【文献】
Nat. Ned.,2014年 5月,doi: 10.1038/nm.3569
【文献】
ガーディアン紙,2012年,URL,https://www.theguardian.com/science/2012/oct/17/young-blood-reverse-effects-ageing
【文献】
北米神経科学学会学会要旨,2012年,URL,http://www.abstractsonline.com/Plan/ViewAbstract.aspx?sKey=5b8d6da0-4c1a-46f5-afef-86efc2598bc7&cKey=12c8a28a-fd41-496d-9e6a-76de84393ac5&mKey=70007181-01c9-4de9-a0a2-eebfa14cd9f1
【文献】
北米神経科学学会学会要旨,2012年,URL,http://www.abstractsonline.com/Plan/ViewAbstract.aspx?sKey=360c307e-addf-4e2e-8783-882731528b69&cKey=b9ea1ccd-f430-4d59-9342-0710d8c62953&mKey=70007181-01c9-4de9-a0a2-eebfa14cd9f1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記老化に関連する認知障害は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、血管性認知症又は他の認知症の結果であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の非全血血漿製剤。
前記老化に関連する認知障害の認知症状は、注意及び集中と、複雑なタスク及び概念の学習と、記憶と、情報処理と、視空間機能と、言語の生成及び理解と、言語流暢性と、問題の解決と、決定と、実行機能とからなる群から選択されていることを特徴とする請求項1に記載の非全血血漿製剤。
【発明を実施するための形態】
【0007】
老化に関連する状態、例えば認知障害の状態、加齢性の認知症、又は一又は複数の末梢臓器の生理機能の加齢性の低下について対象を処置する方法及び組成物を提供する。本方法の態様は、若い血漿を含有する血液製剤を、この血液製剤を必要とする個体、例えば老化に関連する状態、例えば老化に関連する認知障害又は病理学的タイプの認知症を患うか又は発症する危険性がある個体に与えることを含む。更に、本発明の方法を実施する際に使用される組成物及びキットを提供する。
【0008】
本方法及び本組成物を説明する前に、本発明は、言うまでも無くそれ自体が変わり得るように、説明された特定の方法又は組成物に限定されないことを理解すべきである。本明細書に使用されている専門用語は、具体的な実施形態について説明するためだけのものであり、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるので、限定的であることを意図するものではないことも理解されたい。
【0009】
ある範囲の値が与えられる場合、その範囲の上限及び下限の間の、文脈が別段に明示しない限りは下限の単位の10分の1までの各介在値が更に具体的に開示されていることを理解されたい。記載された範囲内の任意の記載された値又は介在する値とその記載された範囲内の任意の他の記載された値又は介在する値との間のより小さい範囲が夫々本発明に包含される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、より小さい範囲内に独立して含まれてもよく、又は除外されてよく、上限及び下限の一方又は両方がより小さい範囲内に含まれているか又はいずれも含まれていない各範囲は、記載された範囲内の任意の具体的に除外された限度を条件として本発明に更に包含される。記載された範囲が限度のうちの一方又は両方を含む場合、これらの含まれた限度の一方又は両方を除外した範囲も本発明に包含される。
【0010】
特に定義されていない限り、本明細書で使用されている全ての技術的用語及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって共通して理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様又は同等である全ての方法及び材料を、本発明の実施又はテストに使用することができるが、ある可能性のある好ましい方法及び材料を本明細書に記載している。本明細書に述べられている全ての刊行物は、引用されている刊行物に関連して本方法及び/又は本材料を開示して記載すべく参照によって本明細書に組み込まれている。本開示が、矛盾が存在する程度まで組み込まれた刊行物のあらゆる開示に優先することを理解されたい。
【0011】
当業者が本開示を読むと明らかであるように、本明細書に説明され例示された個々の実施形態は夫々、別々の構成要素及び特徴を有しており、別々の構成要素及び特徴は、本発明の範囲又は趣旨から逸脱することなく、他の複数の実施形態のいずれかの特徴から容易に分離されてもよく、又はいずれかの特徴と容易に組み合わされてもよい。全ての記載された方法は、記載された事象の順序で、又は論理的に可能な任意の他の順序で実行され得る。
【0012】
単数形の「1つの(a )」、「1つの(an)」及び「その(the )」が、本明細書及び請求項で用いられている場合、文脈が別段に明示しない限り、複数の指示対象を含むことを留意しなければならない。従って、例えば、「細胞」への言及はこのような複数の細胞を含んでおり、「ペプチド」への言及は、一又は複数のペプチド及びこの均等物、例えば当業者に公知のポリペプチドなどへの言及を含んでいる。
【0013】
本明細書に記載されている刊行物は、本出願の出願日に先立ってその開示のためだけに提供されている。本明細書では、先行発明を理由として、本発明がそのような刊行物に先行する権限がないことを認めるものであると解釈されるべきではない。更に、提供される刊行物の日付は、実際の公開日とは異なる場合があり、個別に確認する必要がある。
【0014】
方法
上述したように、本発明の態様は、老化に関連する状態について対象を処置する方法を含んでいる。老化に関連する状態は、生物の老化に付随する状態、例えば疾患の状態又は他の好ましくない状態を意味する。老化に関連する状態は、多くの異なる方法で、例えば身体の中心の臓器又は末梢の臓器の老化に関連する損傷として現れる場合があり、このような損傷として、細胞損傷、組織損傷、臓器機能不全、老化に関連する寿命の短縮及び発癌があるが、これらに限定されず、注目する特定の臓器及び組織は、皮膚、ニューロン、筋肉、膵臓、脳、腎臓、肺、胃、小腸、脾臓、心臓、脂肪組織、精巣、卵巣、子宮、肝臓及び骨が含まれるが、これらに限定されない。場合によっては、本方法に従った対象の処置により、中心的臓器、例えば脳、脊髄などの中枢神経系臓器に変化がもたらされ、このような変化は、例えば以下に更に詳細に記載されるように、分子的、構造的及び/又は機能的を含むがこれらに限定されない多くの異なる方法で現れる場合がある。場合によっては、本方法に従った対象の処置により、肝臓、筋肉、心臓、血液などの末梢の臓器に変化がもたらされ、このような変化は、例えば以下に更に詳細に記載されるように多くの異なる方法で現れる場合がある。
【0015】
ある実施形態では、処置される老化に関連する状態は、個体の認知能力における老化に関連する障害である。認知能力又は「認知」は、注意及び集中、複雑なタスク及び概念の学習、記憶(短期間及び/又は長期間での新たな情報の取得、保持及び検索)、情報処理(五感によって集められた情報の処理)、視空間機能(視覚認知、距離感覚、心的イメージの使用、図画の複写、物体又は形状の構築)、言語の生成及び理解、言語流暢性(言葉の見つけ出し)、問題の解決、決定及び実行機能(計画及び優先付け)を含む精神機能を意味する。「認知機能低下」は、これらの能力の内の一又は複数における進行性減少、例えば記憶、言語、思考、判断などの低下を意味する。「認知能力の障害」及び「認知障害」は、健康な個体、例えば同年齢の健康な個体、又は当該個体のより以前の時点、例えば2週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年、2年、5年又は10年、或いは更に前の時点での能力に対する認知能力の低下を意味する。「老化に関連する認知障害」は、老化に典型的に関連付けられる認知能力の障害を意味し、例えば、自然老化現象に関連する認知障害、例えば軽度認知障害(M.C.I.);及び老化に関連する障害に関連付けられる認知障害、つまり、老化が進むにつれて出現の頻度が増える障害、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、前頭側頭型認知症、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、緑内障、筋強直性ジストロフィ、血管性認知症などを含んでいる。
【0016】
「処置」、「処置する」などは、所望の薬理学的効果及び/又は生理学的効果を得ることを一般に意味する。効果は、その疾患又は症状を完全に又は部分的に予防する点で予防的であってもよく、並びに/又は疾患及び/若しくは疾患に起因する副作用の部分的又は完全な治癒の点で治療的であってもよい。本明細書に使用されているような「処置」は、哺乳動物の疾患のあらゆる処置を含んでおり、(a)疾患の素因があるかもしれないが、その疾患であるとまだ診断されていない対象がその疾患にかかることを予防すること、(b)疾患を阻害する、つまり、その発症を停止させること、又は(c)疾患を軽減する、つまり疾患の退縮を引き起こすことを含んでいる。処置の結果、様々な異なる身体的徴候、例えば遺伝子発現の調整、組織又は臓器の若返りなどがもたらされてもよい。治療薬は、疾患又は損傷の発病の前、発病中又は発病の後に与えられてもよい。患者の望ましくない臨床症状を安定させるか又は低減させる、進行中の疾患の処置が特に対象である。このような処置は、発症した組織の機能が完全に失われる前に行われてもよい。本治療は、疾患の症状段階中、場合によっては疾患の症状段階の後に行われてもよい。
【0017】
老化に関連する状態が老化に関連する認知機能低下である場合、本開示の方法による処置は、老化に関連する認知機能低下の進行を遅くするか、又は低下させる。言い換えれば、個体の認知能力は、開示された方法による処置の前、又は処置していないときより、開示された方法による処置の後の方がゆっくり低下する。場合によっては、本開示の方法による処置は、個体の認知能力を安定させる。例えば、老化に関連する認知機能低下を患う個体の認知機能低下の進行は、開示された方法による処置の後で停止する。別の例として、老化に関連する認知機能低下を患うと予測される個体、例えば、40歳以上の個体の認知機能低下は、開示された方法による処置の後で予防される。言い換えれば、(更なる)認知障害が観察されない。場合によっては、本開示の方法による処置は、例えば老化に関連する認知機能低下を患う個体の認知能力を向上させることにより観察されるように、認知障害を低減させるか反転する。言い換えれば、開示された方法による処置後の、老化に関連する認知機能低下を患う個体の認知能力は、開示された方法による処置の前より良好であり、つまり、処置されると認知能力は向上する。場合によっては、本開示の方法による処置は認知障害を抑止する。言い換えれば、老化に関連する認知機能低下を患う個体の認知能力は、例えば老化に関連する認知機能低下を患う個体の認知能力の向上により証明されるように、開示された方法による処置の後、個体が約40歳以下であったときのレベルに回復する。
【0018】
本方法を実施する際、若い血漿を含有する血液製剤を、この血液製剤を必要とする個体、例えば老化に関連する状態、例えば老化に関連する認知障害又は加齢性の認知症を患うか又は患う危険性がある個体に与える。従って、本発明の実施形態に係る方法は、若齢の個体(「ドナー個体」又は「ドナー」)からの血漿を含有する製剤を、老化に関連する認知障害を少なくとも患う危険性がある個体、つまり老化に関連する認知障害を患う個体又は患う危険性がある個体(「レシピエント個体」又は「レシピエント」)に与えることを有する。「血漿を含有する血液製剤」は、血漿を含有する血液由来のあらゆる製剤を意味する。「血漿」という用語は、約92%の水と、アルブミン、ガンマグロブリン、抗血友病因子及び他の凝固因子のような7%のタンパク質と、1%の無機塩類、糖、脂肪、ホルモン及びビタミンとから構成された血液の淡黄色/微黄色の液体成分を指すために従来の意味で使用されている。本方法での使用に適している血漿を含有する血液製剤の非限定例は、抗凝血剤(例えばEDTA、クエン酸塩、シュウ酸塩、ヘパリンなど)で処置された全血、白血球を除去すべく(「白血球低減」のために)全血をろ過することにより生成された血液製剤、及び精製された血漿から本質的に構成されている血液製剤を含んでいる。場合によっては、使用される若い血漿製剤は非全血血漿製剤であり、非全血血漿製剤は、少なくとも赤血球、白血球などの全血に見つけられる一又は複数の成分が全血に存在する限りは、製剤がこのような成分を欠いていることから、製剤は全血ではないことを意味する。場合によっては、若い血漿製剤は完全ではなくても実質的に無細胞であり、このような場合、細胞内含量は、0.5 %以下を含む1%以下のような5%以下であってもよい。
【0019】
「個体」、「対象」、「宿主」及び「患者」という用語は、本明細書では互換可能に使用されており、診断、処置又は治療が望まれるあらゆる哺乳動物の対象、特にヒトを指す。典型的には、ドナー及びレシピエントは同一の種に属する。本方法で処置されてもよい哺乳類種は、イヌ及びネコ;ウマ;ウシ;ヒツジ;など、及び霊長類、特にヒトを含んでいる。本方法、本組成物及び本試薬が、例えば実験的研究で動物モデル、特に小型哺乳類、例えばネズミ科の動物、ウサギ目の動物などに適用されてもよい。以下の記載は、ヒトに対する本方法、本組成物、本試薬、本デバイス及び本キットの適用に重点を置いているが、このような記載が本技術分野における知識に基づき注目する他の哺乳動物に容易に変更され得ると当業者によって理解される。
【0020】
「若齢の個体」は、40歳以下、例えば30歳以下を含む35歳以下、例えば25歳以下である個体を意味する。場合によっては、若い血漿を含有する血液製剤の源として機能する個体は、10歳以下、例えば1歳以下を含む5歳以下の個体である。場合によっては、対象は新生児であり、血漿製剤の源は臍帯であり、この場合、血漿製剤は新生児の臍帯から採取される。そのため、「若齢の個体」は、0歳と40歳との間の年齢、例えば0、1、5、10、15、20、25、30、35又は40歳の対象を指してもよい。通常、個体は健康であり、例えば、個体は採取のときに血液悪性腫瘍又は自己免疫疾患を持っていない。
【0021】
「老化に関連する認知障害を患う又は患う危険性がある個体」は、約50歳以上、例えば60歳以上、70歳以上、80歳以上であって、通常90歳のような100 歳以下、つまり約50歳と100 歳との間の年齢、例えば50、55、60、65、70、75、80、85又は約90歳であり、老化に関連する状態、例えば自然老化現象に関連した認知障害、例えばM.C.I.を患う個体と、約50歳以上、例えば60歳以上、70歳以上、80歳以上、90歳以上であって、通常100 歳以下、つまり約50歳と100 歳との間の年齢、例えば50、55、60、65、70、75、80、85、90、95又は約100 歳であり、老化に関連する状態の症状、例えば認知障害をまだ示し始めていない個体と、老化に関連する疾患、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、前頭側頭型認知症、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、緑内障、筋強直性ジストロフィ、認知症などによる認知障害を患うあらゆる年齢の個体と、認知障害に典型的に付随する老化に関連する疾患、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、前頭側頭型認知症、進行性核上性麻痺、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、多発性硬化症、複合神経系萎縮、緑内障、運動失調、筋強直性ジストロフィ、認知症などと診断されているが、認知障害の症状をまだ示し始めていないあらゆる年齢の個体とを含むことを意味している。
【0022】
場合によっては、血液製剤のドナー(つまり、若齢の個体)は、レシピエント(つまり、老化に関連する認知障害を患うか又は患う危険性がある個体)とは異なる。言い換えれば、血液製剤はレシピエントに対してアロジェニックである。このような場合、与えられる血液製剤は、ドナーの血液型及びレシピエントの血液型に基づいて選択される。血液型は、ドナー及びレシピエントの赤血球におけるA抗原及びB抗原とRh抗原との有無を意味する。例えば、本技術分野でよく理解されているように、個体は、自身の赤血球にA抗原又はB抗原のいずれも有していない場合があり、(従って自身の血漿にA抗原及びB抗原の両方に特異的な抗体を有し、)この場合、個体は「O型」である。個体は、自身の赤血球にA抗原を有しているが、B抗原を有していない場合があり、(従って自身の血漿にB抗原に特異的であるがA抗原に特異的ではない抗体を有し、)この場合、個体は「A型」である。個体は、自身の赤血球にB抗原を有しているが、A抗原を有していない場合があり、(従って自身の血漿にA抗原に特異的であるがB抗原に特異的ではない抗体を有し、)この場合、個体は「B型」である。個体は、自身の赤血球にA抗原及びB抗原の両方を有している場合があり、(従って自身の血漿にA抗原又はB抗原に関する抗体を有しておらず、)この場合、個体は「AB型」である。本技術分野でよく知られているように、ドナーがO型であって、レシピエントが任意の型である場合、ドナーがA型であって、レシピエントがA型又はAB型である場合、ドナーがB型であって、レシピエントがB型又はAB型である場合、或いはドナーがAB型であって、レシピエントがAB型である場合に、ドナーの血液のレシピエントへの安全な輸血が行われ得る。更に、本技術分野で知られているように、Rh抗原は存在する場合と存在しない場合があり、つまり、個体は夫々Rh陽性又はRh陰性である。本技術分野でよく知られているように、ドナーがRh
+ 型又はRh
- 型であって、レシピエントがRh
+ 型である場合、或いはドナーがRh
- 型であって、レシピエントがRh
- 型である場合、ドナーの血液のレシピエントへの安全な輸血が行われ得る。このような場合、例えば、血液製剤がA/B又はRhの抗原を示す細胞を含んでいない分画された製剤、例えば本質的に血漿から構成されている血液製剤であるとき、任意の血液型のドナーからの血液製剤がレシピエントに与えられてもよい。
【0023】
他の場合、ドナー及びレシピエントが同一の個体であり、つまり、血液が個体から抜き取られ、抜き取られたその血液から調製された血液製剤が、例えば10年後又は更に遅く、例えば10、20、30、40、50、60、70、80又は90年後に同一の個体に導入される(戻される)。言い換えれば、血液製剤はレシピエント由来である。例えば、個体が約40歳以下、例えば10歳と40歳との間の年齢、例えば10、15、20、25、30、35又は40歳のときに個体から血液が採取された場合、個体が約50歳以上、例えば50歳と90歳との間の年齢、例えば50、55、60、65、70、75、80、85、90、95又は約100 歳のときに個体に輸血して戻される。従って、本発明の特定の実施形態では、血液が個体から採取され、保存され、高齢になったときにその個体に導入され戻される。
【0024】
上記に示されているように、本方法での使用に適している血液製剤は、若齢の個体からの血液から調製された、血漿を含有する血液製剤である。血液は、手動で、自動化装置を用いて、又はこれらのある組合せで抜き取られてもよい。ドナーの生命を危険にさらさないあらゆる便利な量が抜き取られてもよい。場合によっては、200 〜600 ml、例えば300 〜550 ml又は450 〜500 mlの量の血漿を含有する血液製剤を抜き取る。抜き取られた血液は、凝固を防ぐ薬剤、つまり抗凝血剤、例えばEDTA、クエン酸塩、シュウ酸塩、ヘパリンなどで処理されてもよい。例えば、血液が抜き取られると、血液に抗凝血剤が加えられてもよい。別の例として、血液が収集される容器に抗凝血剤が含まれてもよい。他の薬剤、例えば緩衝液、保存料、例えばリン酸塩、ブドウ糖、アデニン、グリセリン、グルコース、ラフィノースなど、ウィルスを死滅させる薬剤、例えば溶媒界面活性剤などが血液に更に加えられてもよい。
【0025】
場合によっては、白血球、赤血球、血小板、抗体などを除去するために血液が分画されてもよく、血漿を含有する画分、つまり「血漿を含有する血液製剤」が使用のために保持される。例えば、収集が完了した後、全血をろ過、遠心分離などによって分画してもよい。別の例として、全血がドナーから抜き取られると、全血が分画されてもよく、非血漿成分がドナーの血流に戻される。例えば、血漿を含有する分画された血液が、アフェレーシスによって採取されてもよい。「アフェレーシス」は、ある成分、例えば白血球、赤血球、血漿などを分離させて、残りの血液成分をドナーの血流に戻す機器に、採取された血液を通す自動採血を意味する。場合によっては、アフェレーシスは血漿交換であり、つまり、血漿が分離されて残りの血液成分がドナーの血流に戻されるアフェレーシスである。このような場合、血漿を含有する血液製剤は、本質的に血漿から構成されている。
【0026】
ある実施形態では、一又は複数のポリペプチド画分、例えば所定の閾値未満の平均分子量を有するポリペプチド画分を除去するために、血漿を含有する血液製剤、つまり全血又はその血漿を含有する画分を更に処理する。所定の閾値は異なってもよいが、注目する閾値は3.5kDa、10 kDa、25 kDa、50 kDaを含むが、これらに限定されない。場合によっては、特定のタンパク質成分、例えばIgG などを更に除去してもよい。「平均分子量」は、ポリペプチドのアミノ酸の総数に110 kDの平均分子量を夫々掛けることにより計算されるようなポリペプチドの質量を意味する。液体試料から所与の分子量以下のポリペプチドを除去するために、多くの方法が本技術分野で公知である。例えば、所与の分子量以下のタンパク質を遅らせる孔を有するビーズのマトリックスに亘って、血漿を含有する血液製剤を通すサイズ排除クロマトグラフィ(SEC )、例えばゲル濾過クロマトグラフィを血液製剤に施してもよく、それによってこれらの小さなポリペプチドの流れを消失させる。別の例として、流体力学クロマトグラフィ(HDC )を血液製剤に施してもよく、この流体力学クロマトグラフィでは、管又は充填カラムを通る層流下で生じる試料の放物線状の流れ又はポアズイユ状の流れによって、より大きな粒子が管の中央でより速く動く流れで進み、より小さな粒子が管の壁により近いより遅く動く流れに沿って遅くなる。あらゆる簡便な方法、例えばSEC 、HDC などを使用して、所与の閾値の平均分子量以下のタンパク質を血液製剤から除去してもよい。本発明の所与の実施形態で使用されてもよい注目する特定の画分は、3.5kDa以下の平均分子量のポリペプチドが除去された画分と、10 kDa以下の平均分子量のポリペプチドが除去された画分と、25 kDa以下の平均分子量のポリペプチドが除去された画分と、50 kDa以下の平均分子量のポリペプチドが除去された画分と、上記の閾値(例えば3.5kDa、10 kDa、25 kDa、50 kDa)以下の内のいずれかの平均分子量のポリペプチド及びIgG が除去された画分とを含んでいるが、これらに限定されない。言い換えれば、血液製剤は、所与の分子量(例えば3.5kD 以下;10kD以下;25kD以下;50kD以下)消失した、血漿を含有する血液製剤としてみなされてもよい。場合によっては、与えられる画分は変性した画分ではない。
【0027】
その後、このように調製された血漿を含有する血液製剤、例えば全血又はその血漿を含有する画分を、老化に関連する状態、例えば認知障害を患う個体又は発症する危険性がある個体に与えてもよい。ある実施形態では、血漿を含有する血液製剤を、老化に関連する認知障害を患う個体、又は発症する危険性がある個体に直ちに、例えば収集の約12〜48時間以内に与える。このような場合、血液製剤を、冷蔵で、例えば0〜10℃で保管してもよい。他の実施形態では、血漿を含有する血液製剤を、レシピエントに与えるときなどまで、例えば本技術分野で公知のような凍結保存などによって保存する。
【0028】
例えば、製剤を、例えば献血の約24又は48時間以内、つまり収集直後から収集の約48時間までに凍結して、約−20℃以下、例えば−80℃以下、場合によっては−90℃以下又は−135 ℃以下、例えば−196 ℃で保管してもよい。場合によっては、血液製剤を新鮮凍結し、例えば、このような血液製剤は新鮮凍結血漿(FFP )である。他の場合、化学保存料、例えば凍結保存料、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)を添加して保存に役立ててもよい。例えば、Kreher et al. (2003) Journal of Immunological Methods 278:79-93;Reimann, et al. (2000) Clin. Diagn. Lab. Immunol. 7:352-359;及びRomeu et al. (1992) J. Immunol. Methods 154:7-10参照。例えば、血漿を含有する血液製剤が白血球、赤血球などを更に含有している場合、血液製剤の細胞の生存率を維持するために凍結保存料が特に使用される。例えば、細胞の20%以上が解凍の際に生存し、例えば、細胞の40%以上、60%以上、80%以上、場合によっては細胞の90%以上、例えば95%以上、97%以上又は99%以上が、保存料を除去した後に生存可能である。血液製剤は、上述したような所与の閾値未満の、例えば3.5 kD、10kD、25kD、50kD以下の平均分子量を有するタンパク質を除去する前、又は除去した後に保存されてもよい。場合によっては、血液製剤は消失する前に保存される。他の場合、血液製剤は消失した後に保存される。このような技法又は本技術分野における技法の後、1年以上、例えば2、3、4又は5年以上、場合によっては10、20、30又は40年以上、例えば50、60、70又は80年間、血液製剤を保管してもよい。血液製剤を解凍する際、使用されている場合には保存料を、個体に与えるために調製する際にあらゆる便利な溶液、例えばあらゆる適切な等張液と取り替えてもよい。
【0029】
血漿を含有する血液製剤を、個体に血液製剤を与えるためのあらゆる簡便なプロトコルを使用して与えてもよい。場合によっては、血液製剤を静脈内に与える。血液製剤を、本技術分野で公知の静脈内溶液、例えば5%のブドウ糖液、等張食塩水(0.9 %)のような等張性の電解質溶液などと混合してもよい。あらゆる簡便なアクセスデバイス、例えば静脈注射のための針、圧縮銃、末梢カニューレ、中心IVラインなど、例えば移植可能ポート、トンネル型ライン、中心静脈ライン、末梢挿入中心静脈カテーテルなどを用いて血液製剤を与えてもよい。輸血に典型的に使用されるあらゆる静脈、例えば鎖骨下動脈、内頚、大腿、上大静脈、下大静脈、右心房などを通して、本技術分野で公知の輸血に典型的に使用される量及び速度で、例えば用量当たり個体の重量1Kg当たり10〜20mlで毎分約5mlの速度で与えてもよい。
【0030】
本方法を実施する際、老化に関連する状態、例えば認知障害又は加齢性の認知症を患うか又は患う危険性がある個体に有効量の若い血漿製剤を与えて、老化に関連する状態、例えば老化に関連する認知障害を処置する。臨床的な意味で、血液製剤の有効量又は用量は、適切な期間、通常少なくとも約1週間、場合によっては約2週間以上、最大約3週間、4週間、8週間以上の期間与えられるとき、認知障害、又は自然老化若しくは老化に関連する障害に起因する他のタイプの変性状態を患う個体の認知機能低下の減少及び/又は認知機能改善を証明する若い血漿製剤の量である。例えば、有効用量は、適切な期間、例えば少なくとも約1週間、場合によっては約2週間以上、最大約3週間、4週間、8週間以上与えられるとき、自然老化又は老化に関連する障害を患う患者の認知機能低下を、例えば約20%以上、例えば30%以上、40%以上又は50%以上、場合によっては60%以上、70%以上、80%以上又は90%以上遅らせる、例えば停止させる用量である。場合によっては、有効量又は用量の血液製剤は、疾患の状態の進行を遅らせるか又は停止させるだけでなく、状態の反転を引き起こす、つまり認知能力の向上を引き起こす。例えば、場合によっては、有効量は、適切な期間、通常少なくとも約1週間、場合によっては約2週間以上、最大約3週間、4週間、8週間以上与えられるとき、老化に関連する認知障害を患う個体の認知能力を、血液製剤を与える前の認知に対して、例えば1.5 倍、2倍、3倍、4倍、5倍、場合によっては6倍、7倍、8倍、9倍又は10倍以上向上させる量である。
【0031】
認知能力、例えば注意力及び集中力、複雑なタスク及び概念を学習する能力、記憶力、情報処理能力、視空間機能、言語を生成して理解する能力、問題を解決して決定する能力、及び実行機能を行う能力を測定するための認識力テスト及びIQテストが本技術分野でよく知られており、これらのいずれかを使用して、例えば有効量が与えられたことを確認すべく、本血液製剤で処置する前及び/又は処置する間並びに処置した後の個体の認知能力を測定してもよい。このようなテストには、例えば、the General Practitioner Assessment of Cognition (GPCOG)テスト、記銘力障害スクリーニングテスト(the Memory Impairment Screen)、ミニメンタルステート検査(the Mini Mental State Examination(MMSE))、記憶に関するthe California Verbal Learning Test,Second Edition,Short Form、the Delis-Kaplan Executive Functioning Systemテスト、アルツハイマー病評価尺度(the Alzheimer’s Disease Assessment Scale (ADAS-Cog))、the Psychogeriatric Assessment Scale (PAS )などが含まれる。脳機能の改善の進行は、磁気共鳴画像法(MRI )又は陽電子放射断層撮影(PET )などの脳撮像技術によって検出されてもよい。広範囲の更なる機能的な評価を、日常生活、実行機能、移動性などを監視するために適用してもよい。ある実施形態では、本方法は、認知能力を測定して、血液製剤を与える前の個体の認知能力と比較するように、血液製剤を与えた後の認知機能低下の減少率、認知能力の安定化及び/又は認知能力の増加を検出する工程を有する。血液製剤を与えてから1週間以上後、例えば1週間、2週間、3週間以上、例えば4週間、6週間又は8週間以上、例えば3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月又は6ヶ月以上後にこのような測定を行ってもよい。
【0032】
生化学的に言うと、老化に関連する認知障害を防ぐか処置するための血液製剤の「有効量」又は「有効用量」は、自然老化現象中又は老化に関連する障害の進行中に生じるシナプス可塑性の低下及びシナプスの消失を、約20%以上、例えば30%以上、40%以上又は50%以上、場合によっては60%以上、70%以上、80%以上又は90%以上、ある場合には約100 %、つまりごく少量まで阻害する、拮抗する、減少させる、低下させる又は抑制する、場合によっては反転する血液製剤の量を意味する。言い換えれば、有効量の血液製剤と接する細胞は、手がかり、例えば活性の手がかりに更に応答するようになり、シナプスの生成及び維持を促進する。
【0033】
シナプス可塑性の改善は、長期増強の導入としてインビトロ及びインビボの両方で観察されてもよい。例えば、神経回路におけるLTP の導入は、例えば目が覚めている個体に非侵襲的な刺激技法を行って局所的な神経活性のLTP のような長期継続的な変化を引き起こす(Cooke SF, Bliss TV (2006) Plasticity in the human central nervous system. Brain. 129(Pt 7):1659-73)ことにより;例えば陽電子放射断層撮影、機能的磁気共鳴画像法及び/又は経頭蓋磁気刺激を用いることによって個体の可塑性及び神経回路の活性の増加をマッピングする(Cramer and Bastings (2000) Mapping clinically relevant plasticity after stroke. Neuropharmacology. 39(5):842-51)ことにより;及び、例えば検索に関する脳の活性をアッセイする(Buchmann A, et al. (2008) Prion protein M129V polymorphism affects retrieval-related brain activity. Neuropsychologia. 46(9):2389-402)か、又は例えば見慣れた物体及び見慣れない物体との反復プライミング後の機能的磁気共鳴画像法(fMRI)によって脳組織を撮像する(Soldan A, et al. (2008) Global familiarity of visual stimuli affects repetition-related neural plasticity but not repetition priming. Neuroimage. 39(1):515-26; Soldan A, et al. (2008) Aging does not affect brain patterns of repetition effects associated with perceptual priming of novel objects. J Cogn Neurosci. 20(10):1762-76)ことによって学習の後の神経可塑性、つまり記憶の向上を検出することにより、目が覚めている個体において観察されてもよい。ある実施形態では、本方法は、シナプス可塑性を測定して、血液製剤を与える前の個体のシナプス可塑性と比較するように、血液製剤を与えた後のシナプス可塑性の消失の減少率、シナプス可塑性の安定化及び/又はシナプス可塑性の増加を検出する工程を有する。血液製剤を与えてから1週間以上後、例えば1週間、2週間、3週間以上、例えば4週間、6週間又は8週間以上、例えば3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月又は6ヶ月以上後にこのような測定を行ってもよい。
【0034】
与えられる血液製剤の有効量の計算は異なってもよい。与えられる最終量は、与えられる血液製剤、投与経路、及び処置される障害又は状態の性質によって決まる。場合によっては、血液製剤を一度与える。他の場合、血液製剤を二度以上、例えば規則的に、例えば毎週、毎月、半年毎又は毎年与える。例えば、血液製剤を、2週間以上、例えば3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、8週間以上などに亘って毎週与えてもよい。別の例として、血液製剤を、例えば2ヶ月以上、例えば3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月又は12ヶ月以上に亘って毎月与えてもよい。別の例として、血液製剤を半年毎又は年1回与えてもよい。初回量がこのような期間与えられてもよく、その後、場合によっては減少した用量である維持用量が与えられてもよいことを当業者は理解する。
【0035】
ある実施形態では、老化に関連する認知障害の処置に適した活性を有する活性剤と共に本血液製剤を与えてもよい。例えば、アルツハイマー病の認知症状(例えば記憶喪失、混乱並びに思考及び判断に関する問題)を処置する際にある有効性を示す多くの活性剤があり、例えばコリンエステラーゼ阻害薬(例えばドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、タクリン)、メマンチン及びビタミンEがある。別の例として、アルツハイマー病の行動的症状又は精神的症状を処置する際にある有効性を示す多くの薬剤があり、例えばシタロプラム(セレクサ)、フルオキセチン(プロザック)、パロキセチン(パキシル)、セルトラリン(ゾロフト)、トラゾドン(デジレル)、ロラゼパム(アチバン)、オキサゼパム(セラックス)、アリピラゾール(エビリファイ)、クロザピン(クロザリル)、ハロペリドール(ハルドール)、オランザピン(ジプレキサ)、クエチアピン(セロクエル)、リスペリドン(リスパダール)及びジプラシドン(ゲオドン)がある。ある実施形態では、本血液製剤を、第2の薬剤の前に与える。ある実施形態では、本血液製剤を、第2の薬剤の後に与える。ある実施形態では、本血液製剤を、第2の薬剤と同時期に与える。このような実施形態では、本血液製剤は、このような追加の薬剤の内の一又は複数を含有する。
【0036】
本方法のある態様では、本方法は、例えば本明細書に記載されているか本技術分野で公知の方法を用いて、処置後の認知及び/又はシナプス可塑性を測定して、認知機能低下若しくはシナプス可塑性の消失の割合が減少していること、及び/又は個体の認知能力若しくはシナプス可塑性が向上していることを決定する工程を更に有する。このような場合、認知又はシナプス可塑性のテストの結果を、そのとき以前、例えば2週間前、1ヶ月前、2ヶ月前、3ヶ月前、6ヶ月前、1年前、2年前、5年前、10年前、又は更にその前に同一の個体に行われたテストの結果と比較することにより決定する。
【0037】
ある実施形態では、本方法は、血漿を含有する本血液製剤を与える前に、例えば認知及びシナプス可塑性を測定するための本明細書に記載されているか本技術分野で公知の方法を使用して個体が認知障害を有すると診断する工程を更に有する。場合によっては、診断する工程は、認知及び/又はシナプス可塑性を測定して、認知又はシナプス可塑性のテストの結果を一又は複数の基準、例えば陽性対照及び/又は陰性対照と比較する工程を有する。例えば、基準は、老化に関連する認知障害を示す(つまり陽性対照)か、老化に関連する認知障害を示さない(つまり陰性対照)一又は複数の同年齢の個体によって行われたテストの結果であってもよい。別の例として、基準は、そのとき以前、例えば2週間前、1ヶ月前、2ヶ月前、3ヶ月前、6ヶ月前、1年前、2年前、5年前、10年前、又は更にその前に同一の個体に行われたテストの結果であってもよい。
【0038】
ある実施形態では、本方法は、老化に関連する障害、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、前頭側頭型認知症、進行性核上性麻痺、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、多発性硬化症、複合神経系萎縮、緑内障、運動失調、筋強直性ジストロフィ、認知症などであると個体を診断する工程を更に有する。このような老化に関連する障害を診断する方法は本技術分野でよく知られており、個体を診断する際に当業者によってこれらの内のいずれかが使用されてもよい。ある実施形態では、本方法は、個体を老化に関連する障害及び認知障害の両方であると診断する工程を更に有する。
【0039】
上述したように、本発明の態様は、老化に関連する認知障害の状態ではない老化に関連する状態について対象を処置する工程を更に有する。例えば、本発明の態様は、末梢の臓器の機能の老化に関連する低下を処置するために若い血漿製剤を与えることを含んでいる。以下の実験のセクションで実証されているように、若い血液製剤の若返り効果及び再生効果が、筋肉、肝臓、脳、心臓及び膵臓で観察された。ある実施形態では、若い血漿を与えることによって恩恵を受ける末梢の臓器は、筋肉、肝臓、脳、心臓、膵臓及び他の末梢の臓器を含むが、これらに限定されない。ある実施形態では、血漿を全身的に与えることによって恩恵を受ける臓器に加えてレシピエントの血液が、血漿を全身的に与えることによって恩恵を受ける。具体的には、年齢と共に変わる細胞間情報伝達因子がより若いレベルに回復し、例えば、年齢と共に増加する炎症因子が減少する一方、年齢と共に減少する栄養因子が増加する。
【0040】
場合によっては、本方法によって、例えば(以下の実験のセクションで記載されているような)適切な対照と比較して、宿主の一又は複数の組織内の一又は複数の遺伝子の発現レベルが変化する。所与の遺伝子の発現レベルの変化は、0.5 倍以上、例えば1.5 倍以上を含む1.0 倍以上であってもよい。組織は異なってもよく、場合によっては神経系組織であり、例えば脳組織を含む中枢神経系組織、例えば海馬組織である。場合によっては、その発現が調整される、例えば高められる一又は複数の遺伝子は、可塑性に関連するシグナル経路のメンバーである生成物をコードする遺伝子(つまり、シナプス可塑性調節遺伝子)であり、例えばTlr4、Gria1 、Kcnj10、Kdr 、Ncam、Sdfr1 、Egr1、Fos のタンパク質、例えばc-Fos 、Drd1a 、Stxbp1、Mef2c 、Cntn2 、Junb、Bdnf及びCamK2aなどである。場合によっては、海馬の遺伝子発現の調整は、例えば適切な対照と比較して海馬の可塑性の向上として現れる。場合によっては、その発現が調整される、例えば高められる一又は複数の遺伝子は、シナプス可塑性並びに学習及び記憶に関連するネットワークのメンバーである生成物をコードする遺伝子であり、例えばRELN、NTRK3 、EPHA4 などがあるが、これらに限定されない。
【0041】
場合によっては、処置によって、例えば(以下の実験のセクションで記載されているような)適切な対照と比較して、宿主の一又は複数の組織内の一又は複数のタンパク質のレベルが高められる。所与のタンパク質のタンパク質レベルの変化は、0.5 倍以上、例えば1.5 倍以上を含む1.0 倍以上であってもよく、場合によっては、タンパク質レベルは、例えば健康な野生型レベルの50%以下、例えば10%以下を含む25%以下、例えば5%以下の範囲内で健康な野生型レベルのタンパク質レベルに近似してもよい。組織は異なってもよく、場合によっては神経系組織であり、例えば脳組織を含む中枢神経系組織、例えば海馬組織である。注目する対象のタンパク質は、シナプスタンパク質、例えばシナプトフィジン、カルシウム結合タンパク質、例えばカルビンディンを含むが、これらに限定されない。
【0042】
場合によっては、本方法によって、一又は複数の組織の一又は複数の構造的変化がもたらされる。組織は異なってもよく、場合によっては神経系組織であり、例えば脳組織を含む中枢神経系組織、例えば海馬組織である。注目する構造的変化は、例えば適切な対照と比較して、海馬歯状回(DG)の成熟ニューロンの樹状突起スパインの密度の増加を含んでいる。場合によっては、海馬の構造の調整が、例えば適切な対照と比較してシナプス形成の向上として現れる。場合によっては、本方法によって、例えば適切な対照と比較して長期増強が高められてもよい。
【0043】
場合によっては、本方法によって、例えば適切な対照と比較して学習及び記憶が高められる。学習及び記憶の向上は、多くの異なる方法、例えば以下の実験のセクションで述べられている文脈的恐怖条件付け及び/又は放射状枝水迷路(RAWM)のパラダイムで評価されてもよい。文脈的恐怖条件付けによって測定されると、場合によっては処置によって、文脈的な記憶テストではフリージングが増加するが、手がかりの記憶テストではフリージングが増加しない。RAWMによって測定されると、場合によっては処置によって、タスクのテスト段階中にプラットフォームの位置に関する学習及び記憶が高められる。場合によっては、処置が、例えば適切な対照と比較して海馬に依存する学習及び記憶の認知機能改善の向上として現れる。
【0044】
場合によっては、本明細書に記載されている方法に従った処置によって、血液中の細胞間情報伝達タンパク質の生物全体での変化がもたらされ、生じたタンパク質の変化は、複数の組織に多面的な有益な効果をもたらす場合がある。そのレベルが処置後に有益に高められる場合がある注目するタンパク質は、IL−22、LIF などを含む成長因子を含むが、これらに限定されない。
【0045】
本発明の態様は、例えば本発明の方法において使用するために、老化に関連する状態の処置に関して活性のための候補組成物のスクリーニングを行う方法を更に含んでいる。本方法の実施形態は、適切な動物モデルに候補組成物を与えて、与えた後に動物モデルを評価して、候補組成物が所望の活性を有するか否かを評価することを含んでいる。注目する動物モデルは、ヒト以外の哺乳類モデル、例えばネズミ科のモデルを含んでおり、免疫拒絶反応の悪影響を示すと共に、ヒト血液製剤、例えば血漿に耐えることが可能である。このような動物は、NOD/SCID(NSG )マウスのような機能的免疫系を欠くネズミ科のモデルを含んでいる(Shultz等著、「Human lymphoid and myeloid cell development in NOD/LtSz-scid IL2R gamma null mice engrafted with mobilized human hemopoietic stem cells.」、J Immunol 174, 6477-6489 (2005))。候補組成物は、上述した血液製剤のようなあらゆる組成物であってもよいが、これに限定されない。動物は、例えば本明細書に記載されているアッセイ及びプロトコルの内のいずれかを使用して、遺伝子発現レベル、タンパク質レベル、構造的レベル及び行動的レベルを含む多くの異なる点で評価されてもよい。
【0046】
有用性
本方法、及び若い血漿を含有する本血液製剤は、個体の認知能力の障害のような老化に関連する状態の予防を含む処置の際に使用される。例えば本明細書に開示されている方法によって、血漿を含有する本血液製剤での処置によって恩恵を受ける老化に関連する認知障害を患うか又は発症する危険性がある個体は、約50歳以上、例えば60歳以上、70歳以上、80歳以上、90歳以上であって、通常100 歳以下、つまり約50歳と100 歳との間の年齢、例えば50、55、60、65、70、75、80、85、90、95又は約100 歳であり、自然老化現象に関連した認知障害、例えば軽度認知障害(M.C.I.)を患う個体と、約50歳以上、例えば60歳以上、70歳以上、80歳以上、90歳以上であって、通常100 歳以下、つまり約50歳と90 歳との間の年齢、例えば50、55、60、65、70、75、80、85、90、95又は約100 歳であり、認知障害の症状をまだ示し始めていない個体とを含んでいる。自然老化による認知障害の例として、以下が含まれる。
【0047】
軽度認知障害(M.C.I.)は、記憶、又は計画する、指示に従う若しくは決定するような他の精神機能の問題として現れて経時的に悪化する一方、他の精神機能及び日常活動は損なわれない認知の中程度の混乱である。従って、著しいニューロン死が典型的に生じないが、加齢脳のニューロンは、亜致死の加齢性の構造変化、シナプスの完全性、及びシナプスでの分子プロセシングを受けやすく、これら全ては認知機能を損なう。
【0048】
例えば本明細書に開示されている方法によって、血漿を含有する本血液製剤での処置によって恩恵を受ける老化に関連する認知障害を患うか又は発症する危険性がある個体は、老化に関連する障害により認知障害を患うあらゆる年齢の個体と、認知障害に典型的に付随する老化に関連する障害と診断されているが、認知障害の症状をまだ示し始めていないあらゆる年齢の個体とを更に含んでいる。このような老化に関連する障害の例として、以下が含まれる。
【0049】
アルツハイマー病(AD)
アルツハイマー病は、b-アミロイドとタウタンパク質から成る神経原線維濃縮体とを更に含んでいる、大脳皮質及び皮質下灰白質内の過剰な数の老人斑に関連した認知機能の進行性の止められない消失である。一般的な形態は60歳を超える人に発症し、年齢が進むにつれてその発生率が増加する。アルツハイマー病は、高齢者の認知症の65%を超える割合を占める。
【0050】
アルツハイマー病の原因は分かっていない。この疾患は、症例の約15〜20%で家族に遺伝する。残りのいわゆる散発的症例はある遺伝的決定因子を有する。この疾患は、ほとんどの初期発症及び一部の晩期発症の症例で常染色体優性遺伝パターンを有するが、晩年における浸透度は様々である。環境
因子は活発な研究の焦点である。
【0051】
疾患の過程で、シナプス及び最終的にニューロンが、大脳皮質、海馬、(マイネルト基底核中の選択的細胞喪失を含む)皮質下構造、青斑及び背側縫線核内で失われる。脳ブドウ糖の使用及び灌流は、脳のある領域(初期段階の疾患における頭頂葉及び側頭皮質、後期段階の疾患における前頭前皮質)で低減する。(アミロイドコアの周りの神経突起、星状膠細胞及びグリア細胞から構成されている)神経斑又は老人斑、及び(対のヘリックスフィラメントから構成されている)神経原線維濃縮体は、アルツハイマー病の発病の一因である。老人斑及び神経原線維濃縮体は正常老化で生じるが、アルツハイマー病の人にはるかに多くみられる。
【0052】
パーキンソン病
パーキンソン病(PD)は、緩慢な動作、筋固縮、静止振戦及び姿勢の不安定によって特徴付けられる特発性で、緩徐進行性の中枢神経系の変性疾患である。当初は主に運動障害とみなされていたが、PDは現在、認知、行動、睡眠、自律神経機能及び感覚機能に更に影響を及ぼすと認識されている。最も一般的な認知障害として、注意及び集中、作業記憶、実行機能、言語の生成並びに視空間機能の障害が含まれる。
【0053】
原発性パーキンソン病では、黒質、青斑及び他の脳幹ドーパミン作動性細胞集団の色素性ニューロンが失われる。原因は分かっていない。尾状核及び被殻に突出する黒質ニューロンが失われることにより、これらの領域における神経伝達物質ドーパミンが消失する。発症は、一般に40歳以降であり、より高齢の集団で発生率が増加する。
【0054】
続発性パーキンソン症候群は、他の特発性の変性疾患、薬又は外因性毒素により基底核中のドーパミン作用の消失又は干渉に起因する。続発性パーキンソン症候群の最も一般的な原因は、ドーパミン受容体を遮断することによりパーキンソン症候群を引き起こす、抗精神病薬又はレセルピンの摂取である。あまり一般的ではない原因として、一酸化炭素中毒又はマンガン中毒、水頭症、構造的病変(腫瘍、中脳又は基底核に影響を及ぼす梗塞)、硬膜下血腫、及び、線条体黒質変性症を含む変性疾患が含まれる。
【0055】
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症(FTD )は、脳の前頭葉の進行性悪化に起因する状態である。変性は、側頭葉に経時的に進む場合がある。FTD は、有病率でアルツハイマー病(AD)に次いで2番目であり、初老期の認知症の症例の20%を占める。症状は、影響を受けた前頭葉及び側頭葉の機能に基づき3つのグループ:一方で嗜眠及び自発性喪失を含み、他方で脱抑制を含む症状を有する行動異常型FTD (bvFTD );明瞭な発音の困難、音韻体系の誤り及び/又は構文誤りによる発語の流暢性の崩壊が観察されるが、言葉の理解は保持されている進行性非流暢性失語(PNFA);及び、患者は正常な音韻論及び構文で流暢なままであるが、呼称及び言葉の理解で困難さが増す意味性認知症(SD)に分類される。全てのFTD 患者に共通する他の認知症状として、実行機能及び集中力の障害が含まれる。知覚、空間能力、記憶及び練習を含む他の認知能力が典型的には損なわれないままである。FTD は、構造的MRI スキャンにおいて明らかになる前頭葉及び/又は前側頭葉の萎縮を観察することにより診断され得る。
【0056】
多くの形態のFTD があり、これらのいずれかが、本方法及び本組成物を使用して処置され得るか又は予防され得る。例えば、前頭側頭型認知症の一形態が意味性認知症(SD)である。SDは、言語領域及び非言語領域の両方での意味記憶の消失によって特徴付けられる。SD患者は、言葉を見つける困難さを訴えることが多い。臨床徴候として、流暢性失語症、名称失語症、言葉の意味の理解障害、及び連想視覚失認(意味的に関連する絵又は物体を一致させる能力の欠如)が含まれる。遅い行動的症状がほとんどない「純粋な」意味性認知症の症例が述べられているが、この疾患が進行すると、前頭側頭型認知症に見られる変化と同様に、行動的変化及び人格変化が見られることが多い。構造的MRI 画像は、(主に左側の)側頭葉に萎縮の特徴的パターンを示し、下方の障害が上方の障害より大きく、前側頭葉の萎縮が後側頭葉の萎縮より大きい。
【0057】
別の例として、前頭側頭型認知症の別の形態はピック病(PiD 、又はPcD )である。この疾患の定められた特徴は、「ピック体」として知られている銀染色の球状の凝集体に蓄積するニューロンのタウタンパク質の蓄積体である。症状として、言語障害(失語症)及び認知症が含まれる。眼窩前頭の機能障害を有する患者は、攻撃的で社会的に不適切になり得る。患者は、窃盗を働いたり、強迫観念又は反復性の常同行動を示す場合がある。背内側又は背外側の前頭部の機能障害を有する患者は、関心の欠如、無感情、又は自発性の低下を示す場合がある。患者は、セルフモニタリングの欠如、異常な自己認識、及び意味を理解する能力の欠如を示す場合がある。両側の後外側の眼窩前頭皮質及び右側の前島における灰白質の欠損を有する患者は、病的な甘党のような摂食行動の変化を示す場合がある。前外側の眼窩前頭皮質の更に局限的な灰白質の欠損を有する患者は、過食症を発症する場合がある。症状の一部は初期に軽減され得る一方、その疾患が進行して、患者は2〜10年以内に死亡することが多い。
【0058】
ハンチントン病
ハンチントン病(HD)は、情緒異常、行動異常及び精神異常の発症と、知的機能又は認知機能の消失と、動作異常(運動障害)とにより特徴付けられる遺伝性の進行性神経変性障害である。HDの古典的な徴候として、顔、腕、脚又は体幹に影響を及ぼす場合がある付随性で急速且つ不規則な痙攣様運動である舞踏病の発症と、思考過程能力及び後天性の知的能力を徐々に消失する認知機能低下とが含まれる。記憶、抽象的思考及び判断の障害;時間、場所又はアイデンティティの不適切な知覚(失見当識);激越の増加;及び人格変化(人格の崩壊)がある場合がある。症状は典型的には30歳代又は40歳代の間に明らかになるが、発病の年齢は不定的であり、幼児期から成人後期(例えば70歳代又は80歳代)の範囲内である。
【0059】
HDは、常染色体優性形質として家族内に伝わる。異常に長い配列、又は染色体4(4p16.3)の遺伝子内のコードされた命令の「繰返し」の結果として障害が生じる。HDに関連した神経系機能の進行性消失は、基底核及び大脳皮質を含む脳のある領域のニューロンの消失に起因する。
【0060】
筋萎縮性側索硬化症
筋萎縮性側索硬化症(ALS )は、運動ニューロンを攻撃する急速に進行して常に致死的な神経疾患である。筋力低下と前角細胞の萎縮及び機能障害の徴候とは最初、ほとんどの場合手に認められ、足に認められることはより少ない。発病の箇所はランダムであり、進行は非対称である。痙攣がよく見られ、衰弱より先に生じる場合がある。例外的に、患者は30年間生存し、50%が発病後3年以内に死亡し、20%が5年間生存し、10%が10年間生存する。診断上の特徴として、中年期又は成人後期中の発病、及び感覚異常のない進行性で全身性の運動障害が含まれる。この疾患の末期まで、神経伝達速度は正常である。最近の研究は、同様に認知障害の症状、特に即時性の言語記憶、視覚記憶、言語及び実行機能の低下を実証した。
【0061】
細胞体の領域、シナプスの数及びシナプスの全長の減少が、ALS 患者の正常と思われているニューロンにも報告された。活性領域の可塑性がその限界に達すると、シナプスの継続的な消失が機能障害の原因になり得ることが示唆された。新しいシナプスの形成の促進、又はシナプス消失の予防がこのような患者のニューロン機能を維持する場合がある。
【0062】
多発性硬化症
多発性硬化症(MS)は、寛解及び再発性の悪化と共に、中枢神経系の機能障害の様々な症状及び徴候によって特徴付けられる。最も一般的な主症状は、一又は複数の四肢、体幹又は顔の一側における感覚異常;脚又は手の衰弱又は失調;又は、視覚障害、例えば部分盲及び一方の目の痛み(球後視神経炎)、視覚の薄暗さ又は暗点である。一般的な認知障害として、記憶(新しい情報の取得、保持及び検索)、注意及び集中(特に分割的注意)、情報処理、実行機能、視空間機能及び言語流暢性の障害が含まれる。一般的な初期症状は、眼筋麻痺による複視(double vision )(複視(diplopia))、一又は複数の四肢の一時的な衰弱、肢の僅かな硬直又は異常な疲労感、軽微な歩行障害、膀胱制御困難、回転性めまい、及び軽微な情緒障害であり、全ての症状は、散在性の中枢神経系障害を示し、疾患が認識される前の何ヶ月又は何年も前に生じることが多い。過剰な熱が症状及び徴候を際立たせる場合がある。
【0063】
経過は非常に異なり、予測不能であり、ほとんどの患者で弛張性である。最初、特に疾患が球後視神経炎と共に生じた場合、何ヶ月又は何年もの寛解が発症を区切る場合がある。しかしながら、一部の患者は頻繁に発作を起こし、急速に無能力になり、少数の患者では経過が急速に進行し得る。
【0064】
緑内障
緑内障は、網膜神経節細胞(RGC )に影響を及ぼす一般的な神経変性疾患である。RGC を含むシナプス及び樹状突起において区画化された変性プログラムが存在することをサポートする証拠がある。最近の証拠は、高齢者の認知障害と緑内障との相関関係を更に示している(Yochim BP等著、「Prevalence of cognitive impairment, depression, and anxiety symptoms among older adults with glaucoma.」、J Glaucoma. 2012;21(4):250-254)。
【0065】
筋強直性ジストロフィ
筋強直性ジストロフィ(DM)は、ジストロフィ性筋力低下及び筋強直症によって特徴付けられる常染色体優性多系統障害である。分子欠損は、染色体19q の筋強直タンパク質キナーゼ遺伝子の3'非翻訳領域の伸長トリヌクレオチド(CTG )反復である。症状はあらゆる年齢で生じる場合があり、臨床重症度の範囲は広い。筋強直症は手の筋肉で顕著であり、軽度な症例でも眼瞼下垂が一般的である。重度な症例では、著しい末梢の筋低下が、多くの場合、白内障、早期の脱毛、斧状顔貌、不整脈、精巣萎縮及び内分泌異常(例えば糖尿病)と共に生じる。精神遅滞は重症先天性の形態で一般的である一方、前頭部及び側頭部の認知機能、特に言語機能及び実行機能の加齢性の低下は、障害のより軽症な成人の形態に観察される。重症の人は、50代前半までに死亡する。
【0066】
認知症
認知症は、日常機能を妨げるのに著しく十分な思考能力及び社会能力に影響を及ぼす症状を有する障害のクラスのことである。上記に記載された老化に関連する障害の後期段階で観察される認知症に加えて、認知症の他の症例として、以下に述べる血管性認知症と、レヴィ小体型認知症とが含まれる。
【0067】
血管性認知症すなわち「多発脳梗塞性認知症」では、認知障害は、血液の脳への供給の問題によって、典型的には一連の軽度な脳卒中によって、又は時には他のより軽い脳卒中が先行する又はその後に続く1つの重度な脳卒中によって引き起こされる。血管病変は、小血管疾患、局限的病変又はこれら両方のような瀰漫性脳血管疾患の結果であり得る。血管性認知症を患う患者は、急性脳血管事象の後、認知障害を急性又は亜急性に示し、その後、進行性の認知機能低下が観察される。脳内の関連する変化は、ADの病状に起因するものではなく、最終的に認知症をもたらす脳の慢性的な血流の減少に起因するものであるが、認知障害は、言語、記憶、複雑な視覚処理又は実行機能の障害を含むアルツハイマー病で観察された認知障害と同様である。単光子放射コンピュータ断層撮影(SPECT )及び陽電子放射断層撮影(PET )の神経画像検査を使用して、精神状態に関する検査を含む評価と共に多発脳梗塞性認知症の診断を確認してもよい。
【0068】
レヴィ小体型認知症(DLB 、レヴィ小体型認知症、瀰漫性レヴィ小体病、皮質性レヴィ小体病及びレヴィ型老年性認知症を含む様々な他の名前でも知られている)は、剖検脳組織学的検査で検出可能なニューロンのレヴィ小体(アルファシヌクレイン及びユビキチンタンパク質の塊)の存在によって解剖学的に特徴付けられる認知症のタイプである。その主な特徴は、認知機能低下、特に実行機能の低下である。覚醒及び短期記憶が上下する。鮮明で詳細な画像を有する持続性又は再発性の幻視が、多くの場合早期の診断症状である。アルツハイマー病は通常かなり徐々に発症する一方、DLB は多くの場合急速又は急性に発症するが、DLB は、初期段階でアルツハイマー病及び/又は血管性認知症と混同されることが多い。DLB の症状は、パーキンソン病の症状と同様の運動症状を更に含んでいる。DLB は、パーキンソン病の症状に対して認知症の症状が現れる時間枠によってパーキンソン病で時に生じる認知症と区別される。認知症を伴うパーキンソン病(PDD )は、認知症の発症がパーキンソン病の発症から1年を超える場合に診断される。認知症状がパーキンソン病の症状と同時期又はパーキンソン病の症状の1年以内に発症した場合、DLB と診断される。
【0069】
進行性核上性麻痺
進行性核上性麻痺(PSP )は、複雑な目の動き及び思考の問題と共に、歩行及びバランスの制御に関する重大で進行性の問題を引き起こす脳障害である。この疾患の古典的な徴候の内の1つは、目を適切に向ける能力の欠如であり、目の動きを調整する脳の領域の病変のために生じる。一部の個体はこの影響をかすむと表現する。発症した個体は、抑うつ及び無感情並びに進行性の軽度認知症を含む、気分及び行動の変化を示すことが多い。この疾患の長い名前は、疾患がゆっくり始まり悪化し続け(進行性であり)、目の動きを制御する細胞核と称される豆粒大の構造の上方の脳のある部分(核上)を損傷することにより衰弱(麻痺)を引き起こすことを示している。3人の科学者がこの状態をパーキンソン病と区別する論文を発表した1964年に、PSP が別個の障害として最初に表現された。PSP は、この障害を定めた科学者の名前の組合せを反映して、スティール−リチャードソン−オルスゼフスキー症候群と称されることもある。PSP は次第に悪化するが、PSP 自体で死亡する人はいない。
【0070】
運動失調
運動失調を呈する人は、動き及びバランスを制御する神経系の部分に変調をきたすため、調整に関する問題を有する。運動失調は、指、手、腕、脚、身体、発語及び目の動きに影響を及ぼし得る。運動失調という言葉は、感染、損傷、他の疾患又は中枢神経系の変性変化と関連付けられ得る協調運動障害の症状を表現するために使用されることが多い。運動失調は更に、National Ataxia Foundationの主たる重点である遺伝性及び散発性の運動失調と称される神経系の特異的な変性疾患のグループを示すために用いられる。
【0071】
複合神経系萎縮
複合神経系萎縮(MSA )は変性神経疾患である。MSA は、脳の特定の領域の神経細胞の変性と関連付けられる。この細胞変性は、動き、バランス、及び膀胱の制御又は血圧の調節のような身体の他の自律神経機能に関する問題を引き起こす。MSA の原因は分かっておらず、特異的な危険因子が識別されていない。症例の約55%が男性で生じ、発症する典型的な年齢は50代後半から60代前半である。MSA は、パーキンソン病と同じ症状の一部を示すことが多い。しかしながら、MSA 患者は、パーキンソン病に使用されるドーパミン剤に反応するにしても、一般にごく僅かしか反応しない。
【0072】
ある実施形態では、本方法及び本組成物は、老化に関連する認知障害の進行を遅らせる際に使用される。言い換えれば、個体の認知能力は、開示された方法による処置の前、又は処置していないときより、開示された方法による処置の後で更にゆっくり低下する。このような場合、本処置方法は、処置の後に認知機能低下の進行を測定して、認知機能低下の進行が遅れていることを決定する工程を有する。このような場合、決定する工程は、例えば、本血液製剤を与える前の2以上の時点で認知を予め測定することにより決定されるように、基準、例えば処置前の個体の認知機能低下の割合と比較することにより行われる。
【0073】
個体、例えば老化に関連する認知機能低下を患う個体又は老化に関連する認知機能低下を患う危険性がある個体の認知能力を安定化させる際に、本方法及び本組成物が更に使用される。例えば、個体はある老化に関連する認知障害を示す場合があり、開示された方法を用いて処置する前に観察される認知障害の進行が、開示された方法による処置の後に停止する。別の例として、個体が、老化に関連する認知機能低下を発症する危険性がある場合があり(例えば、個体は50歳以上であるか、老化に関連する障害であると診断されている場合があり)、個体の認知能力は実質的に変わらず、つまり、開示された方法を用いて処置する前と比較して、開示された方法による処置の後、認知機能低下が検出され得ない。
【0074】
本方法及び本組成物は、老化に関連する認知障害を患う個体の認知障害を低下させる際に更に使用される。言い換えれば、個体の認知能力が、本方法による処置の後に向上する。例えば、個体の認知能力は、本方法による処置の前に個体に観察される認知能力に対して、本方法による処置の後、例えば50倍以上、60倍以上、70倍以上、80倍以上、90倍以上又は100 倍以上を含めて、2倍以上、5倍以上、10倍以上、15倍以上、20倍以上、30倍以上又は40倍以上増加する。場合によっては、本方法及び本組成物による処置は、老化に関連する認知機能低下を患う個体の認知能力を、例えば個体が約40歳以下であったときのレベルに回復させる。言い換えれば、認知障害が抑止される。
【0075】
試薬、デバイス及びキット
更に、上記の方法の内の一又は複数を実施するための試薬、デバイス及びキットを提供する。本試薬、本デバイス及び本キットは大幅に異なってもよい。注目する試薬及びデバイスは、血漿を含有する血液製剤をその血液製剤を必要とする対象に輸血するために調製する方法に関して上述した試薬及びデバイス、例えば抗凝血剤、凍結保存料、緩衝液、等張液などを含んでいる。
【0076】
3.5 kD以下の平均分子量を有するタンパク質の流れを保持するか遅らせるマトリックスを含む無菌のカートリッジ又はカラムのようなデバイスが更に対象である。このようなカートリッジは、(i) 入口、(ii)サイズ排除マトリックス、(iii) 出口、(iv)マトリックスが含まれているハウジング、及び(v) 入口を出口に連結する、ハウジングを通る流体経路を備えている。カートリッジは、少なくとも1つの流体透過膜、一又は複数の多孔性繊維又は複数の粒子を有する支持体を備えてもよい。支持体は、ハウジングとは別個に形成されてもよく、又はハウジングの一体部分として形成されてもよく、例えばアルミナ、セルロース、デキストラン、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリアミド又はシリカを含むあらゆる簡便な材料から製造されてもよい。カートリッジは、膜ろ過又はカラムクロマトグラフィによって分離すべく構成されてもよく、略適切な量のタンパク質、例えば何グラムかのタンパク質から結合可能であってもよい。カートリッジ、入口及び出口を無菌でパイロジェンフリーな状態で維持するために無菌包装でカートリッジを囲んでもよい。ハウジングは、約200 〜500 mlの量を含むようなサイズであってもよい。例えば、更に大量の血液製剤をろ過するために、より大きなカートリッジが更に想定される。カートリッジ部分(例えば入口、出口及びハウジング)が、ガラス、ポリプロピレン、ポリスチレン又はステンレス鋼から製造されてもよい。外部のポンプが、可撓性管を通ってカートリッジにライン圧力を印加してもよく、それによってマトリックス及びカラムを通る流体相の流速を制御する。
【0077】
このような試薬及び/又はカートリッジを備えたキットが更に想定される。キットは、採血バッグ、管、針、遠心分離管などを更に備えてもよい。
【0078】
他の実施形態では、本明細書に記載されているようなキットは、若い血漿製剤の6以上の容器を含む、若い血漿製剤の3以上、4以上、5以上のような2以上の容器を備えている。場合によっては、キット内の若い血漿製剤の別個の容器の数は、36以上を含む9以上、12以上、15以上、18以上、21以上、24以上、30以上、例えば48以上であってもよい。各容器は、この容器に含まれる若い血漿製剤に関する様々なデータを含む識別情報と関連付けられてもよく、識別情報は、若い血漿製剤のドナーの年齢、若い血漿製剤に関する処理の詳細、例えば(上述したような)平均分子量を超えるタンパク質を除去すべく血漿製剤が処理されたか否か、血液型の詳細などの内の一又は複数を含んでもよい。場合によっては、キット内の各容器は、この容器に含まれる若い血漿に関する識別情報を含んでおり、識別情報は、若い血漿製剤のドナーの年齢に関する情報を含んでおり、例えば、識別情報によって、若い血漿製剤のドナーの年齢に関するデータが確認される(このような識別情報は、採取したときのドナーの年齢であってもよい)。場合によっては、キットの各容器は、実質的に同一の年齢のドナーからの若い血漿製剤を含有しており、つまり、全ての容器は、同一ではないにしても、実質的に同一の年齢のドナーからの製剤を含有している。実質的に同一の年齢は、キットの若い血漿製剤が得られる様々なドナーが夫々異なっており、場合によっては2歳以下、1歳以下を含む4歳以下のような5歳以下、例えば3歳以下、例えば9ヶ月以下、6ヶ月以下、1ヶ月以下を含む3ヶ月以下異なっていることを意味する。識別情報は、ラベル、RFIDチップなどの容器のあらゆる簡便な要素に存在し得る。識別情報は、必要に応じて人間可読であってもよく、コンピュータ可読であってもよい。容器は、あらゆる簡便な構成を有してもよい。容器の容積は異なってもよいが、場合によっては、容積は、25ml〜2500mlのような10ml〜5000ml、例えば100 ml〜500 mlを含む50ml〜1000mlの範囲内である。容器は撓まないか又は可撓性を有してもよく、あらゆる簡便な材料、例えば医療用のプラスチック材料を含むポリマー材料から形成されてもよい。場合によっては、容器はバッグ又はパウチの構成を有する。容器に加えて、このようなキットは、例えば上述したような投与デバイスを更に備えてもよい。このようなキットの要素は、容器及びキットの他の要素を保持すべく構成されたあらゆる適した包装体、例えば箱又は類似の構造に設けられてもよい。
【0079】
上記の要素に加えて、本キットは、本方法を実施するための使用説明書を更に備えてもよい。これらの使用説明書は、本キット内に様々な形態で備えられてもよく、使用説明書の内の一又は複数がキット内に備えられてもよい。これらの使用説明書が備えられてもよい一形態は、適した媒体又は基板上に印刷された情報であり、例えば、情報が印刷されている一又は複数の紙片、キットの包装体、又は添付文書等である。別の手段は、情報が記録されているコンピュータ可読媒体であり、例えば、ディスケット、CD、携帯型のフラッシュドライブ等である。存在し得る更なる別の手段は、離れた場所で情報にアクセスするためにインターネットを介して使用可能なウェブサイトアドレスである。あらゆる簡便な手段がキット内に設けられ得る。
【0080】
実験
以下の実施例は、本発明をどのように作製して使用するかについての完全な開示及び説明を当業者に提供するために記載されるのであって、本発明者が自身の発明であるとみなすものの範囲を限定することを意図するものではなく、また、以下の実験が、行われた全ての又は唯一の実験であると表すことを意図するものでもない。使用された数値(例えば、量、温度等)に関して正確性を確保するために努力がなされたが、ある程度の実験誤差及び偏差は考慮に入れられるべきである。別途記載のない限り、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏であり、圧力は大気圧であるか又は大気圧に近い圧力である。
【0081】
分子細胞生化学における一般的な方法は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Ed. (Sambrook et al., HaRBor Laboratory Press 2001);Short Protocols in Molecular Biology, 4th Ed. (Ausubel et al. eds., John Wiley & Sons 1999);Protein Methods (Bollag et al., John Wiley & Sons 1996);Nonviral Vectors for Gene Therapy (Wagner et al. eds., Academic Press 1999);Viral Vectors (Kaplift & Loewy eds., Academic Press 1995);Immunology Methods Manual (I. Lefkovits ed., Academic Press 1997);及びCell and Tissue Culture: Laboratory Procedures in Biotechnology (Doyle & Griffiths, John Wiley & Sons 1998)のような標準的教科書に見出されることができ、これらの開示は、参照によって本明細書に組み込まれる。本開示で引用されている遺伝子操作のための試薬、クローニングベクター及びキットは、BioRad、Stratagene、Invitrogen、Sigma-Aldrich及びClontechのような民間の業者から入手可能である。
【0082】
実施例1
本明細書では、老齢動物を若い血液に曝すことにより、構造レベル、機能レベル及び認知レベルで以前から存在する脳の老化の影響を弱め得ることが示されている。若齢動物及び老齢動物の循環系が結合された異年齢の並体結合体のゲノム全体に亘るマイクロアレイ解析を用いて、老齢マウスの海馬の可塑性の向上を示す発現プロファイルが識別された。更に、成熟ニューロンの樹状突起スパインの密度の構造的向上、及びシナプス可塑性の機能的な改善が、老いた異年齢の並体結合体の海馬で観察された。最後に、若い血液血漿を老齢マウスの静脈内に与えることにより、文脈的恐怖条件付けと空間の学習及び記憶との両方で加齢性の認知障害が改善された。更に、これらのデータは、後年期に若い血液に曝すことにより、老いた脳の加齢性の変化を反転させ得ることを示している。
【0083】
材料及び方法
動物
C57BL/6 の若齢マウス(Jackson Laboratory)及びC57BL/6 の老齢マウス(National Institutes on Aging)を、特定病原体フリーの条件下で12時間の明暗サイクルで収容し、全ての動物の取り扱い及び使用については、the VA Palo Alto Committee on Animal Researchによって承認された組織的ガイドラインに従った。
【0084】
並体結合の手術は既に述べた手順に従った(Villeda, S.A. et al. The ageing systemic milieu negatively regulates neurogenesis and cognitive function. Nature 477(7362), 90-94 (2011);Conboy, I.M. et al., Rejuvenation of aged progenitor cells by exposure to a young systemic environment. Nature 433 (7027), 760-764 (2005))。左側腹部及び右側腹部の鏡像切開を皮膚を通して行い、より小さい切開を腹壁を通して行った。隣接した並体結合体の腹膜の開口部を共に縫合した。各並体結合体の肘及び膝関節を共に縫合し、各マウスの皮膚を、隣接した並体結合体の皮膚にステープルで留めた(9mm Autoclip ,Clay Adams)。各マウスは、痛みを管理するようにBaytrilの抗生物質及びBuprenexを用いて皮下注射され、回復中に監視された。
【0085】
遺伝子マイクロアレイ解析
同年齢の並体結合体及び異年齢の並体結合体からの海馬を解剖して、RNA 全体をTrizol試薬(Invitrogen)を使用して抽出した。cDNA及びcRNAを、製造業者のプロトコルに従ってRNA 増幅キット(Ambion)を使用して連続的に合成して増幅した。その後、cRNAを、製造業者の指示に従ってIllumina beadchip array MouseWG-6 v2.0(Illumina)にハイブリッド形成した。製造業者のガイドラインに従ってIllumina beadstudioデータ解析ソフトウェア(Illumina)によってデータを解析した。Zスコアのデータセットの無監督の階層的クラスタリングのためにCluster 3.0 ソフトウェアを使用した。ヒートマップを生成するために、Java(登録商標) TreeViewソフトウェアを使用した。「stat.stanford.edu/~tibs/SAM/index.htm」の前に「www.」を置くことによりワールド・ワイド・ウェブで見出されるSignificance Analysis of Microarray software(SAM )3.00アルゴリズムに基づく、P<0.01及び絶対のd-score>2 (
図2b)又はd-score>1.5 (
図2b)夫々でのカットオフをデータセット解析のために適用した。著しく変化したプローブセットを、Ingenuity Pathway Analysis(IPA; Ingenuity Systems, www.ingenuity.com)を使用して統計的に高められた経路に関して解析して、 「godatabase.org/cgi-bin/amigo/go/cgi」の前に「www.」を置くことによりワールド・ワイド・ウェブで見出されるAmiGO (The Gene Ontology Consortium)を使用して生物学的機能に関して分類した。
【0086】
免疫組織化学法
組織処理及び免疫組織化学法を、標準的な公開された技術(Ruckh et al., Rejuvenation of Regeneration in the Aging Central Nervous System, Stem Cell 10, 96-103 (2012))に従って浮遊性切片で行った。マウスを抱水クロラール(Sigma-Aldrich)を用いて麻酔し、0.9 %の生理食塩水を用いて経心的に灌流し、脳を除去して、リン酸緩衝の4%のパラホルムアルデヒドに48時間固定してから、30%のスクロースを用いて凍結保護した。ウサギ抗Egr-1 (1:500;Santa Cruz)一次抗体、ウサギ抗cFos(1:500;Millipore )一次抗体又はウサギ抗ホスホCREB(1:5000; Oncogene Research Products)一次抗体のいずれかを用いて浮遊性冠状切片(40μm)を一晩培養し、ビオチン化二次抗体とジアミノベンジジン(DAB, Sigma-Aldrich)を有するABC キット(Vector)とを用いて染色を明らかにした。個々の細胞数を定量化し、Egr-1 及びcFos並びにリン酸化されたCREBを、NIH ImageJソフトウェアを使用して平均信号強度として定量化した。
【0087】
ゴルジ染色
脳を除去した後、10mlの「modified Golgi-Cox staining solution」(Jing, Deqiang and Lee, Francis, Cornell University)に半球を暗所で7〜10日間室温で浸した。脳をdH2O中で30%のスクロースに4℃で72時間導入した。切片(150 μm)をdH2O中で0.3 %のゼラチンで覆われたスライドに取り付けた。短時間乾燥した後、スライドを40%のスクロースに3回浸漬し、暗所で72時間空気乾燥した。スライドをdH2Oに10分間3回ゆるく振り混ぜながら浸し、次に展開液に6分間導入した。その後、スライドをdH2O中で10分間3回洗浄し、等級付けされたエタノールにより脱水し、Histoclearに浸し、その後DPX 封入剤を使用してカバーガラスで封入した。ニューロンを100Xで追跡し、Neurolucida ソフトウェア(v10, MBF Bioscience)を使用してその後の全ての解析を行った。細胞体から10μmの間隔を離して同心球を置くことにより、ショール解析をニューロン毎に行った。樹状突起が各球と交差する回数、及び各球内の樹状突起の全長を定量化した。樹状突起の長さを、x面、y面及びz面における距離に亘って、及び各半径内に含まれるニューロンの複数の樹状突起の分岐に亘って合計した。
【0088】
細胞外電気生理処置
上述したように細胞外電気生理処置を行った(Rosenzweig, E.S. & Barnes, C.A., (2003) Impact of aging on hippocampal function: plasticity, network dynamics, and cognition. Progress Neurobiol. 69(3), 143-179)。老齢の並体結合体から鋭い海馬スライス(400 μmの厚さ)を調製した。スライスを、人工脳脊髄液(ACSF; in mM: NaCl 124.0; KCl 2.5; KH2PO4 1.2; CaCl2 2.4; MgSO4 1.3; NaHCO
3 26.0;グルコース10.0)に保持し、5%CO2 /95%O2で連続的に酸素添加した。Axopatch-2B 増幅器及びpClamp 10.2 ソフトウェア(Axon Instruments)を用いて記録した。水浸のスライスを、酸素添加されたACSFを用いて2ml/分の流速でリザーバから重力供給によって連続的に灌流した。ACSFが充填されたガラス微小電極(抵抗:4〜8MΩ)を用いて電場電位(集合スパイク)を記録した。二相電流パルス(一相で0.2 msの継続時間、合計で0.4 ms)を、同心バイポーラ刺激電極(FHC, Inc.)を通して10秒間隔で与えた。この頻度の刺激ではシナプスの明らかな低下又は促進が観察されなかった。歯状回の集合スパイクを記録するために、記録電極を、歯状回の背側部の側面又は内面に置いた。貫通線維路の線維を刺激するために、海馬裂の真上に刺激電極を置いた。信号を1kHzでフィルタし、10 kHzでデジタル化した。2列の100 パルス(0.4 msのパルス継続時間、100 Hz)からなる強縮刺激を、5秒の列間の間隔で与えた。集合スパイクの振幅を、陰性波の初位相から測定した。5回までの連続した追跡を測定毎に平均した。刺激強度を最大の30%以下になるように調節して、入出力曲線を生成することによりシナプス伝達を評価した。基底振幅に関する高頻度な刺激の後、集合スパイクの振幅の平均パーセントの変化としてLTP を計算した。
【0089】
文脈的恐怖条件付け
パラダイムは、既に公開されている技術(Alberini, C.M., Transcription factors in long-term memory and synaptic plasticity. Physiol. Rev. 89(1), 121-145 (2009))に従った。マウスは、海馬に依存する文脈的恐怖条件付けに関するテストを可能にする嫌悪刺激(軽度なフットショック;無条件刺激(US))と環境的文脈(恐怖条件付けチャンバ)とを関連付けることを学習した。扁桃体に依存する手がかりの恐怖条件付けを更に評価するために、軽度なフットショックを光及び音の手がかり(条件刺激(CS))と対にした。条件付け恐怖を、フリージング行動として表示した。具体的な訓練パラメータは、音の継続時間30秒;レベル70dB,2kHz ;ショックの継続時間2秒;強度0.6 mAである。1日目、各マウスを、恐怖条件付けチャンバに置いて2分間探検させた後、2秒のフットショック(0.6 mA)で終わる30秒の音(70dB)を付与した。2分後、2回目のCS−US対を与えた。2日目、全く同一の文脈を含むが、CS又はフットショックを与えない恐怖条件付けチャンバに各マウスをまず置いた。フリージングを1〜3分間解析した。1時間後、異なる臭気、洗浄液、床の質感、チャンバの壁及び形状を含む新たな文脈にマウスを置いた。動物を、CSに再度曝す前に2分間探検させた。フリージングを1〜3分間解析した。FreezeScanビデオ追跡システム及びソフトウェア(Cleversys, Inc)を使用してフリージングを測定した。
【0090】
放射状枝水迷路
パラダイムは、既に記載されているプロトコル(Jones, M.W. et al. A requirement for the immediate early gene Zif268 in the expression of late LTP and long-term memories. Nat. Neurosci. 4(3), 289-296 (2001))に従った。プラットフォームを含むゴールのアーム位置は訓練段階及びテスト段階を通して一定のままであるが、スタートのアームは各試験中に変わっている。訓練段階の1日目、マウスを15の試験に関して訓練し、試験は目視可能なプラットフォーム及び隠したプラットフォームに関して交互に行う。テスト段階の2日目、マウスを、隠したプラットフォームについて15の試験に関してテストする。正しくないアームへのエントリをエラーとして採点し、エラーを訓練ブロック(3回の連続した試験)について平均する。
【0091】
血漿収集
200 〜300 の若齢(3ヶ月の)マウス又は老齢(18ヶ月の)マウスから、屠殺の際の心臓内出血によって、プールするマウス血漿を収集した。EDTAを用い、その後遠心分離により収集された血液から血漿を調製した。アリコートを、使用まで−80℃で保管した。EDTAと3.5kDa以下の平均分子量のタンパク質とを除去するために、血漿を与える前、3.5kDa分子量排除膜を通して血漿をPBS 中で透析した。若齢マウス又は老齢マウスから分離された血漿(1回の注射当たり100 μl)を用いて、若齢成体マウスを尾静脈への静脈注射により24日間に亘って8回全身的に処置した。
【0092】
データ及び統計解析
データを平均±SEM として表現する。Prism 5.0 ソフトウェア(GraphPad Software)を用いて統計解析を行った。2つのグループの平均を、両側不対Student のt検定と比較した。複数のグループからの平均の相互比較、又は1つの対照グループとの比較を、1-way ANOVA 検定及びボンフェローニ事後検定を用いて解析した。行われた組織構造実験、電気生理実験及び行動実験は全て、無作為な盲検法で行った。
【0093】
結果
ヒト及びマウスでは、海馬は、老化作用を特に受けやすい脳の領域であり、空間的及び突発的な認知機能の障害をもたらす形態変化及び可塑性の低下を示す(Andrews-Hanna, J.R. et al. Disruption of large-scale brain systems in advanced aging. Neuron 56(5), 924-935 (2007);Scheff, S.W. et al. Synaptic alterations in CA1 in mild Alzheimer’s disease and mild cognitive impairment. Neurology 68, 1501-1508 (2007);Nicholson, D.A. et al. Reduction in size of perforated postsynaptic densities in hippocampal axospinous synapses and age-related spatial learning. J. Neurosci. 24, 7648-7653 (2004);Smith, T.D. et al. Circuit-specific alterations in hippocampal synaptophysin immunoreactivity predict spatial learning impairments in aged rats. J. Neurosci. 20, 6587-6593 (2000);Geinisman, Y. et al. Loss of perforated synapses in the dentate gyrus: morphological substrate of memory deficits in age rats. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83, 3027-3031 (1986);Heeden, T. & Gabrieli, J.D., Insights into the ageing mind: a view from cognitive neuroscience. Nat. Rev. Neurosci. 5(2), 87-96 (2004);Morrison, J.H. & Baxter, M.G., The ageing cortical synapse: hallmarks and implications for cognitive decline. Nature Rev Neurosci 13(4), 240-250 (2012);Villeda, S.A. et al. The ageing systemic milieu negatively regulates neurogenesis and cognitive function. Nature 477(7362), 90-94 (2011);Raz, N. et al. Neuroanatomical correlates of cognitive aging: evidence from structural magnetic resonance imaging. Neuropsychology 12(1), 95-114 (1998);Mattson, M.P. & Magnus, T., Ageing and neuronal vulnerability. Nat. Rev. Neurosci. 7(4), 278-294 (2006);Rapp, P.R. & Heindel, W.C., Memory systems in normal and pathological aging. Curr. Opin. Neurol. 7(4), 294-298 (1994);Rosenzweig, E.S. & Barnes, C.A., Impact of aging on hippocampal function: plasticity, network dynamics, and cognition. Progress Neurobiol. 69(3), 143-179 (2003))。従って、本発明者らは、異年齢の並体結合(
図1a)及び血液血漿の投与(
図3a)の組合せを用いて分子レベル、構造レベル、機能レベル及び認知レベルでマウスの老化した海馬の範囲内に存在する若い血液に曝すことがもたらす潜在的な利点について研究した。
【0094】
若い血液に全身的に曝すことが老化した海馬にどのような影響を及ぼすかに関して広く洞察するために、本発明者らは、老いた同年齢の(老齢−老齢)並体結合体及び異年齢の(老齢−若齢)並体結合体(
図1a)からの海馬のゲノム全体に亘るマイクロアレイ解析を行った。無監督の階層的クラスタリングは、同年齢のグループ及び異年齢のグループ間の別個の遺伝子発現プロファイルを明らかにした(
図1b-1、1b-2)。生物学的プロセスの遺伝子オントロジー(GO)分類を使用して、本発明者らは、シナプス可塑性の調節で分類された異年齢の並体結合体に差別的に発現した遺伝子のサブセットを識別した(
図1c)。更に、Ingenuity Pathway Analysis(IPA )は、異年齢の並体結合体のトップのシグナリングネットワークの一部として、Egr1を含む、可塑性に関するシグナル経路の顕著な関与を更に検出した(
図1d)(Alberini, C.M., Transcription factors in long-term memory and synaptic plasticity. Physiol. Rev. 89(1), 121-145 (2009);Jones, M.W. et al. A requirement for the immediate early gene Zif268 in the expression of late LTP and long-term memories. Nat. Neurosci. 4(3), 289-296 (2001)) and cyclic AMP response element binding (CREB) protein (Alberini, C.M., Transcription factors in long-term memory and synaptic plasticity. Physiol. Rev. 89(1), 121-145 (2009);Guzowski, J.F. et al. Experience-dependent gene expression in the rat hippocampus after spatial learning: a comparison of the immediate-early genes Arc, c-fos, and zif268. J. Neurosci. 21(14), 5089-5098 (2001);Sanciu, M., et al. Phosphorylated cAMP response element binding protein in the mouse brain after fear conditioning: relationship to Fos production. Brain Res. Mol. Brain Res. 94(1-2), 15-24 (2001))。更に、本発明者らのマイクロアレイ解析によって、異年齢の並体結合体の海馬の可塑性の向上を示す転写プロファイルの存在が指摘されている。
【0095】
シナプス可塑性に含まれる分子変化を更に研究して、本発明者らのマイクロアレイ解析を確証するために、本発明者らは、本発明者らのマイクロアレイ解析からの識別された因子のサブセットの活性化を検査した。具体的には、本発明者らは、老齢の並体結合体の海馬の歯状回(DG)の免疫組織化学検査法によって、活性に依存する前初期遺伝子Egr1及びc-Fos 並びにCREBのリン酸化のタンパク質発現を検査した(
図2a〜2d)。本発明者らは、同年齢の並体結合体と比較して、異年齢の並体結合体におけるEgr1(
図2a、2b)及びc-Fos (
図2a、2c)を発現する細胞の数の増加、並びにリン酸化されたCREB(
図2a、2d)のレベルの対応する増加を観察した。既に報告されているように、並体結合体の脳に末梢由来の細胞はめったに検出されず(Villeda, S.A. et al. The ageing systemic milieu negatively regulates neurogenesis and cognitive function. Nature 477(7362), 90-94 (2011);Ajami, B. et al., Local self-renewal can sustain CNS microglia maintenance and function throughout adult life. Nat Neuro 10(12), 1538-1543 (2007))、分子変化は、並体結合の外科的処置自体によって誘発されなかった(
図4)。これらのデータは、老齢動物の海馬のシナプス可塑性が若い血液に全身的に曝すことによって高められ得ることを示している。
【0096】
シナプス可塑性に含まれる分子変化を識別し、本発明者らは次に、老齢の並体結合体のシナプス形成を生じさせる構造的変化を特徴付けた。ゴルジ解析を使用して、本発明者らは、スパインの形成及び樹状突起の分岐の変化に関して海馬のDGの既存する成熟ニューロンを検査した。興味深いことに、本発明者らは、海馬の顆粒細胞のニューロンの個々の樹状突起に沿った樹状突起スパインの密度が、同年齢の並体結合体と比較して異年齢の並体結合体で増加した(
図2e,2f)ことを観察した。しかしながら、樹状突起の複雑さ(
図5a)、樹状突起の分岐の数(
図5b)又は樹状突起の分岐の長さ(
図5c)の差は、異年齢のグループ及び同年齢のグループ間で観察されなかった。更に、これらの構造的データは、老齢動物を若い血液に曝すことにより、老いた海馬内でシナプス形成を選択的に高めていることを示している。老いた脳の機能的な向上が若い血液に曝すことにより更に誘発され得るか否かを研究するために、本発明者らは、老齢の並体結合体から調製された海馬のスライスに関して細胞外電気生理記録を行った(
図2g)。同年齢の並体結合体のDGの長期増強(LTP )がベースラインレベルにすぐに達したが、異年齢の並体結合体のLTP は、記録期間に亘ってベースラインより上に維持された(
図2g)。シナプス強度の差はグループ間で観察されなかった(
図5d)。これらの機能的なデータは、老齢動物の海馬のシナプス可塑性が若い血液に曝すことによって高められていることを示している。
【0097】
学習及び記憶がシナプス形成によって細胞レベルで調節されていることを検討すると(Rosenzweig, E.S. & Barnes, C.A., Impact of aging on hippocampal function: plasticity, network dynamics, and cognition. Progress Neurobiol. 69(3), 143-179 (2003); Bliss, T.V. & Collingridge, G.L., A synaptic model of memory: long-term potentiation in the hippocampus. Nature 361(6407), 31-39 (1993);Martin, S.J., Grimwood, P.D. & Morris, R.G. Synaptic plasticity and memory: an evaluation of the hypothesis. Annu. Rev. Neurosci. 23, 649-711 (2000)) with LTP serving as a putative functional correlate (Bliss, T.V. & Collingridge, G.L., A synaptic model of memory: long-term potentiation in the hippocampus. Nature 361(6407), 31-39 (1993);Martin, S.J., Grimwood, P.D. & Morris, R.G. Synaptic plasticity and memory: an evaluation of the hypothesis. Annu. Rev. Neurosci. 23, 649-711 (2000))、若い血液に曝した後に観察される構造的及び機能的な向上が高次の認知プロセスにおける改善を伴い得ると仮定することは興味深い。特に、海馬は、新しい記憶を得て保持する際に基本的に重要である。しかしながら、これらのプロセスは、老化の影響による障害を非常に受けやすい(Villeda, S.A. et al. The ageing systemic milieu negatively regulates neurogenesis and cognitive function. Nature 477(7362), 90-94 (2011);Rapp, P.R. & Heindel, W.C., Memory systems in normal and pathological aging. Curr. Opin. Neurol. 7(4), 294-298 (1994))。従って、若い血液に曝すことが、老齢マウスの海馬に依存する学習及び記憶の障害を実際に改善し得るか否かを決定するために、本発明者らは、文脈的恐怖条件付け及び放射状枝水迷路(RAWM)のパラダイム(
図3)を使用した。対照として、本発明者らはまず、処置されていない若齢動物及び老齢動物のコホートをテストして、両方の行動パラダイムに関して年齢に関連した認知障害を観察した(
図6)。続いて、認知テストの前に老齢成体マウスの独立したコホートに、若い血漿又は老いた血漿を合計8回3週間に亘って静脈内に注射した(
図3a)。恐怖条件付けの訓練中、全てのマウスは、処置に関わらず同様のベースラインのフリージングを示した(
図7a)。しかしながら、若い血漿が与えられた老齢マウスは、文脈(
図3b)の記憶テストでフリージングが増加したが、手がかり(
図7b)の記憶テストではフリージングが増加しなかったことが実証された。更に、RAWMパラダイムの訓練段階で、全てのマウスは同様の空間学習能力(
図3c)及び泳ぐ速度(
図7c)を示した。興味深いことに、若い血漿が与えられた老齢動物は、本発明者らの文脈的恐怖条件付けデータ(
図3b)と一致して、タスクのテスト段階中にプラットフォーム位置に関する学習及び記憶を高めたことが実証された(
図3c)。重要なことは、恐怖条件付け又はRAWMのいずれかの認識に関する差が、処置されていない動物と老いた血漿で処置された動物との間に検出されず(
図8)、若い血漿由来の血液の重要性を実証したことである。更に、これらの行動データは、後年期であっても若い血液の投与が、老齢動物の海馬に依存する学習及び記憶の認知機能改善を誘発し得ることを示している。
【0098】
累積的に、本発明者らのデータは、若い血液に曝すことは、老化した神経系の再生能力を増加させることができないだけでなく、構造レベル、機能レベル及び認知レベルで既存の老化作用自体を弱め得ることを示している。興味深いことに、現在のデータは、神経発生の低下と加齢性の認知機能低下との因果関係に一致していない(Morrison, J.H. & Baxter, M.G., The ageing cortical synapse: hallmarks and implications for cognitive decline. Nature Rev Neurosci 13(4), 240-250 (2012);Merrill, D.A. et al. Hippocampal cell genesis does not correlate with spatial learning ability in age rats. J. Comp. Neurol. 459, 201-207 (2003);Bizon, J.L. & Gallagher, M. Production of new cells in the rat dentate gyrus over the lifespan: relation to cognitive decline. Eur. J. Neuorsci. 18, 215-219 (2003);Drapeau, E. et al. Spatial memory performances of aged rats in the water maze predict levels of hippocampal neurogenesis. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100, 14385-14390 (2003);Leuner, B. et al. Diminished adult neurogenesis in the marmoset brain precedes old age. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104, 17169-17173 (2007);Luo, J. et al., Glia-dependent TGF-beta signaling, acting independently of the TH17 pathway, is critical for initiation of murine autoimmune encephalomyelitis. J Clin Invest 117 (11), 3306-3315 (2007))。このような結果は、若い血液に曝した後の本発明者らの研究で観察された認知機能改善が、主に再生能力の変化によるものではなく、可塑性の向上の結果によるものであることを示唆している。
【0099】
結局、本発明者らの研究結果は、治療介入のために若い血液を利用する実現可能性が、老いた脳内に残っている潜在的な可塑性を利用することにより、高齢者の認知障害を反転することを目的としていたことを示している。重要なことは、これらの研究によって、若い血液を与える有益な効果が、正常老化を超えて、ADのような加齢性の神経変性障害を患う人の細胞性認知機能低下を反転する方向へと拡大し得ることが示されていることである。
【0100】
実施例2
認知に関する若返り効果を調節する際の若い血漿にある可溶性因子の必要性を評価するために、本発明者らは、若い血漿又は熱変性血漿の尾静脈注射によって老齢マウス(18ヶ月)を処置した。血液循環にある負因子を弱めることにより認知機能改善を生じさせ得る可能性を評価するために、PBS を対照として注射した。若齢(8週間の)C57Bl/6Jマウスから血漿を収集して、3.5kDa分子量排除膜を用いた透析の前にプールした。血漿の一部を95℃で2〜3分間の変性によって熱変性した。マウスに数週間に亘って8回注射し、海馬に依存する記憶を評価するために恐怖条件付けパラダイムを行った。光及び音と対の軽度なフットショックをマウスに与えた訓練の1日目の後、マウスに同一の文脈を行って、フリージング行動を評価した。その後、ケージ環境を変えて、海馬に依存しない(手がかりの)記憶を評価するために、フリージング行動を測定した。
図9に実証されているように、若い血漿の変性は、老齢マウスの認知能力に対する若い血漿のプラス効果を消失させた(
図9)。
【0101】
実施例3
若い血漿の付与を最適化するために、認知テスト及び組織学的解析の前に2ヶ月のマウスからの血漿を18ヶ月のマウスに1週間に1回のみ3週間与える(1回の注射当たり150 μl)実験を行った(
図8)。このような研究は完全な盲検法で行った。
図10に示されているように、本発明者らは、文脈的恐怖条件付けパラダイムのフリージングの増加、RAWMのより優れた動作、及び、若い血漿で処置したマウスの多くのBrdU+ニューロンが生理食塩水で処置した同年齢の対照と比較して2倍であることを観察した。
【0102】
実施例4
アルツハイマー病をモデル化したマウスに若い健康な循環環境を与えることにより、このようなモデルに関連していると知られ、疾患のある人間の患者に同様に生じると知られている神経異常を低下させることが、本明細書に示されている。
【0103】
常染色体優性アルツハイマー病の家族で見つかったヒトアミロイド前駆体タンパク質(APP )を含む突然変異体を過剰産生するトランスジェニックマウスモデルは、アミロイド斑、神経変性及び行動障害を含むその疾患の重要な局面を再現する。Thy1.2プロモータ、具体的にはMasliah lab によって生成されたLine 41 (Rockenstein, E. et al. Early Formation of Mature Amyloid-β Protein Deposits in a Mutant APP Transgenic Model Depends on Levels of Aβ 1-42. Journal of Neuroscience Research 66:573-582 (2001))の支配下でニューロンにヒトAPP751
V717I, K670M/N671L(別名ロンドン変異及びスウェーデン変異)を過剰発現するトランスジェニックマウスは、アミロイド異常、神経変性及び認知障害を発症する(上記Rockenstein et al.参照)。これらのマウス(hAPP
L/S)は、複数の独立した学術研究所によって研究されており(Pickford et al. The autophagy-related protein beclin 1 shows reduced expression in early Alzheimer disease and regulates amyloid β accumulation in mice. J. Clin. Invest (2008);Faizi et al. Thy1-hAPPLond/Swe+ mouse model of Alzheimer’s disease displays broad behavioral deficits in sensorimotor, cognitive and social function. 2012. Wiley Periodicals, Inc. Brain and Behavior;Knowles et al. The p75 Neurotrophin Receptor Promotes Amyloid-13(1-42)-Induced Neuritic Dystrophy in Vitro and in Vivo The Journal of Neuroscience, August 26, 29 (34):10627-10637 (2009))、医薬品開発のモデルとして使用されている。
【0104】
マウスのADのような疾患に対する若い循環因子の影響を決定するために、本発明者らは、若齢動物をAPP751
L/S マウスと共に結合した異年齢の並体結合を使用した(
図11a )。オスの老齢hAPP
L/S マウスの海馬では、若い血液に曝すことにより、免疫組織化学的及び生化学的な解析によって測定されるように不溶性Aβレベルに影響を及ぼさなかった(
図11b 、11c )。
【0105】
シナプスタンパク質及びカルシウム結合タンパク質は、ADの初期にこの疾患のマウスモデルで消失することが一貫して示された。海馬の歯状回(DG)の分子層のシナプス前終末におけるシナプトフィジン免疫反応性の定量化によって、野生型同年齢並体結合体と比較してAPP 同年齢並体結合体で著しく減少し、APP 異年齢並体結合体で部分的に回復したことが示された(
図11d )。同一の領域を、カルビンディン免疫反応性に関して解析した。カルビンディンが完全には消失しなかったが、野生型同年齢並体結合体と比較して、APP 同年齢並体結合体のDGに著しい減少が観察され、APP 異年齢マウスに実証されているように若い全身的な環境に曝した後に増加した(
図11e )。メスのhAPP
L/S マウスは、オスと比較してAβ沈着を促し、中年期での海馬のカルビンディンレベル及びシナプトフィジンレベルの減少を示している。オスのマウスと同様に、中年期のメスのAPP 異年齢並体結合体でカルビンディン免疫反応性が回復し(
図11f )、若い血液循環の利点が両方の性別に適用されることを示している。
【0106】
本発明者らは、加齢脳に対する異年齢の並体結合の有益な効果が、若齢マウスからの血漿の全身的な注射によって部分的に達成され得ることを既に示しており(Villeda et al. Young blood reverses age-related impairments in cognitive function and synaptic plasticity in mice. Nat Med 20, 659-663 (2014))、従って、本発明者らは、若い血漿がhAPP
L/S マウスに同様の利点を有し得るか否かを検査した。本発明者らは、若い血漿又はPBS のいずれかをhAPP
L/S マウスのグループ及び野生型同腹子のグループに静脈内に注射した(
図12a )。各グループは、4週間に亘って8回の尾静脈注射を受けた。
【0107】
4つの処理グループ全てのDGのシナプトフィジン免疫反応性の定量化によって、hAPP
L/S マウスへの若い血漿の投与が発現レベルを野生型対照の発現レベルに回復させたことが実証された(
図12b )。hAPP
L/Sマウスのシナプトフィジンレベルは、他の人によって示されているように、hAPP
L/S マウスでシナプス終末が減少した別の領域である新皮質でWTレベルに更に回復した。若い血漿の投与は、野生型マウスのDGのカルビンディン免疫反応性に影響を及ぼさなかった。しかしながら、hAPP
L/S マウスに若い血漿を注射したとき、野生型マウスと比較してhAPP
L/S マウスのカルビンディン免疫反応性が著しく低下しなかった。この結果、血漿の投与は、異年齢の並体結合と同様に、シナプスの活性及びカルシウム結合に関して経路を回復させ得ることが示されている。その後、本発明者らは、APP マウスで増加することが知られているカルシウムネットワークであるMAP キナーゼERK に含まれている主要なシグナル分子の内の1つに対する若い血漿の投与の影響を評価した。リン酸化されたERK (pERK)及びERK のウェスタンブロット解析(
図12d )は、血漿の投与の結果(
図12e )として、hAPP
L/S マウスのpERK対ERK の割合が減少したことを実証しており、ERK の活性化の低下を示している。
【0108】
細胞内カルシウム調節がシナプス可塑性及び記憶機能にとって重要であり、ADにおけるシナプトフィジン及びカルビンディンの減少が認知機能低下と関連しているので、本発明者らは、若い血漿の投与によりこのような分子及びその機能の回復がhAPP
L/S マウスの記憶を高め得ると仮定した。これらのマウスの空間作業記憶を評価するために、本発明者らはY迷路自発的交替行動テストを使用した(
図12f )。PBS で処置されたhAPP
L/S マウスは、作業記憶の障害を示す50%のチャンスレベル未満の成績を示した(P<0.41)が、血漿が処置されたhAPP
L/S マウスはチャンスレベルより上の成績を示し(P<0.0082)、更に自発的な交替行動を著しく多く示した。2つの処理グループ間のアームへのエントリの総数の差が観察されず、血漿の処置後の作業記憶の改善が活性の変化によるものではないことを示した。連想学習及び記憶を評価するために、本発明者らは、手がかりの文脈的恐怖条件付けテストを行った。訓練段階中、両方のグループは同様のベースラインのフリージングを示し、扁桃体に依存する手がかりの記憶に差が観察されなかった。しかしながら、若い血漿を受けたhAPP
L/S マウスは、海馬に依存する文脈記憶テストでフリージングが増加し(
図12g )、若い血漿はADのマウスモデルにおけるこのような学習及び記憶の障害を回復し得ることが実証された。
【0109】
実施例5
無処置の血漿のタンパク質及びタンパク質の分子のサブセットを包含する若い血漿の定められた画分が、シナプス可塑性遺伝子ネットワークを活性化するのに十分であることが本明細書には示されている。更に、分子の大きさが非常に異なるタンパク質又は分子が脳と伝達して、海馬の遺伝子発現の変化を引き起こし得る。2〜3ヶ月のマウスから採取されプールされたマウスの血漿は、定められた分子量(3.5kDa、25 kDa、50 kDa)のカットオフを有する透析膜を使用して、血漿の成分を含む分子量におおよそ基づく3.5kDaより大きい画分、25 kDaより大きい画分及び50 kDaより大きい画分にサイズによって分離した。3.5kDaより大きい画分を使用して、タンパク質G親和性沈降によりIgG 免疫グロブリンを消失させることにより、追加の画分を生成した。各画分を、18ヶ月のマウス(画分当たりn=4〜5)に2週間に亘って7回静脈内に注射し(1回の注射当たり125 μl)、対照としてリン酸緩衝の生理食塩水(PBS )を注射した。処置の終わりに、脳を解剖し、海馬のRNA を抽出してアフィメトリクス遺伝子アレイを使用して解析した。PBS で処置されたマウスと比較すると、数百の遺伝子が、血漿画分のいずれかで処置されたマウスの脳で著しく変化した(
図13)。ソフトウェアツールのIngenuity Pathway Analysis(登録商標)(IPA )を用いたバイオインフォマティックス解析は、シナプス可塑性並びに学習及び記憶に関する複数のネットワーク(例えば、長期増強、神経炎の分岐、行動)が、25 kDaより大きい画分で著しく高められたが、他の画分では高められなかったか、又はそれ程高められなかったことを明らかにした。これらのネットワーク中の顕著な遺伝子は、リーリン、神経栄養チロシンキナーゼ3受容体及びエフリン受容体4A(表1)を含む学習及び記憶における既知のプレーヤを含んでいる。
【0111】
表1:25 kDaを超える血漿又は媒体で処置された脳に検出され著しく変化した遺伝子を使用して、経路解析(IPA )を行い、トップのネットワークとして「Nervous System Development and Function」のカテゴリー内の遺伝子のネットワークが著しく高められたことを明らかにした。このネットワークは386 の分子から構成されていた。このネットワーク内の特定の経路が、そのネットワークの遺伝子変化に基づいて関連するP値及び機能的な予測と共に示されている。
【0112】
更に、これらの研究結果は、異なる分子量の分子が学習及び記憶に関する遺伝子を活性化することができ、血漿のある画分が十分である一方、脳のこれらの遺伝子を活性化する際に他の画分がより優れていることを実証している。
【0113】
実施例6
老齢マウスに若い血漿を与えることにより、血液の全身的な変化がもたらされ、処置の生物全体に亘る効果を奏していることが、本明細書に示されている。具体的には、12ヶ月の老齢マウスに、2ヶ月のマウスからの血漿を1週間に2回、合計4週間注射した(1つのグループ当たりn=13〜14のマウス)。各注射には、150 μlのリン酸緩衝の生理食塩水(PBS )又は血漿が含まれており、従って、1回の注射当たりマウスの体重の略5%を占める。最後の注射から4日後、全てのマウスから採血し、抗体に基づくマイクロアレイ又はLuminex (登録商標)に基づく定量分析を用いて、200 より多い成長因子のレベル及び他の細胞間情報伝達タンパク質を測定した。マイクロアレイを用いて測定されたトップ6つのタンパク質の無監督の完全な連結クラスタリングは、PBS 又は血漿が処置されたマウスから血液を略完全に分離し(
図14a )、若い血漿で処置された老齢マウスの血液及び全身的な環境が大幅に変化していることを実証している。増加した因子の多くは、組織再生の際に公知の機能を有している。血漿が処置された老齢マウスからの血液で増加した因子の例として、インターロイキン22(IL−22)及び白血病抑制因子(LIF )が含まれる(
図14b 、14c )。独立して測定されて、マイクロアレイからの結果が確認されたこれらの因子は、複数の組織に有益な効果をもたらすことが示された。例えば、LIF は心筋梗塞の後の心臓機能及び再生を改善し(Zouein et al., Eur Cytokine Netw. 24:11-9, (2013))、骨格筋の再生をサポートし(Hunt et al. Histochem Cell Biol. 139:13-34, (2013))、視神経の再生及び軸索の再生を促進する(Fischer D, Leibinger M., Prog Retin Eye Res. 31:688-701, 2012)。同様に、IL−22は、皮膚、膵臓、肝臓及び消化管を含む複数の組織で有益な効果をもたらすことが実証された(Sabat et al. Nat Rev Drug Discov. 13:21-38, (2014))。更に、これらの研究結果は、若い血漿の処置が血液中の細胞間情報伝達タンパク質の生物全体に亘る変化をもたらし、これらのタンパク質が複数の組織に多面的な有益な効果をもたらすことを示している。
【0114】
実施例7
若いヒト血漿で処置されたマウスが脳の神経活動の増加を示し、臍帯からのヒト血漿がニューロンを活性化する際に最も強力であり、若いヒト血漿を用いたより長期間の処置が老齢マウスの認知を改善していることが、本明細書に示されている。本発明者らは、若齢マウスの血漿が、学習及び記憶に関与する脳の領域である海馬のシナプス可塑性をある程度高めることにより、老齢マウスの認知機能を高めるのに十分であることを既に実証している(Villeda et al. Young blood reverses age-related impairments in cognitive function and synaptic plasticity in mice. Nat Med 20, 659-663 (2014))。老いた脳を若返らせるために回復剤としての若い血漿の翻訳有用性を実証するために、本発明者らは、ヒト血液血漿が免疫拒絶反応の悪影響無しに注射され許容され得るマウスモデルを開発しようと努めた。本発明者らは、抗体産生及び補体活性化が激しく損なわれているとすると、機能的免疫系を欠いているNOD/SCID(NSG) マウス(Shultz et al. Human lymphoid and myeloid cell development in NOD/LtSz-scid IL2R gamma null mice engrafted with mobilized human hemopoietic stem cells. J Immunol 174, 6477-6489 (2005))がこのために追跡可能なモデルになると仮定した。老化の文脈の可溶性血漿因子を研究するためのモデルとしての有用性を実証するために、本発明者らは、脳の老化の重要な局面を再現するためのNSG モデルの能力をまず評価した。
図15に示されているように、本発明者らは、NSG マウスが、海馬のCD68染色によって反映されているように、海馬歯状回における新生児のニューロンの数の加齢性の欠損を示し、小神経膠細胞症の増加を更に示していることを見出している。本発明者らは更に、歯状回のcfos陽性細胞の数の年齢依存の低下を見出し、これはシナプス可塑性の一因となる前初期遺伝子ファミリの代わりのニューロンであることを見出した。
【0115】
図16に示されているように、本発明者らは、文脈的恐怖条件付けのタスクの際、又はバーンズ迷路のタスクで脱出孔の位置をマウスに思い出させるとき、老齢NSG マウスの顕著な認知障害を観察した。重要なことは、全ての年齢依存の障害は、障害が通常ほんのわずかである正常なマウスの年齢である略中年期のNSG マウスを用いて観察されたことである。まとめると、このモデルは、血漿処置の関連がヒトの成分を用いて迅速にテストされ得る容易なツールを実証している。
【0116】
本発明者らは次に、ヒト血漿の可溶性因子が老化の発生段階に亘って実質的に異なるか否かを評価することに努めた。本発明者らは、臍帯血漿のドナー並びに若齢の個体及び高齢の個体から血液血漿を分離して、本発明者らの内部のタンパク質マイクロアレイプラットフォームを用いておよそ600 の分泌性シグナルタンパク質の相対的レベルを解析した。
図17に示されているように、特に臍帯血漿試料を若齢のドナー又は高齢のドナーの血漿試料と比較するとき、ヒト血漿の年齢による明瞭な区別がある。若齢の試料又は高齢の試料と比較して臍帯血漿の多くの因子が顕著に高められており、タンパク質のサブセットが発現の年齢依存の低下を示していることが明らかである。本発明者らは次に、老齢NSG マウスへのヒト血漿の注射が神経炎症、再現可能な脳の老化の表現型を変えるか否かを評価するように努めた。
図18に示されているように、本発明者らは、若いヒト血漿で処置された老齢NSG マウスの海馬及び皮質で小神経膠細胞症が僅かではあるが、有意に減少していることを報告している。老いたヒト血漿は、小神経膠細胞症のレベルを変えるには十分ではなかった。若いヒト血漿で処置されたマウスは、老いたヒト血漿で処置されたマウスと比較して、文脈的恐怖条件付けのより高いレベルを示し、若い血漿が認知を高めるのに十分な因子を保有していることを明らかにしている(
図19)。
【0117】
前初期遺伝子の発現、特にcfos、Junb及びEgr1の発現は、シナプス可塑性を生じさせるよく特徴付けられた相関である(Bailey et al Toward a molecular definition of long-term memory storage. Proc Natl Acad Sci U S A 93, 13445-13452 (1996))。本発明者らは、ヒト血漿で処置したNSG マウスにおけるqPCRによる前初期遺伝子発現のレベルを検査した。本発明者らは、臍帯血漿及び若いヒト血漿の両方が、cfosタンパク質(
図20)並びにBdnf及びCamK2a(
図21)をコードする遺伝子である前初期遺伝子Egr1、Junb及びfos の発現を高めるのに十分であることを見出している。全体として、本発明者らは、臍帯血漿で処置されたNSG マウスが、若い又は老いたヒト血漿で処置されたマウスより可塑性に関する遺伝子がより著しく高められていることを見出している。まとめると、本発明者らのデータは、臍帯血漿の因子が学習及び記憶に関する脳の老化の表現型を若返らせ得る場合があることを示唆している。ヒト臍帯血漿が年齢依存の行動障害を反転させ得るか否かをテストするために、本発明者らは、老齢NSG マウスを媒体又は臍帯血漿で処置して、文脈的恐怖条件付け及びバーンズ迷路テストを行った。
図22に示されているように、臍帯血漿は、媒体で処置したマウスと比較して文脈的恐怖条件付けのタスクにおけるフリージングのレベルを著しく高めた。同一のマウスをバーンズ迷路でテストすると、臍帯血漿で処置したマウスは、脱出孔がどこに位置付けられているかを思い出すことを、媒体で処置されたマウスよりはるかに高い程度に最終的に学んでいることを明らかにした。この効果は、最後の3つの試験の最終日で特に顕著であり、この最後の3つの試験の間、処置されていない老齢NSG マウスはタスクを行うのが通常困難である。その後のプローブ試験と4日目の最初の訓練試験との差によって示されているように、学習率は、媒体で処置されたマウスより臍帯血漿で処置された老齢NSG マウスで著しく高かった。
【0118】
本発明者らは、長期増強の向上、シナプス強度及び可塑性の増加のための細胞の電気生理学的相関(Bliss and Collingridge. A synaptic model of memory: long-term potentiation in the hippocampus. Nature 361, 31-39, (1993))が、臍帯血漿で処置された老齢NSG マウスで観察された学習及び記憶の増加を生じさせ得るか否かを検査した。
図23に示されているように、本発明者らは、媒体で処置されたマウスからのスライスより、臍帯血漿で処置されたマウスからの海馬のスライスでLTP の著しく高いレベルを観察した。まとめると、本発明者らのデータは、恐らくLTP の増加を生じさせる細胞変化に最終的につながる学習及び記憶に関与する遺伝子の発現を高めることにより、臍帯血漿の因子が老いた脳の学習及び記憶を高めるメカニズムを示している。
【0119】
本発明者らのデータは、ヒト血漿、特に臍帯血漿が海馬のcfos発現の変化を含む、NSG マウスの脳の老化の局面を若返らせ得ることを明らかにしている。このような変化が機能的な免疫系の設定で更に観察されるか否かを評価するために、本発明者らは、スタンフォード大学のLiqun Luo の研究室によって開発されたTRAP-FOSマウスモデルを利用した(Guenthner et al. Permanent genetic access to transiently active neurons via TRAP: targeted recombination in active populations. Neuron 78, 773-784 (2013))。急性操作は、解析の際の検出を困難にし得るcfos発現を含む前初期遺伝子発現での一時的な変化をもたらすことが多い。Targeted Recombination in Active Recombination(TRAP)モデルでは、タモキシフェン依存のCreER-T2が、FOS プロモータから操作依存の方法で発現されることができ、この結果、一度発現すると永久的な蛍光性のエフェクタタンパク質が発現する。このように、本発明者らは、cfos発現の急速な変化を検査するためにヒト臍帯血漿での急性処置を提供することができる一方、著しい免疫応答を依然として防止することができる。一回のみの注射の後、本発明者らは、TRAP-FOSマウスの臍帯血漿での処置の結果、媒体で処置されたTRAP-FOSマウスと比較して海馬の歯状回及びCA1 の両方でcfosプロモータからの蛍光タンパク質を促進するはるかに多いTRAPedニューロンがもたらされたことを見出している(
図24)。老いたヒト血漿は、このような発現の増加に不十分であった。本発明者らの結果は、脳の老化現象をインビボで反転させる際にヒト血漿の因子に関して明瞭な機能的な重要性を実証している。ヒト血漿因子を使用したマウスの本発明者らの結果を考慮すると、分画されたヒト血漿は、ヒトの脳の同様の生物学的プロセスを対象としており、加齢性の認知機能低下を示す患者のための明瞭な利点を提供している。
【0120】
実施例8
軽度なアルツハイマー病から中程度のアルツハイマー病の人間の患者に、(30歳より若い)若齢の血液ドナーからの200 mlのヒト血漿を静脈内で注入した。この手順を、例えば1週間に1回、4週間繰返し、この間、介護者が患者の一般的な機能及び日常生活の活動を記録する。処置が終わった後、患者の脳を、機能的MRI を使用して静止状態の脳の活性に関して走査し、患者の認知機能を、一連の神経生理学的テストで評価する。常に、患者、介護者、及び処置又はテストを与える医師は、患者が若い血液血漿を受けたか又は対照として生理食塩水を受けたか分かっていない。次に、処置後に得られた測定結果を、処置が始められる前に患者から得られた同様の測定結果と比較する。若い血漿を受けた患者の一般的な機能及び日常生活の活動が改善されたことが観察されている。
【0121】
添付の特許請求の範囲に関わらず、本開示は下記の付記により更に定義される。
【0122】
付記1 対象の老化に関連する状態を処置する方法であって、
有効量の若い血漿製剤を対象に与えて、老化に関連する状態について前記対象を処置することを特徴とする方法。
【0123】
付記2 前記若い血漿製剤は全血ではないことを特徴とする付記1に記載の方法。
【0124】
付記3 前記若い血漿製剤は赤血球及び/又は白血球を欠いていることを特徴とする付記1又は2に記載の方法。
【0125】
付記4 前記若い血漿製剤は無細胞であることを特徴とする付記1乃至3のいずれかに記載の方法。
【0126】
付記5 前記若い血漿製剤は、所定の閾値未満の平均分子量のタンパク質を欠いていることを特徴とする付記1乃至4のいずれかに記載の方法。
【0127】
付記6 前記若い血漿製剤は、40歳以下のドナーから得られていることを特徴とする付記1乃至5のいずれかに記載の方法。
【0128】
付記7 前記若い血漿製剤は、新生児の臍帯から得られていることを特徴とする付記6に記載の方法。
【0129】
付記8 前記老化に関連する状態は、老化に関連する認知障害であることを特徴とする付記1乃至7のいずれかに記載の方法。
【0130】
付記9 前記老化に関連する認知障害は、注意及び集中と、学習に関する複雑なタスク及び概念と、記憶と、情報処理と、視空間機能と、言語の生成及び理解と、言語流暢性と、問題の解決と、決定と、実行機能とからなる群から選択された認知能力の障害を有していることを特徴とする付記8に記載の方法。
【0131】
付記10 前記老化に関連する認知障害は、自然老化に関連する認知障害であることを特徴とする付記9に記載の方法。
【0132】
付記11 前記老化に関連する認知障害は、老化に関連する疾患又は障害に関連付けられている認知障害であることを特徴とする付記9に記載の方法。
【0133】
付記12 前記老化に関連する疾患又は障害は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、緑内障、筋強直性ジストロフィ、進行性核上性麻痺、脊髄性筋萎縮症、複合神経系萎縮、運動失調、血管性認知症又は他の認知症であることを特徴とする付記11に記載の方法。
【0134】
付記13 対象の認知能力を測定し、
若い血漿製剤を与えた後、前記対象の認知能力の低下率の減少を検出することを特徴とする付記1乃至12のいずれかに記載の方法。
【0135】
付記14 対象の認知能力を測定し、
前記血液製剤を与えた後、前記対象の認知能力の安定化又は改善を検出することを特徴とする付記1乃至12のいずれかに記載の方法。
【0136】
付記15 前記老化に関連する状態は、臓器の機能の改善であることを特徴とする付記1乃至7のいずれかに記載の方法。
【0137】
付記16 前記臓器は中枢神経系の臓器であることを特徴とする付記15に記載の方法。
【0138】
付記17 前記臓器は末梢の臓器であることを特徴とする付記15に記載の方法。
【0139】
付記18 対象はヒトであることを特徴とする付記1乃至17のいずれかに記載の方法。
【0140】
付記19 前記対象は50歳以上であることを特徴とする付記18に記載の方法。
【0141】
付記20 2以上の容器を備えており、
各容器は、若い血漿製剤と、該若い血漿製剤のドナーの年齢に関するデータを含む識別情報とを含んでいることを特徴とするキット。
【0142】
付記21 前記年齢に関するデータは、採取したときの若い血漿製剤のドナーの年齢を含んでいることを特徴とする付記20に記載のキット。
【0143】
付記22 前記若い血漿製剤は赤血球を欠いていることを特徴とする付記20又は21に記載のキット。
【0144】
付記23 前記若い血漿製剤は白血球を欠いていることを特徴とする付記20乃至22のいずれかに記載のキット。
【0145】
付記24 前記若い血漿製剤は無細胞であることを特徴とする付記20乃至23のいずれかに記載のキット。
【0146】
付記25 前記若い血漿製剤は、所定の閾値未満の平均分子量のタンパク質を欠いていることを特徴とする付記20乃至24のいずれかに記載のキット。
【0147】
付記26 前記若い血漿製剤は、40歳以下のドナーから得られていることを特徴とする付記20乃至25のいずれかに記載のキット。
【0148】
付記27 前記若い血漿製剤は、新生児の臍帯から得られていることを特徴とする付記26に記載のキット。
【0149】
付記28 対象の老化に関連する認知障害を処置する際に使用するための血液製剤を製造する方法であって、
若齢のドナーからの血漿を含有する血液製剤から、所定の閾値未満の平均分子量のタンパク質を除去して、老化に関連する認知障害を処置する際に使用するための血液製剤を製造することを特徴とする方法。
【0150】
付記29 サイズ排除クロマトグラフィを用いて除去することを特徴とする付記28に記載の方法。
【0151】
付記30 前記血漿を含有する血液製剤を、若齢のドナーから血漿交換によって採取することを特徴とする付記28又は29に記載の方法。
【0152】
付記31 前記血漿を含有する血液製剤を、
若齢のドナーから採取された全血に抗凝固剤を加えて、血液中の細胞のペレット化に有効な速度で前記抗凝固剤で処置された血液を遠心分離機にかけて、前記血漿を含有する血液製剤である上清を収集する方法によって
調製することを特徴とする付記28乃至30のいずれかに記載の方法。
【0153】
付記32 所定の閾値未満の平均分子量のタンパク質を除去する前又は後に、前記血液製剤を凍結保存することを特徴とする付記31に記載の方法。
【0154】
付記33 前記ドナーはヒトであることを特徴とする付記28乃至32のいずれかに記載の方法。
【0155】
付記34 前記ドナーは40歳以下であることを特徴とする付記33に記載の方法。
【0156】
付記35 老化に関連する状態について対象を処置する際に使用するための血液製剤であって、該血液製剤は、付記28乃至34のいずれかに従って調製されていることを特徴とする血液製剤。
【0157】
前述の内容は本発明の本質を単に示しているに過ぎない。本明細書に明示的に説明されていないか又は示されていないが、本発明の本質を具体化して本発明の趣旨及び範囲に含まれる様々な構成を当業者が考案することが可能であることは明らかである。更に、本明細書に述べられている全ての例及び条件的な用語は、本発明の本質と、本技術分野を進展させるために本発明者により与えられた概念とを理解する際に読者を支援することを本質的に意図するものであり、このように具体的に述べられた例及び条件に限定するものではないと解釈されるべきである。更に、本発明の本質、態様及び実施形態だけでなく、本発明の具体的な例を述べている本明細書における全ての記載は、本発明の構造的且つ機能的な等価物の両方を含むことを意図するものである。加えて、このような均等物は、現時点で既知の均等物及び今後開発される均等物の両方、すなわち構造に関わらず同一の機能を行う開発された全ての要素を含むことを意図するものである。従って、本発明の範囲は、本明細書に示され説明された例示的な実施形態に限定されることを意図するものではない。むしろ、本発明の範囲及び趣旨は、添付の特許請求の範囲により具体化される。
【0158】
本出願は、米国特許法第119 条(e) に従って、2014年10月27日に出願された米国仮特許出願第62/069044号明細書、及び2013年12月9日に出願された米国仮特許出願第61/913812号明細書の出願日の優先権を主張しており、その開示内容が参照によって本明細書に組み込まれる。