(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6667191
(24)【登録日】2020年2月27日
(45)【発行日】2020年3月18日
(54)【発明の名称】アルミニウムの表面処理方法
(51)【国際特許分類】
C23C 28/04 20060101AFI20200309BHJP
C25D 11/18 20060101ALI20200309BHJP
C25D 11/22 20060101ALI20200309BHJP
【FI】
C23C28/04
C25D11/18 301B
C25D11/18 312
C25D11/22 306Z
C25D11/18 305
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-68725(P2016-68725)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-179479(P2017-179479A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100791
【氏名又は名称】アイシン軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 新
(72)【発明者】
【氏名】柿澤 亮太
【審査官】
坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−134694(JP,A)
【文献】
特開2001−238850(JP,A)
【文献】
特開2007−254784(JP,A)
【文献】
特開2012−144750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/12,28/04
C25D 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムの表面に陽極酸化皮膜を形成するステップと、
次に低温のニッケル塩水溶液に浸漬する低温封孔処理ステップと、次に100〜160℃の水蒸気による蒸気封孔処理ステップと、
次にゾル−ゲル法によるシリカ質皮膜を形成ステップとを、有し、
前記ゾル−ゲル法によるシリカ質皮膜を形成ステップは、アルコキシシランとシリカの微粒子との混合ゾルを塗布し、乾燥することでゲル化した有機・無機複合皮膜であることを特徴とするアルミニウムの表面処理方法。
【請求項2】
前記陽極酸化皮膜は、二次電解着色又は染色されていることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウムの表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムの表面に耐食性及び耐白化性に優れた皮膜を形成する表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、単にアルミニウムと称する)の表面に耐食性向上を目的に陽極酸化皮膜を形成することが一般的に行われている。
陽極酸化皮膜には、バリアー型皮膜とポーラス型皮膜があるが、バリアー型皮膜は厚膜化が難しく、高耐食性が要求される分野では陽極酸化中に内径数十nmの微少の無数の孔が形成されるポーラス型皮膜が採用されている。
このようなポーラス型の陽極酸化皮膜の場合には陽極酸化のままでは耐食性が劣るために各種封孔処理が施されている。
しかし、封孔処理だけでは耐食性が不充分な分野、例えば建材の分野では陽極酸化皮膜を形成後に電着塗装を施している。
ところが自動車等の外装部品の分野では電着塗膜が洗車等によりキズが付きやすく、しかも塗膜の密着性を確保するために下地の陽極酸化皮膜は完全封孔されていなく、塗膜が剥がれた部分は表面が自化しやすい問題があった。
そこで本出願人は、耐アルカリ性の向上に大きな効果を有し、キズが付きにくく耐剥離性に優れた、シロキサンガラス成分からなるコーティング層を有するアルミニウム部材を提案している(特許文献1)。
本技術は充分に実用的であるものの、下地の陽極酸化皮膜が湯洗処理又は半封孔処理されたものであって完全封孔皮膜でないため、仮に強い力でコーティング層に剥がれが生じた場合に、その部分が白化する恐れがある課題が内在していた。
【0003】
特許文献2は、陽極酸化皮膜の微細孔中にSiO
2を充填させているがコーティング層ではない。
また、完全封孔ではない点で同様の課題を有する。
特許文献3は塗膜の下地としてシランカップリング剤を塗布しているが、塗膜がキズ付きやすく、またシランカップリング剤のみでは耐食性が悪い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5724021号公報
【特許文献2】特開平6−31678号公報
【特許文献3】特許第4248818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、充分に封孔処理した陽極酸化皮膜であっても密着性に優れ、高い耐食性と耐白化性を有するアルミニウムの表面処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るアルミニウムの表面処理方法は、アルミニウムの表面に陽極酸化皮膜を形成するステップと、次に低温のニッケル塩水溶液に浸漬する低温封孔処理ステップと、次に100〜160℃の水蒸気による蒸気封孔処理ステップと、次にゾル−ゲル法によるシリカ質皮膜を形成ステップとを、有することを特徴とする。
【0007】
本発明は、ニッケル塩水溶液による低温封孔処理と100〜160℃の水蒸気による蒸気封孔処理により、陽極酸化皮膜を充分に封孔処理した上に、ゾル−ゲル法によりシリカ質の皮膜からなるコーティング層を形成した点に特徴がある。
【0008】
ここでシリカ質皮膜とは、二酸化ケイ素を主な成分とする非晶質の透明なガラス質からなる皮膜をいう。
このような二酸化ケイ素を主成分とするシリカガラスからなるコーティング層を陽極酸化皮膜の上に形成する方法としては、ゾル−ゲル法を用いた低温法が好ましい。
例えば、アルコキシシランのゾルを加水分解により縮合反応させてゲル化する方法が挙げられる。
この場合にアルコキシシランを構成するアルキル基は、炭素数1〜6の低級アルキル基であると陽極酸化皮膜に結合する水酸基の密度が高くなり、密着性が向上する。
【0009】
本発明において、低温で透明度が高く1〜10μm程度の薄膜からなるシリカガラス質のコーティング層を形成するのに、例えば、前記ゾル−ゲル法によるシリカ質皮膜を形成ステップは、アルコキシシランとシリカの微粒子との混合ゾルを塗布し、乾燥することでゲル化したものであるのが好ましく、前記アルコキシシランは、Siに官能基を結合していてもよく、Si又はOに結合した置換基は、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖の低級アルキル基からなる低級アルコキシシランであるのが好ましい。
【0010】
このようにすると、有機−無機ハイブリッド型のシリカ質皮膜となり形成効率が高い。
ここでアルコキシシランは予め、ある程度の縮合反応させた質量平均分子量1,000〜10,000アルコキシシランオリゴマーを用いてもよく、シリカの微粒子は粒子径が10〜200nm程度のシリカ粒子を溶媒に分散させたコロイダルシリカを用いてもよい。
アルコキシシランとコロイダルシリカの配合比率は、固形分としての質量比で1:0.3〜1:1程度が好ましい。
【0011】
本発明に用いるアルコキシシランは(R
1)
mSi(OR
2)
4−mで表現でき、m=0,1,2,3のいずれかである。
R
1はビニル,3−グリシドキシプロピル,3−アクリロキシプロピル,3−アミノプロピル,3−メルカプトプロピル等の官能基又は、低級アルキル基を示す。
R
1又はR
2で示される低級アルキル基としては、メチル,エチル,n−プロピル,イソプロピル,n−ブチル,イソブチル,n−ペンチル,1−エチルプロピル,イソペンチル,ネオペンチル等が例として挙げられる。
【0012】
本発明において、ニッケル塩の水溶液による20〜35℃の低温封孔と100〜160℃の水蒸気(常圧〜高圧蒸気を含む)による蒸気封孔とを組み合せたのは、水蒸気封孔だけでは表面に過度にベーマイト化した粉ふき現象が生じる恐れがあるが、ニッケル塩による低温封孔を組み合せると粉ふきを防止するとともに、コーティング層の密着性が向上する。
ニッケル塩としては、フッ化ニッケルが好ましい。
【0013】
本発明において陽極酸化皮膜は、電解液に硫酸水溶液を用いた硫酸皮膜,シュウ酸を電解液に用いたシュウ酸皮膜等、電解液に制限がなく、膜厚は1〜20μm程度が好ましい。
また、陽極酸化皮膜は、封孔処理前に二次電解着色や染色による着色を施してあってもよい。
また、陽極酸化皮膜の前処理として、バフ研磨,化学研磨,エッチング等の各種前処理が施されていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に用いたシリカ質のコーティング層は、透過率90%以上の高い透明度を示すとともに、密着性に優れる。
そこで、充分に封孔処理した陽極酸化皮膜に対しても密着性に優れ、ガラス質からなるのでキズが付きにくい。
これにより、アルミニウム表面の質感を維持しつつ、高耐食性を付与することができる。
仮に、シリカ質のコーティング層に剥がれが生じても、下地の陽極酸化皮膜が充分に封孔されているので、その部分が白化するのを抑える。
また、シリカ質のコーティング層は密着性がよいので、このコーティング層が剥がれた部分に再コーティングすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】封孔処理条件等と耐水性試験の評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
封孔処理の相違による耐水試験を実施したので、以下説明する。
アルミニウム合金の押出材を硫酸水溶液中にて常法に従い、陽極酸化皮膜を形成した。
膜厚は、約10.5μmであった。
次に、
図1の表に示すように実施例1は、フッ化ニッケル塩5g/リットルの水溶液を用いて30℃×5〜10分の低温封孔処理を行い、次に水洗後に100〜160℃の水蒸気を用いて15〜30分の蒸気封孔処理をした。
これに対して比較例1は、70〜85℃の温水にて15〜20分の半封孔処理を施した。
次に、実施例1,比較例1とともに、奥野製薬工業株式会社の商品名「Protector」を塗布及び加熱乾燥させ、膜厚約4.8μmのシリカ質のコーティング層を形成した。
次に、故意に上記コーティング層の一部を部分的に強制剥離して、コーティング剥離部分を形成した。
次に、これらのサンプルを純水を用いて40℃×360時間の耐水試験を実施した。
その後に乾燥させ、光沢保持率を計測した。
光沢保持率は、測定器:HORIBA GLOSS CHECKER(IG−410)を用いて、測定角度60°,耐水試験前のグロス値に対する耐水試験後のグロス値の比率として評価した。
この結果、実施例1はコーティング層,コーティング剥離部分とともに高い光沢保持率を維持したのに対して、比較例1はコーティング剥離部分が白化し、低い光沢保持率となり、全体としてまだら模様の表面状態になった。
また、耐水試験後にコーティング層のセロハンテープによるゴバン目剥がれ試験を実施した結果、実施例1,比較例1ともに剥がれ0/100と密着性に差は無かった。