(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、様々な処理を行う機能ブロックとして図面に記載される各要素は、ハードウェア的には、CPU、メモリ、その他の回路で構成することができ、ソフトウェア的には、メモリにロードされたプログラムなどによって実現される。したがって、これらの機能ブロックがハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは当業者には理解されるところであり、いずれかに限定されるものではない。なお、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0017】
(実施形態の概要)
図1は、実施の形態の概要に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
図1において、制御装置100は、推定器101と、制御器102とを備える。制御装置100は、モータを制御する制御装置である。
【0018】
推定器101は、誘起電圧オブザーバを適用して、モータの目標電圧、モータの電流値及び過去に推定したモータの回転子の磁極位置(回転角度)からモータの推定誘起電圧及び位相誤差を推定する。
制御器102は、推定誘起電圧及び位相誤差に基づいてモータを制御する。
【0019】
このように、実施の形態の概要に係る制御装置によれば、誘起電圧オブザーバを用いて、誘起電圧を推定し、すべての制御ゲインを一意に決定することにより、誘起電圧及び磁極位置推定系の周波数特性が明確に設計可能となり、センサレス制御に必要なすべての制御ゲインの設計を理論的かつ定量的に行うことができる。
【0020】
(実施の形態1)
実施の形態1では、実施の形態の概要で説明した制御装置100の詳細な構成及び制御装置100を用いたモータの制御装置について説明する。
【0021】
最初に実施の形態1に係る制御装置の各構成の機能について説明する。
図2は、実施の形態1に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
図2において、制御装置200は、推定器101と、制御器102と、速度演算器201と、減算器202と、2相/3相変換器203と、PWM制御器204と、3相/2相変換器205とを備える。そして、制御装置200は、モータ210の回転速度を制御する。例えば、推定器101、制御器102、速度演算器201及び減算器202は、ASIC(application specific integrated circuit)、またはCPU(Central Processing Unit)及びメモリで構成された処理器または半導体装置で構成しても良い。
【0022】
推定器101は、このU相電流値Iu、V相電流値Iv及び過去(例えば1サンプル前)のモータ210の回転子の回転角度に基づいて、現在のモータ210の回転子の回転角度を推定する。そして、推定器101は、推定した回転角度を速度演算器201、2相/3相変換器203及び3相/2相変換器205に出力する。推定器101の詳細な構成及び動作については後述する。
【0023】
制御器102は、目標回転速度と速度演算器201により得られた回転速度との差から決定される電流目標値Iq
*と、実際にモータ210に流れている3相電流をdq座標軸上の電流値I
d、I
qに変換した値との偏差に基づいて、dq座標軸上の目標電圧V
d、V
qを演算する。そして、制御器102は、演算結果を推定器101及び2相/3相変換器203に出力する。
【0024】
速度演算器201は、推定器101により推定された回転角度に基づいて回転速度を算出する。そして、速度演算器201は、得られた回転速度を減算器202に出力する。
【0025】
減算器202は、外部より指示された目標回転速度から速度演算器201により得られた回転速度を減算する。そして、減算器202は、減算結果を制御器102に出力する。
【0026】
2相/3相変換器203は、制御器102から指令される目標電圧V
d、V
qを実際の3相の目標電圧Vu
*、Vv
*、Vw
*に変換する。そして、2相/3相変換器203は、実際の3相の目標電圧Vu
*、Vv
*、Vw
*をPWM制御器204に出力する。
【0027】
PWM制御器204は、3相の目標電圧Vu
*、Vv
*、Vw
*を、図示しない直流電源のオンオフにより実現する、デューティ比を決定する。そして、PWM制御器204は、このデューティ比のパルス波でモータ210を駆動する。例えば、PWM制御器204は、内部にインバータを備え、6個のスイッチング素子を制御して、モータ210の三相コイルの各々に印加する電圧を制御する。なお、インバータには、U相およびV相の電流を検出する電流センサが設けられており、U相電流値Iu、V相電流値Ivを検出している。また、インバータはPWM制御器204の内部または外部のいずれに備えても良い。
【0028】
3相/2相変換部205は、推定器101にて推定された回転角度とPWM制御器204で検出した各相電流値Iu、Ivからdq座標軸上の電流値I
d、I
qを算出する。そして、3相/2相変換器205は、電流値I
d、I
qを推定器101及び制御器102に出力する。
【0029】
次に、推定器101の内部構成について説明する。
図2において、推定器101は、誘起電圧オブザーバ111と、誘起電圧演算器112と、位相演算器113と、減算器114とを備える。
【0030】
誘起電圧オブザーバ111は、dq座標軸上の目標電圧V
d、V
q、dq座標軸上の電流値I
d、I
q及び過去に推定したモータ210の回転子の回転角度に基づいて、推定誘起電圧の大きさeと位相誤差βを推定する。そして、誘起電圧オブザーバ111は、推定誘起電圧の大きさeを誘起電圧演算器112に出力する。また、誘起電圧オブザーバ111は、位相誤差βを位相演算器113に出力する。
【0031】
誘起電圧演算器112は、誘起電圧の大きさを誘起電圧係数で除算する演算を行う。そして、誘起電圧演算器112は、演算結果を減算器114に出力する。
【0032】
位相演算器113は、位相誤差βに誤差角積分ゲインω
βを掛けて積分する演算を行う。そして、位相演算器113は、演算結果を減算器114に出力する。
【0033】
減算器114は、誘起電圧演算器112の演算結果から位相演算器113の演算結果を減算して、磁極位置推定値θ^を得る。そして、減算器114は、磁極位置推定値θ^を誘起電圧オブザーバ111、速度演算器201、2相/3相変換器203及び3相/2相変換部205に出力する。
【0034】
このように、推定器101では、磁極位置推定値θ^は、振幅eから算出した位相情報を足しこむと共に位相誤差βに誤差角積分ゲインω
βを掛けて積分し、β=0になるように制御される。
【0035】
次に、制御器102の内部構成について説明する。
図2において、制御器102は、速度PI制御器121と、減算器122と、減算器123と、d軸電流PI制御器124と、q軸電流PI制御器125とを備える。
【0036】
速度PI制御器121は、目標回転速度と速度演算器201により得られた回転速度との差から決定される電流目標値I
q*を決定する。そして、速度PI制御器121は、電流目標値I
q*を減算器123に出力する。
【0037】
減算器122は、目標値I
d*(=0)から、3相/2相変換器205から出力された電流値I
dを減算する。そして減算結果をd軸電流PI制御器124に出力する。
【0038】
減算器123は、目標値I
q*から、3相/2相変換器205から出力された電流値I
qを減算する。そして減算結果をq軸電流PI制御器125に出力する。
【0039】
d軸電流PI制御器124は、目標値I
d*と電流値I
dの差から目標電圧V
dを決定する。そして、d軸電流PI制御器124は、目標電圧V
dを2相/3相変換器203に出力する。
【0040】
q軸電流PI制御器125は、目標値I
q*と電流値I
qの差から目標電圧V
qを決定する。そして、q軸電流PI制御器125は、目標電圧V
qを2相/3相変換器203に出力する。
【0041】
このように、制御器102では、電流目標値Iq
*と、実際にモータ210に流れている3相電流をdq座標軸上の電流値I
d、I
qに変換した値との偏差に基づいて、dq座標軸上の目標電圧V
d、V
qを演算する。
【0042】
次に、モータ210について説明する。
図3は、モータの構成および座標系を説明するための図である。モータ210は、この実施形態では、三相ブラシレスモータである。そして、
図2に示すように、界磁としてのロータ220と、このロータ220に対向するステータ230に配置されたU相、V相およびW相のステータ巻線231、232、233とを備えている。モータ210は、ロータの外部にステータを対向配置したインナーロータ型のものであってもよいし、筒状のロータの内部にステータを対向配置したアウターロータ型のものであってもよい。
【0043】
各相のステータ巻線231、232、233の方向にU軸、V軸およびW軸をとった三相固定座標(UVW座標系)が定義される。また、ロータ220の磁極方向にd軸(磁極軸)をとり、ロータ220の回転平面内においてd軸と直角な方向にq軸(トルク軸)をとった二相回転座標系(dq座標系。実回転座標系)が定義される。dq座標系は、ロータ220とともに回転する回転座標系である。dq座標系では、q軸電流のみがロータ220のトルク発生に寄与するので、d軸電流を零とし、q軸電流を所望のトルクに応じて制御すればよい。ロータ220の回転角(ロータ角)θは、U軸に対するd軸の回転角である。dq座標系は、ロータ角θに従う実回転座標系である。このロータ角θを用いることによって、UVW座標系とdq座標系との間での座標変換を行うことができる。
【0044】
実施の形態1では、制御装置100が上述した三相ブラシレスモータであるモータ210の制御を行う。次に、実施の形態1の制御装置100の動作について説明する。
【0045】
1.誘起電圧オブザーバを利用した誘起電圧及び位相の推定
図4を用いて、誘起電圧オブザーバを利用した誘起電圧及び位相の推定について説明する。
図4は、推定したい真の座標軸と制御に使用する座標軸を説明するための図である。
図4において、d軸は推定したい真のd軸を示し、d^軸は制御に使用するd軸を示す。同様に、
図4において、q軸は推定したい真のq軸を示し、q^軸は制御に使用するq軸を示す。また、
図4において、θは、真の磁極位置を示し、θ^は、磁極推定位置を示す。βは、d軸とd^軸との誤差角及びq軸とq^軸との誤差角を示す。eはd^q^軸上に現れる誘起電圧を示す。
【0046】
図4より、dq制御軸上の電圧方程式は下記の式(1)、式(2)のように書ける。
【数1】
【数2】
式(1)及び式(2)において、V
d*及びV
q*は、d軸及びq軸の指令電圧値である。また、Rはロータのコイルの巻線抵抗値である。また、sは微分演算子(ラプラス演算子)である。L
d及びL
qはd軸及びq軸におけるインダクタンスである。i
d及びi
qはd軸及びq軸の電流値である。ω
*は、目標回転速度である。e
d及びe
qはd軸及びq軸の推定誘起電圧値である。
【0047】
ここで、−ω
*L
qi
q、ω
*L
di
dを外乱に見立てて、それぞれ−d
d、−d
qとおく。
【数3】
【数4】
【0048】
すると、電圧方程式は、上記式(3)、式(4)のようになり、d軸とq軸が分離した方程式となる。ここからまずd軸誘起電圧の推定式を導出する。式(3)を下記の式(5)に書き換える。
【数5】
【0049】
式(5)をもとにi
dとd(外乱)を状態変数として状態方程式(6)及び式(7)を立てる。
【数6】
【数7】
【0050】
ここで、i
dとdの推定値を
【数8】
、
【数9】
とすると、オブザーバ側の推定状態方程式は、推定誤差に推定ゲインK
Ed1、K
Ed2を掛けた項を加えて、下記の式(8)及び式(9)のように書ける。
【数10】
【数11】
【0051】
式(9)を式(8)に代入すると、
【数12】
は、以下の式(10)となる。
【数13】
【0052】
また、式(10)を式(9)に代入すると、
【数14】
は、以下の式(11)と書ける。
【数15】
図5は、誘起電圧オブザーバを適用したd軸誘起電圧推定系のブロック線図である。具体的には、
図5は、式(11)を表したブロック線図である。
【0053】
ここで、式(10)、式(11)を見ると、
【数16】
、
【数17】
は、i
dと、v
d*を入力とする、式(12)及び式(13)の2次系となる。
【数18】
【数19】
【0054】
つまりd軸誘起電圧推定系の周波数特性は、固有振動数ω
EG、ダンピングファクタζ
EGで設計でき、推定ゲインK
Ed1、K
Ed2は、以下の式(14)及び式(15)と書ける。
【数20】
【数21】
【0055】
続いてq軸に関しても同様の計算を行う。式(4)を下記の式(16)のように書き換える。
【数22】
【0056】
式(16)をもとにi
qとd(外乱)を状態変数として状態方程式(17)及び式(18)を立てる。
【数23】
【数24】
【0057】
ここで、i
qとdの推定値を
【数25】
、
【数26】
とすると、オブザーバ側の推定状態方程式は、推定誤差に推定ゲインK
Eq1、K
Eq2掛けた項を加えて、下記の式(19)及び式(20)のように書ける。
【数27】
【数28】
【0058】
式(20)を式(19)に代入すると、
【数29】
は、以下の式(21)となる。
【数30】
【0059】
また、式(21)を式(20)に代入すると、
【数31】
は、以下の式(22)と書ける。
【数32】
図6は、誘起電圧オブザーバを適用したq軸誘起電圧推定系のブロック線図である。具体的には、
図6は、式(11)を表したブロック線図である。
【0060】
ここで、式(21)、式(22)を見ると、
【数33】
、
【数34】
は、i
qと、V
q*を入力とする、式(23)及び式(24)の2次系となる。
【数35】
【数36】
【0061】
つまりd軸誘起電圧推定系と同様に、q軸誘起電圧推定系の周波数特性も、ω
EGとζ
EGで設計でき、推定ゲインK
Eq1、K
Eq2は、以下の式(25)及び式(26)と書ける。
【数37】
【数38】
【0062】
次に、式(11)、式(22)で求めた推定外乱
【数39】
、
【数40】
から推定誘起電圧を算出すると、下記の式(27)及び式(28)のようになる。
【数41】
【数42】
【0063】
よって推定誘起電圧の大きさeと
位相誤差βは、下記の式(29)及び式(30)のように求まる。
【数43】
【数44】
【0064】
次に、算出したeとβから磁極位置を推定する。
図7は、実施の形態1の制御装置の推定器の詳細を示す図である。
図7では、
図2の制御装置における、誘起電圧及び磁極位置推定の機能を示している。この誘起電圧推定系701では、指令電圧値と検出電流値を入力すると、位相誤差βと誘起電圧の大きさeが出力される。そして磁極位置推定値θ^は、振幅eから算出した位相情報を足しこむと共に位相誤差βに誤差角積分ゲインω
βを掛けて積分し、β=0になるように制御される。
【0065】
誘起電圧推定系の周波数特性G
Eは、推定ゲインK
Ed1、K
Ed2、K
Eq1、K
Eq2を式(31)、式(32)、式(33)及び式(34)のように設計すると、固有振動数ω
EG、ダンピングファクタζ
EGで決まる安定な2次系となる。
【数45】
【数46】
【数47】
【数48】
【0066】
よって誘起電圧及び磁極位置推定系において設計が必要な制御ゲインは、ω
EG、ζ
EG、ω
βの3つである。
【0067】
2.ゲインの設計手法
2−1.速度制御系と電流制御系の設計
速度制御系の帯域ω
SCと電流制御系の帯域ω
CCは、それぞれが干渉しないように式(35)の関係を保つように設計する。
【数49】
【0068】
2−2.誘起電圧推定系の設計
図5及び
図6に示すように、誘起電圧推定系の周波数特性は、ω
EGとζ
EGで決まる2次系となっているので、誘起電圧推定応答が電流応答に対して同等以上になるようにω
EGとζ
EGを設計する。
【0069】
以上の設計思想に則り、ζ
EGをζ
EG=0.6程度の値で固定し、ω
EGを下記の式(36)の関係になるように設計する。
【数50】
【0070】
2−3.磁極位置推定系の設計
図7の磁極位置推定系における誤差角積分ゲインω
βは、まずは位相余裕が十分に確保できるように誘起電圧推定系の帯域に対して十分に低い値に設計してやればよい。ところが、この誤差角積分ゲインω
βを低くし過ぎると、速度制御系の帯域が高く、磁極位置推定系に高い周波数の入力があるような場合に、大きな位相遅れを生じることがある。
【0071】
この位相遅れは、トルク低下に直結するので、位相遅れをどの程度まで許容できるかによって、誤差角積分ゲインω
βの下限が決まってくる。
【0072】
以上の設計思想に則り、誤差角積分ゲインω
βを設計する。まず誤差角積分ゲインω
βを下記の式(37)のように設計すると、磁極位置推定系の周波数特性は、1次遅れ系とほぼ同じ特性となるので、カットオフ周波数ω
βで約45°位相が遅れる。
【数51】
【0073】
つまり、磁極位置推定系の入力周波数の上限は、速度制御系の帯域で決まると考えてよいので、例えば、速度制御系の帯域が誤差角積分ゲインω
β以下に設計されていれば、最大でも45°程度の誤差に収まることになる。この45°を誤差の許容範囲(トルク低下率は30%程度)とし、速度制御系の帯域と誤差角積分ゲインの関係を、常に、下記の式(38)の関係を保つように設計する。
【数52】
【0074】
式(37)式と式(38)をまとめると、下記の式(39)となる。
【数53】
【0075】
以上2−1、2−2及び2−3をまとめると、各制御系のゲインの関係は、式(40)のようになる。
【数54】
【0076】
つまり誘起電圧オブザーバを使用したセンサレス制御系全体の設計は、モータパラメータが分かれば、式(40)の関係を保ちつつゲイン設計するのみである。
【0077】
このように実施の形態1の制御装置によれば、誘起電圧推定アルゴリズムに誘起電圧オブザーバを適用することにより、誘起電圧推定系の周波数特性を固有振動数ω
EGにより、明確に決めることができる。そして、式(40)式に従って電流制御系の帯域ω
CC、位相誤差積分ゲインω
β、速度制御系の帯域ω
SCが、一意に決まり、ゲインの調整は不要で、安定した制御を実現できる。
【0078】
(実施の形態2)
一般的にセンサレス制御では、インバータ制御するために必要なデッドタイムによる電圧歪みにより、低速時には低い電圧を正しく出力することができない。この結果、誘起電圧及び磁極位置を正しく推定できない。
【0079】
実施の形態2では、インバータの出力電圧が指令電圧と遅れなく一致するように負帰還制御を行い、デッドタイムによる電圧歪みを小さくすることにより、誘起電圧及び磁極位置の推定精度を上げる。
【0080】
図8は、実施の形態2に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
図8において、
図2と同一の構成は、同一の番号を付し、説明を省略する。
図8において、制御装置800は、デッドタイム補償器801を備える。
【0081】
2相/3相変換器203は、制御器102から指令される目標電圧V
d、V
qを実際の3相の目標電圧Vu
*、Vv
*、Vw
*に変換する。そして、2相/3相変換器203は、実際の3相の目標電圧Vu
*、Vv
*、Vw
*をデッドタイム補償器801に出力する。
【0082】
デッドタイム補償器801は、2相/3相変換器203から出力された3相の目標電圧Vu
*、Vv
*、Vw
*をインバータの出力電圧が指令電圧と遅れなく一致するように負帰還制御を行う。デッドタイム補償器801の詳細な動作は後述する。また、例えば、デッドタイム補償器801は、ASIC(application specific integrated circuit)、またはCPU(Central Processing Unit)及びメモリで構成された処理器または半導体装置で構成しても良い。
【0083】
PWM制御器204は、デッドタイム補償器801から出力された3相の目標電圧を、図示しない直流電源のオンオフにより実現する、デューティ比を決定する。そして、PWM制御器204は、このデューティ比のパルス波でモータ210を駆動する。例えば、PWM制御器204は、内部にインバータを備え、6個のスイッチング素子を制御して、モータ210の三相コイルの各々に印加する電圧を制御する。
【0084】
次にデッドタイム補償器801の詳細な動作について説明する。
図9は、デッドタイム補償制御を実現する電圧制御系のブロック線図である。
図9の電圧制御系の入出力特性は、下記の式(41)で示される。
【数55】
式(41)において、K
p及びK
Iは、PI制御における比例ゲイン及び積分ゲインである。またω
Cは、PWMの周波数以下をカットするフィルタのカットオフ周波数である、
【0085】
ここで、K
p=1、K
I=ω
Cに設計すると、式(41)は、以下の式(42)となる。
【数56】
【0086】
すなわち、式(42)の関係に示すように、指令電圧V
*と出力電圧V
Oは遅れなく一致する。デッドタイム補償器801は、式(42)の制御処理を行う。
【0087】
このように、実施の形態2の制御装置によれば、デッドタイムによる電圧歪みを小さくできるため、誘起電圧及び磁極位置の推定精度が上がり、より低速でも制御が可能となる。また、デッドタイムによる電圧歪みを小さくできるため、磁極位置推定の低速限界速度を下げることができる。
【0088】
(実施の形態3)
実施の形態3では、誘起電圧及び磁極位置推定の低速限界速度を下回る場合、d軸電流を流し、強制的に位置指令値に従って位相を回して駆動するモード(これを引き込み動作モードと呼ぶ)に切り替える。
【0089】
図10は、実施の形態3に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
図10において、
図2及び
図8と同一の構成は、同一の番号を付し、説明を省略する。
図10において、制御装置1000は、切替器1001を備える。
【0090】
切替器1001は、速度演算器201が推定した回転速度が所定の閾値より大きい場合、i
d*=0をd軸電流PI制御器124に出力し、そして、速度PI制御器121から出力されたi
q*をq軸電流PI制御器125に出力する。また、切替器1001は、回転速度が所定の閾値以下である場合、i
d*=i
d_olをd軸電流PI制御器124に出力し、i
q*=0をq軸電流PI制御器125に出力する。例えば、切替器1001は、ASIC(application specific integrated circuit)、またはCPU(Central Processing Unit)及びメモリで構成された処理器または半導体装置で構成しても良い。
【0091】
次に、制御装置1000の動作について説明する。まず、位置指令値から速度指令値を作成する動作について説明する。
図11は、位置指令値から速度指令値の作成の例を示すグラフである。
図11において、横軸は時刻を示し、縦軸は回転角度(回転位置)及び回転速度を示す。また、
図11において、θ
*は目標位置を示し、Taは加速時間を示し、ω
MAXは最大速度を示し、ω
*は、速度指令値を示す。
【0092】
速度指令値は、位置指令値の微分により作成される。そして、速度指令値は、入力パラメータに依存して台形もしくは三角形のパターンとなる。この速度指令値に従ってモータが駆動される。
【0093】
次に、モータが低速回転する場合の制御装置1000の動作について説明する。
図12は、引き込み動作モードへの移行の例を示すグラフである。
図12において、横軸は時刻を示し、縦軸は、回転速度、q軸電流、d軸電流を示す。また、
図12において、ω
swtichは、低速限界速度(引き込み動作モードに移行する閾値の速度)である。i
d_olは、引き込み動作時のd軸電流である。T
swtichは、引き込み動作への移行時間である。
【0094】
図12に示すように、回転速度が低速限界速度ω
swtichより大きい場合、速度PI制御器121から出力されたi
q*がq軸電流PI制御器125に出力され、i
d*=0がd軸電流PI制御器124に出力されて、モータが制御される。そして、回転速度が低速限界速度ω
swtich以下となった場合、引き込み動作への移行時間T
swtich内にi
d*が引き込み動作時のd軸電流i
d_olがd軸電流PI制御器124に出力され、i
q*=0がd軸電流PI制御器124に出力されて、モータが制御される。引き込み動作時のd軸電流i
d_olはモード切り替え直前のq軸電流とするのが好適である。
【0095】
以上の動作により、引き込み動作モードへの切り替え時には、モード切り替え直前のq軸電流をd軸電流PI制御器124に受け渡し、d軸電流とq軸電流を入れ替えるようにすることで、トルクをシームレスに繋ぐ。
【0096】
次に、切替器1001の内部構成について説明する。
図13は、実施の形態3の制御装置の切替器の構成をしめす回路図である。
図13において、切替器1001は、判定器1011と、第1スイッチ1021と、第2スイッチ1031とを備える。
【0097】
判定器1011は、速度演算器201が推定した回転速度が所定の閾値より大きいか、所定の閾値以下であるか判定し、判定結果を第1スイッチ1021及び第2スイッチ1031に出力する。
【0098】
第1スイッチ1021は、判定器1011の判定に従い、接点1022と接点1023の何れかを接点1024に接続する。接点1024は、d軸電流PI制御器124が接続されている。
【0099】
具体的には、速度演算器201が推定した回転速度が所定の閾値より大きい場合、接点1022を接点1024に接続する。すなわち、i
d*=0がd軸電流PI制御器124に出力される。
【0100】
また、速度演算器201が推定した回転速度が所定の閾値以下である場合、接点1023を接点1024に接続する。すなわち、i
d*=i
d_olがd軸電流PI制御器124に出力される。ここでi
d_olは、引き込み動作時のd軸電流である。
【0101】
第2スイッチ1031は、判定器1011の判定に従い、接点1022と接点1033の何れかを接点1034に接続する。接点1032は、速度PI制御器121が接続されている。また、接点1034は、q軸電流PI制御器124が接続されている。
【0102】
具体的には、速度演算器201が推定した回転速度が所定の閾値より大きい場合、接点1032を接点1034に接続する。すなわち、速度PI制御器121から出力されたi
q*がq軸電流PI制御器125に出力される。
【0103】
また、速度演算器201が推定した回転速度が所定の閾値以下である場合、接点1033を接点1034に接続する。すなわち、i
q*=0がq軸電流PI制御器125に出力される。
【0104】
以上の構成により、モータに印加する電圧を負帰還制御することで実現するデッドタイム補償機能と組み合わせ、位置指令プロフィールから生成した指令速度に追従するように駆動する。
【0105】
このように実施の形態3の制御装置によれば、低速限界速度を閾値として、速度制御モードと引き込み動作モードをシームレスに切り替え、位置指令値から生成した指令速度に基づいて駆動することで、簡易位置決め動作を実現することができる。
【0106】
また、誘起電圧及び磁極位置推定の低速限界速度を上回る状態から誘起電圧及び磁極位置推定の低速限界速度を下回る状態に状態が遷移する場合に、状態が遷移する直前のq軸電流をd軸電流PI制御器124に受け渡し、d軸電流とq軸電流を入れ替えることにより、トルクをシームレスに繋ぐことができ、低速限界速度を下回る状態において、位置決め動作を実現することができる。
【0107】
具体的には、低速限界速度を下回る場合は、引き込み動作モードに切り替え、位置指令プロフィールに従って位相を強制的に回すことにより、簡易位置決め動作を実現することができる。
【0108】
また、上述したプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non−transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD−ROM(Read Only Memory)CD−R、CD−R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0109】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は既に述べた実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【0110】
例えば、上記実施の形態では、三相ブラシレスモータを制御する例について記載しているが、三相モータ以外の永久磁石を使用したPM(Permanent Magnet)型やHB(Hybrid)型のステッピングモータに適用してもよい。