合わせられる実施形態である)、8個未満の発光ピークでも連続スペクトルを提供する事ができる。
【0034】
「半値全幅」又は「FWHM」は、波長の関数としての強度プロットのピーク強度の半分における波長範囲の幅を指す。
【0035】
本明細書において、「広帯域発光波長変換材料」又は「広帯域発光蛍光体材料」とは、100nmを超えるFWHMを持つ発光スペクトルを有する波長変換材料を意味する。
【0036】
広帯域発光材料とは対照的に、任意の特定サイズの量子ドットは、一般的に、30〜60nm、例えば30〜50nmの範囲の半値全幅(FWHM)を持つ光分布を有する。一例として、緑色量子ドット発光体は、50nm以下のFWHM、より好ましくは40nm以下、及び最も好ましくは30nm以下(FWHM)を有する光を発し得る。
【0037】
しかしながら、本発明の実施形態では、重複する発光ピークを持たない少なくとも幾つかの量子ドットを使用する事が可能である。
【0038】
量子ドット及び量子ロッドは、通常、僅か数ナノメートルの幅又は直径を有する半導体材料の小さな結晶である。入射光によって励起されると、量子ドットは、結晶のサイズ及び材料によって決定された色の光を発する。従って、ドットのサイズを適合させる事によって、特定の色の光を生成する事ができる。本発明の実施形態では、量子ドットは、例えば、少なくとも1方向に1〜10nmの範囲のサイズを有し得る。量子ドットの代替品として、1〜10nmの範囲の幅及び最大で1mm又はそれ以上の長さを有し得る量子ロッドが使用されてもよい。
【0039】
図2は、様々な量子ドットの吸収スペクトルを示すグラフである。図に見られる様に、吸収範囲は、一般的に重複する。赤色発光量子ドットは、通常最も広い吸収範囲を有する。可視範囲での発光を有する最もよく知られた量子ドットは、硫化カドミウム(CdS)及び硫化亜鉛(ZnS)等の殻を有するセレン化カドミウム(CdSe)に基づく。リン化インジウム(InP)、硫化銅インジウム(CuInS2)及び/又は硫化銀インジウム(AgInS2)等のカドミウムを含まない量子ドットも使用する事ができる。狭い発光帯により、量子ドットは、飽和色を示す。更に、発光色は、量子ドットのサイズを適合させる事によって調整する事ができる。当該技術分野で公知のどのような種類の量子ドットも、それが適切な波長変換特性を有するならば、本発明において使用する事ができる。例えば、本発明の実施形態において、CdSe、InP、CuInS、又はAgInSを含む量子ドットが使用され得る。しかしながら、環境上の安全及び懸念を理由に、カドミウムを含まない量子ドット又は少なくとも非常に低いカドミウム含有量を有する量子ドットを使用する事が望ましい場合がある。
【0040】
本発明による発光装置は、図3に模式的に示される。発光装置100は、一次光L1を発する固体光源101及び一次光L1を受け取り少なくともその一部を二次光L2に変換するように光源から光出力方向に配置された波長変換部材102を含む。波長変換部材102は、複数のドメイン102a、102b、102c等を含む。これらのドメインの少なくとも一部は、量子ドットを含み、アレイに配置された異なる面内領域を形成する。アレイは、二次元で、行列を形成してもよい。ドメインのアレイ配置は、本発明との関連で、「画素配置」又は「画素化配置」とも呼ばれ得る。従って、この様な配置の個々のドメインは、「量子ドット画素」と呼ばれ得る。一般的に、1つの画素は、ある特定の二次発光波長を有する単一の種類の量子ドットを含む。例えば、光源は、紫外線LEDでもよく、ドメイン102aは、光源によって発せられた一次紫外線光を400〜440nm(紫色)の二次光に変換し、ドメイン102bは、一次光を440〜460nm(紫青色)に変換し、ドメイン102cは、一次光を460〜480nm(青色)に変換し、ドメイン102dは、一次光を490〜530nm(青緑色)に変換し、ドメイン102eは、一次光を530〜560nm(黄緑色)に変換し、ドメイン102fは、一次光を570〜620nm(黄色/橙色)に変換し、ドメイン102gは、一次光を620〜700nm(橙色)に変換し、及びドメイン102hは、一次光を700〜750nm(赤色)に変換する量子ドットを含み得る。ドメイン102a〜hは、どのような順序又はパターンで配置されてもよい。
【0041】
各サブレンジ(波長変換ドメインによって提供される)は、別の波長変換ドメインによって提供される少なくとも1つの他のサブレンジと、重なり合わないとしても、少なくとも連続的である。ある実施形態例では、異なる発光特性を持つ量子ドットを含む最大16の波長変換ドメインを用いて、異なるドメインが表1に示される様な異なるサブレンジの光を発し得る。
【0042】
【表1】
【0043】
量子ドットは、通常、発光ピークに比較的近い吸収ピークを有するので、連続的発光波長範囲を示す複数の量子ドットの使用は、二次発光の再吸収につながり、全発光スペクトル内の急降下をもたらし得る。本発明は、重複する発光及び吸収波長を有する異なる種類の量子ドットを異なる画素に配置する事によって、この様な再吸収を回避する。従って、連続スペクトルを達成する事ができ、効率が改善される。
【0044】
波長変換材料の量は、発光ピークの合計が所望の黒体温度の黒体放射によく似るような光強度を生成するように適合させられ得る。
【0045】
上記の量子ドット画素は、任意の適切なパターン、例えば、三角形、六角形、又は市松模様パターンに配置されてもよい。このパターンは、反復的又は周期的でもよい。波長変換部材の平面図を示す図4は、量子ドット画素102a、102b、102c等の配置例を示す。波長変換画素の大部分は、全辺(一平面内で)を他の画素によって囲まれている。隣接する周辺画素の1つ又は複数は、異なる種類の量子ドットを含み、異なる二次光発光範囲を提供し得る。
【0046】
本発明の実施形態では、隣接する波長変換ドメイン、特に画素化配置の隣接するドメインは、図5に示される様に、分離部材103によって分離され得る。分離部材は、周辺量子ドット画素による二次光の漏出及び再吸収のリスクを更に低減するために、物理的に個々の画素を分離する働きをする。分離部材103は、波長変換部材の表面から突出してもよい。分離部材は、不透明又は反射性でもよい。例えば、バリアは、アルミニウム等の反射性材料から作られてもよく、又はAl若しくはTiO等の反射性材料でコーティングされた非反射性材料から作られてもよい。ある実施形態では、分離部材は、光源によって発せられた一次光に対して少なくとも部分的に透過性でもよい。
【0047】
本発明の実施形態では、固体光源101によって発せられた全ての光が、波長変換部材102によって変換され得る。代替実施形態では、光源によって発せられた一次光の一部のみが変換される。例えば、ある実施形態では、ある特定の波長変換ドメイン102a、102b等によって受け取られた一次光の一部のみが変換される。更に他の実施形態では、一部の波長変換ドメインが受け取った光の完全変換を成し遂げる一方で、他の波長変換ドメインは、受け取った光の一部のみの変換を成し遂げる。図9a〜b及び10a〜bを参照して更に詳細に以下に説明される更に他の実施形態では、光源によって発せられた光がある特定の波長変換ドメインによって受け取られる事を遮るシールド部材が設けられてもよい。
【0048】
本発明の実施形態では、少なくとも1つの波長変換ドメインは、少なくとも1つの従来の蛍光体材料を含み、広い波長範囲の二次発光を提供し得る。この様な蛍光体材料は、本発明との関連で、広帯域発光蛍光体と呼ばれ得る。従来の蛍光体を含む波長変換ドメインは、一般的に画素化配置の一部を形成せず、任意選択的に別個の第2の波長変換部材を形成する別個の層又は別個の本体として設けられてもよい。
【0049】
量子ドット及び従来の蛍光体材料を含む波長変換部材を有する発光装置の一例は、図7に模式的に示される。波長変換部材102は、上記の様に量子ドット画素を含む層102’及び従来の有機又は無機蛍光体材料を含む層102’’を含む。好ましくは、量子ドットを含む層は、蛍光体材料による量子ドット発光の再吸収を回避するために、固体光源101及び蛍光体層102’’間の光の経路に配置される。
【0050】
本発明のある実施形態では、上記の図1に示される様に量子ドットの異なる発光ピークが重複する必要はない。例えば、少なくとも1つの広帯域発光蛍光体も含む実施形態では、図6a〜bに示される様に、比較的狭い量子ドットの発光範囲が広帯域発光蛍光体の発光範囲の少なくとも一部と重複すれば十分な場合がある。図6aは、使用された量子ドットの発光ピークを示し、図6bは、光源からの一次光(図6bのピーク1)並びに広帯域発光蛍光体(L2’で示される)及び量子ドット(ピーク2〜7)によってそれぞれ提供された二次光を組み合わせた全出力スペクトルを示す。図に見られる様に、量子ドット発光ピークは、互いに重複しないが、広帯域発光蛍光体の発光範囲と重複する。広帯域発光蛍光体の発光強度は、一般的に量子ドットの発光強度よりも低い。広帯域発光蛍光体の発光スペクトルは、図6bに示されたものとは異なる形状を有していてもよく、例えば、幾つかの広帯域発光蛍光体が全体で、幾つかのピークを有する発光スペクトルを提供し得る(図8及び図12も参照)事に留意されたい。
【0051】
別の実施形態では、図8に示される波長変換部材102の出力スペクトルは、例えば510〜660nmの一般的に150nmのFWHMを有する二次発光を提供する第1の広帯域発光蛍光体L2’及び例えば590〜710nmの一般的に120nmのFWHMを有する二次発光を提供する第2の広帯域発光蛍光体L2’’を含む。光源の一次光から生じる発光ピークは、L1で示される(一般的に50nmのFWHMを有する、例えば380〜430nm)。第1及び第2の蛍光体並びに光源の結合出力スペクトルのギャップを埋めるためには、波長変換部材は、例えば、430〜470nm、470〜510nm、590〜630nm、及び630〜660nmでそれぞれ発光ピークP1、P2、P3、及びP4を提供する、異なる画素に配置された量子ドットを更に含む。
【0052】
波長変換部材は、光源に対して離れた位置に配置されてもよい、即ち、例えば図3に模式的に示される様に、波長変換部材及び光源は、互いに間隔を空けてもよい。あるいは、波長変換部材は、光源から短い距離で光源の近くに配置されてもよい。他の実施形態では、波長変換部材は、光源上に直接配置されてもよい(図7を参照)。
【0053】
本発明の実施形態では、発光装置は、光源が内部に配置される光混合室を含む。一般的に、光混合室は、反射性とし得る少なくとも1つの側壁及び光出射窓によって規定される。ある実施形態では、波長変換部材は、光出射窓に配置されてもよい。図11は、基部106及び少なくとも1つの側壁107によって規定された光混合室105を含む発光装置100を示す。固体光源101は、基部上に設けられ得る。単一光源の場合、光源は、一般的に基部の中心に位置付けられる。2つ以上の光源の場合、光源は、基部の中心に対して対称的に配置され得る。しかしながら、光源が光混合室内の側壁上又は任意の他の適切な位置に設けられ得る事が考えられる。少なくとも1つの側壁107が、波長変換部材102が位置付けられている光出射窓108を、光源から離れた位置に規定する。他の実施形態では、波長変換部材は、代わりに光混合室105内に設けられてもよい。
【0054】
室の内部に面する少なくとも1つの側壁107の表面107aは、波長変換部材によって受け取られる光の均一分布を提供するため、並びに/又は波長変換部材からの二次光に関してより均一な分布及び一次光との良好な混合を提供するために、反射性とすることができ、例えば、反射性材料の層が設けられてもよい。反射性側壁の反射率は、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、及び更により好ましくは少なくとも95%である。一般的に、反射層は、拡散反射性でもよい。
【0055】
任意選択的に、発光装置は、光出力方向に向いた(即ち、光源に向いていない)波長変換部材の面上に配置された拡散器109を更に含んでもよい。この様な拡散器は、光出射窓108に又は光混合室105の外に設けられてもよい。
【0056】
本発明の実施形態では、固体光源は、紫外線、紫色光、及び青色光に対応する200〜460nmの一次光を発する。一般的に、一次光は、440〜460nmの範囲に存在し得る。従って、固体光源がLEDである実施形態では、それは、GaN又はInGaNをベースとしたLED等の紫外線、紫色、及び青色発光LEDでもよい。適切な波長範囲の一次光を発する有機発光ダイオード(OLED)又はレーザダイオードが使用されてもよい。
【0057】
広帯域発光蛍光体材料は、無機材料又は有機材料でもよい。無機波長変換材料の例は、限定されないが、セリウム(Ce)ドープYAG(YAl12)又はLuAG(LuAl12)を含み得る。CeドープYAGは、黄色がかった光を発し、CeドープLuAGは、黄緑色がかった光を発する。赤色光を発する他の無機蛍光体材料の例は、限定されないが、ECAS(Ca1−xAlSiN:Euであり、0<x≦1、好ましくは0<x≦0.2であるECAS)並びにBSSN(Ba2−x−zSi5−yAl8−y:Euであり、MがSr又はCaを表し、0≦x≦1、好ましくは0≦x≦0.2、0≦y≦4、及び0.0005≦z≦0.05であるBSSNE)を含み得る。
【0058】
適切な有機蛍光体材料の例は、ペリレン誘導体に基づいた有機発光材料、例えばBASFによってLumogen(登録商標)という名称で販売される化合物である。適切な化合物の例は、限定されないが、Lumogen(登録商標)Red F305、Lumogen(登録商標)Orange F240、Lumogen(登録商標)Yellow F083、及びLumogen(登録商標)F170を含む。有利に、有機発光材料を含む層は、透明及び非散乱性でもよい。
【0059】
任意選択的に、波長変換部材、例えば、広帯域発光蛍光体材料を含むドメイン又は層は、散乱素子を含み得る。散乱素子の例は、TiO又はAlの粒子等の散乱粒子及び孔を含む。
【0060】
一部の用途では、照明される対象物の1つ又は複数の特定の色を増強させる事が望ましい場合がある。これは、特定の波長が欠けている非連続発光スペクトルを生成する発光装置を用いた照明によって達成され得る。本発明は、この問題に対しても、異なる、任意選択的に重複する発光波長を有する量子ドットの画素化配置を含む波長変換部材、並びに固体光源及び波長変換部材の少なくとも1つの画素間の光の経路に配置されたシールド部材を用いる事によって、解決策を提供する。異なる画素の量子ドットの発光範囲は、シールド部材による遮蔽により発せられない波長を除いてスペクトルが連続的となるように重複し得る。
【0061】
しかしながら、シールド部材の使用は、シールド部材がない場合にも波長変換部材が非連続スペクトルを生成するように異なる量子ドットの発光範囲が重複しない量子ドットの画素化配置と組み合わせても非常に有用な場合がある。
【0062】
この様な発光装置の一実施形態例の一般構造が図9aに示される。図9aに示される様に、シールド部材104は、1つの波長変換ドメイン(画素)に概ね対応する又はそれより僅かに小さい寸法を有し得る。従って、光源101から波長変換部材102への光の経路に配置された場合、シールド部材は、特定の画素(ここでは画素5)によって光が受け取られる事を遮り、遮蔽された波長変換画素の発光に対応する特定の波長範囲が欠けている、例えば図9bに示される様なスペクトルが生じる。
【0063】
シールド部材104は、波長変換画素全体又はその一部を遮ってもよい。シールド部材が少なくとも部分的に2つ以上の画素を同時に遮る事も可能である。従って、シールド部材の寸法(特に幅)は、2つ以上の画素に及ぶように選択されてもよい。
【0064】
ある実施形態では、発光装置は、複数のシールド部材を含む。例えば、2つ以上のシールド部材が1平面に配置されてもよい。他の実施形態では、各シールド部材は、別の面、例えば、別々の層に配置されてもよい。
【0065】
シールド部材は、完全に不透明でもよく、従って、全ての入射光を遮る。しかしながら、それは、ある実施形態では、部分的に透過性でもよい。あるいは、シールド部材がパターニングされてもよい。
【0066】
ある実施形態では、シールド部材は、発光装置のユーザによって制御可能でもよい。例えば、シールド部材の位置は、可逆的に調節可能でもよい。ある実施形態では、シールド部材は、異なる画素の遮蔽に対応する異なる位置間で機械的に移動可能である。
【0067】
他の実施形態では、遮蔽効果の制御は、電気的手段によって達成され得る。例えば、シールド部材は、複数の個々に制御可能なシールドドメイン(各ドメインは、1つの波長変換画素を潜在的に遮蔽するように配置される)を含む電気的に制御可能な層を含み得る。電気的に制御可能な層は、例えば、光学特性(特に光透過性)を電位の印加によって制御する事ができる電気光学デバイスを含み得る。図10a〜bは、この様な発光装置の一例を示す。各シールドドメイン104a、104bは、光源から見て前記シールドドメインの後ろに配置される対応する波長変換画素によって光が受け取られる事が可能である透過状態(例えば図10aのドメイン104b及び図10bのドメイン104a)と、シールドドメインが非透過性で、従って、光が対応する波長変換画素に到達する事を遮る光遮断又は遮蔽状態(図10aのドメイン104a及び図10bのドメイン104b)との間で可逆的に切り替え可能でもよい。適切な電気的に制御可能なデバイスの例は、高分子分散液晶(PDLC:polymer dispersed liquid crystal)デバイス又は液晶ゲルデバイス等の液晶デバイス、面内切り替え(インプレイン・スイッチング)電気泳動デバイス、エレクトロクロミックデバイス、及びエレクトロウェッティングデバイスを含む。
【0068】
当業者は、本発明が決して上記の好適な実施形態に限定されない事を理解する。それどころか、多くの修正形態及び変更形態が添付の特許請求の範囲内で可能である。
【0069】
加えて、開示された実施形態に対する変更形態は、図面、開示内容、及び添付の特許請求の範囲の研究から、本願発明を実施する当業者によって理解並びに達成され得る。特許請求の範囲において、「含む(comprising)」という単語は、他の要素又はステップを除外せず、不定冠詞「a」又は「an」は、複数を除外しない。特定の手段が互いに異なる従属クレームに記載されるという単なる事実は、これらの手段の組み合わせを有利に使用できない事を示すものではない。
図1a
図1b
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図7
図8
図9a
図9b
図10a
図10b
図11
図12
図13