特許第6667324号(P6667324)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6667324
(24)【登録日】2020年2月27日
(45)【発行日】2020年3月18日
(54)【発明の名称】ミッションケース
(51)【国際特許分類】
   A01B 33/08 20060101AFI20200309BHJP
   B60K 17/06 20060101ALI20200309BHJP
   B60K 17/08 20060101ALI20200309BHJP
【FI】
   A01B33/08 A
   B60K17/06 E
   B60K17/08 B
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-44020(P2016-44020)
(22)【出願日】2016年3月8日
(65)【公開番号】特開2017-158457(P2017-158457A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2019年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000157153
【氏名又は名称】関東農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095739
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 茂房
(72)【発明者】
【氏名】石浜 秀男
(72)【発明者】
【氏名】及川 順
(72)【発明者】
【氏名】小菅 辰紀
【審査官】 中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭59−062352(JP,U)
【文献】 特開2012−152195(JP,A)
【文献】 特開2001−289314(JP,A)
【文献】 特開昭61−082070(JP,A)
【文献】 特開昭59−215942(JP,A)
【文献】 実開昭61−108109(JP,U)
【文献】 中国実用新案第201629956(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 33/00 − 33/16
B60K 17/00 − 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミッションケースを2分割した、エンジンの駆動軸から走行車輪の駆動軸へ回転を伝達させる走行系ミッションを格納した交換しない金属製固定ケース部と、前記エンジンの駆動軸からロータリの駆動軸へ回転を伝達させる作業系ミッションを格納した交換可能な金属製着脱ケース部とから成り、
前記固定ケース部及び前記着脱ケース部には、両者の分割開口部同士に貫設した位置決めピン孔への金属製位置決めピンの打ち込みによる位置決めと、打ち込まれた位置決めピンのピン打ち抜き空間への排出による取り出しとを可能としたピン機構を備え、
一方の前記固定ケース部の分割開口部には、突出させた開口周縁に複数の固定ボルトが螺着可能なボルト穴を備えたフランジ当接面を形成すると共に他方の前記着脱ケース部の分割開口部には、周縁に前記フランジ当接面に密接可能とすると共にフランジ当接面のボルト穴へ前記固定ボルトを挿通可能とする複数のボルト孔を備えたフランジを形成し、
前記ピン機構は、前記ピン打ち抜き空間を、前記固定ケース部のフランジ当接面の後側の開口周縁の外側に前記位置決めピンが前記位置決めピン孔から抜き取り可能な深さに形成し、前記位置決めピン孔を、前記ピン打ち抜き空間に孔端部を臨ませて、前記固定ケース部のフランジ当接面と前記着脱ケース部のフランジとに前記固定ケース部に対して着脱ケース部が位置決め可能に貫設し、前記位置決めピンの径を、前記位置決めピン孔に圧入状態に打ち込み可能な寸法としたことを特徴とするミッションケース。
【請求項2】
固定ケース部の素材を位置決めピンの素材より柔らかい金属素材とすると共に前記位置決めピンを位置決めピン孔の孔径と同径又は僅かに大径としたことを特徴とする請求項1に記載のミッションケース。
【請求項3】
位置決めピン孔を、固定ケース部及び着脱ケース部の開口部の中心部を基準として夫々反対側となる部位の該フランジとフランジ当接面に一対設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載のミッションケース。
【請求項4】
固定ケース部と着脱ケース部とにボルトで固定した金属製のブラケットを架設し、該ブラケットの中間部位に、着脱ケース部のフランジを固定ケース部に向けて押圧可能に当接する屈曲部を形成したことを特徴とする請求項1から3のうちのいずれかに記載のミッションケース。
【請求項5】
固定ケース部と着脱ケース部とにボルトで固定した金属製のブラケットを架設し、該ブラケットの中間部位に、前記固定ケース部側の分割開口部の置決めピン孔から位置決めピンが離脱しない位置で該位置決めピンに当接可能な形状の屈曲部を形成したことを特徴とする請求項1から4のうちのいずれかに記載のミッションケース。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンの動力を走行車輪の駆動部とロータリの駆動部とに伝達する2方向のミッションを覆って保護する耕耘機用のミッションケースに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの力で走行し、耕耘爪を備えたロータリで農耕する耕耘機は、ロータリへ伝達させるための作業系ミッションと走行車輪へ伝達させるための走行系ミッションとが最適な回転数で伝達するための減速機等を介して一つのエンジンに接続されている。
そして該作業系ミッションと走行系ミッションは、組み合わされた部品間への土や草などの異物の侵入により伝達機能低下や部品の損傷が起こらないように全体をミッションケースに格納して保護している。
【0003】
このような耕耘機では、メーカーは使用者の要望に応えて、同じ耕耘機本体に対して異なった耕耘作業が行えるように装着されているロータリを別のロータリと交換する作業を行うことがある。
その際に、下記特許文献1の如き従来の走行系ミッションと作業系ミッションが一体的に格納されているミッションケースでは、ミッションケース全体を一度に分解しなればならず、メーカーにとってその交換作業は困難であり、部品も含めて大きなコスト負担を生じさせるものであった。
又、ロータリのギヤやチェーンの破損や消耗による不具合の修理や部品交換ではミッションケースを一旦取り外し、終了後に再度取り付けなければならず、そのミッションケースの着脱作業は大変面倒であった。
【0004】
本発明者等は、このように困難であったロータリの交換作業やメンテナンスを低コストで効率良く行えるようにすべく研究を重ねてきた中で、走行車輪を回転させるためのミッション部分は交換を必要としないので、ロータリを回転させるためのミッション部分を格納したミッションケースの一部だけを分離させれば、ロータリの交換作業が容易に行えるようになるはずであると考えた。
しかしながら、実際にミッションケースを2つに分割してみると、回転を伝達するミッション構造やロータリの支持構造とも関係して、分割した両側のケースの連結強度や連結位置の正確さが必要となり、実用化が非常に困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2014−23450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、走行車輪を回転させるためのミッションとロータリを回転させるためのミッションとが正確な位置で結合されて一体的に保護され、ロータリをメンテナンスする際には容易に着脱可能となり、又ロータリを交換する際には、装着されていたロータリを別のロータリと容易に交換可能となるミッションケースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明は、ミッションケースを2分割した、エンジンの駆動軸から走行車輪の駆動軸へ回転を伝達させる走行系ミッションを格納した交換しない金属製固定ケース部と、前記エンジンの駆動軸からロータリの駆動軸へ回転を伝達させる作業系ミッションを格納した交換可能な金属製着脱ケース部とから成り、前記固定ケース部及び前記着脱ケース部には、両者の分割開口部同士に貫設した位置決めピン孔への金属製位置決めピンの打ち込みによる位置決めと、打ち込まれた位置決めピンのピン打ち抜き空間への排出による取り出しとを可能としたピン機構を備え、一方の前記固定ケース部の分割開口部には突出させた開口周縁に複数の固定ボルトが螺着可能なボルト穴を備えたフランジ当接面を形成すると共に他方の前記着脱ケース部の分割開口部には、周縁に前記フランジ当接面に密接可能とすると共にフランジ当接面のボルト穴へ前記固定ボルトを挿通可能とする複数のボルト孔を備えたフランジを形成し、前記ピン機構は、前記ピン打ち抜き空間を、前記固定ケース部のフランジ当接面の後側の開口周縁の外側に前記位置決めピンが前記位置決めピン孔から抜き取り可能な深さに形成し、前記位置決めピン孔を、前記ピン打ち抜き空間に孔端部を臨ませて、前記固定ケース部のフランジ当接面と前記着脱ケース部のフランジとに前記固定ケース部に対して着脱ケース部が位置決め可能に貫設し、前記位置決めピンの径を、前記位置決めピン孔に圧入状態に打ち込み可能な寸法としたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、上記発明において、前記固定ケース部の素材を位置決めピンの素材より柔らかい金属素材とすると共に前記位置決めピンを位置決めピン孔の孔径と同径又は僅かに大径としたことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、上記発明において、前記位置決めピン孔を、固定ケース部及び着脱ケース部の開口部の中心部を基準として夫々反対側となる部位の該フランジとフランジ当接面に一対設けたことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、上記発明において、前記固定ケース部と着脱ケース部とにボルトで固定した金属製のブラケットを架設し、該ブラケットの中間部位に、着脱ケース部のフランジを固定ケース部に向けて押圧可能に当接する屈曲部を形成したことを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、上記発明において、前記固定ケース部と着脱ケース部とにボルトで固定した金属製のブラケットを架設し、該ブラケットの中間部位に、前記固定ケース部側の分割開口部の置決めピン孔から位置決めピンが離脱しない位置で該位置決めピンに当接可能な形状の屈曲部を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
従来の耕耘機のロータリの交換はミッションケース全体を一緒に交換しなければならず、その作業は容易ではなかったが、本発明はミッションケースが走行車輪の駆動軸へ回転を伝達させる走行系ミッションを格納する固定ケース部と、ロータリの駆動軸へ回転を伝達させる作業系ミッションを格納する着脱ケース部とに2分割したことで、前記固定ケース部は固定したまま着脱ケース部のみの着脱によって、装着されているロータリを別のロータリへと交換する作業が容易に行えるようになる。
その際の、位置決めピン孔に位置決めピンを圧入状態に打ち込むことで固定ケース部に対して着脱ケース部を精度の高い正確な位置に固定させることが可能となり、その位置で更にフランジのボルト孔からフランジ当接面のボルト穴に固定ボルトを差し込み締め付けることで分割開口部の強固な結合が可能となる。
又、次にその位置決めピンと固定ボルトとを外すことで固定ケース部から着脱ケース部を容易に分離させることが可能となるが、その際の位置決めピンの取り出しは、ピン打ち抜き工具を用いてフランジ側からハンマー等で位置決めピンを叩き出すだけでその位置決めピンを簡単に位置決めピン孔からピン打ち抜き空間へ排出可能となり、従来引き抜き難いとされる位置決めピンが、本発明によって容易に抜き取ることが可能となる。
そして更にフランジから固定ボルトをスパナー等の工具で外せば、固定ケース部から着脱ケース部が短時間で簡単に分離できるので、ロータリの取り外し作業の大幅な能率向上とコストダウンが可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明においては、前記位置決めピン孔に対して該位置決めピン孔の孔径より僅かに大径の位置決めピンを打ち込むことで前記位置決めピン孔に前記位置決めピンが圧入可能となるが、その際、前記位置決めピンの位置決めピン孔への進入によって位置決めピンより柔らかい金属の位置決めピン孔が内部から押圧されて拡張変形を起こしつつ挿し込まれ、この結果、位置決めピン孔が位置決めピンを強く締め付けて位置決めピンが正確な位置に強固に固定可能となる。
またその際、前記位置決めピンの先端を位置決めピン孔の孔端部の手前で止めることで、置決めピン孔の位置決めピン未通過部分にストッパー機能が生じ、振動等の力を受けた位置決めピンが位置決めピン孔からピン打ち抜き空間へ突出して行くのが阻止され、フランジ側の位置決めピン孔から位置決めピンが外れてしまうのを防止可能となる。
なお、前記位置決めピン孔と位置決めピンを同径とした場合には、位置決めピン孔と位置決めピンの間には部品精度が高いと隙間なく密接状態となって固定されるが、部品精度のレベルによっては一部押圧変形が起こる部分と起こらない部分とが生じる場合があり、この場合も位置決めピン孔が位置決めピンを強く締め付けて位置決めピンが正確なに位置で強固に固定可能となる。
【0014】
請求項3に記載の発明においては、前記フランジとフランジ当接面に設けた前記位置決めピン孔の一対が、前記固定ケース部及び着脱ケース部の開口部の中心部を基準として夫々反対側となる部位にすることで、両者がより離れた位置となり、固定ボルトでの固定前にフランジとフランジ当接面を位置決めピンのみの打ち込みによって固定ケース部に着脱ケース部を仮固定しておくことができ、且つその距離の大きさで位置決めピン孔同士を近くに設けた場合に比べて取り付け誤差を小さくし、より正確な位置決めが可能となる。
【0015】
請求項4に記載の発明においては、前記固定ケース部と着脱ケース部とに架橋させたブラケットで固定ケース部に対して前記着脱ケース部がより強固に固定される。
その際、屈曲部がブラケットの中間部位で作業ケース部のフランジを固定ケース部に向けて押圧することで、着脱ケース部に固定したボルトが緩んだとしても屈曲部が働いて固定ケース部に着脱ケース部を継続して押圧し、着脱ケース部の強固な固定を維持させることが可能となる。
【0016】
請求項5に記載の発明においては、耕耘機の衝撃や振動等によって打ち込まれている位置決めピンが固定ケース部側の分割開口部の位置決めピン孔から抜け出す方向に力が働いた際に、前記位置決めピンの頭が位置決めピン孔から突き出ていくと、ブラケット中間部位の屈曲部が、該位置決めピンの頭に突き当たって止まる。この止まった位置決めピンの位置は、前記固定ケース部側の分割開口部の位置決めピン孔からは離脱していない位置にあるため、前記着脱ケース部と固定ケース部の両方の位置決めピン孔に嵌った状態が維持される。
この結果、前記着脱ケース部を固定ケース部に固定している固定ボルトが緩んでも前記固定ケース部に対して前記着脱ケース部を決められた位置に正確に固定させておくことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の(イ)はロータリを取り付けた態様、(ロ)は別のロータリを取り付けた態様を示す耕耘機の各側面図である。
図2】本発明の側面図である。
図3図2の着脱ケース部を固定ケース部から分離した状態を示す側面図である。
図4】(イ)は分割開口部の要部を示す正面から見た断面図、(ロ)はその拡大断面図である。
図5】位置決めピンを打ち抜いた状態のピン機構の要部を示す拡大断面図である。
図6】(イ)は図2のA―A断面図、(ロ)は図2のB―B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のミッションケースを実施するための形態を、以下図を参照しつつ説明する。
本発明は、図1の(イ)及び(ロ)に示すように、エンジンEの力で走行車輪H及び各種のロータリR1、R2を駆動させるためのミッションを覆って保護する耕耘機のミッションケースであり、該ミッションケース内部には、図2に示すように、エンジンに接続されたエンジンの駆動軸2に対して、該駆動軸2の回転を前記走行車輪の駆動軸3に伝達させる走行系ミッション5と前記ロータリの駆動軸4に伝達させる作業系ミッション6との2つの系統のミッションが格納される。
【0019】
本発明は、前記ミッションケースを、図1に示すように、前記走行系ミッションを格納した固定ケース部7と、前記作業系ミッションを格納した着脱ケース部8とに2分割し、その2分割した両者の分割開口部9、11を着脱可能とすることで、同じ耕耘機の機体に対して、走行系ミッション6から分離させた作業系ミッション6に繋がるロータリR1を別のロータリR2に交換可能とする。
【0020】
図2は上記図1の耕耘機のミッションケース部分を拡大して示したものであり、前記走行系ミッション5を格納する固定ケース部7と、前記作業系ミッション6を格納する着脱ケース部8とを前記分割開口部9、11で連結した状態を示し、図3は前記固定ケース部7と前記着脱ケース部8とを分離した状態であり、該図3中(イ)は固定ケース部7を示し、(ロ)は該固定ケース部7から分離した着脱ケース部8を示す。
【0021】
なお、図1は、エンジンEからエンジンの駆動軸まで回転を伝達するミッション部分については別途にミッションカバーKで覆って保護した耕耘機を示す。
又、図示はしていないが、前記走行系ミッション5及び作業系ミッション6はギヤ、スプロケット、チェーン、プリー、Vベルト等の各種の回転伝達用の部品を用いることができる。
【0022】
上記の如く本発明はミッションケースを固定ケース7と着脱ケース7とに2分割するが、前記固定ケース7そのものについては、例えば、図2及び図6の(イ)に、2枚のケースで前記エンジンの駆動軸2から走行車輪Hの駆動軸3までの走行系ミッション5の両側を囲い、その両側合わせ口に対設したフランジ部分を複数の固定ボルト29を用いて周囲を締結した態様とすることが可能である。
そして、この両側のケースに合わせ目で跨って、図4の(イ)、(ロ)及び図6の(イ)に示すように、走行系ミッション5と共通したエンジンの駆動軸2からロータリの駆動軸4の方向に向かって該駆動軸4を回転させる作業系ミッション6が通過可能に開口させると共に該開口部の周縁から突出させた部分にフランジ当接面10を備えた分割開口部9を形成する。
【0023】
又、前記着脱ケース部8そのものについては、例えば、図2及び図4の(イ)に示すように、2枚のケースで両側から前記作業系ミッション6を囲い、その両側の合わせ口を溶接で固着した態様とすることが可能である。この態様では、着脱ケース部8は作業系ミッション6から外せないように作業系ミッション6と一体化される。
なお、上記の如く両側のケースの合わせ目を溶接で固定するのではなく、対設したフランジ部分を固定ボルトで締結した態様とすることも可能である。この態様では該固定ボルトの着脱で前記着脱ケース部8を作業系ミッション6に着脱可能となる。
そして、該着脱ケース部8には、図6の(ロ)に示すように、前記エンジンの駆動軸2から前記作業系ミッション6への回転伝達が可能な開口部を設けて、該開口部の周縁に前記固定ケース部7の分割開口部9のフランジ10に密接可能に対向させた当接面18を有するフランジ17を備えた分割開口部11を形成する。
【0024】
なお、前記固定ケース部7にはエンジン駆動軸用開口部24、走行車輪駆動軸用開口部25が、又前記着脱ケース部8にはロータリ駆動軸用開口部26を夫々設けてミッションケース外の走行車輪Hとロータリとに動力を伝達できるようにする。
又、前記走行車輪Hの駆動軸3とロータリの駆動軸4とは回転数が異なるので、図2に示すように、走行系ミッション5及び作業系ミッション6には前記エンジンの駆動軸2からの回転数を調節して伝達する減速部27、28を設ける。
【0025】
更に、前記両分割開口部9、11には、図4の(イ)、(ロ)に示すように、位置決めピン15により前記固定ケース部7に対して着脱ケース部8を高い精度で位置決め可能とし、且つその位置決めピン15を容易に抜き取り可能とする2つの機能を有するピン機構32を設ける。
【0026】
次に、前記ピン機構32の2つの機能のうち高い精度の位置決め機能を得るための構造について先に説明する。
該ピン機構32は、図2及び図4の(イ)、(ロ)に示すように、前記固定ケース部7のフランジ当接面10と前記着脱ケース部8のフランジ17の当接面18とを前記固定ケース部7に対して着脱ケース部8が高い精度で密接可能な位置において、前記固定ケース部7のフランジ当接面10と前記着脱ケース部8のフランジ17とに位置決めピン15を打ち込むための位置決めピン孔13、14を複数貫設する。
上記高い精度で密接可能な正確な位置とは、前記着脱ケース部8内の作業系ミッション6が前記エンジンの駆動軸2に対して夫々構成する部品同士が設計通り正確な位置関係を確定できるように、前記固定ケース部7のフランジ当接面10に対して着脱ケース部8のフランジ17の当接面18を密接状態に固定できる位置のことである。
【0027】
該位置決めピン孔13、14は、例えば、フランジ当接面10とフランジ17との位置を確定させるため、図6の(イ)、(ロ)に示すように、固定ケース部7及び作業ケース部8の分割開口部9、11の中心部を基準として夫々反対側となる部位のフランジ17とフランジ当接面10に一対設ける形態が可能である。
この形態では、該フランジ17とフランジ当接面10に設けた前記位置決めピン孔13、14の一対がより離れた位置となり、近くに設けた場合に比べ、取り付け精度を高め、固定ボルト12での固定前にフランジ17とフランジ当接面10を位置決めピン15のみの打ち込みで固定ケース部7に着脱ケース部8を安定的に仮固定しておくことができる。その状態のまま、固定ケース部7に着脱ケース部8が固定ボルト12で正確な位置で固定されることとなる。
【0028】
次に、前記ピン機構32の位置決めピン15を容易に抜き取り可能とする構造について説明する。
該ピン機構32は、図4の(イ)、(ロ)に示すように、前記固定ケース部7のフランジ当接面10背後の分割開口部9に前記位置決めピン孔13と連通したピン打ち抜き空間16を設ける。
該ピン打ち抜き空間16は前記位置決めピン孔13の中心方向に前記位置決めピン15の長さを超える深さと広さを有する空間とする。
このピン打ち抜き空間16を設けることによって、ピン抜き工具を用いて前記位置決めピン15をハンマー等で叩き出すことで、図5に示すように、前記位置決めピン孔13からピン打ち抜き空間16内に前記位置決めピン15を容易に排出可能となる。
ピン打ち抜き空間16の深さは、例えば、前記位置決めピン15の長さを約15mmとした場合、該位置決めピン15の長さより3mm程大きな18mmの深さに形成することで該位置決めピン15を該ピン打ち抜き空間16内に叩き出して抜き取ることが可能となる。
【0029】
上記の如く2つの機能を有するピン機構32の前記位置決めピン孔13、14に前記位置決めピン15を打ち込んだ後は、図2に示すように、前記固定ケース部7に前記着脱ケース部8をボルト固定する。
そのため、図6に示すように、前記フランジ当接面10とフランジ17に固定ボルト12を螺着可能なボルト孔19、20を結合の強度を得るに必要な間隔を置いて複数貫設する。
なお、フランジ17の当接面18とフランジ当接面10との合わせ面には紙製等のパッキンを挟んで両側の分割開口部9、11を気密状態に連結しても良い。
【0030】
本発明は上記構造によって、前記固定ケース部7と前記着脱ケース部8とが、前記位置決めピン孔13、14に打ち込まれた位置決めピン15で正確に位置決めし、該位置決めピン15を打ち込んだ正確な位置において、前記各ボルト孔19、20に固定ボルト12を強く締め付けて螺着して、図2に示すように、固定ケース部7と着脱ケース部8とが正確な位置で強く結合される。
そして、ロータリを交換する際には、図5に示すように、前記位置決めピン15を叩いてピン打ち抜き空間16から抜き取り、更に図3に示すように、前記固定ボルト12を外すことで前記固定ケース部7のフランジ当接面10から前記着脱ケース部8のフランジ17の当接面18が簡単に分離される。
そして、別のロータリを装着する際には、該ロータリの作業系ミッション6を格納した着脱ケース部8の分割開口部11を固定ケース部7の分割開口部9に合わせて前記位置決めピン孔13、14に位置決めピン15を打ち込んで位置決めし、前記各ボルト孔19、20に固定ボルト12を螺着して締め付けることで前記着脱ケース部8を固定ケース部7に結合してロータリの装着が完了する。
即ち、位置決めピン15と固定ボルト12によって、前記固定ケース部7と着脱ケース部8とが容易に着脱可能となる。
【0031】
又、前記固定ケース部7の素材は、位置決めピン15の素材より柔らかい金属素材とし、前記位置決めピン15を位置決めピン孔13、14の孔径と同径乃至僅かに大径とする形態が可能である。
例えば、位置決めピン15は鋼材を使用し、前記固定ケース部7はアルミニュウムを使用し、前記位置決めピン孔13、14の孔径を6.00mmとした場合、これに使用する位置決めピン15の径は6.00mm〜6.012mmと位置決めピン孔13、14の孔径と同径乃至僅かに大径とすることができる。
【0032】
この形態では、前記固定ケース部7の位置決めピン孔13を位置決めピン15より僅かに小径とした場合には、前記位置決めピン15の位置決めピン孔13、14への進入によって位置決めピン15より柔らかい金属の位置決めピン孔13が内部から押圧されて変形を起こしつつ位置決めピン15が圧入され、この結果、位置決めピン孔13が位置決めピン15を強く締め付けて位置決めピン15が正確に位置で強固に固定可能となる。
又、その際、前記位置決めピン15の先端を位置決めピン孔13の孔端部の少し手前で進行を止めてその先のアルミニュウムの孔径の拡張を停止させることで、置決めピン孔13への位置決めピン15の未通過部分にストッパー機能を生じさせ、強い振動や衝撃等外部から受ける圧力によって位置決めピン15がピン打ち抜き空間15の方向へ移動するのが止められ、フランジ11aからの脱落が防止される。
【0033】
なお、位置決めピン孔13と位置決めピン15を同径とした場合には、位置決めピン孔13と位置決めピン15の間には部品精度が高いと隙間なく密接状態となって固定されるが、部品精度のレベルによっては一部押圧変形が起こる部分と起こらない部分とが生じる場合があるが、この場合でも位置決めピン孔13が位置決めピン15を強く締め付けて位置決めピン15が正確に位置で強固に固定可能となる。
【0034】
又、この態様では、ロータリを交換するために位置決めピン15を外す際に、ピン抜き用の工具を介して、前記着脱ケース部8側からハンマー等で位置決めピン15を叩くと、柔らかいアルミニュウムの位置決めピン孔13を位置決めピン15の先端部が拡張させつつ、位置決めピン孔13内を進行し、最後に、図5に示すように、ピン打ち抜き空間15内に排出させることができる。
通常、前記位置決めピン15は頭まで打ち込まれていると、前記作業ケース部8側から引き抜くことは極めて困難となるが、本発明では上記の如く前記ピン打ち抜き空間16へ叩き出すことで極めて容易に位置決めピン15を抜き取ることが可能となる。
【0035】
又、図2に示すように、前記固定ケース部7と着脱ケース部8の連結部分を覆うように鉄等の金属板製のブラケット21を配して、該ブラケット21の両側をボルト22、23で固定ケース部7及び着脱ケース部8に架橋させて固定することができる。
その際、図3の(ハ)及び図4の(ロ)に示すように、該ブラケット21の中間部位に、前記作業ケース部8のフランジ11aの周囲の一部分を固定ケース部7に向けて押圧可能に当接する屈曲部21aを設けることで前記固定ケース部7と着脱ケース部8の結合を更に強固とすることができる。
この形態では、屈曲部21aがブラケット21の中間部位で作業ケース部8のフランジ11aを固定ケース部8に向けて押圧し、着脱ケース部8に固定したボルト23が緩んだとしても屈曲部21aが働いて固定ケース部7に着脱ケース部8が押圧され、ブラケット21による固定が維持される。
なお、図3及び図4中の符号22a、22b、23a、23bは固定ケース部7と着脱ケース部8にブラケット21の両側を固定するためにボルト22、23を差し込む各ボルト孔であり22c、23cは該ボルト22、23に螺着したナットである。
【0036】
又、前記固定ケース部7と着脱ケース部8の連結部分を覆うように配した鉄等の金属板製のブラケット21の両側をボルト22、23で固定ケース部7及び着脱ケース部8に架橋させて固定すると共に該ブラケット21の中間部位に、打ち込まれた位置決めピン15が前記固定ケース部7側の分割開口部9の置決めピン孔13から離脱しない位置で前記位置決めピン15に当接可能な形状の屈曲部21aを形成した形態が可能である。
【0037】
この形態における、該位置決めピン15の先端部が前記固定ケース部7側の分割開口部9の位置決めピン孔13から離脱しない位置は、前記固定ケース部7側の位置決めピン孔13の開口端部から前記ブラケット21の屈曲部21aまでの最短距離が該位置決めピン孔13の長さよりも短い位置である。即ち、前記着脱ケース部8側の位置決めピン孔14から前記ブラケット21の屈曲部21aまでの間隔が、前記位置決めピン15の長さから位置決めピン孔14の長さを減じた間隔よりも狭い間隔である。
この形態では、例えば、図4の(ロ)ではブラケット21の屈曲部21aが位置決めピン15の頭から少し離れた状態を示しているが、該位置決めピン15が耕耘機の震度や衝撃を受けて抜け出す方向に移動した際に、ブラケット21の屈曲部21aが位置決めピン15の頭に当たって、記固定ケース部7側の分割開口部9の位置決めピン孔13からそれ以上抜け出せないようにすることができる。
【0038】
仮に、位置決めピン15の頭が前記ブラケット21の屈曲部21aに当たらない場合には、前記位置決めピン15の先端が前記固定ケース部7側の位置決めピン孔13から抜けてしまい、抜けてしまうと、前記着脱ケース部8側の分割開口部11の位置決めピン孔14に前記位置決めピン15が固定されていていたとしても、前記固定ケース部7側の分割開口部9と着脱ケース部8側の分割開口部11とが正確な位置で固定される機能が失われてしまう。
【0039】
従って本発明では、位置決めピン15の位置決め機能を有効に維持させるため、前記固定ケース部7側の位置決めピン孔13に位置決めピン15が深く差し込まれた状態が維持されることが好ましく、前記着脱ケース部8側の位置決めピン孔14から前記ブラケット21の屈曲部21aまでの間隔は狭く設定する方が好ましい。
【0040】
又、耕耘機に装着されるロータリやロータリカバー等は機体前方にロータリ支持フレーム31で支持され、交換するロータリと関連して、耕耘深さ調節輪等の各種アタッチメント等の交換も一緒に必要となる場合もある。
それらの部品は前記固定ケース部7にボルト等で別途に取り付ける場合や着脱ケース部8に固定する場合等があり、その部品の構造に応じて各部への取り付けが可能となる。
例えば、図2に示すように、上記ブラケット21の前記固定ケース部7及び着脱ケース部8への着脱に際し、その着脱と同時に前記ロータリ支持フレーム31を、前記着脱ケース部8にブラケット21用のボルト22、23で着脱させる態様が可能である。
この態様では前記ロータリ支持フレーム31の交換がロータリの交換と同時に行えるので交換作業が容易且つ短時間で行うことができる。
なお、固定ケース部7及び着脱ケース部8に対して前記ロータリ支持フレーム31を固定する場合には、固定ケース部7及び着脱ケース部8の素材であるアルミニュウム等の金属は負荷の大きなロータリを支える必要があるため強度の高い厚手のものを使用すると良い。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のミッションケースは、ロータリを交換可能な耕耘機に使用するものであるが、ロータリを交換しない耕耘機であってもロータリ部分のメンテナンスを行い易くするために使用することが可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 ミッションケース
2 エンジンの駆動軸
3 走行車輪の駆動軸
4 ロータリの駆動軸
5 走行系ミッション
6 作業系ミッション
7 固定ケース部
8 着脱ケース部
9 分割開口部
10 フランジ当接面
11 分割開口部
12 固定ボルト
13 位置決めピン孔
14 位置決めピン孔
15 位置決めピン
16 ピン打ち抜き空間
17 フランジ
18 当接面
19 ボルト穴
20 ボルト孔
21 ブラケット
21a 屈曲部
22 ボルト
22a ボルト孔
22b ボルト孔
22c ナット
23 ボルト
23a ボルト孔
23b ボルト孔
23c ナット
24 エンジン駆動軸用開口部
25 走行車輪駆動軸用開口部
26 ロータリ駆動軸用開口部
27 減速部
28 減速部
29 固定ボルト
30 溶接部
31 ロータリ支持フレーム
32 ピン機構
E エンジン
H 走行車輪
K ミッションカバー
R1 ロータリ
R2 ロータリ



図1
図2
図3
図4
図5
図6